2012年11月21日 (水)

アコーディアゴルフ株へのTOB「たかが20%、されど20%」

(21日午後 追記あります)

アコーディアゴルフとPGMといえば、今年6月の「24時間を超える株主総会」で委任状争奪戦を繰り広げた同業者ですが、いよいよ第2ラウンドが勃発したようです。11月15日にPGM側が株式公開買付(TOB)の公告を行い、前日値の株価に50%のプレミアムを付けて一般株主から株式を買い付けるとのこと。これに対して11月20日、アコーディア側としては、金商法上の(TOBに賛同するかどうか)意見表明は未だ行っていないものの、PGM側の主張事実に認識の相違があるとする説明を開示しています。

アコーディア側がTOBへの意見を表明するためには、おそらく同社の社外取締役や上場規則上の独立役員(同社では社外監査役)の意見、そして外部第三者の評価結果などを参考にしなければならないでしょうから、そういった意見等を待って、必要があればPGM側に質問をしたうえで開示する、ということになると思います(しかし同業者による敵対的買収といえば、王子・北越のバトルがなつかしいですね)。

すでに「一個人株主」さんよりコメントをいただいておりますが、なぜTOBによる取得予定株数の範囲が下限20%、上限50,1%なのか、というのは私にも実はよく理解できないところです。上限50、1%というのは、東洋経済ニュースにおけるPGM社長さんのインタビューにもあるように、今後の経営統合まで企業価値の推移を見守りたい、という一般株主さん方は、そのままお持ちいただいて結構です、というPGM側の余裕の姿勢なのかもしれません(ただし、取得のための資金が不足しているのでは?という見方もできるかもしれませんが・・・)。

いっぽうの下限20%ですが、これはプレミアム50%上乗せということと併せて「なにがなんでもTOBは成立させたい」というPGM側の強い意思の現れではないでしょうか。しかし一般に経営に関与するためには、最低でも(重要な経営判断に拒否権を持ちうる)34%程度を取得することが目的とされるので、なんで20%なのか、20%で何ができるのか、という疑問もわくかもしれません。いくらPGM社の親会社が80%の株式を保有しているとはいいましても、多額の買収資金を投入してまで、20%の株式を取得するメリットがどこにあるのか、持分法適用会社となること以外にも合理的な説明が必要となるのではないでしょうか。

たしかにベンチャー事業等において、株式に流動性がない場合や株主間契約を締結する場合のように、元々経営の安定性が図られているケースでは、35%が重要な意味を持ちます。しかし、アコーディア社のように株式の流動性が高い上場会社の場合には、20%(関連会社等を含めれば23%ほどではないでしょうか)というのも相当な威力になるのではないかと。これはヤクルト本社とダノンとの攻防を見ていても明らかでして、20%のヤクルト本社株式を取得しているダノンに対して、ヤクルト本社がたいへんな交渉を続けているところからも頷けるところです。

ましてや、6月の委任状争奪戦で、PGM側(オリンピア側)としては、一般株主のPGM社に対する賛同は、そこそこ得られるとの確信を得たのではないでしょうか。最低でもTOBで20%を取得すれば、十分に経営に関与できるとの予測があるものと推測いたします。例のトライアイズの元監査役さんのケースように、会社側が、わずか22、2%の株式を自由にできるだけで特別決議の必要な監査役解任決議を通してしまえるのです(1/3×2/3=0,222)。それだけでなく、機関投資家等の他の大株主への発言権も強くなりますし、第三者割当増資等に対して(主要目的ルール等により)法的に有利な立場にもなれます。現実の株主総会を念頭に置いた場合、この20%というのは、かなり意味があるのではないかと思われますが、いかがなものでしょうか。

なぜ下限が20%なのか、会計ルールの適用や実質影響力以外に、もっと根源的な理由がございましたらご教示ください。本件のようなM&Aネタは、専門家によって関心事が異なりますが、ガバナンスの視点からすると、アコーディア社の社外取締役や独立役員という立場であえば、どのようにふるまうべきか、興味のある視点から、またいろいろと眺めていきたいと思っています。

追記:masakoさんのコメントから示唆を受けましたが、通常は事前警告型の買収防衛策は20%以上の大規模買付行為によって発動されることになりますが、これと関係あるのかもしれませんね。先にとりあえず20%以上の株式を保有してしまえば、たとえ経営権を取得できなくても、防衛策がなければ交渉を有利に展開できるのではないか、との狙いかもしれません。いまのところアコーディア社は買収防衛策を導入していませんので、今後の防衛策導入をけん制することが目的、というのは有力な考え方かと思います。

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2012年5月23日 (水)

アコーディアゴルフの乱(その3-現経営陣、次の一手は?)

