2009年1月13日 (火)

上場廃止基準の緩和と上場会社のコンプライアンス

月曜日の日経朝刊一面記事で東証・大証は時価総額が一定額を下回った企業を上場廃止や指定替えにする基準について、これを緩和する方針を固めた・・・とあります。(日経ネットニュースはこちら)東証を例にとると、1部、2部、マザーズと、それぞれの基準とも下限金額を4割程度下げるとのこと(たとえば2008年に指数が60%以上下落したマザーズだと5億→3億ということになるのでしょうね)東証の有価証券上場規程(平成20年8月5日改訂分)601条(4)によると、「ただし、市況全般が急激に悪化した場合において、当取引所がこの基準によることが適当でないと認めたときは、当取引所がそのつど定めるところによる」とありますので、昨年11月以降は、この規程によってルールの適用を一時停止していたようです。

今回は601条(4)の適用によるのではなく、そもそもルール自体を変更する、ということで多くの上場会社が時価総額基準抵触(上場廃止の猶予期間突入)の事態を回避できる、ということになるようであります。株価下落傾向はずいぶんと長引く、ということが言われていますので、(反対意見はあるものの)経営改善策が直ちに株価の上昇には結びつかないと思われますし、このあたりはやむをえないところではないでしょうか。この緩和基準を適用すると、東証だけで抵触会社が30社以上→10社程度となるそうですが、こういった基準緩和が上場企業のコンプライアンスとどのような関係にあるのか、私的にはとても関心のあるところであります。こういったブログを始めてから、いろいろな適時開示をみるようになりましたが、やはり時価総額が廃止基準にひっかかってしまうことと、企業の無理な資金調達スキームとの関連性は否めないところですよね。キャッシュリッチな企業であれば業績下方修正の発表と同時に自社株買いを決定してなんとか株価の下支えを行うことも可能かもしれませんが、そもそも資金に乏しいわけですから、「そっちの方向」でなんとかしたいと思うのも当然かと思われますし。反社会的勢力と上場企業との接点が増えたり、一般投資家に対してグレーな開示情報が流れたり、(さすがに最近は減ってきましたが)露骨に既存株主から第三者への富の移転が生じるようなケースも多かったと思うのでありますが、とりあえず今回の緩和方針によって、こういった不適切な開示、スキームによる資金調達方法は(少なくとも一時的には)減少傾向に向かうのではないかと予想しております。(甘いでしょうか?)

しかし、取引所にとって「頑張って経営改善をして、市場に残ってほしい」企業がダーティーな資金調達に手を染めることを回避することはいいと思うのでありますが、もともと「早く出て行ってほしい」と思っておられる企業にも同じく延命措置をとることになりますが、こちらはどう考えたらいいのでしょうかね?証券取引所としては別途「企業行動規範」によって次善の策を検討されているのでしょうか。取引所とは別の話でありますが、ここで最近気になるのが日本公認会計士協会による「会員に対する懲戒処分」なのであります。オピニオンショッピングを繰り返す上場企業にとって「優しい」会計士さん方や、期中の会計監査人交代時における引き継ぎ不足、不足を認識したうえでの高いリスク管理を怠った会計士さん方が次々と懲戒の対象となっております。(しかし審査対象事実はずいぶんと以前のお話なんですね)こういった懲戒の内容をみますと、上場企業全般への監査に対する厳しい対応というよりも、会社内部でゴタゴタが発生し、内部統制をきちんと構築できない企業、つまり開示情報にも一般投資家保護の要請を期待できないような企業に対する監査上の警告が発せられているように思われます。どっちかというと、こういった監査法人側へのけん制によって、「市場から退出してもらいたい企業」への対応がはかられているようにも思いますが、いかがでしょうか。

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2008年10月29日 (水)

市場安定化対策における「空売り規制」と正当防衛理論

空売り規制に関する閣議決定に基づき、金融庁のHPにはすでに一部改正された金融商品取引法施行令がリリースされております。「空売り」とは、一般に株式を保有しないで、もしくは株式を借り入れて売付を行う行為のことを指すものでありますが、金融庁は、このたび空売り規制を強化する市場安定化対策を決め、本日より東証もこれに歩調を合わせることになりましたので、これが奏功してか、本日は日経平均もかなり上昇していたようであります。なお10月30日にもまとまる追加経済対策のなかには、金融庁が必要に応じて全面的に空売りを禁止することができるような対応策も盛られる、ということのようであります。(ニュースはこちら

