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2025年10月28日 (火)

ニデック・取引所による特別注意銘柄指定とJ-SOXの重み

10月27日、日本取引所グループは、同自主規制法人の審査を経てニデックを特別注意銘柄に指定したことを公表しています(リリースはこちらです)。報道されているとおり、特別注意銘柄に指定された後、原則として1年後の審査までに内部管理体制などの改善見込みがないと判断される場合は、監理銘柄への指定などを経て上場廃止となる可能性があります。

不正事実の発覚が重なり、第三者委員会の調査も終えていないため・・・といった単純な話ではなく、実はニデックの内部統制報告書では、2023年3月期から三期連続で内部統制には重大な不備があり、有効とは言えないとの評価結果が続いています。2025年3月期に至っては、期末までに重要な不備が是正されているかどうか、すらわからない(評価が困難なため結果を表明できない)という事態となっています。となれば、さすがに(第三者委員会の報告を待つわけにもいかず)当局も手を打たないわけにはいかないでしょう。

以前も申し上げましたが、上場会社の多くでJ-SOXの評価作業および評価結果についてはルーチン化しており、言葉は悪いですが「やっつけ仕事」のようなイメージを持たれているようですが、いざ会計不正事件が発覚した際には、内部統制の有効性を前提として、同種事案の調査範囲などが決まります。しかし、今年9月29日エントリー「ニデック会計不正疑惑が醸し出す内部統制の質的課題と量的課題(訂正あり)」でも述べたように、(経営陣の関与が疑われる等)全社的内部統制に問題がある場合、不正の内容が悪質である場合等では、監査法人による特別調査や監査の範囲を限定することがむずかしいため、財務報告の信用性が担保されず、必然的に監査意見の付された有価証券報告書の提出までに時間を要することになります。「たかがJ-SOX、されどJ-SOX」です。

とりわけ内部統制が有効でない状況が3期も続くとなると、もはや上場会社としては異常事態であり、ニデック自身による内部管理体制の改善が認められなければ上場企業としての参加資格を認めることはできない、ということになるのでしょうね。おそらくニデックのガバナンスから見直しが必要となるので、全社レベルでの対応が求められるはずです。

ただ、従前から申し上げておりますとおり、私はニデックのガバナンス再構築の最中で起きた「一気に膿を出し切る過程での会計不正」だと解釈しておりますので、投資家からみてそれほど深刻な事態ではないように思います(もちろんニデック自身が一生懸命ガバナンスの見直しに取組めば・・・という前提ですが)。最近、関西電力のグループ会社「かんでんエンジニアリング」で消防署への虚偽報告、配電工事の水増し請求等、不祥事が続けて発覚し、謝罪会見が開かれていますが、これも自浄作用が発揮された上での不正公表であり、関西電力グループ挙げてのコンプライアンス経営推進の途上にあることを示しているものと(私は前向きに)理解しています。

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2025年10月24日 (金)

(続)「ちゃん付けメール」はレッドカードか?(イマドキのセクハラ・パワハラ判断)

10月23日の毎日新聞ニュースによりますと、年上の同僚男性からセクシュアルハラスメントを受けたとして佐川急便の元従業員の女性が、約550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は23日、男性に22万円の賠償を命じたそうです。東京地裁の裁判官は、男性が女性を「ちゃん付け」で呼んだことや、体形などに関する発言が違法なハラスメントに該当すると判断した、とのこと。

当ブログの過去における人気エントリーのひとつに2010年8月12日付け「ちゃん付けメールはレッドカードか?」がございまして、約15年前、私は「ちゃん付けメールはかぎりなくレッドカードに近い」との意見を述べておりました。今回は15年経過しての続編ですが、メールではなく、職場での発言が問題となっておりまして、裁判上でも「レッドカード」に近い判断が示されております。

ただ、注意しておきたいのは、15年前のエントリーでも書きましたが、単純に「ちゃん付けメール」自体でセクハラ認定されたのではなく、他の言動との「合わせ技」でハラスメント認定されたのではないかと推測されます(判決文を読んだわけではないのであくまでも推測ですが、メディアの報じ方は「ちゃん付け」だけでアウトのようにも読めますが、そうではないような気がします)。恋愛関係にないにもかかわらず、男性同僚が、原告女性に対して疑似恋愛を想起させるような言動があれば、それは女性に対する明らかな人権侵害ですよね。ちゃん付けの呼称はその重要な要素の一つとして認定されたのではないでしょうか。

