2017年1月23日 (月)

変わる企業不祥事対応-第三者委員会設置企業が減少傾向

先週、「企業不祥事対応のトレンド・・・」といった講演についてご紹介しましたが、顕著なトレンドのひとつに不祥事調査の傾向が従来と変わってきたことが挙げられます。10年ほど前、加ト吉さんの架空循環取引に第三者委員会が設置されたあたりから、企業不祥事を発生させた企業がリスク管理(もしくはステイクホルダーへの説明責任の履行)として第三者委員会を設置するケースが増えました。

とりわけ2010年に日弁連が東証さんや金融庁さんの要望に応える形で「企業不祥事発生時における第三者委員会ガイドライン」を策定したことをきっかけとして、会計不祥事が発覚した企業では日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置して、発生事実、その原因究明、そして再発防止策を公表するというパターンが急増しました。しかし第三者委員会の信用性はかなり高まった一方で、その信用性を悪用するような弊害も出てきました。みなさまご承知のように日弁連ガイドラインに準拠している、とリリースしながらも、その実質は経営者の責任回避のための「隠れ蓑」に使われているケース、いわゆる「なんちゃって第三者委員会問題」への懸念が強まり、民間団体による第三者委員会の格付け機関も動き出すようになりました。

ところで、この第三者委員会制度ですが、最近の傾向が少し変わってきているようです。これまで、会計不正事件を中心に、企業不祥事が発覚するケースにおいては第三者委員会を設置することが多かったのですが、最近になってどうも第三者委員会に代わって社内調査委員会が設置されるケースが増えているようです。これは私が直接調査したのではなく、上記の格付け機関の事務局を務める東京の法律事務所さんが調査した結果でありますが、2015年1年間に不祥事調査を公表した45件のうち、第三者委員会を設置した企業が25件、社内調査委員会を設置した企業が20件でした。しかし2016年は合計41件のうち、第三者委員会は16件、社内調査委員会は25件と、大きく逆転現象が起きています。

つまり企業不祥事が発生した際に、第三者委員会を設置する企業が減少傾向にあります。その理由として私が考えますのは、ひとつは東証の企業不祥事対応のプリンシプル(2015年3月公表)の影響が挙げられるのではないかと。不祥事発覚時において、できれば第三者委員会の設置が望ましいとされていますが、状況によっては社内調査委員会の設置でも目的を達成することができるケースもあるといったことが浸透しました。たとえば会計不正事件の第三者委員会の設置は数千万から一億円以上の費用が必要とされますので、企業にとっても「社内調査で済むか否か」は重大課題です。そのあたり「プリンシプル」(原則主義)の解釈には幅があるとみて、社内調査委員会を設置する企業の数が増えているように思えます。

また次の理由としては社外役員の急増による影響が考えられます。社外取締役や社外監査役さんが委員になって不正調査を進めることで、対外的には第三者と同等の公正性、独立性を委員会が確保できるのではないか、といった考え方が企業において浸透しているように思います(ただし、私自身としては社外役員が委員に就任することで、第三者委員会と同等の公正性が確保されるかというと、やや懐疑的です・・・もちろん個別案件にもよりますが)。

そして最後の理由として、社会的に「なんちゃって第三者委員会問題」がかなり浸透してきたことではないかと思います。このブログでも過去に何度か取り上げましたが、最近は会計監査人(監査法人)が、事実解明が緩い委員会報告書にはノーを突きつけることが増えています。また、社会的に話題となった委員会報告書に対しては、第三者委員会格付け機関が厳しい目でチェックして、そのこと自体が話題になりましたし、さらに「委員を選定するに至った過程まで説明せよ」といった社会的風潮も高まってきています。このように経営者が従来のように「不正追及に対する隠れ蓑」として第三者委員会を活用する傾向に歯止めがかかりだした、ということの顕れではないかと推測しています。

第三者委員会ブームが、弁護士の新たなビジネス領域を作出する一方で、せっかくの信用性に世間の疑惑の目が向けられることにもつながりました。上記のような第三者委員会報告書の減少傾向は、これに歯止めをかけるものとして、私は好意的に受け止めています。なによりも、このように厳しい目が向けられる中で、第三者委員会報告書の信用性が(厳しいチェックによって)再び高まることが期待されますし、また企業側においても、経営者自身が社内調査と第三者調査の比較基準を意識し、調査の公正性、独立性をどのように担保するのか自らの責任で判断することにつながるものと思われます。このあたりは不祥事が発覚した企業に対する東証さんや金融庁さんの指導内容にもよりますし、もう1年ほど傾向をみたほうが良いかもしれませんが、今後も不祥事調査の品質は、社内調査であれ、第三者委員会調査であれ、よりレベルが高まることに期待したいと思います。

 

1月 23, 2017 企業不祥事を考える | | コメント (6) | トラックバック (0)

2016年11月 7日 (月)

企業不祥事対応のトレンド-企業の自浄能力がますます要求される時代

フォルクスワーゲンの排ガス不正事件は、いよいよドイツ検察がワーゲン社の最高意思決定機関のトップにも及ぶという展開になりました。株価は事件発覚前よりも4割下落し、多くの訴訟が提起されていますが、それでも予想外に(?)販売実績は低迷していないようです(たとえばこちらのニュース等)。企業不祥事がどれほど企業の社会的信用を毀損し、企業価値を低下させるかは、なかなか予想できないのが現実です。

不祥事が企業の社会的信用をどれだけ毀損するか・・・ということは、竹を割ったように「Aが原因でBという不正が発生した」といった単純な事実に対する評価で決まるわけではありません。不祥事の発生は人的・組織的な複合的要因によるところが大きい(言いかえれば「運」に左右されるところも大きい)ことについてはほぼ社会的な合意が得られていると思います。そして、その社会的信用毀損の大きさは、やはり社会情勢を含めた様々な事情によって変動するところが大きいと言えます。

したがいまして、ときどき企業を取り巻く社会情勢(社会環境)に目を向けることも大切です。不正リスクという視点で捉えた最近の話題としては、消費者裁判手続き特例法が施行されたこと、改正刑事訴訟法が成立して合意制度(いわゆる司法取引)も2年後から施行されること等でしょうか。また、TPP関連法案が国会で承認されますと、今度は独禁法改正による確約手続が導入されますし、アメリカ大統領選挙の行方によって空白となっている連邦最高裁判事のポストが埋まりますと、FCPA等の域外適用(米国司法省の動向)にも注目が集まります。

このような法令改正で留意すべき点としては、いずれも実体法的な改正ではなく、手続法的な改正ということです。法改正等によって、企業に新たな行為規範が設定されるわけではなく、手続きの運用に変更が加えられるわけですが、そこにソフトローとしての行政のガイドラインや解釈指針等が影響を及ぼすことが予想されます。

いずれの場面でも、企業が平時においては自主ルールを運営し、不幸にも有事に至った場合には自浄能力を発揮しなければ、企業不祥事によって重大リスクが顕在化します。企業の信用損害をもたらした末に、役員には取引先もしくは同業他社からの損害賠償請求リスク、株主からの代表訴訟リスクが顕在化するものばかりです。このような傾向は、規制緩和が進み、行政規制がハードローからソフトロー中心に移行する時代となればなるほど、顕著なものとなるはずです(行政官僚は、規制権限行使の主導権を握りつつも、自らの責任を巧妙に回避するシステムとして、いよいよ本格的にソフトローを活用する時代になったと思います。一見「とても腰の低い人たちだなあ」と思えますが、深謀を垣間見るととても賢い人たちだなぁと感心します)。

このような時代において、企業が重大な不正リスクをどのように低減すべきか、という点については私なりに考えているところがあり、一言でいえば「事業戦略を進めるうえで、組織運営のホンネとタテマエのバランスをどのように調整していくべきか・・・」に尽きるものと考えています。内部通報や内部告発といったかなり狭いフィルターを通した知見に基づくものではありますが、「働き方改革」といっても、それほど日本企業の労使慣行、雇用慣行は揺らがないように感じていますので、おそらく私の見立ては正しいのではないかと。また詳しくはブログや講演等で少しずつ解説をしていきたいと思います。

11月 7, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年10月31日 (月)

オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための「発想」-週刊エコノミストの拙稿

本日(10月31日)発売の週刊エコノミスト(11月8日号)に拙稿を掲載いただきました。見出しは「オリンパス、東芝、三菱自になかった不正発見のための『発想』」というものでして、副題は「形ばかりのガバナンス内部統制では不正は防げない。トップ主導で指揮命令系統の『見える化』が必要だ」といったものです。冒頭で少しだけ自己紹介や当ブログのことも広報(?)させていただきました。

ブログでは書いたことがない斬新な視点も含んでいますので、ご異論・ご批判もあるかとは思いますが、ご興味のある方はご一読いただければ幸いです。企業不正に関する内部告発をされている方の支援から考えたこと、逆に内部告発によって危機にさらされている企業側を支援した経験から考えたこと、不正が発生しても長期にわたって組織が不正を放置してしまう要因など、私自身の言葉で書きました(自分としては、まだまだこの10倍くらいの字数でないと書ききれない内容なので、いわばダイジェスト版といったところかと)。

企業不祥事を発生させる組織の構造的欠陥というものは、本当はそこに原因(のひとつ)があるのですが、誰も触れたがらない、触れることがタブー視されている、といった特質があるように思います。ただ、その構造的欠陥の修復にターゲットを絞らないと、いずれは企業文化が崩壊してしまって目標を見失った優秀な人材がどんどん流出してしまう結果に至ります。そのうち財務情報にも「優秀な人材」という無形資産の喪失が如実に現れて、さらに企業不祥事体質が慢性化していくという負のスパイラル現象が見受けられます。

私自身「企業が儲けながら不祥事を抑止すること(トライアル&エラー ※)」をずっと考えながら執務していますが、本当にこの両立は難しいですね。組織が大きくなればなるほど、利益の最大化と不正防止を両立させるためには「当該企業固有の企業文化」「組織風土」を潤滑油として意識しなければならないと確信します。世間でカリスマ経営者と呼ばれている方の中には、どうもこのあたりに天賦の才能をお持ちの方がいらっしゃるように感じています(そういった会社の法務部の方々って、世間からのイメージとは異なり、とても仕事がしやすい、ということもあるようですね)。

「働き方改革」「コーポレート・ガバナンス改革」といった言葉が多用される時代です。しかしながら、それらの言葉を自らに都合よく使う人たち、反論をさせないために声高に叫ぶ人たち、ご自身独特の見解を「これが社会の常識だ」と盲信して意見を述べる人たちに惑わされず、組織の活性化のために何が必要か、自社と向き合って真摯に考える姿勢がトライアル&エラーの発想には求められるように確信しています。

※・・・これまで「トライ&エラー」なる用語を使っていましたが、先日「先生、正確にはトライアル&エラーですよ」とご指摘を受けましたので、今後はこちらを使います。

10月 31, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年8月17日 (水)

鳥貴族アルコール製剤誤提供事件にみる企業の誠実性

企業側で有事対応の仕事をしたり、不正事実の情報提供をする従業員側で告発のお手伝いをしておりますと、顧客の利益を侵害するような不祥事を発生させた企業が「バレないのなら公表しない」という決断を下すケースが非常に多いことを痛感します。健康被害が出なかったダスキン事件大阪高裁判決(違法添加物入りのぶたまんを販売したケース)において、役員に5億7000万円の損害賠償責任が認められたような事例が生じても、やはり取締役の皆様は「ダスキン事件は運が悪くて後日バレちゃったケース。ウチはバレません。バレずに済むのなら公表はしないでいいのでは?」という結論が役員の間で暗黙のうちに承認される、というのが現状です。

そんな中、東証1部の鳥貴族さんが食品添加物アルコール製剤を、焼酎と間違えて150人ほどのお客様に提供してしまったという不祥事を8月15日に公表しています(HPではリリースを若干修正のうえ、16日付けで再公表しています)。取引先であるサーバーメンテ業者の方が知りえた可能性はあるとはいえ(飲食されたお客さんも「なんか泡が多いのでは」と不審に思った方もいらっしゃったようですが)、かなりカッコ悪い不祥事を潔く公表し、保健所に届け出たことは(私のような仕事をしている者からみると)評価に値すると思います。

よく講演等で「不祥事が発生した時の対応によって、その企業経営者の誠実性がよくわかる」と申し上げますが、今回の件でも、どんな企業でも不祥事は起きるわけですから、このような対応はむしろ誠実性あるものと考えたいところです。ただ、再発防止策を検討するということであれば、「ドリンクサーバーから抽出されるチューハイに異変が感じられた」にもかかわらず、そのままお客様にその商品を出していた、といったことへの対応に触れていないのはやや疑問が残ります。もちろん、このようなことが二度と発生しないような体制をとることも大切ですが、どんなに頑張っても、同じようなことはまた起きます。起きたときに、現場社員さんがどのような対応をとるべきか、ということを検討しておくことがよほど再発防止策になるものと考えます。

そしてもうひとつ、私が一番気になったのは7月21日に異常を感じたにもかかわらず、公表が8月15日になった点については説明が必要ではないでしょうか。善解すれば、「他店舗での不祥事の有無を先に事実確認する必要があったため」とも考えられますが、このような場合、顧客の被害状況を一日も早く情報収集する必要があるわけで、また被害弁償にはレシート等が必要になるのですから、他店舗における不祥事の有無を確認することよりも「情報収集のための公表」が優先されるべきではないでしょうか。ひょっとすると経営者にまで誤提供の事実が報告されるまでに時間を要したのかもしれませんが、もし会社側で公表が3週間余り先になってしまった合理的な理由があれば、その経緯についても説明すべきではないかと思いました。

あまり報じられていませんが、王将フードサービスさんは、あの第三者委員会報告書が公表されて以来、委員会から提示されたガバナンス向上のための提言をひとつひとつ誠実にクリアされていて、先日はついに創業家との取引を一切停止できたことがリリースされました。これでようやく一区切りがついたようです(こちらのリリース)。こういった姿勢こそ、企業価値を評価するにあたってとても重要だと考えるところでして、このたびの鳥貴族さんの不祥事公表も、社員の方々の注意を喚起させ、よりよい企業風土の形成に寄与してほしいと願うところです。

8月 17, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年7月19日 (火)

モノ作りの誠実性を示した神鋼子会社JIS規格偽装事件

IOTに必須の半導体であろうと、日常生活を支える農作物であろうと、モノを作る商売には誠実性が必要だと思いますし、その姿勢は消費者にも理解されるものだと確信するところです。このところ、技術部門における性能偽装やデータ偽装に関する企業不祥事がしばしば報道されていますが、6月初めに発覚した神鋼子会社である神鋼鋼線ステンレスさんのJIS規格強度偽装事件も、同様の深刻な不祥事ではないかと考えます。ステンレス社では15年ほど前から歴代4人の工場長のもとで、JIS規格を下回る品質のバネが販売されていたそうで、同社はJIS取消しとなり、7月下旬をめどに親会社が第三者調査の結果を報告するそうです。

本件はあまり大きく報じられることもなく、親会社である神戸製鋼所さんの株主総会でも紛糾するような事案ではなかったようですが、不祥事を見抜いたご本人(新任工場長)が親会社副社長らとともに謝罪会見に出席するという異例の事態となり、私的にはとても関心がありました。とくに7月11日付けの日経ビジネス(WEB)のこちらの記事(不正の現場を誌上で再現、あなたは見抜けるか?)は、神鋼子会社さんで、なぜこのような不祥事が発生したのか、またどのように新しい工場長が見抜いたのか、詳しく解説されていて、リスクマネジメントの視点からとても参考になるのではないかと思います。

ただ、私の一番の関心は(関係者の方々にはたいへん失礼であることを承知の上で申し上げますが)、この新しい工場長さんは、どうしてこの規格偽装を親会社に報告する気になったのだろうか?という点です。「どうやって見抜いたのか」と言う点よりも、「どうして不正を申告する気になったのか」という点にとても興味が湧きます。従業員数も非常に少ない子会社の不正、しかも典型的なグループガバナンスの不全が問題視される事例ということで、公表すれば天下の神戸製鋼の信用にも傷がつくことは容易に予想がつきます。このような場面において、当の新工場長さんが不正の報告を行うにはとても勇気が必要だったのではないかと。

なんといっても歴代の4人の工場長さんに対するヒアリングの結果として、15年間も不正が続いていたことが判明しているのですから、新たに赴任した工場長さんとしては赴任先の社員との信頼関係を形成するためにも「過去の事例についてだけは見て見ぬふりをする」という選択肢はなかったのでしょうか(「ほんのわずかの強度不足」だったことが判明しています)。申告すればステンレス社はJISを取消され、商売に多大な影響が及ぶことは当然に予想されたところかと思います。それとも(これも失礼ながら穿った見方をすれば)「こんな不正事件を自分の責任にされたんじゃたまらん」ということで、自身の責任回避の目的から早々に不正報告に至ったのでしょうか(これは公務員組織などの不正報告の動機としては時々語られるところですが・・・)。

ここからは私の推測にすぎませんが、あの謝罪会見に(不正を見抜き、親会社に報告をした)新工場長さんが出席したということは、社内・社外に向けての神鋼さんのメッセージだったのではないでしょうか。売上でいえばグループ全体の1%にも満たないほどの規模の子会社不正であったとしても、モノ作り企業としては絶対に許せない不正であり、これを申告することは称賛に値する姿勢であるということを、とりわけグループ全体に示したのではないかと勝手に推測いたします。

たしかに神戸製鋼さんといえば、あの有名な総会屋事件に対する株主代表訴訟があり、また2008年にも関連子会社における不正事件があり、さらに本事件をきっかけとして、他の子会社でも規格外製品を原子力発言所で使用させてしまったという事件が発覚し、コンプライアンス意識の欠如を指摘されてもやむをえないところがあります。しかしモノ作りに対する誠実性を社内・社外に示すには、やはり間違ったことはきちんと調査をして公表するという姿勢が求められます。とりわけグループガバナンスにとって大切なことは徹底した監視よりも目的意識を現場でいかに共有するか、という点ではないでしょうか。そこでは不正防止よりも、不正発生時の適切な対応こそ、意識向上には不可欠です。親会社の技術担当者だった方が子会社に出向され、そこで親会社の意識を根付かせるためには、たとえこれまでの工場長だった方々が「見て見ぬふりをしていた」としても、このような毅然とした態度が最も効果的ではないかと。「これが当社グループとしての『普通』だ」と言える社員が増えることが、企業風土の健全化をもたらす要因になるものと考えます。

あまり社会的には話題になっていない事件ですが、7月下旬に報告される社外調査委員会による事実認定や原因分析、再発防止策の提言などを注目してみたいと思います。

7月 19, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年6月27日 (月)

株主総会の裏で見え隠れするガバナンス・コンプライアンス関連事件

追記:ココログの障害により、コメント付記、管理行為が困難な状況でした。ようやく復旧したようなので、一部エントリーを修正しております。

著名な企業の定時株主総会の話題や英国EU離脱の話題により、当ブログが好む(?)マニアックな話題があまりマスコミで報じられていないようです。当ブログでも何度かとりあげた大手光学機器メーカーさんの中国贈賄疑惑の件、FACTA最新号で新たな展開をみせています(ところで最近のFACTAには日経新聞や朝日新聞等の著名な経済記者だった方々が執筆を担当されているようで、かなりパワーアップしておられますね)。こういった話題は大手のマスコミが腰が引けてしまうのでしょうか、海外のマスコミや行政当局の動きが今後のカギになるような気がしています。

先週金曜日(6月24日)、大阪の東証2部上場会社の定時株主総会では、大株主の修正動議が可決されて、社長を含む5名の取締役が全員交代、株主提案の取締役の方々が新たに就任という事態が起きました(選任された役員の方々のご経歴をみると、いろいろ興味深いところです)。大株主さんの議決権保有比率からみて、ひっそりと総会当日を迎えたほうが修正動議が通りやすかったのかどうか、電子投票や書面行使によって、すでに会社側は大株主の修正動議が可決される見込みが(総会前日には)わかっていたのかどうか、監査役の皆様は、この社長解任劇を予想していたのかどうか、またこの結果に対してどのように身の処し方をされるのか等、さらに興味は尽きません。

また、大手メガバンクHDの株主総会では、株主提案が51対49で否決されるという事態も発生しましたね(定款の一部変更に関する議案なので特別多数が必要ですが)。剰余金配当に関する決定機関の変更に関する議案ですが、議決権行使助言会社や大手運用会社も株主提案に賛同したのではないかと思います。独立社外取締役の頭数が一定数存在することをもって、配当に関する株主からの修正意見提出の機会を奪ってよいものかどうか、もちろん会社法459条、460条の規定はありますが(社外取締役の人数だけで取締役の行為規範が変動する)といったことにはなっていないので、株主への説明方法として、今後はほかの会社でも問題になりうるところではないかと。また、ガバナンス・コード補充原則1-1①との関係でも、このメガバンクさんが今後どのような対応をとられるのか(会社提案へ相当数の反対票が投じられた場合だけでなく、株主提案に相当数の賛成票が投じられた場合にも原因分析等が必要となるか)注目されるところです。

そしてなんといっても、私的にもっとも関心のある話題はマザーズ上場からわずか3か月で決算発表を延期して、この金曜日に第三者委員会調査報告書を公表、業績下方修正をした某社の事例です。粉飾決算を絵に書いたような事例ですね。取引先から会計監査人に「タレコミ」(いわゆる情報提供)がなければ、おそらく会計監査人がうすうす疑惑を抱いていたとしても、早期発見には至らなかったのではないでしょうか。(報告書にあるように、経営者関与の事例ではないとしても)結果としては上場するために会計不正に手を染めたということですから、この上場会社に対してどのように対処されるおつもりなのでしょうか。私はかなり温厚な人間なので、過激なことは申し上げませんが、ただ、IPOがかなり華やかな時期を迎えているだけに、対応を間違えますと世間が黙っていないようにも思えます。

私自身、諸事情ございまして、あいまいな書き方に終始しておりますが、また個別の事例に動きがありましたら、もう少し掘り下げて検討してみたいと思います。本日は自身の備忘録も兼ねた程度の内容で失礼いたしました。

6月 27, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (5) | トラックバック (0)

2016年6月 2日 (木)

スズキ不適切燃費測定事件とダスキン事件はどこが違うのか?

