2018年12月11日 (火)

JICの取締役辞任問題-「ファンド」の仕事はアートである。

本日(12月10日)の日経夕刊トップ記事によりますと、産業革新投資機構(JIC)の社長ら9名の取締役の皆様が辞任をされるそうです。高額報酬の件、経営への行政関与の件などが端緒となって経産省とJIC経営陣との信頼関係が毀損されたものと報じられています。辞任を決意された社外取締役の方々のコメントがこちらに掲載されておりますが、約束を守らなかった経産省へのご批判が強く、なかなか厳しいご意見ばかりです。

私も今年6月まで約4年間、官民ファンド(大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社)の社外役員を務めていましたので、経産省とJICの対立について、守秘義務に反しない範囲で(私の個人的な)感想だけを述べたいと思います。

私も自分が官民ファンドの仕事をしていなければ「役員の基本報酬5,500万円は高いなぁ」と感じたと思います。ただ、ファンドの仕事は「引き受け仕事」ではなく、「モノを作る仕事」なのです。決して「モノ作りのお手伝いをする仕事」ではありません。それは伊藤忠ご出身の阪大ベンチャー初代社長の仕事ぶりをみていて痛感しました(恥ずかしながら、私の認識不足で関係者にご迷惑をかけたこともありました)。投資ファンドの仕事は、過去の経歴やスキルによって「国策を引き受ける」仕事ではなく、過去の経歴やスキルを参考にしながら「自ら仕事を作ることによって有望企業を世に生み出す」仕事だと認識しています。

ハンズオンによって人間関係を調整し、シーズから現実世界における利用可能性を発見し、その汎用性や流通可能なコスト低減の手法を生み出すという、総合力が必要とされる仕事だと思います。運がよければそこから上場を目指すことのできる(つまり投資回収を図ることができる)ビジネスが誕生するわけで、損を承知で試行錯誤を繰り返すことは不可欠です。また、結果にコミットしなければならない人たちが集まっていますので、職員の離合集散は激しく、これを束ねるプレイングマネージャーとしての中間幹部の人たちは激務です。ファンドのガバナンスということが言われますが、実際にはその運用はむずかしい。

経産省とJICは「投資事業という金融機能を活用し、将来の産業競争力を強化し、新事業を創出する」という理念を共有するとことでは一致していたものの、ファンドという仕事が「引き受ける仕事」なのか「作る仕事」なのか、という点において認識に不一致があったのではないでしょうか。アートに近い仕事なので、そもそも代替できる人を探すことは困難ですから高額報酬は当たり前ですし、アートに行政が関与するということであればファンド関係者が拒絶反応を示すことも当然ではないかと思います。また、アートであるがゆえに関係者の「情熱」が失われれば仕事は頓挫すると思います。今回の一件は、官民ファンドの性格を一定の枠に閉じ込めてしまうものであり、ファンドの「モノ作り」としての仕事を否定することにつながりかねないものと危惧します。

私は、経産省の上記理念自体を否定するつもりは全くありません。ただ、それであれば(ファンドによる投資事業にこだわることなく)企業が仮想通貨建てでお金を集めるような、いわゆるICOなどの最新資金調達方法のインフラを整備して、その普及を図るような政策を推進すべきではないかと。もしくは、今後も官民ファンドを産業競争力強化のために活用するのであれば、「国民の納得が得られない」などと言い訳をするのではなく、ファンドの仕事を国民に理解してもらえるように広く説明をすることから始めるべきではないでしょうか。

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2018年12月10日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-あらためて考える「法人起訴の重み」

(12月10日午後4時 最終更新)

12月7日の日経朝刊は、東京地検が有価証券報告書の虚偽記載(過少記載)立件にあたり、前会長を再逮捕する方針であること及び法人としての日産も金商法の両罰規定によって起訴する方針であることを報じました(8日の各紙も同様に報じています)。法人起訴の理由については「前会長の報酬隠しが悪質であることに鑑みて」とのことですが、前会長の再逮捕(直近3年度の報酬隠しに関する虚偽記載)も前提に法人を起訴するとなりますと、今後の本事件の展開を予測するにあたって様々な疑問が湧いてまいります。

まず東証の対応です。有価証券報告書の虚偽記載によって法人が起訴される事態となりますと、日産の株式は監理ポスト入りするのではないか・・・との疑問が湧きます。カネボウ、西武鉄道、オリンパス、ライブドアなど、虚偽記載もしくは不公正取引によって法人が起訴された場合には(1999年のヤクルト本社事件を除き)、すべて東証は当該法人の株式銘柄を監理ポストに移しています。

過去の「虚偽記載」を根拠とする法人起訴の案件では、いずれも虚偽記載が重要であると判断されたことから「上場廃止基準に抵触するおそれあり」として監理ポストへ移されたものと推測します。ということからしますと、検察が「重要事項に関する虚偽記載」と判断した以上、日産についても同様に取り扱うことが妥当であるように思えます。そこで、日産が上場廃止基準に抵触するおそれあり、として監理ポスト入りとするのかどうか、もし移さないのであればなぜしないのか、いずれにしても東証には合理的な説明が求められることになると思います。そもそも本件は課徴金処分の権限を持つ金融庁を飛び越えて、一気に刑事処分の起訴権限を持つ検察庁が動いたので、東証に影響を持つ金融庁が(開示規制違反による法人処罰という点について)どのように考えているのか、とても興味を抱くところです。

※更新・・・本日の日経ニュースによりますと、金融庁(証券取引等監視委員会)は日産の前会長ら2名と法人である日産を告訴した模様です。なお、前会長ら2名の再逮捕も伝えらえています。

つぎに監査法人の対応です。日産は12月下旬までに四半期報告書を提出することが予定されています。日産は正しい財務諸表が提出しなければならないわけですから、計上されていない未払い報酬を計上する(もしくは、どこかに紛れ込んでいた別項目の費用を修正する)ことになる可能性は高いと思います。そして、四半期報告書の提出と同時に過去の有価証券報告書に関する訂正報告書を提出することになります。これらの報告書に対して、EY監査法人さんは無限定結論(適正意見)を述べることになるはずです。

