2016年7月27日 (水)

株主による情報収集と監査役の不提訴判断(理由通知制度)

来年の会社法改正を展望するうえで注目せざるをえないのが商事法務研究会で開催されている会社法研究会の審議状況です。7月21日の研究会では株主代表訴訟に関連する論点が審議されたようで、株主による資料収集の在り方も議論された模様です(すいません、まだ議事内容までは確認しておりませんので「模様です」という表現にしました)。たとえば企業不祥事の発覚によって株主に損害が発生した場合、一般株主は取締役の善管注意義務違反を根拠に株主代表訴訟を提起するケースが多いことはご承知のとおりかと(なお、最近はオリンパス事件、東芝事件のように会社自身が当時の役員に損害賠償請求訴訟を提起することもあります)。

株主代表訴訟を提起する場合、株主はまず監査役さんに対して「会社を代表して取締役らを提訴せよ」と請求するのですが、会社法では監査役さんが提訴しない、という判断を決定した場合には、(代表訴訟を準備する株主側からの要求に基づいて)その判断理由を通知することになっています(会社法847条4項、同386条1項1号、規則218条)。しかし、この「不提訴理由通知」の制度が、代表訴訟を提起する株主の情報収集に役立っているかといいますと、かなり疑問があるのではないか、との意見が出ています。

たとえば7月15日付け日経朝刊16面(企業面)では、免震ゴム偽装で揺れた東洋ゴム工業さんにおいて、一般株主が取締役ら19名を提訴するように会社側に請求した(今年5月)のですが、結論として同社監査役さんらは提訴しないとの判断に至り、その旨を株主に通知したことが報じられています。おそらく東洋ゴム工業さんの広報を通じての話だと推測しますが、判断理由は「半数以上の取締役は免震ゴム事業に関与していない」「免震ゴムに関与した取締役については、現在大阪府警による捜査対象とされているために、聞き取り調査ができない状況にある」とのことだそうです(なお、このブログを書いている段階で、株主宛ての不提訴理由通知書の全文は確認していないので、あくまでも報道レベルでの情報です)。

私個人の考え方としては、この「不提訴理由通知制度」というのは、監査役さんにとっては有事対応の一種だと思いまして、かなりリーガルリスクを伴う職務だと考えています(もちろん損害発生との因果関係等、責任認定にあたっては別個の法的判断も必要としますが)。したがって、本来は不提訴とした理由は、開示されることを前提に慎重な判断が求められるはずです。しかし、現実の運用をみておりますと、「どんな理由を出そうが提訴しない、という判断であれば株主代表訴訟は提起されるんだから、株主に有利になるような証拠の存在や事実認定を示す必要はないのでは。」といったかなり軽い認識を監査役の方々がお持ちのように見受けられます。

このたびの東洋ゴム工業さんの件でも、果たして「府警の捜査が続いているので責任判定の根拠となるヒアリングができなかった。そもそも多くの取締役は免震ゴム事業に関与していなかった」ということが不提訴の理由になるのかどうか、という点はなかなか微妙なところではないでしょうか。おそらく株主の方は(免震ゴム関連業務に)関与していない取締役さんが存在することを前提に、取締役の監視義務違反や内部統制構築(運用)義務違反を指摘しているはずです。また、たとえ府警の捜査が続いていたとしても、免震ゴム偽装の件は社外の特別調査チームによる報告書が公開されており、そういった資料に基づいて責任判定を行うこともあり得ますし、刑事事件の根拠とは異なる民事事件の根拠事実に限ってヒアリングを行うことも考えられます。正確には「不提訴理由通知書」の中身を確認しなければ申し上げられませんが、おそらく一般の株主の感覚としては「監査役としては職務を放棄したのではないか」との認識を抱いたのではないでしょうか。

このような不提訴理由通知が監査役としての任務懈怠に該当するのかどうかは別として、監査役が会社側の利益に立って、株主への実質的な情報提供を尽くさず、また一般の株主の側でも「監査役による提訴判断は何の役にも立たない」という意見が一般化している現状では、この監査役による不提訴理由判断(理由通知制度)は法改正の必要性が高いのではないでしょうか(そもそも平成18年会社法改正の際、この不提訴理由通知の制度趣旨が国会審議によって少し変わったという経緯もあるのですが、そのあたりは触れないことにします)。

ここ20年ほど、株主代表訴訟の提訴件数はほぼ横ばいであり、裁判所も担保供与を認めている事案がないので、それほど濫用事例は見当たらないように思います。したがって株主代表訴訟の原告適格を少数株主化したり(現在は一株株主でも可能)、訴訟委員会制度を活用するというところまでの法改正は必要ではないと思いますが、せめて監査役による不提訴理由通知の「判断理由」を(法または政令により)類型化して、株主が真に提訴の有無を判断できるような体制に整備すべきではないでしょうか。せっかく社外役員が増えているのですから、社外役員で構成される委員会が判断する、ということも考えられます(その上で、提訴理由が示されたにもかかわらず株主が提訴するのであれば、たとえば担保提供をある程度柔軟に裁判所が認めたり、訴訟の早期の段階で悪意認定を行う、といった運用を検討してみてはどうでしょうか)。

上場会社に社外取締役の数が急増している中で、あまり株主代表訴訟が認められやすくなることは政府の成長戦略と逆行することになりそうですが、そのあたりは監査役による不提訴判断理由をできるだけ柔軟に広げて、ある程度は監査役さん方もリーガルリスクを共有することを前提に運用すべきです。そのほうが「公益の番人としての監査役」にふさわしい職務が期待できるように思う次第です。