なお、東京新聞ニュースの記事では「裁判官は、ちゃん付けは幼い子どもに向けたもので、業務で用いる必要はない」と判示したようですが、ちょっと本旨(本件のポイント)からハズレていませんかね?私は、女性が精神的に不調となり退職を余儀なくされた最大の原因は、男性同僚によって疑似恋愛を強要された(一方的に男女の距離感を縮められてしまった)ところにあったのでは?と想像します。

したがって、女性の上司が男性の部下に対して「〇〇ちゃん、これお願い!」と指示するケースは、上記裁判官の理屈だとハラスメント認定されそうですが、私は少し風景が違うと思います(これは男性部下に疑似恋愛を想起させるような場面とは異なります)。裁判でハラスメント認定されるためには、被害者の主観的感情とともに、行為の客観的な評価が必要となりますが、私自身は一般人の判断としても男性同僚の女性社員への「ちゃん付け呼称」は禁句だと考えますが、いかがでしょうか。

※ 日経電子版2019年12月4日日経スタイル・コラム「なぜ私を『ちゃん』付けしたの 女と男の敬称お作法」を読むと、私の上記見解があながち間違いではないことがお分かりいただけるのではないかと思います。日経の有料会員の方はぜひご一読を。

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2025年10月23日 (木)

「企業不祥事防止に向けたガバナンス構築」というフレーズはもう古い?

先日の青森テレビに続き、10月22日の報道によると第一生命傘下のベネフィット・ワン社の社長さんがハラスメント認定で辞任をされるそうです(共同通信ニュースはこちらです)。7月に相談があり(たぶん内部通報)、外部弁護士による調査の上、ハラスメントが認定された、とのこと(懇親会席上でのハラスメント)。さらに福井県知事のセクハラ疑惑については、内部通報に基づいて外部有識者による調査委員会が設置され、類似案件アンケートを含めて現在調査中と報じられています。トップのセクハラ・パワハラ一発辞任の風潮は高まっており、その分外部有識者によるハラスメント調査の重要性が増しておりますね。

さて、5年ぶりのコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた金融庁の有識者会議が久しぶりに開催されましたが、ずいぶんとメンバーが変わったのですね。法曹関係者となるとご高名な法学者おひとり(神作先生)と弁護士おひとり(武井一浩先生)のみで、他のメンバーは市場関係者の皆様、経営者や経済団体の皆様、そして経営学で著名な学者先生の方々で構成されています。日本監査役協会を代表する方もいらっしゃいません。2010年頃まではガバナンスといえば「守りのガバナンス」主流であり、いわゆる企業不祥事防止のための体制構築がメインの課題でしたが、最近は「投資家目線での攻めのガバナンス」「資本効率を意識した経営のためのガバナンス」こそ金融庁アクションプログラム2025の課題ということで、これに対応するメンバー選定ということなのでしょう。

たとえば監査役・内部監査制度に関連した前回の改訂(2021年)の項目としては、⑴監査役及び監査役会は、監査役の選解任等に係る権限の行使などにあたって、適切な判断を行うべし(原則4-4)、⑵取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対して直接報告を行う仕組みを構築する等、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべき(補充原則4-13③)、⑶合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が株主との対話を行うことを基本とすべき(補充原則5-1①)等があります。しかし、これらの項目は各上場企業が「実施している」と宣言しているとしても、実質は実施していない(あるいは形骸化している)企業が大半ではないでしょうか。このたびの改訂で、あまり守りのガバナンスに光が当たらないのも、こういった項目改訂によって実務が何ら変わった様子がないことが要因ではないかと。

