2018年7月19日 (木)

増えるか?企業統治指針に基づく企業年金のESG投資

MHPSさんによる、タイの発電所事業を巡る現地の公務員への贈賄疑惑の件につきまして、一昨日のエントリーで予想していたとおりの見通しになりそうですね(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。ただ、そうなりますと、今後は海外当局の動きや集団訴訟のリスクがどうなるのか・・・、そのあたりに注目しておきたいと思います。

さて、7月18日の日経夕刊一面に「社会貢献重視のESG投資 エーザイ、年金で運用」と題する記事が掲載されており、エーザイ企業年金基金は年内にもESG経営に前向きな企業の株を選んで保有する、いわゆる「ESG投資」を始めることが報じられていました(ちなみに日経電子版の同記事を読むと意味が通りますが、この日経新聞の夕刊記事は紙幅の関係からなのか中間の記事が省略されているために意味不明な記事になっていました)。

企業年金基金がスチュワードシップ・コードの受け入れを表明しているところはまだまだ少ないようですが(たとえば7月1日現在、一般事業会社関連ではNTT、パナソニック、セコム、エーザイの4社のみ)、エーザイさんは、積極的にESG投資を行う方針のようです。スチュワードシップ・コードの指針3-3あたりを意識されたものと思われます。なお、エーザイさんのガバナンス報告書の最新版を拝読しましたが、ガバナンス・ガイドラインや取締役会の実効性評価の概要など、とても参考になりますね。

ところでコーポレートガバナンス・コード改訂版の原則2-6では、「企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」として、スチュワードシップ・コードの受け入れを含め、企業年金の運用に関する要請事項を定めています。そこでは、運用における取組み状況を開示すべき、とありますが、上記4社を調べたところ、コーポレートガバナンス報告書で「取組み状況」を開示している企業と開示されていない企業に分かれていることに気づきました。改訂版のパブコメについての東証の考え方を読みますと、ここでの開示は従業員への開示だけでなく、一般の投資家への開示も要請されているようですから、ガバナンス・コード原則2-6をコンプライする以上は、ガバナンス報告書での開示が必要ではないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。

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2018年7月10日 (火)

公認会計士を社外役員に採用することで企業価値は上がるか?

本日(7月9日)は日本公認会計士協会東京会主催の研修講座にて「コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント」と題する基調講演をさせていただき、その後は現役社外役員の会計士の皆様がパネリストで登壇されるディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。懇親会にも参加させていただき、関係者の皆様にお世話になりました(ありがとうございました)。

大先輩の会計士の皆様に、かなり意地悪な質問もしましたが、意見交換をするうちに「企業がなぜ財務・会計的知見を有する人たちを社外役員にするのだろう?コンサルタントで十分ではないのか?企業価値の向上に、果たして会計士役員は役に立つのだろうか?」という点で、私なりの回答が整理されてきました。

このたびのガバナンス・コードの改訂でも、十分な財務会計的知見を有する社外役員を最低1名は選任すべし、とされましたので、どうも「理屈や論理の面で会計士のスキルが求められている」ように考えてしまうのですが、ちょっと違うように思います。むしろ、会計監査に長年関わってこられた方は、真剣勝負の監査業務のなかで、多くの上場会社の企業風土に触れてきた点に特色があります。つまり、企業が会計士を社外役員に迎える最大のメリットは、知見に基づいて企業風土の他社比較ができる、という点にあります。これは元経営者や弁護士、官僚、学者の社外役員には期待できませんし、会計士によるコンサルタント業務でも発揮できません。

他の上場会社の企業風土と当社の風土を比較することで、経営方針や事業戦略として「何を残し、何を捨てるべきか」理解する、つまり、会計士の社外役員を迎える真のメリットは、事業を遂行するにあたって求められる直観力という面で有益な意見を会社が得ることができる、ということではないかと。守りのガバナンスで力を発揮してほしい、会計監査人と会社との通訳的な役割を担ってほしい・・・などといった理由が語られることが多いのですが、そういったことよりも「サイエンス」ではなく「アート」の面で企業価値向上に資することができる、という点こそ、公認会計士が社外役員に就く最大のメリットであります。この点は、もっと会計士協会挙げてセールスしてもよいのではないでしょうか。

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2018年5月 1日 (火)

