2019年9月17日 (火)

人の仕事に「おかしい」「やめとけ」と警告することはむずかしい-ゆうちょ銀行不適切販売問題

産経新聞9月14日の朝刊に「不適切投信 『規定指導不足』 高齢者23万5000人調査へ」との見出しで、ゆうちょ銀行と日本郵便の社内調査の結果が報じられています。日本郵政グループでの不適切販売といえば「かんぽ生命問題」が大きく報じられましたが、こちらの高齢者向けの不適切な投資信託の販売問題もかなりマズいです。かんぽ生命の件は第三者委員会による調査が行われましたが、こちらは社内調査で終わるのでしょうか。本件は16日になって朝日新聞ニュースでも取り上げており、社内調査報告書だけでは済まないような気もしてきました。

70歳以上の高齢者に投信を販売する場合、社内ルールでは「勧誘前確認」と「契約前確認」が行われることになっていますが、この「勧誘前確認」は販売担当者とは別の管理者が行うことになっています。しかし、実際には多くのケースで「勧誘前確認」が行われていなかった、とのこと。ゆうちょ銀行の担当者は「ノルマのプレッシャーが原因ではない」としたうえで(勧誘前確認作業という)「社員が手間をかけなくない」と安易に考えており、社員の認識不足が原因だったと説明しています。これに対して前記朝日新聞は、社内関係者の話から「(販売ノルマに起因した)プレッシャーが原因」で確認する側も営業実績ほしさに黙認していたのではないか、と推測しています。

おそらく社内調査の結果から判明すると思いますが、ゆうちょ銀行としては「勧誘前確認」と「契約前確認」によって、担当者による勧誘や契約のどの程度の割合において販売業務が止まったのかを明らかにすれば良いと思います。たしかに一定割合が「勧誘前確認」で止まっているのであれば、ゆうちょ銀行が説明しているとおり「ルールの趣旨を認識していない管理者が存在していた」との理由は真実に近いと思います。

しかし、ほとんど業務が止まっていなかった(勧誘前確認によって問題案件の契約が事前に阻止されてなかった)のであれば、そもそも「勧誘前確認」など形骸化していた、と言わざるを得ません。ただ、認知症が重篤な疾患がなかったかどうかを調査するのが確認作業の趣旨だそうですが、別の担当者が熱心に勧誘をしたいと思っているところで、「ちょっとおかしいから、勧誘は控えるように」と、業務にストップをかけることはむずかしい。「たとえ営業成績が悪くなったとしても、高齢者に迷惑をかける契約はしてはならない」といった組織風土が明確にならないかぎり、契約前にストップをかけることは困難ではないかと。

ということで、本件は不適切な投信販売を事前に防止するための内部統制システムが有効に機能していなかったことが原因ではないかと思います。そして、実際に契約を勧誘する現場担当者は、このシステムによって「勧誘にお墨付きをもらった」として堂々とノルマ達成に向けて営業ができるわけですから、機能していなかったが、現場の不適切勧誘を助長することになるので、かなりマズいシステムだといえそうです。

しかし、実際に多くのケースで勧誘前確認がなされていなかったとなりますと「なぜ日常の内部監査では(勧誘前確認がなされていないことを)見つけることができなかったのか」という重大な問題が残ります。たしか金融機関の内部監査部門というのは、金融庁からの強い要望もあって「日本企業の中で最も優れた内部監査機能」をお持ちのはず。これこそゆうちょ銀行が再発防止のために徹底的に検証しなければならないはずであり、当該調査には利益相反的な要素が含まれている以上、第三者による徹底的な調査が必要になるものと考えます。

 

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2019年9月 2日 (月)

リクナビ問題が明らかにした「法令遵守」と「コンプライアンス」の違い

リクナビ内定辞退予測の問題が浮上してちょうど1カ月が経過しました。この1カ月のリクナビ問題をみておりまして、様々な企業コンプライアンス上の論点が指摘できますが、これからの日本企業の国際競争力を語る上でどうしても指摘しておかねばならないのが、本件問題が「法令遵守」と「コンプライアンス」の違いを浮き彫りにしたことだと思います。

