2016年12月29日 (木)

エフオーアイ損害賠償請求事件判決の威力-内部告発者が証券市場を救う

本文だけで230頁に及ぶエフオーアイ損害賠償請求事件判決の全文を(当ブログをご愛読の方から頂戴して)一読いたしました。平成28年12月20日付け、東京地裁民事第16部合議係です。社外監査役を含めた監査役の監査見逃し責任、みずほ証券さんのIPOにおける元引受証券会社としての損害賠償責任、日本取引所自主規制法人さんの私法上の注意義務を認めた画期的な第一審判決であり(ただし自主規制法人さんについては請求棄却、また審査を委託した東京証券取引所さんには注意義務は認めず)、2016年の企業法務に関連する重要判決と言えます。ただ、惜しいのは会計監査人が訴え途中で和解をされたようで、会計監査人の注意義務の中身が判断されていません。

判決文にも出てきますので、そのままの表現で書きますが、上場準備の段階から粉飾決算を続けているエフオーアイ社について「こんな会社は上場させてはいけない、ここを調査すれば粉飾がわかる」といったことが詳細な理由をもって自主規制法人さんと主幹事証券会社であるみずほ証券さんに「匿名投書」で届けられました。エフオーアイ社の経営陣は、社内でトラブルを起こして手を焼いている内部監査室長のM氏による匿名投書であることを、主幹事証券会社に伝えました。しかし、不正はなかったとして、そのまま上場が承認されてしまい、二度目の匿名投書も不発に終わり、最終的には金融庁の強制調査によって粉飾が明るみになります。証券会社は匿名投書者が内部監査室長であることが特定され、精神疾患によって会社に恨みをもった投書だという会社側の説明を信じ、M氏が退職したことによって「むしろ上場を控えたエフオーアイ社の内部管理体制にとっては好ましい状況になった」と判断したそうです。M氏をヒアリングすることもありませんでした。

残高証明の偽造については(複数の?)名門企業の担当者が加担していたのですね(具体的な社名も匿名投書の中に出てきています)。インサイダー情報という「おいしい見返り」があれば、名門企業といえどもこんなにも簡単に他社の粉飾に加担してしまうのでしょうか。インサイダー取引の摘発件数はここのところ増えていますが、市場の健全性確保にとってやはりインサイダー取引の規制強化は必要だと思います。取引所や証券会社、そして監査役や会計監査人にも内部告発をした内部監査室長(と思われる人)は、もはやどこにも相手にされないとみて最後に金融庁に内部告発を行ったものと思われます(なお、判決文には金融庁への通報という事実は認定されていないので、ここはあくまでも私の推測です)。判決では、このような匿名投書が二度も届いたにもかかわらず、深堀りした調査を怠った証券会社の姿勢に厳しい判断を下しています。9年前に、勇気をもって内部告発をした一人の社員が、ようやく市場関係者の法的規律(責任問題)に風穴を開けました。

私自身は、監査役の行動規範や法的責任への考察のために、さらに何度も読み返して研究したいと思いますが(ブロガーのエチケットとして、審理係属中にどちらかに与するような法律意見はここで述べるつもりはございません)、おそらく来年は判例雑誌に全文が掲載され、金融法務、商事法務の著名な実務家、学者の方々が、この東京地裁判決の妥当性に関して論文を発表されるはずです。また損害の範囲や責任主体等、結論的には控訴審(東京高裁)で変わる可能性もありますが、間違いなく本判決は今後の市場関係者に語り継がれるものになると確信します。

ちなみに最新の金融・商事判例(1506号)には、監査役(監査委員)による不提訴判断の法的責任に関する重要判例も掲載されましたので、併せて年末年始に研究してみたいと思います。

12月 29, 2016 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年12月20日 (火)

速報-粉飾決算会社の主幹事証券会社に賠償命令!!

粉飾決算企業の上場関与証券会社に初の賠償命令(サンケイビズニュース)。

今週月曜日の日経法務面では、企業法務に携わる法律家が今年最も注目した案件はジュピターテレコム最高裁決定と三菱燃費偽装事件とのことでした。しかし遺産分割審判に関わる最高裁大法廷決定に続き、まだ最後にこんな隠し玉(クリスマスプレゼント?)が残っていたとは、いやいや驚きました(ただ本日「驚いた」のは、この判決だけでなく、パナホームさんの100%子会社化にも驚きましたが・・・、これは個人的事情からです。。。)。これは私的には今年一番注目の商事裁判例の可能性大ですね。かつてアイ・エックス・アイ粉飾決算事件の後始末に関与した者として、あの事件でも証券市場に関与した関係者の責任追及がなされましたが和解的解決で終わっておりました。ともかく東京三会のエフオーアイ被害者弁護団の皆さま、認容額が少ないとはいえ、6年がかりでこれほど衝撃的な証券被害判決(東京地裁)を得られたこと、おめでとうございます。

