2018年1月17日 (水)

社外取締役は「見ざる聞かざる言わざる」が得策?

本日(1月16日)の日経新聞朝刊に「社外取締役の義務化」に関する会社法改正関連の記事が掲載されていました。大会社に社外取締役の選任を義務付けた場合、もし社外取締役が辞任して「ひとりも社外取締役がいない状態」になったら取締役会は開けるのだろうか・・・といった疑問もあり、果たして会社法で義務化する必要はあるのかな・・・とも思います。

ところで判例時報の最新号(2351号)に、AIJ投資顧問年金消失事件に関連して、ITM証券の社外取締役、常勤監査役が同社破産管財人から提訴されていた裁判の判決が掲載されています(東京地裁平成28年7月14日)。結論からすれば、いずれも請求は棄却(つまり社外取締役さん方の勝訴)となっていますが、要は「年金基金等に金融商品を不正に販売するにあたり、社内取締役の違法な業務執行を行っていることを疑わせる事情が存在し、かつ、社外取締役らがその事情を知り得ることが(法的責任を認めるにあたり)必要」としています。

判決では、その「違法な業務執行を行っていることを疑わせる事情」の存否、「知り得る状況」の存否について詳細に検討されています。ただ、上記のような基準で検討するとなりますと、そもそも社外取締役って、見ざる聞かざる言わざるが一番法的責任を免れるには得策ではないか、と思えます。熱心に監査活動を行って社長の不正を知ったにもかかわらず、これを止めることができなかった監査役さんのほうが、海外往査といいながら、愛人と海外バカンスを楽しんでいる監査役よりも厳しく責任を追及されるって、どうなんでしょうかね?(笑)「ガバナンス改革」のもと、社外取締役の積極的な経営参画、監視機能の発揮が求められていますが、「一生懸命社外役員として頑張れば頑張るほど法的責任が認められやすくなる」というのはいかがなものでしょうか。

社外取締役や監査役の監視義務、監査義務を熱心に果たしたほうが馬鹿を見ない結論に至るためには、①違法性を認識しうる状況をなぜ構築できなかったのか、②業務執行の違法性を認識しうる状況が存在したにもかかわらず、なぜ当該社外取締役は認識しえなかったのか、といったところまで遡って、「信頼の原則」を適用するほうが妥当ではないでしょうか。

 

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2018年1月 5日 (金)

社外取締役の活躍が期待されるトヨタの相談役廃止審査制度

今朝(1月4日)の毎日新聞(東京版)7面には「主要121社アンケート」の集計結果が掲載されていまして、「相談役・顧問制度を今後廃止する」と回答した企業はわずか2%しかありませんでした。そもそも制度が存在しない企業もあるかもしれませんが、それなりに相談役・顧問の存在が企業価値向上に資するものと(表向きには?)判断している企業が圧倒的に多いようです。東証に提出するコーポレートガバナンス報告書には、今月以降新様式による「相談役・顧問に関する事項」が記されることになりますが、どのような開示実務が定着するのか楽しみですね。

ところでトヨタ自動車さんは新たに「相談役審査制度」を今年から導入するそうです。現在同社には50名ほどの相談役がいらっしゃるそうですが、同社の社外取締役の方々が、相談役任期を更新するかどうかを審査したうえで決定するシステムに変更するとのこと(中日新聞ニュースはこちらです)。これは私が昨年の週刊エコノミスト(2017年9月26日号)や雑誌「ビジネス法務」(2017年12月号)の論稿で提案させていただいていたシステムに近いものであり、私も推奨したいと思います。

ただ、審査の主体となる「役員人事案策定会議」ですが、社長、副社長らが委員の半数を占める(社外取締役は半数)中で、果たして社外役員の方々が「忖度抜きに」判断できるかどうかは微妙なところではないでしょうか。本当に社外取締役が機関投資家の意見を代弁する立場にあるならば、(社外取締役の職務としては厳しいものではありますが)ぜひ社外取締役が中心になって審査制度を運用していただきたいと思います。できれば「そもそも当社に相談役・顧問制度は必要なのかどうか」という点まで審査対象にしていただければと。

