2022年3月28日 (月)

「社外役員特化型D&O保険(会社役員賠償責任保険)」は必要と考える

今年も日本監査役協会の研修講師を担当させていただいておりまして、「攻めと守りのガバナンスを支える会社役員賠償責任保険と会社補償契約」とのテーマで講演いたしました。しかし、この16年間でもっとも低調です(笑)。いつも企業不祥事や有事のガバナンスをテーマにすると満員御礼の日が続くのですが、今年はホントに聴講される監査役員さんが少なくて閑古鳥が鳴いております(´;ω;`)。聞くところによると「サイバー保険」に関連する講演も集客力が低いそうで、会社役員の皆様の「保険や補償ということへの関心」がやや低いことを知りました。

ということで、少しへこみぎみだったのですが、旬刊商事法務の最新号(3月25日号)にて、オリックス グループ人事部報酬チーム兼グループ総務部 担当部長でいらっしゃる山越さんの論稿「社外役員のリスクと特化型D&O保険」を拝読して、「うんうん、そうだよなあ」と少し元気が出ました。業務執行役員とは別に社外役員(社外取締役や社外監査役)だけに特化した会社役員賠償責任保険を締結することも検討する必要があるのではないか、とのご意見はまさにそのとおりかと。

山越さんの上記ご論稿に書かれているわけではありませんが、私が会社役員全体を通して保険や補償契約に関心を持っていただきたいと考えているのは、以下の4つの理由(役員責任をめぐる近時の経営環境の変化)からでして、敗訴リスクはあまり高くなくても、提訴リスクは確実に高まっており、弁護士費用を含めた個人負担についての付保は必須の時代ではないかと思うからです。とりわけ社外役員は「保険に加入しているから安心」「責任限定契約を締結しているからリスクを回避している」では済まないのではないかと。

まずひとつめは「世間を騒がせる企業不祥事の頻発」により、会社自身が自浄作用の一環として不祥事発生当時の役員を提訴することが増えていることです。つぎに国内外でのM&A(組織再編)が急増し、支配権の交代によって旧経営陣が提訴されるリスクが増えていることです(これは上場、非上場にかかわらず役員のリスクです)。3つめにモノ言う株主(機関投資家)が、その背後の実質株主への説明責任を果たさねばならない状況が増えているということ(つまり、どれだけ回収できるかわからないが、役員を提訴して司法判断を仰ぐことで説明責任を果たす、ということ)です。4つめは役員を提訴する株主の「代表訴訟のハードルが低くなってきた」ことです。証拠収集には公益通報が活用されることが増えていますし、原告側訴訟代理人の力量も変わってきたことによるところかと思います。

ほかにも損害賠償債務が「不真正連帯債務」であるがゆえに、責任限定契約は求償権に対抗できないのではないか、といった論点もありますが、ここでは法律論については言及いたしません。いずれにしても、こういった問題に社外役員はどのように対応されているのでしょうか。以前にも書きましたが、私はニッセンホールディングスの社外取締役を退任する際、D&O保険についてはランオフ・カバー条項を付けていただきましたし、さらに念のため会社側と補償契約(役員退任後も一定期間は補償する)を締結しました(幸い、法人が消滅することはなかったですし、リーガルリスクが顕在化することはありませんでしたが・・・)。

大株主から社外取締役が選任されることが増えて、社外取締役や社外監査役も「一枚岩」ではなくなってきた時代となりました。社外役員ではありませんが、会社から(辞任要求を拒否した)常勤監査役さんが損害賠償請求訴訟を提起される事件も最近の判例時報に掲載されています。これだけ取締役会改革が進んでいる状況ですから、役員間や株主との間で意見の食い違いが裁判沙汰に発展することが増えても当然です。したがって会社側の保険料負担で「社外役員だけを被保険者とする会社役員賠償責任保険」を締結することも、約款(社外役員特別枠特約)だけでは対処しきれない部分をカバーするものとして検討する必要があるように思います。また、(社外役員に限った話ではありませんが)この3月総会までに、ネットで確認できるだけでも40社ほどの上場会社(比較的大規模な上場会社が多い)が役員と補償契約を締結していることが確認できますので、会社補償契約の活用も検討すべきです。

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2022年1月 7日 (金)

関電金品受領問題-取締役責任調査報告書の信用性はどうなる?