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2012年4月 6日 (金)

会計監査人・監査役の連係(連携)と「監査見逃し責任」

たまたま、3月下旬に出た某監査法人さんの「監査見逃し責任追及」判決(地裁判決)の全文を読ませていただきました(ご厚意で、ある方からいただいたもので、学術的関心に基づくものです。ちなみに監査法人側、全面勝訴の結果となっております)。この判決文においても、また(先日の)オリンパス監査役等責任調査委員会報告書における後任監査法人の責任判断でも、不思議と出てこないのが「監査法人と監査役の連係」に関する論点であります。平成17年ころから、「会計監査人と監査役との連係・協調」に関する共同研究報告が出されているにもかかわらず、これは法的な争点として取り上げられることはなかったようです。あまり触れられていないのは、おそらく「公正なる会計慣行」と同様、この論点も法と会計の狭間の問題だからではないかと思われます。

監査手法として現場に浸透している「リスク・アプローチ」が判決文のなかにも普通に登場するようになり、これに伴い「不正の兆候」「異常な兆候」といった用語も普通に使われるようになったにもかかわらず、会計不正事件に遭遇した監査役と会計監査人とは、別々に法的責任が論じられているのが現実であります。たしかに、監査役の会計監査に関わるものとしては、ライブドア投資家損害賠償請求事件判決において、会計監査人側から「会計不正の疑いあり」との連絡を受けながら、監査役が何もしなかったということが任務懈怠とされた例がございます。つまり会計監査人からの指摘が監査役について「異常な兆候」ということになります。しかし、逆に会計監査人が監査役の報告を受けたたことで監査法人の責任が認められた判決は、見たことがありません。

会計監査人が監査計画を立てる時点において、どこにリスクがあるのかを判定するため、または内部統制リスクを評価するために監査役の意見を聞くとか、意見表明のための心証形成の時点において、監査役から会計監査に関する事実を聴取するなどすれば、重要な虚偽記載のおそれの有無について参考になる事情も出て来る可能性があります。たとえばオリンパス事件においては、監査法人どうしの引き継ぎの妥当性に関する論点については詳細に検討されているのですが、監査役との引き継ぎ時における論点はなんら触れられておりません。日本公認会計士協会「監査役会との連携に関する共同報告」平成21年改正版には、選任された監査法人は、監査役と前任監査法人との連携の状況は意見交換すべき基本事項として掲げられています。監査法人と違って監査役には職務上の守秘義務がないわけですから、忌憚のない意見を選任監査法人に述べることができるわけでして、まさに「不正の兆候」に結び付く可能性があるわけです。

会計監査人側からすれば、一般に公正妥当と認められる監査の基準に則って監査を遂行し、これをきちんと監査調書に記録しておけば善管注意義務違反に問われないのが原則かと思います。しかし平成21年の大原町農協事件最高裁判決は、監事に関する判決ではありますが、これまでの「慣行」に従っていたから、というだけでは注意義務を尽くしたとはいえず、監事の職務を規整する法律の趣旨に従った職務を尽くさなければならないとしています(現実に監事に損害賠償義務が認められました)。だとするならば、監査役との連携に関するガイドラインが一般に公正妥当と認められる監査の基準とはいえないかもしれませんが、リスク・アプローチの手法による監査を適正に行うためには、監査役との連絡協議等については、不可欠な監査業務ではないかと。

この「監査役と会計監査人との連係」という論点は、基本的には監査法人に有利に機能するのではないかと考えております。監査法人の法的責任を減じる方向に働く、いわば「監査法人にとっての有利な事情」になりうるはずです。ほんの些細な職務執行によって、リーガルリスクの半分くらいは監査役に負担してもらえる可能性があるわけでして。監査法人が当該会社の監査役監査がまじめに行われていることを信頼することは、法的保護に値するのではないでしょうか(いわゆる信頼の抗弁が適用される場面)。リスク・アプローチが監査手法として重視され、たとえ二次的にでも「不正発見」への関与が会計監査人に期待されるのであれば、監査役による業務監査の結果にも配慮することがごく自然な流れではないかと思います。

しかし、監査役との連係を怠ったがゆえに、不正リスクや内部統制リスクの評価を誤ったり、異常な兆候にアクセスできる機会を失った場合には、逆に職務上の正当な注意義務を尽くしたかどうか、かなり疑問に感じるところであります。原告・被告間において、立証責任がどちらにあるにせよ、争点形成責任は基本的に原告側にあるわけですから、「異常な兆候」がどこにあったのか、原告側が知るためには、監査法人と監査役間でいったいどのような協議がなされていたのか、双方の監査調書を取り寄せて検討することが不可欠だと思うところです。

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2012年1月17日 (火)

公認会計士の不正発見義務と「為す債務」

もうすでに会計士の方々のブログで取り上げられておりますが、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会より、研究報告「不適切な会計処理が発覚した場合の監査人の留意事項 について」(公開草案)」が公表され、意見募集中であります。昨今の企業不祥事に対する会計監査人の監査見逃し責任が議論されるなか、不正が発覚した場合に会計監査人がどのような身の処し方をすべきか、モデル案を提示することは非常にタイムリーかと思います。

大阪弁護士会では、昨年に引き続き、本年度も、会計士協会近畿会さんと共済事業を企画し、会計監査人の法的責任論についてパネルディスカッションを予定しておりますが、いつも議論のなかで登場するのが「会計監査人の不正発見義務」です。上記の研究報告や、架空循環取引等、会計不正の疑いがある場合の会計士の身の処し方に関するモデル報告などを読み、この点について少し触れる必要があるのでは・・・と感じるところがあります。

