日産自動車・金商法違反事件-法人処罰と役員の法的責任
日産元役員さんの刑事被告事件で、元役員の方に有罪判決が出ましたが、同時に法人としての日産にも有罪判決が出ました(罰金2億円)。判決文は読めておらず、ニュースで伝えられているところしかわかりませんが、法人に対しては「ガバナンスが機能していなかったこと」を理由として有罪判決が出たとのこと。また、日産は、この法人に下された有罪判決については、社内で検討したうえで控訴しないそうです。
ここで素朴な疑問ですが、この判決を受けて、日産は有価証券報告書の虚偽記載が行われた当時の取締役会構成員に対して損害賠償請求はしないのでしょうか。少なくとも、この罰金2億円については会社側の明確な損害が発生したものであり、「ガバナンスが機能しなかった」ことを理由とした有罪判決に対して控訴しないということであれば、自浄作用を発揮させることが現在の取締役には求められていると思うのですが(もし監査委員会が損害賠償を請求しないのであれば、株主代表訴訟が提起されるかもしれません)。
金商法違反に基づいて、法人に課徴金処分が課されることについては争わず、後日、法人を被告とする民事訴訟では違法行為を争うことについては「課徴金制度と民事賠償制度との趣旨が異なるために、問題なし」とされた裁判例はありますが、今回のような事例に関する裁判例はあるのでしょうかね?株主代表訴訟が提起された場合や金商法に基づく損害賠償請求訴訟が提起された場合、原告側は今回の裁判例をもとに不正行為当時の役員に対して監視義務違反がある、虚偽記載を防止するための相当な注意を尽くしていない、と主張するのではないかと思います。SMBC日興証券の金商法違反(相場操縦事件)についても、今後立件された場合には同様の疑問が生じるのではないかと。
つまり、株主代表訴訟や開示規制違反(金商法違反)に対する賠償請求訴訟が提起される前にこそ、会社自身が当時の取締役、監査役(現在は指名委員会等設置会社ですが、以前は監査役設置会社でした)に損害賠償を求めるべきではないでしょうか。ただ、一方において、法人としての日産が罰金刑を受けるに至った端緒は、当時の取締役、監査役の方々の頑張り(司法取引に応じることも含めて)によるところであり、その頑張りがなければ今回の立件すらなかったわけですから、いわば「功労者に対して現経営陣が弓を引く」ということが果たして妥当と言えるのかどうか。
両罰規定によって法人に多額の罰金が科される根拠というものが、いまひとつ理解できていないのですが、日本でも「金商法遵守に関するコンプライアンス・プログラム」のような平時からの経営者の取組みを(法人に罰金刑を課す際に)裁判所が評価する・斟酌する制度を採用したほうが、民事裁判への展開という意味においてはわかりやすいように思います。そのほうが役員の法的責任を考える際にも参考となる判断理由が明確になるような気がします。