2018年1月12日 (金)

子会社不正について「親会社による公表は不要」なる選択肢

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週刊エコノミストの最新号(1月16日号)に、拙著「企業価値を向上させる実効的な内部通報制度」の書評を掲載いただきました。おかげさまで、アマゾンのランキングもそこそこ復活してまいりました(どうもありがとうございます)。以下本題です。

1月11日の毎日新聞1面および2面では、ガラス最大手の旭硝子さんの子会社(AGCテクノグラス社)が、2015年以降、実験や臨床検査に使われる「遠沈管」の一部について、必要な検査項目の一つを実施していない製品を大学や研究機関に納入し続けていたことが報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。とりわけ同紙2面記事では、子会社不祥事について親会社が会見をせず、また子会社HPのみで不祥事を公表している親会社(旭硝子社)の情報開示姿勢に疑問を投げかけています。

会見を開くかどうかは、不祥事の軽重によって会社側の裁量に委ねられるところが大きいように思いますが、たしかにグループ会社のHPのみ公表しながら親会社では一切公表しないという「公表判断」については少し考えてみる必要があると思います(なお、親会社である旭硝子さんは、今回のマスコミ報道を受けて1月10日に親会社HPで簡略に不適切行為の内容を公表しました)。

親会社側は、経営幹部の方が「(品質検査を実施しなかった製品については)消費者が使う製品でなく、不正な保証書を出した納入先もわかっていたため、問題ないと判断した」と釈明しておられるようです。ただ、子会社の公表文章を読みますと、品質検査の未実施が2015年2月から開始されていたとのことで、約3年間も続いていたことがわかります。品質検査書の偽装が特定の社員によってなされていたとしても、ほかの社員も「見て見ぬふりをしていたのではないか」つまり組織ぐるみのルール違反ではないか、との疑問も湧きます。また、取引先への製品回収等に関する呼びかけがなされていますので、子会社HPのみでの広報で本当に情報収集の姿勢に問題がないのか、これも疑問が生じるところです。さらに、親会社の方が説明されているような理由であれば、子会社でも公表する必要はなかったのではないか、と思います。わざわざ子会社だけで公表した、というのは、(少なくとも文面を読んだかぎりでは)内部通報者に外部へ情報提供をさせないための方策に過ぎないのではないか、とも疑われそうです。

他社事例では、公表しない不祥事は一切しない、公表する場合には親会社と子会社双方のHPで公表する、といった取扱いケースが多いのではないでしょうか。「不正が重要とは判断しなかったので一切公表しなかった」といった理由は明確ですが、子会社では重要だが、親会社では重要とは思わなかった、という理由は果たして世間的に理解されるのかどうか。今後、他社でも同様の公表姿勢が選択肢のひとつになるかもしれませんので、少し考えてみる必要がありますね。

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2018年1月 9日 (火)

相次ぐ企業不祥事-最新事例から導く『ガバナンス』を機能させる視点と実践策

本日はお知らせでございます。ひさしぶりに東京でコンプライアンス経営に関する一般向けセミナーを実施することになりました。みずほ総研さんにご協力いただいたものでして、「最新事例から導く『ガバナンス』を機能させる視点と実践策」と題する講演でございます(副題は「不祥事の抑止・早期発見、有事対応に不可欠な、健全なガバナンス構築とは」とついております・・・かなり長い 笑)。すでに30社ほどからお申込みをいただいておりますが、当ブログをお読みの方々にも、ぜひご聴講いただきたく告知させていただきます。

今朝(1月8日)の日経朝刊11面(法務面)でも「汚職リスク 投資家が評価」と題する詳細な特集記事が掲載されていました。資本市場がSDGs(国連の持続可能な開発目標)への関心を高める中、長期リターンを目指す機関投資家の期待に応えるために、不正リスクを低減させるためのガバナンスを対外的にアピールすることはとても重要です。当ブログでも、昨年8月にこちらのエントリーにて「コード・オブ・コンダクトの実効性」を(清原健弁護士の小稿を引用しつつ)紹介しております。このあたりは海外企業はかなり先行しています。

