2013年11月29日 (金)

日本版パックマン・ディフェンス(敵対的買収対抗策)について

アメリカで、紳士服小売業者どうしによる買収合戦が一部の話題になっています。敵対的買収を仕掛けられた相手の上場会社が、逆に仕掛けた上場会社を対象に敵対的TOBで対抗するという、いわゆる「パックマン・ディフェンス」という防衛策です(防衛策というよりも、本気で仕掛けるのであれば、これは買収対抗策、といったほうが適切ですね)。株主は提案価格がつりあがるので歓迎する向きが多いとのこと。詳しい内容は朝日新聞ニュースで紹介されています(ただし有料版)。

ちょうど当ブログを立ち上げた2005年ころ、会社法の話題といえば敵対的買収防衛策の導入でした。いろいろとアメリカの防衛策が紹介されていた中に、このパックマン・ディフェンスも含まれていたので、なつかしい響きです。日本でも2005年、ライブドア(当時)がニッポン放送の買収を仕掛けたときに話題になりました。ニッポン放送のグループであるフジテレビなどが逆に、ライブドア株の買い占めに動くのではないかという噂も出ていました。ただ、アメリカの事例をみても、かなりの元手が必要になるので、費用対効果という意味からすると「?」といった感想を持ちます。いや、これも「サメよけ」としてのポーズが目的であるとすれば、それなりに効果はあるのかもしれませが・・・

ところで、パックマン・ディフェンスといえば、「日本版パックマン・ディフェンス」というのが考えられます。たとえば敵対的な買収を仕掛けられたときに、相手の議決権の過半数を取得しなくても、25%超を取得すれば相手の取得した当社株式の議決権を無効化することができる、というものです(会社法308条1項、施行規則67条1項)。株式を相互保有している場合に、議決権総数の4分の1以上を保有する会社は、その実質支配している会社の有する相互保有対象議決権につき議決権を行使し得ない、という理屈です。

この日本版パックマン・ディフェンスは、25%以上の株式を取得すればよいので、本場アメリカのパックマン・ディフェンスに比べるとかなり費用は割安で済みそうですが、相手方が上場会社でないとむずかしそうなので、SPCなどの非上場会社によるTOBを仕掛けられた場合などには向いていないかもしれません。また、そもそも買収を仕掛けられている会社の株式にプレミアムを付けて買付を行うとなると、一部の株主だけに利益供与を行ったおそれもありすです。たしか弥永先生が「日本版パックマン・ディフェンス」について会社法関連の書籍の中で検討されておられたと思います(どちらの本だったかは記憶しておりません・・・)。

「サメよけ」という意味での防衛策を考えるのであれば、このように相手方取締役の善管注意義務違反や利益相反行為、特定株主への利益供与といった「グレーゾーン」に相手方取締役を追い込むことが(相手がSPCであっても)効果的ですね。なお、最近のファンドの動きをみていますと、こういった日本版パックマン・ディフェンスの発想で、有事になるとひそかに株を買い集めて敵対的買収の流れを窺っている方もいらっしゃるように感じますが、いかがでしょうか。

11月 29, 2013 テイクオーバーパネル | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月 1日 (水)

英国流パネルと司法謙抑主義

6月26日の日経朝刊に小さな記事が掲載されておりましたが、財団法人日本証券経済研究所内の英国M&A制度研究会より報告書がとりまとめられ、6月30日に公表されております。日本型ライツプランに頼る割合が多ければ多いほど、外国投資家からは「日本は透明性の低い市場だと認識される(後述対談におけるF弁護士の言葉)ことになってしまいますが、TOBルールを整理することも含め、英国流のM&Aルールをきちんと理解しよう、というのが本研究会発足の趣旨のようであります。

つまり、敵対的買収防衛ルールについては、これまで米国流ライツプランが主流でありますが、この対極にあるといわれております英国流テイクオーバーパネル(通称パネル)におけるテイクオーバー・コード(通称コード)に関する研究会報告というものであります。それほど話題になっていないのかもしれませんが、報告書の末尾をご覧になればおわかりのとおり、日本を代表する商法学者の方々と金融庁、経産省の方々による研究会でありまして、買収防衛の在り方を企業自身による防衛から市場の環境整備へと傾斜させるひとつのきっかけになるのではないか、と言われているところですね。

「MARR(マール)」の2009年1月号におきまして、東大のK教授とM&A弁護士として名高いF弁護士との対談「防衛策の検証と日本の企業買収ルールの今後のあり方-世界金融危機とグローバル化の中で-」を拝見したときから、この英国M&A制度研究会における議事内容が気になっておりましたが、本研究会報告書を読ませていただき、パネルコードが日本における資本市場の環境整備に役立つものになるのかどうかは、英国と日本の職業文化や司法制度の違いを考えますと、まだまだこれから検討すべき点は多いのではないかと感じました。

パネル自身が2006年の英国改正会社法に基づくようになりましたので、コードが純粋なソフトローとは言えなくなりましたが、こういった自主ルール(一般原則と細則からなる)が我が国におけるM&Aルールとして定着するのかどうか、また民間組織による裁定について、我が国における司法判断は謙抑主義を貫くのかどうか、「合法的村八分」のようなものが職業選択の自由を制限する正当性を有するのか、民間組織の裁定に反する行為を行った者へのアドバイスを完全に拒否しうるほど、日本のM&Aアドバイザーには職業人としての名誉を重んじる気風があるのだろうか・・・など、いろいろな疑問が湧いてくるところであります。(そもそも、これってプリンシプルベースによる規制が社会規範として成り立ちうる文化がまず先にありき、では?)問題の切り口はいろいろあるのでしょうが、私的には(英国のような膨大な審決の先例を持たない日本においての)民間裁定の正当性、そしてソフトローのエンフォースメントの在り方ですね。先日のレックスHD事件などをみましても、裁判所は企業価値研究会のMBO報告書などをかなり尊重しておりましたので、こういった分野におけるソフトローにつきましても、司法謙抑主義の基礎ができつつあるのではないか、とも考えております。

参考書としては、「市場取引とソフトロー」(有斐閣 編集代表中山信弘)における渡辺教授の論文がお勧めです。

7月 1, 2009 テイクオーバーパネル | | コメント (2) | トラックバック (0)