しかし、虚偽記載に関するルノーと日産との考え方が異なる場合、フランスのEY監査法人さんは日本のEY監査法人さんの意見をどのように評価するのでしょうか(そもそも日仏のEY監査法人間でなんらかの協議はなされているのでしょうか?)ルノーが日産の会計処理を認めない場合、同じグローバル監査ファームにおいて異なる意見が出されるような事態となるのでしょうか?東芝事件の際、日本のPwC監査法人さんと米国のPwC監査法人さんとの間で、意見の擦り合わせが非常にむずかしく、大きな課題を残しました(そのあたりから、有事における監査法人の情報提供の在り方が議論されるようになったのは、皆様ご承知のとおりです)。

そして最後に法人としての日産の対応です。金商法の両罰責任規定は、法人の代表者の行為が有罪とされた場合、(法人が立件されれば)法人自身も罰金刑を課されることになるのですが、法人に無過失の刑事責任を課すわけではない・・・というのが最高裁判決の立場です。つまり、両罰規定においては「法人の過失が推定されている」ので、法人側が金商法違反の開示を行うにあたり、法人自身に過失がないことを立証できれば責任を免れることができる、というのが理屈です(ただし実際には立証はなかなかむずかしいと思います)。日産は事件発覚後、有価証券報告書を訂正しておらず、またゴーン氏の代表取締役解職を決めた取締役会でも、虚偽記載の点には触れずに、その他の不適切な行為の存在を解職理由としていたようです。したがって、法人としての日産は、起訴を争う姿勢を貫くことも考えられます。

ところで、虚偽記載を法人としての日産が否認するとなりますと、おそらく検察側から日産の内部統制やガバナンスの不備を指摘する多くの事実や証拠が公開裁判で開示されることになりますが、役員のリーガルリスクを考えた場合に、これは望ましいものではありません。しかしながら安易に前会長らの行動について虚偽記載を認めるとなりますと、今度は「認めたこと」自体が「役員が安易に日産の信用を低下させたもの」として、善管注意義務を尽くしたかどうかに問題が残りそうです(このあたりは不当な利益を戻すことを前提とする課徴金処分と、過去の不正の制裁として罰金が科される刑事処分とは「認める」ことの意味は異なります)。8日の東京新聞朝刊では、日産が社内調査報告書の公表に踏み切る方針であることが報じられておりましたが、法人起訴への対応がどのようなものであるにしても、日産が十分な調査資料と十分な議論を踏まえて経営判断に至ったことが、対外的に説明できるような準備が必要になるものと思われます。

 

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2018年12月 9日 (日)

日産VSルノー-世界は日仏どちらの思想に共感するだろうか

休日ということで、少し法律論を離れて、マクロの視点で日産前会長逮捕事件について私的な感想を述べたいと思います。

文藝春秋2019年1月号(新年特別号)「日産ゴーン追放全真相」なる論稿を読みました。元朝日新聞経済記者でフリージャーナリストの方がお書きになったもので、1999年から今年4月ころまで、ゴーン氏の取材を継続されてきた方の論稿です。前半部分はフィリップ・リエス氏(ジャーナリスト)によるゴーン氏への取材を基に書かれた「カルロス・ゴーン 経営を語る」(2005年 日経ビジネス文庫)の記述と重複したところが多いようでしたが、後半部分は(長年ゴーン氏の取材をされてこられた方だけあって)社内経営陣の人間模様が生々しく描かれており、読み応えがありました。

最近は前会長の立件に関する記事とは別に、今後のルノー・日産・三菱のアライアンスの行方を展望する記事も報じられています。ステイクホルダーの皆様にとってはこちらの記事のほうが関心が高いものと思いますが、この文藝春秋の論稿や近時の新聞記事、そして「カルロス・ゴーン 経営を語る」(同上)、「カルロス・ゴーン 私の履歴書」(日経新聞出版社2018年3月)、「カルロス・ゴーンの経営論」(日経新聞出版社 2017年)といった書籍を読みますと、日本とフランスにおいて、本事件への感想が少々異なることに、なんとなく合点がいきます。

本事件は「クーデター」としての意味合いを持つ…という点は日仏ともほぼ共通した認識を持ち、倒産寸前だった日産に対して、1999年のルノーから出資金(7000億円)が払われ、そしてこれを上回る配当収益を日産がルノーにもたらしたことへの事実認識もほぼ同様なのですが、ただゴーン氏を解任することへの感じ方が全く異なる点は興味深い。日本人は「もうルノーには過去の借りを返した」という意識が強く、だからこそ日産リバイバルの功労者であるゴーン氏を告訴したり、解任することは「もはや恩義知らずではない」と思っています。

一方のフランス国民(フランス政府を含む)は、「あれだけ窮地を救ってあげたのに、恩を仇で返すとはなにごとだ!」「そろそろ統合のメリットを享受できると思っていた矢先に、ゴーン排除のクーデターではないか」との趣旨の発言が目立ち、今後もオランダのアライアンス本部の会長をゴーン氏が続けることを熱望しているかのように見えてきます(今は反政府デモの騒ぎでそれどころではない・・・との声も聞かれますが)。

一読した程度ではありますが、上記のような論稿・書籍に目を通し、1999年から2018年までのゴーン氏の日産における「歩み」を知りますと、たしかに日仏両国で視点が異なるのもやむをえないように感じます。日本人はデット(間接金融)の思想に慣れてきましたから、「人からモノを借りたら返すのが仁義。しかし、金利も含めて返してしまったら双方は対等であり、だからこそゴーン氏にもモノを言い、アライアンスも対等の精神で臨むべきである」と考えるのが筋ではないでしょうか。しかし、フランスはエクイティ(直接金融)の思想にも影響を受けているので、「1999年、政府が株主という立場にあるにもかかわらず、歴史上まれにみるリスクを負担して日産に出資をした。日産が大きな収益を上げている以上、リスクに見合うだけの収益を上げる立場にあるのは当然であり、そろそろアライアンスを見直す(つまり、オプションを行使して統合する)ことで、さらに大きな利益を上げるべき時期に来ている」と考えるのが筋ではないかと。