昨年12月23日の朝日新聞ニュースによりますと、関西電力の役員らによる金品受領問題で、法人である関電と関電株主らが元会長ら旧経営陣6人に損害賠償を求めている訴訟に関連して、大阪高裁(大島真一裁判長)が関電側の代理人弁護士3人のうち2人を、訴訟から排除する決定をしたそうです(12月22日付け)。訴訟代理人からの排除の対象とされた弁護士2人は、金品受領問題をめぐり、関電が旧経営陣の法的責任を調べるために設置した「取締役責任調査委員会」の委員を務めておられたようです。

関電元会長らもその調査に応じていたわけですが、元会長らは、調査委の調査に対して「独立性を担保された委員の立場を信頼して、問われるまま供述した」「(調査委員である弁護士が損害賠償請求訴訟でも関電側の代理人に就いていることについては)被告らの内情を知り尽くした両弁護士を代理人とする行為は、関電として信義則に反する」として、昨年7月、当該弁護士2名を訴訟から排除するよう大阪地裁に申し立てていました(大阪地裁は今年3月、申し立てを却下し、元会長らが抗告していたものです)。

そういえば本件については、当初、元会長が代理人を飛び越えて直接関電側に「けしからん!」と圧力をかけたとして、元役員のほうが世間的に批判をされていましたよね。

調査委員会委員を務めていながら、その後、会社側の代理人に就任する、という点については(諸事情ございますので-笑)あまりツッコミを入れないことにしますが、どのような理屈から「排除」という法的効果が生じたのか、その判断プロセスについては知りたいところです(2020年8月に、「コンフリクトの疑われる代理人を相手方は裁判で排除できる-特許権侵害事件・知財高裁決定の衝撃」と題するエントリーを書きましたが、この決定と同じような理屈で排除決定が出されたのかどうか。

また、大阪高裁の排除決定によって、訴訟が継続している大阪地裁の審理、とりわけ「責任調査委員会報告書の事実認定の信用性」にどのような影響が生じるのか、こちらも興味があります。中立性のある弁護士⇒代理人弁護士という流れだから影響はない、ということなのか、後日平然と代理人弁護士に就任している経過からみれば、そもそも中立性はなかった(よって事実認定は会社寄りであり信用性に乏しい)、ということなのか。調査委員会委員を経験する者として、裁判所がどのような見方をするのか、参考にさせていただきます。

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2022年1月 6日 (木)

「ZAITEN」最新号(2022年2月号)を読んだ感想をふたつほど・・・

ZAITEN2月号が改正公益通報者保護法の特集を組んでいることから、興味深く拝読いたしました(相変わらず尖っている記事が多い('◇')ゞ)。改正公益通報者保護法の弱点についても、なかなか鋭いツッコミが入っていて勉強になりますね。とりわけ「弱小消費者庁が行政処分を下すことができるのか?」という挑戦的な(?)問題提起は、たしかに当たっているのではないか(だからこそ、人員増強が必要ではないか)と思うところです。

ただ、最近の企業不祥事の発覚経緯をみると、著名事案の多くが(社員もしくは取引先社員による)内部通報もしくは外部への情報提供が端緒となっていることは間違いないわけでして、まずは6月に施行される改正法の運用状況をみながら前に進むしかないものと思います。上記記事によると、最近は自社の違法行為を海外当局に申告して、高額の報奨金を狙っている社員もいらっしゃるようですから、これまで以上に内部通報を促す制度作りに励みたいところです。

なお、ZAITEN2月号の記事の中で、もっとも面白かったのは「株主を惑わす『議決権行使一体型委任状』の姑息」なる記事でした。いや、記事というよりも、甲南大学梅本教授へのインタビュー回答集でして、内容はかなり格調が高い。今後、商事法務や他の法律雑誌で関西スーパーの一連の決定に関する評論を執筆される方は、日経の記事や梅本教授の意見として書かれていることは無視できないのでは、と思います。私は12月24日のエントリーにて

本日、午前11時に日経電子版(有料版)で配信された「関西スーパー争奪の教訓 裁判招いた株主以外の意外な票」はとても興味深いですね

と書きましたが、ほぼ時を同じくしてZAITENが発売されていたようで、ナイスなタイミングです。実際にこの「議決権行使一体型委任状」のために錯誤に陥って「統合反対」の意思を表明していた株主は(自らの不注意によるものだとしても)「統合賛成に一票」とされてしまったのですが、反対票に計上されていたら決議はどうなっていたのでしょう。東京高裁の決定が出る前に日経の記事やZAITENの記事が出ていればもっと面白かったのではないか・・・と悔やまれます(いや、さすがに決定前は出せなかったのか?)。