上記日経記事にあるように、2017年後半からDOJ(米国司法省)は、ふたたび海外企業のFCPA(外国政府高官への贈賄禁止)違反への摘発を強めており、日本企業の摘発も例外ではありません。汚職だけでなく、不正についても捜査の手が延びていることは最近の神戸製鋼さんへのDOJの書類提出要請からもうかがわれます。記事中の信越化学工業さんや三菱商事さんのように、平時からの防止体制を積極的にアピールする企業も出てきています。とりわけ日本では、健全なリスクテイクに向けた「ガバナンス改革」が進む中でのアピールなので、攻めと守りのガバナンスは一体的に考えることが不可欠です。ということで、上記のようなタイトルのセミナーを緊急開催することといたしました。みずほ総研さんのHPでの告知文を以下引用いたします。

不正会計、品質データ改ざん、情報漏えい、労基法違反など、日本を代表する名門企業における不祥事が連日報じられていますが、とりわけ業績に大きな影を落とす不祥事が目立ちます。不祥事対策というと、どうしても有事の対応ばかりが注目されますが、実は平時の健全なガバナンスの構築こそ、不祥事の抑止、早期発見、そして信用回復の場面に欠かせません。また、ガバナンスの「攻め」と「守り」は表裏一体の関係です。 本セミナーでは、「攻めのガバナンス」への真摯な取り組みが不祥事防止につながり、また「守りのガバナンス」への取り組みが中長期的な企業価値向上、競争力の強化につながることを、精神論ではなく実践論として解説致します。企業法務分野を専門とし、大手企業の社外取締役や社外監査役を務め、コンプライアンス経営の最前線に立つ講師が、最新の事例を交えながら説明致します。

昨年話題となった「原因と結果の経済学」ではありませんが、企業不祥事の発生原因やガバナンス構築と不祥事防止の関係といったことについても、「因果関係があるのか」「単なる相関関係にすぎないのではないか」といったところの検証が必要だと思います。また文化心理学の発想による「ボスだけを見る欧米人、みんなの顔まで見る日本人」ではありませんが、議決権行使助言会社や機関投資家が企業を見る目を意識することも必要だと思います。まだまだ試論にすぎませんが、持続可能な企業経営に必要なコンプライアンスについて、私なりの(精神論ではなく)実践論を3時間半の講演でお話したいと考えております。みずほ総研さんのセミナーということで、お値段は若干高め(?)ですが、お時間と興味がございましたらぜひ内幸町のセミナールームにお越しいただければ幸いです。

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2017年12月29日 (金)

のぞみ34号台車亀裂事件-JR東海運行責任者への称賛こそ重要

12月11日に発生した「のぞみ34号台車亀裂事件」ですが、台車の亀裂が発見されたことで新幹線開業以来初めての「重大インシデント」として取り扱われています。マスコミは、なぜJR西日本の関係者が新大阪駅で緊急検査をしなかったのか、安全性軽視の姿勢は福知山線事故以来変わっていないのではないか、と批判をします。

社員間の情報伝達ミス、JR東海への引継ぎミスは批判されても当然であり、一歩間違えれば大惨事につながりかねなかったことを考えますと、再発防止策を真剣に検討しなければならないことは誰も否定しません。重大な事件を契機に、可能な限り亀裂に至ったプロセスを分析することも(私は専門家ではないのでどこまで可能なのかはわかりませんが)必要なのでしょう。ただ、私がこの事件において一番関心を抱いたのは、名古屋駅での緊急検査および運行休止を決断したJR東海の運行関係者の姿勢でした。

のぞみ34号が京都駅を出発した時点で、13号車付近で異臭を感じた(JR東海の)車掌さんがいらっしゃったそうです。とくに乗客からの苦情もなかったようですが、「異臭」から新幹線ダイヤを大幅に狂わせてでも緊急検査が必要と判断したことに躊躇はなかったのでしょうか。さらに名古屋駅の緊急検査で判明したことは床下のオイル漏れでした。その時点でも台車の亀裂までは発見していませんが、乗客約1000名を別の列車に移して運行を止める行動にも躊躇はなかったのでしょうか。

異臭の原因はたいしたことではなかったとなれば、「人騒がせな緊急検査で多くの乗客が迷惑を受けた」「ダイヤの混乱を生じさせた」と言われ、「本当に異臭がしたのか?」「車掌の疲れが原因だったのではないか?」と逆に責められる可能性もあるでしょう。しかし、私は台車の亀裂が見つからなかったとしても、このJR東海の車掌さんの行動こそ称賛されるべきであり、また「ダイヤを混乱させ、結果としてたいした故障が発見されずとも、乗客の安全のために新幹線は止めるべし」とするJR東海の組織風土こそ重要だと考えます。