スズキ社の不適切燃費測定問題と、平成14年に違法添加物の混入した豚まんを販売して11名の役員に5億7000万円の損害賠償責任が(株主代表訴訟で)認められたダスキン事件はどこが違うのだろうか・・・と、5月31日の記者会見を新聞で読みながら考えていました。どちらも海外では認められているものの日本では違法とされている商品やルールを活用していた点で同じですし、どちらも消費者に被害が全く出ていない(身体の安全や財産の安全が脅かされたわけではない)という点でも同じです。社内で違法性の認識を抱いていた社員が存在することも同じです。

スズキ社が5月31日にリリースした「排出ガス・燃費試験に係る不適切な事案に係る調査指示に対する国土交通省への報告内容について」も読みましたが、不適切な燃費測定の原因は明らかに内部統制システム構築義務違反です(法規認証部の機能不全によるルールの運用義務違反、内部監査部門の不存在)。内部統制システムの整備義務に問題があれば経営トップの経営判断原則が妥当しますが、運用義務違反となりますと、(経営者の裁量権の範囲が狭くなりますので)かなり問題が大きいのではないかと。ダスキン事件もリスク管理義務違反が善管注意義務違反の根拠となっておりましたので、こちらも(同じとは申しませんが)かなり似た構図です。

さて「提訴リスク」はどうなのでしょうか。組織ぐるみで不正を隠していたのがダスキンの経営陣ですが、スズキ社はそのようには見受けられません。あくまでも効率経営を徹底した企業が、その反動で社内のごく一部において不正に走ってしまったというストーリーです。つまり、スズキ社の場合は(いまのところ)社員による不正ということで「一次不祥事」ですが、ダスキンのケースは明らかに「二次不祥事」が問題になっています。株主ほかステークホルダーに「こんな組織は許せない」といった気持ちにさせて「敗訴覚悟で訴訟を起こそう」という動機付けがそれほど強くはないように思えます。ただ、「たとえ燃費測定法が不適切だったとしても、実際の燃費には影響ないのだから、いままでどおり広告、販売は続けます」といった姿勢はどうなのでしょうか?「これだけのことをやっておきながら、燃費に問題がないから販売を続けるっておかしいのでは?」と考える方も多いでしょうし、現に5月の売上は10%以上の落ち込みという結果が出ています。裁判の勝敗にかかわらず、会社や役員が裁判を起こされるリスク・・・つまり「提訴リスク」を抱える要因が存在するようにも思えますが、皆様はどうお考えでしょうか。

ところで上記5月31日のスズキ社のリリースには、再発防止策が7つほど示されていますが、再発防止にあたり、私は重要な不備があると思います。というのは、5月18日の会見で、同社の会長さんが(不祥事を受けて)「善意でやったとなると、人情的には考えなくてはいけない」と発言されたものを、同31日の会見では撤回して「法に従い、適切に対処いたします」と言い直されました。私も18日の会見は(ホンネとしてはわかりますが)かなりマズイなぁと感じました。このような会長さんのホンネを社員が知ったとなると、いくら「どんなことでも話し合える雰囲気作りが大切だ」と会社が示しても「ああ、やっぱり会社のために不正をしても結果さえ出せば許される体質なのか・・・、不正をみつけても、これを通報して馬鹿をみるのは私なのだな・・・」と認識してしまいます。

社員の方々にとって、まず大切なのが自分の生活、そして次に大事なのが自分の所属する部署の平穏、そして3番目に大切なのが会社の利益です(これはまず間違いないところだと確信しています)。違法性を認識していたスズキ社の社員の方が「それほど重大な問題だという意識はなかった」と証言されているそうですが、それはまさに自分に課されたミッションをこなすことのほうが会社の利益を守ることよりも重要だからです。この現実から目をそむけることはできないのであり、どんなに立派な内部統制を構築しても、かならず不祥事は起きます。ただ、どんな企業も一次不祥事は防げないけれども、(組織を破たんに招くような)二次不祥事だけは防ぐ・・・、そういった気概を経営者は持って、具体的な方策を検討することが必要だと考える次第です。

6月 2, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年4月25日 (月)

JR西日本のリニエンシーは組織の構造的欠陥解明に光をあてるか?

4月24日(日)の読売新聞朝刊(一面および社会面)では、「鉄道6社、ミス懲戒対象外」として、運転士の人的ミスを報告した場合には、原則として懲戒処分の対象からはずすルールを導入している鉄道会社が6社に上ることが明らかにされました。とりわけJR西日本さんは、この4月から導入に踏み切ったそうです(他の5社はJR北海道、JR貨物、京王電鉄、新京成電鉄、首都圏新都市鉄道)。

運転士のミスを懲戒処分とすると、上司に報告することを隠し、その結果として重大な事故につながるようなリスクを経営トップが把握することが困難になります。また、そのような重大なミスが報告されないままになりますと、このたびのJR西日本福知山線事故における経営トップの無罪判決のとおり、刑事司法の限界によって事故を発生させた構造的欠陥が全く解明できない状況になってしまいます(組織を処罰する規定があればよいのですが、現在はそのような組織への処罰法はありません。なお毎日新聞の社説がこのあたりを伝えています)。航空機事故や鉄道事故にように、痛ましい事故をこれ以上増やさないためにも、現場におけるモラルハザード(懲戒処分を受けないというルールによって現場運転士の緊張感が緩んでしまうリスク)を多少犠牲にしてでも、国民の生命を守るための組織の構造的欠陥を解明し、再発防止への事業活動を優先する、といった姿勢が必要かと思います。

記事の中で、ノンフィクション作家の柳田邦男さんが指摘しておられるように、どんな失敗でも処罰されない空気が漂わないように、導入の狙いや意図的な法規違反は処罰されることを社員に周知すべき、というのはそのとおりかと。私も、故意または重過失によるミスがあった場合には、懲戒対象になることは当然かとは思います。ただその場合でも、やはり自己申告がなされたことはそれなりに評価すべきであり、一切懲戒処分がなされないということではないにせよ、処分の裁量的減免は認めるべきではないかと考えます。自身が不正に関与していたとしても、組織的な不正を申告した社員にはそれなりの減免措置をとるべき、とした大阪地裁の裁判例もあります。また内部統制システムの整備に熱心な経営トップのほうが、そうでない経営トップよりも刑事責任が問われやすいといったおかしな状況を防止するためにも、できるだけ現場の情報をトップに報告しやすい体制作りが求められるからです。

航空会社70社はすでにこの制度を導入済みです。実際にも日本航空の元担当者の方によると、「日航でも続けるうちに、正直に話すことが不利益にならないと理解されるようになり、社員がミスを率直に報告するようになった」そうです(上記記事)。鉄道会社もようやく懲戒免除措置を数社で導入するようになったようですが、企業コンプライアンスという視点からは、国民の生命、身体、財産の安全を確保すべき立場にある企業は導入を検討すべきです。導入したからといっても、(会社による不利益な取扱いをおそれて)自身のミスを社員がすぐに申告するとは思えませんが、ただこの制度を導入することでミスの一歩手前である「ヒヤリ・ハット」事例の報告が急増した組織の実例は散見されます。不祥事防止の実効性を高めるためにも、このような自社リニエンシー制度の導入を検討する価値はあると考える次第です。

4月 25, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年2月25日 (木)

「上場会社における不祥事対応のプリンシプル正式版」が確定

すでにご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、2月24日付で日本取引所HPにて、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の正式版が公表されました(正式版はこちらです)。パブコメに対する取引所の考え方もかなり詳細に開示されています(素案からの修正箇所も何点があります)ので、プリンシプル本文だけでなく、こちらも参考にされてはいかがでしょうか。ちなみにグループ会社における不祥事に対する親会社としての対応、という意味も明確になっています。企業不祥事を体験された(?)役員の方はご承知のとおり、情報開示という点からは、有事には東証さんからたくさんの質問が届きます。その質問への回答・・・といった場面でもこのプリンシプルは要注意ではないかな・・・と個人的には考えています。

そういったことも含みながら、本日(2月25日)、日本取引所主催による上場会社セミナー「『形だけ』に終わらないコーポレートガバナンス」(午後2時より ティアラこうとう)で講演をさせていただきますが、もちろんこのプリンシプルに関するお話も盛り込んでおります。対象は東証上場会社代表者、コンプライアンス担当役員、監査役向け、ということですが、800名近い方の前でお話するのは久しぶりなので、意外と緊張しております(^^;ちなみに大阪は3月3日、国際会議場でございます。

東京商工リサーチさんによる調査結果などもありますので、やはり上場会社の会計不正への対応が中心になります。ただ近時の会計不祥事をご紹介して「後出しじゃんけん」のような話をしても有益とは思えません。なので、ここ2年ほど、私自身が本業として体験した成功例や失敗例をもとに「企業が自浄作用を発揮する」ことの具体的なイメージを共有できればと考えております。まさにコーポレートガバナンスは仕組みや形を議論する時代から運用や取組みの是非を議論する時代へと変遷していくのでしょうね。

2月 25, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年2月10日 (水)

旭化成建材社のデータ偽装問題にみる「平時型二次不祥事」の脅威

本日(2月9日)、地元大阪の某会社さんにおいて役員セミナーをさせていただきました。経営幹部の方が理解すべき「二次不祥事」に関するお話が中心でしたが、なかでも「平時型二次不祥事の脅威」について、横浜マンション傾斜事件における旭化成建材さんの事例をご紹介させていただきました。子会社不正による不祥事によってなぜ親会社のトップが退任せざるをえないのか、同業者9社が同じ不正で国交省の処分を受けたにもかかわらず、なぜ旭化成建材さんだけに批判が集中したのか、といったことを私なりに1月8日に公表された外部調査委員会報告書をもとに分析・解説いたしました。

そしてセミナー終了後、旭化成さんから「社内調査委員会の中間報告」がリリースされたことを知りました(社内調査委員会による中間報告書公表のお知らせ)。私はセミナーのレジメにおいて、以下のような外部調査委員会報告書に対する疑問点をパワーポイントシートで示していましたが、本日リリースされた社内調査報告書では、私の疑問に対して真正面から会社側の回答が示されたようです(同報告書21頁以下)。内容の真偽は別として、この素朴な疑問に正面から回答された旭化成さんの姿勢は評価されるべきだと思います。

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旭化成建材さんのトップ(当時)も、やはりデータ偽装(流用)問題を認識しておられたのですね。また、同社の経営幹部の方々も、現場におけるデータ偽装問題を認識しておられたようですが、安易に「極めてレアなケース」として根本的な対策をとる必要はないと考えたそうです。また、現場責任者という立場は専門性が高く、人事が固定しているものであり、他の職場の文化に触れる機会が少なかった、だからこそ過去から踏襲されていたデータ偽装を当たり前の文化として引き継がれていった(つまり、現場の状況を知りながらその後経営幹部になった者はいない)ということのようです。

私から見れば、「データ偽装はあってはならない」といったコンプライアンス教育を徹底するだけであれば、(責任が自分に回ってくる)中間管理職の方々にとって、発生したデータ偽装事件に「見て見ぬふりをする」のはむしろ当然だと思います(みなさん自分の人生があり、家族があるので、それを大切にする気持ちは当然です)。むしろデータ偽装が発生することを知った以上、そのデータ偽装が(別の不祥事や事故をきっかけとして)どのようなコンプライアンス問題に発展するのか、そこをきちんと想定できなかったことに親会社トップが退任しなければならないほどの問題点が隠されていると考えます。つまり経営トップは「データ偽装は起きる!起きたときにどうすべきか?」という発想を前提とした対応手法を現場に示す必要があります。

「有事型二次不祥事」は、一次不祥事を「隠す」「証拠を隠滅する」「虚偽報告をする」「見て見ぬふりをする」といった組織的行動を指すもので、イメージが湧きやすいのです。しかし「平時型二次不祥事」は、「社内に潜む軽微な瑕疵に見えるけれども、いざ軽微な瑕疵が表面化するような事態に至った際には、社会的にその軽微な瑕疵を放置する組織に批判が集中する」というもので、一次不祥事よりも時間的には先行する二次不祥事です。これはなかなか平時には見えにくいからこそリスク管理が必要となります。旭化成建材さんのデータ偽装は、おそらく横浜マンションの傾斜の原因ではないはずです。しかし「たまたま」横浜のマンションの傾斜問題が発生したことで、他社でもやっていたはずのデータ偽装が、ただ旭化成グループだけの信用失墜の引き金になりました。これは多くの会社おいても「他山の石」とすべき二次不祥事の脅威です。

そしてこの軽微な瑕疵の放置が「二次不祥事」だからこそ親会社トップが退任せざるをえないほどの混乱に至ります。たしかにくい打ち作業の現場では熟練作業によって安全が確保されていることから、データ記録の確保は形式的な作業なのかもしれません。しかし社外からみればその理屈は世間に通用するものではなく、データの正確な収集=安全性の確保なのです。毎度申し上げるとおり、(競争社会にある)企業は「一次不祥事」を防止することはできませんが、「二次不祥事」は100%防ぐことは可能であり、またマスコミが飛びつく「二次不祥事」こそ未然防止に努めなければなりません。社内には至るところに「放置していてもどうってことない社内ルール違反や不正(瑕疵)」がころがっています。しかしその瑕疵に火がつくとどうなるでしょうか?事件や事故、他社の不祥事などに巻き込まれた場合、その事件の原因にはならずとも、組織としてのコンプライアンス意識の欠如に批判が集まる「瑕疵」も眠っているのではないでしょうか。

私は社内に存在する不正やルール違反を直ちにすべて正せ、とは申しません(効率経営を重視すべき企業において費用対効果の問題は無視できません)。しかし、すこし想像力を働かせて、その小さな不正やルール違反の放置が、どのような重大なリスクに発展する可能性があるのか、考えていただきたいということです。また、そのようなリスク管理能力を持つ人を社内で育成すべきだと思います。「不正は起こしてはいけない」という発想は、仕組み作りばかりに予算を投入し、現場における思考停止を生みます。やはり「不正は当社でも起きる」という発想を前提としたリスク管理が必要であり、仕組よりも運用に注力するリスク管理が経営戦略には求められると思います。

さて、旭化成の社長さんが退任されるという報道がなされ、建材事件は一区切りかと思われていますが、旭化成さんには実はもうひとつ重大な法律問題が今後控えているものと私は予想しています。それはまた別の機会に皆様方と考えてみたいと思います。

2月 10, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年1月19日 (火)

旭化成建材・外部調査委員会報告書にみる「二人の現場責任者の対比」

横浜マンション傾斜問題については1月13日に国交省による関係会社等への処分が出ましたが、これに先立ち、1月8日に旭化成建材さんの親会社から外部調査委員会報告書(中間報告書)がリリースされています。私もようやくこの中間報告書を読み終えましたが、企業不祥事を考えさせる、なかなか興味深い内容です。当該マンションの基礎杭工事の現場責任者は2名であり、そのうちの1名の社員がデータ偽装に手を染めてしまったわけですが、もうひとりの方は全くデータ偽装には手を染めていなかったということが判明しています(両名とも調査委員会はヒアリングを行ったようです)。「なぜこのような違いが出てしまったのか」という点が克明に対比して描かれています。

この横浜のマンションの基礎杭工事は2005年12月から2006年2月ころまで行われ、杭工事の現場責任者は旭化成建材の社員(出向社員)2名が担当していました。この2名の現場責任者については、最初は旭化成建材さんから現場作業を請け負った工事業者から2名とも選任される予定だったのですが、そのうちのおひとりが体調不良となったため、いわゆる(現場責任者等を派遣する)人材派遣業者から現場責任者がおひとり選出されたようです。報告書ではA社員(派遣社員、データ偽装を行った者)とC社員に区別されているので、ここでもそのように表記いたします。

詳細は上記社外調査委員会報告書をお読みいただくとして簡単に説明しますと、C社員の場合、現場作業を担当している方々と同じ会社出身ということであり、電流計データや流量計データの取得において現場作業員らとのコミュニケーションがきちんと確保されていたそうです。また自分が体調不良で仕事を休むときも、代わりの現場責任者への引継ぎが行われ、代役の方の日報や作業完了書といった書類関係もきちんとそろっていました。また、C社員がそもそもデータの整理をこまめに行っていたそうで、偽装を疑わせるような事情は何らみられなかったとされています。

しかし派遣業者から出向してきたA社員は、過去に何度か旭化成建材さんの現場責任者を務め、現場作業を担当した業者の現場責任者も経験していたのですが、現場作業員との相性が悪く、コミュニケーションがとれなかったそうです。また病気欠勤の際にも、同じ会社の者が全くいなかったので引継ぎが十分に行われておらず、したがって代役の現場責任者(この方はC社員の欠勤のときにも代役)の方の日報や作業完了書といった書類がきちんと作成されていませんでした。A社員自身もデータの取得にも熱心でなかったため、きちんとデータを保存・整理もされないままに放置されていたとのこと。

現場責任者の仕事は繁忙を極めており、A社員もC社員も、クレーン車やトラックの誘導、関係者との打ち合わせ、清掃作業などをこなしながらの杭打ちデータ取得作業だったので、両者ともデータ取得だけに注力できる立場にはありませんでした。しかし、現場を離れる際に、C社員は気軽に他の作業員や旭化成建材の社員にデータ取得を依頼できたのですが、気心の知れた仲間がいないA社員はデータ取得を頼みにくい状況にあったため、最終的には他のデータを流用して報告書を提出したという経緯があります。もちろん手続きをきちんと残すことの重要性を認識していれば、いくらコミュニケーションがとれなくてもデータ取得の偽装など発生しないはずではありますが、このような現場におけるチームワークの崩れから重大な企業不祥事が発生するということは、思わずぞっとするような背景事情です。

一方において、本件が発覚した直後から「どこの現場でもデータ偽装などあたりまえに行われている」といった意見がマスコミ等で明らかにされていましたが、C社員のように「偽造など全く考えたことはない、自分の仕事が手一杯であれば、ほかの社員にきちんと代役を頼む」ということで、普通にコンプライアンス重視の姿勢で仕事に従事されている方の姿が報告書で浮かんできた(しかも、その姿勢は供述だけでなく、残っている書類からも明らかにされた)ことは、ややホッとするところです(いや、それがあたりまえだろう、といわれればそれまでですが・・・)。「データを後で偽装するといったことは、それほど悪いことではない」といった感覚が、すべての社員に蔓延していたわけではないということです。また現場責任者の代役(報告書ではE社員)の仕事ぶりが、A社員から依頼された場合とC社員から依頼された場合と異なっていることは、組織としてのコンプライアンス意識を考える場合にも参考になりそうです。

この社外調査委員会の中間報告書は、組織としての関与(現場責任者によってデータが偽装されていたことを組織として容認していたのかどうか)という点については触れられていません。10年も前の不祥事なので、もし現場統括者がデータ偽装の事実を容認していたとすれば、その事実を知っていた方は会社幹部になっている可能性があります。だからこそ、現場統括者あたりが、このデータ偽装の事実を知りながら放置していたかどうか、読む側からすると関心が向けられます。そのような点においてやや不満は残りますが、なぜ現場責任者二人のうち、ひとりだけがデータ偽装に手を染めたのか、職場環境を対比しながら浮きぼりにした内容は、一読の価値があります。

1月 19, 2016 企業不祥事を考える | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年12月 7日 (月)

誠実な技術者の「誇り」が「驕り」に変わるときとは?-血液製剤偽造事件

すでに報じられているように、血液製剤の分野で国内シェアのおよそ3割を占める熊本市の製薬会社「化血研」さん(化学及血清療法研究所)が、国の承認を受けずに「ヘパリン」という血液を固まりにくくする成分を添加するなど、12種類の血液製剤について、国が認めた内容とは異なる方法で製造していたことが判明しました。しかも第三者委員会報告書によると、不正は40年間も続いていたそうです。ところで、化血研さんのHPはずっと閲覧不可の状態になっています。

「心が痛む」として社員から厚労省に対して内部告発があったことが不正発覚の端緒だそうで(朝日新聞ニュースはこちらです)、厚労省もいろいろと内部告発の放置問題で揺れておりましたので(?)、今回は「抜き打ち調査」などによって、かなり積極的に真剣に対応されたのかもしれません。驚くのは、「もうそろそろ内部告発があるかもしれない」ということで、化血研さんの内部では告発がなされたことを想定した対策をとっていた、とのこと(毎日新聞ニュースはこちらです)。東洋ゴムさんの免震ゴム偽装のときもそうでしたが、最近は内部告発リスクへの対策をとる企業も出てきました(もちろん、決して許されるものではありませんが・・・)。

