2017年4月 4日 (火)

会社法研究会検討課題以外の立法提案について(個人的な雑感です)

本日は会社法改正という「立法手続き」に関するお話なので、守秘義務もしくはエチケット違反に極力配慮しながら書かざるを得ないことをご了承ください。

私は数か月前に(コーポレートガバナンスに関連する)ある事項について、このたびの会社法改正審議(法制審議会会社法制部会での審議)に先立ち、立法提案をさせていただきました。ご承知の方も多いと思いますが、すでに(法制審議会に先立つ)会社法研究会での報告書が公表され、ほぼ会社法改正のための審議事項は固まっていると思われます。

ただ、会社法研究会での検討課題以外の立法提案についても、日弁連を通じて検討事項として取り上げるかどうか協議をする機会がありました。そこで、ある事項について、具体的な立法提案をさせていただきました。日弁連の対策委員の皆様には賛成意見、反対意見を多数いただきました。また、私なりの再反論なども提出させていただきまして、最終的には日弁連の正式な立法提案として、法務省との協議対象に採用していただきました(賛同意見、反対意見を含め、私の立法提案を真剣に審議いただいた日弁連委員の方々にたいへん感謝しています、どうもありがとうございました)。

抽象的な物言いで恐縮ですが、①法務省側の「会社法改正」に関する考え方(一般論として、どのような事態となれば法改正の必要性あり、と認められるのか)、②具体的な改正要望事項と現行の会社法法制とのバランス(他の条文の制度趣旨と整合性がとれるのか)、③法改正までしなければならないほどの実務上の不具合が、現行法上で立法事実として認められるのか(たとえばソフトローで足りるのでは?、利害関係者間での金銭的補償で目的は達成できるのでは?)といったことが相当クリアにならないかぎり、なかなか俎上には乗せてもらえない、という現実を認識いたしました。単純な「世の中の流れ、社会の変化」程度では(議員立法ならいざ知らず)法改正の審議の場にさえ乗せてもらえない、という高い壁を痛感しました。

具体的な結論は申し上げられませんが、率直に言って私の力不足でした。私の提案事項は、すぐにでも法改正の必要性が高いと思っておりますので、たいへん悔しいです。反省すべき点もあり、自分の能力がまだまだ低いことを認めざるをません。ただ、真剣に法改正に向けた手続きにチャレンジしたことで、いろいろと学ぶことはありました。とりわけ今後の公益通報者保護法の改正審議にあたり、条文化作業などにも自分なりの意見を述べたいと考えていますので、今回のチャレンジの結果をバネにして(政治的な風だけでは到底法改正はむずかしい)、手続きの厳しさを十分理解したうえで準備をしておきたいと思います(まずはファクトをきちんと提示できることと、現行法を誰よりも理解することを徹底する必要がありますね)。

 

4月 4, 2017 会社法改正 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年2月15日 (月)

ガバナンス改革に反応する会社法改正と株式買取請求制度の整備

最近会社法が改正されたかと思ったら、法務省を中心に、もう次の会社法改正に向けての議論が始まっています(商事法務研究会における審議状況はこちらです)。研究会では社外取締役の義務付け、といった会社法附則25条に関連する論点だけが取り上げられるのかと思っていましたが、最近の会計不祥事に起因する検討事項なども含め、かなり広い範囲で「改正の是非を検討すべき事項」が含まれています(昨年7月に公表された経産省のガバナンス研究会報告-会社法解釈指針が基になっているものが多いようです。ちなみに前回の改正事項として最後に消えてしまった「金商法違反によって取得した株式に関する議決権行使禁止」に関する論点などは挙がっていないみたいですね。企業統治とはあまり関係ない、ということでしょうか・・・)。

結局のところ、アベノミクスを後押しする(日本再興戦略2015をバックアップする)法改正の趣旨が強いようで、上からも(ガバナンスの視点からも)下からも(株主による監視強化の視点からも)かなり「ゆるふわ」になってしまうことが懸念されるような内容です。いくら「攻めのガバナンス」が期待されているからといっても、2月12日のブルームバーグニュースで報じられているように、「形ばかりで実質が伴わないゆるふわガバナンス」となりますと、経営陣のモラルハザードを助長することが危惧されます。もしこのような方向で法改正が進むのであれば、韓国のように「法律参与(遵法監視人)制度」を導入するか、法律家の社外役員を導入することを検討しなければ、経営戦略的にもマズイことにならないでしょうかね。リスクを承知でアクセルを踏み込む勇気は良質なブレーキの存在が前提ですよね。

ところで上記研究会において、「おお!これは良い論点だ!」と個人的に思いましたのは「特別支配株主(又は一定の支配株主)に対する少数株主の株式買取請求権(セル・アウト権)を導入することについて」という検討事項です。株式会社は有限責任の株主で構成される法人なので、持分会社と比較しますと、株主の利益よりも(債権者の利益保護を中心とした)法人としての存続性が重視される傾向にあります。最近の会社法改正でも、株主の監督是正権が、やや後退しているように思います(今回の検討の中でも、たとえば株主代表訴訟の少数株主権化、訴訟委員会前置の是非等が検討されるようです)。株主による監督是正権行使への期待が薄れるとなりますと、法人からの離脱容易性が当然に問題になるわけでして、この時期にセル・アウト権の導入問題に光があたるのはタイムリーではないでしょうか。

また、非公開かつ取締役会非設置会社などでは、支配株主の横暴によって少数株主の利益が侵害されるケースが目立ちます。最近の東京地裁立川支部平成25年9月25日判決では、支配株主の横暴によって会社法109条2項の「属人的制度」が濫用された場合の支配株主による定款変更の効力を否定しています。法人の永続性を重視するのであれば、少数株主が適正な株式評価のもとで、法人から離脱する機会を法制度として保証すべきではないでしょうか。一般的には株主総会の決議取消訴訟を提起したり、会社解散の訴えを提起して、その訴訟の中で裁判所の和解的解決を目指すわけですが、きちんとした手続き的保障がないと公正な価格で少数株主が離脱することができないのが実態です。これはぜひ取り上げていただきたい論点です。

なお、話は変わりますが、これだけ「攻めのガバナンス」を支援する法改正が検討されるのであれば、非業務執行役員が活躍できる環境整備についても検討していただきたいところです。たとえば社長と対決できる監査役さんの環境整備については、監査役の地位を喪失しても違法行為の是正に向けた権限を喪失しないこと(たとえば監査役としての地位喪失後も株主総会の決議取消訴訟における原告適格を喪失しないこと-株主はすでに法改正がされましたね)、監査役解任決議が争われる株主総会における検査役選任申立権の付与、といったことは法改正が検討されてもよいのではないでしょうか(実際、立法事実もあります)。次回の法改正では無理としても、今後の検討課題にしていただきたいところです。

2月 15, 2016 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年7月24日 (金)

経産省の企業統治解釈指針は攻めるため?守るため?

(7月24日夕方 追記あります)

東芝事件に関する一連の報道の中で、とても気になるニュースが各紙で報じられています。近々に(今週末にでも?)経産省が改正会社法に伴う解釈指針を公表するとのこと。たとえばこちらの産経新聞ニュースによりますと、東芝事件を契機として、上場会社のガバナンス構築が「仏作って魂入れず」にならないように、その実効性を図るための指針を(経産省が)示すと解説されています。まさに「守りのガバナンス」を機能させるための会社法の解釈指針が示されるような書きぶりです(たぶん他の新聞社の論調も、ほぼ上記の産経さんの論調と同様ではないかと記憶しています)。

しかし(私の理解が間違っていたら訂正しますが)、今回の経産省の解釈指針の公表は、むしろROE8%を超える成長戦略を実行するための「攻めのガバナンス」を実現するためのものではないでしょうか。おそらくこちらのコーポレートガバナンス・システムの在り方に関する研究会議事録が参考になると思いますが、この研究会における審議内容からしますと、たとえば社外取締役は「攻めのガバナンス」の一翼を担う者としてどのように活躍すべきか、という点が示されるはずです。また迅速な経営判断が可能となるよう、取締役会の審議事項を絞って、大幅に権限を経営者に委譲しましょう、といった議論もさかんに行われているようです。

この「東芝ショック」と世間が騒ぐタイミングで会社法解釈指針が出るということで当然懸念されることですが、機野さんがコメント欄でおっしゃっているように、いま政府が推進している攻めのガバナンスを実行する先には、今回の東芝事件のような結果が待っている・・・という見方も出てくるのではないでしょうか。いや間違いなく、そのような意見も素直に出てくると思います。東芝事件の第三者委員会は意図的に「短期の利益追及のプレッシャーが要因」という言葉を使い、「中長期の持続的成長を図るためのガバナンス」を目指す攻めのガバナンスとの矛盾が生じないような書きぶりが見て取れましたが、どうもそれだけでは説明がつくものでもないように思えます。現に、本日から始まった経団連の夏季セミナーでは、メーカーの社長さんから(東芝事件を受けて)「これでは社内の数値目標を強調することがむずかしくなってしまう」との声が出たと報じられており(こちらのニュース)、企業の攻めの姿勢に東芝ショックがどれほどの影響を及ぼすのか、その波及が懸念されます。

執行と監督の分離を推進すれば、それは執行から報告が来ない限りは不正を発見できなくなってしまうということになります。社外取締役が経営の重要事項だけに絞って審議に参画すべき、ということになれば、そもそも重大なリスクがどこにあるのか把握することも困難になります。経営のスピードを上げるため、非業務執行役員が経営陣の業績を評価するため、そして投資家が「モノ言う株主」としての活動を容易にするための解釈指針が公表されることを期待しているのですが、今回の東芝事件によって、このあたりの指針公表の趣旨にはブレは生じないのでしょうか。

私自身は、拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の中で一章もうけて、攻めのガバナンスと守りのガバナンスを分けることは適切ではなく、攻めの工夫によって守りも充実しますし、守りの工夫によって攻めに貢献できることを(問題提起として)書かせていただきました。このたびの経産省解釈指針では、(たとえば取締役会の在り方に関しては)リスク管理と企業価値向上への貢献をどのように両立させるべきか、またその両立の工夫をどのように株主に示すべきか、そのあたりが指針の中で分かりやすく解説されていればいいなぁと期待しているところです。

追記:経産省のHPにて本日、 「報告書」としてアップされましたね。ガバナンスに興味のある方はぜひご一読を!

7月 24, 2015 会社法改正 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2015年5月15日 (金)

取締役が監査役に通報したことで不利益扱いを受ける場合とは?

