2018年9月13日 (木)

内部通報に関する運用の巧拙は企業風土の醸成を左右する

本日(9月12日)は、内部通報制度の運用面での巧拙を示す対照的な事例がマスコミで報じられました。ひとつはクボタ社における検査証明書改ざん事例です。クボタ社の製品について、出荷前の製品検査証明書が偽造されていたことが、社員の内部通報→社内調査によって判明した、とのこと。もちろん今後の外部弁護士による調査によって更なる不正が発覚するかもしれませんが、現時点では自浄作用を発揮した典型例かと思います。

また、毎日新聞朝刊記事(東京版よりも大阪版が詳しく報じています)によりますと、大阪府職員による(不正を告発する)内部通報が府コンプライアンス委員の弁護士へ届いたのですが、弁護士の処理にやや問題があったことと、弁護士から同通報事実を受領した法務課が内容を確認せずに(調査のために)該当部署へ通報内容を送付したことから、誤って通報者の特定情報を漏えいしてしまったそうです(大阪府は通報者に謝罪をしたそうです)。内部通報制度の運用ミスの典型例ですね。

一般的に内部通報制度は不祥事の「早期発見」のための制度と言われます。したがって、実効性を評価するにあたっては「不正の早期発見のために機能したかどうか」が問われます。しかし、通報制度の適正な運用が「不正予防」にも実効性があることはあまり知られていません。クボタ社のように、社内の不正が内部通報によってコーポレート部門が知るところとなり、社内で厳格な調査が行われるとなれば、「見て見ぬふりはできない」「当社は本気で不正を見逃さないのだ」という風潮が全社的に浸透します。最終的には通常のレポートラインが健全化されることになり、不正予防に向けた内部通報制度の実効性が高まるものと評価されます。

いっぽう、大阪府のように通報者の秘密が侵害されたり、さらには内部通報の責任部署のミスが重なったりした場合には、「この組織は本気で内部通報制度を運用する気があるのだろうか」「こんな制度だったら誰も通報などしないから、みんな黙認してくれるにちがいない」といった風潮が蔓延するおそれがあります。つまり、早期発見の機能どころか、不正予防の機能も失われてしまい、かえってコンプライアンス軽視の風潮を助長してしまうおそれがあります。

最近の企業不祥事をみても、通報を受領した後のずさんな社内調査によってグループ会社を含めた組織全体での信頼を喪失させるケースが多く見受けられます。内部通報制度の運用は、通報受領に続く社内調査の巧拙によって左右されますし、個別案件の処理を超えて、不正を見逃さないといった組織風土の醸成にも大きな影響を及ぼすものであることを肝に銘じておくべきです。

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2018年9月 3日 (月)

過去の内部通報が活かされなかったヤマトグループ引越料過大請求事件

先週金曜日(8月31日)に、ヤマトHD社(正確にはグループ会社)の引越料金過大請求事件に関する第三者委員会報告書(全文)が開示されましたので、この週末に全文拝読いたしました。平成22年ころからヤマトHDさんの通報窓口に引越料の不正請求に関する内部通報が届いており、またその後も全国営業会議などで不正事実を訴える支店長が存在していたにもかかわらず、全社的な(組織ぐるみの)不正との認識を持たず、法人顧客への見積り過大請求が繰り返されてきた経緯が詳細に理解できました。以下では、私なりの視点による事件への感想を述べておきます。

まずは、毎度のことながら「内部監査や監査役監査が不正予防または不正早期発見のために果たすべき役割は何であったのか、報告書を読んでもよくわからない」という点です。本報告書を受けて、ヤマトHDさんは経営陣の処分を発表していますが、そこにも監査役の方々の処分についての記載はありません。そもそも取締役会の監督や監査役監査がなぜ機能しなかったのか、こういった事例ではきちんと分析しなければならないと思います。親会社の取締役会や監査役会には、ガバナンス上の機能発揮に関する期待がされていないことの裏返しのようにも思えて、たいへん残念でした。

