2019年12月 5日 (木)

令和発の会社法改正法案の成立(で、ひとこと)

本日の参議院本会議における投票結果(賛成222 反対17)により、会社法の一部を改正する法律案・関係法律の整備法案が可決成立しましたね。今回の会社法改正は、比較的大きな会社の実務に関わる項目が多いので、拙ブログをご覧の皆様の会社にも影響が及ぶのではないかと思います。

といいますのも、政策実現的な色合いの濃い改正項目が多いので、「改正会社法」といっても、関連諸法(諸制度)との関係を理解する必要があると考えます。たとえばハードローで言えば今後立案される会社法の政令(結構、会社実務に影響を及ぼす項目の具体的内容が政省令に委任されています)、金商法の政省令(行為規範を、事業報告以外の開示規範で代替します)があります。

また、ソフトローでいえばガバナンス・コード改訂版、経産省実務指針や解釈指針など、会社法が強制権限を行使しなくても、ディスクロージャー制度やソフトローで会社が自主的に動いてもらう、問題があれば法改正ではなくガイドラインを動かして実務に影響を及ぼす、といった法政策がとられる可能性が高いです。

もし会社法改正が実務に及ぼす影響を理解するのであれば、税制改正や経済法領域を含め、こういった政策実現のための諸領域の動向にも配慮しないと「落とし穴」にハマる可能性がありそうですね。平成26年改正のとき、分不相応に(?)改正会社法を解説する本を出版して恥をかいた私の失敗経験からの教訓です💧今回は他のエラい方の書かれる解説本を読んで勉強します💦



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2019年11月27日 (水)

会社法の一部改正法律案はなぜ修正されたのだろうか?

(11月27日午前10時55分 更新)

11月5日にこちらのエントリーにて告知いたしました大阪弁護士会・CGネット共催公開シンポジウムもいよいよ今週金曜日に迫ってきました。おかげさまで本日(11月26日)現在、定員をはるかに上回る260名の方々に参加申込をいただき、弁護士会館2階ホールの設営も変更させていただきました。やはり改正会社法の成立により、上場会社に社外取締役が義務化される、という機運が高まってきたことによるものでしょうか。ともかく当日に向けて精一杯準備いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。ということで、本日は改正会社法の話題です。

本日(11月26日)、会社法の一部を改正する法律案(一部修正案)が衆議院本会議で可決され、今国会で改正会社法が成立する可能性が高まってきました。提出時の法律案から一部修正され、株主提案権の改正のうち、議案提出権(会社法304条)は現行法のまま、議題提案権(議案要領通知請求権 305条)の議案の個数制限だけが改正されるということになりました(305条の修正案はとても読みにくいですね)。「目的等による提案の制限」は議案提出権、議案要領通知請求権いずれも改正から外れたことになります。

株主提案権の濫用事由を法文で列挙することにより、会社側の判断のみで権利行使を阻止できるとするのは過度の株主権制限である、一部の濫用事例が認められるだけでは権利制限を一般化する立法事実とは認められない、濫用かどうかは極めて難しい判断であり、問題があれば司法判断や会社法の過料の制裁で対応することで足りるのではないか・・・といったところが修正の理由になっているように思います(こちらの衆議院法務委員会ニュース参照)。

しかし、それを言い出すと会計帳簿の閲覧制限(会433条2項)や株主名簿の閲覧制限(同125条3項)、総会における取締役の説明義務の免除(同314条)といったところはどうなるのでしょうかね?(コメント欄で「とおりすがりの一職人」さんがおっしゃるとおり、議決権行使書面の閲覧制限-会311条5項-についても議論がありそうです)それぞれ重要な株主権の行使場面ですが、抽象的な濫用的要件をもって会社側で権利行使を制限できるという点では同じような気もしますが。。。株主提案権の制限廃止だけが問題になるのであれば(株主総会の運営の適正化を図るための)議長の議事整理権で区別がつきそうですが、総会前の議題提案権の制限についても修正(廃止)が認められましたので上記の各種株主権制限規定の趣旨と区別できるのでしょうか。

