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2026年1月30日 (金)

日経ビジネス(電子版)に論稿を掲載していただきました。

少し本業が忙しかったので遅くなりましたが、1月28日(水)に日経ビジネス(電子版)に、「自浄なき企業は淘汰へ」と題する論稿を掲載していただきました。主に改正公益通報者保護法の解説を中心としたものでして、少しでも改正法の周知にお役に立てれば幸いです。なお、日経ビジネス誌面での掲載は2月9日号(来週号)となりますが、こちらは電子版の記載を縮めたものとなっております。

ここのところ、内部通報対応の実務に関わる機会が多いので、改正公益通報者保護法の解説とは別に、内部通報や外部からの情報提供がなされた場合の企業側の運用実務についてお話したいところです。うまくいくこともあれば「がっかり」することもあって、毎回反省するばかりです。

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2026年1月28日 (水)

コーポレートガバナンス・コード”Comply or Explain”の意味を今一度考える

1月26日の日経ビジネス記事「改訂ガバナンス指針は単なるルール変更にあらず、経営者に説明能力を問う」を読みました。松田千恵子先生はコーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議のメンバーでもいらっしゃいますし、「今回のコーポレートガバナンス・コード改訂における最大のポイントは、コードのスリム化・プリンシプル(原則)化です。」「企業が成長ストーリーをどのように説明できるかが重要」「今回の改訂は単なるルール変更ではない」とのご意見は今後の実務家の対応においても心しておきたいところです。

さて、ガバナンス・コードがスリム化・プリンシプル化されるとなると、あらためて”Comply or Explain”の意味を検討する必要がありますね。最近、ある研究会で、発表者の方から(日本の上場企業における)Explainの実態を解説していただいたのですが、相変わらず「まだComplyしていませんが、これから頑張ります!!」とか「いまからやろうとしていたところです!!」といった「やらない理由」とはかけ離れた記載が多いとのこと。まぁ、実施していないにもかかわらず実施しています、と回答するよりはマシかもしれませんが、ガバナンス改革が10年経過しても制度趣旨が十分に伝わっていないのが現状であります。

ところで海外機関投資家の運用責任者の人たちと話をしていて「”Comply or Explain”は哲学的発想から生まれたものではないか」といった考えを抱くに至りました(私だけかもしれませんが・・・(^^;))。そういえば”Comply or Explain”に関する海外の論文に比較対象国として出てくるのはギリシャ、ブラジル、ドイツ、イギリス、カナダということで哲学になじみの深い国が多い。「国と企業とは対等の関係にあり、弁証法上の二項対立は止揚する(アウフヘーベンする)」との考え方、つまり企業価値を向上させる目的達成のために、国がモデルを提案しているが、企業として最終目的達成のためにほかのモデルが適切だと考えれば、堂々と対等である国に対して別のモデル採用を宣言し、株主にも説明する、という考え方です。

日本では、そもそも「国と企業は対等」という発想自体はなじまないので、果たして”Comply or Explain”によるソフトローが浸透するかどうかはわかりませんが、証券市場における自律的な秩序(株主とのエンゲージメントの活性化によってソフトローの実効性を担保する)の形成に向けて、今一度”Comply or Explain”の意味を考えるべきではないでしょうか。なお、最近の金商法改正や会社法制改正論議の内容とソフトローとの関係等についてもいろいろと考えるところはありますが、そのあたりはまた別の機会に。

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2026年1月26日 (月)

不二製油株式会社の社外取締役候補者になりました。

先週金曜日(1月23日)に開示されましたが、当職は今年6月の定時株主総会での承認を条件として、不二製油株式会社(東証プライム)の社外取締役(監査等委員)に就任いたします。上場会社の社外取締役就任は3年ぶりとなります(現在社外取締役として就任している「りそな銀行」は「りそなホールディングス」の事業子会社です)。

ご承知の方もいらっしゃると思いますが、不二製油といえばSDGsやサステナビリティ経営のトップ企業(近時、時価総額も過去最高)として注目されていますが、著名企業が大株主として存在することにも特徴があります。独立社外取締役として、何を期待されているのか十分理解したうえで、企業価値向上に向けて尽力するつもりです。

もちろん、本業でも手を抜かずに頑張ってまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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2026年1月23日 (金)

組織の「暗黙知」を利用した公益通報調査は許されるか?

1月13日から21日まで連載された毎日新聞の「公益通報者保護特集」の記事は、消費者庁の公益通報者保護制度検討会のメンバーとして、実に耳の痛いものばかりでした。私が知らなかった事例もあり、「令和7年改正公益通報者保護法は中途半端」との意見には説得力がありました。ただ、最近は企業の内部通報制度の支援を行うことも増えておりまして、実際の運用をお手伝いしている中で、企業にも「通報者保護の徹底」ということが強く意識されるようになりました。おそらく令和7年改正公益通報者保護法の施行を控えているからでしょう。

ところで「『通報者保護の徹底』のためには『通報の保護』も必要」ということで、社内調査が内部通報に起因するものであることも隠したうえで調査を行うこともあります。とくに被通報者へのヒアリングにおいては「なぜ、私がヒアリングの対象となるのか?」と不審に思うことがありますが、調査者が「通報があったからです」と申し向けると「ああ、あいつチクったな」となり、通報者の特定につながる可能性が高いからですね。

たとえば消費者庁の民間事業者向けガイドラインにおいても、通報者保護の徹底のためには、通報による調査であることを隠した調査も必要とされています。たとえば「調査対象部署だけでなく、他部署にもダミー的にヒアリングを行う」とか「抜き打ち調査と称してヒアリングをする」といった工夫が紹介されています。つまり、通報者保護のためには社員に対して、ある程度は「真意を隠して調査をしてもよい」という前提があります。

では、内部通報を受領した企業側が、被通報者(不正行為を疑われている社員)の直属の上司を「対応業務従事者」として指定したうえで、内部通報に基づく調査であることを隠して当該被通報者にヒアリングをすることはいかがなものでしょうか。

もちろん内部通報に基づく調査であり、自分が従事者指定を受けたことを、上司が明らかにしたうえでの部下へのヒアリングであれば問題はないでしょう。しかしながら、日本の企業の暗黙知として、「上司も薄々知っているはずだから、正当化理由をわかってもらえる」とか「上司に正直に言えば一緒に隠し通してくれる」といった独特の意識(甘え?)が部下には働かないでしょうか。功を奏して被通報者が不正事実を申告した場合、会社としては首尾よく内部通報制度を機能させることができるわけですが、このような「暗黙知」を利用した調査を後で被通報者である部下が知った場合、どう思うでしょうか。

