2019年1月17日 (木)

東証・市場区分の見直しと社外取締役の複数化

日産の前会長の保釈許可申請が却下され、身柄拘束は長期化するのではないかと予想されています。ただ、このたび保釈が認められなかったのは、追起訴されるべき「余罪」(候補?)がいろいろと報じられているので、そこから未だ証拠隠滅のおそれありと判断されたものと思います。そこで、公判に向けて起訴されるべき事実も固まっていけば保釈は認容されるものと予想しています。したがって今後は弁護人らが頻繁に保釈申請を行うのではないかと。

(ここからが本論ですが)すでに各紙で報じられていますが、今年の通常国会に提出が予定されている会社法改正の要綱案が公表されましたね。日経新聞ニュースでは「社外取締役を義務化」との見出しで、主に上場会社を中心に、大規模な会社では社外取締役1名以上の選任が義務化されることになりそうです。

ただ、すでにほとんどの上場会社に社外取締役さんはいらっしゃいますので、「1名以上の社外取締役の選任義務化」といっても(機関投資家の皆様には)それほどのインパクトはないかもしれません。むしろ、本気で取締役会の性質をオフィサーの集合体から社長の選解任を果たせるマネジメントチームに変えるためには「何名の社外役員が必要か・・・」といった議論が必要な時期にきていると思います。

1月10日の読売新聞では、野村総研の大崎フェローが「東証市場の再編、特色作りが必要」との見出しで、東証による市場区分の見直しへの要望を出されており、なかでも「プレミアム市場」として日本を代表する400社ほどを選定してはどうか、その選定にあたっては時価総額だけで選ぶのではなく、ガバナンス評価なども含めて選出すべきではないか、との意見を述べておられます。JPX400との関係でどれだけ存在価値があるのか・・・といった意見もあるかもしれませんが、基本的には賛成です。

さらに、せっかく会社法も改正されて社外取締役の義務化が施行されるわけですから、私は市場区分の見直しとともに、そこに複数の社外取締役の選任義務(東証ルールに基づく)を盛り込むべきではないかと考えます。大規模な会社であるほど、指名や報酬、監査などに機能する社外取締役が要請されるわけですから、たとえば「プレミアム市場」に区分された上場会社には少なくとも3名以上の社外取締役を選任すべきだと考えます。また、単なる社外取締役ではなく、独立した非常勤の取締役の要件を明確にすべきです。

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2019年1月15日 (火)

代表取締役の報酬決定過程への関与は甘くない!(と思う)

代表取締役の報酬決定過程の在り方について、個別事件でも会社法改正審議の中でも話題になっています。またグループガバナンスの一環として、グループ企業の役員報酬の決め方についても経産省「ガバナンスシステム研究会」で議論されているようですね。本気で企業統治改革を進める(深化させる)ためには、代表者の選解任過程とともに役員報酬の決定過程を公正なものにすることが求められています。

ということで、日産前会長さんの高額報酬とガバナンス・・・という点も問題となるわけですが、以前どなたかがコメント欄で紹介されていた(代表取締役の再一任決議に基づく高額報酬が問題となった)平成30年9月26日東京高裁判決を(全文)読みました(金融・商事判例2019年1月1日号)。自動車部品メーカーであるY社の会長さん(当時)が14億円の報酬を受領していたのは、会社の低迷した業績の中で株主の委任の趣旨を超えている、そもそも取締役会が再一任したこと自体、他の取締役にも善管注意義務違反が認められる、として株主代表訴訟を提起した事件の控訴審判決です(地裁判決も平成30年4月に出ています)。

結論からいえば

・取締役の報酬総額の限度額を定め、その具体的配分を取締役会に一任する旨の株主総会決議と各取締役が受けるべき報酬額の決定を代表取締役に再一任する旨の取締役会決議により、その報酬額の再一任された代表取締役は、具体的な報酬額を決定するにあたり善管注意義務及び忠実義務を尽くす必要があり、これに違反すれば損害賠償責任を負う。ただし報酬決定に至る判断過程や判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除き、そのような義務違反は認められない。