もちろん、きちんとご理解いただいている会計士の方もいらっしゃいますが、会計士の不正発見義務・・・というのは「結果責任」を問われるものではありません。たとえば某上場会社の粉飾決算が発覚し、その会社の監査を担当する監査法人が粉飾に気づかなかった場合、監査法人には不正発見義務違反の債務不履行が認められ、あとは担当していた会計士さん方に過失が認められるのかどうか・・・という法的な組み立てにはならないと考えます。会計監査の制度が100%保証・・・というものでない以上、これは仕方のないことかと。たまたま不正が発覚したから責任を問われる、というのでは「たまったものではない」ですし、会社と監査法人との準委任契約という法的性質にも合致しないからです。

そもそも会計監査人に結果責任が問われるのではなく、「為す債務」つまり専門家としての注意をもって監査証明業務に最善を尽くす義務が認められるのであり、したがって粉飾についても、不正発見に向けて尽力する義務を履行していたかどうか・・・ということが法的に問題になるはずです(これは取締役や監査役の善管注意義務と同じ発想です)。昔から不正の疑いがあれば会計士としての注意義務をもって調査すべき、と言われていたのかもしれませんが、最近はリスク・アプローチによる監査手法が浸透したことや、内部統制監査の制度化、金商法193条の3の新設、誤謬と不正とでは財務諸表の虚偽記載に及ぼす重大性に差が生じること等から、以前に比べて格段に不正発見に向けて尽力すべき義務の要求レベルが増してきたのではないかと思います。

さて、そのように考えますと、会計監査人にとって重要なのは「不適切な会計処理発覚時における身の処し方」よりも「不適切な会計処理か否か不明な時点において、これが不適切な会計処理であることをいかにして判断するか」ということではないかと。会社の調査委員会の判断が先行するような場合であればよいのですが、まだ会計不正が発覚していないけれども、会計監査人が疑惑に気づいた場合や、内部通報を受理したような場合であります。こういった場合の行動規範をモデル化することが、上記「不正発見に向けて尽力する義務」を履行したか否かにとって重要なことではないでしょうか。オリンパス事件における第三者委員会報告書では、A監査法人と会社側との交渉経過が詳細に出ていることや、一部報道において、ウッドフォード氏から告発に関する報告書を受領したS監査法人が「外部からの通報と同等に取り扱った」と述べていることなどから、そのあたりの重要性について理解すべき、と思われます。

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2009年6月18日 (木)

日本監査研究学会(西日本支部)「監査現場の課題と再生」

経済産業省・企業統治研究会の「企業統治研究会報告書」が本日リリースされております。(各委員からの意見なども、かなり詳細に資料として添付されております)研究会資料として公表されておりました「報告書案」と若干内容が変わっておりますね。17日の日経朝刊では「親会社やメインバンクから派遣された役員は独立役員としては認めない」と報道されておりますが、私が報告書を読ませていただいた限りでは、とりあえず一般投資家、株主に十分に説明を尽くせば「社外役員」としての親会社、メインバンク出身者でもオッケー・・・と理解したのですが、どうなんでしょうか?(そのために、社外役員の独立性と実効性とがトレードオフの関係にあることの説明がなされているように思うのですが)むしろ問題は当該企業から報酬を得ているコンサルタントなどが明確に独立性要件にひっかかる(ガバナンス上問題を惹起する蓋然性が高い)としている点をどう評価するか、ということではないでしょうか。たとえば顧問の法律事務所出身の方が社外役員として就任する、といった状況ですね。このあたりは、(昭和59年の日弁連決議、昭和61年の最高裁判決にもかかわらず)証券取引所の自主ルールの改訂によって今後規制が盛り込まれる可能性がありそうですね。

さて、本題でありますが、最近仕事などでご一緒させていただく会計士の方や会計学者の方から「山口先生、監査学会で報告されるんですって?どっからそんな声がかかるんですか?」などと聞かれるたびにプレッシャーを強く感じるようになりました。(もっと気軽な会合かと思っていました・・・)

7月4日の土曜日に日本監査研究学会の西日本部会が開催される、ということで、私も基調報告とシンポジウムに参加する予定でありまして、本日その打ち合わせが本町の監査法人事務所で行われました。ちなみに、私は「会計不正に関する判決と課題」ということで特別報告者だそうであります。(本来は学会の会員でないと報告できないのでありますが、私は会員ではございませんので。しかしいつお目にかかっても佐伯先生は元気なオッサンやなぁ・・・(^^; )基調報告では、多少会計士の方々には辛口なことを申し上げることになるかもしれませんが、これからの司法制度と会計制度との融合的な発展・・・ということを祈念する立場から発言させていただく趣旨でありますので、どうかご容赦ください。

今日の打ち合わせの内容からしますと、シンポジウムはなかなかおもしろそうであります。私は部外者なもので、本当に素朴な質問をいくつかさせていただきましたが、これまで会計士さんの世界では、あまり議論されていなかった問題(不都合な真実?)が結構存在することがわかりました。学会の品位を汚すような言動だけはいたしませんが、会計士業界の外から見た興味ある課題、たとえば会計士の処分問題とか、監査調書と「裁判の証拠価値性」の問題とか、会計監査人・経理担当者間の「協議(指導?)」とベターレギュレーションとの関係など、監査現場で頑張っておられる会計士さん方にとって重大と思われる課題について、いろいろと意見を述べてみたいと考えております。また、部外者であるがゆえに発言が許されるのかもしれませんが、監督官庁による懲戒処分と会計士協会における処分との関係(行政手続法との関連で)などにつきましても、「問題提起」として、一言意見を述べさせていただく予定にしております。いずれにしましても、私自身にもたいへん貴重な勉強の機会でありますので、(アウェーの気分ではありますが)当日を楽しみにしております。

