2019年11月18日 (月)

コクヨのぺんてるへの敵対的買収は「TOB」というのだろうか?

コクヨ社がぺんてる社の株式をTOB(株式公開買付)によって取得する意向であることが報じられています。しかし、私の感覚では「TOB」というのは金商法上の公開買付制度を指すもので、ぺんてる社のような非上場会社の株式取得の際には使うのは適切なのでしょうかね?もちろん非上場会社でも有価証券報告書提出会社の場合には金商法上の公開買付規制が適用されますが、ぺんてる社は有価証券報告書提出会社ではありません。したがってぺんてるは公開買付規制に応じる義務はありませんし、委任状勧誘規則の適用もありません。

私は単純に「コクヨがぺんてるから株主名簿を見せてもらえないから、しかたなく公開の場で株式の売却の勧誘をしている」という意味に捉えているのですが、いかがでしょうか(まちがっておりましたら訂正いたします)。ぺんてるはだれが何株持っているのか知っていますから、株主ひとりひとりに勧誘・説得できますし、議決権拘束契約等によって多数派工作を自由に図ることができますから、コクヨにはハンデが生じます。なので株主名簿の閲覧の可否(会社法125条)こそ、大きな問題ではないかと思います。

コクヨ側は平成24年のアコーディアゴルフ事件の裁判例(東京地裁平成24年12月21日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否は会社法違反」と主張すると思うのですが、一方のぺんてる側はフタバ産業事件の裁判例(名古屋地裁岡崎支部平成22年3月29日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否には正当な理由あり」と主張するのでしょうね。ぺんてる社のリリースなどを読みますと、「権利濫用」あたりも根拠にしているようにも思われます。いずれにしても、株式譲渡制限を付けた純粋な非上場会社でも、ファンド(大株主)が出現し、さらに多数の第三者株主が存在するようになりますと、このような買収の脅威にさらされるということです。平時からのリスク管理として特定株式に対する「属人的な定め」を定款変更によって盛り込んでおくことも検討しなければならないように思います。

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2019年10月15日 (火)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定

このたびの台風19号による被害の報道に驚愕しております。被災された皆様には、こころよりお見舞い申し上げます。

さて、週刊東洋経済10月12日号では、昨年の積水ハウス地面師詐欺事件に関する続報が「積水ハウス詐欺被害『封印された報告書』の驚愕」と題して詳細に報じられています。同誌記者が、地面師詐欺事件に関する社内調査委員会報告書の全文を入手し、当該報告書を参考に書き上げたものだそうで、(すでに一部の経済ニュースでは取材記事としては報じられていたものの)「なぜ天下の積水ハウスさんが地面師に嵌められたのか」その実態に迫る内容が示されています。

積水ハウスの取締役の方々が(約55億円の損害賠償金の支払いを求めている)株主代表訴訟の被告になっていることは存じ上げておりましたが、同社がどうしても公開したくなかった社内調査委員会の報告書について、裁判所から文書提出命令が出されていたことは、私はつい最近知りました。というのも、判例雑誌(金融・商事判例1574号-9月15日号)で、この文書提出命令申立て事件の抗告審決定(令和元年7月3日 大阪高裁)の全文が掲載されていたからです。原審、抗告審とも、裁判所は株主代表訴訟の原告側の申立を認めて、同訴訟の補助参加人である積水ハウスに対して社内調査委員会報告書を提出するよう命じています(抗告審は確定し、同社は裁判所に提出-ただし現在は閲覧制限がかかっているようです)。

前記東洋経済の記事を読まれた方は、積水ハウスの組織的な問題などに関心が向くものと思いますが、私はこの文書提出命令の決定内容から、他社でも事件や事故発生時における社内調査委員会を作成した場合には、内容を秘匿したり、概要のみ一部開示するだけで済ませるのはむずかしいのではないか、と感じました。相手方から文書提出命令がなされた場合に、文書提出義務が発生することの根拠となる民事訴訟法220条4号「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」の解釈が問題となりますが、大阪高裁は、平成11年の最高裁決定の立場を踏まえて「自己利用文書」に該当するのかどうか慎重に判断をして「自己利用文書」にはあたらないと結論付けています。

