2021年9月13日 (月)

社長を解任した社外取締役(たち)はその後、別の上場会社で候補者たりうるか?

9月10日の日経ビジネス(有料版)に掲載された著名投資家の方の記事「もっと経営者をクビにしよう、社外取締役偏重では不祥事は防げない」はなかなか核心を突いた内容でとても共感いたしました。月に1回程度の出社という「情報不足」、しかも会社から役員報酬をもらっているという「利益相反的立場」にある社外取締役が、不祥事を発見したり、リスクをとりたがらない社内経営陣にリスクをとるように迫る、といったことは過度の期待である、このように一般の株主は完全になめられている状況では、株主権行使によってもっと社長をクビにしよう、といった趣旨の論稿です。企業統治改革の趣旨が、一般の投資家の方々にも浸透してきたことがうかがわれる内容です。

昨年経産省から公表された「社外取締役ガイドライン」とともに、今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂2021でも「社外取締役の究極の役割は社長の選解任権を適切に行使することである」という点が明確に示されたので、企業活動の効率性や健全性に問題が生じて企業のパフォーマンスが低下したときには「社長をクビにすること」が独立社外取締役には強く求められています。これは「市場からの期待」といってもよいでしょう。

一方、社外取締役に就任している側も、最近はかなり市場からの期待を意識しています。社外取締役は近時の企業統治改革の趣旨を理解して、どうすれば企業価値の最大化(株主共同利益の最大化)のためにその役割を果たしうるか、という点については、数年前とは比べ物にならないほどに研修や自己研鑽(トレーニング)を積んでいます。つまりコーポレートガバナンス・コード原則4-14に基づいて「社外取締役としてのスキル」をかなり熱心に磨いている方が増えていることは事実です。たとえば経営者評価を行うにしても、まずは報酬面で「あなたへの評価をこう考えている」といったシグナルを発信し、それでも将来的な企業価値の向上に疑問がある場合に「不再任、解任」というカードを切ります。

しかし、「あの会社では3人の社外取締役が社長を再任しない、という判断を下し、社長交代に至った」との評判が世間に知れ渡ったとき、この3人の社外取締役のところへ別の会社から「ぜひ当社の社外取締役に」とお声はかかるでしょうか。行政当局やマスコミでは「ガバナンスが機能した例だ」と言われて評価を受けるものの、おそらく「そんな本気度の高い社外取締役さんはちょっとごめんこうむりたい」といったところが企業のホンネではないでしょうか。せっかく熱心にトレーニングを積んだにもかかわらず、お声がかからないというのは矛盾のような気もします。

こういった社外取締役の方は、機関投資家側からすれば「有能な社外取締役候補者として株主提案したい」と思われるのかといえば、どうもそうでもなさそうです。機関投資家側も、ご自身方の利益を図ることに期待がもてない(忖度しない?)ことから、やはりホンネのところでは敬遠するということにならないでしょうか。つまり、近時のガバナンス改革で求められる役割を果たす社外取締役さんは、結局のところほかの企業や機関投資家からお声をかけてもらえずに、熱心にスキルを磨いたにもかかわらずオワッてしまうおそれがあるように思います。

証券市場の活性化というマクロの視点で考えた場合、冒頭の投資家の方の論稿にあるような、投資家自身が株主権を行使するガバナンスはかなりハードルが高いと思うのでありまして、私はエージェンシーコストを下げるためにも、有能な社外取締役の活用は必要だと思っています。ただ上記のようなジレンマをどう解決すべきか、日本でも検討する時期に来ているのではないでしょうか。

私は(東証の新市場区分への移行問題の影響も考えますと)今後は社外取締役の数が増えることから、「各企業の社外取締役の行動文化」というものを構築すべきと考えます。わかりやすくいえば「〇〇社の社外取締役メンバーは、経営者評価をどのようなプロセスを経て行う風潮なのか」というモノサシ(風土?行動準則?)を明確にしておくことです。就任している社外取締役個々の個人的素養だけで解任や不再任が決まるのではなく、その会社の「社外取締役の行動慣行」によって決まる傾向を会社ベースで形成すべきと考えます(ガバナンスコードに出てくるダイバーシティは経営幹部の人的資源に関するものですが、社外取締役候補者のダイバーシティも、このレベルで検討すべきではないかと)。

社長方針とぶつかった社外取締役さんには「辞任する」という選択肢もあるでしょう。情報の非対称性からすれば「なぜあの社外取締役は辞任したのか」ということが社外で話題になったとき、かなり高い確率で社外取締役さんのほうが世間的に「悪者」になると思います。ただ「ああ、あの会社は以前から、社長と意見が合わない場合には早期に退任するのが『社外取締役のオキテ』だから」といったモノサシがあれば、また他社からもお声がかけやすくなるのではないでしょうか。このような「組織内における暗黙知の見える化」は、これから社外取締役の数が増えるからこそ検討すべき対策であり、そもそも米国のように「取締役会メンバーのほとんどが社外取締役」という構図になれば不要なのかもしれません。

