2017年10月30日 (月)

ISS議決権行使助言方針の改訂案とガバナンス改革の行方

野村證券のシニアストラテジストの方の論稿「自己資本利益率(ROE)の分析」(資料版/商事法務2017年8月号30頁以下)を拝読しますと、昨年あたりから日本企業(JPX500クラス)が北米地域にはかなわないものの、ほぼ欧州企業とは同じレベルのROEであることがわかります(2016年度で比較すると、欧州9.3、日本9.2、北米は14.4)。

先週公表された「伊藤レポート2.0」では、ここ6年間ほどのROE平均値で現状が分析されているので、まだ欧米企業との差があるように感じますが、実際には日本企業は(ROE比較では)欧州、東南アジア、オセアニアの企業と肩を並べるほとになり、株価上昇傾向とは別に「政府主導によるコーポレートガバナンス改革」には一定の効果が出ているということがいえそうです。

さて、来年にコーポレートガバナンス・コードの改訂を控え、有識者によるフォローアップ会議も一年ぶりに再開されましたが、2年目となる「形式から実質へと向かうガバナンス改革」の行方が気になるところです。そして、このあたりを先取りしていると思われるのがISSさんの議決権行使助言方針の改訂(案)です。10月26日に、2018年度の方針改定案が公表されましたが、「なるほど、ほぼ予想どおりの流れかな」と感じました。

ひとつは「指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化」です。昨年からISS(日本法人)さんは「なんちゃって監査等委員会」を問題視して「監査等委員会設置会社には社外取締役が最低4名は必要」との方針改訂を検討されていました。しかし、証券コード3690さんのように「監査役さん方が全員横滑りして取締役監査等委員になったけど、自社のガバナンスに合致するように、取締役会が中心になって役員構成を激変させた」実例も出てきているので、上場会社の自助努力に少し期待してみようとされていました。しかしながら、一年たってもなかなかガバナンス改革の自助努力には期待できる状況にはならないといったところから、今回は(予定通り)構成要件の厳格化を図るようです(具体的には、1年間の猶予期間を設定した2019年2月以降、取締役会の3分の1以上を社外取締役が構成していなければ、役員選任議案に反対票を推奨するそうです)。

そしてもうひとつが「買収防衛策の総継続期間要件の導入」です。買収防衛策の賛成推奨の基準として、最初に買収防衛策を導入してからの総継続期間が3年以内であることを助言方針としています。いままで継続期間要件というものは存在していなかったので、各企業があたりまえのように防衛策を更新していましたが、これに警鐘を鳴らす、といった意味があります(これまでも買収防衛策の導入、更新の議案にはISSさんが反対推奨意見を出しておられたものが多かったように思います)。かつて買収防衛策といえばヘッジファンドさんの(過度の?)ショートターミズムからの防衛といった意味合いが強かったのですが、最近は持続的成長を支援するアクティビストの役割が周知されるようになり、その活動の舞台を広げるための方針改訂と推測します。

今年になってスチュワードシップ・コードが改訂され、アセットオーナーと運用機関との連携や対話が増え、さらに運用機関相互の協調行為が促進されました。そこで機関投資家は、上場会社のガバナンス(とりわけ改革のための自助努力)に相当のプレッシャーをかけることができるものとISSさんは想定しているように思います。上場会社全体にプレッシャーをかけるのではなく、監査等委員会設置会社(約800社)、買収防衛策導入会社(約500社)をピックアップして、ピンポイントでプレッシャーをかけて、アクティビストの対話や提案行為を促す、アセットオーナーを含めた機関投資家の協調行為を促す、議決権行使結果の個別開示やESG投資の普遍化によって協調行為へのインセンティブを高める、といったところでしょうか。「形式から実質に向けたガバナンス改革」2年目は、日本企業の「横並び主義」をどのように上手に活用するか、といったところがガバナンス改革積極派の腕のみせどころかと。

さて、そうなるとガバナンス改革の行方は「取締役会改革」から「株主総会改革」へと本格的に関心が移るものと予想します(会社法改正の論点も、インセンティブ報酬制度といった問題もありますが、株主総会関連、ディスクロージャー関連が中心になるのでは?)。今後の注目点は①機関投資家の威力を半減させている政策保有株式(株式持合い制度)が切り崩されるかどうか、②スピンオフ税制に続く「選択と集中(事業ポートフォリオ)」を促進する税制改正が実現するかどうか、③「働き方改革」を通じて労働力の流動化対策の実効性が確認できるかどうか、といったところではないでしょうか。そしてガバナンス改革の議論をしている時に、大きな企業不祥事が起きますと、突然「守りのガバナンス」の議論が始まることも忘れてはなりません。

10月 30, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年10月 6日 (金)

コーポレートガバナンス・コード改訂の行方はいかに

施行から3年~5年で改訂が予定されている(とされる)日本版コーポレートガバナンス・コードですが、実施率(コンプライ)が90%を超えるとされている日本の上場企業にとっても関心が高いところと思います(「これがベストプラクティス!」と言っておきながら、コードが改訂されると、また改訂されたコードを企業が実施する・・・というのもなんかへんな話ですね)。

そんなガバナンス・コードの改訂の行方を占うためにも、ぜひとも参考にしたいのが元祖英国版ガバナンス・コードの改革方針でして、8月29日に今後の改革方針をまとめた報告書が公開されました。法律雑誌でもよく取り上げられています。

メイ首相が就任当初に公約していたような急進的な改革はなくなりそうですが、それでも企業の社会的責任を意識した改革内容はなかなか興味深いところです。一定規模以上の株式会社に対して、取締役が従業員や取引先、地域住民の利益をどのように保護しながら事業を進めているのか説明することを会社法で義務付けたり、ステイクホルダーの利益保護に一層配慮するようにコードに盛り込んだり、ステイクホルダーの利益を代表する取締役の選任、従業員代表取締役制度、従業員諮問委員会の設置などの実施(コンプライ)を要請したり、ということで企業の社会的責任を果たすことが強く求められることになりそうです。

ペイレシオ(社長の報酬が従業員の給与の何倍なのか)の開示といった役員報酬の見直しが中心となりそうですが、いわゆる「アメとムチ」による株主主権的なガバナンス改革が変容を迫られているというところでしょうか。日本が向かおうとしているインセンティブ報酬制度の改革とはなんとなく逆方向に向いているような気もします。

従業員らと経営者との建設的な対話に関するガイドラインの策定、取締役がステイクホルダーの利益保護を実践するためのガイドラインの策定といったことも検討されているようです。仮に日本でも、英国改革が影響を及ぼすおそれがある場合には、企業もしくは取締役の社会的責任配慮実際に関する詳細なガイドラインが策定される可能性もありますね。昭和49年の商法改正時における「企業の社会的責任条項導入論争」が再び(コードではなく会社法改正というレベルで)起これば楽しいような気もしますね。

10月 6, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年7月 5日 (水)

会社側上程議案への「相当数の反対票」というのは何割くらい?

(7月5日午後 追記あり)

6月30日の日経電子版ニュース「株主総会、社外役員の独立性に厳しい目」では、今年の株主総会の総括として、会社側上程議案への株主の賛成票の低下が目立ったことが挙げられています。社外役員に限った話ではなく「一般的に、取締役選任議案に対する賛成は9割を切ると低いとみなされることが多い。今年、株主総会を終えて企業が提出した臨時報告書では、その9割に届かないケースが少なくなかった」と報じられています。

ところで、本則市場に上場する会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①では、(取締役会に対して)「株主総会において可決には至ったものの、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認められるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべき」とされています。では、この「相当数の反対票」とは、どのくらいの賛成比率を下回ることを指しているのでしょうか?ちなみにコード策定者(金融庁)の解説では、「相当数の反対票の具体的な解釈は、各取締役会の合理的な判断に委ねられる」としています。では、どの程度の賛成比率であれば「合理的な判断」の範疇になるのでしょうか?

上記の日経記事を参考にしますと、賛成比率が9割に届かなかった取締役選任議案については、相当数の反対票が集まったものと考えるのが、いちおう合理性がありそうです。取締役選任議案への反対というのは、単純に候補者の能力・資質への批判だけでなく、その会社の戦略、政策への反対という意味も含むことが多いので、10%以上の反対票が集まったということであれば、来るべき株主との建設的な対話に向けて、何らかの分析・対応が求められても良いのかもしれません。

しかし、スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家も中長期的な企業価値向上への真摯な意見が求められる中で、会社の中長期的な政策に対する株主の意見もますます多様化するのではないでしょうか。三越伊勢丹HDの社長交代が企業価値に及ぼす影響は、野村證券とみずほ証券ではアナリストさんの意見が異なりましたし(3月12日付け日経ヴェリタス参照)、先日の黒田電気への株主提案の可決事例についても、野村證券とニッセイ基礎研究所のアナリストさんの意見も分かれました(6月30日付け朝日朝刊関西経済版)。議決権行使の助言を行うISSさんとグラス・ルイスさんの推奨意見もいくつか分れたものがありました。そうなりますと、そもそもガバナンス改革が進むにつれて、とりわけ取締役選任議案への賛成比率は、株主の意見が多様化することにより、次第に低下するのが当然ではないかと。

そうしますと、「相当数の反対票」という概念も、たとえば賛成比率が8割を割るようような議案とみるのが合理的なようにも思えます。8割を切るというような場面においては、政策への批判や不満というものが一定傾向として出ているものと判断できるのかもしれません。コード1-1①の実施率(コンプライすると宣言した会社の比率)はほぼ100%ですが、要は対話促進のための施策ということで、対話の必要性との兼ね合いによって個々の企業で判断すべきであり、とくに「横並び」は必要ないと思います。

(7月5日午後6時30分追記)tyさんがコメント欄にとても有益なご意見を述べておられ、「なるほど・・・そのとおりかも」と思いましたので本文でもご紹介いたします(どっかで使わせてもらおうかな・・・笑)。私の単純な思考回路よりも、かなり説得力のあるご意見です。

株主構成によって賛成比率の意味合いは相当変わってくるので、株主構成によって「相当数の反対票」も変わってくるのではないかと思います。平均的な企業で考えると、安定株主比率が平均で50%、議決権行使比率が平均で75%ですので、賛成率が90%を下回った場合というのは、平均的な企業では非安定株主の賛成率が70%を下回った場合を意味します。80%を下回った場合だと、平均的な企業では非安定株主の賛成率が40%を下回った場合を意味します。平均的な企業で考えると80%を下回った場合というのは、少数株主から見るとかなり問題があると認識されたケースかなぁと感じます。
「相当数の反対票」は個々の企業が自社の非安定株主の賛成率を見ながら考えるのが良いのではないでしょうか。

7月 5, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年6月 8日 (木)

これぞ上場企業経営者のホンネ?-関経連「未来投資会議」への意見書

旬刊商事法務の最新号(2135号)に、いよいよエフオーアイ事件に関する判例評釈論文が掲載されました。千葉大学の堀田准教授による「主幹事証券会社の引受審査義務」と題する巻頭論文です。事件内容も詳しく紹介されているようなので、じっくりと拝読させていただきます。

さて、一昨日に引き続き、コーポレートガバナンス改革に関連するお話です。こけしさんがコメント欄でお書きになっておられるように、いよいよ相談役・顧問制度の存否についてきちんと開示する上場会社も登場してきたようですね。ガバナンス改革のさらなる深化、企業と投資家の建設的な対話は、政府の未来投資会議でも推進されていますし、経済団体もこれを後押しするのが当然のような雰囲気が漂っております。コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード改訂版の実施率はますます高まりそうです。

ただ、5月24日に公表された関西経済連合会「未来投資会議における企業関連制度改革に関する意見」は、経営者の皆様のホンネが如実に反映されているものとして、個人的にはとても共感するところです。よくここまで意見表明できたものだなぁと。。。

⑴株主総会に対する機関投資家の議決権行使結果の一律開示については、開示されることによって機関投資家と企業との建設的な対話が阻害されるおそれがあるので慎重に検討されるべきである

世間の関心が、議決権行使結果の個別開示だけに集まっているが、それは機関投資家と企業との信頼関係の形成にはマイナスである、と主張しています。機関投資家が実質株主との「利益相反排除」「フィデューシャリー・デューティー」を意識すればするほと、「建設的な対話」よりも「行使方針に準拠した議決権行使」や「議決権行使助言会社の推奨を重視した議決権行使」に重きを置くのが現実です。(時間的余裕のない機関投資家にとっては)むしろ当然の流れかと思います。関経連としては、ここではあえて政府の方針に慎重論を唱えています。

⑵すべての企業に一律で適用するコーポレートガバナンスには反対である。

日本の上場会社は、これまで投資家や株主以外のステークホルダーの利益も配慮しながら社会に貢献してきた。企業によって事情は異なるのであるから、中長期的な企業価値向上のためには、政府は一律の適用を求めべきではない、とのこと。ここでは後継者選任制度、取締役の機能強化、インセンティブ報酬制度、相談役・顧問制度の見直しなどが挙げられています。要は、ガバナンス・コードの存在を、自社の長所・短所を見直すきっかけとして活用することが大切であり、自社に取り入れることで自社の長所を見失うようであれば、堂々と「取り入れない」ことの理由を述べるべきと思います。ガバナンスで大切なことは短所を補強することよりも、今自社に存在する長所を伸ばすことです(意外と、この「長所」を確認しておられない企業が多いと感じています)。

⑶中長期保有株主との建設的な対話のために、四半期開示制度の廃止、非財務情報を中心とした中長期的な企業価値向上に関する情報開示を促進し、中長期保有株主の優遇策を検討せよ。

中期経営計画で株主の皆様にお約束していることの進捗状況は、短期の数字では把握できず、研究開発、人材投資、設備投資への取組状況をわかりやすく説明することが大切とされています(内部統制の重要性は、この現場の進捗状況を、どれほど正確にトップが把握できるか、という点だと思います)。種類株式の発行も、長期株主優遇のために活用されるべきとのこと。

経団連さんに所属している企業のトップの方々も、ホンネでは同様の意識を持たれているのではないでしょうか。「おひざ元」ではない関西の経済団体だからこそ、ホンネでモノが言えるのかもしれません。もちろん、「日本の株式市場を関係者全員で盛り上げることが、市場に資金をもたらし、その結果として個々の企業にも還元される、だからこそ、自社の利益を越えて、コードはできるだけ実施すべきである」といった意見も承知しています。ただ、そん考え方では、どうしてもガバナンス改革を形式だけに終わらせてしまって、実質的な深化は図られないように思います。この意見書にもあるように、「全社横並び」ではなく「個々の会社の創意工夫」を関係者一同が盛り上げることが必要ではないでしょうか。

6月 8, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月 7日 (火)

社長の突然の退任-三越伊勢丹HDのガバナンスは機能するか?

