2017年2月21日 (火)

産地偽装米騒動第2ラウンド-JA京都・米卸会社による反撃開始

2月14日のエントリー「マスコミ単独のスクープ記事から『企業不祥事』は生まれるか?」におきまして、産地偽装米を流通させているとして報じられた京都の米卸会社に関連する週刊ダイヤモンド誌の単独スクープ記事を取り上げました。本日発売の週刊ダイヤモンド誌(2月25日号)では、続報記事が掲載されておりまして、どんな新たな事実が報じられているのだろうかと期待しておりましたが、先行するWEBニュースで報じられた内容以外に、あまり新たな事実は掲載されていませんでした。「ついに行政検査に発展!」との見出しですが、そもそもダイヤモンド誌による告発は2月13日であり、行政調査はその前の2月10日なので、前号発売の時点で予定されていた記事といえそうです。

また、前回エントリーでも述べたとおり、単独誌によるスクープ記事というのは、なかなか後追いしてくれるマスコミが登場しないケースが多く、これまでいくつかのテレビニュースでは取り上げられましたが、他紙記者による取材によって新たな事実が判明した、ということは報じられていません。通常、このような行政検査が行われますと、多くの社会部(ぶらさがり)記者の方々が検査から判明した事実を(行政官からコソッと聴取をして)取り上げるのですが、そのような気配もないようです。

一方、京都の米卸会社及びその親会社であるJA京都中央会は「報じられているような大量の中国米が混入することなどありえない、週刊ダイヤモンド誌と当該記者を謝罪広告等を求めて民事賠償請求訴訟を提起した」とリリース(HPでのリリースからみると刑事告訴の準備もしている模様)。2月16日には産地偽装騒動特設HPをJA京都中央会HP内に新設し、連日の自主調査の結果を報告しています(なお、調査にあたっている農協監査士10名の名前も実名で公表しています)。

本日(2月20日)は複数のテレビ局を通じて、JA京都中央会が自主調査の様子を一般公開して、自主調査の公正性・透明性を訴えています(たとえばこちらのニュース等)。公平な立場で考えると、米卸会社・JA京都中央会側が一気に反攻に転じた形です。農水省による調査は続いている状況なので、今後どのような展開になるのかは不明ですが、「同位体研究所」における調査分析の信用性を含めて、真偽が明確になるまではかなりの時間を要することが予想されます(もちろん、内部告発や内部通報といった情報が駆け巡る事態となれば事件の急展開も考えられますが)。

私がこの話題に関心を寄せる理由は、なんといっても本事件の顛末が公益通報者保護法の改正問題にも影響を及ぼすのではないかと考えるからです。大手マスコミは同法における公益通報先である「第三者」の典型です。マスコミによる報道が不正事実発覚の端緒となることが想定されるわけですが、しかし公益通報に十分な証拠が存在しない場合には、被通報事業者は「風評」によって多大な社会的信用毀損に陥ります(おそらく、マスコミは記事内容の真実相当性を担保する資料に基づいて報道した、と主張することで敗訴することはないと思いますが、事業者側は名誉回復行為だけでは到底社会的信用を回復することはできません)。国民が「安全よりも安心」を選択する時代となったため、いったん風評被害に遭った事業者はなかなか立ち直れないというのが現実です。

公益通報者保護法の改正審議の中では、通報者の「正義」ばかりに光が当たりますが、その「正義」保護の裏で、回復しがたい風評被害に泣く事業者(およびそこで働く社員・家族)を作り上げるリスクがあります。今回のダイヤモンド誌の単独スクープも、内部告発者によるスクープでは起こりうる事態であり、これがスパッと不正発覚につながればよいのですが、このまま事件が長期化し、結局シロだったとされ、もしくはグレーのままうやむやになってしまえば、「ほら、やっぱり公益通報者保護法の改正は人権上危険ではないか」と指摘を受け、法改正見送りの立法事実として引用されてしまうことになりかねません。私は双方とも利害関係がなく、極力公平な第三者としての視点で事件を見守るつもりですが、「出てほしい」結果を抱けば「予断」を招きかねません。今後報じられるマスコミからの報道においても、極力「認識」ではなく「事実」に焦点を当てて検証してみたいと考えています。

 

2月 21, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年2月 8日 (水)