エフオーアイの上場主幹事証券会社であるみずほ証券さんに3100万円の損害賠償責任が認められたとのこと(金額よりも、責任が認められたことの衝撃が大きいですね)。みずほ証券さんとしては控訴する可能性が高いとは思いますが、ともかくどこかで判決全文が読めることを期待しております(みずほ証券以外の証券会社と東京証券取引所に対する請求は棄却されたようですが、監査法人に対する請求も棄却されたのでしょうか?)。執務中ではございますが、とりあえず速報版ということで。

(追記)

有償版の朝日新聞「法と経済のジャーナル」の過去記事によりますと、原告団は会計監査人(公認会計士2名)に対しても訴えを提起したとのことです。また、証券会社の損害賠償責任が認められたとのことですが、これが上場審査中の違法行為なのか、上場後粉飾が発覚した後の証券会社の対応に問題があったのかは判決文を読まないとわからないところです。いずれにしても、今後のIPOに及ぼす判決の影響力は、判決全文を読んでみないとわからないと思います。証券取引所や証券会社がどのような責任回避の理屈を主張していたのか・・・という点にも注目ですね。

(追記その2)

その後のNHKニュースによりますと、みずほ証券の責任が認められたのは、事前に情報提供があったにもかかわらず、その真偽をきちんと調査をせずに上場に関与した(結果として虚偽記載の書類を用いて株式募集を行った)点に金商法上の法人の賠償責任を認めたからのようですね。しかしエフオーアイの事件では、東証にも紙爆弾が投げられていたと記憶していますが、そちらは責任根拠にはならなかったのでしょうか?上場前の「紙爆弾(内部告発)」か・・・うーーーん、やっぱり内部告発は怖いですね。

(追記その3)

午後10時代に出てきた日経ニュースによると、みずほ証券には二度にわたって内部告発が届いていたそうです。上場前の審査に問題があったということのようですね。また上場後、1か月経過した時点で2chにすごい内部告発が出ていますね。ちなみにSESCが強制調査に入ったのは上場後7か月経過してからです。「こんな架空循環取引で実績上げてる詐欺会社に上場資格を付与するって、東証終わってる」との内容。ヤフー板でも当時から「粉くさい」といった投稿はかなり頻繁に掲載されていますね。

12月 20, 2016 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2016年9月21日 (水)

東芝が監査人を不提訴-会社法は会計監査人を「外部」の組織とみているのか?

証券取引等監視委員会は、「東芝のトップは粉飾を認識していた」とする調査報告書をまとめ、検察庁と立件に関する協議を正式に求めたそうで、まだまだ東芝さんの会計不正事件は今後の展開があるかもしれませんね。

ところで特設注意市場銘柄からの脱出を目指している東芝さんですが、9月17日、株主から要求が出されていた新日本有限責任監査法人さんへの訴訟提起について、諸事情検討した結果として「提訴しない」ことをリリースしています(東芝社のリリースはこちらです)。工事進行基準案件等において監査人の任務懈怠の可能性が認められるものの、責任追及はしないとの結論に至ったそうです。そして本日(9月20日)、この不提訴理由通知を受けて、東芝社の株主から会計監査人を提訴する株主代表訴訟が提起されました。大阪の「株主の権利弁護団」が支援されているそうですね(朝日新聞ニュースはこちらです)。

東芝さんが監査人を提訴しない姿勢として「外部に責任を求めるよりも、自らが襟を正す姿勢を堅持して、会社の内部管理体制強化や企業風土改善に全力を尽くす」ことを表明されています。この姿勢は私も共感するところでして、この結論に至る過程で関係者の多くから事情聴取をしたり、監査人に書面で質問をしていたうえで「勝訴の可能性を慎重に検討した」ことからみても、同社としては十分に審議を尽くされたものと推測いたします。たしか、最近、東芝さんが(別事件において)取締役の方々を提訴しない、とした判断が「任務懈怠ではないか」と争われた裁判の判決が出されたそうですが(東京地裁において請求棄却)、その影響が受けたものかもしれません。