いつも不思議に思うのですが、まだ会社が発表していない重要人事をなぜマスコミが報じることになるのでしょうか?どこから記者の方々に漏れるのでしょうかね?なんか予兆のようなものを記者さんは感じるのでしょうか?それとも社内にリークしたい方がいらっしゃるのでしょうか・・・

すでに多くのマスコミで報じられていますが、三越伊勢丹ホールディングス社の社長さんが突然退任されるとのことで、会社側は(まだ何も決まっていませんが)7日の取締役会で人事問題を協議します、とリリースしています。社長さんの3月1日付け日経ビジネスのインタビュー記事などを読むと、まだまだこれから三越伊勢丹の社長として、また日本百貨店協会会長としての仕事への意気込みが強く感じられるので、ここでのリタイヤが既定路線だったようにも思えません。やっぱり何かあったのでしょうね。

ところで三越さんといえば1982年の社長解任劇を思い出しますが、今回も社内対立の末の解任ではないか、といった報道もあるようです。上記インタビュー記事からみても、そのような見方もできるかもしれません。ただ、三越伊勢丹HD社のガバナンスに関する説明では、取締役会の諮問機関として「指名・報酬委員会」が設置されており、もしこの委員会が機能しているのであれば、ここで次期社長さんの人選を協議することになるので、社外取締役主導による社長交代という可能性もあり、単なる社内対立の顕在化とは断定できません。取締役として残られるかどうかも検討課題かと。なので「次の社長は決まっていない」という点も(対外的な発表としては)当然のように思えます。三越伊勢丹さんの指名・報酬委員会は著名な経営者OBの3名と社長・会長を含めた5名という構成員ですが、まずは現社長さんの意向を確認したうえで、サクセッションプランに従った後継者選定というのがスジではないでしょうか。

監査役会設置会社における指名委員会の活動が注目されたのは昨年のセブン&アイホールディングスさんの事例でした。ただ、あのときは実績を上げている基幹グループ会社のトップを支持する形で委員会が動きましたが、今回の三越伊勢丹ホールディングスさんの事例は、業績がいまひとつ上がらない経営トップの人事に関するもので、やや状況が違います。今後マスコミの報道で明らかになると思いますが、指名・報酬委員会は社長退任に向けた事前行動にも関与していたのか、次の社長候補者はどのようなプロセスを経て絞られていくのか、それとも指名・報酬委員会がまったく機能しない中での「お家騒動」なのか、とても関心のあるところです。ひょっとしたら、今まさに議論されているガバナンス改革におけるモニタリングモデルの取締役会が機能した事例として様々なところで取り上げられるかもしれません(あくまでも個人的な推測にすぎませんが・・・)。

しかし後任不在のまま社長が退任するとなると「ん!?なんぞある?」ということで株価が6%も下がるのですね。報道されてしまうと(あること、ないこと)いろんな憶測も飛び交いますし、やはり社長退任劇は隠密裏に敢行したくなります。7日以降の追加情報に期待したいと思います。

3月 7, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月 2日 (木)

コーポレートガバナンス改革が置き去りにしていること-田中論文からの示唆

ガバナンス改革が進む中で「隠れたベストセラー」と評判の「『良心』から企業統治を考える」の著者、田中一弘教授(一橋大学大学院教授)のご論稿が、月刊監査役最新号(2017年3月号)に掲載されました。タイトルは「ガバナンス改革が置き去りにしていること-経営者の責任をめぐって」。内容的には、上記のご著書で語られているところと同様ですが、期待どおり(?)、「社外取締役中心のモニタリングモデルの取締役会改革」「業績連動型報酬制度の導入」「監査等委員会設置会社への移行促進」といった現状のガバナンス改革偏重主義に対する痛烈な批判と新たな提言がてんこもりです。

アメとムチによる「経営者への規律付け(コーポレートガバナンス)」だけでは、たしかに会社の業績を上げるために効果的かもしれない、しかしそれでは経営者は責任ある経営は果たせない、道徳や倫理を置き去りにして自利心を強調するガバナンスは、いざとなったら株主や債権者を騙してでも自分の地位を確保する風潮を招くことになる、といった趣旨が語られています。関経連が昨年公表した報告書「わが国企業の持続的な企業価値向上とコーポレートガバナンス整備の在り方に関する報告書」の中でも、最近のアメとムチによるガバナンス改革以前に、良心に基づく経営者の心構えが重要とされ、田中教授の上記ご著書が引用されています。

ここからは全くの持論にすぎませんが、私が本業として上場会社のガバナンス構築に関与していて感じるのは、重要な経営判断を決定することよりも、その決定したことを役職員、取引先企業が(腹落ちして)実行することのほうが10倍ほどむずかしいという点です。ガバナンスが経営判断の決定に関する規律付けだとすれば、「アメとムチ」で決定されたことを役職員、取引先は正論としてはわかってもなかなか実行に移してくれないのが現実です(そうなると現場でもアメとムチが重視され、内部統制の厳格化が進んだあげく、思考停止に陥った現場にどのような影響を及ぼしたかを考えればおわかりかと)。

しかし役職員や取引先、株主も含めて、経営者が利他心に基づく責任ある経営判断を下すのであれば、決定された方針に基づく業務を執行する役職員や取引先等に、実行に向けての情緒的な動機付けが生まれます。このたびのガバナンス改革が「実質よりも形式」「仏作って魂入れず」に終わってしまっているのは、この現場への共感度が低く、頭ではわかっていても実行する気になれないという点に問題があるように思えてなりません。利他心が共有されなければ「助けて」といえる共助の精神も職場から失われ、業績をカバーしあう風土も失われていくように感じます。

今まではあまりにも株主に冷たい経営姿勢だったことへの反省として「アメとムチ」を活用するガバナンスが論じられるようになったことは理解できます。ただ、やはり正論や合理性だけで人は動かないのも事実。「社長が僕の家族構成まで覚えていてくれた」・・・そういったことが会社を強くするのではないかと(自身への反省をこめて)最近つくづくガバナンスや内部統制のむずかしさを感じます。社外取締役の在り方も、教科書に書かれているようなものではなく、田中教授のいわれるような「触媒型」(社長との間で緊張感を持ちつつも、相互信頼関係を維持し、社長の良心に火をつける触媒となる)というのも有りかな・・・と考えているところです。

3月 2, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年2月24日 (金)

企業統治-俎上に上る「顧問・相談役」(拙稿のご紹介)

P_20170224_174533_3 さて、すっかりご紹介が遅れてしまいましたが、今週号の週刊エコノミスト(2月28日号)に「企業統治-俎上にのぼる『顧問・相談役』」なる論稿を掲載していただきました。特集が特集だけに(?)、私の存在も希薄化してしまっておりますが、探せば見開き2ページ(3000字)の論稿が出てまいります。来週月曜日には、翌週号が発売されてしまいますので、週末くらいしかご購読いただける時間は残っておりませんが、ご興味がございましたら全国書店にて発売しておりますので、ご一読いただければ幸いです。

ガバナンス改革の中で「顧問」と「相談役」は並列的に語られることが多いのですが、実態は少し異なります。代表権を持った方(会長、社長、専務さん等)が退任後に就任するのが「相談役」、それ以外の役員の方は「顧問」に就任されるケースが多いようです(ただ、相談役の代わりに「最高顧問」に就任される代表取締役の方もときどきいらっしゃいますが)。このあたりは、今後の議論において区別されるかもしれません。

そもそも、ガバナンス改革が目指すところと顧問・相談役制度とは相いれないものではなく、「両立しうるもの」と考えております。また、顧問・相談役制度は退任した役員さんだけでなく、その企業も、経済団体も、そして政府も「とても都合のよい制度」として活用しているのが実態です。もし顧問・相談役制度に問題があるというのであれば、制度を廃止するよりも情報開示の中で工夫する余地があると考えています。結構、上場会社の組織にとって重要な制度だと思いますので、じっくり検証することが大切かと思います。

PS そういえば、来週の週刊エコノミストは当ブログファンの皆様にとってはたいへん興味深いことが特集を飾っている、との噂が流れています。注目しておいたほうがよろしいかと(笑)。

2月 24, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年2月16日 (木)

東芝事件がガバナンス改革に及ぼす影響-社外取締役希望者は減るかもしれない

いよいよ3月末時点における債務超過がほぼ確定、ということで東証2部に移ることが報じられている東芝さんの件ですが、日本テレビnewsWEBが内部通報の中身を明らかにしていて、なかなか衝撃的です(しかし、どうして独占入手できるのでしょうか?記者魂?)。正直申し上げて、私が昨日想像していた以上の内容でした。「独自東芝“圧力”名指し 内部通報詳細」。

日本テレビの取材で、この、内部通報では東芝の志賀重範会長と東芝のアメリカの原発子会社ウェスチングハウスのロデリック会長が名指しされていたことがわかった。・・・内部通報によると、去年12月に巨額の損失が生じたことがわかり、志賀会長がアメリカに調査に行った際、志賀会長とロデリック会長がウェスチングハウスの幹部に対し、東芝にとって有利な会計になるように圧力をかけたという。

もちろん、通報事実の真偽は調査を待たなければわかりません。現に、志賀会長は、6月まではウェスチングハウス問題について執行役として問題解決にあたる、とされています。

しかし、この内部通報に一番頭を悩ませているのは、1年半前に東芝再建のために就任された社外取締役の方々ではないでしょうか。人事刷新が決まった昨年5月の会見で、社外取締役のみ5人で構成する指名委員会の委員長(社外取締役)の方は、記者から「なぜ戦犯である志賀氏を会長に残したのか?」との質問を受けて、「たしかに若干グレーだと言われているが、原子力という国策的事業をやるうえで余人をもって代えがたい」と説明していました(「東芝 粉飾の原点」日経BP 301頁)。会計不正に関する報告書で「不正会計への関与者」と認定されていたとしても、またウェスティングハウス社のかつてのトップとして、損失隠しの実情を最もよく知る方であったとしても、やはり東芝再生という事業戦略を遂行する上では欠かせないとの経営判断があったものと思います。指名委員会では満場一致で当該会長さんが指名された、とのこと。

あえてグレーな方をトップとして残すのであれば、社外取締役としてはよほどの覚悟で監督職務を果たす必要があります(したがって、私個人としては、内部通報で示されたような事実はなかったのではないか、と思いたいです)。しかし、会計処理への影響の有無を問わず、そのような事実があったとすれば、これはかなり衝撃的な問題であり、日本のガバナンス改革への影響という点でも重大な懸念が残ります。社外取締役が中心になってガバナンス改革の目指す「リスクをとって事業にチャレンジすること」をあえて実行したわけですから、そのリスクが顕在化した場合、社外取締役はどのように対処すればよいのでしょうか(本当は、このような状況でこそ、第三者委員会を設置したほうが良いのではないでしょうか?)。

このような内部通報が明らかになった以上、日本政府が進めている「ガバナンス改革を形式から実質へと深化させよ」といった政策を掛け声だけで終わらせないためには、たとえ東芝さんが原子力を扱う国策事業会社であり、簡単には処理できない企業であったとしても、新生東芝によるガバナンスが機能した、と理解できる形で問題を処理していただきたいと願うところです。そうでなければ、「やっぱり社外取締役なんか、コワすぎてなるもんじゃないね」「結局、社外取締役なんて『お飾り』に過ぎないじゃないか」と世間から揶揄されて、現役の経営者や経営者OBといった社外取締役就任候補の方々を失望させてしまうことになるのではと危惧します。

2月 16, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (12) | トラックバック (0)

2017年2月10日 (金)

ガバナンス改革-社外取締役のインセンティブ問題をどう考えるのか?

当ブログをご覧のオリンパス社員の皆様!金融庁の職員の皆様!そして某大手監査法人の皆様!ずいぶんと凄い本が出版されるそうですよ!(笑)

「野村證券第2事業法人部」横尾宣政 講談社  発売日2月22日 住友銀行秘史に続く「実名」ノンフィクション本、野村証券のバブル全盛期とオリンパス事件の真相・・・。うーーん、とりあえず、現時点ではノーコメントとさせていただきます。

さて、本日(2月9日)法務省・法制審議会総会において諮問104号が出され、いよいよ次の会社法改正(企業統治等関係)に向けて法制審議会内に会社法制(企業統治等関係)部会が新設されたそうです。主な諮問内容は①株主総会に関する手続きの合理化、②役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、③社債管理の在り方の見直し、④社外取締役を置くことの義務付け、といった企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討せよ、とのこと。

②に示された「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備」とは、業績連動型役員報酬制度の整備等、まさに「成長戦略を推進する攻めのガバナンス、企業の稼ぐ力を取り戻すためのガバナンス」といったいわゆる政府のガバナンス改革を受けての検討課題に会社法も応えよ・・・というものですね。もはやここまで来ますと、会社法が会社関係者の権利調整を目的とした(伝統的な)民事法から国富促進のための経済政策法へと変貌を遂げていると感じるのは私だけでしょうか?(ここまで来たら昭和40年代の論争にあった「株式会社は、企業としての社会的責任を果たすべき義務を有する」といった条項を、いっそのこと会社法に盛り込んでもよいのでは?)

