IFRSの強制適用と会計倫理問題
サッカー女子W杯優勝おめでとうございます。日本のマスコミはあまり触れたがりませんが、岩清水選手のカミカゼタックル(一発退場)は欧州の新聞等では称賛されていますね。「あれがなかったら米国は勝てた。汚いぞ日本!」のような論調も、米国ですらありません。自ら「一発退場」というペナルティを覚悟のうえで、チームのためにルール違反を犯すことは、あの時間帯ということも含め、サッカーの世界では非難の的にはならないのでしょうね。それどころか日本チームは大会を通じた「フェアープレー賞」を受賞し、これはとても栄誉なことだと思います。
これは会計(とりわけIFRS)の素人として、前から疑問に思っていることですが、IFRS(国際会計基準)が世界標準として財務報告の基準になったとしても、世界の各企業の業績比較はそれだけでは困難ではないか、と考えています。というのは、どんなに会計基準を標準化したとしても、各国の企業における会計倫理とか、各国の監査法人さんの監査倫理というものはマチマチであり、財務報告の信用性まで標準化されることはない、と思うからであります。最近、米国市場に上場している中国企業のガバナンスや内部統制が問題視され、業績が赤字転落しているところが出てきて、さらに米国は中国と共同で中国企業の監査を行うことまで提案されております。本日あたりの報道では格付けまで低下しているとか。どんなにIFRSが世界共通の会計基準となったとしても、これを適用する企業の倫理観とか監査法人の監査上のレベル感が異なっているのであれば、財務報告の信頼性が異なることとなるのが当然であります。
安易な考え方かもしれませんが、日本の場合には、先の「フェアープレイ」賞ではありませんが、世界的に見て「日本企業はまじめに会計処理を行い、監査法人は真摯に証明業務に従事する」といった定評が世界的にはあるのではないかと。そうだとすれば、むしろIFRSの標準化は日本企業にとっては有利になるのではないでしょうか。もちろん、日本にも粉飾決算事件は発生しておりますので、会計倫理という面では問題もあるかもしれませんが、少なくとも世界企業と呼ばれている企業においては、経理関連のスタッフも充実し、また監査法人の監査もかなり真摯に行われており、会計倫理・監査倫理という面で大きな支障はみられないように思います。昔「レジェンド問題」がありましたが、日本が会計基準の標準化を受け入れた場合には、逆に日本企業の財務報告の信頼性は高まるのではないでしょうかね(甘いかな)。
逆に、以前当ブログでも懸念しておりました「IFRS導入により、日本企業が海外でわけのわからない粉飾決算訴訟に巻き込まれるのではないか」といった問題を提起いたしましたが、7月14日のサンケイビズのニュースにより、米国で係争中のトヨタリコール問題に関連する株主訴訟のうち、原告主張の33件中、26件までが「裁判権がない」「国内で株式を購入していない」といった裁判管轄に関する理由で訴えが棄却されておりますので、IFRSによる粉飾決算訴訟の増加リスクも、米国証券市場等に上場していない限りでは、それほど大きなリスクではないかもしれません。
最近は、ニコン、資生堂、KDDI等の企業さんが、IFRS準備作業を見直し、情勢を見極めるといった報道がされておりますが、あまり、IFRSと会計倫理に関する議論というものを会計雑誌等でも聞いたことがありませんでしたので、女子サッカーの「フェアープレー賞」を称賛しながら、素朴な疑問を書かせていただきました。
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