上場会社のCEO解任手続きの明示はむずかしい・・・と思う

4月30日の日経法務面特集では、近時のコーポレートガバナンス・コート改訂の目玉であるCEO解任手続の明示、および明示された手続の遵守(コード補充原則4-3②、同4-3③)について解説記事が掲載されていました。業績不振であるにもかかわらず、経営トップが居座り続けるような事態を回避し、日本企業のトップ人事の透明性を海外投資家にも説明しやすくする、ということが目的で改訂されるようです。

ただ、記事によりますと、この改訂4-3を上場企業が遵守することを前提として、「どう表記したらよいのかわからない」と、担当者が困惑している事情も紹介されています。某社の例として法令違反ある場合や著しい業績不振が認められる場合、といったことが指針として開示される予定のようです。しかし、そもそも業績不振が明らかな段階になって初めて解任・・・というのは遅すぎるわけでして(笑)、コードが改訂される趣旨は「たとえ業績が良くても、資本コストを考えない経営を続けている人を解任せよ」ということなので、このままだとコンプライしていますと言いながら、実質はコンプライ(遵守)していない(コードの解釈を誤る)、という規則違反(東証ルール違反)に陥る上場企業が増えるばかりになりそうです。

取締役の解任には正当理由が必要である(正当理由ない場合は損害賠償義務が会社に発生する)と会社法が明文で規定していますが、代表取締役の解職についてはそのような規定はありません。このあたりの説明は、代表取締役任用契約の存否、という会社法上の争点にも関わりますので明確には言えませんが、取締役会はいつでも代表取締役を自由に解職できる、というのが会社法の立場と考えられます。このような会社法の趣旨からみれば、代表取締役の解職指針を決めて、取締役会はこれに従え、というのも、やや問題がありそうです。もちろんコード策定者からすれば、会社法の趣旨を尊重したうえで、あえて指針を定めることは何ら問題ない、とおっしゃるはずです。しかし、解職される代表取締役からすれば「指針を作ったのだから、当社では代表取締役の解職事由を制限する合意があったと言える。だから、私の解職理由をきちんと指針に従って説明せよ」と抗弁を出すことも予想されます。当然裁判になれば長期化します。つまり、経団連さんの指摘するように「本来自由であるべき解職制度を硬直化してしまう」ことは大いに問題です。

「当社は改訂されたコード4-3②および③には従いません。当社はダイバーシティ(意見の多様化)を重視するため、取締役の多様な意見を代表者の選解任に反映させるためには、選解任にかかる一律の指針を設けないことが適切と判断いたしました。なお、コード4-3②および③の趣旨については賛同いたしますので、その趣旨は取締役会の実効性評価を適切に行うこと、取締役の指名、報酬に関する評価に社外取締役が関与することで実現してまいりたいと思います」

という形でエクスプレインするくらいが、ちょうど企業実務にも適しているのではないでしょうか。

機関投資家の皆様にとっても、上場会社がコンプライできないことを無理やり「コンプライしています」と宣言するよりも、詳細な理由の下で説明を受け、その説明内容の実現を対話を通して監視する道が確保されるほうが、よっぽど「形式から実質へ」と企業統治改革が進んでいることを実感できるのではないかと。

 

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2018年4月19日 (木)

「あえてexplainするという選択」-関経連CG改革への建議

外部調査委員会で委員長を務めておりますTN社の件において、連日DF(デジタルフォレンジック)で深夜まで頑張っておられる委員(委員補佐)の皆様をみておりますと、ノホホンとブログを更新している気持ちにもなれず、ずいぶんと更新頻度が落ちております。また、新聞で大きく報じられております事件の品質管理委員会委員にも就任したことで(開示されましたら、またあらためて告知いたします)、工場見学など早朝から活動せねばならず、当分の間は週1ペースの更新になるかと思いますが、どうか見捨てないでくださいね(笑)。

ということで、いろいろとブログネタはあるのですが、どうしても書きたかったのが関経連さんの「実効性あるコーポレートガバナンスへの改革に関する意見について」と題する建議です(4月17日リリース)。うーーーん、毎度ながら、関経連さんの企業統治改革への意見、とんがっていてスキです(笑)。企業統治の仕組みについては、個別企業ごとに柔軟な制度設計とすべき、というのが基本思想でして、表題にも書いたとおり、コンプライを目標とするのではなく、あえてエクスプレインする、という選択肢もあるのではないか、と締め括っています。ホント、そのとおりかと。最近は機関投資家の方々の中にも「コンプライよりもエクスプレインする企業のほうが形式よりも実質的な改革を進めている企業といえるのでは」という意見も出ていますよね。