さて、内部告発ネタとしても本件は参考になりますが、私がもっとも気になったのが、どうして厚労省のルールを無視して血液製剤を作り続けてきたのか、といった不正の動機の部分です。12月2日のNHK午後7時のニュースでは

(化血研の)第三者委員会は、「問題の根幹は『自分たちは専門家だ』とか『製造方法を改善しているのだから当局を少々ごまかしても大きな問題ではない』という、研究者のおごりだ」と厳しく指摘している

と報じられています。もうすでに過去のエントリーでも紹介していますが、私が過去に性能偽装事件の危機対応に関与した案件でも、技術者の方々の同じような言い訳を聞きました。A社は当局の外郭団体(安全技術協会)に「チャンピョン品」と隠語で呼ばれる「テストを一発で通すためだけに作られて製品」を持ち込んで試験をクリアしていたというものですが、A社技術担当社員には社長から厳しいミッション(販売時期を遅らせないように、かならずテストは一発で通せ)が課せられていたため、工場ぐるみで偽装を行っていました。A社で長年性能偽装が続いていた理由としては、「我々はトップメーカーであり、お客様のために、最終出荷時の安全基準は世界一である。たとえレベルの低い当局の性能テストを偽装したとしても、最終出荷のテストをクリアすれば何ら問題はない」というものでした。またA社と監督官庁との長年の「持ちつもたれつ」の関係からか、安全協会の検査ルールについては、安全協会側にも落ち度があり、A社としては「お互いさま」といった感覚もあったようです。

たしかに頭の冷えている平時の感覚であれば「そんなのは技術者の驕りであり、不正を正当化できる理由にはならない」と誰でもわかります。しかし、経営者からのミッションや同業他社とのし烈な販売競争、行政との長年の(悪い意味での)信頼関係の醸成といったことが重なりますと、技術者の有事感覚としては、化血研のような発想になっても不思議ではないかもしれません。たしかに国から承認を受けている方法とは異なる方法で血液製剤を製造していたとしても、それは「国の承認しているものよりも、さらに安全性を高めるための改善の結果であり、また製造効率を高めて少しでも多くの患者さんに喜んでもらえるのであれば、偽装などたいした問題ではない」と考えることも(有事の感覚としては)十分ありえるように思います。

誠実な企業であればあるほど、技術者の方々は自社技術に誇りを持つのが当然でありますが、その誇りが、社内・社外の経営環境の中でいつしか「驕り」に変わっていくというのが真実ではないかと。しかも客観的にみても、化血研さんのワクチンがどうしても必要なので、「客観的にみて、この程度のことで我々の仕事はなくなるわけではない、とりあえず医療の場を混乱させたことは謝罪するが、再発防止に取り組んでまいります、といえば済む問題だ」といった認識が社内でも社外でも通用するのではないでしょうか。40年間も不正を続けていたのはけしからん!と批判するのは正道ですが、しかしただ批判しただけでは不正の芽を摘むことはできないと考えます。さて、この業界におけるコンプライアンス問題の捉え方を理解するには、化血研さんに対する今後の厚労省さんの対応が非常に興味深いところです。

12月 7, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年11月24日 (火)

JR東日本社の「1口500円」野球賭博事件の違法性を考える

野球賭博問題といえば読売ジャイアンツの事件が記憶に新しいところですが、11月初めに100名以上の社員が賭博に関与していたとして、JR東日本福島支店が野球賭博の事実を公表しました。高校野球の優勝校を当てるもので一口500円、毎回15万円程度を集金し、当てた社員に配当する、というものだそうです(11月6日の福島民報のニュースはこちらです)。ニュース記事からすると、内部通報をもとに社内調査が行われたようです。

「一口500円なんて、遊びの範囲ではないの?」「それくらい、どこでもやってるじゃん」「そんなの摘発するくらいなら、もっと大きな不祥事の摘発をしろよ!」といった声が聞こえてくるようです。もちろん刑法の賭博罪に該当する行為ですから犯罪行為に間違いないわけですが、国鉄時代から行われていたようですし、余興の範囲内として、それほど批判の対象にならないのかもしれません。

たしかに個々の社員の犯罪行為の違法性は高いとは言えないでしょう。しかし、これを許す組織の違法性については調査をしてみなければわかりません。たとえ掛け金が500円だとしても、これが反社会的勢力との癒着を疑わせるような行為であったり、八百長など組織の社会的信用毀損につながる行為であったとすれば問題であり、これは実際のところ社内調査をやってみないとわからないのです。私が過去に経験した野球賭博事件の調査では、①胴元が存在するか、②ハンデがついているか、③背後に他の不正行為の存在を疑わせるか、といった点の判断がポイントでした。福島民報さんの上記ニュースでは、JR東日本さんがこれらのポイントをうまく説明しているように読めます。

①と②は、賭博の常習性や専門性が高まる可能性があり、いずれも反社会的勢力との癒着につながりかねないという点です。現に2011年には、キッコーマン食品さんの野球賭博事件において、胴元(賭場開帳?)とされた方が逮捕されたこともあります。③については読売ジャイアンツや大相撲事件でもおわかりのとおり、八百長が背後に隠れている可能性があり、慎重な調査が要求されます。今回のJR東日本さんでも、野球は全国大会等に出場するほどの名門なので、八百長問題への発展について調査を行う必要があったものと思われます。

そして最後は2013年の大阪ガスさんの野球賭博事件の際と同じように、社内調査の結果はきちんと所轄の警察署に報告をする必要があります(JR東日本さんも所轄の警察署へ報告されるそうです)。身内に甘い処分を行ったのではないとの姿勢をみせ、反社会勢力との癒着を疑わせる行為について、組織として徹底して排除していることを示さなければなりません(現実には数名の社員が書類送検される可能性はあります)。内部通報や内部告発の機運が高まり、また国際的にも賭博行為への規制が厳しくなる中で、「社内レクリエーション的な賭け事」への社内調査の要請が、今後高まるものと思います。

11月 24, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年11月13日 (金)

東芝会計不正事件-鬼よりコワい「内部告発」?

日経ビジネスのデジタル会員なので、ひとあしお先に「スクープ 東芝・米原発赤字も隠ぺい」の全文を読ませていただきました。いや、ひさしぶりにドキドキしました。私のコメントが掲載されている8月31日号から日経ビジネスさんは東芝社員の方々に向けて「求む!内部告発」キャンペーンを張ってきたわけですが、ここに結実したわけですね。

そもそも東芝さんの特別調査委員会報告書は(第三者委員会報告書の話題に隠れて)公表されずじまいとなり、内容は明らかにされていません。ただ、金融商品取引法26条に基づく報告命令の内容には、このウェスチングハウス社の経営不振が東芝のBSに及ぼす影響も(工事進行基準の不適切な適用問題等とともに)含まれていたのではないでしょうか。当局は、以前から本丸としてウェスチングハウスの経営状況に関する会計処理に焦点を当てていたのではないかと(あくまでも推測ですが)。

しかし(内部資料に書かれている内容が真実であることが前提ですが)、東芝さんも新日本監査法人さんも、これほどまでに「有事」だったとは存じ上げませんでした。臨時株主総会で新しく社外取締役に選任された方々は、就任の際、この内実をどこまでご存じだったのでしょうか?今朝の日経新聞で国廣正弁護士がコメントされていましたように、本当に「不祥事はバレる時代になった」と思います。内部資料を伴う内部告発の力はすさまじいなあと。

11月 13, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年10月 7日 (水)

企業の反社疑惑は公正な調査と徹底した開示が必要である

プロ野球球団の投手が野球とばくに関わっていたとして、同球団はNPB(日本プロ野球機構)に申告した上で、調査委員会による社内調査を開始したことが(朝日、毎日等)新聞のスポーツ欄で詳しく報じられています。同球団の全ての選手への調査も開始されたとのことですが、内部通報によって判明したのではなく、賭博に関わっていた選手に対する「借金取り立て」によって判明した、ということですから(他の選手もやっているのでは?との風評を打ち消すためにも)やむをえないところだと考えます。「ジャイアンツはCSを辞退すべきである」といった意見が出てくるのも(私はその必要はないと考えていますが)、自浄能力の欠如で招いた反社疑惑が「組織ぐるみ」を想起されるからだと思われます。

プロ野球の世界だけでなく、上場会社等においても反社疑惑についてはもっとも自浄能力の発揮が求められる不祥事であり、「見つかってしまった」というのは組織にとっては致命的です。会計不正事件や性能偽装事件ならまだ覚悟できても、「反社会的勢力との接触」は、誰がみても、その組織の社会的信用を失う不祥事として一番隠したい事情ですよね(ちなみに上場会社であれば直ちに上場廃止基準に抵触します)。あの富士通さんの経営陣でさえ、堂々と隠してしまって東証さんから厳重注意を受けたのは記憶に新しいところかと。したがって「見つかってしまった」という自浄能力の欠如事案では、「知っていながら隠していた」「他にも存在する」といった社会的評価を受けてしまいます。

以前、当ブログでも紹介いたしましたが、反社疑惑への対応としてベストプラクティスだったのは大阪ガスさんの3年前の野球とばく事件への危機対応です。社内から「野球部員が賭博をしている」との通報があり、これを受けた本社は2週間の社内調査で36名の社員の不正を特定、速やかに社内処分を行い、社会に公表しました。さらに公正な調査を行ったことを示すために、調査書類をすべて大阪府警に提出しています(後に、残念ながら数名の社員は書類送検)。この1年ほど前、大阪ガスさんは重要子会社の幹部社員が多額の資金流用事件を起こしましたが、この件については(社員個人の不正であり組織としては関与していないとして)公表していません(当時の産経新聞が取り上げただけです)。これほど反社疑惑事件の危機対応は厳格なものが要求される、ということです。

この「反社疑惑」への危機対応でもっともむずかしいのが公表の要否です。皆さんが上場会社の経営者だったら、「反社会的勢力との関与」というのを、どの時点で公表されますでしょうか?社内調査で確実に関与の事実が認められた時点でしょうか、それとも「関与の疑惑」が証拠によって認められた時点でしょうか。関与の事実は認められても「反社」というところに疑問が残る場合はどうでしょうか。それとも「墓場まで持っていく」覚悟で、バレないことに賭けますか?おそらく諸事情(心のバイアスも含めて)によって関与の事実が認められた時点までは公表しないのではないでしょうか。いや、公表しない自分を正当化させる理由をいくつも考えて、自分の決断は正しいと思い込みたいはずです(たぶん私も同じ衝動にかられると思います)。自身の主観的判断からすれば、おそらく永遠に「関与が認められた」との判断には至らないと思います。

しかし世間は「関与が認められた」場合だけでなく、ある法人が「関与の噂がある」というだけで、その法人はブラック企業だと断定して信用は毀損されます。合理的な根拠によって関与の疑惑が認められた時点で公表しない法人が、その後何らかのきっかけで疑惑企業であることが明るみになった場合、もはや「ブラックであることを隠している」とほぼ断定され、疑惑の時点で自主公表しなかったことが企業の損害として認定されるおそれがあります。何度か過去に同様の危機対応に関与しましたが、私の失敗体験からみても、冷静なリスク判断により、調査や開示に伴う人権保障手続きを含めたデュープロセスのもとで、すみやかな公表を怠らないことが適切かと思います。適切な公表だけが「黒い交際は社員個人の問題」と社会的に認知されるための切り札であり、「組織のすべてが真っ黒」と評価されないための唯一の手段です。

10月 7, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年9月28日 (月)

不正調査のむずかしさを痛感するVWの排ガス偽装事件

まだ全容は判明していないVW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件ですが、最新の社内調査によると、①2007年ころから、偽装に用いられたソフトは「あくまでも社内テスト用であり、実車で活用すれば違法」とのボッシュ社の警告書がVW社に届いていたことや、②2011年には社内技術者が不正の存在を指摘していたことなどが判明した、と報じられています。また、2013年ころには、実はEU当局も不正の存在に気づいていた、といった報道もなされています。ではどうしてこれまで社内調査では不正は発見できなかったのか、どうしてEUはVW社の不正について声を上げなかったのか・・・と新たな疑問も出てきます。VW社が利益を出し続けているかぎり、自分たちも恩恵を受けるのだから、ということで「おかしい」とは知りつつも「不正だ」と手を挙げることはしなかった方々もいらっしゃるのではないでしょうか(世界最大の巨額詐欺事件バーナード・マドフ事件と同様の構図?)

こういった不正が明るみになると、「こんな人たちが、不正を指摘していた」といった報道が次から次へと出ることは、企業不祥事報道では毎度のことですね(アメリカの大学の検証結果が「おかしい」と指摘した、という報道もありますね)。問題は誰が手を挙げて「おかしい」と公表するかということであり、その勇気を持っていたのが、今回は米国環境局(EPA)だったということでしょうか。そのあたりについて、ロイターのこちらの記事によって、かなり不正発見の経緯が見えてきたように思われます。アメリカの大学による調査が不正発覚の発端となったことは事実ですが、それでもVW側は「偽装ではなく、制御装置のミスだ」と強く反論し、リコール対応で逃れようとしていたようです。しかし8月下旬にはVW社幹部が自ら不正を認めたそうです。

そして、最終的にVW側が自ら不正を認めざるをえなかった要因は、米国当局による執拗な調査だったようです。上記のロイター記事から、その部分を抜粋しますと、

・・・・・事態の打開につながったのは、車のコンピューターシステムに保存されていた診断データを調べたときだった。

ヤング氏は「いくつか非常に不思議な異常を発見した」と言う。「例えば、通常とは逆に、車は温まった状態よりも冷えた状態での方がクリーンに作動していた。普通は温まったときに汚染制御システムも最善に働く。だが、この車は違った。明らかに何か違うことが起きていた。われわれは時間をかけて、彼らが合理的な説明ができないほどに十分な証拠と疑問を集めた」と同氏は説明する。

とのこと。この報道内容は不正調査の典型例を示したものです。つまり「普通ならAという事実が生じるとBという結果が生じるはずである。しかし目の前に生じた結果はCである。これはおかしいのではないか?」という推論を積み重ねて、相手の反証を封じ込める、というものです。企業不正では、目の前にいきなり「不正事実」が明らかになることはありません(不正事実など、内部通報や内部告発がなければ容易には判明しません)。強制調査権を持たない者が、企業の不正を調査するにあたっては、この推論を繰り返して最終的には対象者が不正を認めざるを得ない状況を作ることに腐心します。だからこそ、不正調査はビジネスモデルを理解しておかなければ実効性は高まることはありませんし、たとえば会計不正事件などは、経理や会計監査に携わった経験がなければ「普通ならA→B」がわからないので不正発見は困難なのです。

2011年にはVW社内において内部者による情報提供があったようなので、今後は経営トップがいつから不正に関与していたのか、組織ぐるみの不正と判断できるのかどうかに焦点があたるように思われます。しかし、これだけ大きな不祥事が、「企業不祥事」と世間で認知されるに至ったポイントはどこにあったのか、「バカなことを言うな!おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか?」と反論されることを承知のうえで、「これは不祥事だ」と世間に公言する勇気は一体誰が持っていたのか、そのとき、どんな証拠を持って公言したのか、というところを知ることはとても重要だと考えます。自動車工学には疎いので、私が事件の全容を理解することは困難かもしれませんが、本件を他山の石として不正リスクを理解するためには、本件が「企業不祥事」と認知されるに至った経緯だけは丁寧に辿っておきたいと思う次第です。

9月 28, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年9月 4日 (金)

第三者委員会報告書表彰委員会が「優れた報告書2014」を選定いたしました。

このたび第三者委員会報告書表彰委員会は、2014年度(2014年1月から12月まで)に公表された「不祥事発生時における第三者委員会報告書」のうちから優れていると認められるものを表彰することになりまして、その結果を公表いたしました。ちなみに落合誠一先生(東大名誉教授)が委員長、私が事務局長を務めさせていただき、9月2日の結果公表に合わせて経団連会館の記者ルームにて会見を開きました。全国紙と時事通信さんにお越しいただいたので「1社くらい記事にしてくれないかな・・・」と期待しておりましたところ、産経新聞さんが取り上げてくれました(=^・^=)ありがとうございます。記者会見の途中から、質問が東芝の第三者委員会報告書の件に集中しましたが、このあたりは想定内ということで、落合先生が適当に適切に回答されていました(ちなみに格付け委員会の次回格付け対象は東芝第三者委員会報告書だそうです)。

以前から活動している第三者委員会報告書格付け委員会の活動組織の一つとして位置付けられていますが、選定についてはそちらの委員の方々の関与は一切ございません。2014年に企業不祥事に関する第三者委員会報告書として公表された約30本のうちから、まず私が10本を選定し、その候補となった10本を委員の皆様が1カ月かけて熟読して、1位3点、2位2点、3位1点という採点形式で(理由を付して)評価していただき、その採点合計の高いものから2本を最終的に選考いたしました。もちろん委員会審議も尽くしました。和気あいあいと審議ができるものと楽観しておりましたが、ふたを開けてみると、結構ご意見の対立もあったりしまして、落合委員長にうまくまとめていただいた、というのが正直なところでございます。

事務局長として何が一番たいへんだったかと言いますと、30本の中から10本絞り込む作業がもっとも厳しいものでした。10本に絞られた後の選定作業となりますと、市場関係者や経営者、法律家、学者、マスコミ出身者等、いわば「報告書を読む人」の立場からの採点なので、格付け委員会の委員の方とはまったく視点が異なり、いろいろなご意見が出て私自身も勉強になりました(主な意見もHPにて公開しております)。優れた第三者委員会報告書として選定された2本は、当ブログでも取り上げさせていただいたものですが、「わかりやすさ」や「経営者との葛藤がにじみ出ている点」「事実認定や原因分析の説得力」という点において秀逸だったというのが委員の大方の意見でした。なかでも日本交通技術社の不正競争防止法違反(外国公務員贈賄事件)に関する報告書は、この報告書がリリースされた後、ベトナム政府が政府高官を逮捕したり、また東京地検特捜部が捜査が本格化する等、その社会的影響力の大きさも評価されました。

もちろん「(第三者委員会というのは)会社から報酬をもらっているとはいえ、ステークホルダーへの説明責任を尽くすための委員会なのだから、公正中立な立場で報告書を作成しなければならない」という理屈は頭ではわかっております。しかし、どうしてこれだけ会社(経営陣)に厳しい報告書を書けるのか、どの段階で「社長、あなたに厳しい結果になりますよ」ということを知らせるのか、そんな折にどうして社長から第三者委員会解散を通告されないのか、とても知りたいところですし、できればその過程を学んでみたいものです(でも、第三者委員会設置の段階で腹をくくっている経営者の方も多いので、ホントにむずかしいのはこの第三者委員会設置の前段階の「プレ第三者委員会」だったりもするんですよね・・・・・(^^  )。表彰委員会委員の皆様、熱い夏を報告書精読にいそしんでいただきまして、どうもありがとうございました。

9月 4, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年7月10日 (金)

東芝社の不適切会計処理問題の原因分析は慎重にすべきである

東芝さんの不適切会計処理問題ですが、第三者委員会報告書が7月中旬をめどに公表される予定だそうです。マスコミ各紙では、まるで第三者委員会報告書の内容を先取りしたかのように多くの部門で会計上の不適切な処理が行われていた原因分析が報じられています。要は経営トップによる各部門への(予算達成に向けた)指示命令が非常に厳しかったこと、現場では、そのプレッシャーに耐えきれず「意図的」な不正会計処理が行われていたことが掲げられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。

しかし予算目標の必達が現場のプレッシャーとなり、「意図的に」不正会計に走ってしまった・・・というストーリーはあまりにも短絡的ではないでしょうか?経営トップの各部門への指示命令が厳しい会社はどこにでもありますし、たとえ厳しい指示命令があったとしても不適切な会計処理などとは一切無縁の会社もあります。予算目標の必達に関するプレッシャーが原因で意図的な粉飾に走る、という理屈であれば、それこそ多くの会社で同じような会計不正事件が発生してしまうことになりますが、それでは説得力のある分析にはならないような気がします。

私は経営トップの厳命と現場における会計処理との間に、もう少し詳細な分析が必要だと考えています。そこで検討すべきは、現場担当者が「会計不正に走るための正当性の根拠」です。もちろん経営トップの具体的な粉飾指示があれば現場にとっては「正当性の根拠」となりますが、たとえば数字の上では取引先と貸し借りの関係にあるけれども、その貸し借りは決して解消される関係にはなく、一方的に数字は積み上がり、実質は贈与や譲渡に該当する、といったケースです。現場の会計処理に携わる人たちは「これは将来の精算が前提となっているのだから贈与ではない(粉飾ではない)」といった正当性の根拠となります。また、工事進行基準適用時における原価の付け替えなどについても、「最初の工事には多くの費用を要したけど、二回目の工事は最初の工事の失敗があったからこそ早めにできた。だから二回目の工事に一回目の費用を付け替えても費用と収益とのバランスに問題はない」といった正当性の根拠を考えます。

