2016年12月 9日 (金)

公益通報者保護制度-法改正に向けた第1ラウンド終了

夕刊各紙、テレビニュースで報じられておりますように、本日消費者庁の公益通報者保護制度実効性検討委員会の最終回(第14回)が開催されまして、公益通報者保護法の見直し提案に関する報告書が大筋でとりまとめられました(「大筋」というのは、細かな字句の修正等を座長一任として、後日正式案が公表される予定だからです)。

私も(恥ずかしながら)夕方のNHKニュースでドアップで映っていましたが、検討委員としての役目は本日終了しました。ちょうど3年前(2013年11月)、消費者庁の公益通報制度アドバイザーを拝命して以来、阿南氏、坂東氏、岡村氏(現任)の三長官のもとで実効性向上への施策作りをお手伝いさせていただきましたが、これで一応お役御免です。宇賀克也座長も「今回の提言をぜひとも法改正につなげてほしい」と会見で述べておられましたが、私もまったく同感です。

ただ、公益通報者保護法改正に向けた作業は第1ラウンドが終了したところであります。今後は経済団体や中小事業者団体、法務省や厚労省を含めた関係官庁、大臣や国会議員の方々に理解を求めていかなければ改正にはつながりません。まさにタフな第2ラウンドが控えているものと推察します。今後また大きな企業不祥事が発覚するような事態となれば、想定外のスピードで法改正が進んだり、個人情報保護法のように、消費者庁から新設委員会に管轄を移行する、ということも「政治家の一声」でありうると思います。いろいろな準備をしておく必要がありそうです。

なお、法改正ばかりが注目されていますが、本日(12月9日)、内部通報制度の実効性を高めるための民間事業者ガイドラインも11年ぶりに改訂され、消費者庁HPで公表されました(私も一部改訂作業に携わりました)。事業者の通報者に対する「不利益処分」とはいかなるものを含むのか、個別具体的に示す等、かなり詳細な内容になっております。とりわけ上場会社の皆様方は、ガバナンス・コードにおいても適切な内部通報制度の整備が要請されていますので、ぜひとも新しい民間事業者ガイドラインを参照いただき、今後の改訂等にお役立ていただければ幸いです。

最後になりますが、本日の朝日新聞夕刊の一面(東京版・大阪版とも)に私のコメントが掲載されていますので、その部分だけ引用させていただきます。

(内部通報制度に詳しい山口利昭弁護士の話)「内部通報制度は、パワハラなど労務上の問題については比較的機能しているが、重大な企業不正についてほとんど機能していない。制度があっても、社員の人たちがそれを信頼しておらず、通報したら報復にあうのではないかと疑い、萎縮しているからだ。まずは企業自身が、制度を機能させることにメリットがあると理解し、制度に対する社員の信頼を高めていくことが必要だ。」

もちろん委員の皆様の中には「内部通報制度が機能するというのは幻想にすぎない。マスコミや監督官庁のような第三者に情報を提供する内部告発者を保護することこそが企業不正撲滅には有効だ」と主張される方もいらっしゃいます。ただ私自身としては、内部通報制度を整備することが、社会の流れからみて企業にも大きなメリットがあることを、今後も広報していきたいと思います。消費者庁のみなさま、(ワーキンググループメンバーを含めた)委員のみなさま、いろいろとありがとうございました。

12月 9, 2016 公益通報者保護制度検討会WG | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年6月15日 (水)

公益通報者保護法実効性検討会WGのご報告

公益通報者保護法の法改正に向けた消費者庁の検討会WG(ワーキンググループ)の会合も今回が3回目となります。いよいよ、「公益通報事実」を広げるべきかどうか、公益通報者が会社から不利益取扱いを受けた場合の罰則をどうするか(行政措置のほか、刑事罰を設けるべきか)といった検討事項に入ってまいりました。傍聴にお越しの方はおわかりのとおり、このWGの議論は「予定調和」的な雰囲気はないですね。予想外の意見が予想外の委員から飛び出すこともありますね(おまえだろ!と言わないでくださいね・・・)

