たぶん本日(3月17日)だと思いますが、3月3日に判決がでておりましたアソシエント・テクノロジー株式会社の粉飾決算事件(虚偽記載の決算書類を信用して株式を購入した株主らが、株価低落にともなう損害賠償を取締役らに求めた事件)の大分地裁での判決全文がリリースされました。(判決の概要を紹介している産経WEBニュースはこちら です)アソシエント社は大分県の会社として初めてマザーズ上場を果たしたソフトウエア受託開発業者でありましたが、その後粉飾決算をきっかけに上場廃止となった会社であります。なお、粉飾決算の疑惑があることを公表したのは、平成16年10月でありますが、実際に粉飾を行っていた期間は平成14年8月以降のことですから、平成15年6月の上場前からの粉飾ということになります。
(アソシエント社の会計処理が)粉飾決算であることの認定方法として、スルー取引の存在を前提としているのか、それとも元々が架空取引だったのか(不正会計公表直後の社外調査委員会は、スルー取引である、としていますが、本判決は、スルー取引性を否定して、そもそも架空取引である、と評価しております)、本件株主らに発生した損害は「間接損害」かそれとも「直接損害」か、かりに直接損害であるとすると、アソシエント社の当時の代表者はいかなる法的根拠によって株主に対して責任を負担するのか、ほかの不正会計に関与した取締役の責任を認める法的根拠はどうか、さらに会社自身の不法行為責任はどのような法的構成によって認められるのか、などなど、企業会計、会社法上の責任論にとって非常に興味深い論点が含まれております。また、証券取引法24条の4を根拠とする法的責任はなぜ追及されなかったのか、適正意見を出した監査人や、会社法上の監査役はどうして被告として選定されなかったのか、など、その周辺領域にわたる問題点も検討の価値がありそうです。
本判決の評釈につきましては、また著名な商法学者の先生方の論稿に期待するとしまして、すこしだけ感想めいたことを述べますと、まず企業不祥事発覚直後の社外調査委員会の調査能力の限界であります。会計士と弁護士による社外調査委員会が設立され、粉飾決算の有無等について検討されたようでありますが(残念ながら、現時点ではこの報告書はWEB上では閲覧できないようです)、「架空取引」と認定することによって、問題取引先にも重大な影響を与える可能性が高かったためか、遠慮がちに事実認定を行い、原則は合法的なスルー取引ではないか・・・と推測されております。裁判所は、詳細な証拠に基づいて明確に「架空取引であった」と認定しておりますので、有事において限られた時間と限られた証拠をもって行われる「社外調査委員会の事実認定作業のむずかしさ」を物語るところであります。また、「虚偽表示リスク」でありますが、前渡金項目は原則として資産購入代金に充当するか、あるいは費用として計上することで精算されることになりますが、結果的に支出目的が不明確なままで回収できないような場合も生じますし、これがソフト開発という収益認識の時期が不明確な業種であればなおさら粉飾については誘惑的であり、不正会計のリスクが高まるわけであります。ましてや本件では収益費用管理帖や偽装の証憑まで作成されていたということで、これを経営トップが主導的に行っていたことで、監査法人さんも容易には発見できなかったのかもしれません。(現在はこういったソフトウエア開発委託に係る収益発生の時期等、会計基準によって明確になってきたのでしょうかね?専門ではないのでわかりませんが)
また、アソシエント社が上場した後に(つまり平成15年6月以降)に、CFOとして取締役に就任したF氏については、前渡金の計上金額の大きさと費用としての消しこみとのバランスの悪さを指摘し(つまり意図的な利益かさ上げに気づき)、これに早期に対処するよう代表者に忠告していた事実は認定されているものの、結論的にはこれを阻止できなかったことについて取締役の第三者責任が肯定され(つまり株主らの損害発生について故意、重過失が認められる)とされており、連帯責任を余儀なくされております。自ら主導的な立場でない取締役や、監査のなかで粉飾決算を発見した監査役は、経営トップによる暴走は確実に差し止めるか、もしくは(どうしても粉飾の訂正、もしくは拡大の防止について経営陣と意見が合わない場合には)その時点で退任して「関与」を否定する以外には※、責任を免れる方法はなさそうであります。(なお、本件判決につきましては、未だ確定していないものと思われますので、今後また福岡高裁にて控訴審判決が出される可能性もありますので、要注意であります)
※下線部につき「無法者」さんより、ご質問をいただいておりますので、修正をいたしました。