まず、本日述べるところは私個人の意見であり、消費者庁の公益通報者保護制度検討会とは全く関係ないことを申し添えます。ということを前提で勝手な推測ではありますが、いくつかの理由によって次の公益通報者保護法の改正は小手先だけではなく、大きく改正されることが想定されるのではないかと考えております。
その理由の第一は、2019年のG20大阪サミットにおいて「効果的な公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則」がとりまとめられており(2019年G20japan 作成文書-日本仮訳から引用)、議長国である日本でも、そろそろこの原則を実施しなければならない時期にきている、という点です。ご承知の方も多いと思いますが、欧米ではEU指令に基づいて、2021年の時点では27か国中25か国が既にレベルの高い公益通報者保護法を国内法化しております。上記ハイレベル原則をまとめた議長国の威信にかけても、不利益処分への制裁(行為者、法人とも)、(通報者への処分が通報に基づくことに関する)立証責任転換、運用状況の社内周知徹底、公益通報体制整備義務違反への制裁あたりは改正される必要があるかと。
理由の第二は、この6月に国連人権委員会に正式に提出される(国連人権委員会作業部会作成による)「日本におけるビジネスと人権に関するレポート」の中で、日本企業の公益通報対応体制が不十分であり、労働者の人権侵害が憂慮されることが明記される、との情報があるからです。このレポートは、どうしても「旧ジャニーズ事務所問題」ばかりが注目されておりますが、それ以外にもビジネスと人権指導原則が十分に浸透していない原因として、内部通報制度が十分に機能していない点を指摘しているようです(正確には6月の正式版公表を待つ必要がありますが)。通報者に対する不利益処分、といった点は諸外国でも(行為者および法人への)刑事罰の適用がみられるところであり、国を挙げて諸外国との平仄をとる方向性に進むのではないかと推測いたします。すでに対応業務従事者への刑事罰規定が存在することから、日本でもそれほど抵抗感はないのでは・・・と。
そして理由の第三は経済団体の姿勢です。たとえば経団連は「選択的夫婦別姓制度」には積極的に賛成の立場にあり、人権問題にも是々非々で臨む姿勢をみせています。※もちろん企業に負担となるような法改正にはなかなか賛同はしていただけないかもしれませんが、国際的に足並みをそろえるべき「ビジネスと人権」に関連する施策については、積極的に反対する、といった方向でもないのでは、と(完全な希望的観測ですが)。
※・・・5月29日の経団連講演に登壇された元最高裁判事の方は「経団連が選択的夫婦別姓の提言をするというのは、昔は想像できなかったこと。別姓を選択できるようになれば、女性の生き方や働き方に深く関わり、個の確立にもつながる。時代的に非常に重要なことだ」とコメントされています(5月31日追記)。
もちろん裁判例の集積や立法事実となる事件の集積なども認められるのですが、そのあたりは前回の改正に向けた検討でも賛否両論の議論がなされたところであり、大きな改正への決め手にはなりえなかったように思います。しかし世界的なESG潮流、とりわけ米国(各州法)も含めた公益通報者保護の観点から、せめて世界における「平均」くらいの通報者保護制度は国内法化する必要があるように感じております。