「攻めのガバナンス」のウチ手は大当たりで日経平均5万円に届くような効果は誰の目にも明らかです。よって、限りある人的資源を攻めのガバナンス構築に投下するのも当然かもしれません。社会を揺るがすような企業不祥事が発覚するたびに、マスコミでは「ガバナンスの機能不全が明らかとなった」と書かれますが、ガバナンス改革の方向性が全く異なるわけですから、そのうち「死語」になってしまうのかもしれませんね。やや悔しい思いですが。

 

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2025年10月21日 (火)

青森テレビ社長のパワハラ辞任問題に思う「パワハラ認定の世代間ギャップ」

最近よく聞く経営トップの「パワハラ認定⇒即刻辞任」問題ですが、10月20日の青森テレビのリリースによりますと、外部の弁護士をトップとする調査チームが同社の社長さんの言動をパワーハラスメントにあたると認定し、同氏が同日付で辞任した、とのこと(リリースはこちらですね)。社長さんご本人としては、納得できない認定もあるそうです。

多くのメディアで「今年6月に匿名の告発が明らかとなった」と報じられていますが、こちらの青森放送ニュースによりますと、社長が従業員に対して暴言や机をたたくなどの行為があったなどと指摘する告発文が労働組合の組合ニュースに掲載されたとする内容が週刊文春で報じられたとあります。ハラスメント事実も公益通報だとすると、いわゆる典型的な3号通報が労働組合に届き、組合ニュース(掲示板?)に掲載されたことで「明らかになった」ということなのでしょうね。

3号通報の存在が社内で明らかになった場合にも、事業者は公益通報対応体制整備義務を尽くす必要がありますので、このたびの青森テレビのように(経営陣の不正に関する事実の場合には)独立機関が調査を行い、不正事実が認定された場合には独立性を確保して是正措置を検討することになります。本件では外部第三者を含む4名の調査機関のパワハラ認定が重要です。

私もときどき経営トップのパワハラ調査に関わりますが、パワハラやセクハラの該当性については世代間ギャップが著しい、という点は、とくに50代以上の方々には認識していただきたい。中年男性(高齢者含む)の若い女性社員へのセクハラと同様、中年女性幹部の若い男性社員へのセクハラもエグかった記憶があります。「これくらいコミュニケーション手段としてあたりまえでしょ!」といった感覚は男女問わず世代間ギャップを感じます。かくいう私も(調査委員会内での会議で)「社長には申し訳ないが『厳重注意』という懲戒処分を提言せざるを得ないね」と言うと、他の40代以下の調査委員達からは「それは甘すぎです。一発アウトですよ」「最近の裁判例を山口先生はご存じないのですか?」と言われ、恥ずかしい思いをしたこともあります。

最近「ハラスメント認定は行き過ぎではないか」と指摘されることもありますが、それは誰の感覚を基本として「行き過ぎ」と指摘しているのか考えてみる必要があります。モノサシは裁判例だけでなく、各企業の「●●社の役員としての品位を害する行為」(役員行動規範)も含まれるわけで、社内処分の前提となる「品位を害する行為」かどうかは、御社の全ての社員を念頭に検討する必要があります。そこで、経営幹部の皆様には、とくにパワハラやセクハラの該当性に関する世代間ギャップが存在することを前提として、日頃の行いに留意すべきですね。

なお、音声データや録画など、スマホさえあればすぐに証拠が保全される時代、ホントにハラスメント認定は容易になりました。上記青森テレビの事件を伝える今年9月17日付け「文春電子版」の記事によりますと、告発文には「音声データ付き」と記載されていて、文春もこの「音声データ」を入手した、とあります。文春が記事化したのも、(法的問題になっても免責されるように)このようなデータを確認しているからですね。

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2025年10月20日 (月)

オルツの常勤監査役が「引き返すべき黄金の道」は3本あった

少し遅くなりましたが、10月10日付け日経電子版「オルツ、黙殺された内部告発『これはクロ』上場前に警告した元部長」を読んだ感想を少し記載します。11月に、あるガバナンス関連団体が、この「元部長」でいらっしゃる塩川さんの講演を企画しておられるようで、私も聴講させていただく予定ですが、まずは、ようやく「証券取引等監視委員会に告発した人が誰なのか」がハッキリして少し落ち着きました。まさに社内から外部への情報提供(内部告発)が本事件の端緒だったのですね。また塩川さんは公認会計士なので、会計士的な発想で架空循環取引の疑惑に向き合っている(弁護士的発想とはかなり異なる)姿がとても興味深いものに映りました。

