2018年11月 2日 (金)

続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制

10月30日のエントリー「代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」(以下「前回エントリー」と表記します)の続編であります。10月30日時点では、百十四銀行さんのスキャンダルがどのような経緯で表面化したのかわかりませんでした。しかし昨日(11月2日)発売のZAITEN12月号の記事を読み、ようやく納得いたしました。この百十四銀行さんの事件がZAITENで表に出る前に、同行が自社の対応を公表することにした可能性が極めて高いと思われます。

しかし地銀トップのスキャンダルを調べ上げ、(推測にすぎませんが)社内処分をリリースさせたZAITENもなかなか、ですね。本エントリーをお読みの皆様の会社で同じことが起きた場合、ZAITENさんの記事が掲載される前に動きますか?それとも様子見ですかね?

会長および執行役員とともに、取引先との宴会に同席させた「女性社員」とは、20代の入社まもない行員だったそうです。前回エントリーでは「幹部候補であれば問題ないのでは」と書きましたが、このZAITENさんの記事が真実だとすればちょっと元会長さん、執行役員さんを弁護する余地(善解の余地)はなさそうです。しかし本当に取引先の要望で新入の女性行員を同伴させたというのは・・・・・ちょっと信じられないですね(ZAITEN誌によると、現実に取引先から「セクハラの範疇を超えた不適切行為」があったということですから)。

また、前回エントリーでは、百十四銀行さんの内部統制やガバナンスには一定の評価が与えられるのでは・・・と述べましたが、ZAITENさんと百十四銀行さんの広報とのやりとりを読みますと、あまり社内処分や公表には熱心ではなかったことが窺えます。このようにZAITENさんのスキャンダル記事が掲載される予定を知って処分を公にした・・・・ということであれば、ちょっとガバナンスや内部統制を前向きに捉えることには躊躇いたします(つまり前記エントリーの一部を訂正したいと思います)。さらに、内部通報が同行に届いた事実は間違いないようですが、しかし通報事実がZAITENのもとに届いている事実も間違いないわけですから、同行の通報受理後の調査に問題があったことが推測され、この点からも内部統制が有効に機能していたかどうか疑問が残ります。

なお、前回エントリーにおきまして、

①けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、②穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、③そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところです

と書きましたが、ZAITENの記事を読んでも、そのあたりは明らかにはなりませんでした。とくに社外取締役が、当初の社内処分に異を唱え、外部弁護士による調査に持ち込んだ経緯については、上記記事にも何ら掲載されていません。むしろこのZAITENさんの詳細な記事と百十四銀行さんの記者説明とのギャップから推測しますと、銀行自身が自浄作用を演出したような穿った見方も成り立ちます(おそらくそんなことはない、とは思いますが・・・)。会長さんは社外取締役も辞任されたそうなので、今後は「これで収束」ということになるのかもしれませんが、ZAITEN記事によって真相はさらに闇の中に埋まっていくような気がいたしました。百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスが果たして評価できるものであったのか、それとも私の推測が間違っていたのか、どこかで第二報が出てくることを期待しております。

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2018年10月31日 (水)

KYB免震偽装事例と公益通報者保護法の改正に向けた立法事実

連日の内部通報制度関連のネタでございます。本日(10月30日)、国交省大臣は、免震装置の偽装の有無について、徹底した社内調査を免震ゴム事業者85社に要請しておりましたところ、調査が遅れている1社を除き、すべてにおいて「不正はなかった」と発表しました。

KYBさんの事例では内部通報(その後の内部告発?)によって不正が発覚し、その直後の川金HDさんの事例では、KYBさんの事例をきっかけとした社内調査の中で、不正に関与していた社員の自主申告が端緒となって発覚に至りました。ちなみに3年前の東洋ゴム工業さん(グループ会社)の事例では、内部通報や告発は機能せず、グループ会社の技術社員が最初に不正疑惑を上司に申告してから親会社のトップが公表するまで2年を要したことが明らかになっています。