読売新聞8月27日朝刊社会面に「学生に配慮欠けた」と題するリクルートキャリア社の社長会見記事が掲載されていましたが、そこでは「問題の本質は①学生視点の欠如と②ガバナンスの不全」が指摘されていました。私はその記事を読んで「ガバナンスの不全とは組織のどこに問題があったのだろうか?」と疑問を持ちました。そして、同じ日の朝日新聞朝刊「情報軽く扱ったのでは?保護委、リクナビ側を批判」では、同社内部統制担当役員の話として「同意の有無にかかわらず、やるべきではなかったが、研究開発的な商品だったため、学生の視点やリスクについて複数の目でのチェックが不十分なままスタートしてしまった」とあったので、なるほど「複数の目によるチェックが効いていなかった」ことがガバナンス不全との言葉で語られていたのだと理解しました。

ところでこの内部統制担当役員の方の話の中で、一番関心を持ったのが「そもそも同意があったとしてもやるべきではなかった」と述べている点です。この問題が個人情報保護委員会に指摘され、マスコミでも騒がれ始めた頃は「同意を得ていたので問題はない」「一部同意を得ていないことが判明したので、対応を検討したい」ということで、内定辞退予測サービスが「法令違反」にあたるかどうかに企業の関心があったと思います。ちなみに私が当ブログで本件を取り上げた8月7日のエントリーでも、私自身、「法令違反に該当するかどうか、という意味で灰色」と述べていました。

しかしながら、社会の批判が次第に高まるなかで、「そもそも同意があったとしても問題ではないか」との声が上がり、会見での担当役員の方のお話になったのではないでしょうか。9月1日の産経新聞ニュースでも、情報法に詳しい大学の先生も「丁寧に利用目的を書いて同意を得られたからといって内定辞退率予測ということをしてもいいのかという問題だ。就職や結婚など、重要な自己決定の場で、AIなどで情報を分析することが許されるのか」と指摘しておられます。5年ほど前に、JR西日本の協力を得て情報通信研究機構が顔認証システムの試験を実施しようとしたところ、社会的に大きな批判を浴びて弁護士5名による第三者委員会を設置しましたが、その報告書の結論は「個人情報保護法に違反するシステムではない」というものでした。そこでは「法令遵守」に関心が集まりましたが、社会的な納得はそれだけでは得られなかったものと思われます。

第4次産業革命が進み、日本企業がIoTやAIの開発で世界と闘う中、国内法違反を回避するだけでは技術開発で遅れをとってしまう、ということです。企業倫理や国際人権、海外の競争法執行政策など、「法的にグレーだけれど、競争に負けないように突っ込まないといけない」場面において、グレーをシロに変えることができるのか、それともクロと断定されて国際競争上のハンデを背負うことになるのか、これがまさに現時点における企業コンプライアンスを考える視点です。リクナビ問題は独禁法上の「優越的地位の濫用」に該当する、といった解釈まで登場しました。もはや「コンプライアンス」を守りの意識だけでは認識しえない経営環境になってきたことを、リクナビ問題は如実に示しています。

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2019年8月26日 (月)

FM東京不正会計事件-組織ぐるみの不正対策は公益通報者保護法強化しかない現実

遅ればせながら、8月21日にFM東京のHPに公表されました第三者委員会調査報告書を読みました。前経営者をはじめ、多くの社員が関与している不正とのこと。業績の悪いグループ会社の連結外し、という古典的な手法であり、委員会も「本件問題行為は会社法違反、会計基準違反」としています。報告書では、前経営者の在任期間が長く、社内の人事権も一手に握っていたことから、「誰も経営者に異論を唱えることができなかった」といったガバナンス上の課題が述べられています。なお、報告書を読み、個人的に印象に残ったのは以下の2点です。

こういった第三者委員会の報告書を読んでいて、いつも思うところですが、日本企業の社外役員(社外取締役、社外監査役)のリーガルリスクへのツッコミは希薄だなぁと感じます(いえ、自分への戒めも込めて、ということです)。ホントに社外役員に対して日本は優しい国です。このような不正が発生しても、「社外取締役は何をしていたのか」「法的責任は問われないのか」と世間から批判されることもないのですね。非上場とはいえ、株主や取引債権者はおられるわけですから、社外役員の役割について、もう少し話題になっても良いのではないかと思いますが。。。

まさに「知らぬが仏」ということですが、100億もの投資事業を担当していたグループ会社について、どうして社外取締役の方々は業績に関する情報収集をしていなかったのでしょうか。5名の社外取締役の方々は株主会社から派遣されていたので、あまり関心がなかったのかもしれませんが(FM東京さんは会社法上の大会社なので)内部統制の基本方針を決議しているはずであり、財務に関する情報収集体制も構築されているはずです。意図的に前経営者が社外役員に情報を遮断していたとしても、なぜ社外役員が重要子会社の情報を収集できなかったのか、とても疑問を感じます。