また、監査研究学会の会員以外の方も参加可能ですので、土曜日ではございますが、ご興味のある方は本町のあずさ監査法人事務所までお越しくださいませ。

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2008年12月 6日 (土)

ナナボシ監査法人損害賠償事件が大阪高裁で和解

今年4月、ナナボシ社の法定監査を担当していた大手監査法人に対して、「粉飾見逃し」に関する損害賠償請求が認容されておりましたが(大手監査法人に粉飾決算事例で初の賠償命令)、大阪高裁においてすでに和解が成立したようであります。(読売朝刊、日経夕刊等に掲載されています。またネットニュースはこちら。)大阪地裁(原審)での認容額は約1700万円だったと記憶しておりますが、和解金額は4000万円とのこと。

原告(控訴人)の株式会社ナナボシ再生債務者管財人の先生は「原審で認められた金額よりも高額の和解なので応じることとした」と述べておられますが、これは再生裁判所との協議のうえでの判断でしょうから、妥当なところかと思います。いっぽうの被告だった(被控訴人たる)大手監査法人さんは「法的過失はないと考えているが、一審判決を真摯に受け止め、早期解決のために和解勧告に応じることとした」と広報室より発表されております。この和解内容から冷静に推測すれば、①4期にわたる粉飾決算について、大阪地裁は倒産直前の事業年度における粉飾見逃しについてだけ監査法人の過失を認めたが、大阪高裁はもっとさかのぼって以前の事業年度の監査手続においても粉飾の見逃しについて監査法人の過失があるとの心証を得た、もしくは②高裁としては、大阪地裁と同様に最終事業年度の監査手続にのみ過失を認めるが、因果関係のある損害の範囲はもっと広いと心証を得た、③過失や損害の範囲とは別に、過失相殺の割合については監査法人側の過失寄与度が大きいものとの心証を得た、のいずれかではないかと思われます。

私の素直な気持ちからすれば、当該監査法人さんが現在でも「法的過失はないと考えている」のであれば、もっと最後まで闘っていただきたかったと思います。(もちろん、控訴審にまで係属するに至った個別事情がありますので、あくまでも私見にすぎませんが)監査計画、監査手続にリスク・アプローチが採用されることを前提として、どのような場面において、どのような計画を立てて、どのような手続をとれば会計監査人としての「正当な注意を払った」と言えるのか、またそのことが法的な善管注意義務違反の有無とどのような関係に立つのか、せっかく真正面から争点になっていたのですから、堂々と最後まで法定監査に臨む監査法人としての専門家意見を主張していただきたかったところであります。控訴人(原告管財人)側は、倒産手続における裁判ですので「早期解決」の必要性は高いでしょうが、控訴人(監査法人)側はとくに早期解決の必要性は認められることもなく、むしろ今後同種事案に参考となるようなリーガルリスクの未然防止(こちらのほうが、今後の紛争の「早期解決」のためには有益だと思うのですが)のためにも闘う実益が大いにあったと思われます。

さて、大阪地裁では、ナナボシ粉飾決算事件以上に新聞、ニュースで報道された某倒産会社の粉飾決算事件につきまして、これまた再生債務者管財人が別の大手監査法人を被告として粉飾見逃しに関する損害賠償請求事件を提起し、現在係属中であります。ナナボシ粉飾事件に関する今回の和解的解決は、そちらの事件にも影響を及ぼす可能性があり、今後も注目しておきたいところであります。

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2008年12月 1日 (月)

JICPA「法令違反等事実発見への対応に関するQ&A」公表

JICPA法規委員会より、金融商品取引法193条の3(監査証明業務に従事する監査人が法令違反等を発見した際の報告義務)の新設に基づき、会計監査人が法令違反等事実を認識した際の対応方法等がQ&A方式で公表されております。 (法令違反等事実発見への対応に関するQ&A) 金商法193条の改正に伴い、同法および今年4月1日より施行されている監査基準委員会報告第35号「財務諸表の監査における不正への対応」(3月25日改正版)への実務指針として公表されたものだと思いますが、内容につきましては、会計監査人の一般的な注意義務の判断基準となる具体的な対応についてかなり踏み込んだものであります。新設されました会計監査人の意見表明機会の付与(守秘義務が解除されるべき正当理由)と同様、こういった制度がどこまで活用されるかは未知数でありますが、監査法人だけでなく、会計監査人から会社を代表して「措置要求」を受けた監査役の方々も、本Q&Aの内容を検討しておかれたほうがよろしいのではないでしょうか。

ここのところの会計監査人の「粉飾見逃し責任」を問う裁判例をみましても、監査法人側の勝訴、敗訴にかかわらず(財務諸表監査においては)「会計監査の目的は会社の作成した財務計算に関する書類が適正に作成されていることについて意見を表明することにあるが、副次的であるにせよ、不正を発見することに尽力しなければならない」とされるところでありまして、この傾向は監査手法にリスク・アプローチが浸透するにつれ、ますます強まっているものであります。そのような状況におきまして、とりわけ「被監査会社に対して適切な措置を求めるべき法令違反事実の内容」や、会計監査人側からの適切な措置の具体案提言の是非、被監査会社が適切な措置をとらない場合において、どのようなケースで金融庁に報告すべきなのか等、本Q&Aでは詳細な解説がなされており、現場の会計士さん方の不安をある程度低減する意義があるように思われます。