つまり、これらの事情及び(本日公開された)国交省による調査要請の結果を前提とするならば、免震ゴム偽装という不祥事は「どこでもやっている不正であり、たまたまKYBさんは運が悪かった」という性質のものではなく、ほとんどの事業者は誠実に作っているけれども、「異常値」としてKYBさんと川金さんだけで発生していた、その異常値は内部通報制度や公益通報でなければ明るみにならなかった、といえそうです。私は技術者ではありませんので「内部通報制度が国民の安全には不可欠」とまでは申し上げる勇気はありませんが、せめて「内部通報制度は国民の安心には不可欠」ということを示す立法事実はこれで示せるのではないかと考えます(「安心」といえば先日、事務所近くの中央公会堂前にブリヂストンさんの「免震ゴム体験バス」が公開され、一般の方々が振動体験をされていました)。今回と同等の効果(企業不祥事という「異常値」をもれなくすみやかにピックアップして、行政処分を通じて国民の安全・安心に資する)を、内部通報や内部告発とは別の代替的手法によって可能とするものがあれば「立法事実」とまでは申しませんが、いまのところなかなか思いつきません。

今回、KYBの社員の方は退職覚悟で(すでに退職された?)内部通報をされたわけですが、退職しなければ通報ができないという事態は現行の公益通報者保護法の欠陥であり、今後は(国民の安全確保のためにも)絶対に改善しなければなりません。そのためにも、通報者保護、不利益処分禁止を徹底した公益通報者保護法の大幅な改正は(国民の生命、身体、財産の安全確保のためにも)不可欠ですし、このような立法事実が明らかになった以上は内部通報制度の構築義務を改正条項に盛り込むことも不可欠と考えます。

また、内部統制構築義務の「レベル感」というものが議論されますが、少なくとも法令遵守体制の整備義務のレベルとして、民間事業者向けガイドラインを標準とした取締役の内部通報構築義務は会社法で議論されるべきものではないでしょうか。中小の事業者にそこまで問うのはむずかしい・・・とのご意見もありますが、今後は労働時間の規制、有給休暇の強制取得、パワハラ規制の法制化など、事業者内における支配服従関連の歪み自体が通報対象となるケースが増えてきます。そうであれば、どんなに社長さんが「すべてを見渡せる規模の事業所だから不要」と考えたとしても、不正事実が社長さんに届かないリスクは高まるものと思います。したがって、たとえ包括的な努力義務としての性質でもよいので内部通報制度の構築義務は公益通報者保護法の中で条文化すべきと考えます。

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2018年10月30日 (火)

代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制

ひさしぶりの内部通報に関連するエントリーです。高松市に本拠を置く百十四銀行さんは、本日(10月29日)、取引先との会食に同席した女性行員が、取引先から不適切な行為を受けたとして、その責任をとるかたちで代表取締役会長さんが退任するそうです。(毎日新聞ニュースはこちら)。

読売ニュースや上記毎日ニュースと岩手日報ニュースを総合しますと、問題の会食が行われたのは今年2月。その後、5月に同行の内部通報制度によって同行の経営陣が知るところとなり、社内調査によって同行女性行員が取引先から不適切行為を受けたことが判明したそうです。社内調査の結果、宴会に出席していた会長さんと執行役員の方は、当該不適切行為を制止しなかったとして減俸処分とされたそうですが、この幕引きに社外取締役さんが納得されなかった。社外取締役さんはさらなる徹底調査を要請し、外部弁護士を交えた調査を行い、最終的には①会長さんらが女性行員への不適切行為を制止できなかったこそ、②そもそも、そのような席に女性行員を同席させたこと自体に問題があったと結論付けました。

記事は(いずれも)サラっとしたものですが、代表取締役が関与する不適切行為について内部通報が届き、これを経営陣が真摯に受け止めて調査を行い、さらに社外役員が重大なコンプライアンス問題と指摘して今回の社内対応に至ったわけですから、取締役会では相当紛糾したのではないかと推測いたします。けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところですが、いずれにしてもリリースでは「一身上の都合」としか開示されていない事情が、即日のうちに明らかになるというのは、他社にも参考になるところが多いかと。

