2023年9月 1日 (金)

ジャニーズ事務所問題-各放送局の声明は海外動画配信事業者に通用するだろうか?

金融庁の企業会計審議会(内部統制部会)の委員としては、改訂「Q&A」が公表されましたので、そちらへの意見を書きたいところですが、これはまた別の機会として、8月30日にジャニーズ事務所問題-「ビジネスと人権」に対する日本企業の本気度はいかに?、なるエントリーを書きましたが、本日はその続編です。その後、株式会社ジャニーズ事務所のHPで公表されている調査報告書(公表版)を読みましたが、報告書の52頁以下において、

ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる

と「メディアの沈黙」について指摘があります。そしてこの「マスメディアからの批判を受けることがない」理由として、その前の部分で

テレビ局をはじめとするマスメディア側としても、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道すると、ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧から、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられる

との評価が示されています。つまり「マスコミの報道不作為が性被害少年の数を拡大させてしまった可能性が高い」とあるので、テレビ局を含むマスコミの声明では「性暴力は絶対に許されない」「今後のジャニーズ事務所の動向を見守る」としていますが、なぜ性加害を助長するような不作為に至ったのか、今後はそのような不作為を二度と起こさないためにどのような体制を構築するのか、(声明だけで終わることなく)その検証作業が必要ではないでしょうか。

これは単に素朴なコンプライアンス経営の視点から、というわけではなく、テレビ局等の「ビジネスと人権」に関連するリスクマネジメントの視点からの問題提起です。とりわけ民放テレビ局は各局ともスポンサー収益だけでは事業を継続することは困難になりつつあり、今後はネットフリックスやアマゾン、ディズニー等との共同制作、つまり通信事業におけるコンテンツ収入によって事業を継続させることが不可欠なはず。ということは、今後エンターテインメント番組を海外事業者と共同制作するにあたり、ジャニーズ事務所のタレントを使うことについてどのように説明をするのでしょうか。海外諸国からみれば(言葉は厳しいですが)児童虐待(人権侵害)を容認する団体と捉えられてしまいます。

事業上のリスクマネジメントの一環として、大手メディアは海外の巨大事業者がどのようにジャニーズ事務所問題を取り上げるのか、そこに注視することが求められるように思います。海外動画配信事業者は、おそらく相当厳しい姿勢で当該問題に対処することが予想されます。

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2013年4月12日 (金)

喫緊の課題である国際企業不祥事リスクへの対応

本日(4月11日)、大手町の日経ホールにて、国際企業不祥事への対応に関するセミナーを聴講してまいりました。アメリカのファームに勤務される日本人弁護士、公正取引委員会の担当官の経歴をお持ちの弁護士、そして欧米で実際に企業不祥事対応をされている外国人弁護士の方々によるもので、主に企業の反トラスト法違反、FCPA事例に関するものであります。国内企業の不正リスク評価において、いま最も検討しておかなければならないのが反トラスト法、FCPA(海外公務員へのわいろ供与)ということで、この貴重なセミナーはぜひ拝聴しておきたいと思い、わざわざ東京まで出かけてまいりました。コンプライアンス関連の問題に詳しい同業者の方もちらほらお見えになっておりましたし、予想どおり満席の盛況ぶりでした。

3月ころから日経や朝日でも報じられておりますとおり、すでに日本企業の幹部職員10数名がアメリカで禁固刑によって服役している、というのが衝撃的ではありますが、これが現状なのであります(たとえばこちらのニュース記事を参照)。米国における反トラストの摘発は約半数が日本企業というのも衝撃的。みなさん、企業戦士として最前線で海外勤務をされている中、米国司法省から反トラスト法違反として捜査対象となり、司法取引の末、企業の更なる事業拡大と引き換えに服役の道を歩むということであります。もちろんアムネスティ・プラン(リニエンシー制度)によって徹底的に司法省への捜査協力に尽力し、刑事免責を受ける企業も出てくるのでありまして、なんとも複雑な心境です。

(これは私の推論ですが)国際不祥事リスクが日本企業に伝わりにくいのは、日本の公取委によるカルテル捜査の着手については適時開示がなされる一方で、米国や欧州諸国からカルテル捜査が開始されたとしても、その後の司法当局との複雑な手続きゆえに訴追に及ばないケースも多く、いずれの企業も適時開示の対象とはしていないからだと思われます。しかし、たとえ正式な訴追に及ばないとしても、有罪答弁合意等によって企業にとっては重大なリスクが現実化することも多いので、このあたりは今後、証券取引所ルール等でも問題になってくるのかもしれません。

