福井県前知事セクハラ認定報告書から学ぶ「二次被害」と「セカンドセクハラ」
福井県の前知事によるセクハラを認定した調査報告書が公表されています(表紙含め全32頁)。報道等でご承知のとおり、メールやLINEによる前知事のセクハラ発言の内容が衝撃的です。本来、ハラスメント認定は加害者と被害者との時系列的な事実から判断しますが、日時を書くと報告書によって被害者が特定されるおそれがあるため、セクハラ認定のキモとなった証拠(別紙2参照)をズバリ公表する内容です。
ただ、私が多くのビジネスパーソンの皆様にお読みいただきたいのが「被害者の二次被害に関する訴え」(12頁~14頁)と「上司等に相談した際の上司等の反応(21頁あたり、いわゆるセカンドセクハラ)」です。6日の深夜にアップされたこちらの読売新聞ニュースも、私と同様の問題意識で書かれています(「嫌なら断ればよい」「大騒ぎする方がおかしい」との反応…〇〇前知事のセクハラ、福井県の不適切対応も明らかに)。毎日新聞ニュースはズバリ福井県の組織風土を問題視しています(前知事の自覚欠如だけでなく… セクハラ続いた福井県の組織風土とは)加害者による言動の特異性ばかりに目が行くと、これからも被害者が出なければハラスメントがなくならない、いつまでも未然に防止することができない組織になってしまいます。
私も時々(企業の経営幹部による)セクハラ調査を担当しますが、直接の加害者の言動はさることながら、被害者の二次被害への恐怖と相談を受けた人の腰の引けた対応にはいつも悩まされます。おそらくセクハラが「職場環境配慮義務」の問題だとか「ビジネスと人権」の問題ということへの意識が希薄だからではないでしょうか。「セクハラ」と聞くと男性上司から女性部下へ、といったイメージを抱きますが、性的自由の侵害行為は男性→男性、女性→女性も普通にありますので、そのようなセクハラのイメージが湧かないのも、「ビジネスと人権」への意識が薄いからだと思っています。本件の上記調査報告書を一般の方が読む価値は(前知事のえげつないメール文章を読むことよりも)、被害者がどれほど二次被害をおそれるか、相談を受けた上司の責任回避行動によって、どれほど人権侵害の被害を拡大させてしまうかが、よく理解できるところにあります。
セクハラ調査を担当していると、ときには被害を受けた女性側(OR男性側)の証言の信用性に疑問を抱くこともあります(実際のところ、女性の調査委員のほうが先に疑問を抱くことが多い)。中には派閥争いの道具としてハラスメント申告が利用されるようなケースもあり、調査は慎重に行います。ただ、被害者側の二次被害への畏怖や上司への相談、内部通報への依拠、そして会社側の対応への失望等の事実があれば、やはり「少なくともセクハラと疑われてもしかたのない行為」はあったと認定する可能性は高くなります。
パワハラ認定は「適切な指導」との境界線をはっきりさせないといけないので、当事者から恨まれても「パワハラと疑われる行動」は厳密に評価をしますが、セクハラの場合には、そもそもグレーゾーン行動など職場では不必要なので、「疑わしきは懲戒対象(少なくとも企業行動規範違反」)に傾くことが多いと思います(もちろん不同意わいせつ罪やストーカー規制法違反等の犯罪行為とは認定できませんが)。おそらくセクハラ問題の課題は、次のステップとして「通報への対応懈怠」や「相談への対応懈怠」も被害拡大を助長した行動として責任追及の対象となるか、という点だと認識しています。
本件の調査報告書に出てくる「二次被害(及び二次加害)」「相談対応懈怠」は、どこの職場でも普通にあると考えています。また、福井県民の方々のインタビュー証言等からも「あるある」なのですが、知事としての仕事は立派であったとしても(or経営者としての能力は高いとしても)、セクハラ・パワハラの常習性は両立します。「あんなに女性活躍推進に熱心だったのに、あれほどコロナ対策で頑張っていたのに、そんな立派な方がセクハラ?」は間違いです。そことは別次元の問題です。だからこそ、ぜひ教訓として当該部分だけでもお読みいただく価値はあると思います。