ただ、会計監査人という組織が、はたして法律上「外部」といえるかどうかは私もよくわからないところです。このたびの株主による提訴請求からおわかりのとおり、会計監査人に対する株主代表訴訟が現行法上で認められていますし、会社法の条文でも会計監査人は「役員等」として、会社の機関のひとつとされています(会社法326条2項)。一方、東芝さんの上記リリースでは、平成20年4月18日大阪地裁判決を引用して、裁判では「クリーンハンズ原則」が適用されることから、たとえ監査人を訴えても当社が敗訴する可能性があることを示しています。あくまでも「外部」ということを前提とした考え方のようです。

ちなみに上記大阪地裁判決(ナナボシ事件判決)は、監査人が「監査見逃し責任」を問われて敗訴した事例でして、被告である監査法人トーマツさんも、たしかクリーンハンズ原則を抗弁として出しておられましたが、裁判所はこれを認めず、民法上の過失相殺によって損害額の調整を図りました。しかも原告(ナナボシ社再生債務者管財人)は会社法423条による損害賠償請求ではなく、監査契約上の債務不履行責任による損害賠償請求を根拠としていたものです。つまり機関としての会計監査人の責任を追及した事例ではありません。

たしかに会計参与のように、取締役らと共同で計算書類を作成する立場ではないものの、株主や会社債権者からみれば、会計監査人は開示書類の信頼性を会社と一緒に担保している立場にあります。また、最近のコーポレートガバナンス・コードにおいても、会計監査人がコードの名宛人とされています。したがって、株主から見れば会計監査人は会社の外部といえるのかどうかは、やや悩ましい問題のように思えます。つまり株主からみれば、会計監査人への責任追及は、東芝さんの「会計不正の原因解明のために必須であり、まさに自浄能力の発揮」の場面だと受け取られることにならないでしょうか。

たとえば会社が会計監査人に対して「役員等」としての責任追及を行った場合、会社が敗訴すると法430条によって損害賠償債務を他の取締役らと連帯して負うことになります。そうしますと、取締役らと会計監査人との間で、責任分担に関する求償関係が生じます。以前、責任追及された会計監査人の取締役や監査役に対する求償問題が話題になりましたが、これは逆もありうるわけです。そう考えますと、会社が双方を提訴すれば、それぞれから有意な証拠が出てくる可能性もありそうです。

いずれにしても、今後は不提訴理由通知(通知には理由を付することになっていますが、会社が判断材料としている資料は株主側に提示しているのでしょうか?)が出されましたので、監査人に対する株主代表訴訟の帰趨に注目が集まります。新日本監査法人さんは、IXI事件における大株主さんから提起された損害賠償請求訴訟において、一定程度の和解金を支払う対応をされましたが、今回はどのような対応をされるのでしょうか。今後の展開に注目しておきたいと思います。

9月 21, 2016 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年8月25日 (木)

出光興産の統合抗争は本当に「創業家の乱」なのか?

あいかわらず経済紙は「出光創業家の乱」を詳細に報じているようで、野次馬としてはとても興味深く騒動の進展を見守っておりますが、交渉自体が止まっているのでしょうか、新しい動きがみられないようです。そして、どの新聞、雑誌をみても「創業家VS現経営陣」の対立構図は変わっていないように思えます。

さて、今年5月に拙ブログエントリー「創業家の絡む経営支配権争いには二つの顔がある」を書きまして、流星さん他、常連の皆様にいろいろと有益なご示唆をいただきました。私の経験上も、「創業家対現経営陣」という表向きの抗争の裏で、実は社内の主流派対反主流派という内部抗争が背景にあり、そのまた背景にメインバンクや従業員組織があったりして会社が一枚岩ではないところをステイクホルダーに露呈してしまったケースがありました。ここまで膠着状態が続いてるところをみると、ひょっとして出光興産さんのケースでも、背景には統合賛成派と統合反対派の激しい対立があるのではないでしょうか?社内の情報は、反対派から大株主である創業家に筒抜けになっているのではないかと想像してしまいます。

そういえば8月16日の朝日新聞ニュースによりますと、出光興産さんは15日に臨時取締役会を開催して、社外取締役さんや監査役さんに対して、統合に向けた手続きに問題はなかった旨を説明した、と報じられていました。しかしこの報道が事実ならば、かなり違和感を覚えます。会社の統合に向けた手続きは、会社にとってまさに重大な経営判断のプロセスなので、タイムリーに社外取締役さんや監査役さんがそこに関与していなければおかしいはずです。

ときどき重要なM&Aの情報拡散を防止するために、ごく一部の経営陣のみで話を進め、社外取締役さんには意思決定の直前に説明をする、ということはありえます。しかし、自社の統合問題は支配権の移動に関わる重要な経営方針に関わるわけですから、いまになって社外取締役さん、監査役さんに事情説明がなされたということは、かなり不自然な形で隠密裡にコトが進められていたのかもしれません。かりに創業家側から社外取締役さんや監査役さんに「株主との対話」の一環として、「社外役員の意見が聞きたい」との要望が寄せられていたとしても、その疑念は拭いきれないところです。