もう一点が、今回の組織的不正は、会計監査人への内部告発によって発覚した、ということです(正確には社内の内部通報窓口と会計監査人に同時に情報提供があったようです)。会社の規模からみて、内部監査部門が不正を発見することは容易ではなく、また取締役会の監督機能や監査役監査にも期待ができないとなりますと、やはり内部通報や内部告発が唯一の不正早期発見に向けた効果的手法だったと言わざるを得ません。

本件もやはり公益通報者保護法の改正に向けた立法事実を提供する事例だと考えます。近時の田中亘東大教授の論文(旬刊商事法務2195号13頁以下「公益通報者保護制度の意義と課題」)では、画期的な近時の研究発表も紹介されております(内部告発を内部通報と同様に保護したほうが、内部通報制度自体の有効性を高めることになる、とのこと)。近いうちに、公益通報者報奨制度や(告発者への不利益制裁に対する)刑事罰適用といった論点も、改正対象として検討課題に上る日がくるかもしれません。

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2019年8月 8日 (木)

ゼネコン談合-子会社不正防止だけでは独禁法違反はなくならない

読売朝刊トップ記事では「公取、ゼネコン4社長『指導』談合カルテル-子会社不正巡り」と報じています。同記事によると、公正取引委員会の委員長が、大手ゼネコン4社の社長に対して、グループとして談合の再発防止策を講じるよう異例の申し入れを行ったそうです。また、朝日ニュースでは、このような異例の申し入れは①海外では、子会社が独禁法違反行為をすれば親会社も責任を問われるケースがあること、②6月に成立した改正独禁法では、完全子会社が過去に違反で処分を受けている場合には、親会社の新たな違反行為について課徴金が割り増しになることから行われたのでは、と指摘されています。

グループで談合を防止することは大切だと思いますが、それで談合がなくなるかといえば、それはないと思います。取引先や下請企業を使って、ますます巧妙に談合を行うケースが増えるだけかと(取引先や下請企業も、談合に関与することで継続的に仕事を請け負うことができるはずですから、徹底防止するインセンティブが機能しないと思います)。たとえば東証「企業不祥事予防のプリンシプル」では、原則6において「サプライチェーンのコンプライアンスの徹底」が求められていますが、まさに中心になる企業がサプライチェーンを含めて自主的な規制を行わないと談合はなくならない。

コンプライアンス経営の徹底が求められると、サプライチェーンの川上の企業が川下の企業に「汚い仕事」を押し付けるケースが増えてきます。前にも述べましたが、味の素の社長さんが「働き方改革」を自社で実行するために、抜本的な生産性向上への取組の開始とともに取引先やグループ企業に自ら出向いて協力を要請したことが日経の連載記事で紹介されていました。談合についても、ゼネコンの社長さん自ら関係会社に出向いて「なにかあれば司法取引を活用せよ」と提言する等、サプライチェーンで根絶を要請しなければゼネコン談合防止の本気度は伝わらないのではないでしょうか。

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2019年8月 7日 (水)

リクナビ事例、かんぽ生命事例-グレーゾーンでこそ活きる不正リスクマネジメント

各メディアが報じるように、リクナビ運営会社の個人データ販売が当初の「休止」から「廃止」に追い込まれたそうです。しかし、そもそも販売を企画する時点で「これって個人情報保護法とか職業安定法上の問題はないの?」と経営陣が気が付かなかったのでしょうか?(うーん、ナゾです)8月2日の日経ニュースによると、運営会社は「個人のプライバシー保護を最優先に設計したが、社会の認識が大きく変化した」と述べておられますね。つまり運営会社の経営陣は(企画段階では)灰色ではなくシロと判断されていたのかもしれません。

しかし、8月3日の朝日新聞ニュースでは、個人情報保護委員会事務局の方が「今回は灰色」と述べておられるので「社会の常識が変わった」かどうかが問題というよりも、法令の解釈として「灰色」とみるべきかと。ここにきて8000人分については「個人の同意を得ずにデータを売った」ことが明らかになっていますので、「灰色」は限りなく「クロ」に近いイメージとなり、廃止を決めたと思われます。ちなみに運営会社との間でデータのやりとりをしていたサービス利用会社についても、これって灰色?クロ?」といった疑問の声は上がらなかったのかどうか。こちらも関心があります。

