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2025年10月 6日 (月)

オルツ粉飾事件で(ほとんど)話題にならない監査役の責任論

相変わらず会計不正事件として話題に上るオルツの架空循環取引問題ですが、10月5日の東洋経済オンライン「オルツ不正会計問題の波紋、問われるベンチャーのガバナンス。粉飾決算騒動はなぜ起きたのか」では、とくに監査法人がなぜ架空循環取引を見逃してしまったのか・・・という点に焦点をあてて解説やインタビュー記事が掲載されています。

架空循環取引を未然防止することは不可能であり、残る道は「早期発見・早期是正」しかないということは、8月のエントリー「オルツ会計不正事件の印象-架空循環取引は、これからも”ハロー効果”によって繰り返される」でも述べた通りです。この早期発見・早期是正の役割を監査法人に期待することを否定するつもりはありませんが、その前に当該役割を果たすのは監査役(もしくは監査等委員)でしょう。しかし、これまでのオルツの話題として「監査役は何をしていたのか」といったテーマで語られる記事はほとんど見たことがありません。

上記東洋経済記事においても、大手監査法人幹部の方へのインタビュー記事では「エコシステム全体で横連携をはかれ」ということで投資家や社外取締役のコミュニケーションの重要性が謳われていますが、監査役(監査役員)が含まれていなかったのには少し悲しい気分になりました(当然のことながら、架空循環取引の疑惑があれば会計監査人と監査役とが連携して、その疑惑解明に動く必要がありますが、オルツではそのような動きがあったのか、なかったのか)。

たしか小林製薬の紅麹サプリ問題が大きく報じられたときには「社外取締役は何をしていたのか」といった経済誌の特集記事は何度も目にしました。しかし著名な社外監査役を含む5名で構成された小林製薬の監査役会が何をしていたのか、といった記事はほとんど見当たりませんでした。今回のオルツの件でも、会計士や(企業法務の世界で有名な)法律事務所の弁護士の方を含む3名の監査役がおられたにもかかわらず、見逃したことに関する検証にはあまり世間の関心が向けられていないのですね。これは私から見ると「監査役制度の危機的状況」です(社外取締役監査等委員で構成される「監査等委員会」についても同様の問題があります)。

ベンチャー企業の上場ブーム(上場政策?)に冷や水を浴びせた、というと、同じくエフオーアイ事件も話題になりますが、あのときは内部監査責任者が声を上げたことで退職を余儀なくされました。監査役も、憶測によって事業戦略にブレーキをかけるとなると(とくに会計不正を組織ぐるみで共謀している場合には)社内で孤立して誰からも有用な情報を得ることができなくなってしまうのが実際のところかと。

現実問題として、監査役も他の社外監査役や社外取締役、会計監査人、さらには外部アドバイザーとの連携を強めて、この「孤立」を避ける必要があると考えます。そのうえで、監査役はぜひとも経営者との対峙をおそれないでいただきたい。コンプライアンス問題に「真っ白と真っ黒」はありえないわけで(それだったらAIを活用すれば足りる)、監査役が違和感を感じた経営判断にはかならず「グレーゾーン」があります。その「グレーゾーン問題」に経営者は(前向きの戦略の中で)どう対処するか。そのコミュニケーションにおいて経営者と監査役との信頼関係が必要ではないでしょうか。

監査役は(社長と向き合った際に)自分の心の中に芽生える「ハロー効果」と真剣に向き合うべきです。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」で語られるファストの意思決定を司るのは社長ですが、スローの意思決定を司るのは監査役です(ファストが支配する日常の経営判断において社長の判断が監査役よりも長けていることはあたりまえです)。双方が重なり合って競争社会を勝ち抜く企業の意思決定が形成されるわけですから、お互いの信頼関係が前提となることは自明の理であります。とくにベンチャー企業の経営者にはそのことを申し上げたい。

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