マスコミ的には「お家騒動」「創業家の乱」といった構図を描くほうが読み手にもわかりやすく、またドラマチックなわけですが、会社としては社内抗争は企業価値を低下させることになるために、ぜひとも表沙汰にはしたくありません。こういった創業家の乱、創業家内のお家騒動といわれる事件は、もっと根が深く、取材する気が失せるほとにドラマとしてのおもしろみに欠けるストーリーというのが現実の騒動の姿なのではないかと。

 

8月 25, 2016 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年8月12日 (金)

D&O保険の免責条項の解釈と「もうひとつのセイクレスト事件高裁判決」

世間はお盆休み&オリンピックモードではございますが、私自身はいろいろと思い悩むところがございまして(?)、あまりアクセス数も上がらないことを承知のうえで取締役の法的責任に関連するマニアックな話題をひとつだけ書かせていただきます。判例時報の8月1日号(2296号)に、平成28年2月19日に大阪高裁で言い渡されたセイクレスト事件判決の全文が掲載されています。あの社外監査役さんが責任査定された件(監査役の善管注意義務違反が判断された件)ではなく、セイクレスト社に対する現物出資(第三者割当増資における金銭出資に代わる対価)の価額相当証明に関与した弁護士さんの損害賠償責任について、弁護士賠償責任保険の適用が認められた件でございます。

高く見積もっても5億円の土地(現物出資の対象物)について、当該弁護士さんが20億円程度なら価格として相当だと証明した行為について、原告の破産管財人との間で当該弁護士さんは価額不足填補責任額として3億5000万円を払う旨の和解をしています。当該和解は、おそらくこの弁護士賠償保険の適用を前提として、双方合意したものと思われます(もちろん馴れ合い・・・といったものではござません)。ところが保険金の支払いにあたり、保険会社側は「当該弁護士は『他人に損害を与えることを予見しながら行ったもの』であるから特約によって支払いは免責されると主張していました。

※・・・ちなみに、原審の大阪地裁判決も併せて読みましたが、この価額証明をされた弁護士さんは、私から見ればかなり一生懸命仕事をされていたようで、損害賠償責任を負うこと自体、かなりシンパシーを感じます。セイクレスト社は他の弁護士さんにも価額証明業務を依頼したのですが、報酬として数千万円を要求されたために断念。この弁護士さんは50万円で請け負ってしまったようです。。。ただ、50万円で請け負うためのリスク回避条件はかなり会社側に出していて、これが実行されていたことも事実です。

弁護士が職務上の損害賠償責任を負う場合に「他人に損害を与えることを予見しながら行った行為」については、弁護士賠償保険について保険会社は免責される特約が付されています。そしてセイクレスト事件では諸事情を認定のうえ、価額証明を担当した弁護士に他人の損害を予見できる蓋然性は高いとはいえなかったとして、地裁も高裁も保険会社側に和解額に見合う金額の支払いを命じました。いわゆる「認識ある過失」の場合には責任保険契約に基づく責任が免除されるということですが、価額証明にあたり、弁護士がどのような行動をとれば認識ある過失はなかったとされるのか、とても興味深い判決内容になっています。

ところでガバナンス改革のもと、急増している社外取締役さんにとってとても気がかりなのがD&O保険(会社役員賠償責任保険)の適用問題ですよね(もちろんすべての会社役員さんにとっても関心が高いと思いますが)。上場会社の社外取締役さんの中で、自社の保険にどのような特約が付いているのかきちんと理解しておられる方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。6月27日付け日経法務インサイドの特集記事にもありましたが、損害保険会社によって、D&O保険の内容がかなり変わりましたし、外資系と国内会社でも免責条項の内容は異なります。

もちろん、どこの保険会社さんの契約でも、会社や第三者に損害を与えることを予見しながら行った行為について、D&O保険の適用が免責されてしまう点では同じですが、先のセイクレスト事件高裁判決は、専門家責任保険ではない一般のD&O保険の条項解釈にも参考になるのではないかと思います。たとえば上場会社の取締役として求められる一般的な注意義務を基準として、その注意義務を尽くしたと言える行動とは具体的にどのようなものか、その行動をどこまで尽くしたのか・・・、また具体的に求められる行動は、当時の状況からみて「とろうと思えば容易にとりえた」行動だったのかどうか、といったあたりがきちんと第三者にも説明できることが大切です。

