2017年5月31日 (水)

改正個人情報保護法の施行と内部通報制度実務への影響

本日(5月30日)は、大阪OMMビル会議室にて、消費者庁主催「内部通報制度に関する民間事業者向けガイドライン説明会」が開催されまして、「企業経営における内部通報制度の重要性」なる講演をさせていただきました(消費者庁担当官の方の講演の前座です)。東京の追加説明会と同様、大阪も満席(というよりも予定満員数をかなり超えていました)という盛況ぶりでして、ご来場いただきました方に厚くお礼申し上げます。なお、質問の時間がとれず、終了後に個別のご質問をお受けしただけでとなり、失礼いたしました。

ところで、本日は改正個人情報保護法の施行日です。公益通報者保護法と個人情報保護法との関係、内部通報制度と個人情報保護法との関係を若干知っていただきたく、3つほどの事例を「頭出し」程度に紹介させていただきました。内部通報制度の支援や内部告発人の支援をしておりますと、「これって個人情報保護法が改正されたらどうなるのだろうか?」と疑問に感じることがたくさん出てきます。説明会でも述べましたが、公益通報者保護法の解釈、内部通報制度の適正な実務運用には労働法的視点、行政法的視点、消費者法的視点そして会社法的視点が交錯しているので、実務に落とし込むには工夫が必要ですね。

たとえば、①「個人情報」「個人データ」「保有個人データ」と内部通報事実、公益通報事実の取扱い、②グループ内部通報制度を採用する親子会社間における通報事実の通知と「第三者提供」「共同使用」の概念、③外部窓口業務と「従業者・委託先への管理・監督」、④従業員による服務規程に違反した情報提供行為と「データの不正取得」、⑤通報対象者による保有個人データ開示請求とその対応などなど、内部通報実務に及ぼす改正個人情報保護法の影響はかなり大きいと思います(内部通報制度に関する民間事業者ガイドラインも、改正個人情報保護法も、中小規模会社の事業にも適用されます※)。本日は時間の関係で詳細な解説はできませんでしたが、内部通報制度の運用上の留意点として、きちんと整理をしておいたほうがよろしいかと思います。私自身もまだ試案程度しか持ち合わせておりませんので、同業者の方と意見交換をさせていただく予定です。

※・・・ただし、改正個人情報保護法では、「安全管理措置」について「中小規模事業者」について通則指針による軽減措置あり。

本日の私の講演レジメ及び講演録は、また後日消費者庁HPに掲載されますのでご参考いただければ幸いです。さて、ガイドライン説明会が終わりますと、今年の後半以降は公益通報者保護法改正に向けての「第2ラウンド」ですね。審議は消費者庁から内閣府(消費者委員会)に移り、いよいよ経済団体や消費者団体、中小企業代表等の方々との意見交換も始まるものと予想します。個人情報保護法が改正されたような「風」が吹くとは思っておりませんが(そんなに甘くないことは承知しておりますが)、企業コンプライアンスの実現に向けた施策が前進することを祈るばかりです。

5月 31, 2017 内部通報制度 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2017年5月 2日 (火)

不正を発見した従業員の内部通報義務について(過去の判例)

先日は「もうひとつのエフオーアイ事件判決」として、民法719条2項(共同不法行為のほう助)に該当する事案をご紹介しましたが、こちらはもうひとつの共同不法行為のほう助を認めた事案です。

安西愈先生の労働法に関するご著書を拝読していて知ったのですが、過去に不正を発見した従業員について信義則上の内部通報義務を認めた判例があるのですね(恥ずかしながら存じ上げませんでした)。ネット情報からのコピーですが、以下のような概要です。

コンビニにおける同僚の商品盗取に対する従業員らの損害賠償責任--さえき事件・福岡地裁小倉支部判決の研究(福岡地裁小倉支部 平成10.9.11)

自らの店の商品を盗取するなどの不正行為をしないことはもとより、他の従業員による不正行為を発見した時は、雇用主にこれを申告して被害の回復に努めるべき義務をも負担するものと解するのが相当である。←コンビニにおける友人の不正取得を黙認していた従業員が会社から訴えられた事案です。

そして、従業員自らが商品を盗取するなどの不正行為をした場合にはこれが不法行為を構成することは明らかであるが、更に、他の従業員による不正行為を発見しながらこれを雇用主に申告しないで被害の発生を放置した場合には、その不作為が前記内容の誠実義務に違反する債務不履行を構成するのみならず、その不作為によって他の従業員による不法行為(不正行為)を容易にしたものとして、不法行為に対する幇助が成立するというべきである。

労働契約法も公益通報者保護法も存在しなかった頃の判例ですが、信義則上の内部通報義務が、公益通報者保護法に基づく第三者への情報提供(内部告発)まで制限するような労働契約の存在まで肯定するものではないとも思いますが、少し気になる判決です。

そこで、本日、労働法律旬報1483号(2000年7月10日号)17頁以下を取り寄せて、浅野高広氏(北大大学院:当時)のご論稿を拝読いたしました。⑴どのようなことがあれば抽象的な通報義務が、「不作為の違法性」を認める根拠となる具体的な通報義務に変わるか、⑵通報対象事実を具体的に特定できない程度にしか不正事実を知らない場合でも通報義務がなぜ認められるのか、という点がかなり理解できました。

いままでは、「内部告発は企業にとって不利ですよ、だから内部通報制度をしっかり作りましょう」といった説明をしていましたが、これだけでなく「これだけ会社がしっかり内部通報制度を作っているのだから、あなたは内部通報をしないと不法行為責任を問われますよ、だから内部通報しましょう」といった説明もありうると思いますね(注・・・ただし上記判決も信義則上の義務としていますので、あくまでも事案によりますが・・・)。

消費者庁の公益通報者保護制度の実効性向上検討会では、法改正に向けた議論が進みましたが、(某委員の方から主張されたとおり)、実は通報後の調査との関係は、あまりつっこんだ意見交換がされませんでした。ただ、雇用契約上のいろんな論点を検討していますと、通報者や通報対象者と「調査協力義務」との関係でも、内部通報制度を構築するにあたって留意すべき論点が存在することに気がつきます。今後またいくつかご紹介したいと思います。

 

5月 2, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年4月14日 (金)

内部通報社員による内部告発の脅威-バイエル薬品カルテ無断閲覧事件

ここ数日、関心をもって事件報道の動きをみていたのがバイエル薬品さんのカルテ無断閲覧事件です。「これって、バイエルの社員が内部通報した後に厚労省に内部告発をしたのではないか?」と予想しておりましたところ、本日(4月13日)のTBSニュースで経緯が明らかになりました(TBSニュースはこちら。なお、早期に抹消される可能性があります)。やはり予想どおり、2年ほど前にバイエル社内に通報したところ、対応が不十分だったことで昨年7月に内部告発に至ったそうです。対応が不十分どころか公益通報したことが原因で退職勧奨を受けた、とのこと。

バイエル薬品さんは何度かお招きいただき、コンプライアンス意識の平均値が高い会社と認識しておりますので、今回は少しショックです。告発をした社員の方は、カルテの無断閲覧を実行した3名のうちのおひとりで「こんなことをやって利益を上げててよいのか?」と疑問を抱き、内部通報・内部告発をされたそうです。退職勧奨自体は違法とはいえませんが、その勧奨が社会的相当性を欠いた手法による場合には違法となります(判例の立場)。もし公益通報(個人情報保護法違反の事実)が原因で退職勧奨に至ったということであれば、(たとえご本人が不正に関与していたとしても)かなり会社側の態様には問題があると思います。

ところで私が一番気になりますのは、バイエル薬品さんの不祥事は、この「現場社員によるカルテ無断閲覧」だけでなく、実は組織ぐるみで行われたことへの疑惑と、この不正の背後にあるもうひとつの不正疑惑の真偽です(自社に有利な論文の原稿を用意して、ほぼそのまま医師の名義を借りて論文を完成し、自社薬品のプロモーションに使ったという疑惑です)。すでにTBSさんが詳しく報じているところです。

私はここで、あえて重大な不正の真偽については触れません。ただ、内部通報への対応がまずかったり、たとえそれ自体は重大な不正とはいえなくても、自浄作用を発揮する以前に内部告発によって不正が発覚するような事態になると、いわゆる「疑惑」と呼ばれるものが社会的には「疑惑」を通り越して、不正事実として認知されてしまうというおそろしさです。いま、TBSさんを中心に、バイエル薬品さんの重大な不正への疑惑(カルテ閲覧指示が組織ぐるみだった、閲覧した患者情報をもとに医師の名前を借りて論文を作成した)がさかんに報じられていますが、これらの不正を打ち消す(虚偽報道であることを証明する)ことに多大な労力が必要になります。

これは私がこのブログで何度もご紹介している京都の米卸会社の産地偽装米騒動でも明らかです。2月に週刊ダイヤモンド誌で「中国産の米を南魚沼産として販売しているトンデモ卸業者」と指摘され、その後徹底調査によってこの報道が虚偽だと反論していますが、いまだにその事業者は100社以上の取引先から販売停止を受け、また当該事業者の名前をグーグル検索しますと、最初に「偽装」と出てくるような風評に見舞われています。このたびのバイエル薬品の疑惑も、その真相は明らかではありませんが、前提のところでコンプライアンス違反の事実が明らかになると、その後の反論は苦しくなると思います(少なくとも第三者委員会報告書の立ち上げは必要ではないかと)。

内部告発をしたバイエル薬品の現役社員の方は、最初はコンプライアンス室へ内部通報をしています。つまり、私利私欲ではなく、会社への恨みでもなく、会社のコンプライアンス経営への姿勢を正すために通報をされたようです。この時点でなぜ会社側は通報事実に真摯に向き合わなかったのか。そこで向き合えば(良い悪いは別として)厚労省への告発には至らなかったはずです。また、これも良い悪いは別として、そこで通報への適切な対応があれば、もっと重大な疑惑についても騒がれずに済んだかもしれません。精神論ではなく、現実論になりますが、内部通報制度をきちんと運用することが会社のリスク管理として重要であることの理由は、そのあたりではないかと思います。

 

4月 14, 2017 内部通報制度 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年1月24日 (火)

もうひとつのガバナンス改革-内部通報制度への関心高まる

本日(1月23日)の日経法務面では少数株主によるガバナンスが取り上げられていましたが、こちらは従業員ガバナンスの話題です。先日、オリンパスの濱田正晴さんと意見交換(雑談?)する機会がありまして、「ブログで書いてもいいよ」とおっしゃっていたので、少しだけ紹介いたします。濱田さんといえば、オリンパス配転命令無効等請求事件の原告として有名な方で、東京高裁逆転判決で配転命令は無効、といった勝訴判決を受けた方です。その後も会社側の処遇に不満を持ち、二度目の訴訟を提起していました。最終的には会社側と和解をされ、現在は同社の「人事本部 教育統括部チームリーダー」として活躍をされています。

オリンパス社にはもうひとり「深町正さん」(仮名)という、あの会計不正事件の内部告発をされた方がいらっしゃいますが、濱田さんは内部告発ではなく「内部通報」をされた方ですね。深町さんは、「濱田さんがこんな目にあっているということは、私も内部通報だとあぶない、つぶされてしまう・・・」と感じて内部告発(第三者への情報提供)に踏み切ったわけです。濱田さんは、私が消費者庁の公益通報アドバイザーに就任していた際にも、ヒアリングをさせていただいた経験があります。

その濱田さんとの意見貢献の中で、とても興味深かったのが「私がなぜこうやって笹さん(社長)と握手をして和解して、オリンパス社で人事に携わるような地位にいるかわかりますか?」とのお話でした。

「僕はね、裁判をしているときも、会社から嫌がらせをされていたときも、これは『会社vs労働者』といった構図で闘っているという意識は全くなかったんですよ。いつも『社長と同じ方向を向いて一緒に会社の経営を考えている』という意識を持ち続けていたんです。だからこそ、こうやって人事政策に関わるようになったんです。公益通報制度って、どうも昔から『会社vs労働者』の図式で考えようとしてるでしょ?だから機能しないんですよ。」

とのこと。なるほど、公益通報者保護制度も、従業員主権によるガバナンスの一環として考えるという発想が必要なのかもしれません。「働き方改革」が進み、考え方の多様性が企業に求められる中で、意見の対立を収束させるものは単なる「部署内の慣行」ではなく企業理念です。最近、内部通報制度が部署ぐるみの集団通報という形で行われることが増えたり、また内部通報者や内部告発者の後ろに多数の支援者がいらっしゃるケースが増えているということも、なんとなく納得します。

マスコミでも公益通報者保護法の実効性検討委員会報告書が公表されたことを契機に、ずいぶんと内部通報制度が取り上げられるようになりました。朝日新聞「法と経済のジャーナル」では(有償版ではありますが)内部告発者の社内情報の持ち出しルールに関する記事が正月早々掲載されましたし、本日も(近時の企業不祥事では、発覚に至るまで、通報制度が機能不全に陥っていたといったことから)内部通報制度の体制整備義務に関する話題が取り上げられました(どちらの記事にもコメントを掲載していただきました)。また、日経新聞では、1月10日の拙稿「私見卓見」に続いて、1月14日には「内部通報制度を使える制度に指針改訂」と(社会面で)取り上げられました。とくに14日の日経記事では経済団体の代表幹事でいらっしゃった北城さんの積極的なコメントが掲載されていましたので、企業にとっても内部通報制度の整備・運用がリスク管理上とても有用である、といった意識が盛り上がることを期待しています(私とは影響力が違いすぎます)。

最近、私自身が担当する企業不正に関する内部通報・内部告発事案も、もともとは内部統制への通報者の懸念です。経営者の中長期経営計画に対する目標設定と事業部門の実績とのかい離(コミュニケーション不足)をどうしても埋められず、ストーリー作りに苦悩した経理担当者の叫び声が内部告発や内部通報として浮かび上がります。財務報告に関する内部統制の重大な欠陥は、それ自体では「犯罪行為」と認定することは困難ですが、経理担当者は企業価値を真剣に考えていました。また、(これは私とは関係ありませんが)今月号のFACTA誌に掲載されている著名な菓子製造会社の経営者問題も、それ自体が不正を根拠付けるような事実が掲載されているわけではありませんが、告発者が将来の会社を慮って情報を提供したことは明らかです。

内部通報の中には、単なる苦情相談のようなものもありますので、すべてが従業員主権に基づくガバナンスと関連するものとは言えません。しかし、コンサルタント会社の調査などでも、通報の1割程度は企業や社員の法令違反行為に関連する通報とされていますので、もうひとつのガバナンス改革として、中小の事業者の方々を含め、さらに制度が浸透することを期待します。

1月 24, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年1月10日 (火)

日経「私見卓見」に拙稿が掲載されました(1月10日朝刊)

本日(1月10日)の日経朝刊15面「私見卓見オピニオン」欄におきまして、当職の「内部通報制度は企業の信用を高める」と題する論稿(1000字程度)を掲載いただきました。たくさんの応募論稿の中から編集者の方々に選定いただいたことはとてもありがたいのですが、それは内部通報制度や内部告発が社会的にも関心を集め出したことの裏返しだと思います。「働き方改革」が進む中、公益通報者保護法の改正問題、改定された民間事業者ガイドラインの浸透といったことに、これからも企業の関心が高まることを願っています。

1月 10, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年1月 4日 (水)

公益通報者保護制度に関する民間事業者・労働者の意識調査結果の公表

私の本業とも関係する話題ですが、消費者庁は本日(1月4日)、公益通報者保護制度に関する民間事業者および労働者の意識調査・実態調査(アンケート集計)の結果を公表しました。4年ぶりの実態調査報告なので、4年前との結果比較も含まれています。二つの報告書で合計200頁になりますが、概要版も出ておりますので、そちらでサラっとご覧になることも可能です。

ご承知のとおり、企業不祥事が明るみとなる端緒は、なんといっても内部通報や内部告発です。「社内調査が端緒」というケースも多いのですが、実は内部通報が社内調査のきっかけということもあります。経営トップが社内不正に早期に気付くためにも内部通報制度の充実は欠かせません。独禁法のリニエンシー制度、(会社法、金商法、不正競争防止法違反にも適用が検討されている)改正刑事訴訟法における協議・合意制度、景表法上の課徴金制度、(年末に特例適格消費者団体が誕生して注目される)消費者裁判手続き特例法、(TPP発効を条件としていますが)確約手続、海外カルテル、海外贈賄規制等、企業の重大な不正リスクを低減するためにも必須の内部統制システムです。これだけ労務コンプライアンス違反への社会的批判が厳しくなったのですから、パワハラ・セクハラ等の通報をいち早くキャッチすることも大切です。

また、この報告書の注目点としては、労働者の意識調査結果報告の75~76頁あたりです。労働者として、内部通報制度が整備されている企業に入社したいと回答した方が8割を超えており、またひとりの消費者として、内部通報制度が充実している企業の商品・サービスを購入したいと回答した方も85%を超えています。企業ブランドを高めるためにも内部通報制度の整備・運用は重要であり、企業にとって、不正の早期発見という有用性以外にもメリットがあることがわかります。

私も委員を務めておりました消費者庁・公益通報者保護制度の実効性検討委員会では、どちらかというと「内部告発(マスコミや監督官庁に情報提供すること)」をした従業員をどのように保護すべきか、といった点の議論が中心でしたが、民間事業者としては、内部通報制度を充実させることで、いかにして内部告発者を出さないか、という点に注力していただきたいと思います(なお、この点は私個人の意見であることを申し添えます)。

1月 4, 2017 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年3月11日 (金)

内部通報制度の運用はむずかしい・・・その2(内部通報者の実名伝達)

消費者庁公益通報者保護制度の実効性検討委員会の状況が、朝日新聞「法と経済のジャーナル」(有償版)で詳細にレポートされています。もしお時間があればぜひお読みいただければ幸いです。

(ここから本題ですが)児童福祉法違反容疑で児童養護施設の施設長が逮捕された事件において、男性職員が市児童相談所の対応が遅れたことを訴えるため、2015年3月、公益通報外部窓口にメールで通報したところ、当該職員は昨年12月、内部記録を持ち出したとして停職3日の懲戒処分を受けたそうです。当該職員の方は、市の人事委員会に「公益通報のためだ」として処分取消しを求める不服申し立てを行ったそうですが、その過程において、内部告発を受け付ける京都市の公益通報外部窓口の弁護士によって、通報した男性職員の氏名が、市側に伝えられていたことが判明した、とのこと(詳細に報じている京都新聞ニュースはこちらです)。

この事件で想起されるのが、ちょうど8年前の2008年3月11日に当ブログで紹介した大阪トヨタ事件ですね。大阪トヨタの社員4名が中古車架空販売によって大阪府警に逮捕された事件がありましたが、当該事件について内部通報した社員の名前を、通報窓口を担当していた弁護士が(通報者の承諾なく、氏名を)会社側に漏えいしたとして、窓口担当弁護士に懲戒処分が下された事例です。ちなみに当時のブログでは第二東京弁護士会綱紀委員会による処分を取り上げたのですが、この後、同綱紀委員会の意見を受けた懲戒委員会は、内部告発者の実名を会社側に伝えたのは(たとえ通報者の承諾があったとしても)秘密保持義務に反し、弁護士の品位を失う非行にあたるとして戒告の懲戒処分を下しています。

その理由については(綱紀委員会の認定とは異なり、会社側へ実名を伝えることの同意はあったものの)、実名を伝えることによってどれほどの不利益があるのか、そのリスクを通報者に説明せずに同意だけをもらってしまったので、「社員による自発的な同意は認められない」とされたものと記憶しています。つまり同意を得ていたとしても、実名開示による通報者の不利益に関する説明をしていなければ弁護士としての秘密保持義務に違反し、弁護士の品位を害する、というのが懲戒委員会の出した理由です。内部通報者や内部告発者が不利益取り扱いを受ける現状は、最近の裁判例などをみても顕著であり、消費者庁における公益通報者保護制度の実効性検討会のとりまとめにおいても「通報者への不利益取扱いへの罰則強化」が盛り込まれる可能性が高まっています。このような近時の風潮からすれば、通報窓口担当者の守秘義務の履行は、内部通報制度の信頼性を維持するために極めて重要であることがわかります。

ところでこのたびの京都市の事例では(上記京都新聞ニュースによると)

職員によると、弁護士は伝達を認め、職員の通報メールに「私が通報者だと推認される覚悟はある。市コンプライアンス推進室から私に直接問い合わせていただく方が効率的かとも考えている」と記載していたことを理由に挙げたという。

とあります。たしかに、このような内容のメールが外部窓口担当弁護士のもとに届いたのであれば(それまでの通報者と弁護士とのやりとりもありますので)、「実名を伝えるのが妥当」と当該弁護士が判断したのもやむをえないようにも思えます。しかしながら、(京都新聞ニュースでコメントをされている)消費者庁公益通報者保護制度実効性検討委員会の副座長もされている升田純先生(中央大法科大学院教授)が指摘されている内容(内部告発者の実名を伝えることが、不利益な取り扱いのきっかけになることもある。告発者が明確に了承していない限り、匿名のままにして保護すべきで、あいまいな回答や判断を基に伝えることは許されない)、および先の懲戒委員会における懲戒理由を前提とすれば、外部窓口担当弁護士としては実名開示による不利益取り扱いを受けるリスクを十分に説明したうえで、また、京都市が実際に調査を開始する意向があることを確認したうえで実名を伝達する、といった、より慎重な配慮が求められたのかもしれません。

この京都市の事件を詳細に読むと、当該男性職員は市議に「内部告発」をしたのですが、誰が「内部告発」をしたのか、京都市が調べたところ、以前に「内部通報」をした当該男性が浮上したため告発者が判明した、ということのようです。したがって弁護士による実名伝達行為がなければ懲戒処分もなされなかった可能性があると考えますと、本当に内部通報制度の運用は難しいなあと改めて感じます(本件には、市役所が保管する重要書類を第三者に渡した行為の違法性・・・という論点もありますが、たいへん長くなりましたので、それはまた別途考察したいと思います)。

3月 11, 2016 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月15日 (金)

大王製紙・内部告発者の懲戒解雇無効判決の射程距離

各紙で報じられているとおり、1月14日、大王製紙社の海外子会社における会計不正問題を告発した社員の方について、解雇無効判決が東京地裁で出されたそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。大王製紙社の経営企画部の元社員の(金融庁等への)告発状について、ちょうど3年前の1月に業界紙に実名で公表された件ですね。降格処分は有効だが、出向命令については懲戒目的でなされたものとして出向命令に従わないことを理由とする懲戒処分は無効とされたようです(会社側はこの判決に不服として直ちに控訴したとのこと)。

降格処分を有効とした理由については、「告発は伝聞や憶測に基づく内容であり不当」(時事通信)「告発事実を裏付ける客観的資料が乏しく、目的も経営陣を失脚に追い込むためで正当性を欠く。就業規則違反による降格処分は不当とは言えない」(日経ニュース)と報じられています。これらの記事からしますと、当該社員は公益通報者保護法によって保護されなかったものと思われます。会社側の降格処分が有効とされたのは、この社員が、業界紙によって社内情報が広く公表されることを容認したうえで(会社関係者を通じて)会社情報を第三者に提供した、という点が問題視されたのかもしれません。社内における降格処分の理由としては、おそらく会社の信用(名誉)を毀損した、という点もしくは会社情報を不正に第三者に漏えいした、という点が服務規律違反と推測されます。