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2021年8月30日 (月)

取締役会における監督機能の発揮と「スキルマトリックス」の関係(素朴な疑問)

週末の日経朝刊(8月28日)では「社外取締役 ESGも主導-統治以外の役割広がる」なる見出し記事が目に留まりました。国内外の上場会社において、社外取締役が「サステナビリティ委員会」「CSR委員会」「コンプライアンス委員会」「イノベーション委員会」「サイエンス委員会」等で活躍する機会が増えている、そういった専門性の高い社外取締役を探すのはたいへんだが、中長期的な企業価値向上の視点から社外取締役が監督機能を発揮することに期待が寄せられている、スキルマトリックスの開示ということにも注目が集まる、といった内容です。

今回の改訂ガバナンスコードでも社外取締役のスキルマトリックスの開示が要請されていますが、これはむしろ(ガバナンスコードが要望している)モニタリングボードではなく、マネジメントボードとしての取締役会と親和性が高いのではないでしょか?おそらく社外取締役候補者としても、求められるスキルの発揮を会社側から要望されれば、重要な経営判断の場における経営指導的な活躍が期待されている、と認識するのが一般だと思います。ということで、そもそも素朴な疑問として「スキルをもってどんな方法で監督機能(モニタリング)を発揮するのか」というところが、いまひとつよくわかりませんし、本当にそのようなことが可能なのであれば、経営者はわかりやすく社外取締役候補者に伝える必要があります。

昨年7月に経産省から公表された「社外取締役ガイドライン」の参考資料2のアンケート調査結果をみても、多くの会社が現実にはマネジメントモデルの取締役会を運用しているわけですから、私はまず社外取締役になろうとされる方は、ガイドラインの求める「社外取締役の理想像」を実践することよりも先に、会社の現実を見据えることが大切だと思います。マネジメントモデルであれば、自身のスキルを(重要な経営判断に活かせるように)存分に発揮すればよいと思います。もしモニタリングモデルの運用がなされている、もしくは移行しようと努力している会社であれば、どのような形で自らのスキルを監督職務に取り入れるべきか、会社側とよくすり合わせをしておくべきではないでしょうか。

※ ちなみにガバナンス・コードや経産省社外取締役ガイドラインが求めている「監督」とは、CEOに対する評価と、CEOの選解任および報酬決定への主導的役割を果たすこととされています。このような「監督」に社外取締役のスキルがどのようなプロセスで反映されるのでしょうか。

そしてもうひとつの素朴な疑問は、社外取締役のスキルに関心が集まり、上記記事にあるように「取締役会の諮問機関」として活躍することに期待が集まるのであれば、そもそも社外取締役である必要はなく、顧問やアドバイザーとなって(社外取締役では困難とされる)業務執行の一端を担うほうが企業価値の向上につながるのではないか、ということです。スキルマトリックスが求められるほどに重要な経営判断の決定に外部専門家が必要とされる時代であれば、社外取締役のような形でなく、もっと業務執行に近いところで活用されるほうが戦力になるのではないかと。

「いやいや、環境や人権、サイバーセキュリティに精通した有識者が社外取締役であることが重要なのだ」とされるのであれば、そういったスキルをお持ちの方が「取締役会において議決権を持つ意味」がわかりやすく社外取締役候補者にも伝えられる必要があると思います。いずれにしても、社外取締役になろうとされる方々は、対象会社の取締役会のモデルがどうなのか、という点を冷徹に認識することが大前提でしょう。そこを飛び越えて、近時のコーポレートガバナンス改革の理想論から「あるべき姿勢」に倣うことは会社にとっても社外取締役にとっても悲劇の始まりのような気がいたします。

ちなみに私にとって「社外取締役にとっての最高のスキル」は、経営陣をどのように監督すれば株主のエージェンシーコストを下げることができるのか、そこを理解することだと考えています(社外取締役と機関投資家との対話において、とても有意義な話題になると思います)。

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2021年8月11日 (水)

コーポレートガバナンス・コード改訂2021の楽しい勉強法について

Img_20210810_211317_400 8月9日に出版されたばかりの「コーポレートガバナンス・コードの実践 第3版」(武井一浩氏編著 日経BP 2,800円税別)をご著者の方から献本いただきました(たぶん西村あさひの武井一浩先生ですよね?どうもありがとうございます🐱)。先日、2度目のコード改訂が行われましたので、本書ももう「第3版」なのですね。改訂2021への各社対応は、今年12月更新までのガバナンス報告書で明らかになりますので、このタイミングでの第3版は各社が参考にされるでしょうね。それにしてもご著者の皆様はお忙しい中、タイムリーに改訂作業を進めておられるのには頭が下がります。さっそく改訂部分を中心に拝読させていただきます。