ただ、上記関経連意見の個別提案をみると、機関投資家の気持ちを逆なでしているものも散見されます(四半期報告廃止、社外取締役の制度化反対、政策保有株式制度の柔軟化、議決権行使助言会社への規制導入、ROE指標重視への警鐘等)。関経連さんの意見は「三方よし」の近江商人の教えを基本としており、「株主も(大切にすべき)ステイクホルダーのひとつにすぎない」というところが基本にあります。たとえばROEの過度の重視は企業倫理、日本企業の経営哲学にそぐわないと明言しています。

ホンネで言えば、この関経連さんの意見に共感する上場企業さんも多いと思います。そもそもコーポレートガバナンスの在り方をソフトローで誘導すること自体、議論の対象にすべきですが、どうせコンプライするのであれば、日本を代表するグローバル企業(外国人株主の保有比率が高い企業)の多くが範としている「近江商人 商売十訓」のほうが参考になるような気もいたします。「正札を守れ。値引きは却って気持ちを悪くするくらいがオチだ」なる訓戒は、売上高営業利益率にも通じるのではないでしょうか。

とりあえず、関経連さんの意見における個別提言については、また時間のあるときにでも、きちんと読んで理解しておきたいところです。あと、UACJさんの株主による人事権行使の件や積水ハウスさんの株主代表訴訟ネタについても書きたいのですが、後者については私の立ち位置からして問題がありそうなので(笑)、もはやブログでは永遠に書けないかな・・・。さらに財務次官のセクハラ問題で財務省顧問弁護士が調査窓口となったことが波紋を呼んでいますが、これって内部通報の外部窓口を顧問弁護士が務めている企業が多いこととどんな関係に立つのか・・・、また別途エントリーでまとめたいと思います。

 

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2018年4月 6日 (金)

もはや「なんちゃってコンプライ」ではすまされない「ガバナンス・コード改訂版への対応」

(4月6日 午後追記あり)

毎日、調査委員会のヒアリング準備に追われておりまして、まともなエントリーが書けておりませんが、3月30日に公開されましたコーポレートガバナンス・コード改訂(案)をようやく読みましたので、ひとことだけコメントさせていただきます。私の個人的な印象は、タイトルのとおり「ガバナンス改革の深化が進み、もはや『なんちゃってコンプライ』ではすまなくなるぞ!」というもの。

2015年に施行されたガバナンス・コードについては、多くの上場会社がホンネとタテマエを使い分け、「コンプライ」といいながら、実際には面従腹背、後ろを向いて舌をペロッと出しているというのが実際のところではないでしょうか。そんな日本の上場会社の「なんちゃってコンプライ」に終止符を打つべく、今回の改訂が実施されるものと思われます(正式施行は6月が予定されています)。

まずなんといっても「CEOの後継者計画の実施と、選解任プロセス透明化のための指名委員会の設置」です。後継者選任プロセスに独立社外取締役がどのように関わるのか、きちんと方針を開示している会社は少ないですし、きちんと運用しておられる会社はさらに少ないと思います。

つぎに「取締役会における取締役報酬の具体的な決定」ですね。こちらも報酬決定の透明性が求められていますので、報酬委員会による個別取締役の報酬決定が要請されています(文面では「個別」とは記載されていませんが、個別でなければ意味ないですよね)。役員報酬はインセンティブ報酬のほうが話題になりますが、こちらもキツイです。これ、ホントに上場会社で実施されるのでしょうかね?それとも正直に「できません、なぜなら・・・」とエクスプレインされるのでしょうか。

さらに「内部留保の取り崩し(健全なリスクテイク)」です。これまで、上場会社の内部留保については「将来の投資に迅速に対応できるよう手元流動性が必要なため」と説明していましたが、これからは「アンタ、なにゆうてまんねん!」ということになりそうです。「事業リスクを的確に把握したうえでの事業ポートフォリオの見直し」が要請されていますので、手元資金(内部留保)をどの程度確保しておくのか、その合理的な理由を示さなければ「資本コストを意識していない経営者」と烙印を押されてしまうわけで、これもキツイです。

