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2025年12月23日 (火)

ニデック会計不正問題の「転機」はどこで訪れたのか?(図表の追記あり)

ニデック会計不正問題は、カリスマ経営者が取締役を辞任し、名誉会長として経営の第一線から退く事態にまで発展しました。会計監査人が「意見不表明」としたことや、東証が「特別注意銘柄」に指定したことで、上場廃止の可能性まで話題になっております。正直に申し上げて、私もここまで大事(おおごと)になるとは予想しておりませんでした。

では、ニデック会計不正問題がこれほどまでに大きな事件になってしまった「転機」はどこにあったのか?たとえば東芝会計不正事件については、勇気ある社員による証券取引等監視委員会への内部告発でした。オリンパスの会計不正事件では外国人社長による海外メディアへの告発、そしてジャニーズ事務所問題ではBBCへの被害者の告白インタビューでした。そのような「転機」がなければ、巨大組織の不正はオモテに出ることはなかったと言えます。

ここからは私の推測ですが、今年6月26日のニデックリリース「第 52 期有価証券報告書の提出期限延長に係る承認申請に関する取締役会決議についてのお知らせ」の記載(事件経過)から考えると、今年3月31日に、会計監査人に対し(イタリア子会社による)原産国表示違反を通知したことがポイントではないかと。社内では、その後も幕引きを図るために、海外子会社による不正疑惑は「(外部有識者の意見も踏まえて)不正ではなかった」との結論にしたかったようですが、おそらく疑惑のあった製品以外にも同様の不正がなかったかどうか明らかにすべし、との会計監査人の意見が出され、結局のところ5月29日には連結計算書類に会計監査人の意見がもらえていないことを開示するに至った、というものです。すでに郵送していた株主総会招集通知には、会計監査人や監査等委員会による適正監査意見がもらえました、といった文言が(早とちりとして)記載されていたことからみても、ニデックにとっては(会計監査人の意見が)晴天の霹靂ではなかったかと想像します。

これも推測ですが、会計監査人が社内調査報告だけで納得しなかったのは、前にも述べたとおり、複数年にわたってニデックのJ-SOXが有効とはいえない状況が続いていたからではないでしょうか(ちなみに、J-SOXが無効とされた3期の状況は下記図表のとおりです)。つまり依拠すべきニデックの財務報告内部統制に大きな問題を抱えていたために、他の子会社でも類似案件が存在しないかどうか、類似案件でも原産地表示には問題がないと断言できるかどうか、中立公正な調査が必要と判断されたものと思います。「たかがJ-SOX、されどJ-SOX」であります。ニデックの会計監査人は、ずいぶんと「ニデックに言われるままだった」ように揶揄されていますが、実は覚悟を決めた主張が「転機」になったのではないかと。


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もうひとつの「転機」は、監査等委員会による調査によって中国子会社の不正が公表された時点で「経営陣の関与が疑われる」と述べられた点です。このあたりから、メディアではカリスマ経営者の功罪が公然と語られるようになりました。いったい誰がリリース中に「経営陣の関与が疑われる」との文言を入れることを決断したのか。もしニデックの監査等委員会が決断したのであれば、もっと監査等委員会に注目が集まってもよいのではないでしょうか。

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コメント

山口先生
お忙しい中、いつも勉強になるブログをアップしていただき感謝しております。
ニデックはついにカリスマ経営者が一線から退くことになりましたね。
当社の問題は、監査法人の従前からの指摘に加え、監査等委員会が「経営陣の関与が疑われる」としたことで、新たな局面を迎えたと思います。
これは現経営陣(除くカリスマ経営者)の中に、『この問題から逃げず、この際徹底して同社のガバナンス改革を推し進めよう』と考えている方がいるからだと、個人的には考えています。
その点では、山口先生が当初からおっしゃるように、この会計不正事件は同社の持続的成長に向けてポジティブに捉えても良いのではないかと思う次第です。
(もちろん、今後の調査でもっと深刻な事態が明らかになる可能性もありますが。)

芸能人のパワハラやセクハラ問題と同じように、昔は許されていたことでも、今の時代では許されないことは多いと思います。
カリスマ経営者の考え方は、昭和の時代であれば許された(あるいは称賛された)ことかもしれませんが、今の時代にはコンプライアンスに抵触するようなこともあったのではないかと推察します。
何事もきちんとアップデートしていくことが大切だな、と感じた次第です。
(久しぶりにドラマ「不適切にもほどがある」を思い出しました。)

投稿: 艦長 | 2025年12月24日 (水) 10時38分

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