ところで企業統治改革が始まってからすでに6年~7年が経過しますが、コード改訂版はかなり「てんこ盛りガバナンス」の内容に仕上がっているように思われます。そこで、合格最低点を目指して、改訂版をいかに「楽しく」勉強するか、ということを考えることも大切です。先日、コード改訂実務に近い立場にあった方のプライベートな講演会を拝見(WEB)しましたが、その際にとても面白いコメントが聞かれました。コード策定時(2014年ころ)と現在とでは、「中長期的な企業価値向上のためのガバナンス」という改革の方向性はブレていないけれども、なんだかいろんなものがくっついちゃった、とのこと(笑)。このあたりが「楽しい学習」のための切り口になりそうです。

ご承知のとおり、2014年頃から今年に至るまで、ガバナンス関連のいろんな「指針」やら「ガイドライン」やらが経産省、金融庁、法務省、内閣府を中心に策定されていますが、これらは各省庁担当課長の「実績作り」の一環だそうで、異動前になると、成果品として各省庁から発表されるのが常のようです。それぞれの担当課長の成果品であるがゆえに、コード改訂の際にもどこかで成果品たる指針やガイドラインの趣旨を盛り込まねばならないということになり「ずいぶんといろんなモノが改訂版にくっついちゃった」結果になってしまったとか・・・( *´艸`)

私も財務省のアドバイザーや有識者メンバーに就任していますので「なるほど」と思いましたが、たしかに官僚の皆様には(実績のための)「異動の花道」がありますよね(その「花道」を首尾よく作ってあげて気持ちよく異動させる部下はきっと出世するのでしょうね)。ここ5年ほど、〇〇実務指針とか▽▽ガイドラインなるものがガバナンス・コードの周囲にもたくさんできましたが、年を追うごとに増えていることは明らかでして、それらすべてにコードが「挨拶」をしておりますと、改訂版の中身は必然的に分量が増加し、内容も複雑化してくるわけです。では、改訂部分のどこが、どの指針やガイドラインと結びついているのだろうか・・・といったあたりを考えながら勉強する、というのも頭に残りやすい(理解しやすい)学習法かもしれません(いや、完全に個人の趣味かもしれませんが・・・)。

そういえば思い出すのが平成18年会社法改正のときの法制審議会委員だった方々の座談会記事(旬刊商事法務)。法制審における改正作業の最終コーナーを回ったあたりで某自民党議員の方による突然の「内部統制に関する条文挿入」の要望があり、いきなり「体制整備に関する決議義務」が法文化されましたね。商事法務の座談会では「いままで議論もしていなかった条文の突然の挿入について『いやァ、変なものが入ったちゃったなァ』という気持ちでした」と和気藹々な雰囲気で法制審委員の方々が語られていました。(これは私の推測ですが)あの当時から法務省官僚の方々の意向が学者委員の方々の意見よりも強くなってきたのではないかと。その後、金商法上の内部統制と会社法上の内部統制との関係など、理屈の上で難問が出てきたことは皆様ご承知のとおりです。

そのように考えますと、今回の改訂2021への対応については(周囲を見回しながら)理路整然と「コンプライ」することにこだわるよりも、会社としてどのように稼ぐのか、そのストーリーに必要な範囲でコードを自由に解釈して「対話に役立てる」「コンプライにこだわらない」姿勢が投資家にも、また経営陣にもウケが良いのではないかと思います。コンプライにせよ、エクスプレインにせよ、なぜ当社のガバナンス構築が中長期の儲けにつながるのか、そこの説明に必要な範囲で改訂版コードを活用すべきではないかと思います。

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2021年8月 5日 (木)

ガバナンス改革はJ-SOX(財務報告内部統制)と同じ道をたどるのか?

昨日(8月3日)の日経朝刊9面に「日経地銀実力調査 再編先行組が健闘-山口は『統治』で低評価」なる見出しの記事が掲載されています。当該記事によりますと、山口FG傘下の山口銀行は、収益力が評価されて総合ランキングでは上位とされていますが、ESG評価は「C」(68位)とのこと。その理由としては「グループトップが、6月の総会後の臨時取締役会で再任を拒否された事案が評価に響いた」そうです(ちなみに再任を拒否された事案の概要は日経ビジネスのこちらの記事が詳しいです)。経営の中枢部分に不安定要素がある、ということが低評価とされたものと推測されます。

しかし、上記事案(6月総会後の社長不再任)は、そもそも元社長の不適切行為に関する内部通報が経営陣に届き、その後は社外取締役(10名中7名)が中心になって社長の再任拒否といった結論になったわけですから、いわば「社外取締役が機能した」と評価できる事案ではないかと。現に7月25日の朝日新聞WEB有料記事「『納得できない』-改革派地銀トップはなぜ解任されたのか」では、金融庁幹部の方も「今回の件はガバナンスが機能した」との評価を下しています。