毎度申し上げるとおり、こういった発想には副作用が伴います。「たいした故障でもないのに新幹線が頻繁に遅れて乗客に迷惑だ」「一部の新幹線の検査で東京から博多まで全ての列車が迷惑する」「こんなに故障が多いとなれば安全神話も昔の話、世界への売り込みもできなくなるだろう」などと揶揄されることになります。しかしどんなに整備を万全にしたところで事故は100%防止できるものでもなく、また人的ミスも同様です。だとすれば(間違っているかもしれないけど、みんなのために警告を出そう、という意味で)「オオカミ少年」を許容する寛容さを社会に求めることまでは無理だとしても、せめて鉄道会社自身としては組織風土として構築しておかねばならないと考えます。

重大な事件の発生を踏まえて、JR西日本では「運転停止判断のための緊急時のルール作り」「亀裂を感知するセンサーの設置」「目視だけに頼らない事前検査体制の整備」といったことが再発防止策として実施されることになると思います。しかし、いくら体制を整備しても、人間は有事を有事として捉えることには限界があります(人は常に平時でいたいというバイアスが働きます)。おそらく危機に直面した社員にマニュアル通りに合理的な判断を求めることはむずかしい場面があると思います。

だとすれば、「乗客の安全を最優先とした判断は、たとえ結果が間違っていても称賛する」といったメッセージが求められるのではないでしょうか。JR西日本の組織風土に問題があるとすれば、そのようなメッセージをいかにして社員の方々に浸透させることができるか、そこに光を当てることが有用ではないかと。いろいろとご異論もあろうかとは思いますが、短期的に見れば企業の利益を損ねる行為かもしれませんが、長期的にみれば企業の競争力(ひいては新幹線の国際的信用力)を高めることにつながると思います。

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2017年12月21日 (木)

不祥事防止、発見に向けた創業者(創業家)の役割

今年は年末まで「企業不祥事が次々と報じられる一年」となりました。当ブログでも、会社法改正等、ガバナンス改革関連の話題を書きたいと思っておりましたが、どうしても不祥事関連の報道に反応してしまいました。

今年も役員セミナー等で多くの会社にお招きいただきましたが、セミナーの前後で、不祥事関連の話題を中心に創業者、創業家の方々とお話する機会が多かったように思います。オーナー経営者として経営の最前線にいらっしゃる創業者だけでなく、ビジネスの第一線はプロパー経営者に任せて「文化の伝承」だけに従事される創業者ともお話をしました。さらに本業でも創業家の方々の(諸々の?)お手伝いが多い一年でした。

創業者、創業家の力が強い企業では「経営トップの暴走を食い止めにくいガバナンス」が形成されているがゆえに不祥事は発生しやすいのではないか(不正リスクが高いのではないか)・・・と言われています。組織ぐるみの不祥事のリスクということでみれば、たしかに正しい一面もあると思いますが、最近世間を騒がせる不祥事は創業者、創業家の力の強い会社では発生しないのではないかと考えています。なぜなら、創業者、創業家は「組織のバランス」を慎重に見極められるからです。

どの事例とは申しませんが、工程ラインを止める、車両の運行を停止する、新規上場を延期することには勇気が必要です。多大な関係者に迷惑をかけ、多大なコストを必要とする以上、声を上げる人にはそれなりの覚悟と責任が求められます。おそらく、自分と家族の生活がかかっている一般の社員が自力でこの覚悟と責任を負担することは至難の業です。だとすれば、営業や研究開発、経営企画にモノが言えない品質管理や内部監査、法務や経理部門といった組織のバランスを変える必要があります。

業績と経営効率の向上が求められる企業において、創業家や創業者の重要な役割は、この組織間の力学上のバランスを図ることだと思います。「おかしい」と思えばラインを止める、運行を中止する、新規上場を延期する、という行動を執行部門のトップに進言することは、なによりもこの組織間のバランスがとれていなければむずかしい。ラインを止める覚悟と責任は、すくなくとも品質管理・保証部門や経理法務部門の組織全体で背負う必要があると思います。

「おまえら、法務の●●課長が『調査の必要がある』と言うとるんや!納期間に合わんのやったら謝ってこい!調べるほうが先や!」とオーナー経営者が怒鳴れば、これがひとつのストーリーになります。これでやっと法務や監査部門が「おかしい」と声を上げる土壌が生まれます。もちろん、この「おかしい」と声を上げた担当者が自身のスキル(社内の根回しなど、組織力学上のスキル)を磨かなければ評価されないことは当然です。しかし「声を上げても何も変わらない」といった組織風土だけは変えなければ、同じような不祥事は何度も繰り返されるでしょう。