おそらく、今後の企業間もしくは政府間での交渉においても思想の違いが出てくるのではないかと思いますが、海外の関係者の皆様は、いったい日仏どちらの思想に共感を抱くのでしょうか。日本国内ではマスコミ報道に接することも多いので、かなり事実を詳細に把握できるかもしれませんが、外国の関係者の皆様は、それほど細かい事実関係を知ることもなく、「どっちが正しい」「どっちがけしからん」と評価することになるはずです。アライアンスの主導権をどこが握るのか、今後を予想するためには、20年に及ぶルノーと日産との連携の歴史を知ることも大切ではないかと思いました。

ところで(少し話は変わりますが)、「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチも、経営者の高額報酬はできるだけ開示すべきではない、との格言を残しています。この格言は「ジャック・ウェルチの『私なら、こうする!-ビジネス必勝のアドバイス』」(ジャック・ウェルチ著 日経新聞出版社 2007年)128頁~129頁に掲載されています(1週間ほど、いろいろと調べて、ようやく出典を探し当てました)。以下、若干引用しますと、

財務情報を開示することは、さまざまな危険がついてまわる。いちばん大きな問題は、財務情報は小出しにするのが難しいという点だ。もしコストを「開示」しだせば、売上も利益も開示しないと意味をなさない。あなたは、どのくらい利益を上げているかを社員に知られても気にならないか?当然、彼らはその数字を自分達の手取りの給料の金額と比べ、やがてはあなたがどれだけの分け前をとって、自分たちがいかにわずかな分け前しかもらっていないか、を推測するようになる。

その差をあなたは喜んで、あるいはプライドをもって説明できるかもしれない。もしそうであれば、詳細な財務情報を社員のみんなと共有することにたぶんリスクはないだろう。だが、企業の規模にかかわらず、社員というものは、常に自分の給料レベルを頭においていて、働きぶりや成果から同僚がどのくらい稼いでいるかを計算しているものだ。もし、あなたの開示する情報が、彼らの想定している給料レベルに衝撃を与えそうなものだと考えるなら、この善行はとりあえず見送ったほうがいい。あなたと同じように社員みんなが仕事に関心持つ、もっと危険が少ない方法を考えたほうがいい。

なお、ジャック・ウェルチは、別の箇所でも「経営者の高額退職金は許されるか」というテーマで、他からプロの経営者を招聘した場合には、(会社が「後継者の育成」という大切な仕事で失敗してしまったのだから)高額退職金は当然に許容されるものと述べています。金商法違反に該当するかどうかは法律・会計の専門的な見地からの意見が求められますが、「後払い報酬」や「謙抑的な開示姿勢」という点をとらえて違法性の認識に関する根拠とできるかどうか、という点では(プロ経営者の行為規範、という視点からみると)やや疑問が残るように思います。

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2018年12月 6日 (木)

日産元会長金商法違反事件-商工会議所会頭のご意見について

本日(12月5日)の各紙朝刊の記事から、日産元会長の金商法違反容疑での立件の方針がようやく見えてきたように思いますが、そのあたりはまた別エントリーで書かせていただきます。本日は日産元会長逮捕劇への印象を、日本商工会議所の三村会頭が定例会見で述べておられる内容に(毎日、産経、東京新聞等に記事あり)注目いたしました。三村氏は「経営者に必要な資質は大きく分けて2つあり、ひとつは経営理念、そしてもうひとつが倫理観、両方あってよい経営者であるが、ゴーン氏は倫理観を欠いていたのではないか」と、ゴーン氏に対して批判的なコメントを残されたそうです。とりわけ毎日新聞の記事を読みまして、私は以下のような3つの感想を持ちました。

ひとつめは「経営者のモラルの問題」です。皆様方にご異論をいただくかもしれませんが、今回のゴーン氏の件、もしオランダ子会社を舞台としたゴーン氏の不適切行為疑惑がなかったとしたら、報酬問題(有価証券報告書の虚偽記載罪の容疑事実)は表面化しなかったのではないか、誰も指摘しなかったのではないか、との疑問が湧きます。週刊文春12月6日号の記事によると、社内で極秘に動き出した3名の役員の方々は、元妻の告発(文春の過去記事)やオランダ子会社の投資資金の公私混同流用などを問題視したわけで、これらの私憤が先行していなければ高額報酬問題など全く問題にもされず、事件化されることもなかったのではと思います。たとえ高額報酬の非開示が犯罪を構成するものであったとしても、そもそも日産役員による司法取引に至ることもなかったわけでして、まさに犯罪よりも先に「倫理観の欠如」こそが、今回の事件のキメテになったように思います。

次にふたつめは「日産の企業統治の問題」です。三村氏は(上記定例会見において)「海外に別会社をつくるなど、相当多くの人が関わっていたと見ざるを得ない。表ざたになってこなかったことは組織の問題だ」との意見を述べておられます。経済団体のトップの方が「おそらく日産の多くの人が関わっていた(知っていた)」と公式に述べる意味はとても大きいわけですが、私もまったく同じ意見です。

ここからは私の推測ですが、新聞報道によりますと、2013年~14年頃に、監査法人からオランダ子会社の投資資金の使途に疑義があると日産は指摘されていたわけですが、おそらくその際に、監査法人は監査役会にも同事実を伝えていたと思います(監査法人と監査役会との連携は励行されていたはず。)。そして監査役は取締役の違法行為(法令定款違反行為)を見つけたときにはすみやかに取締役会に報告する義務がありますので(会社法382条)、すくなくともゴーン氏以外の取締役には報告をしていたものと思います。そのあたりから、かなり「会長はおかしなことに会社資金を流用しているのでは」との認識を抱く社員が増えていたものと推測します(なお、週刊文春の次号では金商法違反容疑とは別に、会社法違反についても地検特捜部の捜査が及んでいることが報じられるそうですが、そこに踏み込むことは事件関係者が増えることを意味するもののように思えます)

