2010年9月15日 (水)

リンコーコーポレーション社の企業集団内部統制

連結子会社(貿易商社)が、取引先に交付していた前渡金につきまして、適切な貸倒引当金を積んでいなかったとして、親会社であるリンコーコーポレーションさん(東証2部)が過年度決算の訂正をされております。連結子会社の売上の10%程度に該当する大口取引先への前渡金(輸出業者への商社金融)につきまして回収困難な債権となっていることを、子会社ぐるみで隠ぺいし、親会社に報告されていなかった、ということであります。事実関係の調査結果が、9月10日付けでリリースされておりますが、この第三者委員会報告書は、今年7月15日に日弁連からリリースされた第三者委員会ガイドラインに準拠して作成したものであることが明記されております。(第三者委員会は弁護士+公認会計士の組み合わせ)

「当該連結子会社における不適切な経理処理に関する調査結果等について」

キリン・メルシャン、パロマ・パロマ工業など、最近は不祥事を発端として企業再編が行われるケースも出てきておりますが、このリンコーコーポレーションさんの件も、子会社トップの不正が問題となった事例であり、親会社にとりましては、もっとも発見が困難な事例のひとつであります。本件も親会社による子会社不正の「発見力」の有無に関心が寄せられそうであり、また私自身も某研究会で、この「発見力」について発表させていただく予定にしております。ただ当ブログでは一点だけ、気になった点を備忘録として留めておきたいと思います。上記外部調査報告書によりますと、親会社であるリンコーコーポレーションさんの監査役(4名)は、平成19年から同21年ころにかけて、社内における監査報告書では、連結子会社に対する内部統制の不十分さが繰り返し指摘されていた、とあります。しかし監査役さん方の指摘にもかかわらず、親会社経営陣は真摯な取り組みを進めていなかったそうであります。(そのあたりの要因となる事実は、いくつか上記報告書でも記載されております)

ところで、平成19年3月期~同21年3月期の監査役監査報告書(総会報告用)をEDNETで閲覧したところ、とくに子会社の内部統制に問題あり、といった記述は一切ありませんでした。つまり子会社に対する内部統制に不十分な点はあるものの、企業集団としての内部統制の構築にあたり、親会社経営陣には善管注意義務違反があるとまでは言えず、いわば内部統制構築に関する取締役の職務執行において「重大な欠陥」(重要な欠陥ではございません)があるとまではいえない、との判断であったものと推測いたします。

しかし内部統制、とりわけ財務報告内部統制に対する監査役監査は、その運用を検証することが重要だと思われます。たとえば、社内的に作成される監査報告書のなかで、子会社の内部統制をある程度は構築しておかねばならない、と記述したにもかかわらず、経営者がこれを全く放置していたような場合には、そもそもこういった経営陣の対応自体が「善管注意義務違反のおそれあり」として、監査役監査報告書(株主総会用)において問題とされるべきではないでしょうか。具体的には、連結子会社の内部統制構築の状況を精査した立場として、なんらかの意見を株主総会用の監査報告書のなかにも盛り込んでおくべきではなかったか、とも思えるのであります。本件も、いろいろと興味のある論点が含まれておりますので、また某研究会での発表終了後、再度自分の関心のある点について検討してみたいと思います。

9月 15, 2010 企業集団における内部統制 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年4月30日 (金)

企業集団における内部統制(近鉄グループの場合)

いよいよGWが始まりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この時期、神戸メリケンパークあたりは全国から観光客が訪れて「モザイク」を中心にたいへんな人手でありますが、そのメリケンパークの中心にあるFM局が経営権争いの末、民事再生法の申請がなされたということでたいへん紛糾しております。議決権行使禁止の仮処分決定が債務者の審尋なしで発令されたり(おそらく電話くらいはあったのかもしれませんが)、社長が流会を宣言した株主総会の決議無効確認訴訟なども提起されて、法律家としてはたいへん興味深い事件ではありますが、ちょっとローカル色の強すぎる話題ですので、こちらのブログでは触れずじまいでした。

ところで法務省法制審議会会社法制部会が4月28日に開催された、とのことであります。MBOを含めた企業買収の手続きも話題となる予定とのことでありますが、グループ企業の法規制のあり方なども議論の対象になるのかもしれませんね。

そういった法制審の議論とダイレクトに結びつくのかどうかはわかりませんが、4月23日の朝日新聞経済面の記事(大阪版だけかも?)に、近鉄さんが連結子会社の常勤監査役を大幅に増員することを決めたそうであります。ご承知のとおり、今年2月に近鉄社の連結子会社であるメディアート社の不正経理が発覚し、社外調査委員会が設置され、過年度の決算修正を余儀なくされたことは記憶に新しいところ。また、他の子会社でも不正経理問題が発生しておりました。そこで、近鉄社としては不正防止を目的として連結子会社49社のうち24社に常勤監査役を置くことを決めたそうでして、これまで常勤さんが置かれていたのは12の子会社だけ、ということですので、一気に12社増える、ということであります。