これまで何度か著名企業の品質不正事件の調査に関わってきた経験上、現場の暗黙知は不正の温床の原因になるわけですが、その一方において社員が毎日元気に仕事したり、縦の指揮監督関係の効率性を高めることに大いに寄与しているものと認識しています。そこにオフィシャルなルールを(無断で)持ち込むことには、なんとも気持ち悪いものを感じます。

いろいろと意見が分かれるのかもしれませんが、私は内部通報制度というものは、社内のオフィシャルなルールであり、通報者保護の徹底が必要とはいえ、社員を騙すことにも許容限度があると思います。社員の皆様が意欲的に働くためには、会社の中での部署ごとにも暗黙知があって、これを活用して真実を語らせるということは「やりすぎ」ではないかと(上司としても、従事者指定の事実を隠して部下のヒアリングはやりたくないでしょう)。「いやいや、許容されるでしょう」といった意見が強いのかもしれませんが、少なくとも私はお勧めしないと思います。

先日、あるセミナーで、令和7年改正公益通報者保護法のもとでの公益通報調査の運用についてお話しましたが、通報事実に対する調査の必要性が高ければ高いほど「公益通報の妨害禁止」「通報者特定情報の探索禁止」「通報者特定情報の範囲外共有禁止」といった不作為義務がどこまで厳格に守られるべきか、きわめて悩ましい問題であることをお示ししました。「リニエンシー」が適用されずに役員の賠償責任が認められてしまう事案が出ていますし、また、企業における対応体制整備義務違反(つまり法令違反)にもレピュテーションリスクが生じるので、公益通報調査の許容範囲については、今後さまざまな議論がなされることが予想されます。

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2026年1月22日 (木)

「ビジネス法務」2026年3月号に論稿を掲載していただきました。

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昨日のエントリー「(続)さらなる『会計監査の厳格化』を予見させるイーエムネット社の会計不正事案」に、オルツ社の会計不正疑惑を証券取引等監視委員会に告発した塩川晃平会計士よりコメントをいただきました(どうもありがとうございます!)。塩川さんのコメントからの一部抜粋ですが、

当時の葛藤と反省があるからこそ、現在は「個人の勇気」に依存するのではなく、テクノロジーを用いた「仕組み」によって不正を未然に防ぎ、健全な組織運営を支援できるようなサービスの提供に尽力しております。

とのこと。そうですね、たしかに組織に生きる人にとって「個人の勇気」に依存するだけでは不正の防止はむずかしいと思います(すいません、私は組織で仕事をしたことがないので「思います」程度しか述べることができません)。私もAIを活用した不正リスクマネジメントについては大賛成でございます。ただ、これは私の意見ですが、どんなにAIの精度が高まったとしても、最終的に「これは不正だ」と事実を評価して経営陣に突きつけるのは「個人の勇気」ではないか、その「勇気」を補完するためにテクノロジーが必要なのではないか、と思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

さて、中央経済社「ビジネス法務」2026年3月号(1月21日発売)に「特別企画 2025年に起きた企業不祥事とコンプライアンス強化へ向けた示唆」と題する論稿を掲載していただきました。ありがたいことに本企画は好評でして、もう数年前から3月号の恒例企画として毎年掲載していただいております。以下、論稿のリード文だけご紹介しますと、

2025年に発生・発覚した企業不祥事への社会的評価には、持続的成長に不可欠の非財務資本(人的資本、他者とのネットワーク、組織風土)への社会的関心の高まりを見ることができる。将来価値算定において、不祥事が「負のストーリー」とならないように、不祥事発生企業には、とりわけ組織風土の再構築が必要である。ただし、その再構築にあたっては、企業の持続的成長に必要な資産まで毀損しないように配慮すべきである。

といった趣旨の1万字程度の論稿です。あいかわらず具体的事例満載の論稿となっております。比較的斬新な視点から解説したものでありますが、組織風土改革のプロコン(Pros & Cons)にも言及しており、ご批判やご異論もぜひ伺いたい内容となっております。全国大型書店にて発売中ですので、ご興味がございましたらご一読いただけますと幸いです。私はといいますと(過去に何度がお仕事をご一緒している)山口亮子弁護士(三浦法律事務所)ご執筆の「承認行為と共犯の成立-SMBC日興証券相場操縦事件から得られる教訓」をぜひ拝読したいと思っております。

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2026年1月21日 (水)

(続)さらなる「会計監査の厳格化」を予見させるイーエムネット社の会計不正事案

120日の日経電子版「ニデック不適切会計の疑い・識者に聞く-ニデック問題、監査の質も検証必要」の中で、元金融庁統括審議官の佐々木清隆氏は、

社外取締役・監査等委員らの役割が機能していたか、監査法人による監査の質に問題がなかったか検証する必要がある。企業監査で重要なのは内部統制のチェックだ。PwCがリスクをこれまでどのように評価してきたのか、自主規制団体である日本公認会計士協会、金融庁の公認会計士・監査審査会の動きにも注目している

監査は企業価値の向上につながると、経営者や投資家に前向きに捉えてもらう必要がある。監査法人もルールへの準拠性をチェックする仕事だけでは、すぐに人工知能(AI)に取って代わられる。企業が成長する上で、経営者がまだ気が付いていないリスクを提示するなど、付加価値の重要性が高まっている

と述べておられます。ビジネスには常にリスクがつきものなので、監査の「付加価値」は、たとえば監査役員が経営判断プロセスに関わることだと思います。経営判断に後から(経営陣に忖度して都合よく)お墨付きを与えるのではなく、経営陣のリスクテイクをサポートするために必要な知見を適宜提供することではないでしょうか。上場企業には、会計監査にも、また監査役監査(監査等委員会監査)にも、「無限定適正意見(適法意見)」があたりまえにもらえる、という慣行があります。この慣行を意識として少し変えていかないと、そもそも監査の「付加価値」は見えてこないのではないかと。

