セブン&アイへの買収提案-「日本株式会社の本気度」が試されている
台風10号が大阪にいつ来るのか(来ないのか)、予想が立たないので仕事もやりづらいですね。皆様はどうされていますでしょうか。
8月28日のブルームバーグニュース「7&iHDのコア業種申請、試される『日本株式会社』改革の本気度」を読みました。セブン&アイHDが日本政府に対し、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)で最も規制が厳しい「コア業種」分類への格上げを申請したことが、関係者への取材で分かった、とのこと。セブン&アイHDはアリマンタシォン・クシュタール(以下「クシュタール」といいます) から買収提案を受けた後に格上げ申請をしたそうで、仮に認められればクシュタールにとって買収のハードルが上がる可能性もある、とのこと。
上記ブルームバーグが伝えるところが真実だとすれば、セブン&アイとしては「特別委員会を設置する等により『企業買収における行動指針』に従っているようにはみせているが、企業買収による企業価値向上といったことよりも、なにがなんでも買収されてはいけない、という経営判断のほうが先行している」ものと(少なくとも外からは)みえます。私は8月20日付け「海外の事業会社と経産省「企業買収における行動指針」との相性」なるエントリーで素朴な疑問を呈しましたが、やはり海外大手事業会社と日本の事業会社との買収には経産省「企業買収における行動指針」は相性があまり良くなさそうですね。
これは私個人の意見ですが、企業買収には「日本の正義」があるのと同様、訴訟やロビー活動(圧力)で解決する「アメリカの正義」もあると思うのです。短期的な利益を上げることが目的の海外投資家であれば「日本の正義」にとりあえず乗っかることが得策かもしれませんが、本気で中長期の事業拡大を狙う海外事業会社(およびその背後の年金基金)であれば「アメリカの正義」でやってきますよね。どうしてもダメならまた時期を変えて、というのもあるかもしれません。
となると、今度は財務省が格上げを認めるかどうか、つまり(このブルームバーグの記事にあるように)日本政府の企業統治改革の本気度が問われるということになるのでしょうね。外資を獲得するだけの(つまり時価総額を上げるためだけの)「なんちゃって企業統治政策」なのか、外資に飲み込まれることはあっても(つまり海外事業会社に相応のリスクをとってもらって)限られたヒト・モノ・カネの最適配分のために個々の日本企業のサステナビリティを向上させる本気度があるのか。「コンビニはもはや日本の防衛に不可欠なインフラである」といった理屈はあるかもしれませんが、おそらく(海外の事業会社に投資をしている)海外の巨大年金基金などは、今回のクシュタールの買収案件を「日本企業は本当に買収できるのか」を試す好例として注目しているのではないでしょうか。
デジタルの世界では米国のプラットフォーマーが「地主」であり、日本のIT企業は「小作人」と表現され、価格決定力が存在しない以上はどこまでいっても貿易赤字が減りませんが、これからは事業会社の世界でも「地主」と「小作人」の関係が形成されてしまうのでしょうか。私はそうならないために、まずは海外事業会社が抱えているルールメイキングのための法務部門、つまりロビー活動や例外的取扱いの提言等で政府に圧力をかけることができる数百名規模の戦略法務部門を日本の事業会社にも構築することが必要と考えます。