今後、会社法の趣旨に反する総会実務(一体型委任状)は改訂されるのか、それともそのまま維持されるのか。関西スーパー事案は裁判だけをみれば事例決定に過ぎないのかもしれませんが、実に興味深い問題を残したと思います。

最後になりますが、当ブログ宛に世間で話題になっている会社の社員の方々から内部情報が届きます。たいへん真摯なお気持ちで情報をお伝えいただいていることは承知しておりますが、当職はZAITENではありません。どんなに興味深い情報でも、コメントは公開できませんので、あしからずご了承ください。

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2021年11月19日 (金)

会社役員の敗者復活戦を支える-会社補償契約のススメ-

ここのところ、事務所にはあまり帰ってきておりませんので、(もろもろの)取材はお受けできない状況です。←〇〇スーパーとか(笑)。決して「愛想が悪い」「居留守を使っている」のではございませんが、ホンマに「貧乏暇なし」ということで悪しからずご了承ください<(_ _)>。以下本題であります。

本日は会社役員、とりわけ上場会社の取締役、監査役の皆様のリーガルリスクに関する話題です。モノ言う株主の急増、コンプライアンス・ESG経営への関心の高さゆえ、近時、上場会社役員の「敗訴リスク」に変化はなくても「提訴リスク」は上昇していることは間違いありません。ということで(?)、会社補償契約への注目度がアップしているようです。

「D&O保険に20億くらい加入していればよくね?」といった気持ちを(最近あまり勉強していない💦)私は抱いておりましたが、旬刊商事法務2278号(2021年11月15日号)のスクランブル「上場企業が早期に会社補償契約を導入すべきわけ」を読んで、(社外取締役として)これは早く会社補償契約を締結しなければ・・・という気持ちになっております。

会社補償契約とは、令和元年改正会社法で新たに規定が設けられたもので(改正会社法430条の2)、役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人)が職務の執行に際して負う損害賠償責任やその防御に要する費用(争訟費用)を会社が負担(補償)する制度です。改正会社法は、会社が役員等との間で締結する補償契約について、補償契約の内容を決定する手続や補償契約に基づき補償する費用等に関する規定を設けました。

補償契約によって会社が補償できる範囲は限られていますが(たとえば株主代表訴訟で敗訴した場合の損害賠償責任については除外)、争訟費用(たとえば弁護士費用)については広く補償の対象となりますので、まさに「提訴リスク急増の時代」にはピッタリです。改正会社法は社外取締役が一定の要件のもとで業務を執行することも認めていますが、会社補償契約は、このような社外取締役の積極的な活動を支えることにもなりえます。

D&O保険も争訟費用を補填しますが、保険金が下りるまで時間を要するケースもあり、スピーディーな支払いが期待できる会社補償制度にはそれなりのメリットがあります。いわばD&Oと会社補償契約は相互補完機能を発揮する、といっても過言ではありません。D&O保険の免責事由が比較的緩やかにに認められている(たとえば善管注意義務違反となることを認識しながら経営判断に至ったケースには保険は下りない等)ところからみても(金融・商事判例1628号12頁以下 東京高裁判決令和2年12月17日判決)D&O保険だけでは安心できない、というのも偽らざる心境です。海外からの集団訴訟の弁護士費用なども、保険金が出るのかどうか微妙です。

また、「そうはいっても、今まででも実務的には契約を締結していなくても会社補償は可能とされてきたんだから、あらためて契約を締結する必要はあるの?何か問題が発生してから締結すれば足りるんじゃない?」と私は安易に考えておりました。しかし、上記スクランブルを読む限りそんな甘いものではなく、これからは会社法上の補償契約を締結していない限りは、補償は困難になるのではないか、とのこと。最近の会社法セミナーではあたりまえに解説されているのかもしれませんが、勉強不足の私は「ええ!?」と驚いてしまいました。

要は会社・役員間の委任契約(任意契約)の内容について、民法650条3項(役員に過失がない場合に弁護士費用等を会社に請求できる根拠規定)は任意規定なので、役員に過失がある場合でも民法の特約として会社が弁護士費用を補償できると(個々の事案ごとに)解釈することが可能だったわけですが、改正法によって会社補償契約の内容を決定する手続き(取締役会の承認)や補償できる範囲が条文で明確になったので、民法650条3項と異なる内容の補償(特約)を認めることは委任契約の解釈としてはとりえない、というものです。