さらに、相談役制度存廃への社外役員の関与において懸念事項とされるのは、「出身企業の相談役・顧問をやりながら、他社の社外取締役を務めている経営者OBが多い」という現実です。ガバナンス改革が叫ばれるようになった3~4年ほど前から、「社外取締役には経営者OBが最適である」というのが通説となり、大きな上場会社では経営者OBの社外取締役さんが増えています。したがって当然のことながら、出身企業の相談役・顧問を続けながら他社の社外役員(社外取締役、社外監査役)を務めるケースも増えているようです。そのような方々が、ご自身の身分をさておいて「相談役や顧問として残る必要なし」と公正な立場で審査できるかどうか不安があります(トヨタさんの場合、どうなのかは存じ上げませんので、あくまでも一般論ですが)。

最近の議論として、「社外取締役の受け手を増やすために、相談役・顧問制度を廃止せよ」とか「経営者OBは外に出て日本企業の発展に寄与せよ」とのフレーズで、「社外取締役?OR相談役?」を迫りますが、そもそも相談役を務めながら社外取締役に就任しているケースが多いのですから、そのような議論は少し的外れではないかと考えています。

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2017年11月 8日 (水)

ガバナンス改革2018-上場会社の外堀は埋められつつある?

コーポレートガバナンス改革「形式から実質へ」は2年目を迎えます。本日(11月7日)の日経朝刊では「企業統治改善へ共同対話」とうことで、企業年金連合会と大手金融4社による上場会社への協働対話の方針が紹介されていました。10月に新設された「機関投資家協働対話フォーラム」が具体的な共同対話を支援されるそうです。資本効率の改善、独立社外取締役の増加、環境問題への取組等、情報開示の拡大を要請するとのこと。

2015年に施行されたガバナンス・コードによるガバナンス改革は一定の効果を発揮したものと評価されていますが、それでも「なんちゃってコンプライ」で対応している上場会社がとても多い、というのが実感です(コンプライは担当役員の権限で決めることができますが、さすがにエクスプレインは社長の承認が必要ですよね)。これはソフトローによる一律適用という行政手法である以上は限界かな・・・と思います。いわばこれまでは「大坂冬の陣」で上場会社は乗り切れました。

しかし、改訂スチュワードシップの施行により、このような機関投資家の協働対話が進むとなると、パッシブ運用主流の市場に向けたガバナンス改革の体制が整うわけですから、いよいよ上場会社も外堀を埋められつつあるように感じます。さらに金融庁開示府令の改正(建設的な対話促進のための記載事項の追加)、法務省・経産省による対話型株主総会改革の促進、現預金型内部留保活用への積極介入、政策保有株式の縮減政策、中長期価値志向型アクティビスト、議決権助言行使会社の積極活用、そして金融庁フォローアップ会議による取締役会改革の検証と続くわけです。

今後は改訂ガバナンス・コードの施行というローラー作戦と、対話と議決権行使という、コードとは異なるピンポイント作戦でガバナンス改革の第2クールが進むと思われますので、もはや上場会社には「大坂夏の陣」が迫りくる気配がします。ピンポイント作戦のターゲットにならないためには、やはり経営者が資本コストを理解したうえで最適な短期利益と最大の長期利益をどう確保していく方針なのか、きちんと説明できる体制を構築しなければならない、とうことでしょうね。

これまで以上に「働き方改革」推進のための人財投資や研究開発投資、ステイクホルダーの利益保護と株主利益との関係を意識した経営が求められるものと思います。

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2017年9月27日 (水)

社外取を活用する日本とCEOが活用される米国

本日(9月26日)、日経ビジネス・オンラインに掲載された「ニュースを斬る~社外取を活用する日本とCEOが活用される米国」を読みました。シンガポール経営大学の好川教授と大阪市立大学の山田教授による研究レポートの分析結果に基づくご論稿です。社外取締役の志向について、米国では「組織外期待対応」が中心ですが、日本では組織内外期待のバランス志向を目標としているというもので、ガバナンスの現実をとらえているものと思います。

今後の課題として①社外取締役の役割と責任に関する研修・教育と経営者に対する啓もう活動、②社外取締役が内外の期待ギャップに板挟みにならないための工夫、③様々なバックグラウンドをもった社外取締役を配置すること、を掲げている点にも共感します。この①から③はそれぞれが関連しているものと思います。たとえば期待ギャップに板挟みにならないためには、社外取締役と経営者とのコミュニケーションが必須ですし、そういったコミュニケーションは属性の多様化があるからこそ前向きに取り組めるようになるものと考えます。