さて、ニデック問題のように世間で騒がれているわけではありませんが、先週ブログでご紹介したイーエムネット・ジャパン社の会計不正事件について、19日に第三者委員会のメンバーが公表されました。予想どおり日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置するとのこと。委員の中にはよく存じ上げている方がいらっしゃるので、やはりブログで書きにくくなりました()。ということで、以下は、あくまでも野次馬の主観的意見です。

なぜ、本件は金融庁にとっても、東証にとっても、さらには日本公認会計士協会にとっても大きなショックなのか

昨年、オルツ、ニデックと、高市内閣が推進する日本成長戦略に冷や水を浴びせる事案が続きました。いわき信用組合の小口融資による監査逃れも話題になりました。不正予防や早期発見に向けて、外部からの会計監査には限界があるとすれば、つぎは企業のガバナンスに期待することになります。不正リスクを外部監査人が認知・評価できるような社内の体制整備、もしくは会計的知見を有する組織内会計士や社外役員を増やして、会社と会計監査人との「橋渡し」を行う、もしくは社内でゲートキーパーとして不正を予防するガバナンスの取組みですね。

こういった取組みを進めていこうとしていた矢先でのイーエムネット社の(会計士資格を有する)元常務取締役(CFO)による不正・粉飾疑惑の発覚となりました。つまり、いまから施策を実施しようとしていた中で、その実効性に疑問符が付いてしまいそうな事件が発覚したのです。そこで、今後イーエムネット社の第三者委員会が認定する事実や原因分析は、そのような施策の有効性を減殺しかねない事態を招来してしまうのか、それともイーエムネット社の事例はきわめて個社固有の例外的状況で発生したのであり、組織内会計士や会計士の社外役員が増えることで、オルツやニデックのような会計不正が防止できるとされるのか。この見極めにおいて、第三者委員会の役割はとても重要だと思います。

オルツの告発をした元経営企画部長さんも組織内会計士だったわけでして、告発をしたことについてはとても評価される立場にあるわけですが、上記のようなガバナンス構築の方向性からみて、そもそも事前に防止できなかったのか、疑惑を解明するにあたって意見が通らなかったから辞任しました、ということでよかったのか、いろいろと議論もされるのかもしれません。

上記佐々木清隆氏のインタビューで佐々木氏もお話しているとおり「会計不正は経営者が指示しなくても起きる」わけですから、経営者は会計監査人が不正を発見できるようなガバナンスを構築したうえで、コーポレートガバナンス・コード補充原則32-②(ⅳ)で遵守要請されているように会計監査人がリスクを指摘した場合に、これにどう会社側が対応すべきかその体制整備が不可欠だと思います。2015年の不正リスク監査基準(監査における不正リスク対応基準)が策定された時から私は会計監査人の監査の厳格性は被監査企業のガバナンス向上とセットで考えるべき、と申し上げておりましたが、日本成長戦略の時流に乗り、いよいよ本格的に検討されるべき時期ではないかと思っております。

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2026年1月20日 (火)

東芝事件は「会計不祥事」ではなく「経営不祥事」である

Img_20260119_201714_512 東芝の不正会計を巡る旧経営陣への損害賠償請求訴訟の控訴審では、2025年3月に東京高裁が、一審で賠償を命じられた旧経営陣の一部に対する賠償命令を取り消し、東芝の請求を棄却(逆転敗訴)しました(当該控訴審判決は、すでに金融・商事判例1720号に掲載されています)。高裁は、東芝の会計処理に国際会計基準違反はなかった、インフラ事業の会計処理の違法性は認められるものの、企業規模を考慮して「重大な虚偽記載とまではいえない」等と判断し、旧経営陣の責任を否定しました。現在、この判決を不服として、東芝は最高裁へ上告受理申立てを行っています。

一審で被告とされ、控訴審で逆転判決を勝ち取った元東芝・財務担当副社長の方が執筆された「東芝 転落の深層-経営不祥事と裁判」(久保誠著 2025年12月30日初版 朝日新聞出版)を読みました。2015年7月の東芝第三者委員会報告書の中でも実名で登場される方です(私も記憶があります)。2015年11月に東芝から提訴され、2023年3月に東京地裁判決、2025年3月に東京高裁判決、そして現在も敗訴した東芝から上告受理申立てがなされている、ということで10年経過しても確定しない裁判。多額の賠償責任を争うリスクのある裁判を10年以上続けるということの精神的重圧はたいへん大きなものと拝察いたします。

久保氏は「この事件の最大の問題点は、東芝側が横暴な社長たちの圧政のもとで、社内の会計処理が乱れたのはひとえに経理財務部門のガバナンスの問題として、すべての責任を経理財務部門に負わせようとしたことである」(あとがき)として、本件を「会計不祥事」として捉えようとしていることに警鐘を鳴らします。そして、本書において、会計不祥事とされた「WEC案件(ウエスチングハウス社案件)とバイセル取引案件を(当事者として)詳細に解説することで、東芝事件は単なる「会計不祥事」ではなく「経営不祥事」であることを読者に示します。そこから、著者は第三者委員会報告書も、また東芝の裁判の主張も、真実を明らかにすることよりも、手仕舞いを想定した「あるべきストーリーにはめ込んでいくこと」に注力してきた、この「あいまいな幕引き」こそ、上場廃止に至る真の原因である、ということを説得力をもって読者に伝えています。昨年3月の久保氏側への勝訴判決もあって、実に興味深い内容です(著者と証券取引等監視委員会担当者との会話内容、内部告発者の特定につながりそうな元社長との会話内容など、かなりドキッとします)。

会計不祥事の発生時における東芝の会計監査人は新日本監査法人(当時)であり、ご承知の方も多いと思いますが、新日本監査法人は本件で厳しい行政処分を受けました。しかし、本書を読むと「WEC案件」にせよ「バイセル取引案件」にせよ、財務経理上のリスクを会社と会計監査人との間では認識されていたのであり、これをどう解消していくか、という点についての問題意識は双方で痛いほど共有されていたことがわかります(「監査差異」「未修正の虚偽表示」への収束、バイセル取引の利益計上時期の問題等)。私も、もし久保氏と同じコーポレートの財務経理部門の責任者だったとすれば、おそらく厳しい社長のもとで同様の対処に至ったのではないかと感じます。おそらく、東京高裁は東芝案件を微視的に会計不正事件として捉えたのではなく、巨視的に経営不祥事として捉えたからこそ経営陣に「経営責任はあっても法的責任はない」との判断に至ったのではないかと。このような有事対応の経緯を知るにつけ、やはり会社と監査法人とのコミュニケーションがいかに大切かを痛感します。