これらはある程度までは正しい理屈だとしても、最初から負債隠しありき、原価付け替えありき、といった目的で行われるとすれば粉飾です。このような処理が東芝さんの慣習として現場に浸透していたからこそ、現場社員は不適切な会計処理を自ら正当化していたのではないでしょうか。もちろんこれは私の推論による一例ですが、このような正当化根拠が組織の慣習として浸透していることが明確になることで、東芝固有の内部統制上の重要な不備が認められるのであり、だからこそ説得的な再発防止策を検討することができるように思います。今後、第三者委員会報告書が公表されるとしても、何が経営トップの厳命に対するプレッシャーと現場における不適切会計処理の決断との間をきちんと埋めるプロセスだったのかを明確に示していただきたいと願うところです。そこまで慎重な原因分析が行われるとすれば、おそらく他社の会計不正を未然に防止すべき内部統制の構築にも役立つものとなるはずです。

7月 10, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (10) | トラックバック (0)

2015年3月16日 (月)

免震偽装-守るべきステークホルダーの優先順位を考える

3月27日に予定されている定時株主総会といえば大塚家具さんが注目されていますが、もう一社、注目されるのが東洋ゴムさんの総会ではないでしょうか。すでに大きく報じられている東洋ゴムさん(子会社)の免震偽装事件ですが、発生経緯等は現在弁護士らによって調査中とのことだそうです。東洋ゴムさんの3500億円の年間売上のうち、免震事業はわずか7億円程度ということですから、やはり不祥事が企業経営に及ぼす影響は大きいことを痛感します。

本件は典型的な性能偽装(データ改ざん)事件のようですが、謝罪会見時の社長さんの発言によれば「不正行為に及んだ担当者は顧客への納期を間に合わせたいために行ったのではないか」とのこと(たとえばWSJニュースはこちら)。おそらく社長さんの推測は当たっているのではないかと(私も)思います。いわゆる「まじめな企業で発生する不祥事」の典型例です。取引先に喜んでもらいたいという気持ちで普段は仕事をしているはずで、その気持ちが有事(納期に間に合わないおそれのある状況)となればさらに強くなります。専門性の強い職場の社員であればあるほど、「たとえ行政の安全基準があったとしても、自社の安全審査を通過していれば問題ない」といった自信(過信?)が高まり、顧客の信頼を維持することがもっとも大切という倫理観が優先するようになります。

しかしこれは、東洋ゴムさんの技術社員の方が有事において守るべきステークホルダーの優先順位を誤っているものと思います。申し上げるまでもなく、まず守るべきステークホルダーは免震構造を施した建物の居住者の生命の安全です。いくら高度な技術を有する社員が「国の安全基準に達していなくても実際の免震構造には何ら問題はない」と判断していたとしても、それは国民からは見えないものであり、「基準をクリアした製品が使われているから安心」といった国民の信頼を裏切るものとなります。「今期は最高益を出したそうだが、結局のところ自社の利益のほうが国民の安心よりも大切と思っているのではないか」と批判されてもしかたないと思います。ステークホルダーへの適切な対応というのは、どこの企業でも当然に要請されるところですが、時としてステークホルダーの要望は両立しないことがあります。その際に、誰の利益を最優先とするか、その優先順位の考え方こそ当該企業の「企業倫理」であり、平素から社内に周知徹底する必要があります。

もうひとつ気になりましたのが「彼(担当社員)しか技術のことがわからず、高い専門性ゆえに上司も(性能偽装に)気づかなかった」とした社長さんの発言です(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。これも技術社員による不正はブラックボックスで発生するために大きな不祥事に発展してしまう場合の典型例を示すものです。しかし実際には昨年2月、つまり技術社員の職場が変わった直後に不正疑惑が判明していたようなので、決して不正チェックが困難だったというわけではなかったように思います。要はダブルチェック等の監視体制が適切にとられていたとすれば、もっと早期に不正を発見できたのではないでしょうか。前にも述べたとおり、全体の売上規模からすればわずかであり、事実上は子会社が担当している免震事業ということですから、社内におけるリスク評価としての優先順位は低かったのかもしれません。ただ発生可能性(発生確率)はいくら低いとしても、いったん発生した場合のリスクの重大性は今回のマスコミ報道のとおりです。とりわけ東洋ゴムさんは2007年にも性能偽装事件を起こしていますから、このあたりのリスクの重大性に関する「気づき」をどの程度社内で共有されていたのか、今後の調査結果に関心が寄せられるところかと思います。

関係建物の調査や修復、関係者への民事対応、そして事業再開に向けての国交省対応など、今後東洋ゴムさんが取り組むべき問題はいろいろとありますが、まずは何といっても国交省には安全を、そして国民には安心を提供することが最重要課題です。全社一丸となって安全対策の「見える化」に取り組まれることを期待しています。

3月 16, 2015 企業不祥事を考える | | コメント (4) | トラックバック (0)

2014年12月26日 (金)

木曽路社メニュー偽装事件報告書-「ないことの証明」はむずかしい

昨日(12月24日)、木曽路さんのブランド牛偽装事件に関する第三者委員会報告書が公表されました(株式会社木曽路におけるメニュー表示の適正化に関する第三者委員会報告書)。3名の第三者委員会委員ならびにアドバイザー、補助者の方々の労作であり、興味深く拝読させていただきました。

先日もブログで書かせていただきましたが、最近の第三者委員会報告書は、「ないことの証明」に苦心するものが多く、本件も「偽装が特定された3店舗以外の店舗では同様の偽装が行われていないこと」、「本件偽装が組織ぐるみで行われたものではないこと」をいかに説得的に報告できるか…という点が重要だと思われます。こういった「ないことの証明」(存在する蓋然性が低いことの証明)は、弁護士よりも会計士さんのほうが得意だと思いますので、会計不正事件ではなくても、本件のように会計士の委員の方が含まれます。委員会の調査スコープも、自ずとそのあたりに絞られます。

さて本件報告書では、「特定された3店舗以外において、同様の偽装がないこと」については社内調査の範囲をさらに深堀した調査がなされたことが示されており、牛肉の仕入管理のずさんさ、という点が強調されています。この点については委員の方々の丹念な調査内容が読み取れます(偽装を繰り返していた4人の料理長の方々はすでに社内処分も終わり、退職されてしまったようですね)。

ただ、当ブログにおけるエントリー「木曽路・メニュー偽装事件-安全よりも安心を提供すべし」で書かせていただいたとおり、「組織ぐるみで行われたものではないこと」を証明するための調査としては、私ならば別の視点から調査をしてみたいです(もちろん私個人の感想です)。同報告書では、店長の偽装への関与は認められなかったと結論付けられていますが、まずどの範囲の店長のヒアリングを行ったのか明らかにされていないので、この点を明らかにするところです。ヒアリングができなかった店長がいれば、そのことを明示したほうがよいのではないかと(たしか事件発覚後の社長会見では「偽装当時の店長のうち2名はすでに退職している」とのことでした)。現店長さんにヒアリングをしても、店長と料理長との一般的な関係についての情報を得ることはできても、事件当時の個々の関係については明らかになりません。仮に「組織ぐるみではないこと」を証明するのであれば、店長へのヒアリングが困難であったとしても、3店舗間の店長に関係性はなかったのか、大阪、神戸、刈谷店の店長の履歴程度は明らかにしたいところです。

つぎに大阪消費者センターと農水省担当者による臨店調査が7月17日に開始され、その後店舗から本部に報告がされたのが8月5日ということですから、その間2週間以上の空白があります。したがって、この調査は定例調査だったのか、それとも非定例調査だったのかという疑問が湧きます。定例であれば本部への報告に時間を要したこともわかりますが、非定例調査であればすぐに本部に連絡は行くはずです。はたして内部告発があったのか、顧客による通報があったのか、それとも定例による臨店調査によって「たまたま」発見されたのか。いずれにせよ企業の自浄能力が発揮されたのか否かを見極めるためには重要なポイントだと考えます。

また、この報告書を読んでも、料理長という立場の人たちが「牛肉偽装」に手を染める動機がよくわかりません。原価管理が優秀な料理人には賞与で反映される、ということが書かれていますが、木曽路のトップクラスの料理長(北新地店のケース)が、指揮命令系統の異なる店長の期待に応えるために偽装に手を染めるのでしょうか。今回の社内調査のように、本部が調査すればあっという間に容易に判明するような偽装を「お客様に喜んでもらうため」にやってしまうものでしょうか。さらに、そのような動機で偽装をする料理長が、北新地店に来る前の名古屋の店舗では、なぜ偽装をやっていなかったのでしょうか(むしろ、私はそっちのほうに興味があります。4人の料理長の人たちが、3店舗以外では松坂牛や佐賀牛に関する偽装をなぜ行わなかったのか、その理由を突き詰めるほうが、再発防止策を考える上でヒントになるのではないかと)。北新地店の料理長が二代続けて偽装を継続していた、という点についても、単純に「料理長に取引先との強い人脈があったので無理を聞いてもらえた」ということでは(なぜ二代目の料理長も偽装ができたのか)十分に説得力のある理由とは思えません。

仮に報告書が認定しているように、4人の料理長による単独不正によるものとするならば、今後は店長による料理長に対する監督体制を確立しなければ、いくらコンプライアンス研修をやったとしても再発を防止することは困難ではないでしょうか。経営本部から(上下関係のない)店長と料理人に別々のミッションが飛んでくるのであれば、コンプライアンスの最終責任者を決めておかないかぎり、ミッションが優先されるものと思います。

店長は「できるだけ営業に出向いて売上を伸ばすこと」、料理人は「できるだけ原価管理を徹底すること」にまい進すれば、どんなにコンプライアンス研修をやったところでコンプライアンスは「二の次」であり、秤にかけてしまいます。家族を支えなければならない社員にとって、これはやむをえないところであり、人はそんなに強い存在ではありません。社員にとって大切なのは、せめて「木曽路」の社員としての看板を背負っている8時間(24時間中)は、個々人の倫理観よりも会社の品位を優先できるだけの誇りをもてるかどうかだと思います。

私の感覚では、118店舗中わずか3店舗だけで偽装が認められたとするならば、そしてそれが技術者(本件では料理長)のみによるコンプライアンス違反ということであれば、それはむしろ上場会社としてコンプライアンス意識の高い企業であり、未然防止のための施策はこれ以上は不要ではないでしょうか。むしろ重要なのは1年半も偽装が続き、消費者センターや農水省の調査がなければ気がつかなかった本部の体質です。売上や利益が個人成績と結び付く外食の世界では、どんなにコンプライアンス研修をやったとしても不正は防げない、というところからリスク管理を見直すべきです。どうすれば不正を発見できるのか・・・という点こそ、今後の再発防止の肝心なところではないでしょうか。

以上、野次馬的に勝手に書き連ねてきましたが、私自身、木曽路の大ファンであり、両親の法事の際には親戚をたくさん連れて、いつも堺泉北店を利用させていただいています。これからも外食の雄としてのブランドを築いていただくためにも、自浄能力を十分に発揮していただきたいと願ってやみません。

12月 26, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年12月10日 (水)

エアバッグリコール問題-タカタ側の言い分を考える

年末となり、今年一番の企業不祥事に発展してしまいそうな気配が漂うタカタ社のエアバッグリコール問題。ホンダ社も日本で初めての「調査リコール」を実施することを表明していますが、あいかわらず不思議なのがタカタのCEOの方が前面に出てこないことです(アメリカで現地弁護士との対応協議はされたようですが)。自動車メーカーのトップが調査リコールを表明するに及んでも、なぜタカタのトップ(ここではCEOのことを示します)が記者会見をされないのでしょうか。コンプライアンス経営が叫ばれるご時世、私にはどうしてもわかりません。ということで、以下は私が考えた「エアバッグリコール事件に対するタカタ社の言い分」です。なおあらかじめ申し上げますが、私はとくにタカタ社を擁護するわけではありません。あくまでもタカタ社としての「正論」を推察したものです。

事実関係は今年1月23日のロイター記事「特別レポート:米国エアバック事故、優良企業に大規模リコールの代償」を参考にしています。

①そもそもタカタ社はシートベルトの製造で収益を上げていましたが、ホンダ社から「エアバックを作らないか」と持ちかけられました。タカタの先代社長は、あまりにもリスクが高いので断固拒否していましたが、ホンダ担当者が「御社の織物技術を自動車の安全性向上に活かしてほしい」との粘り強く説得したことにより、最後は決意をひるがえして「危ない橋」を渡ることにしました。このような経緯からすれば、今回はリスクが顕在化したものであり、強硬にエアバックを作ってくれと懇願したホンダ社が前面に出るのは当然ではないかと。

 

②自動車部品といっても、エアバッグは人体に触れることを前提とした部品であり、いわば自動車の車体と一体となったものです。多くの自動車部品メーカーは、人体に触れる部品は安全性を保証できないので作らないことをモットーとしています。このような大規模リコールが予想される自動車部品については、自動車メーカーの許諾も得ずにリコールの要否を判断することは自動車部品メーカーには困難ではないでしょうか。

 

③エアバッグの安全基準は他の自動車部品と比べて桁違いに厳しいものです。通常の自動車部品の故障率基準は1000分の1、ブレーキでさえも1万分の1~10万分の1。しかしエアバッグの故障率基準は100万分の1以下でなければならないとされています。しかしそうなると、どうやって強制リコールが必要となる原因の存在や機種の特定を証明するのでしょうか。走行実験や人間による検査では到底困難とホンダ社の関係者も過去に証言しています。つまり、これまでは安全基準を満たしていなかったが、交換することで安全基準を満たすようになった、ということを、安全思想に基づいて国民に説明することは困難ではないでしょうか。

④このような厳しい安全基準のためか、当局も「欠陥」を立証できるような証拠を持っているわけではなく、当局も公聴会においてこれを認めています。欠陥が認められない以上はリコールを強制されることもありません。現地の敏腕弁護士とも相談したところ、欠陥が立証できない以上制裁金を課されることもないとのこと。そうであるならばCEOが前面に出て上げ足をとられるよりも強気の姿勢で臨むべきではないでしょうか。

⑤それでも、これまでにインフレータ内のガス発生剤の成型工程が不適切、ガス発生剤の成型後の吸湿防止措置が不適切など、合計4つの原因を任意で特定し、リコールを継続してきたものであり、そのようなタカタ社の対応について米国のNHTSAは、2010年「タカタのリコールは適切」とお墨付きを与えています。したがって現在は安全だと堂々を主張しているのであり、ではなぜ米国のNHTSAは「タカタのリコールは適切と言ったのは間違いだった」とは言わないのでしょうか。

もちろん事実関係の把握が適切でないところもあるかもしれませんが、タカタ社の言い分としては以上のようなものが考えられるのではないかと。いずれにしましてもホンダの社外取締役の方がおっしゃるとおり「まずはお客様の安心を最優先で考えるべき」とのことなので(朝日新聞ニュース)、各社協調して調査リコールを進めることが大切です。拙著「不正リスク管理・有事対応」の37ページ以下でも述べましたが、リスク管理は安全思想から安心思想へと移り変わりつつあります。ただ、上記で述べたようなタカタ社の事情をよく吟味しておかないと、安易に「タカタの常識は世間の非常識」と言い放ち、企業コンプライアンスの視点からの批判を向けるには「やや情報不足」な気がいたします。

12月 10, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2014年12月 1日 (月)

注目に値する第三者委員会格付け委員会のノバルティスファーマ報告書評価

私の本年度の講演を聴講いただいた皆様ならおわかりのとおり、私自身は、今年最大の企業不祥事はノバルティスファーマ、武田薬品工業、協和発酵キリン等で発生した一連の医師主導型臨床研究不正疑惑事件だと考えています。公正であるべき医師主導の臨床研究結果の世界的信用が毀損されたことは、まさに日本の貴重な資産を毀損したことになり、その名誉回復には多大な努力が求められます(ご承知のとおり、いままさに厚労省、文科省を中心に、研究不正を研究者サイドで未然防止するための施策、および研究を支援する製薬業界の自主ルールと事後規制としての厳罰ルールが検討されているところです)。

民間の団体である第三者委員会報告書格付け委員会が、その臨床研究不正疑惑事件に関する第三者委員会報告書、とりわけ「ノバルティスファーマ慢性骨髄性白血病治療薬の医師主導臨床研究であるSIGN研究に関する社外調査委員会報告書」を第3回格付け評価の対象としたことは誠に卓見であり、各委員がどのように評価をされるか、非常に楽しみにしておりました。そしてこの11月28日、評価結果が格付け委員会HPで公表されました。これも講演で何度も申し上げていますが、今年の第三者委員会報告書の中で、私はこの対象とされた報告書が最もレベルの高いものだと思いますが、各委員の評価も、(いずれもAという評価ではないものの)これまでの審査対象を比較して極めて高い評価が得られています(Cという評価の委員3名のうち2名の方は、本件第三者委員会が調査対象としているノバルティスの日本法人との関係でいえば実質的にはB、とされているので、ほとんどの委員の方の評価がBだったと言っても過言ではないと思います)。

みずほ銀行反社融資事件、そしてリソー教育不適切会計事件それぞれの第三者委員会報告書に対して、これまで誰も委員がBランクをつけておられなかったにもかかわらず、ノバルティス事件の報告書にほとんどの委員がBランクを何故つけたのか、この違いこそ企業関係者の方々に研究していただければ、と思います。(これは私の個人的な意見ですが)他社の企業不祥事から不正リスク管理を学ぶ場合、リスクの重大性にばかり目が奪われてしまい、リスクの発生可能性(はたして同種の不祥事は自社でも起きるのか)について思考が及ばないケースが目立ちます。しかし、このノバルティス第三者委員会報告書を読んだとき、私はあらためて「グローバルに競争する製薬会社であれば、どこのMR担当者でも同様の不正の芽は抱えているのではないか。トップのミッションが厳しくなったり、担当部門の業績が悪化した場合には、どこの企業でも起きるのではないか」といった思いを強くしました。なぜなら、この報告書は、製薬会社や日本の研究機関の抱える構造的な悩みや、そこで働く人たちが「背負わざるを得ない」課題にまで踏み込んでいたからです。

第三者委員会報告書、とりわけ日弁連ガイドラインに準拠することを宣明した委員会の報告書は、企業をとりまくステークホルダーの利益保護(損失の回避)のために作成されることが第一義です。公正な企業活動を企業の内外から支えるためにも、適切な原因究明と説得的かつ実現可能は再発防止策の検討は不可欠です。そのためには、丹念に調査確認した詳細な事実をもとに、深く切り込んだ原因分析が求められます。現在までのところ、今回の格付け評価については、みずほ銀行やリソー教育の報告書評価の際のような注目を受けていないように見受けられます。また、この格付け委員会の各委員の評価結果がすべての点において適切というものでもありません。しかし、個別の評価結果よりもむしろ、これまでの2回と比較して、今回の評価がなぜ高かったのか・・・、その差異に注目することこそ、各社が不祥事リスクを学ぶうえでとても大切なことではないかと思う次第です。

最後にもう一言だけ個人的な意見を言わせてもらえば、私は上記報告書を読む限り、どんなに規制当局が未然防止策を検討し、事後規制的厳罰を設定したとしても、「(ごくまじめな社員や医師が巻き込まれてしまう)構造的に利益相反状況を抱えざるを得ない医師主導型臨床研究において不正はなくならない」と確信しています。したがって「どうすれば不正を早く発見すべきか、不正が発覚した場合に研究機関や製薬会社はどう対応して最低限度の信用毀損にとどめるべきか」といった発想のリスク管理が不可欠だと確信しています。事実、すでにそのような発想でリスク管理を進め始めている製薬会社も存在します。

12月 1, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年10月29日 (水)

椿本興業不正会計事件にみる資産流出リスク対応のむずかしさ

Uiapk778_2関西の老舗名門商社である椿本興業さん(東証1部)の元社員(中日本本部の営業担当幹部)が架空循環取引によって700万円を会社から詐取したとして、取引関係者含め3名が詐欺罪で逮捕された、と報じられています(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。架空循環取引は、昨年3月に同社の内部監査で発覚し、その総額は約80億円に上るとのこと。そのうち数億円が元社員に還流したとされています。元社員は、社内調査に対して「接待費を工面するためだったが、歯止めが利かなくなり、自分の遊興費や愛人の生活費などに使うようになった」と説明しているそうです。

本件は、昨年5月に第三者委員会報告書が公表されて以来、注目していましたが、第三者委員会のすべての委員の方を存じている関係もあり、あまりブログでは触れませんでした(^^;。しかし、ACFE(公認不正検査士協会)でご一緒させていただいている米澤勝税理士の新刊(左写真)では、案の定、本件をきっちりとフォローされており、税理士、公認不正検査士の視点から本事件について解説が加えられています。本書は近時の会計不正事件を取り上げ、不正行為者の「動機」面に焦点を当てた考察を試みたものであり、不正の未然防止、早期発見対策を検討するための有益な一冊です。

企業はなぜ会計不正に手を染めたのか~会計不正調査報告書を読む~(米澤勝著 清文社 2,000円税別)

元社員が主導した架空取引は15年にわたり、不正取引件数合計1000件、その総額は約80億・・・。この数字を皆様はどう思われますでしょうか?「愛人の生活費に充てたって?とんでもない奴だ!」とご立腹される方も多いでしょうし、懲戒解雇、逮捕という手続きも当然かと思います。ただ私の場合、どうしても「こういった資産流出を行う可能性のある人は、どこの会社にもいる」と考えるわけでして、むしろ「なんで15年間も架空循環取引が放置されていたのか」という点にこそ関心を抱いてしまいます。第三者委員会も、監査役監査、会計監査にかなりの疑問を呈しているように読めます。