・報酬決定が、株主総会への提案理由などに照らして、株主の合理的な意思に反するものとは認められない。

というものであり、まあまあ妥当な結論ではないか・・・とも言えそうです。ただこの判決文を読む前は「創業家会長さんの報酬なんて誰も咎めることはできないよね」と思っていたのですが、意外と他の取締役さんたちが頑張っていたことがわかります。取締役報酬枠が10億から30億に定時株主総会で増枠されたのですが、最初は50億に増枠する方針を、かなり強い反対意見で否決し、増枠自体にも最後まで反対意見が取締役会で出ていたようです(最後は30億に落ち着いたようです)。また、会長さんは報酬素案段階では28億円程度の報酬決定に至る予定だったのですが、これも多くの取締役の反対で14億円に決まりました(法務部門も強い反対意見を述べています)。いったん14億に落ち着いたものの、また会長の気持ちが変わらないかどうか気をもんでいる役員の行動も、判決文に如実に示されています。みなさん「覚悟」をもって会長さんの報酬決定に真正面から向き合っていたのであり、本当に役員報酬に取締役会が関与する、というのは厳しい職務であることがわかります。

日産の利益は当時、Y社の40倍であるにもかかわらず、Y社の会長さんはゴーンさん以上に報酬をとっていたとしていろいろと批判の対象にはなったようですが、内情はかなりガバナンスが機能していたものと思われます。今回の日産の事例においても高額報酬に目が奪われがちですが、このY社のように、高額ながらも日産による一定のコントロールが効いていたのかどうか・・・私はそこにとても関心がありますね。

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2018年12月27日 (木)

上場会社の社外取締役は本当に役員報酬に関与しているのだろうか?

日産前会長の金商法違反事件や産業革新投資機構の高額報酬問題など、近時は役員報酬が話題となっています。そんな中で、12月21日の日経朝刊において、「社外取締役の22パーセントが役員報酬決定に関与せず」なる民間調査の結果を報じています。

KPMGジャパンさんの調査(東証1部上場企業の社外取締役585名の回答)によりますと、2割強の社外取締役が「役員の報酬決定には関与していない」と回答されたそうです。上記記事では「こんなに多くの社外役員が関与していない」といった論調ですが、むしろ私の驚きは、逆に8割もの社外取締役さんが報酬決定に関与している、と回答されていることです(うーーーん、ホンマに?)。私が知る上場会社では、取締役会で「具体的な報酬配分は社長に再一任する」といった決議をするところが多いので、この回答結果についてはかなり意外でありました。たしか直近の東証調査では、1部上場企業の4割に任意の報酬委員会が設置されているそうなので、「まぁ5割くらいは関与しているのかな」といったイメージでした。

私なりにこの調査結果を解釈しますと、まずこういったアンケートに回答される社外取締役さんはかなり「前向きな」方であり、社外取締役全体を反映しているとはかならずしもいえないのではないか・・・と思われます。ガバナンス・コードに「コンプライ」している会社も多いことから、関与していないとは回答しにくい面もあるかもしれません。

一番の問題は、「関与」といいましても、いったいどのような関与をされているのか、という点です。独立公正な立場の社外取締役が報酬決定に関与するのは、そのプロセスの透明性を高めることに意味があります。そうだとすえれば①報酬基準の方針決定に関与する、②業績連動における報酬への業績反映の決定過程に関与する、③社内報酬決定方針に従って、個別取締役の具体的な報酬額を決定する、といったいくつかの関与方法があると考えられます。

しかし①~③の決定関与のレベルは相当に異なるわけでして、関与の方法次第で職務に要する時間も、社内取締役との軋轢が生じる可能性も大きく差が出ます。また、その差はハッキリと取締役会の実効性評価にも影響を及ぼすはずです。有価証券報告書において、役員報酬の決め方の開示が厳格化するそうですが(たとえば産経新聞ニュースはこちら)、社外取締役がどのような方法によって役員報酬の決定に関与しているのか、できるだけ詳しく開示することで、会社と株主との建設的な対話を実現する必要があると思います。