また、記事の内容からは、銀行側としては報道されることにより「女性行員が特定されること」を極力回避しようとの姿勢がみられます。こういった内部通報は退職覚悟で断行することが多いのですが、通報を行ったとしても秘密が守られ、不利益処分のおそれもない状況が確保されていたとすれば銀行の対応としては評価できるものと思います(結果として特定されるケースも多いのが現実ではありますが・・・)。これらの状況を総合すれば、百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスは十分に機能していたと言えるのではないでしょうか。ただ、取締役を退任したとしても、この方が「相談役」として残るというのは異論はでなかったのでしょうかね?・・・最近の上場会社では「相談役として残る」というのはセンシティブな問題なので、やや疑問も残りますね。。。

金融機関の場合、取引先との宴席に、経営陣らが「将来有望な若手幹部」を同伴することはよくありますので、当該若手幹部がたまたま女性行員であった、ということであれば問題にはならないと思います。したがって、一般的に「女性行員を同席させたこと」が(それだけで)不適切にはならないはずです。宴席を設定したのは銀行側だった、ということのようですが、おそらく人材育成目的とはほど遠く、取引先への何らかの利益供与、およびその見返り目的で同席させたからこそ問題として指摘されたのではないでしょうか。

今年1月には、大手食品会社の執行役員の方が空港ラウンジのCAの方への不適切行為に及び、同席していた社長さんが、これを制止しなかったとして辞任に追い込まれた事例がありました。こういったセクハラ系の事件はなかなか詳細が明らかにはなりませんが、だからこそパワハラ系とは異なり「グレーゾーンはアウト」もしくは「グレーゾーンを作出した行動こそ組織の品位を害する」とみなされ、一発退場を求められるケースが増えているように思います。26日の産経新聞朝刊によりますと、グーグル社では、この2年間で幹部13人を含む48人がセクハラで解雇処分(退職金なし)とされ、今後はセクハラ禁止基準をさらに厳格にすると宣言しています。職場環境や人権への配慮が、企業業績に大きく影響するとの認識を、経営陣が意識するようになった証左だと思います。

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2018年9月13日 (木)

内部通報に関する運用の巧拙は企業風土の醸成を左右する

本日(9月12日)は、内部通報制度の運用面での巧拙を示す対照的な事例がマスコミで報じられました。ひとつはクボタ社における検査証明書改ざん事例です。クボタ社の製品について、出荷前の製品検査証明書が偽造されていたことが、社員の内部通報→社内調査によって判明した、とのこと。もちろん今後の外部弁護士による調査によって更なる不正が発覚するかもしれませんが、現時点では自浄作用を発揮した典型例かと思います。

また、毎日新聞朝刊記事(東京版よりも大阪版が詳しく報じています)によりますと、大阪府職員による(不正を告発する)内部通報が府コンプライアンス委員の弁護士へ届いたのですが、弁護士の処理にやや問題があったことと、弁護士から同通報事実を受領した法務課が内容を確認せずに(調査のために)該当部署へ通報内容を送付したことから、誤って通報者の特定情報を漏えいしてしまったそうです(大阪府は通報者に謝罪をしたそうです)。内部通報制度の運用ミスの典型例ですね。

一般的に内部通報制度は不祥事の「早期発見」のための制度と言われます。したがって、実効性を評価するにあたっては「不正の早期発見のために機能したかどうか」が問われます。しかし、通報制度の適正な運用が「不正予防」にも実効性があることはあまり知られていません。クボタ社のように、社内の不正が内部通報によってコーポレート部門が知るところとなり、社内で厳格な調査が行われるとなれば、「見て見ぬふりはできない」「当社は本気で不正を見逃さないのだ」という風潮が全社的に浸透します。最終的には通常のレポートラインが健全化されることになり、不正予防に向けた内部通報制度の実効性が高まるものと評価されます。

いっぽう、大阪府のように通報者の秘密が侵害されたり、さらには内部通報の責任部署のミスが重なったりした場合には、「この組織は本気で内部通報制度を運用する気があるのだろうか」「こんな制度だったら誰も通報などしないから、みんな黙認してくれるにちがいない」といった風潮が蔓延するおそれがあります。つまり、早期発見の機能どころか、不正予防の機能も失われてしまい、かえってコンプライアンス軽視の風潮を助長してしまうおそれがあります。