素朴な疑問ですが、上記日経地銀実力調査の結果からすると、コーポレートガバナンス・コードが理想とする社外取締役の行動をとった企業は「ガバナンスに問題がある」と評価され、「モノ言わない社外取締役」が沈黙して安定的な経営がなされている企業が高い評価を受けるということになるのでしょうか。しかし、私の理解するところでは、今後のいかなる経営環境の変化にも対応できるだけの多様性を備えた取締役会こそ(少なくともESGという視点からは)高い評価を受けるのであって、ガバナンス上の経営権問題が表面化したことをもって低い評価とするのはどうもおかしいように思います。

ちょうどJ-SOXの運用において、会計不正が発覚するまでは「内部統制は有効」と開示しながら、会計上の問題が発覚するやいなや訂正報告書を提出して「内部統制は有効とはいえませんでした」と修正して「ハイ、一件落着」と片付けるのと同じではないかと(これまで、修正によってペナルティを受けた上場会社はひとつもありません)。

つまり、上記のような評価がなされるのであれば「外から言われたことを粛々とこなしておいて、なにか問題が生じればそのときに有事対応で問題を解決すれば足りる」といった企業姿勢を助長することになりそうですし、企業の不正リスクに関する警鐘を社内から鳴らす「オオカミ少年」が育成されないことにつながります。これでは何のためのESG開示であり、エンゲージメントなのかわからなくなります。いわば「J-SOXの二の舞」であり、企業としても「その程度の対応で足りるのか・・・やれやれひと安心」ということになるかもしれません。取締役会の実効性評価にしても、将来的な企業価値との関係で評価を行うものと理解しております。過去に発生した事実から評価を下すというのは、せっかくのガバナンス改革のための知見を無駄にしてしまうことになりそうで、もったいない気がいたします。

それにしても、不祥事が発生すれば「社外取締役は何を見ていたのか、機能していない」と言われ、不祥事防止のために目立った行動に出れば「経営の中枢がゴタゴタしているからガバナンスが問題」と言われるわけですから、いったいどうしたらよいのでしょうかね。。

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2021年8月 2日 (月)

日本企業に「知財ガバナンス」は定着するか?-社長を説得する工夫について

ほとんど東京五輪は見ておりませんが、松山英樹のゴルフの最終日だけはテレビの前でずっと応援しておりました。彼がアマチュア時代から慣れ親しんでいるコースでも、やはり五輪で勝つのはむずかしいのですね。たいへん悔しいですが、日本代表としてよく頑張ったと称賛したい(まぁ「3位になるために、こんなに頑張ったことはない」と語ったマキロイでも勝てないんだからしかたないか)。

さて、先週のデータガバナンスに続き、本日は「知財ガバナンス」のお話です。改訂ガバナンス・コードにも記載されることになったので、最近は日経フィナンシャル7月29日記事(知財・投資家との対話手段に、統治指針改訂で機運)や旬刊商事法務最新号(2269号スクランブル「知財ガバナンスが描く未来」)でも取り上げられています。ガバナンスといえば「企業価値向上」を目的とした組織構築を示すイメージが強まってきたことから、このような言葉が使われるようになってきました。

ただ、データガバナンスと同様、知財ガバナンスといっても、経営陣が自分事として受け止める傾向はほとんどないと思われます。上記日経フィナンシャルの記事ではホンダの取り組みが紹介されていましたが、ホンダは創業者が「知財の神様」と言われるほどに知財戦略を推進しておられた会社なので特別です(つまり会社自体に知財ガバナンスのDNAがあるわけですから、あまり他社の参考にはならないのではないかと)。

ということで、私もとくに知財に詳しい弁護士ではありませんが、平成16年以来、メーカーや製薬を含めて社外役員を経験した立場から、知財ガバナンスが重要であることを社長にどう説明すべきか、という点について私論を述べたいと思います。

まずM&Aの進展です。少し前まではM&Aといえば「食うか食われるか」という組織再編での経営判断が主流でした。しかしネットワークの構築が重要な無形資産と言われるような時代となり、中小ベンチャー企業との提携(合弁会社の設立等)などもさかんに行われています。ベンチャー企業の持つ知財を活用することで新規事業にチャレンジするわけですが、そのチャレンジが新規事業を生む結果となることがあります。ところでベンチャーにとっては大きな成功でも、規模の違う大会社にとっては「横展開」をしなければ大きな成功には結び付きません。ただ、ベンチャー企業は当初の成功に満足してしまい、大企業の「横展開」構想に対しては消極的になり、知財の活用にも賛同してもらえません。こういった中小ベンチャーとの事業展開リスクを最初から想定するためには、どうしても経営陣の関与が必要となります。