久保氏は東芝の第三者委員会に対しては、強く批判をしています(当時の、「第三者委員会格付け委員会」の評価内容を引用して、「落第点」をつけた委員の意見を絶賛しています)。私も調査委員を生業とする者として、どうしても「会社から、メディアから、監督官庁からどんな報告書が期待されているか」といった意識ばかりが強くなりすぎて、(社会からの期待とは関係なく)会社再生のための「真の問題点」はどこにあるのか、といったことへの説明責任が疎かにならないよう、戒めとしたいです。東芝問題が、2015年の時点で「会計不祥事」として捉えられることなく「経営不祥事」だと世間が認識できていれば、たとえ東日本大震災で原子力部門に逆風が吹いていたとしても上場廃止にはならなかったのでは?と(本書を読んで)思った次第です。

ひとつ気になりましたのは、私は2015年に第三者委員会報告書を読み、いまでも記憶に残っているのが、著者が監査委員会委員長の時代に、いわゆる「ETC案件」の工事損失引当金問題への対処として「見なかったことにしましょう」とか「聞かないことにしましょう」といった残念な言動があった(結果として不正な会計処理に関与した)と報告されていたことです(たとえば上記第三者委員会報告書158頁から159頁)。私はこれを読んで「監査委員会が全く機能しなかったことは残念」と感じましたが、本書では、この点についての解説がありませんでした。もちろん、バイセル取引やWEC案件に絞った解説からは離れますが、このあたりは著者がどのような理由からの行動だったのか、お聞きしてみたいなぁと感じた次第です。

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2026年1月16日 (金)

さらなる「会計監査の厳格化」を予見させるイーエムネット社の会計不正事案(追記あり)

イーエムネット・ジャパン社といえば、日本のAI技術の実用化に貢献するソフトバンクグループの企業というイメージがあります。しかしながら、1月13日の同社リリースによりますと、同社元常務取締役(CFO)の方による約4億6000万円の会社資金を自身名義の口座へ送金していた不正行為が判明し、一部返金を受けたものの第三者委員会を設置して調査結果を開示する、その調査結果をもとに同CFOに対する刑事・民事の措置を検討する、とのこと。CFOによる不正行為発覚の端緒は、従業員から社長への内部通報だそうです。

ちなみに(同社開示資料によると)元常務取締役の方は公認会計士の資格をお持ちの方であり、WEBで公開されているインタビュー記事などを読むと、私と同じく会計教育研修機構で講師もされている(されていた?)とのこと。会計プロフェッショナルとしては、かなり信用のある方だったのでしょうね。そのようなCFOが、そもそも多額の会社資金を悪意で自身の名義口座へ送金する(私的流用する)、といったことは考えにくく、何か事情があったのではないか、とも想像するのですが、まだ詳細はわかりません。会計・開示への影響については

当該取締役は、本件不正行為を隠蔽する目的等で、費用・資産計上等に係る会計情報の改ざんを行っていた可能性があり、既に提出した開示書類に影響が生じているおそれがあります

とのこと(同社リリースより)。資金流用+粉飾という意味で事態は深刻であります。

AI戦略の推進とか、スタートアップ企業への資金提供とか、さらには資産運用立国推進とか、高市内閣における日本成長戦略のキモではないでしょうか?中規模の上場企業(東証グロース)とはいえ、国から期待されている事業会社の年間利益の約半分程度を(いとも簡単に?)自分のポケットに入れることができたとなると、うーーーん、純粋な第三者委員会設置事案ですし、本件は金融庁にとっても、東証にとっても、さらには日本公認会計士協会にとっても大きなショックではないでしょうか?なぜショックか・・・という点については、また来週、ブログで書かせていただこうかと思っております。

もちろん「場末のブログ」とはいえ、公開されていない情報は書けませんので、私の主観的な意見として書かせていただく予定です。ちなみに、まだ第三者委員会の委員は開示されていませんが、この第三者委員会の調査はとっても重要ですね(ブログが書きにくくなるので、よく知ってる人が委員長でないことを願っております・・・(^^;))。オルツの件といい、本件といい、このような事案が続くと、もう誰もこわくて会計監査をする人がいなくなってしまうのではないかと・・・

(追記)よく考えると、資金流用というのは常務取締役ひとりでもできそうな気がしますが、これを隠蔽するために費用・資産計上に係る会計処理の改ざんに及ぶとなると、おそらく単独では無理ではないでしょうか?社長に内部通報をした社員が存在することも含めて、調査委員会はこのあたり、加担した社員の有無についても調査が必要ですね。

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2026年1月15日 (木)

内部統制強化・不祥事予防に向けたハンドブック-体系化した再発防止策から学ぶ着眼点-

Jishukiseihoujin

本日(1月14日)もKDDI社による「子会社会計不正疑惑」への調査委員会設置のお知らせが出ていますが、ガバナンスや内部統制に綻びが生じたコロナ禍から5年、今年も不祥事がたくさん公表されることが予想されます。

ところで、上場企業で重大な不祥事が発生した場合、たとえばいま話題となっているN社のように、取引所へ内部管理体制の改善計画を提出しなければならない状況となれば、「いったいどのような再発防止策を検討すればよいのか」と悩むことになります。たとえ不祥事とは無縁と思われる上場会社でも、「守りのガバナンス」のイメージを把握することで、会社の大切な経営資源をいかに配分すべきか、平時から理解しておくことはとても大切です。

そこで1月14日、日本取引所自主規制法人は、東証に上場している企業向けに「内部統制強化・不祥事予防に向けたハンドブック-体系化した再発防止策から学ぶ着眼点-」なる刊行物を公表しました(刊行物の全内容はこちらでダウンロードできます)。なお、本刊行物は紙ベースで配布されるものではなく、WEB上での活用が想定されています(リンクなどの使い勝手が良いので、とても読みやすい)。

日本取引所(自主規制法人)が作成したから、ということで「いかにして炎上を鎮めるか」といった表層的なリスクマネジメントを期待する方もおられるかもしれません。しかし、本刊行物の目的は、純粋に上場企業の中長期的な企業価値向上に不可欠なガバナンス、内部統制の構築です(したがって不祥事対応だけでなく不祥事予防のための内部統制、ガバナンスの支援が目的です)。