法令解釈にも「健全なリスクテイク」が求められる時代

日経コンピュータ2月2日号「ITと法規制」特集において、「法的にグレー」こそイノベーションの源、日本が米国に負ける理由 と題する記事が掲載されていますが、その内容にとても共感いたしました。ここで書かれていることは、私がコンプライアンス関連の講演でも、まったく同じことを申し上げるところでして、海外事業を展開している多くの企業の法務部門が感じているところではないでしょうか。最近、日本企業の中にも、コーポレートとカンパニーに法務を分断して、「現場に寄り添う法務」として、リスクのとれる法務部門を実践する企業も出てきた、ということを、あるベテランの企業内弁護士の方から伺いました。

昨年、東芝メディカルシステムズ社の買収を巡って、キヤノンさんと富士フイルムさんで争奪戦があり、公正取引委員会から異例の注意声明が出されました。当時、私は多くの法務担当者に「(マスコミで報じられていることが真実だとしたら)あなたなら、キヤノンさんと富士フイルムさんと、どちらの経営判断を社長さんに勧めますか?」と質問してみました。すると答えは(こちらの期待どおり?)大きく二つに分かれたことを憶えています。

答えはどのようなものであれ、そのときにグローバル企業の法務部長さんからよく聞こえてきたのが

「我々と大手法律事務所さんとの付き合い方は、この10年で激変した、立場が逆転したとまでは言わないけど、問題解決の主導権は、次第に法務部側に移りつつある感じますね」(すいません、少しソフトな言い回しに表現を変えております)

といった感想でした。法務部といえば、昔は(どうすればリーガルリスクをとらないで済むのか)外部の専門家の意見を拝聴する、といった立場だったのが、現在は自分たちが法解釈のリスクをとるにあたり、必要な点だけ外部の法律家に支援を求める(だからこそ、自分たちのリスクを最小化するためのレベルの高い専門的かつ詳細なスキル、経験を求める)とのこと。この記事では、IT企業における改正個人情報保護法問題を例にとって解説されていますが、他の一般企業に対する行政規制全般においても「法の目的と手段の取り違え」は重要な課題だと思います。事前規制社会から事後規制社会へと移り変わり、事前規制手法がハードローからソフトローへと移り変わっているにもかかわらず、法務や経理、監査の仕事(役割?)が変わっていないことのリスクです。

おそらく「法的にグレーこそイノベーションの源」であり、競争上の重要な課題である、と認識しているのは法務に関わっておられる方々のみで、経営陣が重要な課題だと認識しておられないことが大きな要因ではないかと思います。役員セミナー等では、社長さんの前で「最高法務責任者としての取締役を置くべき」と申し上げるところですが、企業内弁護士のような方々はたくさんいらっしゃっても、CLO(チーフ・リーガル・オフィサー)を置いて、事業戦略に法務を活用されている会社はまだまだ少ないと感じています。法的にグレーであることと、コンプライアンス上問題が多いこととは全く別です。だからこそ、当ブログでも12年ほど前から「闘うコンプライアンス」「行政法専門弁護士待望論」なるカテゴリーでときどきエントリーを書き続けていますが、なかなか世間的に理解していただくのはむずかしいようです。

営業秘密の漏洩防止対策を考えるにあたっても、法務系とIT系の方々の合同チームで検討するとおもしろい傾向が出ます。法務系の方々は、最初から通路を2本作って、絶対に重要情報にアクセスできないことを推奨します。しかしIT系の方々は、通路は1本だけど、おかしな動きをしたら警告を発したり、漏洩は必ずフォレンジックで発覚することの周知を推奨します(法務は「機会」に、IT系は「動機」に訴えかける)。どちらの発想が、よりビジネスの現場実務に採用されやすいでしょうか?この記事にあるような発想で、法務をビジネスチャンスにつなげる感覚が日本企業には必要だと痛感します。

 

2月 8, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月 6日 (月)

三菱自動車燃費偽装問題-日産にも課徴金処分は下るのか?