専門性が高いので、ここでは大阪高裁決定の内容を述べることはしませんが、社内調査報告書といっても、まったくステイクホルダーへの説明のためには使わない、といった状況は考えにくいように思います。たとえば上場会社の場合、2016年に公表された「企業不祥事対応のプリンシプル」に沿った形で社内調査を行うことが多いと思います。また、今年6月末に公表された経産省「グループガバナンス実務指針」において示された「有事対応の指針」でも、前記東証プリンシプルとほぼ同じことが示されていますが、社外取締役や社外監査役が委員になって「公表の要否を含めた判断」のために社内調査委員会が発足し、「個人の責任よりも組織としての構造的な欠陥の存否への判断、再発防止策の検討」を目的とした調査が行われます。現経営陣が、事件や事故発生時に対外的な説明責任を尽くすべきかどうかを判断するために、中立公正な第三者的立場にある社外役員に調査を担わせる以上、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」と(会社側が)立証することは困難かもしれません。

ただし、裁判所はインカメラ方式によって対象文書の内容にアクセスできますので(民事訴訟法223条6項)、文書の内容が(開示されてしまうと)関係者のプライバシー権を侵害する場合、団体の自由な意思形成を阻害してしまうおそれがある場合、その他開示によって文書所持者の側に看過しがたい不利益が生じる恐れがある場合には提出命令は出されません。したがって、会社として社内調査報告書をどうしても全文開示をしたくない、ということであれば法律専門家の意見等を聴取しながら社内調査委員会の報告書を作成することを検討すべきでしょうね(もちろん、その姿勢が「コンプライアンス経営」の観点からレピュテーションリスクを新たに生む可能性はあります)。

先日の関電金品受領事件でも社内調査報告書の開示・非開示が問題となりましたし、神戸製鋼品質偽装事件でも(海外当局からの捜査に影響を及ぼすとして)全文開示をしないという経営判断が問題視されました。いずれにしましても、積水ハウスの社内調査報告書に対する文書提出命令申立て大阪高裁決定は、コンプライアンスや危機管理に携わる皆様にとって重要な裁判(決定)であります。

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2019年8月30日 (金)

アサヒ衛陶における第三者割当増資(行使価額修正条項付き新株予約権発行)について第三者委員会委員長を務めました。

本日午後4時に開示されましたとおり、アサヒ衛陶社(コード5341)の第三者割当増資につきまして、東証・企業行動規範に基づく第三者委員会の委員長を務めました。

報告書の概要は、開示書類の15頁以降にかなり詳しく記載されております。財務アドバイザーのご担当者の方から(個々の契約条件下における行使価額修正条項付きの)新株予約権の評価方法について、計算方法(モンテカルロシミュレーション)を含め詳細に説明いただき、「相当性」に関するチェックもかなり委員間で議論をいたしました。法務アドバイザーの法律事務所を含め、関係者の皆様には委員会活動に多大なご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。

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2019年8月21日 (水)

グループ・ガバナンスに関連する重要判例(ベネッセ損害賠償東京高裁判決が全文開示されました!)

今年6月、こちらの「ベネッセ情報流出事件ー親会社に初の賠償命令」と題するエントリーで、6月27日に出された東京高裁判決のニュースをご紹介しておりました。そしてようやく(?)最高裁HPにこの東京高裁判決の全文が開示されましたので、さっそく全文に目を通しました。ベネッセが保有していた顧客情報の管理ミスについて、客観的関連性ありとして、子会社とともに親会社であるベネッセコーポレーション(事業会社)の共同不法行為責任を認めていますね(民法719条 なお、ベネッセグループの完全親会社は持株会社であるベネッセホールディングスです)。

子会社の従業員もしくは子会社の委託先従業員の不適切行為について、親会社の管理監督責任を論じるにあたり、このベネッセの損害賠償東京高裁判決は、昨年のイビデン・セクハラ内部通報最高裁判決に続いて重要な判決になるものと思います(たしか控訴人、被控訴人ともに上告受理申立てをされているので、まだ最高裁でどのような判断が下されるのかはわかりませんが・・・)。

