2025年3月 5日 (水)

公益通報者保護法改正法案が国会へ提出されました

すでにニュースで報じられておりますが、本日(3月4日)、閣議決定を経て公益通報者保護法の改正法案が国会に提出されました(消費者庁HPより、概要や条文の新旧対照表がご覧になれます)。

検討会委員の立場で改正作業に携わった者としては感慨深いです。もちろん改正内容について100%満足しているわけではありませんが、施行されれば事業者の内部通報制度や内部告発(外部公益通報)への対応実務に与える影響は多大なものです。消費者庁長官だけでなく、消費者庁の担当職員の皆様の「早期改正」に向けての熱意がなければここまで来れなかった、というのが正直な感想です。

今後、国会で「積み残し」にならないように速やかに審議が行われ、今国会で改正法が成立すること、さらには指針のすみやかな改訂が行われることを願うばかりです。後半国会は重要法案が目白押しですし、与野党の審議が長引くことも予想されますので、廃案にならなければよいのですが。。。

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2025年1月27日 (月)

公益通報者保護法改正案の内容が明らかに(読売新聞ニュースより)

先週の一連のフジテレビ「ふてほど問題」についてはたくさんのコメントをいただき、ありがとうございました。ご質問の内容がむずかしかったり、現時点では将来予測が困難なこともあり、まだお返事ができておりませんが、気になったものについては追ってエントリーの中でご紹介させていただきます(以下本題です)。

1月26日の読売新聞ニュースでは「斎藤元彦知事のパワハラ疑惑・贈答品・内部告発への対応…大詰めの兵庫県議会百条委、焦点は3つ」という見出しで、私が百条委員会の参考人として述べた①3月の内部告発文書は「公益通報」に該当する旨の主張、および②通報者探しは法令違反に該当する旨の主張をとりあげていただいております。ちなみにFacebookやXなどでは「私が反省して意見を変えた」といった噂(?)も流れておりましたが、もちろん意見を変えたことは一切ありません(なぜそのような風説が流れるのか不思議でなりませんが)。

同じく26日の読売新聞ニュースでは「告発者を懲戒処分とした組織と個人に刑事罰、3000万円以下の罰金など…公益通報者保護法改正案」として、このたびの通常国会に上程される予定の公益通報者保護法改正案の内容が判明したことが報じられています。ざっと記事を読むかぎりでは刑事罰の内容(6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人重課3000万円)や行政処分に従わない場合の刑事罰新設の話が特筆すべき点です。ただ、石破首相の施政方針演説では(公益通報者保護法改正に関する)具体的な方針は述べられなかったので(会社法改正については触れておられましたね)、まだ本当に今国会で上程されるのかどうかはわからない…というのが私の現時点での意見です。

なお、改正法案の中身がさらに明らかになりましたら、また拙ブログでも解説させていただこうかと思っております。ただ、改正の重要項目が多岐にわたるため、企業実務にも大きな影響を与えることは間違いないはずです(なお実際にどのような影響が出るか・・・という点は改正法成立後に議論される「法定指針」の策定以降、ということになると思います)。

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2025年1月14日 (火)

東京女子医大事件と「公益通報者への不利益取扱い」

ご承知のとおり、東京女子医大元理事長が背任容疑で逮捕された、と報じられています。朝日新聞ニュースを読むと、捜査が難航していたときに第三者委員会の「一級建築士資格者への業務報酬」調査が突破口になったそうで、第三者委員会の存在意義も示された事件でしたね。

週刊文春の第一報記事が2023年4月ということなので、お二人の内部告発者が文春に公益通報(3号通報)を行って約2年。ようやく逮捕まで至ったということでしょうか。しかし残念なのは元理事長が内部監査室に命じて告発者探しを行い、公益通報者を特定したうえで退職に追い込んだそうです(内部資料を文春に提供しておられたようです)。自分の職を賭す覚悟がなければ外部公益通報ができない、という状況は早く是正すべきです。これほどガバナンスが機能しない組織であったとしても、その不正が糾弾される機会を得られたのは内部告発があったからとしか言いようがありません。

そういえばビッグモーター事件でも、告発者が「通報事実は私の勘違いでした」という念書を後日書かされた・・・ということがあったように記憶しています。告発者潰しが不正の早期発見・早期是正を困難にさせる、という事態は企業の品質自体を毀損します。改正公益通報者保護法を早期に成立させ、このような事例を少しでも減らせるように尽力したいです。

