2010年12月14日 (火)

「なんちゃってIFRS」と内部統制の重要性

今日は東京からデジタル調査の専門家の方に大阪弁護士会館にお越しいただき、調査技法の基礎を学びましたが、ホントに面白かった。「悪魔の証明に挑むIT調査」「告訴手続のために必要なデジタル調査」というものの基本が理解でき、たいへん有意義であるとともに、どうしても毛嫌い(食べず嫌い?)しがちなIT検査という領域が身近に感じられるものとなりました。SESCの課徴金開示検査課にもIT分析官として出向しておられた講師の先生には本当に感謝申し上げます。<m(__)m>また、IT調査が不正予防(内部統制)にも有用であることも理解できました。

※ 悪魔の証明とは、たとえば「不正が他に存在しないことの証明」・・・というように、ないことの証明が極めてムズカシイものである、といったことを示すときに使われる言葉

さて本題でありますが、12月9日の朝日新聞朝刊(経済面)では、内部統制制度の信頼が揺らいでいるとして、いったん「有効」と評価しながら、不祥事等の発覚で「内部統制は無効」と訂正した企業が17社に及んでいることが報じられておりました(朝日新聞ニュースの記事はこちら)。後から発覚した会計不正によって従来の報告書の内容を訂正することが慣行となるようでは、内部統制報告制度の形がい化である、「有効」ありきの運営である、機能停止であるとの批判が専門家の方々より意見として出されております。(この問題は、過去に何度も当ブログで検討してきたところであります)しかし、せっかく根付いてきた内部統制報告制度(とりわけ整備よりも運用)を決して形がい化してはいけないと思いますし、IFRSの時代においては、今まで以上に重要性が増すものと考えております。また、このブログでも何度かそのような主張をしてまいりました。

ところで、私のような会計素人でも、IFRSと内部統制報告制度(J-SOX)との関係についての問題意識を共感できるような論文が二つほど出ております。ひとつは、今年10月に日本銀行金融研究所から公表されておりますディスカッションペーパー「IFRSによる見積り拡大と経営者、監査人の責任・対応-重要性を増す裁量的判断過程への内部統制-」(越智信仁氏)であります。すでに諸事情により(?)ネット上では閲覧できなくなってしまった会計制度監視機構の2009年7月リリースの政策提言「公正ナル会計慣行とは何か?-会計判断調査委員会の設置を目指して-」の提言内容と、かなり近いものでありまして、私見としましては、この越智研究員のイメージには賛同するところであります。IFRSの強制適用により、とりわけ経営者における見積もり判断の余地は格段に広くなるのでありまして、法律上の「経営判断原則」類似の思考過程が必要となるはずであります。また、裁量的判断が必要になることは、すなわち粉飾決算の可能性や、監査責任が追及される法的リスクも増えることが予想されるのでありますが、残念ながら司法機関がこれを判断する能力は乏しいものであります。このように粉飾決算への事後対応能力が弱まる分、事前対応の重要性が増すのでありまして、たとえば内部統制の「見える化」を推進することや、財務情報の信頼性を補完するための非財務情報(ESG情報等)の重要性が高まる、ということになるものと思われます。

そして、もうひとつ迷える会計士さんから教えていただいたのが、この12月にリリースされました東京財団さんの政策提言「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言」であります。以前、当財団の敵対的買収防衛策に対する提言については、私自身はいまひとつ納得できるものではございませんでしたが、今回の提言につきましては、賛同できるところが多いように思います。この提言でも、原則主義がもたらす問題点として恣意的な会計処理の余地が大きくなることが挙げられており、これに対する裁判所の判断については、IFRSの解釈権がIFRICにしかないことから、これをどう裁判所が受け入れるかは不透明な状況にあることが説明されております。今後のIFRSへの対応について、強制適用廃止(任意適用制)というのはちょっと・・・と思いますが、IFRSを「導入したふりをする」というのは、なるほど・・・これはオモシロイと思いました。整備はするけど実質的には運用は控える、ということなんでしょうね。まさに(当財団の提言にもありますが)プリンシプルベースで導入したにもかかわらず、蓋を開けたらルールベースになってしまった内部統制報告制度と同じ道をたどる・・・ということなのでしょうか?日本人はまじめだから、IFRSの運用を世界一誠実に守るのか、それともシタタカなので外見上はIFRSを完全適用しているような顔をしながら「なんちゃってIFRS」で運用していくのか、このあたり、この財団の提言について、ご専門家からのご意見を期待しております。