つぎに、内部通報はされていたものの、親会社は通報に基づく調査をグループ会社に丸投げしてしまい、ずさんな調査結果をそのままうのみにしている点です。この点はイビデングループ・セクハラ事件最高裁判決(平成30年2月)や雪印種苗品質偽装事件の第三者委員会報告書でも同様の問題を指摘することができます。最近はグループ内部通報制度も多くの企業(群)で設置されていますが、その全てにおいて親会社がグループ会社の通報調査に関与しなければならない、というものではありません。ただ、本報告書では「グループ会社での調査をうのみにしてはいけない」事情がいろいろと指摘されているものと考えます。社内調査(グループ内調査)のずさんさは、自浄能力の欠如と評されますので世間的にも批判が高まります。内部通報制度の問題点としては、通報窓口業務に光があたりますが、通報受領後の調査の適正についても光をあてるべきです。

そして最後に、これは私がヤマトHDさんの不祥事として最も重大なポイントと考えますのが顧客の信頼を裏切る背信行為に及んでしまった、という点です。つまりお得意様(報告書では「ヤマト単独決定法人」と称されています)がヤマトを信頼していることを奇貨として、不正な利益ねん出のために「信頼を悪用してしまった」という点です。2008年、産地偽装で揺れた船場吉兆さんは、顧客の支援もあってなんとか民事再生で不祥事を乗り切ることができるかにみえました。しかしそのような時期に「食材使いまわし」事件がメディアで報じられ、それまで支援していたお得意様への裏切り行為が発覚。これで支援が途切れ、同社は破産の道をたどることになりました。

人材不足の折、「仕事は断れない」というデメリットもありましたが、やはりヤマトさんにとってはもっとも収益が見込める法人顧客を相手に裏切り行為に及んだわけで、これは極めて重大な不祥事(業績の悪化につながる不祥事)といえます。今後、どのように信頼を回復していくのか、ヤマトグループ全体を通じて、再発防止策への取組が注目されるところです。なお、最後になりますが、毎日新聞の9月1日朝刊記事には、内部告発をされた方のコメントが掲載されていました。雪印種苗事件の内部告発者の方も、第三者委員会の報告書で指摘されていた事実だけでは狭い、ということで更なるマスコミへの告発をされていましたが、ヤマトの件についても厳しいコメントを述べておられます。いま、企業としてきちんと再発防止策を実行していかなければ、さらなる告発によって「二次不祥事」を招くことになりかねないことに留意すべきです。

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2018年8月11日 (土)

内部通報制度の認証制度への高い関心(説明会満員札どめ)

お盆休みに入りましたが、個人商店である当事務所は(社内紛争や企業不祥事には「お休み」がないためか?)13日以降も平常通りの営業でございます。

ところで「試行錯誤者」さんのコメントで知りましたが、消費者庁がこの秋から始める内部通報制度の認証制に関する説明会が大盛況のようです。東京、大阪での説明会はすべて満席、申し込み受付けを終了しております(消費者庁のHPで確認いたしました)。

これは私の甚だしい見込み違いであり、反省しなければなりません。私は平成28年の消費者庁公益通報制度実効性向上に関する検討会において、認証制度や表彰制度などは一般企業にとっては実効性向上へのインセンティブにはなりえない、そのようなものを制度化するよりもガイドラインを明確化したり、法改正を進めることのほうがよっぽど重要、と(検討会等の公の場で)明言しておりました。

しかし、現実には「当社は優れた内部通報制度を導入しています」と明示できる認証制度にこれほどの企業が関心を寄せているというのは、私の理解不足でありました。ただ、ふたつほど言い訳をさせてください(笑)。私の事務所にも問い合わせが増えたのは、今年5月にコーポレートガバナンス・コード改訂に関する「東京証券取引所の考え方」が公表されてからでした。

消費者庁をはじめ、多くの有識者の方からガバナンス・コードの補充原則2-5①を改訂せよ、との意見が東証に集まりましたが、最終的には改訂はされませんでした。ただ、パブコメへの取引所の考え方として「たとえば消費者庁の公表している民間事業者向けガイドラインに沿った仕組みを構築することが(コンプライしていることの)具体例として考えられる」との意見が付されました(東京証券取引所「パブコメの結果と考え方について」74頁以下をご参照ください)。