弁護士賠償保険についてはそれほど問題になりませんが、D&O保険は法律の素人である取締役さんを被保険者とする制度なので、敗訴リスクだけでなく提訴リスクにも関心が寄せられます(たとえば提訴された場合の弁護士費用等)。さらに、来年予定されている会社法改正に向けた研究会においても、D&O保険を会社法にどのように取り込むか、モラルハザードに配慮した免責条項との関係や事業報告による契約内容の開示等が議論されているところです。昨年は経産省内のガバナンス研究会でも指針が公表されました。したがって、D&O保険の契約内容については、企業法務的にももう少し話題になってもよいのではないかと感じています。

8月 12, 2016 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年6月24日 (金)

コーポレート・ガバナンス・システム研究会の活動に期待します

すでに新聞等では報じられていましたが、本日(6月23日)、経産省HPにて「CSG研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)開催のお知らせ」がリリースされています。我が国の制度や実態を踏まえた取締役会の機能向上を図る場合の考え方や実務について検討を行うことが目的とのこと。政府が後押しする「稼ぐ力を取り戻す」ためのガバナンス改革の取り組みの一つですね。

検討項目としては①取締役会の役割・機能(いわゆるモニタリングモデルの在り方とか実践例の検討でしょうか、権限委譲と監督強化は喫緊の課題ですね)、②CEOの選定・後継者計画、インセンティブ付与(サクセッションプランや特定譲渡制限付株式報酬、パフォーマンス・シェアの導入等の現物株支給ですね。開示府令の改正も予定されているようです。)、社外取締役の役割、社外取締役の人材の質的、量的な向上(攻めのガバナンスにおける社外取締役の役割や任意の委員会における役割、業務執行性の回避といった問題は悩ましいところかと)、そして④監査等委員会設置会社の活用といったことだそうです。

私自身も社外取締役として取締役会議長を務めたり、ガバナンス委員会委員や報酬委員会の委員を務めたりする中で、サクセッションプランの実施や(近時の税務訴訟の判例等を参考にしながら)中長期業績に連動する報酬体系の構築に携わり、人に言えない恥ずかしい失敗や挫折も経験しておりますので(笑)、いずれも関心のある項目ばかりです。経産省の研究会ですから(当然といえば当然ですが)企業ニーズに応えられる取締役会の機能向上といったことが検討されるものと思いますし、金融庁のフォローアップ会議でのご議論とともに、コーポレートガバナンス・コードの実効性向上のために有用な成果が出されることを大いに期待しています。

ただ、取引先やグループ企業との信頼関係、従業員と役員との協働関係、社長と社内取締役との(業務執行上の)上下関係、監査担当者と役職員との人脈を活用した情報収集等は(日本の企業では)ものすごく強いもの感じます。一時的にROEを高める施策を検討しても、売上高利益率を向上させるような結果につながるかどうかは、各企業の従来からの暗黙知に依存するところが大きいですね。コードの趣旨をまじめに社内に浸透させようとすればするほど、「この会社の売上高営業利益率を高めるインセンティブは(ガバナンス・コードを実施しているところとは)別のところで生まれているのでは?」と感じます。

経営者性悪説と経営者性善説と、どっちのガバナンスを検討するかは個々の企業の歴史をよく理解してから・・・というのが正解だと思います。アメとムチによるガバナンスを意識せず、アダム・スミスの「道徳感情論」に出てくるような「共感」や「誠実性」に依拠するガバナンスのほうがパフォーマンスを発揮できる会社が多いようにも思えます(アメとムチはむしろ「守りのガバナンス」のために活用するとか・・・)。半澤直樹のように、抜群の能力を発揮しても「組織としてのパワー重視」の前では出世できずに飛ばされてしまうのが日本企業の「強味」ですから(企業の危機管理の仕事をしていても、これは痛感いたします)。

以前も書きましたが、(法律や取引所ルールの枠外になりますが)業務執行を積極的に主導する社外取締役さんのいらっしゃる会社は魅力的ですね。目標設定に向けての道筋が明確に共有できており、引き算の経営(目標に向かって何が足りないのか、その足りないことを社外と社内でどう分担するか)についてのコミュニケーションもしっかりととれているように感じます。私が「社外取締役に対して説明責任を尽くすことがモニタリングモデルの基本ですよ」といったことを偉そうに申し上げたところ、「業務執行もやらないような社外の人にどうして我々のやっていることが説明して理解できるの?そんな社外役員に説明して社外の人がわかるようなビジネスモデルなら、とっくの昔に儲けるチャンスは失っているに決まってるじゃない(笑)」と、社長さんに一蹴されたこともありました。