ところで、役員に適切なインセンティブを付与するというのであれば、社外取締役に就任するため(そして期待通りに活躍してもらうため)のインセンティブの付与も検討されるのでしょうか?最近、企業の相談役や顧問制度の見直しが議論されていて、経営者OBの方々が、他社の社外取締役に就任しやすい環境を整備することが検討されています。しかし、社外取締役の報酬が低いままですと、相談役や顧問就任を辞めてまで他社の社外取締役に就任するインセンティブは全くないのではないかと。

資料版商事法務の最新号(2017年1月号)では、3年ぶりに社外役員の報酬分析(三井住友信託銀行証券代行コンサルティング部作成)が掲載されていますが、その結果を見て唖然としました。3年前と比較して、社外取締役の平均報酬額は低下しているのです。

もちろん、中小の上場会社も社外取締役を選任するようになったという「ガバナンス改革効果」の結果と考えれば、低下したことも一応は納得できそうです。ただ、前回分析の3年前と現時点での社外取締役とでは、まったく期待されている役割が異なっています。「月1回、取締役会に出席して終わり」とういわけにはいかなくなっています。伝統的な日本企業の取締役会に社外取締役が一人で入っていくという以前のイメージから、取締役会改革を支える要職としての役割を果たすというイメージに変遷しています。当然のことながら、社外取締役を務めるための拘束時間も増えますし、「提訴リスク」を含めたリーガルリスクも高まります。しかし、実際は社外取締役の平均報酬は増えるどころか低下している、というのが現実なのですね。

これでは有能な経営者OBの方々が、今後多くの上場会社の社外取締役となって活躍できる環境とはいえないですよね。それこそ会社法に「企業の社会的責任」に関する条項を挿入して、社外取締役というのは報酬ではなく公職としての使命を果たすことであるとすべきでしょうか。この現実こそ、ガバナンス改革は形式だけであり、実質へと深化する、というのは幻想ではないか・・・と感じる一つの要因です。そのあたり、今後議論されることはあるのでしょうか?

 

2月 10, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (5) | トラックバック (0)

2017年2月 3日 (金)

「社長交代」を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任(後編)

本日、大手運用機関のアナリストの方々と夕食をご一緒させていただきましたが、その席で(当然といえば当然ですが)企業の相談役、顧問制度について、たいへん厳しい意見を拝聴いたしました。東芝事件も背景にありますが、「常務会や執行役員会議などで喧々諤々意見交換がなされたにもかかわらず、なぜ最後に相談役のところへ案件を持ってお伺いをたてねばならないのか。そんなブラックボックスがあると、ガバナンスを議論しても意味がないのではないか」といったご意見です。そういえば本日(2月3日)の日経朝刊にも、政府が相談役、顧問制度について、「要請」という形で企業に規制をかけることが報じられていましたね。ただ、この制度は短所だけでなく、長所もありますので、今後時間をかけてゆっくりと検討すべき課題ではないかと、個人的には考えています。

さて、先週「社長交代を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任」とのエントリーを書きましたが、本日はその後編です。社長交代劇を演じることができるほどの胆力が社外取締役には求められていますが、企業の組織力学を知悉していなければ社長交代劇は企業価値を損なう、そして損失の危険の管理に最も適しているのは経営者OBではないか、といった内容でした。本日は、その理由を述べたいと思います。

1 社長交代を「決める」ことと「実行する」ことには大きな隔たりがある

今回のガバナンス改革において、社外取締役に求められることの重要な役割としてトップ人事への実質的関与が挙げられています。これはその通りかと思います。しかし実際に社長交代劇に何度か関与した者として、「交代を決める」ことは容易でも、「交代を実行すること」は至難の業です。実行に移してソフトランディングに持っていくにはたいへんな労力を要します。そこで社長経験者の覚悟がモノを言います。たとえここで社長を辞任したとしても、その後の生活はこの程度の不利益だよ、といったことを社長さんに説明できるのは、同じような修羅場を経験した方だからこそ説得力があります。

2 社長交代に関する社外・社内の影響度を熟知している

突然の社長交代劇は、社内・社外のステイクホルダーに多大な影響を及ぼします。たとえば社外においては金融機関、取引先、大株主に対する事前説明が求められます(その順番も大切です)。また社内においては、会長や顧問、相談役、経営幹部の方々への根回しも必要です。このあたりは、社内力学に精通した方でないと、なかなか段取りがわかりません。ぜひとも経営経験のある社外役員の「嗅覚」が必要になってきます。退任を求められた社長さんがどうすれば成仏できるか、どうすれば企業の大切な無形資産を持って同業他社に駆け込まないか、といったことを企業はとても気にします。社長さんが成仏できるような段取りを考えるのも経営者OBの機知がモノを言います(こんなとき、社内に顧問、相談役制度がとても役に立ちます)。

3 経営者OBだけがホンモノのガバナンスを知っている

社内の本当のガバナンスの力を持っているのは「従業員」です。株主ガバナンスと世間ではいわれていますが、経営経験者は組織を変える真の力を持った者は従業員だと知っています。だからこそ、現場を含め、従業員の方々から情報を得ることで、会社内の空気を察知します。社外役員といえども、現場従業員とのコミュニケーションを大切にするのは経営者OBの方々です。

4 社長が社内のだれ一人として相談できないことを相談できるのは経営者OBの社外役員だけである

経営者OBの方々の有事における立ち居振る舞いを観察していて、「この人が社外取締役でいてくれて本当によかった」といえるのは、社長が人間的に当該社外取締役さんを信頼している場合だと思います。わかりやすくいえば、普段社内の誰にも言えないような困りごとが生じた場合に、「この社外役員に相談してみよう」と思えるような関係が成立する場合です。私も悔しいですが、こういった関係に立てるのは経営者OBの社外取締役をおいて他にはいないと思うのです。海外ではもっとドライな関係が望ましいのでしょうが、日本企業で円満に社長交代劇を演じることができるのは、こういった関係が成り立ち、社長さんが成仏できるからだと思います。その会社に未練なく権力から離れることができるからこそ、他社の社外取締役として頑張ってみようとの気持ちの切り替えができるものと考えています。

もちろんこれらの理由は個人的な見解なのでご異論もあろうかと思います。ただ、本当に社外取締役がガバナンス・コードに謳われているような役割を果たそうと思えば、こういった過酷な社外取締役の役割を演じていただけるような方が求められているのではないでしょうか。単純に「稼ぐ力」を回復するために、経営手腕が求められている・・・といった理由だけで経営者OBが適任とされるものではないような気がしています。

2月 3, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月30日 (月)

エフオーアイ損害賠償請求訴訟とコーポレートガバナンス改革

昨年末12月20日に東京地裁判決が出されたエフオーアイ損害賠償請求訴訟判決(現在控訴中)ですが、この判決は本当に興味深い論点がたくさん含まれていまして、会計不正事件の調査に携わる方々にとっても、たいへん勉強になる判決です。ただ、この土曜日に、東京の大手法律事務所の某弁護士さんからお聞きしましたが、東京の企業法務に強い法律事務所の多くがこの訴訟に関係している、もしくは事件そのものに関与しているために、なかなか判決の評釈をお書きになれる方を探すのがむずかしいそうですね(著名な学者の先生も、すでに「意見書」を提出しておられるとのこと、そういえば以前コメントを頂いた「とおりすがりの商法学者」さんも?・・・笑)。せめて判決全文が早めに判例雑誌等に掲載されて、利害関係のない法律実務家の方、学者の先生方の評釈が出されることを期待しております。

さて、(この判決文の中にも登場される)エフオーアイの架空取引に加担していたとされる富士通社員(元)の方に対して、同社の元株主らが損害賠償を求めていた裁判が提起されていたようですが、この1月27日、東京地裁はこの元社員に対して1億3000万円余りの損害賠償請求を認める判決を出した模様です(ちなみに法人である富士通に対する賠償請求は棄却されたとのことで、NHKニュースだけが報じています)。取引先社員が事件に関与していなければ(審査に対して口裏合わせをしていなければ)もっと早く関係者の調査によって同社の会計不正が明るみに出ていたはずだ、と裁判所が判断したようです。

上場会社の粉飾に加担した取引先社員について、上場会社の株主に対する損害賠償責任が認められる裁判例というのも、これまであまり存在しなかったように思います(私が知る限り・・・ということですが)。企業のヘルプライン規約には、自社従業員と退職者を通報資格者と定めていて、取引先社員に通報資格を付与している企業はあまり多くないかもしれませんが、このような判決が出されるようになりますと、取引先企業の社員にも不正の早期発見に協力を要請することで、不正調査が円滑に進むような体制をとる必要がありそうですね。

ところで、私はこのブログの読者の方から判決書コピーを(研究目的のみに使用することを条件に)お借りすることができましたが、それだけでなく、読者の方を通じて、エフオーアイの事件関係者の方とも意見交換をさせていただく機会に恵まれました(すいません、ブロガーの特権ということでご容赦ください)。私は自分の関心から「エフオーアイ」という社名を聞くと、すぐに「最短上場廃止のトンデモ粉飾会社」、「市場関係者の上場審査における責任問題」ということだけ興味本位で想起しておりました。しかし時計の針を平成15年ころまで巻き戻して関係者のお話に耳を傾けてみますと、この会社がどれだけ優秀な事業の芽を保有していて、実際にどれほど日本の半導体の将来を背負う企業として期待されていたのかが、よくわかりました。だからこそ、判決文の中には前掲の富士通さんやパナソニックさん、シャープさん等日本を代表する著名企業の名前がゴロゴロと出てくるのですね。市場関係者の皆様が、単純に自分たちの利益のため、ということではなく、日本の将来を担う企業の上場を願って、エフオーアイの新規上場(ファイナンス支援)にまい進していった状況がなんとなく把握できました。

もちろん、エフオーアイのトップの方、粉飾実務を担当した取締役の方は実際に刑事裁判で実刑判決を受けており、また同社は多くの投資家の方々に迷惑をかけているわけですから、同社の粉飾は決して許されるものではありません。ただ、そこに至る過程を詳細にみていくと、ベンチャー企業を取り巻く構造的欠陥、たとえば日本におけるベンチャー企業のファイナンスのむずかしさ、日本の企業社会におけるベンチャー支援思想やスキルの脆弱さが粉飾企業を生み出している・・・という事実を改めて痛感します。また、架空取引に協力する取引先にとっては、一見何の得にもならないような不正加担行為をどうしてやってしまうのだろうか・・・といったあたりの事情も、「なるほど、その状況なら関係者は協力せざるをえないだろうな」と納得してしまいます。協力すればストックオプションをもらえる、といった個人利得的な理由ではなく、もっと企業にとって切実な問題に起因するところが大きいのです。とりわけベンチャーを支援する大企業が「健全なリスクテイク」を実践できなければ、(どんなに市場関係者の上場審査を厳格化しても)今後も第2、第3のエフオーアイ事件はかならず起きるものと確信します(このあたりの詳細は、また講演等でお話ししたいと思います)。改革の方向性は別として、やはり大企業のコーポレートガバナンスを議論することは大切ですね。

私自身が裁判に関与したアイ・エックス・アイ事件も、(後日の調査で判明したところによると)売上の8割が粉飾だったわけですが、最初はそんな大きな粉飾ではありませんでした。おそらくエフオーアイの件も同じような過程をたどってとんでもない金額の粉飾に至ったものと推測します。いま、上場企業は「健全なリスクテイク」を支援するためのガバナンス改革の真っただ中ですが、改革を実質的に進化させることは、こういったベンチャー支援の在り方にも大きな影響を及ぼすものと考える次第です。

1月 30, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (6) | トラックバック (0)

2017年1月27日 (金)

「社長交代」を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任(前編)

(一部ブログ記事を削除いたしました。今後とも、関係者の方々にご迷惑をおかけしないよう努めたいと思います。また、内容に虚偽がありましたら速やかに訂正いたします)

1月27日に開催される政府の未来投資会議に関連する話題です。ガバナンス改革が進む中、「攻めのガバナンス」の推進役として現役経営者、もしくは経営者OBの社外取締役さん(※1)に注目が集まっています。「稼ぐ力を取り戻すため」に社外取締役を迎え入れるのであれば、全体最適マネージメント経験が豊かな方が適任だから・・・、というのが主な理由です。これは会社の平時を想定してのものですが、私は会社が有事に至った場合であっても、やはり経営者OBの方の力量が発揮されることが多いというのが実感です。なぜなら「社長交代」といった会社にとって極めて重大な局面において、社長に「成仏できるようにお経をあげることができる」のは経営者OBしか存在しないと考えるからです(なお、特定の事案からそのように考えるのではなく、私自身の業務経験一般からの考えです)。

(※1)・・・ここにいう「経営者」とは、社長さんだけでなく、副社長さんや専務さん等、広く経営全般のマネージメントに責任を持つ立場を経験した方を指しています。

たとえば本日(1月26日)、すでにニュースでも取り上げられていますが、某監査法人さんの子会社(当時)の社長さんが「社長解任は不当だ」として損害賠償請求訴訟を提起した裁判で、東京地裁は「解任の正当理由なし」として元社長さんの請求を認める判決を出しました(某監査法人さんも被告として提訴されているので、「役職解任」ではなく、おそらく株主総会における取締役解任に関する事例と思われます)。事例自体はよくある裁判ですが、社長さんのお名前も、会社名も実名報道されているところをみると、著名な監査法人グループ内におけるお家騒動はニュース価値がある、ということなんでしょうね。誰に責任があるか、といった問題は別として、社長さんが会社や大株主を相手にして裁判を起こす、マスコミが面白おかしく報じる中で会社と元社長が対峙する、といった「お家騒動」に発展するのは、不幸にして社長さんが成仏していないからだと考えます(※2)。

(※2)・・・社長さんが成仏できないのは、個人のプライドを傷つけられた、といった安易な利己的動機からではなく、会社のためにやったことが評価されないとか、構造的な欠陥を社内に残したまま去ることができないといった主に利他的な動機によるところが多いように思います。

よくガバナンス改革のお話の中で、社外取締役の本来の役割は社長交代を主導することである、と言われます。しかし、社外取締役が動いたからといって、「交代劇」を演じることはできても、社長さんを成仏させることはきわめて難しいのです。したがって、「交代劇」は往々にしてマスコミが知るところとなり、社内に派閥争いの増幅や弔い合戦等の禍根を残すことにもなります。社内において、なんとか社長さんを成仏させることができるのは会長さん、顧問や相談役の方々といった先輩経営者の方だと思いますが、最近はどうも議決権行使助言会社を中心に投資家からの「顧問、相談役制度」への批判が高まっており、今後は「顧問、相談役主導による交代劇」自体、期待できないかもしれません。そこでもし、社外取締役が主導して「交代劇+読経」という大役を務めることができるとすれば、それは経営者OBの社外取締役さんをおいて他にはいないと思うのです。

