2008年4月 4日 (金)

監査役が買収防衛策のお目付け役?

週刊経営財務2862号、2863号(最新版)のスペシャル対談「内部統制報告制度のあるべき姿と実務への期待」、もう読まれましたでしょうか?企業会計審議会内部統制部会長のH田教授とN会計士による対談でありますが、とりわけ最新号に掲載されております後半部分のH田教授のご発言は「読み応え」十分でありましたが、「重要な欠陥」と「不備」という評価区分、いまからでも変更できないでしょうかね?(もちろんできないでしょうけど)やっぱりネーミングがイマイチですよ。「もし重要な欠陥があるとしても、それを前向きに考えましょう」といわれましても、一般の投資家は「あれ、この会社の報告書に『重要な欠陥あり』って書かれてる。ということは財務諸表の数字が信用できないとうことだね?こわーい。買わんとこ」って思うはずです(きっと)。「重要な欠陥」という言葉のイメージは、「あなたの会社は上場すべき会社ではない・・・」といった烙印を押されたイメージが消えず、どうも前向きなイメージが湧いてこないのですね。現場担当者にしても、気分悪いですよね。そこそこの数の上場企業について「内部統制に問題がある」といった開示上の運用を目指し、なおかつこれを上場企業が前向きに捉えることを目指すのであれば、もうすこし前向きになれそうなネーミングにすべきだと思います。たとえば「重要な欠陥」は「早急に改善すべき整備上の(運用上の)課題」、「不備」は思い切って「整備上のリスク」「運用上のリスク」といった具合に変更すれば、監査人、上場会社、一般投資家の間の共通言語としての意味合いが出てくるのではないでしょうかね?

さて話はガラリと変わるのでありますが、本日(4月3日)の日経朝刊にて、「経営陣と株主対立の場合 監査役が仲介・調整 東証などルール検討へ」なる見出しの記事が掲載されておりました。4月9日の日本監査役協会全国大会の直前という絶妙のタイミングでのニュースであります。(日経ニュースはこちら)少しだけ記事を引用させていただきますと、

東京証券取引所と日本監査役協会は、買収防衛策の導入などで経営陣と株主の利害が対立する場合に、監査役が第三者の立場で仲介や調整を担う仕組みづくりに着手した。株主の利益を損ないかねない決定を経営陣が公表する際に、監査役の意見書添付を義務づけるルールなどを検討する。株主に適切な判断材料を提供し、経営陣の保身的な行動に歯止めをかける。

冒頭のH田教授の対談におきましても、H田教授は「これからは会計監査人と監査役は連帯責任を負う時代」「(上場企業の場合)すくなくとも監査役一名は公認会計士の資格を保有するものでなければならない、と証券取引所の自主ルールで決めるべき、との議論があってもいい」とされ、監査役と取引所自主ルールとの関係について「企業会計と監査役のかかわり」という立場から積極的な意向を示しておられます。監査役の地位権限について、会社法の改正という手法ではなく、自主ルールで決定していこうという対応についてはいよいよ本格化しそうな気配が漂いつつあります。(なお、取引所自主ルールによって、大会社以外の上場企業についても「監査役会」設置がすでにルール化されておりまして、これまでまったく検討されていなかった、というわけではございません)新聞記事において掲載されている監査役の具体的な仲介・調整の役割を列挙いたしますと、以下のとおりであります。

・親会社と子会社がともに上場する「親子上場」時の少数株主と親会社との利害対立の調整

・大規模な第三者割当増資で一株あたり利益が目減りするおそれがある場合の株主保護(これも「意見書」添付でしょうか?)

・買収防衛策の導入などで経営陣と株主の利害対立のおそれがある場合に、経営陣の意見公表における監査役「意見書」添付

いやいや情報不足でした。本当に驚きましたです。しかし冷静に考えてみますと、上に掲げたような機能というのは、これまで監査役というよりも「社外取締役」に期待されたものとして議論されていたのではないでしょうか?監査役協会内に設置された研究会メンバーには経団連の方々も含まれている、とのことでありますが、「わざわざ社外取締役を強制導入せずとも、日本の会社法制度には社外監査役というものがあるではないか」との意見が強いところですので、すでに社外役員の数も多い「監査役制度」のほうでガバナンスの公正性確保をはかっていこう、という趣旨のものだと思われます。ただ、以下は私の勝手な思いつきによるものでありますが、いろいろと問題点は出てくるのではないでしょうか。