ただ、「法令違反等事実」の解釈として「重要性の判断」が盛り込まれているようですが、ここは少し金商法193条の3、第1項の解釈としては少々疑問を感じるところであります。(私は「おそれ」という文言が第1項で使われている意味は、「不正」の判断について、会計監査人として、法的視点ではなく、会計的視点から専門的な判断をしてよい・・・ということを盛り込んだものにすぎず、「法令に違反する事実」全体において重要性判断が要件とされるとみるのはおかしいのではないかと思います)また、法令違反等事実について措置要求を受けた監査役(もしくは監査役から対応を求められた取締役)が、社内の判断として「法令違反等事実は存在しない」として、あえてなんらの対応もとらなかった場合(つまり解釈が分かれた場合)、もしその後「おそれが重大になった」と判断すれば、会計監査人は金融庁に報告を行う必要があると思いますが、こういった事態を被監査会社側はどう受け止めればいいのか、といった点も今後の課題ではないかと思います。さらにQ4では、原則として法令違反等事実を発見することの義務はないことが明言されておりますが、「おそれ」を含む以上は、「発見へ向けての専門家としての高度な注意義務」の根拠にはなるのであり、「発見義務」を認めることとほとんど差が生じないのでは?といった疑問も生じるところだと思われます。(とりあえず、一読しただけでの雑感にすぎませんので、さらに詳しく勉強させていただきます。)

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2008年5月22日 (木)

キムラヤ粉飾決算事件に関する会計監査人の責任(否定)

(22日午前11時 追記 なんだか、本日はものすごいアクセス数になっておりますが、本件エントリーはまだ「書きかけ」程度にご理解ください。本判決の3分の1程度の論点しか紹介しきれておりません。こういったときはかならず後でご批判を受けるんですよね 笑)

旬刊金融法務事情の最新号(1835号)の判決速報にて、株式会社キムラヤ(ディスカウントストア 平成16年9月民事再生手続開始)の粉飾決算事件について、三菱東京UFJ銀行等2名が取締役らと会計監査人に損害賠償を求めた訴訟の判決全文が掲載されております。(東京地裁、平成19年11月28日民事第五部判決 確定)キムラヤは、当時同族で90%以上の株を保有していた非上場会社でありますが、負債が200億以上の「商法特例法上の大会社」だったために、平成12年より平成16年1月期まで会計監査人による商法監査を受けていたものであります。三菱東京銀行は、他行とともにシンジケートローンを組み、民事再生開始申立の直前に10億円をキムラヤに融資実行したわけでありますが、その際に、被告会計監査人の適法意見の付された計算書類を信用して融資を決定したということで、商法特例法10条(現行会社法429条2項4号)による会計監査人の責任を追及した、というものであります。

判決は、粉飾を実行した取締役らの責任を全面的に認めましたが、会計監査人(公認会計士)の責任は否定しております。平成9年ころから粉飾は続いておりましたが、事案の性質上、原告銀行らは平成16年1月期の会計監査についてだけ、その過失を主張しているようです。粉飾はディスカウントショップらしく、いわゆる棚卸資産(商品在庫)の架空計上でありまして、平成16年1月期の貸借対照表上の棚卸資産計上額は89億3900万円ですが、実際(民事再生開始決定後にあずさ監査法人が算定した正味在庫)は、47億3700万円であり、実際の資産よりも倍額の過大計上だったようであります。裁判におきましては、商法特例法10条責任(立証責任の転換)が適用される事案であるため、会計監査人のほうが一生懸命「過失なし」であることを立証して、裁判所がこれを認めたものでして、会計監査人としてはキムラヤの固有リスク、統制リスクをきちんと評価したうえで、比較的厳格に監査手続を履行したことが、「平均的な水準の会計士としての注意義務をもって監査手続を行った」ものとして評価されたようであります。

しかし、先日のナナボシ判決を読んだあとで、上記判決文を熟読してみますと、ずいぶんと原告銀行側の主張もあっさりとしたもので、「絶対に会計監査人の過失を認めてやろう」といった迫力が感じられませんでした。これは原告側が監査契約に基づいて(実質的な)主張立証責任を負う債務不履行責任を追及したものではなく、銀行が「第三者」として商法特例法10条責任を追及したことからくる差なのかもしれませんが、ツッコミ不足だったように感じます。原告が会計監査人の不法行為責任を追及しておれば、もっとリスク・アプローチを採用したうえでの監査上の注意義務違反の有無が詳細に問われる事案ではなかったかと思います。あまりにも多くの疑問点があるために、到底ブログでは申し上げられませんが、そもそも法定監査が開始されて以来、ビッグカメラが銀座に出現して売上自体は伸びていないにもかかわらず、6年間で在庫商品の資産計上額が10倍というのはかなり異常ではないかと思いますが、そのあたりはまったく判決文のなかでは触れられておりません。また、メインバンクであるみずほ銀行が、「在庫を監査させてほしい」とキムラヤに申し出て、みずほが指定した監査人による監査が開始されるやいなや、わずか2日目でキムラヤ経営陣とみずほが委託した監査人との間で意見が衝突し、その直後に民事再生を申し立てたという経緯がありまして、このあたりの話からしますと、虚偽表示リスク(商法監査に、この用語は正確には不適切かもしれませんが)というものが、もうすこし厳密に争点になっていたら、どうなったんだろうかと疑問を抱くところであります。