多くの上場会社さんにとりましては、会社法改正に伴う「内部統制システムの基本方針の一部見直し」もほぼ終わり、いよいよ見直された基本方針に従って社内ルールを策定する時期にきているのではないでしょうか。私も、いくつかの上場会社さんから内部統制システムの見直し、そしてこれに伴う社内ルールの改定に関連する相談を受けておりまして、実務に沿ったご質問も受けています。

そのような中で、ひとつおもしろいご質問がありました。長く企業法務を担当されている方で、会社法についてかなり精通されていらっしゃる方です。

お忙しいところ1点、ご教示いただきたいことがございます。今回の会社法改正により、監査役への通報者に対する不利益取り扱いの禁止を内部統制システムの基本方針として定めている企業が一気に増えましたが、通報者のうち「取締役」への不利益取り扱いの禁止とは、具体的にどういった対応が考えられるのでしょうか。内規により、不利益取り扱いの対象を従業員だけでなく、取締役にまで拡げるのは、やや違和感がございます。

会社法施行規則の改正の中でも、監査役への報告体制の整備・運用についてはどこの会社も工夫を凝らしておられると思いますが、ご質問に関連する条文は以下のとおりです(なお会社法上の大会社であり、監査役会設置会社をモデルとします)。

会社法施行規則100条(業務の適正を確保するための体制)

4 次に掲げる体制その他の当該監査役設置会社の監査役への報告に関する体制
イ 当該監査役設置会社の取締役及び会計参与並びに使用人が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
ロ 当該監査役設置会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第598条第1項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制

5 前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制

つまり、当該会社や当該会社の子会社の取締役、使用人等が、監査役に対して報告するための体制の整備に関する決議をすることになるのですが、かりに整備するとした場合、当該取締役や使用人から監査役に報告がなされたことをもって、その取締役や使用人が不利な取扱いを受けないことを確保するための体制整備についても決議をすることになります。ここ1カ月の適時開示をみておりますと、ほとんどの上場会社が内部統制システムの見直しとして、このような体制整備を行うことを宣言しています。しかし、いざ社内ルールを作るという段階になりますと「そういえば取締役が監査役に通報することで会社から不利益を受けるというのはどういった状況なのだろうか?そもそもわが社のヘルプライン規約には取締役が通報主体とはされていないし、公益通報者保護法もたしか取締役は(使用人兼務の場合は別として)通報主体とはされていなかったはず。ではどうやって社内ルールに落とし込んだらいいのだろうか」と悩むこともありそうです。おそらくご質問者のお悩みはこのような点ではないかと。

たしかに「不利な取り扱いを受けない」というのは、想定されるのは通報者が会社から解雇処分や配転命令、降格処分など、不利益な人事処分を受けることを禁止することだと思われます。内部通報に関連する裁判でも、トナミ運輸事件やオリンパス事件、そして警察裏金告発事件等をみても「人事上の処分の適法性」が問題となりました。しかし、会社の圧力によって正当な内部通報が委縮してしまうことを防止しようとする本条文の趣旨からすれば、不利な取扱いとは、会社による法律上の権限行使だけでなく、事実上の処分(作為、不作為)によってなされる場合もあります。取締役は雇用契約上の不利益処分を受ける対象ではありませんが、取締役会を通じて業務執行上の役付けを解かれることもありえますし、また事実上経営情報から隔離されてしまい、当該取締役の職務執行が妨害されることも考えられます。したがいまして、取締役が通報を行ったことにより会社から(他の経営幹部から)不利な取扱いを受ける、という状況を禁止することは想定されるものと思われます。つまり、ヘルプライン規約を改正して通報主体に取締役を追加する、ということは可能です。

では、(ご質問者への回答ですが)ヘルプラインの通報主体に取締役を追加せずとも、取締役が不利な取扱いを受けないことを確保する体制というのは構築できるのでしょうか。ここはやや発想の転換が必要かと。たとえば、会社法施行規則100条3項5号が定める体制というのは、監査役への報告を理由とする解雇等不利益な処分を禁止することのほか、当該監査役設置会社またはその子会社の役職員から当該監査役設置会社の監査役への報告が、直接に、または、当該役職員の人事権を有していない仲介者を介して、当該監査役に対してされる体制を定めること等も考えられます(立案担当者解説 旬刊商事法務2060号7頁)、たとえば会社法357条(会社に著しい損害を発生させる事項の存在を知った取締役の監査役に対する報告義務)の要件を満たすほど明確な不正事実ではないが、不正の疑惑のある行為の通報を外部の弁護士事務所の窓口を通じて監査役に通報する、すでに社内で問題とされている不正疑惑の証拠資料を匿名で提出する、といった制度を構築することも、通報した取締役が不利な取扱いを受けないことを確保するための体制になるものと考えられます。

いずれにしても、社内の内部通報制度は、もともと監査役(会)が窓口になっているところは少ないと思いますので、ヘルプラインを改定するか(たとえば重要情報のみ窓口担当者が監査役と共有する等)、別途、監査役への報告体制をシステム化するかは各社の判断に任されています。そのような報告体制の改定の中で、取締役もプレッシャーを感じることなく(会社法357条で報告義務を課されている重要事実以外の)事実を報告できるシステムも併せて検討することが妥当ではないでしょうか。実際、コンプライアンス経営にうるさい管理本部長さんを嫌っていた社長さんが「あいつは1年だけ役員に就任させて、そのあと止めてもらう」とおっしゃっているケースもありますし、また(今後急増する)社外取締役のところへ社内通報が届き、その対処に苦慮するケースも予想されますので、このような体制作りも必要になるものと思います。

5月 15, 2015 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月27日 (金)

「社外取締役ガイドライン改訂版」が公表されました(日弁連)

先日、原案が公表されたコーポレートガバナンス・コードの第4章でも取締役、監査役のトレーニングの必要性が謳われていますが、このたび2年ぶりに日弁連「社外取締役ガイドライン」が改訂され、3月19日に公表されました(こちらの日弁連HPで閲覧できます)。このたびはタイムリーな改訂ということでマスコミからも注目されているそうです(ちなみに私は取材を受けておりません・・・)会社法が改正され、またガバナンス・コードが東証ルールとして策定される中で、新たに社外取締役に就任される方々に「ベストプラクティス」として参考にしていただくため、大幅に改訂されたものです。日弁連のお知らせから引用いたしますと、

(本ガイドラインについて)日弁連では、2013年2月に、弁護士会会員及びその他の社外取締役候補者、社外取締役を新たに選任する企業等を対象とした「社外取締役ガイドライン」を作成し、2015年3月に改訂しました。本ガイドラインは、取締役の善管注意義務の法的分析・整理を踏まえ、社外取締役の就任から退任までの役割等について、ベストプラクティスをコンパクトに取りまとめたものとなっています。社外取締役の方々や、社外取締役を迎え入れる企業等において、広く参考としていただければ幸いです。

ちょうど2年前、こちらのエントリーで解説本をご紹介しましたが、今回の改訂版につきましても新たに解説本を出版する予定でして、プロジェクトチームもいよいよ大詰めを迎えています。ちなみに私の担当は第8章の「監査等委員会設置会社における社外取締役」、第9章「その他社外取締役に期待される役割」です。いずれも今回の改訂版の要ですが、もちろん東京の企業法務に精通された弁護士の方々と何度も議論の末に出来上がったガイドラインなので、私の個人的な意見を示したものではありません。ただ、話題性の高いところ(監査等委員会設置会社、コーポレートガバナンス・コードから期待される社外取締役の役割)を担当させていただいたので、ぜひともご参照いただければと。

法曹の書いた「ガイドライン」というと、従来の「守りのガバナンス」中心の指針ではないか、といったイメージを持たれるかもしれませんが、本ガイドラインは経営者(OBを含む)、行政職OB、コンサルタント、会計士といった方々にも参照いただくための指針を示したものであり、ガバナンス・コードを意識した「攻めのガバナンス」実現に寄与する社外取締役を念頭に置いています。また、平時にも有事にも役に立つものとして、その行為規範を意識しながら指針を示していますので、「就任前」「就任直後」「日常の活動」「事業再編や不祥事など、有事の際の行動」等、状況に合わせて活用いただけるようになっています。

各企業の状況によって求められる役割も異なると思いますので、ガイドライン自体はどうしても抽象的な表現が用いられ、いわば「プリンシプル」な規範にならざるをえませんが、そのあたりは改訂版の解説本において補う予定です。社外取締役を迎え入れる経営者のホンネ、対話の時代といわれつつも、対話には限られた時間しかない機関投資家の悩み、そして制度について一般投資家が抱く懐疑心なども意識したうえで策定したつもりです(いや、このあたりは委員のひとりとしての思い入れかもしれませんが・・・)。冒頭に示したように、まさに「取締役、監査役の研鑽の教材」として活用されることを切に願うところです。解説本(改訂版)も商事法務さんから出版されますので、ぜひぜひよろしくお願いします。

3月 27, 2015 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年8月11日 (月)

監査等委員会による利益相反取引の事後承認

江頭憲治郎先生の「株式会社法(第5版)」を読むまで(恥ずかしながら)気づいていなかったのですが、会社法の見直し要綱から会社法改正法案までの間に、監査・監督委員会設置会社という仮称が監査等委員会と正式変更されたこと以外にも、監査等委員会設置会社に関する条文が若干修正されていたのですね。

会社と取締役との間における利益相反取引について、監査等委員会による承認があれば、利益相反取引に賛成した取締役らの任務懈怠推定条項の適用が排除されるのですが(改正会社法423条4項)、見直し要綱では「事前の承認」となっていたのが、会社法改正法案では単なる「承認」に変わっており、そのまま改正会社法が成立しています。最近出版されている会社法改正に関する解説本等でも、このあたりの修正に気づかずに、そのまま「監査等委員会による事前の承認があれば・・・」と解説されているものもありますので注意が必要です。

なぜ要綱の段階で「事前の承認」が必要とされていたのが、会社法では「承認」とされたのかはわかりません。利益相反取引に対する取締役会の承認に関する会社法356条1項の文言が、単純に「承認」とされていることに合わせたのかもしれません。江頭「株式会社法」では、この356条の取締役会の承認は、事後承認も認められないわけではない、とされているので、監査等委員会による承認にも事後承認の余地がある、ということでしょうか。

では監査等委員会による利益相反取引に対する承認手続きについても、356条の解釈と同様に事後承認を認めてよいのでしょうか。そもそも利益相反取引への承認については、取締役会による場合には取締役の善管注意義務の履行に関わるものであり、また承認なき利益相反取引の私法上の効力(有効か?無効か?)にも関わります。しかし、監査等委員会設置会社においても、取締役会の承認手続きは必要とされており(現行会社法356条に関する改正はありません)、これを前提として監査等委員会の承認に関する規定が設けられているので、監査等委員会による承認がなくても(つまり経営陣が監査等委員会の承認をとらなくても)、利益相反取引に関与する取締役の善管注意義務の履行は問題とならず、また取引自体の効力にも影響はしません。

つまり、監査等委員会の承認の法的効果は、単純に利益相反取引に関与する取締役の任務懈怠の推定を排除するものであり、そのような関与取締役らの行動が善管注意義務違反ではないことを確認させて、関与取締役らの行動に慎重さを求めるにすぎないものと思われます。そうであるならば監査等委員会による利益相反取引に対する承認手続きは事後承認では無意味となり、少なくとも実際の利益相反取引が実行されるまでになされる必要があるのかもしれません。また、仮に事後承認でも可、ということになると、利益相反取引によって会社に損害が発生することが明らかになってから、経営陣が社外取締役らに働きかけえて、免責を得るために監査等委員会による事後承認を得る、という弊害を招く可能性もあるかもしれません。

このように考えると、会社法356条における取締役会の承認と、会社法423条4項の監査等委員会の承認とは、その解釈を異にするものとして、監査等委員会による承認は「事前の承認」に限るとすることにも合理性があるように思います。よくよく考えてみると、監査等委員である取締役は、利益相反取引に関わる取締役(相手方である取締役は無過失責任なので除外されますが)の善管注意義務違反の有無を判断して、関与取締役らの法的責任追及を排除できる立場に立つもので、裁判官に準ずるほどのスゴイ権力の持ち主ではないでしょうか。責任追及訴訟の場面において、株主からの取締役提訴請求を受けて、提訴の可否を判断する監査役以上の強力な権限だと思います。