(追記)4月6日の日経朝刊19面に「自社株の買い越し1.3兆円 企業、市場に資金返却」なる見出し記事を見つけました。「企業統治強化の流れの中で、経営者が株主に報いる姿勢を強めている」とありますが、手元資金の有効活用を求める投資家の要望が企業行動に及ぼす影響は大きくなりつつあります。

そして「政策保有株式の縮減」です。株式の持ち合いは「サラリーマン経営者がリスクをとらずに自社の議決権を保有している状態」という見方が強いです。オーナー経営者であれば株主と経営者の利害が一致しますが、サラリーマン経営者の場合には利益相反状況です。だからこそ、サラリーマン経営者の会社にはインセンティブ報酬制度の導入が強く求められていますが、なんといってもリスクをとらず、資本コストも意識しない経営は許されない、という機関投資家の意見が強くなっているので、今後どう解消していくべきか、コンプライする以上はその道筋を明らかにしなければならないと思います。

以上、思いつくままにコメントしましたが、ガバナンス・コード対応には「ホンネとタテマエ」の使い分けは許されないと考えます。本気で対応するか(コードの趣旨に沿った形で運用するか)、さもなくば堂々と「コードには従いません、なぜなら・・・」と言い切るか、御社の選択肢は二つに一つだと思います。ちなみに英国版ガバナンス・コードが2016年に改訂されていますが、「当社は日本版には従わない、ただし個々の企業文化を重視する英国版には従っている」といった理由もありかな…などと考えています(そもそも日本版コードは英国版コードに従っているのでしょうか?従っていないのであれば、その理由を示していただきたいものです)。

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2018年3月12日 (月)

3月総会の注目点-「モノ言う株主」とSSコード

3月の定時株主総会のシーズンということもありまして、「モノ言う株主」の方々の動きが活発になってきましたね。帝国繊維、アルパイン、GMOインターネット等、5~10%を保有する機関投資家からの株主提案に、どれだけの賛同票が集まるのか注目されます(※ アルパインさんは3月総会ではありませんが・・・)。指針の改訂といったポピュレーション・アプローチだけでなく、ピンポイントで企業に狙いを定めて改革の実効性を高めようとするハイリスク・アプローチの威力がいよいよ試される時期が到来したようです。

株主提案を行っている各機関投資家が、他の株主の方々の賛同を得られるよう、提案の理由をHP等でわかりやすく解説しているのが特徴的です。スチュワードシップ・コードの改訂によって、運用機関は議決権行使結果の個別開示が求められますので、「なぜ機関投資家の提案に賛同しなかったのか」といったことも合理的に説明しなければならず、このあたりの影響を、おそらく6月総会を控えた企業も注目しているのではないでしょうか。SSコードの改訂は、「モノ言う株主」の戦術にも変化をもたらすことになりそうですね。

なかでも機関投資家の提案としては取締役の任期を1年とするための定款変更議案や株式の持ち合い解消を促すような意見表明については今後ボディブローのように効いてくるのではないかと。力ずくで株主提案をごり押しして通すのではなく、何年かかけて機関投資家の推薦する社外取締役を複数名派遣し、インサイダーで経営に共同参画する(情報の非対称性を解消する)、という手法も増えてくるものと思われます。先日の日本ペイントさんのような事例が増えてきますと、ガバナンス・コードを「形だけ」コンプライしている多くの上場会社の行動にも多大な影響が出てくるはずです。

3月の定時株主総会では、単純に株主提案が通るかどうか、ということよりも、(集団的エンゲージメントが推奨される中で)株主提案に賛同する運用機関の票がどれだけ集まるか、という点に関心を向けておきたいと思います。

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2017年12月 5日 (火)

経営陣の処分と任意の指名・報酬委員会の役割

12月6日はNHKの受信料請求事件の最高裁大法廷判決が出ますね。ビジネス法務に直接関係があるというわけではありませんが、放送法の合憲性に関する判断はとても興味深いところです。放送と通信の垣根がなくなりつつある現状について最高裁が言及するのかどうか、判決をじっくり読みたいですね。

さて本日はひさりぶりのガバナンス関連のお話です。最近は不祥事が発覚しますと、社内調査委員会や第三者委員会が事実調査をして、「このような不祥事を発生させたのは、ガバナンスが機能していなかった」と指摘されることが多いですね。そこで調査委員会報告の結果を受けて、代表取締役の降格(取締役へ)や3カ月間減俸30%といった社内処分が発表されますが、これって任意の指名委員会や報酬委員会を設置している会社ではどうしているのでしょうか?