オムロンさんや資生堂さんのように、報酬決定方針を詳細に開示する企業も同様だと思うのですが、社外取締役が報酬決定に関与するためには、そもそも取締役の指名や業績評価にも関与していなければ困難です(監査等委員会の職責をみれば当然ではないかと)。当該会社がどれほどコーポレートガバナンスの構築に力を入れているか・・・というのを判断するにあたっては、当該会社の役員報酬決定への社外取締役の関与方法をみるのがポイントだと考えております。

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2018年11月26日 (月)

日産前会長金商法違反事件に思う-ジェネラルカウンセルの必要性

まだまだ続く日産前会長金商法違反事件への感想です。11月25日(日曜日)の各紙において、

前会長の金融商品取引法違反容疑の根拠とされている「虚偽記載」(報酬の不記載)とは、すでに決定されていた報酬額の半分を「後払い」とする合意が前会長と日産側との間で締結されていたものであり、当該後払い予定の報酬額を決定時に記載しなければならないにもかかわらずこれを未記載としていたもの

と報じられていました。ただし、報道されているところでは、この合意について何らかの(後払いに関する)条件が付いていたのかどうか、という点は明らかにされていません。ケリー氏が「ちゃんと法律や会計の専門家に相談しながら処理していた」と発言し、また前会長自身も違法性の認識を否定しているようなので、このあたりは「合意には受給条件が付されているので将来の支払いが確定していたわけではない」(だから虚偽記載にはあたらない)との抗弁もあるかもしれません。ちなみに日曜日夕方の日テレ「バンキシャ」では、ケリー氏が「将来支払われるかどうかわからない報酬なので合意時に開示する必要はない」と述べていることが紹介されていましたが、上記のような反論を示していることも考えられます(このあたりは会計専門職の方々の意見も参考にしているのではないかと)。

昨日のエントリーの続きになりますが、権限の集中した経営トップの不正に対して、本来ならば監視役になるべきナンバー2が(少なくとも)不正の疑いのある行動に出る、ということになりますと、なるほど日産のガバナンスの現状ではトップの暴走を止めることはできないのかもしれません。昨夜のNHKスペシャル(ゴーン・ショック)では、不正調査に関わった関係者が「取締役会に報告をせずに司法取引まで進めていた」と証言されていましたので、ルノー関係者が4名の取締役会には前会長やケリー氏の行動が報告されなかったとしてもやむをえなかった。ましてやナンバー2の方が弁護士資格を持ち、人事権を掌握しているような立場にあるので、他の役員は声を上げることさえなかなかできないのが実態だったようです。

昨日のエントリーで、私は日産のガバナンスの健全性には疑問ありと書きましたが、「日産は(ルノーとの株式保有関係やV字回復を実現させたカリスマトップの存在など)特殊な会社だからガバナンスの問題を指摘するのはかわいそうだ」といった有識者の意見も聞こえてきます。しかし、だからといって、組織の存亡につながりかねない不正が見逃されてもよいわけではありません。したがって今後は(報酬委員会を設置するなど)コーポレートガバナンスの抜本的改革がなされるものと思います。ただ、(委員を経験された方ならわかると思いますが)報酬委員会というのは、指名委員会が機能して初めて機能する性質の委員会です。日産のように強力な親会社が存在する中で、トップの選任・解任プロセスの透明化を図るため、もしくは後継者育成計画を実施するために、そもそも指名委員会が機能するのかどうか、かなり疑問が残ります。

私は先週のエントリーでも書きましたが、そろそろ日本の企業もジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)なる役職を置くべき時期にきているのではないかと考えます。当初、前会長と一緒に逮捕されたケリー氏はジェネラルカウンセル的な立場にあったのではないか・・・と述べましたが、これまでの報道をみますとどうも(弁護士資格は保有しているようですが)そういった役割を担っていたわけでもなさそうです。今年4月、経産省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」が公表され、日本企業がグローバル競争に勝ち抜くために、法務の力を戦略に活かす必要性が高い、と説かれました。そのなかで、欧米諸国には置かれているにもかかわらず、日本企業には置かれていないジェネラルカウンセルの必要性にも焦点が当てられています。GCは、単に法務の最高責任者というのではなく、経営企画の最初から関わり、社長と一緒にリスクをとりながら執行責任を負います。計画立案の最初から関わり、またリスクを負うからこそ、社長は(法務リスクの面から)GCがNOと言えば執行を中止します。ギリギリまで社長のリスクテイクを応援しますが、社長と対立すれば退職しなければならない覚悟も必要です。グローバル企業である日産に必要なのは、まさにこのGCやCLOといった立場の人たちではないでしょうか。