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2010年11月30日 (火)

IFRS(国際財務報告基準)導入と法の後押し

やけに分厚い「経営財務」(2993号)を読んでおりましたら、カゴメさんがすでに参考書類として包括利益計算書(一計算書方式)を開示しておられた、との記事が目にとまりました。カゴメさんは、たしかHPで「IFRSの時代は、自分たちで仕訳処理、会計基準の選択を行う時代であり、まさに我々の時代である」と、ずいぶんと前から公表されておられたので、まさに包括利益会計基準の適用を控えて、先行者としての面目躍如といったところでしょうか。

この「経営財務」も、ほとんどの記事がIFRS絡みのものでありますが、11月27日の日経新聞朝刊でも「固定資産の償却方法、定率・定額ともに容認 国際会計審が見解」と題する記事が掲載されておりまして、IASB(国際会計基準審議会)が、工場設備や建物といった固定資産の減価償却方法に関する文書を公表し、定額法や定率法に優先順位はない(どちらも認める)見解を示したことが報じられております。このニュースにつきましては、いつも愛読しているKOHさんのブログ「IFRSはつらいよ」で詳細に解説がなされておりまして、たいへん勉強になります。記事にもありますように、もちろん優先順位はないとしても、自由に選べるわけではなく、実態に合わない方法は認められない可能性もある、とのことであります。

会計専門家の方々のブログでは、すでにいろいろと話題になっている上記日経の記事でありますが、これは伏線がありまして、2010年8月13日の日経新聞朝刊「国際会計基準 導入へ揺れる議論」という記事が元ネタになっているものと思います。有力企業が大手監査法人の実務担当者を招いて開いたIFRS勉強会で、監査法人側が「IFRSで決算を作る場合には、機械や工場の減価償却を毎年一定額を費用とする『定額法』が望ましい」と解説され、企業側がこれに反発すると「しかしIFRSでは定率法の事例が少ない、合理的に証明してもらわないと・・・」といった答えがかえってきた、といった話題が示されております。こういった話題が盛り上がり、その後金融庁による「国際会計基準に関する誤解」の公表につながった、というもの。

そんななかでのIASBの文書公表でありますが、先の8月13日の記事では、ある企業の方が、たとえ金融庁の「誤解」が公表されたとしても、果たして監査が認められるかどうか不透明、といった感想を漏らしておられました。私も、IFRSが原則主義であるとしても、企業がGAP分析をきちんとしておかなければ、企業の判断と監査法人の判断が食い違う場面においては、やはり企業の経営判断は通らないのではないか、といった懸念を抱いております。監査法人側が、ある一定のルールをもっているのであれば、このルールに従わざるをえない事態となるのではないか、と。たとえばこれまでは「重要性がない」として、連結の対象外だった子会社について、IFRS導入を機に、IFRSの基準によれば連結の範囲に含まれることになるのでは・・・といった監査法人の意見が出てくるとか。。。

8月13日の記事がどこまでニュアンスを正確に伝えているのかは不明でありますが、監査法人さんの意見と会社側のIFRS適用判断とが食い違うケースにおいて、そのまま意見の対立が続いてしまう、ということはあってはならないことだと思います。信頼関係こそ第一であることは間違いないところだとは思いますが、企業側にも、なぜそのような会計処理を行うのか、フレームワークの解釈をもとに演繹的な観点から自主的に説明できる力量が必要ではないか、と。この「力量」というのは、そもそも突発的に企業に備わるわけはないのでありまして、普段からの監査法人さんとのコミュニケーションのなかで、「この会社はIFRSを十分理解している」といった認識をもってもらうことが一番必要ではないかと思われます(これは内部統制報告制度の実務の中で学んだことを参考にしております)。

しかしそれでも、監査法人さんと企業側で意見対立が解消されない場合はどうなるのでしょうかね。意見不表明ということは上場廃止につながることになるわけですが、IFRSの解釈に関する意見相違で企業を上場廃止に追い込むだけの勇気が監査法人さんにはあるのでしょうか?後日のリーガルリスクを考えますと、監査契約の解消という方向性で検討が進むことはあっても、個別の企業の自主的な判断を断固として拒絶するだけの行動を監査法人さんがとることはちょっと想定しにくいのではないか、と思います。(つまり監査法人さんは、今後ますます対象上場企業さんとの普段のコミュニケーションが大切になってくるのではないかと思われます)