いずれにしても、毎度申し上げておりますとおり、監査等委員会設置会社の社外取締役に就任するということは、指名委員会等設置会社に移行するくらいにガバナンス改革を覚悟した経営陣の下でなければ、かなりリーガルリスクが高いなぁと感じる次第です。

8月 11, 2014 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年7月23日 (水)

監査等委員会設置会社への移行に関する検討ポイント

最新号のビジネスロージャーナル9月号は、「会社法改正を契機に考えるガバナンス体制の見直し」という特集が組まれていますが、その中に実務家の方による「監査等委員会設置会社への移行によるコーポレートガバナンス」という比較的長い論稿が掲載されています。この論稿ですが、監査等委員会設置会社への移行を検討されている企業のご担当者の方にはぜひとも目を通していただきたいと思えるほど、よく整理されています。現時点における対象企業のガバナンスの状況をまず認識したうえで、監査等委員会設置会社を導入する際の長所・短所を検討するというスタンスはまことに当を得たものと思います。

上記論稿で述べられていることは、7月16日、東京の会計教育研修機構(大手町フィナンシャルタワー金融ビレッジ)で「会社法改正とコーポレートガバナンスの強化策」と題する講演をさせていただ際、そこで私がお話した内容に非常に似ています。よく、監査等委員会設置会社は「第三の機関設計」として、監査役会設置会社、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)を比較して、どの機関設計が優れているか、といった議論がなされます。また、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社との比較において、監査役会設置会社からの移行が検討されることもあります。

しかし、こういった比較対照は、監査等委員会設置会社を解説する場合には、あまり意味がないように思っておりました。というのも、この監査等委員会設置会社は、取締役会の機能をアドバイザリーモデルと捉えるか、モニタリングモデルと捉えるか、という点の選択に強く影響を受けるものであり、移行を検討している会社の取締役会の「現状における特徴」の分析抜きには考えられないからです。むしろ、現時点での検討としては、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)にすべきか、監査等委員会設置会社にすべきか、という選択であれば合理的だと思います(なぜなら取締役会の特色として、モニタリングモデルが定着している会社であることが前提となっているからです)。

もちろん、現実問題としては、社外役員の数を増やさずに機関投資家や議決権助言会社からの批判をかわす方策として、監査役会設置会社の社外監査役が「横滑り就任」することへの検討がなされている企業が多いと思います。しかし、社長を筆頭にヒエラルキーが構築されている取締役会の雰囲気を持つ日本企業にとって、内部統制を活用した監査等委員会の活動はあまり期待できませんし、むしろ権限委譲による社長の暴走に「お墨付き」を与えるだけで終わってしまうのではないかと推測します。いや、それどころか、社外監査役のままであれば責任を問われたり、裁判に被告として巻き込まれずに済んだものを、社外取締役に就任したがために過度のリーガルリスクを負ってしまう社外役員の方も間違いなく増えるものと予想しています。

会社側は、費用負担が少なくて済みますし、慣れ親しんでおられる方々が、そのまま社外取締役に就任されるわけですから、おそらく真剣に移行を検討されているところもあるかとは思います。ただ、現時点における上場会社の取締役会の大半は社長のヒエラルキーの元で動いているわけでして、ここで監査等委員会設置会社へ移行する会社が、どこまでガバナンス向上に熱心かは未知数だと思ってしまいます。

日本再興戦略、会社法改正等により、社外取締役導入についての話題が豊富ですが、もし5年後に「社外取締役を導入してもガバナンスは変わらないし、企業価値向上には役に立たないね」といった意見が大勢を占めるようになると、次のガバナンスの議論は間違いなくアドバイザリーモデルからモニタリングモデルへの取締役会の在り方に移るはずです(日本取締役協会さんあたりは、すでにこの点について深い研究が行われているようですが・・・)。そのときにこそ、監査等委員会設置会社という第三の機関設計を用意した意味が明確になるのではないでしょうか。社外取締役導入論→社内取締役・社外取締役が構成するモニタリングモデルの取締役会制度の構築→監査等委員会設置会社への移行・・・という流れが、今回の会社法改正の中で進行していくものと予想しています。

7月 23, 2014 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年6月23日 (月)

会社法改正法案成立-社外取締役への期待というけれど・・・

すでに皆様ご承知のとおり、6月20日に会社法改正法案が成立しました。日曜日の日経新聞の社説でも取り上げられ、社外取締役制度の導入問題に焦点をあてて「企業統治の質を競え」とありました。日経だけでなく、どの新聞でも、上場会社における社外取締役の増員問題が話題の中心です。

ただ、コーポレートガバナンスの向上・・・という意味で社外取締役の導入が推奨されることは世間で語られているとおりだと思いますが、会社法を取り巻く環境を考えた場合、社外取締役の責任についても今後検討されてもよいのではないかと考えています。いやむしろ、社外取締役を増員せよ、といった風潮の中で、社外取締役の法的リスクをも承知の上で就任しなければ痛い目に合うのではないか、と危惧します。

まず、会社法改正のグレーゾーンとして当ブログでも取り上げた「特別支配株主の売渡請求」の課題です。特別支配株主の少数株主への株式売渡代金の支払い担保は、結局のところ対象会社の取締役の「承認」問題に委ねられることになりました。特別支配株主が存在する対象会社の社内取締役には実質的に「承認」の可否を検討することは期待できないわけで、当然社外取締役に負荷がかかります。M&Aにおいて、この制度はおそらく多用されることになりそうですから、非常に厳しい立場に立たされる社外取締役さんが増えるはずです。

また(これも当ブログで再三申し上げてきたところですが)、監査等委員会設置会社という機関設計を選択することは、スピード経営に資することが言われていますが、逆に言えば監査等委員会委員たる社外取締役にとっては、よほどしっかりと社長を監視しなければ、暴走を未然に止めることはできず、また不祥事発覚時において法的責任を問われるリスクも増えるものと予想されます。社外取締役として、内部監査部門の人員を厚くすること、内部監査部門のスキルを向上させることを会社側に要求し、その連携を図ること(内部統制監査)は大前提であり、社長さんが監査の重要性を十分に理解しておられる場合は別として、これまでの(常勤監査役制度を前提とした)社外監査役の雰囲気で社外取締役を引き受けることはできないものと考えています。

そしてなんといっても「株主との対話の時代」の到来です。6月17日の朝日新聞ニュース(電子版)でも報じられていましたが、リソー教育社の粉飾決算について、元株主ら7名が虚偽記載責任を問う裁判を提起したそうです。株主との対話はガバナンスや内部統制がしっかりしていることが前提なので、何か問題が発生して株価が下落した場合、開示責任を問う裁判は今後も増えるものと予想しています。上場会社にとって、情報開示は役員の利益相反行為になることが多いのはどなたでもご承知のとおりです。誰だって会社や役員にとって都合の悪いことは隠したり、少し歪めて開示したくなります。それを「ありのままに伝えなければ」と意見を述べることができるのは社外役員しかいないかもしれません。普段はKYはご法度ですが、社内常識が蔓延している状況では、あえて社外取締役はKYにならなければいけないかも?ということです(まあ、当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

社外取締役制度の「期待ギャップ」(会社と株主との期待認識の食い違い)が今後は間違いなく発生すると思います。リーガルリスクを少しでも減らすためには、各社が「当社では社外取締役に何を期待しているのか」きちんと機関投資家や一般の投資家に説明することが求められるのでしょうね。もちろん「ひな型」が通用するほど甘いものではありません。

6月 23, 2014 会社法改正 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2014年6月13日 (金)

会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン(その2)

6月2日の当ブログ「会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン」については、たいへん多くのアクセスをいただき、ありがとうございました。この問題は、前川参議院議員の質問書、そして本日の委員会の審議と、まだまだ議論が続いているわけですが、やはり本日(6月12日)の参議院法務委員会の小川議員と谷垣法相との質疑応答をネット中継で拝見しているかぎり、前回のエントリーで抱いた疑問が解消しておりません。

日本企業の機動的な事業再編を後押しするために、株式売渡請求制度という「これまで会社法になかった」キャッシュアウト手法を認めること自体には、私も賛成します。ただ、少数株主が新たな制度のために受忍しなければならないのは、特別支配株主の一方的な請求意思だけで少数株主たる地位を奪われてしまうことと、一定の日(取得日)をもって株主の地位が移転してしまうことまでだと思います。しかし、新たな制度が認められるからといって、支配株主側の不払い不能のリスクを少数株主側が負うことを正当化する理由はどこにもありません。これまでも会社法はキャッシュアウトを認めてきましたが、これは会社と株主との利益移転に関するものであり(したがって、買収対象企業が支払義務を負担する)、支配株主と少数株主との利益移転という場合とはまったく状況が異なります。

ということで、小川議員は「特別支配株主が株式売渡代金を支払わない場合には、対象会社がその不払いについて法定保証する規定を設けたらどうか」と提案されています。私は前回のエントリーで同時履行関係を確保するために、供託制度のようなものを認めたらどうかと書きましたが、基本的には同じような発想だと思います。これに対して、法務省民事局は会社法の建付けと合致しないということで、提案は採用できない、との結論だそうです(谷垣法相の答弁より)。その理由は、株主と債権者との関係では、債権者を優先するのが会社法のタテマエであり、株主に対して会社が支払保証を行うということを法定することは、この債権者優先というタテマエに反することになるから、とのことだそうです(これも谷垣答弁より)。

しかし、この法務省の拒絶理由については、私はよく理解できません。株主と債権者との優先関係というのは、会社が倒産した場合のことを指すのであり、特別支配株主と少数株主との関係には採用されないのではないか(これが小川議員の反論)といったこともありますが、そもそも取得日をもって強制的に株主の地位が変動するのであれば、支払義務の不履行に関する法律関係では少数株主は「債権者」と同等に扱ってよいのではないでしょうか。(取得日に保証効果が生じるのではなく、一定の支払遅延が生じた場合に法定責任として効果が生じる、とすればよいのでは?)むしろここで債権者と株主との優劣関係を持ち出してくることの合理性がよくわかりません。

また、会社法429条の第三者に対する損害賠償責任規定は、通説判例によると、損害を受けた第三者を特に保護すべきとの見地から認められた法定責任であるとしています。そのような法定責任規定がすでに存在するのであれば、特別支配株主の支払遅延リスクを対象会社側に負担して、少数株主を特別に保護するための法的責任として保証規定を設けることも、これまでの会社法の建付けとは矛盾することはないと思います。これは、特別支配株主による株式売渡請求を会社側が承認する制度設計になっていることとも、とくに矛盾するものではないと考えます(そもそも特別支配株主が株式の売渡を請求しているにもかかわらず、子会社取締役が拒否することは困難ですが、たとえ善管注意義務の問題だと捉えたとしても、対象会社の取締役による特別支配株主の資力確認について、少数株主側が対象会社の取締役の悪意・重過失を立証することは至難の業だと思われます)。

そもそも法務省側が「少数株主側の保護は講じられている」理由として掲げられている「対象会社取締役会の承認」についても、これは特別支配株主側から提案された売渡価格が適正かどうかを判断するために作られた制度だと思いますので、はたして「特別支配株主が支払うつもりがあるかどうか」という内心の問題にまで踏み込んで判断することは想定されていないのではないでしょうか。かりに想定されていたとするならば、今度は資力も十分に存在し、残高証明まで提出しているにもかかわらず、これを承認しない場合には、逆に特別支配株主の側から「会社が企業価値を向上させる機会を奪った」として善管注意義務違反に基づく代表訴訟を提起されることになるかもしれません。しかし、これでは「どっちに転んでも訴訟リスクを背負う」ということになり、対象会社の取締役の行為規範にはなりえないように思われます。