このたびの「空売り規制」強化につきましては、経済団体からの要請もあり、また世界的な金融不況が同時に発生していることなどから、どこの新聞、ニュースの内容をみましても、あまり「空売り規制はおかしいぞ!」なる論調が見受けられないようです。「時価会計の一時凍結」について、大いに議論されているのとはずいぶんと雰囲気が違うように思うのは私だけでしょうか。

しかし、平成14年に金融庁が空売り規制を強化(このときは売り崩しによる相場操縦を防止するための価格規制と明示義務)したときの日経新聞(たとえば平成14年3月29日、同年5月5日)や、朝日新聞(たとえば平成14年4月25日)などの報道によりますと、空売り規制については「正常な価格形成をゆがめる」とか「官製市場」「過度の市場介入」といった言葉でかなり批判的だったわけでして、ましてや昨年はアメリカにおいてSECの説得力のある検証のもと、空売りに関する価格規制の全面撤廃まで行われた(ただし、本年7月に復活!)わけですから、なにゆえ今回は、空売り規制に伴う市場への悪影響についての問題点が浮上してこないのか、ちょっと私には理解できないところであります。(緊急の対応だから・・・という点では、6年前とあまり変わらないのではないかと思うのでありますが。)

もちろん、特別に青臭い理屈を並べ立てるつもりではございません。実質的には金融機関の株価維持の必要性(自己資本規制、それにともなう中小企業への貸し渋りの低減)や、国際協調の必要性により、世間的にはあまり抵抗なく規制されるところだとは思うのであります。しかしながら、そもそも投資家保護と公正な市場価格形成の確保を目的とする金融商品取引法の制度趣旨と、今回の空売り規制とは相反するものではないのか、といった点について、それほど明確には議論されてきていなかったのではないでしょうか?健全な市場形成にあたって、貸し株市場が成熟することや活発な空売りは、必要性の高いものである、ということは疑いのないところだと思いますし、空売りの弊害については相場操縦行為の取締りによって対応すべきではないか、といった議論もずいぶんと昔から行われているところであります。つまり「空売り」自体が悪いのではなくて、価格形成作用に著しい障害を与えるような態様の空売りだけが排除されるべきである、というものであります。したがって、実質的な必要性は理解できても、これが金融商品取引法の枠内(施行令、内閣府令)によって対処される以上は、その行為規制に関する法的な理屈についてもクリアしておく必要があると考えられます。

これを「超法規的措置である」と言ってしまえばそれまででありますが、それでは思考停止状態に陥っているに等しいと思いますし、この理屈であれば会計基準の変更についても「緊急事態であるがゆえに一時停止すべし」といった理屈が成り立ってしまうわけであります。ということで、平成14年の空売り規制強化と、今回を比較してみて、共通しているのが「空売り規制強化と同時に、過去の空売り事例の取締り強化」であります。平成14年の空売り規制強化の場面では、外資系証券会社など合計7件が実際に空売り規制違反として(金融庁から)行政処分を課されております。そして今回も、空売り規制強化と同時に直近における違反事例について厳格に対応する、とされております。つまり、「こんな違反事例が実際にあるからこそ取締りを強化をするのだ」といった流れが必要になるのではないか(つまり、空売り規制強化と直近事例の摘発強化はセットになっている)と、ふと考えました。金融庁の裁量によって空売りを全面的に禁止する、などといった強化策の正当性については明らかとは言えないけれども、空売りによって市場の価格形成作用が歪められるような「急迫不正の侵害」が認められる場合には、金融商品取引法における保護法益を守るためには、その違法性が阻却される・・・といった理屈が考えられるのではないでしょうか。

こういった理屈からしますと、必然的に外資系金融機関(の日本支社)をはじめとして、いくつかの金融機関に対しては、おそらく比較的早い時期にこれまで通用していた空売り規制に違反した、として行政処分が課される事態が想定されるところであります。それが「空売り全面禁止権限付与」に関する唯一の正当化根拠になってくるのではないかと思うのですが、金融規制法に詳しい方々はどういったご意見をお持ちでしょうか。(空売り規制には「適用除外事由」が細かく規定されておりますが、除外事由との関係はどうなるんでしょうかね?)

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