ちなみにIFRSにおける会計処理方法の是非、といったことはおそらく司法判断の枠外ですから、監査法人と企業のどちらが正しい(適法)といった法的紛争は想定しにくいように思います。要は、法的紛争のモデルごとにどちらに立証責任があるのか・・・といったことと関連することになろうかと。このあたりは、未だ私にも見当がつかないところでありますので、IFRSの適用にあたりましては、今後いろいろと法の後押しが必要になってくる場面が増えてくるのではないか、と考えております。

PS 上記「経営財務」の某記事によると、海外BIG4の監査法人の社員が「うちの法人の女性会計士ベスト10!」を顔写真付きで作成していたところ、そのファイルが外部に漏れてしまってエライ目に合っているとか。。。「こういった事件は他の法人でも時々報じられている」とのコメントも(笑)。私も小学生のころ、同じようなものを作って「終わりの会」(反省会)で吊るしあげられた経験がございました。いにしえの嫌な記憶がよみがえりました。。。

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2010年8月 4日 (水)

いよいよ法制審会社法改正論議にIFRS登場か?

8月3日の日経ニュースで、同日開催されました企業会計審議会総会に関する記事が出ておりましたが、単体財務諸表へのIFRS導入についてダイナミック・アプローチを採用、企業のIFRS任意適用を認める方針となったようであります。ただし単体のIFRS移行時期や方法につきましては、ASBJの判断にゆだねる、とのこと。

単体財務諸表にIFRSが適用される、ということは、つまり会社法の計算規則の改正問題、とりわけ分配可能額規制の基準としてIFRSを適用するのかどうか、仮に適用するとして、これまでの計算規則をどのように検討しなおすのか、という点は喫緊の課題になってくるものと予想されます。(たとえば「のれん」の償却規定と公正価値評価概念の導入など)いよいよ法制審議会会社法部会でも、この国際財務報告基準への対応問題が本格的に議論されるようになるのでしょうね。これは本当に楽しみです。

ところで、少し気になりますのが「週刊経営財務」最新号のIFRS対応会議主催「日印フォーラム2010」に関する記事や、JICPA研究大会に関する記事。いずれのフォーラムでもIFRSの原則主義が「実務上避けられない問題」として議論の対象となっているようであります。原則主義が招く混乱を不安視するのは日本もインドも同様のようでして、なんと(来年4月からIFRSを導入する)インドでは堂々と解釈ガイダンスを作成する、とのこと!

ええ!?IFRSって、勝手に(各国で)解釈指針を作ったらアカンのとちゃうの!?

インド企業省の方曰く「原則主義のもとでは、解釈に大きな差が生じてしまうため、それぞれの国で解釈を出していくことが必要です」

ホンマに!?( ̄△ ̄;)

日本のIFRS対応会議のS氏曰く「産業界で解釈のばらつきがでてくると、比較可能性の観点から問題」「うまく収斂するような解釈(アドバイス)を作れないか、今後議論を深めていく」「インド側とも相談しながらベストソリューションを見出したい」

ええ!?日本もですか!?!( ̄∇ ̄ ;)

連結先行(ダイナミック・アプローチ)の方針が定まったということは、今後は会社法とIFRSとの関係についても議論が深まることになりそうですが、避けて通れない問題、つまりIFRSも会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と認められるか、という点については、ほぼ方向性は固まってきたのかなあ・・・と考えております。しかしIFRSの解釈指針(ガイダンス)のようなものが登場した場合には、そっちのほうが会社法上の「会計慣行」として評価の対象となるでしょうから、その上位概念たるIFRS自体は会計慣行とはいえなくなってしまうのではないでしょうか?解釈指針に従うのも会計慣行、別の解釈に従うのも(IFRSの原則に反していなければ)会計慣行、ということになってしまわないのでしょうか?これは中小企業会計指針を策定して、どっちに従ってもオッケーという場合の「会計慣行には幅がある」とする理屈とはまた別の問題かと思われます。