完全な野次馬モードに入ってしまって、どうしても気になってしまうのがアコーディアゴルフのコンプライアンス問題→事業統合問題の成り行きであります。PGM社長さんの東洋経済インタビューや、現社長の退任を含めた昨日(5月21日)の会社側リリースなど、話題は尽きません。業務執行取締役候補として株主委員会側から推薦されていた3名の方々が、株主提案が通ったとしても取締役には就任しません、と回答されているそうですので、株主委員会側の次の一手も気になるところでありますが、代表取締役が交代した現経営陣の次の一手も気になるところです。

アコーディア社の新社長さんの記者会見によると、PGM・オリンピア側への買収防衛策として第三者割当増資も検討している(選択肢のひとつ)と述べておられるそうです(記者会見を報じるニュースはこちら)。現アコーディア社にホワイトナイトが登場するのかどうかも不明でありますが、そもそもPGM社長さんが「委任状争奪戦も辞さず」と述べておられる時期に、第三者割当増資による買収防衛というのは法律上大丈夫なんでしょうか?基準日以降に株式を取得した者による議決権行使の可否が問題となるところです。

たしかに2010年9月、東証マザーズ上場のアクロディア社は、基準日後に第三者割当を行い、その割当先の株主に定時株主総会における議決権を付与しております(具体的には、取締役会決議により割当相手先に議決権を付与したと公表。実際に議決権は行使されたようです)。したがって定時株主総会までに第三者割当を行い、その相手方株主に対して議決権を付与することは会社法124条4項の趣旨を援用して法律上も可能なのかもしれません。

会社法124条(基準日)

4 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。

しかし株主総会の目前、会社支配権の争奪が生じることが予想される場面において、取締役会の多数派が自派に第三者割当ての方法による株式発行を行ったうえで、議決権の行使を認めることについては「違法になる可能性がある」(江頭「株式会社法 第4版」208頁)とされています。そもそも、そのような株式発行自体が「著しく不公正な方法による」ものとして差止めの対象となるのか、それとも議決権を付与する取締役決議自体が株主平等違反によって無効となるのかは迷うところでありますが、いずれにせよこの時期における第三者割当増資は買収防衛目的で行うにはリスクが高い、ということだろうと思われます。

本件は委任状争奪戦が予想されますので、どちらの側も好感度をアピールしなければなりません。一個人株主さんがコメントで述べておられるように、「これまで現経営陣側の社外取締役は何をしてたんだ?3人もいて結局コンプライアンス問題を指摘できなかったではないか。これなら、今後も同じじゃないのか?」という意見ももっともかと。おそらくそのあたりを大株主側は一般株主に対して強く主張されることになるでしょうね。また、昨日のPGM社長さんのインタビューにあるように、「我々は会社を乗っ取って、アコーディアを意のままにしようとしているわけではない。あくまでも株主共同利益を向上させることをきちんと監視できる人を推薦しました。今回の社外取締役推薦者の顔ぶれを見てください。私たちの意のままになるような人なんか誰一人いないでしょう?」(・・・・ん、そのあたりはなんとも・・・笑)とおっしゃっているのも一般株主へのアピールかと思われます。

株主委員会側としても業務執行取締役の候補者がいない・・・・・という問題は結構大きいように思います。特に一般株主へのアピールとしては苦しいはずです。大株主側から落下傘部隊で・・・ということになると、結局は「乗っ取り」というイメージが強くなるわけで。このあたり、大株主側の次の一手もたいへん興味の湧くところであります。

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2012年5月18日 (金)

アコーディアゴルフの乱(その2-真価問われる社外取締役の独立公正性)

