2011年6月 9日 (木)

管理部門はつらいよシリーズ(その2-社外取締役制度の巻)

(6月9日午前:追記あります)

昨日の「管理部門はつらいよ・その1 社内ADRの巻」につきましては、メールや、本業でお会いした方々から反響をいただきましたので、引き続き、第2弾(社外取締役制度の巻)をお送りいたします。こちらは昨日(6月7日)、皆様よくご存じの某上場企業の総務部長さん(6月に役員にご就任予定の方)とお食事をご一緒したときのお話。

先生、うちの総務の者に聞いたら、なんや「社外取締役なんとか」のシンポやりはったらしいですなぁ。社外取締役導入積極派・・・ということですか?でも、そないなったら、管理部門はたいへんですよ。うちも社外取締役さんが一人いてますけど、私が役員会の直前にむこうの会社まで行ってレクチャーせなあかんのですよ。そら、役員会に来てもらって積極的に意見出してもらうためには当然でしょう。重大な案件のときは、月に2~3回役員会開きますけど、そのたびにレクチャーに行きますから。先生、もし社外取締役が3人とかなったら、もう今の総務の体制では無理ですわ。そういうこと考えて議論は進んでいるのですか?

なるほど・・・。企業価値向上のために社外取締役制度を導入し、社外取締役の人数を増やす・・・ということを真剣に考えるならば(つまり、お飾りではなく、積極的に社外の役員に経営判断に参画してもらう、という気概があるならば)、たしかに執行役員会や常務会といった、実務レベルでの経営会議の状況や、経営判断の根拠となる社内状況を事前にレクチャーする機会というものは必要になってくるでしょうね。これは、おそらく取締役会での上程事項がもう少し絞られて、実質的に人事や報酬等に関わる案件こそ審議の対象となる場合においても、あまり変わらないものと思います。

今月号の「月刊監査役」の座談会記事におきまして、東証の元専務のNさん(社外取締役や社外監査役を複数務めていらっしゃる方)が、社外監査役のほうが、社外取締役よりも、執務時間は多い、監査は事業全般に関わるものであり、社外といえどもカバーする範囲は広いからである、とおっしゃっておられます。社外監査役の場合は、常勤監査役さんとの情報共有によって、ある程度カバーできるわけですし、最近は「監査役スタッフ」が充実している企業も増えつつあります。しかし、社外取締役の場合には、社内の取締役さんも自身の担当業務で忙しいわけですから、そんなにカバーできるわけでもなく、したがって総務や法務等の管理部門に負荷がかかることになるのですね。「なにも、そんなに頑張らなくても・・・・」といった声も聞こえてきそうではありますが、ガバナンスの向上に積極的な企業ほど、社外取締役の方も意欲的となり、また会社自身も社外の方に積極的な経営参加を要望するわけですから、こういった管理部門の方々の悲鳴にも似た声が聞こえてきそうであります。社外取締役候補者を探すこともやはり管理部門のお仕事だったりするわけでして、このあたりの人的・物的資源問題について、会社法制の審議においてはほとんど語られていないのが現状ではないかと思われます。

そういえば、ボードの半数が社外取締役で占められているニッセンHDさんなどは、このあたり、どうされているのでしょうか?社外取締役ネットワークの勉強会に、同社の優秀な事務方責任者の方が参加されておられるので、一度お聞きしてみたいものであります。また、大規模な上場企業であれば、こういった負荷に耐えられるかもしれませんが、中小規模の上場企業においては、管理部門の体制からみてレクチャーすら、まったくできないのではないか、と。いつも社外取締役ご本人のご負担には関心が寄せられるものの、こういった事務方のご苦労についてはあまり語られてこなかったように思います。中国、韓国、インドをはじめ、証券市場が活性化している国では3分の1以上が社外取締役でなければならない、と会社法もしくは取引所ルールで義務化されているわけですが、社外取締役に期待される役割を明確にして、もうすこし権限移譲を含めて制度設計に「割り切り」が必要なんでしょうか?このあたり、またじっくりと考えてみたいと思う次第であります。

(6月9日午前:追記)

ここ2日のエントリーには多くの反響がありまして、コメントだと社名がバレる、ネットワーク制限によりコメントが書けない、としてメールを頂戴したり、お電話まで頂戴しております。賛否両論あるとは思いますが、お読みいただければおわかりのとおり、一弁護士の個人的な意見でありまして、しかも問題提起の域を出るものではございません。こういったことを社内の議論のネタにお使いいただければ結構でございます。