いっぽうかんぽ生命の事例も、8月5日の西日本新聞の報じるところでは、昨年6月の幹部会議で大量の不正情報が共有されていたそうです。西日本新聞が入手した内部資料で私が関心を持ったのは、報告された事故件数は、いずれも顧客からの苦情や客観的な契約事故の発生によって判明したものであり、かんぽ生命が自らの調査で判明した数字ではない、という点です。1年9カ月の間に1000件以上の「苦情に基づく全額返還事例」が生じているのに、なぜ社内調査で全容を明らかにしようとしなかったのか(一部、サンプル調査については今年1月に行われたようですが)。たしかにこれも(経営陣も重大な不正を認識していたことに関する)「灰色」を放置したことで限りなく「クロ」に近い印象を受けています。

かんぽ生命の件ですが、NHKの特集番組が組まれたことや、幹部会議で大量の事故件数が報告された時点で同社にはイエローカードが出ていたと思います。もしここで徹底した社内調査を行っていたとすれば、たとえ調査結果に全容が明らかにならなくても「当時は重大な不正とは認識していなかった」という証言が「認識の違い」として受け止められ「灰色」をシロ(経営陣に重大性への認識がなかったという意味でのシロ)に近づけることができたのではないでしょうか。ビジネスの上で「グレーゾーン」に突っ込んでビジネスを展開しなければならないケースもあると思いますが、その場合には、不正リスクが顕在化することを想定したシナリオが求められます。かんぽ生命としては、そのような不正リスクの顕在化を全く想定していなかったのかもしれません。

リクナビの運営会社も、本件データ販売を「灰色」と認識しながらビジネスに走っていたとすれば、当然用心深くなりますし、そもそも「プライバシーに細心の注意を払っていた」とすれば「8000件も形式的な同意すらとっていなかった」などといった明らかな違法行為には及んでいないと思います。経営陣に法務機能が備わっていなかったのか、それとも経営陣と法務部門との距離が遠かったのか、いずれかわかりませんが、ともかく「灰色」であることの認識がなかったことの理由について、まったく理解できないところです。もし本件について調査委員会が立ち上がるのであれば、このあたりのコンプライアンス対応がどのようなものであったのか、ぜひとも解説いただきたいところです。

灰色をシロにする(灰色のままではゴーサインを出さない)のがコンプライアンス、というのではビジネスが前に進まないため、ますます経営陣と法務部門との距離が遠くなってしまう。もし、そういったことであるならば、灰色を灰色と認めて、そのままゴーサインを出して、その代わりに最悪の事態だけは回避する手法を考える、というのも不正リスク管理の現実的な知恵ではないでしょうか。ただし、どんな手法を使うにせよ「顧客の立場で」「顧客目線で」考えなければ、「単に会社の儲けとコンプライアンスを秤にかけた」と思われてしまうことに注意が必要です。

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2019年8月 2日 (金)

かんぽ生命不適切契約問題-単純な企業統治の問題ではない

7月31日のNHKクローズアップ現代+「検証1年 郵便局・保険の不適切販売」を視聴しました。私はあまり経緯を知らなかったのですが、NHKは2018年4月にこの問題を特集番組として放送しており、昨年12月にも300件ほどの内部者情報をもとに続編番組を放映していたのですね。NHKが特集番組を放映するとなれば、通常の民間企業であれば、たとえ取締役会に情報が上がってこなくても「こりゃたいへんだぞ。うちでもきちんと調べないと」ということで社内調査委員会が設置され、さらには第三者委員会が設置されるはずです。

しかし、どうしてそうならなかったのでしょうか。番組をみておりますと、日本郵政、日本郵便(郵便局会社)そしてかんぽ生命の「もちつもたれつ」の関係がかなり大きいことが(番組に匿名で出演していた元かんぽ生命幹部の方の証言で)理解できました。自社固有の不正であれば自浄能力を発揮することができても、その過程で他社も巻き込むとなると不正公表に消極的になってしまうケースはよくあります。

(以下は、私の個人的な見解としてお読みください)ところで、マスコミでは「日本郵政グループとしてのガバナンスの問題」が大きいとされていますが、ではどんな問題かというと、そんなに(トップが辞めて済むような)単純な問題ではないと思います。要はグループ本社という会社とは別に、ローカル実働会社という会社が別にあって、グループ本社の指示系統とは別の指示系統がある、という意味でのガバナンスの機能不全です。

顧客と向き合う現場社員の方々は、グループ本社のトップが何を言っても関心は薄いのであり、ローカル実働会社のトップもしくはもっと小さな(普段顔を突き合わせている)20名から30名の小集団のトップが何を言うのか、ということに大きな関心が向きます。ひとつの会社のなかに事実上はふたつの会社が存在するわけですから経営トップに現場の不都合な情報が届かないのは至極当然のことであり、このあたりは日本郵政グループのトップの方々は百も承知だと推測します。