ただし、後出しジャンケンの議論は禁物です。たとえ「おかしい」と感じた社員がいたとしても、なんといっても「カリスマ経営者」の行動ですから刑事告訴や解任、損害賠償の追及といったドラスティックな行動まで考えることはなかったはずです。「会長の名誉に傷がつくかもしれないので、どうか行動を慎んでください」といった意見を述べることが関の山だったのではないでしょうか。日産のガバナンス不全を主張することはよいのですが、では健全なガバナンスが構築されていたとすれば、取締役会や監査役会はなにができたのか?ガバナンスを問題とするのであれば、そこをまずきちんと提言することが必要だと思います。

そして3つめに「ゴーン氏の功罪」です。三村氏は経営不振に陥っていた日産をV字回復させた点について、「ゴーン氏は本当によくやった。彼には否定できない大きな成果があった」と会見で述べておられます。つまりゴーン氏には経営者としての功罪両面があることを示しました。私もこのたび「カルロス・ゴーンの経営論」や「カルロス・ゴーン 経営を語る」(日経ビジネス文庫)などをあらためて読み返しましたが、経営者としての考え方に(これからも)学ぶべき点が多いと感じております。

ただ、だからこそコーポレートガバナンスの健全な運用が重要だと、これも再認識しました。ゴーン氏のように、経営者には功罪両面があると思います。しかし、ガバナンスによって「罪」のところを封印(カバー)するのがガバナンスの役割ではないでしょうか。行動経済学の研究者ダン・アリエリー氏の著書「ズル-ウソとごまかしの経済学」のなかで、「カギの効用」を語る場面があります。

どんなに立派なカギを家にかけていても、プロの泥棒にかかってはすぐに開けられてしまう。カギの本当の意味は「ふだんは誠実な人を、(なにかの拍子に)その気にさせない」ことにあるのです。

コーポレートガバナンスも「カギの効用」と同じだと思います。すぐれた経営者も、なにかの拍子に不誠実な行動に走ってしまうおそれがある。経営者が本気で悪いことをしようと決意して行動すれば、いくら立派なガバナンスを構築していてもこれを止めることはできません。ただ、経営者が不誠実な行動に走る気にさせないためにこそ、ガバナンスの健全な構築が求められているのではないでしょうか。このたびのゴーン氏の行動が違法と判断されるのであれば、けっして日産のガバナンス不全が直接の原因であったとまでは言いませんが、やはり多くの要因のひとつ程度には相関関係があるのではないかと考えます。

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2018年12月 4日 (火)

ゴーンショックが今後の法制度に及ぼす影響について(個人的意見)

日産の前会長が逮捕されて2週間が経過し、検察の立件に向けての動きとともに、ルノー・日産・三菱の三社連合の「経営の舵取り」に関心が寄せられるようになりました。このような状況において時期尚早ではありますが、今回の逮捕劇が(ひょっとすると)日本の法制度に大きな影響(変化?)を及ぼすのではないか・・・といった将来予想が法律家の間で交わされるようになりましたので、個人的な意見として述べておきたいと思います。

ひとつはなんといっても「報酬ガバナンス」の進展ですね。日曜日(12月1日)の日経一面トップに「役員報酬 きしむ日本流-「ゴーン問題」で注目 水準・透明性に課題」との見出しで報じられている問題です。企業統治改革は5年目となり、改革が「形式から実質へ」と深化していることは事実です。ただ、その中でもっとも「実質へ」と深化していないのがCEOの選解任プロセスの透明化以上に役員報酬改革です。ガバナンス・コードの施行によって「報酬委員会」を設置した企業は増加していますが、ではその報酬委員会が何をやっているのか・・・、コードが要請する趣旨を実現している報酬委員会を運用している上場会社は、おそらくコンプライしている会社の1割にも満たないはずです。

また、会社法改正審議の中でも議論の対象となった「株主総会で取締役報酬の上限枠だけ決めておけば(つまりお手盛り防止の趣旨さえ満たせば)、報酬に関する株主のコントロールは及ぶのか・・・という点についても深化した議論が期待できるのではないでしょうか。最近、有力な学者の方々から「取締役会から代表取締役への個別報酬額決定の再一任は(利益相反行為の防止という観点から)おかしいのではないか」「もし再一任するのであれば、どのような算定基準による一任なのか開示すべきではないか」との意見が出るようになりました。しかし実務はほとんど「再一任→社長に包括的委任」で動いています。今回のゴーンショックによって、まさに「再一任」はガバナンス改革に逆行したものであることが露呈されたのでありまして、会社法改正の流れにも影響が出るのではないかと。

そしてもうひとつの課題が日本の刑事司法制度の在り方です。先週のエントリーで日本版司法取引は「証拠の客観化」「取調べ偏重の捜査防止」に資するものとの個人的意見を書きましたが、それでも現実には「(日本版司法取引は)供述誘導の恐れを顕在化させる」といった(もともと懸念されていた)デメリットを強調する報道が増えています。海外からも日本の「人質司法」への批判が高まる中、近畿弁護士連合会では(11月30日)、弁護士の取調べ立会の早期実現を目指すシンポジウムが開催されました(近弁連は弁護士立会制度の確立を求める決議を採択)。いわば外圧を受けて刑事訴訟における人権保障の風が吹きつつあるのが現状です(正直に申し上げて、この流れを私はまったく想定しておりませんでした)。