国民の生命、身体、財産の安全を確保するための法律への違反に限るのか?国益を保護する法律違反は含めないのか(たとえば世間で話題の政治資金規正法など、はたして公益通報事実に入るのか、入らないのか?もし入らないのであれば、入るような法律に改正すべきなのか-でもすでに刑法は入っていますし・・・)、法律違反に刑事罰が入っているものに限定する理由はあるのか?「法律」だけでなく「条例」で刑事罰が規定されているものは含めるべきかどうか?、あまり公益通報の範囲を広げすぎると、今度は刑事罰の前提となる不利益処分者の予見可能性が乏しくなり、憲法違反(罪刑法定主義)になるのではないか?・・・いろいろな課題が浮上します。

当ブログでコメントをいただいている方々の意見と同じ意見や、ちょっと違う意見等、私なりに発言をさせていただきましたが、またご興味のある方は(近々公開されます)議事録をご参照ください。今日は宇賀座長(東大教授)と升田委員(副座長-中央大教授)とのご議論もありましたが、座長も個人的なご発言をされるようになって、盛り上がりますね。みんな意見は違いますが、公益通報者保護法が消費者の利益にどうしたらつながるか・・・、最終目的に向けた気持ちの強さは同じだと思います。それにしても毎回、傍聴希望者の方は多いですね。

法律内部における条文間での整合性、他の法律との整合性への配慮、裁判例との関係整理、労働法や会社法、訴訟法実務とのバランス考慮、外国法の運用に関する分析、適切な立法事実の検証等、作業を進めてみると「法改正が必要」といった漠然とした希望だけではとても法改正に結び付かないことを痛切に感じます。ひとつひとつ、丁寧にクリアする作業がどうしても必要でして、当ブログのように勝手な自説を言い放つだけでは問題は解決しませんね(^^:こんな私でもなんとか国民生活のお役に立ちたい!企業のコンプライアンス経営を支援したい!という気持ちで、8月下旬くらいまで続く作業に携わってまいりたい所存です(また皆様方のお知恵をお貸しください)。

6月 15, 2016 公益通報者保護制度検討会WG | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年5月10日 (火)

下請従業員による不正告発と東亜建設社の自浄能力評価

内部通報指針が今夏にも改正される、との特集記事が日経法務インサイド(5月9日朝刊)で報じられていましたが、指針(ガイドライン)だけでなく、法改正によらなければ大企業の不正は明らかにならないのではないか・・・と考えさせる事件がまた発生しています。すでにご承知のとおり、5月6日、東証一部のゼネコン東亜建設工業さんは、羽田空港C滑走路の地盤改良工事で、液状化を防ぐ薬液の注入量データを改ざんして、設計どおりに完成したと虚偽の報告を行ったことを発表しました。二代にわたる東京支店長の方々が、「新開発工法による耐震工事に失敗は許されない」との社内論理を最優先して現場に偽装を指示していたとのこと(おふたりの人事更迭に関しては同社HPにて公表されています)。

ところで日経新聞ニュース他によると、この工事偽装が発覚した原因は、先月(4月)、二次下請業者が一次下請業者を通じて東亜建設さんに通報したことだそうで、4月21日には社長、25日には経営会議に報告されたそうです。一次下請業者による東亜建設さんの建設業法違反事実の(下請け事業者への)通報は、いわゆる公益通報者保護法上の公益通報にあたるものとして、通報者は一次下請会社から不利益処分を受けないことになっています。しかし、東亜建設さんが(通報を契機に)一次下請会社との契約を解消することは一切同法の関与しないことになっていますので、実際には(契約解消を覚悟の上で)二次下請業者の従業員の方が内部告発や内部通報に出ることはかなり勇気のいることだと思います。

公益通報者保護法は、事業者と従業員(労働者)との労務契約上の関係保護が原則であり、事業者間の契約関係には踏み込めません。これは民法上の契約自由の原則に国家権力が立ち入ることは不当な民事介入に該当するからです。しかしながら、下請法のように特別な社会政策的立法が存在すれば合理的な範囲で制限することも可能です。東亜建設さんの件は、(組織の強みからか)本体の社員は一切不正を社外に漏洩することはなかったので、おそらく下請業者さんの通報がなければ、国交省も国民も、とんでもない不正工事の隠ぺいの事実を知ることはできなかったものと思います。そのような意味では、取引先事業者も(発注会社との関係において)公益通報者に含め、一定の場合には民間取引の効力制限に国家が関与すべき例外を認めるべきではないでしょうか。

