2017年8月29日 (火)

大塚家具事例から取締役会の「頑張りドコロ」を考える

最近、大塚家具さんが「かなりピンチ」といった記事が増えています(たとえば東洋経済オンラインの26日付こちらの記事など)。なかでも8月28日の日経WEB「ガバナンスの掟-大塚家具、親子対決制した末の監督機能不全」では、監査等委員会設置会社に移行した大塚家具さんにおいて、社外取締役による監督機能の不全が厳しく指摘されています(有識者の方々のご意見もなかなかキビシイですね)。

監督機能の不全を指摘するのであれば、取締役会の構成員全員についての批判がスジではないかと思うのですが、ここではとりわけ監査等委員会を構成する社外取締役さんが批判の的になっています。いつもはほとんどマスコミで取り上げられない「監査等職務」・・・つまり監査等委員会には社長人選や報酬への意見形成(意見陳述)機能があるにもかかわらず、監査等委員である社外取締役さんは、なんら権限を行使していないではないか、といったところですね。

でも、大塚家具さんに限らず、2期連続赤字で、あと現金が21億円しか残っていないような状況では監督機能を発揮できるような段階ではないと思うのです(銀行の新たな融資枠が設定されたとしても厳しい状況は同じかと)。取締役会の監督機能というのは、業績が好調な時期か、あるいはピークをやや超えた時期(ビジネスモデルの転換が必要ではないか、といった漠然とした不安が生じる時期)だからこそ発揮できるのではないでしょうか。即効薬のようなガバナンスなどありえないと思います。2期連続赤字といった状況では、社長交代ということよりも、とりあえず出血を止めるためのファイナンス、もしくはMBOや企業買収(再編)といった緊急対応にこそ社外役員も注力することが大切かと。

「どこと組むか?」といったことに社外取締役さんが活躍することもありますが、やはり緊急対応の主役は社長さんです。そして現在の大塚家具の状況を考えますと、この段階での社外取締役の頑張りドコロとしては、社長交代や報酬意見、といったことよりも、どんな場面になったとしても少数株主(一般株主)が一方的に不利益を被らないように目を光らせることだと思います。シャルレのMBO頓挫事件の地裁・高裁判決では、取締役さんには利益相反を疑われないような公正手続きに配慮すべき義務(会社に対する)が問われました。たとえ公正価値移転義務に違反せずとも、一般株主に不信感を抱かせるような企業行動にこそ、社外取締役が待ったをかけなければならない、ということですね。

ここからどうやって復活されるのか、いまこそ大塚家具さんの次の一手に期待が寄せられます。

 

8月 29, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年8月27日 (日)

退任社長は「相談役」にならずに「常勤監査役」になるという選択肢

今週は火曜日(8月22日)から金曜日(25日)まで、毎年恒例の日本監査役協会の新任監査役等研修(合宿)に講師として参加してまいりました。ご参加された企業はA日程・B日程合計250社ということで、皆様お疲れ様でした。風光明媚な滋賀県長浜のホテルでの研修ですが、湖上からやってくるゲリラ豪雨にはたいへんな恐怖を感じました(^^; ミサイルカトオモッタ・・・

今年も多くの新任監査役、監査等委員、監査委員の方々と意見交換ができて、たいへん有意義な時間を過ごしました。経営執行部の知り合いの方が数名、監査役に就任されておられてビックリしました。また、規模の大きな上場会社や金融機関を中心に、内部監査部門の改革が進んでいる会社が増えていることも初めて知りました(この話はまた別エントリーにてご紹介したいと思います)。

ここ数年、私は事例を通しての監査役等の有事対応に関する研修(双方向のグループ研修)を担当しているのですが、なかなか社長にモノが言えない監査役等の悩みを感じていただけそうな事例をかならずひとつ取り上げております。今年も、そういった悩ましい事例をみなさんでお考えいただいていたのですが、受講された監査役さんのおひとりが、とても立派な対応について自信をもって回答されたことに少し感動をおぼえました。

「素晴らしい回答です!監査役のカガミといえそうな神対応ですね!でも、ホントにそのような対応を社長を目の前にしてできますか?」

と、私はその監査役さんに対してすこしイジワルに質問したのですが、その方は少しムッとされて「はい、もちろん社長に向かって、今と同じ意見を堂々と述べます!」とのお答え。