次に日本企業における労務慣行の壁です。現場レベルで知財開発・知財管理を行うことについては問題ありませんが、「知財ガバナンス」の対象となるような他社とのネットワークの中で知財戦略を実践するためには多大な投資が必要です。しかし「減点主義」の人事評価が長年の慣行となっている企業では、20回失敗する中で1回モノになればOKのような知財戦略に手を挙げて責任者になる人がいるのでしょうか。過去に何度も見てきた風景ですが、失敗の原因究明はほとんどやらずに「責任者への処分」で一件落着させる(明確な敗者復活戦もない)という組織論理がまかり通る中では、到底「知財ガバナンス」は日本企業には浸透しないはずです。

そして最後に「競争法と知財法の両方に詳しい人が社内に存在しない」という現実です。これも現場レベルでの知財管理にはあまり問題が出てきませんが、知財戦略となると(モノになりかけた場合に)独占の問題とか優越的地位の濫用の問題とどこかで抵触することになります。つまり知的財産法を活用して管理するのか、オープンイノベーション戦略に出るのか、その際に独禁法上のリスクはどうなるのか、といった両面からの経営判断が必要となるわけで、その両立を図ることが「知財ガバナンス」の要諦です。これは「この会社がこれから10年、20年、世界で何をしたいのか」という経営方針を決定する者が判断しなければならず、(経営に責任を持たない)法律の専門家に任せるのはご法度です。

以上、知財戦略がこれからの企業経営にとって重要であることは間違いないのですが、そこで検討すべき課題は「担当役員に任せておけばよい」というものはありません。そこを社長さんにどう説明するか、この問いへの回答を各社で考えだすことが「知財ガバナンス」ではないかと思います。

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2021年7月29日 (木)

LINEの個人情報保管問題-「データガバナンス」とは何か?

今週の日経新聞「迫真」では、LINE社で発生した個人情報の不適切保管問題をネタとして、親会社であるZHDとLINEとの実質支配の力学が語られています。親会社からすると「グループ経営管理の難しさ」を痛感する具体的事例として興味深い内容ですね。

この「迫真」記事を読むと、今回の問題には様々なガバナンス上の論点があることがわかります。その論点のひとつとして、本日は「データガバナンス」について考えてみたいと思います。たとえば7月27日「苦悩のLINE(1)-いつか起こる問題だった」では、韓国での個人情報保管問題にせよ、中国の業務委託先企業が日本の利用者データを閲覧できた問題にせよ、LINE社では開発担当者以外には知らなかった可能性があり、これは同社における「データガバナンスの問題だ」と述べられています。

ところで、この「データガバナンス」なる定義はどのようなものなのか。そもそも、いったいどのようなガバナンスなのか。ということで、とりあえずGoogleで検索をしますと、

データガバナンスとは、組織が目標を達成するうえで情報を効果的かつ効率的に使用するための、プロセス、役割、ポリシー、標準、評価指標の集合を意味する単語です。 ビジネスや組織全体で使用されるデータの品質とセキュリティを保証するプロセスと責任を確立します。

と出てきます。重要なデータ保管の状況を開発担当者しか知らなかったということは、まさにデータのセキュリティを保証するプロセスに欠けていた、ということかと思われます。しかし上記の問題を「データガバナンスの問題」と捉えるのであれば、役員が知っていたらすぐに対策をとることが前提となるはずですが、果たしてそうでしょうか?

LINE社の役員の方々が、利用者データの保管場所や業務委託先企業の作業プロセスを知っていたとしても、何が悪いのかわからなかったのではないでしょうか。もしくは、たとえ問題だと認識したとしても、すぐに対策を打たなかった(有事の意識が欠けていた)という可能性はなかったのでしょうか。「こんな事態になっていますが、ZHDさんはご存じですか?」といった外部通報が親会社に届いたそうですが(おそらくLINEの社員による内部告発かと思いますが)、これはLINE社経営陣の感度が悪いからこそ外部に情報提供があったように推測されます。

上記の「データガバナンス」の一般的な定義からは逸脱しているかもしれませんが、ときどき情報漏洩事件を発生させた企業の危機管理のお手伝いをするなかで、一番問題だと思うのは「経営者が情報管理の重要性を認識していない」という点だと感じておりまして、私の中での「データガバナンス」の問題はむしろ「経営者は何がデータ管理上の問題なのかわからない」「たとえ漏洩の可能性はあったとしても、実際に利用者に損失が発生していなければ騒ぐほどのことではない」といった経営者の姿勢ではないでしょうか。

経営者自身に関心がないからこそ開発担当者(責任者)は問題と思われる事態を報告しないのではないかと。このあたり、真実はどうだったのか、LINE社の幹部の方にでもお尋ねしてみたいところです。

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2021年7月16日 (金)

