リンコーコーポレーション社の企業集団内部統制
連結子会社(貿易商社)が、取引先に交付していた前渡金につきまして、適切な貸倒引当金を積んでいなかったとして、親会社であるリンコーコーポレーションさん(東証2部)が過年度決算の訂正をされております。連結子会社の売上の10%程度に該当する大口取引先への前渡金(輸出業者への商社金融)につきまして回収困難な債権となっていることを、子会社ぐるみで隠ぺいし、親会社に報告されていなかった、ということであります。事実関係の調査結果が、9月10日付けでリリースされておりますが、この第三者委員会報告書は、今年7月15日に日弁連からリリースされた第三者委員会ガイドラインに準拠して作成したものであることが明記されております。(第三者委員会は弁護士+公認会計士の組み合わせ)
「当該連結子会社における不適切な経理処理に関する調査結果等について」
キリン・メルシャン、パロマ・パロマ工業など、最近は不祥事を発端として企業再編が行われるケースも出てきておりますが、このリンコーコーポレーションさんの件も、子会社トップの不正が問題となった事例であり、親会社にとりましては、もっとも発見が困難な事例のひとつであります。本件も親会社による子会社不正の「発見力」の有無に関心が寄せられそうであり、また私自身も某研究会で、この「発見力」について発表させていただく予定にしております。ただ当ブログでは一点だけ、気になった点を備忘録として留めておきたいと思います。上記外部調査報告書によりますと、親会社であるリンコーコーポレーションさんの監査役(4名)は、平成19年から同21年ころにかけて、社内における監査報告書では、連結子会社に対する内部統制の不十分さが繰り返し指摘されていた、とあります。しかし監査役さん方の指摘にもかかわらず、親会社経営陣は真摯な取り組みを進めていなかったそうであります。(そのあたりの要因となる事実は、いくつか上記報告書でも記載されております)
ところで、平成19年3月期~同21年3月期の監査役監査報告書(総会報告用)をEDNETで閲覧したところ、とくに子会社の内部統制に問題あり、といった記述は一切ありませんでした。つまり子会社に対する内部統制に不十分な点はあるものの、企業集団としての内部統制の構築にあたり、親会社経営陣には善管注意義務違反があるとまでは言えず、いわば内部統制構築に関する取締役の職務執行において「重大な欠陥」(重要な欠陥ではございません)があるとまではいえない、との判断であったものと推測いたします。
しかし内部統制、とりわけ財務報告内部統制に対する監査役監査は、その運用を検証することが重要だと思われます。たとえば、社内的に作成される監査報告書のなかで、子会社の内部統制をある程度は構築しておかねばならない、と記述したにもかかわらず、経営者がこれを全く放置していたような場合には、そもそもこういった経営陣の対応自体が「善管注意義務違反のおそれあり」として、監査役監査報告書(株主総会用)において問題とされるべきではないでしょうか。具体的には、連結子会社の内部統制構築の状況を精査した立場として、なんらかの意見を株主総会用の監査報告書のなかにも盛り込んでおくべきではなかったか、とも思えるのであります。本件も、いろいろと興味のある論点が含まれておりますので、また某研究会での発表終了後、再度自分の関心のある点について検討してみたいと思います。
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