私も、本書において「各分野における第一人者」(ということのようです、ホンマかいな (^^;))として、「公益通報者保護法改正の論点と上場会社における内部通報制度」と題するコラムを寄稿させていただいております。とくに令和7年改正公益通報者保護法が企業実務(というより「経営実務」)に及ぼす影響について寄稿したものでして、詳しい人からすれば「あたりまえ」のことですが、中小上場会社や新興上場会社の経営者の皆様にはぜひ知っていただきたい勘所をピンポイントで書かせていただきました。

それにしても他のコラムのご担当者の方々、良いこと書いていらっしゃいますね。神田先生のコラムについては恐れ多くて(笑)、コメントできる立場ではありませんが、EYの山中会計士の「経営者の資質~変化への対応力」はまさにそのとおり!!です。上場直前期になっても創業者が個人資産と会社資産の区別がつかないため、「もうイエローカード3回目ですやん!アンタとはやってられまへんわ!」ということで、私は社外監査役を辞任した経験があります。

森・濱田松本の澤口弁護士のご指摘も正鵠を得たものです。私も講演でよく申し上げますが、監督官庁とか日本取引所は、世に出ていない企業不祥事をたくさん知っていて、公表されることもなく、うまく対処できた事例から得たノウハウをたくさん持っているのですよ。不祥事発覚時に監督官庁に報告したがらない企業が多いのですが、私はできるだけ早い段階で監督官庁やJPXと相談して対処方を検討したほうが良いと思っております。

ということで、刊行物本文は、これまでの日本取引所が多くの不祥事企業の有事対応と向き合ってきた経験から得たノウハウが詰まっております(私も今後の仕事の参考にさせていただきます)。不祥事に直面している企業だけでなく、幸運にも大きな不祥事とは無縁でここまでやってこれた企業の皆様にも、ぜひ「守りのガバナンス・内部統制の現在地」を知っていただければと思います。

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2026年1月14日 (水)

企業不祥事疑惑に対する「モノ言う株主」の存在感-ニデック事案からの教訓

会計不正疑惑のある社員が、いわゆる大株主アクティビストに告発をすることは公益通報者保護法上の「3号通報」にあたるか。諸説分かれているようですが、私は親会社に子会社社員が通報することは(たとえグループ通報制度がなくても)普通に行われており、親会社としても是正措置をとるのがあたりまえなので、インサイダー取引のおそれはあるものの(つまり2条1項柱書の「正当な利益を害する者」に該当するおそれは否定できないものの)アクティビストに対する通報も外部公益通報(3号通報)に該当すると考えています。

さて、企業不祥事に物言う株主(物言う投資家?)の例として、かつてニデックの会計不正疑惑を公表して空売りを推奨していた株主がいましたね。2016年12月、米国の著名な空売り投資家カーソン・ブロック氏が率いるマディ・ウォーターズ(Muddy Waters)キャビタルLLCが、日本電産に関する調査レポートを公表しました。一時は5パーセント以上の株価下落を招きましたが、ニデック(旧日本電産)は、調査レポートの内容を即時に否定をして、「当社の財務報告は国際会計基準(IFRS)に準拠しており、指摘は根拠に欠ける」と声明を発表しました。その後鎮静化して、2017年には過去最高益を計上していました。

マディ・ウォーターズが旧日本電産の会計処理に疑問を抱いていたのは主に「利益の質」であり、とりわけ①キャッシュフローと純利益の乖離、②のれん・無形資産の減損リスク、③買収依存型の成長戦略、④情報開示の不十分さ、というものでした。「日本電産は利益と成長率を誇張して見せかけるために疑わしい損失計上を利用しました」等、レポートには疑惑がいくつも指摘されていますが、複数の旧日本電産本社の元社員、同グループ会社社員からも情報提供を受けていたそうです。日本電産の利益成長が実際の事業成長よりも買収による会計処理に依存していると指摘しており、特に、のれんや無形資産の償却に関する扱いが利益を押し上げている可能性がレポートで強調されています。現在問題となっている「中国子会社における不適切な固定資産の減損処理」についても記されていますね。

1月下旬に提出が予定されているニデックの第三者委員会報告書が公表された折には、その報告書が指摘した不適切会計の事実や原因とされる事由と、このマディ調査レポートの推測事実を比較して、2016年の疑惑公表がどの程度の精度であったかを検討してみたいと思います。本日の日経新聞ニュースによると、日本の証券市場において今後ますます物言う株主の存在感が高まるようですが、(オモテ向きの名目として)一般株主の損失を最小限度にするために、大株主が会計不正疑惑を公表する、ということも増えるかもしれません。今回のニデックの会計不正疑惑において、あまり10年前の調査レポートの件について話題になっていなかったので、あえて一言書かせていただきました。

なお、そもそもマディ・ウォーターズが指摘していることについては、監査役や監査等委員が「社内アクティビスト」の役割を果たして、平時から経営陣に対して指摘すべきことではないでしょうか?オルツの会計不正事案が発覚した時にも申し上げましたが、「少なくとも外からはこのように見える」といった意見でもよいので、会計不正疑惑を監査役員がリスクとして語ることは「善管注意義務」の実践だと思います。

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2026年1月13日 (火)

世間が大目に見てくれそうな企業不祥事3選

令和7年改正公益通報者保護法が運用された際、通報妨害行為の禁止とか通報者探索禁止とか、さらには通報者情報の範囲外共有禁止等、通報者保護の徹底に向けた事業者への行動規範がうまく機能するかどうか、真剣に考えてみると、かなりグレーゾーン領域が想定されるように思います。事業者が通報対象事実の調査を熱心に行えば行うほど、こういったグレーゾーンに直面するケースが出てくるのではないでしょうか。

そんなことを考えると、世間には「企業不祥事」と評価できそうな行動でも、もろもろの事情で世間が大目に見てくれそうなものが存在するようにも思えます。もちろん以下で述べるところは主観的な考えなので、「いや、違うだろ!」との意見もあるかもしれませんが・・・

①サイバー攻撃を受けた企業の労基法違反:システムが停止すると「手作業」で再開まで頑張るしかしかたがないのですが、その場合、当該事業者だけでなく協力を要請される取引先も「昭和時代の手作業」で対応するしかないのですが、そうなると法令順守も昭和時代のコンプライアンスに戻りそうです。平時なら明らかな労基法違反であっても、(善い悪いは別として)世間も事業の復旧のためにはやむを得ない・・・といった気分になるのでは?サイバー攻撃を受けた企業は「被害者」という意識が世間にはありますね。