これが異論の余地なく絶対正しいとまでは申し上げる自信はありませんが、会社法上の会社補償契約はこれまで実務で行われていた民法650条による補償を制度化したもの、もともと利益相反的な契約、といった制度趣旨を前提とすれば、たしかに裁判官がこのように判断してもおかしくないように思います。ということで、社外取締役、社内取締役、監査役等の皆様にとって、健全なリスクテイクを支えるためのインセンティブとして、会社補償契約を会社法上のルールに従って締結することは上場会社のトレンドになるのではないかと。外部から経営者を連れてきたり、優秀な社外取締役を招くためにも「うちの会社では補償契約を締結することがルールになっています」と説明できそうです。

もちろん、補償費用の支払いにあたっては、モラルハザードを防ぐための措置も必要ではありますが、株主や会社第三者からの訴訟提起、行政機関からの法的手続きから身を守り、役員としての「敗者復活戦」の機会を確保することは、これからの上場会社にとって「攻めの経営」のためには不可欠の経営環境ではないでしょうか。

私利私欲を追求するような経営判断は論外ですが、失敗を許容できる組織風土はとても重要だと思います。上場会社の役員の皆様におかれましては、ぜひとも御社の顧問弁護士さんと相談のうえ、会社補償契約締結の必要性についてご検討されてはいかがでしょうか。

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2021年11月 9日 (火)

関西スーパー経営統合事案に法廷闘争という「第2ラウンド」がありそうですね

(9日午前 追記・更新)

つい先日、「関西スーパーの臨時株主総会-オーケーに学ぶこれからの戦略法務の在り方」なるエントリーにて、オーケー(スーパー大手)の経営者は潔い負けっぷりだな・・と書きましたが、11月8日の日経スクープ記事によりますと、10月29日の関西スーパーの臨時株主総会で決議されたエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)グループとの株式交換契約について、オーケーは9日にも神戸地裁に差し止めの仮処分を申請する方針を固めたそうです。

オーケーは「総会検査役の報告書で明らかになった議決権集票の過程に問題がある」と判断したことが紛争再燃の理由とのこと。たしかに総会検査役の報告書の内容が日経ニュースのとおりであるなら、統合決議の結果がひっくりかえる可能性が出てくるわけですから、オーケー側が経営統合の差し止めを求めて提訴することも納得します。

私の見立てが間違っていないとすれば、関西スーパー、オーケーいずれの陣営もアドバネクス事件の東京高裁判決(2019年10月17日付)の射程距離をどう理解するか、というところをきっちり押さえた上での法廷闘争になると思います。関西スーパーにとって「自分の議決権行使結果を確認したい」と申し出た法人株主が議決権行使書とは異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことが明らかだったといえるのか、つまり法的な意味での「出席」はしていなかったと評価できるのかどうか。アドバネクス事件の場合とは状況が異なるように思えるので、とても微妙な問題を抱えているようです。(9日午前の日経ニュース更新版を読むと、総会現場では間違いが起こらないように「十分なアナウンスはあった」とのことで、このあたりも裁判では斟酌されるかも)。

また、議決権の事前行使で「反対」としながら、当日出席して賛成票を入れた株主さんはいなかったのでしょうかね?いったん票読みが終わった後で、個別の株主からの申し出を認めて、その結果を決議に反映させるということになると、会社側の恣意的な総会運営を許すことにならないのでしょうか。

ただ、そもそも僅差となることがはじめからわかっていた株主総会であり、総会検査役まで選任されていたのですから、関西スーパー側が、本件のような株主権行使は普通に想定されていたはずです(実出席者も130名程度の総会なので、本件のようなことが起きないように総会の受付において確認しておくことはできたはず)。関西スーパーの株主総会で、アドバネクス事件のような会社法上の論点が浮上することにとても驚いております。

それにしても株主総会の検査役は重要な役割を担っていることがわかります。

(9日午前追記)こちらの毎日新聞ニュース(有料版?)を読むと、さらに緊迫の現場の様子がわかります。これはたいへんですね。

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2021年11月 2日 (火)

関西スーパーの臨時株主総会-オーケーに学ぶこれからの「戦略法務」の在り方

週末の日曜日(10月31日)、妻と一緒に投票を終えて、相も変わらず天王寺に買物に出かけまして、近鉄百貨店の「バッファローズ優勝記念セール」でお値打ち冬モノを購入してまいりました。その後(これもいつも通りですが)あべのベルタの関西スーパーにも出かけましたが、こちらは「株主総会勝利記念セール」はやってなかったみたいで、いつもの風景でした。(=^・^=)ホント、隣のイトーヨーカドーとの共存共栄は、老舗の関西スーパーあべのベルタ店における「品ぞろえの妙」としか言いようがありません(笑)。