最近の企業不祥事をみても、通報を受領した後のずさんな社内調査によってグループ会社を含めた組織全体での信頼を喪失させるケースが多く見受けられます。内部通報制度の運用は、通報受領に続く社内調査の巧拙によって左右されますし、個別案件の処理を超えて、不正を見逃さないといった組織風土の醸成にも大きな影響を及ぼすものであることを肝に銘じておくべきです。

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2018年9月 3日 (月)

過去の内部通報が活かされなかったヤマトグループ引越料過大請求事件

先週金曜日(8月31日)に、ヤマトHD社(正確にはグループ会社)の引越料金過大請求事件に関する第三者委員会報告書(全文)が開示されましたので、この週末に全文拝読いたしました。平成22年ころからヤマトHDさんの通報窓口に引越料の不正請求に関する内部通報が届いており、またその後も全国営業会議などで不正事実を訴える支店長が存在していたにもかかわらず、全社的な(組織ぐるみの)不正との認識を持たず、法人顧客への見積り過大請求が繰り返されてきた経緯が詳細に理解できました。以下では、私なりの視点による事件への感想を述べておきます。

まずは、毎度のことながら「内部監査や監査役監査が不正予防または不正早期発見のために果たすべき役割は何であったのか、報告書を読んでもよくわからない」という点です。本報告書を受けて、ヤマトHDさんは経営陣の処分を発表していますが、そこにも監査役の方々の処分についての記載はありません。そもそも取締役会の監督や監査役監査がなぜ機能しなかったのか、こういった事例ではきちんと分析しなければならないと思います。親会社の取締役会や監査役会には、ガバナンス上の機能発揮に関する期待がされていないことの裏返しのようにも思えて、たいへん残念でした。

つぎに、内部通報はされていたものの、親会社は通報に基づく調査をグループ会社に丸投げしてしまい、ずさんな調査結果をそのままうのみにしている点です。この点はイビデングループ・セクハラ事件最高裁判決(平成30年2月)や雪印種苗品質偽装事件の第三者委員会報告書でも同様の問題を指摘することができます。最近はグループ内部通報制度も多くの企業(群)で設置されていますが、その全てにおいて親会社がグループ会社の通報調査に関与しなければならない、というものではありません。ただ、本報告書では「グループ会社での調査をうのみにしてはいけない」事情がいろいろと指摘されているものと考えます。社内調査(グループ内調査)のずさんさは、自浄能力の欠如と評されますので世間的にも批判が高まります。内部通報制度の問題点としては、通報窓口業務に光があたりますが、通報受領後の調査の適正についても光をあてるべきです。

そして最後に、これは私がヤマトHDさんの不祥事として最も重大なポイントと考えますのが顧客の信頼を裏切る背信行為に及んでしまった、という点です。つまりお得意様(報告書では「ヤマト単独決定法人」と称されています)がヤマトを信頼していることを奇貨として、不正な利益ねん出のために「信頼を悪用してしまった」という点です。2008年、産地偽装で揺れた船場吉兆さんは、顧客の支援もあってなんとか民事再生で不祥事を乗り切ることができるかにみえました。しかしそのような時期に「食材使いまわし」事件がメディアで報じられ、それまで支援していたお得意様への裏切り行為が発覚。これで支援が途切れ、同社は破産の道をたどることになりました。

人材不足の折、「仕事は断れない」というデメリットもありましたが、やはりヤマトさんにとってはもっとも収益が見込める法人顧客を相手に裏切り行為に及んだわけで、これは極めて重大な不祥事(業績の悪化につながる不祥事)といえます。今後、どのように信頼を回復していくのか、ヤマトグループ全体を通じて、再発防止策への取組が注目されるところです。なお、最後になりますが、毎日新聞の9月1日朝刊記事には、内部告発をされた方のコメントが掲載されていました。雪印種苗事件の内部告発者の方も、第三者委員会の報告書で指摘されていた事実だけでは狭い、ということで更なるマスコミへの告発をされていましたが、ヤマトの件についても厳しいコメントを述べておられます。いま、企業としてきちんと再発防止策を実行していかなければ、さらなる告発によって「二次不祥事」を招くことになりかねないことに留意すべきです。

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2018年8月11日 (土)

内部通報制度の認証制度への高い関心(説明会満員札どめ)