企業実務家の方々の要請とはいえ、IFRSの解釈指針(ガイドライン)を設置することと、IFRSのアドプションとの関係はどのように考えるべきなのか、また頭が混乱してきそうな雰囲気であります。

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2010年5月 8日 (土)

IFRS(国際会計基準)における「法と会計の接点」-その1

「その1」などとエラそうなタイトルですが、IFRSと法に関連するテーマは(以前にも書きましたように)強制通用力の正当性(憲法問題)や、内部統制報告制度との関係など、いろいろと思いつくところであります。そんななかで、企業実務に影響のありそうなテーマとしてはIFRSにおける収益認識によって契約実務の見直しが必要なのか?というのが挙げられます。法律上の所有権の移転時期や危険負担の時期は、おそらく商売上の慣行が斟酌されるわけでして、これを契約書の修正(もしくは覚書の締結)によって明確化する作業となりますと、まさに上場親会社の経理部と法務部との協働作業が必要となる場面といってもよろしいかと思われます。

旬刊経理情報の5月1日号の特集「IFRS収益認識で『契約』はココを見直す!」は、IAS18号適用上の検討ポイント、法的解決ポイントが、それぞれ公認会計士、弁護士の視線から解説されたものであり、非常にタイムリーなものであります。「会計専門職と法律家のコラボで書かれていれば読みたいなぁ」と思っておりましたので、とても興味深く拝読させていただきました。「そもそも会計基準が変わるからといって、これに合致させるために契約内容を見直す・・・というのは本末転倒ではないか?」という素朴な疑問が生じるところでありますが、これに対する一定の解答(ご意見)も述べられており、「法と会計との接点」をどのように調整すべきか、それなりに苦心された跡も記されております。「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値が移転する」ということを、法的な所有権移転、危険負担の概念と、どのように矛盾なく説明するのか、という点がなかなか難しいですね。あまり厳格に考えてしまいますと、修正に膨大な費用がかかってしまいそうですし、あまり簡略化してしまうと、収益認識の時期を決定した合理性を客観的な証跡によって説明できなくなってしまうということのようで、やはり契約書の条項を修正して、リスク移転の時期を明確化すべきではないか、という提言も納得できそうであります。

ただ、契約というのは取引相手の合意が必要でありますので、IFRS適用会社の一方的な都合によって(条項追加等)契約内容を修正できるものではなく、取引先から「なんでそんな風に契約を修正する必要があるのか?、それではうちのほうが不利になるのではないか」といったクレームが生じればどうにも契約の見直しは進まないのではないかと思います。たとえば「みなし検収条項」など入れようものなら、「それは会計上での便宜だけのことですか?出荷後の物品の紛失や毀損等の危険負担は法的にはそちらにあると考えてよいか?」といった質問を相手方から受けた場合には、どのように回答すればよいのでしょうか?契約書で合意した以上、法的にも出荷後のリスクはすべて買主に移転します、ということであれば、「なんでおたくのIFRS適用のために、うちが損するような契約を締結しないといけないのか?」といった反論が出てくるのではないでしょうか。また「そんなこというなら、うちはお宅とはもう取引はしませんよ」といった「力技」をもって契約変更を強要する(もしくは、それとなくにおわせる)ものなら、「優越的地位の濫用」として独禁法違反を主張されることも考えられるのではないでしょうか。さらに、うるさい取引先と、そうでない取引先とを比較して、同じ商品売買契約の内容が異なった場合でも、収益認識時期に関する企業の考え方は、合理的に説明できるものなのでしょうか?このあたり、かりに契約書を見直すとしても、どうやって相手方取引先に納得してもらうのでしょうか?いわゆる保険契約の実務慣行や、物品が第三者の過失によって毀滅した場合の損害賠償請求の主体問題との関係なども含め、有識者の方々にぜひお聞きしてみたいものであります。

あくまでも思いつきの感想ではありますが、やはりIFRS適用を前提として、企業間の契約内容を見直す、というのはかなり難しい作業になるのではないかと思われます。ロッテリアのプレミアムバーガーが販売されたとき、「おいしくなければ返金します」とありましたが、あのような場合は、返金される確率を合理的に見積もって、費用計上すれば、販売した時点で収益が認識できるのでしょうね。それと同じように、出荷されて後の検収による返品率などをもとに、リスクを費用化して出荷基準で収益を認識する、というわけにはいかないものなんでしょうか?(あくまでも素人考えではありますが)