会社法の世界では、グループガバナンスに関する実務指針が公表されて「グループガバナンス」への関心が高まり、またアスクルとヤフーにおける子会社支配権に関連する紛議を通じて「子会社のガバナンス」と「親会社による事業ポートフォリオ管理」の狭間における企業集団内部統制が議論されている中で、このベネッセ情報流出事件の高裁判決は、ぜひとも著名な研究者の方に解説をお願いしたいところです(私のようなごく普通の弁護士ではちょっと大所高所からみた判決の意義を述べることは無理そうですー笑)。

ただ、当判決を読んだ「企業コンプライアンスに関心を持つ実務家」として一言申し上げるとすれば、①グループ親会社の経営トップは情報セキュリティについては重大なリスクとして検討しなければならず、②せめて取締役もしくは執行役員の中に、情報セキュリティに詳しい最高責任者をひとり選任する必要があり、③不幸にして情報流出事故が発生した場合には、自浄作用を発揮することが損害額にも影響を及ぼすことを認識しなければならない(自浄作用を発揮しなければ、役員の株主代表訴訟のリスクが格段に高まる)、ということです。ぜひ多くの方にお読みいただきたい判決文です。

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2019年5月13日 (月)

4年ぶりの父娘対面-大塚家具と匠大塚の和解などありえない(と思う)

4月26日、4年ぶりに父(匠大塚会長)と娘(大塚家具社長)が対面した様子から、マスコミは「父娘の和解進展か?」と報じています。私も対面の様子をニュースで拝見しましたが、大塚家具の社長さんの笑顔とは裏腹に、対面の際、父である勝久氏は表情を変えませんでしたね。笑顔は同伴されていた大塚家具関係者の方のほうに少しだけ向けていました。これを契機に、マスコミも含めて、関係者の多くは父と娘の再会とビジネス上の和解を望む声が上がっています。

私も娘を持つ親として(?)和解してほしいなア・・・とも思うのですが、とてもじゃないけどビジネスとしての大塚家具と匠大塚の和解はありえないと考えています。6年前に発生した紛争は、親族だけでなく、多くの社員の人生を変えました。大きなリスクを背負いながら、社員はどっちについていくべきか悩み、選択に至ったわけです。本家に残った社員も、父とともに新たな会社に移った社員も、おそらく現状を受け入れて生活を送っておられると思います。中には見切りをつけて退職された方もいらっしゃるのではないかと。そういった状況の中で一組の親子の関係解消といった事情によってビジネスを変えるというのは、双方の社員の気持ちを考えると到底むずかしい。都心に一号店を構え、「さあ、これからだ」といった気持ちの匠大塚社員の面前ならばなおさらです。あの対面の際の勝久氏の表情は、そういった組織の事情をそのまま映し出していたと思います。

5月9日の文春オンラインのニュースでは、勝久氏自身も「会社が一緒になることはむずかしい」とインタビューに回答しておられます。週刊文春5月16日号の関連記事も読みましたが、大塚家具社長の実弟(匠大塚社長)の方が「久美子さん」という呼び方でインタビューに応じているのが印象的でした。資産管理会社を訴訟に巻き込み、さらには本家大塚家具の委任状争奪戦にまで至った騒動を経験すれば、親族の間でも和解はむずかしいようです。ビジネスの上では到底和解が困難だとすれば、あとは誰にも気づかれないところで(ひっそりと)父娘での個人的な仲直りができればいいな(でもそれをマスコミは報じてほしくないな・・・)と、個人的には願うところです。

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2019年4月25日 (木)

GAFAは「規制」を「チャンス」に変えてしまい、日本企業は「リスク」に直面する(その2)

4月20日の日経朝刊に、YouTubeのCEOであるウォジスキ氏のインタビュー記事が掲載されています。YouTubeの社会的責任として、違法動画を瞬時に削除するシステムがあるそうですが、削除のために1万人を雇用し、最先端のAIを活用、2018年10月~12月に800万件の動画を削除したそうです。また4月22日の日経朝刊では、「新興ビジネス、ルールも作る」との見出しで、政策形成法務の重要性に光が当たり出したことが報じられていました。いずれも最近のGAFA規制と関連性の深い記事です。