会社法制(企業統治関係)部会での法改正の審議でも、「目的等による提案の制限」はそれほど熱心に審議されていなかったように思います(もっぱら議案の個数制限ばかりが議論されていたものと記憶しております)。私の中では「なぜ株主提案権の目的等による制限」のみ修正されたのか、いまだによく理解できておりません。

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2019年11月13日 (水)

立法事実がなくても会社法は改正できる?(改正法案、いよいよ審議入り)

本業が忙しいので本日は短いエントリーです。日経ニュース等によりますと、ようやく会社法改正法案が衆議院で審議入りした、とのこと。なんとか今国会で成立しそうですね。日経ニュースで法務大臣の答弁が紹介されていますが、立憲民主党の議員の方からの質問(ほとんどの上場会社ですでに社外取締役は存在するが、義務化することの必要性はあるのか?)に対して、大臣は

市場の信頼性を高める観点から、社外取締役の監督が法律で保証されているとのメッセージを発信することは大きな意義がある

と回答した、とのこと。しかし、ほとんどの上場会社に社外取締役が存在する現在、有価証券報告書提出会社に社外取締役を1人以上の選任を義務付けることには「立法事実」はないと思います。これまで、会社法改正にあたっては法改正の必要性を裏付ける立法事実が厳格に求められてきたと思うのですが、「メッセージを発信することに意義がある」ということでも法改正はできるのですね。これからの法改正の必要性判断の前例になるのでしょうか。

しかも法改正によって「社外取締役がいなくなった場合に、果たして取締役会決議は有効に成立するのか」とか「社外取締役を選任しないことによる罰則(過料)は会社に科されるのか」といった「解釈のグレーゾーン」まで招来してしまうわけです。今後、立案担当者の方から解釈指針のようなものが出るかもしれませんが、納得できる内容でしょうか。おまけにヤフーとアスクルの騒動によって社外取締役の存在が不可欠とされる「被支配会社」に誰も社外取締役がいなくなってしまった、これって社外取締役の監督が法律で保証されているといえるの?・・・という「負の立法事実」まで出てきてしまいました。

平成26年会社法改正のとき、上場会社等である監査役会設置会社が、社外取締役を置いていない場合は「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明する義務が設けられました。つまり会社法は「企業価値を上げるためには、社外取締役がいないほうがよい上場会社は存在する」ということを認めたわけです。しかも5年以内に社外取締役義務付けの要否を検証することが附帯決議で求められていました。その検証結果が「立法事実」であることは間違いないわけですから、少なくとも「5年経過して検証したところ、やっぱり企業価値向上のためには一人以上の社外取締役がいなければ企業価値は向上しない、ということを理由付けるコレコレの立法事実が認められた」との説明が必要です。

どうも「気持ち悪さ」を感じます。法改正の審議が進むことは喜ばしいのですが、会社法改正があまり「美しくない」と感じるのは私だけでしょうか。

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2019年10月23日 (水)

会社法改正-補償契約で会社が負担する役員の防御費用は「相当の費用」から「通常要すべき費用」へ

内閣提出議案として今国会に提出された会社法改正法案ですが、法務省のHPで「会社法の一部を改正する法律案」を確認しますと、「会社補償制度(補償契約)」の中身が「要綱案」から実質的に修正されていることに気づきます。この修正は実務に与える影響はかなり大きいように思います。

今回の会社法改正では、取締役や監査役が第三者から裁判を提起された場合などに、防御のための費用を会社に負担してもらうことが「補償契約」として制度化されます。ただ、どんな高い費用でも会社が肩代わりしてくれるのではなく、今年1月の要綱案の段階では「相当な費用」であれば会社負担としていました。しかし(正式な要綱の時点で変わっていたようですが)改正法案では「通常要すべき費用」という文言に修正されました(改正会社法案430条の2、2項1号)。

※・・・これだけ企業不祥事が多発するなかで、役員のモラルハザードを助長するだけではないか!とご立腹の方もおられますが、いままでも、民法の委任の規定によって会社補償は可能でした。ただし、補償の許容される範囲が明らかではなかったので、このたびの会社法が解釈上の疑義をなくすために「会社補償制度」を制度化する、というもの。