したがって、このたび日本郵政グループは「ノルマを廃止する」と宣言しましたが、それで不正の温床がなくなるわけではありません。いくらグループ本社のノルマがなくなってもローカル実働会社の事実上のノルマは残るわけです。誰だってお金だけがインセンティブで働いているわけではなく、人に喜んでもらって働き甲斐を感じるはずです。日本企業の「小集団」の集団意識が強いところでは、どうしても承認欲求が「上司に喜んでもらう」「同僚に迷惑をかけない」「部下をサポートする」というところに向きます。

会社がどうなろうと「小集団の安定」こそ第一ですから、不正をやっても「みんなで隠す」ことに躊躇しません。もちろん「お客様のために働く」という意識はあります。しかし「お客様のために」という言葉は会社の利益と顧客の利益を秤にかけているときに出てくる「会社ファースト」を示す言葉です。「お客様の視点で」「お客様の立場にたって」という言葉が出てこなければ「お客様に喜んでもらう」仕事にはつながりません。これは私の過去の失敗経験から学んだことです。そこに疑問を抱いた社員が内部情報の外部提供に動いたのではないかと。

グループ会社どうしの「もちつもたれつ」の関係、そして「全国津々浦々まで存在する実働部隊の『小集団』による営業活動」という、日本郵政グループ固有の事情を背景に、今後どのように社会的弱者への被害拡大を防ぐことができるのか・・・、まずは指揮を誰がとるのか(指揮がとれなければ監督官庁が登場することになります)、という視点からみていきたいと思います。

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2019年7月31日 (水)

かんぽ生命の不適切契約-内部告発奨励法の制定も視野に入れるべき?

7月30日の日経WEBニュースが伝えるところでは、かんぽ生命の不適切契約の疑いのある契約数が、5年間で183,000件に上ることが判明したそうです。先日の発表では93,000件でしたので、外部調査の開始によって約2倍の不適切契約の疑いが浮上したことになります。増加分の多くは二重徴収分(7万件増加)ということなので、これはとんでもない不祥事に発展しそうです。毎日新聞ニュースによれば、31日にも日本郵政ほか3社の社長さんが会見を開く予定、とのこと。

全ての経過を追っているわけではありませんが、本件は昨年8月に西日本新聞社に届いた郵便局員からの内部告発がきっかけです(西日本新聞ニュースはこちら)。たった1通の告発メールから西日本新聞は記事を掲載し、この記事を読んだ多くの郵便局員が新事実を告発したり、事実を裏付ける内部資料を提出して(たとえばこちらのニュース参照)、二重徴収問題の発覚にまで至りました。約1年にわたる新聞記者の正義感に燃える取材活動も大きい要因ですが、やはり内部告発の威力はスゴイ。

私自身、内部告発の代理人もやりますし、また告発を受けた会社側の危機対応も担当しますが、このように告発を契機として大きな不祥事に発展するものもあれば、不幸にして(本件と同様、多くの社会的弱者が損失を被っている可能性が高いにもかかわらず)様々な社会的力学のもと、告発が不発に終わるケースもあります。昨年公表された某社の第三者委員会報告書でも、告発を受けた新聞社の記者に対して、首尾よく立ち回って取材を断念させた経緯が記載されたものがありました(その会社の不祥事は、これまた第三者委員会の凄まじい頑張りで発覚したわけですが)。告発を受けて、法務部門が体を張って(覚悟を決めて)社長に不正を認めさせた事例もありました。このように、内部告発は決して実効性が高いとまでは言えませんが、企業不祥事を世に知らしめる「きっかけ」として有用性が高いことは間違いありません。

しかしかんぽ生命では、どうしてこんな「とんでもない」事件になるまで対処しなかったのでしょうか。ノルマがある以上、一定頻度で不適切契約問題が発生することは当然予想されるところであり、その都度個別案件対応によって監督官庁に報告をすれば(もちろん問題ではありますが)組織的な不正とまでは断定できないようにも思います(※)。ただ、少なくとも2014年以降、社内に内部通報なども届いていた可能性があり、通報に対してはどのように対応していたのでしょうか。また、同種問題案件が繰り返し発覚していたわけですから、いわゆる「件外調査」の必要性(同様の不適切事案が他にも発生していないかどうか広く調査する必要性)を提案する役員さんはいなかったのでしょうか。このあたりはナゾであり、第三者調査による解明が待たれます。