私個人としては、成長戦略を後押しする会社法改正法案は、ぜひとも今国会中に成立させていただきたいのですが、やはりM&Aを推し進める企業側の利益だけでなく、公益実現のための犠牲として締め出される少数株主保護のバランスを図らなければ、むしろ成長戦略を後押しすることにはならないと考えますが、いかがなものでしょうか。

6月 13, 2014 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年6月 2日 (月)

会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン

毎週楽しみに視ている池井戸ドラマ「ルーズヴェルトゲーム」ですが、来週はいよいよ青島製作所の支配権を争うための委任状争奪戦に突入するようですね。50.1%の株主からの委任をとりつけるドラマが繰り広げられそうな予感がします。

ところで、現在国会で審議されている会社法改正法案において、90%以上の株式を保有する大株主(特別支配株主)が、少数株主を排除するための制度が新設されることはご承知の方も多いと思います。社外取締役制度の導入問題と同様、企業の新陳代謝を図り、キャッシュアウト(少数株主の締め出し)を容易にして日本企業の成長に資するための経済再興戦略(アベノミクス)を支援する制度だといわれています。

この特別支配株主による株式売渡請求制度が、一方的に少数株主の利益を阻害するものであり、どうもこのままでは会社法が成立しないのではないか・・・との疑念も一部で生じているようです(正確には「株式等」売渡請求制度でして、新株予約権についても売渡請求の対象となりますが、ここでは株式売渡請求、と単純化しておきます)。もちろん、このまま国会で採決をすることも十分に考えられますが、先日の参議院法務委員会会議録を読みますと、法務大臣や法務省担当者の方から明確な回答が得られていないように思われます。

株式売渡請求制度は、90%以上の株を保有している大株主(単独もしくはグループ全体で90%以上を保有している株主)が、公正な価格を提示して、他の株主の保有する株式を、一方的な意思表示によって一括して買い上げる制度でして、他の少数株主は、この請求があればこれに従わざるを得ません。企業側(大株主側)にとっては、このスピードがとても魅力です。少数株主側において、大株主の買い上げる価格に問題があると思えば、取得日前に裁判所による価格決定の申立手続きが必要です。しかし、取得日には株式が勝手に大株主に移転してしまうので、その後は大株主の支払義務だけが残ります。きちんと大株主が買取代金を支払ってくれればよいのですが、支払ってもらえる担保は法律上規定されていません。本来、モノの売買では、同時履行の双務性があるはずなのに、モノだけ先に渡すことを強制されて、代金支払いが担保されないということは、少数株主保護に欠けるのではないか…という点が国会でも問題にされています。

この制度は、上場会社にあってはキャッシュアウトの有効策として、また、非公開会社においては、事業承継の円滑化のための方策として、今回の会社法改正の重要なポイントになっていますが、たしかにアベノミクスを支える改正とはいえ、公益と少数株主の利益とのバランスを適切に図っているかどうかはやや疑問があるように思えます。上記法務委員会会議録において、法務省民事局長さんは「支払い義務が尽くされない場合には、少数株主は解除権を行使すればよい」と回答されていますが、少数株主がはたして解除権を行使できるかどうかは会社法の解釈上明らかではなく、売渡株式の取得無効を争う訴訟等との関係も明確ではありません(なお、この問題については、弥永真生教授が「企業法制の将来展望2014年版」に掲載された論文にて詳細に検討されていて参考になります)。また、買取代金を支払うかどうかを会社側が判断する(つまり大株主が信用できるかどうかを対象会社の役員が判断する)ために、事前の対象会社の承認制度がある、とも説明されますが、特別支配株主が存在する会社の取締役が、支配株主の意に反して「承諾しない」と決定することはほぼ考えられないため、これも説得的とは言えません。

つまり、株式売渡請求制度は、特別支配株主の一方的な行為によって、少数株主の財産権が奪われてしまう可能性が残されています。現に2007年、東証マザーズに上場していた株式会社モックは、10株を1株とする株式併合によって、8割の少数株主の権利を一方的に消滅させ、その補償となるはずの(少数株主への)買取代金の支払いを遅延させ、結局、2009年にこれを支払わないままに破産してしまうという事件も発生しています。モックの場合には、会社自身による買取代金の支払義務が問題となりましたが、今回の特別支配株主による株式売渡請求制度は、支払債務者は会社ではなく、支配株主です。かりにM&Aで、ある会社の株式を90%保有したとしますと、これを(言葉は悪いですが)キレイにして、別の会社に高額で売却できるとするならば、とりあえず売渡請求制度を活用して、少数株主を排除して(100%子会社にして)、高額で売却した後は、支配株主たる法人を勝手に清算してしまう・・・ということも十分に考えられます(対象会社の、「承認」を行った取締役の善管注意義務など論じてもほとんど意味はないように思います)。

また、特別支配株主による株式売渡請求制度には、取得日前までであれば、支配株主側から売渡請求を一方的に撤回することが認められています(ただし、対象会社の撤回に関する承認が必要ですが、これも当然承認されるはずです)。なぜ撤回が認められるかといいますと、支配株主が買取代金の支払に支障を来すケースや、予想に反して多数の少数株主から価格決定申立がなされたケースなどにおいては、支配株主に撤回の機会を付与するほうが、積極的な売渡請求権行使に資する、と考えられたからです。しかし、会社法が、売渡請求権を行使する支配株主側の「信用不安」を最初から想定しているのであれば、この信用不安に対する少数株主側の対抗措置を全く考慮していない・・・というのは、あまりにも株主間のバランスを失しており、会社法の基本原則(関係当事者間の権利調整ルール)としての株主の平等的取扱いを無視したものではないでしょうか。ここではむしろ少数株主の保護について、大株主側の信用不安に対する措置を講じなければ、むしろ市場に海外資本を流入するというアベノミクスの施策の方向性にも反するような気がします。

私は「素朴な疑問」を呈するだけの市井の一弁護士にすぎませんので、立法の手当ては優秀な方々がお考えいただくことですが、新設される(株式売渡請求制度における価格決定申立手続きに関する)179条の8、第3項を一部改訂して、特別支配株主が公正と認める価格を仮払いできる制度を、むしろ公正と認める価格の一律仮払義務を認めるような制度にすべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。たしかに取得日直前の少数株主を確定する作業は、短期間にはむずかしいかもしれませんが、その場合にはとりあえず供託制度などを用いて、その支払いを確認することに、対象会社の「承認」制度の意味が出てくるように思います。こういった少数株主保護は、上場会社のキャッシュアウトの場面だけでなく、会社の事業承継に伴う相続争いの場面においても、その紛争を回避するためには必要な措置だと思うのですが。

これまでも全部取得条項付種類株式を活用したキャッシュアウト、略式組織再編を活用したキャッシュアウトなどで同様の効果は認められているから・・・という理由で、このまま法改正をしてしまうことも考えられますが、このたびの特別支配株主による売渡請求は、会社と株主ではなく、株主と株主という利益移動の違いがありますので、現行法と同様に解する、というのは少し乱暴な議論のように思います。むしろ、このたびの会社法改正は、上からのエンフォースメントはソフトロー(コンプライオアエクスプレイン、東証ルール、ガバナンスコードなど)、下からのエンフォースメントはハードロー(差止制度の新設、買取請求権の要件明確化、開示規制の拡大等)という建付けになっていますので、売渡請求権行使時における少数株主保護もこれに沿った形で明確に説明できるようにすべきだと考えます。

6月 2, 2014 会社法改正 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年5月26日 (月)

株主による組織再編等への差止請求とディスクロージャーの進展

本日(5月25日)の毎日新聞ニュースでは、経営統合や増資など重要な企業情報を発表前に報道された際の企業の情報開示が、以前より具体的な内容に変わりつつある、ということが、昨年の川崎重工、三井造船の経営統合を巡るリリースなどを題材にして詳しく報じられています(毎日新聞ニュースはこちらです)。経営統合や増資に関する情報は、とりわけ上場会社の一般株主(少数株主)にとっては投資判断に大きな影響を及ぼすものであり、証券取引所も、熱心に上場会社向けに指導をしているところです。

企業情報の開示制度(ディスクロージャー)は、金融商品取引法や証券取引所の自主ルールによって充実されていくようなイメージを持っていますが、現在国会で審議中の会社法改正との関連においても、今後の進展が注目されるところです。といいますのも、このたびの会社法改正では、現行会社法よりも広範に、株主の会社に対する差止請求権が認められることになるからです。とくに、これまでごく一部の組織再編にしか認められていなかったものが、(簡易組織再編を除き)広く組織再編等について認められることになります。たとえば吸収合併自体に反対の株主にとって、もし合併手続きに法令もしくは定款に違反する事由が認められれば、その差止を請求することができる、というものです。

この組織再編等への差止請求については、監査役による取締役の違法行為差止請求の場合とは異なり、取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反を根拠とすることはできないようです(そのような解釈が法務省担当者から示されています)。つまり対価が不当である、といった理由で組織再編行為を差し止めるということはできないことになります。もし対価が不当だとして合併に反対する株主は、これまでどおり株式買取請求権を行使して、会社側と協議が整わなければ、価格決定申立事件(非訟事件)を裁判所に提起しなけれならないということです。

しかし、対価の不当性を、これまでどおり株式買取請求権によって解決せよ、というのが会社法の姿勢であるならば、これを株主が適切に行使したり、裁判所が株式の公正価格を判断する(算出する)ために必要な情報が、会社から適時的確に開示されていることが前提になるはずです。つまり、会社が虚偽の情報を開示したり、出すべき情報をタイムリーに出さない、開示したとしても不明瞭な開示であり誤解を招く表現だった、という事態は、会社法上でも「法令違反」に該当する可能性が高いと思われます(たとえば東証の企業行動規範に違反する開示行為等)。

このように考えますのは、株式買取請求権の行使は、極力、会社と株主との情報の非対称性が排除されなければなりませんし、また価格決定申立事件に関する最高裁の最近の判決・決定に従うならば、裁判所が公正な価格を算定するためには、合併がなかった場合の株価を算定するだけではなく、合併によってどれだけシナジー効果が発生したのか(しなかったのか)を合理的な事情から判断する必要があるからです。

多数決原理によって、もはや組織再編はやむなしとして、退出のための法的ルールに従おうとしている(株式買取請求権を行使しようとしている)少数株主を、一方的に不利な状況に立たせる会社の行動は、事前規制によって(差止によって)排除するしか方法がないと思います。今回の会社法改正では、株主側が機会主義的行動によって株式買取請求権を行使することに、一定の制限を設けましたが、これと同じように、企業側の濫用事例を制御できるような法解釈も必要だと思います。企業再編時に、どれほどの情報開示が求められるかは、今回の毎日新聞ニュースにもあるように、時代の流れをよく見極めたうえで企業自身が判断しなければなりません。

改正法の法文を読みますと、今回の会社法改正で認められる株主の差止請求権の要件として、取締役の法令違反が求められているのではなく、会社自身の法令違反の存在が求められています。これはまさに会社に向けられた情報開示の義務違反を論じるにもふさわしい文言ではないでしょうか。価格決定申立事件が相変わらず急増している現在において、裁判所における(組織再編等における)企業価値算定の判断過程が、企業情報開示の在り方、ひいては株主による差止請求権行使の要件該当性にも影響を及ぼすようになれば、株主による差止請求権の行使についても、会社法における新たなエンフォースメント(少数株主による下からのエンフォースメント)になりうるのではないかとひそかに期待しています。