本日(5月21日)ヤクルト株主代表訴訟の高裁判決が出たということで、またどこかで判決速報などを読んでみたいと思っておりますが、報道レベルでは、原告株主らが賠償を求めたかった取締役らの責任につきましては、「当時のリスク管理体制整備義務を尽くしていなかったとまではいえない」として否定されたようであります。こういった監査とか監視義務といった問題の場合、いつも思うのですが、監査人や取締役の「法的責任」を議論する場合、いかに具体的な主張を展開できるか、という点がキモでありまして、とてもむずかしいですね。「内部統制の不備あり→実査すべき」なる主張では、おそらく裁判所は説得できないわけでして、最低でも「内部統制の不備→代替手続による確認→虚偽表示リスクの認識→試査による追加手続の可否→実査すべき」といった過程のなかで、逐一、会計監査人の注意義務の存否を評価していく必要があると思います。また、取締役の内部統制構築義務違反を問題にする場合にも、「内部統制の基本方針→具体化作業→運用状況評価→改善に関する提案の有無→改善の実行」までの過程を検証したうえで、裁判所に内部統制上の「重大な欠陥」(重要な欠陥とは少し概念が異なりますが)があったことをまず論証したうえで、各取締役の内部統制をあえて無視する、という作為と同じほどに評価できる不作為(放置)を立証しなければ、善管注意義務違反は認められないものと思っております。そもそも「経営判断」や「会計監査」は、法との関係を離れて企業社会において重要な意味を持つものでありますから、そこに法が割って入ることの意味はよくよく慎重に考えておきたい、というのが私の勝手な持論であります。(うーーん、書きたいことの半分も書けずに、なんか不完全燃焼に終わってしまったエントリーです。。。トホホ)

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2008年5月 7日 (水)

「会計士に対する行政処分」の民事責任への影響度

連休中は、前のエントリーでご紹介した本のほかに、粉飾決算に関する過去の判例(法律雑誌に登載されているもの)や、会計監査人の法的責任論に関する過去15年ほどの論文などをまとめて読んでおりました。監査法人ではありませんが、監査を担当した複数の会計士さん方に「従業員による不正行為」を発見できなかった監査ミスで3000万円の損害賠償命令が出された判決(凸版印刷労働組合事件 判例時報1826号97頁以下)なども、このたびはじめて全文を読んでみました。こういった判例や論文を読むなかで、一番関心をもったのが「被告側の主張」であります。いわゆる監査法人側の主張ということでして、会計の専門家の方々が、どうやって裁判所も含めた法律家集団に対して「監査とはこういうものですよ」といった主張を展開しているのだろうか・・・、というところに実務家としては関心が出てきます。もちろん被告側にも代理人がついていらっしゃいますので、争点は形成されているわけですが、うまく「法律上の争訟」として議論がかみあっているのかどうか、このあたりは一度専門家の方に検証をしていただきたいと思います。

私は医療過誤訴訟の医師側(病院側)代理人としてはかなり多くの経験がありますが、こういった粉飾決算事件の被告側主張は、医療過誤の医師側の主張に似ているところが多いように感じました。被告本人と被告側代理人との信頼関係を裁判中ずっと維持することにけっこう苦労するのであります(笑)。たとえば瀕死の交通事故で運び込まれた患者に対する医師の注意義務と、「あなたも40万円でこんなにヘンシーン!」みたいな過大(っぽい)携帯広告を掲載している美容クリニックの医師の注意義務とでは「かなりの差異がある」と考えるのが常識ではないでしょうか。(もちろん、裁判のうえでも美容クリニックの場合には、かなり医師側に厳しい法律構成がとられております。)しかしながら、分業体制が進んでいる医療業界の先生方にとっては、「なんで俺だけが責任おわなあかんねん」「なんで誠心誠意やったのにミスやていわれるねん」「あんたはなんぼ手術したって『青山テルマ』にはなれんよ、って念押しして説明したのに、それでも私に責任があるといわれるんでっか?」と憤慨されます。医療業界においては医師の注意義務に「重い、軽いはない」 (注)と認識されている方が多いようでして、医療と法律の「かみ合わない部分」で苦労することが多いわけです。そのあたりの苦労が会計士さんの責任問題にも同様に横たわっているのではないかと想像いたします。また「期待ギャップ」といわれるところも、法律の世界では影響するところがあるかもしれません。

(注)法律家の世界では「注意義務が重い、軽い」という用語は使用しません。

つい先日、当ブログでもご紹介したナナボシ粉飾決算事件判決(大阪地裁)でありますが、あの裁判の特長のひとつに行政処分が先行している(担当した監査に問題あり、とする金融庁の処分)場合に、その民事責任の過失認定にも影響があるのかどうか、という点がございます。現時点で詳細な検討は差し控えさせていただきますが、このナナボシ判決では、被告側(監査法人側)の主張がほぼそのまま認められ、行政処分は(公認会計士法の制度趣旨という行政目的の達成のために出されるものであり)、民事事件とは別個の法制度によって発令されるものであるから、行政処分を受けたことをもって直ちに被告の過失を推定する根拠とはならない、とされております。たしかに法制度が異なるわけですから「過失を推定する根拠」にはならないと思いますが、金融庁が平成18年に出した処分のなかで「問題がある」と指摘した箇所と、このたびのナナボシ判決のなかで裁判官が会計士の過失を基礎付ける事実として指摘している箇所はほとんど一緒(いずれも架空売上の実在性に関する監査手続。期間帰属の問題や回収可能性の問題とも考えられますが、おそらくいずれも実在性について最も重大な問題があるとしていることに間違いないと思われます)であります。法律上の「過失の推定」とまではいえなくとも、先行する行政処分が民事訴訟における注意義務の判断に何らかの影響を与えることは十分考えられるのではないでしょうか。ちなみに「過失が推定される」といいますのは、誤解をおそれずに言いますと「結果責任を問われる」ことに非常に近くなります(さきほどの医療過誤事件の例でいえば、美容整形の世界では、この「過失の推定」が働くとされる裁判官の判断もあるわけです)ので、さすがにここまでは言えないとは思いますが、裁判官が過失あり、と判断する資料のひとつにはなりうるだろうなあ・・・と。(まぁ、このあたりはいろいろと意見は分かれるところかもしれませんが)