日本政府は大手ITプラットフォーマーに対して個人情報保護、競争法の視点から新たな規制(法整備)をかけようとしています。もちろん外国の大手IT企業への規制を主目的としているものですが、10年以上、中国をはじめ強国の規制と闘ってきたGAFAに「なまぬるい」日本政府の規制手法が通用するとは思えません。いや、通用しないだけであればまだましでして、かえって日本のIT産業の競争力を削いでしまうリスクさえ存在するように予想しています。つまり、GAFAだけでなく欧米のIT大手はビジネスリスクを最大のビジネスチャンスに変えてしまうスキルを持ち合わせており、これは日本企業にとっては脅威です。

日本政府のGAFA規制がGAFAにとってのビジネスチャンスだと考える理由としては、まず上記YouTubeの記事をみてもおわかりのとおり、日本企業と海外企業との「法務力」の圧倒的な差です。Facebookなどは2万人以上のセキュリティー担当社員を抱えています(たとえばこちらのロイター記事)し、GAFAには社長にノーと言えるジェネラルカウンセルも存在します。発生した問題ごとに「すみやかに消費者に謝罪をして修正すべきか」「徹底的に法律解釈で争うべきか」を検討し、どんな規制にも乗り越えてきたスキルがあります。GAFA規制が開始されたとたん、日本企業の違法行為ばかりが山積する状況は、日経ビジネス2018年10月8日号「時事深層」が伝えるとおりです。

つぎに「規制をかける国の国民を味方につけてGAFA規制による生活の不便を訴える」という手法を活用します。これはプラットフォーマーとしてのビジネスモデルだからこそ、といえます。日本の国民の生活に、ここまで浸透してしまったプラットフォームに規制がかかりますと「前のほうがよかった」といった国民の声が上がり、規制による不便を訴える味方がつきます。政府としてはなによりも消費者を敵に回すことは避けたいわけですから、この戦略はかなり有効だと考えます。

そして極めつけが「行政の一部機能をGAFAが担う」という手法です。いわば「ゲートキーパー」としての機能をGAFAが果たし、日本政府と協力しながら日本の第四次産業革命の一翼を担う提案を行います。積極的に業界自主ルールを策定するのもこれに該当します。そしてそれと引き替えに規制の撤廃や例外規定の設置、より制限的でない規制手法への転換を政府に訴えかけます。冒頭に述べた政策形成法務を最大限活用することで、他の日本企業よりも競争上の優位性を確保しようとします(これは他国でも採用してきた手法です)。「失敗を極度におそれる」日本企業と、「失敗を繰り返すことでより組織を強くする」欧米企業との差がはっきりと出る場面です。

では、GAFA規制に日本企業はどう対応すべきでしょうか。ひとつはなんといっても「法務力」の強化です。とりわけ政府に働きかける政策形成法務に強いチームを作る必要があります。「公正取引委員会が『優越的地位の濫用』にあたる可能性が高い」との意見を表明した、などと言われても「それは絶対におかしい。排除措置命令に出たら最高裁まで争う。なぜなら・・・」ときちんと理由を開示して意見表明を行い、失敗を認めるのであれば、社内の責任問題など後回しにして(法務部門の意見を聴きながら)方針転換を速やかに行う。

つぎに「法務力の強化」とも関係しますが、海外企業相手に民民ルール、つまり訴訟を活用して行政規制の実効性確保に努めることです。こういった日本企業による訴訟提起を日本政府が支援するためには、民事訴訟のための法解釈ガイドライン(実務指針)を公表することなどが考えられます。ただし、民間企業による訴訟を行政に活用する手法は米国ではすでに研究されていますが、訴訟を好まない日本ではフリーライド問題などもあってなかなか浸透していません。

そして政府も国民も、GAFA規制による生活の不便をひたすら我慢すること(笑)が考えられます。本当はこれがもっとも有効だと思いますが、まず無理ですよね。。。

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2019年2月 6日 (水)