(これも私の感想として書かせていただきますが)とくに日本企業として学んでおかなければならないのは、①国際不祥事リスクとしての平時の対応(コンプライアンス・プログラム)と②危機管理としての「司法妨害罪」の適用やペナルティ・プラス制度、③サピーナ(証人召喚令状、証拠物提出命令状制度)④子会社や販売代理店におけるコンプライアンスプログラムの浸透であります。たとえリニエンシーが適用されなくても、その後の司法取引や量刑プログラムにおいて平時のコンプライアンスプログラムの運用はかなり重要であります。外国人弁護士の方のお話では、(最近の海外案件ではありますが)社員がカルテルに関与していた事案において、当該会社が厳格なプログラムを励行していたがために、法人としての罰金は科されなかった例があるそうです。これは刑事免責の話だけではなく、その後の民事責任追及の場面でも影響が出てくるものと思われます。また、司法省から捜査が開始された時点において、関連証拠を隠ぺいしたり、廃棄してしまうことが多いようですが、これが経営者による指示によることが判明した場合、司法妨害罪ということで極めて重い二次不祥事を構成してしまう、とのこと(実刑の可能性もあるようです)。手続き重視の思想が日本には根付いていないために、国内の役職員にとって重要なポイントだそうであります。

さらに我々弁護士にとって重要なことは、秘密特権に関する知識を理解しておかなければ会社にとって極めて不利な状況を出現させてしまう、ということであります。これは日本の弁護士の方からお話が出ておりましたが、アメリカでもカルテル事案等では社外調査委員会が構成されることがあり、そこでの秘密特権の確保の工夫が活動の実効性を左右するようであります。ということで、日弁連第三者委員会ガイドラインによる第三者委員会とは違った形での第三者委員会の活動が(海外対応のためには)必要になってくるのかもしれません(これを「第三者委員会」と呼べるかどうかは、また検討する必要がありますが)。

一昨日のエントリーで述べたように、不正リスクは経営判断にはめこまれています。(たとえば新興諸国へ進出するためには、どの程度のFCPAリスクを甘受すべきか等。これがビジネスの現実論ではないかと。しかし、まだ日本ではリスク認識がかなり甘いように思われます。)したがって国際不祥事問題は、ベストプラクティスを実現するための専門弁護士の領域と、経営判断の際に経営者に説明をしたり、平時のリスク管理を実施するためのリーガルコンサルタントの領域が求められます。ということで、管理部門の役員クラスの方々には、ぜひともコノテのセミナーを受講されることをお勧めいたします。

日経新聞編集委員の方からの質問に対して、外国人弁護士の方が「カルテルで捕まって服役が決まったからといって解雇する?とんでもない!社員の生活を最後まで守ってやるべきだ。服役中の生活費を支給していた企業もあるのだ」との発言は(良い悪いは別として)なんだか日本人の考え方に合致しているようで、少しほっとしたような気がしました。なお、エラそうな物言いで恐縮ですが、ひとつだけコンプライアンスに関心のある弁護士として物足りなかったのは、一流企業の幹部職員がなぜカルテルに及んだのか、その原因分析が全くなかったことであります。誰でもカルテルの脅威については知悉しているご時世、どうしてかくも安易にカルテルに至ってしまったのか、そこには様々な営業戦略における人間模様があるはずです(たとえば同業他社との貸し借りの問題、他者との別件での紛争が発展した形での価格合意、販売地域の確約等)。そのあたりの分析(いわゆる「不祥事の芽」)が今後の我々の仕事なのかな、と思ったりしていました。

さて、私がこのセミナーに参加させていただいたのは、FCPA等のリスクが喫緊の課題であることだけでなく、今後の金融行政にも同じようなアプローチが出現する予感がするからであります。すでにアメリカではFCPAの捜査権限を証券取引監視委員会が保持していますが、日本においても近時は「検査妨害罪」などを駆使して行政捜査の円滑化を図る流れが出てきております。海外協力がさかんになっているのも競争法コンプライアンスの領域と全く同一であります。行政規制の在り方と、そこへの法律や会計の専門家の関与、というまさに私の関心分野にも関連する問題だと思っております。そのあたりは、また別途エントリーで触れてみたいと思います。

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