サントリーHD元会長の違法サプリメント疑惑やニデック経営陣の関与が疑われる会計不正事案など、また話題となりそうな不祥事が報道されています。いろいろブログで意見を述べたいのですが、諸事情ございまして(?)、取材に応じることもなく静観をしております。
さて、来年に施行が予定されている令和7年改正公益通報者保護法ですが、このところ多くの企業にお邪魔して「当該改正法が企業実務に及ぼす影響」について講演をさせていただいております。そして、本当にご質問が多い事項として真っ先に挙げられる項目が「グループ会社における公益通報対応体制整備義務」ですね。以下は、私の個人的な意見として書かせていただきます。
おそらく真剣に実務対応について検討している企業ほど企業集団としての内部統制(親会社側の公益通報対応およびグループ会社側の対応)について悩むことが多いと思いますし、これまであまり検討されてこなかった法律上の課題です。
そもそも「グループ内部通報制度」は、親会社から見ればソフトローの世界(法定指針の解説や経産省グループガバナンス・ガイドライン、ビジネスと人権に関するガイドライン、東証のガバナンス・コードなど)の話であり「企業集団内部統制を実践するうえでのベストプラクティス」を実践するか否か、という問題です。つまり広い裁量権を持つ経営判断の問題であり「(親会社役員の)善管注意義務違反」という概念があまり入る余地はありません(もちろん、グループ内部通報制度の存在を前提とした「イビデン最高裁判決」のように、「信義則上の義務」が法人としての親会社に発生するケースもありますが、ごく例外的な事例です)。
しかし「グループ内部通報制度」をグループ会社側からみればハードローの世界(公益通報者保護法対応)の話であり、仮にグループ内部通報制度が定められていて、親会社だけにグループ共通の内部通報窓口が設置されているケースでは、グループ会社(常用雇用者300名超)には(公益通報への)対応体制整備義務が重要な(法による強制力のある)内部統制の一環として要求されます。たとえばグループ会社自身の責任者を決定しなければならず、また、当該グループ会社の不正事実が親会社に通報されるケースを想定した場合、親会社の社員に対してグループ会社責任者から「対応業務従事者」を指定しなければなりません(つまりグループ会社社員が親会社社員に命令を下すことになります)。
とくに令和7年改正法では、対応業務従事者の指定義務違反には行政処分や刑事罰が科されることになりますので、グループ内部通報制度を運用しているグループ企業の場合、親会社の社員にとってはそれほど重い課題ではなくても、グループ会社社員にとっては重大問題が生じることになります(このあたりの課題は、これまであまり意識されてこなかったのでは?)。この「重大問題」は、令和7年改正法施行後は、通報を行ったグループ会社の社員自身が、「指定義務違反行為」だけを取り上げてさらに公益通報として2号通報、3号通報ができる、という点からみても「重大性」がおわかりになるかと。
さらには「対応体制」というのは「窓口対応」だけでなく、調査業務や是正措置も含む概念なので、たとえば親会社にグループ会社社員から公益通報がなされた場合、当該通報事実の調査や是正措置をグループ会社に任せるとなると、令和7年改正法が(法文上で)範囲外共有や通報者探索の禁止、通報妨害の禁止などを定めているので、果たしてどのように通報事実を調査し、是正措置を執って良いのか、かなり悩むケースも増えると思います。また、グループ会社の通報者(グループ会社社員)が本気になれば、親会社を含めた「公益通報対応体制整備義務」の違反を指摘できる機会が増えることになります(たとえば情報の範囲外共有違反、通報者探索禁止違反、通報妨害禁止違反を根拠に、親会社やグループ会社に「違反者の処分を要求する」等)。またグループ会社側としても濫用的通報に該当するかどうかの判断にも困難が生じることもあるでしょうね。
企業が自浄作用を発揮して、グループ全体の信用を守るためにはグループ内部通報制度を導入することをお勧めしますが、その際にはグループ内部通報指針(規程)の策定、グループ企業と親会社との合意書の作成等を通じて、グループ会社の役職員に過度な負担となるような運用を避ける対策が必要だと考えています。