ではなぜ経営者OBの方々は(企業価値を毀損させることなく)トップを成仏させることができるのか?・・・具体的な理由についてはまた来週、このブログで述べる予定です。

1月 27, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月 9日 (月)

企業の「相談役」「顧問」制度にはガバナンス・コードはなじまない

どのマスコミよりも早く、NHKさんが経産省の最新コーポレートガバナンス調査の集計結果を報じています(1月8日付けNHKウェブニュースより)。東証1部、2部上場2500社のうち、871社から得た回答をもとに集計したところ、①「相談役」や「顧問」を導入している企業は70%以上にのぼり、②そのうち35%の企業で「相談役」や「顧問」が現経営陣に対して指示や指導を行っていることが判明したそうです(私の実感では、導入企業はもっと多く、また指示や指導はあたりまえ・・・と思っていたのですが)。

上記ニュースによると、経産省は、こういった実態が企業統治をゆがめることのないよう制度の在り方を提言していく方針だそうです。おそらく経産省の「コーポレートガバナンス・システム研究会」で今後審議がなされるものと思いますし、金融庁のガバナンスフォローアップ会議、法務省に近い会社法研究会等でも話題になるものと予想しています。著名な議決権行使助言会社さんでも、今後上場会社が顧問、相談役制度が経営に影響を及ぼす方向性に動くときには関連議案には反対票を投じるように推奨されるようです。このような流れからしますと、とりわけ上場企業の「相談役」「顧問」という制度は、現在のガバナンス改革の中ではかなりネガティブなイメージで捉えられているように思われます。

私が社外取締役を務めている会社では(ガバナンス報告書ですでに開示している範囲で申し上げますが)、60歳取締役定年制に例外はなく、取締役は一切会社には残りませんので、会長職はもちろん、顧問も相談役制度もありません。私が取締役に就任した以降に、何名かの社内取締役(専務や常務)が退任されましたが、退任後は一切会社とは関係はなくなり、もちろん顔を出すこともありません。その影響からか、事業部門の垣根を超えて一切の派閥はなく、社外取締役、執行役員を含めて、本当に一生懸命次期社長候補者を探さねばならないという状況になります(だからこそ社長候補者の選任過程は、その判断基準も含めて透明化しないとやっていけないのです)。

ただ、実際に社長選任過程に関わり、また他社でいくつもの派閥争いの紛争解決に関わる経験から申し上げますと、当社の制度は当社に特有のビジネスモデルや雇用慣行、さらには会社成長の歴史に由来するものだからこそ機能しているのであり、決して他社でも「相談役」や「顧問」を廃止することで取締役会の実効性が高まったり、社長後継者プロセスが透明化されるかというと、そんなに甘いものではないと考えています。むしろ長年「相談役」「顧問」がおられた上場企業にはそれなりの利点(長所)があるわけで、その存続を個々の企業ごとに考えなければ「短所を補完するためのガバナンス」によって長所を阻害することにならないか、非常に懸念を抱きます。

たとえば対内的効果としては、人事への関与があります。社長後継者争いには、何名かの候補者が出てくるわけですが、最終的に社長が選任された後、「お前もまだまだこれからがあるんだから、捲土重来を期せよ」といって社長になれなかった候補者を社内につなぎとめるのは相談役、顧問として会社に残る方です(会長とか現社長とか)。もし「捲土重来の機会を保証する人」がいなければ、(ポスト争いに敗れたと烙印を押された方は)官僚の世界と同じく、さっさと優秀な人材が他社に移ってしまい、企業の競争力はそがれます。社長候補と呼ばれるほどの有能な方をみすみす他社にとられてしまうことを見逃すわけにはいかないと思います。

また、対外的効果としては、ステイクホルダーへの影響力行使という利点があります。もちろんご本人自身も企業帰属意識を充足させるような肩書を持ち続けたいと思うわけですが、それ以上に世間は組織に帰属している人だからこそ評価をする、といった風潮があります。たとえば経産省や金融庁、法務省といった官僚組織が、有識者会議に民間委員を任命する場合、「●●会社元代表取締役」という肩書で選任するでしょうか。そうではなく「●●会社相談役」とか「●●会社最高顧問」といった企業帰属が一目でわかる肩書がある方を選任するほうが「経済界の意見を聴いた」といった名目作りには大切だと考えておられるのではないでしょうか。経済団体の理事職への就任といった場面でも同様です。もし今後、政府が相談役制度や顧問制度は廃止すべき、との意見をガバナンス・コード等を用いて提言するのであれば、政府委員を経済界から選任する場合にも、相談役や顧問の肩書のついた方は選任しない、もしくはそのような肩書は委員名簿に公表しないといったことを検討しなければ矛盾するのではないでしょうか。

ガバナンス改革は形式から実質へと進化させるべき、とお正月の大発会において麻生大臣が述べておられましたが、この相談役、顧問制度はまさに「実質化」にとっては重要な課題です。本件については賛否両論あるでしょうし、ガバナンス改革推進に熱心な有識者の皆様方からは私の意見についてはご異論もあるでしょう。ただ、相談者や顧問制度の長所と短所を機関投資家を含めてきちんと議論することが大切ですし、そのうえで「一律要請」になるようなガバナンス・コードは活用すべきではなく、最終的には企業自身の判断に委ねる、相談役制度、顧問制度を維持する説明責任は、株主との建設的な対話の中で果たす、といったことが妥当な落としドコロではないかと考えています。

1月 9, 2017 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年12月19日 (月)

ガバナンス改革-議決権行使助言会社も「形式」よりも「実質」か?

先週、米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスさんが、「2017年度議決権行使助言方針」において「日本の監査役会設置会社の場合、社外取締役と社外監査役の合計人数が(監査役を含む)全体の3分の1以上となるように要請する」ことが報じられていました。3分の1に満たない場合には取締役会議長となることが多い会長さんの選任議案に反対推奨を行うとのこと(日経ニュース12月15日付けより)。

これを「ガバナンス規制が厳しくなった」とみるかどうかは意見が分かれるかもしれません。しかし、私は日本の監査役制度を真正面から認めたものとして前向きに評価しています。監査役もボードメンバーであり、社外監査役もモニタリング構成員として(経営の監督者として)重視する、といった同社の指針変更は、議決権行使助言会社も日本企業のガバナンスについて「形式」よりも「実質」を重視する姿勢に変わってきたことの表れではないかと。社外監査役2名と社外取締役1名であれば、社内取締役5名でも無事クリアできそうなので、わざわざ(ガバナンス・コード対応として)監査等委員会設置会社に移行する必要はなくなりますね。この先、「監査等委員会設置会社には社外取締役4名以上の選任を求める」といったISSさんの指針等が出た場合には、すでに監査等委員会設置会社に移行した企業さんはどう対応されるのでしょうか。

日経新聞の11月23日付け記事によると、グラスルイス社の2017年指針では「社外取締役についても、上場企業の現役経営陣については兼務1社までとするが、非上場会社の経営者や大学教授の方々の場合には兼務4社まで」といった方針に変更するようで、こちらも社外取締役の役割が重視されるなかでかなり現実的な水準ではないかと思います。

最新の旬刊商事法務(12月15日号)の巻末「スクランブル」で初めて知りましたが、海外では議決権行使助言会社に対する法的規制が厳しくなってきているそうです。主に①助言会社の議決権行使助言業務とコンサルタント業務との利益相反問題、②推奨判断に対する企業側からの反対意見陳述の機会付与という点からだそうですが、日本でもスチュワードシップ・コードの改定を控えており、助言会社もコード対応が求められる立場なので、「形式よりも実質」ということでかなり柔軟な対応に変わってくるのかもしれませんね。

12月 19, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月14日 (月)

スチュワードシップ・コードの見直しと上場会社の「守りのガバナンス」の関係

11月8日、金融庁のHPに「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の意見書(3)に関する素案が公表されました。主に機関投資家のスチュワードシップ活動の実効性確保のための提言が盛り込まれていまして、やはり中心課題は機関投資家(主に運用機関)の利益相反規制です。議決権行使結果の個別開示と機関投資家のガバナンス改革の是非が論じられています。

11月13日の日経電子版の記事では「議決権行使・個別開示で攻防 生保業界と金融庁」という見出しで個別開示に難色を示す生保業界の様子が描かれています。これまでも個別開示は2度ほど金融庁会議で提案が出たけども、そのたびに生保業界の厚い壁に阻まれてきたそうです。生保の営業社員がお客様企業の社内に入れない時代、団体保険を獲得するためには生保系運用機関としても親会社(生保会社)の顔色を見ながら議決権を行使する、といった事態も(なんとなくですが)想定されそうです。

ただ今回はフォローアップ会議の議事録(第8回)を読みますと、少なくとも来春に予定されているスチュワードシップ・コードの改訂の中で「機関投資家は議決権行使の結果について個別開示することを原則とする」という方向性に共感するメンバーが多数を占めるようです(ただ、コードの改訂といいましても、ここから経済界や関係省庁の意見合意に持ち込むのがたいへんかとは思いますが)。

もちろん上場会社の中長期の企業価値向上に向けた施策がメインテーマですから、機関投資家の利益相反規制としてのフィデューシャリー・デューティーに関する議論、そして上場会社のガバナンス改革としての「攻めのガバナンス」の実効性確保に向けた議論が中心であることは間違いありません。しかし、運用機関の議決権行使結果の個別開示というのは、「攻めのガバナンス」以外にも金融庁の思惑があると考えます。かりに多くの運用機関が議決権行使結果の個別開示を実行した場合、一般の投資家がこれを活用することは至難の業です。しかしビックデータを活用できる民間団体や行政当局からすれば「ハコ企業予備軍」や「実業で著名だが不正の兆候がみえる企業」をデータから抽出できる(いわばフォワードルッキングで不正を抑止もしくは早期発見する)可能性が広がります。

つまり、運用機関が本気で中長期的企業価値向上に目を向けるとするならば、ガバナンスに問題がある、内部統制上の統制環境に問題がある、取締役会の判断に経済的合理性が乏しい、といった企業では、役員選任議案や定款変更議案等の経営の基本方針に関わる総会上程議案について反対票が多く投じられる可能性があるため、個別開示は企業の「守りのガバナンス」を充実させるインセンティブにもなりうるように思います。

とりわけ上記素案にもあるように、近年はETFの増加や年金運用におけるパッシブ運用比率が高まっていることから、運用機関が、より積極的に中長期的視点に立った議決権行使に取り組むことが期待されます。海外の機関投資家のアンケート調査結果でも、問題企業や特別の事情のある企業に優先的に「目的ある対話」を行い、重要な情報を入手する傾向がみられるようです(フォローアップ会議第9回資料参考)。右肩上がりの時代とは異なり、業績のボラティリティが大きい時代には、個別企業の時間軸および同業他社との水平軸による比較を通じて、議決権行使結果に関する集積情報はマクロ解析に有意義ではないかと。逆にいえば個別企業にとっても、会計不正に関する意見を公表しながら空売りを浴びせるファンドに反論することが容易になるのかもしれません。

コードへの対応ということですから、機関投資家としては個別開示をしない合理的理由(たとえば利益相反排除の指針を開示している、利益相反が疑われる取引を抽出して、厳格に監督をする内部の独立機関を持っているといった理由)をもって開示を拒否するところも出てくるかもしれません。ただ、このあたりは「横並び」体質が強い日本の会社である以上、いったん署名をしたスチュワードシップ・コードが見直される以上は、かなりの運用機関が個別開示を実施するかもしれませんね。

11月 14, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月 4日 (金)

インセンティブ報酬に関する素朴な疑問-「アメとムチ」の発想を超えて

「英国のEU離脱には議会の承認が必要」とするロンドン高等法院の判決が出されたそうで、北アイルランド高等法院の判断では先日「不要」とされていましたので、最終的には最高裁判所の判決を仰ぐことになるようです。私は英国法制については詳しくありませんが、国民投票から離脱通知に至るまでの法制度が極めてあいまいな点(国内法、EU法とも)はオックスフォード大学教授の講演等でも問題になっていましたので(たとえばこちらの解説を参照)、高度に政治的な判断においても裁判所の判断は尊重されるのでしょうね。私も不勉強なので偉そうに言えるものではありませんが、これまであまり日本のマスメディアでは、こういったシナリオは想定していなかったのではないかと。

さて(ここからが本題ですが)先週月曜日(10月24日)の日経法務面では、「株式報酬高め、役員挑戦促す」といったタイトルの役員報酬制度改革の特集記事が掲載されていました。ガバナンス・コードにおいても、取締役に対して中長期的な企業価値向上に目を向けることが要請されていますし、報酬でインセンティブ付けを行うべき、とされています(たとえばコード原則4-2、同補充原則4-2①等)。いわゆる「アメとムチ」の発想を基にしたガバナンス改革の一環です。

そもそもの疑問ですが、ニンジンを目の前にぶら下げられて走ることの動機付けとなるのは「短期の業績向上のため」というのはわかるのですが、ニンジン(報酬)というものは、はたして中長期の企業価値を向上させることの動機付けにはなるのでしょうか?(そもそもそのようなインセンティブ付けになることは実証されているのでしょうか?ちなみに、私個人の考えとしては、短期の業績向上であっても、日本企業の経営者が短期の業績向上を目指すインセンティブは別のところにあり、報酬はあまり動機付けにはならないと考えています)中長期の企業価値向上は、マクロ経済の動向を含め、多分に「運」に左右されるところがありますし、もし「運」の部分を排除するために、同業他社との株価変動比率を用いるとしても、それは短期の業績連動の基準とあまり変わらないことになるように思えます。

また、新興企業のように、ワンマン経営者の手腕で伸びてきた会社ならわかりますが、そうでない伝統的な上場会社の場合、出世競争には勝ち抜いてきたものの、これまで会社の存亡の危機を乗り越えた経験がない社長さんが、業績連動報酬を導入することでほんとにリスクにチャレンジすることになるのでしょうか?リスクに立ち向かうのではなく、上手にリスクを回避してきたからこそ社長さんになられたのではないかと。また、創業者やワンマン経営者の方においては、報酬のために経営しているのではなく、むしろリスクにチャレンジすること自体がこのうえなく楽しいからこそ事業をされているのであり、もらってうれしいものがあるとすれば、それは報酬ではなく、次の投資につなげる内部留保ではないでしょうか。

そう考えますと、どうも日本の企業においてはインセンティブ報酬というものが根付くようには思えないのです。ところで上記の日経記事を読んで理解しましたが、世界で語られている役員報酬改革というのは決して「アメとムチ」という米国流のインセンティブ報酬の考え方だけではないということのようですね。むしろ業績が上がれば従業員の利益に優先的に回して、その分は株主に我慢してもらうための説明責任を尽くす、ということも「報酬改革のストーリー」として考える必要がありそうです(しかし、そうなると企業の中長期的な価値向上を図るのは会社と株主との二人三脚で、ということになりますね)。でもホントにそれで機関投資家の方々は納得されるのでしょうか?