そういえば王将フードサービス社の社外取締役(弁護士)さんも、「このままではほんとにこの会社の企業価値向上には役に立たない」と考えた末、弁護士活動をすべて中止して同社の常務取締役に就任されるそうです(定時株主総会の選任決議を条件として)。「国策ガバナンス」が世間で議論されている間に、「ほんとに儲かるための当社独自のガバナンス」を一生懸命探求しておられる方々も結構たくさんいらっしゃるのですね、悔しいですが。。。

6月 24, 2016 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年6月20日 (月)

注目される会社役員の提訴リスク(その2)-三菱自動車の一律賠償案

松本潤さんが刑事弁護士扮する「99.9 刑事専門弁護士」、最終回まですべて視ておりました。実務家として、もちろん「はぁ?」と感じるところはありますが、話の展開は素直におもしろく、刑事弁護に焦点を当てたドラマを丁寧に作っていただいたことに拍手を送ります。私は(もう30年以上前ですが)NHK連続ドラマ「事件」シリーズで、若山富三郎さん扮する刑事専門弁護士の事実解明に向けた姿に感銘を受けて司法試験受験を決意しました。今日の深山弁護士(松本潤さん)の最終弁論のシーンをみて、刑事弁護士になりたい、と思っていただける方が増えればいいなぁと、素直に思います(←全然ストーリーとは関係ありませんが、あの検察官をされていた俳優さんは女優の優香さんとの結婚を発表された方ですよね?)。ちなみにこれからの刑事弁護ドラマでは取調べの可視化や司法取引に関するシーンがどうしても必要になりそうですね。

さて、三菱自動車さんが、燃費データ偽装事件に関連して、顧客の方々に賠償金を支払うことを公表しました(三菱自動車さんの公表内容はこちらです)。。軽自動車を購入された方には一律10万円を、その他3つほどの車種を購入された方には一律3万円を支払うというものです。会長さんの会見では「わかりやすさと総合的に判断」したとのこと。いちおう、10万円の中身は①迷惑料、②車検時の税額、③燃費悪化に伴うガソリン差額分だそうで、これが合理的な説明と思われます。

しかし中古車としての販売価値の下落というものは損害に含まれないのでしょうか?また、10万円を受け取ることで示談が成立したとみるのか、それともこれは賠償金の「内金」として支払われるのでしょうか?「わかりやすさ」とはずいぶんほど遠いようにも思えます(そのあたりは個別の対応文書の中で説明されているのかもしれません)。また、ベネッセさんの個人情報漏えい事件などでも顧客への一律賠償の提案がありましたが、個人情報については被害が見えにくいのに対して、燃費偽装事件については顧客の被害が目に見えるものですから、他の顧客との一律賠償が逆に不公平感を生むことにはならないのか疑問です。

一昨日のHOYAさんの事件と同様、この三菱自動車さんの一律賠償案の提案も、敗訴リスクとは別に「提訴リスク」を念頭に置いた対策ではないかと思われます。いや、たとえ三菱自動車さんが真摯な気持ちからこのような一律賠償の処理を検討しているとしても、私としての最大の関心は、このような一律賠償案の提示によって、どれだけ裁判に進む顧客数を減らすことができるか、という点です(原告団に参加する顧客の数がどれだけ減るか・・・というのが正確なところかと)。

敗訴リスクといっても、三菱自動車さんにとってはそれほどたいしたことはないのかもしれません。しかし、具体的には正式な裁判を通じて被害損害額の増加ということは考えられるところです。また、被告の範囲が広がることも考えられます。たとえば全国の多くの顧客の方々が集まって大きな裁判が提訴されますと、そのような裁判に関するニュースが報じられる中で社員による有力な情報提供が原告代理人事務所に届く可能性もあります。そうしますと、開発部門による暴走と説明されている内容が、実は「組織ぐるみ」だったということになるかもしれません(もちろん、あくまでも推測です)。株主代表訴訟が提訴されるというきっかけにもなります。

そういったリスクを考えますと、たとえ国交省による正式な調査結果が出る前であったとしても、顧客による提訴リスクを低減させるために、すみやかに賠償金の金額を確定して顧客との信頼関係を維持しておきたいところです。ただ、こういった不正リスク管理の手法が、このような事件が発生してもなお、三菱自動車の顧客であり続けていただくための経営判断として妥当なものかどうかはわかりません。一律これだけ、といった対応が、事件の早期収束に資する対応であることは間違いないとしても、そのことで、三菱ファンをさらに失う結果になることが懸念されるところです。企業不祥事発生時に企業の損失を最小限度に抑える対策は、それが逆に多くの顧客の信頼を破壊する(顧客を失う)結果となり、企業の損失を最大化することにつながりかねません。リスク管理としての100点満点は、事業戦略としての100点満点とはトレードオフの関係に立つものと考えておく必要があります。