東芝6月定時株主総会の決議取消訴訟は提起されるか?-調査報告書への強い疑問

7月14日の産経新聞朝刊(7面正論-オピニオン)におきまして、上村達夫先生(早大名誉教授)が「ファンドに翻弄される日本企業」と題する論稿を書かれていて、ひさしぶりにドキドキしながら拝読いたしました。メディアはこぞって会社法316条2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書の内容を信じ切ってしまって、さも真実であるかのように報じているが、そこまで調査報告書の内容は信用性の高いものなのか、東芝の6月総会の議決権行使は、あの調査報告書の内容が不当な影響を与えてしまっていて、決議の方法が著しく不当なもの、あるいは多数決の濫用に至っているのではないか、とのご主張です。

当該ご主張の論拠としては「株主による業務・財産調査権」の歴史的背景と他の条文との関係性(3%以上を保有する大株主は総会に関係なく業務財産検査権を行使できるのに、なぜそちらを行使しなかったのか-裁判所を介入させることをおそれたのか)調査者の独立公正性に関する問題点(莫大な弁護士報酬は大株主がいくら出したのか)から展開しておられます。そして、上村先生は東芝の6月総会の決議については総会決議取消の訴えを提起しうる、いや提訴期限(総会から3か月以内)のある取消訴訟のみならず、株式会社の運営機構という公序の毀損として決議無効確認の訴えすら想定しえないではない(無効確認訴訟は提訴期限はありません)、とまで述べておられます。そもそも東芝は「お人よし」すぎるのであり、調査については「不当なもの」として拒否すべきであった、とのこと。

調査者の独立公正性に関する疑問の根拠とされる「調査者の報酬を誰がどれだけ払ったのか開示せよ」との意見については、私の記憶では決議内容が「タイムチャージで換算された調査者の報酬は正当なものとして東芝が支払う、もし払わなければ議案を上程した大株主が払う」というものだったと思います。「東芝は調査に全面的に協力します」とおっしゃっていたので、おそらく全額東芝自体が払ったのではないかと想像しておりますが、違いますでしょうかね?(そうであるならば、調査者の独立性、調査の公正性にはそれほど大きな問題はないような気がいたします)。

ただ、そもそも社外取締役など全く存在しなかったときのエージェンシーコストとして「調査者」制度が出来たにもかかわらず、エージェンシーコストの一部である社外取締役の適格性を調べるために「調査者」が活用できるのか(条文の制度趣旨を超えてるのではないか)、株主との信頼のうえに社外取締役(とりわけ監査委員とか監査等委員)が存在するにもかかわらず、その社外取締役の適格性を調査できる(無制限に社外取締役のメール等を入手して事実認定に活用できる)となれば、そもそも監査制度自体を否定することにならないのか、といった上村先生のご主張には一理あるようにも思いました。

また「商法の大家」でいらっしゃる学者のご意見として「昭和44年のふたつの最高裁判決は、中小企業の実質上の支配者たる個人等の責任を厳しく追及する、事実上の立法といわれたほど」の判決だったそうですが、いまだ最高裁は(事実上の立法といわれるほどの)大規模公開株式会社法理の形成に存在感を示していない(だから存在感を示す良い機会である?)と指摘をしておられて、これも興味をそそる内容です(ちなみに「ふたつの判決」といいますのは最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁と最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁ですね)。

もし東芝の6月総会の決議の有効性が司法の場で争われるということになれば、また新たな事実も出てくる可能性もあり、新たな判例法理が示される可能性もあっておもしろい展開になるかもしれません。ひょっとしてすでにどこかの法律事務所が提訴準備に入っているのかもしれませんが、そもそも「原告」になる方がいらっしゃるのかどうか。いずれにしても「経産省の圧力」vs「ファンドの圧力」が司法の場で議論される、ということになれば世間の関心も高まるのでしょうね。

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2021年7月 9日 (金)

経済安全保障がガバナンス・コードにコンプライする上場企業に及ぼす影響について

旬刊商事法務の最新号(2021年7月5日号)の記事(スクランブル)に「経済安全保障とガバナンス」なる小稿が掲載されていますが、私がとても懸念している点が見事に語られています(私はこんなに上手にまとめる能力がありません)。日本政府や欧米諸国(連合)が日本企業に要請する経済安保への協力要請は、ガバナンス・コードが示す「経済合理性」とは相容れない側面を有しており、「(将来的にはガバナンス・コードの改訂において『経済安保』への協力要請も含まれるだろうが)経済合理性と地政学リスクとの間の均衡点を辿りながら個々の企業が米中間を抜け目なく渡り歩ける」のかどうか、との懸念です。まさにご指摘のとおりかと。

先日の東芝における「経産省による議決権行使への圧力問題」についても、経産省からみれば財務省(外資規制-外為法所管)と法務省(会社法所管)を眺めたうえでどちらを重視すべきか、といった判断があったのかもしれません(私のように会社法に馴染みのある法律家からすれば「とんでもない!」という気持ちにはなりますが・・・)。性能偽装で揺れる三菱電機は、すでに「経済安全保障統括室」を設置して経済安全保障リスクへの柔軟な対応を模索し始めていることが上記スクランブル記事でも紹介されていました。2021年4月には経済同友会が、各社に経済安保を踏まえたガバナンス強化を包括的に提言しています。