上場、非上場にかかわらず、こういった「組織バランス」を慎重に見極めている創業者(創業家)が多いことに、最近気づきました。現在日本では2000名以上の組織内弁護士(企業内弁護士)がいらっしゃいますが、(これは独断と偏見かもしれませんが)オーナー色の強い企業で勤務している組織内弁護士の方々は、責任が重い代わりに大きな権限をもって仕事をされているように感じます。格付け会社がESG指標を評価基準に採用する時代となり、また内部通報制度の充実がSDGsの目標8および12に資すると消費者庁が宣言する時代です。どうすれば不祥事に強い組織となるのか・・・、これも企業価値の向上につながる課題ではないでしょうか。

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2017年12月12日 (火)

取引先社員による内部告発の脅威-大手ゼネコン役員辞職

本日(12月11日)ある会合で、新刊の拙著をお読みになった方から「以前出された本よりも読みやすくなったが、『内部通報』と『内部告発』の区別はわかりにくい。せめて『内部告発』は『外部告発』と表記すべきだ。そうすれば内部通報との区別もイメージしやすい」とのご意見をいただきました。外部第三者への社員による情報提供は「内部告発」という用語が一般的に使われているのですが、一般の方に向けた本であれば、たしかにイメージしやすい表記をすべきだったかもしれませんね(法律上の用語でもないので、今後は検討いたします)。

さて、当ブログの本日の話題はといえば、間違いなく多くのマスコミで取り上げられているこちらの記事になってしまいます(清水建設、執行役員辞職。下請け業者に実家の雪下ろしさせ・・・毎日新聞ニュースより)。最初に報じたのが毎日新聞ニュースでしたが、テレビニュースでは、多くの下請け事業者の社員が清水建設執行役員の方の実家に集まり、雪下ろしではなく「草むしり」をしている映像が映し出されておりました。報道では「マスコミからの照会により社内調査を進め、本件が発覚した」とありますが、テレビニュースには下請業者社員の方が(顔ボカシをして)インタビューに応じておられたので、まちがいなく内部告発(外部告発)でマスコミに情報が提供されたものです。

大手ゼネコンさんの不祥事といえば、偽計業務妨害罪容疑で捜査が進行している談合や賄賂といった事例が思い浮かびますが、(もちろん競争不正という意味ではとても違法性は高いのですが)「会社のためにやった」という意味では、日本人はやや寛容なところがあると思います。しかし「実家の草むしり、雪下ろしを下請け業者にやらせた」というのは私利私欲のための優越的地位の濫用であり、社会的批判はとても強いものとなるはずです。当該下請け業者の資本金が3億円以下なのかどうか不明ですし、ゼネコンさんが法人として利益(役務の提供)を得たわけではないので、下請法違反には該当しないのかもしれません。しかし、この下請け業者さんは福島の除染作業を請け負って100億円もの売上を計上していたそうですから、ゼネコンさんが見返りに業務を委託していたのではないか・・・といった疑惑を持たれてもしかたのない行為です。

本事件に関連するネット掲示板を読んでおりますと「ゼネコンと下請けの関係からすれば、こんなの日常茶飯事だろ」「告発した社員は下請け業者から解雇されるだろうな、余計なことしたんだから」といった書き込みが散見されます。もし、本当に掲示板の書き込みが正当な意見だとすれば、ゼネコンさんの社内調査は(税金が使われている受託事業である以上)かなりスコープを拡大する必要があると思います。また、清水建設さんのヘルプライン(内部通報規程)では、おそらく取引先社員による内部通報も許容しているはずですから、当該下請け業者社員による内部通報の有無も調査すべきです(もちろん、このような不適切行為が「公益通報」に該当しないとしても、下請け業者への報復的な取引制限については民事上問題になりうるものと考えます)。

かりに「こんなのゼネコンの世界ではあたりまえ」であったとしても、世間の常識とかけ離れていれば告発の脅威にさらされます。人手不足の折、今後は同様の不祥事発覚がさらに増えるものと思われますが、社内で問題行為を早期に発見するためにも内部通報制度を充実する必要があります。

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2017年11月29日 (水)

品質検査データ偽装事件の発覚経過を機関投資家はどうみるか?