今回の内部通報制度の認証についても、この民間事業者向けガイドラインに沿った形での制度構築が要請されているため、上場企業を中心に、この認証制度への関心が高まっているものと推測しております。つまり、私も制度開始時における背景までは2年ほどまえは読み切れませんでした。

そしてもうひとつが今年に入ってからの公益通報者保護法改正に向けた審議の進展です。こちらも先日、内閣府消費者委員会の法改正に向けた報告書が示され、内部告発(外部への社員による情報提供)を少しでも防ぐためには内部通報制度を充実させることが法律上の要件からみても重要との考え方が示されました(これはすでに以前のエントリーで書かせていただきました)。そのような状況も重なり、認証制度への関心が高まっているものと思います。

私の予想ははずれましたが、内部通報制度の実効性向上のためには良い方向だと思いますので、関係省庁におかれましては、できれば東京や大阪では追加の説明会を開催していただき、また全国の主要都市でも同様の説明会を開催していただきたいですね。

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2018年5月16日 (水)

内部通報制度の認証制導入に期待する

消費者庁公益通報者保護制度の実効性向上検討会報告書において提言されていました「内部通報制度の認証制度」ですが、5月12日の日経朝刊一面で「今年の9月ころに実施される予定」と報じられていました(サンダースさんがコメント欄でご紹介されているので、私も少しだけ書かせていただきます)。民間事業者による自主的な取組を促進するための施策として、消費者庁でも検討されてきた制度ですね。ISOでも新たな指針として検討されているそうです(これは知りませんでした)。

この制度は、消費者庁による民間事業者向けガイドラインを参考に、実効性の高い内部通報制度を整備して、コンプライアンス経営の推進に積極的に活用する企業を認証する、というものです。民間の第三者評価機関が、40項目程度の審査基準をもとに評価・認証するようですね。認証を受けた民間事業者側は、取得を積極的にアピールすることで、自浄能力の高さ、製品やサービスの安全性を社会に広報していただくことを想定しています。

ここからは私の個人的な意見ですが、この認証制度が大企業向けなのか、というとそうではなく、中小企業にも認証の機会を付与すべき、ということです。民間事業者向けガイドラインは、小さな事業者でも参考にしていただくことを念頭に置いていますので、中小企業の実情も踏まえて、前向きに取り組んでいる事業者の方々も認証される資格はあるはずです。なので、認証評価基準の運用は弾力的であるべきです。

つぎに、いったん認証を受けた後に「ほったらかし」では意味がない、という点です。継続研修制度や認証更新制として、整備よりも運用を重視した認証制度にすべきです。認証を受けたにもかかわらず、不正が起きたから認証取消し・・・といったものではなく、たとえ不正が起きたとしても自浄能力を発揮することに寄与すれば「優れた制度」として認められるべきですし、また形だけ整備していたとしても、実際に運用されている形跡がみられない、ということでしたら認証を取り消す、といった仕組みが必要かと思います。

そして最後になりますが、認証を受けた企業の取組みを、できるだけ公共財として周知すべきです。とくに、中小企業の内部通報制度については創育工夫の余地が多いはずです。様々なアイデアで優れた内部通報制度を整備・運用している事業者がいらっしゃれば、できるだけ他社の参考にもしていただければと。なお、老婆心ながら、(制度が実施される前に)行政法に詳しい方に、こういった認証の付与、取消といったことの法的性質について、きっちり学んでおいたほうが良いかなぁと思いますね。

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2018年3月29日 (木)

米国の内部告発法は決して「内部告発奨励制度」ではない

三菱マテリアルさんのHPに特別調査委員会の最終報告書が公表されましたね。かなりショッキングな内容であり、多くの経営者の方にもぜひお読みいただきたいところです。

また、品質偽装問題を生じさせてしまった企業にとって気がかりな記事が本日(3月28日)の日経朝刊に掲載されていました。「米、車欠陥の内部告発制度 タカタ元社員が1号に」との見出しで、米国の自動車公益通報者法が紹介されていました。同法に基づいて、日本のタカタ社のシートベルトの不具合を告発した2名の社員に、1億円以上の報奨金が出されることが決まった、とのこと。今後は日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーにも矛先が向けられ、新たな脅威になるといった論調でした。