行政当局に対する告発だけでなく、マスコミ報道を期待して情報提供したことが会社の名誉毀損(信用毀損)行為にあたり、懲戒処分は有効とされたとすると、公益通報者が保護されるにあたっては、最も厳しい保護要件をクリアしないと内部告発の正当性が認められません(たとえばプラダ日本法人セクハラ報道損害賠償請求事件判決-東京地裁2013年11月12日 判例時報2216号81頁参照)。告発事実の真実相当性と会社が設置しているヘルプラインシステムが機能していない状況、といった要件が必要になります。

金融庁への公益通報(本件では金商法違反行為に関する通報)が公益通報者保護法で保護されるためにも、行政機関への通報保護要件として「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある場合」であることの立証が必要となります。上記判決において「告発は伝聞や推測を根拠としており、告発として正当であったとは認められない」と判示されていることからすると、そもそもこの要件が満たされなかったのかもしれません。ただ、最近は内部告発を支援する法律家も増えてきたことから、告発前に専門家に相談して「相当性要件」のチェックを受けていれば伝聞や推測に基づく、とはいえないことも多いと思います。そして客観的な資料に乏しいとして、「信じるに足る相当な理由」が認められないとすれば、やはり何らかの社内書類(の写し)の持ち出しが正当化される(明文化される?)必要がありそうです。

降格処分の有効性を検討するにあたり、告発の目的や手段等にも言及されているようなので本件は公益通報者保護法の要件該当性を考えるためには価値のある判例ではないかと思います。いずれにしても、この東京地裁判決は全文を読んでみたいので、判例雑誌等に判決文が全文掲載されることを期待しています。

1月 15, 2016 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月 4日 (月)

内部通報・内部告発が暴くのは組織ぐるみの不正である

皆様、明けましておめでとうございます。4日が「仕事始め」ということで、少し正月休みが短かったように感じますね。どうか本年もよろしくお願いいたします。

昨年12月25日から更新をしておりませんでしたが、その間、東洋ゴム工業さんの防振ゴム偽装事件に関する社内調査報告書が公表されました。8月20日の内部通報によって偽装が判明した、とありましたが、実は2年前から本社取締役(の一部)も偽装を認識していたことが報告されています。通報がなければ「偽装」の事実だけでなく「不正の放置」という組織ぐるみの不適切な事実も発覚しなかったということになります。

また、元旦の読売新聞一面トップには数研出版さんの検定未了教科書に関する謝礼問題が報じられました(元旦の新聞には時々不祥事がトップ記事として掲載されますので、毎年かならず各紙正月版には目を通しています)。数研出版さんの事例について、読売記事では、記者さんの手元にある内部文書が詳細に分析・解説されていましたので、こちらも(推測ですが)内部告発によるものと思います。営業社員に対する具体的な指示(学校以外の場所で、口外しないようお願いしたうえで・・・等)までコメント欄に記載されていたとありますので、まさに組織ぐるみのルール違反かと。

内部通報・告発を行う人の支援、内部通報・告発がなされた会社側対応の支援等を通じて「通報や告発を行いやすい組織風土が企業に形成されつつある」と感じます。「見て見ぬフリをする組織の中で働くことは耐えられない」「不正な手法で自分より待遇が良いというのはナットクできない」「共同通報者・共同告発者が5人から10人に増えた」等、通報や告発に至るハードルがかなり下がっていることを実感します。また、これまでは(内部通報制度に関する課題が周知されていなかったので)匿名通報がすぐにバレてしまう、ということが多かったのですが、最近はヘルプラインの整備とともに、一般社員の方々にもノウハウが蓄積されてきましたので、匿名性がかなり高い確率で確保されるようになってきました。これも通報や告発を行いやすい土壌が形成されてきた一因だと思います。

今年も内部通報や内部告発が企業不祥事の端緒となるケースが多いと予想いたしますが、社内調査委員会や第三者委員会が設置されると、そこに通報や告発が届き、多くの情報が提供され、不祥事がさらに大きく発展するケースも増えるものと予想いたします。最近はパワハラ案件を中心に共同通報、共同告発も増えており、告発することに暗いイメージはなくなりつつあります。40代、50代社員の「組織における大人の流儀」は非正規社員の方や30代以下の社員の方には通用しないように思います。ヘルプライン担当者の方々も、このあたりの事情を十分に理解しておく必要があるのかもしれません。

1月 4, 2016 内部通報制度 | | コメント (11) | トラックバック (0)

2015年10月 1日 (木)

VW(フォルクスワーゲン)では内部通報制度は機能しない

VW(フォルクスワーゲン)社の排ガス規制偽装問題が連日世界的に報じられていますが、日本の自動車会社におけるカタログ燃費問題はあまり論じられていないようです。実走行燃費とカタログ燃費に格段の差があることは承知していますが、それは試験時における条件が大きく異なるため、ということなら当然です。しかし、カタログ燃費を測定する際にだけ特別にプログラミングされた装置を用いるのが「最高の結果を出すために当然」(国内自動車メーカー担当者)というのであれば(日刊自動車新聞2015年9月28日朝刊一面記事より)、それはVWの問題と同様、消費者をだましていることにはならないのでしょうか?(かなりグレーゾーンのような気もします)

さて、本日(9月30日)の日経ニュースにおいて、排ガス偽装事件の社内調査結果の追加記事が出ています。「2011年には、社内からVW(フォルクスワーゲン)技術者幹部に対して排ガス規制無効化ソフトの違法性が指摘されていたが、同幹部はとりあわなかった」とのこと。つまり不正事実について、内部通報が経営幹部に届いたのが4年前ということで、今回の不正については組織ぐるみの可能性がありそうです。ただし、東洋ゴム工業さんの免震ゴム偽装事件と同じく、ヘルプラインへの通報ではなく、レポートラインへの通報ではないかと推測されますので、その指摘がどこまで「確証に基づく不正通報」だったかわわかりません。したがって、幹部が対応しない、ということについては、組織ぐるみであることを裏付ける事実といえるかどうかも(これだけでは)疑問です。

それでは「VWにはヘルプライン(内部通報制度)があったのか」という点ですが、ドイツやフランスは、そもそも公益通報者保護に関する基本法がなく、2013年改訂のドイツ・コーポレートガバナンス・コードをみても「内部通報制度」を整備することも要請されていません。ドイツにおいては、内部告発の取扱は非常にセンシティブなものであり、ナチス時代とそれに続く旧東ドイツのシュタージによる通報(密告)の苦い経験があることから、内部告発を保護する、という制度に対しては消極的と言われています(詳しくは、消費者庁の2009年海外調査報告をご覧ください)。したがって、VW社には正規のヘルプラインは存在しなかったのではないかと思われます。

たとえVW社にヘルプラインの制度が存在していたとしても、ドイツの裁判所は「ドイツ企業における内部解決優先原則」を堅持しているため、内部告発を行った労働者保護は期待できません。ちなみにフランスの場合は「苦い経験」ということよりも、徹底した個人情報、プライバシー権保護の思想が強いので、他人の不正疑惑といえども、そのような情報を暴くことへの嫌悪感が先に立つものと思われます。このあたりは米国や韓国のような内部告発を奨励する制度とはまったく異なるものといえます。また、内部解決優先主義とはいえども、内部通報制度に不備がある場合に内部告発を保護する(つまり内部通報制度を整備するインセンティブが認められる)日本の公益通報制度とも隔絶した感があります。

ドイツ企業においては、第三者への通報など初めから保護の対象とならないわけで、たとえ社内への通報がなされたとしても、これを取り上げるべきインセンティブが働きません(無視されるどころか、情報提供者が内部通報したことによって不利益を受ける可能性があります)。ということで、ドイツ企業においては、まったく内部通報制度は機能しないものと考えられますし、そもそも通報内容がどのようなものであったのか、会社側がどのように対応したのか、といった記録も残っていない可能性があります。今後は米国のSOX法等の影響を受けて内部通報制度を採用する企業も増えるのかもしれませんが、そもそも第三者への通報(内部告発)が保護されないかぎりは、不正早期発見のためのツールとして、内部通報制度は機能しないように思われます。

しかしこのたびのVW排ガス偽装事件のように、被害を受けるのは消費者であり、その生命、身体、財産の安全を考えるのであれば、情報保護の要請はあるにせよ、一定の場合には内部告発を保護するようなシステムが(全世界的に)必要ではないでしょうか。このたびのVWの不正事件を契機として、ドイツにおける「内部解決優先原則」が多少なりとも転換されることを希望します。

10月 1, 2015 内部通報制度 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年8月14日 (金)

内部通報への誠実な取組みの大切さ-サントリー・パワハラ事件判決

8月7日の東洋経済WEBにて「初公開!内部通報が多い企業100社」という特集記事が掲載されています。会社法改正においても、またコーポレートガバナンス・コードにおいても、さらに先日経産省HPから公表されたガバナンス改革時代における会社法の解釈指針においても、内部通報制度の充実や社外役員の関与が話題となっております。さらに東芝不適切会計処理事件や東洋ゴム工業免震偽装事件でも内部通報が不祥事発覚におけるポイントになっておりますので、今後ますます社会的な関心が高まるものと思われます。

ところで内部通報が社内で機能するようになりますと、当然受理件数も増えてきますので、通報に対する窓口担当者の対応の巧拙が課題となります。私も上場会社数社の外部窓口を担当しておりますが、通報者の気持ちを誠実にくみ取ることができず、信頼関係を失いかけて反省することもありました。通報に基づく調査を何度も経験をしておりますと、独立公正な立場とはいえ、どこかで予断を抱いてしまい「通報」を「苦情」や「相談」として処理してしまいたい気持ちにかられてしまうことがあります。十分に時間をかけて受理しなければ「通報事実」への該当性判断に誤りを生じますので留意が必要です。

さて内部通報窓口を担当されている方々にとって、誠実な取り組みの大切さを改めて認識させられるのがサントリー(現サントリーホールディングス)パワハラ事件訴訟判決です。2014年7月に東京地裁で出された判決が、判例時報2241号95頁以下に掲載されています。サントリー社に勤務しておられる社員の方が、上司にパワハラ言動を受けたとして損害賠償を求めていましたが、東京地裁はこの社員の方の主張を認め、上司の不法行為責任、サントリー社(現サントリーホールディングス社)の使用者責任を認容しています(サントリー側の代理人は日本を代表する使用者側弁護士の方ですね。なお、控訴審は今年1月28日に東京高裁で判決が出され、損害額が一部減額されたものの争点についての判断は、ほぼ原審を踏襲した判決となっています-判決確定)。

この裁判の特徴は、当該社員の方がパワハラを受けたとして内部通報を行い、この通報を受けたコンプライアンス室長も「結論ありきの調査によって不適切な対応が行われた」として損害賠償請求の被告として選定している点です。地裁の判決では、通報担当者に対する請求は棄却されていますが、この通報を受理したコンプライアンス室長の当該社員に対する説明状況、ヘルプライン規程ほか社内ルールに沿った形での調査活動、その結果としてのパワハラを行ったとされる上司への処遇などを詳細に検討したうえで、通報窓口担当者の通報者に対する対応は不法行為には該当しない、との結論に達しています。ちなみに、このコンプライアンス室長は当該行為はパワハラには該当しないと当該社員に説明をしています。

本件は(これは私の推測ですが)通報受理担当者が「セカンドパワハラ」に該当するものとして、会社の職場環境配慮義務違反を根拠付けるために被告に選定されたのかもしれませんが、過去にはセクハラ事件においても通報窓口担当者の不手際が裁判上で認められ、会社の職場環境配慮義務違反が認められた事例がありますので(静岡地裁沼津支部平成11年2月26日判決、労働判例760号38頁)、けっしてセカンドパワハラ特有の問題ではなく、たとえば企業不祥事によって社員以外のステークホルダーに損害が発生した場合にも通報受理担当者の不手際が「内部統制構築義務違反」の根拠となるかもしれません

いずれにせよ、セクハラ・パワハラ案件は内部通報の件数としても非常に多いものなので、内部通報窓口担当者の方にとっては、法律雑誌に公表されたものなので、ぜひとも参考にされてみてはいかがでしょうか。本件ではコンプライアンス室長作成に係る調査報告書も裁判所に提出されているようなので、調書は公開されることもありうるということを前提に誠実に作成する必要があり、なによりも予断を抱かず、社内ルールを十分に理解のうえ、そのルールに沿った形で関係者のヒアリングを進める必要があります。大阪の海遊館セクハラ事件では、社内調査の結果「一発懲戒解雇相当」が最高裁判決で認められる時代となりました(2015年2月27日最高裁第一小法廷判決)。「人格権侵害」という点ではセクハラもパワハラも同様であり、パワハラ問題の根の深さが社会的に認知されてきています。その認定の巧拙は当該社員のみならず企業にとっても重大な問題です。企業のリスク管理の視点から、社員研修と内部通報者研修はくれぐれも怠ってはいけませんね。

8月 14, 2015 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年6月 8日 (月)

下関市障害者施設暴行事件にみる公益通報制度改正の必要性

週末のニュース等でさかんに映像が流れておりましたので、すでにご承知の方も多いと思いますが、下関市の知的障害者施設において、通所している障害者の頭を殴ったり、障害者に向けてモノを投げたり暴言を吐く・・・といった男性職員の行動が隠しカメラの映像で明らかとなり、施設側はこの男性職員を懲戒解雇としたうえで弁護士を中心とする第三者委員会を設置する方針を決めたそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちらです)。これは私の推測ですが、カメラの映像をみるかぎり、本事件の根本原因は男性職員の個人的な不祥事だけではなく、組織としての構造的な欠陥にあるように感じました。

ちなみにこの施設の事件について、昨年の5月に下関市に匿名の内部告発があったそうですが、その際の市の調査では不適切な行動は認められなかったとのこと。勇気ある職員の隠しカメラによる撮影、その後のマスコミへの内部告発によって、ようやく不祥事が明らかにされたわけですが、いま会計不正事件の調査が進む東芝社の事件でも、やはり金融庁への告発がなければ一切オモテに出ることはなかったわけでして、内部通報の限界、内部告発保護の必要性が改めて浮き彫りになったものと思います。

このたびの平成26年改正会社法(会社法施行規則)およびコーポレートガバナンス・コードでは、企業の内部統制システム構築の一環として内部通報制度の充実促進が求められています。しかし最近の企業不祥事や先の下関市の施設事件などをみますと、企業主体の内部通報制度の充実だけでは企業不祥事の抑止や早期発見には限界があるわけで、国が主体となり、内部告発(外部第三者への通報)促進を含めた制度改革の流れを加速せざるをえないように思われます。具体的には、平成18年の施行以来改正がなされていない公益通報者保護法改正の課題解決です。

まず内部告発者と内部通報者の保護要件を同じくらい厚くすること、そして保護される告発者の範囲を自社の従業員だけでなく、親会社や子会社の社員、下請・取引先企業の社員、OB社員など事実上の不利益を受ける可能性のある者に広げること(それに伴い「不利益処分」の概念に「法人対法人の関係」も含めること)、通報の対象となる不正事実の範囲を広げるだけでなく、「不正のおそれ、不正の疑惑」についても含めること、告発者に対する会社の不利益処分禁止規定の強行法規性を確認したうえで、告発と不利益処分との因果関係の立証責任を転換させること等は、現行の公益通報者保護法の改正ポイントとして、ぜひ検討しなければならないと考えます。

そしてもうひとつ、今回の下関の障害者施設事件で痛感することは、告発目的で社内の資料を外部に持ち出すことの法的な正当性の確認です。証拠ビデオが存在しなければ、まちがいなく今回の内部告発もうやむやにされていたはずです。マスコミに隠しカメラの映像がDVDとして配布されたことで、マスコミ側も、そして下関市側もこれを取り上げることになったわけで、そう考えますと、有力な証拠となりうる社内資料を告発者が外部に持ち出すことは、窃盗罪にも該当せず、また就業規則や社内ルールでも阻止できないことの法的確認作業が必要になるはずです。

企業によるマタハラ(マタニティーハラスメント)による不利益処分禁止については、この5月末に、昨年10月の最高裁判決をもとにした厚労省指針の解釈通達が出されました。出産前休暇等の申請から1年以内に出された不利益処分については、企業側から不利益処分の合理的な説明がなされない限りは(出産等申請と因果関係のある処分として)原則違法であることが確認されています。男女雇用機会均等法に基づく社名公表のような制裁には法律上の根拠が必要となりますが、司法判断においても、また行政判断においても「不利益取扱い禁止」ルールへの事実上の制裁(立証責任の転換、法律上の推定等)が活用される時代にはなってきたわけでして、こういった最高裁や厚労省の判断は、消費者庁が所管する公益通報者保護法の課題解決にも応用できるのではないかと思います。

内部告発を法的に保護することが(制度間競争によって)企業の内部通報制度充実に向けたインセンティブとなり、さらに内部通報制度が充実することが企業内の通常の業務報告体制(部下と上司といった縦の関係や、部署間における横の関係)の充実を後押しします。会社法で構築が要請されている情報共有体制の整備というのは、このような流れによって整備されていくものと考えています。

6月 8, 2015 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月 4日 (月)

内部通報制度見直しの参考となる大津市の新条例

5月1日の読売新聞ニュースで知りましたが、大津市が外部委員による委員会を活用した内部通報・内部告発受理制度を新たに設置したそうです。4年ぶりに改訂された「大津市職員等の公正な職務の執行の確保に関する条例」に基づく制度ですが、①職員からの内部通報、市民からの内部告発を外部委員会が受け付ける、②同委員会は、必要がある場合には独自で調査をする、③市民の責務を規定して、不誠実告発を排除する、④内部通報によって職員が不利益取扱いを受けた場合には、同委員会に申出ができる、⑤通報者だけでなく、通報や調査に協力をした者の不利益取扱いの申出も受ける、といった特徴があります。ちなみに外部委員には3名の弁護士が就任されているようです。

5月1日施行の改正会社法施行規則では、内部統制システムの整備に関する決議事項として「監査役に報告したことによって不利益な取り扱いを受けないための体制整備」が規定されています。また、6月1日適用開始予定のコーポレートガバナンス・コードの第2章原則2-5においても、内部通報制度を整備すべきとされています(さらに補充原則2-5①では、社外役員が関与した独立窓口の設置、通報者の不利益取扱いの禁止などが規定されています)。これらのガバナンス改革の流れの中で、今年は上場会社を中心にヘルプラインの見直しが図られるのではないかと思いますが、上記の大津市の新しい試みは上場会社にも参考になるのではないでしょうか。

とりわけ「不利益取り扱いの禁止」条項の実効性を、どのようにヘルプラインで担保するかは課題です。不利益取り扱いにペナルティを課すというところも多いと思いますが、上記大津市の規定では、まず外部委員会に「不利益取扱いがあった」と申立てができるものとなっており、この外部委員会が(法律専門家として)調査を開始するというところが斬新かと。さらに、私も消費者庁のアドバイザーとして、この1年、多くの内部通報者・内部告発者からヒアリングをさせていただきましたが、「内部通報協力者」の存在もいくつかの事例で見受けられました。私自身も通報協力者の秘密が守られ、また協力者自身の不利益取扱いが禁止されなければ、内部通報の実効性は確保されないと考えていますので、調査協力者の保護を規定した大津市の制度はかなり画期的なものではないかと思います。

ヘルプラインの運用でむずかしいのは「不誠実通報への対応」という点ですが、大津市の制度では、調査の必要性の有無を外部委員会の判断にゆだねていますので、通報が増えてきた場合には外部委員の方がけっこうたいへんかもしれません。公益目的通報に関する規定の前に、「不当要求行為」を定義して、市民による不当な要望から職員を守ることとの関連でうまく処理できるのかもしれませんが、運用次第では窓口担当者自身がコンプライアンス違反として糾弾されることがありますので(私の経験では)気苦労が多いところです。

いずれにしましても、この条例の目的は職員の保護ということよりも、職員のコンプライアンス確保(による市政の健全化)を第一に掲げていますので、内部通報と内部告発をいずれも受け付けるというものです。公益通報者保護法との関係では整理しなければならない点も多いかもしれませんが、コンプライアンス経営を実現する、ステークホルダーとしての従業員の地位を確保するということを真摯に考える企業にとっては、参考になるところが多いと思います。私は独立した外部窓口を担当することよりも、最近は「ヘルプライン制度の内製化」のためのコンサルティングのほうが仕事としては増えてきましたが、各企業における理想(あるべきヘルプライン)と現実のギャップを知るためにも、まずはこのような外部委員会制度を活用することをお勧めいたします。

5月 4, 2015 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年12月 3日 (水)

内部通報制度の運用-パワハラの背後に企業不祥事あり

佐世保市で発生した同級生殺害事件について、事件前に加害者少女を診察した精神科医から佐世保市に届いた通報を、市が放置していた疑惑があるようです。「少女は危険な行為に及ぶかもしれない」との通報が市に届いたにもかかわらず、幹部職員が「丸投げ通報はほおっておけ」と職員に命じたため、調査はされなかったとのこと。当該幹部職員のパワハラは問題化していたようで、30日の産経新聞ニュースでは、県の有識者委員会が、「パワハラの影響があった可能性が高いというのがおおむね一致した見解」と述べているそうです(産経新聞ニュースはこちら)。

この佐世保市の事件について述べるものではありませんが、この事件のようにパワハラは背後に不正を隠しているケースがあります。中央経済社の雑誌「ビジネス法務」2012年1月号に「自社の内部通報制度改善のポイント」と題する拙稿を掲載いただきましたが、その中で私は

パワハラ通報には十分に気をつけねばならない、なぜならその背後に役職員、組織の不正が隠れていることが多いからである。つまり不正を指摘したことで村八分や個人攻撃など、当該社員にパワハラが行われる可能性があるため、時間軸をもって背後の経緯を知る努力をしなければならない

と述べました。今回の事件は「内部通報」ではなく外部通報ですが、パワハラが市側の「通報の放置」という不正疑惑を明るみに出したことになります(そもそも有識者委員会という独立公正な委員会が立ちあがったからこそ、職員から「パワハラが原因」という通報が出たようなので、やはり第三者委員会の存在意義は大きいと感じます)。パワハラかどうかの判定は、通報窓口担当者にとっても難しい作業ですが、認定作業とは別に、なぜパワハラと感じるような事件が発生したのか、その経過についても十分にヒアリングを行うことが必要です。

以前、こちらのエントリーでもパワハラ通報の取扱いのむずかしさについて論じましたが、近時とくに「匿名性の保障」という面において重大な課題だと痛感します。パワハラの背後にある不正事件を探ろうとすると、調査が本格化するにしたがって通報者の匿名性(窓口は実名を知っています)が確保できないおそれが生じます。「文句があるなら直接言えと言っていたではないか」と更にパワハラがエスカレートする可能性もあります。