今朝(11月28日)の日経朝刊「迫真」が、神戸製鋼所品質データ偽装事件を詳細に報じています。先週の週刊エコノミストの拙稿で、私が疑問を呈した二つのポイントについて、見事に記事で明らかになっていました。ひとつは公表に至った経過です。予想どおりだったのは、偽装を知った顧客が他の取引先にも偽装の事実を告げて、取引先からの問い合わせが殺到した、とのこと。意外だったのは、経産省が公表を迫っていた、ということです(日産さんの無資格検査問題の影響もあったそうです)。

そしてもうひとつが、本当に公表する意思があったのか、という点ですが、やはり社長さんは「ここまでの話やないんやけど・・・」といった感想を抱いていたとのこと。偽装の記者会見よりも、(事業にとってもっと大切な)世界鉄鋼協会の年次総会に出席することのほうを優先的に考えておられたそうです。これ、私も「ごもっとも」と思います。取引先には偽装の事実を誠実に告げて「これからは気を付けてください」と言われて一件落着していたのです。おそらく会社の経営幹部のすべてが社長同様「ここまでの話ではないんとちがう?」といった感想をお持ちだったはずです。だからこそ、神鋼事件を契機に多くの会社で調査を行い、たとえ品質データ偽装が判明したとしても、なかなか公表にまで至らないと思うのです。

本日、グループ会社における品質検査データ偽装を明らかにした東レさんにしても、ネット掲示板に品質検査データ偽装のうわさが流れ、取引先からの問い合わせがあったこと、先行する神戸製鋼さんの件が世間的に重大な事件を受け止められていることから公表に踏み切ったそうです(東レの社長さんは「神戸製鋼の件がなければ、当社でも発表は考えられなかった」と述べておられます)。これからも同様の発覚経過をたどって公表に踏み切る企業が出てくるものと予想します。なお、世間では今回の一連の品質検査データ偽装は「法令違反ではない」と評価しているようですが、こちらのエントリーでも述べたように、私は法令違反の可能性が高く、それほど軽視されるべきものでもないと考えます。

ところで、このような問題が発覚すると、当然に当該企業の株価は下がるわけですが、私は「組織ぐるみ」でないかぎり、またステイクホルダーに多大な損害が発生しないかぎりは機関投資家の企業評価自体は下がらないとみています。要はこのような不祥事発生への経営陣の関与、不祥事発覚時の経営陣の対応が全てであり、「この社長の言動に表と裏がないか」というところが機関投資家の注目点ではないでしょうか。

企業にとっては不祥事対応は「リスク管理」かもしれませんが、機関投資家にとっては不祥事対応は「企業倫理」とりわけトップの倫理観のほうが重視されると考えています(それにしても社内の常識と社外の常識がこれほどまでにズレが生じた例は珍しいのではないでしょうか)。今回の一連の品質データ偽装事件は、コンプライアンス経営とは何か、あらためて見つめ直す機会になりました。

有事対応に従事する者としては、企業がリスク管理として捉えてくれればお金になりますが、企業倫理を訴えてもお金になりません(笑)。しかし機関投資家の方々は、有事に至った経過や有事の経営トップの発言内容から、経営者の倫理観に着目する傾向が強いというのが私の感想です。「あとで株主代表訴訟に耐えられない」とか「その発言は取引先や行政に迷惑がかかる」さらには「どういった場合に公表すべきか、その判断ルールを社内で策定すべき」といったリスク管理的感覚でモノを言うのではなく、経営者が心底から他人に迷惑をかけるやり方で儲けない、といった気持ちがあるのかどうか、そこを知りたいのが機関投資家だと思います。

もちろん、これは自分の過去の失敗経験からの意見であり、統計調査に基づくものではないので仮設の域を超えるものではありません。ただ、稼ぐ力を取り戻すことが大事な世の中なのであれば、「走りながら考えるコンプライアンス」を実践するために、機関投資家のコンプライアンス経営への考え方を理解することも重要ではないかと思います。

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2017年11月27日 (月)