タカタ社の事例を契機に成立、施行された米国の自動車公益通報者法ですが、従業員による不正申告によって企業が約1億円以上の制裁金を課された場合(和解も含みます)、当該従業員には10%から30%の報奨金が付与される仕組みになっています。通報者は日本企業の従業員でも構いませんし、通報事実は施行前(2015年12月以前)の不正に関する情報でも構いません。日本国内での不正でも、当該自動車(自動車部品)が米国内で使用されているのであれば対象になります。

通報者には自動車メーカーだけでなく、部品メーカーや販売会社、そしてそれらの下請け業者も含みますので、日本企業にも相当の脅威となることは間違いないと思います。ただ、だからといって米国の内部告発保護法が「内部告発奨励法」かというと、それは間違いだと思います。上記の記事では紹介されていませんが、たとえば自動車公益通報者法の条文をよく読みますと、公益通報者が保護され、また報奨金をもらえる条件として「先に会社の内部通報制度を利用して、それでも会社が是正措置を講じなかった場合」とされています。つまり、内部通報制度をしっかりと整備し、また運用していれば、内部告発者が多額の報奨金をもらえる可能性は低い、ということになります。

ただ、企業の内部通報制度が整備されていたとしても、7つほどの例外(通報制度を活用せずとも内部告発ができる場合)が定められていますので、具体的にどのような内部通報制度を整備、運用していればよいのかは、法文をチェックしておく必要があると思います。つまり、「いい加減な内部通報制度ではダメ。通報者の秘密を守り、通報者に不利益な処分をあたえないことが保証されている制度でなければならない」ということがわかります。最近の米国における内部告発関連の法制度は、社内通報を重視する傾向が強いのではないかと思われます。したがって、日本企業の対策としても、まずは自社の内部通報制度をしっかりと構築し、従業員に信頼されるような運用を心がけることが第一ではないでしょうか。

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2017年12月25日 (月)

来年こそ高まるか-公益通報者保護法の改正に向けた機運

12月24日の日経朝刊におきまして、ひさしぶりに公益通報者保護法の改正に関する記事が掲載されました。内閣府の公益通報者保護制度の実効性向上に向けたプログラム(工程表)では、来年法改正の予定とされていますが、消費者庁としてはやはり2019年を目標にしているようです。このたびの法改正は企業や監督官庁にも大きな影響を及ぼすはずなので、経済団体や関係省庁との折衝が続くものと思われます。

ただ、私は⑴ガバナンス改革が進む中で、ガバナンス構築の目的として「CSR経営の推進への配慮」ということが語られるようになってきたこと、⑵最近の一連の無資格検査事例、品質検査データ改ざん事例においては内部通報制度が機能していなかっために内部告発やSNSへの書き込みが不祥事発覚に寄与したこと、⑶リニア工事不正受注事例において、リニエンシー制度が機能し、経営者にとって他社よりも早く正確な情報収集が重要であることが改めて認識されるに至ったこと等から、公益通報者保護法の改正への機運は経済団体でも高まるものと予想しています。

とくに最近は、グループ企業における不正情報が親会社に届かないことで、親会社が致命的な信用低下を招く事案が目立ちます。これだけ戦略的なM&Aが増えていますので、いくらグループ・ガバナンス、企業集団内部統制に配慮したとしても、かならず不祥事は発生します。だからこそ、発生した不祥事をどれだけ早く親会社が察知するか、そこがグループ全体の企業価値向上のためには不可欠の施策であり、内部通報制度の充実や公益通報者保護法の法改正への対応に関心を向けるべきです。

日経記事では、公益通報できる「通報者の範囲の拡大」や行政通報(内部告発)に関する消費者庁窓口の一元化について紹介されていますが、実際には法改正が予定されている項目はたくさんあります。また、記事には掲載されていませんが、企業が内部通報制度を適切に運用することを促すためのインセンティブ作り(認証制度、表彰制度)も進められています。2018年は、法改正に向けたワーキング・グループ等の活動がさらに活発になると予想されますが、どうか今後の審議内容(公益通報者保護制度の実効性を高めるためのシステム作り)について、多くの方々に関心をもっていただければと願っています。