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2010年1月25日 (月)

IFRS(国際会計基準)適用後の内部統制監査と不正発見機能

旬刊商事法務新年号(1887号)では「国際会計基準が企業法務に与える影響」と題する新春座談会が始まりまして、まだ(上)しか読んでおりませんが、法律家、会計専門職、企業実務家の間で、それぞれの認識や課題の差異が浮き彫りになり、たいへん興味深いものであります。いよいよ今年は法務の分野におきましても、本格的にIFRSが採り上げられる場面が増えそうな予感がいたします。

やはり関心のひとつは、国際会計基準に違反した会計処理を行い、これが虚偽記載とされる場合の司法上のエンフォースメントの在り方ですね。たしかにIFRSの解釈権はIFRIC(国際財務報告解釈指針)のみが独占しているわけでありますが、国内法上で粉飾決算事件や違法配当事件が問題となる場合、最終的には日本の裁判所がIFRSの適用状況を判断するわけですから、いくらIFRICが解釈権を独占しているといっても、日本では裁判所が解釈権を持っていると言わざるを得ないのではないか、との疑問。(つまり、会計監査や会計方針の決定時点で「正しい会計方針による処理」と判断していても、最終的に裁判所において違法な会計処理とされるリスクは残る、ということ)また、IFRSに従った会計処理だけが唯一の公正なる会計慣行ではなく、IFRSに従わない会計処理を行ったとしても、併存する公正なる会計慣行にあたる、という考え方も成り立ちうる、ということも課題となりそうであります。(つまり、IFRSに従わなくても財務諸表に違法な点はない、という結論が導かれること)すでに当ブログで2回ほど述べましたように、私見は若干異なりますが、「法律家から見たIFRS」ということであれば、このような疑問もしくは主張が出されても何ら不思議ではないところでありまして、もしこのような問題が「どこかおかしいのでは?」と違和感を覚えるのであれば、これは正当な根拠をもって否定(反論)していかなければならないと思われます。この座談会で弥永先生が指摘されているように、たとえば「負ののれん」について、会社法計算規則が改正され、コンバージェンスに歩み寄るような場面もみられるわけでありますが、今後は歩み寄りが困難な部分もいろいろと表面化してくるはずであります。

それと、もうひとつ上記座談会記事を読んでの感想でありますが、IFRSの適用と同時に内部統制報告制度も併せて施行される、ということになりますと、おそらく適用会社の社内で作成されるアカウンティングポリシー(会計処理方針)の可否について、その適用の妥当性が審査されることになると思われます。そうなると、取引実態にまで踏み込んでルール適用の妥当性が判断されるものとなり、いわば会計監査は「内部統制報告制度を通じて」その企業の取引実態まで十分に認識しなければ監査ができなくなるのではないかという疑問が生じてきます。(財務諸表監査と内部統制監査の一体的実施を前提として、ということでありますが)しかし、そうであるならば、現在会計監査人の監査見逃し責任を肯定する裁判所の論理からしますと、「情報監査が主であり、実態監査は副次的なもの」とすることから、不正発見義務のレベルも限定的でありますが、プリンシプルベースによるIFRSを前提とする会計監査が実態監査に近いものということになりますと、「取引の実態に近づく会計士による不正発見は容易になる」ということから、これまで以上に会計不正の発見義務がより広く認められるようになるのではないでしょうか?新聞等のIFRS解説では、「IFRS適用により会計不正事件は減る」と予想されておりますが、私自身はそんな甘いものではないと考えております。今後も会計不正が発生する、ということになりますと、外部監査人の不正発見義務についての課題も、真剣に検討しておく必要があるものと思います。上場会社の全てに内部統制報告制度とIFRSが同時に適応されるのは日本だけでしょうし、(米国は未だ7割の上場会社にはSOX法が適用されておりません)日本固有の問題点についても検討すべきではないでしょうか。

この座談会記事(上)の最後のところで若干ふれられておりますが、IFRS時代において、監査リスクを適正に分配するためには、今後、取締役会や監査役に対して、早期に監査リスク分配の仕組み作りを要望していかなければ、外部監査人だけに過度の負担が発生するか、もしくは過度の監査報酬として企業自身が負担するようなことになってしまいそうな予感がいたします。

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2009年4月21日 (火)

法律家はIFRS(国際会計基準)をどう受け止めるべきか?