しかし、本当に日本企業の社外取締役が「組織外期待対応型」を理解できるかというと、まだまだそこまでは難しいのではないかと感じています。なんといっても会社法の壁です。取締役会は社長の監督機関であると同時に重要な業務執行の決定機関であり、「みんなで決める」ことを(会社法上は)前提としています。つまり、取締役会は純粋な経営執行部の監視・監督機関ではありません。独立社外といえども、社内取締役の方々と一緒に意思決定に関わるわけですから、法制度上はどうしても組織内期待対応型にならざるをえないと思います(このあたりは東大の藤田教授の論稿において問題提起がなされていたかと記憶しています)。できるだけ理想に近づけるために、取締役会の審議事項を絞ることも考えられますが、実際の役員会では、そんなに毎回「会社の基本方針に関わる議題」が出てくるようにも思えません。

そしてもうひとつが(先日も当ブログで述べましたが)社外取締役に対する「提訴リスク」の低さです。D&O保険は「提訴リスク」よりも「敗訴リスク」に関する話題ですが、なんといっても日本企業では株主代表訴訟の数が希少です。日本企業の取締役さんは被告として提訴されることが本当に少ないのです。先日のエントリーにて、どなたかがコメントされておられますが、よほどの企業不祥事でも発生しないかぎり、日本の一般株主、機関投資家は、ガバナンスに問題があるとすればさっさと売り抜けて会社との関係を断ち切ってしまうだけです。株主代表訴訟を提起して、いつまでも会社との関係を維持しようとするメリットがあまり株主にはみられないのが現状ではないでしょうか(もちろんタテマエでは中長期的な企業価値を向上させることに株主も関心を持つべき、とはいえますが・・・)。そう考えますと、社外取締役がどこまで株主の代弁者としての行動に配慮するのか、ホンネでは組織外期待対応型へのインセンティブに乏しいように感じます。

本論稿では、社外取締役の「選ばれ方」にも注目していますが、この点も(今は社外取締役の数を増やしたり、属性の多様化に配慮することのほうが優先課題ですが)今後の課題かもしれません。ただ(前にも述べましたが)、大阪に本社を置く老舗上場会社の定時株主総会において、いわゆる「相互社外取締役」(A社の会長がB社の社外取となり、B社の会長がA社の社外取となる)の選任議案にほとんど反対票は集まりませんでした(昨年のことです)。招集通知にきちんと「相互社外取」であることが開示されていても、株主の関心はその程度です。最近は機関投資家による議決権行使結果の個別開示が進んでいますが、そのような圧力と対話によって、社外取締役も評価されるようになれば変化の兆しも見えてくるかもしれませんね。

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2017年8月29日 (火)

大塚家具事例から取締役会の「頑張りドコロ」を考える

最近、大塚家具さんが「かなりピンチ」といった記事が増えています(たとえば東洋経済オンラインの26日付こちらの記事など)。なかでも8月28日の日経WEB「ガバナンスの掟-大塚家具、親子対決制した末の監督機能不全」では、監査等委員会設置会社に移行した大塚家具さんにおいて、社外取締役による監督機能の不全が厳しく指摘されています(有識者の方々のご意見もなかなかキビシイですね)。

監督機能の不全を指摘するのであれば、取締役会の構成員全員についての批判がスジではないかと思うのですが、ここではとりわけ監査等委員会を構成する社外取締役さんが批判の的になっています。いつもはほとんどマスコミで取り上げられない「監査等職務」・・・つまり監査等委員会には社長人選や報酬への意見形成(意見陳述)機能があるにもかかわらず、監査等委員である社外取締役さんは、なんら権限を行使していないではないか、といったところですね。

でも、大塚家具さんに限らず、2期連続赤字で、あと現金が21億円しか残っていないような状況では監督機能を発揮できるような段階ではないと思うのです(銀行の新たな融資枠が設定されたとしても厳しい状況は同じかと)。取締役会の監督機能というのは、業績が好調な時期か、あるいはピークをやや超えた時期(ビジネスモデルの転換が必要ではないか、といった漠然とした不安が生じる時期)だからこそ発揮できるのではないでしょうか。即効薬のようなガバナンスなどありえないと思います。2期連続赤字といった状況では、社長交代ということよりも、とりあえず出血を止めるためのファイナンス、もしくはMBOや企業買収(再編)といった緊急対応にこそ社外役員も注力することが大切かと。