一昨日に引き続き、アコーディアゴルフ社の事例を取り上げたいと思います。前回は同社の株主優待制度と会社法120条をテーマとしましたが、今回は社外取締役の活動についてであります。現経営陣に対立する大株主サイドの質問状において、なぜ社長のコンプライアンス違反を(当時の)コンプライアンス委員会委員長に告発した際、アコーディアゴルフ社は「第三者委員会」を設置しなかったのか?という疑問を投げかけておられます。また、社長のコンプライアンス問題を告発した専務の方も、社長に対して強く第三者委員会の設置を求めたにもかかわらず、これを一蹴された、とのこと。会社としては、社内の不正調査のために、同社の社外取締役らで構成される「特別コンプライアンス委員会」を設置し、同委員会が社長だけでなく専務の不正も認定した調査報告書を提出しました。

さらに、特別コンプライアンス委員会の調査報告書を受けて、来る6月の定時株主総会において会社側上程にかかる取締役・監査役の人選にあたっては指名委員会(社外取締役および社外監査役のおひとりで構成されています)を設置し、この委員会の指名を尊重した選任議案を総会に上程するそうであります。なお、大株主サイドとしては、ご承知のとおり、すでに「大物ぞろい」の取締役、監査役選任に関する株主提案書を提出済みです。近々大株主側において、株主説明会も開催される予定だとか。アコーディアゴルフ社はいま正に有事の真っただ中にあるわけですが、そこで社外取締役の方々が上記のとおり重要な役割を担っておられます。こういった事態において、社外取締役の方々は独立公正な立場で「株主共同利益」のために行動することは果たして期待できるのでしょうか。

なお、一昨日と同様に、株主委員会サイドに立ってのお話だとおもしろくないかもしれませんので、ここはあえて現経営陣側に味方をするような内容で検討してみたいと思います。

社長ご自身のコンプライアンス違反が問題視されているわけですから、社長にモノ言える立場の方といえば社外役員以外には存在いたしません。しかし(大株主サイドが指摘しておられるとおり)社外取締役が不正発見や追及の場面で実効性が認められなかったオリンパスの事例などからみても、その実効性に疑問を抱くケースも出てきます。そこで第三者委員会の設置を求めて、公正な立場で調査を遂行することを大株主側が会社に要望することも十分に考えられるところです。

しかし、会社との利害関係が存在しない、といったことからすれば、たしかに第三者委員会のほうが独立公正な調査が期待できそうにも思えるわけですが、この「第三者委員会」というものも、一概に公正とは言い切れないところがあるのはご承知のところかと思います。しょせんは現経営陣が委員の人選をして、その委員の報酬もすべて会社側がねん出します。そのような状況で第三者委員会を構成しても、本当に独立した立場で不正調査が行われるのかどうか、ということについては疑問符がつくところかと(そもそも、こういった場面を想定してACFEの公認不正検査士が存在します。また関西には大阪弁護士会と公認会計士協会近畿会が共同で立ち上げた第三者委員会名簿登録人推薦制度も存在します)。いずれにしても、果たして大株主サイドが期待されるような調査に疑問が残る以上は、社外取締役の調査に期待しても特に問題ないのではないか、と考えるのでありますが、いかがなものでしょうか(ただし社外取締役のなかに事実認定や財務会計に精通した方がいらっしゃれば望ましいのは当然ですが)。とりわけ第三者委員会はその調査結果については責任を負いませんが、社外取締役は善管注意義務をもって不正調査にあたることが必要です。会社や株主に対して訴訟リスクを負担する分、社外取締役らで構成される調査委員会についても、独立公正な立場で調査が遂行されるものと期待してもよろしいのではないでしょうか。

つぎに社外取締役らが調査委員会を構成し、その結果報告がなされた後、引き続き指名委員会の委員に就任されていますが、これはどのように考えればよいのでしょうか。この点、大株主側からは5月10日付けにて、「結論先にありき」の「茶番劇」と揶揄されており、大いに疑問だと指摘されています。また、大株主から株主提案権が行使され、ガバナンスに大いなる疑問があると主張しているのだから、大株主側が推薦する取締役・監査役候補者についても、ヒアリング等によって会社側選任候補者のひとりとして審査することを強く求めています。