※・・・郵政民営化委員会はかなり厳しい意見のようで「(株式を売却するのであれば)個別案件処理の時点で公表すべきだった」としています。

今年5月16日の日経「法務・ガバナンス」関連記事において、私と公益通報者保護制度実効性検討ワーキングチームでご一緒している田中亘先生(東京大学教授)は、

「日本を代表する企業の不祥事が続いているが、多くの企業が(内部通報に関する)制度自体は設けている。(公益通報制度の実効性を高めるには)通報者に報奨金を出したり、不利益な扱いをした企業に罰を科したりする法制度が必要だ」

と述べておられます。KYBの製品偽装事件の際にも申し上げましたが、かんぽ生命の経営陣が「こんなに不適切契約が多いことはまったく知らなかった」ということであれば、不祥事は経営陣の努力では発見することに限界があることになり、唯一、内部告発によってのみ不祥事が発覚する可能性があったことになります。これは公益通報者保護法改正の立法事実になります。「商品やサービスの品質」と「開発ストーリー」で差別化を図らねばならない日本企業全体の利益のためにも、公益通報者をより保護する制度だけでなく、公益通報を奨励したり、公益通報を「違法性阻却事由」ではなく「労働者の権利」に高めるような法制度を喫緊に策定することが必要かもしれません(このような議論がなされる日は近いかもしれませんね)。

 

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2019年7月 9日 (火)

コンプライアンス経営にレグテックを導入する際の留意点を考える

2011年に発生したユッケ集団食中毒事件については、当ブログで過去4回ほど取り上げました。2018年には、食中毒を発生させた会社の社長さんが「当時の衛生基準が十分に周知されていたとはいえない」ということで「重過失なし」とされ、裁判所において民事賠償責任が否定されました(2018年3月の当ブログエントリー参照)。これで事件終結かと思っておりましたが、本日の読売新聞ニュースによりますと、当該社長さんの刑事責任について、検察審査会が「不起訴不当」なる議決を出したそうです。「大腸菌などを除去しなければ食中毒が起きるという認識自体は広く共有されていた」との理由を示されましたので、ふたたび社長さんの注意義務違反の有無について再調査がなされるようですね。いずれにしても、事業に関連した行政規制については、法人代表者に十分な認識さえあれば事故は発生していなかったのですから、ご遺族の方々はやり切れない気持ちだと拝察いたします。

さて、「行政規制への対応」という点ですが、7月8日の日経朝刊(法務面)に「規制対応、ITで効率化、個人情報保護や広告審査-定型作業は任せ、高度業務に集中」と題する特集記事が掲載されています。いわゆる「レグテック(レギュレーション・テクノロジー)」が法務の世界でも活用され始めたことを報じています。私も、昨年から「守りではなく、攻めの法務機能の一環としてのレグテック」を講演の中で取り上げ、他社との競争に勝つための戦略法務への活用をお勧めしております。

今朝の記事にありますとおり、レグテックをコンプライアンス経営に活用するというのは、レグテック活用の一例にすぎませんが、「最重要課題」とされています。コンプライアンス経営が大切・・・と申し上げると、いまだに「現場が内部統制の強化でガチガチになる」「法務の審査が厳しくなって勝機を失う」といったイメージの事業部門の方がおられます。しかしレグテックの活用は、本日の特集記事にもあるように、現場における営業の自由を最大限確保したうえで、警告を発し、水際で不正の芽を摘みとる、という「トライアル&エラー」の思想に基づくものです。つまり経済活動の範囲を狭めることなく、コンプライアンス経営を実現しよう、というもの。

たとえば社内メールやチャットの分析でパワハラのリスクを感知する(逆に言えば前向きな指揮監督を促す)、海外の贈賄やカルテルの規制の最新動向や政権交代による法執行の変化から海外社員を守り、オープンイノベーションや他社との技術協力を促す、国立公園の指定変更情報をいち早く知り、ESG活動を積極的に推進する、といった「他社との競争に勝つための法務戦略」を推進するためのツールです。もちろんAIやブロックチェーンの進化により、今後ますますレグテックの活用分野は広がるそうです(「広がるそうです」と書いたのは、私自身がそれほどAI等に詳しくないため、ここは「伝聞」情報であります)。