「真・善・美」を求めて経営をされているユニクロ(ファーストリテイリング)も、新疆ウイグル自治区の工場における労働問題で、かたや中国では不買運動に、かたやフランスでは刑事告訴事件に巻き込まれています(ちなみに法務省の「ビジネスと人権への対応」研究報告書の最初にモデル企業として掲載されているのはユニクロです)。また、個人情報や営業秘密の管理に不備がみつかった企業については、日本だけでなく世界におけるレピュテーションリスクの顕在化を招く時代になりそうです。

ESGもSDGsも、そして「ビジネスと人権原則」も、理念としては賛同いたしますが、経済安全保障の波が押し寄せるなかで、欧米諸国(連合)や中ロの「競争条件の不公平を是正するための戦略」として割り切る必要もあるのではないかと。もちろん気候変動対策のように切実さを増す国際問題もありますが、炭素税や排出権取引といった「外部不経済の市場内部化」によって、あくまでも測定可能な数値で経営上の判断ができるような対策で乗り切るべきと思います(決して、美しい理念の実現意思だけで乗り切れる問題ではないと思います)。

「これだけは絶対に内製化しなければならない産業」「これだけは絶対に優位性を譲れない産業」に対しては、今後国策への協力要請が強まることは間違いありませんし、競争上のアドバンテージをとれる情報は、おそらくそういった協力要請に積極的に応じる企業にしか届かないはずです。総務省接待問題や東芝問題は、大手企業と行政との「とんでもない」癒着が問題になりましたが、一方で行政との適切なコミュニケーションは、「経済合理性と地政学リスクとの間の均衡点を渡り歩く」ためにも不可欠ではないでしょうか(このあたりは、今後の重要な経営判断になるような予感がいたします)。

 

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2021年7月 7日 (水)

機関投資家の皆様、業績が良ければガバナンスなど無関心ですか?-任天堂の株主総会に思う

すでに私の界隈では大きな話題になっておりますが、こちらの電気興業のお家騒動事件については、なかなかスゴイ内容です。さすがオリンパス事件を暴いた記者によるものだけあって、「コーポレートガバナンス改革などと言ってみても、オリンパスの時代から何も変わっていないではないか」といった主張が赤裸々な証拠をもって語られております。まだ続編があるようですので、あらためてエントリーしたいと思います。以下、ひさしぶりのコーポレートガバナンスに関連するお話です。

任天堂といえば2021年3月期(2020年度)連結通期による売上高は約1兆7589億円(前年度比34.4%増)、本業のもうけを示す営業利益は約6406億円(同81.8%増)、ということでコロナ禍においてもすさまじい好業績です。ということで(?)6月29日の同社定時株主総会でも楽しい雰囲気が醸し出されており(たとえばこちらの記事)、コーポレートガバナンスなどなんの問題もない、というところでしょうか。いや、むしろ外国人の社外取締役の就任ということで「ダイバーシティにも配慮している。さすが任天堂さんだ」という声も聞こえてきそうです。

世間では誰も問題視していませんし、私だけがひねくれているのかもしれませんが(たぶん、そうかも)、そんな任天堂の新任社外取締役に米国イリュミネーション社(Illumination Entertainment)のCEOの方が選任されました。イリュミネーション社といえば、来年公開のアニメ映画「スーパーマリオ」を任天堂と共同制作している会社ですよね(たとえばこちらの記事)。

会社法上の社外取締役は「会社と社内取締役との利益相反取引の監督」が重要な職務とされていますので、任天堂の株主総会招集通知(取締役選任議案の参考書類)の中でも「当社とイリュミネーション社との間において、現在利益相反関係に立つ取引はございません」と注書きが示されております。したがってイリュミネーション社のCEOの方が「会社法上の社外取締役」として就任されることについては問題はなさそうです。

しかし、近時の企業統治改革において取締役会に期待されているのは代表取締役の選解任や個別報酬決定プロセスを通じた監督機能の発揮ということです。社外取締役に独立性が求められるのは利益相反関係の有無だけでなく、社長の業務執行を利害関係なく監督できるからではないでしょうか。そうしますと、そもそも来年公開される映画を共同制作している会社のCEOの方は、今後の任天堂とイリュミネーション社との協働事業について(つまり任天堂の重要な業務執行について)監督できる立場にはないと思われます。

もちろん、独立性を持たず、経営のご意見番であったり、社長との共同業務執行者となる「非常勤取締役」さんは上場会社にもたくさんいらっしゃいますし、企業価値向上のためにご活躍されている例をたくさん見ております。したがって、そのような「非常勤取締役」に共同制作者のトップが就任する、ということであれば素晴らしい。