今年7月の東証の調査では、東証1部上場会社の3割以上が任意の指名・報酬委員会を設置しているそうで、そのような設置会社の半数近くでは委員の過半数を独立社外取締役が占めているそうです。ただ委員会の開催は年1回程度の会社が多いようで「本当に委員会が機能しているのだろうか」との疑問も生じます。

ところで、会計不祥事を発生させてしまった東証1部の某企業(指名・報酬委員会設置済)では、社内調査委員会を設置して調査結果を公表したのですが、社長や他の経営陣の減給にあたり、指名・報酬委員会を開催すべきかどうか、役員間で議論されたそうです。社内には懲罰規程に基づく懲罰委員会があり、そこで審議すべきなのか、それとも降格や減給を含め、新たに設置した指名委員会、報酬委員会で審議すべきなのか、たしかに迷うところかもしれません。

もちろん任意の委員会を設置した理由は、後継者計画に従って次期社長を選任するため、報酬決定に対する取締役会の監督の実効性を高めるためというものであり、ガバナンス・コードの要請もそのような点にあることは間違いありません。しかし不祥事が発生した場合の社内処分も指名・報酬に関わる問題ですから、独立社外取締役が過半数を占める委員会にて審議する実益もありそうです。結局、その会社では、懲罰規程に基づく審議経過の客観性を指名・報酬委員会が事後的に担保する、といった形で指名・報酬委員会が関与したそうですが、本当にそれでよかったのかどうかはわかりません(実質的にはすでに決定されたことを追認したにすぎない、ということになりそうです)。

企業不祥事といっても「法令違反」が認められないケースもあること、社内処分は案件ごとに自浄作用の発揮の一環として行われるものであること、経営陣の処分については利益相反状況が認められることなどを考えますと、私は指名・報酬委員会が積極的に関与するほうがステイクホルダーへの説明がつきやすいようにも思うのですが、いかがでしょうか。こういったことも含めて(実施宣言をした上場会社では)コードの運用責任が果たされるべきと考えます。

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2017年10月30日 (月)

ISS議決権行使助言方針の改訂案とガバナンス改革の行方

野村證券のシニアストラテジストの方の論稿「自己資本利益率(ROE)の分析」(資料版/商事法務2017年8月号30頁以下)を拝読しますと、昨年あたりから日本企業(JPX500クラス)が北米地域にはかなわないものの、ほぼ欧州企業とは同じレベルのROEであることがわかります(2016年度で比較すると、欧州9.3、日本9.2、北米は14.4)。

先週公表された「伊藤レポート2.0」では、ここ6年間ほどのROE平均値で現状が分析されているので、まだ欧米企業との差があるように感じますが、実際には日本企業は(ROE比較では)欧州、東南アジア、オセアニアの企業と肩を並べるほとになり、株価上昇傾向とは別に「政府主導によるコーポレートガバナンス改革」には一定の効果が出ているということがいえそうです。

さて、来年にコーポレートガバナンス・コードの改訂を控え、有識者によるフォローアップ会議も一年ぶりに再開されましたが、2年目となる「形式から実質へと向かうガバナンス改革」の行方が気になるところです。そして、このあたりを先取りしていると思われるのがISSさんの議決権行使助言方針の改訂(案)です。10月26日に、2018年度の方針改定案が公表されましたが、「なるほど、ほぼ予想どおりの流れかな」と感じました。

ひとつは「指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化」です。昨年からISS(日本法人)さんは「なんちゃって監査等委員会」を問題視して「監査等委員会設置会社には社外取締役が最低4名は必要」との方針改訂を検討されていました。しかし、証券コード3690さんのように「監査役さん方が全員横滑りして取締役監査等委員になったけど、自社のガバナンスに合致するように、取締役会が中心になって役員構成を激変させた」実例も出てきているので、上場会社の自助努力に少し期待してみようとされていました。しかしながら、一年たってもなかなかガバナンス改革の自助努力には期待できる状況にはならないといったところから、今回は(予定通り)構成要件の厳格化を図るようです(具体的には、1年間の猶予期間を設定した2019年2月以降、取締役会の3分の1以上を社外取締役が構成していなければ、役員選任議案に反対票を推奨するそうです)。