要綱案の段階では、補償契約によって会社が負担する役員の防御費用については「相当な費用」の範囲内と考えておられたようです。ちなみに要綱案作成の審議の中で、たしか裁判官委員(東京地裁商事部の現役裁判官の方)が「この補償の対象となる『相当な額』というのはどういったイメージなのか?」と質問をしておられ、立案担当者(法務省)は、株主代表訴訟の株主が勝訴した場合に、会社が株主代理人に支払うべき「相当な額」(会社法852条1項)と平仄を合わせるイメージです、と説明されていました(会社法制「企業統治等関係」部会第12回議事録30頁以下参照)。

ただ、裁判所が考えている「相当な費用」の相場はかなり低い。ダスキン事件株主代表訴訟で一部勝訴した株主側の代理人報酬が争われた事件の裁判(2010年7月14日大阪地裁判決-ダスキン事件弁護士報酬請求事件)では、足掛け7年間、2件の株主代表訴訟を支えてきた弁護士報酬が、わずか8000万円!(弁護士12名の合計金額です。報酬事件終結まで9年間、当時の大阪弁護士会報酬規程だと報酬額16億、請求額は「すくなくとも」4億円でした)と判断されました。社会的な耳目を集めた裁判で、しかも極めて勝訴率が低い裁判で、一人当たり年間80万円~90万円ということになります。

この裁判所基準からしますと、もし役員が提訴された場合に、企業法務を扱う大きな法律事務所の弁護士さんは(報酬が安すぎて)受任できないことになりそうです。高い報酬の防御費用を会社がそのまま支払いますと、今度は「弁護士報酬の返還を求めて」もしくは「払いすぎの弁護士費用は会社の損害であり、善管注意義務違反の取締役の賠償責任を追及して」株主代表訴訟を提起されるリスクが生じます。また、これは会社が代表訴訟に補助参加する場合の会社側代理人の報酬や、会社自身が取締役を提訴するケースにおける会社側代理人の報酬にも反映される可能性があります。ということで、私は「相当な費用」しか防御費用が支払われない補償契約は使い勝手が悪いと感じておりました。

どういった経緯で法文が修正されたのかは存じ上げませんが「通常要すべき費用」であれば、(裁判所の先例もないので)「まあ、大手の法律事務所の優秀な代理人が複数名ついているんだから、この程度の弁護士報酬は『通常要すべき費用』ですよね」ということで安心して補償することができそうです。ちなみに「補償契約」ではありませんが、監査役が取締役の違法行為の差し止めを行うことも、昨今の企業統治改革の流れの中では重要なので、これも「通常要すべき費用」として解釈していただきたいです。

なお、以上は私の勝手な推測に基づく解説なので、「なぜ要綱案から正式な要綱に至った段階で文言が修正されたのか」公式な説明があればいいですね。たしか平成26年会社法改正の折にも、監査等委員会設置会社における「取締役の利益相反取引に関する任務懈怠の推定排除の要件」に最終的な修正がかかりましたが(江頭「株式会社法」第5版577頁参照)、これもなにゆえか法文の修正がなされており、若干気持ち悪かったことを憶えております。今国会で成立するかどうか、まだわかりませんが、会社法改正法案の衆参両議院での審議状況を静かに見守りたいと思います。

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2019年8月 9日 (金)

社外取締役の義務付け法案(会社法改正)-取締役会決議の有効性への影響

8月8日の日経朝刊4面に「臨時国会召集-10月軸に 社外取締役義務付け法案など提出へ」との見出しで、秋の臨時国会に提出される予定の会社法改正案に関する解説記事が掲載されていました。今回の会社法改正案の目玉は(私個人としてはD&O保険の法制化、会社補償制度だと思いますが)「社外取締役の法制化」とのことで、会社法上の公開会社には社外取締役の選任が義務付けられます。有識者の間でも賛否ありますが、企業統治改革が進む中で法制化されることは間違いないでしょうね。