こういった事件が発覚すると、営業担当社員が取引のすべてを仕切っていたことから、職務分掌、ダブルチェック、ローテーションといった内部統制が機能していなかった、仮に内部統制が機能していれば不正は未然に防止できたのではないか、と指摘されます(本件の第三者委員会報告書でも同様のことが記載されています)。たしかに教科書的にはそのとおりであり、不正の未然防止のためには内部統制システムを厳格に運用することが求められます。

しかしそれで果たして経営者は納得するでしょうか?営業担当社員と顧客の関係をみてみると、商売の現場では「取引全体のコーディネートをいかに巧みに行うか」という点が営業担当社員の腕のミセドコロではないでしょうか。協力会社や仕入れ先に顔が利く営業担当社員がいるからこそ、仕入先担当者が無理をきいてくれたり、委託業者が迅速に対応してくれます。また、そういったところに顧客は「付加価値」を感じるわけで、だからこそ無理な値引き要求をひっこめてくれます。そういったことで顧客、会社、仕入先の「三方よし」が産まれ、会社間の信頼も高まるのではないでしょうか。ちなみに、上記米澤先生の新刊書でも、「できる営業マンの条件とは?」と題するショートストーリーが紹介されており、まさに社内で輝く営業マンは不正と隣り合わせであることを物語の中で教訓として示しておられます。

加えて、仮に教科書通りに権限分掌といったことをきちんとやるとなると、経営者に求められるスピード経営にかなりの支障が来されるのではないでしょうか。逮捕された元社員も、第三者委員会報告書によれば社内で高い評価を得ていたようで、だからこそローテーションもなく、長年営業の第一線で活動していたものと思われます。したがいまして、私からすれば、生き馬の目を抜くような競争を繰り広げている世界において、不正が起きるのは当然であり、むしろ不正をどうやって見抜くのか、という点にこそ会社は注力すべきではないか、と思ってしまいます。

L13687結局のところ、不正の未然防止よりも不正の早期発見を目指した内部統制システムのほうが企業のリスク管理としては実効性が高いのではないか・・・という視点から書いたのが拙著「不正リスク管理・有事対応~経営戦略に活かすリスクマネジメント」でして、もちろんご異論はあろうかとは思いますが、平時から不正リスクを真剣に検討するためには、不正リスクの大きさよりも、不正の発生可能性(発生確率)をどのように考えるべきか、といった発想を用いて、できるだけ思考停止に陥らないことが大切かと。

上記の米澤先生の本でも指摘されていますが、この事件は未だ終了したものではなく、架空循環取引に協力していた会社(当該会社の社長さんらも、今回逮捕されていますが)から、椿本興業さんは10億円の損害賠償請求訴訟を起こされており(ただし椿本さん側からも反訴が提起されています)、会計上も特別損益の引当が計上されている状況です。もし、不正を早期に発見することができたのであれば、流出した資産額もわずかで済み、また架空循環取引に関与した会社から裁判を起こされるという事態にも至らなかったわけです(なぜそう考えられるのかは、第三者委員会報告書を読めばおわかりになります)。

私的には、この椿本興業さんの事件では、もちろん元営業担当社員の不正事件ではあるものの、「会計不正」を引き起こしたのは同社の構造的欠陥にあると考えます。一人ひとりの行動は処罰の対象にはならないものの、どれか一つだけでも機能していれば元営業担当社員の不正は早期に食い止められたはずです(たとえば内部監査、監査役監査、会計監査、内部通報制度等)。仮に「それでは食い止められない」と回答されるのであれば、ではなぜ食い止められなかったのか、その合理的な理由の有無に焦点を当てなければ、また同様の不正が発生するおそれがあります。本件も、実は別件の不正事件が発生したにもかかわらず、その際に同種の事件は社内で発生していないかどうか、改めて調査をしていれば発見できた・・・といった記載も第三者委員会報告書に見受けられます。この構造的欠陥というものは、もはや経営者以外には指摘できないわけで、そういったところに拙著でも警鐘を鳴らしています。

10月 29, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年10月 2日 (木)

不正の発見は業務処理統制から-企業不正の実態調査

Foaq223_5いつもお世話になっているKPMG-FASさんより、「日本企業の不正に関する実態調査 2014版」をいただきました。KPMGさんは、これまでにも2006年から、過去3回の不正実態調査を行ってこられましたが、4回目である今回は2011年1月から2013年12月まで、計3年間の不正事件に関する開示情報148事案を分析したもので、非常に有用性の高い調査結果を発表されています。なお開示情報からの分析、ということなので、やはり分析される事案は、会計不正事件か資産流用事件が中心になっています。

様々な視点からの分析が行われていますが、やはり私の最大の関心は、「不正の発覚経路」です。その結果はといいますと、意外にも内部通報、内部告発による情報提供よりも、業務処理統制による発覚が一番多いという結果が出ています。ただし経営者不正に限っていえば内部通報や内部告発による発覚がやはり圧倒的に多く、従業員不正については逆に業務処理統制による発覚が多い・・・という結果が出ています。やはり経営者が関与する会計不正事案などは、内部統制を無効化させてしまうということで、経営者不正を内部統制で防止できるかといえば限界がある、ということでしょうか。

ちなみに業務処理統制による発覚の経緯としては、①売上債権の滞留調査によるものが最も多く、次いで②仕入れ・原価計算分析や親会社のモニタリング、③人事異動や主体的関与者の体調不良などによる長期休暇といった担当者の交代が多いそうです。不正発見のための内部統制システムの体制作りといえば、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度と言われていますので、こういった結果をみますと、やはり基本原則をどこまで徹底できるか、ということが早期発見のための要諦ではないかと思われます。

もうひとつ意外なのが、不正発覚と株価の動向です。会計不正事件だけの特徴かもしれませんが、不正会計や資産横領事件が発覚した上場会社の株価は、発覚後、ほぼ85%ほどの価格に低落し、その後60日以降もその株価が従前どおりには回復していない、ということです。なるほど、会計不正事件については株価の低迷が長期間に及ぶ・・・ということがこの分析調査でよく理解できました。会計不正事件の発覚は、株価の急落をもたらすものとして、明確に意識したほうが良いと思われます。

外部者関与の不正事例の特徴、第三者委員会設置の比率など、個々の調査報告書などを読んで不正事件の傾向を勉強することはありますが、こうやって150件ほどの事例を詳細に分析する・・・ということは、なかなか個人では困難です。不正の早期発見のための施策を検討するためにも、このような実態調査の結果を活用することも必要ではないかと思います。

10月 2, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年8月27日 (水)

ついに出た!消費者庁・課徴金制度の衝撃(景表法改正案)

本日(8月26日)、景表法の改正草案(パブコメ案)が出ましたね(内閣府消費者委員会へ提出 消費者庁課徴金検討委員会のリリースはこちらです)。昨年のカネボウ美白化粧品事件、一連のメニュー偽装事件の総決算、といった印象を持ちました。

商品やサービスの不当表示(不実証広告も原則として含む)について、売上の3%(売上集計は過去3年分)を課徴金として賦課するというもので、自主申告した場合には半額を減算、被害者返金や国民生活センターへの寄付で3%を超える場合には課徴金免除。ただし不当表示防止のために相当な注意を尽くしていた場合には(例外として)課徴金は課さないことがある、とのことです。軽微基準(課徴金算定額が150万円以下の場合は除外)もあります。

今般の消費者行政の集大成のような草案です。自主申告した場合には半額に減算、ということは、内部通報制度の運用に努力した企業、消費者の声に耳を傾けた企業に有利ということになります。また、主観的要素については企業側からの立証が求められていますので、要するに景表法7条に基づく内部統制システムをきちんと構築していたことを証明すれば免除される可能性がある、ということになります(コンプライアンス・プログラムですね)。

また目玉としての自主返金制度の新設があります。他の省庁による課徴金制度と違い、消費者庁管轄の課徴金制度は企業の自浄能力の発揮によって(かなり厳しい条件が付されていますが)課徴金処分を免除されることになります。かなり思い切った制度なので、今後様々な意見が各界から寄せられるものと推測されます。つまり、企業はうっかり不当表示をやってしまうことはあるけれども、自浄能力を発揮できた企業と、そうでない不誠実企業とが手続きにおいてはっきりと区別されることになりそうです(もちろん、行政の判断は不当、ということで「闘うコンプライアンス」を選択することもできます)。

この課徴金制度が企業規制の上で理屈が通っているかどうかはまだまだ検討しなければなりません。しかしながら、これで板東消費者庁長官が、今後は消費者教育の推進を徹底すると就任会見で述べておられたこととつながってきますが、それはまた別途詳細に解説したいと思います。当ブログで毎度申し上げておりますが、この行政手法は、今後他省庁による企業規制にも多用されることは間違いないと思います。企業は「誠実な企業」から「不誠実な企業」に色分けされないためにも、経営者主導で速やかに内部統制システムの構築を見直す必要がありそうです。

8月 27, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年7月31日 (木)

当社は被害者?加害者?-彷徨う日本企業の広報コンプライアンス

消費者の生命、身体、財産の安全を脅かすような不祥事が続いています。先日のベネッセHDによる個人情報漏えい問題に続き、今度は上海の食品会社による期限切れ食材使用問題で日本マクドナルドHDが揺れています。数日前の決算発表では、同社CEOの方が計画よりも15~20%も売り上げが落ちてしまった・・・とのこと。中国の第三者検査機関の検査結果の信用性にも問題があったようですが、食材偽装問題による企業の業績悪化のダメージは相当なものです。

ところで先日、ベネッセの不正防止対策に関する雑感を述べましたが、広報コンプライアンス上の問題点は述べておりませんでした。詳しくは雑誌「広報会議」で書かせていただきますが、このベネッセの件にしても、日本マクドナルドの件にしても、広報コンプライアンス上で似たような問題があるように感じています。私のセミナー、講演を聴講いただいている方なら、すでにご存じかもしれませんが、こういった広報コンプライアンス上の問題への対応を誤り、私は過去に大失敗をしています(会社の方々にもご迷惑をおかけしました・・・)。今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしいマスコミ対応でした。

ベネッセ社長の記者会見で、社長さんは記者さんから「御社は被害者なのですか?加害者なのですか?」と質問を受けました。たしか社長さんは「顧客にご迷惑をかけたという意味においては加害者です」と回答されたものと記憶しています。実際のところ、情報管理会社の社員が情報を流出させ、名簿業者がこれをジャストシステム社等に転売し、顧客名簿を買い付けた会社がこれを活用したわけですから、ベネッセ側からみれば被害者であることには間違いありません。ただ、たしかにベネッセ社に個人情報を預けた消費者側からみれば加害者です。私が過去に失敗したのは、いきなり「これは当社の責任ではなくA社の責任である。我々も被害者の一人なのだ」といった記者会見から始めてしまったところにありました(しかも法的な理屈をもって・・・)。被害状況がまだよく把握できない状況で、世間が一番知りたいことを後回しにして、自社のリーガルリスク回避に向けた対応を優先してしまいました。「そんな理屈はもっと後の話でしょ!いまは被害回復への御社の対応こそ消費者の関心事でしょ!」と多くの批判を浴び、もちろん最悪の結果になりました。ベネッセ社の危機対応として、このあたりの広報にはかなり腐心されているのではないでしょうか。

さらに問題なのは日本マクドナルド社の対応です。中国ではネット上で食品会社とグルになって消費期限切れの食材を使っていたのではないかとの疑惑が盛り上がっています。このようなときに、日本の消費者向けに謝罪していたのでは、「ほらみろ、やっぱり食品会社とグルだったではないか」と思われてしまいます。そこで、まずは「私たちはグルではありません!完全に騙された被害者です!」といった広報が必要になります。しかし、この広報を見た日本の消費者は「被害者ヅラするな!20年も仕入れていたのだろう!管理責任はどうなんだ!」といった対応をされてしまうので、すかさず「お客様にとって私たちは加害者です」と謝罪会見を開かなければなりません。

被害者か加害者か・・・、グローバル企業にとっての広報コンプライアンスはとても難しい局面があります。以前、仕事をご一緒させていただいたリスクマネジメント会社の方は、加害者としての立ち位置を維持しながらも、暗に「私たちも実は被害者なんです」という趣旨を理解していただくような雰囲気を醸し出すことが大切だといわれました。たしかに、そのような高等戦術も必要かもしれませんが、私は結局のところ、消費者に対して謝罪する意思があるのであれば、再発防止のためにいかに商品やサービスの「安心」を形として示していくか、という点にまい進するしかないのでは・・・と思っています。どんなに頑張ってみたところで不祥事は100%防ぐことは不可能です。ただ、事故を回避するためにどれだけ企業が努力しているのか、その姿を消費者に示して、安全よりも安心を提供するしかありません。安全認証機関があるのなら、その最高レベルの認証をとる、中国工場がアブないのであればタイの工場に仕入れ先を変える、海外工場に日本人管理者を一人常駐させる、といった「見える化」によって安心をお届けする以外に危機広報のキモは存在しないと思っています。

広報コンプライアンスの重要なポイントは、単に自社のリーガルリスクを最小限に抑えることではなく、不祥事は起こしたけれども、どうすればこれからもお客様でいてもらえるかを考えることだと思っています。

7月 31, 2014 企業不祥事を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年12月 5日 (木)

食品偽装事件と役員の法的責任(善管注意義務違反)

そのうち食品偽装事件を起こした企業の役員に法的責任が認められるか・・・という点にスコープした記事が出てくるのではないかと予想していましたが、案の定、読売新聞(関西版)に登場しました。関西の名門リーガロイヤルホテルを運営するロイヤルホテル社(東証2部)の食品偽装事件をテーマとして、食品偽装表示事件の公表に消極的だった企業の役員について、法的責任(善管注意義務違反)が認められるかどうかを検証するものです(読売新聞ニュースはこちら)。

ロイヤル社では、今年6月、コンプライアンス担当の専務さんが、同業他社の偽装事件をきっかけとして「自社でも同様のことが生じているのではないか」と思い、社内調査を実施。その結果、案の定、メニュー偽装が発見され、専務さんは社長さんに事実を報告されたそうです。しかしその時点で取締役会への報告は一切されずじまい。その後、10月の阪神阪急ホテルズさんの事件をみて、公表を決意。今年11月14日の取締役会で初めて全役員に報告され、11月18日に消費者庁へ報告、その後ただちに公表するという予定も報告されたそうです。その際、他の取締役の方々からは「なぜもっと早く報告しなかったのか」と質問があったようですが、専務さんは「社内調査が済んでいない状態で公表することはできなかった」と回答されたそうです。

さて問題は、その11月14日の取締役会の後ですが、中間決算の説明を行う際、記者さんから「おたくのホテルでは(メニュー偽装は)大丈夫か?」との質問があり、専務さんは「以前からチェック体制はとっている」と回答し、偽装の存在を否定しました(実際にはその5日後に偽装の事実を公表することになります)。11月19日の偽装公表時には、専務さんが「公表に対する認識が甘かった」と説明。

上の読売新聞の記事では、企業法務で著名な弁護士の方が、中間決算の記者会見の様子を問題視され、担当の専務さんがあえて事実に反する答弁を行ったのであれば、取締役の善管注意義務違反の可能性が高いとされています。たしかに積極的に虚偽の答弁を行ったとすると、世間がメニュー偽装事件に関心を抱いていた時期だけに、この時期における虚偽説明は法的責任に結びつく可能性もありそうです。ただ、専務さんの法的責任がどうであれ、私が疑問に思うのは、今年6月の時点で、なぜ専務さんは取締役会に報告をしなかったのか、さらに会社法357条で取締役は会社に対して著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、ただちに監査役に報告しなければならないとあるにも関わらず、どうしてメニュー偽装の事実を監査役に報告しなかったのか、という点です。コンプライアンス担当役員ということであれば、全貌が判明していない時期であったとしても、せめて監査役と他の取締役との間で、事実を共有しておく必要があったのではないでしょうか。

さらに問題は、この11月14日時点で、偽装を知った他の取締役、監査役さん方の法的責任問題です。もはやこの時期は、阪急阪神ホテルズさんの事件を含め、食品偽装事件が世間で注目されていた時期です。中間決算報告で、記者さんから質問が出ることは想定できたのではないかと。取締役会終了後の会見で、もし聞かれた場合にはどう回答すべきか・・・ということは議論されなかったのでしょうか?消費者庁への報告までは黙っておこう・・・ということで合意されたのでしょうか。「すぐにでも公表せよ」といった意見はどなたからか出たのでしょうか。このあたりの事実関係については(ダスキン事件の株主代表訴訟判決との比較で)とても関心を持つところです。むしろ、「この程度の食材とメニューの不一致程度なら、とくに問題視する必要はないのでは?との「リスク感覚の乏しさ」があったのではないかと思います。

もちろんこのたびの公表に消極的だったということで、単純に会社の損害が発生したとみるのは早計です。ロイヤル社のレピュテーションが毀損されたといえるためには、第二、第三の不祥事が発生しなければ顕在化していない、ともいえそうです。ただ、11月14日の時点で、ロイヤル社の役員さん方は、明らかに有事になっていたものであり、もはや経営判断の裁量の幅は著しく狭くなっていたことは間違いありません。阪急阪神ホテルズさんの一連の経過があったので、後出しじゃんけんではなく、有事の対応が求められていた時期だと思います。したがって、たとえ訴訟リスクは乏しいかもしれませんが、偽装が判明した時点における取締役、監査役の行為規範について検討しておくことは有益かと思います。このあたり、他社さんでも公表に消極的だったところが散見されましたので、食品偽装事件と役員の法的責任の関係を、それぞれの会社でお考えいただいたほうがよろしいのではないかと。

12月 5, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (7) | トラックバック (0)

2013年12月 2日 (月)

食品偽装リスクを平時に認識していた企業に学ぶ不正リスク管理

食材の虚偽表示問題について、消費者庁は企業の内部統制システムの整備を強化する方向性で景表法改正を検討していると報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。メニュー表示のチェック部門の設置や表示に関する責任者の設置など、社内の監視体制の強化が義務つけられる可能性があるようです。

食品偽装問題が景表法の改正問題にまで発展する事態にまで至ったわけですが、私自身もあるホテルのメニュー偽装問題のアドバイザーとして関わった印象からしますと、実際のところ経営者がメニュー偽装という不祥事リスクの存在を認識していなかったように感じます。百貨店にせよ、外食にせよ、産地偽装のように他人の営業努力にフリーライドすることの問題は理解していたと思いますが、そこに至らない程度の不一致は「許された演出」と認識していたところも多かったのではないでしょうか。とくに社内調査の結果として、メニューと食材の不一致が存在したことが判明した企業のうち、どれだけの企業が不一致を公表したのでしょうか。おそらく外食チェーンを含め、公表せずにこっそりとメニューを変えただけの企業も多かったのではないかと推測します。

もちろんメニュー偽装は消費者、顧客の方々に対する裏切り行為であることは当然です。どこの企業でも、社内でもメニュー偽装が判明した時点で、すぐにメニューを改定し、今後は同様のことが起きないように再発防止策を検討しています。しかし、果たして「食材とメニューに不一致が生じるリスク」というものを、平時に(今回の問題が大きく報じられる前に)どれだけの企業が重大リスクとして認識していたかと言えば、あまり危機意識を持っていた企業は少なかったのではないでしょうか。

食材原価をできるだけ低くして、一方できるだけ美味しそうなメニューを表示して顧客に喜んでもらうことについてはどこの企業でも同じ意識で競争しています。問題は、食材とメニューの不一致について判断する場合、「許される演出」と「許されない偽装」の境界線は極めてあいまいであり、また人によって判断が変わりうるということです。したがって、景表法を改正して、上からの規制で食品偽装を規制したとしても(そもそも境界線があいまいなわけですから)同じ問題は残るわけで、法令違反の有無よりも、顧客の信頼を裏切る行為か否かが問題となった今回の事件と同様、今後も食品偽装不祥事は間違いなく発生します。

もし従来から経営者がメニュー偽装が大きな不正リスクであるということを認識していたのであれば、今回の不祥事は起こしていないはずです。なぜなら、この「境界線があいまい」ということのリスクを知っていて、常に現場に警告を発していたからです。警告を発していれば、ときどきは偽装の疑いがある判断にブレたとしても、誰かの指示でまた正常なラインにまでブレが戻ってきます。しかし不正リスクの重大性を認識していない組織では、現場はできるだけ原価を抑えること、顧客に喜ばれるメニューを表示することがミッションですから、歯止めがなければこのブレが次第に偽装の色が濃いゾーンにまで傾いてしまい、社内の常識・社外の非常識の様相を呈してきます。気が付いた時には、社内から内部告発がなされていた・・・ということで問題が発覚します。

大阪の名門のホテルが「社内調査で不一致が判明したが、公表の必要があるとは思ってもいなかった」と正直に会見で述べておられましたが、これは正直な感想かと思います。今回の食品偽装問題では、企業の有事対応に焦点があたることが多かったのですが、では平時からどうすればよかったのか・・・ということを改めて考えると、意外に未然防止がむずかしいことがわかります。おそらく誰か個人のミスに起因する不祥事ではなく、組織の構造的な欠陥に起因する不祥事だからです。顧客から信頼を失ってしまうような不祥事とは、いったいどのような場面なのか、平時から不正リスクを洗い出して評価することの重要性を痛感します。とくに誰かの法令違反やミスではなく、どのような行為が企業風土を映し出す鏡になってしまうのか、ということに思いを巡らすことが大切だと思います。