本日のNスぺを視ておりますと、日産の監査役さんが3月以降始動した不正調査グループにおいて重要な役割を担っておられたようです。日本企業にGCやCLOのような役職が存在しない現時点では、日本企業に特有の「監査役」なる職務に従事している方が同様の役割を担うべきなのかもしれません。おそらく厳しい立ち位置におられたものと想像いたしますが、今回の事件がひと段落した段階で、日産の監査役の方々がどのような行動をとられたのか、可能な範囲で紹介されることを期待しています。

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2018年11月21日 (水)

日産会長金商法違反事件に想う「エンロン事件のデジャヴ」

(11月21日午前8時30分追記)今朝の産経新聞の一面トップ記事を読んで、なぜ会社法違反ではなく「金商法違反」で司法取引、逮捕となったのか、その理由が納得できました。(追記おわり)

昨日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」の続編でございます。昨日は各マスコミの第一報に脊髄反射的に反応して「大はずしのリスク」に怯えながらブログを書きました。そして本日の報道内容を確認して「なんとか大はずしだけはしなかった」と、とりあえずホッとしております。ということで、本日までに報じられた事実報道を参考に、私的な感想の第2弾を述べておきます。

1 ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?

昨夜の記者会見で、日本人社長さんが「権力が会長ひとりに集中していたガバナンスに問題があった」と述べ、各マスコミもゴーンさんの不正事実の内容をさかんに報じておりますが、私は一緒に逮捕されたグレッグ・ケリー代表取締役の役割こそ、日産のガバナンスを機能不全にしていたのではないか・・・と考えております。

ここからは推測ですが、ケリー氏は弁護士であり、法務室担当だったこともあり、近時の職名はわかりませんが、実質的にはジェネラルカウンセルもしくはCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)の立場にあったのではないかと。いわば日産におけるリスクマネジメントのトップであり、ゴーン氏もケリー氏のリスク判断は十分に尊重していたものと思います。こういった役職の人は、日本企業ではほとんど存在しないのでイメージが湧きにくいのですが、今年4月の経産省「国際競争力を高めるための戦略としての法務の在り方報告書」で一躍脚光を浴びています。有報への報酬金額の過小記載、投資資金の私的着服、経費の不正流用いずれについても、ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないかと思います。

2 日産は自浄作用を発揮したと評価できるか?

内部通報から始まった社内調査→経営トップ逮捕劇を、私的にはかなり前向きに評価をしていたのですが、本日の一部報道によりますと適用第2号の司法取引が行われており、しかも司法取引の当事者は外国人執行役員2名、しかも法務担当の方が含まれている、とのこと。司法取引については昨日も想定しておりましたが、日産という法人が当事者ではなく外国人執行役員(個人)だったとは・・・、これは想定外でした。外国人の部下が外国人の上司を司法取引で検察に差し出すといったことは、まるでエンロン事件をみているようです。個人的には日本人社員が内部通報や司法取引を主導した・・・と思いたかったのですが、外国人主導のクーデターということであれば「たしかに、そういったストーリーはよくあるわな・・・」ということで、このあたりは日産固有の事情が垣間見えました。しかしそうなりますと、日産としては受け身で検察に協力をしてきたのではないか、との疑問も生じるところでありまして、このたびの経営トップ逮捕劇において、日産は自浄作用を発揮したといえるのかどうか、少し検討しなければならないように思います。

3 なぜ今、内部通報なのか?なぜ今、司法取引なのか?

