2009年3月23日 (月)

経営リスクの2段階開示と役員の法的責任への影響度

日経新聞3月21日朝刊の一面に、上場企業の経営リスクについて、今後はIFRSの基準に合わせてニ段階で開示することを義務付ける方向で金融庁が議論を開始する、とありました。「会計・監査ジャーナル」の4月号座談会「国際財務報告基準(IFRS)の動向と日本の課題について」における金融庁企業開示課長さんのお話のなかでも、まったくこういったことは触れられておりませんでしたので、ちょっとビックリいたしました。4月2日からロンドンで始まるG20金融サミットにおきまして、「早期警戒システム」や、各国の情報開示基準の統一ということがEUから提言されるようですし、そもそもIFRSの場合、「財務諸表本体にはあまり情報をいれず、注記に多くの情報を入れている」(「IFRSのしくみ」32頁あずさ監査法人 IFRS本部著 中央経済社1,800円)実務からすれば、会計処理方針と並んで、情報開示の在り方もIFRSの重要なポイントだと思われますので、「経営リスクの表示」は、まさに政治と会計の接点に位置するホットな話題ではないでしょうか。上場企業の取締役および監査役にとっては、今後目が離せない重要な論点になるものと思われます。

さて、ここに言うところの「ニ段階表示」という意味は、私自身いまひとつ理解しかねるところがありますし、ご教示いただきたいところでありますが、「ニ段階目の開示」というのは、もはやIFRSの基準によって財務諸表が作成できない企業であることを宣言して、別の基準を盛り込んで財務諸表を作成する企業であることを開示するということなんでしょうか。そうであれば、現在のGC(ゴーイング・コンサーン)注記を必要とする場合よりもそのリスク開示を要する企業の数は少なくなるものと思います。そして、「一段階目の開示」というのは、上記新聞記事よりますと、企業の存続を揺るがしかねない重大なリスクの公開(現在のGC注記)より前に、リスクの度合いが不明確な段階でも開示を義務付ける、というもののようですが、現在開示されている「事業上のリスク」とは異なるものでしょうし、こちらもいまひとつ理解できません。さきほどの、あずさ監査法人さんによる「IFRSのしくみ」33頁には、「日本基準では開示されない注記内容の要約」として、そのひとつに「翌事業年度において資産や負債の帳簿価格に重要な修正を加える原因となりうるリスクを伴う主要な想定事項およびその他の見積もりに関する不確実性に関する開示」とありますので、おそらくこのあたりがリスク開示の対象になるのではないかと思われます。上記新聞記事の例示としては「投資家に、『銀行が融資を引き揚げる懸念がある』といった予測情報などをきめ細かく開示する」とあるのも、これに含まれるでしょうし、営業活動によるキャッシュフローの減少や不良債権の増加、売掛金回収の遅延、返済期日が迫っている借入、更改が迫っている借入契約の存在なども、流動性リスクが高いことを示す事実として開示すべき事情に該当するのではないでしょうか。

こうやって開示が義務付けられるリスクが増えて、しかも原則主義(プリンシプルベース)、概念フレームワーク、解釈指針そして日本語訳の解釈など、どのようなリスクを開示すべきなのかを検討するにあたって配慮すべき基準が増えるとなりますと、上場企業の経営者にとっては新たな難題ですね。これまでは継続企業の前提に疑義が生じていることの開示というのは、もし開示内容に誤りがあったとしても、その責任を負うのは(おそらく)企業が倒産したり、上場廃止に至ったような場合に限られるものと思われますので、ごく一部の企業だけの問題だったのかもしれません。しかし、「リスクの二段階表示」ということになりますと、ひとつめのリスク開示が不適切であった場合、たとえ上場廃止に至るようなものでなかったとしても、リスクが顕在化したことによって株価が暴落するような事態というのは考えられるわけでして、その株価の下落を損害として役員の不適切開示に関する法的責任が追及される、という事態も今後は考えられるのではないでしょうか。ひょっとすると、リスク開示の注記について、適正意見を付した監査法人の監査責任まで問われることになるのかもしれません。(このあたりは先行する欧州ではどのように対応されているのでしょうか)あまりいままで考えてこなかったような分野のお話ですし、きわめて国際政治と絡む問題でもあるために、推測の域を出ないものではありますが、会社役員の立場からみてもいろいろと検討課題がありそうな問題ですので、今後も適宜フォローしていきたいと思います。

3月 23, 2009 経営リスクのニ段階開示 | | コメント (3) | トラックバック (0)