「どこと組むか?」といったことに社外取締役さんが活躍することもありますが、やはり緊急対応の主役は社長さんです。そして現在の大塚家具の状況を考えますと、この段階での社外取締役の頑張りドコロとしては、社長交代や報酬意見、といったことよりも、どんな場面になったとしても少数株主(一般株主)が一方的に不利益を被らないように目を光らせることだと思います。シャルレのMBO頓挫事件の地裁・高裁判決では、取締役さんには利益相反を疑われないような公正手続きに配慮すべき義務(会社に対する)が問われました。たとえ公正価値移転義務に違反せずとも、一般株主に不信感を抱かせるような企業行動にこそ、社外取締役が待ったをかけなければならない、ということですね。

ここからどうやって復活されるのか、いまこそ大塚家具さんの次の一手に期待が寄せられます。

 

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2017年8月27日 (日)

退任社長は「相談役」にならずに「常勤監査役」になるという選択肢

今週は火曜日(8月22日)から金曜日(25日)まで、毎年恒例の日本監査役協会の新任監査役等研修(合宿)に講師として参加してまいりました。ご参加された企業はA日程・B日程合計250社ということで、皆様お疲れ様でした。風光明媚な滋賀県長浜のホテルでの研修ですが、湖上からやってくるゲリラ豪雨にはたいへんな恐怖を感じました(^^; ミサイルカトオモッタ・・・

今年も多くの新任監査役、監査等委員、監査委員の方々と意見交換ができて、たいへん有意義な時間を過ごしました。経営執行部の知り合いの方が数名、監査役に就任されておられてビックリしました。また、規模の大きな上場会社や金融機関を中心に、内部監査部門の改革が進んでいる会社が増えていることも初めて知りました(この話はまた別エントリーにてご紹介したいと思います)。

ここ数年、私は事例を通しての監査役等の有事対応に関する研修(双方向のグループ研修)を担当しているのですが、なかなか社長にモノが言えない監査役等の悩みを感じていただけそうな事例をかならずひとつ取り上げております。今年も、そういった悩ましい事例をみなさんでお考えいただいていたのですが、受講された監査役さんのおひとりが、とても立派な対応について自信をもって回答されたことに少し感動をおぼえました。

「素晴らしい回答です!監査役のカガミといえそうな神対応ですね!でも、ホントにそのような対応を社長を目の前にしてできますか?」

と、私はその監査役さんに対してすこしイジワルに質問したのですが、その方は少しムッとされて「はい、もちろん社長に向かって、今と同じ意見を堂々と述べます!」とのお答え。

「いやいや実に立派な会社ですね。おそらく社長さんが監査業務をリスペクトしている雰囲気を持った会社さんなのでしょうね。監査役さんが大事にされている会社を知ってうれしく思いました」

と、私は(監査役さんの人格・識見を褒めることはせずに)その会社の監査環境を褒めるようなことを申し上げました。

その後、懇親会で、この新任監査役さんとお話する機会があったのですが、先の新任監査役さんから

「先生、さきほどは偉そうな物言いで失礼しました。実はね、先生。私、前職はこの会社の代表取締役社長だったんですよ(笑)。●年ほど社長でした。いや、これは正直にお話しておかないと先生に失礼じゃないかと思いましてね(笑)」

(私)「エエ!?ほんまですか!?Σ( ̄□ ̄lll) ・・・でも、それって究極の自己監査ですよね・・・笑」

「はい、先日、子会社監査に行って、子会社の社長に『おまえ、これなっとらんやないか!』と指摘したら、子会社の社長から『いや、これは親会社の前の社長から指示されたことですよ!』と反論されて往生しました(笑)」

・・・・・なるほど。ということは親会社の現社長さんは元部下ということですね。だから、厳しいことも平気で社長に要求できる、と。しかし(かなり大きな上場会社さんですが)元社長が退任後に常勤監査役に就任する、というケースはさすがに日本の上場企業では珍しいのではないでしょうか。

そういえば以前、三菱重工業さんが監査等委員会設置会社に移行する際に、退任される副社長さんが、初代の常勤監査等委員に就任する、という話題を当ブログでも取り上げまして、あるガバナンスに詳しい方から「自己監査は監査不全の温床、最悪!」としてご異論をいただきました。また、東芝さんの第三者委員会報告書においても、東芝の元CFOだった監査委員長の方の「いまさら騒いでも執行部は困るだけだから、見なかったことにしましょう」といった発言が記されていたことにも残念な気持ちになりました。