2015年12月、私は「日産・ルノー連合vs仏政府-相互保有株式の議決権行使をめぐる攻防」なるエントリーを書き、そこで日産とルノーとの統合を差し止める切り札としての相互保有株式(会社法308条による議決権行使の制限)に関する両社の合意について解説いたしました。当時はゴーン氏がフランス政府から日産を守る役割を見事にこなしていました。しかし、最近は雲行きが怪しくなり、ゴーン氏もフランス政府の方針を容認するかのような発言が目立ってきました。そのような状況における逮捕劇、22日の解任手続きという流れをみておりますと、なにか内部通報や司法取引の背後に動く政治的な力学が働いていたのではないかとの疑念を拭えません。企業風土の改革が進まないことにいらだつ社員の通報、役員間における報酬の不公平さに不満をもった執行役員の司法取引といった、社員の衝動的な行動が契機となった可能性も高く、上記は邪推の域を出ないかもしれませんが、もっと大きな三社連合のねじれのようなものが事件の背景にはあるのではないか・・・、そういった仮説を立てながら今後の事件の推移を検証する方もいらっしゃるかもしれませんね。

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2018年11月15日 (木)

企業統治改革が進む中でのソフトバンクGの親子上場

各紙で報じられているとおり、ソフトバンクグループさんの通信子会社が12月に上場するとのことで、超大型親子上場(の関係)が誕生することになります。ビッグな調達額や有利子負債額の話題が満載ですが、唯一、読売新聞(11月13日朝刊)だけが親子上場を審査した東証さんの苦悩について報じておりました。

7月の予備申請から4カ月、東証さんは通信子会社(ソフトバンク社)の独立性確保に関する判断に相当慎重だったそうです。最後は、親会社の会長兼社長の方が通信子会社の代表権を返上したことで「経営の独立性が高まった」との判断に至り、承認されたようです。親子上場は(いろいろと利点もあるものの)日本特有のもので、海外投資家からの批判なども考慮してうえでの慎重対応だったと思われます。

ただ、企業統治改革が進む中で、親子上場を選択するにあたっては、情報開示や行動規範の実践という面で気苦労は増えるのではないかと思います。たとえばコーポレートガバナンス・コードの原則1では、株主の権利・平等性が強く要請されており、構造的には親子上場はこの原則に違反するおそれを常に抱えています。通信子会社の経営判断において、他社以上に少数株主の利益に配慮している旨の情報開示を心掛けねばなりません。

また、当然のことながら機関投資家の議決権行使の姿勢も厳しくなるわけでして、たとえば三井住友信託銀行さんは、昨年12月、上場子会社の取締役会については3分の1以上を独立社外取締役とすることを求める旨、自社ガイドラインで明らかにしています。現に、新日鉄住金さんの上場子会社である日新製鋼さんの今年の総会では、同行は上記の条件を満たしていないとして取締役10名全員の再任議案に反対票を投じています。

さらに、現在経産省で審議されているグループ経営管理指針への対応です。来年春ごろに正式版がリリースされる予定だそうですが、攻めと守りの両面から、親子関係の適正化を図るためのガイドラインが示されるので、とりわけ親子上場のケースではどこまで指針に沿った経営管理ができるのか、注目される点かと思います(独立性が十分に確保されている上場子会社の経営とグループ・ガバナンスの発想は両立するのでしょうか)。いずれにしましても、上記読売新聞でも解説されているとおり、(企業統治改革が推進される中で)親子上場の数自体は今後も減少傾向にあるのかな・・・と推測いたします。

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2018年11月12日 (月)

時宜に適ったMBO手続き指針の改訂に期待いたします。

先週11月7日、「攻めの企業法務」なるタイトルで、経産省の方(経済産業政策局)が大阪弁護士会で基調講演をされたので聴講してまいりました。競争法関連のお仕事をされているそうですが、経産省としては3年ほど前からGAFA規制の必要性については検討されていた、とのこと。お話は私自身の仕事についてもたいへん参考になりました。ただ、ここ10年、中国政府とガチでバトルを繰り広げてきたGAFAのリスクマネジメントをみておりますと、ヤワな日本政府の規制で委縮することは考えにくく、むしろ日本企業が規制の網にひっかかる間に「チャンス」とばかり攻勢に転じるのが米国の巨大IT企業の「攻めの企業法務」ではないか・・・と予想しております。