私の外部窓口としての経験からいえば、パワハラを受けている社員の方々は、「タレこみ」ということよりも「誰かに相談したい」という気持ちのほうが強いわけで、まずパワハラ通報というものの「性質」を全社員に浸透させる必要があると思います。「文句を上司に直接告げること」で済む問題ではなく、自身のパワハラ被害を自分なりに消化(昇華?)するためのプロセスが必要なのであり、そのためには寄り添って真摯に相談に乗れる人が求められるのだと思います。また、これも私の経験からですが、被害者本人による通報がほぼ100%であるセクハラ通報と異なり、パワハラ通報は本人通報が50%、第三者(通常は同じ職場の同僚)によるものが50%です。したがって加害者とされる人が「タレこみやがって!」と考えるのは早計です。

本来、内部通報制度が企業に求められている趣旨とは少し離れてしまいますが、被害者にとってだけでなく、企業にとっても、加害者と言われる人にとっても有益な解決策を探るために、「人はなぜパワハラ通報をするのか」といった理由を全社員で考えることが、パワハラ通報の匿名性確保のために不可欠です。

12月 3, 2014 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年11月27日 (木)

コーポレートガバナンス改革と結び付く今後の内部通報制度

11月25日、会社法の改正に伴う会社法施行規則、会社計算規則の改正案(パブコメ案)が公表され、(今後修正の予定がありますが)ほぼ全容が明らかになりました。また、金融庁、東証が事務局となっているコーポレートガバナンス・コード有識者会議により策定される「ガバナンスコードのたたき台」の骨子も明らかになりました(金融庁HPで閲覧できます)。それぞれ議論すべき問題点はたくさんありますが、いずれにおいても、企業不祥事の早期発見等を目的とした内部通報制度の充実について条文(条項)に明記されることになり、企業、とりわけ「特定監査役会設置会社」※クラスの会社においては、今後の対応が喫緊の課題になりそうです。

※・・・会社法上の公開会社かつ大会社である監査役会設置会社のうち、金商法上の有価証券報告書提出会社であるもの(改正会社法施行規則案74条の2、第2項参照)

たとえば取締役会設置会社の場合、業務の適正を確保するための体制整備のために、会社法施行規則案100条3項4号では、従業員が監査役に報告をする体制、子会社従業員が親会社監査役に報告をするための体制整備が求められており、同5号では、従業員が、このような報告を行ったことによって不利益な取り扱いを受けないことを確保するための体制整備が求められています。4号では、従業員から報告を受けた別の従業員の報告ルートの確保も求められているので、まさに内部通報制度の充実が会社法上も求められています。これは企業グループとしても同様です(企業集団内部統制の一環として、親会社が子会社従業員より通報を受けるシステムの構築等)。

ここで特記すべきは、監査役の職務執行の実効性確保のために報告体制の整備が求められている点です。これまでも内部通報制度は各社において整備されてきたと思いますが、従業員の不正は、通報制度によって早期発見することができても、経営陣の不正は握りつぶされてしまって実効性に限界があると言われています。私も常々「ヘルプラインはガバナンスと併せて議論しなければ実効性は向上しない」と申し上げてきましたが、ここでようやく監査役への報告体制の整備・・・という形で整備が求められるレベルになりました。

一方、ガバナンス・コード有識者会議におけるたたき台では「第2章 株主以外のステークホルダーとの円滑適切な協働」において、「基本原則2-5 内部通報」として、以下のように条文化されています(たたき台なので、もちろん修正される可能性はあります)。

上場会社は、その従業員等が不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示等に関する情報や真摯な疑念を伝えことができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用できるよう内部通報できる適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現にする責務を負うともに、その運用状況を監督すべきである。(基本原則)
上場会社は、 内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また情報提供者の秘匿と不利益取扱禁止に関する規律を整備すべきである。(補充原則)

もうかれこれ10年近くブログを続けていますと、狭い範囲ではありますがそこそこブログの知名度も上がるため、新聞で大きく報じられた不祥事をマスコミに情報提供した社員の方々から、いろいろとご相談を受けることがあります。新聞では「内部告発があった」とは書かれていませんが、「発端はやっぱり内部告発だったのか。自社に内部通報はできなかったんだなぁ」と悔しい思いをすることもあります。もし内部通報制度が機能していれば、すくなくとも「二次不祥事」は防止することができたのではないか、と思います。企業の持続的成長のためには理念と実業のバランスが求められます。不祥事は起こしても、企業理念にだけは傷をつけぬよう、このような原則が盛り込まれたはずです。

Grayzoon009おかげさまで、11月16日の日経新聞「書評」にて取り上げていただきました「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」ですが、本書の中でも一章を設けて「内部通報制度が経営者を救う」ことを示しています。とりわけ、従来と異なり、内部通報制度を取り巻く経営環境が大きいく変わっていることを4点、指摘させていただいています。一次不祥事を早期に発見し、二次不祥事を未然に防止する・・・、内部通報制度の適切な運用は、今後の企業価値向上にとって不可欠だと思います。不幸にしてリコールは発生させてしまっても、決してリコール隠しは起こさないことがブランドイメージを維持するためには必要です。

内部通報制度は、従来の「不正リスク管理」の一手法から、リスクをとりながらも前に進むための「攻めのガバナンス」の一手法へと変わりつつある、というのが実感です。また非財務情報の見える化、企業価値向上との因果関係の説明義務といったことが求められる時代となれば、ますます運用状況のチェックが求められることになろうかと。

11月 27, 2014 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年4月21日 (月)

コンプライアンス経営に活かせる公益通報制度を目指して

4月18日の福井新聞ニュースに、武生信用金庫における不正融資を巡る労使対立の現状が報じられています(福井新聞ニュースはこちらです)。10年以上にわたり、元役員が迂回融資を繰り返していた疑いがあることから、行員が社内のメールを入手し、これを証拠として監督官庁に不正を告発したそうです。一方、金庫側は、行員の内部資料の持ち出し行為について、不正アクセス禁止法違反により、刑事告訴したうえで解雇処分としています(なお、金庫側は、不正融資の有無について、第三者委員会を設置して調査中とのこと)。

この処分に反発した労組側は、このメール入手行為は、公益通報目的でアクセスしたのであるから行員の行動は正当な行為であり、不正アクセス禁止法違反の違法性は阻却されるものだと反論しています。実際に同金庫では、告発を受けて、監督官庁による大規模な検査が行われたようです。

現在進行形の事件なので、個別案件への詳細なコメントは控えますが、平成18年に施行された公益通報者保護法の存在が労働者の方々に周知されることにより、今度は、このような労使間でのむずかしい問題が増加しています。一般探索型の証拠入手(持ち出し行為)でも公益通報目的といえるのかどうか(合理的な疑いがなければ不正入手になるのではないか)、内部通報に期待ができない状況があるからこそ、外部への証拠流出行為の違法性が阻却されるのではないか(まずは内部へ通報手続きをとらなければ、もしくは内部通報への対応が期待できない合理的根拠がなければ証拠入手行為の違法性は阻却されないのではないか)等、民事法(労働者としての地位保全)と刑事法のクロスオーバーする論点が山積しており、現行公益通報者保護法の課題だと思います。

先週、消費者庁のHPよりリリースされましたが、このたび公益通報者保護法制度に関する有識者からのヒアリングが開始され、当職がアドバイザーに就任することになりました(消費者庁リリースはこちらです)。今年中に5回から6回程度、ヒアリングが実施され、その概要は消費者庁HPで公表されることになります。いろいろなご意見を伺い、消費者庁や消費者委員会における議論のたたき台になるものをご報告できれば、と思っています。とくに公益通報者保護法の制度運用が、企業の自律的行動(自浄能力の発揮)を支援できるような工夫を考えていきたいと思います。

4月13日の夜のニュースで、佐村河内氏のゴーストライターだった新垣氏が、佐村河内氏に妥協案を持ち掛けていたことを知りました。もはや世間をだまし続けることに耐えられない、このまま佐村河内さんが活動を続けることなく、フェードアウトしてほしい、との提案でした。しかし、佐村河内さんは、その提案に応じることはなく、あのような新垣氏のカミングアウトになってしまいました。つまり、佐村河内さんとしては、(妥協案による解決が良いか悪いかは別として)新垣氏の妥協案に応じていれば、このような事態にはなっていなかった可能性があります。

内部通報や内部告発に関与する者として、こういった事例はよく見受けられます。会社側が「内部通報以上のことは、どうせ何もできやしない」と高をくくっているところで痛い目に合ってしまいます。公益通報者保護法が、内部通報や内部告発を行う者の後ろ盾になれば、もう少し経営者についても、内部通報や告発に対する真摯な姿勢が期待できるのではないかと思います。雇用形態の多様化、流動化、外国人労働者の増加など、公益通報が増加する環境が高まる中、公益通報者保護法の制度改革に向けた立法事実の調査は喫緊の課題だと考えています。

4月 21, 2014 内部通報制度 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2014年4月 8日 (火)

合法的内部告発制度は日本でも拡大適用なるか?

本日(4月7日)の日経法務面に、米国連邦最高裁が、取引先企業の社員にも、内部通報制度の適用がある、との判断を下したことが報じられていました。原審は会社側の主張を認めていたので、取引先企業の社員は逆転勝訴した、ということになります。本来、外部者による内部告発を法制度化すると、告発の適法性立証(真実と思料される相当な理由)には相当な証拠を外部者が保持する必要があるので、他社の内部資料を合法的に流出させることができる、ということが前提になります。しかし、それはちょっと行き過ぎだろう・・・ということで、原則としては取引先による内部告発は保護の対象にはならないだろうと思っていたのですが、米国では「合法的内部告発」というものが認められたのですね。

米国SOX法806条(内部通報者保護法)は、公開会社の社員が、監督権を有する法人や捜査機関等に公開会社の不正行為を申告することは合法的行為であり、事業主等から、解雇や不利益処分、脅しなどを受けないことが保障されています。また、この禁止事項に反する事業主等は刑事罰を科されます。しかし、この「社員」が、公開会社の社員だけなのか、それとも取引先企業の社員も含むのか(つまり、不正が発覚した企業からだけではなく、その取引先企業からの不利益処分も禁止する趣旨なのか)といった点が明らかにされていなかったようで、今回の連邦最高裁の判断は、この制度の運用に大きな影響を及ぼしそうです。なんといってもドットフランク法や不正請求防止法によって、高額の報奨金が別の会社の内部告発者に支払われることになります。

日本の下請会社の従業員が、発注元企業の不正を発見して、これを「発注元」に通報した場合は、公益通報者保護法で保護されるものと解されています。下請企業は不利益処分ができませんし、また発注元企業が、この下請企業に嫌がらせをすることも禁じられます(派遣社員の場合も同様です)。しかし、この米国の事例のように、取引先企業の社員が、取引先企業の不正を「取引先」に通報しても、労務の提供という事実関係はないので、公益通報者保護法の適用はありません。ヘルプライン規程で別途定めれば別ですが、こういったケースでは不正を見つけた取引先社員が、いきなりマスコミやネット掲示板、または監督官庁に内部告発を行う、というのが現状です。

昨年末の、コーナン商事さんで発覚した取締役不明朗リベート事件も、取引先からマスコミへの情報提供が発端だったと思います。今後、日本においても「合法的内部告発制度」の範囲を、公益通報者保護法の改正によって広めたほうが良いかどうかは、公益通報者保護法の重心を労働者の地位保全に置くか、コンプライアンス経営の促進に置くか等を含め、慎重な判断が求められるものと思います。また、現行の公益通報者保護法のように、一般法として規定すべきか、(米国法に倣って)法律を分けて、個別の不正行為ごとに内部告発者の保護要件を変えるべきか・・・という点にも配慮が必要かと思います(企業の法令違反行為に対して、課徴金という行政処分の活用が当たり前の時代になれば、課徴金の一部を内部告発者に報奨金として支払う・・・という議論も出てくるかもしれませんね)。

4月 8, 2014 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月17日 (月)

リソー教育社の不適切会計処理にみる「不祥事企業の作られ方」

先週2月13日に、東証1部のリソー教育さんの不適切会計処理に関する第三者委員会報告書が公表され、興味深く読ませていただきました(その後、再発防止策や人事異動なども発表されています)。リソー教育さんは、首都圏で学習塾「トーマス」などを展開する個別指導塾で著名な上場会社ですが、約6年半にわたって売上金83億円を過大計上した粉飾決算の内容が第三者委員会の報告書で明らかになりました。なお、報告書とは別にネット上で公開されている会長さんのインタビュー記事なども併せ読みますと、同社には過去から大規模な「内部分裂と倒産の危機」があったそうで、このたびの不適切会計処理に至った経緯なども報告書には記述されていないような非常に複雑な事情があるように思いました。

また、売上至上主義がこれほど人事評価に連動しており、また評価対象となる授業数の計上に「いかさま」が横行していたわけですから、人事に不満を持つ講師や社員の方々が内部告発することは容易に想像がつくわけで(ただし報道されたものや同社リリースには内部告発があったとは記載されていません。あくまでも私の推測です)、そういった「告発リスク」というものを、現場の経営者はどのように感じておられたのか、とても関心があります。

本事例については、いろいろと論点がありますが、リソー教育さんの監査役の皆様は、これだけの不祥事進行にあたり、一体何をされていたのだろうか・・・と疑問を抱かざるをえません。報告書の後半に、常勤監査役の方に対して法的責任が発生する可能性について論じられていますが、これだけ組織ぐるみの不正が行われていた中で、監査役の皆様が不正にどう立ち向かっておられたのか、全く事実が記載されていないところが若干物足りないところです。とりわけ監査役と会計監査人の連携については、平成17年7月に公表されているにもかかわらず、昨年の証券取引等監視委員会による調査開始の時期まで、どういった連携がなされていたのか全く不明です。また常勤監査役さんと3名の非常勤社外監査役のみなさんとで、どのように会計不正問題に対応されていたのか、という点の記述もありません。これは大いに疑問です。ここが明確にならなければ、会長さんの責任や会計監査人の責任を論ずることもできないように思えます。

また、引き継ぎ前の監査法人さんが、リソー教育さんの会計事実の不正を発見し、抜本的な対策を会長さんに提言しているところは評価できるのですが、しかし最終的には監査を下りています。監査契約を解消するにあたり、引き継ぎ監査法人に不適切な会計処理に関する事実が伝えられ、その後別の監査法人さんが監査を担当することになりますが、会計事実をゆがめる行為が売上の過大計上につながっていることに監査法人担当者が気づかず、会社側の会計事実の歪曲行為が継続されることになります。

私が疑問に思うのですが、こういったケースで引き継ぎ前の監査法人も、後の監査法人も、全社的内部統制は有効だと認識していたのでしょうか?また、仮に有効だと認識していたのであれば、どのような合理的な理由によって有効だと判断されていたのでしょうか?そこは報告書には記載がありません。

7、8年ほど、こういった不適切な会計処理に関する第三者報告書はじっくり拝読していますが、そもそも「企業不祥事」と「不祥事企業」とは異なるということを確信するようになりました。粉飾決算は、最初から役職員が「粉飾をやろう」と決めて起こすケースは少ないわけで、さまざまな不正を起こすうちに、「たまたま粉飾という形で発覚しちゃった」というのが多くのケースです。一般的な不正予防対策は、この「粉飾をやろう」と決意して行った「まじめな会社」の場合には実効性がありますが、「たまたま粉飾企業になっちゃった」というコンプライアンス軽視の企業には実効性がないと思います。まじめな会社であっても、粉飾に限らず個別の不祥事は起こすわけで、一般的な「不祥事予防対策」は、このようなまじめな会社の起こす不祥事を予防するには効果的です。しかし不祥事を起こしやすい環境にある「不祥事企業」では、そもそも未然予防の対策を担保できる社内風土がありませんので、実効性もないわけです。私はこの「不祥事企業」の兆候は「全社的内部統制の不備」に顕れるものと考えています。

たとえばこれだけ社員の業績評価の根拠となる数値が、各教室で勝手に歪曲され、その歪曲された数値によって昇格する人たちが出てくるのですから、普段からどんな内部通報があったのか、とても興味があります。それとも通報がなかったのでしょうか。内部通報制度のチェックは、全社的な内部統制の有効性判断のひとつですが、同社で内部通報制度が有効に機能しているという評価はどのような理由によるものなのでしょうか(ちなみに第三者委員会は十分に社員に周知されていなかったとされています)。

このように「まじめな企業」なのか、「コンプライアンス軽視の企業」なのか、一般投資家は知りたいわけですが、いろいろな開示情報を総合して推察するしか方法はありません。その中で、やはり監査法人さんの出すシグナルは大きな意味があるわけで、残念ながらJ-SOXがその役割を果たしえないまま現在に至っているというのが現状です。もし内部統制報告制度が機能していないのであれば、ステークホルダーに対する説明責任を果たすべき第三者委員会報告書のなかで、投資家が「この会社は多額の返済金を抱えながらも今後事業を継続できるのかどうか」を判断するための有力な手掛かりを開示してほしいと思います。それは冒頭に示したとおり、監査役は何をしていたのか、監査法人は何をしていたのか、そして監査役と監査法人はどのように協働していたのか、という点です。もしモニタリングが機能していたのであれば、これから先も「自浄能力」を発揮できる企業として期待できますが、機能していないというのであれば、もはや自浄能力は何ら期待できないということになります。同社のリリースにあるように「経営トップは今後も頑張ります」ということで、今後も会長さんが君臨するのであれば、なおさら自浄能力がなければコンプライアンス軽視の風土は変わらないはずです。

これだけの企業を一代で築き上げられ、「親族は絶対に後継者にはしない」と公言されているカリスマ会長さんがいらっしゃるのですから、監査役さん方には厳しい監査環境があったかと想像します。しかし、監査法人と協働したり、内部監査部と協働することで、少しでも経営に対する進言を行い、残念ながら経営トップに受け容れられない結果となったとしても、「ああ、これだけ頑張っているモニタリング機関があるのか」と感じることができれば企業再生への期待は大きくなるはずです。そのあたり、有事に至った企業の社会的責任の一端として、なんとか開示されることを期待しています。

2月 17, 2014 内部通報制度 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2014年2月10日 (月)

内部告発は市民を救う?-最近の企業不祥事の発覚要因として

(2月10日午前 追記・修正あります)

先週月曜日(2月3日)、大阪科学技術センターにて、消費者庁主催シンポ「お客様と社員の声が企業を救う」にパネリストとして登壇させていただきました。その際、あらためて「内部通報制度の充実は内部告発から企業を守る」と申し上げました。もちろん、内部通報をしたことによって(事実上)社内で不利益な取り扱いをされないことが必要ですし、不正を隠すためではなく、自浄能力を発揮するためであることを明確にすることが前提です。

食材虚偽表示事件において、消費者庁から排除措置命令を受けた阪急阪神ホテルズ社から、先日第三者委員会報告書が公表されました。その報告書の中でも「この事件が内部告発によって明るみとなったとの一部ネット上で噂になっていたので、あらためて調査したところ、内部告発によって事件が明るみになったものではなく、社内調査によるものであることを確認した」とありました。内部告発によって不祥事が明るみになったということになりますと、やはり自浄能力が発揮されなかったことを世間にさらしてしまうことになりかねません。企業のリスク管理という意味において、まさにお客様と社員の声が企業を救う時代だと思います。

ところで、最近報じられている不祥事の発覚については、はたして内部通報や独自の社内調査によるものなのか、それとも内部告発(第三者に対する情報提供)によるものなのか、よくわからないものがあります。ひょっとすると社員が通報したにもかかわらず、企業がこれを無視していたので、やむなく外部に告発した・・・という事例もあるかもしれません。たとえば東京海上日動さんの12万件にも及ぶ保険金不払いの件ですが、この件はどうなんでしょうか。金融庁からの調査指示があったとのことですが、こういったケースでは内部告発が行政当局に集まる例が多いと思います。金融庁から指示があった時期よりも、以前に東京海上日動さんのほうに通報があったのか、なかったのか、内部告発や内部通報があたりまえとなった時代ですので、そのあたりはたいへん知りたいところです。

また三菱地所さんが販売していた青山の分譲マンション契約解除の件ですが、これも2ちゃんねるマンションの契約者や所有者を中心とした書き込みのあるコミュニティサイト(「マンションコミュニティ」)の元ネタと最近の新聞報道とを比較してみると、かなり元ネタの信ぴょう性が高いように思えました。2ちゃんねるにどなたかが告発していることよりも、このような掲示板の書き込みを分譲マンション購入者が見つける時代になったことに驚きを感じます。いくら内部告発があったとしても、マスコミや利害関係者の目に留まらなければ社会的な反響にはならないわけですから、やはり内部告発のおそろしさを認識した事例かと思います(しかし、この掲示板の書き込みが見つけられなかったとしたら、契約者の方々は、そのままマンションは引き渡されたのでしょうね)。

追記 コメント欄のとおり、一部誤りについてご指摘を受けましたので、修正させていただきました。私が2ちゃんねるで閲覧したものは、二次情報だったようです。訂正してお詫び申し上げます<m(__)m>。

以前このブログでも「『裏』内部通報窓口」の存在を書いたことがありますが、企業の方々が内部通報つぶしに躍起になっているうちに、通報者が裏の通報窓口に告発してしまい、目も当てられない状況になってしまうことも考えられます。社員の通報に対しては真摯に対応され、不正は早期に発見、処理されることがリスク管理としても大切だと思います。企業は有事になったときに、なかなか有事であることを認めたがらない(そのことが二次不祥事を招くわけですが)・・・ということを肝に銘じておくべきです。

2月 10, 2014 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年11月25日 (月)

内部告発を防ぐための自浄能力発揮は重要-自治労共済内部告発事件

相変わらず本業で忙しくしておりまして、ブログ更新を楽しむ時間的余裕はないのですが、日曜日の夜くらいだったらクライアントの皆様に文句も言われないだろう・・・・・・と思って、こっそりと更新しておきます。(ちなみに、先週、会社法改正法案がこの臨時国会において閣議決定され、次期通常国会で法案が成立する見通し、とのニュースが出ておりましたね。会社法見直し要綱から、実質的にみて重要な変化があったようですが、また後日そのあたりはブログで私見を述べたいと思います)。

さて、今年も多くの企業不正事件が話題になっていますが、とりわけメニュー偽装事件、クール宅急便事件、秋田書店社、ぴあ社などの出版社の不祥事、そして多くの不適切会計事件の特徴は、その不祥事発覚が内部告発(社内から外部への情報提供)に起因する、という点です。ITソリューションの進化に伴い、企業内部の情報共有体制が確立する一方、労働市場の流動化、広がる賃金格差、さらにパワハラ問題などが深刻化する中で、社内不正が外部に漏えいするリスクはますます高まっています。

ところで、10月24日の毎日新聞でも報じられていましたが、自治労共済島根県支部の職員の方が組織の不正を内部告発したのですが、その際に組織の内部資料を外部へ持ち出した行為は違法なものだった、と裁判所で認定されました。広島地裁松江支部は、(職員が社内パソコンから会社情報を持ち出した、という)社内規則違反を根拠とする自治労側の解雇権行使について、「合理的かつ社会的相当性あるもの」と判断したそうです。一審の判決に従って職員に支払った賃金相当分(1270万円)も返還せよ、とのこと。

ちなみに本事件の一審(松江地裁)はまったく逆の判断で、職員が勝訴していました。その理由としては、この職員の方はいきなり内部告発に及んだのではなく、まず先に自治労共済本部へ内部通報を行ったこと、実際にこの職員の行動によって県支部による不正が発覚し、法令遵守が維持されるようになったことなどから、資料の持ち出しはあくまでも公益通報目的であったと認定しています(つまり自治労共済側は解雇権の濫用であり、得べかりし賃金相当の1270万円も支払え、とのこと)。この一審判決に関する詳細は朝日新聞の「法と経済のジャーナル」のほうで紹介されています(ただし有料版)。

高裁でなぜ自治労側が逆転勝訴したかといいますと、先の毎日新聞ニュースによると、職員の方が内部告発をしようとした際には、すでに事件処理はほぼ解決していたのであり、もはや内部告発を必要とする時期ではなかった、にもかかわらず内部資料を外部に持ち出そうとする職員の行為は、組織を困惑させるためのものであり、公益通報目的とはいえない、というものです。自治労県支部における不正(交通事故対応において不適切な処理が複数回行われていた、というもの)はたしかに明るみになっていますが、これが内部告発の前にどの程度明確になっていたのかは報道からはわかりません。

本件はおそらく原告(被控訴人)から上告(上告受理申立)がなされていると思いますので、まだ確定しているものではありません。しかし、これら一審、控訴審判決から理解できることは、まず公益通報目的の社内情報取得行為は、その構成要件該当性は別として、原則としては違法性が阻却される、ということです。公益通報者保護法の保護要件に該当する内部告発のための情報持出し行為については、組織と社員との信頼関係を破壊するものではない、ということが前提となっています。これは当ブログでも過去に何度か申し上げているところです。

そしてもうひとつ、企業が内部通報制度を充実させることは、事実として内部告発を防ぐ効果があると同時に、内部告発のための社内情報持出しを防ぐ効果もある、という点です。内部通報を受理した企業が、自浄能力を発揮して社内調査を行い、不正事実を認定し、関係者の社内処分を行う、ということになれば、「この会社では内部通報制度が機能している。通報者は不利益制裁を受けることはない。」と社員に周知徹底されれば、不正を知った社員は内部告発よりも内部通報を選択する確率が高くなります。しかしそれだけでなく、本件の高裁判断からすると、すでに企業の不祥事対応が解決済みとなった場合に、社員が内部告発に必要な情報(証拠となりそうな資料等)を社内から取得して外部に持ち出した場合、その行為は法律によって保護される可能性が少なくなるので、結果として告発を思いとどまる、ということになります。

もちろん企業不祥事がほぼ解決した、というのはどの時点か・・・という問題は残りますし、何を持って「解決した」とみるべきなのかは難しい判断だと思います。しかし、企業が内部告発によって「二次不祥事」を発生させることを極力回避するためには、やはり内部通報制度を充実させることにより、まず自力で不祥事対応を図るということの重要性を改めて感じさせる事件です(たとえば1カ月半ほど前にNHK職員による会社資金横領事件が新聞で大きく報じられましたが、NHK社によって自浄能力発揮型の対応がとられたので、もはやどれほどの皆様がこの事件を記憶しているでしょうか・・・・・)。

11月 25, 2013 内部通報制度 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年10月22日 (火)

スターダスト社はなぜ内部告発の事実を公表したのか?