なお、上記記事で紹介されていた武田薬品工業さんでは、社外取締役や監査役さんも、金銭交付ではありませんが、3年間の業績・株価によって退任時に株式で報酬を取得できるような業績連動型報酬体系を採用されるそうです。しかし監査役さんが不正の兆候を発見した場合に、手を挙げて問題が表面化した場合には株価は一時的に下がるでしょうから報酬は下がり、何も言わずに放置していた場合にはたくさん報酬がもらえる、ということになるのも何か違和感が残ります。一昨年、第三者委員会の調査によって不正が明るみに出た医師主導型臨床実験に関する不正関与事例のように、後日不正が発覚した場合には企業価値が大きく毀損されることもあるわけでして、早めに手を挙げた監査役さんは(損害を最小限度に抑えたものとして)多大な貢献をすることになりますが、それは一切報酬には反映されないのでしょうか?うーーーん、素朴な疑問は尽きません。。。

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2016年10月28日 (金)

これからのガバナンス論議を占う-企業関連制度改革会合

本日は私自身の備忘録程度の内容ですが、政府(内閣府)の未来投資会議(企業関連制度改革会合)の議事内容をみておりますと、来年に向けて、さらにコーポレート・ガバナンス論議が盛んになるだろうと確信いたします。事務局提出資料だけでなく、それぞれの有識者の方が出されている意見書の内容は、その方のスタンスとともに、近時のガバナンス論議の中心課題を如実に示しています。

有識者の方々から「企業統治改革の見直し論」への批判が明確に出されること自体、「これまでのガバナンス改革には見直しが必要ではないか」といった意見が世間的に強まってきていることの顕れかと。そういえば「良心に基づく企業統治」といった方向性からの見直し論とは別に、ガバナンス・コードの本家本元のイギリスでも、EU離脱をきっかけに労働者代表が取締役会メンバーに含まれるべき、といったガバナンス・コードの改正が検討されている、と日経で報じられていました(イギリスが引っ張ってきたIFRSなんかも、同国のEU離脱で今後どうなってしまうのでしょうかね?これ、会計基準の強制適用に法的根拠を持たない日本では大問題ですよね。すでに任意適用されている企業さん等、かなり気をもんでおられるのではないかと)。

以前、日経新聞で大胆に発言されていた東レの日覺社長のご意見、上記会合で意見書を提出されている「公益資本主義」提唱者の原丈人氏のご意見等への賛同者が増えることによって、まさに健全なガバナンス論議が始まるのではないでしょうか。とても楽しみになってきました。

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2016年8月24日 (水)

ガバナンス・コードへの対応-「とりあえずコンプライ」と「なんちゃってコンプライ」

昨日(8月22日)の日経夕刊2面に驚くべき調査記事が掲載されていました。主要企業の6割が企業統治指針73項目について「すべて順守」(オール・コンプライ)と宣言しているそうです。昨年12月は3割だったので、オール・コンプライ企業は倍増したことになります。コンプライを強く推奨するコードの本家英国よりも高い数字とのこと。一見すると、昨年6月に適用が開始されたガバナンス・コードが上場企業に浸透し、我が国でもガバナンス改革が進んできたものと言えそうです。

しかし「点検ガバナンス大改革」(R&I格付投資情報センター編 日本経済新聞出版社 2016年)の第1章(拙著)で述べたとおり、「横並び主義」の傾向が強い日本企業においては、2008年施行のJ-SOXと同様、オールコンプライは要注意です。たとえ大企業に限ったとしても、監査法人と社外取締役との十分な連携(補充原則3-2②)、後継者育成計画(サクセッションプラン)に対する取締役会の監督(補充原則4-1③)、監査役と社外取締役との定期的連携協議(補充原則4-4①)、独立社外取締役のみの会合(補充原則4-8①)、社外役員を中心メンバーとする任意の仕組みの活用(原則4-10)、内部監査部門と社外取締役との連携等、社外取締役が情報を入手するための工夫(補充原則4-13③)等は、(もちろん意識的に実施されている会社もありますが)、到底6割もの会社で実施されているようには思えません(私がコード対応を支援した7~8社程度と、自身が社外取締役を務める会社の相談事例等の経験に基づくものなので、確信的なものではありませんが・・・)。

なぜなら、上記に掲げた各項目は、会社側の事情ということよりも、選任された社外取締役や社外監査役の「独立役員としての姿勢やスタンス」によって、会社側がどうすることもできない事情により、対応が異ならざるをえないからです。単に「そんなオールコンプライできるほど社外取締役はヒマではない」といった時間的制約を問題にしているのではなく、社外取締役として会社のために職務を全うしようとすれば、とりわけ元経営者の社外役員の方は、「社外取締役はかくあるべき」といった思想をお持ちだからです。

各企業によってガバナンスの実態は異なるわけですから、社外取締役だけ集まって会合を開くことは好ましくないと考える方もいらっしゃいますし、事務局による社外取締役への事前説明を「これは反対されるのを防ぐための根回しやないか!」と拒絶する方もいらっしゃいますし、さらに後継者育成計画や中長期インセンティブ報酬の考え方に異を唱える方もいらっしゃいます。監査役を飛び越えて、社外取締役が監査法人と意見交換を行うことに意義を認めない方もいらっしゃるはずです。社外と社内の取締役が、コードをすべて順守することをよしとする会社などありえないように感じます。

おそらく、こちらのレポートに掲載されている東証さんの見解(とりあえずコンプライしておいて、後からエクスプレインするのもルール違反ではない)がかなり出回っており、各社とも現在は「とりあえずコンプライ」の状況にあるのかもしれません。社長自らガバナンス改革に熱心であれば経営企画の担当者も「これはエクスプレインではないでしょうか」と言いやすいかもしれません。しかし、あまりガバナンス改革に熱心ではない社長さんの場合には、おそらく「やっつけ仕事」としてガバナンス・コードへの対応が担当者に丸投げされているものと思います。

しかしガバナンス評価を丸投げされる担当者ほど過酷な状況に立たされる人はいません(うちの役員は全くだらしない・・・とは評価できないでしょう 笑)。担当者としては、「とりあえずコンプライ」に東証さんのお墨付きがあるのならば、(コンプライの場合には理由を開示する必要がないので)社長に煩わしい思いをさせることもないので「オール・コンプライ」にしておくのが無難だという判断に帰着しているように推測します。

上記東証さんの見解は「とりあえずコンプライ」はセーフだと述べているわけですが、コードを自分勝手に解釈して、コードの趣旨精神に反する対応に終始しているケースもあり、こういった「なんちゃってコンプライ」は明らかに東証ルール違反でペナルティの対象になります。私が上記に掲げた項目は、比較的「とりあえず」か「なんちゃって」か判断が容易なものなので、株主の方々は、具体的な運用状況(実際にコードに基づいて履行した結果)を、独立社外取締役の皆様から直接お聴きになるべきです(会社ではなく、社外取締役さんからお聴きになるのが肝要です)。私は「このコードは当社の企業価値向上には合わない。当社では、むしろ反対の行動をとったほうがビジネスモデルの種を大きくする土壌になると考えています」と述べる企業ほど、コーポレートガバナンスの長所を活かしきれる会社だと理解しています。

8月 24, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年8月10日 (水)

取締役会全会一致の原則の裏に潜む「暗黙のお約束」

コーポレートガバナンス・コードが実施されて2年目となりますが、ご承知のとおり複数の社外取締役さんが選任されている上場会社もたいへん増えました。コードの要請としてダイバーシティ(取締役会構成員の多様化)が求められていますから、さぞや取締役会の議論は活発化して反対議決票も投じられているのでは・・・と思われる向きもあるかもしれません。しかし8月8日の日経新聞朝刊「経営の視点(取締役会、全会一致のなぜ)」で編集委員の方がお書きになっているとおり、取締役会の意思決定は「全会一致」が事実上の原則になっています(会社法上は出席取締役の過半数の賛成が決議成立要件です)。

上記の記事で有識者の方々が指摘しておられるとおり、「事を荒立てて決めたくないので全会一致が慣例になっている」のであり、「社外取締役のひとりでも反対すれば採決を強行しない」というのが実情だと思います。ガバナンス・コードでは、取締役会の活性化のために社外役員に対する事前レクチャーなども推奨されていますが、実態は取締役会で反対されないための「根回しの場」と化しているのも事実でして、むしろ2時間以内で取締役会が紛糾せずに終了するために事前レクチャーが存在するといっても過言ではないと思います。

モニタリングモデルが採用されている米国企業の取締役会でも全会一致が多いようですが、アドバイザリーボード型の日本で全会一致が慣例とされるのは、やはり「みんなで決めた」という責任分散志向が強いから、と言われています。ただ、私はむしろ「取締役はPDCAが嫌い」というのがホンネのところではないかと考えます。毎月重要な審議案件が次から次へと取締役会にかけられる中で、スピード経営を維持するためには目先の案件に気持ちが集中しているわけでして、「あの3か月前の案件の経過はどうなってますか?」と社外役員から質問しないと、報告が聴けない状況が多いように感じます。誰かが反対したり、議事録に異議を述べたような案件だと、いやでもPDCAに配慮せねばならず、社内取締役も社外取締役も、業務執行の是非を判断しなければなりません。モニタリングのクセがついていない取締役会では、これがとても面倒に感じられるのではないでしょうか。

しかしながら、社外取締役さんが増えたことで、上記記事で有識者のおひとりがおっしゃっておられるように「社外取締役の理解が得られず、決議が持ち越しになる事例が増えている」ことも事実。いわば社外取締役に事実上の拒否権が付与されているのでありまして、「あの人、ちょっとムズカシイ人だな」と思える社外取締役さんが就任した取締役会では、このあたりの悩みを抱えてしまうことになります(タテマエではなく、ホンネベースで考えてくださいね)。そこで登場するのが「条件付き決議」と「詳細は社長一任」です。議論が紛糾した場合に、なんとなく「ここのところは●●の条件で賛成、ということで決議をとりましょう」とか「もう取締役会も時間が押していますので、詳細は社長一任・・ということで」といった形で決議がとられます(昨年経産省でまとめられた取締役会のプラクティス集の中でも、このような条件付き取締役会決議が行われている実例が紹介されています。14ページ以下参照)。

ところで私自身が社外取締役兼取締役会議長という立場でもあるせいか、この条件付決議というものがどうも気になるのです。そもそも契約行為でもない取締役会決議に法的な条件を付すことができるのかどうか、といった法理上の疑問はさておいて、この「条件」というのは停止条件なのか解除条件なのか、という点です。停止条件ならば(賛成決議をとったとしても)いまだ決議の効力は生じておらず、後日、条件が成就した時点ではじめて決議の効力が発生します。また解除条件であれば、決議の瞬間に効力は発生しますが、後日、条件不成就が明らかになった場合には効力がなくなります。いったい「条件付き決議」と言う場合は、どっちを指すのでしょうかね?さらにいえば「●●の条件で」といっても、その●●の条件が成就したかどうかは、一体だれが決めるのでしょうか?

ちなみに、法律に詳しい社外取締役が、別の社外役員の方々に「いまの条件付き決議って、法律上はなんの意味もないですよ。解釈すれば、全員異議なく承認可決されました。ただ、後日事の経過を社長が説明するというリップサービスがついただけですよ」と申し上げると、またまた議論が紛糾するという事態も想定されます。このあたりは会社のお約束ゴトとして、大人の対応が必要なのかもしれませんね。

また、「詳細は社長一任」として決議される場合もありますが、この「詳細というのは、何が詳細なのですか?ひょっとして、その詳細の中には今回の決議の方向性を変えてしまうような要素はないのですか?」と聞きたくなるような重要事項が含まれていることもあります。法律上の「包括委任」を容認する趣旨なのか、それとも個別委任の意味で一任する、ということなのか、あまり詰めた議論もなされないままに「社外役員の皆さんもお忙しいことでしょうし、もう時間も押してますので、詳細は社長一任で・・・」とされるケースが見受けられます。このあたりも会社のお約束として大人の対応が求められるのかもしれませんが、いずれにしても、このPDCAに注力するのが社外取締役の重要な役目であり、決して妥協してはならないところだと考えます。

PDCA嫌いの日本企業の取締役会において、取締役会の議決権行使に多数決原理が持ち込まれるのであれば別ですが、今後も全会一致の原則が多用されるのであれば、このあたりは結構社外取締役さんにとっては重要な問題ではないかと。最近は取締役会議事録も詳細に記録される会社が増えているようなので、このあたりの趣旨もきちんと残しておくべきではないでしょうか。

8月 10, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年6月30日 (木)

出光興産VS創業家-創業家の反対表明は当然ではないのか?