さて、経産省の企業規制といえば、GAFA対応だけでなく、国内上場企業向けのソフトロー対応にも注目すべきであります。現在進行形のCGS研究会におけるグループ・ガバナンスの実務指針のほかに、あらたに「公正なM&Aの在り方に関する研究会」が設置され、平成19年に策定された「MBO手続き指針」がひさしぶりに改訂されるそうであります。11月9日の日経朝刊が報じるところでは、MBOだけでなく、これに準じるような利益相反構造にある企業再編手続きも含めての指針作りや社外取締役の積極的なMBO手続きへの関与の是非あたりが検討されるようです。

MBO指針が策定されて11年、利益相反構造をもつ多くの企業再編が行われる中で、企業再編の手法に影響を及ぼす会社法の改正も行われ、また少数株主保護に関する裁判例なども出ておりますので、このタイミングでMBO手続き指針を改訂するのはまことにタイムリーなものだと思います。私も一昨年には社外取締役として少数株主保護を最優先に図る立場を務め(セブン&アイ・グループとニッセンHDとの三角株式交換による100%子会社化)、昨年には統合比率の公正性確保のための第三者委員会委員長を務めました(住友ゴムとダンロップスポーツによる合併手続)ので、MBO類似の利益相反構造における取締役行動のむずかしさは痛切に感じたところです。したがって、「健全なリスクテイク」を後押しするであろう、このたびの指針の改訂には大いに期待をいたします。

社外取締役の積極的関与といえば、金商法上の開示責任を問われた判決もさることながら、シャルレ株主代表訴訟判決(第一審神戸地裁平成26年10月16日、控訴審大阪高裁平成27年10月29日)あたりは(社外取締役の)行動規範を知るうえで理解しておくべきと考えます。たとえ(結果的に)少数株主に実質的な損害を与えなくても、支配株主の利益を優先した疑いのある手続きを進めてしまいますと「手続的公平性配慮義務違反」ということで善管注意義務違反の責任を問われる可能性がありますので要注意かと。また、統合される側の社外取締役さんは、(数か月間)ふだんの5倍から10倍程度の職務時間を求められますので、3社以上の社外役員を兼務されている方などは、本業や他社役員の仕事とのやりくりは覚悟しておく必要があります。さらに、昨年6月にこちらのエントリーでも書きましたが、ここ数年、MBOに関わる第三者委員会の性質にも変遷がみられますので、社外取締役自身が構成員となる第三者委員会がどのような性格でMBO手続きに関与すべきか、そのあたりの理解も必要になると思います。

なお、実際に自分がMBOに携わってみて思うところは、法律家やコンサルタント会社の指導を受けますと、どうしてもMBOのプロセスの公正性、つまり取締役の忠実義務や公正価値算定などに関心が向きます。しかし、本当に大事なのは「人間模様の上手な整理」という点です。インサイダー取引リスクを防止するために、ごく限られた範囲の人の間で隠密裏にコトが進みます。そんな中で、企業再編への社内の反応はマチマチです。カリスマ創業者でもいないかぎり、コトは予定調和的に進むわけではありません。統合に向けた様々な障害を、どう統合後の企業価値向上につなげていくかはMBOを進める当事者の力量や胆力、妥協力にかかってきます。親会社と子会社に至った経緯とか、子会社社員が今度どのように取り扱われるか・・・親会社にとってどの程度重要な会社とみてもらえるか、といったところを上手に整理していかなければ、それこそMBO手続きによって当事者の法的責任は回避できたとしても、M&A自体は失敗に終わってしまうと思います。

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2018年10月27日 (土)

相談役・顧問の「失敗体験」こそ立派な知的財産では?