お盆休みに入りましたが、個人商店である当事務所は(社内紛争や企業不祥事には「お休み」がないためか?)13日以降も平常通りの営業でございます。

ところで「試行錯誤者」さんのコメントで知りましたが、消費者庁がこの秋から始める内部通報制度の認証制に関する説明会が大盛況のようです。東京、大阪での説明会はすべて満席、申し込み受付けを終了しております(消費者庁のHPで確認いたしました)。

これは私の甚だしい見込み違いであり、反省しなければなりません。私は平成28年の消費者庁公益通報制度実効性向上に関する検討会において、認証制度や表彰制度などは一般企業にとっては実効性向上へのインセンティブにはなりえない、そのようなものを制度化するよりもガイドラインを明確化したり、法改正を進めることのほうがよっぽど重要、と(検討会等の公の場で)明言しておりました。

しかし、現実には「当社は優れた内部通報制度を導入しています」と明示できる認証制度にこれほどの企業が関心を寄せているというのは、私の理解不足でありました。ただ、ふたつほど言い訳をさせてください(笑)。私の事務所にも問い合わせが増えたのは、今年5月にコーポレートガバナンス・コード改訂に関する「東京証券取引所の考え方」が公表されてからでした。

消費者庁をはじめ、多くの有識者の方からガバナンス・コードの補充原則2-5①を改訂せよ、との意見が東証に集まりましたが、最終的には改訂はされませんでした。ただ、パブコメへの取引所の考え方として「たとえば消費者庁の公表している民間事業者向けガイドラインに沿った仕組みを構築することが(コンプライしていることの)具体例として考えられる」との意見が付されました(東京証券取引所「パブコメの結果と考え方について」74頁以下をご参照ください)。

今回の内部通報制度の認証についても、この民間事業者向けガイドラインに沿った形での制度構築が要請されているため、上場企業を中心に、この認証制度への関心が高まっているものと推測しております。つまり、私も制度開始時における背景までは2年ほどまえは読み切れませんでした。

そしてもうひとつが今年に入ってからの公益通報者保護法改正に向けた審議の進展です。こちらも先日、内閣府消費者委員会の法改正に向けた報告書が示され、内部告発(外部への社員による情報提供)を少しでも防ぐためには内部通報制度を充実させることが法律上の要件からみても重要との考え方が示されました(これはすでに以前のエントリーで書かせていただきました)。そのような状況も重なり、認証制度への関心が高まっているものと思います。

私の予想ははずれましたが、内部通報制度の実効性向上のためには良い方向だと思いますので、関係省庁におかれましては、できれば東京や大阪では追加の説明会を開催していただき、また全国の主要都市でも同様の説明会を開催していただきたいですね。

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2018年5月16日 (水)

内部通報制度の認証制導入に期待する

消費者庁公益通報者保護制度の実効性向上検討会報告書において提言されていました「内部通報制度の認証制度」ですが、5月12日の日経朝刊一面で「今年の9月ころに実施される予定」と報じられていました(サンダースさんがコメント欄でご紹介されているので、私も少しだけ書かせていただきます)。民間事業者による自主的な取組を促進するための施策として、消費者庁でも検討されてきた制度ですね。ISOでも新たな指針として検討されているそうです(これは知りませんでした)。

この制度は、消費者庁による民間事業者向けガイドラインを参考に、実効性の高い内部通報制度を整備して、コンプライアンス経営の推進に積極的に活用する企業を認証する、というものです。民間の第三者評価機関が、40項目程度の審査基準をもとに評価・認証するようですね。認証を受けた民間事業者側は、取得を積極的にアピールすることで、自浄能力の高さ、製品やサービスの安全性を社会に広報していただくことを想定しています。

ここからは私の個人的な意見ですが、この認証制度が大企業向けなのか、というとそうではなく、中小企業にも認証の機会を付与すべき、ということです。民間事業者向けガイドラインは、小さな事業者でも参考にしていただくことを念頭に置いていますので、中小企業の実情も踏まえて、前向きに取り組んでいる事業者の方々も認証される資格はあるはずです。なので、認証評価基準の運用は弾力的であるべきです。