正直、この点は現経営陣側の行動については強く疑問が残るところかと思います。不正調査を行った社外取締役の方々が、そのまま調査結果も考慮したうえで新たな役員の選任を行う、しかもその選任判断には委員会設置会社とは異なり取締役会への拘束力がない、というのは外観的にみて恣意的な運用の疑いがもたれるのではないでしょうか。そもそも指名したい者が存在する場合、その者を不正調査のうえで、いかようにも判断できる立場にあり、大株主サイドが懸念するような事態も生じます。社外取締役の方々が、本当にこれからの企業価値を向上させるに足りる人を選任したいと考えたのであれば、その方に対して手心を加えない不正調査はできるでしょうか。

ただ、社外取締役が総会で選任された以上は、企業が有事に至ったとき、新たな役員候補を指名するなど喫緊の課題に対応しなければなりませんし、これは株主からも期待されるところです。適切な役員を指名するにあたり、その役員候補者の過去の行動を記録から認識することも重要かと思います。だとすれば、不正調査への期待と役員指名への役割が併存することについては、現在のアコーディア社が有事対応を必要とする段階にあることを考えれば、あながち「誤り」とまでは言えないものと考えます。要はこういった疑惑を跳ね返すだけの倫理観が社外取締役には求められる、ということかと思いますし、現経営陣からの独立性をどのように株主にアピールできるのか、今後の対応に期待してみたいと思います。

ところで、社外取締役と大株主との対立・・・というわけではありませんが、監査役会が設置した第三者委員会と、取締役会が依頼した第三者委員会が対立する、といったことが実際に上場会社で発生していますね。第三者委員会制度が広く活用されるにしたがって、いつかはこういった事態が出てくるのではないかと予想しておりました。また来週ご紹介したいと思います。

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2012年5月16日 (水)

アコーディアゴルフの乱(その1-株主優待と利益供与)

企業コンプライアンス・内部統制・ガバナンスに関連する事件として、最近注目されているのがアコーディアゴルフの乱であります。当初、東証一部のアコーディア社の内紛かと思われていた事件が、実は(この内紛は)別のゴルフ場運営会社による買収(事業統合)に絡むストーリーの一環である、との話が浮上してきました(週刊東洋経済における金融ジャーナリスト伊藤歩氏の記事が参考になります)。しかも、その渦中に法曹界の大物の皆様方が役員候補、リーガルアドバイザーとして多数登場されることも重なり、内容が興味深くなるにしたがって、到底私のような一介の法律家がコメントできるような「かわいい事件」とは言えなくなってまいりました。

アコーディアの現経営者に対立する大株主オリンピア社は、アコーディアゴルフを変えよう、をモットーに「アコーディア・ゴルフ株主委員会」を設立し、HPを立ち上げ、会社側からのリリースに対抗するリリースを毎日のように発信しておられます。私の周辺では、どうもオリンピア側に賛同される方が多く、アコーディアの現経営陣に好意的な見方をされる方が少ないのが現状です。もうアコーディア現経営陣側としては、出すものは全部出しちゃったのでは?といった感想を漏らす方もいらっしゃいます。

オリンピア側に有利な見方をされる方々には申し訳ないのですが、そのような見方に同調してしまっては、このブログのおもしろさは全くありません。ここはむしろアコーディアの現経営者側にとって有利な事情を探ってみたいと思います。

ところで、オリンピア側(株主委員会)が5月15日付けにてアコーディア社取締役指名委員会宛てに送付した書簡によりますと、オリンピア側としては、アコーディア経営陣側が4月下旬に突如、株主優待制度を公表したことを問題視しておられます。この時期の株主優待券の配布行為は、会社法120条1項によって禁止されている「株主への利益供与」に該当するものであり、刑事罰にも匹敵するコンプライアンス違反である、とのこと。6月の定時株主総会に向けて、大株主から株主提案権が行使された直後に、会社側が株主優待制度(3000円相当のゴルフ施設利用券)を公表したのは、現経営陣にとって株主総会を有利に進めることを目的としたものであり、平成19年のモリテックス事件判決の趣旨からみても会社法が禁じている株主への利益供与に該当する、といった内容です。