一老さんがコメント欄で書いておられるように、今後の立件・公判の流れの中で、会計の世界における「相対的真実」と法律の世界における(フィクションとしての)「絶対的真実」とのブレが(長銀事件・日債銀事件や三洋電機事件のときと同じように)顕在化し、金商法実務に混乱を生じさせる可能性もありそうです。日産前会長・金商法違反事件は、今後の立件に関連する関心とは別に、本件から派生する影響がどこにどれだけ及ぶのか、といったことへの関心も高まってきたように感じます。

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2018年12月 3日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-退任後報酬の記載義務等について

今週は武田薬品さんとアルパインさんで注目すべき臨時株主総会が開催されますが、もうすこしだけ日産さんの話題についてコメントさせていただきます。今週末は全国紙のほとんどで「ゴーン容疑者 退任後の報酬記載義務で検察、容疑者対立」なる見出しの記事が掲載されていました。論点についても、有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件の解釈と故意(違法性の認識)に絞られてきたようです。

構成要件の解釈にあたっては、平成22年3月31日金融庁公表資料「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントに対する金融庁の考え方」が参考とされているものと思います。以下、一部抜粋しますと、

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事情年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。この点、現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

とあり、この金融庁の考え方からしますと、「報酬等として受ける見込みの額が明らかとなった」かどうかが、解釈に関する対立の論点とされているようです。毎年記載されていなかった10億円程度の報酬額(もしくは以前の報酬相当額)については、本日(12月2日)の日経、朝日の記事によりますとコンサルタント料や競業回避承諾料の名目で覚書が交わされていた、とのこと。このような事情から、金商法上の構成要件は充足していると検察側は認識しているそうです(あくまでも日経の記事を前提とした内容です)。

ただ、昨年来いろいろとコーポレートガバナンス上の話題になっております「相談役・顧問制度」でも明らかになりましたが、企業が社長退任後に相談役や顧問に就任してもらう理由のひとつとして「他社への移籍を一定期間防止するため」というのがありますので、ゴーン氏やケリー氏側の言い訳としては、とくに違和感はありません。また、「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」とゴーン氏が証言しているようですが、これも元GE社長で「20世紀最高の経営者」と称される方も「名言・格言」として「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」と述べておられるようで(ただしネット上での確認であり、現在出典を確認中です)、その方も退任後の報酬額が後日明るみなって社会的な批判を受けておられるようなので、ゴーン氏の事例に特有の事情でもないようです。したがって、これらの事情から「報酬等として受ける見込みの額が明らか」な状況にあったといえるかどうか・・・。判断がむずかしいところです。

むしろ、ケリー氏が「金融庁に相談したら問題なし、と言われていた」という点が(どのように相談を持ち掛けていたかにもよりますが)真実だとすると、そもそも構成要件該当性が否定されてしまう可能性もありそうですね。東芝事件のときも、東芝の元経営者の方々の立件をめぐり、検察庁VS金融庁のバトルがありましたが、今回もひょっとすると解釈の相違が問題となるかもしれません。

なお、ゴーン氏は、開示義務が発生する以前は20億円をもらっていたのに、開示義務が規定された後は10億円と記載するに至ったことも報じられていますが、この点はいわゆる違法性の認識の有無(故意)に関する論点として整理すべきです。この点は先週も詳細に書きましたが、顧問料にせよ、条件付きの後払い報酬にせよ、あるいは報酬限度額を超えた報酬にせよ、会社法上は(具体的な報酬請求権が確定するためには)取締役会の承認(ゴーン氏は特別利害関係人として議決権なし)や株主総会の承認など、社内における手続が必要なので、このあたりをどう評価するのかが立件にあたっての大きな課題かと思います。ゴーン氏は事実上のカリスマ経営者であり、実質的には「ひとりで決めることができる」と言えばそれまでですが、それでクリアできるのは構成要件該当性の問題だと思います。ゴーン氏自身が「自分で報酬はいくらでも決められる。会社法上の制約など、なんら関係ない」と証言しないかぎり、違法性の認識までクリアできるかどうかは微妙なところではないかと。ちなみに東京新聞ニュースによりますと、「覚書」には他の役員の署名もあったと報じられていますので、「ひとりで決めることができた」とは言えないような・・・・。

「私はケリー取締役にすべて任せていた(だから違法性の認識はない)」とのゴーン氏の反論はまったく通らないと思います。経営者自身の報酬に関する合意内容なので、ケリー氏任せていたとしても、なぜ違法ではないのか、きちんと合理的な説明を受けていないかぎりは違法性の認識が否定されることはないと思います。

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2018年11月29日 (木)

文春記事を読んでの感想-日産の「裏ガバナンス」の実効性

お昼にブログを書くことはほとんどありませんが、本日発売の週刊文春の記事を読みましたので、備忘録程度にひとことだけ感想を書かせていただきます。

これまで、当ブログで「素朴な疑問」として書き連ねていた多くの点が文春記事で解消されました。前会長追放のための1年におよぶ一部役員らの調査、日本版司法取引の施行という「偶然」の時代背景、そして、そこに関与する法律専門家(うーーん、またあの法律事務所 笑)、なるほど・・・。

やれ「指名委員会等設置会社への移行」だの「社外取締役を中心とした報酬委員会の機能」だのと、最近のガバナンス改革の目線で(お行儀よく?)物事を考えがちですが(私自身もそういった傾向にありますが)、やっぱり機能したのは「裏ガバナンス」だったと痛感いたしました。関係者の皆様(とりわけ日産で法務一筋でやってこられた専務執行役員および元副社長である監査役の方)には敬意を表します(ただ文春の記事が真実だとしても、私は有罪立証には、まだまだハードルが高いとみております)。

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日産・金商法違反事件-未確定報酬の後払いと違法性の認識

昨日(11月27日)の産経新聞「正論」では、早大の上村教授による「ゴーン事件は日本に何を問うか」と題する論稿が掲載されており、上村先生は冒頭「日産のゴーン会長については、さまざまな論評がなされているが、法的な問題を押さえない話が横行しているかに見える」と述べておられます。というわけで(?)、また少しばかり(拙いながらも)法的な問題に触れておきたいと思います。