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2025年1月 7日 (火)

独禁法と公益通報者保護法との交錯(上杉論文)

金融・商事判例2025年1月1日号(1706号)の判例紹介では東京高裁判決令和6年8月7日「事業者が公益通報を『理由として』解雇や不利益取扱いを行ったものではないと判断された事例」の判決全文および原審判決(千葉地裁判決令和5年11月15日)が掲載されていました。法改正が予定されている「不利益な取扱いからの救済(立証責任の転換)」とも深い関わりのある論点への裁判所の判断が示されたこともあり、きちんと理解をしておきたいところです。結論においては妥当なものかもしれませんが、公益通報者保護法の条文解釈への司法上のアプローチとしてはかなり進展した判決になっています。

ところで、上記1月1日号では、上記高裁判決を前提として、上杉秋則氏(元公正取引委員会事務総長)のご論文も掲載されています。題名は少し長いですが「独禁法が示唆する公益通報者保護法改正の方向性と令和6年8月7日東京高裁判決の及ぼす影響」。公益通報者保護法と独禁法の交錯する時代の保護の在り方について上杉先生の見解を述べたものであり、公益通報者保護法の解釈に公正取引委員会の考え方を採り入れるという点で強く共感する内容です。「今日のように企業のコンプライアンス経営やガバナンス向上への要請が高まった時代には、公益通報者保護法は独禁法と並ぶ重要な地位が付与されるべき」とのお考えにより、独禁法と公益通報者保護法との交錯について検討を加えておられます。

先日ご紹介した東京大学(大学院)の松井智予教授の「企業不祥事の発見時における役員の義務と権利について」(法曹時報76巻10号)では「会社法と公益通報者保護法との分担や双方の存在が双方の解釈論に与える影響が未知数である」とのことで、具体的事例を題材として、いかなる影響があるかを論じておられました。著名な実務家や学者の方々が、公益通報者保護法と商事経済法との関係について深く研究していただけるということが、公益通報者保護法の今後の実務への浸透という意味においても大きな意義があると思います。

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2024年12月 5日 (木)

公益通報者保護制度検討会-高い「経団連の壁」だがそれよりも・・・

短めですが、1週間ぶりのブログ更新です。各メディアが伝える通り、公益通報者保護法の実効性検討会も終盤となりまして、最終報告書の全容が示されつつあります(たとえば産経ニュースはこちらです)。通報者への不利益処分に刑事罰が導入されることや民事紛争の際に立証責任が転換されること等を含めて、実務にも影響を及ぼす改正意見報告になります。

刑事罰導入の対象となる「不利益処分」については経済団体の強い意見もあって、(個人的には残念ですが)解雇、懲戒処分のみとなりそうであり、今回も経団連をはじめ、経済団体の方々のご意見が通りそうです。企業実務への影響の大きさを考えるとご意見はごもっともですが、本当に高いハードルですね。立法事実をさらに重ねなければ、この先に進むことはむずかしそうです。

昨日の検討会における私の発言も(日経ニュースにて)紹介されていますが、もうここまで来ますと一番の懸案事項は「報告書の改正要望を政府は真摯に受け止めて、改正法案を国会に上程してもらえるか」ということです(もう、自分の意見が盛り込まれなかったことを嘆く段階ではありません)。消費者庁の公益通報者保護法改正チーム(事務局)の皆様による多大な尽力でここまで来れたので、この努力をなんとか形にしたいと思います。

それにしても「法改正」というのは近くで眺めていると本当にむずかしい作業だと実感します。国会議員、他省庁、そして法制局の壁を乗り越えるための根回しが不可欠でして、理屈だけではなくて、改正に向けた「機運」とか、政治的背景とか、省庁間での「貸し借り」への配慮が必要ですね。あと「ここで法案を通さないと、もう一生変わらない」くらいの熱意がないと実現しないのかもしれません。

委員間でいろいろな意見の相違はありましたが「成果物を法案につなげたい」という気持ちは一緒です。ここからは、なんとか改正法成立までの難関を乗り越えるために、できるだけの協力をしたい、と思います。

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2024年11月 7日 (木)