それにしても10月29日(金)の関西スーパー臨時株主総会はずいぶんと盛り上がりましたね(全国紙でも大きく取り上げられていましたね)。議決権行使について2時間以上かけて集計されましたが、会社案への賛成が66・68%という信じられない僅差だったそうです。可決には出席株主の3分の2以上の賛成が必要で、そのラインをわずかに上回る結果となったわけで、H2Oリテイリングとの経営統合が成立し、オーケーはTOBを断念することになりました。

関西スーパーが取引先株主らに対して「出席せずに議決権行使を棄権してほしい」と要請していたことが日経ニュースで報じられていましたが、もしそうだとするとガバナンス・コードとの関係では若干問題があるように思いました。ただ、私のような「場末の弁護士」のそんな懸念をふっとばしたのがオーケーの経営者の言動でした。こんな僅差による敗北は受け入れがたいのでは?不服申し立てはしないのか?との記者からの質問に対して、オーケーの経営者は「しっかりと総会検査役にみてもらったのだから(結果は受け入れる)」との発言(10月30日 産経新聞朝刊関西版のインタビュー記事より)。経営支配権を争う当事者(しかも負けたほう)から総会検査役へのリスペクトの言葉など、今まで聞いたことがありません。

オーケーは、たしかに総会では敗れたかもしれませんが、今回の一連の「TOB予告作戦」によって実質的には大きな勝利を収めたのではないでしょうか。なんといっても関西の消費者にオーケーというスーパーの存在、およびその特色を周知させました。どんなに広告費用を出すことよりも、大きな宣伝効果が得られました。また、オーケーのTOB予告価格の提示により、関西スーパーは、H2Oとの統合効果について(イズミヤやオアシスとのシナジーも含めて)対外的に説明することを余儀なくされました。統合効果についての実効性には疑問も残りますが、オーケー側にとっては(自らの手の内を見せることなく)首都圏のスーパーが関西市場への進出の足がかりがつかめたことはとても意味のあることだと思います。

オーケーの撤退により、週明けの関西スーパーの株価はかなり落ち込んでいますが、経営統合が市場の好感を呼ぶとすれば、関西スーパー株を高値で売って、次の投資に振り向けることもできるわけで、結局のところほとんどお金を使うことなくオーケーの企業価値を大きく向上させたといえます。今回のオーケーの関西スーパーに対する7月ころからの一連の行動を俯瞰するに、法務を「守り」に使うのではなく「攻め」に活用する・・・いわゆる「戦略法務」のお手本を、現在進行形で学ばせていただいたように思います。

徹底的に闘い、潔く撤退する(結果として一定程度の株主の賛同も得られた)というストーリーは、企業の社会的評価を毀損することもなく、ステークホルダーとの信頼関係を毀損することもなく、結局のところオーケー経営者のしたたかさを痛感する事案だったといえそうです。

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2021年10月13日 (水)

経済安全保障政策を意識したESG経営の視点が不可欠と考える

今年7月27日のエントリー「企業のESG経営-『E』と『S』はつながる時代へ(オランダの裁判事例とEUにおける環境カルテル)」において、近時のオランダにおける裁判例をご紹介して「環境問題は人権問題のひとつとして捉えられる時代になるのでは?」と書きましたが、10月8日、国連人権理事会は、清潔で健康的な環境へのアクセスは基本的人権であるとの決議案を賛成多数で可決したそうです(有償版ですが、毎日新聞ニュースはこちらです)。日本は棄権したものの、決議は理事国47か国中賛成43、反対0ということで可決しました。

日本企業としても、もはや「環境問題は人権問題でもあること」を理解しておいたほうがよさそうです。国連人権理事会の次の狙いは①人権侵害に基づく損害賠償請求に関する緊急管轄の創設、②被害者の選択による準拠法選択に関する特則の制定明記というところにありますので、いよいよ世界レベルでの人権侵害行為や環境問題への不作為に対するハードロー化、つまり救済アクセスの充実が求められることへの企業対応を検討しておく必要があります。この件については抵触法(国際私法)の最新事情も踏まえて、また別途エントリーで詳しく意見を述べたいと思いますが、以下本題です。

前回のエントリーでは、文藝春秋最新号の財務次官論稿について少しだけ触れましたが、本日は同号「アップルとかく戦えり」と題する前公正取引委員会委員長の論稿についての感想です。