本件につきましては、最終的にはプロキシーファイト(委任状争奪戦)による力関係で決着がつくものだとは思いますが、なるほど、会社側の株主優待制度に関するリリースを読みますと、保有株式に応じて株主優待券を交付しますとあり、この時期に優待内容を決定したとなりますと、アコーディア・ゴルフ株主委員会のおっしゃるとおり、かなり問題があるようにも思えます。

ただ会社法120条1項は「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない」と定めるものであり、たとえば議決権行使にあたり財産上の利益を供与した場合にはこれに該当することはモリテックス事件で東京地裁が述べたとおりです。しかし今回は、すべての株主に対して、しかも保有株式数に応じて優待券を配布する、というものですから、「議決権を行使する株主」といった特定株主を対象としたものではありません。したがって、これを120条1項の「株主の権利の行使に関し」と言えるかどうかは微妙です。モリテックス事件判決では、とくに会社側、株主側どちらの提案に賛成するかは関係なく、会社の現経営陣側が議決権を行使することを条件に500円相当のクオカードを贈呈することが「利益供与」と認定されました。そこでは「株主の権利の行使に関し」という文言の解釈は特に問題にはならず、原則として「利益供与」に該当するものの、例外的に「利益供与」に該当しない「正当理由」があるかどうかが詳細に検討されています。アコーディアの事案では、そもそも「株主の権利の行使に関し」といえるかどうかが問題となるものですから、モリテックス事件が参考となる事案といえるのかどうかは微妙です。

次に、この会社法120条は会社に対する禁止行為とともに、利益供与が行われた際の関係者間の民事上の権利義務関係を規整したものですが、同法970条では、株主への利益供与に関与した者に対する刑事罰が設けられている、ということをどう考えるのか、という問題です。120条の文言を緩やかに解釈してよいか、という点です。会社法970条では利益を供与した者だけではなく、(情を知っていながら)利益を享受した者に対しても刑事罰が課されています。刑事罰が課されるわけですから、「株主の権利行使に関し」なる条文の解釈にも罪刑法定主義による明確性が求められます。さらに970条では、特定の利益享受者が処罰対象者として予定されていることも重要です。もちろん民事と刑事では条文の解釈を異にしても理屈の上では問題ないかもしれません。しかし、120条と970条の文言を別々に解釈する、というのはいかにも美しくありません。モリテックス事件判決が、「原則として利益供与に該当する」としながら、「例外的な場合」として利益供与に該当しない特別な事情を慎重に検討したのも、こういった970条と120条1項との関係があるため、と解されます。970条が存在する以上は、120条1項の「株主の権利の行使に関し」なる条文も、文言に忠実に厳格に解釈するほうが妥当なのではないかと思います。

最後に、アコーディアの一般株主に対して、現経営陣の上程議案に賛成してもらうことを目的とした「人気取り」のための施策ではないかとの疑問が生じます。そもそも会社法120条1項が「株主への利益供与」を禁じている趣旨は、(昔は総会屋対策と言われていましたが)会社運営の公正性、廉潔性を維持するためと言われています。大株主と現経営陣が対立する構図にある状況で、来るべき総会で(一般株主の方々に)現経営陣の味方になってもらおうといった目的で会社資産をばらまいたのであれば、会社運営の公正性・廉潔性といった視点からは問題かと思われます。しかし、アコーディア現経営陣側からのリリースによりますと、従来からも株主優待制度は採用していたのであり、昨年は震災直後ということもあり差し控えていたとのことです。また(これはそれほど説得的ではありませんが)次年度以降も同様の優待制度を続ける、と公表しています。つまり、こういった株主優待制度が特別に実施されたものではなく、長期保有のために株主へのサービスの一環として行われていたのであれば、単なる人気取りのために行ったとは言えないのではないでしょうか。

ほかにも監査役選任に関する問題点や従業員からの賛同の意思表明に関する問題など、この事件には興味深い論点が「てんこもり」ですが、明日は(明後日かもしれませんが)「その2」としまして、社外取締役さん方に焦点を当ててみたいと思います。アコーディアゴルフ社の社外取締役の方々が、この騒動の中で前半戦の主役を演じているわけですが、社外取締役は果たして自社の不正調査を公正に行えるのか、第三者委員会に任せるべきではないのか、といった論点に踏み込んでいきたいと思っております。

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