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2017年10月22日 (日)

日産自動車不正検査問題-やはり内部告発が端緒だった・・・

日曜日ですが、備忘録を兼ねて短めのエントリーをひとつ。FNNニュースですでにご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の日産自動車さんの不正検査(無資格者による最終検査)問題について国交省の抜き打ち検査が行われたのは、その数か月前に国交省に内部告発(社内からの情報提供)がなされていたことによるものだそうです。日産自動車の件では、初めて内部告発の存在が明らかになりました。つまり、従業員の方の内部告発がなければ、日産さんは今も平穏無事に(?)無資格者による最終審査を継続しており、新型リーフによる新たな事業戦略がマスコミで華やかに取り上げられていたことになります。

日産さんは当初、「本件について内部通報や告発があったものではない」と発表していました。ただ、私の前回のエントリーの最後のところで述べたとおり、実際には内部告発で発覚したということで、しかも監督官庁がマスコミに漏らした・・・ということなので、日産さんと監督官庁との信頼関係はかなり破たんしていることがわかります。再発防止策を実施したと監督官庁に報告していながら、実はその後も無資格検査が続いていたことが判明したので、日産さんとしては国交省のメンツをつぶしてしまったことになります(これは有事対応としては最悪のパターンです)。

ここからはまた私の推測ですが、従業員の方がいきなり内部告発に至ったとは思えません。定石通り、最初は社内へ内部通報をしたり、上司に問題提起をしておられたものと推測いたします。仮に社内通報が行われていたとなりますと、今度は「不正隠し」(もしくは情報の根詰まり)のほうが無資格検査よりも大きな不祥事として世間から批判を受けることになり、沈静化には長い時間を要することになります。これで「安全性には問題はない、といった意識から、そんなに悪いことではないと現場社員は考えていた」といった安易な企業風土論で片づけることができない不祥事であることが認識できました。

土曜日(10月21日)は、私の事務所で神戸製鋼事件に関する某新聞社の取材を受けました。ここ1週間の間に数名の方から取材を受けましたが、「監査はなぜ機能しなかったのか」といった視点から取材を受けるのは初めてでした。日産さんの件、神戸製鋼さんの件、そして商工中金さんの件、いずれにおいても「監査はなぜ機能しなかったのか」といった視点で原因を究明することは当然であり、ようやくマスコミもそこに関心を向けるようになったと感じました。神戸製鋼さんの品質データ偽装問題については、今のところ自主調査によって発見し、これを自主的に公表したとされていますが、こちらも本当に会社の発表どおりなのか、やはり第三者への情報提供があったのではないか・・・と疑問を抱くところです。

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2017年9月 8日 (金)

内部通報を促進する企業風土を形成するにはストーリーが必要である

中国の通信機器メーカーである華為技術(Huawei)社は、社内の技術開発上の不正に関する内部通報者(報道では内部告発となっていますが、社内通報ですね)について職位2階級の昇進をさせたうえで、CEOの社内広報として

我々は職員および幹部が真実を語ることを奨励すべきだ。真実には正確なものと不正確なものがあるので、各組織がそれを採択すべきかどうかは問題ではないが、風紀を変える必要はある。真実は組織の管理を改善するのに役立つが、嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる。 よって、会社は梁山広氏(社員番号00379880)のランクを即日2つ昇進させ16Aとし、そのほかの昇進や一般査定に影響しないものとする。自らの職位を選べ、研究所での仕事を許諾。鄧泰華氏の保護下に置かれ、打撃や報復を受けないものとする

と述べたそうです。Huawei社がこうした内部通報や対策を一般世間に公開した点に関して、社内および中国国内から多数の賞賛の声が寄せられている、とのこと。元々日本よりも中国では内部通報や内部告発は活発ですが、それでもCEOが内部通報を奨励し、目に見える形で通報者への報償を実施するとなると、従業員への強いメッセージになると思います。

「社内の嘘はコストである」・・・、これはいい表現ですね。かつて帝人さんの長島社長(現相談役)が、同社徳山工場における不祥事に関する内部通報がヘルプラインに届いた際、同社長が通報者に「あなたのおかげで帝人は救われた。ありがとう」とおっしゃったのは有名な話。おそらくこのようなストーリーがなければ、企業風土はなかなか変わらないように思います。