ただ、取締役会の構成員として「かならず一人以上の社外取締役を置かなければならない」と規定されますと、社外取締役不在の状態で取締役会で決議ができるのだろうか(決議は有効なのだろうか)・・・という極めて素朴な疑問が湧きます。そもそも社外監査役の場合には、そういったケースに備えて「補欠監査役」を選任したり、一時監査役を裁判所に選任してもらうことになりますので、もちろん「補欠社外取締役」を総会で決めておくこともできます。ただ、そうなりますと「社外取締役候補者を2名以上見つけなければならない」といったやっかいな問題も出てきますね。

先日のヤフー、アスクルの事例でも、社外取締役3名の再任が否決されて、社外取締役が一人もいない状況になってしまいましたので「アスクルで有効に取締役会決議ができるの?」(もちろん会社法改正後という仮定ですが)という「大問題」は普通に想定されるところです。社外取締役が(会社側と衝突して)途中辞任した場合などは、取締役会が開けるようになるまで「権利義務取締役」(会346条1項)として「辞めたのに賠償責任を追及されるおそれがあるので」役員会にだけは出席しなければならない、といった社外取締役側の大きな負担も想定されます。

法務省の会社法制部会では、社外取締役の義務付け規定の「補足説明」として、社外取締役がいない状態で行われた取締役会の決議も有効と解釈できる、社外取締役がいない状態について過料の適用はないと解釈することもできる、と示していました(会社法制部会第18回資料、要綱案の仮案2参照)。義務付け規定を無視して社外取締役を選任しない状態を放置している場合には(取締役会決議は)無効だが、たまたま不在になってしまったときに、選任の努力をしているのであれば取締役会決議は有効、という意味かと思われます。

また、法務省はどうもこの規定は「効力規定」ではなく「取締規定」の性質と考えておられたのではないかとも推測されます(取締規定であれば決議の有効性に影響ありませんが、ただそうなると過料の制裁は不可欠でしょう。現に、法務省担当者の発言記録を読みますと「過料の規定は入れざるを得ない」とされていました-第17回部会議事録参照)。

しかし、なにゆえ「社外取締役に欠員が生じた状態での取締役会決議が有効と解釈できる」のか、その根拠が不明です。また義務付け規定にもかかわらず、社外取締役を選任しない状態で過料も課されないのか、その根拠も不明です(効力規定だから?)。会社法制部会での学者の方々の意見も「社外取締役がいない状態での取締役会決議は無効」とされる方が複数いらっしゃいます。

これは私の意見ですが、取締役会決議の効力要件として「定足数」という概念がありますが(会369条1項)、この定足数というのは社内も社外も区別していません。したがって「社外取締役」なる概念は、そもそも効力要件とは結び付かない取締役の一属性であり、「置かなければならない」ことと決議の効力とは(定足数のような規定がないかぎりは)関連性がない、といった根拠が必要ではないでしょうか(かなり苦しいかな。。。)

解釈にゆだねるとしても、取締役の定足数(3人以上)に満たない人数での取締役会決議は無効とする最高裁判決もありますし(昭和41年8月26日)、会社法831条の総会決議の裁量棄却の規定についても、現在の社外取締役の役割からすると(瑕疵は重要とはいえない、として)軽々には援用できないと思います。そもそも補欠監査役制度が存在すること自体、社外役員の欠員が重大な瑕疵と会社法ではみなされる可能性がありそうですね。

私個人としては、社外取締役を法制度として義務付けること自体に問題があると思いますが、法制化されてしまうのであれば、社外取締役欠缺時の取締役会決議を有効とする結論が妥当ではないかと思います。ただ、(裁判で争われるにしても)その結論に導く法的な根拠が必要です。日本を代表する著名な法律学者の方々が「原則は無効」と発言されているわけですから「なぜ有効になるのか」「どのようなケースで有効となるのか」もう少し知恵を絞らなければ経済界での萎縮効果(やっぱり社外取締役を二人以上選任せんとあかんのかなぁ?)を一掃することは困難ではないかと。

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2018年9月 5日 (水)

会社法改正に向けた審議進む-社外取締役選任義務化の予感!?