6月 20, 2016 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2016年6月18日 (土)

注目される会社役員の提訴リスク(その1)-HOYAの第三者委員会報告書

東京都知事の件、東電事故の件等、最近は第三者調査や第三者委員会調査がずいぶんと世間の話題になっております。ところで、先月、一部マスコミで報じられていたHOYAさんの企業不祥事の件(会社法の財源規制に違反して自己株式の取得を行ってしまった件)について、6月17日、同社HP(IRニュース欄)にて、取締役及び執行役にはこの違反に関して法的責任を負わない(故意または過失はない)と結論付ける第三者委員会報告書が提出されました(ちなみに同社は指名委員会等設置会社です)。

同報告書でも委員の方が指摘していますが(同報告書29頁)、「攻めのガバナンス」にかたよりすぎていると、守りのガバナンスがおろそかになってしまうということで、ガバナンス改革に熱心な会社ほど、この報告書は一読の価値があると思います。ミス発見時の経緯からわかるように、関係者が分配可能額を比較的容易に算定できるにもかかわらず(しかも社内にプロの弁護士、会計士を多数抱えていたにもかかわらず)、なぜこのようなミスを発生させてしまったのか、他社も「他山の石」として参考になるところが多いと思います。自己株式取得公表のタイミング等、実務を知るうえにも参考になります。

さて、いろいろな論点が「てんこもり」の同報告書ですが、私が注目しているのは、このような第三者委員会報告書が会社役員の提訴リスクに及ぼす効果の有無ですね。法的責任なし、との結論で、株主や債権者は責任追及訴訟を断念するのかどうか、という点です。企業不祥事発覚時における第三者委員会報告書は、ステイクホルダーへの説明責任を尽くすことが目的ですから、もちろん裁判所の判断を拘束するようなものではありません。ただ、公正独立な立場の法律専門家や会計専門家によって構成された第三者委員会が、慎重な判断のもとで上記結論に至ったということが、債権者や株主による役員の責任追及訴訟を「思いとどまらせる効果」があるのかどうか、ガバナンス改革の時代だからこそ、とても関心があります。

上記委員会報告書の結論の是非は別として、会社法462条1項の取締役・執行役の責任はいったいどのような制度趣旨で認められているのか(会社法423条による任務懈怠責任との対比、立証責任、会社に損害が発生していることは必要か等)、規範的要件たる「信頼の原則」が適用される前提事実とはどのようなものか(取締役と業務執行者とで区別すべきか、区別は不要なのか)、報告書でも検証されている会計処理に関する内部統制システムの適正なレベルとは一体どれほどなのか(そのレベル感が善管注意義務違反や法462条責任の根拠となる役員の法的責任判断とどのように結び付くのか)、いろいろと考えるところはありそうですね。でもそのようなことは「敗訴リスク」として、大手の法律事務所の優秀な弁護士の方々にお任せすればよいのではないかと。。。

HOYAさんはご存じのとおり、モニタリングモデルによる取締役会制度を運用している第一人者です(社外取締役5名、社内取締役1名)。執行と監督を分離する、ということが今、取締役会改革で議論されています。迅速な経営のために、どんどん重要な業務執行の決定が執行者に委任されます。そのような時代の中で、「監督」ということが十分機能しなければ、このような執行側の不祥事によって社外取締役の方々が監督責任追及に関するリーガルリスクを背負うことは間違いありません。かと言って、ホンネで申し上げれば、社外取締役や監査役は性善説に基づいて社長を全面的に信頼しなければ監督の前提となる情報すら入手できないはずです。だからこそ、(とりわけ上場会社は)社外取締役を含めた会社役員全般において「敗訴リスク」だけでなく「提訴リスク」にも配慮しなければならない時代となりました。

会社法の枠の中で議論されていた時代と、国の経済政策の中で議論されている今日とでは、コーポレートガバナンスに関する国民の認知度には雲泥の差があります。法律家がいくら「したり顔」でガバナンスを語っていても(←自戒をこめて)、また、最終的には役員の敗訴リスクが低いとしても(これもセイクレスト事件の最高裁上告不受理であやしくなってきましたが)、社外役員を辞めた後でも5年ほど裁判に巻き込まれるリスクは社外役員につきまといます(その間、会社は本当に保険料を払い続けてくれる保障はあるのでしょうかね?(^^; )なお、これは「敗訴リスク」にも関連しますが、たとえば上場会社としては、経営経験者の社外取締役さんを守るためにも、法律家の社外取締役をひとり選定しておけば「信頼の原則」の適用上都合がいいのになぁ・・・とも思うところです。(以下「その2」に続く)