個人的な関心から、昨年来当ブログにおきましても、IFRS(国際会計基準)と「公正ナル会計慣行」との問題について触れておりますが、コンバージェンス(収れん化)とは異なり、アドプション(直接適用)が現実化するに至って、いつかは重大な問題を直視しなければならないと思っております。いわゆる「国際会計基準を国内法的にどう受けとめるべきか」という問題であります。企業会計基準委員会の開発する企業会計基準について、金融庁ガイドラインで承認をする・・・というわけにはいかないようであります。

季刊「会計基準」2009年3月号において、神田教授が論稿「上場会社法制をめぐる論議」のなかで、金融商品取引法上の重要課題として「国際会計基準の取扱」を論じておられましたが、「企業会計」5月号では、いよいよ金融庁・企業会計審議会の会長でいらっしゃる安藤先生が、この問題を真正面からとりあげておられ(「IFRS導入と会計制度の展望」)、会社法会計制度の再構築への提言にまで言及されていらっしゃいます。また、同5月号では、この分野の第一人者でいらっしゃる弥永教授も、IFRSが連結財務諸表に強制適用された場合の違憲性(国会が唯一の立法機関であり、私人に対する立法権の委任は認められない)について言及されておられます。(「IFRSと会社法」)

権威者の方々が動いたから・・・というわけではありませんが、IFRSを法律の世界がどう受け止めるのか?といった問題については、こういった方々が発言をしなければならないほどに喫緊の課題になってきた、ということは言えるのではないでしょうか。金融商品取引法会計の世界であっても、そこに有価証券虚偽記載へのペナルティ(刑事罰や課徴金制度)が存在する以上は、IFRSの(個々の企業会計への)適用の適法性を最終的に判断するのは、まぎれもなく裁判所でありまして、まさに「司法の世界」なのであります。とりあえず、現実の企業社会において適用されるべきIFRSについて、どのように「会計基準の位置づけと国による認定手続についての明文の規定を金商法上設けるべき」(神田教授)なのか、そろそろ法律家の立場からも検討がなされる時期が来ているように思います。とりわけ、IFRSが刑事罰(人身の自由)と関連性のある概念であるがゆえに、罪刑法定主義の趣旨を損なわないような法規命令であること(白紙委任の禁止)を、どのような理屈でもって根拠付けるのか、今後の重要な法律的課題ではないかと思います。(平成10年6月の「商法と企業会計の調整に関する研究会」のような、きちんとした議論の場が必要になってくるのではないでしょうかね?)

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2009年1月 9日 (金)

IFRS(国際財務報告基準)の適用と「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」

昨日から日経新聞で連載されている「国際会計基準がやってくる(日本とここが違う)」を興味深く読ませていただいております。(9日の朝刊が最後のようです)アメリカが発展させた細則主義からEU基準の原則主義に転換する(連単分離論からすると連結財務諸表について、ということなりますが)ということで、商社や製造業の大手上場企業さんでは、すでにIFRS準備室も活動を開始しているとのこと。また、IASBの要望なのかどうかは存じ上げませんが、各国の大手監査法人さんも、IFRSの適用を想定して多くの会計士さん方が勉強をしなければならないそうですので、担当者の方々は今後ますますお忙しくなるのでしょうね。

以前にも少しエントリーで書かせていただきましたが、このIFRS(通称:国際会計基準)が直接適用された場合の法律問題というのは、もうどこかで既に議論されているのでしょうか?(もし議論されておられるところがあればお教えいただきたいところです)税金・配当可能利益計算は個別財務諸表(日本基準)ということでしょうから、違法配当罪や特別背任罪の該当性は別としましても、有価証券報告書虚偽記載罪(粉飾決算)については連結財務諸表が問題となりますので、当然のことながら金商法上(連結財務諸表等規則1条)の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」とIFRSの関係が問題となるわけであります。これまでは日本のASBJ(企業会計基準委員会)が開発してこられた会計基準がこれに該当するものである・・・と(規則1条2項の文言からほぼ異論なく)認識されてきたわけですが、日本からおひとりだけ理事が選出されているIASB(国際会計基準審議会)が策定する基準が(アドプションということになりますと)そのまま金商法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」になる、ということも異論なく認識されるのでしょうか?もし基準になるとすれば、それはどういった理屈によって基準であると説明されるのでしょうか?これは未だよくわからないナゾです。ましてや、「基準」といいましても、それが「原則主義」ということを前提としますと、書かれてあるものだけが「基準」なのか、それとも書かれていない原則(GAAP?)も「基準」と呼ぶのか、その場合、書かれていない原則は、コンバージェンスが進むであろう個別財務諸表の日本基準適用の際の会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」における「慣行」と同一なのかどうか?(ウーーン、ますますもってナゾであります)

連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則
   (規則の適用)
    第一条

 金融商品取引法 (昭和二十三年法律第二十五号。以下「法」という。)第五条 、第七条、第九条第一項、第十条第一項又は第二十四条第一項若しくは第三項(これらの規定のうち第二十四条の二第一項において準用し、及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 (昭和三十八年大蔵省令第五十九号。以下「財務諸表等規則」という。)第一条第一項 の規定により金融庁長官が指定した法人(以下「指定法人」という。)についてこれらの規定を法第二十七条 において準用する場合を含む。)の規定により提出される財務計算に関する書類のうち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書及び連結附属明細表(以下「連結財務諸表」という。)の用語、様式及び作成方法は、財務諸表等規則第一条の二 の規定の適用を受けるものを除き、この規則の定めるところによるものとし、この規則において定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする。

2 金融庁組織令 (平成十年政令第三百九十二号)第二十四条第一項 に規定する企業会計審議会により公表された企業会計の基準は、前項に規定する一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に該当するものとする。

とくに、公認会計士さんの刑事責任や民事賠償責任というのは、ほとんどが被監査対象会社の倒産が引き金になるわけですから、いまのように経済情勢が極めて悪い場合には、民事再生法適用会社(粉飾決算がからむケースでは、裁判所から管財人が選任されると思いますので)については、再生債務者管財人から刑事告訴や民事賠償責任を追及されるケースはまちがいなく増加すると思われます。(先日のナナボシ事件地裁判決にあるように、先行する金融庁の行政処分と、裁判所の判断とは、その目的を異にしておりますので、金融庁から処分がなかったことについては、あまり司法判断には影響しないものと思われます)現に、先日の長銀粉飾決算事件判決や一昨年のライブドア刑事第一審判決などのように、「公正なる会計慣行」の中身が司法判断によって決定されてしまい(ライブドア事件の際には判断は回避されましたが、それでも投資事業組合は脱法行為目的で作出されたものであるから、その存在は法律上認めない・・・との理屈は、法律家には判断構成が理解できても、会計専門職の方々には不可解な印象が残ったものだと思います)、会計実務に関与されておられる方々は戦々恐々とされておられるようであります。こういった時勢におきまして、法律とIFRSの関係がどうもよくわからない・・・といった状況のまま制度が開始されるとなりますと、会計専門職の方々も大きなリーガルリスクをかかえたまま監査に臨むこととなり、「後だしジャンケン」で負けて監査法人自身も大きな社会的信用を毀損することになりかねないことを懸念いたします。

本日の日経新聞では、原則主義といいましても、粉飾決算のリスクの高い項目については規則が明確になっている、という点が指摘されておりましたが、そうはいっても書かれていないところを企業経理担当者や監査法人さんが解釈しなければならない度合いはこれまでよりも強くなるのですよね?「基準」をルールと捉えるのであれば、罪刑法定主義との関係や強制力の正当性根拠(法の委任?)、複数の基準を認めるのかどうか、監督庁たる金融庁の処分と裁判所の判断とはどういった関係に立つのか?といった問題点をクリアする必要があるでしょうし、「基準」を原則と捉えるのであれば、「一般に公正妥当」であるとは、どういうことなのか?実体なのか手続なのか?誰が「公正妥当」と最終的に判断するのか?日本基準と国際基準の「原則」は同じなのか?といった問題点が浮上するのではないかと考えております。(ちなみに「ルール」というのは法規範に準ずるような規則のこと、「原則」というのは規則を解釈するときの指針・・・程度にお考えいただければ結構です。原則ととらえるのであれば「唯一の基準」なる概念は出てこないように思いますし、ストック重視、フロー重視といった会計論争を含めて「真実性の原則」にいうところの「相対的真実」なる会計的発想とも合致するように考えております。)

なんだかんだ申しましても、最終的には裁判所が(紛争解決に必要な範囲において)個々の企業に適用されるべきルールは決定するわけでありますので、会計専門職の方々も、裁判所ルールとか、エンフォースメントの在り方については理解をしていただく必要があると思います。しかしながら、社会インフラとしてみた場合、会計士さん方が安心して監査に臨める環境、そして、多少アブナイ企業であっても、正々堂々と監査をすれば、たとえ粉飾を見抜けなかったとしても監査責任を問われない環境をできるだけ早く作り出すためには、そろそろ、こういった「法と会計の狭間にある問題」にクリアな整理がほしいところであります。

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2008年9月 4日 (木)

会計制度監視機構~公正なる会計慣行とは~第1回会合

「死刑判決」と聞いてネタにするのは非常に不謹慎かとは思いますが、「妻82人と3日以内に離婚しなければ死刑」という判決をナイジェリアの男性(84歳)が受けたそうであります。(朝日ニュースはこちら)妻は4人まで、とするイスラムの教えが司法の判断基準とされるのもスゴイですが、「コーランには5人以上の妻を持つ場合のペナルティが書いていない」なる抗弁を持ち出すところもルールベースの規制の間隙を突く日本の市場規制をみるようでスゴイです。私がもっとも心配するのは、本当に82人の女性との間で3日以内に離婚できるのだろうか・・・ということ。ハンコをもらうにも、そのうち何名かは所在不明ということもあるでしょうし、絶対に条件成就は困難ではないでしょうか。ちなみに私はたとえ4人であっても、「平等に接する」なる条件が付されるだけで、たぶん命を落とすと思います。なお、この男性は判決後、法廷を後にするとき、裁判長にこう言ったそうです。

「私はあなたとはちがう。」・・・・・・(最後の文章だけ作り話です)

さて、経済産業省に隣接している大同生命霞が関ビルにて、朝から会計制度監視機構の新たな研究会に参加してまいりました。先日の長銀事件最高裁判決をはじめ、これまで「会計基準」の解釈が問題となった裁判例などをもとに「公正なる会計慣行」の中身を検証し、改めて「公正なる会計慣行とは何か」を問い直すことで法と会計基準との調和(調和がむずかしいとすれば、よりよい併存状態?)を提言するのが主たる目的であります。メンバーは23名で、機構の委員の方に加えて企業会計審議会や企業会計基準委員会の委員の方々や、財界の方々、市場関係者の皆様、会計専門職の方々、(私を除き)著名な弁護士の皆様ということで、なぜ私がここに座っているのかはよくわかりません(^^;まァ、あんまり深く考えないで、せっかくの機会ですからじっくりと勉強させていただこうかと思っています。

本日の会合では、私も偉そうにこの研究会で議論いただきたいことを述べさせていただきましたが、おそらく今後この研究会で中心論点となりますのは(あくまでも私の予想ですが)①企業会計問題を司法はどのように裁くのが適正なのか、②金融商品取引法、会社法は、今後国際財務報告基準をどのように受け入れていくのか(これまでの「公正なる会計慣行」の基準をもって、はたして国際会計基準を受け入れていくことは可能なのか)、③プリンシプルベース、将来価値(見積もり、収益予想)へと進む会計基準の流れと法規範性、④その他、といったあたりかと思われます。私的にはどれも実に興味深く、関心の高い項目であります。取り扱われるべき論点は今後の法と会計の接点をどのように考えるか・・・・というものでありますが、この問題を真剣に検討するためには、まず法と会計の両方の立場から、戦後「会計の法規範性」をどのように考えてきたのか、といった歴史を、企業会計原則の変遷とともにきちんと押さえる必要がありそうです。また、国際会計基準と会計慣行の問題を考えるにあたっても、過去の英米系、大陸系の会計基準の浸透度に関する知識が必要だと認識いたしました。

長銀事件判決だけでなく、ライブドア事件判決なども視野に入れながら、企業社会に対して実益のある提言がなされればいいですね。なお、上記23名のメンバーには当然、法律、会計の学者の方もいらっしゃいまして、次回研究会では、(はじめてお目にかかる)弥永教授の「公正なる会計慣行」に関するご解説を拝聴する予定であります。(おそらく長銀最高裁判決に関する評釈が中心になるのではないかと。)

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