元部長さんのインタビューでのご発言が真実であることが前提ではありますが、コーポレートガバナンスの視点から興味深いのは、オルツの常勤監査役は合計3回、不正を明らかにする機会があったことがわかります。最初は2022年9月9日、元部長さんが常勤監査役に「こんな不正の兆候(疑惑)を示す証拠があります」と情報提供をしましたが、「寝耳に水だ」と言ったきり、そのまま黙認していた時点。そして2回目が3日後である9月12日に「私はクロだと思う」「社内調査委員会を立ち上げ、そのうえで事業を縮小すべき」と意見を述べたときに「けしからん事態ですね」と言いつつ黙認していた時点。そして最後は元部長さんが退職をする9月22日ころ、自分が調査してきた証拠等をすべて常勤監査役に引き渡した時点です(その後、半年ほど何も事態が動かなかったため、結局常勤監査役は何も動かなかった可能性が高いと思います)。

なお、元部長さんは「関係者全員が『違和感』は持っていたはずだ」と述べておられます。しかし、私は「違和感」を持っていたかどうかは不明だと思います。認知心理学上の「認知不協和」が理由です。自分にとって不都合な事実を知ったとき、人間は(そのままでは理性的な意識に押しつぶされて精神的におかしくなってしまうので)「不都合な事実がないこと」を何らかの理由で正当化する傾向にあります。調査委員会の報告書でも「監査役はCEOやCFOの説明に安易に納得してしまった」とありますが、おそらく常勤監査役も「正当な言い訳で説得してほしい(納得したい)」という気持ちが強かったのではないかと推測しています。

そのうえで(当該常勤監査役側の発言はありませんが)、①新しい会計監査人と事態を共有しなかったのか、②2名の社外監査役と対応を協議しなかったのか、③引き継いだ証拠をもとに、自身で調査をしなかったのか。このあたりはぜひ説明していただきたい点ですね。なぜなら元部長さんが指摘されているように、いくら監査役といっても、社長やCFOと対峙するには相当の正義感が必要であり、自身のサラリーマン人生を静かに守るという選択肢もあり得る、と考えるからです。「なぜ監査役は声を上げなかったのか」と批判をしたり、善管注意義務違反で法的責任を追及することはできますが、私は「自分のサラリーマン人生を静かに守りたい」という監査役の選択肢も尊重したいです。

架空循環取引の疑惑を追及することは、本当に監査役には厳しい道です。上記記事にあるように、CEOやCFOからは「何を言ってるんだ、これは弁護士や会計士から適法な取引だとお墨付きをもらってるんだぞ」と反論されます。さらに反論して監査役としての権限を行使しようものなら、かつてのトライアイズ社の監査役さんのように常勤監査役の地位を解かれて厳しく批判されることも十分考えられます(たしか日産の元会長ゴーン氏の不正を追及した当時の常勤監査役さんも、ゴーン氏からは厳しい声が飛んでいましたよね)。だからこそ、監査役は一人で抱え込まずに、監査法人と違和感を共有したり、他の社外監査役と協働して問題に対処したり、さらには公益通報者保護法に基づく公益通報を行うといった手法に出ることが推奨されます。

モノが言えない常勤監査役を(後出しジャンケン的に)厳しく追及することは容易です。しかし、私は企業の有事においてモノが言えない監査役が活躍できる監査環境を構築することが重要と考えています。たとえば、インタビュー記事の元部長さんが新たに参加しているスタートアップ企業では、不正の兆候を検知するシステムを開発しているそうですが、これなどもAIの力を借りてモノが言えない監査役を支援する立派な仕組みです。内部統制の一環として、経営陣の関与が疑われる不正事実についての通報がなされた場合には、監査役が社内調査を主導することを「クライシスマネジメント規程」としてあらかじめルール化しておくことも検討すべきです。監査役会、監査等委員会専属の独立性を維持した顧問弁護士を選任しておくことも考えられます。普通のサラリーマン感覚で(たとえ強靭なメンタルを備えずとも)有事に直面した監査役としての善管注意義務を果たすためにはどうすればよいか。社長が「吠えない監査役としては誰が適任だろうか」といったことを考えてもムダだと思えるような社内体制を構築することを真剣に検討すべき時期にきているように思います。