日産前会長会社法違反事件-会社法違反の「過料」を刑事罰に格上げせよ

丸々1カ月、新聞ウォッチングを怠けておりましたので、日産前会長さんの事件の流れを把握できておらず、すっかり情報に疎くなってしまいました。ということで、各紙バックナンバーをチェックしておりますが、近時の新聞記事において目に留まったのが1月30日の毎日新聞朝刊「論点-ゴーン事件の教訓」です。なかでも上村達男先生の「制裁金を含めた法整備を」なる論稿は何度も精読いたしました。

特別背任罪での立件は検察側にとってもハードルが高いのですが、世間の関心は(次から次へと報じられる不正事実によって)刑事立件の可能性に集まっています。一方、長期間にわたり、検察や会社側が指摘しているような不正が経営者によって続けられていたのであれば、なぜこれをもっと早く会社内部で止められなかったのか、という素朴な疑問が前よりも増して強く生じてきます。経営者不正を止められるのは事後の厳罰(刑事立件)か、事前のソフトロー(ガバナンス)か、という選択は、どうも極端に思えます。

そこで上村先生のように(会社法の世界ではありますが)金融庁が登場して行政制裁的な処分をもって対処せよ、という考え方が登場します。経済刑法に詳しい学者の方々にも、検察の人的資源の関係からみて、会社法の過料制裁を刑事罰にいきなり引き上げるとなると、その運用がもたない、というところから行政制裁をもって対処すべし、という意見も有力に出されているようです。でも(たぶん「大人の事情」によるものと思いますが)、法務省と金融庁の所轄の壁は、思いのほか高いので、そう簡単には会社法違反に(金融庁主導による)行政制裁が組み込まれるようには思えないのです。

私は公開大会社で有価証券報告書を提出している株式会社に限り、会社法違反に過料が課されているディスクロージャー規制違反および競業避止、利益相反報告義務違反の行為に対しては刑事罰をもって対処するように改正することを提案したいところです。やや複雑ではありますが、過失ではなく故意の違反行為のみを刑事罰対象として、過失によるものはこれまで通り過料、という運用です。

このたびの日産事件をみておりまして、役員報酬の開示違反を「形式犯」ではなく「実質犯」と捉える風潮になったのであれば、会社を取り巻く利害関係者への報告義務違反も含めて、罰金の対象とすべきではないかと。また、競業避止、利益相反取引の事後報告を懈怠することが刑事罰に該当するとなれば、ソフトローの運用次第ではハードローの厳しいペナルティが待ち構えているとの緊張感が取締役会出席者にも生じて、いまよりもガバナンス改革が進むのではないかと思います。

当ブログでは、これまで3回ほど会社法違反行為を過料から刑事罰対象に引き上げよ・・・と提案してきましたが、今回はそれなりの風が吹いてきたような気もしますが。。。

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2019年2月 4日 (月)

今年、企業に必要なのは知財戦略に強い弁護士(だと思う)

昨年4月、企業の国際競争力強化に向けて法務部門を強化すべし、との報告書が経産省から出されて以来、日経新聞でも「国際紛争に強い弁護士待望論」の特集記事が掲載されています。大企業を中心に、国際紛争に強い日本人弁護士が求められていることはわかりますが、今もっとも企業にとって必要とされているのは知財戦略の面で企業を支援できる弁護士だと私は確信しています(ちなみに私はそちらの専門家でもありませんが)。最近、弁護士と弁理士の資格を持った同業者の方々とお話をしていて痛感します。

著作権法や不正競争防止法の平成30年改正が施行され、新らしいビジネスモデルが違法か適法か境界線がますますファジーになっています。新たに保護対象となる「限定提供データ」など、専門家に意見を聞いてみても明確にならない分野がたくさんありますね。つまり「やったもん勝ち」の世界の中で、知財コンプライアンスを正直に(保守的に)遵守するのか、とりあえずやってみて後でクレームがついたらそのときに考えよう、といった態度でビジネスを進めるのか。知財戦略における経営判断は、当該企業の行動規範とも密接に関係すると思います。