10月17日に出版社「ぴあ」(ぴあ株式会社 東証1部)が、印刷部数を印税支払い先に虚偽報告していた問題で、ももクロの所属事務所スターダストプロモーションは20日、問題発覚のきっかけが内部告発だったと明らかにしました(スターダスト社のリリースはこちら)。このリリースにより、ぴあ社の内部社員が、虚偽報告の相手であるスターダスト社に内部告発したことがきっかけで本件事件が発覚したことが明らかになりました。また、取引先への虚偽報告が、ぴあ社の取締役の承認のもとで行われていたことも明らかになりました。

しかし、10月17日付けのぴあ社のリリースには、「取引先からの問い合わせで知った」とあるだけで、内部告発のことについても、経営陣の関与についても一切触れられていません。スターダスト社の公表以降、ぴあ社からは何らのリリースも出ていないようです。このような内部告発は、すでに社内で告発者が特定されるケースがほとんどです。告発内容から、どのようなポジションの社員が告発したのかは推測できますし、また(まじめな)内部告発の場合、まずヘルプライン(内部通報窓口)に最初に通報するか、もしくは上司や同僚に相談することが多いからです。つまり、スターダスト社からぴあ社に問い合わせがあった9月の時点で、ぴあ社としては告発者がほぼ特定できていたと思われます。

スターダスト社としては、ぴあ社が上場会社であるため、おそらく自浄能力を働かせるものと期待していたと思いますが、あまりにぴあ社の対応に誠意がないものとショックを受けて、内部告発によって発覚した事実を公表したものだと思います。また、内部告発者が悪者扱いされることを防止するために、わざわざ告発文書の要約まで公表したのではないでしょうか。したがって、私的に最も関心がある事実は、この内部告発よりも前に、ぴあ社には社員からの内部通報があったのかどうか、もしくは公益通報者保護法における公益通報(たとえば上司に対する相談等)があったのかどうか、という点です。そのような通報が存在したにもかかわらず、対応していなかったということであれば、まさに自浄能力の欠如が顕著な事案かと。

今回のスターダスト社のリリースからみると、ぴあ社では取締役が不正隠ぺいに関与していたとのことですし、印税支払いを免れていた、ということは財務書類に不正があったことになります。つまり財務計算書類作成についてのコンプライアンス意識の欠如が全社的に存在していた、ということになります。たしかに決算報告の上では、量的重要性に乏しいわけで、リリースにもあるように業績には軽微な影響しかないものと思います。しかし経営陣が関与している不正ということで、これは質的重要性に問題が生じています。

取引関係における不正ということですから、投資家向けの財務報告に直ちに影響が出るわけではありませんが、このように安易に取引上の数値を改編する、ということは決算財務報告プロセスにも明らかに問題があり、これは開示すべき重要な不備に該当し、内部統制は有効とはいえないものと考えます。この点、監査法人さんはどのように考えているのでしょうか。私は、もし今回の事件がぴあ社の全社的内部統制の重大な不備ではないと言えるのであれば、この異常行動(2008年以降、このような不正は他に1件もなかったというのですから、これは明らかに「異常行動」です)が、なぜ取締役関与のもとに行われたのか、その特殊性が誰の目から見ても明らかな程度に合理的に説明できなければならないと考えています。その合理的な説明が認められない限り、ぴあ社には全社的内部統制の重大な不備が存在する、と言われても仕方ないはずです。

ぴあ社が品位ある企業として、誰からも尊敬される企業として、このような不正だけはしてほしくない、という意識で告発に至った社員は、相当の覚悟をもってのことかと思います。事実上不利益な処分を受けることにもなりかねません。それだけの覚悟をもって行った告発の結果が、ぴあ社の公表した処分内容と釣り合うのかどうか、そのあたりはお読みになった方の判断に任せるしかないと思います。ただ、調査委員会が、2008年以降の同種取引の調査を徹底しているとのことですが、これは発見的措置であり、再発防止のための予防的措置ではありません。統制環境に問題があり、全社的な内部統制に不備があるのであれば、その原因を究明したうえで、内部統制に問題が生じないような措置を講じることが必要です。

また、今回のスターダスト社のリリースにもあるように、たとえぴあ社が法令を遵守する行動に出たとしても、それだけでは取引先の信頼は回復されません。社会の信用を回復するために必要な対応こそ、損害を最小限度に抑えるためのリスク管理として必要なことだと思います。

10月 22, 2013 内部通報制度 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年8月23日 (金)

秋田書店当選者水増し事件から公益通報者保護法を考える

ネット上で大きな話題となっている秋田書店さんの当選者水増し問題(雑誌の当選プレゼントの数が、実際の当選者の人数よりも多く表示されていた問題)ですが、書店側が消費者庁から有利誤認(景表法4条1項2号)に基づく再発防止命令を受けていることは、皆様すでにご承知のとおりです(消費者庁のリリースはこちら)。

ところが問題はそれだけに終わらず、この水増し問題を外部に告発した元社員が「私が解雇されたのは水増し問題を告発したことによるものであり、不当解雇だ」とユニオン(首都圏青年ユニオン)に駆け込み、さらに書店側を相手取って解雇無効の訴訟を提起する予定であることが毎日新聞ニュースで報じられました。この毎日新聞のニュースに対しては(本日、書店側が一部事実誤認を認めて修正したものの)書店側より反論のリリースが出ています。

ところで、本日ユニオン側からの公表によりますと、この元社員の方は、解雇された平成24年3月より後にユニオンに加入したそうで、その後ユニオンが元社員の解雇を不当として書店側と団体交渉をしましたが、交渉が決裂したために(ユニオンが)平成24年の夏ころ、消費者庁へ情報を提供した、とのこと。消費者庁へ情報を提供したのはユニオンだったのですね。

そこで紛争の原因である「解雇の正当理由」ですが、書店側は「元社員がプレゼント商品を勝手に窃取したことが解雇の理由」と述べ、元社員側は「景品を窃取したことなど一切ない。解雇理由など全く存在しない。」と反論していますので、元社員の景品私物化の有無が解雇の正当理由を判断するための争点になるように思われます。毎日新聞ニュースによると、「元社員はプレゼント景品を当選者に発送せず、不法に窃取した」と解雇理由書には記載されているようなので、書店側も、このプレゼント商品の私物化ということを前提として解雇の有効性を導き出す予定だと思います。

ちなみに消費者庁が秋田書店に行政処分を下した理由とされている当選者水増しの時期は平成22年4月から平成24年5月までであり、元社員が休職していたのは平成23年9月から、解雇された平成24年3月までです。もし消費者庁が認定した水増しの発生期間に間違いがないとすれば、(元社員が会社を休んでいる間にも不正は発生していたので)上記の解雇理由書記載の解雇理由には、ほとんど説得力が欠けているように思われます。元社員の休職中にプレゼント商品の水増し表示が社内で問題となり、社内調査をしたところ、さかのぼって元社員のプレゼント商品窃取の事実が明るみになった、というストーリーでなければ書店側の主張は通らないような気がします(しかし元社員の休職中の不当な表示も問題になっているので、これも苦しいか・・・)。

本件紛争の解決のために、公益通報者保護法の要件該当性まで論点になるかどうかは今のところ不明ですが、ともかく確認しておくべきことは、元社員が公益通報者保護法で保護される要件が備わっていれば、それだけで解雇は無効となる、ということです(公益通報者保護法3条)。だからこそ秋田書店側としては「告発と解雇は全く関係がない」と主張することになります。

書店側は「不当に元社員がプレゼント商品を窃取した」と主張していますが、元社員の方は、外部告発を目的としてプレゼント商品を無断で社内から持ち出していたことが考えられます。この場合、書店側の主張するように勝手に窃取したことになりますと、窃盗罪の成立が問題となります。しかし、この点については、公益通報目的での証拠品の持ち出し、ということは窃盗罪としての犯罪行為は成立しないはずです。

その理由は、元社員がユニオンに外部告発することは公益通報者保護法第2条の公益通報に該当する可能性が高いからです。ちなみに公益通報者保護法の対象となる通報事実は、原則として違反行為について刑事罰が予定されているような犯罪事実を指しますが、当選者水増し行為(不当表示行為)には刑事罰はないものの、違反行為に関する排除措置命令に反する行為については刑事罰が規定されていますので、これも対象事実に含まれることになります(同法2条3項2号)。また、通報提供先としては「外部第三者」として労働組合も含まれると解されていますので、公益通報の通報提供先という面からも保護要件を満たす可能性が高いと思われます。

Book_110072713元社員がユニオンへ行った外部告発が公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するのであれば、元社員の方がプレゼント商品を書店側に無断で持ち出したとしても、これは公益通報のために持ち出したことになります。したがって刑法上の窃盗罪の構成要件に該当したとしても、その違法性は阻却されます(このあたりの詳しい内容は拙著「内部告発・内部通報-その光と影-」をご参照ください)。つまり形の上では「窃取」にあたるとしても、実質的には何ら犯罪行為にはならないということですし、もちろん懲戒解雇の正当理由には該当しないことになります。もし、元社員の方が、自らの私利私欲のために告発とは無関係にプレゼント商品を持ち出したのであれば別ですが、ユニオンへの外部告発事実の正しいことを立証するために持ち出したということであれば、書店側は別の解雇理由を考えなければ解雇を正当とすることはむずかしいのではないでしょうか。

なお、これは私の個人的な推測にすぎませんが、私の内部告発代理人の経験からみますと、こういった内部告発は、元社員の方ひとりで行ったのではなく、だれか社員の中に共感者がいるのではないかと思われます。告発することを精神的に支援したり、証拠集めに協力したり、という具合に元社員の支援をしていた社員が未だ社内に存在するのではないかと考えています。そうでなければ、なかなかこれだけの企業不祥事を告発する決意を固めることはできないかもしれません。

消費者集団訴訟制度もほぼ成立することが確実となり、消費者庁としての次の目標は公益通報者保護法の改正です。まだまだ周知されていない制度であるがゆえに、公益通報制度に萎縮的な効果が出ないような運用が望まれるところです。

8月 23, 2013 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年8月21日 (水)

内部通報制度・最新事情2題-自浄能力の発揮に向けて

秋田書店さんの景表法違反問題(当選者の水増し問題)が大きく報じられています。消費者庁のリリースをみると長期間にわたり、相当細かく水増しの内容が特定されているので、おそらく内部告発によって発覚したものといえそうです。8月20日の こちらのNHKニュースによりますと、取材に協力しておられる元社員の証言もかなり詳細なので間違いないものと思います。さらにおそろしいのはこちらのTBSニュースでして、「他社でもやっている」との証言が出ています。

以前医薬品登録販売員試験の虚偽証明書提出事件の際にも申し上げましたが、企業がこのような悪質な不正行為をなぜ行うかといいますと「他社もやっている」という担当者の認識が規範意識を鈍麻させるからです。さて今後、同様の事例が他社からも出てくるのかどうか、これは内部通報や内部告発によって明らかになるものと予想します。

さて、本業に関する話題はあまりつぶやかないようにしていますが、内部通報制度に関する話題をふたつほど。何かのご参考にしていただければと思います。

多くの企業では、すでに内部通報制度が整備されているところも多いと思いますが、通報窓口への通報だけではうまく機能しないケースもあるかと。実際、内部通報が握りつぶされてしまうこともあります。そこで、正規の通報ルートとは異なるかもしれませんが、内部通報が一番機能する可能性が高いのは、やはり「社外監査役」しかも独立性のある社外監査役さんに直接通報することだと思います。たとえ正規のルートではないとしても、社外監査役が通報事実を知ってしまった以上は、これを握りつぶしてしまいますと法的な責任を追及されるリスクが極めて高いはずです。また監査役という立場からしても、社内調査を行いやすい立場ですし、なんといっても最悪のケースでは辞任という切り札を切ってでも社内の隠ぺいに対して反対することができます。

そしてもうひとつは、内部通報の外部窓口(たとえば法律事務所など)は、意外と中間管理職の方々に評判が良い、ということです。中間管理職の方々は、部下の苦情に対して、どうしても経営者寄りの発言になってしまうことがあります。しかし、だからといって部下達の不正不満がいきなり外部へ情報提供されたり、また管理職を飛び越して役員クラスに通報が直接飛んでしまうことはつらいわけでして、そこで中間管理職の方々は悩むわけです。このようなときに、内部通報が外部窓口に持ち込まれ、そこで常識的な審査結果を示してもらいますと、ずいぶんと気持ちが楽になるようです(パワハラ案件などが代表的な例です)。「常識的に考えても通報者の言い分のほうが分が悪い・・・」ということを通報者に認識してほしい、という願望がかなり強いようです。もちろん外部窓口の担当者が会社寄りの意見しか言わない・・・というのでは困りものですが。

8月 21, 2013 内部通報制度 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年4月 5日 (金)

集団訴訟制度の創設で日の目を見るか-公益通報者保護法

(4月5日午前 追記あります)

株価、これからどうなるんでしょうね?円は100円までいってしまうのでしょうか?

本日の経団連タイムス(4月4日付け)によりますと、日米欧の経済団体が共同で「日本における集団訴訟制度への緊急提言」を3月25日に公表したことが報じられております(経団連タイムスはこちら)。先日(3月29日)の日経新聞朝刊でも日本版クラスアクションとして「乱訴の懸念、焦る企業」の見出しで大きく特集記事が掲載されておりました。差止めだけでなく、今後は消費者被害の金銭的救済という視点からも集団訴訟(集団的消費者被害救済制度)が認められることになり、これは企業経営にとっても重大な問題であります(なお遡及適用の問題については、こちらの担当大臣会見記録等から、消費者庁の温度のようなものが感じられそうです)。

今国会へ法案を提出する予定とありますが、景気回復基調に水を差すのではないか、といった危惧感から、上記のとおり経済団体は緊急提言を公表されたようです。集団訴訟の対象は消費者契約の目的物に限定される(生命、身体等への拡大損害は除外)わけですが、それでも消費者庁の立法上の考え方からみると、悪質事業者かどうかは、個々の事案ごとに判断されるわけであります。どんなにCSR経営で著名な企業であったとしても、個々の事案では「駆逐されるべき悪質事業者」として評価される可能性があるわけですから、この制度のリスクはかなり高いものがあるように思います。有価証券報告書の虚偽記載事案についても、個々の事案ごとに適用対象となるかどうか検討を要する、というのが消費者庁の考え方であります。

アメリカのクラスアクションでは、被害者側の法律事務所が社内の事情を知っている者に対して内部告発を呼び掛けることもありますが(たとえばこちらの記事など)、日本でもそのような呼び掛けがなされるかどうかは別として、消費者適格団体への内部告発の増加は十分考えられるところです。消費者適格団体への内部告発は公益通報者保護法によって保護される対象になるはずですし、通報目的による社内情報の持ち出し、情報提供行為も適法とされる可能性が高いと思われます。これまであまり認知度が高まってこなかった公益通報者保護法も、今回の集団訴訟制度の創設でかなり周知されるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の一番大切なことは不良製品を作らない、説明義務を怠らない、不平等な取り扱いをしない、ということだと思いますが、不都合な事態が発生したとしても、これを内部できちんと把握する体制を整備運用することも大切ではないかと。こういった集団訴訟制度が施行されますと、そのリスクの大きさから「不利益事実は隠す」という風潮が生まれるかもしれません。しかし、不利益事実を隠ぺいするような行動は内部告発を誘発し、債務不履行を基礎付ける事実を認定しうる有力な証拠になってしまう可能性もあります。「ブラック企業」の仲間入りを果たさないためにも、消費者庁管轄である公益通報者保護法の運用にも関心を向けていただきたいと思います。

(4月5日午前9時 追記)

朝日新聞の朝刊に「消費者団体が代行訴訟ー企業、年最大19兆円の損失」といったショッキングな記事が掲載されています。慶応大学教授の試算によりますと、現在検討されている制度だと1兆円程度の損失見込みだが、今後訴訟を起こせる条件が緩和された場合には6兆円から19兆円の損失が企業に生じる可能性があるとのこと。企業と消費者との公平な損失の負担、といったほうが正しいかと思いますが。

4月 5, 2013 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2012年8月31日 (金)

内部告発者に対する社内リニエンシー制度の適用

すでにマスコミ各社で報じられているとおり、8月29日に大阪市元職員による「市職員による金品着服の内部告発」に関する大阪地裁判決が出たようであります。内部告発を行った元職員は、自らも事件に関与していたものとして、大阪市から懲戒解雇処分を下されていましたが、この懲戒処分は重過ぎる(裁量権の濫用に該当する)として、大阪地裁は処分を取消す判決を言い渡したそうであります(たとえばこちらの読売新聞ニュース)。

本件は、内部告発を行ったことに対して、その報いとして告発者が所属する組織から不利益な制裁処分を受けたものではありませんので、公益通報者保護法に関する問題とは区別して考えたほうが良いと思われます。つまり、自身も関与していた不正事実を公表し、あわせて証拠を提供することによって不正摘発に協力をしたものでありますが、結果として組織の不正を是正した告発者自身に課せられる懲戒処分が軽減されるべきかどうか、という点が問題となりそうです。

朝日新聞の記事によりますと、大阪地裁の裁判官は

「内部告発の結果、組織不正の是正が図られており、男性の処分の内容を選ぶ際に有利な事情として考慮すべきことは明らかだ」

と判決理由が示したそうなので、たとえ内部通報(自身の所属する組織の通報窓口に通報したケース)ではなく、内部告発(外部第三者に対して通報すること)がなされた場合でも、告発者に対しては社内リニエンシー制度に近い運用がなされるべきである、ということを示したものでありまして、かなり注目される判決ではないでしょうか。ちなみに今年8月に最高裁で確定したオリンパス配転命令無効確認等請求事件の場合は、社内のヘルプラインに通報した事例なので、本件のようにいきなり外部第三者へ告発された事例とは少し性質が異なるものと思われます。

最近は各企業のヘルプライン(内部通報規約)にも、役職員が加担する不正事実について、社内調査開始前に自主申告をして、さらに社内調査に協力した場合には、当該社員に対する社内処分の減免を定めるケース(いわゆる社内リニエンシー)も見受けられます。とくに海外カルテルなど、独禁法上の不正行為に関与した職員の自主申告は喫緊の課題であり、かなり社内リニエンシーも一般化しているものと思われます。

ところで本件判決は、内部通報制度を整備している一般企業の場合にも、果たして参考になるのでしょうか。一般の企業では、自浄能力を発揮することを目指して、社内の不正はできるだけ社内の窓口で受理したいと考えており、そのために(内部通報者への)自主申告者への処分減免制度を整備しているはずであります。しかしながら、社内の通報窓口ではなく、いきなり外部第三者へ告発されるケースであっても、社内処分の減免を図らねばならないとすると、そもそも内部通報を奨励し、できるかぎり自浄能力を発揮させるためのインセンティブがなくなってしまうようにも思われます。

上記の大阪地裁判決でも述べられているように、本件は「組織ぐるみ」の不正であり、「不正が長期にわたって放置されたことについて、市の監督責任がある」と思われることから、市役所内部に通報したとしても(監督責任をおそれた)市役所が不正を十分に調査することが期待できず、また周囲の社員から嫌がらせを受ける可能性も高かったことが推測されます。したがって、マスコミへの情報提供もやむをえなかったものと思われるところであり、内部通報とは言えない場合でも懲戒処分の減免がなされるべき事案だったのではないでしょうか。とりわけ「懲戒解雇処分」(組織→市民社会)という、最も厳しい処分が審査対象となっていましたので、裁判所も裁量権の逸脱について慎重な判断がなされたことも考慮すべき点であります。

しかし内部統制システムの一環として内部通報制度を整備し、できるだけ内部告発を減らそうと努力している一般企業としては、不正申告者が、内部通報制度を活用することなく、ダイレクトに内部告発を行った場合には別異に考えるべきではないかと。(もちろん、厳格な要件のもとで公益通報者保護法上の保護が図られることはあるとしても)自ら関与した不正への処分を企業が検討するにあたり、常にリニエンシー制度を適用しなければならない、とまでは言えないように思います。