皆様すでにご承知のとおり、1月27日に消費者庁から三菱自動車さんに対して課徴金納付命令が発出されました。昨年発覚した燃費偽装事件に関して、パンフレットやネット上でのCMについて、優良誤認表示が認められた、ということです。昨年4月1日に施行された平成26年改正景品表示法ですが、新設された景表法に基づく課徴金処分の第一号ということで、マスコミでも大きく報じられています。

今回報じられている課徴金処分ですが、これは「後から調査したら普通自動車にも偽装があった」と三菱さんが公表したものに関する不当表示が対象です(課徴金処分の根拠法が施行された4月1日から不当表示をやめた8月30日まで)。軽自動車については、あの記者会見が開かれた昨年4月20日に、三菱さんも(OEM供給を受けた)日産さんも表示を中止しているわけですが、こちらについては両社とも、消費者庁が課徴金処分を検討しているということのようです。

ところで1月27日の日経新聞記事によりますと、日産さんも景品表示法上の被害者返金計画の認可を消費者庁から受けていること、「日産も燃費問題に気付いていたのにその後の対応が遅かった」として措置命令を受けたことが報じられています。つまり、この記事内容が真実だとしますと、燃費偽装を行った三菱さんだけでなく、偽装を指摘しながら、その後の対応が遅かった(とされる)日産さんにも課徴金納付命令が下る可能性がある、ということですね。

「記者会見が(たとえば昨年3月中とか)もう少し早ければよかった・・・」と日産の関係者の方々も後悔しているかもしれません。燃費偽装に関する第三者調査委員会報告書によると、燃費偽装の疑いを日産が最初に指摘したのは平成27年の秋ころと記載されています。その後は日産と三菱で共同調査が行われ、偽装が判明して記者会見となるわけですが、その間に新しい景品表示法の施行日を迎えることになりました。組織としての過失が日産に認められた・・・と消費者庁から認定されることについては、日産さんとしては納得できるものでしょうか?

日産さんの今後の対応として考えられるのは、①消費者庁から認可を受けた返金措置計画に沿って返金を完了し、結果として算定される課徴金額よりも返金額が上回ることで課徴金処分を免れる、②ガイドラインでは、不当表示に気が付いてすみやかに表示を中止した場合には課徴金処分を免れることになっているので、自社の対応は「すみやかに表示を中止」した場合に該当すると主張して相当な注意を怠っていたものではないと反論すること、③返金額が算定額に不足した場合には素直に課徴金処分に従うこと、のいずれかかと思われます。

実施予定返金措置計画の認可については、当該企業の商品・サービスの内容、認定申請前の任意のリコールの状況等によって認可に関する難易度が変わると思いますので、ここでは触れません。しかし、「不当表示であることを知らないことについて相当な注意を怠っていなかった者」に、今回の日産さんが該当しないとなると、消費者庁の見解は相当に企業側に厳しいものといえるのではないでしょうか。三菱さんに対する課徴金処分の文面をみますと、「相当な注意を怠っていない」とする企業側が、その相当性を根拠つける事実を指摘しなければならない(そうしなければ立証に成功しない)ことがわかりますので、企業側の大きな課題になりそうです(また、企業法務的には不当表示の自主申告に関する消費者庁の取り扱い等も興味深い論点ですが、こちらはまた別の機会に指摘したいと思います)。

たとえば優良誤認や有利誤認に関する内部通報や内部告発が届いた場合、その調査に手間取って報告や公表に時間を要した場合、「速やかな対応とはいえない」と行政から判定されることは、どこの企業においても十分に考えられます。「相当な注意を怠ったとはいえない」とはどのようなものか、法26条の体制整備義務の十分な履行がこれにあたることは間違いありませんが、平時だけでなく有事における企業対応の状況にも関わるものだと理解しておいたほうがよさそうですね。軽自動車の燃費偽装問題に関する今後の消費者庁の判断が注目されるところです。

 

2月 6, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月24日 (火)

企業コンプライアンスから考えるクロレラチラシ配布差止事件最高裁判決

すでに多くのSNS等でも話題になっていますが、本日(1月24日)、最高裁第三小法廷は、企業法務に相当な影響を及ぼすと思料される判決を出しました(判決全文はすでに公開されています。クロレラチラシ配布差止等請求事件平成29年1月24日第三小法廷判決)。適格消費者団体による差止めの対象となる事業者の「勧誘」(消費者契約法4条1項1号)に、事業者の「広告」が含まれるかどうか、といった解釈について、最高裁は「広告も含まれる場合がある」としました。

実はこの最高裁事件は、地裁、高裁レベルでは、景品表示法上の差止根拠となる「優良誤認表示」の該当性が主たる争点でした(他にも「広告」と「働きかけ」の区別に関連する重要な争点がありましたが本日は割愛します)。大阪高裁(平成28年2月25日判決)は、主たる争点だった優良誤認表示の該当性判断は回避して、(現時点において、事業者は問題とされたチラシは配布していないので)差止めの「必要性なし」といった判断で肩透かし判決を出し、本論点(消費者契約法上の論点)についても傍論的に適格消費者団体側(被控訴人)の主張を一蹴していた感がありました。