「いやいや実に立派な会社ですね。おそらく社長さんが監査業務をリスペクトしている雰囲気を持った会社さんなのでしょうね。監査役さんが大事にされている会社を知ってうれしく思いました」

と、私は(監査役さんの人格・識見を褒めることはせずに)その会社の監査環境を褒めるようなことを申し上げました。

その後、懇親会で、この新任監査役さんとお話する機会があったのですが、先の新任監査役さんから

「先生、さきほどは偉そうな物言いで失礼しました。実はね、先生。私、前職はこの会社の代表取締役社長だったんですよ(笑)。●年ほど社長でした。いや、これは正直にお話しておかないと先生に失礼じゃないかと思いましてね(笑)」

(私)「エエ!?ほんまですか!?Σ( ̄□ ̄lll) ・・・でも、それって究極の自己監査ですよね・・・笑」

「はい、先日、子会社監査に行って、子会社の社長に『おまえ、これなっとらんやないか!』と指摘したら、子会社の社長から『いや、これは親会社の前の社長から指示されたことですよ!』と反論されて往生しました(笑)」

・・・・・なるほど。ということは親会社の現社長さんは元部下ということですね。だから、厳しいことも平気で社長に要求できる、と。しかし(かなり大きな上場会社さんですが)元社長が退任後に常勤監査役に就任する、というケースはさすがに日本の上場企業では珍しいのではないでしょうか。

そういえば以前、三菱重工業さんが監査等委員会設置会社に移行する際に、退任される副社長さんが、初代の常勤監査等委員に就任する、という話題を当ブログでも取り上げまして、あるガバナンスに詳しい方から「自己監査は監査不全の温床、最悪!」としてご異論をいただきました。また、東芝さんの第三者委員会報告書においても、東芝の元CFOだった監査委員長の方の「いまさら騒いでも執行部は困るだけだから、見なかったことにしましょう」といった発言が記されていたことにも残念な気持ちになりました。

たしかに「自己監査」(自分が決定した業務執行を自分で客観的に監視・検証できるか)によって監査機能が低下してしまう、というのは実例もあるので(ガバナンスの実効性という意味では)問題はあることは認めざるをえません。ただ、ここぞという場面で社長が監査役の意見を飲むかどうかは、平時における監査環境に依拠するところが大きいと思います。そういった意味では、退任した社長さんが監査役に就任する、というのは究極の監査環境ではないかと。とくに、社外取締役や社外監査役と組むことで、絶大な監査権限を行使できるような気がします。

最近、相談役制度の功罪といったことがよく話題になり、相談役を廃止して退任社長さんは他社の社外取締役になるべき、といった議論が展開されています。でも、ここは大いに異論が出るところですが、いっそのこと退任された社長さんは監査役に就任してみるという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか?社内において監査役をみる目が大きく変わるかもしれません(もちろん会計監査人との連携にも影響が出そうですね)。

8月 27, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年8月18日 (金)

西武vsサーベラスの攻防とガバナンス改革への教訓

8月16日の報道によりますと、米国の投資ファンドのサーベラス・グループが、西武HDの株式をすべて売却したことが判明したそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。西武さんが出資を受けて11年半。西武さんは、ようやくサーベラスさんの影響力から完全に脱することができたといえます。西武さんが再上場を果たす2013年ころは、両社で経営方針を巡り激しく対立していました。私も夜のニュース番組でテレビ出演を果たしたり(もう二度とテレビ出演はしませんが・・・笑)、いろいろと記憶に残る事件でした。

あの西武vsサーベラスが盛り上がっていた2013年当時、サーベラス側が主張していた「西武のガバナンスと内部統制に問題あり!ガバナンスと内部統制を糾す」という言葉は、新聞やニュースで繰り返し紹介されました(おそらく私が当時いろいろとマスコミから取材を受けたのも、このようなサーベラス側の主張によるところが大きかったと思います)。アベノミクスが語られ始めたころでしたが、「中長期の企業価値向上のための株主との対話」「株主を含むすべてのステイクホルダーへの説明責任の実践」という言葉も、サーベラス側から主張されていたように記憶しています。