12月 2, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (9) | トラックバック (0)

2013年11月15日 (金)

反社取引の解消-企業のレピュテーション維持と取締役の善管注意義務

会社法は、法人の営利活動における関係者間の利害調整を図ることにより、法人の永続的成長に資することを目的とした法律です。なかでも株式会社の場合には、株主が経営を取締役に委ねることになりますので、取締役は会社に対して善管注意義務を負うことことで関係者の利害調整が図られています。そして、この善管注意義務の内容は、原則として株主利益の最大化を図ることとされます。

金融機関の反社会的勢力への提携ローンに基づく融資事件をきっかけに、メガバングはすべて自行取引においても反社会的勢力へ融資をしてしまうことがある、と実態を説明しています。そもそも反社かどうかはあいまいな判断基準しかなく、また融資後に反社となってしまう取引先がある以上、「結果として関係をもってしまうことがある」のは当然のことです。どんなに入口でチェックしても、一定程度の反社取引が存在してしまうことを前提として、ではその後にどう解消に向けて対応すべきかと考えなければならないわけです。

誰が判断しても反社だと特定できるようなものであれば、おそらく「取締役の法令遵守義務」として善管注意義務を考えればよいのでしょうね。もたもた放置していれば法令遵守義務違反として会社に対する債務不履行(損害賠償責任)になってしまいます。しかし反社かどうかよくわからない場合(グレーゾーン)のケースでは、暴排条項の有無にかかわらず、解消に向けた措置をとるべきかどうか、その法的根拠がむずかしくなります。とくに行為要件が具備されるようなケースならばわかりやすいですが、属性要件だけで反社だと認定するのは至難の業ではないでしょうか。きっちり返済を継続している相手方であればなおさら「正常債権」を毀損させる行為がなぜ善管注意義務として求められるのか、難しいところがあります。

しかし、解消が困難だからといって手をこまねいていては企業の信用が毀損されてしまいます。世の中で「あそこは反社だ」と噂されているところへ融資を継続していること自体、金融機関の信用は大きく傷つくことになります。そこでこういった会社の評判(レピュテーション)を守ることが会社法上、取締役の善管注意義務の履行といえるのかどうか、というところが問題になります。レピュテーションというのは、時代の変遷によって内容が変わりうるものであるため、「社会の要請への適切な対応」と訳されるコンプライアンスと表裏の関係にあります。コンプライアンス違反≒レピュテーションリスクの顕在化、といえそうです。レピュテーション・・・といえば聞こえは良いのですが、取締役の善管注意義務の内容を判断するために使えるかどうか、ひょっとして「企業の社会的責任を尽くす」と同様に、内容が明確でないために取締役が自己の行動を正当化するために濫用のおそれがあるのではないか、という点も気になります。開示の世界(金商法)ではすでに「利益相反取引の疑いのある行為」について、取締役はレピュテーションに配慮せよ、と言われていますが、行為規範の世界(会社法)でも容易に使えるのかどうかは慎重な検討が必要な気がします。

反社と断定できないので暴排条項が使えない、けれども世間では「反社と噂されている」のでこのまま取引を継続していると企業の信用は地に落ちてしまう・・・というケース。契約法理において、取引を一方的に解消するための正当理由になるのかどうか、これだけ世間が反社に関心を寄せるようになれば(噂レベルであったとしても)民法95条の錯誤無効の「要素の錯誤」が(動機の錯誤において)認められやすくなるのかどうか、いろいろと考えられるところです。しかし、取締役の善管注意義務の履行という視点からは、調査を尽くしたうえで、なおかつ「反社かどうか疑わしい」という場面においては、たとえ会社に損失が生じたとしても、取締役は解消に向けた行動をとらなければならない(つまり短期的には株主の利益最大化に反する行動だとしても、長期的な視点では株主利益に資するものである)ということになるのでしょうか。

富士通社が元社長辞任の経緯をやむなく開示したことで、反社と噂されていた会社が損害賠償を富士通社に請求しました。今年1月に最高裁で富士通勝訴で確定しましたが、なぜ富士通社が相手方が反社だと断定できなかったにもかかわらず名誉毀損で負けなかったのか・・・、そのあたりの判例法理を学ぶ必要がありそうです。

11月 15, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年11月12日 (火)

「組織ぐるみの不祥事」と言われないための役員のリスク管理

(本日のエントリーにつきまして、各種メディアへの転載はご遠慮ください)

メガバンクの経営トップは不適切融資の報告を受けていたか、名門ホテルグループの経営トップは偽装の事実を把握していたか等、企業不祥事は「経営者関与」「組織ぐるみ」と評価されることで企業の信用を大きく傷つけてしまいます。不祥事をトップが許容していたのか(知っていて放置していたのか)・・・・・、という点は第三者委員会による調査の重要な対象事実になります。

ところで、最近名門企業の不祥事が多発しているせいか、私がブログで紹介しても(残念ながら)あまり話題にならないのがNPB統一球問題の第三者委員会報告書です。この第三者委員会報告書は元最高裁判事、元最高検検事、大手法律事務所の大御所弁護士の方々が調査委員となり、きわめて秀逸な内容であるにもかかわらず、どうも話題性に乏しいままです。次々と発生する企業不祥事の話題の中で埋もれてしまうにはたいへんもったいない無形資産です。

なんといっても、コミッショナーが「絶対に統一球仕様変更の事実を私は知らなかった」と首尾一貫して否認されているにもかかわらず、第三者委員会は「たしかにご本人は否定しているけれども、ご本人は知っていたか、あるいは事実を知っていた場合に比肩しうる程度の(知らなかったことに)重大な職務違反がある」と結論付けています。つまり本人は否定しているけれども、証拠から見れば知っているものと同等に扱ってもよい」という評価です。

おそらく一般企業の代表者が、第三者委員会によってこのような評価を受けたとすれば、もはや「組織ぐるみの不正」ということで、訴訟リスクを背負うことになるものと思います。ご承知のとおり、取締役・監査役の不正関与につき故意または重過失あり、ということになりますと、会社法429条1項による(第三者に対する)賠償責任が認められることになりますし、D&O(役員賠償責任保険)の対象からも除外されてしまう可能性があります。

ということで、ここからは単なる「お知らせ」ですが、私、このNPB事件の第三者委員会報告書から、「取締役や監査役は、どのような事実が集積すると不正を知っていた、もしくは知っていたに等しい重過失ありと認定されるのか、を学ぶ」という珍しい研修セミナーを企画いたしました。研修といいましても、一般の方がお聴きになれるものではなく、企業の役員の方からご希望がございましたらプライベートセミナーということで、1時間から1時間半ほどのケースメソッド研修をさせていただこうかと思っています(とりあえず時間が許す限りにおいて、全国の上場会社を対象とさせていただきます)。なお、いくら公開されているからとはいえ、第三者委員会報告書をそのまま教材に使うことは倫理上も問題なので、この報告書をもとに私が教材事案を作成しています。

教材事案をもとに、役員がどのような行動に出れば、また社員がどのようなことを知っていれば、また有事になってどんな慌てた行動をとれば「経営者は不正を知っていた、あるいは知らないことに重過失あり」とされてしまうのかを双方向で学習しよう、というものです。もちろん立証責任や証拠能力、フォレンジックによる証拠収集リスクなどにも配慮した内容になっています。また、有事に慌てないように、スピード経営が求められる平時にはどのような行動をとれば不利な認定を受けないのか・・という平時のリスク管理にも言及いたします。

別に「お金儲け」というわけでもなく、あくまでも私の趣味に近いところでの研修企画ですが、けっこう自分で言うのもナンですが、経営者にとって有益なものに仕上がっております(笑)。もしご興味がございましたら、私宛にメール(toshi@yamaguchi-law-office.com)にてご相談ください。企画案の開示と共にお見積りさせていただきます。ちなみに一般公開のセミナー等でお話する予定は一切ございません。また、(わざわざ私に依頼するまでもなく)皆様方の会社の顧問弁護士さん方に、このようなセミナーを企画していただく、というのも推奨いたします。結構、この報告書はいま話題の企業不祥事を読み解くにあたっても有益ですよ。

経営者関与と認定されることは、単に訴訟に負けないため、ということだけでなく、そもそも訴訟を起こされないために必要です。そういったタイプのセミナーというのはあまり今まで見聞きしたことがありません。役員会終了後、役員会活性化のためにも、みなさんで勉強してみませんか?少しでもご興味がございましたら、ご検討いただけますと幸いです<m(__)m>。

11月 12, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年11月 7日 (木)

メニュー偽装事件、二次不祥事に発展する要因は?

メニュー偽装事件の報道が後を絶たない状況です。ホテルのレストランから始まり、主要百貨店(百貨店が管理している店舗)にまで及んでいますので「メニュー偽装」というよりも「食材偽装(虚偽表示?)」といったほうが正確かもしれません。消費者庁はとりあえず景表法の執行を念頭に置いているそうですが、将来的には(法改正の上)景表法の運用として課徴金で対応することも検討するとのことで、事の重大さに少々驚いています。

多くの企業が偽装を公表して謝罪会見を開いていますが、そのなかで阪急阪神ホテルズ社と近鉄旅館システムズ社は社長さんが辞任(または辞任予定)することになりました。不適切なメニュー表示問題から、不適切な危機対応という「二次不祥事」に発展してしまったのがまずかったようです。

なぜ他の会社では謝罪会見でほぼ終息する状況であるにもかかわらず、阪急阪神と近鉄では逆に不祥事に火がついて「二次不祥事」に発展してしまったのか、冷静に分析しますと、いくつかの課題が浮かび上がります。そのひとつはやはり「内部告発の誘因」だと思います。記者会見ですべての事実を公表していなければ、社員は会社の対応に憤り、その後マスコミに対して記者会見では公表されていない不祥事(メニュー偽装)を情報提供してしまいます。上記2社においてはこのパターンでした。不十分な情報しか公表しない記者会見では、「社長が事実を隠していた」「故意の偽装ではないと言っていたが、実際は現場の意識は故意だった」という評価を受けてしまい、これが典型的な「二次不祥事」になってしまいます。

私の経験からですが、こういったケースでは、社長は必ずしも事実を隠そうとしていたわけではないと想像します。むしろ情報共有体制の不備です。社長がこの際、全部不祥事を公表しようと社員に呼び掛けても、残念ながら責任をとらされてしまうおそれのある社員からは情報が上がってきません。その社員の部下は、この上司の態度に憤りを感じ、内部告発に至るということも十分予想がつきます。

結局、有事に至って情報共有体制の運用にどんなリスクがあるのか、平時から訓練をしていないことが有事に出てしまいます。平時のリスク管理が非常に重要であることの証左です。後から偽装を公表する企業は、このあたりのリスクがなんとなくわかってくるので、情報集約に時間をかける結果、不祥事を公表したとしても「メニュー偽装」という一次不祥事止まりであり、二次不祥事には発展しません。

そしてもうひとつ、社長辞任にまで追い込まれた阪急阪神、近鉄旅館のケースでは、偽装という一次不祥事を、社会の批判が集中する二次不祥事へと発展させてしまった重要なポイントがあります。過去の食品偽装事件等の同種事例でも、企業の社会的信用を大きく低下させてしまうような、不祥事の拡大原因として挙げられる点です。この点に気が付けばどこの会社でも二次不祥事発生を食い止めることができるはずです。この点はまた、追って時間のある時にでも解説してみたいと思います。

11月 7, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年11月 6日 (水)

「モノ言う監査役」が無視された事例-雪国まいたけ粉飾事件

Rtsde今朝(11月5日)の朝日新聞に、某名門企業の常勤監査役の方が「監査役の覚悟」という冊子を自費出版で300冊発行されたことが、特集記事として報じられています(加藤記者「多事有論」)。トライアイズ社の元監査役さんの事例紹介を中心として、監査役は時には社長と対峙しなければならず、またその覚悟をもって監査役としての職務を遂行しなければならない・・・という、著者の強い思いが伝わってきます。本書の登場人物すべての承諾を得ていない・・・とのことで、広く出版というわけにはいかなかったそうですが、平時には黒子に徹し、有事には毅然とした態度で経営陣と接する必要があるという著者の意向がよく反映された一冊であり、私も著者の意見に強く賛同します。

さて、本書で示されているような「有事に毅然とした態度で経営陣と対峙する」姿勢を監査役さんたちが示した事例が、本日の適時開示で公表されています。東証2部の雪国まいたけ社が、過年度における不適切な会計処理により、平成21年3月期から平成26年度第一四半期報告書までの決算訂正を行うそうです。事業用資産の減損処理や広告宣伝費の会計処理等に問題があり、過年度の決算訂正の結果、平成24年3月期においては違法配当が行われている、ということも判明しました。経営トップはこの結果を受けて辞任するそうです(産経新聞ニュースはこちら)。

本件に特徴的なのは、今年6月上旬、退任直前の取締役が監査役に「告発文」を提出し、その告発文に従って社内調査が開始されたということ、また社内調査中である8月27日に証券取引等監視委員会による立ち入り調査を受けることになったという事実関係です。ここからは推測ですが、この退任直前の取締役の方は、監査役に告発文を提出すると同時に、CPAAOB(公認会計士・監査審査会)もしくは金融庁に告発文と同じ文書を提出していたのではないでしょうか。監査における不正リスク対応基準が施行され、監査法人としても告発文は重要な虚偽表示を示唆する状況に至らしめるものなので、ひょっとすると監査法人にも届いていたのかもしれません。とりわけオリンパス事件における社長の内部告発と同様、取締役という地位にある者の内部告発は、その信ぴょう性や重要性という意味においても大きな意味があるので、今回の粉飾発覚にとって大きな役割を果たしています。不正リスク対応基準施行後の内部告発の有効性が改めて認識されるところです。

そしてもうひとつ本件に特徴的なのは、平成24年の時点において、監査役会が問題点を把握しており、文書によって社長以下取締役に対して問題点の是正を促している点です。まさに「モノ言う監査役」として活動されていたようです。以下、社内調査委員会から関連部分を抜粋します。

監査役会は、平成24 年4 月に社長、取締役及び執行役員宛に監査役の所見として書面による意見具申を行っている。所見の内容は、当社の実情を的確に捉え、コーポレートガバナンス、組織運営問題、資金繰り、会計処理関係、労務安全など多岐にわたる課題について提言している。所見の中で広告宣伝費の繰延処理は不適切である旨の指摘がなされているが、監査役会の所見は反映されることなく今回の不適切な会計処理に至っている。監査役会が幅広く当社の課題を提言しているにもかかわらず監査役会の意見を真摯に受け止めることができなかった社長や取締役のコーポレートガバナンスの認識不足は改めなければならない。

上記のとおり、残念ながら監査役会の問題提起は無視されてしまったわけで、ここで経営陣が監査役会の提言を受け容れていたのであれば、まさに自浄能力を発揮した事例として大きく社会的信用を毀損する事態に陥ることは回避されたものと思われます。このような有事において、監査役が会計監査人と連携できたのかどうか、社外取締役さんはどのような行動に出たのか、もう一歩進んで監査報告の中で何らかのシグナルを発信することはできなかったのか等、さらに踏み込んで知りたいところです。いずれにせよ、監査役としての毅然とした対応が求められるような事態となったときに、監査役としてどこまで前面に出て善管注意義務を尽くすべきなのか、いろいろと検討したくなるような事案であることは間違いありません。

11月 6, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (11) | トラックバック (1)

2013年10月31日 (木)

阪急阪神ホテルズはなぜ第三者委員会を設置しなかったのか?

先日、阪急阪神ホテルズ社のメニュー偽装(誤表示?)事件についてコメントさせていただき、最後に「このまま二次不祥事が発生しなければ収束に向かうのではないか」と(期待をこめて)述べましたが、残念ながら「内部告発によってリッツカールトンホテルにおけるメニュー偽装が発覚」という二次不祥事が発生してしまいました。その後の流れは、すでに皆様ご承知のとおりです。ひょっとすると、社長会見の際、判明していた事実をすべて公表しなかったことが「二次不祥事」であり、その結果として(憤った社員による)内部告発を招いたのかもしれません。

これは素朴な疑問ですが、阪急阪神ホテルズ社は、どうして第三者委員会を設置しなかったのでしょうか。たとえばなぜメニューと食材の不一致が生じたのか、その発生原因を調査する、といった内容で、行政当局による調査とは別に行う、というものです。社長さんが謝罪や説明のための会見を開いた時点で、いろいろと釈明するよりも、1カ月間ほど第三者委員会に調査を委ねて、それまでは一切コメントしないとしたほうが、よっぽどグループとしての企業価値を毀損しないで済んだのではないでしょうか。また、偽装か誤表示かという問題も、第三者委員会の判断にゆだねて、その結果を待って謝罪をすれば結果が変わっていたと思うのですが。

行政当局の調査が進んでいたために、もはや任意に第三者委員会に調査を委ねることができなかった、というのが理由であれば、先日のコメントで述べたように、そもそも行政当局への事実報告の巧拙が、こういった事件では重要であることが再認識されるところです。また、会社側で第三者委員会の設置を検討してみたものの、委員候補者との事前折衝の末に、これはとても設置できないとの判断に至ったとすれば危機対応としては若干問題があるように思います。

もちろん、第三者委員会はCSRの思想により、ステークホルダーへの説明責任を尽くすために設置されるわけですが、事実上は企業のリスク管理(危機管理)としても有用な面はあるはずです。阪急阪神ホテルズ社としては、第三者委員会を設置することで、冷静に第三者の意見に耳を傾ける時間的余裕もできたと思うのですが、そういった第三者の意見を聴くだけの余裕すらなかったのでしょうか。そのあたりに「社内の常識→世間の非常識」の認識を欠いてしまった原因があったのかもしれません。

今回のメニュー偽装事件の一連の流れをみて感じたことは、①子会社不正は親会社の企業価値を毀損する、②ブランド企業であるがゆえに、その不正は大きく報道され、企業価値の毀損度が大きい、ということです。本日あたりから、全国のレストランやホテルで自主的にメニュー偽装を公表するところが増えています。しかし、いちおうマスコミでも報じられてはいるのですが、ほとんど不祥事として大きく話題になることはありません。阪急阪神ホテルズという関西の名門企業による不正だからこそ「企業の品位を害する行為」として大きく取り上げらたことがよくわかります。ブランド戦略とコンプライアンスは表裏一体の関係であることの象徴的な出来事だと感じます。

10月 31, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (6) | トラックバック (0)

2013年10月29日 (火)

みずほ反社会的勢力融資問題-なぜ監査役は蚊帳の外?