そしてもうひとつが「買収防衛策の総継続期間要件の導入」です。買収防衛策の賛成推奨の基準として、最初に買収防衛策を導入してからの総継続期間が3年以内であることを助言方針としています。いままで継続期間要件というものは存在していなかったので、各企業があたりまえのように防衛策を更新していましたが、これに警鐘を鳴らす、といった意味があります(これまでも買収防衛策の導入、更新の議案にはISSさんが反対推奨意見を出しておられたものが多かったように思います)。かつて買収防衛策といえばヘッジファンドさんの(過度の?)ショートターミズムからの防衛といった意味合いが強かったのですが、最近は持続的成長を支援するアクティビストの役割が周知されるようになり、その活動の舞台を広げるための方針改訂と推測します。

今年になってスチュワードシップ・コードが改訂され、アセットオーナーと運用機関との連携や対話が増え、さらに運用機関相互の協調行為が促進されました。そこで機関投資家は、上場会社のガバナンス(とりわけ改革のための自助努力)に相当のプレッシャーをかけることができるものとISSさんは想定しているように思います。上場会社全体にプレッシャーをかけるのではなく、監査等委員会設置会社(約800社)、買収防衛策導入会社(約500社)をピックアップして、ピンポイントでプレッシャーをかけて、アクティビストの対話や提案行為を促す、アセットオーナーを含めた機関投資家の協調行為を促す、議決権行使結果の個別開示やESG投資の普遍化によって協調行為へのインセンティブを高める、といったところでしょうか。「形式から実質に向けたガバナンス改革」2年目は、日本企業の「横並び主義」をどのように上手に活用するか、といったところがガバナンス改革積極派の腕のみせどころかと。

さて、そうなるとガバナンス改革の行方は「取締役会改革」から「株主総会改革」へと本格的に関心が移るものと予想します(会社法改正の論点も、インセンティブ報酬制度といった問題もありますが、株主総会関連、ディスクロージャー関連が中心になるのでは?)。今後の注目点は①機関投資家の威力を半減させている政策保有株式(株式持合い制度)が切り崩されるかどうか、②スピンオフ税制に続く「選択と集中(事業ポートフォリオ)」を促進する税制改正が実現するかどうか、③「働き方改革」を通じて労働力の流動化対策の実効性が確認できるかどうか、といったところではないでしょうか。そしてガバナンス改革の議論をしている時に、大きな企業不祥事が起きますと、突然「守りのガバナンス」の議論が始まることも忘れてはなりません。

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2017年10月 6日 (金)

コーポレートガバナンス・コード改訂の行方はいかに

施行から3年~5年で改訂が予定されている(とされる)日本版コーポレートガバナンス・コードですが、実施率(コンプライ)が90%を超えるとされている日本の上場企業にとっても関心が高いところと思います(「これがベストプラクティス!」と言っておきながら、コードが改訂されると、また改訂されたコードを企業が実施する・・・というのもなんかへんな話ですね)。

そんなガバナンス・コードの改訂の行方を占うためにも、ぜひとも参考にしたいのが元祖英国版ガバナンス・コードの改革方針でして、8月29日に今後の改革方針をまとめた報告書が公開されました。法律雑誌でもよく取り上げられています。

メイ首相が就任当初に公約していたような急進的な改革はなくなりそうですが、それでも企業の社会的責任を意識した改革内容はなかなか興味深いところです。一定規模以上の株式会社に対して、取締役が従業員や取引先、地域住民の利益をどのように保護しながら事業を進めているのか説明することを会社法で義務付けたり、ステイクホルダーの利益保護に一層配慮するようにコードに盛り込んだり、ステイクホルダーの利益を代表する取締役の選任、従業員代表取締役制度、従業員諮問委員会の設置などの実施(コンプライ)を要請したり、ということで企業の社会的責任を果たすことが強く求められることになりそうです。

ペイレシオ(社長の報酬が従業員の給与の何倍なのか)の開示といった役員報酬の見直しが中心となりそうですが、いわゆる「アメとムチ」による株主主権的なガバナンス改革が変容を迫られているというところでしょうか。日本が向かおうとしているインセンティブ報酬制度の改革とはなんとなく逆方向に向いているような気もします。

従業員らと経営者との建設的な対話に関するガイドラインの策定、取締役がステイクホルダーの利益保護を実践するためのガイドラインの策定といったことも検討されているようです。仮に日本でも、英国改革が影響を及ぼすおそれがある場合には、企業もしくは取締役の社会的責任配慮実際に関する詳細なガイドラインが策定される可能性もありますね。昭和49年の商法改正時における「企業の社会的責任条項導入論争」が再び(コードではなく会社法改正というレベルで)起これば楽しいような気もしますね。

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2017年7月 5日 (水)

会社側上程議案への「相当数の反対票」というのは何割くらい?