最終的にはサーベラスさんの株主提案は株主総会では通らなかったわけですが、けっこうサーベラスさんも当時は的確な指摘をされていたと思うのですね。とりわけ内部統制については、①上場申請年度において業績予想数値の下方修正を行う、②中期事業計画の公表から1年あまりで目標水準を1年先延ばしにする、といった西武さんの経営姿勢を批判したうえで、「内部統制の在り方に重大な懸念がある」と主張しておられました。これは、内部統制=不正予防、コンプライアンスと受け止められていた日本的な考え方ではなく、内部統制=事業戦略の確実な執行と捉えるアメリカの経営者の考え方に親和性をもつ主張でした。ただ、あまりそこまでの議論が当時の日本ではなされなかったと思います。

ガバナンスについても同様です。いまのように「攻めのガバナンス」「健全なリスクテイクのためのガバナンス」「執行と監督の分離(モニタリングモデル)を意識した取締役会改革」といった議論がまだそれほど企業社会に浸透していませんでした。いまなら、ガバナンスのどこに問題があるのか、「ガバナンスが良好」と評価するのであれば、それは企業価値の向上とどう結びつくのか、サーベラスの推奨する取締役候補者が、その目指すべきガバナンスにふさわしいか、といった議論が深まったのではないかと想像します。当時のサーベラスの質問状などを読み返してみても、西武に設置されていた「ガバナンス推進有識者会議」が、西武さんの取締役会をどのように評価しているのか?と聞いたりもしています。

上場後の西武さんが、ホテル事業を中心に業績を回復させておられることはご承知のとおりです。サーベラスさんも、それなりに収益を上げることができたと思われますので、いまとなってはあのバトルを思い出す人も少ないかもしれません。ただ、あの時のサーベラスさんの主張に違和感を感じていた機関投資家も、ひょっとするとスチュワードシップ・コードが浸透している現時点であればそれなりに賛同するところも出てくるのではないか、と思うところです。

 

8月 18, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年8月 3日 (木)

社長が孤独であればあるほど相談役・顧問は活きる!

私が長く住み続けている場所(堺市百舌鳥界隈)が世界遺産に登録される可能性が出てきました。大小多数の古墳群は毎日眺めている「あたりまえの風景」なので、あまり実感が湧きませんが、登録されれば経済効果は1000億だとか(?・・・ほんまかいな)。ということで(?)、本日は世界遺産ならぬ「負の遺産」などと揶揄されている相談役、顧問制度のお話です。

日本取引所さんが「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」と題してコーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂されましたね。経産省の研究会報告や政府の未来投資戦略でも提言されておりましたので既定路線のようです。私も(週刊エコノミストの拙稿で述べておりますように)相談役・顧問制度には長所も短所もあるので、できれば各社において職務内容等を開示すればよいのではないかと思っておりました(方向性としては賛成です)。企業の対外的活動や社会貢献など、相談役が担っている企業も多いですし、相談役制度があるからこそ社長交代が促進される(かつてのように高額所得税が80%の時代ではなくなり、また役員退職金制度も廃止されるとなると、相談役のようなクッションがないといつまでも社長の座にしがみつく)、実績のある方ほど「相談役」として引き留めておいて中国や韓国等の競業他社で活躍していただかない、といったところも考慮すると、このあたりがオトシドコロではないかと思われます。

ただ、相談役や顧問の方について「職務はほとんどありません」と書かれていたとしても、また、相談役制度は廃止しました、と開示したとしても、元代表取締役社長、元CFOといった方々の影響力が全くないかといいますと、そんなことはないですね。とりわけ元カリスマ経営者や元カリスマ経営者を支えた元CFOといった方々が、たとえ会社には一切来なくなったとしても、毎日のように「●●チルドレン」と言われている現経営陣の方が御自宅に相談に伺う・・・というのはよく聞くところです。会社に在籍せず、対外的な活動もしないので無報酬ですが、影響力だけは社内で残している、まさに「影の相談役」ですね。

現役の社長さんだって、孤独であればあるほど、かつての上司だった「影の相談役」しかホンネを言わないということはあります。ご自身の弱みを墓場まで持って行ってもらえる方、ご自身のややグレーな部分を代わりに背負っていただいている方だからこそ、現役社長さんはホンネでお話できるのではないでしょうか。そのことを社長を取り巻く経営陣もよくわかっているので(相談役を退任した後も)「社長を動かせる人」のところへ日参するわけでして、「院政」は相談役(元相談役)が敷くのではなく、むしろ現役の経営陣が「院政」を活用する、というのもかなり見てきました(まぁ、人間力学として当然といえば当然かと)。