つぎに、いったん認証を受けた後に「ほったらかし」では意味がない、という点です。継続研修制度や認証更新制として、整備よりも運用を重視した認証制度にすべきです。認証を受けたにもかかわらず、不正が起きたから認証取消し・・・といったものではなく、たとえ不正が起きたとしても自浄能力を発揮することに寄与すれば「優れた制度」として認められるべきですし、また形だけ整備していたとしても、実際に運用されている形跡がみられない、ということでしたら認証を取り消す、といった仕組みが必要かと思います。

そして最後になりますが、認証を受けた企業の取組みを、できるだけ公共財として周知すべきです。とくに、中小企業の内部通報制度については創育工夫の余地が多いはずです。様々なアイデアで優れた内部通報制度を整備・運用している事業者がいらっしゃれば、できるだけ他社の参考にもしていただければと。なお、老婆心ながら、(制度が実施される前に)行政法に詳しい方に、こういった認証の付与、取消といったことの法的性質について、きっちり学んでおいたほうが良いかなぁと思いますね。

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2018年3月29日 (木)

米国の内部告発法は決して「内部告発奨励制度」ではない

三菱マテリアルさんのHPに特別調査委員会の最終報告書が公表されましたね。かなりショッキングな内容であり、多くの経営者の方にもぜひお読みいただきたいところです。

また、品質偽装問題を生じさせてしまった企業にとって気がかりな記事が本日(3月28日)の日経朝刊に掲載されていました。「米、車欠陥の内部告発制度 タカタ元社員が1号に」との見出しで、米国の自動車公益通報者法が紹介されていました。同法に基づいて、日本のタカタ社のシートベルトの不具合を告発した2名の社員に、1億円以上の報奨金が出されることが決まった、とのこと。今後は日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーにも矛先が向けられ、新たな脅威になるといった論調でした。

タカタ社の事例を契機に成立、施行された米国の自動車公益通報者法ですが、従業員による不正申告によって企業が約1億円以上の制裁金を課された場合(和解も含みます)、当該従業員には10%から30%の報奨金が付与される仕組みになっています。通報者は日本企業の従業員でも構いませんし、通報事実は施行前(2015年12月以前)の不正に関する情報でも構いません。日本国内での不正でも、当該自動車(自動車部品)が米国内で使用されているのであれば対象になります。

通報者には自動車メーカーだけでなく、部品メーカーや販売会社、そしてそれらの下請け業者も含みますので、日本企業にも相当の脅威となることは間違いないと思います。ただ、だからといって米国の内部告発保護法が「内部告発奨励法」かというと、それは間違いだと思います。上記の記事では紹介されていませんが、たとえば自動車公益通報者法の条文をよく読みますと、公益通報者が保護され、また報奨金をもらえる条件として「先に会社の内部通報制度を利用して、それでも会社が是正措置を講じなかった場合」とされています。つまり、内部通報制度をしっかりと整備し、また運用していれば、内部告発者が多額の報奨金をもらえる可能性は低い、ということになります。

ただ、企業の内部通報制度が整備されていたとしても、7つほどの例外(通報制度を活用せずとも内部告発ができる場合)が定められていますので、具体的にどのような内部通報制度を整備、運用していればよいのかは、法文をチェックしておく必要があると思います。つまり、「いい加減な内部通報制度ではダメ。通報者の秘密を守り、通報者に不利益な処分をあたえないことが保証されている制度でなければならない」ということがわかります。最近の米国における内部告発関連の法制度は、社内通報を重視する傾向が強いのではないかと思われます。したがって、日本企業の対策としても、まずは自社の内部通報制度をしっかりと構築し、従業員に信頼されるような運用を心がけることが第一ではないでしょうか。

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2017年12月25日 (月)

来年こそ高まるか-公益通報者保護法の改正に向けた機運

12月24日の日経朝刊におきまして、ひさしぶりに公益通報者保護法の改正に関する記事が掲載されました。内閣府の公益通報者保護制度の実効性向上に向けたプログラム(工程表)では、来年法改正の予定とされていますが、消費者庁としてはやはり2019年を目標にしているようです。このたびの法改正は企業や監督官庁にも大きな影響を及ぼすはずなので、経済団体や関係省庁との折衝が続くものと思われます。