関西地方の皆様はおわかりかと存じますが、台風21号、恐ろしかったですね。自宅の納屋が吹っ飛んでしまいまして(笑)、日ごろ「リスク管理」などと偉そうに語っていながら、自分の財産のリスク管理の杜撰さに情けなくなっております。皆様はいかがでしたでしょうか。

すでにいろいろなところで議論になっていますが、会社法改正に向けた審議が法制審議会で続いておりますが、直近の8月29日の審議では改正案(要綱案)のたたき台が示されたようです(法制審議会会社法制部会第16回会議の開催について)。

社外取締役の義務化(ただし会社法上の公開大会社であり、かつ監査役会設置会社に限る)については、いまのところ賛否両論が併記されている状況ですが、どうも法務省の作成した「たたき台」を読みますと法制化の流れが出来つつあるように読めますね。もちろん会社法改正を審議する場合には、経済団体経営者団体の意向がかなり重視されますので、いまだ確定というわけではありませんが、これだけ(立法事実として)大きな上場企業で社外取締役が複数選任されている状況の中で、「原則として企業の自主性に任せるべきだ」として反対する理由もないようにも思えます。前回の法改正の際に「附帯決議」もされていますし・・・

しかし平成26年改正の「社外取締役を選任しない会社は『(社外取締役を)置くことが相当でない理由』を開示せよ。ただし社外監査役が2名いる、というだけでは理由にはならない」というルールはちょっとイケてないですよね。

社外取締役の義務化を会社法で規律するとなりますと、1名以上とするのか、2名以上とするのかはわかりません。ただ、いずれにしましても「補欠取締役」を選任する必要がありますので(そうでないと社外取締役が欠員した状況で取締役会で決議ができないことになってしまいます)、各企業で「補欠社外取締役」候補者を探すことになりそうですね。

現在も補欠監査役さんは多くの企業で選任されていますが、補欠取締役さんはそれほど多くはないのではないかと。また、「補欠」とはいえ、社外取締役に就任することのほうが会社にとっても候補者にとっても(いろいろな意味で)リスクが大きいような気もいたします。中小の上場会社さんにとっても影響はありそうですが、それなりに大きな上場会社さんも、今後の会社法改正に向けた審議会の議論に注目しておいたほうがよろしいかもしれません。

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2017年6月19日 (月)

会社法改正審議と中小会社への改正法適用問題について

4月から始まった法制審議会会社法制部会の審議につきまして、先週末、第1回会議の議事録が公開されました。第1回は審議事項に関する論点の頭出し、各団体からの改正要望などが中心ですが、学者委員の方々の個別意見なども垣間見えて勉強になりますね(ちなみに日弁連提案も、第3回会議には提出されるものと思います)。

個別意見の中で、個人的にとても重要だなぁと思いましたのは、上智大学の松井智予先生、京都大学(大学院)の斎藤真紀先生(いずれも幹事)のご意見。このたびの会社法改正は、政府のガバナンス改革をバックアップする形で進むはずで、上場会社や非上場の大企業のガバナンスにはそれなりの影響が及ぶものと予想しています。しかし、そういった大企業向けの法改正が、中小企業にとってどのような影響が及ぶのか、中小企業にも適用を強制することがそもそも適切なのか、そのあたりもきちんと議論すべき、とのご意見を述べておられます。

たしかに委員の方々の御意見は、(改正審議の趣旨を忖度すればそうなるのでしょうが)大企業における企業統治のあり方を念頭に置いたものがほとんどを占めています。しかし、従業員がほとんどいないような家族経営の会社、大企業を実質的に支配する創業家の資産管理会社、大企業のグループ会社(M&A、分社化、等いろいろ)、他の大企業と株式を共同保有するJVなど、会社法の改正によって、それらの中小会社にどのような影響が及ぶのか、これは実務家にとっては興味のあるところです。

大塚家具さんや出光興産さんのように、資産管理会社のガバナンスの在り方が、上場会社の支配権を決定してしまうケースもありますし、松井(智予)先生が懸念されているように、上場会社向けのシステムを小規模会社が活用することで、少数株主を株式会社の経営から排除してしまう(会社経営の実態を見えなくしてしまう)ような「会社法の合法的悪用(濫用?)」も可能になります。また「働き方改革」は中小企業にも待ったなしで適用される時代であるにもかかわらず、人的資源に乏しい中小企業に、大企業と同等の会社法上のデュープロセスを要求することはとてもできないでしょう。