改訂された上記要領「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を読みますと、相談役のCSR(車、秘書、個室)の有無や現経営陣と同じフロアにそのまま在籍するのかどうか、といった本当の影響力を示すモノサシまで開示する必要はなさそうです(これらは株主との建設的な対話の中で開示する、といったことでしょうか)。スチュワードシップ・コードや国連の責任投資原則の浸透によってガバナンス改革はいよいよ形式から実質へと動き出しているようですが、この相談役・顧問制度の持つガバナンスへの影響については、「経営技能」よりも「実務技能」を重視する日本の社長養成・選抜システムが続く限りは変わりようがないと思っています(参考:江頭憲治郎「会社法改正によって日本の会社は変わらない」法律時報2014年10月号60頁)。ちなみに現在のところ、他社から経営のプロと呼ばれる方を社長に招聘するといった上場会社はそれほど多くはないですね。

★ところで安倍政権の趨勢からみて、ガバナンス改革はこの先どうなるのでしょうかね?中長期の企業価値の向上に資する・・・とありますので、検証するにも相当長期の施策続行が不可欠なのですが。。。

8月 3, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年7月13日 (木)

世間で話題の相談役・顧問の方々がこだわるCSRとは?

今週月曜日に、こちらのエントリー「電通労基法違反事件はこのまま略式命令で終結するのか?」にて、電通さんの法人起訴事件は正式裁判で審理すべきと述べましたが、やはり東京簡裁は正式裁判を行うことを決定したそうです。ご遺族の方々にも、また電通の社員の方々にとっても、私は経営者が法廷に立たれて「電通は本気で労基法を順守する」という宣誓をされるほうが良いと考えます(傍聴席はスゴイことになりそうですが・・・)。

本日は、とても大きな会社の現役相談役(元代表取締役)の方とお話する機会がありまして、せっかくの機会なので経済団体でのお仕事や政府委員としてのお仕事など、「相談役」であることのメリット・デメリットをいろいろと聞かせていただきました。その方が社長をされた会社では、社長経験者が「相談役」、それ以外の役員だった方が「顧問」に就任されるそうですが、「顧問」については役員退任後65歳まで、と決まっているそうです。「相談役」も、社長退任後3年と内規で決まっているとのこと。

お話の中で「相談役はやっぱりCSRには特別のこだわりがありますね」とおっしゃるので、「そうか、社長経験者ともなると、ステイクホルダーと企業とのつながりには格別の配慮を考えているのだなぁ。地位が人を作る・・・ということか。世間ではいろいろと騒がれている『相談役制度』も、社会にとってはけっこう有益なのかも・・・」と思いました。しかし、話の途中から、どうもCSRの意味がちょっと違うような気がしてきました。

「山口さん、私が言ってるCSRは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)という意味ではありませんよ。車(Car)、秘書(Secretary)、個室(Room)のことですよ。私の場合は秘書は専属ではありませんが、やっぱりこのCSRは手放せないですよねぇ。」

私 「・・・・・・・・(;^ω^)アアナルホド

もちろん、その方は「私はホントに相談されたら乗る、というもので、自身から経営に口出しすることはありません」とおっしゃっていました。でも社長OBの方々が「普通に」CSRという言葉をお使いになっておられるご様子だったので、相談役・顧問制度というのは、企業実務に深く根付いているのだろうな・・・と想像いたしました。当ブログに本日コメントをいただいているベネシュさんがお読みになったら、また💢っとさせてしまう内容になってしまいました(^^,

 

7月 13, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2017年7月12日 (水)

コーポレートガバナンス改革の実効性の検証方法について考える

先日のエフ・オー・アイ事件のときもそうでしたが、このたびの出光興産さんの公募増資に係る差止仮処分事件には、ほとんどの東京の大手法律事務所がどこかの関係当事者の代理人を務めておられるので、なんとも情報が出てきませんね(笑)。裁判の審理はいまどのあたりでしょうかね?(^^;; 要急案件なので、創業家側が申立をしたらすぐに審理(審尋手続き)は開始されていると思うので、双方の即時抗告、保全抗告の機会を考えますと、今週後半には決定が出てもおかしくないと思うのですが(東京地裁の商事専門部が審理をしますので、もう実質的にはそこで一発勝負ということであれば来週18日ころ、ということも考えられますが・・・、どうなんでしょう?)。

