企業不祥事疑惑に対する「モノ言う株主」の存在感-ニデック事案からの教訓
会計不正疑惑のある社員が、いわゆる大株主アクティビストに告発をすることは公益通報者保護法上の「3号通報」にあたるか。諸説分かれているようですが、私は親会社に子会社社員が通報することは(たとえグループ通報制度がなくても)普通に行われており、親会社としても是正措置をとるのがあたりまえなので、インサイダー取引のおそれはあるものの(つまり2条1項柱書の「正当な利益を害する者」に該当するおそれは否定できないものの)アクティビストに対する通報も外部公益通報(3号通報)に該当すると考えています。
さて、企業不祥事に物言う株主(物言う投資家?)の例として、かつてニデックの会計不正疑惑を公表して空売りを推奨していた株主がいましたね。2016年12月、米国の著名な空売り投資家カーソン・ブロック氏が率いるマディ・ウォーターズ(Muddy Waters)キャビタルLLCが、日本電産に関する調査レポートを公表しました。一時は5パーセント以上の株価下落を招きましたが、ニデック(旧日本電産)は、調査レポートの内容を即時に否定をして、「当社の財務報告は国際会計基準(IFRS)に準拠しており、指摘は根拠に欠ける」と声明を発表しました。その後鎮静化して、2017年には過去最高益を計上していました。
マディ・ウォーターズが旧日本電産の会計処理に疑問を抱いていたのは主に「利益の質」であり、とりわけ①キャッシュフローと純利益の乖離、②のれん・無形資産の減損リスク、③買収依存型の成長戦略、④情報開示の不十分さ、というものでした。「日本電産は利益と成長率を誇張して見せかけるために疑わしい損失計上を利用しました」等、レポートには疑惑がいくつも指摘されていますが、複数の旧日本電産本社の元社員、同グループ会社社員からも情報提供を受けていたそうです。日本電産の利益成長が実際の事業成長よりも買収による会計処理に依存していると指摘しており、特に、のれんや無形資産の償却に関する扱いが利益を押し上げている可能性がレポートで強調されています。現在問題となっている「中国子会社における不適切な固定資産の減損処理」についても記されていますね。
1月下旬に提出が予定されているニデックの第三者委員会報告書が公表された折には、その報告書が指摘した不適切会計の事実や原因とされる事由と、このマディ調査レポートの推測事実を比較して、2016年の疑惑公表がどの程度の精度であったかを検討してみたいと思います。本日の日経新聞ニュースによると、日本の証券市場において今後ますます物言う株主の存在感が高まるようですが、(オモテ向きの名目として)一般株主の損失を最小限度にするために、大株主が会計不正疑惑を公表する、ということも増えるかもしれません。今回のニデックの会計不正疑惑において、あまり10年前の調査レポートの件について話題になっていなかったので、あえて一言書かせていただきました。
なお、そもそもマディ・ウォーターズが指摘していることについては、監査役や監査等委員が「社内アクティビスト」の役割を果たして、平時から経営陣に対して指摘すべきことではないでしょうか?オルツの会計不正事案が発覚した時にも申し上げましたが、「少なくとも外からはこのように見える」といった意見でもよいので、会計不正疑惑を監査役員がリスクとして語ることは「善管注意義務」の実践だと思います。


