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2025年8月 5日 (火)

オルツ会計不正事件の印象-架空循環取引は、これからも「ハロー効果」によって繰り返される

8月4日の東洋経済(有料版)記事「監査法人・大手VC・証券会社・東証…オルツの『単純な循環取引』を見破れなかった真因 創業者の主導の下、財務責任者もあっさり不正の"中心人物"に」は、架空循環取引を見逃したステークホルダーに光を当てたものでしたが、本日は私も「不正見逃しの真因」について個人的な感想を述べておきます。

オルツ社の会計不正(架空循環取引)事案について、第三者委員会報告書を一読し、さらに2021年頃から直近までの同社主催カンファレンスの様子を動画で視聴しました。いやいや、同社のカンファレンスはすごくカッコいいですね。後から「ほらみろ、やっぱり怪しかった」と指摘するのは簡単ですが、あのカンファレンスを視聴して、おそらく会計不正事件とは無縁の会社と信じる人も多いのではないでしょうか。地域の経済復興に貢献する姿勢を前面に出して不適切融資を長年隠ぺいしてきた「いわき信用組合」と同じ匂いを感じます。

まさに認知心理学上の「ハロー効果」です。ステークホルダーが最初に好感を持つと、後から出てくるネガティブな印象は、当該ステークホルダーが自分で都合よく解釈してしまうという人間の弱さを見せつけられるような事件です。たとえばオルツ社の例では①著名なVCが先行出資を行い、さらに継続保有していること、②業績右肩上がり(のような状況)の時期において、大手証券会社出身者をCFOに迎えたこと(この方のカンファレンスでのプレゼンがスゴイ・・・)、③著名な大学教授が同社の顧問として登場して「日本をけん引する同社の未来」について語っていること、④大手名門企業が次々と事業上のパートナーとして提携を発表すること等々。いや、これだけてんこ盛りだと「架空循環取引の疑いがあるのでは」と想像することもなく、さらに疑惑を抱いたとしても声を上げることはかなり困難かと(「お前はスタートアップ市場のことを何も知らないのでは?」と嘲笑されることを畏れるかもしれません)。

さらにAIという最先端の商材を扱う企業であるがゆえに、仮に「おかしい」と感じる市場関係者が出てきたとしても、保険をかけることで損失を回避したい人たちがたくさんいらっしゃるのではないかと。「あの証券会社が主幹事なのだから」とか「日本の代表的なVCが出資して(さらに継続保有して)いるのだから」とか「大手監査法人が監査を担当しているのだから」といった理由で(ほとんどリスクについて考えることもせず)出資に至った人たちも多いと思います。最先端の技術を扱う企業のIPOの世界ですから、一体これから何が起こるかわからず、リスクが顕在化した場合には(少なくともわが社の)責任を回避したい気持ちもわかりますね。

もちろん、今後、会計不正を防止するための内部統制や取引所規制が厳格化される可能性もあるかとは思いますが、上記のようなハロー効果や損失回避慣行が市場に蔓延る(はびこる)以上、残念ながらIPO直前期から会計不正を画策する企業の上場を未然に防止することは不可能だと思います。残る道は不正会計を早めに見つけて警鐘を容易に鳴らせるようなシステムを構築する以外にはなさそうです(ちなみにエフオーアイ事件では、声を上げた内部監査部長さんが退職を強要されるという悔しい状況でしたね)。

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コメント

ほんとにお忙しいところ、参考になるブログ更新をしていただき、ありがとうございます。どうか、メンタル面の負荷が大きくなりすぎないよう、ゆっくりする時間も作っていただければと思います。
IPOを準備する会社がどのような動機で不正を始めたのか、参考にしようとオルツ社の調査報告書を見ました。同社は、AIを使った技術力はあるものの、ビジネスとして選んだ議事録作成ツールが上場に必要な業績を上げるには収益力が全く足りなかったようです。これが不正を行う直接的な動機で、驚くべきことにビジネス開始数か月後から循環取引中心で売り上げを偽装していたようです。
このようなことになったのは、昨今AI関連ビジネスが、大資本企業により、高クオリティだが極めて廉価に様々なサービスを提供する、いわゆる市場参入阻止価格戦略のため、単なる議事録作成ツールにわざわざ高い費用を払う顧客がいなかったから、ではないでしょうか。収益を上げにくい分野でのサービス提供をビジネスに選んだことで、初期から資金が循環するような取引を行い、すぐさま監査法人から売り上げとしての計上を否定されます。経営者は営業努力を行ったのでしょうが、すぐにそれを諦め、如何に監査法人に指摘されずに不正を拡大できるかに注力し、上場までのプロセスを進めたということだったようです。
このような不正への牽制は、日頃からの経営者の遵法意識(コンプライアンスレベル)の確認が重要だと思うのですが、それができるのは、監査役や社外取締役だ、と期待したいです。上場前の成長痛を伴った拡大過程では、それを見抜けなかった、断定できなかった、ということでしょうか。
当初から循環取引を前提にしたビジネスモデルであるため、詐欺的行為による経営者利殖が上場目的だったのかどうか、そこまでの不正を正当化する事由はなにか、というのが気になります。ある程度の技術力もあったようなので、一定の規模になり、時間さえあれば真っ当なサービスを開発して提供できる、とでも考えていたのでしょうか。それともVCから資金を募る中で、「約束した成果」が出せずに、やっと高い評価を得た議事録作成ツールに価格競争力がなく、後に引けず嘘が拡大してしまったのでしょうか。上場前の「経営者の監督」を監査役や社外役員、監査法人やVC等が行う際の教訓になるので、この点が明らかになることを期待したいです。
そういえば、2000年代初頭のITバブル崩壊時も、目新しいビジネスモデルを掲げた会社に投資家が殺到し、一部のモラルの低い企業によって大きな痛手を被ったことを思い出しました。先生の言う「ハロー効果」は繰り返し起こっているのだな、と思いました。

投稿: 柳澤達維 | 2025年8月11日 (月) 06時13分

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