10月25日の日経朝刊に「相談役・顧問制度」に関する記事が掲載されていました。活動状況について、まだまだ開示されていない会社も多いようですが、アンケートに回答された会社の過半数は「相談役・顧問がいる」とのこと。ただ、相談役等がいらっしゃる場合でも、大半は「経営には関与していない」と回答されています。

元経営者の方から、よく「成功体験」をお聞きする機会があります。ただ、私がお聞きしたいのは「失敗体験」なのです(「経営は1勝9敗」と言われるわけですから)。「成功体験」をお聞きしても「それって、運がよかったんじゃないですかね?」と思ってしまうのですが、さすがに「失敗体験」は、なるほど説得力があります。あまり良い話ではないので他人に話をする際には脚色もあるでしょうが、「失敗体験」は聞いていてとてもおもしろい。また、失敗を「そこそこ」でおさめるための知恵(たとえば後腐れなく、合法的に他社に責任を転嫁させる)みたいなものは、お聞きしてとても参考になります。

相談役・顧問の方々が、本当に「経営に関与していない」のであれば、せめて現役の皆様に迷惑がかからない範囲で「失敗体験」を語り継いでいただきたいですね。なぜ成功したのか、ということよりも、なぜ失敗したのか、という理由のほうがよほど企業にとって貴重な財産になるように思います。まあ、現役のころから取締役会で「なぜ、あの意思決定は失敗したのか」と分析するような会社であれば申し上げるまでもないのですが(あんまり、そんな会社ってないですよね)。

「持続的成長」という言葉を金科玉条のごとく唱える時代であれば、私は成功体験よりも失敗体験を上手に糧にする会社のほうが強いのではないかと考えます。

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2018年10月12日 (金)

ファーストリテイリング社の社内取締役復活-指名委員会は機能したのだろうか?

ファーストリテイリング社の2018年8月期の決算短信が公表されましたが、「その他」項目においてCEOの長男、次男の方々が同社の取締役に選任されることも発表されました(もちろん11月末に予定されている定時株主総会での承認が条件です)。おふたりとも、これまでグループ会社の業務執行に携わっておられたので同社では(CEO以外に)ひさびさに社内取締役が復活することになります。

日経ニュースによりますと、CEOは記者会見で「もし私がいない場合でもガバナンス(企業統治)がきくという意味。決して2人が経営者になるということではない」と述べられたそうです。また、別の日経ニュースでも

――CEOの長男氏と次男氏が取締役に就任する人事を発表しました。経営体制の未来像を教えて下さい。
CEO「(自身の)退任は考えていない。必要とされるうちは社長をしたい。OやG、その他の執行役員も成長している。自分がいなくても十分に経営できる。取締役に2人の息子を選任するが、勘違いしないでもらいたいのは、決してこの2人が経営者になるという意味ではないということだ」

と語っておられます。社外取締役中心の取締役会がモニタリング機能を発揮する、ということで、長男、次男の方々は会長や副会長となって監督する役割を果たしていく、それがガバナンスの在り方だ・・・といった趣旨のご発言と理解いたしました。これはオーナー家の存在する上場会社としては大塚製薬グループさんの経営形態にかなり近いものですし、大株主創業家が存在する上場企業のガバナンスとしては決しておかしなものではないと思います。

なお、ファーストリテイリングさんの場合、社外役員が中心となって構成されている人事委員会(指名委員会)が組織体制や人事体制について審議・提言する立場のようですから、そもそも創業家から経営者を出すかどうかは人事委員会の意向が強く働くことが筋だと考えます。しかし、上記のCEOのご発言からしますと「うーーーん、やっぱり創業者が取締役や後継CEOをひとりで決めるのだなあ」と感じてしまいます。そして、これだけタレントぞろいの社外取締役さん方は、(人事委員会を通じて)後継者計画について何も発言する権限と責任はないのだろうか、とも「勘違い」してしまいそうになります。ぜひとも人事委員会がどのような活動をされたのか、どこかのタイミングで明らかなればいいですね。

とくに今年はガバナンス・コードが改訂され、上場企業はどこも「後継者計画の策定」「社長解任手続の透明化」「任意の委員会の設置と役割の明記」あたりのテーマで悩んでおられます。オールコンプライされているファーストリテイリングさんが、ガバナンス・コードへの対応という意味において、「世襲ではないか」と(少なくとも外からは)思われる取締役選任状況について、どのような説明をされるのかは注目しておきたいところです。