②会計不正事件が発生した企業の社外取締役・社外監査役の責任:もちろん会計不正事件自体は社会的信用を失墜させてしまうわけですが、「ガバナンス不全」とか言われながら、誰も社外役員の責任を問わない(たまに代表訴訟を提起されることはありますが)。企業統治改革の進む時代背景はありますが、世間は昔と同様、社外役員はお客さんというイメージが強く残っているからでしょうか。

③中小株式会社の会社法違反:会社法上の大会社の要件を満たしているのに会計監査人を設置していない、定時株主総会を年1回開催しなければいけないのに開催せずに書類だけ作って法務局に提出している(みなし決議のプロセスも経ていない)、会社法公告もしていない、という実務。全国に250万もの株式会社が存在するわけですから、まあいいか、といった風潮はそのまま放置していてよいのでしょうか。会社法の改正において、誰も罰則規定の改定を言い出さないのはなぜでしょうか。

ほかにも救済色の強いM&Aにおける独禁法違反(企業結合規制違反)や金商法上の開示規制違反、環境関連法の規制違反等にも見受けられるようにも思うのですが、法令違反の疑惑を、疑惑のままに放置していても、それほど世間から文句をいわれない(したがって、行政もコスパの観点から厳しい姿勢で臨まない)不祥事が存在することは現実です。所詮、企業不祥事は社会が作り上げるところがありますので、企業の危機対応を支援する立場としては、ひごろからどのような準備をしておけば、不幸にして不祥事が表面化してもレピュテーションリスクを顕在化させずに済むか、検討しておきたいところです。

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2026年1月 9日 (金)

「失敗しない『人と組織』」著者小池明男氏よりコメントをいただきました。

1月7日のエントリー「中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ」でご紹介した「失敗しない『人と組織』」の著者でいらっしゃる小池明男氏より、同エントリーに対してコメントをいただきました(コメントの内容は同エントリーの末尾をご覧ください。なおメールアドレスは非開示とさせていただいております)。どうもありがとうございます。

本日も、某社にて、組織改革に携わる管理担当の役員の方から改革のご苦労を聞いておりました。以前はほぼ全員が新卒社員で構成されていた社内も、いまは事業部ごとに他社との統合や分社化、出向や転籍といった連携があたりまえとなって、いわゆる「〇〇社の企業風土」の暗黙知が通用しなくなってきている、したがって現場でのひとりひとりとの対話がなければ組織改革は前に進まない、とのことでした。小池さんのコメントについても参考にさせていただきます。

ちなみに7日のエントリーではぼやかしておりましたが、私が「失敗しない『人と組織』」の書評を書かせていただいたのは「産業経理」という格式のある会計専門誌です(たぶん、もうすぐ発売される号)。お読みいただける機会がありましたら、ぜひそちらも一読いただければ幸いです。

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2026年1月 8日 (木)

福井県前知事セクハラ認定報告書から学ぶ「二次被害」と「セカンドセクハラ」

福井県の前知事によるセクハラを認定した調査報告書が公表されています(表紙含め全32頁)。報道等でご承知のとおり、メールやLINEによる前知事のセクハラ発言の内容が衝撃的です。本来、ハラスメント認定は加害者と被害者との時系列的な事実から判断しますが、日時を書くと報告書によって被害者が特定されるおそれがあるため、セクハラ認定のキモとなった証拠(別紙2参照)をズバリ公表する内容です。

ただ、私が多くのビジネスパーソンの皆様にお読みいただきたいのが「被害者の二次被害に関する訴え」(12頁~14頁)と「上司等に相談した際の上司等の反応(21頁あたり、いわゆるセカンドセクハラ)」です。6日の深夜にアップされたこちらの読売新聞ニュースも、私と同様の問題意識で書かれています(「嫌なら断ればよい」「大騒ぎする方がおかしい」との反応…〇〇前知事のセクハラ、福井県の不適切対応も明らかに)。毎日新聞ニュースはズバリ福井県の組織風土を問題視しています(前知事の自覚欠如だけでなく… セクハラ続いた福井県の組織風土とは)加害者による言動の特異性ばかりに目が行くと、これからも被害者が出なければハラスメントがなくならない、いつまでも未然に防止することができない組織になってしまいます。

私も時々(企業の経営幹部による)セクハラ調査を担当しますが、直接の加害者の言動はさることながら、被害者の二次被害への恐怖と相談を受けた人の腰の引けた対応にはいつも悩まされます。おそらくセクハラが「職場環境配慮義務」の問題だとか「ビジネスと人権」の問題ということへの意識が希薄だからではないでしょうか。「セクハラ」と聞くと男性上司から女性部下へ、といったイメージを抱きますが、性的自由の侵害行為は男性→男性、女性→女性も普通にありますので、そのようなセクハラのイメージが湧かないのも、「ビジネスと人権」への意識が薄いからだと思っています。本件の上記調査報告書を一般の方が読む価値は(前知事のえげつないメール文章を読むことよりも)、被害者がどれほど二次被害をおそれるか、相談を受けた上司の責任回避行動によって、どれほど人権侵害の被害を拡大させてしまうかが、よく理解できるところにあります。

セクハラ調査を担当していると、ときには被害を受けた女性側(OR男性側)の証言の信用性に疑問を抱くこともあります(実際のところ、女性の調査委員のほうが先に疑問を抱くことが多い)。中には派閥争いの道具としてハラスメント申告が利用されるようなケースもあり、調査は慎重に行います。ただ、被害者側の二次被害への畏怖や上司への相談、内部通報への依拠、そして会社側の対応への失望等の事実があれば、やはり「少なくともセクハラと疑われてもしかたのない行為」はあったと認定する可能性は高くなります。

パワハラ認定は「適切な指導」との境界線をはっきりさせないといけないので、当事者から恨まれても「パワハラと疑われる行動」は厳密に評価をしますが、セクハラの場合には、そもそもグレーゾーン行動など職場では不必要なので、「疑わしきは懲戒対象(少なくとも企業行動規範違反」)に傾くことが多いと思います(もちろん不同意わいせつ罪やストーカー規制法違反等の犯罪行為とは認定できませんが)。おそらくセクハラ問題の課題は、次のステップとして「通報への対応懈怠」や「相談への対応懈怠」も被害拡大を助長した行動として責任追及の対象となるか、という点だと認識しています。

