2013年12月16日 (月)

インサイダー取引規制にひそむ「やったもん勝ち」の穴

金融商品取引法にお詳しい方であれば、すでにチェックされていらっしゃると思いますが、11月22日に報じられていたように、イー・アクセス株をインサイダー取引によって取得した同社元会長秘書の方が、有罪判決を受けました。懲役2年6月、執行猶予4年、罰金300万円および追徴金4400万円という判決内容だそうです。しかし、その判決言渡の際、裁判官が「いまの法律だと被告人が不当に得た利益をそのまま残すことになる。早期に立法的措置を望む」との異例の法改正提案をされたそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。

金融商品取引法198条の2には、インサイダー取引を犯した(刑事罰として)者については、犯罪行為によって得た財産(およびその財産による対価)を没収することができること、そして没収が困難な場合には追徴することができることが規定されています。これは刑法にある任意的没収・追徴に関する規定の特別法的な規定であり、必要的没収・追徴に関する定めです。没収できるのは「財産」であり「利益」ではありません。したがって、たとえば500万円で株を買って、1000万円で売り抜けた場合には、この1000万円について没収できることになります。

インサイダー取引によって処罰される場合、普通は売買によって利益を上げている事案が多いのですが、本件はたまたま安値で買って(上がる前に買って)そのまま保持していたところに特色があります。インサイダー取引を立件する場合、(被告人が否認することを想定して)値段が想定どおりに変化したこと、実際に被告人は利益を手にしていることを証明して「故意立証」を確実にすることが通常だと思いますが、本件では高値になってもそのまま被告人は株を持ち続けていたというものです。これまでも多数のインサイダー刑事事件の判決が出ていますが、普通は高値で売り抜けていますので本件のような問題は生じなかったのでしょうね。

上記の毎日新聞ニュースによりますと、裁判所は「現在の金商法の規定では2009年に電子化された株券について換金のための手続きが定められていないため事実上没収は困難、したがって追徴するしかないが、追徴は株式取得時における価格を基準に算定せざるをえず、したがって4500万円以上の利益がそのまま被告人の手元に残ることになる。これは法の欠缺である」と判決で述べたそうです。

金商法198条の2は「犯罪行為で得た物」ではなく「犯罪行為で得た財産」とあるので、金銭債権等についても没収は可能です。したがって株券が電子化されていても株主権を没収することは法律上は可能なのですが、その換金となりますと電子化後の株式売買は、被告人の手続き協力だけでなく、第三者の協力や口座開設などの手続きを必要としますので、これを明確にする規定がなければ刑事手続きにおけるデュープロセス違反(憲法13条)になるものと思われます(現に、組織犯罪処罰法では19条以下で金銭債権の没収に関する詳細な規定があります)。したがって金商法においても、犯罪で得た財産が株主権の場合には、これを換金するための手続きに関する特別の規定がなければ事実上没収は困難、ということになります。

さらにやっかいなのは追徴について、株式取得時の価格を基準として算定しなければならないということです。このあたりは昭和52年12月22日最高裁判決におけるゴルフ会員権を没収・追徴の対象とした場合に関する考え方が参考になるかと(裁判の公判終結時を基準とすべし、との少数意見もありますね)。株価には変動がつきものですし、時価がインサイダー取引によるものとは必ずしも言えないので、過度に残虐な刑罰にあたる(比例原則)可能性もある、というのが理由でしょうか。いずれにしても、現行の金商法のままだと、インサイダー取引は「やったもん勝ち」の可能性が残っている、ということになりそうです。

12月 16, 2013 金融商品取引法関連 | | コメント (3) | トラックバック (0)