若い頃は少年事件も家事事件もたくさん担当していましたが、「虎に翼」を視聴していて「家庭裁判所の5つの性格」というのを(恥ずかしながら)初めて知りました。我々は先達が失敗を繰り返して築いてきた知的資産を「当然の道具」として仕事に活用していることを思い知らされます(自分たちは将来の法曹に何を残せるのでしょうか)。
さて、6月15日の日経ニュースでは、不適切な情報共有により証券取引等監視委員会から処分勧告を受けた三菱UFJグループにおいて、不正な情報共有への対策として人工知能(AI)での通話記録の検査が検討されている、と報じられました。本日の朝日新聞ニュースでは、すでに関連証券会社の「主幹事はずし」が始まっており、「顧客本位の営業」とは言えない不祥事、しかもグループ経営のトップに近い方々にも問題行為があったとされる不祥事が業績に及ぼす影響はかなり大きいようです。
上記のとおり、三菱UFJグループとしては、「同じ過ちを二度と繰り返さない」として、徹底した不祥事予防措置を採用するようです。早期発見・早期是正では足りない、不正は事前に防止すべきとの思想による対策です。品質不正に関する調査委員会の活動でも感じるところですが、たしかに不正をしたくてもできない体制を構築している工場だったり、米国のIT大手が取引先のケースのように「不正の疑惑を当社が認めた場合には、当社の不正調査専門家の徹底した監査を容認する」との条項を巻いている製品分野の場合等は、本当に不正が起きる確率が低いですね。
ただ不祥事防止・事前予防主義による再発防止策は、その対応に人的・物的資源をたくさん必要とします。とくに、最近は「長寿商品」が少ないので、製品のモデルチェンジが速くなればなるほど、この事前予防策にもたくさんの資源を投入することになります。また、そうは言っても不正は完全に防止できないわけですから、現場で不正が発見された場合には「見てはいけないものを見てしまった」ということで当然のことながら本社には隠します。
一方「不正はどんなに頑張っても再び起きる」という前提で早期発見・早期是正による再発防止策を重視するケースでは、日ごろの事業活動へのストレスは少ないので費用は低額に抑えることが可能ではありますが、人に依存する措置がメインとなるので組織風土が変わらなければ再び同様の不祥事を繰り返し、さらなる信用毀損に陥ります。要は現場の情報がどれだけ早く正確に本部に届くか、というところが生命線となります。
昨今の企業不祥事発覚企業の再発防止策をみていて、「事前防止型」と「早期発見型」とは二極化しているような印象を受けます。トヨタ会長さんの会見で述べていたように「トヨタは完全な会社ではない」「ひとつひとつ問題をつぶしていくことが必要」というのは、典型的な早期発見型です。行政機関や金融機関のように、たとえタテマエであったとしても「組織の廉潔性」が社会的に求められる組織においては、やはり事前防止型を本旨とせざるを得ないのでしょう。もちろん上記三菱UFJグループのAI記録検査のように、「証拠保全機能」によって早期発見にも資するという面もあるので完全に分類できるものではありませんが、基本思想においては(将来的に)再発防止策は二極化するのではないかと考えています。
なお、私見としては、企業は国内外の同業他社と競争をすることが宿命である以上、儲けのためには「グレーゾーン」には突っ込まなければならないので、事前防止型には無理があると思います。もし事前防止型を採用できるだけの資金的余裕がある場合には、リスクアプローチの思想によって「疑惑」をあぶり出すところまでは事前防止型措置を活用しますが、誠意をもって企業不祥事を向きあう以上、不祥事はかならず起きると考え、起きた時に組織はどう動くのか、という「早期発見・早期是正型」による再発防止策を基本に置くことが最適ではないかと考えています。