(30日午後 追記あり)

出光興産の創業者一族の方々が、昭和シェル石油さんとの合併に反対表明をされたことが話題になっています。28日の出光さんの定時株主総会ではすべての議案が可決されましたが、創業家の資産管理会社の代表者が議案質問の際に、合併反対表明をされたそうです(マスコミでは「代理人弁護士」とありますが、代理人ではなく「弁護士資格を有する社長さん」ですね。そうでないと創業家側のストーリーが立たないです)。29日の毎日新聞夕刊では「会社側が創業家の株式保有比率を低下させるために第三者割当増資を検討」と報じたため、会社側が(慌てて?)「そんなことは一切検討しておりません!」と適時開示を出しています。

法律上の「主要目的ルール」に関する議論等はさておいて、私は創業家の株式比率を下げるために第三者増資を検討することは、いくら会社側の要望が強いとしてもタブー(禁じ手)だと思います(そんなことをすると全国のオーナー企業さんを敵に回すことになりかねません)。どうせやるなら(?)オモテ沙汰にならないように、巧く創業家を崩すことを検討すべきです。大塚家具さんやロッテさんではありませんが創業家一族だって一枚岩ではないかもしれません。また出光さんの株を保有する公益財団法人について、創業家の税務対策として活用しているのかどうか不明ですが、公益財団法人の評議員や理事と創業家との属人的な関係、同法人の資産である議決権行使に契約上の制限が課されていないかどうか、といったところも問題になるかもしれません(ちなみに出光興産さんの定款をみると、種類株式は発行されていないようですね)。

日経新聞の論調は、2010年2月のキリンとサントリーの統合撤回のときとまったく同じ状況で、業界におけるシナジー効果が失われることへの懸念が示されています。しかし、私の個人的な意見としては、あのキリン・サントリー統合撤回のときに、当ブログのエントリーで(恥ずかしい経験談と共に)述べたのと同じく、創業家側の対応には共感いたします。勝ち負けのハッキリしていない上場会社の国策的統合は失敗する確率は極めて高いと思いますし、成功するとしてもそれは才覚や能力ではなく「神風(運)」に依拠するものと考えます(対立する中東の国と親密な関係にある2社に神風は吹くのでしょうか)。

時代の要請によって変容はしていますが「大家族主義」を貫いてここまで経営をされてきた出光さんは、「ここぞ」というときに創業家が経営に口を出すのがむしろ当然のことではないでしょうか。私の経験上、経営者にモノが言えない従業員に代わってモノを言う(言わねばならない)のが創業家です。「創業家の乱」などと見出しが躍っていますが、これも株主主権主義ではなく、労働者主権主義を重視した普通のコーポレートガバナンスの在り方のひとつだと考えます。企業風土が変わればビジネスの種を伸ばす土壌(ガバナンス)の在り方も変わるのがむしろ当然だと思います。

労働組合を作らない(会社は従業員の生活を保証するものであり、解雇もせず、給与は労働の対価ではない、との)出光さんの企業風土が、他の会社の風土と合うかどうか、それを最も判断できるのは(100年以上、この会社を経営してきた)創業家一族ではないでしょうか。そもそも創業者(佐一氏)が「財産と経営を一致させてこそ、会社は社会の公器としての責任を全うできる。株式会社など、いかがわしいものである。税務上しかたなく株式会社形態を採用しているにすぎない」と公言しておられた企業なので、その精神的支柱はいまも創業家にあると思います。創業家の支配力が単純に持株数だけではわからないということは、先日の大手流通グループさんやセコムさんの件でも明らかではないでしょうか。

(30日午後 追記)臨時報告書によると、28日の出光興産定時株主総会において、社長に対する取締役選任議案の賛成率は53%だったそうです。創業家側の保有比率を34%とみても、多くの株主が合併に反対していることがうかがわれます。創業家の精神的支柱、100年企業の社風というバランスシートに乗らない「無形資産」の持ち分保有者の声は大きいなぁと感じます。

6月 30, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (10) | トラックバック (0)

2016年6月22日 (水)

総会直前の取締役選任議案の撤回-「私がコーポレートガバナンスです!」

ソフトバンクさんの副社長退任に関するニュースには多くの方が驚かれたのではないでしょうか(私もビックリしました)。あと1年で社長の座を譲る・・・と言われてA氏は昨年、副社長に就任されたそうです。しかし、社長さんがいきなり「あと10年はやる」と宣言されて、結局おふたりの話し合いの末、副社長さんが取締役を退任されるとのこと。以上は日経ニュースによるところですが、おふたりに「よっぽどのこと」があったとみるのが自然ではないでしょうか。22日が株主総会なので、まさに総会直前の取締役選任議案の撤回ということだそうです。

このニュースはコーポレートガバナンス・コードにおける①サクセッションプラン(後継者育成計画)の実施、②独立社外取締役による取締役選解任への監督等へのコンプライに頭を悩ませておられた上場会社の社長さん方には思うところがあるのではないかと。いずれのコードにもコンプライしているソフトバンク社の社長さんが、後継者問題を副社長とふたりきりで決めた、俺のやりたいようにやらせてくれ、ということで(少なくともオモテ向きには)決まってしまうわけですから。取締役会における取締役の解任・選任への関与・・・というのはどこにも出てくる気配はありませんし、著名な経営者の方々が同社の社外取締役さんですが、おそらく(お忙しいでしょうから)「監督していた」という事実もなさそうです。

ソフトバンクさんは、2010年から後継者育成アカデミーを実施して、いわばガバナンス・コード実施企業として優等生とされていました(たとえば こちらのレポート参照)。しかしカリスマ経営者の方が1年後の社長交代予定を翻意して「やり残したことがあるから、あと10年は社長をやるぞ!」と言われますと、選抜候補者の方々は今、どんな思いでしょうかね?もちろんソフトバンクさんとしては、育成計画には何ら変更はないものと思いますが、このニュースを耳にした社長さん達からは「おお、優等生のソフトバンクだって、社長の一存で続投が決まっているではないか!そっか!いちおう後継者育成計画を策定・実施していると投資家には説明しておいて、いざとなったらソフトバンクさんのようにやっちゃえばいいんだ」といった安ど感が漂うような気がします。

日経ビジネスの今週号にエステーの鈴木会長の「指名委員会等設置会社にして後継者育成したけど、やっぱりトップは創業家になってしまいました」といったお話が出てきますが、ホントにサクセッションプランのむずかしさを感じます。創業家が中心にしっかりと座っているからこそ役職員が派閥も作らずに事業にまい進できるということも言えそうです。結果を出さねば投資家からはナットクされず、また事業を継続しなければステイクホルダーの信頼は得られないのですから、「私がこの会社のコーポレートガバナンスです」も十分あるかな・・・と感じます。ただ、(エステーの鈴木会長さんがおっしゃるように)人間は成功体験にこだわりますので、独裁に慣れて人が変わってしまったら安全装置が働くように、きちんとした独立社外取締役を選任しておくほうが望ましいのでしょうね。

6月 22, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (8) | トラックバック (0)

2016年6月 6日 (月)

ガバナンス・コードへの対応-取締役会に多数決原理は妥当するのか?

日経新聞では先週、「揺れる企業統治-私の見方」ということで、攻めのガバナンスの実効性について有識者の方々のご意見が掲載されていました。経営者、学者、投資家の立場から、様々な要望もあり、たいへん勉強になりました。

ご意見を拝読していて、最近、監査役会設置会社における任意の指名委員会が、経営トップの人事を揺るがすような具体的な事件が報じられましたので、社外取締役が機能している、攻めのガバナンスの効果が出始めている・・・といった意見が多かったように思います。しかし、実際に社外取締役として実務を経験したり、他の会社の取締役会運営等に携わる者として、私はやや別の意見を持ちました。それは、以下の二つの点です。

ひとつは「社外取締役は人事問題をできるだけ表面化させてはならない」ということです。ドンパチが表面化したことで、社外取締役が機能しているかどうかを判断するというのはナンセンスで、そもそも社外取締役が機能している会社では、ドンパチが始まる前に経営権問題を解決しています。もちろん「社外取締役の役割」からすれば、透明性・公正性に問題がないとは言いませんが、「お家騒動」「経営権争い」は第三者からみればおもしろいネタなので企業価値の低下につながりかねません。したがって、権限委譲は極力密行性をもって行われるべきであり、たとえ社内で派閥争いがあったとしても、世間にこれをさらすことなく、円満に委譲がなされることに社外取締役が活用されるのが本筋です。社外取締役が活躍した事件が多いから「機能している」というものではなく、むしろ社外取締役が機能しているかどうか外からわからない中で、実際は機能している例が多いのです。

もうひとつは、どんなに社外取締役ががんばっても、そもそも取締役会に多数決原理が妥当していなければヤマは動かないという点です。このたびの大手流通グループさんの重要子会社人事問題についても、指名委員会の果たした役割や無記名投票制度の是非が議論されていますが、私は連日、指名委員会の様子が(どういうわけか?)マスコミで報じられたことが最も大きなポイントだったと考えています。ほかの社内取締役さんにとって、「ああ、今度の取締役会は多数決原理が妥当するのだ」という認識を、その報道で知ったことから、カリスマ経営者の目の前で(安心して)反対票を投じたり、白票を投じることが可能になったからです。

会社法の条文からすれば、取締役会に多数決原理が妥当することはあたりまえです。しかし、上場会社の取締役会では、ほとんどの会社が全会一致を原則としているはずです。ある上場会社で「議事録に反対意見を書く取締役会など考えられない」と(事務局に)言われたこともあります。仮に社外取締役が反対意見をとなえれば、審議案件はいったん撤回され、時間をかけて社外取締役を説得し、とりあえず社外取締役も妥協をして最終的には議案が承認可決される、という流れが多いはずです。ガバナンス・コードでは、(取締役会の議論を活発化させるために)できるだけ社外取締役には事前に議案内容を説明すべきであるという要望事項がありますが、これも実際には「取締役会でいきなり反対されないための社外取締役への根回し」として活用されているのが現実です。

おそらく賛否両論あると思いますが、本当にガバナンス改革を「形式から実質」へとステージを上げるのであれば、私は「取締役会は反対意見を議事録に書くのがあたりまえ。そのかわり反対した取締役も、決定した事項については善管注意義務を尽くしてその執行や監督を行う」ということを実践することが求められているものと考えています。社内取締役が自由な意見を言える雰囲気を取締役会に持ち込むためには、まず社外取締役が、そのような雰囲気作りに貢献すべきです。

6月 6, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年5月17日 (火)

ロート製薬社の企業統治と執行役員制度の廃止

今朝(5月16日)の日経産業新聞に、ロート製薬さんが5月末をもって執行役員制度を廃止する、といった見出し記事が掲載されていました(ロート製薬さんといえばこの4月から社員の副業を容認したことが話題になりましたね)。HPにも「役員の異動と執行役員制度廃止に関するお知らせ」としてリリースされています。執行役員制度を廃止する理由としては、

①取締役の責任と権限を明確にするため、②経営の効率化、意思決定の迅速化を図るため、③執行役員という枠にこだわらず、全管理職が責任をもって機動的な業務執行を進めるため

とあります。大企業を中心に、執行役員制度は広く活用されていますので、ロート製薬さんの決断は今後話題になりそうです。サイバーエージェントの藤田社長さんも、2月の日経ブログにおいて、

「今に始まった話ではないが、日本の会社における執行役員という肩書きの使われ方は、実態として曖昧なものになってきていると感じる。執行役員が重要な業務執行の決定をしている場合もある。当社でも執行役員制度を廃止すべきかどうか、取締役会で真剣に議論をしたが、結局それなりのメリットがあると考えて残すことに決めた」

と語っておられました。

近時のコーポレートガバナンス改革の中で、いまホットな話題は取締役会の実効性評価ということになりますが、モニタリングモデルを標榜して「執行と監督の分離」を実質的にも検討しておられる企業が少しずつ増えています(金融機関を中心に指名委員会等設置会社に移行する企業も出てきました)。上記日経ブログで藤田さんがおっしゃるとおり、執行役員制度というのは、基本的には従業員ですが、社内的には役員待遇であり、すべての業務を網羅しているわけでもない、きわめて「あいまいな」役職です。会社法上にも執行役員なる概念は存在しません。

とくに業務執行取締役が存在する場合に(社内取締役の多くはそうですが)、その業務執行役員が重要な意思決定を執行役員に丸投げしているケースも多いはずです。機動性や柔軟性を重視すれば、執行役員はとても便利な役割を担ってくれますし、また取締役の地位に社外の人たちが増えてくると、社内の人事政策として、取締役に就任できなかった方々の昇格の道を確保できることにもなります(このあたりが大いに普及した要因ではないでしょうか)。

ただ、取締役改革の一環として「モニタリングモデル」の導入を考えますと、業務執行取締役に対して権限委譲が進むとになり、ますます柔軟性が増すことはあったとしても、その監督は極めて難しいことになります。また、権限の所在が不明となり、責任者の特定が困難となることも考えられます。このような不安を払しょくするために、ロート製薬さんは10年以上続いた執行役員制度を廃止することに決めたのではないでしょうか。一方で、たとえば後継者育成計画の中で、比較的若くて将来性豊かな社員を執行役員に抜擢して、ほかの若手と競わせてマネジメント能力を高めさせるためには必要な役職ではないか、との意見もあります。

これまで、日本企業の人事政策にマッチしたものとして「執行役員制度」や「従業員兼務取締役」といった地位が多くの企業で活用されています。しかしそのような制度が執行と監督の分離や権限委譲による経営の迅速性、効率性強化の方向性と合致しているのかどうか、外からはよくわからないものです。取締役会改革を本気で進めるのであれば、なぜこのような制度を残す必要があるのか、また標榜しているモニタリングモデルの機関形態と、その制度が矛盾しないのか、ロート製薬さんの決断をみておりますと、外から質問を受けた場合には、合理的に説明ができるように準備をしておく必要があるように思います。

さらに取締役会改革に注目が集まる中で、執行役員制度を活用するのであれば、会社法上の内部統制(効率的な職務執行体制を確保するための基本方針)の事業報告における開示として、①当社が執行役員制度を採用していること、②執行役員への業務執行権限委譲と取締役会の監督との関連性、そして③それらの運用状況を記載する必要があると考えます(場合によっては総会での質問にも回答する必要があるかもしれません)。

5月 17, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (8) | トラックバック (0)

2016年3月 7日 (月)

コーポレートガバナンス・コードとクックパッド社監査報告書の「両成敗でいいじゃない」

すでにいろいろなネットメディアで話題になっておりますクックパッド社(2193)の監査報告書ですが、ひさびさの「モノ言う監査役の乱」シリーズ(正確には同社は指名委員会等設置会社なので監査委員の乱、ということですが)にふさわしい内容です。(当該監査報告書が掲載されているクックパッド社第12回定時株主総会招集通知はこちら)。