1 経営判断原則との関係

監査役は会社が大きなリスクを背負うことになるような経営判断を要する場合において、その判断の妥当性をチェックするというよりも、判断過程のプロセスをチェックするものである、と認識しておりますし、現に私自身もそのような対応をとっております。しかしながら、上記具体的な仲介・調整作用は、経営判断そのものに監査役が踏み込むことを前提としているようにも読めます。社外取締役が株主の代弁者として経営判断に関与するというのは理解できるのでありますが、監査役の本来期待されている職責との関係ではどうなるのでしょうか?また、そもそも会社法が「取締役会」制度に期待しているところとの関係についても問題になろうかと思われます。監査役による「事前監督機能」という点から、監査役に広く妥当性監査を求めることも可能ではありますが、ここでは株主に対する「意見公表」が前提となっておりますので、単に監査役が取締役(取締役会)に報告するだけのことではなく、基本は適法性監査を前提とせざるをえないのではないでしょうか。

2 買収防衛策のスキームとの関係

1とも関連するところでありますが、もし監査役が意見書を添付したうえで経営陣が意見表明する、ということであれば、これは現在の事前警告型買収防衛策における「独立委員会」の役割を監査役が担う・・・ということなんでしょうか。(紹介させていただいた記事内容からみると、事前警告型の防衛策の導入時だけでなく、発動時にも監査役が関与することが前提のように読めますよね)それとも、独立委員会はそのまま維持しておいて、監査役は手続上のチェックの結果のみを意見書で表明する、という意味なのでしょうか。しかし、大規模な第三者割当について監査役が調整役を果たすことも記載されておりまして、この「大規模な第三者割当」というのは買収防衛策として活用されるケースも想定されるでしょうから、やはり手続だけでなく、経営者意見の中身についても監査役が関与するものと考えられそうであります。そうしますと、やっぱり独立委員会に代替しうる監査役の関与、ということになるのではないかと推測されます。また、監査役が関与したからといって、「権限分配法理」との関係は解決されないと思われますので、株主に直接責任を負う監査役が関与しているという点は重視されるかもしれませんが、これで裁判に勝てるかどうかは未知数だと思います。(あくまでも、株主保護政策としての対外的信用をはかることに重きがおかれているのではないでしょうか)

3 株主代表訴訟(責任追及)、不提訴理由通知制度

買収防衛策発動にからんで、取締役の責任追及がはかられる場合、前提となる会社に対する提訴請求は監査役宛になされるわけでありますが(会社法386条2項1号)、そもそも取締役の意見表明に先立って監査役が「意見書」を添付するようなケースであれば、監査役にはもはや取締役と対峙して会社を代表するにふさわしい公正な立場を期待することはできないことになります。この場合は監査役自身も株主代表訴訟の被告になるケースが多いと思われますので(会社法847条)、同349条4項により、元にもどって代表取締役が会社を代表することになるのでしょうか。また、不提訴理由通知制度(847条4項)も意味がなくなってしまうのではないでしょうか。まぁ、内部統制システムに関する相当性監査とか、防衛策の相当性に関する監査、会計監査人の報酬や選任決定への関与など、妥当性監査へ傾斜しているところでありますので、このあたりはあまり大きな問題ではないのかもしれません。

4 監査役の任期、独任制との関係

以前エントリーにも記載しましたが、監査役はその職務の独立性を確保するために、上場企業の場合は4年と定められております。会社の適法性監査が期待されているからこそ、その職務の独立性が強く確保されているとは思うのでありますが、これだけ相当性、妥当性監査に傾斜してきますと、はたして4年の任期は妥当な期間なのかどうか、株主の権利保護という重責を担うとすれば、本当に2年ごとに選任されたほうが妥当ではないか、といった疑問も生じてきます。また、監査役は(上場企業の場合、上場ルールとしても)監査役会を形成しておりますが、その職務の独立性確保のために法律上は「独任制」であります。(監査報告も別々に作成します)今回考えられております「意見書」はおそらく「監査役会における協議のうえで作成」されるものだと思いますが、もしそうだとしますと、監査役の独任制たる地位と矛盾しないのでしょうか。(意見書は別々に作成しながら、監査役会としても作成する・・・というわけではないと思います)

そういえば、こういった「監査役制度の大転換」の気配を感じるなかで、「取締役兼務監査役」を提唱された大杉先生の商事法務論文「監査役制度改造論」を思い出しました。いずれにしましても、日本監査役協会における研究会や、東証の有識者懇談会で協議され、来春あたりに報告書がまとめられる・・・とのことですので(日経新聞の報道内容によれば)、会社法、規則との整合性、「公開会社法」提言との関連性、監査役監査基準の法規範性の認知度、買収防衛ルールの発展など、諸事情を勘案しながら中身が形成されていくものと思われます。また、中身が明らかになった段階で、私見も書いてみたいと思っております。今後の展開を楽しみにしております。

4月 4, 2008 監査役と買収防衛策(東証ルール) | | コメント (8) | トラックバック (0)