企業法務に関わる者としていつも自戒しているところですが、「100年ぶりの民法大改正!!」といっても、実際にはごくごく一部の人たちだけが関心を寄せているのが現状です。ましてや会社法改正というものは、さらにごくごく一部のマニアックな人たちの話題にすぎません(残念ながら「法化社会」という視点からいえばこれが現実かと)。中小企業の経営者の方々、少数株主の方々に、会社法改正の趣旨を伝えていかなければ、最高裁上告件数の半分が本人訴訟という現実、そしてそこに由来する最高裁の法形成機能の低下を是正することはむずかしいのではないかと。

その現実を踏まえたうえでの話として、(日本の株式会社の)わずか0.3%にしかすぎない会社法上の大会社(上場会社を含む)だけを念頭に置き、99.7%を占める中小会社への影響を考えないような会社法改正はありえないと思います。とくに最近は「裁判所におけるめんどうな実質判断を増やす方向での改正」には難色を示す最高裁の姿勢をみると、「誠実に経営をしているにもかかわらず、法律に無知だったために支配権を失ってしまった」といった中小会社関係者が増えることを危惧します。

上記第1回会議の議事録において、斎藤幹事が「法改正を必要とする(強制する)のであれば、これを受け入れる社会インフラの整備にまで目を向けるべき」とのご意見は、まことに正鵠を得ているものと思います。会社法の国策支援機能も大事ではありますが、やはり基本は会社関係者の利害調整機能なので、そのあたりを学者委員(幹事)の方々にぜひ頑張っていただきたいと思うところです。

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2017年4月 4日 (火)

会社法研究会検討課題以外の立法提案について(個人的な雑感です)

本日は会社法改正という「立法手続き」に関するお話なので、守秘義務もしくはエチケット違反に極力配慮しながら書かざるを得ないことをご了承ください。

私は数か月前に(コーポレートガバナンスに関連する)ある事項について、このたびの会社法改正審議(法制審議会会社法制部会での審議)に先立ち、立法提案をさせていただきました。ご承知の方も多いと思いますが、すでに(法制審議会に先立つ)会社法研究会での報告書が公表され、ほぼ会社法改正のための審議事項は固まっていると思われます。

ただ、会社法研究会での検討課題以外の立法提案についても、日弁連を通じて検討事項として取り上げるかどうか協議をする機会がありました。そこで、ある事項について、具体的な立法提案をさせていただきました。日弁連の対策委員の皆様には賛成意見、反対意見を多数いただきました。また、私なりの再反論なども提出させていただきまして、最終的には日弁連の正式な立法提案として、法務省との協議対象に採用していただきました(賛同意見、反対意見を含め、私の立法提案を真剣に審議いただいた日弁連委員の方々にたいへん感謝しています、どうもありがとうございました)。

抽象的な物言いで恐縮ですが、①法務省側の「会社法改正」に関する考え方(一般論として、どのような事態となれば法改正の必要性あり、と認められるのか)、②具体的な改正要望事項と現行の会社法法制とのバランス(他の条文の制度趣旨と整合性がとれるのか)、③法改正までしなければならないほどの実務上の不具合が、現行法上で立法事実として認められるのか(たとえばソフトローで足りるのでは?、利害関係者間での金銭的補償で目的は達成できるのでは?)といったことが相当クリアにならないかぎり、なかなか俎上には乗せてもらえない、という現実を認識いたしました。単純な「世の中の流れ、社会の変化」程度では(議員立法ならいざ知らず)法改正の審議の場にさえ乗せてもらえない、という高い壁を痛感しました。