もちろん、株主の側からは、差止の訴えを本案とする組織再編行為等の差止仮処分命令の申立てがなされるのが実務ですから、裁判所による短時間での審理に耐えうるような「情報開示義務違反」の類型を検討する必要がありますが、株主による差止請求権が広範に認められるようになる今回の会社法改正は、けっしてM&A実務への影響が軽微だとは言えないように思います。

5月 26, 2014 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年3月12日 (水)

監査役・会計監査人からみた会社法改正法案への懸念など

中央経済社「企業会計」4月号の特集として、「改正・会社法案への視座」と題する座談会が組まれておりまして、かなり長いのですが、とても刺激を受けました。平成17年改正会社法の作成時に法務省に在籍されておられた弁護士、会計士の方々、経団連の(おなじみ)A経済基盤本部長さん、今回の会社法改正に伴う経団連ひな型を作成する実務家の方々、そして著名企業の常勤監査役さんという、とてもユニークな顔ぶれです。

とくに監査役の会計監査人選任権に関連する話題、第三者割当増資の新規制と企業会計上の論点などは、あまりこれまで深堀りされていなかったところなので、「視座」というタイトルにふさわしく、とても新鮮です。今回は改正の対象ではありませんが、会計監査人の報酬決定権に関連する論点を含め、非常に勉強になりました。

コーポレートガバナンスに関連する会社法改正の論点については、やや残念なのが、この座談会が1月21日に収録された点です。その一週間後にキヤノンさんが、そして先日は新日鉄住金さんが社外取締役の選任予定であることを明らかにされました。「キヤノンさんが」「新日鉄さんが」という箇所は、もはや説得力がなくなってしまったところかと。しかし、そういった残念なところは全体のほんの一部でして、なかなか読みごたえ十分です。

監査等委員会設置会社への評価としては、最近は移行推奨派の方が多いようですが、やはり監査役、会計監査人の立場からは「ガバナンスがしっかりしていない会社が監査等委員会設置会社に移行することには懸念が残る」という立場です。常勤監査等委員が必須ではないことと相まって、私も監査等委員会設置会社への移行というのは、監査等委員に就任する社外取締役さんはかなり勇気が必要だなぁと感じておりますので、ほぼ監査役さん、会計監査人の方と同じ意見です。経営執行部からみても、常勤監査役に向いている方と、(たとえ監査等委員だとしても)取締役に向いている方とは少し違うように思うところから、人事面でもいろいろな配慮が必要になってくるのではないでしょうか。

座談会のハイライトをここでご紹介しますと、中央経済社の編集者の皆様に叱られそうなので、語られている論点やどなたかの発言を少しだけ書き留めておきますと・・・・・

「社外取締役を置くことが相当でない理由」の事業報告への記載に関する「経団連ひな型」を作成する立場の方々は、与党(自民党)審査という土壇場で入ってきた法案327条の2を前にしてどのようなお気持ちなのか?

取締役選任議案のない定時株主総会ですら、総会で「相当でない理由」の説明義務を負う会社側は、どのように「さらっと」説明することが考えられるのか?(「ムダ金を使いたくないから」というのは相当な理由にあたるか?笑)

会計不正事件と監査役の監査人選任権、報酬決定権(今回は改正対象ではありませんが)はどのように関係してくるのか?(監査役と会計監査人との連携問題、オピニオンショッピング、不正リスク対応監査基準などが関係してきます)

などなど。上記のハイライトには掲載しておりませんが、さすがハイレベルな会計専門誌とあって、監査等委員会設置会社における監査等委員に関する解説は、図表などを用いてたいへんわかりやすいものになっていまして、こちらもご一読をお勧めいたします。いずれにしましても、この5月に予定どおり会社法改正法案が成立した場合には、来年4月からの施行が見込まれます。ということは、3月決算の上場会社の場合には、今年6月の総会で社外取締役を一人以上導入しなければ、来年の総会で「相当でない理由」を説明しなければならないわけでして、各会社とも、これからたいへんな総会シーズンを迎えることになりそうです。

3月 12, 2014 会社法改正 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2014年1月 8日 (水)

日立造船特別背任疑惑と会社法改正法案との接点

有斐閣の雑誌「法学教室」の400号(記念号)の特集記事に、東大の神田教授の比較的長いインタビュー記事が掲載されていまして、平成17年改正会社法施行のころから上場会社を当事者とする裁判が激増しているということを指摘しておられます。裁判激増の理由として、上場会社についてもようやく会社法が使われる時代になった、使ってみると、会社法の条文の解釈とか、いろいろとわからないことが出てきて、そこで紛争が裁判所に持ち込まれるケースが多くなってきたことを掲げておられます。上場会社を取り巻く関係者の方々や支援をする方々の中に、会社法を理解する方が増えてきた、ということなのかもしれません。

さて、そのような神田先生の見解を裏付けるような事例が新聞やニュースで報じられています。第一報は、たしか年末の紅白歌合戦の最中だったと思いますが、本日(1月7日)、どこのニュースでも取り上げられているのが、日立造船社の事業譲渡(同社役員の特別背任)疑惑の件です(ちなみに日立造船さんは、私の知人・友人がたくさん勤務しておりまして、この件を取り上げるにあたり、若干テンションは落ちますが・・・・・)。どのような事案かといいますと、

日立造船社から派遣された経営陣によって、自社の独自技術を盗まれ損失を受けたとして、ベンチャー企業の旧経営陣4人が7日、日立造船を相手に約7億5000万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。訴えたのは、大阪府泉佐野市の「エヌビイエル」(NBL、すでに破産)の旧経営陣。訴状によると、NBLは石油やシェールガスの採掘に使うプラスチック製高圧管の製造で独自技術を持っていたが、資本参加した日立造船に会社分割制度を悪用され、別会社に技術を移転されたと主張。NBLは破産に追い込まれ、株主だった旧経営陣が損失を受けた、旧経営陣らは、経緯を明らかにするため、造船の会長らへの刑事告訴も行っている

というもの、(たとえば時事通信ニュースはこちらです)。つまり、NBLは日立造船社と資本業務提携を結んで、一部の株式を日立造船さんに持ってもらっていたのですが、時間の経過とともに、NBLの過半数の株式を日立造船社が取得するようになり、子会社化と同時に多数の取締役が日立造船社から派遣されることになりました。日立造船社は会社分割(新設分割)によって子会社を設立して、その子会社の株式と引き換えにNBLの主力事業(独自の技術)がこの新設会社に移転します(この時点では、旧経営陣はNBLの少数株主のままですが、当該新設会社はNBLの100%子会社なので、とくに問題はないかと)。

ところがその後、このNBLの子会社株式が、NBLの取締役(つまり日立造船社から派遣された方々)によって、日立造船本体に売却されてしまいます。その金額が非常に安いために、旧経営陣の方々の保有するNBLの株式価値が極めて低いものになってしまうわけで、そこに怒っておられるものと推測されます。

現行の会社法によれば、会社の重要な事業の一部を譲渡する場合には原則として株主総会で特別決議を必要とします(会社法467条2号)。※ しかし(解釈には争いはあるものの)、重要な資産(事業)を有する子会社の株式を譲渡する場合には、株主総会の承認を要することなく、取締役会の決議のみで可能となります。このたびのNBLの旧経営陣が「会社分割を悪用された」と主張しているのは、本来ならば(NBLの資産のままであれば)株主総会で3分の2以上の賛成がなければ譲渡できない資産を、日立造船社の方々が、わざわざ会社分割制度を悪用して、NBLの取締役会のみで譲渡できるように「法の潜脱」を行ったという点ではないかと思われます。

※・・・もちろん、ここでは報道をもとに、譲渡されたものが会社法上の「事業譲渡」に該当することを前提としてのお話なので、もう少し詳しい内容がわかれば訂正する可能性があります(あるいは、この「事業譲渡」の要件該当性が論点になるのかもしれません)。

1月下旬から始まる通常国会で成立することが予定されている会社法の改正法案でも、この点が問題とされていまして、新しい会社法の467条2号の2で手当てがされています。つまり、会社内部の重要な事業の譲渡と同じように、重要な事業を有する子会社の株式を譲渡する場合には、親会社の株主総会における特別決議が必要となりました。まさに少数株主保護の必要性は同じだからですね。グループ会社内での資産配分の最適化(子会社マネジメント)を極力妨げないように、(少数株主の利益を害さない範囲で)総会決議を不要とする除外事由も規定されていますが、今回の日立造船社の事例では、その除外事由にも該当しないようなので、新しい法律ができた場合には、同様のスキームは困難になるものと思います(ただ、同じグループ企業内での事業譲渡という面からすると、親会社による資源の最適配分という意味でのマネジメントがやりにくくなる、というのは若干問題になりそうですが・・・)。

企業行動の適正性確保の手法について、レギュレーションが事前規制から事後規制へと変遷している中で、最近の司法手続きは「形式主義」よりも「実質主義」を指向しているように思われます。つまり、形式的に手続きを遵守していたとしても、全体としてみた場合に、既存の規則の抜け穴を探しているような行動については、実質的に見て法令違反と判断する、というケースが増えているのではないでしょうか。このたびの日立造船社の件も、新設分割で設立された会社がどのような目的で作られたのか、そのあたりに関心が向きます。会社法が使われることが増えれば増えるほど、会社法を理解する経営者や法律家も増えるわけで、そうなると、裁判で勝てるかどうか(刑事責任を問われるかどうか)ということだけでなく、経営者は、裁判で訴えられるかどうか(告訴されてしまうかどうか)という新たなリーガルリスクに直面することが増えることは間違いないと思います。

1月 8, 2014 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年11月14日 (木)

会社法改正の話題はどこへ行ったのだろう?-臨時国会では無理?

マスコミの話題が特別秘密保護法や民法改正(民法900条問題)、そして多発する企業不祥事に集中してしまうことは理解できます。しかしこの臨時国会で当然に法案が成立すると(少なくとも私は確信していた)会社法改正がいったいどうなっているのか、ほとんど情報が入ってきません。国民の関心が薄いせいかもしれませんが、マスコミもあまり話題として取り上げてくれないようです。巷の噂では商事法務研究会、経営法友会共催による会社法改正の説明会も開催日程が延期された、とのこと。

震災前の平成22年頃から会社法改正の審議が始まり、昨年8月には会社法の見直しに関する要綱が出され、いよいよ秋の臨時国会では法案が成立するはずだったと思います。しかし、どうも最近の自民党政務調査会(法務部会)での審議状況をみておりますと、会社法改正案が重要な項目において見直されるのではないか?との疑問が湧いてきます(14日には自民党議員による自民党企業改革案の解説、18日には諸団体からのヒアリングが予定されているようですが、これって要綱の一部については白紙に戻す、ということなのでしょうか?)

ここからは私の推測ですが、やはりこの秋以降の多発する企業不祥事が国会議員さん方のガバナンスに対する意識に影響を与えているように思えます。社外取締役の制度化ということが、企業価値向上のため、というよりも不祥事の未然防止のため、といった方向性で語られているように感じます。行政による厳しい監督にも限界があります。したがって、やはり企業自身がコンプライアンス経営に前向きに取り組まなければならない、ということなのでしょうか。取締役会の監督機能の強化や、ディスクロージャー(たとえば会計監査制度)あたりは、見直し要綱よりもさらに踏み込んだ改正が必要との意識が強くなっているのではないかと。

経済同友会さん、日本取締役協会さんからも、ガバナンス改革には前向きの公式見解が述べられており、民主党政権下でとりまとめられた要綱がさらに見直されることがあるのかもしれません。すでに社外取締役ガイドラインを策定した日弁連の委員の一人としては、早く法案が成立してほしいという気持ちと、更なるガバナンス改革が進むことも歓迎したい気持ちとで、非常に複雑な心境です。マスコミもあまり報じていただけないので、どなたか、このあたりの政治事情についてお詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。<m(__)m>

11月 14, 2013 会社法改正 | | コメント (11) | トラックバック (0)

2013年5月15日 (水)

開示規制はどこまで行為規制に代替しるのだろうか?