なお、ある上場企業(JQ)の監査役の方より、有益なご意見といいますか参考事例をメールにていただきました。社内から掲示板への投稿は禁じられている、とのことですので、こちらへアップさせていただきます。

監査役就任以来、こちらのブログでいろいろ勉強させていただいております、上場企業(非大企業)の常勤監査役です。初めて書き込みされていただきます。
監査役会の監査役基準にも社外取締役との情報交換や連携について検討するようにとの条項がありますが、弊社では取締役会で重要な案件がある場合は、常勤監査役の判断でその前の監査役会に社外取締役もオブサーバーとして参加していただき、情報共有を図っております。

私が必要と判断した際には監査役会とは別に、常勤監査役が直接社外取締役と意見交換することもあったり、時には監査役会+社外取締役で代表取締役と意見交換会の場を持つこともあります。常勤監査役の裁量範囲は考えようによってはとどまるところがなく、社外取締役はある意味監査役の味方でもあるので(社内取締役が敵という意味ではなく)積極的に利用させてもらっているとも言えます。監査役としてのマルチステークホルダーとのコミュニケーションの一環ではありますが、取締役だからと言って管理部門任せにしているよりも、自分で動いたほうが早いです。ちなみに、ニッセンHDさんの事例に勇気付けられて、昨年、社外取締役増強に関して提案しましたが、社外監査役からも反対されてしまい、実現できずにいます。改革には時間がかかりますね。

少し長くなり、恐縮ですが、参考にしていただければ幸いです


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2011年6月 8日 (水)

管理部門はつらいよシリーズ(その1 社内ADRの巻)

昨日、とある独立行政法人の理事の方と、お仕事の合間に雑談をしていたときのこと。

「先生、うちの法人、最近セクハラやパワハラの調査で管理部門はヘトヘトなんですよ。どんな判断にしたって、最後はどっちかから恨まれてしまうわけでしょ。最近は下手な調査をしたら社員から法人が訴えられるっていうじゃないですか。もう、これ以上、管理部門にストレスをためさせないように、なんか会社のなかにADR(裁判外紛争解決機関)みたいなものを作ることはできないでしょうかね?社内調査だけじゃなくて、その裁定まで含めてそこに丸投げできたらどんなにありがたいか。。。」

なるほど、たしかに我々弁護士が社内調査に加担したり、外部の者だけで調査委員会を設けることはありますが、社内における紛争の仲裁裁定を行うような、紛争解決業務を行うことはあまり聞いたことがありません(金融ADRは顧客と会社の紛争を前提としますので、少し違いますよね)。ためしに「社内ADR」でグーグル検索をしてみましたが、まったくヒットしませんね。ハラスメント関連の社内紛争が発生した場合など、①調査担当社員の方々の精神的疲弊は非常に高いものであること、②会社主体による調査自体、その公平性が保たれにくいこと、③会社に二次セクハラ、二次パワハラのリスクが発生するおそれがあることから、こういった社内ADRへの要望というものはあるのかもしれません。

解決方が多少あいまいなものであったとしましても、弁護士やメンタルヘルスの専門家などが仲裁委員になって、完全独立な立場で仲裁や調停を行うということですと、その解決について会社が恨まれずに済みますし、管理部門にストレスも溜まりませんし、なにより紛争が外部に漏れずに処理できる、というメリットがありそうです。こういった「社内ADR」の制度のようなものは実際に作れないものなのでしょうか?

問題は守秘義務との関係や、「法律事務」を弁護士以外の者が取り扱うことについての弁護士法違反に関するところではないかと。弁護士以外の者が仲裁に関与するとなりますと、ADR法による認証手続きも必要になってくるものと思いますので、かなりハードルは高いかもしれません。社員どうしの紛争を解決するとしても、会社自身が使用者責任や職場環境配慮義務違反を根拠付ける事実を公正に認定できるかどうか(外観的な独立性)、といったことも問題となりそうです。

ただ、認証ADR(大阪弁護士会・民事紛争処理センター)で仲裁人や示談あっせん人を長くやっている経験からしますと、当事者が仲裁手続きに合意した場合には、その調査も判断も早く、裁定内容も、社内の関係者の意見を聴取したうえで合理的な解決案を提示できる、という意味では結構有益な運用が可能ではないかと思います。社内のだれもが紛争の存在を知ってしまったケースなどでも、管理部門は安心して手続きの顛末を社内で公表できるかもしれません。上記のとおり、克服すべき諸問題はありますが、一度検討してみてもよいのではないか、と。

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