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2025年10月14日 (火)

監査役員の子会社調査権と公益通報者保護法の遵守

先週、ある監査役員の方からご質問を受けて、やや不明瞭な回答をいたしましたので、あらためて当ブログで解説させていただきます。

「グループリスクマネジメントとの関係で公益通報者保護法関連のご質問が圧倒的に多い」ということは前にも述べましたが(たとえばこちらのエントリーご参照)、たとえば子会社社員から(親会社の正規のグループ通報窓口ではなく)親会社監査役員のところへ(直接に)子会社経営陣の関与する不正事実の通報がなされた場合、親会社監査役員は子会社より「対応業務従事者指定」を受ける必要があるのか、といった質問です。会社法上、親会社監査役員には子会社調査権が明記されていますので、当該調査権行使が公益通報者保護法によって規制されるのか、といったご疑問からだと思います。

私の当日の回答は、正規通報窓口への内部公益通報(グループ通報制度の窓口が親会社のみの場合も含む)がなされた場合のみ、事業者には従事者指定義務がある(法定指針に基づく)ので、子会社調査権を行使する親会社監査役員は従事者指定の対象とはならない、というものでした。この回答自体は間違ってはいないと思うのですが、ただ、解説が不足していたのは、たとえ従事者指定を受けずに子会社調査権を行使するとしても、その場合の親会社監査役員の子会社調査では、当該子会社の「公益通報対応業務」に配慮する必要がある、という点です。

当該子会社からみると、親会社監査役員へのイレギュラーな通報は(少なくとも)3号通報には該当しうるので(「解説改正公益通報者保護法-第2版」山本隆司ほか著 2023年弘文堂 123頁参照)、当該子会社(ただし300名以上の常用雇用者が存在する子会社)は公益通報対応体制整備義務を尽くす必要があります。なので、たとえば親会社監査役員が安易に子会社経営者に調査を委ねたり(調査の独立性確保への配慮不足)、子会社社員の特定につながるような情報を共有すること(範囲外共有、通報者探索の禁止)は避けなければならないと考えます。これに違反した親会社監査役員には「子会社の法令遵守体制整備義務」への配慮不足による「善管注意義務違反」が認められる可能性が出てくると思います。

親会社の監査役員に認められた会社法上の子会社調査権は万能のようにも思えますが、やはり公益通報者保護法の趣旨に反してまで権限行使の裁量は認められない、ということでしょう。改正公益通報者保護法では、このグループ通報制度やグループリスクマネジメントとの関係で、いろんな疑問点が出てきますね。これからも実践を通じて疑問点をひとつひとつ解消していく地道な努力が必要ですね。

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2025年10月10日 (金)

監査役員の話題ふたつ(オルツと大盛工業)

監査役員の行動が議論される(であろう)事例が2つ報じられていますね。

ひとつは日経「オルツ、黙殺された内部告発 『これはクロ』上場前に警告した元部長」。いや、これはスゴイ内容ですね。ひさしぶりに日経の記事を読んで興奮しました(少しだけコメントさせていただきました)。

もうひとつはダイヤモンドオンライン「【独自】大盛工業の監査等委員が異例の内部告発!不透明な資金調達の「調査を妨害した」と経営陣の再任反対を表明へ」。いやいや、こちらもひさしぶりの「モノ言う監査役員」シリーズでありスゴイ内容です。

日本監査役協会だけでなく、最近は金融機関や機関投資家からの期待もあって監査役支援団体も増えてきましたが、そういった監査役支援団体は、この二つの事例についてどのような意見を持つのか、お聞きしてみたいものです。なお、このような不正疑惑が発生した場合には監査役員と会計監査人と協働すべき、というのは監査役協会も日本会計士協会も推奨しているはず。前にも述べましたが、どう協働していたのか、という点についても明らかにすべきです。

