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2025年8月18日 (月)

「自社の決算書は信頼性が高い」は認知バイアスではないか?

8月14日に公表された「東京商工リサーチ社のアンケート調査」によりますと「上場、未上場問わず粉飾決算の発覚が相次ぎ、財務諸表への信頼が揺らいでいる中で、6800社余りの有効回答によるアンケート調査結果から、自社の決算処理について「信頼性が高いと言い切れる」と回答した企業は87.9%にとどまり、9割に届かなかったことが判明したそうです。調査結果については興味深いのですが、素朴な疑問についてひとこと。

東京商工リサーチさんは「9割に届かなかった(1割以上の企業が粉飾決算のおそれがある?)」ことを問題視されているように思えますが、むしろ私は「87%もの企業が『自社の決算書は信頼できる』と回答していることに驚きました。世間を騒がせる粉飾決算の芽は、こちらの9割弱の企業のほうに潜んでいると考えています。

認知バイアスの代表例として「自己奉仕バイアス」「平均以上効果バイアス」をご存じの方も多いと思いますが、「自分の自動車運転は平均以上である」と考えている人が7割から8割であることは実験から明らかです(たとえばダイヤモンド誌の記事)。これまで事故なく経理処理が行われていれば「信頼できる」との回答に行き着くことは明らかであり、なぜ信頼性が高いのか、その根拠はかなり薄弱ではないかと推測します。

また、このアンケートでは「なぜ決算書が信頼できない」と回答したのか、その理由を聞くと「税理士や会計士にまかせっきりにしているから」との回答が多かったことが示されています。しかし、そもそも「決算書を信頼できる」と回答した企業だって「まかせっきり」にして、税理士や会計士から適正意見の表明がなされたから「信頼できる」と回答したのではないかと。つまり「専門家からお墨付きをもらっているから問題なし」と判断した、との回答理由が多いと思います。これは粉飾が発覚したときの企業経営陣の「言い訳」と同じですよね。

さらに、企業が対外的に「当社の決算処理には不安がある」と回答する企業のほうが、担当部署に回答権限を委ねている(経営陣に忖度しない)点や、自社のリスクを冷静に認識している可能性が高いので、むしろリスクマネジメント能力や誠実性は高いのであり、会計不正や誤謬が発生したとしても早期に発見できる確率も高いものと考えます。自社の決算処理について信頼性に疑問がある、と回答している企業のほうがステークホルダーからみれば信頼できるのではないでしょうか。

2024年度、内部統制に不備があるとして開示した企業は(過去最高の)58社でした(こちらも東京商工リサーチさんのリサーチより)。これは全上場企業のわずか1.5%です。本来、J-SOXは決算の信頼性に問題があることを開示する制度であるにもかかわらず、実際には不正や誤謬が発生した後に「不備がありました」と公表する「後出しじゃんけんの制度」になってしまっています。自社の決算処理に不安があることを認識しつつ隠している、ということよりも不安があることに気づいていないことのほうが重症だと思います。

 

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