8月 31, 2012 内部通報制度 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年8月16日 (木)

組織の不正抑止への意欲と内部通報の件数は比例する

ひさびさの内部通報ネタでありますが、8月13日、消費者庁(公益通報者保護法ウェブサイト)HPに平成23年度行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査結果がアップされております。厳密には公益通報と内部通報とは異なりますが(公益通報は厳格な要件のもとで外部通報も保護対象に含まれます。したがって、この調査結果の後半では、外部労働者からの通報集計結果も公表されております)、行政機関ごとの公益通報制度の運用状況が垣間見えるものとして、興味をそそります。

政令指定都市の比較表をみますと、大阪市がダントツの通報件数(550件以上)とありますが、これは私が説明するまでもなく、大阪市長の内部通報奨励策によるものであることに間違いありません(通報事実を十分に調査せず公表したために、後日大きな問題になってしまった事件もありました 「内部通報事実の事前開示はリスクが高い」参照)。その他の政令指定都市では、神戸市が比較的多くの通報を受理しているようです(33件)。私も神戸市に招かれたことがございますが、ここはとても職員のコンプライアンス意識の向上策に熱心に取り組んでおられるところであり、たとえば民間企業におけるコンプライアンス経営の取り組みなどを自らの組織にも採り入れようと努力されておられます。内部通報制度がどのように運用されれば実効性が高まるのか、という点についても試行錯誤されていらっしゃると思います。もちろん神戸市職員による不祥事も、ときどき新聞ネタとして登場しますので、決して組織自身に不正が少ないとは申し上げられませんが、この数字は前向きに取り組んでおられる証左ではないかと感じます。

都道府県レベルでの比較になりますと、あまり通報の受理件数が増えていないところが多いようです。これは公益通報制度における通報対象事実の範囲に関する問題ではないかと思われます。大阪市や神戸市のように、公益通報制度の受付窓口において、広く公務員倫理規定違反が疑われる事実も受理するものと定めた場合には、職員が比較的安心して通報することができますが、東京都のように法の定める「公益通報に限る」ものとすると、そもそも何が公益通報者保護法の定める公益通報に該当するのか、その通報事実がもし間違っていたら自分はどのような処分を受けるのか、といったことを通報者が不安にかられます。不正をただす、ということは正義に適うことではありますが、自ら不利益な制裁を受けることを覚悟してまで通報を行う、という方はほとんどおられないはずです。そう考えますと、公益通報制度運用にあたり、通報対象事実を厳格に解することによって、この制度はほとんど機能しなくなってしまうことがわかります(ひょっとすると、都道府県単位では、もっと内部的には緩やかな苦情相談窓口のようなものがあり、そこに公益通報に近いものが集約されているのかもしれません)。こうなりますと、せっかく組織不正を自ら把握するチャンスがあるにもかかわらず、マスコミ等への内部告発に向かってしまって、二次不祥事を発生させてしまうという、残念なケースに発展してしまうリスクが生じてしまいます。

このような調査結果からみますと、内部通報は、組織トップがどれだけ制度運用に熱心であるか、ということで通報受理件数に大きな差がつくものであることがわかります。自浄能力のある企業の形成こそ、これからのコンプライアンス経営の要諦であると思いますが、内部通報によって、速やかに組織の不正を把握することこそ、企業の自浄能力を発揮する第一歩となります。組織自身による内部通報制度運用に関する創意工夫が、通報件数を増やす要因となるものであり、決して不祥事が多い組織であることを客観的に世に示すものではないことを、あらためて認識しておきたいところであります。

8月 16, 2012 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年8月 6日 (月)

デジタルフォレンジックと通報者および調査対象者の人権保護

今月(8月24日)大阪におきまして、2011年4月に当ブログでも著書をご紹介いたしましたAOSテクノロジーの佐々木隆仁氏、国際訴訟手続きに詳しい上智大学研究員の北村浩氏と講演会(セミナー)をご一緒させていただきます(レクシスネクシス主催セミナーのご案内はこちら)。無料セミナーということでして、とても耳寄りなお話かと。。。大阪開催となりますので、関西の皆様向けに、ということになりますが、私がご紹介するまでもなく、デジタルフォレンジックは、もはや企業のリーガルリスク管理のうえで、当然に対応しておかなければならない分野でして、とりわけ少しでも海外進出をされている企業の経営者の方々は、企業の情報管理(漏えい防止等)、カルテル、FCPA(海外腐敗行為防止法)対策、民事訴訟のディスカバリー対応の関係では、できるだけ企業の金銭的負担を少なくするために必須の対策として認識しておくべき課題かと思われます。

私の個人的意見ですが、そもそもデジタルフォレンジックの中身を専門家以外の人間が理解せよ、などというものではなく、企業防衛のためには社内の人間と専門家との連携と協調が不可欠かと思います。以前にも少し書きましたが、企業不祥事が発生したケースや、海外の紛争に巻き込まれたケースにおいて、有事の初期段階に「社内の人たちが、ここまで対応していたら」たとえ専門家に依頼をした場合でも、その費用負担がきわめて低額に済むことになるわけです。つまり、「連係と協調」のために、フォレンジックの素人である社内の担当者がどこまで初動対応をしていたか、ということが大切なのであって、では社内の担当者は何ができるのか、という点を認識しておくことはとても重要かと。

これも全くの私見であり、どなたもまだおっしゃっておられないことかとは思いますが、デジタルフォレンジックの効用というのはかなり広がりがありまして、たとえば社内不正の疑惑があったとします。企業としましては、調査対象者の刑事告訴、あるいは民事責任追及、社内処分を前提として、不正事実の証拠化を図りたいと考えます。これらの証拠化作業のためにデジタルフォレンジックが有効であることは、最近の新聞報道等からも明らかですし、以前ご紹介した上記AOS社の佐々木社長の著書でも詳しく解説されています。

しかし、社内調査委員会等の支援を行った私の経験からすれば、フォレンジックの手法によって常に不正事実の証拠化に成功するわけではありません。不正事実の疑惑が深まることはあったとしても、その証拠化されたものによって、調査対象者の責任が十分に問えるとまでは言えない・・・・ということもあるわけでして、企業側としても「いざ調査対象者へのヒアリング」という段階になって、詰め切れるだけの手持ちの駒にはならないこともありえます。しかしだからといって、デジタルフォレンジックの成果品が意味をなさない、というものではなく、むしろ調査対象者への更なる調査活動や、たとえば内部通報者自身の人権保護の面においても有効に機能する場面が考えられます。

不正調査の現場では、メール調査やPC、スマホのチェック、調査対象者の個人情報の入手など、できれば調査対象者の事前の承諾なくして調査を進めたい手続きが要請されるところです。いままでも調査の必要性と人権保障とをどのようにバランスをとるか・・・ということに関する裁判例が多数出ています。その判断基準のひとつとして、調査対象者の不正の嫌疑が強いケースでは、より不正調査の必要性が高いものとして、より調査対象者にとって厳しい調査手続きが適法と認定されます(メールの調査においても、何かないか・・・という一般探索型の調査は違法になる可能性が高くても、すでに不正の嫌疑が他の証拠からみて強いケースでは、適法とされる可能性が高まる、といったところかと)。

つまり、デジタルフォレンジックによって、(それ自体では十分な証拠とはいえなくても)、不正の嫌疑が強まることで、より不正調査の手法の選択肢が広がる、ということでして、これは社内調査の実務にとってはかなり効果的なものだと思われます。またときどき不正事実を企業が知る端緒となります内部通報ですが、これも手続きの途中で、通報者が「これ以上の調査をしないでほしい」と企業側に求めるケースが出てきます。通報手続きを適切に遂行しなければ、企業が大きな損失を受けることは昨年8月31日に出されましたオリンパス配転命令等無効確認事件の高裁判決などでも明らかですが、こういった通報に基づく社内調査手続きが適切になされていることを立証するために有効な証跡が残ります(ひいては通報者のための適正手続きが担保されることになります)し、なによりも不正事実の嫌疑が高まることによって、たとえ通報者から調査中止の要望がなされたとしても、企業のステークホルダーのために調査を続行することの合理性を理由付ける根拠にもなります。

デジタルフォレンジックは、語る人によって「想定される有用性」について異なるところがあると思います。ただ社内調査の現場感覚からしますと、上記のように、会社のリスクをいろいろと低減させるための手法を提供してくれるものであり、その可能性はまだまだ広がりをみせるものと思います。フォレンジックの研究会が開催されますと、現役の裁判官や検察官が多数、研修におみえになる・・・というのも頷けるところではないでしょうか。

8月 6, 2012 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年6月 4日 (月)

内部通報制度と文書提出命令(シャルレMBO株主代表訴訟)

6月1日の朝日「法と経済のジャーナル」にて報じられているとおり、先月8日、シャルレのMBO株主代表訴訟に関連して、原告であるシャルレの株主の方々の(会社を相手方とする)文書提出命令の申立てが神戸地裁で認められた、とのことであります。つまり、裁判所が会社側に対して、役員の善管注意義務違反を立証しようとしている原告株主が「閲覧したい」と申し出ている文書を開示しなさいと命じた、というものです。ちなみに上記「法と経済のジャーナル」では、この決定文の全文もアップされております。

株主代表訴訟なので、基本的には被告はシャルレの役員なのですが、文書の所持者は法人であるシャルレです。そのため、株主代表訴訟とは別に、原告株主の方々は、法人であるシャルレを相手にシャルレが所持する文書を開示せよ、と求めることになります。どんな文書かといいますと、被告であるシャルレの役員の方々にミスがあった(善管注意義務違反)ことを立証するための文書を指します。たとえばMBOの際には、シャルレの側において、買付希望者側のTOB価格が適正かどうかを判断するわけですが、そのときはシャルレの取締役は、既存株主にとって不利にならないように最大限の注意を払って交渉しなければなりません。しかし一方でMBOの場合には、買付対象者側の取締役が買付希望者側にも関与するケースが多いために(できるだけ安く買いたいと考えるわけですから)、利益相反状況にあります。したがって本当にシャルレの株主にとって最大限の利益をもたらすような手続きをもって買付希望者のTOB価格に賛同したのかどうか(出来レースではないのか?)取締役の行動をチェックするために、シャルレの内部資料を開示せよ、というものです。

MBOの際、買付希望者側が、TOB価格を決定するために参考にされた株価算定書は、開示ルールによって開示が義務付けられているはずです。しかし賛同する側、つまりTOBの対象となる会社側の賛同意見形成のために参考とされる株価算定書については開示が義務付けられていません。したがって、構造的な利益相反状況にあるにもかかわらず、TOBをかけられた会社の取締役の善管注意義務違反が問題となるケースにおいて、会社側の資料が株主側には把握できず、裁判でも大きなハンデとなっておりました。

しかし神戸地裁の本決定は、株価算定書類だけでなく、株価算定の基礎資料とされる経営者作成の経営計画書等も文書提出命令の対象になるとしており、極めて画期的な決定ではないかと思われます。ただ、文書提出命令がどのような条件の下で認められるのか、この決定の射程距離がどのあたりまでになるのか、その線引きについては決定文を十分検討する必要があると思われますので、今後の民訴法学者や商法学者、企業実務家の方々の解説を期待するところです。また上記「法と経済のジャーナル」の記事によると、シャルレ側も「この命令は納得できない」として、抗告しておられるようですので、まだ確定したわけではないことを申し上げておきます。

さて、本件は取締役の善管注意義務(経営判断原則関連)に関わる重要な地裁決定であることは間違いないと思いますが、私個人がもっとも上記決定で興味を抱いたのは内部通報関連文書の取扱いであります。ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、シャルレのMBOの問題点が浮上してきたのは、当時の社内関係者から寄せられた数通の内部通報が発端です。原告株主の方々は、この内部通報を受理したときの受理記録についても文書提出命令の対象としておられます。しかし、上記地裁決定では、この内部通報関係書類だけは提出命令申立を認めませんでした。

その理由は決定文の13頁以下に詳細に記述されておりますが、要は内部通報関連文書が開示されてしまうと、通報者が不利益を受ける可能性があり、また文書提出命令の可能性があることで、通報がためらわれ、企業の内部通報制度の運用に支障が出てしまう、ということであります。したがって内部通報関連文書については、文書提出を拒むことができる文書(職業上の秘密文書 民訴法220条4号ハ、同197条1項3号)に該当する、とのこと。

内部通報の外部窓口業務に従事している弁護士は、匿名であれ顕名であれ、正確に通報受理記録を作成しますし、通報メールなども厳重に保管をしております。また会社の担当者とのやり取りなども記録として残しております。オリンパス損害賠償事件でも問題となりましたが、通報者が匿名を希望するかどうか、といった同意関係書類も保管しています。こういった一連の書類が文書提出命令の対象となりますと、おそらく窓口業務の際にも神経質にならざるをえないと思います。したがいまして、内部通報関連の書類については、これを除外する判断については内部通報実務からみて少々ホッとしている次第です。

6月 4, 2012 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2012年3月27日 (火)

内部通報事実の事前開示はリスクが高い(大阪市の事例より)

昨日に引き続き、内部通報制度に関するお話であります。橋下大阪市長が「法律家として危ういのではないかと思っていた」と述懐するほどに「トホホな結果」になってしまった市交通局の選挙支援職員リスト疑惑事件でありますが、本日(3月26日)大阪市は、内部告発の根拠とされた職員リストが嘱託職員によってねつ造されたものであることが判明したと公表しております。

市長就任直後に内部告発を奨励する制度を導入し、その甲斐あってか、前市長の応援に関する職員リスト問題が内部資料によって発覚したことが維新の会によって明らかにされ、市長は調査のための特命チームを発足する方針、と述べておられました。その後、労働組合側が「資料はねつ造」と反論し、反論に合理性が認められたため、維新の会も刑事告訴を行う、と混迷を深めていたところであります。そして結局のところ、不誠実な通報があったということになります(正確には資料作成者と内部告発者との関係はいまだ不明でありますが)。

先日講演させていただいた日本監査役協会主催のセミナー「内部通報・内部告発への監査役の対応」では、対応実務の解説を「不誠実な通報への対応」に絞りましたのも、まさにこういったことが一般企業でもよく起きるからでありまして、しかも取り返しのつかない状況に至るケースも散見されるからであります。今回は形式的には外部(政党)への告発事例でありますが、そもそも市長が内部告発を奨励し、その結果として維新の会に告発が届いておりますので、一般企業の内部通報制度に近い運用とみてよいかと思われます。したがいまして、内部通報制度が機能する場面において、通報事実を開示してしまった場面に等しいものと考えてよいのではないかと。

一般企業において内部通報制度が機能し、社員間に周知されるようになりますと、不誠実な通報が増えるのは当然のことであり、企業としましても、限りある人的・物的資源が、これらの不誠実通報の調査に費やされることを回避しなければなりません。しかし、窓口段階で簡単に「不誠実な通報」を仕分けできるわけでもないので、そのバランスをどうとるか、ということが問題となります。ましてや大阪市のようにトップ自らが内部通報や内部告発を奨励する、ということになりますと、窓口担当者および調査担当者は要注意であります。

「法律家として危ういのではないか」と考えるのは、私も同じであります。不誠実な通報は当然に増えるわけですから、その真偽が危ういのは何ら問題ではなく、むしろ当然であります。しかし問題は、告発事実の真偽もはっきりしないまま「告発事実ありき」で告発を受理した者がこれを開示してしまった点であります。「法律家として危うい」と感じなければならないのは、むしろこの告発を受理した者の行動であります。内部告発者は私利私欲、面白半分、あるいは組織に対する害意をもって、あるいは誰かを貶める意図をもって虚偽事実を通報してくる可能性があるわけですから、通報事実の調査は担当者間で厳格に情報管理を行い、その信ぴょう性を判断しなければなりません。したがいまして、内部通報・内部告発に基づく不正調査の運用実務からすれば、調査の途中で事実開示を行うことはありません。もしあるとすれば、すでに同様の事実がマスコミに内部告発され、マスコミからの取材に対して「そういった事実は内部でも問題視しており、現在鋭意調査中です」と回答する場合だけであります。

今回の事例では、維新の会側が内部告発を受けての発言が発端となりましたので、直接大阪市に責任が発生することはないのかもしれません。しかし、企業が内部通報や外部者からの告発を受理して、特定職員の不正事実に関する事実を途中で開示するのであれば、組織として「名誉毀損」に基づく損害賠償責任を負担する可能性が出てまいります。また、それ以上に問題なのは、今後の内部通報制度に関する組織内での信頼性であります。いったん通報事実が開示されながら、その内容が虚偽であった、ということが組織の内外に明白になりますと、今後は不正調査に関する信頼性が失われ、「またガセネタでは」と誰もが考えますし、調査の秘密が守られないことへの恐怖感から、まともな通報が上がってこなくなる、という事態となります。

市議会を構成する特定の政党と内部通報者との関係なども取りざたされておりますが、これは本件の特殊事情であり、あまりそういったことには関心がございません。むしろ、こういったトラブルが、せっかく軌道に乗り出した内部通報制度の機能を喪失させてしまうリスクがあること、これは大阪市だけでなく、どこの企業においても同様のリスクがあることを認識することが肝要ではないでしょうか。

3月 27, 2012 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年3月26日 (月)

PCメールの抜き打ち調査と内部通報の奨励について

検索サイト大手のグーグル社が東京地裁より「表示差止め」に関する仮処分命令を発令されたにもかかわらず、これに従わない状況が続いているそうです。数年前、プリンスホテルさんが、本業である宴会場使用に関する仮処分命令に従わなかったときはコンプライアンスを無視したとんでもない会社としてマスコミや国民、そして司法裁判所から大きな非難を浴びました。同じようにグーグル社(少なくとも日本法人のグーグル社)も本業に関する命令ですから「裁判所の命令に従わないトンデモ会社」として世間や裁判所の強い非難を浴びるのでしょうか?かりに浴びないとすれば、それはプリンスホテルさんの場合とどのような差があるからなのでしょうか。ちなみに「山口利昭」で検索してみますと「山口利昭法律事務所」と「山口利昭 弁護士」が自動検索されるだけでした(よかった・・・)。ここに「山口利昭 悪徳弁護士」とか「山口利昭 懲戒」などと自動検索されれば、おそらくどこの企業さんにもセミナー講師として招聘いただけないか、と(^^;;そう思うと、債権者(申立人)の気持ちもよくわかります。。。(以下、本題)

先ごろ、大阪市の職員(幹部)のメール調査について新聞で報じられておりましたが、企業(官公庁)所有・管理にかかるパソコンやサーバーに保存された送受信メールの(無承諾による)調査についてはなかなか難しいところがございます。

誹謗中傷メールの調査を行った会社のメール調査の違法性が問われた日経クイック事件判決(東京地裁判決 平成14年2月26日 労働判例825号50頁)などを参考にしますと、保存されている会社所有のパソコンについては、①メールを無断で調査する必要性があり、②調査の方法も相当で、③調査対象者のプライバシー侵害の程度も重大とはいえない場合には調査は違法とは言えない、と考えるのが適切かと思われます。つまり会社の勝手な目的によって一般探索型の調査を行うというのは問題であり、調査対象者に不正の疑いがある場合で、かつプライバシー侵害の程度が重大とは言えない方法、つまり事前に包括的な調査承諾ルールが定められており、なおかつメール調査でなければ有力な証拠が得られない、といった事情がなければ適法とは言えないものと考えます(ちなみに社員所有のパソコンやスマホについては私的なメールが含まれている蓋然性が極めて高いので、無断調査の違法性は極めて高いと思われます)。

そうしますと、やはり内部通報などによる情報入手は、上記の「メールを無断で調査する必要性」の要件を満たすためにも有効な手法かと思われます。もちろん、単に内部通報があったということだけでは無理でして、通報をもとに調査をしたところ、調査対象者の不正の蓋然性が高いと認められ、かつメール調査以外には有効な証拠収集方法が見当たらない、といった状況にあることが必要かと。

ここでさらに厳格な要件を求める立場もあるようです。たとえばメール調査について、任意の提出を求め、これを拒否された場合に初めて調査ができる、といった考え方です。しかし、昨年の12月16日にリリースされたゲオ社の不明朗取引に関する第三者委員会調査報告書にも登場しましたように、最近は「メール復元ソフト」だけでなく、「メール復元を困難にするソフト」も簡単に手に入る時代となりました。つまり調査対象者に事前に任意提出を求めた場合、対象者はこれを拒否して、関連パソコンから「復元困難ソフト」を用いてメールを抹消してしまう、ということが考えられます。これは不正調査を著しく困難にしてしまいますので、おそらく「抜き打ち調査」自体もある程度の調査の必要性が認められる場合には許容されるのではないでしょうか。先の日経クイック事件では、メール調査以前の事前面談において、調査対象者が不正事実への関与を否定したことが「必要性」を認めた重要なポイントだったようですが、事前面談も証拠隠滅を促す要素となりますので、面談がなくても、他の証拠によって不正関与の蓋然性が認められる場合には「必要性あり」とされるのではないかと(これは完全に個人的意見ですが)。

内部通報制度の充実は、自浄能力を高めるため、また「組織ぐるみの犯罪ではないか」といった疑惑を排除するためにも有効であることは毎度申し上げているところでありますが、こういった不正調査の手法の有効性を基礎付けることにもつながるわけでして、調査対象者の人権に配慮しながら社内処分、民事、刑事立件のための証拠を保全するためにも有意義なものと考えます。

3月 26, 2012 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 6日 (火)

JR東日本株主代表訴訟で考える「内部告発より怖い内部通報」

JR東日本社が、自社の信濃川発電所(新潟県)で、国の許可水量を上回る不正取水を見過ごし会社に損害を与えたとして、同社の株主3人が現・旧役員20人に対し57億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を東京地裁に提起したそうであります(毎日新聞ニュースはこちら)。役員らによる不正調査義務違反、もしくは内部統制構築義務違反を根拠とする株主代表訴訟、ということですが、行政当局からいったん水利権許可が取り消されていますし、データの改ざんもあったようなので、原則的には法令遵守体制の整備義務違反、ということでしょうか。

こういった役員の不作為の違法(調査義務違反もしくは内部統制構築義務違反による任務懈怠)が認められるためには、不作為が「作為」と評価しうる程度の違法性が認められる必要性があると思われます。上記毎日新聞ニュースによると、従前から地域住民らによって渇水被害の苦情が寄せられていた、ということですから、苦情があったにもかかわらず、何等の対応を取らなかったことを「不作為による任務懈怠」ととらえるようであります。

しかし住民から苦情が出ていたとしても、それが取締役の元へ情報として伝達されていなければ「作為」と評価しうる程度の不作為(調査義務違反)とまでは言えないようにも思われます。仮に、苦情を受理していた担当社員が、多数の苦情が出ていることを明確に上部に伝えていたのであれば、パロマ工業(元社長)刑事事件判決と同様、国民の生命・身体・財産への危険を取り除くことは経営判断において優先課題とされるべき、と思われますので「調査義務義務」についても現実味を帯びてくるかもしれません。そのあたりの事情がどうであったかは、報道内容からは不明です。