本日(11月28日)の産経新聞朝刊では、前会長の金商法違反容疑事件で揺れる日産は企業統治改革の一環として「指名委員会等設置会社」への移行を検討している、と報じられています。指名委員会、報酬委員会、監査委員会を必須の機関とすることにより、代表取締役の業務執行の監督機能を強化することが狙いとのこと。ただ、移行のためには株主総会において定款変更(特別決議)が必要なので、ルノー社との協議次第、といったところでしょうね。なお、いつも拝読している梅本剛正教授(甲南大学)のブログで、日産事例と最近のオリンパス事例を比較して、両事件に対する機関投資家の関心について分析をされておられます。まさに正鵠を得た意見だと感じました。私も梅本先生と同じことを考えていたのですが、諸事情ございまして(笑)、オリンパスの件はコメントできない立場なので、ぜひとも梅本先生のブログをお読みいただければとcoldsweats01sweat01。日産の件も、ゴーン氏がどうのこうの・・・ということよりも「これからのアライアンス」にこそ、機関投資家の関心が向いているのですよね。

ところで(ここからが法的な問題になりますが)、各紙報じるところでは、ゴーン氏の刑事責任の追及にあたり、同氏が有価証券報告書の虚偽記載罪について、違法性に関する認識の成否(故意の立証)が争点になる、といった論調が目立ってきました。ゴーン氏の報酬の半分程度は後払いによって日産が支払う旨の合意書が存在していることは事実のようですが、当該合意書によって退任後報酬の金額は確定しているので報告書への記載義務があるのか、それとも未確定なので合意書締結の時点では後払い分を開示する必要はないと考えるべきなのか、といったところで検察と前会長らとの主張が対立しているそうです。この主張の対立は金商法違反行為の解釈に関するものですが、違法性の認識、という争点を考えるにあたっては、会社法に関連する論点も検討しておくべきではないでしょうか。

前にも述べた通り、報酬後払いに関する合意書の具体的な内容がわかりませんので確かなことは言えませんが、「支払方法だけが未確定」ということであれば、退任後報酬の金額は確定しているわけですから、これは報告書記載義務がすでに発生しているといえそうです。仮に(支払方法だけでなく)退任後の報酬金額自体が未確定、あるいは権利行使条件が付されているということであれば、たしかに記載義務はないようにも思えます。ちなみに本日の読売新聞などを読んでおりますと、後払い報酬の受け取り方法はまだ決まっておらず、日産所有の高額絵画で受け取る方法や顧問料の上乗せによって受け取るなどの取り決めが文書化されていた、といった新事実が報じられていました。

こういった記事では前会長の金商法違反に関する根拠事実が示されているわけですが、冒頭の産経「正論」にて上村先生が「ゴーン氏は企業法制をなめきっている」と強調されるとおり、会社法の視点からもいろいろと問題点を指摘できそうです。「ん?会社法のルールって、そんなに簡単に無視していいの?」といった問題です。

まずひとつめが未確定報酬ということであれば、別途株主総会の承認決議がとられているのだろうか--会社法361条1項との関係--という点です。金額の確定した報酬であれば、上限枠(本件では29億9000万円の限度内)の承認は得られておりますので、その範囲内で(取締役会の再一任がある以上)ゴーン氏の判断で具体的な報酬額を決定することもできます。しかし、後払い報酬の金額が未だ確定していないとなりますと、別途具体的な算定方法について(そのような算定方法を相当とする理由を説明したうえで)承認決議が必要ではないかと。しかし、そのような決議はインセンティブ受領権(SAR)による報酬分しか決議はとられていません。また現金以外の報酬(絵画)を受け取るのであれば、これも別途株主総会の承認が必要になります。ゴーン氏やケリー氏の主張を前提とするのであれば、このような会社法違反の点をどう評価すべきか・・・といった問題です。

ふたつめの問題として退職慰労金制度との関係です。退職慰労金も、取締役の職務執行上の対価(会社法361条1項柱書)と解されていますので、ゴーン氏への後払い報酬についてもこれに準じて考えてもよいのではないか、といった問題です。退職慰労金は株主総会において金額を明示せずとも「取締役会一任」で決議をしてもよいとされていますので、資金を積み立てず、後日金額を確定すれば足りるとも考えられそうです。ただ、判例の立場では、株主がどのような支給基準によって退職慰労金が支給されるのか、当該支給基準(社内ルール)が確認できる状況になければ包括委任決議は有効とはいえない、とされています。したがって、日産側とゴーン氏との合意だけでは社内ルールとは言えず、取締役会で決定した支給基準が必要なので、ゴーン氏は会社法のルールと矛盾する行動に出ているように思われます。

そして最後にゴーン氏と日産との「利益相反取引規制」に関する点です。20億という金額がすべて確定した報酬ということであれば、会社法356条の規制の問題は生じません。しかし、新聞報道にあるように、退任後に顧問契約を締結し、その顧問料の上乗せ分として報酬を支払うというものであれば、これは純粋な役員報酬ではなく、顧問料としての性格を有することになりますので、会社法が規制する「利益相反取引」に該当し、取締役会の承認が必要になるはずです。たとえ顧問契約を伴う合意ではなくても、報酬金額が未確定であり、何らかの権利行使条件をクリアしてはじめて報酬額が支払われるのであれば、これも利益相反取引に該当するものと思います。現金の代わりに絵画を受け取る・・・という合意も同様です。したがって、いずれにしても報酬額が未確定ということであれば、ゴーン氏はなぜ事前に取締役会の承認を得なかったのか・・・という点が問題になると考えます。