昨日(5月13日)発売の週刊東洋経済「会社の数字」特集にて「不正はどこでも花開く」と題する小稿を掲載いただいておりますので(同誌65ページ)、ご興味のある方はご一読いただければ、と。なお60ページからの宇澤亜弓氏(公認会計士)による「会計社は社会的使命に立ち帰れ。守秘義務を言い訳にするな」はとても読み応えのある力作であり、これまで他ではあまり聞かれなかった意見なども満載で参考になります。

さて、以前ご紹介した行動経済学の本「ずる-うそとごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著)がたいへんおもしろかったので、あれ以来統計学に関する本を数冊まとめて読むようになりました。あの本でも少しだけ話題になっていたのが、開示規制の効用であります。法が人間に作為、不作為を命じるという行為規制の代わりに、ときどき「なぜ行動するのか、しないのか、その合理的な理由を説明しなさい」とか「違法性が疑われる行動について、適法だというのであれば詳細を開示しなさい」といった開示規制が設けられることがあります。

自由を最大限保障したうえで行政目的を達成せんとする手法は、規制緩和により事前規制社会から事後規制社会へと移行しつつある日本の社会にも開示規制があてはまるようにも思えます。たとえば会社法の見直し論議に出てくる社外取締役設置問題についても、会社法は独立社外取締役の導入が望ましいというスタンスをとった上で、もし社外取締役を導入しないのであれば、当社では導入することが相当ではないとする理由を開示しなさい、ということになります(秋の国会で法案が提出されるようですね)。

しかし、いろいろと統計学の本などを読んでおりますと、開示される情報をどこまで市民や投資家が関心をもっているかといいますと、かなり怪しい。規制する側は、重要な情報を開示させれば開示するほうがウソはつけないから、当局が望ましいと思う行動が伴うであろうと期待をします。しかし、上記「ずるーうそとごまかしの・・・」の本では、開示した人たちは「開示をした」という良いことの反動として、これに見合う虚偽や隠ぺいをおこなって「心のつじつま合わせ」をしてしまう、といったことを実証しています。企業と取締役との利益相反行為の詳細を開示するように要求すると、その詳細を開示したことで、かえって不誠実な取引が増える、といった具合です。

また、「今年度はこのような事業を行います」と情報を開示したところで、その開示された内容が本当に企業によって行われたのかどうか、その業務に関する評価はあまり株価には影響せず、むしろ「今年度はこのような事業を行います」と開示したときのほうが株価に影響をする、といった実証研究が出ています。つまり投資家の自己責任とは言われるものの、実は投資家はあまり企業の開示情報には関心がない、といったことのようです。たしかに詳細な有価証券報告書が出されても、これを投資家がどこまで判断材料として見ているかは疑問かもしれません。

開示規制というものも、市場の健全性確保のために活用されるということになりますと、「誰がみても悪党」と思われる0.5%の会社にとっては有効でも、残る(ほぼ誠実に企業経営をしている)99.5%の会社にとっては、むしろズルをする誘因になる(誠実さを緩めてします)とか、PDCAを尽くさないといったことになってしまいますと、規制の効率性という視点からはかなり問題ではないかと。かといってガチガチの行為規律をもって対応する、というのも不経済であります。結局のところ、開示規制についても工夫が必要なのでしょうね。今回、会社法の見直しの中で、内部統制の基本方針の整備とともに「運用状況の概要」も事業報告において開示されることになりますが、きちんと検証したこと自体を開示する、といった手法を採用することで、PDCAも開示の対象とされるようなことも一つの工夫かと思います。

ちなみに拙著「法の世界からみた会計監査」の第10章「訂正と非開示のコンプライアンス」では、上述と同じような問題意識のもと、開示コンプライアンスの一環として、企業の誠実性が透けて見える開示規制の工夫について述べております。むしろ開示規制はソフトローの時代には、企業の誠実性を表現する手段にもなりうると考えております。開示規制を「やっつけ仕事」とみるか「企業の誠実性を表現する戦略」とみるか、企業の姿勢によって変わりうるものだと理解しています。

5月 15, 2013 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年2月20日 (水)

会社法に残された課題(あくまでも個人的見解ですが・・・)

昨日(2月18日)、近畿法曹稲門会の皆様の主催により、法務実践講座「会社法改正と裁判・企業実務」が開催されましたので聴講させていただきました(大阪市 中央公会堂)。私は早稲田の出身ではございませんが、関西の実務家に広く参加の機会をくださいました近畿法曹稲門会の皆様に、厚くお礼申しあげます。<m(__)m>おかげさまで、江頭先生のご尊顔を初めて拝見することができました。そういえば、今月は神田教授、江頭教授と名刺交換をさせていただく、というたいへん記念すべき如月となりました(神田先生のように「いや~、ブログいつも拝見してますよ~」といったお言葉は江頭先生からはいただけませんでしたが←あたりまえですが 笑)

会社法改正の経緯、これまでの法改正との違い、要綱の主たるポイントの解説と進み、有斐閣より5月に出版される「株式会社法大系」の中身もご紹介され、私にとりましては、まさに至福の90分でございました。機関設計をいろいろと変えてみるよりも、株主の在り方、労働市場の在り方を変えていかないと、実質的なガバナンス改革は困難ではないか・・・とのご意見も裏話などを交えて、楽しく拝聴できました。

なお、江頭先生のお話をお聴きしての個人的な見解ではございますが、今回の会社法改正に「残された課題」のようなものがあるように感じました。江頭先生のご講演の中にも出てきたお話ですが、そのひとつは、社外取締役の定義(会社法2条15号)等に関わる問題で、会社法の規定する「業務執行」とは一体何を指すのだろうか・・・というところであります。昨年、ダイヤ通商さんが、社外役員の善管注意義務違反の有無を判断するための第三者委員会を設置したことがありました(「監査役の乱」ならぬ「監査役の権限濫用」?)。そこでは、大株主が出身母体である社外監査役さんの行動(海外の取引先企業が日本の販売先を探していたときに、別の会社をこの海外企業に紹介をして、その取引の仲介を図ったこと)が問題になっておりました。もちろん、ダイヤ通商さんでは監査役という立場だったわけで、そもそも業務執行となれば善管注意義務違反になってしまいそうですが、もしこれが社外取締役による行為だとすれば、果たして業務執行にあたるのでしょうか?また、(これは江頭先生が例としてお話されていたものですが)MBO等の交渉の場に社外取締役が(社長さんの横で)立ち会う、といったことは果たして業務執行に該当するのでしょうか?

もし、こういった行動が業務執行にあたるということになりますと、会社法2条15号の「社外取締役」にはなりえないわけですが、実際には社外取締役として選任されていながら、さまざまな(会社法上の)業務執行をされておられる社外取締役の方も多いのではないか、という素朴な疑問であります。この「業務執行」とは何ぞや・・・というのが、実はよくわかっていないような気もいたします。もちろん執行すべき業務の決定権限は、取締役または取締役会が有していることはわかるのですが、ではその「業務」というのは、具体的にどのようなことまでを指しているのだろうか・・・というと、コンメンタールなどを読んでもよくわからないところであります。取締役の業務執行の正当性(有効性)を付与するのは取締役会による委任(包括委任)でありますが、たとえ正当性が付与されていなくても、対内的にも対外的にも業務執行といえるものがあるのではないかと。そういった事実上の業務執行という概念がある以上は、(社外取締役が行うべきではない)会社法2条15号の業務執行を論じる実益はありそうです。近時、社外取締役は企業価値向上のために積極的な活動が期待されているところですが、どうなんでしょう。

そしてもう一つの残された課題でありますが、これは江頭先生も(個人的なご意見として)最後におっしゃっておられましたが、会社計算規定に関する改正、つまりIFRS(国際財務報告基準)と会社法との関係規整ということであります。普通は、これだけの会社法改正が終了しますと、当分は改正はないというのが常識的な考えだそうですが、今回は会社計算規定が全く改正されなかったので、IFRSの動向により改正作業が行われる可能性があるのでは、とのこと。

2010年8月、私は早とちりをして「いよいよ法制審会社法改正論議にIFRS登場か?」とのエントリーを出しておりましたが、江頭先生のお話をお聴きして、あながち「大外れ」でもなかったようで、ホッといたしました。IFRSの国内法への取り込みは、以前にも述べましたように、各国で一致しておりません。また金商法と会社法の垣根(財務諸表と計算書類の調整問題)にも触れることになります。これを日本の法の世界と会計の世界がどのように取り扱うのか、あの平成10年 「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」(大蔵省・法務省)が出されたときのような調整協議の場が再び蘇るのかどうか、こちらも楽しみであります。

2月 20, 2013 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年1月 7日 (月)

やっぱり監査・監督委員としての社外取締役はしんどそう・・・(^^;

いよいよ正月気分も抜けまして、本日から本格始動となる会社さんも多いと存じますが、新年早々から憂鬱なネタで申し訳ありません。

昨年11月に監査・監督委員会設置会社への移行と社外監査役の憂鬱と題するエントリーをアップしまして、監査役会設置会社における社外監査役が「すんなりと」監査・監督委員会設置会社の社外取締役に移行するのは躊躇するなぁ・・・といったことを述べましたが、その続編であります。

年末に「月刊監査役」2013年1月号が届きまして、法制審議会会社法制部会の部会長でいらっしゃる岩原先生の「会社法制の見直しと監査役」と題する論稿を拝読いたしました。ジュリストや旬刊商事法務における岩原先生の論稿をきちんと読まれた方であれば特に目新しい内容ではないのかもしれませんが、私のように「つまみ食い」のような形で会社法の見直しについて勉強している者にとりましては、監査役制度を見直すうえでも、とても参考になりました(あくまでも岩原先生の個人的意見・・・ということだそうですが)。

とくに、新たな企業統治の形態である監査・監督委員会設置会社に関する解説は、この制度が会社法制の見直しの中で「なぜ登場したのか」というあたりからの背景事情まで書かれてあるので、(恥ずかしながら)その複雑な内容がやっと理解できたような次第です。社外取締役導入義務化との関係、欧米諸国のモニタリングモデルへの傾斜、そして我が国特有の監査役制度との調整など、かなり苦心の末に改正要綱の中に盛り込まれたようです。

しかし、この岩原先生の論稿(あくまでも個人的ご意見ということですが)を読めば読むほど、やはり昨年11月にここでつぶやきましたとおり、監査・監督委員会設置会社の社外監査役に就任するには、「気合を入れて」いかないとえらいことになるのではないか・・・・・・と改めて認識しております。

この論稿を拝読するまでは、「監査・監督委員である社外取締役が(正確には組織としての監査・監督委員会が・・・ということになりますが)、他の取締役の選任・解任や報酬について、株主総会で意見陳述権があるといっても、付け足しみたいなものではないか」と勝手に推測しておりました。しかし、監査・監督委員会設置会社には、モニタリングモデルへの「熱い思い」が感じられるようであり、委員会設置会社ほど完全なものではないにせよ、これに近いものとして運用されることが期待されているようです。ということは、監査・監督委員会には、委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会に準じるほどの役割が込められているのではないかと。いや、だからこそ取締役の利益相反行為についての事前承認という、極めて重要なポジションも付与されている、ということのようであります。