ただ、コンプライアンス経営にレグテックを導入するにあたって、注意すべきは「事業推進とコンプライアンスを秤にかけない」ということです。レグテックの運用にはトライアル&エラーの発想(走りながら考える)が必要ですが、あくまでも「水際で不正を防止する」ことが目的です。導入しようとすると、どうしても費用や時間に制限がある、といった社内事情で「この程度のコンプライアンス経営でもやむをえない」との経営判断がとられがちです。しかし、これは企業風土を劣化させ、企業にとって副作用が大きい。秤にかけるべきは「事業推進のメリットと導入コスト、時間」であり、自社が想定するコンプライアンス経営を実現するにあたり、レグテックを用いて事業を推進するための費用と時間をどれだけかけることができるか・・・という経営判断で検討すべきです。おそらくこの点が、法務戦略にレグテックが活用されるためのポイントになるように思います。

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2019年6月21日 (金)

大和ハウス中国合弁会社不正から垣間見えるグループガバナンスの教訓

大和ハウス社の問題事例といいますと、違法建築に関する不祥事が大きく報じられております。この一件については同業他社の役員をしております関係でコメントを控えますが、もう一件、「中華人民共和国の関連会社における不正行為に関する『第三者委員会報告書』受領のお知らせ」のほうはしっかり報告書を読了しましたので、ひとことだけコメントさせていただきます。大和ハウス社の経営陣の方々にとっては、違法建築問題よりも、こちらのほうが重大問題として認識されているのではないでしょうか。

同社は、中国におけるマンション開発を中国国内の建設会社(相手先企業)と合弁で進めていたのですが、2014年ころから現地のJVを管理していた相手先企業に好き放題不正をされてしまい、約234億円の損害を受けてしまいました。最終的な出資比率は大和ハウス社が80%を超えていたにもかかわらず、JVの議決権は50対50、経営執行も相手先企業が事実上の支配を続けていたそうです。

報告書を読むと、①2012年ころから、監査役会が「当社役職員の、中国企業に対する責任と権限が不明確であり、コントロールが効かない状況にある」と警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、なぜパートナーとの立場を見直さなかったのだろう、②法務部が従来より不正の兆候を把握し、問題提起をしていたにもかかわらず、なぜ経営陣の中で法務部の提言を認識していた人と認識していなかった人がいるのだろう、また認識していたとしても、なぜ法務部の提言は無視されたのだろう、③そもそも2009年当時から、相手先企業の不正が判明していたにもかかわらず、どうしてJVの総経理の職務をもっと早く停止させなかったのだろう、など疑問は尽きません。

毎年積みあがっていく不正送金の金額表示をみますと、5年ほど前に抜本的な対策をとっていれば損害はほとんど発生せずに済むと思われますので、同社のグループガバナンスが甘かったと言われれば反論できないかもしれません。ただ、私がこの60頁ほどの報告書の中で、もっとも印象に残ったのが、大和ハウス社の代表取締役会長さんの相手方企業への「思いやり」に満ちた行動です。

「a氏(代表取締役会長)は、こうした中方(中国企業側)の状況について、重要な合弁パートナーである中盛集団(中国企業のグループ)が困っているのであれば、手を差し伸べることも必要である、と述べている」(報告書51頁)。

資金繰りに困っている中国の合弁パートナー企業について、会長さんは「手を差し伸べよ」と指示されたようです。それまで大和ハウス社は、当該相手方企業による背信行為を受けていたのであり、私などは「こんな対応されたのならすぐに合弁解消じゃないの?(怒)」「すぐに解消とまではいかないのであれば、相手が泣きついてきている今こそ、JVの支配権を奪う機会にしたらいいのでは」と考えます。しかしカリスマ経営者は「それでも手を差し伸べよ」とおっしゃる。おそらく、a氏はこの経営姿勢(経営理念)で成功を重ね、大和ハウス社をここまで大きくされたのでしょうね。救済の条件として支配権の譲渡を要求することができたかもしれませんが、建設工事まで掌握している相手方企業と決裂してしまえば投資分の回収も困難となりますし、なによりも信頼関係を最後まで維持することが大和ハウス社の理念に沿うものだったと思います。

しかし、社内で絶対の権力を有する(と思われる)a会長の意向が「手を差し伸べよ」というものであれば、おそらく社内ではその意向を忖度してしまうのではないでしょうか。中国事業を推進するための権限と責任の明確化、海外関連会社を統制するためのグループガバナンス、JVにおける不正予防のための内部統制システムの構築、といった提言が出されたとしても、役職員の皆様が「あえて火中の栗を拾う」ような対応は、a会長の意向に反することとなりかねないため、実行困難な状況に至っていたのではないかと(もちろん、私の推測です)。そういえば昨年の積水ハウス社の「地面師詐欺」事件のときも、(WEBニュースからの引用ではございますが)社長さんが「五反田の土地は絶対に手に入れたい」といった意見表明をされ、これを認識した役職員らが、「おかしいとは思いつつも」(社長さんの意向を忖度した結果として)取引相手を見る目が曇ってしまったことが問題だったのではないかと思いました。