日本製鉄の東京製鉄への敵対的TOBについては今年2月のエントリー「日本製鉄→東京製綱・敵対的TOBに関する素朴な疑問」において「公取の事前審査の潜脱行為では?」と疑問を呈しましたが、案の定、公取から厳しい指摘を受けて、日本製鉄は元の持ち株比率に戻すそうです(こちらのNHKニュースが報じています)。このような公取委の対応はかなり厳しいなぁと思いますが、冒頭の「アップルと・・」を読みますと、(論稿はあくまでも前委員長の個人的な見解かもしれませんが)公取委としては今後さらに「公正な競争市場の形成」に向けて積極的な行動に出ることを確信いたしました。

とりわけ「社会主義はデジタルで甦る」というご意見はそのとおりかと。「先端半導体」「一般半導体」の技術をはじめ、国家監視資本主義の実践に必要な技術が中国に流出することで、自由資本主義国家の安全保障が揺らぐ可能性を欧米諸国と日本が共通課題と考え、各国の競争規制当局が足並みをそろえて監視資本主義に対抗する姿勢は、日本企業のコンプライアンス経営に、とても大きな影響をもたらします。中国がアリババやディディ(滴滴出行)に対して競争法によって規制を強めているのと同じ理屈ですよね。

おそらく公式には「経済安保」とは言わないけれど、西側諸国は「公正な競争市場の確保」という錦の御旗のもとで、環境や人権への取組みに熱心でない日本企業に対しては「公正な取引条件の不備」を問題視してハンデを背負わせることが想定されます。

ESG経営をどこまで追求すべきか、といった点について同業他社と協議することの是非はいろいろと議論されているところですが、少なくとも自由資本主義体制が目指す公正な競争条件の形成を阻害する行動(たとえば①品質偽装、②情報漏えい、③営業秘密の侵害に対しての泣き寝入り、④現地公務員への贈賄等)や、GAFAのプラットフォームのように監視資本主義に活用されるおそれのある企業への「事前規制」には要注意ですし、その規制に反する行動へのペナルティは、世界的にとても厳しいものになると予想しています。

少し前までは「ESG」といえば「企業による社会的責任に基づく実践行動」というイメージを持っていましたが、最近は経済安保問題や経済覇権行動に対する後出しジャンケン的な理由付けなど、もっとドロドロした世界をきれいにウォッシングするために活用されるイメージが強くなったように感じるのは私だけでしょうか。

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2021年10月 7日 (木)

監査法人交代事例の急増とオピニオンショッピングに伴う「倫理観」

本日は日本公認会計士協会近畿会の組織内会計士委員会主催の研修にてお話をさせていただきました。リアルとリモートのハイブリッドセミナーでしたが、ご聴講いただいた皆様、本日はお世話になりました。ということで(?)、監査法人ネタについて少しだけ書かせていただきます。

今朝(10月6日)の朝日新聞(朝刊・経済面)に「監査法人の交代相次ぐ 変更207社 前年より5割増」なる見出しで、監査法人を変更する上場企業が増えていることが報じられています。コロナ禍による業績の悪化で監査報酬を抑えたい企業側の狙いがあるほか、契約期間が長期化した監査法人を見直す動きが広がっていることが原因とされています。

記事の中で青学の町田教授が「企業側にモラルハザードが生じ、自社に都合のいい監査法人に代えるケースがあるならば問題だ」とコメントされているのはまことにその通りかと。かつて八田進二先生から「会計の世界にセカンドオピニオンはないが、オピニオンショッピングはある」と教えてもらいました。昨今の上場会社側の監査人変更の裏には会社側は「セカンドオピニオン」をもらえるところに変更するのであって、自社に都合の良い会計処理を許容してもらえる(オピニオンショッピングできる)監査人に交代するのではない、という意識が強いように感じます。つまり自己正当化です(悪気がないので倫理観の欠如とはいえないように思います)。要は先の八田先生の名言を広めることが必要かと。

一方で、監査法人側の事情については、私はやや記事とは違う見方をしております。記事では「海外提携先の会計事務所から、採算の合わない監査先を見直すように日本の大手監査法人は求められている」とありますが、「採算」の問題ではなく「不正リスク」の問題ではないでしょうか。新興企業では内部統制が脆弱であり、上場時から監査を継続しているものの、不正リスクが顕在化する前に契約を解消しておこう、という気持ちが強くなるのではないかと。歴史の長い上場会社であったとしても、昨今のガバナンス改革が「資源の最適配分」を強く要請していることもあり、不採算部門における会計不正リスクはかなり高まっています。民事賠償、行政処分のリスクを考えると契約先の見直しを検討する監査法人側の事情もある程度は理解ができるように思います。