コシダカホールディングス社の財務報告内部統制に関する疑問点

東芝さんの先日の臨時株主総会の法的問題点を指摘した弥永教授のご論稿(最新の雑誌「ビジネス法務」に掲載されています)を拝読いたしました。やはり法律上は「定時株主総会」とみるべき、というのはその通りかと思いますし、監査委員会のPwCの監査への相当性判断については「不相当判断」と解釈されているのも、私は賛同いたします。一方11月18日付けの週刊現代には、東芝元会長の西田氏の独占インタビューが掲載されていて、こちらも読みごたえ十分でした。しかし第三者委員会というのも「報われない仕事」です。世間からは「東芝の意向を忖度したとんでもない委員会」と批判され、調査対象の当事者からは「罰則もない連中がウソばかり書きやがって!」と罵られる。それでも社会からの期待は結構大きいのですよね。

さて、24日に無事(?)定時株主総会が終了したコシダカホールディングスさんの話題です。総会招集手続きの瑕疵を「修正」「補正」で乗り切れるのだろうか・・・と関心を寄せておりましたが、山口三尊さんのブログに詳細な総会議事記録が掲載されていましたので読ませていただきました(いつもありがとうございます)。

会計監査人からの監査報告が受領されず、また監査等委員会の監査意見も出ないままに招集通知を発送するといったことが「補正」で間に合うという点は「あまりにも監査制度をないがしろにしたものであり、到底容認できない」といった意見も私の周囲からは聞こえてきます。重要なのは「結局は会計監査人から不適正意見もらえるんだからいいじゃないか」という「結果オーライ」の問題ではなく、監査意見をどこまで会社側が尊重するか、といったプロセスの問題ですし、総会で社長さんが何度も述べておられるとおり、内部統制に関する問題が、今回は大きかったと思います。

ただ、ここで「内部統制の問題」と述べるのはあまりにも抽象的であり、それだけでは問題の核心に迫ることはできないと考えます。つまり、コシダカさんのケースでは監査委員の方は「内部統制ができていなかった。これから早急に構築します」と述べていますが、コシダカさんは東証1部の上場企業ですから、私はすでに立派な財務報告内部統制の仕組みは出来上がっていると思います(会計監査人も新日本さんですし)。むしろ、今回は「仕組みはあるのに、あえて運用していなかった」、つまり全社的内部統制をわざと無効化したのではないか、といった疑問が湧いてきます。金商法上の内部統制報告制度が施行されて10年です。コシダカさんのような立派な上場会社が、これまで財務報告内部統制を構築していなかったとは考えにくいです。むしろあえて内部統制を無効化してしまったとみるほうが自然です。ではなぜ無効化してしまったのか・・・、つまり運用面での不備に至った原因を明らかにすべきです。

そしてもうひとつ、コシダカさんの株主総会では内部統制については「有効」か「無効」か、という点に関心が集まるのですが、やや論点がずれているように思います。内部統制報告制度も立派な金商法上の開示規制だという点を再認識すべきです。刑事罰も民事責任規定もあります。今回のコシダカさんの内部統制について問題になるのは「有効」とか「無効」といった問題ではなく、そもそも内部統制の評価を経営者が行っていたのか・・・という点です。評価を行っていなかったとすれば「内部統制の有効性」どころか、立派な虚偽記載になります。山口三尊さんのブログ内容が真実だとすれば、社長さんは「(内部統制に関する)担当人材が空白の時期があった」と述べておられます。今回のような信じられないミスが発生しているということは、この社長さんの陳述とも併せ考えますと、社長さんが財務報告に関する内部統制(とりわけ全社的内部統制)の評価を行っていなかったのではないか・・・との疑問が湧きます。

いままで内部統制報告書の刑事罰規定や民事責任規定(いずれも金商法上の責任規定です)が問題とされたことはなかったのですが、私は経営者がそもそも評価をせずに意見を表明している会社が多いのではないかと感じています(これは内部統制監査でもわかりません)。このあたりでもう一度、経営者が評価をしたと(金商法上で)解釈されるためには、どの程度、財務報告内部統制に経営者が関与しなければならないのか、問題が発生する前に客観的に見直してはいかがでしょうか。

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2017年11月24日 (金)

三菱マテリアルグループ会社の品質偽装とアデルソンの図形

私の新刊書の帯書きではありませんが、経団連会館に本店を構える非鉄名門企業のグループ会社でも、品質データ偽装事件が発生していたそうです。神鋼さんと全く同じで取引先から要求されていた仕様に満たない品質検査結果のデータを書き換えていた、とのこと。まさに「企業不祥事はかならず起きる」。三菱マテリアルさんの23日付けリリースを読みましたが、人間模様が出ていて(失礼ながら)とても興味深い内容です。

