« 「AI弁護士山口利昭」が語る今年の抱負(BANIの時代の企業法務) | トップページ | 中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ »

2026年1月 6日 (火)

なぜ日本企業には「適切なリスクテイク」が根付かないのか?(6日追記あり)

年始早々、中部電力の審査不正については驚きました。7年以上も不正なデータを提出し続けていた、というのですから、「これはまずい」と指摘していた社員の方も複数いたはずです。にもかかわらず、なぜ安全性に関わる不正なデータを提出していたのか、なぜ原子力部門がそこまで追い詰められていたのか、ほかにも安全性に関わる不正行為があるのではないか。日経Thinkでも少しコメントしましたが、第三者委員会の徹底した調査と、その後の中部電力のガバナンス再構築がなければ浜岡原発の再稼働はとうてい無理だと思います(こちらの産経ニュースによると、原子力規制庁幹部も「これはありえない」と憤っておられるとのこと)。

まるで昨年のいわき信用組合の不正事案のような問題ですが、ちなみにこちらの朝日新聞ニュースによると、2025年2月、原子力規制委員会に審査不正に関する情報提供があった、とのことなので、やはり内部告発(公益通報)によって発覚した、ということなのでしょうね。自浄作用が発揮されずにバレてしまった、というのも最悪です(以下本題です)。

(追記)原子力規制委員会には、外部からの情報提供を促す公益通報窓口が設置されており、原子力事業者の従業員及び当該事業者の元で委託された業務を担当している事業者の従業員が通報できるそうです。つまり、不正行為があれば、徹底した通報者保護体制のもとで、いつでも監督官庁に誰かから告発ができることになっています。将来的に不正が発覚することが明らかなのに、なぜ長年不正が継続していたのか、ぜひ究明していただきたい。ちなみに原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)は公益通報者保護法の「対象法令」に含まれています。

※※※※※

さて、現行のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の責務として計4回「適切なリスクテイク」なる言葉が出てきます。コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。企業統治改革が、果たして日本企業に浸透しているのかどうか、このあたりは今後も議論されることが多くなるように思います。

しかし、これだけ社外取締役の数が増えても、適切なリスクテイク(健全なリスクテイク)の実効性を示す事例があまり紹介されません。これまで何度かカリスマ経営者が存在する企業の有事対応に関わった経験から、その要因を私なりに述べたいと思います。

「適切なリスクテイク」というのは、攻めのガバナンスの視点からは「損失の危険を覚悟のうえで、戦略を前に進めること(およびこれを後押しすること)」、守りのガバナンスの視点からは「勇気をもって不採算事業から撤退すること」「経営トップの不正疑惑を徹底的に解明すること」を決断する意思決定(または行動)だと認識しております。しかしながら、有事に私が専門家としての意見を述べた時、経営幹部の皆様には二通りの反応がみられます。それは「割り切り」と「腹決め」です。

「割り切り」とは、自分の地位や利益を最優先に考えて、迷った選択肢の判断にあたり、自分に責任が及ばないように専門家を活用しながら消極的に意思決定をする、というものです。「弁護士による意見に従ったのだから」ということで、悪い結論に至った際には逃げられるように法律意見を活用します。有事における経営判断について誰が責任を負うのか、明確になっていない組織では、経営判断が「割り切り」となる傾向があります。弁護士も商売ですから、そのあたりの経営陣からの問いかけのニュアンスを察知して、耳心地のよい意見を出すこともあるでしょう。

一方、「腹決め」とは、判断することについての責任が自分にあることを自覚して、たとえ専門家から反対意見が出されても、最終的にはそれとは逆の判断でも自身の責任で行う積極的な意思決定です。最善の手を尽くすために、私の意見に熱心に耳を傾けてくれますが、最終的には責任主体である自分の判断で決する(私から見れば、残念ながら意見を尊重してもらえない)。結果として悪い方向に行ってしまった場合には、自分が経営責任をとる覚悟があります。また責任をとる覚悟で決断しているので、撤退するときの判断も積極果断な意思決定がなされます。

有事ですから、迅速な意思決定が求められる場面であり、「割り切り」も「腹決め」もどちらも素早い決断となりますが、「割り切り」で(失敗の責任を上手に回避して)済ませようといった役員さんが多い組織では、ガバナンス・コードが示す「適切なリスクテイク」は、いつまでたっても実現しないのではないでしょうか。取締役会の実効性評価がさかんに行われるようになりましたが、この「割り切り」で済ます組織か、何事も責任を意識した「腹決め」で対処する組織か、そのあたりの企業風土の違いを評価してほしいです。

|

« 「AI弁護士山口利昭」が語る今年の抱負(BANIの時代の企業法務) | トップページ | 中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ »

コメント

山口先生
新年早々の中部電力の不正には驚きました。
電力会社は度々不祥事が出ますが、事実上独占(寡占)企業で競争がないことに原因があるのではと思っています。
巨大な装置産業ですから、当初の計画さえ達成できればおのずと利益もついてきます。
なので、都合の悪いデータがあっても、それを無かったことにするバイアスが働きがちと考えます。
そして、上層部に都合の良いデータを出せる人が、有能と判断され重用されるのかもしれません。

こうした不正は製造業でも繰り返し起きています。
・東洋ゴム工業(当時)の免振ゴム性能偽装
・フォルクスワーゲンの排ガス不正
・日野自動車の排ガス不正
・ダイハツの認証不正
などなど・・・。

製造業や装置産業では、検査に対し不正を働いて対処しようとする力がどうしても働くのだと思います。
そこへの対処としては、三菱電機が不適切な品質検査の改善に向けて打ち出した方針が有効だと考えています。
1.品質風土改革
2.組織風土改革
3.ガバナンス改革

今回の不正発覚の発端は、原子力規制委員会への外部通報とのことですが、おそらく実情をよく知る内部者による公益通報ということなのでしょう。
『公益通報制度が充実』したことで、企業の不正はは露見しやすくなっており、また不正に対する抑止力にもなっていると思います。
そして、品質不正に対する方策は、上記『三菱電機の方針』を参考にすれば良いと思います。
個人的にはこれら2点に関与されている山口先生には、ただただ頭が下がる思いです。

長くなりました。。。

「適切なリスクテイク」は、サラリーマン社長や役員の方々にはなかなか難しい面があるかと考えています。
どうしても、自分の任期中の無事を優先しがちかと(個人の感想です)。

投稿: 艦長 | 2026年1月 6日 (火) 09時59分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「AI弁護士山口利昭」が語る今年の抱負(BANIの時代の企業法務) | トップページ | 中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ »