2012年9月28日 (金)

企業の自浄能力と株主代表訴訟リスクの関係

中央大学付属中学の情実入試騒動は、(大学から幼稚園まで併設されている)某学校法人の内部通報窓口を担当している私にとっても他人事ではございません。まだ当ブログでコメントを述べるほど事実関係がはっきりしておりませんが、こういった情実入試の不正が、おそらく中学側からの内部通報によって大学の知るところとなったことは間違いないようです。

人間関係が錯綜しているなかで、内部通報制度がきちんと整備されてしまいますと、今まで表面化していなかった不正事実が世に出ることは当然のことであります。このあたりの内部通報リスクに関する認識の甘さ、そしてマスコミに知れる最大のポイントになったステークホルダー(ここでは行政当局→神奈川県)への対応の甘さというものは、まさに企業の自浄能力を語るときにも参考になるところであります。そういえば昨日の記者会見においても、中央大学の学長さんが、「大学の自浄作用を発揮するためには、入学を取り消すしか方法がなかった」と弁明されておられます。

このように最近は広く使われるようになった自浄能力(自浄作用)という言葉ですが、一般的には「自浄能力」とは、不祥事が発生した場合、これを自分で見つけて、自分で調査して、自分で公表して、自分で関係者を処分する、という一連の不祥事対応能力のことを指します。たとえば第三者委員会による事実調査や責任判断というものも、企業行動の公正を期すために専門家の支援を受けるわけでして、これも自浄能力の発揮場面に含まれます。

以下では、支配権争いに株主代表訴訟が活用されるような中小の株式会社ではなく、株主が多数存在する大企業を念頭に置いたお話ですが、企業が自浄能力を発揮するようなケースというのは、マスコミから大きく報道されることを防ぐことに留まらず、役員のリーガルリスクを低減させることにもつながるものであることがわかります。もちろん不祥事が発生し、マスコミから大きく取り上げられ、企業の社会的信用が大きく毀損された場合には、株主代表訴訟が提起されることになりますが、大きな不祥事が発生したとしても、これを自浄能力を発揮して信用回復に尽力した企業に対しては、ほとんど代表訴訟が提起されておりません。

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上図は、これまで社会的にも大きな話題となりました企業不祥事による株主代表訴訟や株主による第三者責任追及訴訟と、その訴訟で問題とされた不祥事が発覚した原因事実を対比したものです。とりあえず著名なものだけ掲げておりますが、この発覚原因をみるかぎり、自浄能力を発揮したにもかかわらず、役員が代表訴訟を提起された、というものは見当たりません(なお、シャルレのMBO代表訴訟については、内部通報が発端となった事件に関するものですが、これも取締役の利益相反行為が社員によって暴かれたものとして自浄能力が発揮されたものとは言い難いように思われます)。もちろん株主代表訴訟を提起することは、株主の任意であり、役員の責任追及を妥当と考えれば自由に提訴することができます。やはり経営陣のコンプライアンス意識が希薄である、という印象は、不祥事を隠したり、経営者自身が関与していたり、知りながら長年放置している、といった事情が明確になるときに株主一般に認識されることになり、これが代表訴訟提起のインセンティブになるものと思われます。

そもそも企業不祥事発生時において、その自浄能力を問題とするのは、企業自身の信用回復の可能性を世に示すことにあるわけですが、事実上個々の取締役・監査役の訴訟リスクにも関わるものであると思われます。

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2010年12月 2日 (木)

住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用

弁護士会の委員会でもいろいろと話題になっておりましたのが、カルテル課徴金に関する住友電工さんの株主代表訴訟の報道でありました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。原告株主代理人の会見によりますと、リーニエンシー(自主申告制度)に絡む代表訴訟は初めてとのこと。住友電工さんは今年5月、光ファイバーケーブルをめぐるカルテルにより、独禁法違反に基づく課徴金納付命令を受けたのでありますが、課徴金68億円の納付を余儀なくされたのは、住友電工さんの役員らがリーニエンシーを使わなかったからである、との理由で一般株主から新旧の役員17名に対して代表訴訟が起こされたそうであります。(リーニエンシー制度とは、談合やカルテルに参加した企業が、自ら進んで公取委に「私は談合やりました」と申告すれば、先着順に課徴金処分が減免される・・という制度です。なお刑事訴追も事実上は免れる扱いとなっております。行政による指名停止は免れないようですが・・・)

報道されているところからは、役員さんらへの責任追及に関する法的構成が明らかになっておりませんが、①法令違反(独禁法違反)による任務懈怠+役員の過失→会社法423条1項責任の追及、②善管注意義務違反(内部統制構築義務違反、監視義務違反+役員の過失)→同423条1項責任の追及、といったあたりではないでしょうか。いずれにしましても、競争法コンプライアンス体制の整備につきましては、今年1月に経産省「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」より報告書が公表されており、法的な紛争解決の場面においても参考となるのと思われます(この研究会報告書はコンプライアンス体制整備の視点がきちんと明示されております)。

自主申告が遅れたことをもって、直ちに「役員の過失あり」と結び付けることにはちょっと無理があるように思いますが、ただリーニエンシーが創設されたことが、役員の法的責任になんらかの影響を及ぼすことは十分考えられるものと思われます。ひとつはリーニエンシーの効用として独禁法リスクを企業が十分に認識していなければならない、ということであります。2006年独禁法改正後、リーニエンシーの実施によって摘発する公取委側の証拠の収集力が格段に向上したのであり、これまで捕捉が容易でなかったカルテル事案も摘発できるようになったことであります。これはここ数年の実施状況をみても判明するところであり、企業がこのリーニエンシーの効用を十分理解して内部統制を構築していたかどうか(リスク管理義務違反の有無)、という点は重要ではないかと。ダスキン事件判決をみましても、役員の善管注意義務違反はリスク管理のずさんさ(過去の不祥事について、第三者から告発される可能性が濃厚であったにもかかわらず、我々が公表しなければ隠匿できる、と軽薄に考えていたのは、リスクの管理に重大な問題があった)が問われているのでありますから、カルテル違反のリスクをどの程度に重要なものと認識していたのか、関心のあるところであります。

そしてもうひとつは「不正発見能力」が問われることであります。これまで内部統制といえば、不正の予防に関する対策だけが注目されておりましたが、このリーニエンシーは他社に先駆けて、自社で不正を発見できれば高額な課徴金を免れる効用があります。そうであれば、企業として、いかにカルテルを予防することができるか、という点に加えて、いかに発生した不正を早期に発見することができるか、という点についても統制をかける必要性が高いわけであります。通常は、この不正早期発見のために「社内リーニエンシー制度」などを構築するわけでありますが、果たして住友電工さんも、このような早期発見のための対策をとっていたのかどうか、という点も注目されるところであります。そういった体制整備に基づき、実際の内部統制の運用面も注目されるところであります。原告としては、不正を早期に発見することが具体的に可能であったことを主張するために、いかにして「社内に異常な兆候があったこと」を証明するか、そのあたりが役員の主観的要素を明確にするために工夫すべきところかと。(事案の内容を詳細に存じ上げておりませんので、上記はあくまでも私の推測・・・ということでご理解ください)

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2008年10月31日 (金)

アパマンショップHD株主代表訴訟高裁判決と「経営判断原則」の射程距離

昨日は速報版ということで備忘録程度のエントリーでありましたが、控訴人代理人の方がWEB上に東京地裁判決、東京高裁判決(および時系列表)をアップしていらっしゃいますので、早速各判決全文を読ませていただきました。(ちなみに、東京地裁判決は取締役側が勝訴判決、東京高裁判決は株主側勝訴判決です)毎度申し上げることですが、おそらく本件判決は旬刊商事法務さんや、金融・商事判例さんなど、格調の高い法律雑誌に、これまた格調の高い法律学者(実務家)の先生方が判決全文掲載とともに小稿をお書きになると思いますので、あくまでも「田舎の弁護士」による感想程度とお読みいただければ結構であります。また、こんな田舎弁護士の感想でありましても、未だ確定していない事件について、どちらかの立場に有利に援用されるような論点についてブログで公表することは、いわば「エチケット違反」になりますので、本当に判決を読んだかぎりでの第一印象程度にとどめておきたいと思います。

本件株主代表訴訟は、アパマンショップHD(以下、ASHといいます)と、その母体企業であった某会社とのいろいろな紛争勃発の背景があって、その延長線上で某会社と関連のあるASHの株主の方々が提起した裁判のようでありまして、本件事案特有の背景事情もあるようですが、そういった背景事情にはあまり深入りせずに、オンブズマン株主さん方が提起するものと同じイメージでとらえておきたいと思います。(客観的な評価額が1万円の株式を、なぜ5万円で買取の申込をしたのか、という点も、本件の背景事情に起因するところが大きいように思いましたが、そのあたりは捨象しておきます)なお、最近刊行されました「経営判断ケースブック」(日本取締役協会編 商事法務)によりますと、株主代表訴訟も最近は裁判例が集積されてきたわけでありますが、取締役による「具体的な法令違反」型の類型においては役員敗訴の傾向が顕著ではあるものの、具体的な法令違反を伴わない、つまり純粋な「経営判断」型の類型においては、公開企業の役員が敗訴する事例は極めて例外的、とされております。(同書25頁参照)そして、私が地裁判決および高裁判決を読ませていただいたかぎりにおきましては、おそらく本件は経営陣の具体的な法令違反を問題とするものではない、つまり純粋な「経営判断」型の類型に属する代表訴訟でありまして、その意味では経営者が敗訴したこと自体が、極めて珍しいケースに該当するのではないでしょうか。

東京高裁の判断理由をみましても、まず通説的な経営判断原則に関する説明から始まるわけでありますが、

ASHが完全子会社を企図するアパマンショップマンスリー社(以下ASMといいます)の未公開株式の評価額を(中立的立場にあった監査法人さんが)1万円程度と算出しているにもかかわらず、5万円での買取りに応じる意向をASMの株主らに対して通知していることや、そういった買取通知の一方で、買取通知に応じないASMの株主に対しては、株式交換契約による株主の強制排除の手続きを進めており、その交換比率によるとASMの株式を1万円程度に算定(交換比率はASH:ASM=1:0.192)している事実、さらにASHは、もともと66.7%のASM株式を保有していたのであるから、とりわけ5万円での買取通知によって株主の応諾をとりつける必要はなかったのではないか、といった疑問点などを重視しながら、客観的な1万円という株価と、5万円での買取とのかい離について、合理的な根拠もしくは理由は示されておらず、結局のところ「取締役の経営上の判断として許された裁量の範囲を逸脱したものである」

と結論付けております。この東京高裁の判断過程は、まさに日本における「経営判断原則」に関する判例上の通説的な枠組みのなかで捉えられておりまして、上場企業の役員の法的責任につき、こういった枠組みのなかで判断される場合には、たしかに取締役には広範な裁量権がある、として取締役の善管注意義務違反の主張が否定されるケースがほとんどであったと思われます。そもそもリスクの高い状況のなかでの高度な判断が要求されるのが「経営判断」ですから、後付けの理由は許されず、判断時の状況を厳密に再現する必要があることは当然だと思います。しかしながら、そういった判断枠組みを利用してでもなお、本件では取締役らの経営判断は善管注意義務違反と評価されたわけでありますので、一定範囲においては裁判所も経営判断に介入する場合があることを明らかにしたものであり、その判断過程こそ、今後慎重に吟味しておく必要があろうかと思われます。

今回の高裁判決についての私的な意見はなるべく控えさせていただきますが、ただ脊髄反射的に素朴な疑問として頭に残っていることだけを書きとめておきます。まず、ひとつめは取締役の経営判断が許された裁量の範囲内にあるかどうかを検討するための認定事実については、地裁判決でも、高裁判決でも、いずれも「経営会議」における言動が問題となっておりまして、「取締役会」での審議内容についてはまったく考慮されていない、という点であります。「取締役の経営判断に合理的な根拠が認められる以上、どのような審議の場であってもいいのではないか」といった考え方が正しいのだろうとは思いますが、一般には「取締役会」での審議事項が問題となるケースが多いのではないでしょうか。そもそも3人の監査役による「判断形成過程」を審査する機会もないところで「経営判断原則」は適用される、というのも少し違和感をおぼえるところであります。

この点につきまして、被控訴人である取締役らのご主張としては、「この程度の判断はそもそも内規では社長の専権事項になっており、社長が独断で判断してもいいのであるが、念のために経営会議で審議をし、また顧問弁護士の意見も聴くことにした」とのことであります。地裁もほぼ同様の判断を前提にしていると思われますが、高裁は「ASH社の場合当期純利益が4億7900万円程度であるところに、ASM社の株式買取価格を1億5800万円とするのであるから、会社にとって大きな影響の出る金額である」としております。私などは頭が固いものですから、裁判所が経営判断の適法性について介入する場合には、その会社意思の形成過程(デュープロセス)にこそ踏み込むべきだ・・・といった印象を持っておりまして、だからこそ「取締役会でどのような資料が出され、どのような審理を経たのか」といったことの事実認定が不可欠だと思っておりました。しかし、こういった地裁と高裁の判断の違いをみますと、そもそもどのような意思形成過程をたどるべき問題なのか(たとえば社長の独断でいいのか、経営会議は必要なのか、それとも取締役会での審議が必要なのかといった問題)その「業務執行の重大性からみた意思形成過程の在り方」に関する議論もしなければならない・・・ということになるのでしょうね。そうなりますと、事案によってはずいぶんと裁判所が重たいものを背負うこともありうるのではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。(たとえば重要な業務執行の一環として取締役会で審議しなければならないような経営判断について、内規により経営会議で審議すれば足りるとされているケースだと、経営判断原則の適用においてどのような影響が出てくるのでしょうか)

そしてもうひとつの疑問でありますが、上場企業たるASHの取締役3名は、完全子会社化を企図するASMの(株式交換契約当時の)取締役でもあったわけでして、そうなりますと、子会社であるASMの株主からみても、また親会社の一般株主からみても、ASMの株式買取交渉については利益相反関係に立つことになります。(株主との交渉につきましては、会社法上の利益相反取引ではありませんが)つまり、控訴人らからみて、被控訴人らはASHのために忠実に職務を執行することを期待できる立場にはなかったわけでありますが、ASHの取締役の方々が、こういった状況において経営判断を下す必要があることにつきまして、高裁でも地裁でもまったく問題にはされておりません。私は、こういった状況では取締役には広範な裁量権が認められているわけではなく、たとえば監査法人による未公開株式の公正価格が算定されているとするならば、そういった価格をかなり強く尊重すべき立場に立たされているのではないかと考えるのでありますが、このあたりはどうなんでしょうか。本件のような状況においては、そもそも判例で認められているような「経営判断の原則」が枠組みとして利用されるのかどうか、という問題点であります。

以上のような疑問点とは別に、本件高裁判決は、「弁護士の意見を聞いたから、といって意思形成過程に問題がなかったとは言えない。」として、これまた地裁判決とはかなり結論を異にしております。これも短絡的に経営判断原則と専門家意見聴取は別である、と一概には言えないと思いますが、本件ではかなり具体的に法律的観点からの弁護士意見が出されているようですが、こういった場合にも経営者の方々は免責されるものではない・・・ということについて、一石を投じた判決になるものと考えられます。(本件は、そのままでも司法試験の設問事例になりそうなほど、おもしろい論点が他にもありますが、とりあえず本日は個人的な疑問だけということで。)

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2008年10月 7日 (火)

株主代表訴訟(責任追及の訴え)における素朴な疑問

いつも拝読させていただいておりますGrande's Journalのgrandeさんより、ご要望がございましたので、10月3日の蛇の目ミシン工業株式会社(東証一部)のリリース(旧経営陣に対する株主代表訴訟のお知らせ)についてコメントさせていただきます。(実は本日のセブンシーズ・テックワークス株式会社の「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」についてもたいへん興味があるのですが、こちらはまた別の機会に。)上記蛇の目ミシン社のリリースによりますと、株主代表訴訟判決に関する最高裁への上告受理申立が退けられ、この10月2日に旧経営陣5名に対して合計583億円ほどの損害賠償債務が確定した、とのことでありまして、5名の旧経営陣の債務が「連帯債務」ということになりますと、それぞれが583億円の債務を蛇の目ミシン社に対して負担している、ということになります。もちろんこのような巨額債務につきましては、到底役員個人が支払える金額ではなく、「いったい株主代表訴訟における巨額債務を役員が負担する意味がどこにあるのか?」といった批判も正直なところ、出てくるところであります。(もちろんD&O保険にも限界はあります)

ただ、私がこの蛇の目ミシン社のリリースを読んで、たいへん感動しましたのは、平成18年の最高裁差戻し判決が出た時点におきまして、原告株主代理人が会社の代理人となって被告取締役の責任追及にあたる旨の契約が原告と蛇の目ミシン社との間で締結されていた、というものであります。本来、株主代表訴訟の仕組みからしますと、取締役の責任追及をしない会社に代わって少数株主(単独株主)が取締役や監査役の責任を追及するわけですから、株主と会社との利害は原則として一致するはずであり、勝訴原告株主の代理人弁護士が会社の代理人となって(旧経営陣らの)責任追及に尽力する、という構図はそれほど驚くほどのことでもないものと思われます。しかしながら、平成13年の商法改正以後(会社法におきましても)、監査役の同意があれば、会社は被告取締役側に補助参加することが認められるようになりましたので(たとえば会社法849条)、かならずしも会社の利益と原告株主の利益が一致するとは限らないものとされ、会社の経営判断に関する違法性が問われる事例などでは、むしろ原告株主の利益と会社の利益とは相反するものである、と理解されるようになっております。

現に、取締役や監査役など相当数の役員について損害賠償債務が確定したD社の株主代表訴訟におきましては、D社によって原告株主代理人とは別の代理人が元取締役に対する債権回収にあたっておられるようでして、その実際に債権回収できた金額を根拠として原告株主代理人らの弁護士報酬が算定されようとしているようであります。(もちろん、これはD社側からの算定根拠に基づく提案であり、原告株主代理人の方々はこれに大いに異議を唱えておられ、いまだ解決がはかられていない模様であります)したがいまして、蛇の目ミシン社としましても、原告株主代理人による債権回収の委託を拒絶することがただちに違法ということにはならないものと思いますし、事実上敵対的な関係にある原告側の代理人を選任することにはかなりの抵抗があったものと推測されます。このような状況で、あえて原告株主代理人の方々に、元役員らに対する債権回収行為の代理権を付与したのは、おそらく蛇の目ミシン社としては、反社会的勢力との関係を将来にわたり排除することを社内外に示す「コンプライアンス的発想」によるものではないかと思われます。蛇の目ミシン事件は、その内容をご承知の方も多いと思いますが、大阪高裁では「脅迫されていた役員らには法令を順守するだけの余裕(適法行為への期待可能性)がなかった」として、善管注意義務違反による損害賠償責任は認められなかったのでありますが、最高裁はこれを覆して多額の損害賠償責任を認めたものでありまして、いわば役員らは会社のために違法行為に及んだ典型例であります。こういった事情のもとで、あえて原告株主らの代理人に債権回収を委託する会社の姿勢こそ、おそらく「断腸の思い」であったでしょうし、またそれほどまでの決意をもって「コンプライアンス宣言」を世に示したのではないかと推測いたします。

ところで会計に疎い弁護士の素朴な疑問ではありますが、こういった583億円もの損害賠償請求権が蛇の目ミシン社に確定的に帰属するに至った場合、会計処理はどのようになるのでしょうか?583億円の債権はただちに「特別利益」になるのでしょうか?(それだとあまりにも事実と乖離することになりますよね?)それともこの後、長い期間にわたって行われるであろう債権回収に要する期間、オフバランスの状態になっているのでしょうか?おそらく「将来予測」というものは「やってみないとわからない」わけで、どうにも説得的な金額の算定は困難だと思われるのですが。(だからこそ、先のようなお知らせリリースになっているのでしょうか?)また、ご存じの方がいらっしゃいましたらご教示いただければ幸いです。

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