なお、最近のゼネコンさんは、今朝の日経新聞でも取り上げられていた内部通報者保護規程(ヘルプライン)において、取引業者従業員の方にも通報を認めているケースが増えてきましたので(ホームページ等で紹介されている会社も多いようです)、ひょっとすると東亜建設さんのヘルプライン規程に則って下請業者さんが内部通報をされたのかもしれません。もし、そのような経緯で経営陣が関与する偽装工事やその隠ぺいの事実が発覚、公表に至ったのであれば、それはそれで(ヘルプラインが機能したことになり)東亜建設さんの自浄作用が発揮されたと評価できる可能性もあります。本日の東亜建設さんの株価は不正の範囲の広がりが懸念されて急落していますが、不正発覚の経緯が調査委員会等による事実解明で明らかになれば、同社の自浄能力の有無に関する評価も可能になろうかと思います。

上記東亜建設さんの事件だけでなく、東芝さんや三菱自動車さんの件等、大きな企業不祥事が発生(発覚)するたびに、識者の方から「最後はトップのコンプライアンス意識」「経営トップの率先垂範が大切」と指摘されますが、私、最近の不正調査の経験等から「ちょっと違うのではないか」と感じているところです。経営トップの遵法精神は必要条件ではあっても十分条件にはならないですね。上記のようなフレーズは、もはや流行のキャッチフレーズ化してしまい、組織に思考停止をもたらし、本当の原因究明や再発防止策の実効性を妨げているように思います。そのあたりはまたセミナー等で詳細にお話したいと考えているところです。

5月 10, 2016 公益通報者保護制度検討会WG | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年4月28日 (木)

公益通報者保護制度WG第1回会合が開催されました

傍聴されておられた公益通報者さんからすでにコメントいただいておりますが、本日(4月28日)、消費者庁にて「公益通報者保護制度実効性検討委員会ワーキンググループ」の第1回会合が開催されました。東大の宇賀克也先生が座長に選任され、1回目は公益通報者の範囲を法律改正で拡大すべきかどうか、具体的に退職者、会社役員、取引事業者等を公益通報者に含めるべきかどうか検討いたしました。法律家委員が中心となる検討会でしたが(ご意見番の升田先生は他の委員会と重なりご欠席)、積極的な議論が交わされて私もおもしろかったです。板東長官も最後まで熱心に審議を見守っておられましたね。

議論の中身はまた正式な議事録が公表されますのでここでは控えますが、東大の田中亘先生や佐伯仁志先生にいろいろとお話が聴けたのは有意義でした(佐伯先生には終了後、会社法上の罰則規定や組織罰について質問させていただきました)。役員は公益通報者たりうるか・・・という議論の中で、(公益通報者さんもコメントで触れておられますが)田中教授の「取締役の職責」に関する考え方(利益追及と公益性確保の優先順位)はなかなか説得力がありました。私は現実の企業社会においては役員にも公益通報者としての地位を確保する必要性が高いとは思いますが、理屈の上でどう現行法の延長線上で認めてよいものか、いまひとつ合理的な説明ができないように思い、その旨発言させていただきました。

ところで昨日は日銀主催の金融機関向けセミナーにご招待いただき、慶應大学の池尾和人先生と初めてお会いしましたが、池尾先生の講演をお聴きした印象はジャパネットタカタの高田元社長によく似た話し方をされる人だなぁと(いや、そっくりかも)。話に熱が入ると声が急に高くなる(声が裏返る?)・・・ということなのでしょうかね。講演を拝聴したり、直接質問をさせていただき、ガバナンス・コードに関する新たな気付きをたくさんいただきました。金融庁CG・SCフォローアップ会議のメンバーでいらっしゃるエゴンゼンダーの佃社長のお話も、取締役会実効性評価についての基本的な考え方をお聴きできてとっても得した気分です。やっぱり策定に携わった方々の話を直接お聴きすることは有意義ですね。

さて、いよいよゴールデンウィークとなりますが、私は本業に専念させていただくため(関係者の方々からは「あたりまえだろ!」「ブログ書いてる場合じゃないだろ!」と言われそうですので)、5月9日ころまではブログ更新をお休みさせていただこうかと思っております(ひょっとしたら5月初めに一回だけ更新するかもしれませんが・・・)。みなさま、良い連休をお過ごしくださいませ。

4月 28, 2016 公益通報者保護制度検討会WG | | コメント (0) | トラックバック (0)