具体的な結論は申し上げられませんが、率直に言って私の力不足でした。私の提案事項は、すぐにでも法改正の必要性が高いと思っておりますので、たいへん悔しいです。反省すべき点もあり、自分の能力がまだまだ低いことを認めざるをません。ただ、真剣に法改正に向けた手続きにチャレンジしたことで、いろいろと学ぶことはありました。とりわけ今後の公益通報者保護法の改正審議にあたり、条文化作業などにも自分なりの意見を述べたいと考えていますので、今回のチャレンジの結果をバネにして(政治的な風だけでは到底法改正はむずかしい)、手続きの厳しさを十分理解したうえで準備をしておきたいと思います(まずはファクトをきちんと提示できることと、現行法を誰よりも理解することを徹底する必要がありますね)。

 

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2016年2月15日 (月)

ガバナンス改革に反応する会社法改正と株式買取請求制度の整備

最近会社法が改正されたかと思ったら、法務省を中心に、もう次の会社法改正に向けての議論が始まっています(商事法務研究会における審議状況はこちらです)。研究会では社外取締役の義務付け、といった会社法附則25条に関連する論点だけが取り上げられるのかと思っていましたが、最近の会計不祥事に起因する検討事項なども含め、かなり広い範囲で「改正の是非を検討すべき事項」が含まれています(昨年7月に公表された経産省のガバナンス研究会報告-会社法解釈指針が基になっているものが多いようです。ちなみに前回の改正事項として最後に消えてしまった「金商法違反によって取得した株式に関する議決権行使禁止」に関する論点などは挙がっていないみたいですね。企業統治とはあまり関係ない、ということでしょうか・・・)。

結局のところ、アベノミクスを後押しする(日本再興戦略2015をバックアップする)法改正の趣旨が強いようで、上からも(ガバナンスの視点からも)下からも(株主による監視強化の視点からも)かなり「ゆるふわ」になってしまうことが懸念されるような内容です。いくら「攻めのガバナンス」が期待されているからといっても、2月12日のブルームバーグニュースで報じられているように、「形ばかりで実質が伴わないゆるふわガバナンス」となりますと、経営陣のモラルハザードを助長することが危惧されます。もしこのような方向で法改正が進むのであれば、韓国のように「法律参与(遵法監視人)制度」を導入するか、法律家の社外役員を導入することを検討しなければ、経営戦略的にもマズイことにならないでしょうかね。リスクを承知でアクセルを踏み込む勇気は良質なブレーキの存在が前提ですよね。

ところで上記研究会において、「おお!これは良い論点だ!」と個人的に思いましたのは「特別支配株主(又は一定の支配株主)に対する少数株主の株式買取請求権(セル・アウト権)を導入することについて」という検討事項です。株式会社は有限責任の株主で構成される法人なので、持分会社と比較しますと、株主の利益よりも(債権者の利益保護を中心とした)法人としての存続性が重視される傾向にあります。最近の会社法改正でも、株主の監督是正権が、やや後退しているように思います(今回の検討の中でも、たとえば株主代表訴訟の少数株主権化、訴訟委員会前置の是非等が検討されるようです)。株主による監督是正権行使への期待が薄れるとなりますと、法人からの離脱容易性が当然に問題になるわけでして、この時期にセル・アウト権の導入問題に光があたるのはタイムリーではないでしょうか。

また、非公開かつ取締役会非設置会社などでは、支配株主の横暴によって少数株主の利益が侵害されるケースが目立ちます。最近の東京地裁立川支部平成25年9月25日判決では、支配株主の横暴によって会社法109条2項の「属人的制度」が濫用された場合の支配株主による定款変更の効力を否定しています。法人の永続性を重視するのであれば、少数株主が適正な株式評価のもとで、法人から離脱する機会を法制度として保証すべきではないでしょうか。一般的には株主総会の決議取消訴訟を提起したり、会社解散の訴えを提起して、その訴訟の中で裁判所の和解的解決を目指すわけですが、きちんとした手続き的保障がないと公正な価格で少数株主が離脱することができないのが実態です。これはぜひ取り上げていただきたい論点です。

なお、話は変わりますが、これだけ「攻めのガバナンス」を支援する法改正が検討されるのであれば、非業務執行役員が活躍できる環境整備についても検討していただきたいところです。たとえば社長と対決できる監査役さんの環境整備については、監査役の地位を喪失しても違法行為の是正に向けた権限を喪失しないこと(たとえば監査役としての地位喪失後も株主総会の決議取消訴訟における原告適格を喪失しないこと-株主はすでに法改正がされましたね)、監査役解任決議が争われる株主総会における検査役選任申立権の付与、といったことは法改正が検討されてもよいのではないでしょうか(実際、立法事実もあります)。次回の法改正では無理としても、今後の検討課題にしていただきたいところです。

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2015年7月24日 (金)

経産省の企業統治解釈指針は攻めるため?守るため?