「内部通報者への不利益取扱いに罰則導入」と言うけれど・・・

今朝(11月6日)の日経新聞1面では「内部通報者への不利益に罰則 消費者庁が導入案(人事面で保護)」との見出しで、公益通報者保護法の改正の方向性に関する報道がなされました。おそらく経済界では「ついに刑事罰導入!?」と、かなりショッキングな印象を持たれたように推察いたします。ちょうど、私も委員を務める公益通報者保護制度検討会(第6回)が6日に開催されましたので、現状について少しだけコメントをいたします(もちろん、私個人の意見です)。

検討会の様子は動画でライブ配信されていますので、すでにご覧になっておられる方もいらっしゃると思いますが、「公益通報を理由とする不利益取扱いに対する刑事罰の導入」については、ほぼ方向性が固まりつつあるのは事実です。ただ、対象となる公益通報の範囲をどうするか、という点では今後さらに詰める必要があります(これ結構難問でして、現時点で公益通報の対象とされる500本の法律違反行為の全てにおいて刑事罰が導入されるわけではありません)。

さらに私がもっとも疑問に思うのは、刑事罰の対象となる「不利益取扱い」の内容です。解雇、懲戒、減給等、不利益であることが明確で、かつ、労働者の職業人生や雇用への影響から不利益の程度が比較的大きいものに限定すべき、との意見が根強いという点です(上記日経新聞でもそのように想定されている、と報じられています)。山本座長が最後に「まだ、この点については委員間の意見の開きが大きい」と締めくくっておられましたが、私も(M委員の意見に同調する形で)モノ申しましたが、「通報したことへの不利益取扱い」の主流は人格権侵害と評価しうる程度の「ハラスメント」「退職勧奨」であり、これでは骨抜きにされてしまう(制裁条項の実効性が失われてしまう)可能性が高い。推進派として「やっと刑事罰が導入された」と喜んでいる場合ではないのです。検討会が終盤に来ている現在、もっとも重要なポイントであります。

本日、ニュースで大きく取り上げられているとおり、大阪の某私立大学の職員の方々のパワハラ事件の和解が成立しましたが(大学を運営する法人側が謝罪)、事件は8年前に起きたものです。「退職勧奨」しかも、学校法人側は第三者を活用した形で退職に追い込んでいたことが推測されます。このような案件を少しでもなくすための法改正、事業者への罰則導入ではないのでしょうか。罪刑法定主義の観点を考慮したとしても、事業者による「事実上の嫌がらせ」を罰則から除外することは大反対です。現行法上、すでに法12条に対応業務従事者による「正当な理由なく」通報者を特定しうる情報を漏えいした場合には刑事罰とする規定があるのですから、罪刑法定主義の観点を考慮しても、事実上の嫌がらせを刑事罰の対象とすることは可能と考えます。

※ ※ ※ ※ ※

かつて社外取締役をご一緒していた方(経営コンサルタント会社社長)が法制審議会委員として危険運転致死傷罪の改正に携わっていたころ(2018年)、法律家委員や法務省事務局(裁判官)は「理屈のうえでは到底無理」と苦笑していた法案が、最終的に通る過程を(現在進行形で)お聞きしておりました。もちろん内閣法制局の「高い壁」があることは重々承知しておりますが、改正を必要とする立法事実の積み重ねで壁を乗り越えることもできるように思います。本日H委員から「山口さんが提案してくれたから、くすぶっていた論点が明らかになりましたね」と言われ、(能力不足で)多少恥ずかしい思いをしても、改正の必要性が高いことを汗をかきながら表現することは大切だと実感しております。

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2024年9月 6日 (金)

兵庫県文書配布問題-百条委員会の参考人として供述しました。

兵庫県議会の文書問題調査特別委員会(百条委員会)に参考人として招致され、公益通報者保護法の観点から意見を陳述いたしました(当日の配布資料はこちらからご覧になれます)。もちろん私個人の意見ですが、本件に関する兵庫県執行部の言動には現行の公益通報者保護法の適用場面が認められると思料いたします。

委員長の記者会見では、百条委員会による結論は今年末までには出したい、とのこと。通報者がお亡くなりになるという痛ましい現実をみるに、あらためて公益通報者保護法が機能しなかった点については十分に検証していただきたいと思いますし、私自身もどうすれば公益通報者保護法が機能するのか、さらに考え、実行に移してまいります。通報者である元西播磨県民局長様には謹んで哀悼の意を表します。

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2024年7月 1日 (月)