ところが最高裁は、高裁が「『勧誘』には不特定多数の消費者に向けて行う働きかけは含まれないところ、本件チラシの配布は新聞を購読する不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであるから『勧誘』に当たるとは認められない」とした判決理由を「法令の解釈適用を誤った違法な判断」としました(ただし、差止めの必要性はないとした高裁の判断は妥当として、結論的には適格消費者団体側が敗訴確定)。消費者契約法の解釈として、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが「勧誘」にあたらないということはできないというべきである、と判示しています。これは明らかに消費者庁の担当者見解とは異なるものです(「逐条解説・消費者契約法第2版補訂版」商事法務2015年 109頁参照)。

従来、法解釈の明確化が議論される中で、IT関連事業者を中心とした経済団体(新経済連盟)は「不特定多数の消費者に向けられる広告を『勧誘』に含めることは暴論であり、断固反対」と主張していましたが、経団連の意見書では強く反対と言いつつも、「すべての広告が勧誘に該当する、といった解釈はとるべきではない」として、今回の最高裁のような解釈を許容するようなニュアンスは残していました(おそらく経団連さんも、ネット社会における広告の変化は無視できないと考えておられたものと思います)。ともあれ、BtoC事業者の商品・サービスの広報にとって、今回の最高裁判決が及ぼす影響はかなり大きいものと思いますし、直近では三菱自動車の燃費偽装事件の集団訴訟にも影響が出るのではないでしょうか。

とりわけ私自身が企業法務にとって重要と考えるのは、この最高裁判決が昨年10月に施行された消費者裁判手続き特例法、今年6月3日に施行を控えた改正消費者契約法と親和性が高いという点です。差止めを求める「消費者団体訴訟のステージ」ではなく、特例適格消費者団体を中心に契約の取消・解除、返金、損害賠償を求める「消費者被害回復訴訟のステージ」で企業が消費者と闘うことのリスクは極めて大きいはずです(昨年12月に第一号が誕生しましたが、今年も次々と特例認定を受けた適格消費者団体が誕生します)。

「広告を含めた消費者への働きかけが消費者契約法上の『勧誘』に該当する可能性がある」といった最高裁の「お墨付き」が得られた以上、事業者の広報活動は常に消費者による「提訴リスク」に晒され、その結果としてたとえ勝訴したとしても提訴されたことによるレピュテーションリスク(ブラック企業?グレー企業?)が生まれます。また、提訴自体がマスコミで広報されることで、従業員による内部告発も誘発します。その結果、社内情報が消費者団体に流出し、有力証拠となって敗訴リスクも高まります(このたび、DeNAさんがキュレーションサイト問題で追い詰められて、謝罪会見に至った経過をみれば明らかです)。

消費者と向き合う事業者のお目付け役は消費者庁です。しかしわずか300名程度の小さな省庁が、日本中の事業者を監視することは到底困難であり、ましてや同庁が行政処分や刑事罰の告発に関するデュープロセスを担うには無理があります。そこで最高裁は、消費者裁判手続き特例法の施行を契機として、消費者ひとりひとりに事業者のお目付け役としての地位と責任を付与したのが今回の判決の趣旨だと理解しています。まさに行政は消費者の力を活用して企業規制を効果的・効率的に強化することになるわけでして、企業は消費者行政の転換に留意する必要があります。

これまでも消費者庁の有識者委員会等で、広告も勧誘に含まれるとする学者の方々の意見、そして下級審判断もありましたが、最高裁の判断はきわめて重いものです。今後は、ガイドライン等でのマニュアル化も一定程度は進むものと思いますが、多くは裁判を通じて「その消費者への働きかけは勧誘に該当するかどうか」といった争点が形成されることになるものと推測します(さあ、御社は敗訴リスクを背負いつつ徹底的に争いますか?、それとも『弱気な和解で悪しき前例を作るな!』と他社から非難されつつも、火の粉を振り払うために消費者団体と和解をしますか?)。

1月 24, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年12月27日 (火)

違法残業による社名公表制度-求められる内部通報制度充実への真摯な取組み

(12月27日午前1時30分 追記あり)