なお私自身の意見については来週以降、ブログにて述べたいと思います。とりいそぎ速報版のみ。

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2025年10月 9日 (木)

AIの「ハルシネーション(幻覚)」はおそろしい・・・

10月7日の日経電子版記事「デロイト、AIを使用した報告書に誤り オーストラリア政府に返金」では、「コンサル大手デロイトが人工知能(AI)を使用して作成した報告書に複数の誤りが発覚し、顧客のオーストラリア政府に代金の一部を返金した」ことが報じられています。報告書を見た地元大学の研究者が誤りを指摘したそうで、存在しない学術文献3件が参照されたことになっていたり、裁判所の判決文からの引用として文章が捏造(ねつぞう)されたりしていた、とのこと。地元メディアは、デロイトは企業のAI活用やそのリスクについて助言する立場でもあるから「恥ずかしい」失態と揶揄しているそうです。

私も仕事上で生成AIはよく使いますが、まさにダイナマイトや包丁と同じですね。正しく使えば重宝しますが、使い方を間違えると信用を失う事態になります。正しく使おうとしても忙しすぎて安易に活用してしまう場合も要注意です。上記記事中でも、AIが架空の事例をでっちあげたり、データを誤って解釈したりすることを「ハルシネーション(幻覚)」と紹介していますが、私はこの「ハルシネ―ション」は、嘘をついてでも私の期待に応えようとする「AIの(悲しい)習性」だと考えています。

先日も、ある論文を作成するにあたって、判例なども交えて格調高い論文風にして、とAIに要望したところ「おお!」と思えるような関連判決が3つほど登場し、しかもそれぞれの判例には「判例タイムス●●号、●●頁」と引用文献まで掲載されているのです。喜び勇んで確認したところ、そのような判例はどこにもなく、AIが私を喜ばそうと勝手に創作した判例だったのです。これぞまさに「ハルシネ―ション」であり、私に嫌われたくないので、一生懸命に努力してそれなりの文章を仕上げたのでしょうね。しかしなぜ架空の裁判例など紹介したりするのが不思議です。

しかしフォレンジクス調査に活用すると、おそろしいほど効率的に仕事がはかどります。私は使ったことはありませんが、会計不正の疑いや予兆のような事象を特定することにも有用性が高そうな気がしますね。たぶん汎用品よりも、自社のリスク事案をデータベースとして創作すれば効果的かと思いますが、そうなるとやはり自社の人的資源次第ということになりますでしょうか。

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2025年10月 6日 (月)

オルツ粉飾事件で(ほとんど)話題にならない監査役の責任論

相変わらず会計不正事件として話題に上るオルツの架空循環取引問題ですが、10月5日の東洋経済オンライン「オルツ不正会計問題の波紋、問われるベンチャーのガバナンス。粉飾決算騒動はなぜ起きたのか」では、とくに監査法人がなぜ架空循環取引を見逃してしまったのか・・・という点に焦点をあてて解説やインタビュー記事が掲載されています。

架空循環取引を未然防止することは不可能であり、残る道は「早期発見・早期是正」しかないということは、8月のエントリー「オルツ会計不正事件の印象-架空循環取引は、これからも”ハロー効果”によって繰り返される」でも述べた通りです。この早期発見・早期是正の役割を監査法人に期待することを否定するつもりはありませんが、その前に当該役割を果たすのは監査役(もしくは監査等委員)でしょう。しかし、これまでのオルツの話題として「監査役は何をしていたのか」といったテーマで語られる記事はほとんど見たことがありません。

上記東洋経済記事においても、大手監査法人幹部の方へのインタビュー記事では「エコシステム全体で横連携をはかれ」ということで投資家や社外取締役のコミュニケーションの重要性が謳われていますが、監査役(監査役員)が含まれていなかったのには少し悲しい気分になりました(当然のことながら、架空循環取引の疑惑があれば会計監査人と監査役とが連携して、その疑惑解明に動く必要がありますが、オルツではそのような動きがあったのか、なかったのか)。