経営のモニタリング機能・・・という言葉も(これまでは)なにげなく使っていたように思いますが、この論稿ではまず第一義として、「経営者の業績の評価、すなわち経営の効率性からの統制である」とされております。まずは取締役会において経営の評価等に関し問題を提起し、他の取締役にその問題に対応する義務を負わせることにある、ということで締めくくられております。やはり監査・監督委員たる社外取締役に期待されているのは、経営者のパフォーマンスを評価することにあるということです。

日常の業務執行も全面的に執行部に委ねてよい、という制度選択が採用されたのも、こういった役割を期待しうる監査・監督委員が就任されるであろう・・・という期待からだと思います。もし、立案者の熱い思いとは裏腹に、ワンマン経営者の独占的支配権のもとで、この監査・監督委員会設置会社が活用されたら・・・と思いますと、少なくとも社外取締役に選任される方には、きちんとリスクまで承知したうえで受任されることをお勧めしたいと思います(まだ法制化されておりませんし、どれだけの会社が移行を検討するのかも未知数ではありますが・・・)。

1月 7, 2013 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年12月18日 (火)

自民党政権下での会社法制・会計制度改革(あくまでも個人的予測)

以下で述べることは、すべて私の独断的な推測によるものなのでご注意ください。

自民党のマニュフェストの中には、企業法務に関わる項目がいくつか散見されますが、当ブログの関心事項との関係ではマニュフェスト192項(企業統治改革の推進)が注目されるところです。

社外取締役の要件厳格化、上場会社における複数独立取締役選任義務の明確化、会計監査人選任における監査役・独立取締役のあり方の見直し、公益通報制度の実効化、親子会社規制等に関する規律の法制化、監査法人・公認会計士制度の見直し、違法行為についての刑罰厳格化と「過去は問わない」一定期の自首による免責などを検討し、企業統治改革を推進します。

とのこと。安倍総裁の下での商法、会計制度改革マニュフェストといえば、愛媛1区でぶっちぎり当選を果たされた塩崎元官房長官の提言が中心になっていると思われます(これはたぶん間違いないでしょう)。当ブログでも過去にご紹介したとおり、平成17年改正会社法制定にあたっては、塩崎氏が委員長を務める自民党商法委員会によって、法制審議会での十分な審議を飛び越えて、(会社法現代化の中間試案には全く存在しなかった)大会社における内部統制の取締役会における決議・開示義務が会社法に盛り込まれました。なお、そのときに自民党小委員会が「併せて会社法改正に盛り込むべき」とされていた「取引先等関係者も認めない社外取締役・社外監査役の要件厳格化」および「監査役のなかに財務会計的知見を有する者を一人以上導入」という提案は、「とりあえず様子をみる」ということで見送られました。

もちろん今回の会社法改正案はすでに要綱化されていますので、政権交代によって大きく変わることはないと思います。しかし、上場会社を対象とするルールの改正としては、企業行動規範を含む取引所ルールの改正や金融商品取引法、公認会計士法改正等でも、ガバナンス改革が実質的には可能になりますので、現実的な企業統治改革が進むことも考えられます。

なかでも「複数独立取締役選任義務の明確化」や「社外取締役の要件厳格化」といったあたりは、(経済界の猛烈な反対が予想される中で)どのように実現を図るのか関心がありますし、最近の塩崎さんのインタビュー記事などでも「会計士処分の厳罰化は、公認会計士法改正で対応可能であり、むしろ会計士の地位を高める」といったご発言は、上記マニュフェストのなかにも片りんが窺われるところです。いっぽうIFRS(国際会計基準)の導入については、塩崎さんは極めて積極的な発言をされていましたので、導入推進派の方々には自民党の手腕に期待されている向きもあるかもしれません(このあたりはあくまでも個人的意見ですが・・・)。

マニュフェストの実現には優先順位があると思いますので、自民党政権下でどこまで企業統治改革がなされるかは、様々な政治力学に左右されるところかと。ただ、いずれにせよ掲げられたテーマについてはいずれも私自身がとても関心を持つものばかりであり、マニュフェスト193項で掲げられている「健全な資本市場構築に向けた諸策」とともに、政治力がどこまで発揮されるのか注目したいと思います。

12月 18, 2012 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年7月27日 (金)

会社法改正要綱案と最高裁意見の影響度

ここのところ、会社法改正に関するエントリーばかりで申し訳ございません。<m(__)m>ご興味のある方は、それほど多くはないかもしれませんが、要綱案が公表されて以来、「なぜあの提言はすっぽり抜けてしまったのか?」といったメールをいくつかいただきまして、私も「なぜだろう」と考えることが多くなりました。

そんなことを考えているうちに、今回の会社法改正要綱案にはひとつの「法則」があることに気づきました(そんなエラそうに申し上げるほどのことはございませんが・・・・・)。新聞等では「会社法改正の中身判明、経済界の意向が通る」といった形で、報じられているところであります。しかし、経済界の意見がすべて通ったわけではないようで、経済団体も一定のところで妥協しているものと考えられます(たとえば社外取締役制度を採用しない場合の「当社には社外取締役を置くことが妥当でないとする理由の開示義務」「多重代表訴訟制度の新設」など)。

昨年12月に出された中間試案への各界意見の集計結果と、今回の要綱案(第一次案)で採用された改正内容とを比較してみますと、一番意見が通っているのは間違いなく「最高裁」だと思われます。最高裁が全面的に賛成(もしくは反対)している場合には、そのとおりに改正案が作成されており、たとえ経済団体が反対していても、最高裁の一部でも(条件付きで)容認する意見が出されている場合には、賛成意見が通っています。たとえば法制審ではさかんに議論されていた「子会社少数株主の保護」における「親会社等の責任」については、今回の要綱案からはすっぽりと抜けていますが、この点は「現行法の解釈によっても少数株主保護は十分に図ることができる」とのことで、最高裁が全面的に反対意見を出しておりました。経済界からの反対意見が強かったために、そちらの意見が通ったようにも思いがちですが、実は最高裁の意見の方が強く影響したのではないでしょうか。

若干微妙なのが「第5 組織再編等の差止請求」であり、ここは審議会における議論の中でも、裁判所の代表的立場にある委員の方からも、「対価の不当性」を差止請求の裁判に持ち込まれては困る、といった意見が強硬に出されておりました。そこで、取締役の善管注意義務違反に該当するような場合まで含めて差止請求ができるというわけではない、ということが明確になる形で差止請求の規定を新設するような提案になっていますので、これも一応は最高裁の意見が通ったものと考えることができそうです。

平成17年改正会社法の実際の公権的解釈を行ってきた裁判所の意見は重い(無視することはできない)・・・ということなのでしょうね。ちなみに最高裁は、ガバナンス改革(たとえば社外取締役制度の義務付け、監査・監督委員会制度の導入、監査役の権限強化、実効性を確保するための施策等)に関する会社法改正案については、一切意見を述べていないようでして、沈黙が保たれています。司法の場における経験的な知見に基づく判断以外は、裁判所としては一切口出ししない、ということかと。あくまでも立法的提言については謙抑的な立場を堅持しているように思われます。

7月 27, 2012 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年5月28日 (月)

福岡魚市場高裁判決と親子会社法制(多重代表訴訟)への影響

旬刊商事法務の最新号(5月25日号)が報じているとおり、子会社不正を見逃した親会社取締役の責任を問う「福岡魚市場株主代表訴訟」の控訴審判決が4月13日、福岡高裁第4民事部より出されました。親会社株主が、親会社の取締役について、子会社不正を見逃したことについて任務懈怠ありとして、その責任を問うものです。高裁判断は福岡地裁判決(平成23年1月26日)の結論を支持し、親会社取締役らの責任を認める判決となりました。なお、昨年の地裁判決につきましては、こちらのエントリーなどをご参照ください。

控訴審判決でも、いわゆる「グルグル回し取引」の基礎となる「ダム取引」の経済的合理性(商社金融機能)は認めつつも、そのリスク管理が十分でなければ容易に架空取引に変容してしまうことは明らかとされています。そのうえで高裁判決は、子会社プロパーの取締役が主導していた架空取引について、十分な調査もせず(破たん寸前の時期において)子会社支援を継続した親会社取締役らに、子会社不正を見逃して(子会社支援決定という)安易な経営判断に至ったことに関する善管注意義務違反が認められる、としております。

親子会社法制については、このたびの会社法改正論議でもホットイシューとなっており、いわゆる「多重代表訴訟」を認めるかどうかが中間試案でも論点になっております。子会社不正を抑止し、企業グループとしての自律的行動を確保するために、親会社の株主が、子会社取締役の責任を追及できるようにすべき(多重代表訴訟を認めるべき)、との意見も根強いところかと。この意見に対しては、経済界からはグループ企業を活用した経営戦略を委縮させてしまう可能性があるのではないか、という経営管理面からの批判が出ていることとともに、子会社不正への対応としては、そもそも親会社の取締役の善管注意義務違反を追及すれば足りるではないか、との法制度面での反論も出ておりました。

地裁に続き、高裁も親会社の取締役らについて、子会社不正見逃し責任が認められたことについては、反対派の方々がおっしゃるとおり、多重代表訴訟までは必要ないのではないか、といった議論に有利に援用されることになるのかもしれません(このあたりは、またどなたかの判例評釈等でご議論いただきたいところであります)。

ただ、本件で責任が追及された親会社取締役の方々は、みなさん子会社の非常勤役員たる地位にあったことに加え、判決全文を読まなければわからない「特殊事情」もあることに留意すべきです。ここからは私の勝手な推測にすぎませんが、福岡魚市場株主代表訴訟の事例を、どこまで一般化できるか、という問題です。地裁、高裁の判決を通じて、親会社の取締役の方々は、子会社取締役の不正を長年見抜けなかったことを前提とはしておりますが、現実に裁判官の方々は、素直にそう思っていたのかどうか、若干の疑問が残ります。むしろ、親会社の取締役の方々は、実は子会社取締役の架空売上の計上を知っていた可能性が高いのではないか、そのような子会社不正を親会社としては容認していたのではないか、しかしそこまで明確には証拠からは認定できないからこそ、少なくとも「見逃しについての任務懈怠」があったとして責任を認めても良いのではないか、といった思考過程が垣間見えるように思えます。このたびの高裁判決は、地裁判決よりも自信満々に株主側勝訴と判断したように読めたので、そのように感じた次第です。「不正を知っていて放置」する場合は論外ですが、「子会社の監督はいちおう一般水準程度には真面目に行っていたけれども、不正を見逃してしまった場合」のすべてにおいて、本件が前例としての意義を持つのかどうか、そのあたりも著名な法律家の方々に論評していただきたいところであります。

なお、この高裁判決は、子会社不正に親会社取締役が対応しなければならない、とされるターニングポイント(子会社不正の兆候といえる事実とは何か?)についても判決文の中で触れているので、この点についてはまた別途、興味深い論点として問題を整理してみたいと考えています。子会社のどういった情報が親会社役員に届いた時点から、親会社は有事対応に切り替える必要があるのか、取締役の責任論と絡めて論じてみたいところであります。

5月 28, 2012 会社法改正 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年12月 9日 (金)