システム特許にしても、先日の「いきなりステーキ事件」のように特許の有効性判断が裁判で二転三転していますし、日本企業が不得意とされるオープン&クローズ戦略も知財の活用といった面では良質な経営判断が模索されているところです。「知財」といいますと、いままでは専門性の高い弁護士の方々の専門領域という認識が強かったと思いますが、そういった専門性の強い法律家と(担当部署だけでなく)経営陣がどのようにアクセスしていくか・・・、というところが企業競争力の向上に大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。知財、とりわけ著作権法や不正競争防止法に強いとされる弁護士の方々に、最近すこしばかり「うらやましい」と感じております。

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2018年8月15日 (水)

経営権紛争における弁護士費用の支出と取締役の任務懈怠

大株主と現経営陣との経営権争いにより、現経営陣が委任状争奪戦に敗れて会社を去るケースをときどき見かけます。たとえば今年の6月総会では、私と一緒に某社で社外取締役をしていた女性社長さんが、業績不振を理由に45%程度しか取締役選任票が集まらず、大株主から信認を受けた新社長さんに経営トップの地位を譲り渡すことになりました。マスコミでもかなり報じられましたが、自ら上場を果たした会社だっただけに、さぞや悔しかったと思います(ただし、彼女は3分の1以上の株式を保有しているので、まだまだ争いは続くかもしれませんが)。

そして、こちらも元社長さんは存じ上げている方ですが、資料版商事法務2018年7月号に、伊豆シャボテンリゾート元代表取締役に対する損害賠償請求控訴事件の判決全文が掲載されておりましたので、精読いたしました。JASDAQ上場の伊豆シャボテンリゾート株式会社といえば・・・、そうです、「カピバラが大好きなよいこのみなさん」ではなく、「香ばしい会社が大好きなよいこのみなさん」はもうおわかりのとおり(笑)、かの有名な高橋篤史さんのご著書「兜町コンフィデンシャル」(2009年)にも(旧商号オ〇ガプロジェクトで)登場する著名な会社さんですね。私も10年ほど前、当時の伊豆シャボテンさんにとてもゆかりの深い方が実質支配をしていた別会社のトンデモ事件に関する第三者委員会で「市場を闊歩する愉快な人たち」とシノギを削っておりました(なつかしい~!)。

さて、その伊豆シャボテンリゾートさんでは、平成25年から26年当時、元社長さんと大株主の皆様とで壮絶な経営権争いを演じ、経済紙や法律雑誌等では粛々と株主総会決議無効確認訴訟の様子や第三者割当の新株発行の差止仮処分、議決権行使禁止の仮処分の様子が報じられておりました。結局は、同26年11月開催の臨時株主総会にて、当該社長さんは解任(登記簿上は退任)されてしまったわけですが、このたび資料版商事法務に掲載された判決は、現在の伊豆シャボテンリゾートさんの経営陣が、元社長さんに「不必要な弁護士費用を会社から捻出させたのは任務懈怠だ」と主張して損害賠償を求めていたものです。つまり、元社長さんが経営権争いに負ける可能性が高まっていたにもかかわらず、元社長さんは「会社のため」として3つの法律事務所から当時の経営陣の支配権を確保するための助言を得ていたのですが、その弁護士報酬をすべて会社から支出していました。その支出は元社長個人の利益のために使われたものであるから、会社から支出した行為は任務懈怠(善管注意義務違反)だと会社側(現経営陣)が訴えました。

原審(東京地裁第8民事部)は、会社側の主張を認めて、元社長さんは敗訴したわけですが、控訴審(東京高裁第11民事部)は、逆転で会社側敗訴、元社長さんの全面勝訴と相成りました。つまり大株主との経営権争いのために現経営陣(当時)が経営支配権維持のために要した弁護士費用については、これを会社負担で捻出したとしても任務懈怠にはあたらない、との判決内容です。ただし、ミスリーディングを防ぐために申し上げますが、経営権維持を目的とした弁護士費用が常に会社負担でも大丈夫、というわけではなく、本事例に特有の「ある事情」があるために元社長さんが勝訴した、という点には注意が必要です。その「ある事情」というのはどういうことかは、資料版商事法務をお読みいただければわかると思います。たとえば富士通元社長さんへの辞任要求に関する損害賠償請求訴訟事件などを、このブログでも何度か取り上げましたが、富士通元社長さんが敗訴した判決理由につながるような事情です。会社の経営権争いなどに関与される法律家の皆様にはぜひお読みいただきたい判決です(ちなみに、上記資料版商事法務には原審判決も掲載されています)。