そもそもそういった苦情が上層部へ伝達される仕組み自体が具備されていなかった、ということであれば、調査義務違反とは言えませんが、また別の論点が出てくる可能性もありそうです。JR西日本福知山線の裁判でも問題とされているとおり、ATS(列車自動停止装置)を福知山線の事故現場に「優先的に」設置しておくべき義務があったかどうかは、「危険」に関する情報が当時的確に上層部に集約される体制が整っていたかどうか、ということと関連します。何が経営判断における最優先課題か、ということは、そもそも上層部に的確に判断根拠となる情報が集約される体制が整っていなければ判断すること自体が困難です。大きな組織であれば、経営者が組織のすべてに監視義務を負う、ということは非現実的なので、なおさら(監視義務に代わる)内部統制の構築の要請が高まるわけです。

パロマ工業事件判決をご紹介したときにも申し上げましたが、経営トップは鉄道事業の安全対策を含め、多くの経営判断事項を抱えていますので、取水制限違反の事実調査を、なぜ最重要課題としなければならなかったのか、具体的にどのような情報伝達経路を整備していれば、不正の兆候に関する情報を集約できたのか、そのあたりを原告側は丁寧に論証していかねばならないはずです(経営者はスーパーマンではないので、会社のトップとして、できる範囲のことをやれば任務懈怠に問われることはありません)。

さて、こういったケースにおきまして、企業側にとって一番怖いのが「内部通報があった事実」ではないかと。たとえば現場の担当者の行動を問題視していた同僚からヘルプラインに通報があったとしますと、これはダイレクトに経営トップが「不正の兆候」を認識していたことを証明するものです。このような通報と受けながら、なんら調査をせず放置していた、ということになりますと、これは最優先課題と認識する機会がありながら後回しにした、ということで善管注意義務違反が認定しやすくなると思われます。内部告発であれば、外部への情報提供ということですから、経営者は情報を把握していなかった、ということで責任を回避できるかもしれません。しかし内部通報となりますと、「不正の兆候を知っていた」もしくは「兆候を知る機会があったが、あえて放置した」ということになり、経営陣は非常に苦しい立場に置かれるのではないでしょうか。

経営者の調査義務違反や内部統制構築義務違反を問う裁判においては、この「不正の兆候の有無」や「内部統制構築義務」の中身を具体化する作業がとても重要になりますが、そこでも内部通報の有無は役員の任務懈怠の有無に影響を与える可能性があり、裁判の結果を分ける要素にもなりえることを認識すべきだと思います。

12月 6, 2011 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月24日 (月)

大王製紙事件にみる「内部通報が内部告発に変わるおそろしさ」

日曜(23日)夜の日経ニュース「大王製紙前会長の巨額借入れ、問われる企業統治-社外役員の役割重要」はひさしぶりに読み応えのある記事でした。企業法務に詳しい弁護士、学者の方々のご意見も「なるほど」と思いましたし(私も19日、20日と毎日新聞でコメントを掲載していただきましたが、無利息なら利息相当分は「利益供与」に該当するのでは?との発想はございませんでした・・・・なるほど・・・・・)、なによりも子会社役員、親会社役員、社外役員の役割をきちんと整理してガバナンス問題に突っ込んでいるところに個人的に好感がもてました(こんな風にオリンパス社長解職事件のほうも突っ込んでいただければ・・・・と)。

上記記事を読み、元会長さんの借入金の解明問題は特別背任の要件該当性に、そして巨額借入が長い間放置されていた問題は役員の監視義務違反に、それぞれ重要な意味を持つことが理解できますが、実はもうひとつ本事件には重要な意味を持つことがあります。それは、元会長さんへ実際に融資をした関連子会社の担当部長の方が、親会社である大王製紙に対して「いくら創業家といっても、無担保で巨額借入とはいかがなものか」と内部通報をされ、これがきっかけとなって子会社52社すべての社内調査が開始された、という点であります。

そもそも「創業家会長に無担保の巨額貸出がある」という事実は、開示の対象となっている以上、親会社の一部社員の間では公知の事実です。おそらく、この内部通報をされた子会社の部長さんと同様に「これってまずくない?」といった意識を持っておられた社員の方もいらっしゃるはずです。ひょっとすると、後日、監査法人の指摘で、元会長さんへの貸付金焦げ付きが問題となったとき、とりあえず社内的には創業家の方々が損失分を補てんすることで内々に済ませる・・・ということもありえたのではないでしょうか。

しかし融資をした子会社の融資担当部長さんからの内部通報があった。ご承知のとおり、最近はヘルプライン規約が整備されていますから、通報があった以上はきちんと対応しなければならない。もし「うやむや」にしてしまえば、会社自身による二次不祥事となるばかりか、内部通報者が今度は外部に「内部告発」をすることが考えられます。名門企業であれば、これは是非とも回避したいと思うところです。将棋でいえば、「歩」が裏返って「金」になってしまうような感覚であります。内部通報➔社内調査➔公表、という流れであればまだ「自浄能力のある会社」としての面目は立ちますが、内部告発➔マスコミ報道➔公表という流れとなってしまいますと、まさに「コンプライアンスを軽視する企業風土」まさに、かつてのダスキン事件の例と同様の傾向になってしまいます。

思うに、ここまで大きな問題に発展してしまった大王製紙の巨額借入事件でありますが、この担当部長さんが内部告発をせずに、実名で内部通報を選択されたのは、これ以上に大王製紙さんがまずい状況になることを回避しつつ、最後の最後に地方の名門企業のプライドを保つためではなかったかと。最後の最後に、大王製紙の企業統治の健全性に賭けたのではないかと推測いたします。ステークホルダーへの説明責任が厳しく問われる時代となり、あえて企業の不利益情報を公表する内部者への対応は極めて重要となりつつあります。「社員がおかしいなぁと感じていること」をそのまま放置していると、後日大きな代償が待っているのかもしれません。

10月 24, 2011 内部通報制度 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年9月17日 (土)

内部通報で大手製紙会社会長辞任とのこと。

本日は、プロデュース事件の株主の方々が、監査見逃し責任追及の提訴をされたこと、日本公認会計士協会のHPに「架空循環取引防止のための監査」の指針が公表されたこと、コージツのTOBが成立し会社側の今後の対応が注目されることなど、いろいろとエントリーを書きたい話題が多いのですが、内部告発ネタの備忘録としてひとつだけ。

グループ企業7社から合計84億円を借入れ、未だ50億円ほど返還されていないという大手製紙会社の創業家会長さんが「ガバナンス上よろしくない」とのことで辞任された記事が報じられております。日経ニュースでは、グループ会社社員からの「内部告発」(たぶん内部通報だと思いますが)によって、今月7日より社長が調査を開始、その後会長さんが辞任されたということですから、このたびも内部通報が発端となったようであります。ただ、たとえ内部通報が発端となったとしても、今回の結末に至るまでは、様々な葛藤があったものと推測いたします。

どうなんでしょうか、まったく親会社の中で公知の事実ではなく、本当に今回の通報で経営陣が知るところとなったのでしょうか。今後の特別調査委員会での報告内容で明らかになることを期待いたします。それにしても、先日のオリンパス事件といい、九電やらせメール事件といい、内部通報や内部告発が世間の話題となる企業事件の発端となる確率が以前と比較しても高くなってきたように思います。

9月 17, 2011 内部通報制度 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年9月10日 (土)

オリンパス配転無効事件-最高裁へ-

先日、ご紹介したオリンパス配転無効確認等請求事件の控訴審判決ですが、エントリーで予想しましたとおり、やはりオリンパス社側は上告をしたそうであります(読売新聞ニュースはこちら)。「当社の見解と控訴審判決では大きな隔たりがある」(広報室)とのこと。

内部通報の運用に関わる論点が、最高裁でどのように判断されるのか(ひょっとして判断されない可能性もありますが)、非常に興味のあるところで、今後の上告受理、上告申立事件の手続きについて注目しておきたいと思います。

ちなみに朝日「法と経済のジャーナル」で知りましたが、消費者庁が内部告発の実態調査に乗り出すそうです。今年3月、公益通報者保護法の改正が見送られましたので、ぜひ立法事実の解明につながるような調査を期待いたします。

9月 10, 2011 内部通報制度 | | コメント (20) | トラックバック (0)

2011年8月31日 (水)

やっと認められた内部通報への制裁と「人事権濫用」論-オリンパス事件-

本日(8月31日)東京高裁においてオリンパス社員引き抜き事件の判決が下され、社内のヘルプラインに通報をした社員への配転命令の無効が確認された、とのことであります(会社に対する損害賠償も認容された、とのこと 朝日新聞ニュースはこちら)。社員側の完全な逆転勝訴判決であります。

私も、昨年出版いたしました「内部告発・内部通報-その光と影-」(経済産業調査会)の中におきまして、2010年1月25日の東京地裁判決(原審判決)に疑問を持ち、「この判決内容であれば、企業にヘルプライン(内部通報制度)を作らないほうがましである」(39頁)と述べ、またヘルプラインへ通報した社員に対する通報直後の配置転換ついては事実上の制裁であることの推定が働くため、配置転換の必要性は会社側が積極的に立証すべきであり、立証できなければ「人事権の濫用」とすべきである、そのほうが労働契約法15条の趣旨(懲戒権濫用の禁止)に合致する(196頁以下)と提案しておりましたので、このたびの高裁判決はまことに妥当なものと考えております。

内部告発者、内部通報者の保護については、これまで判例の上では「解雇権濫用」論によって浸透されてきたわけでありますが、浸透するにつれ、企業側も学習機能が働き、いわゆる事実上の制裁措置(社内の閑職に追いやる、隔離する、自宅待機を命じる)によって自主的な退職を迫る、という手法に変わってきました。配置転換は、いわば内部通報者に対する事実上の制裁措置としては企業側の「伝家の宝刀」でして、ここにメスが入った今回の高裁判決は非常に実務に与える影響は大きいものと判断いたします。とりわけトナミ運輸事件のような「内部告発」事例ではなく、社内の窓口への「内部通報」の事案に適用された意義が大きいのではないでしょうか。

また判決全文を読む機会がありましたら勉強させていただくとして、とりいそぎ速報版のみということで。

PS

昨日の日債銀事件差戻し控訴審判決につきましても、朝日の法と経済のジャーナルに判決要旨が掲載されており、エントリーを書きたいのですが、ちょっと本業が忙しいため、またの機会にさせていただきます。

8月 31, 2011 内部通報制度 | | コメント (10) | トラックバック (0)

2011年2月22日 (火)

内部通報(内部告発)は必ず連鎖反応が生じる

今朝(2月21日)の日経新聞法務インサイドでは、公益通報者保護法施行5年にあたり、予定されていた法改正の見通しが立たない模様であることが報じられておりました。すでに当ブログでもご紹介しましたとおり、公益通報者保護法の使い勝手が悪すぎるために、これを活用する従業員はほとんどいないのではないか、と思われますが、それ以前の問題として、そもそも公益通報者保護法自体を全く知らない方も多いのが現実であります。したがいまして、まずは公益通報者保護法の周知徹底を図り、なおかつその活用状況をもう少し検証することが必要、ということになりそうです。

上記記事でコメントを述べておられる弁護士の方々がおっしゃるとおり、匿名による内部告発がネット掲示板(動画も含めて)に流れる事態が今後増えることは間違いないところであります。では、なぜ「匿名による内部告発がネット掲示板に流出すること」が企業にとって好ましくないかと申しますと、もちろん企業の不正が社外に流出することによる企業の信用毀損ということもありますが、それと同時に「二次不祥事」を招来する点がもっとも恐ろしいからであります。

まず、匿名による告発で不正事実が不確かな情報として流出した場合、企業はこれを隠すもしくは否認する方向で動くケースがあります。しかしこれは内部告発者の気持ちを逆撫でするものでありまして、マスコミにさらに詳細な事実を(証拠をつけて)告発するケースへと発展いたします。これで企業の「不祥事体質」が明確に世間に公表されることになります。やはり何の前触れもなくいきなり不正事実が流出するとなりますと、企業側にも対応準備の時間がないため、一般社会の常識では考えられないような行動に出ることも致し方ない面もあるのかもしれません。

つぎに、私が企業側で経験するもっとも多い二次不祥事は、ひとつの不祥事についての内部告発が行われ、これが世間的に話題になりますと、通報窓口にも、またマスコミにも次から次へと同様の、もしくは全く別事件の不祥事に関する内部通報や内部告発が届けられる、という事態であります。たとえば会計不正事件が発覚して、第三者委員会が設置されると、そこへ別の性能偽装事件に関する不正の通報が届き、1年後に別の不正に関するリリースが公表される(これはある東証1部の会社で実際に最近発生した事例であります)、という事態や、NOVA事件の際、行政当局が調査に動いたことが新聞で報じれると、直ちに不正を裏付ける証拠となる通報が相次いで行政当局に届く、といった事例などであります。

先週金曜日(2月18日)、リスクマネジメント・コンサルタント会社であるデイー・クエストさん主催のセミナーで講演させていただきましたが、終了後の懇親会で、企業の内部通報窓口担当の方10名ほどに、各社の状況をお聞きいたしました。最近、不祥事で大きく報道された某会社のコンプライアンス統括室の方も来られておりましたが、非常に興味深かったのは、不祥事が大きく報じられた会社さんの場合、内部通報が一気に増えた会社さんが多いという事実であります。なかには、半年間で70件以上の内部通報が届いた、という企業もあり、それは不祥事が大きく報じられて、これをきっかけに多数の不正事実に関して通報が届けられたようであります。つまり内部通報や内部告発も、平時の企業にとっては身に降りかかる不利益が気になるのか通報が少ないわけですが、いざ企業が有事となりますと、おそらく従業員の方々にも不利益制裁を受けるリスクが低減することから、一気に勤務上における不正事実が、内外に持ち出されるのではないか、と考えます。

内部通報制度を拡充すること(上手に運用すること)で、社外に情報がいきなり流出するリスクを低減できることは間違いありませんが、こういった内部通報・内部告発の連鎖反応を抑止するためにも、きわめて実効性が高い制度、と言えそうであります。

2月 22, 2011 内部通報制度 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年2月 3日 (木)

内部通報者への解雇を無効とする判決(松江地裁)

(2月3日 追記)

共済組合内部における不正を厚労省に通報した際、内部情報をパソコンから持ち出したとして解雇処分とされた共済組合職員につきまして、本日、松江地裁は「内部通報による不正告発は共済組合の利益のために行われたものだから、情報の不正取得を理由とする解雇は無効」とする判決を出したそうであります。(産経新聞ニュースはこちら

通報事実の真実性を担保する資料を通報者が確保することは、組織の不正調査の実効性を高めるために不可欠でありますし、また通報者が公益通報者保護法上の外部通報の要件該当性を立証するためにも必要であります。また、情報の不正取得が組織の秘密との関係で問題となるのであれば、民事問題として処理すれば足りるはずであります。したがいまして、私自身はこの裁判所の判断は適切であろうかと思います。

ただ今回の事例は解雇権濫用事例でありますが、内部通報により事実上の不利益制裁を受けるようなケースが非常に問題かと思います。また、企業の内部情報が明らかに不正事実の根拠となりうるケースであれば良いでしょうが、資料を持ち出すまで不正の立証に不可欠なものかどうかわからないこともあるでしょう。そういった場合の情報持ち出し行為をどうみるのか、といったことも課題として残るところです。

(追記)2月3日の朝日新聞「法と経済のジャーナル」で詳細な事件経過についての記事が出ておりますね。私は朝刊社会面で読みましたが、大阪版しか掲載されていなかったようです。

内部告発の資料入手方法の正当性につきましては、すでに有名な宮崎信金事件(福岡高裁宮崎支部判決 平成14年7月2日 労判833号48頁以下)がありまして、そこでは企業の内部情報を許可なく取得し内部告発を行う行為については形式的には窃盗罪に該当し、また当該行為が会社の就業規則上の懲戒対象事由に該当するとしても、行為の目的や手段に正当性があり、また相当な手段による場合には、その違法性が否定されることが示されております。(拙著では、不正競争防止法平成21年改正との関連性も含めて、このあたりについて解説しておりますので、ご関心のある方はそちらをご参考ください)本判決も、この宮崎信金事件の基準に沿った形での判断であったと思われます。

なお、朝日「法と経済のジャーナル」の記事では、当該職員は情報取得に及ぶ以前から、何度も社内で是正を求めていたようですので、そのあたりも裁判所は手段の正当性判断のうえで考慮しているのではないだろうか・・・と推測いたします。

2月 3, 2011 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年1月27日 (木)

田辺三菱未試験薬販売事件にみる「内部告発」の脅威(その1)

前橋市が内部通報報奨制度を施行するそうであります。内部通報をした職員に対して現金や図書カード(1万から2万円相当)などの報奨を付与する、というものであり、内部通報(内部告発)に対価を付与するという制度はおそらく日本では初めてではないでしょうか。内部通報を促進することが主たる目的というよりも、報奨制度が存在することの「威嚇的効果」(不正の予防的効果)を狙ったものなのかもしれませんね。報奨金には税金が使われますので、費用対効果が市民に理解できるような説明が必要だと思われます。ただ、前にもご紹介しましたとおり、昨年11月に我が国はISO26000(組織の社会的責任に関する国際規格)を承認しておりまして、そのなかでは内部通報制度の整備と運用が重要な評価基準のひとつとされております。したがいまして、報奨制度が実際に良質の内部通報の増加につながるかどうかは別としまして、今後民間団体、公共団体にかかわらず内部通報制度の実効性を高める施策を(対外的なアピールとして)公表するところが増えるのは当然のことと思われます。現に海外ではCSRの一環として内部通報報奨制度が導入される例も増えておりますので、特に珍しくないように思います。

さて、昨年6月、試験データ改ざん事件(メドウェイ事件)の再発防止策として「内部通報制度を充実させます」と宣言されておられた田辺三菱製薬社におきまして、グループ子会社でふたたび未試験の注射薬が販売されていたことが発覚し、朝日新聞の第一報をはじめ、すでに多くの報道がなされております。発覚の経緯を詳細にみていきますと、①常勤監査役が業務監査において未試験販売の疑いを発見、同時に子会社従業員が子会社および親会社に内部通報→②親会社において社内調査開始→③社内調査の結果、未試験販売の事実なし、と認定そして報告→④子会社従業員 報道機関に内部告発→⑤報道機関、親会社に不正事実に関する問い合わせ→⑥親会社、社外調査委員会設置→⑦社外調査委員会、未試験販売の事実を認定→⑧親会社、厚労省へ社外調査委員会の報告内容を届出→⑨朝日新聞が不正事実を報道、といったところのようであります。(これを受けて、厚労省では薬事法違反の事実の有無につき、すでに工場等の立ち入り検査を開始した、とのこと)

記者会見の内容によりますと、子会社工場では、出荷前の最終試験を担当官が8年以上、ひとりで行っていたようでして、(朝日新聞朝刊記事からですが)工場内ではすでに長年噂になっており、「告発はしないように」「会社がなくなったら困るもんね」「外に出たらまずい」といった話も出ていたそうであります。本件の事件内容はまた有識者の方々による検証委員会の報告で詳細になると思われますが、企業コンプライアンスの視点からは、いろいろな問題点が浮かび上がる事件であります。とりわけ内部通報に対する社内の対応に不都合がある場合、すぐさま通報者はマスコミへの内部告発に向かうわけでして、もはやこれは典型的な内部告発の脅威として受け止めなければならないと思います。このたびは、上記事実関係の流れからみますと、新聞記者からの質問内容からみて、もはや隠ぺいすることは困難と判断したため、(おそらく法律顧問等の意見も聴取したうえで)社外の第三者委員会設置に踏み切ったものと推測いたします。

各論的にみていきますと、まず関心を抱きますのが未試験販売という不正の発見に関する筋道であります。いかにして社内で不正が発見されるか?というのは企業コンプライアンスの永遠の課題でありますが、このたびは典型的なパターンのようです。つまり、①通常ならば試験で使われているはずの道具や装置などを、当該試験担当者が使っていない、②たとえ道具や装置などが使われていたとしても、試験結果の数と、道具や装置の仕入れの数とが合わない、といったところに社内で不審に思った社員がおり、これらの事実をもとに社内の噂などを総合して内部通報に至ったもののようであります。ロイターさんの記事によりますと、この従業員は昨年の8月以降、問題の試験担当者の後任の方が疑念を抱いた方のようでありますので、やはり技術者でなければ不正が見抜けないものであったこと(いわゆる「技術者倫理」の問題)、職場のローテーションが不正を予防する実効性が高いことが窺われます。(なお、子会社の常勤監査役さんが昨年9月ころに業務監査において疑念を抱いた、との報道がありますが、これは監査役さんに当初内部通報が届いたのか、それとも監査役自ら発見したのかは定かではございません。私自身はおそらく前者ではないかと推測いたします)このような根拠による内部通報に対して、はたして社内調査委員会ではどのような理由で「試験は実際に行われていた」という結論に至ったのでしょうか?朝日新聞の26日朝刊記事では、試験を実施していたことをうかがわせるデータが偽造されており、調査委員会はこの記録をみて「実施されていた」という結論に至ったようでありますが、それであればあまりにも社内調査がお粗末なように思えます。調査を担当していた者には、「事なかれ主義」の気持ちが入り込み、かなりバイアスがかかっていたことはやむをえないとしましても、「内部通報制度を充実させる」と宣言されていた企業として、通報制度をどのように運用しておられたのか、このあたりの詳細なご説明があれば、と思います。

たしかメドウェイ事件が発覚したときの報道だと記憶しておりますが、あの事件も平成22年4月15日の読売新聞、同月16日の朝日新聞の記事によりますと、試験データ改ざんの件が内部通報によって上層部に上がってきたのであります。そして上層部はこの通報に対して「また、社内の派閥争いによるガセネタだ。適当に処理しておこう」といった認識を持ち、このような共通認識が社内に蔓延し、結局のところ通報内容の真偽につき十分な調査が行われなかった、とのことでした。しかし、同様の状況はどこの企業にも起こりうる問題点でありまして、会社に重大な影響を及ぼすおそれのある通報が届いた瞬間から、社内の方々がみなさん、自分が「こうあってほしい」という方向での正当化理由を探し、そこで安心してしまうのであります。おそらく、今回の件における社内調査委員会の調査担当者の方々にも、同様のバイアスが働いていたのではないか?と推測いたします。(長くなりましたので、続きはその2とさせていただきます。)

1月 27, 2011 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年9月28日 (火)

改正不正競争防止法と内部告発の「正当な目的」

本日(9月27日)の日経新聞「法務インサイド」では、2009年改正不正競争防止法の施行(施行は今年7月1日)により、営業秘密侵害罪の適用範囲が格段に広くなったため、これまで泣き寝入りをしていた中小企業経営者にとっては(営業秘密侵害罪が)大きな武器になる、と解説されておりました。競業他社や従業員によって秘密が盗まれても、これまでは不正競争目的や(営業秘密の)使用・開示行為が要件とされていたために、なかなか刑事責任が問われる場面が狭かったのでありますが、今回の改正によって「取得行為」そのものが処罰の対象とされ、また「保有者に損害を加える目的」があれば足りる、とされました。これで中小企業経営者にとっても、営業秘密を勝手に取得されるリスクは乏しくなり、安心して事業活動に従事することができる、ということのようであります。