ところで最近、監査等委員会設置会社の急増だけでなく、取締役に選任されていない「社長執行役員」やインセンティブ報酬に関する議論などもされるようになり、ガバナンス改革の具体的な実践例などもよく話題になります。そうなると、やはり気になるのが「ガバナンス改革は成功した、と判断する検証方法ってどんなものなんだろうか?」という点です。

たとえばガバナンス・コードを実施することで、株主目線で経営するようになり、その結果として業績が向上した、もしくはROE向上を意識したことで株価が上がり、時価総額が上がったということが検証されるということが考えられます。つまり、ガバナンス・コードという「上場会社すべてにおいて『こうすれば業績が上がる』という魔法の指針があって、これを実施すれば業績も上がる」というストーリーの検証をすることが必要なのでしょうか?本家本元のOECD原則だと、こういった検証になるのでしょうか?

しかし、取締役会改革の流れをみてみると、ダイバーシティや執行と監督の分離、といった主題があって、その流れをつきつめていくと、同じ経営環境でも成功する企業も出て来れば失敗する企業も出てくる、最終的に成功した企業がその業界でたくましく成長して、失敗した企業を統合していって最終的には国際的に競争できる企業に成長する、ということを目指しているようにも思えます。つまりミクロ的に見れば、ガバナンス・コードを実施した結果として業績が下がってしまう企業が多く出てきたとしても、業界全体をマクロとして日本企業の業績が上がっていれば成功とみる、という検証方法もありかな・・・と。

いろんな経営者の方とガバナンス改革のお話をしていて、行き着く先への思いが前者として考えておられる方と、後者として考えておられる方と分かれているように思いました。まぁ、そんなことどうでもいい、といった「なんちゃってコンプライ」の上場会社の社長さんもけっこういらっしゃるようではありますが・・・(^^;

7月 12, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年6月15日 (木)

コーポレート・ガバナンスは最低限のリスク管理の手段である

一昨日のエントリーはココログブログ記事ランキング12位(6月14日過去最高)となりまして、たいへん多くの方にお読みいただきました。企業不祥事への関心の高さをあらためて認識いたしました。

さて、今週号の日経ヴェリタスは、時節柄「株主総会特集」が組まれていまして、「パッシブ運用の機関投資家も株主と積極的に対話を行う」とするアセットマネジメントoneの社長さんの記事が印象的でした。しかし、ガバナンスに関心を持つ者として、もっとも興味深かったのが議決権行使助言会社ISSの石田氏(日本法人代表)の小稿(インタビュー記事?)です。金融庁の有識者会議でも議決権行使助言会社の役割が審議の対象とされていますが、日本企業のガバナンス改革に、もっとも責任と影響力を持つ方の発言はたいへん重い。以下要旨をご紹介しますと、

日本企業のガバナンス改革は、CGコードの導入によってめざましい変化を遂げている。しかし、海外と比べると周回遅れだ。役員の女性比率も低いし、社外取締役の人数も少ない。最近よく「攻めのガバナンス」という言葉を耳にするが、疑問を感じる。企業が能動的にガバナンス改革を進めたからといって、すぐに業績が好転するわけではない。あくまでも、最低限度のリスク管理の手段のひとつと捉えるべきだ。(以下、役員報酬制度、相談役・顧問制度への考え方など詳細に語られていますが省略)

この特集記事の中でも「ガバナンス・コード3年目、社外取締役の実効性に課題がある」とされていますが、そもそも社外取締役さんが何らかの役割を果たしているとしても、その効果を実感できるのは、その社外取締役さんが退任して何年も経過してから、ということだと思うのです(そもそも社外取締役を導入する目的が中長期の企業価値の向上を目指している、ということであれば当然かと)。導入後2,3年で「社外取締役が導入されて、当社はこんなに変わった」というのは信用性に乏しい発言のような気がします。「攻めのガバナンスは疑問だ」とISSの代表者の方が発言されることには大きな意味があると思います。

また、「ガバナンスは最低限のリスク管理の手段である」と言い切る点には共感を覚えます。石田氏は相談役・顧問制度については厳しい意見をお持ちですが、ここまで言い切ることが前提であれば納得できるところかと思います(なお、私は、相談役・顧問制度にもそれなりの長所がある、もし短所が長所を上回るようなことがあれば、それこそ社外取締役が廃止を訴えるべきであると考えています)。「監査等委員会設置会社への移行には懐疑的だが、今しばらく様子をみてみよう」との気持ちで、監査等委員会設置会社への4名以上の社外取締役導入推奨をペンディングにされたあたりの感覚も納得できます。

スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家の議決権行使結果の個別開示が進む中で、ますます議決権行使助言会社の発言の影響力は高まるわけですが、誰かが「王様は裸だ」と叫ばなければならない時期に来ていると思います(先日ご紹介した関経連の提言も、そのひとつだと認識しています)。海外から投資資金を呼び込むための政府施策に企業が協力すべき、ということは理解できるのですが、ガバナンスのベストプラクティスは「コード」へのコンプライではなく、個々の企業が(置かれた経営環境の中で)独自に考えるべきものです。「ガバナンスは最低限度のリスク管理の手段のひとつにすぎない」と割り切ることによって、ようやくガバナンスに関する話題が株主との建設的な対話の俎上に上ることになるものと考えます。

6月 15, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年4月18日 (火)

企業統治改革を後退させる機関投資家の「費用対効果の壁」

本日(4月17日)の日経法務面では、「取締役会の監督機能の引き上げへ-『社外』明確な役割求める」と題するガバナンス改革関連の記事が掲載されていました。とりわけ経産省研究会による会社法解釈指針に沿った内容で、ガバナンス改革に関心を持つ「法律家」の皆様には(その解釈を正しいとみるかどうかは別として)わかりやすい内容だったと思います。

ただ、私的に関心を抱いたのは昨日(4月16日)の日経日曜版の一面記事「株指数運用、市場を席巻-低コスト強み、投信の8割、企業選別する機能衰えも」と題する特集です。アメリカと異なり、日本の市場ではインデックス運用は増えないだろうとの読みがはずれて、日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割までがインデックス運用に席巻されているそうです。それに加えて「超高速取引」が日本株売買の7割に達するとなると、結局のところ、企業との対話によって銘柄を選別したり、中長期で保有を継続するといったことは「費用対効果」の面において労多くて益なし、と判断される傾向が進んでいるようです。

2016年夏季「大和総研調査季報」には、金融調査部の方による「企業ガバナンス改革の実は結ぶか」と題するご論稿が掲載されていますが(ネット上で閲覧可)、株主と企業との建設的対話の「厳しい現実」が機関投資家アンケート調査結果として公表されています。日本株を保有する投資顧問業者の対話関心事で圧倒的に多いのが「企業戦略」「株主還元策」「企業業績及び長期見通し」。逆に「社外取締役の有無、役割」「取締役報酬」「社会・環境問題」「社長後継計画」などはいずれも10%未満。「株式の政策保有」などはまったく回答もされていません。「そもそもコスト以上のベネフィットが期待できなければ、対話は行われない」とされ、よほど資金規模が大きなところでなけえばインデックス運用をしている投資業者は対話はしないだろうと見込んでおられます。

投資先企業に何か目立った動き(企業不祥事が発生、業績の悪化等)があれば、機関投資家としてもリスク・アプローチによって対話を図るとは思いますが、これもやはり費用対効果を考えての行動かと思われます。どうも「政府の常識」と「市場の常識」とが空回りになっているように思います。日本株市場でもインデックス運用の割合がここまで高くなりますと、(上記日経記事でも懸念されているとおり)ガバナンス改革の流れには今後閉塞感が漂うのではないでしょうか。さらにいえば、今月から始まる法務省法制審議会での会社法改正の審議においても、あまり「ガバナンス改革」の流れを重視した性急な改正論議は避けたほうが望ましいように思います。

私が知る限り、社外取締役の方々も、取締役会に出席するために月1回出社する方もいれば、業務執行に積極的に参加して週2~3回はいろいろな会議に出席してアドバイスを提供する方もいらっしゃいます。監査役さんと意見交換をする方もいれば、従業員の方々と意見交換をする方もいらっしゃいます。したがって社外取締役の役割を一律明確にすることは困難ですし、報酬の決め方にしても各社各様で合理性があると考えます。機関投資家の方々があまりモノサシとして関心を持っていない以上、外向きではなく、内向きにガバナンス改革を自社の戦略に活かす道を模索すべきです。