ただ、このストーリーは「いい話」ばかりではありません。9月1日以来、FNNニュースや日経さんで報じられているように、ゼネコンの清水建設さんにおいて「福島第1原発の廃炉に向けた工事で、清水建設のJV(共同企業体)の責任者が作業員の人数を水増しして架空請求した疑いがある問題で、清水建設本社が2016年、内部通報を受けたものの、本格的な調査を行っていなかったことがわかった」と報じられています。もちろんFNNに告発した方が、この内部通報者と同一かどうかは定かではありませんが、すでに清水建設さんは、自治体に対しても、「情報共有にミスがあったことが原因で」過剰請求していたことを報告されたようです。

当ブログでは過去に何度も申し上げているとおり、内部通報への対処が不適切な場合には、通報者は第三者に対して通報(つまり内部告発)するようになります。日本の内部通報者の多くは、自身の私利私欲のために会社を脅して金銭を要求するタイプの方はあまり多くはありません。自身が誇れる会社でありたい、地域から尊敬される会社でいてほしい、会社が好きだからこそ許せない、といった気持ちから内部通報をされる方が圧倒的に多いのです。だからこそ、会社が何もしない(動かない)となると、誠実な気持ちで監督官庁やマスコミへ内部告発を行います。企業が自主的に不正を申告すれば、監督官庁も企業と一緒に善処方を考えてくれるのに、内部告発による場合だと、監督官庁も「騙された」立場になりますので企業に対して容赦はしません(この差はとても大きいのです)。

このような「悪い話」のストーリーも、実は内部通報制度を企業に根付かせる要因にもなります。ただ、やっぱり「悪い話」はお勧めできません。労働者通報に関する行政機関の通報対応ガイドラインは、国も地方自治体も出そろいましたので、今後はますます従業員の方々による内部告発が容易になり、外部への情報提供は増えることが予想されます。内部告発リスクに備えるためにも、不正(もしくはその兆候)を見つけたら迷うことなく社内通報すべし、といった組織文化を醸成すべきだと思います。

 

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2017年5月31日 (水)

改正個人情報保護法の施行と内部通報制度実務への影響

本日(5月30日)は、大阪OMMビル会議室にて、消費者庁主催「内部通報制度に関する民間事業者向けガイドライン説明会」が開催されまして、「企業経営における内部通報制度の重要性」なる講演をさせていただきました(消費者庁担当官の方の講演の前座です)。東京の追加説明会と同様、大阪も満席(というよりも予定満員数をかなり超えていました)という盛況ぶりでして、ご来場いただきました方に厚くお礼申し上げます。なお、質問の時間がとれず、終了後に個別のご質問をお受けしただけでとなり、失礼いたしました。

ところで、本日は改正個人情報保護法の施行日です。公益通報者保護法と個人情報保護法との関係、内部通報制度と個人情報保護法との関係を若干知っていただきたく、3つほどの事例を「頭出し」程度に紹介させていただきました。内部通報制度の支援や内部告発人の支援をしておりますと、「これって個人情報保護法が改正されたらどうなるのだろうか?」と疑問に感じることがたくさん出てきます。説明会でも述べましたが、公益通報者保護法の解釈、内部通報制度の適正な実務運用には労働法的視点、行政法的視点、消費者法的視点そして会社法的視点が交錯しているので、実務に落とし込むには工夫が必要ですね。

たとえば、①「個人情報」「個人データ」「保有個人データ」と内部通報事実、公益通報事実の取扱い、②グループ内部通報制度を採用する親子会社間における通報事実の通知と「第三者提供」「共同使用」の概念、③外部窓口業務と「従業者・委託先への管理・監督」、④従業員による服務規程に違反した情報提供行為と「データの不正取得」、⑤通報対象者による保有個人データ開示請求とその対応などなど、内部通報実務に及ぼす改正個人情報保護法の影響はかなり大きいと思います(内部通報制度に関する民間事業者ガイドラインも、改正個人情報保護法も、中小規模会社の事業にも適用されます※)。本日は時間の関係で詳細な解説はできませんでしたが、内部通報制度の運用上の留意点として、きちんと整理をしておいたほうがよろしいかと思います。私自身もまだ試案程度しか持ち合わせておりませんので、同業者の方と意見交換をさせていただく予定です。