データ偽装を行っていた一社では、神戸製鋼さんが品質データ偽装を公表した翌日から自社でも品質監査を開始され、そこで品質偽装の事実が判明したそうです。そしてもう一社では、親会社(マテリアルさん)の品質監査要求に従って実施した社内監査により、今年2月に発覚した、とのこと。同社経営陣には3月に報告されましたが、同社経営陣が親会社に報告したのが、これも神鋼さんの事件が発覚した後の10月25日だそうです。週刊エコノミストの今週号に掲載された拙稿でも述べましたが、今回の品質データ偽装については、いずれの会社でも、「公表するほどの安全性の問題はない。誠意をもって取引先に報告をして、安全が確認されれば一件落着」との思いが強かったのではないでしょうか。

こうなってきますと、「やっぱり神鋼さんは組織風土に問題があった」などと安易に語ることはできないと思います。日本を代表する名門企業のグループ会社でもマスコミから批判されるような不祥事が起きてしまう。まちがいなく、神鋼さんの不祥事を契機に品質検査(品質監査)を行った結果、同じような結果が出た企業がたくさんあるはずです。とりわけグループ会社でデータ偽装が判明した親会社の場合、(株主から業績を厳しい目で監視されている関係上)三菱マテリアルさんのように潔く公表を決断できる企業は珍しいと思います(しかし三菱マテリアルさんは昨年12月の時点で品質監査をグループに厳しく要請していたようなので、先見の明があったのでしょうかね?)。

私も一社、三菱マテリアルさんとは関係のない某社の有事対応に関わっておりますが、その会社の不正(偽装と仲間内での放置)を見ておりまして、アデルソンの図形を思い出しました。

Aldeson

Aldeson2

不祥事を起こしてしまう組織風土とアデルソンの図形との関係は、上記図の左の解説をお読みいただけると幸いです(もちろん、私の試論なので、いろんなご異論はあると思いますが)。ちなみに上の図で、私はいまでもAとBのパネルの色が同じには見えないのです。ためしにPC上でBを切り取ってAに重ねると、やっぱり同じ色なんですね。社内で常態化している作業について、たとえルール違反があったとしても、出荷を止めなければならないほど悪いことと認識するのは、現場も経営者も含めて、かなりむずかしいのではないかと。「おかしい」と口に出して言うことは、上図のような違和感(目の錯覚を認識すること)を超えることではじめて可能になると思います。

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2017年11月 3日 (金)

神戸製鋼データ偽装事件-複数の役員が黙認していた

11月3日夕方のNHKニュースが報じていますが、神戸製鋼さんが製品の検査データの改ざんを繰り返していた問題で、現場の従業員だけでなく、過去の複数の役員も不正を認識していたことが関係者への取材で判明したそうです。アルミ床関連工場の従業員だった方が工場長となり、その後本社の役員に昇格したそうで、そのままデータ偽装を黙認していたとのことで、まさに10月16日のエントリーで「私が注目しているポイント」として予想していたとおりでした。この「関係者への取材」というのは、「元役員」の方で、「ほかにも知っていた役員がいる」と証言されています(調査委員会による調査結果が待たれます)。

中央経済社「企業会計」2016年8月号に掲載された拙稿「内部統制システムの構築義務:二つの裁判から考える法的責任論」では、かつての神戸製鋼所による総会屋利益供与、ベネズエラ大統領候補者への不正資金提供に関する株主代表訴訟を取り上げました。そこでも触れましたが、相当数の取締役や従業員が不正に関与していたことを根拠に、元代表取締役らには法的義務としての不正防止に関する内部統制構築義務があるとの所見が裁判所から表明されました。

元取締役の方の話によりますと、検査データの改ざんは少なくとも40年ほど前から行われていたということで、会社の経営陣の間で不正の情報が共有されず、対策が取られていなかったそうです。つまり(役員の一部は知っていたとしても)経営トップは知る由もなかったということかもしれません。しかし、2002年の裁判所所見では「もし元代表取締役が、これら(総会屋への利益供与や海外高官への利益提供)の不正を知らなかったとしても、元代表取締役が義務違反を免れる弁明にはならない」とも述べられています。神戸製鋼さんに高いコンプライアンス意識が求められていた2002年当時にも、今回のデータ偽装が組織ぐるみで行われ、是正されずに今日に至ったとすれば、きわめて大きな問題だと思います。