ご承知のとおり、昨年末から今年2月初めにかけて、同社経営陣による支配権争いが表面化したわけですが、紛争勃発から手打ちまでの舞台裏を、同社社外取締役監査委員が(後発事象としてではありますが)が明らかにして、一連のゴタゴタに関する法的評価を下しておられます(監査役の有事対応を考えるにあたっても非常に参考になります)。ちなみに指名委員会等設置会社の監査委員会は組織的監査を行いますので、監査委員ひとりひとりが独任制の機関ではございません。ただ、監査委員会としての報告の中で、おひとりの監査委員(たいへん有名な法律家の方)が「補足意見」を述べおられ、その「補足意見」がなかなかに読みごたえがあります。私が同じ監査委員の立場であればどのような対応をしただろうかと、真剣に悩む事例です。

コーポレートガバナンス・コード原則4-4、同4-5は、上場会社の監査役等に対してボードの監督機能の一翼を担うべきことを要請しており、これにコンプライする上場会社の監査役等は、積極的・能動的に権限を行使し、また経営判断の妥当性についても能動的に意見を表明することが求められます。この監査委員の補足意見のように、たとえ違法とは言えないまでも、取締役の職務執行の妥当性に問題あり、と考える監査役等は積極的に意見表明を行うことが投資家の議決権行使にとっては有益と考えられます(だからこそ、このたびのコード4-4、4-5にコンプライすることを表明しながら、社外取締役と社外監査役に報酬の差を設けている上場会社に対しては、私はその報酬の差が存在する理由を明確に株主総会で説明していただきたいと考えるところです)。

クックパッド社は、指名委員会等設置会社の機関形態を選択していますので、指名委員会、報酬委員会は必要的機関(設置が強制される機関)です。取締役候補者の人選にあたっては、社外取締役が過半数を占める指名委員会において実質的な決定がなされる必要があるわけです。私は同社の内部事情は存じ上げませんので、このような監査報告がなされた背景には社内力学が働いている可能性も否定できません。しかし、この監査報告書(補足意見)で述べられている経営権争いの「和解」として、総会上程議案とされた取締役候補者が決定された経緯が真実であるならば、同社の指名委員会の権限は経営陣によって完全に無視されたこととなり、会社法違反の疑いも浮上するのではないでしょうか。監査委員のおひとりが、43%の株式を保有する創業者取締役の対応に厳しい法的意見を述べつつも、最終的には現経営陣も含めた「両成敗」の形で双方に警告を発しているのは、やはりコーポレートガバナンス・コードを実施する上場会社が、取締役会の実効性を全く無視した形でこのような紛争を解決したことを問題視したからだと推察いたします。

もちろん社外取締役が中心となる指名委員会及び有事対応として構成された特別委員会の判断が大株主の意向に沿わない場合には、最終的には取締役交代ということで判断が覆されることは予想されます。したがって指名委員会においても、大株主の意向が企業価値向上や少数株主保護の見地から妥当ではないと思いつつも、紛争の長期化を回避して企業価値の毀損を防ぐために「グッと飲みこむ」こともやむをえないところがあります。しかし少数株主保護の見地から妥当ではないと考えるのであれば、ガバナンス・コード原則4-3(取締役会による支配株主等関連当事者との利益相反の管理)、同4-7(社外取締役による支配株主と取締役との利益相反に関する監視・監督)に従った行動が各取締役に求められるはずです。これらの原則にコンプライしている以上、はたして各取締役がコードに沿った行動をとっていたと評価できるのか、一般株主に判断してもらうためにも、監査委員はこのような一連の事実経過を情報として株主に提供をすべきであり、後は一般株主との対話や議決権行使に委ねるべきものと考えられます。

ところで、この監査報告(補足意見)を読みますと、当該監査委員は、今回退任を予定してキビシイ意見を述べておられるものの現経営陣、創業者取締役いずれに対しても、株主代表訴訟等にならないように・・・との愛情を感じるのは私だけでしょうか。ここまでゴタゴタの内幕を明らかにしたのはこういった支配権争いが表面化した場合には、法的責任ではなく経営責任によって解決されるべき、との監査委員の判断があったのかもしれません。コード補充原則1-2では、上場会社は株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適格に提供すべき、と規定されています。取締役(取締役会)がこのような情報を提供していないと判断した監査役等としては、コード原則4-4における受託者責任を尽くすためにも監査報告を積極的に活用しなければならないと考えます。有事に直面した監査担当役員の身の処し方として、クックパッド社の実例は実務上参考になるものと思いました。

3月 7, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年2月19日 (金)

金融庁SSC・CGCフォローアップ会議意見書への雑感

本日(2月18日)、金融庁に設置された「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンスコードのフォローアップ会議」から、「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会の在り方」と題する意見書が公表されました。上場会社のガバナンスコードへの対応状況を踏まえ、形式ではなく実効的なガバナンスを実現するために、現時点で重要と考えられる視点を示したもの、とされています。今回はとりわけ取締役会のあり方に重点を置いた内容になっています。

CEOの選任・解任のあり方、取締役会の構成、取締役会の運営、取締役会の実効性評価等、企業の不断の努力(PDCA)が必要と思われる内容についてはそのとおりかとは思うのですが、内容的にやや不満なのは監査役の取締役会における役割が全く示されていないところです。

ガバナンスコードでは、監査役は「守り」に徹することなく、取締役会において積極的に意見を述べるべきであるとされ、「攻めのガバナンス」への貢献が期待されています。このコードにコンプライしている企業が圧倒的に多いのですが、監査役の貢献は「現時点では重要ではない」ということでしょうか?それとも次の意見書でとりまとめられる、ということでしょうか?どこの上場企業にも社外監査役が2名以上存在するにもかかわらず、またコード2-4では(持続的成長のために)多様な意見を確保すべき、とされているにもかかわらず、社外監査役の有効活用がまったく取締役会のあり方において触れられていないのは疑問に感じます。

監査役は取締役会において監督機能を果たすべき、とガバナンスコードでは謳われている一方で、独立社外取締役は増え続け、監査等委員会設置会社も増加傾向にある今。そのような今だからこそ、各企業が監査機能をどれだけ重視しているか(軽視しているか)を株主が確認する指標としては、以下のような質問を(経営者に)投げかけることも一案です。

ひとつは社外取締役と社外監査役との報酬の差です。株主総会招集通知の添付資料を読むと、おおよそ差がわかりますので、「社外取締役と社外監査役との、この報酬の差はどこにあるのか、説明してほしい」と質問することです。

二つ目は監査等委員会設置会社に移行した会社の場合には、「これまでの社外監査役の報酬と、社外の取締役監査等委員との報酬がほぼ同じである理由はどこにあるのか?」と質問することです。

そして最後に常勤監査役さんには、「御社は今年の日本監査役協会監査基準の大幅な改訂に対して、どのように社内監査基準を改訂したのか?」と質問すべきです。改訂した企業、そうでない企業様々ですが、いずれであれ監査役さんの自信に満ちた理由を聞くことができれば、その会社の監査環境の整備状況がわかります。

これらの質問は、いずれも個々の上場会社の経営者が監査役監査の重要性をどのように考えているか、ひいては監査法人による監査(つまりは株主に対する情報開示の重要性)をどれだけ重視しているかを理解する糸口になるはずです。

私自身、社外取締役として取締役会議長を務め、任意の委員会の委員を務める経験からしますと、たしかに業績向上を後押しする重責を(社外取締役が)担っていることは否定しません。しかし、企業がスピード経営重視で儲けるためには常に「不祥事の芽」を抱えざるを得ないわけですから、行く先に光を照らす役割を務める監査役をどのように攻めのガバナンスに活かすか、これからとても重要に思えるのです。制度対応(外向き)ではなく、ガバナンスの実効性を高めるという視点でいえば、まさに外向きには説明しにくい「監査役」の活用こそ競争力向上のカギになると思います。

2月 19, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月12日 (火)

実践して初めてわかる「取締役会の実効性評価」のむずかしさ

コーポレートガバナンス・コードへの対応として、どこの上場会社も苦慮されているのが取締役会評価制度ではないでしょうか。私も某上場会社の取締役会の実効性分析・評価に携わっておりますが、実際にやってみるとむずかしいですね。以下、個社事情は含まず一般的なモノ言いしかできませんが・・・

取締役会が長期戦略ビジョンを共有し、数値目標を共有していたとしても、現状からその目標に至るまでのビジネスモデルを考えますと、どうしても現状の「改善」(これまでの成功体験の延長線上の方法)によって達成しようと考えてしまい、「改革」による達成まではなかなか思いが至らない。その結果、目標達成の実現可能性は将来の経営環境の見通し次第ということになってしまう。

オペレーション能力よりもマネジメント能力、つまり「引き算」による資源集中やM&Aの発想も必要ですが、自社の強みを再確認して「改革」につなげることにどれだけ取締役会が機能しているかを評価しなければいけない。また独立社外取締役が、経営推進に役立っているのか、監督に役立っているのか、それとも全く役に立っていないのか(あるいは有害になってはいないか)、冷静に自己分析・評価をしなければいけない。

スピード経営が競争上欠かせないのであれば権限委譲もまた不可欠ですが、権限委譲の前提は「責任と権限の明確化」を図ることです。取締役会における意思決定はボトムアップ型なのかトップダウン型なのか。「なんとなくみんなで決めたから経営判断の責任があいまい」な取締役会では、いくら権限委譲型にしたところで全く監督機能は実効性がなく、かえって不正の温床になってしまいます。

評価結果の概要は対外的に開示することになりますが、評価ポイントをどこに置くのか、そのポイントについて検討すべき課題はどこにあるのか。対外的に上手に説明できて投資価値が上がったとしても、取締役会の機能が対内的に真の競争力の向上(期待価値の向上)につながらないと意味がないわけです。

自社が目指す取締役会の在り方自体が、100社あれば100社違うわけですから、この取締役会評価というのは経営陣が必ず自身でやるべきであり外注はできない性質の職務ではないかと思います(もちろん自社の競争力向上のためではなく、ガバナンスコードなる制度対応のため、ということであれば別ですが)。そもそも投資家と経営者とのコミュニケーションが良好な会社であれば、開示すべきは評価結果よりも「株主との対話」の「たたき台」となる短所と長所(評価すべき点と不足している点)ではないかと考えるようになりました。

1月 12, 2016 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (3) | トラックバック (0)

2015年9月15日 (火)

投資家フォーラム報告書とコーポレートガバナンス・コードへの対応

お二人の法務ご担当者の方から教えていただいたのですが、9月11日にリリースされました投資家フォーラムさんの第1回、第2回会合報告書におきまして、私が社外取締役を務めている大東建託のコーポレートガバナンス・コードへの対応が高い評価をいただいたようです。取り上げていただいた箇所は4つありますが、73項目すべてについて報告書でコンプライとエクスプレインの内容を開示している点(コンプライ&エクスプレインの姿勢)、議決権行使基準や政策保有基準について、他社ではあいまいにコンプライしているように書かれている点について、「当社はコードに従わない」と明言したうえでエクスプレインしている点、例外なしに役員の60歳定年制を貫いて経営の透明性を図っている点(どのような肩書でも会社には残らない)が評価の対象とのこと(どうもありがとうございます)。

ガバナンス・コード対応のための報告書策定については、社長をはじめ多くの社内役員、社外役員が関与しましたので、このように機関投資家の方々のフォーラムにて高い評価をいただくことは、正直とてもうれしいですし、今後の励みになります。とりわけ5月14日の拙ブログエントリー「東証規則に組み込まれたガバナンス・コードに関する素朴な疑問」でも述べましたように、コードがプリンシプル・ベースで示されていることから、どうしてもコードの解釈には幅が生じます。したがって(客観的にはコードに従っていないと思われる場合でも)自社に都合のよいように解釈して「コンプライしている」と判断すれば、東証規則違反であっても開示されていない状況が生じます。私は「コードはコンプライすることが原則ではなく、従わなくてもエクスプレインすればよい、逃げずに開示すればよい」と考えていました。大東建託でも、その趣旨が貫かれていますが、これを評価いただいていることは「株主との対話」に積極的な姿勢が受け容れてもらえたものと理解しております。

なお、他社の事例でぜひとも見習いたいのは花王さんの「取締役会全体の実効性に関する分析・評価とその結果の公表」です。ガバナンス・コードの原則(補充原則)を基に、分析・評価のための4つの視点を掲示し、社外取締役の具体的な行動も含め、その評価結果を詳細に開示されています。さらに特筆すべき点として、花王さんはすでにガバナンス報告書を6月1日以降、更新してブラッシュアップしており、ガバナンスへの取組における「運用面」をすでにアピールされているところです。やっつけ仕事ではなく、整備+運用が大切というコーポレートガバナンス向上への姿勢はぜひとも見習いたいものです。また亀田製菓さんのように(ツッコミどころはありそうですが)、自分の頭で素直に考えたエクスプレインも機関投資家の方々には好評なのですね(なるほど・・・)。

もちろんこの報告書にも記載されているとおり、コーポレートガバナンス・コードへの対応は形として整備して開示するだけでは「株主との対話」には有益であったとしても自社の企業価値向上には役立ちません。役立たせるためには、これを社内で具体的な行動に落とし込む工夫が必要です。花王さん同様、コード対応のガバナンス報告書は常に運用状況を対外的に示し、中長期の企業価値向上に向けた取り組みを図るためのインセンティブとして活用しなければならないと考えています。上場会社の社内・社外の取締役、監査役が、外向けに取り組むのではなく、内向きに(前向きに?)取り組むことが必要だと思います。

9月 15, 2015 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年6月30日 (火)

取締役会評価制度と「コーポレート・ガバナンスの基本方針」との関連性

今朝(6月29日)の日経法務面ではコーポレートガバナンスに関連する話題がふたつほど取り上げられており、社外取締役が増員される取締役会において「執行と監督の分離」が推進されている現状が紹介されていました。最近のガバナンス改革の中で、よく「執行と監督の分離」という言葉が使われ始めましたが、では「執行と監督」とはどのような意味でしょうか?また「分離」とはどういった状態を表現しているのでしょうか?なんだか「バブル崩壊」や「リーマンショック」のように、自分に都合のよいようにイメージ化してしまって、議論を思考停止の状況に陥らせてしまう風潮が心配されます。「執行と監督の分離」と聞こえはいいかもしれませんが、何も起こらない平時においては、社外取締役はとくに何もしなくても「監督している」といえそうな気もいたします。つまり「監督」の内容次第では社外役員の不作為を正当化してしまう(ごまかしてしまう?)のではないでしょうか。