親会社の幹部職員が「非常勤監査役」として就任される例はよくありますが、親会社の業務執行担当者が子会社の「常勤監査役」として就任する(しかも一気に12社)というケースはそれほど多くはないと思われます。たしかに「独立性」については若干の疑問もありますが、貴重な人材を子会社のモニタリングに配置するわけですから、かなり思い切った体制改編であり、今回の事件に関する親会社の真摯な対応のひとつではないかと考えます。

ちなみに、記事では(連結子会社に)常勤監査役を設置すべき基準も紹介されており、この基準によるとメディアート社にも常勤監査役が設置されるとのこと。(ちなみに売上高、資産、従業員数が一応の基準とされておりますし、この基準を満たすレベルの上場会社はたくさんありますから、とくに不自然ではないと思われます)こういった企業集団全体からみたリスク・アプローチにより、子会社の監査体制を整備する必要性は、これまでも提唱されていたところでありますが、今回の近鉄社の手法についてはひとつの具体的な試みであり、他社でも採用される可能性があるのではないでしょうか。(とりいそぎ備忘録程度にて失礼いたします。なおGW期間中もブログの更新を予定しておりますが、法務ネタとは全く違うことを書くかもしれませんので、お忙しい方はスルーしてください・・・・笑)

4月 30, 2010 企業集団における内部統制 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年11月13日 (木)

子会社の不祥事と親会社経営陣の法的責任

私が非常勤講師を務めております同志社大学ロースクールの商法演習の前期期末試験とそっくりの事案が実際に発生したようであります。学期末試験では、「設問5」として、上場している親会社の100%子会社(レストラン)が食中毒事件を起こして、お客様に損害を与えた事例でありますが、そのお客様は誰にどのような責任を追及できるか?といった問題であります。基本的には親子関係といっても別法人ゆえ、親会社(もしくは親会社経営者)には責任は問えないのでありますが、親会社と子会社との特別な関係があるような場合には、例外的に責任追及が可能となる場合もあるのではないか・・・といったところを書いていただければいいわけです。ただ、もう一点、企業集団における内部統制システムの構築義務(会社法施行規則100条)をどうとらえるか?という点についても検討していただきたいという出題者(実は私ですが)の狙いもあったのですが、そこに触れていた答案は皆無でした(^^;出題者の能力の問題かも・・・

12日夜の時事通信ニュースや産経ニュースによりますと、東京ディズニーランド内のレストランで食事をした方が腹痛を訴え、病院に運ばれた件で、レストランで調査したところ、その男性は消費期限切れの鴨肉を使った料理を食べていたそうでありまして(ただし、腹痛との因果関係については調査中とのこと)、このレストランはTDLの運営母体であるオリエンタルランド社の100%子会社であります。(TDLのHPでも本件についてはリリースされているようです)

原則としては、本件は当該子会社の食品管理ミスに起因する事態だと思われますので、子会社自身が(因果関係が認められた場合には)この男性の損害を補てんする責任があると思われます。しかしながら、別法人といいましても、当該レストランはTDLの敷地内にあるわけで、運営している子会社(連結子会社)もオリエンタルランドの100%出資を受けたものであります。また調べてみたところ、役員構成も、社長および会長以外の取締役、執行役員はオリエンタルランドの取締役を兼任されている方がほとんどであります。いわば実態面でいえば、オリエンタルランドという上場企業の一事業部であるとみても何ら問題はないと思います。こういったケースでは、親会社(もしくは親会社役員)の法的責任については別途検討すべき対象になるのかもしれません。このあたりは、法的責任を追及する立場にある代理人の腕の見せ所のような気もします。

そして、私的な考察でありますが、こういった場面において、「法的責任追及」とまでは申しませんが、再発防止策をとるにあたり、親会社たるオリエンタルランド社については何らの対応も必要ないのでしょうか?(リリースを読む限りは、「重要な拠点」と評価しうる子会社であるにもかかわらず、親会社としての対策は何ら記載されておりません。ちなみにオリエンタルランド社のガバナンス報告書を読みますと、内部統制の基本方針としてグループ管理体制を整備することが決定されております。)こういった重要な子会社の問題発覚時こそ、親会社としての対応を検討することが、グループ企業内部統制の「運用」評価に影響するのではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。

なお、本件ではもうひとつ特徴的な問題点がありまして、たとえレストランの出した鴨肉に関して、男性の腹痛との因果関係が認められなかったケースであったとしても、本来ならば大きくマスコミでとりあげられなかった(つまり、それだけでは報道価値が低く、公表されることもなかったであろう)不祥事が、突発的な事件を契機として大きく浮かび上がる、という「やぶへびコンプライアンス」の典型事例、ということであります。「この程度なら報告や公表せずに放置しておこう」といった不祥事は世間に山ほどあると思いますが、不祥事とはいえない偶発的な出来事によって、その放置していた不祥事が表面化して、マスコミからは「なぜ隠していたのか?」とか「これが表面化していなかったのであれば、同種不祥事は100倍程度発生しているのではないか?」といった質問を浴びせられ、企業の社会的信用を揺るがすような事態に陥るケースに発展するのであります。「ヒヤリ、ハット事例」を平時においてどのように処理していくべきか、このあたりも企業コンプライアンスの要諦であります。

11月 13, 2008 企業集団における内部統制 | | コメント (0) | トラックバック (0)