利益相反取引の問題は、後日、会社が合意書の無効(通説では相対的無効)を主張しうる・・・といったことも効果としては発生するのですが、そもそも報酬金額が確定していない、ということを主張するのであれば、後日確定させるためのプロセスをなぜとらなかったのか、といったところで合理的な説明が必要になり、前会長側において、そのあたりの説明がなされなければ違法性の認識に関する証拠のひとつにもなりそうな気もいたします。逆に、ゴーン氏側が無罪を主張するのであれば、あえて会社法のルールを遵守せずとも、後日に後払い報酬を受領できる根拠を示す必要があるのではないか・・・と考えます。

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2018年11月27日 (火)

ゴーン氏は自ら掲げた「日産リバイバルプラン」によって放擲された。

本件のエントリーを重ねるたびに、どうもミクロの視点になってしまって、普通のブログの読者の皆様にはわかりづらい話題ばかりに焦点をあててしまったようで反省をしております。ということで(?)、本日はもうすこしわかりやすい、といいますか、広い視野で今回の日産前会長金商法違反事件について眺めてみたいと思います。

昨年2月の当ブログのエントリー「日産自動車の次期社長は現社長ではなく取締役会が決めた?」におきまして、私は「カルロス・ゴーン経営論」(公益財団法人日産財団 監修)をご紹介し、ゴーン氏の経営論にとても感銘を受けた、と記しました。このたび同書を読み返してみて、私はゴーン氏が逮捕された今でも、その経営論については説得力のある内容と感じております。

ただ、いま読み返しますと、「有事にこそ問われる危機管理、レジリエンス(268頁以下)」におきまして、ゴーン氏が「有事にはレジリエントなリーダーでなければならない」と述べているところに関心が向きました。企業の再生にはターンアラウンドな戦略とリバイバルと呼ばれる戦略がある、これまで日産はターンアラウンドな戦略で危機を回避してきたが、自分はリバイバルプランを掲げた、ターンアラウンド戦略とは、資産を削減したり、従業員を削減したりして状況の悪化を食い止める縮小戦略であるが、その効果が続くのは2年か3年とのこと。

日産は1999年以降、リバイバル戦略をとり、V字回復を果たしたが、視野に入れているのは「元の日産に戻る」だけではなく「危機を経験してさらに強くなる(レジリエント)」ことであり、今(2017年)もその戦略の効果は及んでいる、とゴーン氏は語っています。2008年(リーマンショック)、2011年(東日本大震災)と、我々は厳しい時期を迎えたが、そこから脱却できたのも危機を経験して組織がさらに強くなったから、だそうです。

私はこのゴーン氏の危機管理、レジリエンスの考え方にはとても共感を覚えます。ゴーン氏の戦略は確実に日産に根付いた。つまり、日産が数度の危機に直面して、さらに強くなったからこそ、組織の有事において「変節したカリスマ経営者」を放擲することが可能になったのではないでしょうか。ゴーン氏が日産に根付かせたリバイバル戦略が、皮肉にも自身に退出を余儀なくさせるだけの組織に変えたのではないかと。上記「経営論」では、ゴーン氏はルノーと日産は統合してはいけない、と述べていたのですが、最近は(研究開発部門を統合するなど)言行一致とは言えない状況になっています。そもそもルノーと日産のCEOを兼務するあたりから、日産の幹部の方々が不信感を持つようになったのかもしれません。ゴーン氏を組織から放擲するためには、もはや「司法の力」を用いること以外には方法はない、といった判断に至ったのではないかと。

上記「経営論」では、ゴーン氏は「根っからのイエスマンはいない。それは企業が作り出しているのだ」(140頁)と力説しています。社員のモチベーションを高めて、企業改革を図る気持ちが社員に伝わり、今回の一連の流れを作り出したのかもしれません。また、志賀COO(当時)は、「ゴーン氏は本質と大義を重んじる」と評し、「燃費偽装のようなことは、企業の本質に反するもの」と考えていたことに言及されています(242頁)。にもかかわらず、このたびの燃費偽装事件でゴーン氏のコメントは出てこなかったことも社員の失望を生んだ可能性があります。もちろん、本事例をミクロの視点からすると数々の不正行為の疑惑があり、また、これを放置し続けていた取締役会のガバナンスの問題を指摘することも可能ではありますが、マクロの視点からしますと、「内部通報⇒不正調査チーム⇒司法取引の活用⇒ゴーン氏排除に向けた役員間の意思共有」といった一連の動きが、「ルノーと日産の統合間近」といった日産の一大事(有事)において自然発生したと評価できそうです。

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2018年11月25日 (日)

日産前会長・金商法違反事件-日産取締役会のガバナンスに問題はなかったか?

昨日(11月23日)は「いいニッサンの日」ということで、全国の日産ディーラーさんには多くの方が詰めかけたそうですが、いったいどんな話題で盛り上がったのか・・・少し聴いてみたい気もいたします。

さて、11月21日のエントリー「日産会長金商法違反事件に想う『エンロン事件のデジャヴ』」におきまして、私は「ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?」として、

ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないか

と書きました。また、11月20日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」においても、

開示された報酬金額が虚偽であったとしても、これだけ株主から高額報酬への批判が出ている世の中ですから、何らかの説明を果たし得るストーリーはあったのではないかと想像します。つまり、誰か株式報酬に詳しい社内もしくは社外の支援者が存在していた可能性もゼロとは言えないように思います。

と推察をしておりました。ケリー氏がジェネラルカウンセル的な役割を果たしていたのではないか・・・という予想は当たりませんでしたが、同氏がやはり重要な役割を果たしていることは間違いなさそうです(直近の毎日新聞ニュースでも、このような記事が掲載されております)。

本日、日経ニュースなどでケリー氏が(報酬過少記載や物件購入について)「担当者と相談し、外部の法律事務所や金融庁にも問い合わせをした」と説明、不正行為の認識はないと主張していると報じられています。このあたりは当ブログをお読みの皆様も「ほぼ想定の範囲内」だったのではないでしょうか。このクラスの方が関与する不正事実が「あれ、ばれちゃった?、ゴメンナサイ・・・」というものではなく、たとえ虚偽記載の疑惑があったとしても、それなりに説明責任が尽くせるようなプロセスは踏んでいるだろうと予想しておりました。ケリー氏の言い分が通るか通らないかはわかりませんが、検察はお金の流れはほぼ押さえていると思いますので、その「お金の流れ」が虚偽記載罪の主観的な認識や客観的な構成要件にぴったり収まるかどうかが問題と考えます。

