(セクハラ関連の話題が続きますが・・・すいません、どうしてもこういった話題には敏感に反応してしまうのです・・・)福井大学は8月9日、50代の幹部職員が20代女性職員に対して数ヶ月間、40件ほどの私的メールを送っていたことを「非違行為」に該当するとして2カ月の停職処分としたことを発表しております。朝のワイドニュースなどでもとりあげられておりましたが、比較的詳細に報じているのが こちらの日刊スポーツニュースのようです。
各局ニュースの論調は
「『ちゃん』付けメールでセクハラに該当してしまうのか?」
「『ちゃん』付けメールで停職2カ月ってどうよ?」
といった印象を与えるものばかりであります。たしかに上記日刊スポーツの記事を読みますと、この50代男性職員は女性職員を飲食に誘うわけでもなく、性的な文言を書き連ねるわけでもなく、仕事のことをとやかく中傷するようなものでもない、ごく普通のたわいない話しか書いていないようであります。フジテレビの得ダネで解説をされていた山田秀雄弁護士の書籍「弁護士が教えるセクハラ対策ルールブック」(日本経済新聞出版社)を読みましても、「ちゃん付けで(職場で)女性を呼ぶのはグレーゾーンであり、イエローカード」と記されております。
たしかに男性上司が、誰かれかまわず職場で「○○ちゃん、そっちの仕事を先にお願いね」という感じでしたら、グレーゾーンかもしれませんが、閉鎖空間であるメールの世界で「○○ちゃん、きょう元気なかったみたいだけど、なんかあったん?」というのは、私個人の考えでは限りなくレッドカードに近いのではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。ちなみに2007年4月施行にかかる人事院規則10-10-1第2条によりますと、セクハラとは「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定義されております。たとえば職場では「山口さん」と普通に呼んでいる上司が、職場外のメールで(たとえば由加里さんだとすると)「ユカちん、何してる?」などと書いてきたときには、若い女性職員に「疑似恋愛」を想起させるものとして、やはり性的な言動に該当するものと思います。
過去に何度か申し上げたように、セクハラに該当するかどうかの基準は、セクハラが人格権侵害であるがゆえに、被害者の主観的な判断に大きく依存するところであります。つまり「通常人であればどう考えるか」ではなく、「その女性がどう感じたか」に重きを置いて判断されるわけでして、だからこそセクハラ的言動を防止する職場環境配慮はむずかしいコンプライアンス対策のひとつであります。極論すれば、たとえば「裕美」さんという20代の女性に対して同年代の男性職員が公然「ヒロミ」と呼び捨てにしてもセクハラに該当することはないでしょうが、私のような者が香水の匂いを感じとれる距離から「ロミちゃん」などと呼ぼうものなら、「きっしょー!」ということでセクハラの対象になるわけであります。この「香水の匂いを感じとれる距離からの囁き」こそ、福井大学の事件における午後8時から10時ころの「ちゃん」付けメールではないかと思いますが。
企業や自治体の職場環境配慮としましては、こういったセクハラ判断の「危うさ」ゆえに、グレーゾーンを含めて禁止することをお勧めしておりますが、懲戒処分という不利益処分を加害者に課す、ということであれば話はまったく別であります。同じ行動をとったとしても、Aという男性だから懲戒、Bという男性によるものは該当しない、ということは懲戒処分ではありえない話ですし、また被害者の主観的な判断のみで懲戒処分が決定される、ということもありえません。当然のことながら、加害者がどのような行動に出たかという客観的な事実認定に被害者の主観的要素を加味して決定する、というのが原則であります。今回の事件でむずかしいところは、おそらく男性上司がメールを送りだした最初のころは、たとえ午後10時の「ちゃん付けメール」であっても、被害者女性は返信をしていたのではないか(もちろん義理で、ということです)、と思われる点であります。この返信がなければ、加害者男性が「ちゃん付けメール」におぼれていくことはなかったように推測されます。そうなりますと、セクハラ判断だけで懲戒対象となる「非違行為」を推認するにはちょっと客観的な根拠が弱かったのかもしれません。
そこで今回のケースでは、セクハラ・パワハラの合わせ技で懲戒処分に結びつけている、という配慮がうかがわれます。つまり、「ちゃん」付けメールは女性の主観的な不快感を推認させる理由ではあるが、懲戒処分を正当化する最も大きな理由は、同様のメールを執拗に送り続けたこと、および職場における上司と部下の関係にあって、拒否できない関係にあったこと、そして「きのう返信なかったね」とリアルの世界でメールを返信することを事実上強要していたこと、あたりをパワハラとして認定したことではないかと思われます。たとえば「『ちゃん』付けメール」を男性が送ったとしても、3回から4回くらいのところで「あれ、これは迷惑だったかな」と思ってやめておけば懲戒処分にもならずに済んだはずですし、セクハラとして申告されることもなかったのでありますが、女性が義理で返信していたことをよいことに、疑似恋愛におぼれてしまった、断りきれない関係に気付かずにメールを送り続けてしまったところに問題があったように思います。
皆様、あまり笑ってはおれないですよ。メールの閉鎖性がドキドキ感を生むのかもしれませんが、この疑似恋愛型セクハラ、非常に増えております。被害者が男性、加害者が女性というパターンも増えております。セクハラ・パワハラ混在型の職場環境悪化要因のひとつであります。