日本の会社法が取締役に職務として求めているのは、他の取締役の職務執行の監督と重要な意思決定への参加です。したがって「監督」といっても監視義務を尽くすことだけではなく、社長の業績を評価することや重要事項についての意思決定に参加することも含めて「監督」という意味だと思われます。しかしそうすると「分離」という意味がおかしくなりそうですね。私はこのあたりがガバナンス・コードがプリンシプル・ベースの指針である、としたことの妙だと思います。

上記日経新聞で取り上げられていた「取締役会評価制度」についてもガバナンス・コードに示されており、取締役らは取締役会の実効性を評価・分析すべしとされています。アメリカでは取引所ルールで制度化されていることもあり、9割以上の上場会社で取締役会評価制度がすでに実施されています。ラム・チャワン氏の好著「取締役会の仕事」(日本語版は日経BP社)でも紹介されているように、いま取締役(会)と経営陣との関係は急速に変化しており、以前は「監視義務を尽くす」ことが取締役会の仕事とされていたのですが、現在は意思決定のパートナーや会社をリードする役割を担うべき存在とされています。つまり取締役会には株主の代理人として経営陣を監視するだけでなく、経営陣と取締役が協力しながら決定する分野、取締役会が率先して判断しなければならない分野、逆に経営陣に任せるべきであり関与してはいけない分野があり、その構成員である取締役は、これを意識して仕事をしなければならないとされています。日本の会社法の条文とも整合性のある考え方かと思います。

そう考えますと、取締役会評価制度というものを採用する場合、まず自社がどのような取締役会の在り方を標榜するのか、これを掲げる必要があると考えます。これはおそらく「コーポレートガバナンスの基本的な考え方」として(ガバナンス報告書や自社HP等で)開示されるのではないでしょうか。ビジネスモデルは各社違うわけであり、単純なビジネスモデルの会社もあればグローバル展開や他業種を抱える等複雑化したビジネスモデルの会社もあります。儲けが出るまで時間を要する会社、業務執行を兼ねる社内取締役が大半を占める会社、またBtoBとBtoCの会社でも違うと思います。

そういった自社のビジネスモデルに合わせて、経営陣と取締役会との関係をどう構築することが理想なのか、どのような領域は取締役会がリードして、どのような領域は協力するのか、それを「基本的な考え方」で示して、その理想と現実とのギャップを測定することが「取締役会評価」ではないかと考えています。だからこそプリンシプル・ベースであり、自己評価でも足りるのではないでしょうか。(※1)また、このようなことを明確に決めておかないと社内取締役は今まで通り「監督」には無関心となり、また社外取締役は不作為を正当化して株主の負託に応えられない懸念が生じます。つまり「わが社における『監督』という意味は、個々の取締役がこのような役割を担い、このような分野は経営執行部に権限を委譲して、その業績の評価のみを行うことである」と株主に示す必要があり、その結果として取締役会の評価が意味を持つようになるはずです。このたびのガバナンス改革が、本当に「執行と監督の分離」を目指しているのであれば、また多くのガバナンス・コードに日本の上場会社がコンプライするのであれば、社内取締役も意識を変えなければなりませんし、またそのような「業務執行社内取締役」の意識改革を促すことも社外取締役の重要な使命だと考えています。

※1・・・取締役会評価について「第三者機関を活用した評価」がなされる例が英国を中心に行われています(ちなみに英国では2002年にコードが実施されています)。しかし誤解されているようですが、この「第三者機関を活用した取締役会評価」というのは、会社の自己評価をサポートする、もしくは自己評価の開示の正確性を担保するという意味で第三者が関与する制度であり、第三者機関が独自のモノサシを持っていて、「御社の取締役会は○○点です。ここが良い点でここが悪い点です」などと第三者が独自に評価する機関ではないそうです。これは私が理事を務めているコーポレートガバナンス・ネットワークの5月の研修において、英国の第三者評価機関のリーディングカンパニーの方をお招きしたのですが、その講演において明確に述べておられました。したがって上記のとおり、自社による取締役会評価の手法をきちんと確立することが大切だと思います。

6月 30, 2015 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年6月 1日 (月)

大東建託、コーポレートガバナンス・コードへの対応を公表

あらかじめ申し添えますが、本日のエントリーにおきまして、意見にわたる部分は私個人の見解でありまして、私が所属する法人の見解ではございませんので、よろしくお願いいたします。

さて、私が社外取締役を務めております大東建託株式会社は、本日(6月1日)、東京証券取引所にコーポレートガバナンス報告書を提出し、コーポレートガバナンス・コードへの73項目対応について公表いたします(こちらの大東建託のHPをご覧ください)。ご承知のとおり、6月1日より、全上場会社にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始されます(東証有価証券上場規程445条の3)。大東建託は、社会的課題を解決しつつ、持続的成長による企業価値の向上を目指して、よりよいコーポレートガバナンスの構築に努力しておりますが、その取り組みを社内・社外のステークホルダーに公表いたします。

ご覧いただければおわかりのとおり、東証ルールが求めるものは「コンプライ・オア・エクスプレイン」によるコードの尊重ですが、大東建託はガバナンス・コードへの制度対応だけでなく、「執行と監督の分離による取締役会の機能強化」というモニタリングモデルをより高いレベルで実現できるよう、73項目への対応すべてを開示(公表)する「コンプライ・アンド・エクスプレイン」として、社内的にも本コードを活用できるようにしています。私自身も全役員がコーポレートガバナンスの基本方針に関する認識を共有し、うわべだけのコンプライにならないよう、この方法が適切だと考えています。

また、「株主との対話」では、スモールミーティングであれラージミーティングであれ、中期経営計画の実行(達成)可能性を判断すべき諸要素が現実的なテーマになると思いますが、ガバナンスへの取り組みも、そのような(実行可能性を高める)諸要素のひとつになるものと考えています。そこで、株主の皆様へコード全項目への取り組み内容をあらかじめ「情報開示」させていただき、その内容を株主の皆様に認識してもらい、関心のある項目について対話のテーマに選択していたくことが大切だと思います。

73項目の中には「この原則にはコンプライしません」と公表し、その理由を説明している項目もかなりあります。エクスプレインの中身としては、当社の現に実施している方策のほうが企業価値向上に資するから、と説明しているものもあれば、コンプライする方針なので、今後できるだけ速やかに対応します、とコミットしているものもあります。いずれにしましても、どこかの部署に丸投げして策定したものではなく、コードの解釈やエクスプレインの内容も含め、社長を中心に(我々社外取締役の意見も取り入れたうえで)コード対応への検討を重ねた結果です。もちろんコードの理解不足による不備もあるかもしれませんが、今後は取締役会、監査役会、株主を含めたステークホルダーの皆様の意見をもとに、よりよいものに改善していければと思います。(私は業務執行まではできませんが、今後とも、改善に向けた意見を述べていきたいと思います)。

6月 1, 2015 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年5月29日 (金)

コーポレートガバナンス・コードが大王VS北越紀州バトルに及ぼす影響

子会社出向社員による24億円の業務上横領事件、子会社統合破談に関する三菱製紙社への損害賠償請求等、いろいろと騒動が勃発している北越紀州製紙社ですが、本日は、さらにもうひとつの騒動に関するお話です。5月27日の朝日新聞ニュースによりますと、大王製紙社の6月総会において、筆頭株主である北越紀州製紙社(21%保有)が、大王製紙社現社長の再任議案に反対する方針を固めたそうです。反対理由は、6月1日適用開始の企業統治指針に基づく、というもの。「株主との対話に消極的な点が、上場会社の経営者として問題」と判断されたようです。

北越紀州側が、「株主との対話に消極的である」として否決票を投じることは、コード原則1-4(いわゆる政策保有株式)に忠実な行動といえるのかもしれません。北越と大王は、それぞれ株式を持ち合っているので、北越紀州の機関投資家からすれば、原則1-4に従い対話に基づく(政策保有株式に関する)積極的な議決権行使を要求するところです。議決権行使の前提となる対話を大王側から拒否されたとなりますと、北越紀州としては「大王製紙の社長再任議案に否決票を投じる」ということに合理的な説明がつきます。

しかし一方で、大王製紙側にも対話を拒否したことに相応の理由が立ちそうな気がします。東洋経済社が伝えるところでは、北越紀州及び三菱製紙社の販売子会社統合の話が白紙に戻ったことについて、大王製紙側に何らかの関与があったとされ(本当のところはわかりませんが)、M&Aに関連する憶測が飛び交う状況の中で、両社トップのみによるスモールミーティングを開催するとなりますと、コード補充原則5-1②の(ⅴ)により、大王側のインサイダー情報を管理できる状況にないとして対話を拒否することもできそうです(また大王側としては、基本原則1による株主の平等性確保との関係にも配慮したものと言えそうです)。

かりに北越紀州側が大王製紙の社長さんに反対票を投じるとなりますと、今度は大王側においてコード補充原則1-1①が課題となります。同補充原則は、株主総会の議案について反対票が多かった場合には、その反対理由や原因の分析を行い、株主との対話の要否について検討を行うべきである、としています。大王側が、この補充原則をコンプライするのであれば、おそらく20%という数字は「反対票が多かった場合」になりますので、コードに従った行動が求められそうですね。

以上のお話は6月1日時点において、両社ともコードへの対応を公表した場合を前提としていますし、反対票を投じる原因となった真意については両社のこれまでの経緯があってのこととは思いますので、今後の両社の動向を予想したものではありません。ただ毎度申し上げますように、コーポレートガバナンス・コードはプリンシプルベースであり、法的拘束力がないので、コードに反する行動それ自体が法令違反というわけではありません。しかしながら株主総会自体が「建設的な対話の場」とされていますので、そこでの質疑応答には(両社とも)十分な配慮が必要かと思います。

「東証さん!、ほれ、あそこの会社は『コンプライしてます』なんて言ってますが、コンプライもエクスプレインもしてませんよ!明らかな上場規則違反なんで早く制裁発動してください!そうでないとマネする会社も出てきますし、なにより海外から市場の信認が得られなくなりますよ!」なんて、会社間紛争の具としてコードが活用されないことを祈ります(^^;

5月 29, 2015 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月14日 (木)

東証規則に組み込まれたガバナンス・コードに関する素朴な疑問

本日(5月13日)、日本取引所のHPに有価証券上場規程の改正案(6月1日版)が公表されました。ご承知のとおり、有識者会議で策定されたコーポレートガバナンス・コード原案が、原案のままの形で同規程445条の3に組み込まれ、いよいよ正式なコードとなりました。上場会社はすべて同規程445条の3に基づき、CGコードの精神・趣旨の尊重義務を負うことになります(ただし、制裁の対象となる「原則」の範囲については東証1部、2部会社とJDQやマザーズ上場会社との間では異なります)。

CGコード自体の実効性を担保するのは「株主との対話」によるところが大きいことは間違いないと思います。また、開示せよと規則が命じている項目を開示していないとか、コンプライしないにもかかわらず理由を何も開示していないとか、コンプライしているかのような虚偽の理由を開示した、ということであれば、これは東証ルールに違反しているので、東証の制裁措置が発動されることにより実効性が担保されることになります。

では、コードの解釈が原因で、そもそもコードを実施していないのにもかかわらず、会社側はコードを実施していると考えている場合にはどうなるのでしょうか?東証さんは「御社はコードを実施していないにもかかわらず、何も理由を開示していないではないか?東証ルール違反ではないか?」と質問したところ、会社側は「いやいや、うちは規程445条の3に従いコードの精神・趣旨を尊重してコードを解釈している。うちの解釈によれば、コードを実施しているのであるから理由を開示する必要はない」と反論するような場合です。開示規制なら別ですが、行為規制に関するコードについては、会社が本当にコードを実施しているのかどうかはわかりません。とりあえず解釈がグレーであれば、会社としてはコンプライしている「ふり」をして、なにか問題が生じたら「見解の相違である」として言い逃れをする・・・という戦法です。

たとえば原則2-4には女性の活躍促進というコードがありますが、これは開示が要求されているものではありません。しかし「当社は女性の活躍促進はしません」としてエクスプレインする会社もあまりないものと予想します。とりあえずコンプライするのですが、その活躍促進策というのが「これが活躍促進策?」と疑問を抱くようなものであったとしても、会社が「これはコードの趣旨からみて立派な促進策だ」と断固主張するようなケース。また、取締役会の審議の活性化に関する補充原則4-12①は取締役会で配布される資料は会日に十分先立って配布されるようにすることが定められていますが、「うちの会社では2日前でも十分」と考えれば、このコードにはコンプライしていると考えて何も開示しない、ということもありそうです。確信犯的な会社は東証ルールに基づいてペナルティが発動されることは当然としても、このように誠実そうに解釈を誤る・・・という対応へのコードの実効性担保はなかなかむずかしいのではないでしょうか。

スチュワードシップ研究会さんが、パブリック・コメント(10番)として「せっかくガバナンス・コードを作ったのだから、すべての項目についてコンプライしている会社についても、どのようにコンプライしているのか開示させるべきではないか」との意見を述べておられますが、本来はそうすべきではないかと私も思います。もちろん、上場会社の中には、自社HP等ですべてのコンプライの内容まで開示するところも出てくると思いますし、株主との対話において重要項目と考えるものだけでも東証ルールとは別に開示するところも出てくるはずです。しかしガバナンス・コードは基本的に「経営判断には踏み込まない」という原則で作られているようなので、そこは株主との個別の対話の中で明らかにされればよい、ということになるのでしょうね。先の「コードの解釈の相違」というものも、理屈では東証ルールに反するものではあっても、実質的には株主との対話によって実効性が確保される、ということになると思われます。

このように考えてみると、CGコードは上場会社のガバナンスの実効性を担保するだけでなく、スチュワードシップ・コードを遵守するアセットオーナーやアセットマネージャーの方々が、対話を通じて中長期の企業価値向上のために責任を分担してもらうためにも存在する、というところでしょうか。アセットオーナーが中長期的に株式を保有することまで求めるものではありませんが、ガバナンス改革が上場会社の中長期的な企業価値に結び付くものとして、これを促進させるための責任までは求める、というところかと。

5月 14, 2015 コーポレートガバナンス・コード | | コメント (0) | トラックバック (0)