しかし(本記事では触れられておりませんが)従業員が内部告発を行う目的で、自社の営業秘密を持ち出すことについては、原則として改正後の営業秘密侵害罪は成立しないものと解されます。これは右サイドバーでもご紹介しております拙著「内部告発・内部通報-その光と影-」でも、代表的な判例である宮崎信用金庫事件判決の解説とともに詳しく述べております。公益通報者保護法によって従業員が保護される要件はかなり厳格であるため、その立証方法としては書証が重要な材料となるわけでして、そこでは内部告発の事実を立証するためにどうしても内部資料の持ち出しが不可欠となる場合もあります(ここが保障されなければ公益通報者保護制度は不当に委縮してしまうことになります)。したがいまして、会社の不正を糺すために公益通報を行う目的で従業員が営業秘密として管理されている文書や電子記録を社外に持ち出す行為は、正当な目的による持ち出し行為となり、犯罪を構成するものとはならないわけであります。このことは、本日の記事に登場されていらっしゃる改正法の立案担当者の方も、法律雑誌や国会での答弁で明確に述べておられます。できれば来年に控えております公益通報者保護法の改正のなかで、このあたりは明記していただきたいところであります。(ただし民事問題という点は別途考慮が必要かと思われます)

また、もう少し根本的なところで、そもそも中小企業が秘密として管理したい情報等が盗み出された場合、果たして告訴するだろうか?という疑問も湧きます(ちなみに営業秘密侵害罪は親告罪)。刑事事件となりますので、公開の法廷で審理されるわけですが、記録へのアクセスは制限されているとはいえ、わざわざ営業秘密が公開されるリスクを負ってまで、加害者の訴追を求めるのかどうかは極めて怪しいと思われます。本当に泣き寝入りをしてくないのであれば、そもそも情報管理の手法自体を見直さざるをえないのではないだろうか・・・と思うのでありますが。

さて、こういった不正競争防止法との関係等も含めて、内部告発・内部通報制度の最新情報や企業側からみた(リスク低減のための)対応についてお話させていただく出版記念講演を、10月6日大阪の谷町4丁目大江ビルにて開催いたします。(内部告発・内部通報、出版記念セミナーのお知らせはこちら)おかげさまで、多くの方にお申し込みをいただいたため、あらためて会場を拡張(会議室を増やしました)させていただきましたので、まだ若干の余裕がございます。月刊監査役10月号では、昨年の内部統制ラウンドテーブルでご一緒させていただいた大先輩の監査役の方から書評をいただきました。(ありがとうございます~(T△T))拙著をお読みいただいた方にも、重複にならないよう講演内容は工夫しておりますので、どうかお越しいただければ幸いです。参加費用は非常にお安くなっております、ハイ。。。(^^;;

9月 28, 2010 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年8月26日 (木)

「内部告発・内部通報-その光と影-」出版記念講演決定

週刊経営財務8月23日号では「海外会計トピックス」においてドッド・フランク金融制度改革・消費者保護法について紹介されております。7月21日にオバマ大統領の署名により成立した法律でありますが、ここではSECに対する証券不正事件への内部告発者について、多大な報奨金が出ることが規定されております(詳細は、今後具体的な規則が制定されるまではわかりませんが、SECが執行訴訟によって回収した金額の10~30%、ということですから、報奨金は日本円にして10億~20億円になることも予想されます)。記事によりますと、不正会計事件にはSOX法よりもドッド・フランク法のほうが有効なのかもしれない、との期待もあるようでして、細かなチェックをかける現在のSOX法よりも、報奨金を伴う内部告発のほうが効果的ではないか、との見方もあるとのこと。※

※ ちなみに現在のSOX法でも806条は企業による内部告発者への制裁禁止が謳われておりまして、SOX法は決して内部告発を奨励していない法律ではございません。念のため

高額の報奨金をもって内部告発を奨励することの是非は別としまして、我が国においても行政当局による調査が内部告発や第三者の通報を端緒として開始されることが多いことはよく知られているところであります。そこに外部からでは判明しえないような正確性の高い情報や証拠価値の高い内部資料が含まれているわけですから、当局も内部告発を奨励することは当然のことと思われます。とりわけリストラによる事業再編の増加、企業結合方式の多様化(たとえばフランチャイズ制等)により、企業中枢の機密情報に比較的容易に外部第三者や企業関係者がアクセスできる経営環境が増えたことで、告発を通じて不祥事情報が簡単に明るみに出る可能性も高くなっております。公益通報者保護法の認知度が高まっていることも要因のひとつであります。これを企業のリスクとみるか、それとも最も安価な不正発見システムとみるかは企業の考え方次第であります。

おかげさまで発売以来、多くの方にお読みいただいております「内部告発・内部通報-その光と影-」でありますが、このたび出版元であります経済産業調査会さん主催で出版記念セミナーを開催させていただくことになりました(すいません、大阪での講演となります)。日時は2010年10月6日(水)午後1時半から4時半まで。参加費はかなりお安い(^^;マジですか?

経済産業調査会近畿本部セミナーのお知らせ 本日(8月25日)より申込開始(ちょっと、題名の文字の「告発」がひとつ多いような・・・・26日未明現在)

内部告発によって企業が極めて高いリスクを背負う前に、どうすれば内部通報制度によって社内調査を優先させることができるか?「不誠実な通報」に対して企業はどう立ち向かえばよいのか?消費者庁による情報集約・公表のスピードに遅れて「二次不祥事」を発生させないためには、いかに社内情報を活用するか等、これからの企業に求められる内部告発対応、内部通報制度について、まじめに考えてみよう、という趣旨の講演であります。内部通報窓口や内部告発代理人という私の本業に近いところからの経験に基づく講演でありまして、こういった業務に興味のある同業者の方々のご参加も歓迎いたします(けっしてキレイな仕事ではありませんが、きちんとした守秘義務の感覚をお持ちの若い弁護士さん歓迎です!~笑)。内部通報を受理する担当部署の方、通報に基づき社内調査を行う方、事実に基づき社内処分を行う責任者の方、そして不祥事公表に向けての経営判断をされる方々にぜひともご参加いただければ幸いです。もちろん、これから内部告発をお考えの方もぜひお越しいただければ・・・と。

PS 

最近、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の簡素化が報じられておりますが、一年目の開示結果って、そんなに馬鹿にならないなぁ・・・と感じているのは私だけでしょうか?制度1年目の内部統制の有効性に関する評価結果を念頭に置いて、いろんな企業の開示をみていますとそろそろ登場してきております。投資家に迷惑をかけている企業さんも登場してきたり、社内にゴタゴタを抱えていることが露呈されてきた企業さんも出てきたり、なるほど・・・と頷けるような事態がポロポロ出てきていますよね。制度1年目に重要な欠陥あり、と開示した合計100社、ちゃんと記憶しておいたほうがよろしいのではないかと。「予兆を感じさせる」という意味では、けっこう前向きな制度ではないのかなぁと。簡素化については別に反対ではございませんが、この制度の良い面をもう少しきちんと検証しておいたほうがよろしいのではないかと思います(もう少し時間はかかりますが)。あと、よくわからないのですが、内部統制監査のレビューって、ダイレクトレポーティングを採用しなかったことと理屈のうえでは矛盾はしないのでしょうかね?監査との比較において四半期レビューというのはわかるのですが、内部統制監査とはどう区別されるのか、よく理解できません。

8月 26, 2010 内部通報制度 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2010年4月22日 (木)

グループ企業内部通報制度の考え方(整備編)

「とおりすがり」さんのご指摘で、「4月号の記事どうなんやろか」と思っておりましたが、案の定、中央経済社「ビジネス法務」誌でも・・・・・・・・・・ガックリorz(って、もう常連の皆様ならおわかりかと。。。 商事法務さんだけ書いて、中央経済社さんは書かないのは、やはり中立公正ではないと思いましたのであえてご挨拶代りに一言。 上場会社さんですし・・・・)

(話はガラっと変わりますが)

一昨日ご紹介した「上場会社の不正調査に関する公表事例の分析」(日本公認会計士協会)120頁の記述によりますと、分析対象会社30社のうち、会計監査人等からの指摘が8社、社内監査等での発見が6社、日常取引での不正発見、不正関与者の自主申告がそれらに続き4社であります。ここにも記載されているとおり、会計監査人や社内監査等での発見のうち、多くが社内での通報や告発に基づくものが含まれていると思われますし、また不正関与者の自主申告は、内部統制が厳格となり、逃げ場を失って自主申告に至ったケースも見られます。したがって、純粋に「怪しい」と睨んで発見に至ったのは「日常取引での不正発見」というパターンだけではないかと思われます。(この日常取引での不正発見というのはフォレジックの手法などによって端緒をつかんだ部類なのかもしれませんね)

同報告書でも「不正発見の環境を整えること」が課題とされており、「日本ではまだ利用度が高くないとされる社内・社外からの通報制度や、あるいは関与者による自主申告制度などの充実を図る必要がある」とされております。しかし、どうやって充実させればよいのか?という各論部分での議論というのは実際にはまだなされていないのが現実であります。

たとえば本日、TDNETにて開示されておりましたエムスリー社の「当社子会社メビックス株式会社の過去決算に係る調査結果について」でありますが、エムスリー社のTOBによって昨年8月にマザーズを廃止となりましたメビックス社の会計不正事件(経営陣が関与した売上前倒し計上事案)につきましては、連結後にメビックス社の社員が親会社であるエムスリー社に対して内部通報を行い、これが発端となって不正が発覚したそうであります。(社外調査委員会報告書、ご参照)経営陣が関与していた会計不正事件なので、自社内における通報制度がまったく機能しないパターンであり、親会社への通報が機能した典型的な事例であるといえます。

Naibutuhou002_2 最近よくみられる「子会社経営者による会計不正事例」に関する発見的機能を有するのがグループ企業内部通報制度であります。グループ企業内部通報モデルはいくつか種類がございますが、公益通報者保護法による社員の保護を重視した場合、外部窓口もしくは親会社の社内窓口へ子会社社員が直接通報できるパターンが比較的多いと思われます。

このモデルは一見素晴らしいように思えますが、実際に窓口業務を経験してみると、3つの欠点がございます。ひとつは子会社といえども独立した法人であり、子会社の秘密情報をダイレクトに親会社が取得してよいのか、という法的な問題、ふたつめは子会社社員のことを親会社はよく知らないために、スクリーニングがうまくいかず、いわゆる「デタラメや悪意に満ちた告発」に親会社が振り回される危険、そして三つめは公益通報者保護法によって社員が保護されるのは子会社との関係ですから、子会社としては「親会社に迷惑をかけたとんでもない社員」として出向や配置転換、ときには解雇処分など、事実上の不利益な取扱いが子会社から社員に対してなされる危険性が高い、というものであります。(すでに新聞報道もなされているような事件もあります)

しかし最近の会計不正事例をみますと、M&A後に子会社の不正が発覚するケースが多く、しかも子会社代表者の関与した事例がほとんどであります。こういった不正を防止することはできませんが、せめて早期に発見するためには、こういった短所はあるものの、グループ企業の親会社が一括して子会社の社員から通報を受理するような制度を運用せざるをえないのではないか、と最近は考え直しております(実は、以前は上記のような問題が多いことから、私自身は消極的でありました)。スクリーニングに関しては、子会社の監査役や共通の会計監査人等を通じて客観的な事実調査を行うことに工夫が必要であり、また子会社による事実上の不利益な取扱い禁止については、親子会社間においてあらかじめガイドライン等で明確に合意しておく必要があろうかと思われます。

4月 22, 2010 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年2月10日 (水)

小糸工業社はなぜ調査委員会を設置しなかったのか?

本日はずいぶんと多くの会社の不適切な会計処理に関するリリースが出ておりますが、なかでも内部告発との関連での不祥事に関するリリースが目に留まりました。航空機座席の大手メーカーである小糸工業社(東証2部)の座席強度偽装事件(国交省より業務改善勧告が出た、とのこと)が新聞等で大きくとりあげられており、本日(2月9日)も株価はストップ安となったそうであります。(小糸社のリリースはこちらです。しかし親会社はリコール問題や強度偽装問題でたいへんじゃないでしょうか。)

ところで、今回の不正発覚は、またしても複数の内部告発(社内→当局)によるものであり、おそらく当局も内部告発がなければここまでの調査は困難だったものと思われます。(複数の内部告発で福岡市が食品衛生法違反事実をなんとか突き止めた、あの船場吉兆事件と同じ構図ですね)しかしながら、昨年1月30日の小糸社の不祥事発覚の流れからみて、今回の株価ストップ安の状況を止めることはできたはずであり、なにゆえ1月30日以降に調査委員会を設置しなかったのでしょうか?社内事情を顧みずにあえて申し上げるならば、極めて初歩的なコンプライアンス上のミスがあったのではないかと想像いたします。

2009年1月30日に国土交通省および小糸社がリリースした不祥事の内容は、不正受検の典型的な事例であります。(試験には絶対に1回でパスするために、いわゆる試験用商品を別に用意して、受検後には別の商品を販売する、というもの。)ちなみに、チャートで調べたところ、小糸社における昨年の不祥事リリースは、ほとんど株価には影響しておりません。(1月29日:246円→2月1日:235円。売買高にも影響がなかったみたいですね。)不正受検という不祥事は、たしかにあってはならない不正でありますが、「粗悪品」の販売とは直結しておりません。とくに小糸社のように、ブランドメーカーとしての信用がある企業の場合、現場の事情により不正受検が行われたにすぎず、そもそも試験を受けていなくても「良品」であることには変わりはない、との社会的評価を受けることが多いと思われます。(したがいまして、この時点では株価にはそれほど影響を及ぼさない)ところが、その後不正受検の事実から、実際に安全基準をクリアしていない商品の存在が明るみに出る場合があり、これは企業にとっては(行政法上も民事法上も)極めて重大な問題に発展してしまいます。行政法上では商品の販売中止が長期間にわたって求められることとなり、また民事法上では販売先からも返品や修復、賠償など多くの法的追及を受けるリスクが高まります。

したがいまして、不正受検を行った企業の社会的信用が回復されるのか、それともさらに二次的不祥事へと向かうのか、という分水嶺は、次のステップで分かれることが多いようであります。不正受検→実際に粗悪品発覚、という道をたどるのか、不正受検→原因究明(本件調査および本件外調査)→在庫および流通品調査→再発防止策、という道をたどるのか、というものであります。とくに、不正受検発覚の段階で社外の第三者委員会を立ち上げて、その報告書を当局に提出するというのは、基本中の基本でして、組織ぐるみだったのか、不正受検が粗悪品流通を推定させるものなのか、不正の期間や対象商品の特定などが最低ラインの調査内容であります。(もちろん責任追及や再発防止策の検討も必要ですが、とりあえずまずは「安全・安心」に向けた対策が最重要課題となるはずです)

小糸社の場合、2009年4月に代表者が異動しておりますが、この時期にせめて社内調査委員会だけでもきちんと立ち上げられていれば、内部告発の情報は「内部通報」として社内で吸収できたかもしれません。また、真摯に調査委員会報告書を国土交通省に提出していれば、(もちろんプロセスチェックがきちんとなされたものであることが条件ですが)会社内の自浄能力に対して期待がもてるものとして、度重なる内部告発による行政調査はなされず、このたびの業務改善勧告までには至らなかったのかもしれません。とりわけ「不正受検」のみの不祥事の場合には、検定を行う当局側にも(長年の信頼関係からか)ひょっとすると「検査上の落ち度」が認められる可能性もありますので、厳しいツッコミをいれず、自主的な対応にマルをつけてくれることも考えられます。しかし今回最も問題とされているのは、小糸社が「安全基準に満たない製品」の存在を知りつつ、当局を騙した行為であります。実際に在庫品や流通に置かれた製品に安全基準を満たさない製品があることを自ら認識したのであれば、自主的に公表して、その検査対象や回収製品の範囲を合理的な理由をもって限定すれば(これがなかなかむずかしいところでありますが)ブランドイメージの毀損は最小限度に抑えることが可能なはずであります。

このたびは、組織ぐるみであったことを社長ご自身が認めておられるようなので、そもそも第三者委員会など設置しようものなら、すべてが明るみになってしまうので「そんなことできるものか」といった社内事情だったのかもしれません。しかし、ダスキン事件判決でもおなじみのとおり、「不祥事が発覚する」リスクについては、近年内部告発や、性能偽装事件への行政調査の厳格さなどからみて極めて高いものと予想されますし、そもそも「不正受検があったのに、自社ではなにも調査しないのか?」といった行政の憤懣が、かえって調査への意欲を高めることになるのは、あの船場吉兆事件でも証明済みであります。納期が間に合わないから安全基準違反に目をつぶる、という意識は、おそらく法的には通用しない経営判断でしょうし、「全社的なコンプライアンス経営意識の欠如」と言われてもいたしかたないようにも思われます。上場会社である以上は、いまからでも、自浄能力のあるところを社会的に示す必要があるのではないでしょうか。(HPを閲覧しましても、あまりそのあたりの意識がうかがわれないように思うのですが・・・・)

2月 10, 2010 内部通報制度 | | コメント (10) | トラックバック (0)

2010年1月18日 (月)

オリンパス内部通報判決に思う内部通報(外部窓口)の重要性

当ブログでも昨年2月にご紹介したオリンパス内部通報事件(内部通報制度はむずかしいその2)でありますが、1月15日に東京地裁で会社側勝訴の判決が出されたようであります。(代表的なニュースはこちら)オリンパス社のH社員からは配転処分の無効確認及び損害賠償を求めておられたようですが、地裁はいずれも請求を棄却した、とのこと。裁判所は会社側には(公益通報者保護法が適用されないことを前提として、さらに)「人事権の濫用」はなかったとしているようですが、最大の争点はH社員がオリンパス社に対して行った通報は、いわゆる公益通報者保護法上の通報事実には該当しない、というところだったと思われます。

ニュースからの拾い出しにすぎませんが、裁判所がH社員の通報を、公益通報者保護法上の「通報対象事実」ではないとしたのは①内容が抽象的、②業務と人間関係両側面の正常化が(配置転換の)目的だったとオリンパス社は認識していた、③オリンパス社は社員引き抜きの違法性を認識していなかった、とあります。ちなみに取引先から機密情報を知る社員を引き抜くことにつきましては、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪に該当する可能性がありますので、おそらくきちんとした手続の上での通報であれば公益通報者保護法上の通報対象事実に該当するものと思われます。

結局のところ、本件では昨年2月の当ブログのエントリーでも触れておりますとおり、「内部通報(ヘルプライン)で処理すべき案件」なのか、「公益通報者保護法」上で処理すべき案件なのか、通報者や会社内で明確な仕訳ができていなかったのではないでしょうか?たとえば私も外部窓口として経験がありますが、内部通報制度で処理するのであれば、企業倫理違反やセクハラ問題など、広く受け付けますし、また匿名でも通報は受け付けます。しかし公益通報者保護法上の通報となりますと、匿名では不可ですし、また対象事実も限定(現在のところ431本の法令違反事実)されます。ただ、匿名不可といいましても、手続上通報者が特定されますと、今後は公益通報者保護法上で保護される通報ということになりますので、たとえばヘルプライン上で通報を処理していたところ、途中から公益通報者保護法上の処理に変更しなければならないような事態に発展します。(この場合ですと、公益通報者保護法3条により、会社側にそれほど大きなミスがない場合でも社員の外部通報も保護の対象になる可能性も出てきます)

内部通報(ヘルプライン)として受理したものと思っていた会社側は、社内のヘルプライン規程にしたがった処理を行えば足りると思いますので、たとえ窓口で受理した通報内容が抽象的であっても、また「相談」に近いものであってもそのまま処理しますし、社内処分や犯罪事実の調査・公表よりも、業務の適正や人間関係の修復のための社内対応を優先することになるのかもしれません。しかし、H社員の通報を、当初から公益通報者保護法上の通報事実の申告と理解していた場合には、窓口の時点で(窓口に限定されませんので、たとえば上司に通報した時点でもかまいませんが)犯罪事実又はこれが発生するおそれを示す事実の具体的な内容を詳細に求めますし、その処理についても社内での対応が真剣に検討されたのではないかと推測いたします。先の判決理由の「オリンパス社は社員引き抜きの違法性を認識していなかった」なる文言からみますと、どうもH社員から通報があった時点では、とくに公益通報者保護法の適用を意識していなかったのではないかと推測されますし、どうも重大な認識上の齟齬が発生していたように思えます。内部通報制度は不正発見のための内部統制構築の重要な要素でありますので、本件のように通報したことが公益通報者保護法の対象にならないといったことになりますと、その責任がどちらにあったのかはとても関心があるところです。

この事件では原告側より著名な某大学教授による意見書が東京地裁に提出されております。(意見書には引き抜きの対象となった社員の会社名まで出ていますね)その意見書によりますと、H社員が通報した時期において、オリンパス社にもきちんとしたヘルプライン規程が存在していたそうであります。ただH社員の行動からみて、どうも外部の弁護士事務所等の窓口は存在しなかったように読めます。(そのあたりは明確には記載されておりません。実際には、コンプライアンス室へ正式通報されたようです)そこでもし、本件のH社員の通報がヘルプラインに従って弁護士事務所のような外部窓口に対して行われていたとしたら、果たして同じ結果になっていたでしょうか?おそらく先に述べたような仕訳がきちんとされたでしょうし、事実調査や通報者への回答なども期限通りに行われたはずであり、結果は違っていたのではないかと思われます。(また会社側としても、社内における対応によって、マスコミに大きく報じられるようなことにも発展することはなかったものと思われます)←でもやっぱり、あんまり張り切る外部窓口っていうのも、「第三者委員会委員」と同じで会社側からは嫌われるんでしょうね(^^;

いずれにしましても、現行の公益通報者保護法は通報者を保護することを目的としておりますが、たいへん使い勝手の悪いものであります。来年4月には見直しが予定されておりますが(附則第2条)、通報濫用を防止することはもちろん必要ではあるものの、本当にコンプライアンス経営に資する形で活用されるための施策を検討しなければ、結局「正直者がばかをみる」とか「パワハラの温床」と言われ続け、誰もまともに通報する社員はいなくなってしまうのではないかと危惧しております。昨年、不正競争防止法が改正され、営業秘密侵害罪の適用要件が緩和されたこともあり、益々公益通報への委縮効果が高まっているのが現実であります。さらに内部通報制度(ヘルプライン)の運用にあたり、公益通報者保護法上の通報対象事実の取扱についても、社内で検討しておく必要があろうかと思われます。

1月 18, 2010 内部通報制度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年7月30日 (木)

コンプライアンス違反を通報する社員はわずか26%(だそうです)