たしかに「自己監査」(自分が決定した業務執行を自分で客観的に監視・検証できるか)によって監査機能が低下してしまう、というのは実例もあるので(ガバナンスの実効性という意味では)問題はあることは認めざるをえません。ただ、ここぞという場面で社長が監査役の意見を飲むかどうかは、平時における監査環境に依拠するところが大きいと思います。そういった意味では、退任した社長さんが監査役に就任する、というのは究極の監査環境ではないかと。とくに、社外取締役や社外監査役と組むことで、絶大な監査権限を行使できるような気がします。

最近、相談役制度の功罪といったことがよく話題になり、相談役を廃止して退任社長さんは他社の社外取締役になるべき、といった議論が展開されています。でも、ここは大いに異論が出るところですが、いっそのこと退任された社長さんは監査役に就任してみるという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか?社内において監査役をみる目が大きく変わるかもしれません(もちろん会計監査人との連携にも影響が出そうですね)。

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2017年8月18日 (金)

西武vsサーベラスの攻防とガバナンス改革への教訓

8月16日の報道によりますと、米国の投資ファンドのサーベラス・グループが、西武HDの株式をすべて売却したことが判明したそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。西武さんが出資を受けて11年半。西武さんは、ようやくサーベラスさんの影響力から完全に脱することができたといえます。西武さんが再上場を果たす2013年ころは、両社で経営方針を巡り激しく対立していました。私も夜のニュース番組でテレビ出演を果たしたり(もう二度とテレビ出演はしませんが・・・笑)、いろいろと記憶に残る事件でした。

あの西武vsサーベラスが盛り上がっていた2013年当時、サーベラス側が主張していた「西武のガバナンスと内部統制に問題あり!ガバナンスと内部統制を糾す」という言葉は、新聞やニュースで繰り返し紹介されました(おそらく私が当時いろいろとマスコミから取材を受けたのも、このようなサーベラス側の主張によるところが大きかったと思います)。アベノミクスが語られ始めたころでしたが、「中長期の企業価値向上のための株主との対話」「株主を含むすべてのステイクホルダーへの説明責任の実践」という言葉も、サーベラス側から主張されていたように記憶しています。

最終的にはサーベラスさんの株主提案は株主総会では通らなかったわけですが、けっこうサーベラスさんも当時は的確な指摘をされていたと思うのですね。とりわけ内部統制については、①上場申請年度において業績予想数値の下方修正を行う、②中期事業計画の公表から1年あまりで目標水準を1年先延ばしにする、といった西武さんの経営姿勢を批判したうえで、「内部統制の在り方に重大な懸念がある」と主張しておられました。これは、内部統制=不正予防、コンプライアンスと受け止められていた日本的な考え方ではなく、内部統制=事業戦略の確実な執行と捉えるアメリカの経営者の考え方に親和性をもつ主張でした。ただ、あまりそこまでの議論が当時の日本ではなされなかったと思います。

ガバナンスについても同様です。いまのように「攻めのガバナンス」「健全なリスクテイクのためのガバナンス」「執行と監督の分離(モニタリングモデル)を意識した取締役会改革」といった議論がまだそれほど企業社会に浸透していませんでした。いまなら、ガバナンスのどこに問題があるのか、「ガバナンスが良好」と評価するのであれば、それは企業価値の向上とどう結びつくのか、サーベラスの推奨する取締役候補者が、その目指すべきガバナンスにふさわしいか、といった議論が深まったのではないかと想像します。当時のサーベラスの質問状などを読み返してみても、西武に設置されていた「ガバナンス推進有識者会議」が、西武さんの取締役会をどのように評価しているのか?と聞いたりもしています。

上場後の西武さんが、ホテル事業を中心に業績を回復させておられることはご承知のとおりです。サーベラスさんも、それなりに収益を上げることができたと思われますので、いまとなってはあのバトルを思い出す人も少ないかもしれません。ただ、あの時のサーベラスさんの主張に違和感を感じていた機関投資家も、ひょっとするとスチュワードシップ・コードが浸透している現時点であればそれなりに賛同するところも出てくるのではないか、と思うところです。

 

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2017年8月 3日 (木)

社長が孤独であればあるほど相談役・顧問は活きる!