ただ、私は⑴ガバナンス改革が進む中で、ガバナンス構築の目的として「CSR経営の推進への配慮」ということが語られるようになってきたこと、⑵最近の一連の無資格検査事例、品質検査データ改ざん事例においては内部通報制度が機能していなかっために内部告発やSNSへの書き込みが不祥事発覚に寄与したこと、⑶リニア工事不正受注事例において、リニエンシー制度が機能し、経営者にとって他社よりも早く正確な情報収集が重要であることが改めて認識されるに至ったこと等から、公益通報者保護法の改正への機運は経済団体でも高まるものと予想しています。

とくに最近は、グループ企業における不正情報が親会社に届かないことで、親会社が致命的な信用低下を招く事案が目立ちます。これだけ戦略的なM&Aが増えていますので、いくらグループ・ガバナンス、企業集団内部統制に配慮したとしても、かならず不祥事は発生します。だからこそ、発生した不祥事をどれだけ早く親会社が察知するか、そこがグループ全体の企業価値向上のためには不可欠の施策であり、内部通報制度の充実や公益通報者保護法の法改正への対応に関心を向けるべきです。

日経記事では、公益通報できる「通報者の範囲の拡大」や行政通報(内部告発)に関する消費者庁窓口の一元化について紹介されていますが、実際には法改正が予定されている項目はたくさんあります。また、記事には掲載されていませんが、企業が内部通報制度を適切に運用することを促すためのインセンティブ作り(認証制度、表彰制度)も進められています。2018年は、法改正に向けたワーキング・グループ等の活動がさらに活発になると予想されますが、どうか今後の審議内容(公益通報者保護制度の実効性を高めるためのシステム作り)について、多くの方々に関心をもっていただければと願っています。

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2017年10月22日 (日)

日産自動車不正検査問題-やはり内部告発が端緒だった・・・

日曜日ですが、備忘録を兼ねて短めのエントリーをひとつ。FNNニュースですでにご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の日産自動車さんの不正検査(無資格者による最終検査)問題について国交省の抜き打ち検査が行われたのは、その数か月前に国交省に内部告発(社内からの情報提供)がなされていたことによるものだそうです。日産自動車の件では、初めて内部告発の存在が明らかになりました。つまり、従業員の方の内部告発がなければ、日産さんは今も平穏無事に(?)無資格者による最終審査を継続しており、新型リーフによる新たな事業戦略がマスコミで華やかに取り上げられていたことになります。

日産さんは当初、「本件について内部通報や告発があったものではない」と発表していました。ただ、私の前回のエントリーの最後のところで述べたとおり、実際には内部告発で発覚したということで、しかも監督官庁がマスコミに漏らした・・・ということなので、日産さんと監督官庁との信頼関係はかなり破たんしていることがわかります。再発防止策を実施したと監督官庁に報告していながら、実はその後も無資格検査が続いていたことが判明したので、日産さんとしては国交省のメンツをつぶしてしまったことになります(これは有事対応としては最悪のパターンです)。

ここからはまた私の推測ですが、従業員の方がいきなり内部告発に至ったとは思えません。定石通り、最初は社内へ内部通報をしたり、上司に問題提起をしておられたものと推測いたします。仮に社内通報が行われていたとなりますと、今度は「不正隠し」(もしくは情報の根詰まり)のほうが無資格検査よりも大きな不祥事として世間から批判を受けることになり、沈静化には長い時間を要することになります。これで「安全性には問題はない、といった意識から、そんなに悪いことではないと現場社員は考えていた」といった安易な企業風土論で片づけることができない不祥事であることが認識できました。

土曜日(10月21日)は、私の事務所で神戸製鋼事件に関する某新聞社の取材を受けました。ここ1週間の間に数名の方から取材を受けましたが、「監査はなぜ機能しなかったのか」といった視点から取材を受けるのは初めてでした。日産さんの件、神戸製鋼さんの件、そして商工中金さんの件、いずれにおいても「監査はなぜ機能しなかったのか」といった視点で原因を究明することは当然であり、ようやくマスコミもそこに関心を向けるようになったと感じました。神戸製鋼さんの品質データ偽装問題については、今のところ自主調査によって発見し、これを自主的に公表したとされていますが、こちらも本当に会社の発表どおりなのか、やはり第三者への情報提供があったのではないか・・・と疑問を抱くところです。

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