午後6時ころから異常なアクセス数になっていたので、リンク元を調べましたところ、このニュースとともに、私のブログ記事も紹介されておりました。スパイア社(大証ヘラ)と第一法規共同による「会社員1000名に聞いたコンプライアンス・アンケート」の結果がリリースされておりまして、なかなか興味深い結果が出ております。

コンプライアンスを意識している社員が半数程度に上るものの、コンプライアンス違反を上司や内部通報窓口に知らせると回答した方は26%にとどまった、とのこと。また、コンプライアンス研修を受講したことがある、とする社員は60%に上るものの、コンプライアンスに関する会社の方針を十分理解していると回答した方は34%にとどまった、とのこと。つまり①コンプライアンスを意識していても、なにがコンプライアンス違反かわからない、もしくは②法令違反の事実が社内に存在していても、そういった情報は社内に滞留している・・・ということなんでしょうね。「長年の恒例行事だから」とか「前任者がやっていたから」というだけで、おそらく一般の社員の方々はコンプライアンスの意識が希薄化している場合もあろうかと思いますので、「通報しなければならないと思っているが、通報などできない」と考える社員の方の数はそれほど多くはないのではないでしょうか。また社員の方が通報しないのは、通報することによるデメリット(制裁)をおそれてのことかもしれませんので、通報しないことが、直ちにコンプライアンス意識が欠乏していることには結びつかないように思います。ただ、やはり何が通報すべき事実か?ということは社員研修等で周知していかねばなりませんので、コンプライアンスに関する会社の方針が十分社内で理解されていないことについては、会社側も素直に反省しなければならないと思いますし、通報事実が増えるための対策(工夫)も検討する必要があると思います。

社員に関心の高いコンプライアンス問題としては、圧倒的に労働法関連事項(セクハラ・パワハラも含まれています)が多いようですが、これはやはり社員の目にとまりやすい法令違反事項だからだと思います。社内のコンプライアンス・リスクにつきましては、発生可能性を横軸とし、発生した場合の影響度を縦軸としてグラフ化している企業が多いと思いますが、労働問題については発生可能性は高いのですが、おそらく影響度(会社の存亡に関わる度合い)はそれほど高くないものと思われます。むしろ、社員の方々が「うちでは起こらないのではないか」と考えておられる反社会的勢力との癒着問題や、会計不正事件、製品安全事故、インサイダー取引などのほうが、影響度はよほど大きいのでありまして、そのあたりも(通報価値のあるものとして)社内教育の対象になってくるものと思われます。(アンケート結果によりますと、情報漏洩問題などは、影響度も発生可能性も高いコンプライアンス問題として位置づけられるようですね)ご関心のある方は、一度リリースの内容をご検討くださいませ。

7月 30, 2009 内部通報制度 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2009年4月16日 (木)

内部告発者に対する制裁と防止策

内部通報窓口業務は、そんなにキレイな仕事ではないと(私自身の経験も含めて)申し上げたところ、松嶋屋さんからお叱りを受けまして(^^;、ちょっと言葉を選ばなければ・・・と反省をしておりましたが、またまた内部告発者と上場企業とのトラブルに関する事件が報道されております。すき家を展開するゼンショーさんの女性店員の方が、昨年、残業代不払いを(労働基準法違反として)刑事告発したところ、ゼンショーさんの方が今度は女性店員の方(刑事告発をされた方)をゴハン5杯分を無断で食べたとして窃盗罪で刑事告訴していた、とのこと。(朝日新聞ニュースはこちら)店内のビデオ録画が証拠として残っていたそうであります。

最近、内部告発(社内の内部通報窓口への通報を含む)を行ったことをきっかけとして、通報社員が会社側もしくは上司社員等から事実上の嫌がらせ、退職勧告等を受けているとする報道が目立つようになりました。このブログで採り上げた事件だけでも、先日のオリンパス社の事例、横浜市立大医学部の事例、大阪トヨタ自動車の事例等、いくつかの有名な事例がありますが、内部告発者への企業もしくは幹部社員の対応(とくに悪意のある制裁等)のまずさから、さらに大きな不祥事が判明したり、内部窓口があるにもかかわらず外部告発が増加したり、制裁措置による社内トラブルが報道されるなどによって企業の信用を落とす傾向にあるため、「コンプライアンスにおける負のスパイラル」に陥るリスクが生じます。

そこで、企業もしくは社員による内部告発者に対する事実上の制裁(報復)が企業に及ぼすリスクと、そのリスク管理のための防止策について、フィナンシャル・コンプライアンス(銀行研修社)の6月号に「内部告発者に対する制裁と防止策」なる論稿を書かせていただきました。公益通報者保護法や、内部統制システムの一環としての社内規則(ヘルプライン規程)による救済だけでは、内部告発者が保護されない現実を踏まえ、企業として何をなすべきか、匿名通報者の特定発覚リスクなどにも触れながら検討してみました。(主に、自らの業務上の経験などに基づくものです。結構読み応えはあると思います)おそらく4月終わりか5月初旬に全国書店にて発売されることになりますので、ご興味のある方はそちらをご参照いただけましたら幸いです。

4月 16, 2009 内部通報制度 | | コメント (13) | トラックバック (1)

2009年4月11日 (土)

内部通報に接した取締役の「遵法行動」の重要性

ひさしぶりの企業コンプライアンス関連の話題ですが、10日に報道されましたダイキン工業社の不正会計事件のニュースと、ニチアス社の性能偽装事件の提訴ニュースを読みました。いずれも内部通報の取扱が大きなテーマのようであります。ダイキン工業社の場合、匿名通報について、ただちに担当取締役のところへ情報が届き、不正会計処理の(合理的な?)疑いが生じたところで適時開示の手続きをとられたようであり、(大きな不祥事といえども)速やかな公表手続き(外部調査委員会の設立も含め)で対応されたようです。(なお、先の毎日新聞ニュースによると、不正会計処理分について、一括処理方式を採用するのか、個別処理方式をとらざるをえないのかは、未定のようです。)いっぽう、時代は若干異なるとはいえ、ニチアス社の場合も、社員からの性能偽装の連絡が元専務取締役のところで届いたようですが、これを役員会に報告せず黙認していたとのこと、そしてこの黙認が、その後の長年の性能偽装隠ぺいの発端となったようです。(後日、元社長が「これを公表してしまっては、改修費用が莫大なものとなり倒産のおそれすらあるから隠ぺいした」可能性があるようです)

とりわけニチアス社のニュースを読みますと、取締役が性能偽装を指揮命令した、ということで提訴されたわけではなく、いずれの役員の方も、社内において性能偽装が行われていた、ということについて知っていながら、これを隠ぺいしたことの違法性が問われているようであります。ダスキン事件ではありませんが、ひょっとするとニチアスの損害賠償請求事件については、真正面から「取締役の不祥事公表義務」の存否が問われるような裁判になるかもしれませんね。ただ、(元専務の方を除き)長年における性能偽装の事実を知った時点において、もし公表していたならば会社に発生したであろう(改修等工事費用の)損害額と、昨年の時点において、公表され(報道され)たことによって現実に発生したニチアス社固有の損害額との間において、どれほどの差があるのか、また、その差額は取締役らの不祥事隠ぺい行為との間に相当な因果関係は認められるのか等、いろいろな法律上の争点が出てきそうな気がします。

また、こういった内部通報による不祥事情報が担当取締役のところへ届き、ある社員の不祥事が認められた場合、次に問題となるのが内部通報で告発された事実以外の事実への調査の要否であります。告発された社員が他の部署で同様の不祥事を行っていなかったかどうか、逆に告発社員以外の社員も、同様の不祥事を行っていなかったかどうか、といったあたり、不祥事が財務報告に与える重要性の関連性なども考慮しながら、企業としてはどこまで調査をすれば「調査義務を尽くした」といえるのか、悩むときもあると思います。

4月 11, 2009 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月27日 (金)

内部通報制度の運用はむずかしい・・・(その2)

ちょうど1年前の2008年3月に内部通報制度の運用はむずかしい・・・として、ある自動車販売会社における内部通報事案をご紹介いたしましたが、本日(2月27日)の読売新聞の一面記事に、東証一部のオリンパス社の内部通報事件が掲載されております。(読売新聞ニュースはこちら)昨年の自動車販売会社の事例とは異なり、こちらは社内のヘルプラインの責任者が幹部社員に対して、通報者が特定できる情報を開示してしまった、という事案のようです。(会社側の反論として「本人からの同意があった」という点では、昨年の自動車販売会社の事例と同じであります)

私も昨年よりも若干、外部通報窓口業務の数が増えまして、現在(グループ企業を合わせて)10社以上の内部通報(外部窓口)業務を継続しておりますが、正直申し上げて「内部通報窓口業務はキレイな仕事ではない」と断言できます。(これは、当事務所にご依頼されている会社様が聞いてもナットクしていただけるはず。ちなみに、私はどこの企業の窓口をやっているか、ということはもちろん秘密。そこの社員さんが口外してしまったらわかっちゃいますけど。)関係者の方にはお伝えしておりますが、昨年12月ころから、退職者もしくは退職間際の方の通報事例が非常に増えました。(ちなみに、ヘルプライン規約では、退職後1年未満の方の通報も受け付けるところが多いと思います。もちろんパート社員の方の通報も受け付けます。)以下、私の最近の経験より・・・

ある会社では、○○運転懲罰規約が制定施行された後の○○運転事案でありましたが、完全に匿名通報で受理し、また社内責任者も匿名で調査したにもかかわらず、すぐに誰が通報したのかは判明してしまいました。そうすると、通報者から私に電話がかかってきて「先生、あれほど匿名でお願いします、と言ったじゃないですか!!『窓口の弁護士が名前を出した』って、みんな噂してますよ!!!どうしてくれるんですか!!!!」

「・・・・・・・・」(呆然・・・)

ある会社では、支店長による○○偽装事件に関する匿名通報、こちらも社内責任者も匿名で社内調査のうえ、事実を把握。その後、社内における事情聴取のため、匿名通報者へ連絡すると

「え!? 私そんなこと言いましたっけ? とりあえず、迷惑なんで、もう電話かけてこんとってくれます?」

「・・・・・・・・」(唖全・・・委員会や忘年会をキャンセルして、年末に走り回ったのはいったいなんのためだったのか?)

もちろん、外部通報窓口は、社内責任者にさえ名前を明かさず、そのうえで事前説明も記録化しており(調査内容によっては、社内の雰囲気によって誰が通報したのか判明してしまう可能性があるが、それでもいいか?)、また、調査結果については有利・不利を問わず、きちんと通報者に説明することを前提としてやっているわけでありますが、こんな感じであります。もっとひどいのになりますと、法律事務所の事務局にひととおり(一方的に)伝えた後、「弁護士さんに同じことを伝えておいて」で電話を切る方もおられ、これでは正式な通報とは言えないものの、放置するわけにもいかず、事後手続に追われるなど、混迷を極める事案が増加中であります。(そういえば、ひとつ終わると、「これ次の案件ね」と合計4つほど通報されてきた方もいらっしゃいました。「いったいこの人は何者やねん」と思いましたが・・・)巷間、ヘルプラインをサービス提供するコンサルティング会社などありますが、いったいどうやって窓口業務を遂行しているのか、果たしてきれいに事務処理ができているのか、本当に聞いてみたいところであります。

皆様、内部通報制度の運用については本当にお気を付けください。私、ちょっと前までは偉そうに「内部通報で社内が変わる!」などと申し上げておりましたが、最近は少し気持ちが変わりました。よくよく考えてみると、私のような個人事務所にニッチなコンプライアンス案件を依頼するような(奇特な)上場企業というのは、実は前から総務や法務にユニークで進取の気性をもった担当者がいらっしゃって、会社の経営者も、そういった(ブログにまで目を通している)担当者の意見を最大限尊重している会社なんですね。だから、そもそもあまりコンプライアンス的に大きな問題が発生しないところが多いようです。だからこそ、大胆にも、毎月一回「内部通報はこの法律事務所へ」などと社内広報もしているわけです。(たしかにそこまで広報しますと、次から次へと通報が届くわけでした・・・)つまり内部通報で社内が変わるのではなく、そもそも社風のいい会社の内部通報窓口をやっているにすぎない・・・というのが、真実なのかもしれません。

しかし、このたびの内部統制報告制度における「全社的内部統制」の整備として、付け焼刃的にヘルプラインを設置したような会社の場合には、今回の新聞事例のように、窓口業務の基本的なところで紛争が発生するリスクが非常に高いと思います。とりあえず、通報手続の失敗のなかから学ぶ必要が絶対にありますよ(^^; そのためには通報手続の集積が必要であります。私の実務経験からするならば、通報者と会社と、どっちの言い分が正しいのかはわかりませんが、こういった紛争に発展すること自体が、ヘルプラインの運用に不備があると言わざるを得ません。社員にとって、どこに窓口があるかもわからず、またどんなことが受付られるのかも周知されていない、といった会社はけっこうあると思いますが、この制度の運用におきましては、会社の言い分と通報者の言い分とが、五分五分の場合、実質的な紛争に至った場合には会社側が全面的に不利な状況に置かれることは留意しておいたほうがよろしいと思います。このたびの報道にもありますように、内部通報制度の運用不備が露呈しますと(「制裁人事」等の労働問題に絡む案件になりますので)「人権救済センター」が即時動き出します。(このあたりも、社会の常識と会社の常識とが乖離しているところかもしれません)通報があれば、ぜひ早めに顧問弁護士さんとご相談されることをお勧めいたします。

2月 27, 2009 内部通報制度 | | コメント (13) | トラックバック (0)

2008年4月 2日 (水)

不誠実目的による内部通報への対応

横浜市大医学部の一連の騒動がますますたいへんなことになっておりますが、コンプライアンス推進委員会のメンバーの方にまで金銭授受があったとなりますと、これは言語道断でありますし(産経WEBニュース)、ましてや事実認定が不明瞭なまま委員会による調査が中止されたとなりますと(読売新聞ニュース)、もはや収集がつかない状況になってしまうように思われます。本日は金商法上の内部統制にも、また会社法上の内部統制システムにも関連する「内部通報制度」について、若干の考察をしてみたいと思います。

ところで、この一連の横浜市大騒動のニュースを閲覧しておりまして、同大学の研究員の方々が、コンプライアンス推進委員会に対して、内部通報者を処分するよう求める上申書を提出した、とあります。以下若干記事を引用いたしますと、

「内部通報者に悪意」横浜市大研究室員らが学長に処分要求

 横浜市立大の○○医学部長の研究室員らが、学位を巡る現金授受などについて、同大コンプライアンス推進委員会に対して内部通報した者を処分するよう求める申し入れ書を、理事長と学長あてに提出していたことがわかった。同大の規定では法令や倫理違反に関する内部通報者の保護を義務付けており、申し入れはこの趣旨に反している。読売新聞社が入手した申し入れ書によると、研究室の准教授ら11人の連名があり、2月12日付。

 申し入れ書では、内部通報者を「医局内での出来事を悪意に歪曲(わいきょく)している」などと指摘。「仲間を引きずり下ろそうとする人間」とした上で、委員会に、「厳しい責任追及」を求めている。

このような時点におきまして、とくに本騒動を批判するつもりはございませんが、内部通報が不誠実な目的によってなされた場合に、手続の上でどう対処するべきか・・・という問題は、一般企業における内部通報制度の運営上も当然起こりうるものであります。たとえば内部通報することをネタにあらかじめ被通報者に金銭を要求していたとか、被通報者を失脚させるために虚偽の事実を申告する、など専ら不誠実な目的で内部通報制度を利用する場合の対応であります。

公益通報者保護法第2条によりますと、不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他不正の目的による通報は、法の規定する公益通報には該当しない、とありますので、内部通報制度におきましても「誠実性」の要件は求められるものと考えられます。もちろん、当初から不誠実な通報かどうかはわからないケースが多いと思いますが、事実調査を進めている段階で不誠実な通報である、と判断された場合には、原則として内部通報手続を進める必要はないものと考えられます。しかし、若干の問題があります。

1 不誠実か誠実かは明確に区別できるか?

まったく根拠のない虚偽事実を申告しているような場合は別としまして、他人を失脚させようという意図がある場合でも、その申告事実が真実と認められ、企業として何らかの対応が必要と判断されるようなケースであれば、不誠実な意図が混在しているにすぎないとみて、これを無効な申告と扱うことはできないのではないかと思います。不誠実か誠実かという点はその境界がきわめて曖昧であり、また内部統制システムの一貫としてのヘルプラインの重要な目的は違法行為の予防、発見にありますので、内部通報制度は適正な手続によって継続しているものとして、企業側は当該手続を進める必要があろうかと思われます。

2 不誠実な申告に基づく調査を続行することはできるか?

たしかに、不誠実な申告に基づく場合(調査の結果、不誠実な申告であると会社が判断した場合)、会社は内部通報制度の続行を中止することができるわけでありますが、これは通報者との関係で手続を履行する義務、調査内容を報告する義務から解放されることを意味します。しかしながら、調査の段階で会社が社内の不正行為を「知ってしまった」場合に、会社側の判断で任意で調査を続行することは可能であると思われます。なぜなら、内部通報制度における「通報」は通報者の権利救済のシステムではなく、あくまでも違法行為(不正行為)発覚のための端緒にすぎないと考えられるからであります。

横浜市大の件に戻りますが、そもそもこういった調査は密行性の高いものでありますので、ここまで事実経過が公表されてしまったこと自体疑問に感じますが、通報者が事実を歪曲して申告している、といった事情を関係者から聴取することは、あながち的外れではなかろうと考えますが、内部通報の責任担当部署は受理すべき申告事実に制限がありますし、また責任追及を行うのは担当部署の権限ではないと考えられますので、こういった上申書につきましては、すみやかに担当部署の見解を回答すべきだと思われます。また、審議についても「事実歪曲があったかどうか」という点だけにとどめ、それ以外のことを審議することは回避する必要があります。そうでなければ、内部通報制度にも「無理がきく」といったウワサが流れることで、今後の内部統制システムの有効性に影響を与えかねないからであります。しかし、このような事件をみますと、内部通報制度自体が、その組織の体質を反映する場合もあるようで、すこしコワイ気持ちになりました。

4月 2, 2008 内部通報制度 | | コメント (7) | トラックバック (1)

2008年3月11日 (火)

内部通報制度の運用はむずかしい・・・

読売新聞ニュースによりますと、一昨年の4月に内部通報制度の窓口業務に従事されていた弁護士の方が、会社側に匿名で連絡をしなければならなかったところを、実名で連絡をしてしまったことで、所属弁護士会の綱紀委員会より「懲戒相当」の決議を受けたようであります。以下、報道内容の要旨のみ。(ちなみに、3月10日読売夕刊には、トップ記事として掲載されております)

 第2東京弁護士会綱紀委員会は、トヨタ自動車販売店グループの「社内通報窓口」を担当する男性弁護士を、4日付で「懲戒相当」と議決した。相当とする理由は、内部告発者の実名を会社側に伝えたことが、弁護士の職務上の秘密保持義務に反し、弁護士の品位を失う非行にあたる、というものである。今後、同弁護士会懲戒委員会が処分するかどうかを審査することになるが、社内不正を告発した従業員に対する会社の不利益な処分を禁じた「公益通報者保護法」施行から4月で2年になるが、告発者の保護を巡って弁護士の責任が問われるのは異例のことである。

 このトヨタ社の男性社員は2006年4月5日、同社グループが弁護士事務所に設置していた内部通報窓口に電話し、同弁護士に名前と所属部署を告げて架空販売・車庫飛ばし事件を告発したところ、その翌日、会社から自宅待機を命じられた。通報窓口は原則、弁護士が実名で通報を受け付け、会社側には匿名で通知することになっていたが、この社員については会社側に実名を伝えていた。社員は同弁護士会に懲戒請求を申し立てた。綱紀委員会は「(社員が)実名通知を承諾していたとは言えない」とし、職務上知り得た秘密の保持を義務付けた弁護士法23条違反にあたると判断した。

 「告発者が希望しない限り、会社側に実名を通知することはあり得ない」と、同弁護士は話している。

2006年10月10日に大阪トヨタの社員4名が中古車架空販売によって大阪府警に逮捕されておりましたが、その4ヶ月ほど前である6月3日の読売、朝日の各新聞において、この「自宅待機命令」にまつわるトヨタ自動車販売グループのヘルプラインの問題点が報じられておりましたので、おそらく、このときの事件に関わる内部告発の件だと思われます。なお、大きく採り上げられたのは2006年9月の こちらの記事であります。また、記事では「公益通報者保護法」を紹介しておりますが、内部通報制度(ヘルプライン、ホットラインと呼称されるもの)と公益通報者保護法制やセクハラ相談窓口などとは似ているところもありますが、別個の制度でありますので、その相違点もまた理解しておく必要があります。

報道内容を読むかぎり、T社社員は実名を会社に通知されることを承諾しておらず、いっぽうの窓口弁護士側は、会社に通知したことは認めるが、それはT社社員の承諾があったからである、ということのようでして、「告発者の承諾の有無」が争点のようであります。そもそも、ヘルプライン(内部通報制度)の窓口を外部に設置すること自体、告発者の職務上の地位の安全を最優先に考えてのことですから、告発者が特定されないよう、会社側に告発事実を伝えるのが原則であります。そのうえで告発者が特定できる事項につきましては、事実認定のためにどうしても不可欠な場合などに限り、告発者の明確な意思を確認したうえで、規約上で限定された者に対してのみ通知することになるわけですから、おそらく内部通報規約上の手続に則って告発者の意思を確認することが不十分だった可能性が残ります。しかし、こういった事態が発生しますと、せっかくの外部窓口も「安全地帯ではない」ということで、内部通報制度の実効性、信頼性が失われてしまうことを危惧いたします。とりわけ、今回のT社社員の告発内容からしますと、(私の経験からして)年に1回あるかないかの、かなりキワドイ告発事実でありますので、(現実には、その後組織ぐるみでの犯行であったことが判明し、逮捕者まで出したわけですから)その取扱いには細心の注意が必要ではなかったかと推測されます。

さて、内部通報制度の運用にあたっては、ご承知の方もいらっしゃると思いますが、いろいろとムズカシイ問題も出てきます。たとえば上記の事例におきまして、内部通報により、社内の犯罪行為が発覚し、その事実確定作業もほぼ終了した段階で、告発人から「やっぱり、自分の立場が悪くなるのが嫌なので、告発を取り下げたい」と申出があった場合、会社としてはどうしたらいいのでしょうか?また、犯罪行為とまでは明白にいいがたい、たとえばセクハラ事例などにより、社内規則違反が発覚した場合に、告発人からの取り下げがあった場合はどうでしょうか?また、社員による告発事実が、重要な取引先も関与しているような違法行為の場合はどのように対応したらよいのでしょうか?(自社の事実確定作業だけをもって、共謀事実全体を公表してもだいじょうぶでしょうか?それともなんらかの連携が必要でしょうか?)実際に、内部通報窓口業務をやっておりますと、いろいろな難問にぶつかるわけでありまして、弁護士としては「自らの行動が、ひょっとして懲戒事例にあたるのではないか・・・・?」と常に自問自答しながら隠密裏に判断していかなければならないことが多い業務であります。

3月 11, 2008 内部通報制度 | | コメント (7) | トラックバック (0)