「会計監査の在り方に関する懇談会」が金融庁で始まりましたが、そこでもKAM(監査上の主要な検討事項)の適用開始,監査に関する品質管理基準改訂の動きなど,監査法人を取り巻く環境が変化していることから、監査の品質をどうやって向上させるかが議論されるそうです。ポイントとなるのは中小規模監査事務所の監査品質の向上、ということなので、今回の監査法人の交代急増の事実はむしろプラスと考えて、監査品質向上のための良い機会ととらえるべきではないでしょうか。

ただ(先日、こちらのエントリーでも申し上げましたように)何事も失敗を繰り返さなければ「品質の向上」などありえないはずです。監査上の失敗の社会的損失をできるだけ少なくしつつ、その失敗から得たものを社会的資産として共有できるシステムが「監査の品質向上」には不可欠だと思いますね。

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2021年4月 8日 (木)

CVC、東芝へ買収提案-なぜ初期提案の情報が洩れる( *´艸`)?

Img_20210407_212957_512 英国ファンドのCVCが東芝に2兆円買収提案、という記事は、胸のすくようなひさしぶりの日経新聞トップスクープでしたね。東芝が本日午前8時半に開示した内容は、「今朝の買収提案に関する日経報道は当社が発表したものではありません。昨日CVCから初期提案を受けたばかりであり、詳細情報を集めて取締役会でこれから検討いたします」というものでした。

しかし日経のトップ記事を読むと「CVCは今後、自らの提案に賛同するファンドを募って共同で買収する」とか「現在の株価にプレミアムを3割ほど乗せることができる程度のレンジを想定する」とか、本来は東芝側が判断すべき理由である「非公開化によって経営判断を早める」といった非公開化の目的まで書かれてあります。いくらなんでも昨日の初期提案の内容から、朝刊記事の締め切り時間(4月7日未明)までに書ける内容ではないような・・・( ̄▽ ̄;)

どうして初期提案の情報が日経記者さんに漏れるのかな・・・そういえば日経さんのスクープ記事といえば、2007年のJTと日清食品が加ト吉社買収の検討を行ったときのこと(こちらのブログ記事)を思い出しました。(;^ω^)どう考えても日経さんにタイミング良く「書いてもらった」としか言いようがない(笑)

「いやいや、まだ初期提案を受領したばかりであります。もちろん、今後正式な提案があれば取締役会で真摯に検討してまいります」って、ホンマかいな(笑)と素直に思ってしまいますよね。東芝の現会長さんがCVC会長から転身されたときの記事(2018年2月のこちらの記事)でも、「将来、CVCが東芝の支援をする可能性は否定できない」って書かれてありますし、今後TOBが開始される予定であるにもかかわらず(国益とも関わる東芝の情報技術やエネルギー技術の保護について)経産省や財務省の審査(外為法規制)のための事前相談もまったくなされていないとも考えられないですし、なんといっても日経スクープの早さからしてすでに関係者間でのストーリーが出来上がっているのでは、と思うのは私だけでしょうか(笑)。過去に英国ファンドがJパワーの買い増しに動いたときに、財務省が外為法で中止命令を出した状況とはずいぶんと異なるように思います。

しかしそうなると、東芝の現株主であるファンドの皆様は、3割のプレミアムが上乗せされる、といわれる現在の株式価格が本当に東芝の企業価値を反映したものかどうか、疑いを持つのではないでしょうか。本来ならばもっと株価が上がるような有利な情報を開示していない、といったことはないのでしょうか。子会社における架空循環取引や定時株主総会における議決権集計問題等、株主に対して十分な説明責任を果たしてきたと言えるのかどうか。もちろんCVCの正式な提案があれば、これに対抗する提案も飛び出すかもしれませんが、仮にストーリーがあるとしても、今後シナリオ通りにはなかなかいかないような気もいたします。

もちろん、上記は野次馬的な立場にある私の推測にすぎません(株式取引は自己責任でお願いいたします)。ただ、長期保有を前提とするPEによる(企業統治の在り方が問われる)TOBというのは極めて異例だと思いますし、今後どのような展開となるのか注目しておきます。

 

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2021年2月22日 (月)