本日(12月26日)のニュースでは、厚労省が違法な長時間労働を放置する企業の社名公表の要件を厳しくすることが報じられています。電通さんの過労死事件への社会的関心から、厚労省では緊急対策がとられたそうです(ただし、私は電通社員の方の過労死は長時間労働問題よりもパワハラ問題のほうが大きいのではないか、パワハラを許容しない職場環境を整備できなかったことのほうが問題ではないか、と考えていますが)。

(追記)厚労省の緊急対策にはパワハラ防止策も盛り込まれたそうです。労基法にはパワハラ規制の条文がないために、今後の監督対応がどのようになるのか、やや疑問が残るところですが一歩前進ですね。

パワハラ問題への個人的な見解は別として、このような厳しい厚労省の措置が施行される以上、社員による監督官庁への内部告発は「ブラック企業への引き金」となる可能性が高くなりました。もし現場の問題行為を社員が見つけた場合には、内部告発ではなく、速やかに内部通報(社内通報)がなされるかどうかが「ホワイト企業へ引き返す黄金の橋」になりそうです。

誠実な企業の社員の道徳観には二通りあります。ひとつは会社や上司、同僚への忠義や義理を最優先に考える道徳観。チームプレーを大切にして、他社と競争するときには強力な力を発揮します。もうひとつの道徳観は忠義や義理よりも「正しいことをやりきる」「たとえ社命でも決して悪いことはしない」という仁徳を最優先に考える道徳観。たとえお世話になった組織の不利益になることでも悪いことは悪いと指摘して組織に改善を求め、それでもダメなら外から改善を要求するタイプ。いま、日本の企業にはこの二つのタイプの道徳観が混合しつつあるように感じます。コンプライアンスを語る際にも、この二つの道徳観をどう調和させるか・・・といったところにとても気を配ります。

長時間労働を一律に厳しく規制することの是非については、この二つの道徳観が混在する中で議論がかみ合わない状況ですが、働き方改革、労働の流動化促進等、労働環境の変化にともなって「正しいことに見て見ぬふりは許されない」といった道徳観をもった社員の方々が確実に増えています。したがって内部告発は会社への恨みや個人的利益のためではなく、個人の倫理観、道徳観に起因する職場環境改善を目的としたものが増えており、当然のことながら集団化、組織化しているのが最近の傾向です。

企業が持続的な成長を図るためには、社内の社員層に「断裂世代」を作ることは避ける必要があります。しかし「ブラック企業化」がたとえ一時的であったとしても、3~5年間の優秀な社員がいない空洞化(断裂化)現象を作ってしまい、これはどんな名門企業でも競争上の致命傷となります。いまこそ真剣に断裂化現象を極力回避するための内部通報制度(違法残業の予兆を速やかに社内発見する制度)を充実させる方策を検討すべきです。

12月 27, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年12月16日 (金)

企業は監督官庁のコンプライアンス違反を監視すべきである

驚いた方もいらっしゃると思いますが、本日(12月15日)の日経ニュースによりますと、大企業が(下請け先等の)中小企業からの値上げ申請に対して誠実に対応することを政府(中小企業庁)が基準を作って要請する方針だそうです。基準自体に罰則は設けないそうですが、大企業が中小企業との協議に応じず、値上げを拒否する場合などは下請法違反(買いたたき)にあたる恐れもある、とのこと。いわゆる「グレーゾーン」を活用してハードローの脅威で企業規制を行うという近時の典型例ですね。「働き方改革」に関わるコンプライアンス対応は、来年にかけてますます企業のレピュテーションに影響を及ぼすものになりそうです。

ところで当ブログでは10年以上前から「行政法専門弁護士待望論」を掲げていますが、ここ数年、待望する気持ちは強まるばかりです(ある業界からは「おまえがやれ」と言われおりますが、専門といえるほど実務経験がないので私にはちょっとむずかしそうです・・・すいません・・・)。行政権限の脅威をもって監督官庁が(行政の望ましい方向へ)企業規制をかける場合、行政権限発動の要件が問題となるのですが、これが結構「穴がある」ケースが見受けられます。法律専門家だからこそ、この穴を上手につつけるスキルというものがあるわけです。

以前、性能偽装事件の企業対応を支援したケースでは、偽装をした企業が一番悪いのは当然ですが、偽装が長年発覚しなかった原因は、行政の検査方法が法令に違反した形で行われていたこと(つまり手抜き検査をしていたこと)によるものでした。最終的には行政処分が課せられるにあたり、そのあたりの行政のコンプライアンス違反が影響したのではないか、と思われる裁量権行使がなされたように思えました(あくまでも「思えた」だけであり、そのような手加減が加えられた、という事実が存在したわけではございません。念のため・・・)。