国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会報告における公益通報者保護制度への提言

6月30日のNHKスペシャル「法医学者たちの知られざる世界」を視聴しました。日本には現在150名ほどの法医学の医師が警察等からの要請を受けて毎日多くの行政解剖・司法解剖を行っているのですが、予算も人も不足しているとのこと。法曹にとって耳の痛い話が多かったのですが、このままでは冤罪や事件逃し(事件を事故と誤認すること)が増えて、刑事司法の将来に暗い影を残すことになりそうです(ご興味のある方はNHKプラスで1週間以内であればご覧になれます)。以下本題。

6月26日、国連人権委員会「ビジネスと人権」作業部会は、同委員会に日本政府や企業の人権をめぐる取り組みについての調査結果を報告しました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。すでに消費者庁公益通報者保護制度検討会の資料でも一部明らかになっていましたが、このたびIMADR(国際人権NGO 反差別国際運動)のHPにて、日本の公益通報者保護制度の現状評価と今後への提言部分の仮訳が掲載されました。

第25項 2022 年 6 月に施行された 2020 年改正公益通報者保護法は、従業員 300 人以上の企業に内部告発制度の確立を義務付けるものであり、前向きな一歩である。しかし、より強力な保護と執行が必要である。(中略)作業部会は、保護の範囲が会社の取締役や退職後 1 年以内の従業員にまで拡大されたものの、同法における内部告発者の定義は依然として狭く、自営業者(俳優、アーティスト、テレビタレントなど)、請負業者、納入業者、さらにその弁護人や家族(内部告発者の承認を得て行動し、その同意に沿って内部告発者に代わり情報開示を行っている場合を除き)も、定義には含まれていないことに留意する。さらに、同法は報復を禁止しているが、社内ホットラインを設置していない企業や、内部告発者に報復を行った企業に対する刑事罰や行政罰は現在のところ存在しない。(中略)。作業部会は、消費者庁がその任務を効果的に遂行するために十分な資源と情報へのアクセスを確保することの重要性を強調する。内部告発が尊重される環境を醸成するためには、報復と闘い、告発者に報いる必要がある。(以下略)

第85項(提言vi) 公益通報者保護法の次回の見直しにおいて、自営業者、請負業者、供給業者、労働者の家族および弁護士への法の適用、内部告発者に報復する企業への制裁の確立、内部告発者への金銭的インセンティブまたは同様の報奨制度の提供など、内部告発者保護をさらに強化する

他にもホットラインの現状などが評価されていますが、重要な箇所は以上のとおりです。国連人権委員会作業部会としては、日本の公益通報者保護制度の現状評価として、通報者の範囲が狭いこと、通報者への不利益取扱いへの制裁規定・公益通報対応体制整備義務違反への制裁規定が存在しないこと、消費者庁が情報を集約する体制が不十分であること、内部告発へのインセンティブが薄いことを挙げています。

個人的には「内部告発者への金銭的インセンティブ」を制度化することへの国民的合意が(現状として)得られるものとは思えませんが、その他の提言については賛同するところであり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会でも改正に向けて無視できない提言ではないかと考えております。世間では「旧ジャニーズ事務所問題」への言及ばかりが報じられていますが、こういった公益通報者保護制度への言及についても光が当たればいいですね。

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2024年6月13日 (木)

「骨太の方針2024」と公益通報者保護法の改正プロセス

昨日(6月11日)、内閣府の令和6年第8回経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針 2024(原案)」、いわゆる「骨太の方針2024」の原案が公開されました。今後どの分野に国の人的・物的資源が配分されるのか、とても注目されるところですね。

この基本方針原案「6.幸せを実感できる包摂社会の実現 (2)安全・安心で心豊かな国民生活の実現」において「デジタル化等を踏まえ、2024年度内に、公益通報者保護制度の改革、消費生活相談DXの推進等を含め、新たな『消費者基本計画』を策定する。」との文言が盛り込まれました。つまり、来年公表予定の第5期消費者基本計画の中に、公益通報者保護制度の改革が盛り込まれる可能性が極めて高くなりました。