改正公認会計士法が4月から施行され、懲罰的課徴金制度まで運用されるわけですが、監督官庁との関係悪化を回避するために今後も課徴金制度については争う機会というのはあまり増えることもないものと思われます。しかし、このブログで何度も申し上げておりますとおり、グレーゾーンは課徴金でバンバン処理する傾向にあるのが監視委員会の姿勢であり、また公認会計士・監査審査会の姿勢だと思われますので、このままでは先行する行政処分によって後から提起される民事訴訟(会社による訴訟、株主代表訴訟、株主による第三者訴訟など)におきまして、過失が事実上推定されてしまうような事態というのも考えられるのではないかと思われますが、いかがなもんでしょうか。内部統制報告制度をうまく理論武装につなげて、監査法人側で活用される道もあるかもしれませんね。

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2008年4月19日 (土)

大手監査法人に粉飾決算事例で初の賠償命令

(4月19日午後 追記、訂正があります)

来週月曜日(4月21日)は、いよいよ長銀違法配当刑事裁判の最高裁弁論期日であり、以前から当ブログにおきましても刑事、民事とも注目しているところでありますが、その直前の金曜日にたいへん注目すべき判決が大阪地裁で出たようです。日本を代表する監査法人さんが、大証二部に上場していたナナボシ社の監査において「適正意見」を出していたことで、ナナボシ社の管財人に対する監査法人の損害賠償責任を認めるビックリ判決であります。(朝日ニュース「監査法人トーマツに賠償命令、粉飾見抜けず損害認定」 なお日経ニュースはこちらです。)任意監査においては、平成3年3月19日東京地裁の「日本コッパーズ事件」(判例時報1381号116頁以下)が監査法人さんの(粉飾決算を見抜けなかったことによる)損害賠償責任を認めておりますが、一般の上場企業における監査(会社法による監査、金融商品取引法による監査、いわゆる法定監査です。)において、監査法人の監査上の過失を認め、損害賠償責任が認められるのはおそらく初めてのことであります。(なお、日本コッパーズ事件につきましては、控訴審では監査法人側が逆転勝訴しております)原告であるT先生(管財人)は、関西では倒産、金融法務ではたいへん著名かつ優秀な弁護士ですし、どのあたりに力点を置いて主張立証を構成されたのか、判決全文が入手できましたら検討してみたいと思っております。ともかく会計士業界におきましては、今後の大きな話題になることは間違いないでしょうね。なお本件のナナボシの粉飾決算につきましては、被告監査法人はすでに平成18年3月30日、金融庁(長官)より、懲戒処分を受けております。処分内容と事案の概要は以下のとおりでありますが、金融庁による処分が先行し、また懲戒対象の事案の全てについて裁判所が「債務不履行」を認めたわけではないことにご留意ください。

処分内容  戒告 

処分理由 

ナナボシの平成10年3月期から平成13年3月期有価証券報告書に重大な虚偽があったにもかかわらず、関与社員が相当の注意を怠ったことにより、重大な虚偽のないものとして証明した。

事案の概要

ナナボシは下請けのX社と通謀して架空の水利組合等による灌漑工事を仮装。ナナボシからX社に支払われた外注費を架空の水利組合等の名義を用いるなどして、ナナボシに対する完成工事代金として還流させ架空売上を計上し、虚偽のある財務書類を作成した。本財務書類に関し、当該公認会計士3名の行った証券取引法に基づく監査証明については、以下の問題点が認められた。

1 完成工事代金のうち一部が未収入金となっているにもかかわらず、ナナボシが補助金交付事業と説明した工事について、補助金交付事業であることを十分に確認しておらず、また、相手先の財務内容や延滞理由などを十分に確認していない。

2 工事現場視察にあたり、現場の工事状況と書類上の工事内容との整合性を十分に確認していない。

3 X社からの外注費請求書に明細が記載されていない等の問題があったにもかかわらず、外注工事の内容等につき十分な確認手続を行っていない。

この平成18年の懲戒処分事案と、日経新聞朝刊(4月19日)の記事内容とを見比べますと、日経記事では「(裁判官は)監査法人は財務上に不自然な兆候があった場合、原因解明する追加の監査手続をすべきで、怠れば責任を免れない、工事代金の入金がなかった点については工事の実在性などに懸念を抱き、追加の監査手続をすべきであった、とした」とありますので、この懲戒事案概要に掲示されている1ないし3が「不自然な兆候」といえるのでしょうか。ただ、4期にわたって、上記のような不自然な点が認められたのか、それとも最終の1期にかぎって認められたのか判然としておりませんが、当初は入金の確認等がなされたことを確認しており、それで監査人としても注意義務を尽くしたものであるが、借方の完成工事未収入金や貸方の工事未払金の一部が恒常的に残っていたりすることから、次第に監査人としては懐疑心を強めていく必要があった、ということではないかと推測いたします。(このあたりはぜひ判決内容で確認したい点であります)先日、当ブログでもご紹介しました「会計不正」(浜田康 著)の第五章では「監査人はなぜ会計不正を見逃すのか」(159P~212P)といったテーマで、有能な会計監査人とそうとはいえない(?)監査人とを分けて、不正会計を見逃すまでの原因究明とこれへの対応策などが詳細に分析されており、参考になるところであります。