行政の効率化が進むにしたがって、行政組織内においても不祥事の芽はずいぶんと増えてきたように感じます。たとえば人手不足です。誤解をおそれずに申し上げますと、企業も監督官庁のコンプライアンスを厳しく監視していれば(行政のデュープロセス違反をチェックすること)、それが企業にとってもメリットとなって返ってくる可能性もある、ということではないかと。いや「メリット」という言葉が不適切だとすれば、再発防止に向けた「共助」が進むことになるのではないかと思います。

この発想で考えますと、企業規制がハードローだけではなくソフトローも多用する時代になればなるほど、企業にとってお得感が高まるのですね。決して不祥事を起こしてしまった企業の「逃げ道」を探るようなものではありませんが、企業不祥事は社員だけではなく、組織の構造的欠陥によって発生する、ということを真摯に考えますと、その先には企業と行政との組織間の構造的欠陥にも起因するところがあるのではないか、といった考え方にたどりつくのもいたって自然な気がいたします。最近の労務コンプライアンス問題が、労働者の保護ということだけでなく、(労働者の保護を通じた)国民の生命、身体の安全に向けられてきたことをみておりますと、この考え方はますます説得力が増すような気がいたします。

12月 16, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年12月12日 (月)

電通過労死事件の背後にはガバナンス、コンプライアンス問題がある

平成29年度の与党税制改正大綱が公表されましたが、組織再編税制にはかなり大きな改正が予定されています。最近の「攻めのガバナンス」に対応するものですが、事業再編やM&Aの手法選択にも影響が及ぶようなので、法案審議後にきちんと勉強しておく必要がありそうですね。

さて、3日ほど前のマスコミ報道で、電通さんが長年の営業の鉄則を示した「鬼十則」を廃止し、社員手帳から削除することを正式に決めたことが報じられていました。私も、11月21日付エントリー「電通過労死事件-企業行動規範を三次元で考える」におきまして、鬼十則削除に関する問題点をそこで述べておりますが、どうも報じられているところによると鬼十則は完全に廃止されるようであります。

ところで文芸春秋の今月号(2017年1月号)に、電通の元常務の方による「電通は本当に悪いのか」といった10頁ほどの論稿が掲載されていましたので、興味深く読ませていただきました。過労死事件でご遺族側の代理人をされている弁護士の方が、同誌12月号に論稿を発表されていたので、(タイトルからみても)これに対する電通OBによる反論(電通擁護論)が掲載されているものだろうと思って読み始めました。しかしその内容は、電通擁護論などといったものではなく、逆に元常務の方によるたいへん電通さんの組織に対する厳しい指摘が中心です。

一言でいえば、このたびの電通さんの不適切広告問題、過労死問題は、決して「鬼十則」に代表されるような電通さんの精神論に起因するものではなく、電通さんのコーポレートガバナンス、コンプライアンスの不全に起因するものである、ということです。鬼十則を廃棄するといったことでは到底過労死問題の再犯を防止できるものではない(それはあくまでも対外的なポーズである)、電通さんの体質を本気で変えなければご遺族の方々の期待に応えることはできない、とのこと。私が11月21日付けエントリーで懸念していたことが、電通の元役員の方から厳しく指摘されていることは、やはり社内の方々だけでは容易に変えることができない構造的欠陥がそこに潜んでいるということではないでしょうか。

どのような体質がガバナンス、コンプライアンスの課題であるかは上記文芸春秋をお読みいただきたいと思いますが、ただ私が感じたことは、元常務の方が「電通の特殊体質だ」と指摘しておられる点は、ほかの企業においても多かれ少なかれあてはまるものと確信しております。最近のDeNAさんの不祥事でも同様ですが、重大な不正リスクを認識することはできても、その不正リスクがあるからといって新規事業をストップできる企業などほとんどありません。結局はゴーサインを出さなければ利益を獲得することはできないのですね。

それでも現実には不祥事を顕在化させる企業と顕在化させない企業に分かれるのです。だからこそガバナンスとコンプライアンスの課題がそれぞれの企業に横たわっているのであり、重大な不正リスクを認識しつつもトライアル&エラーの思想で経営判断にゴーサインを出す知恵が必要になるものと思います(「そもそもグレーゾーンに侵入するくらいなら、この事業はやらない」と決定できるのは社長さんくらいでしょう・・・)とりわけ電通さんのように、現場部門と管理部門の力関係に大きな差がある企業(元常務さんの評価による)の場合には、この「知恵」がとても大切だと感じています。