さらに、元役員の方は(複数の役員が不正を認識していたことを認めたうえで)「不正の背景には納期優先、コスト優先の考えがあり、工場にプレッシャーをかけた経営陣にも責任がある」と話しておられるそうです。役員もプレッシャーを感じ、不正を認識していたとなれば「不正をやってでも納期を守れ、コストを下げろ」ということでしょうか。もしそうであるならば、もはや「組織風土」といった問題を越えて、国内外で刑事手続きに発展してもおかしくないような有事です。残る疑問としては、神鋼さんは今回の偽装データ事件について、どうして自ら公表する気になったのか、その理由です。役員さんが認識しているような事態ともなれば、「隠すことに賭ける」のが筋でしょう。この点も調査委員会の調査結果を待たねばなりませんが、まだ何か隠されているようで、とても深いナゾです。

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2017年10月27日 (金)

神鋼品質データ偽装事件-組織に蔓延する「納期のプレッシャー」

さて、本日も神鋼さんの経営トップの記者会見があり、機械部門における新たな不適切検査が判明したことや外部調査委員会が設置されたこと等が公表されました。不正の範囲や損害の範囲が未だ確定せず、先が全く見えないという意味において、神鋼さんの件はかなり深刻な不祥事例になりそうです。

ところで品質検査の現場がなぜ、長年にわたって不適切な検査を繰り返していたのか・・・という点ですが、経営トップの方は「納期のプレッシャーがあったかもしれない」と述べておられます。この「納期のプレッシャー」というのは、「経営陣からのプレッシャー」の一環として、すべてが経営陣の責任であるかのように受け取られることがあります。

しかし、経営陣からのプレッシャーよりも、各部署からのプレッシャーのほうが強かったのではないかと想像します。たとえば営業部門です。納期について一番強い関心を持つのは取引先に約束をしている営業部門ではないでしょうか。信頼関係が破壊されてしまうと成績に一番影響が出るのが営業部門です。製造部門と営業部門とのチカラ関係に大きな差があると不祥事の芽となります。

また、品質管理部門が「品質と満たしていない」として製造部門に作り直しを要求しても、製造部門のほうが「期限を守ることができない」といって再製造を拒否することも考えられます。要求品質に適合した検査数値が出ないのは、ウチの責任ではなく、品質管理部門のスキルが低いからだ、として納期を守れない責任を品質管理部門に押し付ける・・・ということも、他の性能偽装事件で問題となりました。これもやはり品質管理部門と製造部門とのアンバランスな力関係に起因します。

さらに、商品製造過程において、品質管理部門が「おかしい」と声を上げることができない体制が存在するのではないかと。納期ということよりも、そもそも品質管理のところで「作り直し」を堂々と言えるのでしょうか。「ひょっとしたら自分の検査に問題があるかもしれない」といった気持ちを持ちながらでも「おかしい!」と口に出して言える雰囲気があるのでしょうか。

出荷までの準備がすべて整っていて、あとは検査数値を入れるだけですぐに出荷、という段取りの中で、「ちょっと待って!これやり直し!」と言えるビジネスの環境があるのでしょうか。毎日のように品質検査がクレームを入れるのが通常だとすれば問題ありませんが、そもそも品質管理の意見が通る体質の組織なのかどうか、そこから疑ってみる必要があるように思います。いわば最終検査を行う部門がどの程度、組織内でリスペクトされているか、といった問題です。

本日の記者会見でも経営トップの方が「取引先と連日、商品の安全性確認作業を行っていますが、安全性に問題が認められた商品は一切ございません」と述べておられました。ということは(前にも述べましたが)取引相手先の、少なくも納品検査担当者は「要求水準を満たしていないかもしれない」といった疑問を持ちつつも、さらなるサプライチェーンへの納品遅れを回避するためにノーチェックで通していたということも可能性としては否定できないように思います。このような疑惑は不祥事を起こした神鋼さん自身は口が裂けても言えない疑惑なので、それこそスコープを広げて外部の第三者委員会が調査すべきと思います。

神鋼さんの件でも、日産さんの件でも「納期へのプレッシャー」と言われ、それが誠実な社員であればあるほど不正への動機になるようにも思われますが、実はもう少し組織全体に横たわっている構造的な欠陥に起因している可能性もあるように思います。いや、一人ひとりの仕事に対するプライドの問題かもしれません。自分の部署さえ会社の期待に応えていれば、他の部署が不正に手を染めたとしても無関心・・・といったところも「納期へのプレッシャー」の表れといえそうです。

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