(7月24日夕方 追記あります)

東芝事件に関する一連の報道の中で、とても気になるニュースが各紙で報じられています。近々に(今週末にでも?)経産省が改正会社法に伴う解釈指針を公表するとのこと。たとえばこちらの産経新聞ニュースによりますと、東芝事件を契機として、上場会社のガバナンス構築が「仏作って魂入れず」にならないように、その実効性を図るための指針を(経産省が)示すと解説されています。まさに「守りのガバナンス」を機能させるための会社法の解釈指針が示されるような書きぶりです(たぶん他の新聞社の論調も、ほぼ上記の産経さんの論調と同様ではないかと記憶しています)。

しかし(私の理解が間違っていたら訂正しますが)、今回の経産省の解釈指針の公表は、むしろROE8%を超える成長戦略を実行するための「攻めのガバナンス」を実現するためのものではないでしょうか。おそらくこちらのコーポレートガバナンス・システムの在り方に関する研究会議事録が参考になると思いますが、この研究会における審議内容からしますと、たとえば社外取締役は「攻めのガバナンス」の一翼を担う者としてどのように活躍すべきか、という点が示されるはずです。また迅速な経営判断が可能となるよう、取締役会の審議事項を絞って、大幅に権限を経営者に委譲しましょう、といった議論もさかんに行われているようです。

この「東芝ショック」と世間が騒ぐタイミングで会社法解釈指針が出るということで当然懸念されることですが、機野さんがコメント欄でおっしゃっているように、いま政府が推進している攻めのガバナンスを実行する先には、今回の東芝事件のような結果が待っている・・・という見方も出てくるのではないでしょうか。いや間違いなく、そのような意見も素直に出てくると思います。東芝事件の第三者委員会は意図的に「短期の利益追及のプレッシャーが要因」という言葉を使い、「中長期の持続的成長を図るためのガバナンス」を目指す攻めのガバナンスとの矛盾が生じないような書きぶりが見て取れましたが、どうもそれだけでは説明がつくものでもないように思えます。現に、本日から始まった経団連の夏季セミナーでは、メーカーの社長さんから(東芝事件を受けて)「これでは社内の数値目標を強調することがむずかしくなってしまう」との声が出たと報じられており(こちらのニュース)、企業の攻めの姿勢に東芝ショックがどれほどの影響を及ぼすのか、その波及が懸念されます。

執行と監督の分離を推進すれば、それは執行から報告が来ない限りは不正を発見できなくなってしまうということになります。社外取締役が経営の重要事項だけに絞って審議に参画すべき、ということになれば、そもそも重大なリスクがどこにあるのか把握することも困難になります。経営のスピードを上げるため、非業務執行役員が経営陣の業績を評価するため、そして投資家が「モノ言う株主」としての活動を容易にするための解釈指針が公表されることを期待しているのですが、今回の東芝事件によって、このあたりの指針公表の趣旨にはブレは生じないのでしょうか。

私自身は、拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の中で一章もうけて、攻めのガバナンスと守りのガバナンスを分けることは適切ではなく、攻めの工夫によって守りも充実しますし、守りの工夫によって攻めに貢献できることを(問題提起として)書かせていただきました。このたびの経産省解釈指針では、(たとえば取締役会の在り方に関しては)リスク管理と企業価値向上への貢献をどのように両立させるべきか、またその両立の工夫をどのように株主に示すべきか、そのあたりが指針の中で分かりやすく解説されていればいいなぁと期待しているところです。

追記:経産省のHPにて本日、 「報告書」としてアップされましたね。ガバナンスに興味のある方はぜひご一読を!

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