12月 12, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年12月 7日 (水)

電通事件-真綿で首を絞めるソフトローの実効性(プレッシャー)

電通さんを取り巻くソフトローについて、ときどき考えることがあります。大きく分けて二つの問題があるように思います。

ひとつは労働問題(過労死)問題です。2020年東京オリンピックについて、立候補ファイルには「ISO20121 イベント・サステナビリティ・マネジメントシステム認証において、持続可能な社会、環境、経済に関する新しい基準を遵守していく」と明記されて、組織委員会もアクション&レガシープランに「持続可能性」を掲げ、専門委員会も設置しています。今後はロンドン大会を参考に、ステークホルダーへの啓発運動も行われるようです。

そこで、電通さんの今回の労働問題によって、電通さんは今後の東京オリンピック関連の仕事を続けていくことはできるのでしょうか?もし可能であるならば、それはオリンピック組織委員会はどのような理由で電通さんにお仕事を依頼できるのでしょうか。また、これはどの程度、他の大手広告代理店にとって関心の的になっているのでしょうか(誰か、こういった疑問を抱く人はいないのでしょうかね?)

そしてもうひとつは広告料の不適切問題です。米国広告主協会が電通の不適切広告を広く紹介していますが、そうであるならば日本の広告主協会(日本アドバタイザーズ協会)も、そろそろ電通さん含め、大手広告代理店のデジタル広告に関する調査を開始しているのではないかと推測いたします。業界団体ではなく、広告主さんの団体ではありますが、電通さんを含め、広告代理店業界の自主規制を要望するようなことはないのでしょうか?

業務への影響がどれほどかは門外漢の私には測りかねますが、いずれにしても(コンプライアンスを扱う法律家の視点からは)ハードローではなく、ソフトローによる電通さんへの締め付けがどれほどのものになるのか、また他の広告代理店にどれほどの波及効果があるのか、あまりマスコミで報じられていない視点ではありますが非常に興味があります。

12月 7, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年11月21日 (月)

電通過労死事件-企業行動規範を三次元で考える

11月17日、新人社員の方の過労自殺事件、その後の強制捜査を受けて、電通さんは「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などの言葉が並ぶ「鬼十則」という仕事の心構えについて、来年の社員手帳から削除することを検討している、と報じられています(たとえばロイターニュースはこちら)。

Obekka23_3現役の電通社員の方々からすれば、上記ニュースにもあるように電通の営業指針が廃止されることは衝撃的でしょう。そういえば4年ほど前に読んだホイチョイ・プロダクションズさんの「戦略おべっか」の中に、この「鬼十則」のいくつかの条項について、その意味するところがストーリーとして解説されていました(本書は最近電通マン36人に教わった36通りの『鬼』気くばり」と改題されて 文庫化されています)。

ところで、なぜこのような営業活動のための行動準則が作成されたのか、つまり、こういった準則作成に至ったエピソードや、社員が準則を実践に移すための動機付けとなるストーリーのようなものが頭に思い浮かぶものでなければ、「鬼十則」は現場の行動指針にはならないと思います。鬼十則と一般の企業の行動規範とを同等に扱うのが適切かどうかはわかりませんが、私がコンプライアンス経営のお手伝いをするときも、企業行動規範の文言を社員の方々に覚えていただいたり、カードとして携行していただくだけでは不正予防の役に立たないと感じています。

むしろ、文言は「うろ覚え」であったとしても、企業行動規範が出来上がった歴史や失敗談、過去に行動規範が社員の行動に及ぼした影響などから、行動規範を具体化するストーリーを連想してもらうことが一番効果的だと思います。 おそらく電通さんでも、鬼十則の文言自体よりも、各条項が具体的にどのような行動を求めているか、過去にこれを実現してどのような成功例があったのか、実現できずにどのような失敗例があったのかといったストーリーのほうを身につけておられるのではないでしょうか。つまり、文言としての鬼十則が廃止されたとしても、社員の心得としての鬼十則は時間軸をもって組織に形成されてきたものである以上、いったん身についた行動規範は簡単には変えることはできないように思います。