私が長く住み続けている場所(堺市百舌鳥界隈)が世界遺産に登録される可能性が出てきました。大小多数の古墳群は毎日眺めている「あたりまえの風景」なので、あまり実感が湧きませんが、登録されれば経済効果は1000億だとか(?・・・ほんまかいな)。ということで(?)、本日は世界遺産ならぬ「負の遺産」などと揶揄されている相談役、顧問制度のお話です。

日本取引所さんが「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」と題してコーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂されましたね。経産省の研究会報告や政府の未来投資戦略でも提言されておりましたので既定路線のようです。私も(週刊エコノミストの拙稿で述べておりますように)相談役・顧問制度には長所も短所もあるので、できれば各社において職務内容等を開示すればよいのではないかと思っておりました(方向性としては賛成です)。企業の対外的活動や社会貢献など、相談役が担っている企業も多いですし、相談役制度があるからこそ社長交代が促進される(かつてのように高額所得税が80%の時代ではなくなり、また役員退職金制度も廃止されるとなると、相談役のようなクッションがないといつまでも社長の座にしがみつく)、実績のある方ほど「相談役」として引き留めておいて中国や韓国等の競業他社で活躍していただかない、といったところも考慮すると、このあたりがオトシドコロではないかと思われます。

ただ、相談役や顧問の方について「職務はほとんどありません」と書かれていたとしても、また、相談役制度は廃止しました、と開示したとしても、元代表取締役社長、元CFOといった方々の影響力が全くないかといいますと、そんなことはないですね。とりわけ元カリスマ経営者や元カリスマ経営者を支えた元CFOといった方々が、たとえ会社には一切来なくなったとしても、毎日のように「●●チルドレン」と言われている現経営陣の方が御自宅に相談に伺う・・・というのはよく聞くところです。会社に在籍せず、対外的な活動もしないので無報酬ですが、影響力だけは社内で残している、まさに「影の相談役」ですね。

現役の社長さんだって、孤独であればあるほど、かつての上司だった「影の相談役」しかホンネを言わないということはあります。ご自身の弱みを墓場まで持って行ってもらえる方、ご自身のややグレーな部分を代わりに背負っていただいている方だからこそ、現役社長さんはホンネでお話できるのではないでしょうか。そのことを社長を取り巻く経営陣もよくわかっているので(相談役を退任した後も)「社長を動かせる人」のところへ日参するわけでして、「院政」は相談役(元相談役)が敷くのではなく、むしろ現役の経営陣が「院政」を活用する、というのもかなり見てきました(まぁ、人間力学として当然といえば当然かと)。

改訂された上記要領「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を読みますと、相談役のCSR(車、秘書、個室)の有無や現経営陣と同じフロアにそのまま在籍するのかどうか、といった本当の影響力を示すモノサシまで開示する必要はなさそうです(これらは株主との建設的な対話の中で開示する、といったことでしょうか)。スチュワードシップ・コードや国連の責任投資原則の浸透によってガバナンス改革はいよいよ形式から実質へと動き出しているようですが、この相談役・顧問制度の持つガバナンスへの影響については、「経営技能」よりも「実務技能」を重視する日本の社長養成・選抜システムが続く限りは変わりようがないと思っています(参考:江頭憲治郎「会社法改正によって日本の会社は変わらない」法律時報2014年10月号60頁)。ちなみに現在のところ、他社から経営のプロと呼ばれる方を社長に招聘するといった上場会社はそれほど多くはないですね。

★ところで安倍政権の趨勢からみて、ガバナンス改革はこの先どうなるのでしょうかね?中長期の企業価値の向上に資する・・・とありますので、検証するにも相当長期の施策続行が不可欠なのですが。。。

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2017年7月13日 (木)

世間で話題の相談役・顧問の方々がこだわるCSRとは?