本日のエントリーについて念のため申し上げますが、以下は特定企業の役員の行動を批判するものではなく、あくまでも制度の在り方について焦点をあてる目的での記述であることにご留意ください。

ご承知のとおり、みずほ銀行の反社会的勢力不正融資問題について、本日(10月28日)第三者委員会報告書が公表され、みずほ銀行より「業務改善計画の提出について」と題する文書がリリースされました。土日の休みなく委員および補佐の方々が調査業務を尽くされたことに敬意を表します。また、そのご尽力が報告書に凝縮されていることがわかります。第三者委員会報告書および改善計画書を読み、私自身も提携ローンのスキームをはじめ、いろいろと勉強させていただきました。とくに、みずほ銀行とオリコとの(問題解消に向けての)やりとりを報告書で読む中で、みずほが(マスコミで報道されているような)問題を放置していた、というわけではない、ということも理解できました。しかし、どうしても解せない点だけを「素朴な疑問」として掲げさせていただきます。

このたびの不正融資問題(オリコを保証会社とする販売提携ローンについて、不芳属性の人たちを相手方として金銭消費貸借契約を締結してしまった件)をみずほ首脳の人たちが知ることになるのは銀行やFGの取締役会に報告された時点だそうです。その報告された取締役会には、いずれにも多数の監査役さんが出席していたことが報告書に記されています。

反社会的勢力への不正融資問題は、銀行の法令遵守態勢に関する点において、取締役の善管注意義務に深く関わる法律問題です。つまり監査役さん方の監査の対象となります。ところが、第三者委員会報告書のどこを読んでも、また改善計画書のどこを眺めても、FGや銀行の監査役さん方がどのような行動をとったのか、また監査役のどこに問題があったのか、今後、監査役は反社会的勢力排除の課題にどう対応すべきなのか、ということが一切出てきません。また、どこにも監査役について問題点が取り上げられていないことの結果でしょうか、関係者が多数処分されているにもかかわらず、FGおよび銀行の監査役さん方は処分の対象にはなっていないようです。

これは一体どういうことなのでしょうか?金融庁は、わざわざ検査重点項目として「監査役との対話」を掲げ、監査役さん方に公益の番人としての活躍を期待しているところだと思います。ましてやメガバンク・・・ということですから、その監査役は「公益中の公益の番人」のはずです。しかしながら、第三者委員による聴取対象者リストには、元常勤監査役の方2名の聴取はあったものの、現役の監査役さん方からの聴取は一切出てきません。これは「監査役には法令遵守態勢の整備および運用のチェックなどはできっこないし、そもそも期待していない」ということなのでしょうか?そうだとすれば、モニタリングの要である監査役制度が金融機関において軽視されていることを象徴するものであり、とても悲しい気持ちになります。

それとも監査役は取締役の善管注意義務違反の有無をチェックする立場にあり、なおかつ独任制の機関なので、監査役の意見を聴取すると、取締役の法的責任論に深入りすることになりますので、第三者委員会としては、これを回避したのでしょうか。現在、みずほFGの個人株主からFG監査役の方々には提訴請求が通知されています。つまり、このままいきますと株主代表訴訟が提起されることになります。そこで、本件報告書については、そういった関係者の法的責任に影響を及ぼすような事実や判断については明確な物言いはしない、ということなのでしょうか。

あるいは(これは穿った見方ですが)金融検査の重点項目である「監査役との対話」が功を奏して、監査役のどなたかの口から、金融庁検査官に対して「当グループでは、このような問題がある」ということが伝えられ、その結果として金融検査で発覚したのでしょうか。監査見逃しに関する社内処分も問われていないというのは、何か事件発覚に監査役が貢献されたのでしょうか。もしそうであるならば、私の本日のエントリーは全く的外れ・・・ということになりますが。

銀行の改善計画書によれば、銀行に社外取締役を導入するとのことで、ガバナンス、コンプライアンス、危機管理に精通した外部有識者の就任を予定しているそうです。しかし企業価値向上や経営者業績の評価という社外取締役選任の一般的な理由ではなく、ガバナンス、コンプライアンス経営の向上という理由からであるならば、社外取締役を選任する前に、現在の監査役制度をどうするのかを先に議論することが求められるはずです。第三者委員会報告書の中に、今回の事件の原因として「役員の退任・異動による引き継ぎの不備」というものが掲げられていますが、そうであればなおさら、任期が長くかつ身分が保障されている監査役が機能していれば、このような問題は早期に解決できたのではないでしょうか。

本来、スピード経営が求められる銀行において、経営陣がリスク管理に割くことができる時間は限られていると思います(これは持株会社の役員でも同じかと)。とりわけ問題となっていた時期に、システム障害という、反社会的勢力問題と同じくらい大きな信用問題のほうに経営陣が注力していたわけですから、思考経済の上でどこかに隙ができていたとしても不自然ではありません。しかし監査役はそういった経営陣の「知見優先による思考回路」とは異なる判断が可能であり、また求められているはずです。立ち止まって、金融機関における反社リスクの大きさを改めて取締役の人たちに認識させ、別の思考回路で問題解決を図るべきことを示さなければならなかったのではないでしょうか。

委員会報告書によると、本件の提携ローン問題に関する資料がFGの取締役会に提出された際、ひとりの社外取締役の方が、FGの取締役会で反社会的勢力排除システムについて質問をされたそうです。社外役員としては、決して見過ごすことができな問題だったはずです。同じ非業務執行役員である監査役の方々は、そこで一体何を言い、監査役会ではどのように意見形成をしていったのか、そのあたりが浮かび上がらなければ今後の法令遵守態勢がどのように整備されたとしても、また同じことの繰り返しになるように思えます。

そもそも、反社問題は法律問題だけでなく、企業倫理に関する問題を含んでいます。なぜ反社会的勢力というだけで人権が侵害されるのか、憲法上のグレーな課題が法律上はつきまとっています。しかし反社への利益供与は間違いなく社会における不正を助長することにつながるものであり、企業倫理として許容できないものです。貸付の原資は預金だからといって、最大回収率を優先し、反社への利益供与が「正常債権」であるかぎりは目をつぶるという「法律チック」な解決に説得力が乏しいのは、倫理問題(企業の品位問題)があるからです。企業倫理に関わる問題に監査役はどこまで関与するのか、それはコンプライアンス委員会の判断に任せておけばよいのか、それとも法律問題を超えて、企業倫理の問題にも監査役は積極的に関与しなければならないのか、そのあたりが明確にされなければならないと考えています。

反社問題は企業の品位に関わるのです。報告書を読むと、銀行は二度も弁護士から法律意見書を受領し、それをもって可としています。いくら法律意見書をとっても、それは役員個人の善管注意義務に関わる問題のクリアであり、企業の品位に関わる倫理問題をクリアしたわけではありません。これが、知見による思考回路とは異なる思考回路による判断が求められる理由です。このたびのことをきっかけとして、経済同友会でも社外取締役の導入義務化に賛同する意見が出されるものとマスコミで報じられていますが、社外取締役制度の義務化の前に、現在の監査役制度の在り方についても、きちんと議論されることを期待いたします。

10月 29, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (14) | トラックバック (0)

2013年10月28日 (月)

NPB統一球問題-もうひとつの「黙って変更」事件の行方

今年は2011年と同じように、後半になって大きな企業不祥事が報じられています。カネボウ化粧品、JR北海道、みずほ銀行、阪急阪神ホテルズ、ヤマト運輸等、いずれも名門と呼ばれる企業の不祥事です。このような不祥事の影で、少し忘れられているような話題なのが一般社団法人日本野球機構(NPB)の統一球仕様変更問題です。10月25日、NPBのHPに、第三者委員会報告書が公開されました(なお、当初は9月30日に提出されたようですが、追加調査がありましたので、その訂正報告分も含めてのリリースのようです)。社内調査の結果は信用できない、第三者委員会でやり直す・・・ということで、A4で81頁に及ぶ大作の報告書ですが、たいへん興味深い内容なので、もし企業コンプライアンスにご興味がある方にはお読みいただくことをお勧めいたします。

本日は詳細を述べるつもりはありませんが、コミッショナーの「仕様変更に関する認識」について、故意とまではいえないが、故意があったものと同程度の非難に値する重過失があったとの認定方法は、おそらくみずほ銀行の経営トップの認識問題にも通じるところがあるのではと思います。また、事務局長の「変更ではなく、微調整だ」という主張に対する第三者委員会の評価については、阪神阪急ホテルズ社長の「偽装ではなく、誤表示だ」という主張の評価にも通じるところがあると感じました。また、セリーグの球団代表者が集まる理事会での議事内容が、かなり抹消されています。そもそも理事会でも「黙って仕様は変更してしまったらいいのでは」という意見も出ていたようで、このあたりの力関係が微妙に事件に影を落としているところが読みとれます。

詳細はそちらの報告書をお読みいただくとわかりますが、たいへん驚いたのは、統一球の仕様変更問題はひとつではなかった、ということです。実はサンケイスポーツニュースが事前に報じているところだったのですが(気がつきませんでした)、NPBで議論されていたのは、反発係数に影響を与える素材の使用を30%から20%に変更しようと企図していたところ、実は(統一球の仕様を開始した)2010年ころから、ミズノ社の社内で勝手に30%が40%に変更されていた、とのこと。これは驚きの新事実です。「最近どうもボールが飛ぶよな」と選手が認識したのも、反発係数に影響を与える素材の使用が半分になったからであって、もしNPBが企図していたとおりに30%→20%であったとすれば、一気に感覚が変わるということはなかったのではないかと。つまり本件が発覚した原因は、この「もうひとつの統一球問題」が影響していたのではないかと思われます。

先のサンスポニュースによると、ミズノ社は産経新聞の取材に対して「何もお答えできません」とのことであり、また第三者委員会の委員による調査でも、このあたりのミズノ社における記録が残っていないとのことだそうです。とても関心はあるところですが、この第三者委員会の調査の限界というところだったのでしょう。ナゾはそのまま残されることになりそうです。これは余談ですが、大リーグでは、こういった統一球の仕様変更については、あまり開示されることもなく行われることもあるようで、そもそも今回の事件がどこまで悪質だと言えるのか、そこから検証する必要があったのかもしれません。

10月 28, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年10月25日 (金)

阪急阪神ホテルズ「食品誤表示」問題をCSRとリスク管理の視点で考える

阪急阪神ホテルズ社の運営ホテルにおいて、約7年間に及ぶ食品偽装問題(念のため、「誤表示問題」といいます)が公表され、大きな問題に発展しています。今年6月に発覚した東京ディズニーリゾートの食品誤表示問題をきっかけに「当社運営レストランでも誤表示問題はないのか?」ということで社内調査を行ったところ、今回の誤表示が次々と発見されたそうです。同社が事実を把握して自ら公表に至ったことは、自浄作用が機能したものとして評価されてもよいと考えていますが、コンプライアンス意識が希薄であったことは否めません(とりあえず自浄能力を発揮したからこそ、24日の社長謝罪会見では大きなツッコミもなく終わったのだと思われます)。

毎度申し上げるところですが、どこの企業でも不正は発生します。要は発生したときに、どう対応するかということであり、このたびの阪急阪神ホテルズの対応の是非について、CSR(企業の社会的責任)の視点と、リスク管理の視点に分けて考察してみたいと思います。なお、念のため申し上げておきますが、企業における昨今のコンプライアンス経営を支えているものは、国民から与えられるレピュテーションです。阪急阪神ホテルズも、東京ディズニーリゾートも、「言語道断」の不祥事であることは確かなのです。だからこそ、そのような声が上がることがレピュテーションリスク時代の企業への「制裁」であることを、以下のお話は前提としています。決して「企業はそれほど悪いことをしたのではない」といった意見であるとの誤解をされませぬようお願いいたします<m(__)m>。

第一にCSRの視点ですが、ホテル側は営業(メニュー作成、活用)と商品担当(調達や現場)との間の情報共有に問題があった、と説明しています。経営トップからは厳しい指揮命令が、別々に営業と商品担当には向けられます。命令が下った担当部署では、それぞれのミッションが異なるわけですから、当然、重視すべき情報も異なります。したがって、情報伝達の際に関心となる情報が、各担当部署において全く違います。単に情報伝達といっても、お互いに関心のある情報が異なること(情報の優先順位が異なること)を理解していなければ、みんな自分が一番かわいいわけですから、このようなミスが何度も発生します。

また、日本の組織における情報伝達制度は、主として担当者の責任回避のためにあります。メールも電話も発信主義であり、到達主義ではありません。「伝達した」という証拠を残すことに重点が置かれ、相手が理解したかどうかまでは伝達者にとっては関心がありません。したがって、この点からも各担当部署の情報の優先順位の違いがそのまま残ってしまい、伝達がうまくいかないのです。これは2009年の日立アプライアンス社冷蔵庫(エコ大賞返上)事件、今年のKDDI社LTE利用区域景表法違反事件と全く同じ構図です。

では、このような情報伝達手法の弱点を克服するために、メニュー担当者が食材を確認する、という手法で対応すれば万全なのでしょうか?帝国ホテルさんや藤田観光さんなどの例を出して、マスコミでも他社の不祥事予防措置が紹介されています。しかし、それでは不十分です。冒頭に掲げた東京ディズニーリゾートの件では、メニュー担当者が食材との不一致を把握しつつも「問題はないと判断した」のが食品誤表示の原因でした(2013年6月3日、4日の朝日新聞ニュースより)。つまり、確認作業を採り入れたとしても、現場担当者が「今の自分の状況は有事ではない」「この程度の違いはとくに偽装にはあたらない」と都合のよいように判断するわけです。しかし現場担当者は、全く悪意があってそのように判断するわけではない、という点に着目しておく必要があります。要するに、現場で食材とメニューの不一致に気付いたとしても、「これはたいしたことではない」と思いこみたいわけで、特に兼務等によって忙しい状況にある現場担当者にとっては、自分の知見に基づく思考回路によって瞬時に判断したくなります。したがって、現場担当者の確認作業を導入したとしても、その確認者を専業にでもしない限りは食品誤表示はなくなりません。

検討すべき改善策としては、忙しいときであっても、「おかしい」と冷静に判断できる体制作りが考えられます。平時から「有事とはどういう状況なのか」という点についてルール化しておく、食材の一致、不一致の判断基準を明確にしておく、判断基準によってわからない場合のための原則をバスケット条項として規定しておく、わからない場合に一人で考えないことを原則化する、内部通報制度を充実化するといったことが考えられます。問題が発生したら自社で解決する姿勢を社員ひとりひとりが持つ必要があります。そしてなによりも、食材とメニューの一致、不一致の判断は、お客様の視点で考えるということが大切だと思います。誤表示の発生した原因がどこにあろうとも、それは顧客第一主義が浸透していないからであり、そのことへの批判が同社に集中してもやむをえないところかと思います。

第二にリスク管理の視点からは、なぜ東京ディズニーリゾートの食材誤表示事件はそれほど大きな話題とならず、阪急阪神ホテルズはここまで大きな企業不祥事になってしまったのか、という点への考察です。食品誤表示の悪質さの違いや誤表示の数の違い、ということによるのでしょうか?私はそうではないと思います。それは後だしジャンケンの考え方であり、私はまったく別のところに原因があると考えています。結論からいえば、企業コンプライアンスの重要論点である「行政を本気にさせてはいけない」という鉄則です。

税務署、警察、検察、消費者庁、金融庁など、いずれも本格的に動けば(担当記者がいますので)マスコミにも情報が入ります。つまり行政の本格始動によって国民はマスコミから大量の事件情報が入ります。企業としては、監督官庁に恥をかかせないように、当初からきちんと正確な情報を提供して、行政権限(国民に生命、身体、財産上の侵害を未然に防止するための規制)が適正に行使できる体制をとれるように配慮すれば、情報コントロールのイニシアチブをとれます。しかし行政に不正確な情報を提供する、もしくは必要な情報を提供しない、という企業行動をとると、行政は本気で怒ります。本気で怒るということは、調査権限を含めて、企業に規制行政で臨みます。行政が表舞台で動くわけですから、担当記者のところにも毎日新しい情報が入ります。したがって、(ここは推測ですが)同じような食品誤表示が事件化されたとしても、東京ディズニーリゾートの場合には企業側からの情報提供しかマスコミは入手できないことになります。

阪急阪神ホテルズの場合、世間に公表する2週間ほど前に消費者庁に情報を提供していますが、そこで提供した情報と、マスコミが騒ぎだした後に出てきた情報に食い違いが生じたとするならば、なぜ正確な情報を提供しなかったのか・・・と消費者庁が本気で対応を検討するようになります。消費者庁が動けばマスコミも動き、その結果としてたくさんの不祥事らしき事実が報じられ、結果として大きな不祥事になってしまいます。不祥事から生じる企業の損失を最小限度に抑えたい・・・というリスク管理の視点から考えるならば、事件発覚当初における行政当局への対応という点に、本事件が大きな不祥事に発展していったポイントがあるのではないかと考えています。

いまのところ阪急阪神ホテルズ社では、本事件において目だった「二次不祥事」は出ていません。したがって、このまま事件報道は終局に向かうものと思います。ただ、行政を本気にさせてしまったがゆえに、次から次へと関連事実がほじくり返されて、その中にとんでもない「二次不祥事」が眠っていたという事件が過去にも数社ほど見受けられます。今後、そのような二次不祥事がほじくり返されないことを祈念しています。

10月 25, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年10月21日 (月)

みずほ問題-独立性のない社外取締役の有用性について

みずほ銀行さんが、反社会的勢力対応のための組織を検討されていることが報じられていますが、そのような施策とともにみずほFGの子会社であるみずほ銀行に社外取締役を選任することが検討されているそうです。みずほ銀行はFG(フィナンシャルグループ)社の100%子会社なので、いわば独立性のない社外取締役ということになります(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。

私もこの問題が発覚した当初から、いくつかのコンプライアンスに関する講演で「子会社である銀行さんに(事実上は)独立性のある社外取締役を選任すべきではないか」とお話しておりました。理由は①情報伝達の流動性を高めること、②代表訴訟が子会社には届かないこと(子会社役員監視の必要性)、③金融検査の変化(モニタリングモデル)への対応、ということからです。

FGには既に3人の社外取締役さんがいらっしゃるそうですが、そもそも下から情報が上がってこなければ、なんらの対応もとれませんし、そもそもホールディングスの独立社外取締役の本来の役割は企業価値向上(グループマネジメント)にあります。コンプライアンス重視の社外取締役であれば、情報にアクセスしうる事業会社側にこそ選任されるべきです。また、このたびFGの役員(旧役員)に対して株主代表訴訟が提起される可能性が出てきましたが、子会社であるみずほ銀行さんの役員には代表訴訟は届きません(会社法改正後に制度化される多重代表訴訟も、たくさんの株式を保有していなければ使えません)ので、子会社の不正リスク管理を社外取締役に期待せざるをえません。さらに、今後は金融検査で横断的に内部監査、監査役監査、外部監査との連携状況がチェックされますので、モニタリング部門向上のためには、他社(他行)とのレベル感の比較、自社モニタリングの客観的な欠陥の指摘等について、外部の目が必要になろうかと思います。

たしかに子会社の社外取締役は、東証の「独立役員」たる地位にはないわけで、親会社少数株主とは利益相反の可能性はあります。しかし導入目的が明確であり、たとえば子会社役員規則等によって重要な役員の選解任事項を親会社(上場会社)の開示事項として規定することで親会社株主らによる監視の対象にもなろうかと思います。なお、ガバナンス問題に往々にありがちなのが、「ガバナンスの外形を隠れ蓑にする」というアリバイ工作です。社外取締役に見てもらっている、承認を得ている、何も異議が出なかったということで、子会社役員がコンプライアンス問題を思考停止に陥らせる可能性がありますので、社外取締役さんの人選がたいへん重要な課題になります。

さて、金融子会社であるみずほ銀行さんに(事実上独立性のある)社外取締役が選任されるとなりますと、そろそろ日本でも韓国と同様に「遵法支援人制度」があっても良いのではないか?という議論が出てきます。遵法支援人制度は2年前に韓国で(大規模上場会社に)導入された制度ですが、金融機関では、すでに10年ほど前から「遵法監視人」として選任が義務化されています。韓国の金融機関の日本支店などにも、年に数回、この遵法監視人が検査に訪れています。

コンプライアンス経営をモニタリングする「外部の目」というのは、日弁連でも3年ほど前から「法律参与制度」として検討され、民主党政権時代、自民党政権時代を通じて、国会議員の方々にも説明しているところです。スピート経営を維持しつつ、コンプライアンス経営にも配慮するためのひとつの施策として検討される時代が来るのではないかと。ただし経済界の大反対ということが予想されるとともに、会社法という「株主の利益最大化を図りつつ、他の関係者の利害を調整して国益に資することを目的とした規整法律」に、コンプライアンスという制度の枠組みをどう取り込むか?というところが最大の難関かと思われます。

10月 21, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年10月15日 (火)

コーナン社の不祥事-法令より重い企業倫理の率先垂範

私生活ではいつもお世話になっておりますホームセンター大手のコーナンさん(東証1部)ですが、このたびは創業者である社長さんと女性取締役さんとの不明朗取引により謝罪会見、四半期開示の延期という「一大事」に見舞われています(不祥事の内容については、たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。株価も一時急落とのこと。

毎日新聞が最初(10月10日)に報じたところでは、記事の詳細が「複数のコーナン関係者らが明らかにしたところによると・・・」とありますので、おそらく社内もしくは取引先による内部からの情報提供が、マスコミになされたものと思います。こういった記事に接しますと、どうしても「内部告発の前にコーナンさんの社内通報窓口に通報があったのだろうか?仮に内部通報があったとすれば、いままで会社は通報について何も調査をしていなかったのだろうか?」との疑念を抱いてしまいます。報じられるところでは、第三者委員会が設置されるそうですが、委員会には、まずそのあたりを詳しく調査していただきたいところです。

さて、ここからが本論ですが、コーナン社の社長さんは、謝罪会見において「軽く考えていた」「思慮が足りなかった」と釈明しておられます。この「軽く考えていた」というのは、私も社長さんの本意ではないかと思いますし、ひょっとすると、ほかの取締役、監査役の方々も「軽く考えていた」のではないかと推測いたします(もちろん、あくまでも私個人の推測です)。

各マスコミの記事では、会社と取締役との利益相反取引といった会社法上の問題、会計処理に関係するリベート授受の問題、取締役の資産譲り受けに関する税務上の問題等に焦点があたっていますが、コーナンほどの大きな会社にしれみれば、一店舗の駐車場用地の問題など、日常の業務執行に関する問題であり、かりに法令違反になるとしても、形だけでも取締役会の承認を得ていれば済む問題、ととらえていたのではないでしょうか(実際、女性取締役の方が就任されたのは2011年ころのことであり、取引はそれよりもずっと以前から、ということのようです)。

むしろマスコミが真正面から取り上げているわけではありませんが、このたびのコーナンさんの不祥事は企業倫理上の問題のほうがよほど大きいのではないかと。上場会社の創業家社長さんが、中途採用の女性取締役さんと個人的な支援関係にあることを裏付ける事実が表ざたになってしまったことが、企業倫理上どうなのか・・・という点です。普段、社員や取引先に対してビジネス上の倫理を率先垂範していた(であろう)経営トップが、取締役(もしくはその親族)が代表者を務める会社から賃借している固定資産の取得に関与している、というのは倫理上ちょっと説明がつきにくい問題です。

コーナンの社長さんの特殊事情というのではなく、ここで企業の経営トップの方々にご注意申し上げたいことは、法務や会計等のビジネス上のコンプライアンス判断に気を取られていると、その背後にある原則の部分、つまり企業倫理上どうなのか?という点への配慮に欠けてしまうことがある、ということです。法務や会計処理上の懸案事項については、ビジネス判断としてグレーゾーンは審議の対象となります。しかし、そこで(法令違反が軽微、会計上の重要性の原則違反はない、といったことで)「たいしたことではない」といった判断が下されると、それが免罪符になってしまいます。ではグレーゾーンに入ってしまったこと自体が上場会社の経営者としてどうなのか、ステークホルダーに説明がつくのだろうか、というところの意識が欠如してしまいます。