会社法改正試案(パブコメ案)が公表されたようで・・・

まずはお礼ですが、一昨日のエントリーにはご意見ありがとうございました。ご異論、ご批判もあろうかとは思いますが、これまであまり議論されていなかったことに、関心を持っていただけるのであれば幸いです。法解釈もさることながら、監督官庁と監査法人の在り方といいますか役割分担のようなことについても考えるきっかけとなりました。

残念ながら、相変わらず「オリンパス甲斐中報告書」は通読できておりません。ブログ管理人としては(話題についていけてないようで)フラストレーションがたまっております。事実関係については報道されるところで内容を知る程度ですが、街の議論を漏れ聞くところでは、やはり監査法人の対応に関する記述はいろいろとご意見があるようです。ホント、日本の大手監査法人はどうなってしまうのでしょうね?新日本さんの動きなどをみると、もはや有事対応です。

こちらも注目ですが、会社法改正試案(今後パブリックコメントを募集する案)が法務省のHPで公表されました。社外取締役義務化、監査・監督委員会制度については既に取り上げていますが、監査役の監査機能強化が試案に盛り込まれています。

会計監査人の選任・解任権、報酬決定権の(監査役への)付与につきましては、かねてより会計士協会が(会計監査人の独立性に資するものとして)改正の要請を出していたところでありますが、もうひとつの「監査の実効性を確保するための仕組み」のほうは、会社法制部会の早い段階から築館元監査役協会会長が強く主張していたところです。監査環境を整備するための具体的な内容は未定ですが、監査役さんが監査権限を行使しやすいようにするための改正、ということであれば大いに賛成するところです。

とくに内部統制の運用状況の概要を経営執行部が事業報告で開示することが義務化されるのは、監査役による内部統制監査の実効性を高めるためには大きな前進かと。すでに監査役監査基準のなかでは、積極的に運用状況を監視検証して、問題点があれば(取締役の善管注意義務となる事実が判明すれば)監査報告に盛り込むことが「ベストプラクティス」とされています。現実に真面目に取り組んでおられる会社もあると思います。しかし、内部統制の運用状況に関する相当性審査を会社法(会社法施行規則)で明確にすることは、経営執行部にとっても、監査役にとっても企業の内部統制を構築するインセンティブを高めることになると思います。

最近の企業不祥事で問題となった「監査役と会計監査人の連係」、監査・監督委員会設置で必要性が認識されるであろう「監査役と内部監査部門との連係」あたりも、監査役が既存の権限を行使しやすい環境作り・・・・という視点で議論が進化していけばいいなぁと。あと、大王製紙事件でも問題となりましたが、グループ企業としての内部統制構築に向けて、たとえば親会社監査役と子会社役員とのコミュニケーションの在り方などについても前向きに検討されることが期待されます。

さて、法制審の議論がこのあたりまで進んできますと、委員や幹事の皆様の間で「会社法と自主ルールとの棲み分け」に関する共通認識もできてくるのではないでしょうか。「これは法律の改正という点では見送るけど、とりあえず取引所ルールの行動規範で取り入れて、しばらく運用をみたほうがいいのでは」「行為規範としては無理そうだけど、開示ルールのなかに取り入れて、Comply or Explain approach で事実上強制すればいいのでは」「特設注意市場銘柄制度があるんだったら、とりあえず要注意銘柄だけに行動規範として取り入れてみては?」といった認識です。最近の会社法改正論議は、開示規制やソフトローの動向にも影響を与えるものと私は考えています。

また、パブコメの動向もさることながら、(先日も少し書きましたが)民主党、自民党のWGの動きが気になるところです。会社法制部会の議論よりも、もう一歩進んだ独自案が出てくるかもしれず、このパブコメ案で全体像が見えてきたような気でいると錯覚を起こしてしまうかもしれませんので要注意かと。

12月 9, 2011 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月30日 (水)

監査委員会制度からみた「監査役制度」の行方

11月も今日で終わり、早いものでもう師走です。今年は3月の記憶があまりにも衝撃的なものであったため、気持ちの上で1月、2月の記憶が空白になっているように感じます。ただ、12月はまだまだ会社法改正試案の発表、オリンパス事件の第三者委員会報告書の公表、またまた動きのありましたゲオ社の調査報告書の発表など、当ブログ的にも興味のある話題が続きそうです。

さて、昨日(29日)、よく存じ上げている記者の方と話をしておりまして

「一か月ほど前までは社外取締役の義務化は見送られる公算が強い、といった雰囲気でしたけど、ちょっと風向きが変わってきましたよね。でも本当に社外取締役が制度化されてしまったら監査役さんの存在価値はなくなってしまうんじゃないですか?先生はどう考えておられますか?」

との質問を受けました。前のエントリーのJFKさんのコメントにもあるように、社外監査役と監査担当の社外取締役とではいったい何が違うのか、というご質問もありました。

たしかに監査役会設置会社に社外取締役が義務化されるとなりますと、大きな上場会社さんの場合はすでに「棲み分け」のようなものができているのかもしれません。しかし中小の上場会社さんの場合にはちょっと難問です。これまで任意で社外取締役を選任しておられない会社の場合には、監査役との重複感を持たれるところもありそうですね。

Kansaiinkai002 今回の会社法改正のなかで、かりに社外取締役制度が義務化された場合に、昨日ご紹介した監査・監督委員会制度だけでなく、今後継続して監査役会設置会社の機関設定を維持する会社でも参考になりそうなのが(一昨日もご紹介いたしました)「監査委員会ガイドブック」(日本取締役協会著 商事法務 2006年)であります。

本書は平成17年改正会社法の施行に合わせて、委員会設置会社の監査委員会向けの解説書として出版されたものです。すでに出版されて5年が経過しておりますが、監査・監督委員会は委員会設置会社の監査委員会に準じた権限をもつものとして構成される見込みのようですから、あらためて監査委員会の権利・義務、その構成など勉強するには最適です。また独任制である監査役と監査役会との関係や、委員会設置会社における監査委員会との権利・義務の対比などもかなり突っ込んだ解説がされており良本といえます。取締役会の監督機能と監査委員会の監査機能との関係などにも触れており、そこから監査委員会と監査役との監査対象の差はどこにあるのか、という点も考慮されています。

これまで委員会設置会社があまり増えていない現実があるため、委員会設置会社のガバナンスに関する解説書もそれほど多いとは言えません。したがいまして「監査役、監査委員会による内部統制監査」という概念も往査(実査)実務と比較して語られることが少なかったのではないかと思います。監査・監督委員会という新たな機関設計が構想されたことにより、俄然この本は注目を浴びるのではないかと密かに期待しております。なお、この本にもありますように、理念的には監査役会と監査委員会とは異なるものの、現実の企業実務においてはそれほど大きく異ならない運用がなされている(たとえば常勤監査委員を選任している委員会設置会社が7割程度だとか、妥当性監査については監査役会設置会社の監査役も社内的には踏み込んでいるところが多い等)ことも本書で述べられています。

立法事実論(改革によって企業パフォーマンスが向上するか、不祥事の予防が本当に可能となるのか)に力点を置くガバナンス論議と、市場対応論(機関投資家、海外投資家が日本企業に投資するにふさわしいと思える機関設計とは何か)に力点を置く論議とが混在するなか、監査役や監査・監督委員が権限を行使しやすい環境とは何か、また投資家に対して日本のモニタリング機能をどのように説明すべきなのかを考えるにあたり、参考になる一冊です。

11月 30, 2011 会社法改正 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月28日 (月)

会社法改正-監査・監督委員会の社外取締役「過半数」の重み

企業法務に携わっていらっしゃる方であればご存じのとおり、現在会社法改正に向けた審議が進められておりまして、12月には改正試案が公表される予定であります。いわば「中間試案」でありますが、その骨格が11月16日に開催されました法務省会社法制部会のWEBページにて垣間見ることができます。

最近の新聞報道などでも、監査・監督委員会設置、社外取締役の義務付け、といったことがかなり現実味を帯びて報じられておりますが、このガバナンス改正論議につきまして、本当に初歩的かつ素朴な疑問が湧いてきます。かりに社外取締役の選任が義務付けられるとした場合、その最低人数の及ぼす実務への影響であります。

社外取締役の義務付けと監査・監督委員会設置がセットになりますと、たとえば現在の上場会社の場合(上場会社については、取引所ルールによって会社法上の「大会社」でなくても、監査役会設置が義務つけられておりますので、いちおう上場会社を例にとります)、現在の社外監査役2名(最低)が、横滑りで社外取締役になればいいわけですから、一番経済界にとって受け入れやすいものとなりそうです(ただし法改正後の「社外性」要件をクリアできることが前提です)。

しかし公表された中間試案をみますと、監査・監督委員会の委員(最低3名)の「過半数」が社外取締役によって構成されねばならない、とされています。※ ということは、不慮の事態を想定して(言葉は悪いですが)少し余裕をもって社外取締役を選任しておかねばならないのではないか・・・・との疑問が湧いてきます。とくに社外役員の場合、「あんたとはやってられまへんわ」ということで、経営陣と対立して辞任してしまうことも十分に考えられるところでありまして、たしかに辞任した社外取締役は(法律上は)次の社外取締役が選任されるまで「権利義務取締役」としてその任務は遂行されることにはなっておりますが、実際のところは会社の重要な経営判断に支障をきたすことになるはずです。

※・・・もちろん、未だ「案」としてであります。

もちろん会社法329条2項によって「補欠社外取締役」を選任しておくことも考えられます。しかし、社内の人間であれば機能しそうな「補欠取締役制度」でも、業務執行者に委任できないような会社の重要な意思決定が果たして「補欠社外取締役」に務まるのでしょうか?補欠社外取締役にとっても、非常にリスクが高いような気もします。社外役員といえども、補欠監査役なら引き受けられても、補欠取締役はちょっと・・・と素直に尻込みしてしまいそうです。

法定人数に欠員が生じた場合、社内と違い、社外の場合には候補者選定にも相当の時間を要することになり、簡単に探してこれる、という保証もありません。そうしますと、監査役会設置会社の場合でも、監査・監督委員会に移行する場合には、やはり(不慮の事態に備えて)横滑りだけでは足りず、新たな社外取締役候補を選任しなければならないのではないでしょうか。

だったら、定款を変更してわざわざ監査・監督委員会設置会社に移行することなど必要ない、ともいえそうであります。素直に監査役会設置会社のままで、社外取締役を一人探してきて選任すればいいとも考えられるのでありますが、それでもやはりその「一人」が事故や辞任によって不在となった場合のことを考えますと、余分に社外取締役を選任しておかねばならない、ということになるような気もいたします(補欠社外取締役の問題点は上記と同様と思います)。事実、委員会設置会社の場合には、最低2名の社外取締役が必要でありますが、実務上は委員に事故ある場合に備えて、一定の余裕をもたせて構成を検討しているのが通常であります(「監査委員会ガイドブック」日本取締役協会著 36頁)。

上場ルールで義務付けるのではなく(この場合も争いはありますが)、会社法で社外取締役を義務付ける、ということは、社外役員が不在の場合の取締役会決議の効力や監査・監督委員会の機関決定の効力に影響が及ぶ、ということですから、「最低限の員数を確保する」だけで上場会社役員のリーガルリスクの管理として十分なのか、とても素朴ではありますが疑問が湧いてきました(うーーーん、無報酬の補欠社外取締役って、会社も頼みにくいですよね。。。。)

11月 28, 2011 会社法改正 | | コメント (3) | トラックバック (1)