ところで本日(11月24日)の産経新聞夕刊には、「株価連動報酬として前会長が受領した分については逮捕事実には含まれていない」とありましたので、日産の過去の定時株主総会の招集通知を確認しましたところ、なるほど、日産の株主総会では確定額金銭報酬と未確定額金銭報酬とでは別々に株主総会の承認決議をとっています。確定額金銭報酬は平成20年の定時株主総会の決議(限度額29憶9000万円)がいまも効力を有しており、未確定額金銭報酬である株価連動型インセンティブ受領権(いわゆる「SAR」というインセンティブ報酬)については上限額はなく、具体的な報酬算出方法(+相当な理由)のみで承認の決議を受けています(平成27年の定時株主総会にて直近の承認決議がなされています)。つまり、インセンティブ受領権による報酬については29憶9000万円という「上限枠」は関係ない、ということになります。この点、私は誤解をしておりました。(なお、東京新聞朝刊記事では、2018年3月度には14億程度の現金報酬分が隠ぺいされているので、そもそも「上限枠」すら超えているのではないか・・・と報じられていますが、そのあたりの真相はまだわかりません)。

この株価連動型インセンティブ受領権という未確定額金銭報酬は、ファントムストックなどと同様に(といいますか、ファントムストックの一種だと私は理解しておりますが)、行使条件の付いた株式(新株予約権)が付与されるものではなく、仮想の新株予約権を付与し、一定の条件の下で権利が行使されれば現金が支給される仕組みなので、外国に駐在している役員さんが多い会社などでは(有価証券を保有することによる証券規制や税務規制の負担を軽くするという意味で)よく使われています。また、役員に株式を付与しないので親会社の株式保有率を希薄化させない、という意味でも親子上場などでは活用のメリットがあります。したがって、「中長期的な企業価値向上を目指すインセンティブ報酬」として前会長さんが活用することにはなんら不自然な点はありません。費用計上の算定方法については、合理的に費用を見積もることができるのであれば受領権付与時に引当金相当額を計上することもできるでしょうし、合理的な見積もりが困難ということであれば権利行使時(現金支給時)に費用計上しても構わないものと思います。ということで、お金の流れを押さえる・・・といっても、いったいどのお金の流れがどのような根拠に基づくものか、ひいてはどのように開示すべきなのかは、かなり複雑ではないかと思います。かりにインセンティブ受領権ではなく、確定額金銭報酬のみの問題だとしますと、こちらの中日新聞ニュースの解説にあるようにスッキリとした構図となりますが、そんなに単純なものでもなさそうにも思えます。

日産の取締役会に報酬委員会が設置されていれば、こんなことにはならなかったとは思います。インセンティブ受領権は株価だけでなく、他のKPIの達成度にも連動する複雑な仕組みだったかもしれませんが、報酬委員会がプロセスだけでも監視することで不正の抑止にはなりえたと思います(こういった点からも、ガバナンスは「攻め」も「守り」も一体で考えるべきです)。残念ながら同社取締役会には任意の諮問委員会は設置されておらず、ほとんどの取締役の方々は寝耳に水だったそうです。昨日の取締役会では会長解任(代表取締役の解職)議案が全員賛成で決意されたそうで、出席者からは「そんなにもらっていたのか」「これはひどい!」との声も上がったと報じられています。しかし、このたび司法取引に合意をした執行役員や幹部社員の方々は別として、私には「本当に取締役の方々は前会長さんの不正について知らなかったのだろうか」との疑念が消えません。まず、朝日11月24日朝刊記事では、前会長さんと日産との間で50億円の報酬後払いの合意(退任後は顧問となって、その報酬として支払われる合意)がなされていたとあります(検察はこの合意書を押収済とのこと)。また、読売11月23日朝刊記事では、2012年から14年にかけて、監査法人は日産欧州子会社の活動内容に疑念を抱き、照会をかけたところ、日産側は「戦略的な投資活動を行っており問題なし」と回答されたそうです。そして前にも書いたとおり、数年前に証券取引等監視委員会は、証券検査において前会長の複数の不正行為の疑惑を発見し、日産側に是正を求めたが、前会長はこれを拒否した、とあります(産経11月21日朝刊)。

これらの新聞報道の内容が真実だとしますと、たとえケリー氏から「取締役には報告するな」と執行役員や幹部社員の方々が口止めされていたとしても、本当に役員の方々が前会長さんの不正については知らなかったというのも解せないところです。かりに「知らなかった」のが真実だとしますと、日産のガバナンスにはやはり重大な懸念を抱きます。そもそも今回逮捕された前代表取締役のおふたりは日本に駐在しているわけではないので(前記のような事情が発生すれば)、内部通報よりも前に日常のレポートラインで日本の取締役さんのところへ情報が上がるはずですよね。このあたりは無資格者による最終検査の問題とか、燃費データ偽装の問題とはまったく質が異なるものと思います。

本事件は、まだまだこれから新事実がたくさん出てくるとは思いますが、日産さんのコーポレートガバナンス上の問題点については(新事実が出れば出るほど)疑念が深まるばかりです。日産さんはガバナンス上の問題について外部の弁護士らによる第三者委員会を立ち上げて検証することを決めたそうですが、ぜひとも報道されている内容が真実かどうか明らかにしていただき、さらに「なぜ、多くの取締役の方々が内部通報に至るまで前会長の報酬問題や経費の不正使用問題などに気づかなかったのか」ぜひとも合理的な説明をしていただきたいところです(しかし検察の捜査が続く中で、本当に第三者委員会が実効性のある調査ができるのか・・・やや懐疑的ではありますが)。

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