(続)さらなる「会計監査の厳格化」を予見させるイーエムネット社の会計不正事案
1月20日の日経電子版「ニデック不適切会計の疑い・識者に聞く①-ニデック問題、監査の質も検証必要」の中で、元金融庁統括審議官の佐々木清隆氏は、
社外取締役・監査等委員らの役割が機能していたか、監査法人による監査の質に問題がなかったか検証する必要がある。企業監査で重要なのは内部統制のチェックだ。PwCがリスクをこれまでどのように評価してきたのか、自主規制団体である日本公認会計士協会、金融庁の公認会計士・監査審査会の動きにも注目している
監査は企業価値の向上につながると、経営者や投資家に前向きに捉えてもらう必要がある。監査法人もルールへの準拠性をチェックする仕事だけでは、すぐに人工知能(AI)に取って代わられる。企業が成長する上で、経営者がまだ気が付いていないリスクを提示するなど、付加価値の重要性が高まっている
と述べておられます。ビジネスには常にリスクがつきものなので、監査の「付加価値」は、たとえば監査役員が経営判断プロセスに関わることだと思います。経営判断に後から(経営陣に忖度して都合よく)お墨付きを与えるのではなく、経営陣のリスクテイクをサポートするために必要な知見を適宜提供することではないでしょうか。上場企業には、会計監査にも、また監査役監査(監査等委員会監査)にも、「無限定適正意見(適法意見)」があたりまえにもらえる、という慣行があります。この慣行を意識として少し変えていかないと、そもそも監査の「付加価値」は見えてこないのではないかと。
さて、ニデック問題のように世間で騒がれているわけではありませんが、先週ブログでご紹介したイーエムネット・ジャパン社の会計不正事件について、19日に第三者委員会のメンバーが公表されました。予想どおり日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置するとのこと。委員の中にはよく存じ上げている方がいらっしゃるので、やはりブログで書きにくくなりました(笑)。ということで、以下は、あくまでも野次馬の主観的意見です。
なぜ、本件は金融庁にとっても、東証にとっても、さらには日本公認会計士協会にとっても大きなショックなのか
昨年、オルツ、ニデックと、高市内閣が推進する日本成長戦略に冷や水を浴びせる事案が続きました。いわき信用組合の小口融資による監査逃れも話題になりました。不正予防や早期発見に向けて、外部からの会計監査には限界があるとすれば、つぎは企業のガバナンスに期待することになります。不正リスクを外部監査人が認知・評価できるような社内の体制整備、もしくは会計的知見を有する組織内会計士や社外役員を増やして、会社と会計監査人との「橋渡し」を行う、もしくは社内でゲートキーパーとして不正を予防するガバナンスの取組みですね。
こういった取組みを進めていこうとしていた矢先でのイーエムネット社の(会計士資格を有する)元常務取締役(CFO)による不正・粉飾疑惑の発覚となりました。つまり、いまから施策を実施しようとしていた中で、その実効性に疑問符が付いてしまいそうな事件が発覚したのです。そこで、今後イーエムネット社の第三者委員会が認定する事実や原因分析は、そのような施策の有効性を減殺しかねない事態を招来してしまうのか、それともイーエムネット社の事例はきわめて個社固有の例外的状況で発生したのであり、組織内会計士や会計士の社外役員が増えることで、オルツやニデックのような会計不正が防止できるとされるのか。この見極めにおいて、第三者委員会の役割はとても重要だと思います。
オルツの告発をした元経営企画部長さんも組織内会計士だったわけでして、告発をしたことについてはとても評価される立場にあるわけですが、上記のようなガバナンス構築の方向性からみて、そもそも事前に防止できなかったのか、疑惑を解明するにあたって意見が通らなかったから辞任しました、ということでよかったのか、いろいろと議論もされるのかもしれません。
上記佐々木清隆氏のインタビューで佐々木氏もお話しているとおり「会計不正は経営者が指示しなくても起きる」わけですから、経営者は会計監査人が不正を発見できるようなガバナンスを構築したうえで、コーポレートガバナンス・コード補充原則3-2-②(ⅳ)で遵守要請されているように会計監査人がリスクを指摘した場合に、これにどう会社側が対応すべきかその体制整備が不可欠だと思います。2015年の不正リスク監査基準(監査における不正リスク対応基準)が策定された時から私は会計監査人の監査の厳格性は被監査企業のガバナンス向上とセットで考えるべき、と申し上げておりましたが、日本成長戦略の時流に乗り、いよいよ本格的に検討されるべき時期ではないかと思っております。
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コメント
山口先生
いつもブログを拝見し、実務の参考にさせていただいております。
オルツの元経営企画部長の塩川です。
先生の鋭い洞察にはいつも学ばせていただいており、時折こうして話題に挙げてくださることを大変光栄に存じます。
今回の記事でのご指摘も、身に染みる思いで拝読いたしました。
おっしゃる通り、「事前に防止できる手は他になかったのか」という問いは、今でも私自身の中で自問自答し続けている大きな課題です。
当時の葛藤と反省があるからこそ、現在は「個人の勇気」に依存するのではなく、
テクノロジーを用いた「仕組み」によって不正を未然に防ぎ、健全な組織運営を支援できるようなサービスの提供に尽力しております。
これからも先生の発信を楽しみにしております。
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
投稿: 塩川晃平 | 2026年1月21日 (水) 09時40分
塩川さん、コメントありがとうございます。最近、組織内会計士への注目度が上がっていて、組織内会計士向けの倫理規則も厳格化される方向性のように聞いております。おそらくオルツの事件が影響しているのではないかと思われて、会計士業界の今後の対応に注目しています。
不正会計リスクへの対応として、私もテクノロジーの活用は必須だと考えます。あとは、リスクマネジメントの重要性をどのように社長さんに納得してもらえるか、私は目下そこに注力しています。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2026年1月22日 (木) 00時16分