ガバナンス・コードのような「行動規範」が策定されることについては私は反対しませんが、これを遵守することにはむしろ違和感を覚えます。ウチは遵守しないと宣言しながら、当社のガバナンス(そして、そのガバナンスが企業価値の中長期的向上につながるストーリー)を開示することが大切ですし、インデックス運用の評価要素程度に投資家に活用してもらえればよいのではないかと。「コンプライ」は担当者でも判断できますが、「エクスプレイン」は社長でなければ判断できません。私はむしろそこに目を向けるほうが企業のガバナンス改革への姿勢を見抜くことができると思います。

4月 18, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月22日 (水)

企業の持続的成長と社内における「敗者復活戦」の効用

今週号の日経ビジネスの「 三越伊勢丹、社長辞任劇の深層 自壊の始まりか 」を読みました(日経WEBニュースの有料版でも「日経ビジネスセレクト」としてご覧になれますね)。 労組、中間幹部、経営陣の間で、いろんな思惑があったようで、取締役会内部でも前社長さんの更迭問題が冷徹に協議されていたそうです。ところで退任を余儀なくされた社長さんは、このまま三越伊勢丹から完全にリタイヤされるのでしょうか?「おまえ、今回は組の言うことを聞いて後ろに下がっていろ。とりあえずじっとしてろ」  といった説得は全くされなかったのでしょうか?通常、こういった説得は相談役とか顧問の方々が主導したりするわけですが。

先日、某社の企業不祥事対応に関与しておりましたが、同社では社内人事に「敗者復活戦」がありませんでした。幹部社員がリスクをとってチャレンジした結果が芳しくないと「あいつは終わった」と烙印を押されてしまう傾向が強いようです。したがって会社よりも部署の成績優先、情報の横断的な共有化が図られない風土が醸成されて、社内の不正が長期間明らかになりませんでした。社内不正を見逃してやることで貸しを作る文化もありました。一方、別の会社では公然と「敗者復活戦」があったので、誰もが正直にミスを報告し、また「俺では無理だ、助けてくれ」と平然と言える雰囲気がありました。したがって不正や重大事故が発生しても、早期に経営陣が知るところとなり、早期対応が可能でした。

巷間、中長期的な企業価値の向上を図るためのガバナンスが議論されていますが、このガバナンスは敗者復活戦があることを前提とした議論ではないかと疑問に思うときがあります。社長の交代を促すガバナンス、といっても、その社長さんが単純に経営者としての能力がない、というのではなく、会社のおかれた経営環境のもとでは「合わなかった」ということも多いと思うのです。良くも悪くも会社のおかれている環境が変われば、その社長さんの能力が必要とされるかもしれない。そういった敗者復活制度が暗黙の了解として組織に存在してこそ、企業はガバナンスの構築によって持続的成長を図ることができるのではないかと。

どうも日本企業の役員さんは「競争における負け方」が下手なように思います。社内慣行として、ここ一番の勝負に出て、失敗をすると会社を去るか、その後はずっと閑職に甘んじなければならないような雰囲気が漂っていませんかね?(すいません、このあたりはサラリーマンの経験がないので確信が持てません・・・)でも企業が持続的な成長を遂げるといっても、かならず浮き沈みはあるわけですから(ずっと「右肩上がり」なんて企業はありませんよね?)敗者復活戦は残しておくべきではないでしょうか。「潔い」という意味では立派かもしれませんが、企業にとっては大きな損失だと思います。

たとえ降格しても、そこで頑張っていればまだ経営トップに復活するチャンスはある、といった風土のある企業は「不祥事に強い組織」といった守りの部分だけでなく、長期的な業績向上といった攻めの部分でも強みを持っているのかもしれません。

3月 22, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年3月 9日 (木)

三越伊勢丹HD社長退任騒動にみる従業員ガバナンスの真の力

三越伊勢丹HD社長さんの突然の退任について、今朝の日経では「大西改革、労組が反旗」との見出しで、従業員の方々による大きな力が社長交代の引き金となったことが報じられていました。また、日経MJでは一面でこの退任劇が詳細に報じされており、革新と人望によって上り詰めた社長さんも、最後は会長さんから「現場がもたない、辞めてくれ」と印籠を突き付けられたことが明らかにされています。退任劇直前には社内外で多数の怪文書が飛び交っていたそうですが、そういえばネット上でも社長さんにかなり批判的な記事が掲載されていましたね。次の社長候補者が決まらない段階で社長退任の事実が(複数のマスコミから)リークされたということの意味がようやくわかりました。