令和2年に消費者庁から公表された第4期基本計画では、令和2年に成立した前回の公益通報者保護法改正案が盛り込まれましたので、2025年に公表される第5期基本計画でも次の公益通報者保護法改正案が盛り込まれて実施に向けた工程が示されることになるものと思われます(ちなみに消費者基本計画は5年ごとに策定されます)。ということは、法改正は待ったなしで進むことが「骨太の方針」でも確認された、ということになります。前回の法改正は、突如自民党の「神風的後押し」から現実化したように記憶しておりますが、今回はきちんとしたプロセスが踏まれているようです。保護制度検討会委員の一人として、本当に身の引き締まる思いです。

なお公益通報者保護法改正とは関係ありませんが、上記「骨太の方針2024(原案)」において(自身の業務との関係で)気になった点としては①カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する、②金融機関における顧客本位の業務運営の確保、有価証券報告書の株主総会前の開示に向けた環境整備等のコーポレートガバナンス改革の実質化等を推進する、③事業承継及びM&Aの環境整備に取り組む。(中略)M&Aを円滑化するため、仲介事業者の手数料体系の開示を進める、あたりです。

とりわけ「事業承継及びM&Aの環境整備」というフレーズは様々な施策推進の目的として出てきますので、政府の重点項目と言えそうです。ついでながら「関西万博の推進」については、ほんの申し訳程度に5行だけ記されています(^^;)。これ以上のコメントは控えます。

 

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2024年5月31日 (金)

(追記あり)公益通報者保護法が大きく改正されると予想される理由

まず、本日述べるところは私個人の意見であり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会とは全く関係ないことを申し添えます。ということを前提で勝手な推測ではありますが、いくつかの理由によって次の公益通報者保護法の改正は小手先だけではなく、大きく改正されることが想定されるのではないかと考えております。

その理由の第一は、2019年のG20大阪サミットにおいて「効果的な公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則」がとりまとめられており(2019年G20japan 作成文書-日本仮訳から引用)、議長国である日本でも、そろそろこの原則を実施しなければならない時期にきている、という点です。ご承知の方も多いと思いますが、欧米ではEU指令に基づいて、2021年の時点では27か国中25か国が既にレベルの高い公益通報者保護法を国内法化しております。上記ハイレベル原則をまとめた議長国の威信にかけても、不利益処分への制裁(行為者、法人とも)、(通報者への処分が通報に基づくことに関する)立証責任転換、運用状況の社内周知徹底、公益通報体制整備義務違反への制裁あたりは改正される必要があるかと。

理由の第二は、この6月に国連人権委員会に正式に提出される(国連人権委員会作業部会作成による)「日本におけるビジネスと人権に関するレポート」の中で、日本企業の公益通報対応体制が不十分であり、労働者の人権侵害が憂慮されることが明記される、との情報があるからです。このレポートは、どうしても「旧ジャニーズ事務所問題」ばかりが注目されておりますが、それ以外にもビジネスと人権指導原則が十分に浸透していない原因として、内部通報制度が十分に機能していない点を指摘しているようです(正確には6月の正式版公表を待つ必要がありますが)。通報者に対する不利益処分、といった点は諸外国でも(行為者および法人への)刑事罰の適用がみられるところであり、国を挙げて諸外国との平仄をとる方向性に進むのではないかと推測いたします。すでに対応業務従事者への刑事罰規定が存在することから、日本でもそれほど抵抗感はないのでは・・・と。

そして理由の第三は経済団体の姿勢です。たとえば経団連は「選択的夫婦別姓制度」には積極的に賛成の立場にあり、人権問題にも是々非々で臨む姿勢をみせています。もちろん企業に負担となるような法改正にはなかなか賛同はしていただけないかもしれませんが、国際的に足並みをそろえるべき「ビジネスと人権」に関連する施策については、積極的に反対する、といった方向でもないのでは、と(完全な希望的観測ですが)。

※・・・5月29日の経団連講演に登壇された元最高裁判事の方は「経団連が選択的夫婦別姓の提言をするというのは、昔は想像できなかったこと。別姓を選択できるようになれば、女性の生き方や働き方に深く関わり、個の確立にもつながる。時代的に非常に重要なことだ」とコメントされています(5月31日追記)。

もちろん裁判例の集積や立法事実となる事件の集積なども認められるのですが、そのあたりは前回の改正に向けた検討でも賛否両論の議論がなされたところであり、大きな改正への決め手にはなりえなかったように思います。しかし世界的なESG潮流、とりわけ米国(各州法)も含めた公益通報者保護の観点から、せめて世界における「平均」くらいの通報者保護制度は国内法化する必要があるように感じております。

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