今年の「ガバナンス大賞」はJSBの元常勤監査役さんでは?
企業法務・コンプライアンスネタとして、ちょうどフジテレビの第三者委員会の活動が話題になっていた今年1月中旬、学生向けマンション事業で絶好調のジェイエスビー社(JSB、東証プライム)が「特別調査委員会による調査報告書の公表について」をリリースしていました。私もまったく見落としておりまして、最近ようやく当該報告書を読むことができました。
調査委員会の委員構成は検事出身の弁護士2名と同社社外監査役1名です。報告書はかなり長いものですし、またAIによる要約文だと肝心なところが省略されてしまうので、ざっくりと内容をお知りになりたい方は、こちらのダイヤモンドオンラインの記事がおススメです(ただし有料記事)。
調査報告書によると、専務取締役による海外視察・研修名目の経費不正、具体的には家族同伴の海外視察・研修費用を会社に負担させた(総額約1,700万円)というものです。さらに調査委員会への情報提供等によって、社内に簿外の金券 1,321万円(4,900枚)及び社内外のワインセラーに簿外ワイン784本(約3,238万円)の存在が確認された、とのこと。
専務取締役による上記会社法、税法違反の疑惑は、常勤監査役への内部通報がきっかけであり、常勤監査役は当該通報をもとに社内調査を行い、監査役会決議を経て、不正の疑惑を取締役会に報告しました。報告を受けた取締役会としては、直ちに社外第三者を含めた特別調査委員会を設置を決議して、その結果が今年1月に公表された、というものです(なお、報告書の日付は2024年11月ですが、開示されたのが今年1月ということです)。
内部通報に基づいて監査役がきちんと調査を行い、その結果を取締役会で報告するということは監査役としての当然の職務を尽くしたにすぎない、とも言えそうですが、これができる監査役さん(とくに常勤)は、現実にはとても少ない。象徴的な出来事が報告書98頁~99頁あたりに記されています。
この常勤監査役は、特別調査委員会の活動が開始された頃、JSBの大株主(約40%の株を保有)からホテルないし喫茶店に2回呼び出されました。他の社内取締役も同席するなかで、当該大株主は「家族同伴での出張等は全取締役の共通認識であり不正ではなく、監査役会の調査は不十分であったことを指摘し、その経緯の確認、あるいは反省を求める趣旨の発言をした」そうです(ちなみに、家族同伴での出張は後ろめたいからこそ、専務取締役は会社に対して虚偽の申請を出していたそうです)。
(ここからは、調査報告書がリリースされた後のお話です)このような経緯があるにもかかわらず、当該常勤監査役は退任することもなく、1月下旬の定時株主総会においては会社側提案による監査役再任議案の候補者となります。しかし60%超の反対票によって再任議案は否決されています。普通であれば、候補者となることを辞退したくなるところですが、辞退することもなく(当然、再任されないことは覚悟のうえで)JSBの監査役の再任候補者となったのは、会社の将来のために役に立ちたいという真摯な気持ちだったからではないかと推測します。
もちろん、長年の経費不正支出問題や簿外資産放置問題など、これまでの監査によって発見できなかったのか、といった疑問は残りますが、有事に直面した常勤監査役としての行動については称賛されるべきだと思います。今年はオルツの会計不正を証券取引等監視委員会に指摘した同社元経営企画部長の方が注目を集めていますが、最後まで大株主と向き合ったJSBの元常勤監査役の方こそ、今年のガバナンス大賞にふさわしいのでは・・・と私的には思う次第です。
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コメント
買収を巡ってはMoMの議論が盛んですがこのような場合の役員選任議案にはその理論は使えないのでしょうか。
否決だと決議取消や決議無効の対象外です。かの常勤監査役の正義感が無駄にならない仕組みを法律家として考えたいところです。
投稿: 世界の片隅の法律家 | 2025年12月23日 (火) 16時54分