ところでこの判決の解説を読んでいて初めて知ったのですが、第三者委員会の調査が進むことにより、自身が関与した不正が明るみに出ることをおそれ、コンサルタント会社に相談をした元社長さんに関して、コンサルタント報酬を会社から支出した行為が任務懈怠とされた裁判例(会社から損害賠償請求訴訟を提起されて元社長さんが敗訴した裁判例)があったのですね。しかもよく読むと、こちらも私が現社長さんを存じ上げている会社(東証1部)であり、当ブログでも何度もこの経営権争いを取り上げた会社さんです。(名古屋地裁平成27年6月30日 金融商事判例1474号32頁。なお、名古屋高裁判決も出ていますが、そちらまでは調べておりません)。

取締役の不正とまではいえなくても、たとえば不正の発覚によって善管注意義務違反による民事賠償責任を問われる可能性が高まることをおそれて、取締役が不正の発覚を免れるための弁護士費用などを会社が支払った場合、これもやはり任務懈怠になるのでしょうかね?企業の自浄能力の発揮が社会的に求められる時代になりますと、そういった有事の対応自体が取締役にとってヤバイことになるのであれば、うーーーん、今ドキ、かなりドキドキされていらっしゃる会社の役員さん方もいらっしゃるような気がいたします(笑)。まあ、どことは申しませんが・・・・・・(*´Д`)

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2018年4月16日 (月)

利益相反行為への関与と企業年金損害との因果関係を認めた判決

この6月に施行が予定されているコーポレートガバナンス・コード改訂2018(案)では、自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業自身が取組むことを要請しています。最終受益者たる従業員の資産を預かる立場として、スチュワードシップ・コードへの署名を促し、併せて事前規制による基金の健全性確保を図ろうというものだと理解していますが、司法が関与する事後規制という意味でも重要と思われる判決が出たようです。

4月13日(金)日経新聞の夕刊(社会面)によりますと、年金基金(九州石油業厚生年金基金-すでに解散)が、同基金の資産を運用していたファンドの元社長を被告として争っていた損害賠償請求訴訟において、元社長の損害賠償責任を認める控訴審判決(東京高裁)が出ました。当該年金基金には年金コンサルタントが助言をしていたそうですが、このコンサルタントに、「うちのファンドに資産を預けてもらえるように助言してくれれば、その資産額に応じてフィーを払う」と同ファンドが約束し、実際にも当該コンサルタントの助言によって多額の基金が預けられました。しかしながら、その運用結果として260億円以上の損失が基金に発生したそうです。控訴審では、ファンドの元社長による「(コンサルタントの)利益相反の助言への関与」について故意の不法行為が成立するとして157億円の賠償義務を認められています(ただし、請求額は1億円とのこと)。

基金側の代理人は「今回の判決は、ファンドや年金コンサルタントに警鐘を鳴らしたものといえる」と述べておられます。なお、利益相反行為は年金コンサルタントが行ったものであり、その利益相反の助言に関与したものとしてファンドの元社長さんの不法行為が認めらていますが、ファンド自身への損害賠償請求は棄却されているようです(ちなみにファンドとしては「双方代理」の事実を年金基金側には伏せていたそうです)。元社長の行為に対する違法性判断を含め、いろいろと論点はありそうで、そもそも「双方代理」については行政処分をもって事後規制を図るべきとの意見もありそうです。

本件では利益相反行為を助長した関係者個人の民事賠償責任が認められたところに大きな意義があるだけでなく、役員個人による利益相反行為の関与(助長行為)と基金の損失・損害(157億円)の間に相当な因果関係が認められた、という点にも興味が湧きます。何度も繰り返し、当該ファンドへの資金移動があり、その都度コンサルタントへの報酬が支払われたようなので、どういった理屈で因果関係が認められたのか、ぜひとも判決文を読んでみたいところです。

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