※・・・ただし、改正個人情報保護法では、「安全管理措置」について「中小規模事業者」について通則指針による軽減措置あり。

本日の私の講演レジメ及び講演録は、また後日消費者庁HPに掲載されますのでご参考いただければ幸いです。さて、ガイドライン説明会が終わりますと、今年の後半以降は公益通報者保護法改正に向けての「第2ラウンド」ですね。審議は消費者庁から内閣府(消費者委員会)に移り、いよいよ経済団体や消費者団体、中小企業代表等の方々との意見交換も始まるものと予想します。個人情報保護法が改正されたような「風」が吹くとは思っておりませんが(そんなに甘くないことは承知しておりますが)、企業コンプライアンスの実現に向けた施策が前進することを祈るばかりです。

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2017年5月 2日 (火)

不正を発見した従業員の内部通報義務について(過去の判例)

先日は「もうひとつのエフオーアイ事件判決」として、民法719条2項(共同不法行為のほう助)に該当する事案をご紹介しましたが、こちらはもうひとつの共同不法行為のほう助を認めた事案です。

安西愈先生の労働法に関するご著書を拝読していて知ったのですが、過去に不正を発見した従業員について信義則上の内部通報義務を認めた判例があるのですね(恥ずかしながら存じ上げませんでした)。ネット情報からのコピーですが、以下のような概要です。

コンビニにおける同僚の商品盗取に対する従業員らの損害賠償責任--さえき事件・福岡地裁小倉支部判決の研究(福岡地裁小倉支部 平成10.9.11)

自らの店の商品を盗取するなどの不正行為をしないことはもとより、他の従業員による不正行為を発見した時は、雇用主にこれを申告して被害の回復に努めるべき義務をも負担するものと解するのが相当である。←コンビニにおける友人の不正取得を黙認していた従業員が会社から訴えられた事案です。

そして、従業員自らが商品を盗取するなどの不正行為をした場合にはこれが不法行為を構成することは明らかであるが、更に、他の従業員による不正行為を発見しながらこれを雇用主に申告しないで被害の発生を放置した場合には、その不作為が前記内容の誠実義務に違反する債務不履行を構成するのみならず、その不作為によって他の従業員による不法行為(不正行為)を容易にしたものとして、不法行為に対する幇助が成立するというべきである。

労働契約法も公益通報者保護法も存在しなかった頃の判例ですが、信義則上の内部通報義務が、公益通報者保護法に基づく第三者への情報提供(内部告発)まで制限するような労働契約の存在まで肯定するものではないとも思いますが、少し気になる判決です。

そこで、本日、労働法律旬報1483号(2000年7月10日号)17頁以下を取り寄せて、浅野高広氏(北大大学院:当時)のご論稿を拝読いたしました。⑴どのようなことがあれば抽象的な通報義務が、「不作為の違法性」を認める根拠となる具体的な通報義務に変わるか、⑵通報対象事実を具体的に特定できない程度にしか不正事実を知らない場合でも通報義務がなぜ認められるのか、という点がかなり理解できました。

いままでは、「内部告発は企業にとって不利ですよ、だから内部通報制度をしっかり作りましょう」といった説明をしていましたが、これだけでなく「これだけ会社がしっかり内部通報制度を作っているのだから、あなたは内部通報をしないと不法行為責任を問われますよ、だから内部通報しましょう」といった説明もありうると思いますね(注・・・ただし上記判決も信義則上の義務としていますので、あくまでも事案によりますが・・・)。

消費者庁の公益通報者保護制度の実効性向上検討会では、法改正に向けた議論が進みましたが、(某委員の方から主張されたとおり)、実は通報後の調査との関係は、あまりつっこんだ意見交換がされませんでした。ただ、雇用契約上のいろんな論点を検討していますと、通報者や通報対象者と「調査協力義務」との関係でも、内部通報制度を構築するにあたって留意すべき論点が存在することに気がつきます。今後またいくつかご紹介したいと思います。

 

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