6月下旬、経産省CGSの在り方研究会から「グループガバナンス指針」が公表され、なかでも海外子会社の経営管理の在り方が示される予定です。おそらく(全体最適のための視点から)教科書的にガバナンス・ルールや内部統制の仕組みが提唱されると思います。しかし、実際のところ、グループガバナンスは「そんなに甘いものではない」という教訓を、大和ハウス社の報告書は示しています。「なんでもっと早く不正送金に気づかなかったのか」と非難し、憤るのは簡単です。しかし「気づくこと」と「止めること」とは1:100くらい「止めること」のほうがむずかしいのです。大和ハウスほどの巨大企業で、社を挙げて「マンション開発による中国富裕層の取り込み」という事業戦略を推進するなかで、誰が体をはって止めることができたのか・・・他社でも議論する価値はありそうです。

上記大和ハウス社の報告書によりますと、2014年に本社による(当該JVに対する)財務検査を中断したころから、中国JV内で不正送金が開始されています。つまり、本社の誰かが不正リスクを感知して「財務検査だけは継続したほうがよい」と提言して、そのとおり継続していれば不正送金の事件は発生していなかった可能性が高い。でも、「継続せよ」と提言した人は、(何か良いことが起きたわけではなく、ふだんどおりの業務が継続するだけですから)誰からも称賛されることはなく、社内評価が高まることもないのです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年を歓迎する企業風土」をどのように根付かせるか・・・、「守りのガバナンス」の実力差は、この土壌の有無によるところが大きいと確信しています。

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2019年6月 6日 (木)

ZAITEN特集記事から見えてくる著名企業の広報・法務の在り方

仕事がら、日経ビジネス以外にもFACTAとZAITENは定期購読しておりまして、役員セミナーなどにお招きいただいた際「日経ビジネス、読みましたよ~♪」というのは申し上げることも多いのですが、「FACTA(ZAITEN)、読みましたよ~♪えらいことになってますね~!」とはなかなか言えない今日この頃であります。

今月も定期購読誌を拝読しておりますが、とても興味深かったのがZAITEN最新号(2019年7月号)の特集記事「大企業『違法コピー』の実態-記事ドロボーは許されない、大手企業一斉調査」(タイトルからしてZAITENらしさ満開であります・・・(#^^#))私が社外役員を務める会社も、ときどきZAITENさんから厳しい記事を書いていただきますが(笑)、今回の特集では、新聞や雑誌記事を勝手に複写して、社内ネットワークに配信している企業が結構あるのでは?との(経験に裏打ちされた)疑念から、ZAITENが独自調査を行った結果が紹介されています。

社内ネットワーク配信のための著作権利用の方法をきちんとZAITENに説明しているのがソフトバンク・グループ、キヤノン、武田薬品工業、明治ホールディングス、日清食品ホールディングス、東急電鉄といった企業さんです。説明にやや曖昧な点は残るものの、クリッピングサービス使用の点を説明しておられるのが日立製作所、キリンホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東芝、みずほフィナンシャルグループ、電通といったところでした。

ZAITENさんにはたいへん申し訳ない物言いですが、私もZAITENからのアンケート回答要請・・・となると、「ん?なんぞある?」と勘繰ってしまって、なにか無難な回答方法を考えたくなるのですが、きちんと回答される大会社は意外と多い。まぁ「木で鼻を括る残念企業」として紹介されている会社(「回答を差し控えさせていただく」との返事)も結構たくさんありますが、違法コピー問題は結構多くの会社でありそうな気もしますので、回答がないとアヤシイと思われるところは否めないかと。そういったところも広報や法務の方針が「積極開示」の姿勢に表れているのかもしれません。

回答方法には正解はありませんが、その会社の広報や法務の在り方を推察するには面白い記事でした。本誌では一面広告で「求む!著作権侵害情報」とあり、記事中にも証拠に基づいてZAITENからイジメられている著名企業さんもありますので、どうか心当たりのある会社さんは早めに著作権許諾の全社対応を万全にされることをお勧めいたします(私もブロガーとして、記事引用については最大限の配慮を尽くすようにいたします)。

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