監査役員の子会社調査権と公益通報者保護法の遵守
先週、ある監査役員の方からご質問を受けて、やや不明瞭な回答をいたしましたので、あらためて当ブログで解説させていただきます。
「グループリスクマネジメントとの関係で公益通報者保護法関連のご質問が圧倒的に多い」ということは前にも述べましたが(たとえばこちらのエントリーご参照)、たとえば子会社社員から(親会社の正規のグループ通報窓口ではなく)親会社監査役員のところへ(直接に)子会社経営陣の関与する不正事実の通報がなされた場合、親会社監査役員は子会社より「対応業務従事者指定」を受ける必要があるのか、といった質問です。会社法上、親会社監査役員には子会社調査権が明記されていますので、当該調査権行使が公益通報者保護法によって規制されるのか、といったご疑問からだと思います。
私の当日の回答は、正規通報窓口への内部公益通報(グループ通報制度の窓口が親会社のみの場合も含む)がなされた場合のみ、事業者には従事者指定義務がある(法定指針に基づく)ので、子会社調査権を行使する親会社監査役員は従事者指定の対象とはならない、というものでした。この回答自体は間違ってはいないと思うのですが、ただ、解説が不足していたのは、たとえ従事者指定を受けずに子会社調査権を行使するとしても、その場合の親会社監査役員の子会社調査では、当該子会社の「公益通報対応業務」に配慮する必要がある、という点です。
当該子会社からみると、親会社監査役員へのイレギュラーな通報は(少なくとも)3号通報には該当しうるので(「解説改正公益通報者保護法-第2版」山本隆司ほか著 2023年弘文堂 123頁参照)、当該子会社(ただし300名以上の常用雇用者が存在する子会社)は公益通報対応体制整備義務を尽くす必要があります。なので、たとえば親会社監査役員が安易に子会社経営者に調査を委ねたり(調査の独立性確保への配慮不足)、子会社社員の特定につながるような情報を共有すること(範囲外共有、通報者探索の禁止)は避けなければならないと考えます。これに違反した親会社監査役員には「子会社の法令遵守体制整備義務」への配慮不足による「善管注意義務違反」が認められる可能性が出てくると思います。
親会社の監査役員に認められた会社法上の子会社調査権は万能のようにも思えますが、やはり公益通報者保護法の趣旨に反してまで権限行使の裁量は認められない、ということでしょう。改正公益通報者保護法では、このグループ通報制度やグループリスクマネジメントとの関係で、いろんな疑問点が出てきますね。これからも実践を通じて疑問点をひとつひとつ解消していく地道な努力が必要ですね。
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