当ブログ2月3日付けエントリー「社長交代」を遂行できるのは経営者OBの社外取締役が適任(後編)でも、私は

社内の本当のガバナンスの力を持っているのは「従業員」です。株主ガバナンスと世間ではいわれていますが、経営経験者は組織を変える真の力を持った者は従業員だと知っています

と書きましたが、三越伊勢丹の著名な経営者OBでいらっしゃる三名の社外取締役の方々も、そのような社内の空気を察知して指名委員会で結論を出されたようです。やはりこのたびの三越伊勢丹社長交代劇も、従業員の方々のパワーによるものと言えそうです。ただ、従業員ガバナンスが機能するのは、本当に切羽詰まってからということで、すでに会社が有事になってからでないと機能を発揮できない、という限界があります。だからこそ、社外取締役は社内の空気を察知して、早め早めに社長交代に動くことが求められるわけでして、そのためにも社外取締役は(責任をもって組織を動かした経験のある)経営者OBが最適だと考えます。

和歌山大学経済学部長でいらっしゃる吉村典久教授のご著書「会社を支配するのは誰か-日本の企業統治」(2012年、講談社)によりますと、昭和50年代に起きた三越事件のときも、実際には経営幹部社員らのミドルパワー、労働組合が社長解任劇の原動力だったそうです(これは社長解任劇の中心におられた河村弁護士のご著書にも記載されています)。上記吉村教授のご著書では、ヤマハさん、セイコーインスツルさん等、ほかにも労働者主導による社長解任劇が紹介されており、吉村教授も従業員集団による企業統治について詳細に検証されておられます。

私自身法律家である以上、株主主権を前提としたガバナンス論を模索するべき立場にあることは重々承知しています。しかし、従業員ガバナンスを基礎において、そのうえで社外取締役が果たすべき役割を考えるというスタンスを重視するようになったのは、社外役員としての経験に基づくところもありますが、先日ご紹介した田中一弘教授の「良心から企業統治を考える-日本的経営の倫理」と、吉村教授の一連のご著書を拝読したところにも依拠しています。なんだかモヤモヤしていたところに、「ああ、やっぱり同じことを考えておられる先生もおられるのだ」と、とても腹落ちしたことを憶えています(あとは、私自身の社長解任事件に関与した経験ですが、そのあたりは守秘義務の関係で口が裂けてもお話できませんが)。

いくら経営者に対する規律付けとしてのガバナンスを議論しても、その決定された経営判断を実行に移すためには(経営幹部を中心とした)従業員の方々に何らかの動機付けがなければ困難です。それは理屈や正論ではなく、もっと情緒的なものだと思うのです。日本企業の労使慣行のもとではアメとムチだけでは通用せず、ガバナンスの議論だけでは中長期的な企業価値の向上は果たせない、というのが持論です。何が「動機付け」になるかといえば、それは創業家の力が強い企業であれば創業の文化・文明であったり、IPO企業であれば経営トップのカリスマ性であったり、サラリーマン社長さんの企業では強いメッセージの発信に特化して、全体最適を取り仕切るのは「番頭さん」に任せることだったりします。プロ経営者を招聘した企業であれば、社内外に新たな「空気を作る」といったことかもしれません。このあたりは個社それぞれであり、経営学を学んだこともない私にも最適解などわかりませんし、他社の成功例を真似できるようなものではないと思います。

今回の三越伊勢丹さんの退任劇ですが、もし2010年に亡くなられた前社長の(百貨店業界のカリスマと称された)武藤氏がご存命で、顧問・相談役として残っておられたらどうなっていたのでしょうか。また退任される社長さんに「番頭さん」がおられたとしたらどうでしょうか。二つの異なる文化を持つ百貨店が一つの組織になったわけですから、外野からあれこれ推測しても関係者に失礼なだけかもしれません。ただ、退任社長さんがここ数年実行されていた戦略から推察しますと、多角化戦略という改革を断行することは、まさにガバナンス改革のもとで理想(こうあるべき)とされていた社長像に近いのではないかと思います。いま、アベノミクスの成長戦略の一環として実現しつつあるガバナンス改革が、「形式から実質へ」と深化するにしたがって、業績向上につながる企業と、逆に自社の長所を見失って低迷してしまう企業に二極化していくのではないかと想像します。

 

 

3月 9, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (3) | トラックバック (0)