今こそ会社法上の「会計監査人設置義務」への関心を高めよ-フタバ図書粉飾案件に思う

日曜日の夜の東京新聞ニュースでは「電子機器や服飾を含む日本の主要小売り・製造業12社が、中国新疆ウイグル自治区などでの少数民族ウイグル族に対する強制労働への関与が取引先の中国企業で確認された場合、取引を停止する方針を固めたことが21日、共同通信の取材で分かった」と報じています。先日、東京オリ・パラ元組織委員会会長の発言問題について、スポンサー企業がどのようなコメントをしたのか、という点が(比較されて)話題になっていましたが、もはや「ESGは企業価値向上に役立つか」などとフワっとした議論をしている時代ではなくなってきましたね(たいへんだぞ、これは・・・)。以下本題です。

2月20日の中国新聞デジタルのニュース「フタバ図書、10年間粉飾 在庫や資産償却を不適切記載」では、広島の書店チェーン大手のフタバ図書(非上場会社)が10年にわたって決算書に書く在庫を実際より多くしたり、固定資産の償却を小さくしたりして、不適切な計算書類を作成していたことが報じられています。また、別の中国新聞記事では、借入先の金融機関の数を少なく記載して、過小の債務総額を取引先金融機関に示していた、とも報じられていました。

これまで粉飾を説明してこなかったのは「上場会社のような開示義務がある企業を除き、企業価値を損なわないぬよう非開示が原則。信用不安からの破綻を回避しようと考えた」というのが会社側の説明だそうです。しかし、上記中国新聞の記事が正確に伝えているとすれば、この会社側の表現は誤解を招くものと思います。

上場会社ではなくても、株式会社である以上(つまり会社法が適用される会社である以上)、フタバ図書には計算書類(BSやPL)や事業報告について開示義務があります(会社法440条1項、同442条1項1号)。実際には開示義務を果たしていない非上場会社が多いことは事実ですし、また有価証券報告書の提出義務はありませんが、「法律上の開示義務がない」とは言えません。さらに、計算書類の内容についても、会社法では虚偽記載は過料の制裁が規定されていますので(同976条7号)、破綻を回避するために(会社の信用を維持するために)不適切な記載が許されるわけでもありません。

とりわけフタバ図書の場合、そもそも同社は金融機関からの借り入れだけでも総額235億円に上るということですから、会社法上の「大会社」に該当するはずです(同法2条6号。「大会社である」と断定できないのは、最終事業年度の貸借対照表に負債200億円以上が実際に計上されているかどうかはわからないため)。

ご承知の方も多いと思いますが、会社法上の大会社に該当すれば、会計監査人の設置義務がありますし(同法328条2項)、内部統制の基本方針についての決議義務も発生します(同法362条5項)。同社が会計監査人を設置していれば、まちがいなく粉飾決算を防止でき、仮に防止できないとしても、粉飾に対して早期に対応できることになり、今回のようにステークホルダーに迷惑(9割の貸付債権免除)をかけることもなかったはずです。

会社としては「当社は会計監査人設置会社である」という認識はなかったのでしょうか?あるいは、取引先金融機関として、会計監査人を設置すべきだ、と要求することはなかったのでしょうか?ぜひ、このあたりは更なるニュースで明らかにしていただきたい。

ところで、2010年に発覚した林原の会計不正事件のときにも思いましたが(2013年8月19日拙ブログエントリー「金融検査の見直しと林原の破綻」参照)、会社法上の大会社のように、会計監査人を設置しなければならないにもかかわらず、これを放置している会社が、日本にはかなり多いはずです(以前、日本公認会計士協会が、登記簿上の5億円以上の資本金を調査したことがあったように記憶しています)。林原のケースでは登記簿上の資本金5億円企業なので明確ですが、フタバ図書のように「負債額200億以上」となると、取引先金融機関でもなければ、なかなか指摘することはできないのかもしれません。

今後、金融機関も融資先の事業リスクの定量化を図り、M&A等の仲介事業なども手掛ける時代となりますと、これまで以上に融資先の会計不正には注意を向けなければならないと考えます。そうであれば、融資先に会計監査人設置義務があるのか、財務報告に関連する内部統制の構築義務があるのかどうか、という点には強い関心を示す必要があるのではないでしょうか。今回のフタバ図書の事例では「借入先金融機関の数を過少説明され、債務総額が見えにくかった」という事情があったのかもしれませんが、そもそも「会計数値」への信頼が融資業務において軽視されてきたのではないか、といった疑問がわいてきます。

当ブログでは何度も「会社法上の過料規定-976条-は時代に合わなくなってきたので、必要に応じて刑事罰規定に改正せよ」と言ってきましたが、計算書類の虚偽記載規定とともに、会計監査人の設置義務違反についても刑事罰化することが、「担保」偏重ではなく、事業リスク重視による金融機関の融資姿勢の変化を促すことになるのではないか、と考えております。

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