たとえば上記ニュースにあるような「取り組んだら放すな、殺されても放すな」という文言も、どのようなエピソード、ストーリーの下で作成されたのか、そのあたりまで考えたうえで廃止か存続か検討すべきではないかと。もちろん、現在の「働き方改革」の中で「使われている文言が不適切だ」と判断すれば、文言を修正したり、その条項だけを削除するということも検討すべきです。競争戦略としての社内ルールであるにもかかわらず、これを全廃するという行動は、なんとなく「社外向けポーズ」の意味合いがあるように思えてなりません。本当に社内改革をするのであれば、この鬼十則が作成された自社ストーリー自身を否定するような行動が求められると考えます。

世間ではこれで電通さんの「企業理念」に変化がみられたと評価してもらえるかもしれませんが、社内的には「理念など絶対に変えるつもりはなく、単に早く有事を収束させるための戦略にすぎない」と受け取られているのかもしれません。ちなみに上記「戦略おべっか」の中に、電通式の不祥事謝罪方法が記載されています。それによると、今回の電通さんの過労死事件にあたり、いつ謝罪会見をするのか・・・・、それは上記書籍をお読みいただくとおわかりになるかと思います。

11月 21, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年9月15日 (木)

第4次産業革命と「安心思想のコンプライアンス経営」

先週、今週と延べ700名を超えるJA(農業協同組合)のトップの方々にコンプライアンス経営に関する講演をさせていただきました。農協も統廃合が進んでいますので、保有資産1兆円を超える農協さんも10組合以上あるそうです。講演では、今年4月1日に施行された農協法改正(事業目的の変更)、そして今ホットな話題である農協改革(プロダクト・アウトからマーケット・インへの転換)に求められるコンプライアンスとして、「安心思想によるコンプライアンス経営」を中心テーマにさせていただきました。ちょうど本日(9月14日)の日経ニュースでとりあげられているシェアリングエコノミーやIOTが求められる産業における「安心思想によるコンプライアンス」について、具体例を示しながら解説させていただきました。日経記事で紹介されているようなサービスの提供者に「身分証明書の提示を義務付ける」といったことは、典型例です。

日本企業は「品質第一」、「安全第一」といった安全思想によるコンプライアンスは得意なのですが、「安心はタダ」と思っている民族性が顕著なのか、どうも「安心思想によるコンプライアンス」の発想は得意ではありません(そのあたりは、日本マクドナルド社の消費期限切れ商品販売事件やボーイング787運航停止事件等、このブログでも過去に何度も取り上げてきたところです)。しかしシェアリングエコノミーにせよ、IOTにせよ、AIにせよ、サービスの効率性が高まれば高まるほど、サービス提供者の「商品を超えた企業としての品質」が競争上重要になってくるのでありまして、これをいかに消費者や株主に示していくか・・・ということを真剣に考える時期に来ていると思います(そのような関係で、コンプライアンスは「ブレーキ」ではなく「アクセル」だと認識している企業も増えています)。

東京都の豊洲市場土壌汚染問題も同様です。ここまで問題が大きくなってしまいますと、いくら専門家の方々が集まって「安全です」と宣言したとしても事態の収束は困難が予想されますし、風評被害を除去するまでには相当な時間を要することになります。残された道は(本当に安全であるならば)「食べても安心です」といったストーリーを具体的な根拠をもって都民の方々に提示することでしょう。一般の都民の方々にわかるストーリーでなければならないわけですからそれなりの工夫が必要ですし、専門家と一般の都民とを結ぶプロの「通訳」が求められるはずです。上記のJAさんの講演ではお話させていただきましたが、不祥事を発生させた組織における「安心思想」のコンプライアンスには、独特の考え方、独特の発想があります。これは私が過去に何度も失敗を繰り返して認識したところでありまして、その工夫の中身については、また講演等の機会がございましたら、具体例を示しながら解説したいと思います(すいません、具体例が生々しいのでブログでの開示は控えておきます)。

産業競争力強化法に基づく国策会社の役員を2年以上務めさせていただいている関係で、ITやライフサイエンス、ナノテクノロジー、ロボット認知科学等の研究事業を知る機会が増えましたが、そのような先端技術事業を社会に役立てる場面において、コンプライアンス経営がビジネスモデルにとっていかに重要であるか痛感します。とりわけ周辺技術との融合で先手を打って(すくなくとも日本市場において)競争上優位に立つためには、この「安心思想に基づくコンプライアンス経営」を経営者自身が身につけることが必要条件であると認識しています。

9月 15, 2016 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)