まだ報道内容からしか事実は把握できませんが、本判決では過失相殺が認められ8:2(過失割合=会社8:監査法人2)として、損害額の一部(1700万円)のみ支払義務を認めているようであります。この8:2というのは、平成3年の日本コッパーズ事件の地裁判決も同様だったかと記憶しております。粉飾決算においては、経営者の故意過失や従業員の故意過失、そして監査人による監査が絡んでおりますところ、経営者や従業員の地位と法人としての会社とは法律上は別個の存在であるために理屈のうえでは過失相殺はないともいえそうでありますが、裁判所は「会社ぐるみによる粉飾」といった実態を重視して過失割合をそのまま過失相殺の対象としているようであります。(ただし、このあたりの議論が進展するかどうかは、まだ控訴審の結果をみてみないとわかりませんし、管財人の方が原告でありますので高裁で和解・・・ということも考えられます)また、このような「会社側の過失」といった内容が、賠償の金額を決定付けるとするならば、監査法人側は裁判において提出すべき抗弁としての「経営者の過失」「従業員の過失」をどのように基礎付けるか、という視点が監査実務にも影響することが予想されますので、今後の内部統制監査のあり方にも十分影響が出ることとなります。日本コッパーズ高裁判決や、山一證券事件などにおいては、監査人の責任が否定されてはいるものの、問題当時の「一般に公正妥当と認められる監査の基準」を参照しながら、監査計画の段階から、リスクアプローチの合理性や、内部統制の状況をどのように監査法人が把握していたか・・・といった点にも裁判所の注目が集まり出してきておりましたので、内部統制報告制度が施行されるに至った今日、こういった監査法人さんの民事責任を問う裁判の検討は欠かせないところになってきたものと思います。(中央青山の責任が問われたRCC→足利銀行の件はたしか和解的解決で終わったんでしたよね?)また、監査法人さんを被告とする民事事件の場合、高度の守秘義務を負う監査法人さんの手元にある証憑関係資料にどのように原告側がアクセスできたのか、その開示のあり方についても興味あるところであります。(注----本件事案は原告が倒産会社の管財人であるため、被告監査法人の手元にある資料と同一のものがすでに原告の手元に存在しているケースかもしれません。このあたりは、すこし注意をしておく必要がございます)

注)足利銀行事件につきましては、地裁判例が出ておりますね。正確なところは、追って確認次第またフォローいたします。失礼いたしました。(4月20日追記)

三田工業、フットワークエクスプレス、カネボウ、キャッツ、ライブドアと、会計士さん個人の逮捕劇から始まる粉飾決算刑事事件については、たいへん売れ筋のノンフィクションの本も出版されておりますし、自然と注目は集まるところではありますが、監査法人自身の民事賠償責任が問われる粉飾決算民事事件につきましても、このような賠償責任を認めるような判決が出ますと、今後は内部統制監査と絡めて注目が集まるものと推測いたします。また、民事事件の影響は、内部統制の評価を行ったり、法定監査を受ける立場にある上場企業にも大きな波紋を呼ぶことになると思われます。(ということで監査法人側も、控訴審で安易に和解することはできないかもしれませんね)

(追補)

日経新聞の朝刊では、上場企業における法定監査契約の性質についての裁判所の見解が記載されており、「監査契約には経営陣の不正をただす目的も当然含まれており、財務諸表が正確か、虚偽かを監査するのが監査法人の責務」であると述べられているようです。いわゆる積極的な不正発見義務を認めたものか、不正発見時の是正義務を認めたものかは、この内容では判然としませんが、4期のうちの最終の1期についてのみ監査法人の債務不履行を認めたことは、企業固有のリスクがどこにあったのか、それまでの監査人と企業経営陣との監査業務をもとに、監査要点は十分把握できたのではないか、等リスクアプローチの手続を適正に行うことが重要である、と考えているのではないかと想像されます。

先にご紹介しました浜田先生の「会計不正」にも、日本コッパーズ事件に関する印象などが書かれておりますが、そのなかで「監査手続、監査要点、実査、実在性などの用語は、監査の世界にいる公認会計士等は当然知っていますが、その世界に関係のない一般の人々にはほとんど理解できない言葉だと思います。そのような専門用語が判決文に何度も出てきたことに、監査業界の人間は驚きました。・・・(中略)・・・部外者である裁判官が専門用語を駆使して監査人の責任を追及しようとしたのです」と記されております。それからすでに17年が経過しており、財務報告に係る内部統制報告制度においては「経営者による有効性評価」を行う時代となり、もはや監査要点、実在性などの言葉は監査人と経営者との共有言語になりつつあるわけでして、もはや裁判官も部外者とは言えない時代であります。本件は、会社法上の内部統制の司法判断への影響だけでなく、金商法上の内部統制報告制度が司法判断に及ぼす影響についても無視できないことを改めて考えさせられる事案であります。

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