今週月曜日に、こちらのエントリー「電通労基法違反事件はこのまま略式命令で終結するのか?」にて、電通さんの法人起訴事件は正式裁判で審理すべきと述べましたが、やはり東京簡裁は正式裁判を行うことを決定したそうです。ご遺族の方々にも、また電通の社員の方々にとっても、私は経営者が法廷に立たれて「電通は本気で労基法を順守する」という宣誓をされるほうが良いと考えます(傍聴席はスゴイことになりそうですが・・・)。

本日は、とても大きな会社の現役相談役(元代表取締役)の方とお話する機会がありまして、せっかくの機会なので経済団体でのお仕事や政府委員としてのお仕事など、「相談役」であることのメリット・デメリットをいろいろと聞かせていただきました。その方が社長をされた会社では、社長経験者が「相談役」、それ以外の役員だった方が「顧問」に就任されるそうですが、「顧問」については役員退任後65歳まで、と決まっているそうです。「相談役」も、社長退任後3年と内規で決まっているとのこと。

お話の中で「相談役はやっぱりCSRには特別のこだわりがありますね」とおっしゃるので、「そうか、社長経験者ともなると、ステイクホルダーと企業とのつながりには格別の配慮を考えているのだなぁ。地位が人を作る・・・ということか。世間ではいろいろと騒がれている『相談役制度』も、社会にとってはけっこう有益なのかも・・・」と思いました。しかし、話の途中から、どうもCSRの意味がちょっと違うような気がしてきました。

「山口さん、私が言ってるCSRは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)という意味ではありませんよ。車(Car)、秘書(Secretary)、個室(Room)のことですよ。私の場合は秘書は専属ではありませんが、やっぱりこのCSRは手放せないですよねぇ。」

私 「・・・・・・・・(;^ω^)アアナルホド

もちろん、その方は「私はホントに相談されたら乗る、というもので、自身から経営に口出しすることはありません」とおっしゃっていました。でも社長OBの方々が「普通に」CSRという言葉をお使いになっておられるご様子だったので、相談役・顧問制度というのは、企業実務に深く根付いているのだろうな・・・と想像いたしました。当ブログに本日コメントをいただいているベネシュさんがお読みになったら、また💢っとさせてしまう内容になってしまいました(^^,

 

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2017年7月12日 (水)

コーポレートガバナンス改革の実効性の検証方法について考える

先日のエフ・オー・アイ事件のときもそうでしたが、このたびの出光興産さんの公募増資に係る差止仮処分事件には、ほとんどの東京の大手法律事務所がどこかの関係当事者の代理人を務めておられるので、なんとも情報が出てきませんね(笑)。裁判の審理はいまどのあたりでしょうかね?(^^;; 要急案件なので、創業家側が申立をしたらすぐに審理(審尋手続き)は開始されていると思うので、双方の即時抗告、保全抗告の機会を考えますと、今週後半には決定が出てもおかしくないと思うのですが(東京地裁の商事専門部が審理をしますので、もう実質的にはそこで一発勝負ということであれば来週18日ころ、ということも考えられますが・・・、どうなんでしょう?)。

ところで最近、監査等委員会設置会社の急増だけでなく、取締役に選任されていない「社長執行役員」やインセンティブ報酬に関する議論などもされるようになり、ガバナンス改革の具体的な実践例などもよく話題になります。そうなると、やはり気になるのが「ガバナンス改革は成功した、と判断する検証方法ってどんなものなんだろうか?」という点です。

たとえばガバナンス・コードを実施することで、株主目線で経営するようになり、その結果として業績が向上した、もしくはROE向上を意識したことで株価が上がり、時価総額が上がったということが検証されるということが考えられます。つまり、ガバナンス・コードという「上場会社すべてにおいて『こうすれば業績が上がる』という魔法の指針があって、これを実施すれば業績も上がる」というストーリーの検証をすることが必要なのでしょうか?本家本元のOECD原則だと、こういった検証になるのでしょうか?

しかし、取締役会改革の流れをみてみると、ダイバーシティや執行と監督の分離、といった主題があって、その流れをつきつめていくと、同じ経営環境でも成功する企業も出て来れば失敗する企業も出てくる、最終的に成功した企業がその業界でたくましく成長して、失敗した企業を統合していって最終的には国際的に競争できる企業に成長する、ということを目指しているようにも思えます。つまりミクロ的に見れば、ガバナンス・コードを実施した結果として業績が下がってしまう企業が多く出てきたとしても、業界全体をマクロとして日本企業の業績が上がっていれば成功とみる、という検証方法もありかな・・・と。

いろんな経営者の方とガバナンス改革のお話をしていて、行き着く先への思いが前者として考えておられる方と、後者として考えておられる方と分かれているように思いました。まぁ、そんなことどうでもいい、といった「なんちゃってコンプライ」の上場会社の社長さんもけっこういらっしゃるようではありますが・・・(^^;

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