本件の調査報告書に出てくる「二次被害(及び二次加害)」「相談対応懈怠」は、どこの職場でも普通にあると考えています。また、福井県民の方々のインタビュー証言等からも「あるある」なのですが、知事としての仕事は立派であったとしても(or経営者としての能力は高いとしても)、セクハラ・パワハラの常習性は両立します。「あんなに女性活躍推進に熱心だったのに、あれほどコロナ対策で頑張っていたのに、そんな立派な方がセクハラ?」は間違いです。そことは別次元の問題です。だからこそ、ぜひ教訓として当該部分だけでもお読みいただく価値はあると思います。

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2026年1月 7日 (水)

中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ

昨日のエントリー冒頭でコメントした中部電力審査不正事件(ただし、客観的な証拠が判明していないので正確には「不正疑惑」だそうです)でありますが、本日(6日)も様々な報道記事が出ておりました。CBCテレビのニュースでは、原子力規制庁の担当者は「『基準地震動』は耐震を確保する上で、最も重要な審査項目。不正行為が行われたのは遺憾」とのコメントが紹介されており、不正の重大性が指摘されています。

本事案については、誰もが「中部電力の担当者だけの問題ではなく、同社の組織風土の問題だ」と想像するのではないでしょうか。これだけ内部告発があたりまえの時代となり、内部不正が明るみになる可能性が高いにもかかわらず、不正が長年放置されていたとなると、なぜ自浄作用が発揮できなかったのかと不思議に思われます。地域の安全を顧みない「極悪人」など絶対に存在しない組織でしょうから、どのような「認知的不協和」が存在して「集団心理」に発展していったのか、とても気になります。

Img_20260106_205557そこで本日ご紹介する書籍は2025年3月に刊行された「失敗しない『人と組織-本質的に生まれ変わるための実践的方法』」(小池明男著 BOW BOOKS)です。私も某会計雑誌に書評を掲載していただきましたが、組織風土を変えることがどれほどむずかしいのかが、理解できる一冊です。アマゾンの紹介文からの引用になりますが、

本書は、安全文化のほころびから大事故を招いた企業(東京電力)の再建過程で、社員として一人ひとりの仲間に直接、対話を通じて働きかけ、二度と事故を起こさぬよう、10年以上にわたり、組織文化の変革に取り組んできた著者による、理論と実践の書である。経営陣、経営企画はもちろん、現場の中間管理職の方々まで、社員一人一人が自主的主体的に組織のパーパスに向かうエクセレントカンパニーを目指すすべての組織人のバイブルとしてお薦めする。  

というもの。福島原発事故では政府、国会、そして民間の事故調査委員会報告書が出ましたが、いずれも東電の組織風土が招いた事故との認識が示されていました。著者である小池明男氏は、東京電力ホールディングスの社員(主に経営企画や営業を担当されていた)として、10年以上にわたり東電の組織風土改革に取り組んでこられました。その理論と実践が(他社の不祥事例なども参考にしながら)綴られています。私は講演等で常々「組織の病理は『知と知の分離(タコツボ化)』『知と情の分離(タテマエとホンネ)』そして『知と行の分離』に起因する」と申し上げておりますが、小池氏は「知行合一」の大切さを語っておられます。圧巻は「組織文化の三層モデル」(MITのシャイン教授が提唱したもの)を活用している点であり、本書のキモとなっています。

組織風土改革にはどのような取組みが必要か、という点はぜひお読みいただきたいのですが、なんといっても「長年そこで働いてきた人でなければ、行動や意識を変えることはむずかしい」といった印象を持ちました。外部のアドバイザーとして、有効な手法を知りたいと思って本書を読み始めたのですが、暗黙知や無意識に浸透している思想のようなものにまで触れなければ組織風土は変わらないのではないかと。とりわけ社員ひとりひとりとのエンゲージメントや、上司によるコーチングの大切さが示されているので、そこでは同じ社員としての「空気」があるからこそ変革へのインセンティブが働くように思います。外部アドバイザーとしては、すぐに「経済性と安全性の二項対立」から物事を組み立ててしまいたくなりますが、そういった発想自体が社員から共感を得られないのかもしれません。そんなところも、やはり社員であるがゆえに、共感できる問題提起ができるのだろうと納得しておりました。

そういえば(私がガバナンスレビュー委員会の委員長を1年間務めた)三菱電機の組織改革も、品質不正事件発覚後に誕生した「チームそうせい」の活動が大きな影響を与えたように思います(たとえば日経ビジネス誌の漆間社長のインタビュー記事)。

今後、第三者委員会の報告書が提出された後、中部電力の組織改革が本格的に模索されることになると思いますが、小池さんのような人がいなければ、現実にはなかなか組織風土改革まではできないのではないかと。ぜひ、多くの企業の皆様にもおすすめしたい一冊です。

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2026年1月 6日 (火)

なぜ日本企業には「適切なリスクテイク」が根付かないのか?(6日追記あり)

年始早々、中部電力の審査不正については驚きました。7年以上も不正なデータを提出し続けていた、というのですから、「これはまずい」と指摘していた社員の方も複数いたはずです。にもかかわらず、なぜ安全性に関わる不正なデータを提出していたのか、なぜ原子力部門がそこまで追い詰められていたのか、ほかにも安全性に関わる不正行為があるのではないか。日経Thinkでも少しコメントしましたが、第三者委員会の徹底した調査と、その後の中部電力のガバナンス再構築がなければ浜岡原発の再稼働はとうてい無理だと思います(こちらの産経ニュースによると、原子力規制庁幹部も「これはありえない」と憤っておられるとのこと)。

まるで昨年のいわき信用組合の不正事案のような問題ですが、ちなみにこちらの朝日新聞ニュースによると、2025年2月、原子力規制委員会に審査不正に関する情報提供があった、とのことなので、やはり内部告発(公益通報)によって発覚した、ということなのでしょうね。自浄作用が発揮されずにバレてしまった、というのも最悪です(以下本題です)。

