中部電力審査不正事案に思う「組織風土改革」のむずかしさ
昨日のエントリー冒頭でコメントした中部電力審査不正事件(ただし、客観的な証拠が判明していないので正確には「不正疑惑」だそうです)でありますが、本日(6日)も様々な報道記事が出ておりました。CBCテレビのニュースでは、原子力規制庁の担当者は「『基準地震動』は耐震を確保する上で、最も重要な審査項目。不正行為が行われたのは遺憾」とのコメントが紹介されており、不正の重大性が指摘されています。
本事案については、誰もが「中部電力の担当者だけの問題ではなく、同社の組織風土の問題だ」と想像するのではないでしょうか。これだけ内部告発があたりまえの時代となり、内部不正が明るみになる可能性が高いにもかかわらず、不正が長年放置されていたとなると、なぜ自浄作用が発揮できなかったのかと不思議に思われます。地域の安全を顧みない「極悪人」など絶対に存在しない組織でしょうから、どのような「認知的不協和」が存在して「集団心理」に発展していったのか、とても気になります。
そこで本日ご紹介する書籍は2025年3月に刊行された「失敗しない『人と組織-本質的に生まれ変わるための実践的方法』」(小池明男著 BOW BOOKS)です。私も某会計雑誌に書評を掲載していただきましたが、組織風土を変えることがどれほどむずかしいのかが、理解できる一冊です。アマゾンの紹介文からの引用になりますが、
本書は、安全文化のほころびから大事故を招いた企業(東京電力)の再建過程で、社員として一人ひとりの仲間に直接、対話を通じて働きかけ、二度と事故を起こさぬよう、10年以上にわたり、組織文化の変革に取り組んできた著者による、理論と実践の書である。経営陣、経営企画はもちろん、現場の中間管理職の方々まで、社員一人一人が自主的主体的に組織のパーパスに向かうエクセレントカンパニーを目指すすべての組織人のバイブルとしてお薦めする。
というもの。福島原発事故では政府、国会、そして民間の事故調査委員会報告書が出ましたが、いずれも東電の組織風土が招いた事故との認識が示されていました。著者である小池明男氏は、東京電力ホールディングスの社員(主に経営企画や営業を担当されていた)として、10年以上にわたり東電の組織風土改革に取り組んでこられました。その理論と実践が(他社の不祥事例なども参考にしながら)綴られています。私は講演等で常々「組織の病理は『知と知の分離(タコツボ化)』『知と情の分離(タテマエとホンネ)』そして『知と行の分離』に起因する」と申し上げておりますが、小池氏は「知行合一」の大切さを語っておられます。圧巻は「組織文化の三層モデル」(MITのシャイン教授が提唱したもの)を活用している点であり、本書のキモとなっています。
組織風土改革にはどのような取組みが必要か、という点はぜひお読みいただきたいのですが、なんといっても「長年そこで働いてきた人でなければ、行動や意識を変えることはむずかしい」といった印象を持ちました。外部のアドバイザーとして、有効な手法を知りたいと思って本書を読み始めたのですが、暗黙知や無意識に浸透している思想のようなものにまで触れなければ組織風土は変わらないのではないかと。とりわけ社員ひとりひとりとのエンゲージメントや、上司によるコーチングの大切さが示されているので、そこでは同じ社員としての「空気」があるからこそ変革へのインセンティブが働くように思います。外部アドバイザーとしては、すぐに「経済性と安全性の二項対立」から物事を組み立ててしまいたくなりますが、そういった発想自体が社員から共感を得られないのかもしれません。そんなところも、やはり社員であるがゆえに、共感できる問題提起ができるのだろうと納得しておりました。
そういえば(私がガバナンスレビュー委員会の委員長を1年間務めた)三菱電機の組織改革も、品質不正事件発覚後に誕生した「チームそうせい」の活動が大きな影響を与えたように思います(たとえば日経ビジネス誌の漆間社長のインタビュー記事)。
今後、第三者委員会の報告書が提出された後、中部電力の組織改革が本格的に模索されることになると思いますが、小池さんのような人がいなければ、現実にはなかなか組織風土改革まではできないのではないかと。ぜひ、多くの企業の皆様にもおすすめしたい一冊です。
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コメント
山口 利昭先生
はじめてご連絡を差し上げます。『失敗しない「人と組織」』著者の小池です。このたびは拙著を精読の上、本欄でご紹介いただき、誠に有難うございます。
私は、さまざまな「組織事故」の根本原因追究の末、逸脱を正当化・日常化した「組織文化」のメカニズムが、事故・不祥事の共通背景であることに「気づき」ました。
一人ひとりの意識・行動の集合体である組織文化変革とは、一人ひとりの意識・行動変容であり、そのためにいかなる手法が効果的か、東電社員の一人ひとりと対話した結果を拙著に記しました。
「当たり前のこと」があたりまえに行われる、人としての基本の徹底、という素朴な原点を見つめ直す、との結論に大いに驚きましたが、別の出発点から同様の結論に至られた山口先生の論考に大いに勇を得ました。
私も前に出ようと思います。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
(追伸) 私宛に、本コラムへの賛同の意見を沢山頂戴しています。
投稿: 小池明男 | 2026年1月 8日 (木) 23時31分