たしか小林製薬の紅麹サプリ問題が大きく報じられたときには「社外取締役は何をしていたのか」といった経済誌の特集記事は何度も目にしました。しかし著名な社外監査役を含む5名で構成された小林製薬の監査役会が何をしていたのか、といった記事はほとんど見当たりませんでした。今回のオルツの件でも、会計士や(企業法務の世界で有名な)法律事務所の弁護士の方を含む3名の監査役がおられたにもかかわらず、見逃したことに関する検証にはあまり世間の関心が向けられていないのですね。これは私から見ると「監査役制度の危機的状況」です(社外取締役監査等委員で構成される「監査等委員会」についても同様の問題があります)。

ベンチャー企業の上場ブーム(上場政策?)に冷や水を浴びせた、というと、同じくエフオーアイ事件も話題になりますが、あのときは内部監査責任者が声を上げたことで退職を余儀なくされました。監査役も、憶測によって事業戦略にブレーキをかけるとなると(とくに会計不正を組織ぐるみで共謀している場合には)社内で孤立して誰からも有用な情報を得ることができなくなってしまうのが実際のところかと。

現実問題として、監査役も他の社外監査役や社外取締役、会計監査人、さらには外部アドバイザーとの連携を強めて、この「孤立」を避ける必要があると考えます。そのうえで、監査役はぜひとも経営者との対峙をおそれないでいただきたい。コンプライアンス問題に「真っ白と真っ黒」はありえないわけで(それだったらAIを活用すれば足りる)、監査役が違和感を感じた経営判断にはかならず「グレーゾーン」があります。その「グレーゾーン問題」に経営者は(前向きの戦略の中で)どう対処するか。そのコミュニケーションにおいて経営者と監査役との信頼関係が必要ではないでしょうか。

監査役は(社長と向き合った際に)自分の心の中に芽生える「ハロー効果」と真剣に向き合うべきです。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」で語られるファストの意思決定を司るのは社長ですが、スローの意思決定を司るのは監査役です(ファストが支配する日常の経営判断において社長の判断が監査役よりも長けていることはあたりまえです)。双方が重なり合って競争社会を勝ち抜く企業の意思決定が形成されるわけですから、お互いの信頼関係が前提となることは自明の理であります。とくにベンチャー企業の経営者にはそのことを申し上げたい。

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2025年10月 2日 (木)

アサヒGHDへのサイバー攻撃対応「本当の手作業」のしんどさ

9月29日に発生したアサヒGHDへのサイバー攻撃被害(身代金要求型ランサムウェア?)の影響がまだ続いているようですが、「力技(ちからわざ)」でなんとかしのぐためのコールセンター業務までが対応困難と報じられていました(メールの送信はできるが受信ができない、とのこと)。いったい、どうするのだろうかと思っていたら、なんとこれほどの大企業(大企業グループ)が「メール使えず電話で注文、手作業で処理」(産経ニュース)とのこと。12品目の新商品の発売も延期、在庫を持たない効率経営が取引先や消費者に迷惑をかけてしまう要因となり、他社も戦々恐々としていると思います。

拙ブログ2025年7月22日のエントリー「サイバー攻撃その瞬間-社長の決定(被害企業のリアルストーリー)」でご紹介した企業の社長さんは、ご紹介したご著書のなかで「初期対応はなんとか力技で乗り切った。この力業は日頃からの社員との信頼関係の賜物」と述べておられました。取引先にどれほどの迷惑をかけるか、という点もご著書から知りましたが、ただ力技が通用するのは、中堅規模の企業だからこそだと理解しておりました。しかし、これは私の認識不足であり、大規模企業でも正真正銘の「手作業」で対応せざるを得ないのですね。

サイバー攻撃対応については、事案の性質上、なかなか公表されることはありませんが、「ビックリ」の手作業が日本を代表するような企業で行われているとなると、多くの教訓が含まれているような対応がなされていると推測されます。今後の展開に強い関心があります。身代金は払わなかったのか(たぶん、これほどの「手作業」を決断しているところからみると、たとえ取引先に迷惑をかけてでも一切払わない覚悟でしょう)、警察庁が公開しているランサムウェア回復ソフトは機能しなかったのか等々も含めて。

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