以前、NEWSPICKSのインタビューにサントリーHD副社長のNTさん(次期社長となるであろう創業家の方)が「創業家は経営の狂気と理性とのバランスを図ることが理想的ではないか」と回答されていたのが印象的でした。社長が暴走するときには創業家が理性となってこれを止め、官僚的なムードで社内が沈滞したときには狂気となって会社を活性化する、ということをお話されていたように記憶しています。もちろん大株主として外から発破をかけるということもありえますが、創業家が取締役という立場で経営に参画する以上は、やはり会社の状況次第では経営者として会社をひっぱることも(会社のためには)十分にありうるのではないでしょうか。大きな企業の長期にわたる成長を維持する場合には、経営を引き継ぐという意味で「創業家の世襲」もあってよいと思います。

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2018年10月10日 (水)

不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について(その2)

9月18日付けエントリー「不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について」では、不祥事を発生させた企業の株主総会において、機関投資家は取締役選任議案にどう対応するのか・・・という点について意見を述べました。昨日、当該エントリーをお読みになった同業者(弁護士)の方から、「議決権行使に関するものではありませんが、こちらをご参考ください」ということで機関投資家協働対話フォーラムさんの「書簡送付のお知らせ」を教えていただきました。

なるほど、議決権行使基準とは異なりますが、パッシブ運用を行う投資家の方々は、このような視点から協働対話を求めておられるというのは参考になります。具体的な要請としては、第三者委員会への企業の全面的なサポートと適切な情報開示、そして社外役員の人選に関する考え方に関する十分な説明などが示されています(手紙を送付した不祥事企業からは、きちんとした回答が得られなかったことにも言及されています)。また、このような要請を行う根拠としては、

日本版スチュワードシップ・コード原則4-1は「企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである」と規定しています。パッシブ運用の投資家は、不祥事が発生した企業に十分な説明を求めるとともに、投資家が懸念する課題を伝えて課題認識を共有化し、改革を促し、企業価値の再生を支える役割が求められています。

と示されています。 「より十分な説明」の内容次第ではレギュレーションFDとの関係でルール違反にならない配慮が必要ですが、スチュワード株主の方々は業績だけでなく倫理的側面にも関心を向けておられるので、こういった手法も考えられるところです。

さらに、これは不祥事発生時の対話ではありませんが、10月1日に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」なる書簡送付のお知らせが公表されています。近年、国内外機関投資家をはじめとする投資家・株主の議決権行使の活発化・厳格化に伴って、株主総会において会社提案議案に対して相当数の反対票が投じられるケースが増えていますが、その原因分析や今後の対応などについての説明が要請されています。こちらはスチュワードシップ・コードではなく、コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①が根拠として示されています(ちなみに2018年7月に改定された英国コーポレートガバナンス・コードでは、相当数の反対票の目安として20%以上の反対票が投じられた場合が想定されています)。

コーポレートガバナンス・コードのエンフォースメントについては、先日の日本内部統制研究学会でも少し話題になっていましたが、私は「対話」の存在が大きいと思いますし、そのためには機関投資家側の積極的な働きかけが必要です。ただ、機関投資家といってもスチュワード株主もアクティビスト株主もいらっしゃいますので、誰の反対票で相当数に及んだのか・・・という点には注意が必要ではないかと。「株主は一枚岩ではない」ということは、こういった対話でも心得ておくべきではないでしょうか(こういった対話の場では、会社側も「こんな株主に保有してもらいたい」という意思を示してもよいのではないでしょうか)。

協働対話フォーラムさんの代表者の方は、以前日弁連主催の社外取締役シンポジウムでもご一緒させていただきましたが、ESG投資にとても造詣の深い方だったと記憶しております。ポピュレーション・アプローチ(コードによる上場企業全体への働きかけ)だけでなく、ハイリスク・アプローチ(日本企業の「横並び主義」の傾向を前提とする、特色のある企業にピンポイントでの働きかけ)についてもパッシブ運用の機関投資家が動き出す意義は大きいのではないでしょうか。

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