「財務会計士」なる会計プロフェッショナルへの素朴な疑問
先週、公認会計士制度に関する懇談会(中間報告書案)が金融庁HPで公開されましたので、内容を拝見いたしました。(公認会計士制度に関する懇談会中間報告書案)会計士の方々のブログや「週刊経営財務」の紙上解説などで、懇談会の議論経過については知っておりましたが、会計士試験制度の改正案について、詳しく知ったのは今回が初めてであります。
当懇談会は、本来は「待機合格者」問題を扱うことを目的としているものでありますが、目を引くのは(マスコミでもとりあげられておりますとおり)新たな国家資格「財務会計士(仮称)」の新設であります。公認会計士のような「監査証明業務」はできないけれども、法に基づく「会計プロフェッショナル」として、非監査サービス業務(企業内会計業務、監査補助業務等)は可能であり、「財務会計士(仮称)」なる名称は独占使用できる、というものです。原則としてこの「財務会計士(仮称)」なる資格で実務経験を積み、さらに公認会計士を目指す人もいれば、この資格をもって企業において非監査業務に従事し続ける、という人も出てくることが想定されております。外国でも「法廷に立てる資格のある弁護士」と「法廷には立てないが、法律事務を扱える弁護士」の区分がありますが、同様にどちらも「公認会計士」なる名称を付すことも可能だけれども、「監査証明業務」に関する信頼保護の見地から別名称の会計士資格を設置する、というイメージのようであります。
私は会計専門家でもございませんので、本当に素人的な素朴な疑問しか湧いてこないのでありますが、この「財務会計士」なる資格取得は、いったい何を目的としているのでしょうか?公認会計士の資格取得を目指す方が、試験制度の改訂(たとえば科目合格の有効期間を延ばす)に伴って、働きながら(「待機合格者」問題のネックとなっている実務経験を積みながら?)資格取得を目指しやすいようにするための対処方ということであれば理解できそうであります。しかし、最終目的が「財務会計士」資格の取得、という方々にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?この資格取得者のメリットがはっきりしなければ、「待機合格者問題」と並んで大きな目的として掲げられている「グローバル化等の環境変化に対応した監査・会計分野の人材育成の必要性」を満たす施策にはなりえないのではないかと。
そもそも監査証明業務という独占業務があるからこそ、公認会計士には世間から高い信用が付与され、また高度の倫理観が要求されるわけでありますが、そのような独占業務をもたない「会計プロフェッショナル」にはどれほどの魅力があるのでしょうか?たしかに「財務会計士」という名称を独占して会計業務ができる、ということはありますが、それが資格者本人や雇用する企業にとってどれほどの有用性があるのかよく理解できません。企業がそのようなスキルを求めるのであれば、そもそも「財務会計士試験合格者」をそのまま採用すればよいだけの話であり、わざわざ公認会計士協会や金融庁の監督下(登録下)にある資格保有者を採用する必要はないはずであります。(これは現在、弁護士の世界でも同様の問題が起こっています。企業は弁護士登録をしない、つまり「企業内弁護士」ではなく「司法試験二次試験合格者」を採用する著名企業が実際に出てきております。)CPE(継続研修義務)なども、とくに資格保有者でなくても、この情報化社会においてはどこでも同様の勉強はできるわけでして、あまり資格保有の意味はないと思われます。
こういった新たな会計専門職の登場により、合格者の経済界等への就職を促進することが期待されているようでありますが、本当にそうなるのでしょうか?企業が求める会計プロフェッショナルの人材は、公認会計士試験に合格するための「腰かけ」で勤務する人ではなく、その会社に腰をすえて会計業務に従事するプロフェッショナルだと思われますが、はたして「財務会計士」として長年企業に勤務しようと考える方がどれほど増えるのか、私はちょっと懐疑的であります。念のため申し上げておきますが、私はけっして懇談会の議論を批判しているものではございません。実は私自身、こういった新たな会計専門職の資格に魅力を感じ、できれば(「実務経験」の内容にもよりますが)チャレンジしてみたいという気持ちを持っているために、この「監査証明業務ができない会計プロフェッショナル」の資格を保持することのメリットについてあらかじめ十分に認識しておきたいと真摯に考えているからこその「素朴な疑問」でございます。単に就職に有利な資格であれば民間実務検定でも十分に足りるのでありますし、「財務会計士試験合格者」で企業に能力をアピールできるのであれば、わざわざ金融庁や会計士協会から監督される立場にはなりたくないなぁ・・・と思うところであります。そもそも企業側だって、社員として会計スキルを発揮してくれる人こそ採用したいのであり、高度な倫理規範に則って、社内で第三者的に振る舞う人を採用したくないことは、すでに「企業内弁護士問題」でも明らかなわけでありまして。。。
独占業務をもたない会計プロフェッショナルの資格者が、そのメリットを享受できるようにするためには、たとえば会計士協会や金融庁が、どんどん資格停止の措置をとるとか、CPEをむずかしくして年に何割かは継続保有ができなくなる、など、保有していることの社会的信用性を高めるような努力を当局側が行わなければ困難なのではないか、と思うのでありますが、いかがなものでしょうか。
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