(追記)原子力規制委員会には、外部からの情報提供を促す公益通報窓口が設置されており、原子力事業者の従業員及び当該事業者の元で委託された業務を担当している事業者の従業員が通報できるそうです。つまり、不正行為があれば、徹底した通報者保護体制のもとで、いつでも監督官庁に誰かから告発ができることになっています。将来的に不正が発覚することが明らかなのに、なぜ長年不正が継続していたのか、ぜひ究明していただきたい。ちなみに原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)は公益通報者保護法の「対象法令」に含まれています。

※※※※※

さて、現行のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の責務として計4回「適切なリスクテイク」なる言葉が出てきます。コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。企業統治改革が、果たして日本企業に浸透しているのかどうか、このあたりは今後も議論されることが多くなるように思います。

しかし、これだけ社外取締役の数が増えても、適切なリスクテイク(健全なリスクテイク)の実効性を示す事例があまり紹介されません。これまで何度かカリスマ経営者が存在する企業の有事対応に関わった経験から、その要因を私なりに述べたいと思います。

「適切なリスクテイク」というのは、攻めのガバナンスの視点からは「損失の危険を覚悟のうえで、戦略を前に進めること(およびこれを後押しすること)」、守りのガバナンスの視点からは「勇気をもって不採算事業から撤退すること」「経営トップの不正疑惑を徹底的に解明すること」を決断する意思決定(または行動)だと認識しております。しかしながら、有事に私が専門家としての意見を述べた時、経営幹部の皆様には二通りの反応がみられます。それは「割り切り」と「腹決め」です。

「割り切り」とは、自分の地位や利益を最優先に考えて、迷った選択肢の判断にあたり、自分に責任が及ばないように専門家を活用しながら消極的に意思決定をする、というものです。「弁護士による意見に従ったのだから」ということで、悪い結論に至った際には逃げられるように法律意見を活用します。有事における経営判断について誰が責任を負うのか、明確になっていない組織では、経営判断が「割り切り」となる傾向があります。弁護士も商売ですから、そのあたりの経営陣からの問いかけのニュアンスを察知して、耳心地のよい意見を出すこともあるでしょう。

一方、「腹決め」とは、判断することについての責任が自分にあることを自覚して、たとえ専門家から反対意見が出されても、最終的にはそれとは逆の判断でも自身の責任で行う積極的な意思決定です。最善の手を尽くすために、私の意見に熱心に耳を傾けてくれますが、最終的には責任主体である自分の判断で決する(私から見れば、残念ながら意見を尊重してもらえない)。結果として悪い方向に行ってしまった場合には、自分が経営責任をとる覚悟があります。また責任をとる覚悟で決断しているので、撤退するときの判断も積極果断な意思決定がなされます。

有事ですから、迅速な意思決定が求められる場面であり、「割り切り」も「腹決め」もどちらも素早い決断となりますが、「割り切り」で(失敗の責任を上手に回避して)済ませようといった役員さんが多い組織では、ガバナンス・コードが示す「適切なリスクテイク」は、いつまでたっても実現しないのではないでしょうか。取締役会の実効性評価がさかんに行われるようになりましたが、この「割り切り」で済ます組織か、何事も責任を意識した「腹決め」で対処する組織か、そのあたりの企業風土の違いを評価してほしいです。

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2026年1月 3日 (土)

「AI弁護士山口利昭」が語る今年の抱負(BANIの時代の企業法務)

2026 (新年のごあいさつ)新年あけましておめでとうございます。本年も当ブログをご訪問いただき、心より御礼申し上げます。

昨年は、企業不祥事の報道が相次ぎ、「今年こそは落ち着いた一年に…」という私の願いを、世の中があえて試しているかのような展開が続きました。(なお、毎年同じ願いを述べている気がしますが、これは“内部統制のPDCAが回っていない”というより、単に私の学習能力の問題かもしれません。)

さて、今年はガバナンス改革や人的資本開示など、企業法務の実務家にとって“正月ボケ”を許さないテーマが山積しております。ただ、こうした複雑な制度変更も、結局のところ「組織はどうすれば誤った方向に行かないのか」という永遠の問いに向き合う作業にほかなりません。

本年も、判例・立法動向の分析に加え、組織心理や不祥事の背景に潜む“人間くささ”にも目を向けつつ、皆さまと一緒に考えていければと思います。ときには肩の力を抜きつつ、しかし実務にはしっかり役立つ内容をお届けできるよう努めてまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

・・・・・・・

以上の「ごあいさつ」は、「弁護士山口利昭のブログ『ビジネス法務の部屋』の論調で、少しユーモアを交えて新年のあいさつ文を考えてください」との質問にAI弁護士山口利昭が答えたものです。自然と「自虐ネタ」も含まれていますが、なんの修正も加えておりません。ブログが「広報活動」のためにあるのなら、上の文章でも十分かもしれません。

しかし、自分の成長のための思考整理や利他行為(世の中に役立つ情報を無償で提供すること)が目的であれば、何の意味もない文章だと思います。2005年以来の3700以上のブログ記事をベースに「ブロガー弁護士山口利昭」を生成することは、もはや誰にでもできる時代となりました。恐ろしい時代になりましたが、このブログを維持することは、私のアイデンティティをどのように伝えていくべきか、そこを考えなければもはや意味がない。

年末の紅白歌合戦の審査員を務めた文芸評論家・三宅香帆さんのご著書はすべて読んでいますが、彼女の視点で紹介された新刊書はどれも読みたくなります。あの「視点」こそ、絶対にAIではマネできないアイデンティティであり、本当に勉強になります。企業法務を語るにも、あのような「リベラルアーツを土台とした視点」が必要だなぁと痛感します。・・・ここまで書いていて、上記AI山口利昭が書いていることと変わらないようにも思えてきましたが(^▽^;)。

社会はVUCAの時代から、すでにBANI(Brittle、Anxious、Non-linear、Incomprehensible)の時代へと移りつつあります。今年は自分への投資として生成AIや自律的に意思決定を行うAIをできるだけ活用すること(専門家の方々との業務連携とスキルの習得)と、エージェントAIが企業統治にもたらす構造変化を見すえることで、BANIの時代の企業法務、とりわけコンプライアンス経営がどのように企業価値最大化に貢献できるか、あるいは損失を与えうるかという点を(実務体験を通じて)深堀りしてまいります。ブログでは、AIが思いつかないようなことを書いていきたいので、また閲覧していただけますと嬉しいです。

ということで、本年もよろしくお願いいたします。

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