コーナンさんの件でも、利益相反問題については従来から(おそらく顧問弁護士さん等の意見を聴いたうえで)問題を把握されていたようで、法人登記等の虚偽申請がなされていたことも毎日新聞ニュースに掲載されています。つまり、違法の程度は軽微なので、後でなんとかすれば大丈夫、といったところかと思います。しかし、法的な問題がクリアされたことで、当事者も周囲の役員の方々も、それで一件落着と考えておられたのではないでしょうか。これは決して倫理意識が薄弱だったというわけではなく、おそらく倫理意識は高く持っていたとしても、いざ実行の段階において無意識に非倫理的行為を選択してしまう可能性がある、ということです。他社さんでも十分注意をしていなければ「うっかりコンプライアンス」にはまります。

通り一遍の倫理教育を行ったとしても、それは倫理的行動がとれるという平時の考え方に影響を与えるだけであり、実際に倫理的行動が必要な場面で、かならず期待される行動がとれるとは限りません。なぜなら法律意見書が免罪符になってしまう、といったことで無意識のうちに非倫理的行動に出てしまうケースは意外と多いからです。おそらく内部告発に出たコーナンの関係者の方々も、違法行為への憤りよりも、まず経営トップが倫理的に問題のある行動をとったことへの怒りが先に立っていたのではないでしょうか。コンプライアンスは法令遵守ということよりも、社会からの要請への適切な対応である、といわれる時代の、典型的な不祥事ではないかと考えます。今後、第三者委員会が設置されるかもしれませんが、果たしてどのような報告書が出てくるのか、注目されるところです。

10月 15, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月 8日 (木)

公務員・公益事業者のコンプライアンス-うっかりミスとまさかのミス

ここのところ中国政府による贈賄規制、独禁法規制の事件報道が相次いでいます。日本企業においては、米国だけでなく、中国による経済法違反リスクについても真剣に検討しなければならない時期に来ているようなので、当ブログでも今後は海外事業展開におけるコンプライアンス問題をエントリーとして追加していきたいと思っています。本業でも時々関わるところですし、なによりもあまりマニュアルがない分野なのでたいへん興味が湧くところです(ただし、本日は全く海外不正とは関係のないお話です)。

8月5日夜のニュースによりますと、福島市がDV被害者の離婚女性の自宅に書類を送付するつもりで誤って元夫とされる男性方へ送付してしまったことで、被害女性から損害賠償請求訴訟を提起されたことが報じられています。女性は、プライバシー権を侵害されたことで、同市を相手取り、慰謝料など約112万円を求める国家賠償請求訴訟を起こした、というもの(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。福島市は記者会見を開き、誤送付を謝罪したそうです。女性は「男性が自宅へやってくるのではないかと精神的に苦痛を感じている」とのことで、このような情報漏えいはとても重大な問題です。おそらく地方公共団体における情報漏えい問題のうちでも、こういった人為的ミスによる問題が最大の課題ではないでしょうか。

公共団体や金融機関、公益事業は企業不祥事で組織が壊滅することは(ほとんど?)ありません。国民はこういった組織が不祥事を起こしたからといって、別の組織のサービスを受けることが困難です。ということで、不祥事が発生すると、組織の構造的欠陥にはあまり関心が向かず、ほとんどの場合が不祥事を発生させた役職員個人の責任追及だけに関心が向きます。つまり「二次不祥事」よりも「一次不祥事」に組織の内外から目が向けられます。だからこそ、公務員コンプライアンスは、単純に「一次不祥事はやむをえない、二次不祥事だけは避けなければならない」といった民間企業向けの提言では説得力がなく、むしろ一次不祥事こそ防止しなければならない、一次不祥事を発生させないためにはどうすべきか、という点に注力する必要があります。ただ、あまり不祥事の未然防止にだけ注力しますと、どうしても不祥事を隠す文化が芽生えてしまうという弊害が生じることも事実ですし、構造的欠陥に関心が向かないために、有効な再発防止策が実施されず、その結果、役職員の不祥事は繰り返されてしまいます。先の福島市の例も、重大なミスではあるものの、職員に重大な情報漏えい問題であることの認識が希薄であれば、また同じミスを繰り返してしまうように思います。

そもそも公務員や公益事業に従事しておられる方々の不祥事未然防止に向けた意識というものは、どうしても薄いものになってしまいます(もちろん、職業倫理観をもって誠実に職務を遂行しておられる方も多いとは思うのですが)。そこには三つの問題が横たわっているものと考えられます。それは①役職員が不祥事を起こしても組織は崩壊しない、という安心感②組織は一生懸命に利益を生む必要がない、という競争意識の欠如、そして③公務員、公益事業者は顧客を選べない、ということです。この三つは企業がコンプライアンス経営を推進するにあたって、大きな足かせとなります。「つい、うっかり」型のミスは個人的ペナルティで防ぐことはできますが、「まさか、こんなことに」型のミスは、いくら個人にペナルティを課してもなくなりません。こういった意識の希薄さは、この「まさか、こんなことに」型のミスには対処できないと思います。福島の情報漏えいの例でも、職員に処理しきれないほどの仕事が重なり、社内ルールを遵守しないことが例外的に許容されていた中でのミスだった可能性があります。

こういった情報漏えいを防止するための施策としては(どなたもご存じかとは思いますが)情報にA,B,Cといった優先順位を付けて、各部署で取り扱う情報について、各部署ごとに優先順位を議論する、といったことも有益かもしれません。しかし、私はミスを誘発する組織風土についてもプロセスチェックを検討すべきではないかと思います。情報漏えいミスが発生した場合には、なぜ発生したのか、単純にミスを犯した人を責めるのではなく、その部署に発生する不正リスクがきちんと評価されていたかどうか、そのリスクを抑制するための人的資源は足りているのかどうか、といったところです。足りていないとすればどうするのか、単純に人を増やすのか、それとも職務分掌に手をつけるのか、そのあたりまで辿って不正発生の原因を究明しなければ再発は防止できないように思います。

8月 8, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月29日 (月)

日本公認会計士協会「不正調査ガイドライン」と調査人の覚悟

土木工事会社との不明朗な高級車のやり取りが問題視された大阪府池田市の市長さんが「逆ギレ」しているとの記事が報じられておりますが、その逆ギレの原因とされているのが第三者委員会の報告書だそうです。自らの身の潔白を証明しようと準備していたにもかかわらず、その主張がことごとく第三者委員会から排斥されてしまったことに不満を抱き、「第三者委員会は裁判所でもないのだから想像でモノを書くな。いったいどこに証拠はあるのか」とご立腹されたそうです(産経新聞ニュースはこちら)。

さて、少し遅くなりましたが、7月2日に公表された(15日にパブコメ締切)日本公認会計士協会 経営調査会研究報告書によります「不正調査ガイドライン」の公開草案を読ませていただきました。公認会計士さんが第三者委員会や社内調査委員会の委員など、不正調査に関わる機会が増えておりますが、公認会計士の方々が不正調査を行う際の留意点などがガイドラインとしてまとめられたものです。業務を受嘱する際の注意点や実際の調査方法、報告書にまとめる際の留意点など、たいへん詳しい内容でして不正調査実務の参考になるものと思います。不正の発生要因や是正措置案の提言に関する記述ではCFE(公認不正検査士)の教科書なども参考にされています。

これは上記ガイドラインへの意見ではなく、私自身の不正調査人としての感想にすぎませんが、冒頭の事例でもおわかりのとおり、不正調査についてはシロかクロかをハッキリさせる覚悟がないと報告書の有用性はなかなか認められないなぁ・・・と思います。「調査をしてみましたが、対象とすべき事実が真実かどうかよくわかりませんでした」という結論は、まさに任意調査の限界を如実に表現するものです。しかし、この結論は依頼主から有利に援用されるだけであり(依頼主の思うツボであり)、委員会の考えとは違った意味で報告書が用いられる可能性があることは、最近の第三者委員会報告書をみてもおわかりのとおりかと(これは不正調査を担当する者にとっての新たなリスクになっていると思います)。

たとえば不正調査の途中でパソコンの中身を調査したいにもかかわらず、これに会社が同意しない場合、調査人は何ができますか?反面調査をしたいにもかかわらず、関係者がこれに同意しない場合、不正調査人はどうすればよいでしょうか?同意を得ずに調査を進めるでしょうか、それとも調査はあきらめるけれども同意がないことを証拠として事実の認定を行うのでしょうか、それとも関係者が協力しなかったので事実を調査することはできなかった、結局事実の真偽は不明のままです、と報告をするのでしょうか。このあたりがリスクアプローチを前提として、「意見不表明」という結論が許容される定例監査と、仮設検証アプローチを前提として、白か黒かはっきりさせることが求められる不正調査とのかなり大きな違いが出てくる場面ではないかと思います。つまり、不正調査にかかわる専門家は、かならず誰かに結論に対して文句を言われる立場となり、ある程度のリスクを負担せざるをえないものと思います。

私の個人的意見としては「不正調査のスキルを磨く」ということは、強制力を持たない調査人が、いかにして真実を明らかにするような調査を行うことができるか、その際にいかに調査人の法的リスクを低減することができるか、という相反する二つの目的を、バランスをとりながら両立させる・・・・・ということに尽きるものだと認識しています。

7月 29, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月16日 (火)

降圧剤不正事件とオリンパス事件の共通点-不正はいかにして発覚するか

(7月16日 朝 追記あります)

今年2月ころから、少しずつ疑惑が浮上していた降圧剤(ノバルティスファーマ社が販売)臨床研究論文疑惑の件ですが、先週、京都府立医大が元教授の論文作成にあたり(誰かによる)データ操作の事実があったことを認めました(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。そのため、一気に世間を揺るがしかねない不祥事としてクローズアップされています。データ解析に携わったノ社の元社員は、いまのところ調査に一切応じないとのことで、今後はますます大きな問題に発展していきそうな予感がします。

さて、この降圧剤不正事件、事件の全体像が未だ把握できていないため、あまり詳しく書くことは控えさせていただきますが(また、それだけの能力もありませんが)、どうして今回のように大きな問題にまで発展してきたのか、そもそもなぜ臨床研究に不正があるということが発覚したのか、というところを考えていきますと、オリンパス損失飛ばし・解消スキーム事件とよく似た構造であることがわかります(以下では、なるべく正確に客観的な情報を整理したつもりですが、事実関係に誤りがありましたらご指摘いただけますと幸いです)。

疑惑も存在しない時点で、大きな組織に不正があることを叫ぶことは、とても勇気のいることですが、単に勇気だけでは誰も取り上げてくれないのが現実です。たとえばオリンパス事件では、当時の社長であったウッドフォード氏による内部告発がありました。そして降圧剤事件では、今から約1年ほど前に、別の国立大学の教授から、府立医大元教授の臨床研究論文への疑惑声明がありました。最近「統計学は最強の学問である」と言われていますが、この疑惑も統計分析のための基礎データに関する疑惑です。

次に、オリンパス事件は、ウッドフォード氏ような経営トップが内部告発をしても日本のマスコミは静観していたのですが、海外のマスコミが大きく取り上げるようになり、これに追随して日本のマスコミも動き出しました。一方、今回の降圧剤不正事件でも、疑惑声明についてはオランダの医学雑誌「ランセット」が取り上げ、これに対して疑惑を向けられたほうが反対意見を表明しました。この反対意見に対しては、さらに疑惑を向けた医師からの更なる反論が加えられたのですが、その後は何ら反応をしませんでした。このような一連の経緯をみて、今年2月に毎日新聞がスクープし、その後フライデーが報じたことで降圧剤不正に絡む臨床研究疑惑が、日本でもメジャーな話題になり

そして一度は「問題なし」としていたところが「社内で調査したところ、おかしな事実が認められた」と公表するのはどちらも同じです。ここで若干見落としそうになるのは、不正疑惑が内外で明らかになった時点における「内部告発者」の存在です。オリンパス事件では、マスコミが騒ぎ出した時点において、週刊朝日に損失飛ばしを告発した人が存在しました。その人が誰かは外部からは不明ですが、社内の人間であることは確かだと思います。また、今回の降圧剤不正事件でも、京都府立医大の調査の時点において、やはり学校側の対応に疑問を抱いた誰かが存在したのではないでしょうか(これはあくまでも私の個人的な推測ですが)。組織として公表せざるをえないような状況に至るのは、実はこういった社内正義派のような方々の存在が大きいのではないかと。

降圧剤不正事件については、現在もノ社の元社員の供述が得られていない段階なので元教授の論文は故意によるねつ造であったといった不正が認められたわけではありません。しかし、こうやって比較してみますと、大きな組織の不正が世に発覚するというケースは、かなりレアな事情が重なることが必須の条件になるということが言えそうです。

朝日新聞の記者によるスクープが日本の検察の闇を暴く、という厚労省郵便不正事件がありましたが、あの事件も、新聞記者と内部の女性検察官という、いわば「力を持った者による告発」でした。一介の社員の勇気ある内部告発が、大きな組織を揺るがすようなコンプライアンス事件を惹起させるということは、ドラマの上では起きることもあるかもしれませんが、現実の世界では、なかなかむずかしい、ということではないでしょうか。

(追記)今朝の朝日新聞一面で「東電用地買収に裏金疑惑」という、記事が出ています。これは内部告発によるものでしょうね。この用地買収自体のコンプライアンス問題よりも、今後の原発再稼働に向けての姿勢として東電がどう対応するのかが注目されます。果たしてこういった告発モノが他紙も追随するような大事件に発展するのかどうか、今後見守りたいと思います。

7月 16, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月17日 (月)

NPB規格変更問題からみる「不確実性」とはいえない企業不祥事

もはや出遅れ感のある話題ですが、NPBの統一球規格変更問題について一言だけ触れておきたいと思います。NPBが選手や球団、そしてファンの方々に事前公表せずに規格を変更したことについて、今後第三者委員会による調査が行われるとのことですが、今回のことについて、コミッショナーは「不祥事とは思わない」というご主張を繰り返して発言されています。

しかし今回の一連の件は、オリンパス事件や大王製紙事件の際に(当ブログにて)申し上げたことと全く同じであり、組織にとっては「不祥事」に該当するものです。たしかに選手らに無断で規格を変更した、ということの問題だけに絞れば「組織としての隠ぺい」と言えるかどうかの解釈問題なので、コミッショナーの立場からは事実がはっきりしないのであれば不祥事ではないとの言葉が出てくるかもしれません(もちろんコミッショナーが真実を語っている、ということが前提ですが)。しかし、そもそも統一球の規格変更という、まさに重要な事項がトップに報告されず、また重要な意思決定に関与もしていない、ということ自体が組織の不祥事です。ダルビッシュ投手が、今回の件を知り、ブログにて「トップの人がそんなことを知らないってことのほうが問題ではないの?」と発言されていましたが、まさにその感覚のとおりです。

オリンパス社の損失飛ばし・飛ばし解消スキームの実行自体も不祥事ですが、第三者委員会報告書でも大きく取り上げられたとおり、そのような不正を知っていながら放置していた組織、疑惑があるにもかかわらず調査を回避していた組織、不正が発覚しかけたときにばれないように工作する組織といった「個人の責任を追及できないけれども不正を容認する組織としての行動」こそ最大の企業不祥事であり、これこそ被害者の損失を拡大した要因だと思います。外部から組織としての不祥事を追及されることをおそれて、もっともらしい理由を作って個人の責任に仕立て上げ、社内処分をもって(社会からの)責任追及を回避する事例も最近はよく見かけるところです。コンプライアンスが単なる「法令遵守」と訳されるのではなく、まさに企業の社会的評価として組織に向けられる時代だからこそ、組織としての行動が企業不祥事として捉えられるべきだと考えます。

オリンパス事件を経験して、不正リスクには二つの側面があることを知りました。ひとつは言葉どおり不確実性に関するリスクです。損失飛ばしという不正が行われることは、企業にとって「不確実」な事件です。だからこそ、社長は「起きるかどうかわからないけど、起こらないような対策を立てよう」と考えます。そしてもうひとつは複雑性のリスクです。起きることは確実(すでに起きているかもしれない)で対処を要するが、どう対処したらよいかわからない、という問題です。不正を許容してしまう企業風土というのは、まさにこの複雑性リスクです。社長さんがこの風土にどのように対処するかは、担当部署に任せることはできず、まさに経営マターの問題です。

6月 17, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 4日 (火)

不正リスク管理は「起こさない」よりも「起きたらどうする」

いつも楽しみにしております共同ピーアール社が公表するアンケート調査結果ですが、5月31日に「企業不祥事に関する意識調査」なる調査結果が公表されました。回答者は一般の給与所得者300名ということで、同じ調査は10年前にも行われているそうです。10年前と比較すると、自分の職場でも不祥事が発生している(可能性がある)と回答している人の比率が高くなっており、逆に不祥事が起きた企業については「倒産するのは当然」という回答よりも「一部の人がやったことだから、倒産は酷だ」と考える人の比率が増えているそうです。

10年前との比較でいえば、サラリーマンの方々の間でも、自分の会社でも不祥事は発生する、といった現実的な考え方が浸透しているのかもしれません。だからこそ、いざ不祥事が発生した場合には、「一人のために会社の倒産は酷である」と会社側にやや寛容な姿勢が生まれてくるように思われます。こういった一般のサラリーマンの方々の意識からすれば、企業不正リスクを考える上でも、「不祥事を起こさないためのリスク管理」だけでなく「不祥事が発生した場合に、これを早期に発見するためのリスク管理」「不祥事の芽を不祥事に発生させないためのリスク管理」というものも社内で少しずつ浸透し始めているのかもしれません。

たしかに「一人のために会社の倒産は酷である」「不祥事企業の製品は、当分購入については様子を見る」といった不祥事企業に対して寛容な回答が多かったことについては、企業不祥事発生企業をリアルに眺めている方が増えてきたことの現れかと思います。しかし、もう少しミクロの視点で眺めてみますと、不祥事は「一人」だけが批判されるべきものかどうかは検討しなければならないと思います。たしかに不祥事発覚によって刑事、民事、そして社内処分の対象となる者は行為者一人のみかもしれません。しかし毎度申し上げますとおり、その一人の不正行為について、①不正を知りつつ何も言わない社員、②不正の疑惑があるにも関わらず、何も調査をしない社員、③最初から不正など当社では起きない、といって懐疑心すら抱かない社員といった組織構成員の意識があろうかと思われます。これらの他の社員の作為・不作為は、それ自体が不祥事とは言えませんが、不祥事を容認する体質をつくりだしている人たち、とは言えるはずです。こういった体質が不祥事の後始末において何ら問題視されなければ、また不正は形を変えて同じ会社で発覚してしまうものと思います。

本日(6月3日)、読売、朝日、産経が報じるところですが、SMBC日興証券の30代の証券マンが、認知症の老人の(他社運用にかかる)投資信託を(当該老人の弟と扮して)解約し、自らが担当する証券会社の口座に入金し、運用を継続していた、というニュースがありました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。信じられない事実であり、高齢化社会に向けて高齢者の資産運用については機運が高まっているにもかかわらず、このような事故が発生してしまうと眠れる資産の運用に支障を来すことにもつながりかねない事件です。このニュースを子細に検討しますと、当該支店における幹部社員は、この女性が認知症の可能性があり、その取引には慎重な対応が必要だったにもかかわらず、何らの対応もしていなかったということだそうで、利益至上主義のもとでのコンプライアンスという視点からすると、営業担当者のコンプライアンス問題については構造的な不正体質が存在していた、と言えるのではないでしょうか(私は本件については、ぜひ第三者委員会を設置して、こういった不祥事を許容する体質の改善に努めるべきだと考えます)。

もうひとつ、上記アンケート調査結果の中で興味深い結果が出ています。10年前と比較すると、企業は消費者を意識しながら経営をしていることの理解が示されていますが、それでも不祥事は今後増加する、そしてその不祥事は消費者による監視などよりも、自律的な行動によって発見すべきであり、対応すべきだという意見の増加です。消費者の意識としても「不祥事は残念ながら今後も増える、しかし起きた不祥事にどう企業が自律的に対応するのか、そこが大切」というところが顕著となってきたようです。本日、東京ディズニーリゾートの景表法違反疑惑問題が報じられましたが、TDRが自ら不正の端緒をつかみ、自ら徹底的な調査をして、その結果を自ら公表する・・・、こういった姿勢が(たとえ不祥事が発生したとしても)企業の信用を支えるのものと思います。

6月 4, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年5月30日 (木)

「丸亀製麺」で考える企業不祥事とソフトロー(取材記事のご紹介)

いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。先日、ITメディアさんより取材を受けまして、本日(5月30日)取材記事がアップされましたのでご紹介いたします。

「丸亀製麺」で考える企業不祥事とソフトロー」(ITメディアニュースより)

ブログ、書籍とも、最近は「ソフトロー」に関心を抱いておられる方が多く、今後法律雑誌等で公表予定の私の小稿も、ソフトロー関連のものです。やはりリーマンショック以降、いかに柔軟で即効性が高い規制(事前規制)をかけるべきか、各国が真剣に悩んでいる姿が浮かんできます。ソフトローは規制を受ける側のインセンティブが大切ですが、このインセンティブを外に求めるか(たとえばレピュテーション)、内に求めるか(たとえば企業倫理)によって規制する側の対応にも工夫が必要であります。

仕事中の更新はひさしぶりですが、もしお時間がありましたら、ご一読いただければ幸いです。

5月 30, 2013 企業不祥事を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)