(7月5日午後 追記あり)

6月30日の日経電子版ニュース「株主総会、社外役員の独立性に厳しい目」では、今年の株主総会の総括として、会社側上程議案への株主の賛成票の低下が目立ったことが挙げられています。社外役員に限った話ではなく「一般的に、取締役選任議案に対する賛成は9割を切ると低いとみなされることが多い。今年、株主総会を終えて企業が提出した臨時報告書では、その9割に届かないケースが少なくなかった」と報じられています。

ところで、本則市場に上場する会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①では、(取締役会に対して)「株主総会において可決には至ったものの、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認められるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべき」とされています。では、この「相当数の反対票」とは、どのくらいの賛成比率を下回ることを指しているのでしょうか?ちなみにコード策定者(金融庁)の解説では、「相当数の反対票の具体的な解釈は、各取締役会の合理的な判断に委ねられる」としています。では、どの程度の賛成比率であれば「合理的な判断」の範疇になるのでしょうか?

上記の日経記事を参考にしますと、賛成比率が9割に届かなかった取締役選任議案については、相当数の反対票が集まったものと考えるのが、いちおう合理性がありそうです。取締役選任議案への反対というのは、単純に候補者の能力・資質への批判だけでなく、その会社の戦略、政策への反対という意味も含むことが多いので、10%以上の反対票が集まったということであれば、来るべき株主との建設的な対話に向けて、何らかの分析・対応が求められても良いのかもしれません。

しかし、スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家も中長期的な企業価値向上への真摯な意見が求められる中で、会社の中長期的な政策に対する株主の意見もますます多様化するのではないでしょうか。三越伊勢丹HDの社長交代が企業価値に及ぼす影響は、野村證券とみずほ証券ではアナリストさんの意見が異なりましたし(3月12日付け日経ヴェリタス参照)、先日の黒田電気への株主提案の可決事例についても、野村證券とニッセイ基礎研究所のアナリストさんの意見も分かれました(6月30日付け朝日朝刊関西経済版)。議決権行使の助言を行うISSさんとグラス・ルイスさんの推奨意見もいくつか分れたものがありました。そうなりますと、そもそもガバナンス改革が進むにつれて、とりわけ取締役選任議案への賛成比率は、株主の意見が多様化することにより、次第に低下するのが当然ではないかと。

そうしますと、「相当数の反対票」という概念も、たとえば賛成比率が8割を割るようような議案とみるのが合理的なようにも思えます。8割を切るというような場面においては、政策への批判や不満というものが一定傾向として出ているものと判断できるのかもしれません。コード1-1①の実施率(コンプライすると宣言した会社の比率)はほぼ100%ですが、要は対話促進のための施策ということで、対話の必要性との兼ね合いによって個々の企業で判断すべきであり、とくに「横並び」は必要ないと思います。

(7月5日午後6時30分追記)tyさんがコメント欄にとても有益なご意見を述べておられ、「なるほど・・・そのとおりかも」と思いましたので本文でもご紹介いたします(どっかで使わせてもらおうかな・・・笑)。私の単純な思考回路よりも、かなり説得力のあるご意見です。

株主構成によって賛成比率の意味合いは相当変わってくるので、株主構成によって「相当数の反対票」も変わってくるのではないかと思います。平均的な企業で考えると、安定株主比率が平均で50%、議決権行使比率が平均で75%ですので、賛成率が90%を下回った場合というのは、平均的な企業では非安定株主の賛成率が70%を下回った場合を意味します。80%を下回った場合だと、平均的な企業では非安定株主の賛成率が40%を下回った場合を意味します。平均的な企業で考えると80%を下回った場合というのは、少数株主から見るとかなり問題があると認識されたケースかなぁと感じます。
「相当数の反対票」は個々の企業が自社の非安定株主の賛成率を見ながら考えるのが良いのではないでしょうか。

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