しかし、東証に独立社外取締役として届出をされるのであれば、やはり経営者をきちんと監督できる立場の方でなければ務まらないのではないかと。現在の事業戦略と利益的にも一致した立場の会社のCEOの方は、社長の経営責任を冷静に問うことはできないでしょうし、またいざという時に現在の事業戦略の方向を転換することは期待できないように思います。

最近は国内外の機関投資家の皆様も(上場会社の)コーポレートガバナンスに関するご意見をたくさんお持ちのようですが、なぜ任天堂のこの問題については誰もとり上げないのでしょうか?やっぱり「現在の業績さえよければ10年後、20年後の長期的な企業価値向上など関心事ではない」というのが本当のところなのでしょうか?ガバナンスに意見をするのは「業績が傾き出してから」ということなのでしょうか?ぜひ機関投資家の皆様のご意見を拝聴したいところです(なお、私個人の意見は「業績が絶好調のときこそガバナンスの構築・改変に乗り出すべき、傾き出してからでは遅すぎる」というものです)。

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2021年6月28日 (月)

東芝・定時株主総会における圧力問題と行政手続法36条の3

先週金曜日(6月25日)は自身が社外取締役を務める会社の定時株主総会が開催されまして、今年も述べ5分程度は株主の方からの質問にご回答申し上げました。ご納得いただけたかどうかはわかりませんが、想定問答集に関係なく自身の思いを誠実にお話しさせていただきました。ちなみにあとひとつは6月30日です。

さて、先週まで諸々忙しかったので、遅ればせながら週末に6月10日付け東芝「会社法316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者による調査報告書」を拝見いたしました。といっても、ざっと一読させていただいた程度ですが。さすが会社法に定める調査権限者による報告書だけあって、本当に東芝経営陣(元経営陣含む)および経産省に厳しい内容が自信をもって認定されており、とてもおもしろい内容でした。

とくに興味深いのは後半の「圧力問題」です。機関投資家の議決権行使を不当に妨げたということでありますが、もし仮に東芝は経産省に対して外為法違反に基づく権限行使を求めた、つまり行政手続法36条の3に基づく「処分等の求め」を行ったとすれば、本件ではどう評価されるのでしょうか。報告書によると、経産省担当者は東芝側に(機関投資家による要求内容等を指摘したうえで)「申入書」の提出を促した、とありますので、ひょっとすると行政手続法36条の3を念頭に動いていたのではないかと(経産省は何ら説明していないので、真相はわかりませんが・・・)

ちなみに行政手続法36条の3というのは、

第三十六条の三 何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。
2 前項の申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出してしなければならない。
一 申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所
二 法令に違反する事実の内容
三 当該処分又は行政指導の内容
四 当該処分又は行政指導の根拠となる法令の条項
五 当該処分又は行政指導がされるべきであると思料する理由
六 その他参考となる事項
3 当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。

という条文です。改正外為法には「是正措置に関する勧告」という「法律で定めた行政指導」に関する規定がありますので、もし外為法違反の疑いのある投資家の行動があれば、その情報を経産省に提供して適切に指導せよ、処分せよ、といった処分要求は誰でもできますよね(当然、法人である東芝も処分要求は申出書によって可能です)。また、行政手続法の解説書では、処分方針については後日要求者に対して結果を説明すべき、ともありますので、ある程度、東芝と経産省の間で隠密裏にコミュニケーションを図ることも想定された条文です(「逐条解説行政手続法」平成28年5月20日 一般財団法人行政管理研究センター編著 ぎょうせい 280頁)。本件ではこの行政手続法36条の3は適用されないのでしょうか。まあ、しかし報告書で示されたような事実が認められるとすれば(第三者を使って特定の投資家に議決権行使を思いとどまらせることを東芝と経産省で画策していた、という事実)そもそも行政手続法の適用場面ではない、ということかもしれません。ただ理屈の部分はきちんと整理しておく必要があるように思いました。

あと、昨年9月に初めて議決権への圧力問題が海外メディアで報じられてから、一部投資家によって臨時株主総会の開催請求が出される12月までの間に、東芝自身が(もしくは東芝の監査委員会が)第三者委員会を設定できる余地はなかったのでしょうかね。この点については、元監査委員会委員長の方の(第三者委員会を設置できなかった)説明(言い訳?)が報告書にありますが(91頁)、ここで中立・公正な第三者委員会が立ち上げられていれば(とても穿った見方ではありますが)6月25日の議決権行使結果(取締役会議長、監査委員の選任議案否決)のようにはならなかったような気がします。今回、株主の総意次第では、会社法に基づく強力な調査がなされるということがひとつの教訓となったはずであり、今後、不祥事が発生した会社、ガバナンスに問題が発生した会社では、すみやかに独立性の高い第三者委員会を自ら立ち上げることが増えるのではないでしょうか。

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