6月 18, 2016 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年5月23日 (月)

創業家のからむ経営支配権争いには「ふたつの顔」がある

27800506_1定食屋さんを全国展開する大戸屋ホールディングスさん(JDQ)の定時株主総会において、創業家株主の方々が会社側人事案に反対する意向であることがマスコミ各紙で報じられています。最近は某大手流通グループさん、セコムさん、クックパッドさん、ロッテさん、黒田電気さん、王将フードサービスさん、そして大塚家具さん等、多くの企業のガバナンス問題で「創業家株主の活躍(暗躍?)」が話題になります。こういった時代を反映してか、左にご紹介した本のように、経営支配権争いに関与する法律家、企業実務家向けの良書も出版されています(ちなみに電子書籍版もあるそうです)。

経営支配権をめぐる法律実務(二木康晴、平井貴之著 新日本法規出版 3,500円税別 2016年4月)

本書のご著者である二木先生は富山和彦さんのところ(株式会社経営共創基盤)の社内弁護士の方ですね。平井先生も東京の企業法務に強い事務所の方だそうです。これまで真正面から「支配権争い」の攻撃防御について指南する本は出版されなかったのではないかと思います。経営権争いの準備方法、具体的な手段、参考となる裁判例が豊富に掲載されています。攻撃側、防御側いずれにも参考になります。私自身も現在進行形で3つほど(実際に裁判になっているのは1件ですが)、経営支配権争いの代理人を務めていますので、今後、活用させていただきます。

ただ、実際の経営支配権争いとなりますと、中小会社の「親族間の争い」に近いものと、委任状争奪戦等を前提とする上場会社の紛争とでは争い方も変わってきます(そもそも和解による終結の方策も全く異なります)。相手が嫌がることはなんでもやる!・・・という感じで、監督官庁や証券取引所にいろいろな投げ込みをやりますし、メインバンクや資本業務提携先企業を揺さぶるような情報提供もやります。コンサルタント・アドバイザーの方々のお知恵も拝借します。ときには著名な商法学者の方々の意見書も頂戴します。法に触れない、もしくは弁護士倫理に反しない範囲で、いろんな手を考えて事件を組み立てるので、まさに総合格闘技のような世界ですね(当ブログも、一方代理人の方から「あまり手のうちがわかるような内容のブログは書かないでね」と警告?を受けたことが何回かあります)。もちろん事件処理は秘密裏に行うのが鉄則です(ときどき表に出てしまうケースもありますが)。

ところで、先に掲げたような最近の事件は、オモテの世界に登場してしまったものですが、いったんオモテの世界に出てしまいますと「創業家VS現経営陣」「創業家内のお家騒動」といった構図でおもしろおかしくマスコミで話題になってしまう傾向があります。もちろん、本当に大株主としての支配力を駆使して現経営陣と対立するものもありますが、実はもうひとつ、「創業家の威信を隠れ蓑にした社長派と反社長派、または社長派と会長派との派閥争い」が実態、というケースもあります。いや、私が経験上では後者のほうが多いのではないか、と。

昔、普通の弁護士(?)をしていた頃、よく相続争いの事件を担当していました。亡くなった母親と同居していた長男夫婦の悪口を、生前、母親は、ときどき見舞いに来てくれた次男夫婦にしていました。次男夫婦は世話をする責任がないから「そんなことひどいことをされたのか?お母さん、かわいそうに」と母親に同情します。母親はかわいい次男夫婦に多くの遺産を与えて、(ケンカをしながらも、最後まで母親の面倒をみてくれた)長男夫婦には遺産を少ししか渡さない・・・ということがありました。経営者をリタイヤした創業家についても、経営権争いを繰り広げる反主流派が「今の社長はこんなひどいことを社員に強いています。このままだと会社はもちません」として創業家をなんとか自派の味方にしたいと画策します。創業家の中で主流派支持、反主流派支持と意見が分かれるケースもあります。冒頭の大戸屋さんの一件でも、監査役さんや社外取締役さんの多くが一度に退任されますので、色々な憶測が飛び交うことになるのでしょうね

某大手流通グループさんの事例で、社外取締役の方々に対して(社内取締役の方から)「S氏の退任後の処遇にまで社外取締役が口をはさむとは何事か!」と発言があったことが報じられていますが(産経ビズニュース)、やはり過去に大きな成功体験を持つカリスマ経営者の方の影響力というものは非常に大きいと思います。創業家がたとえ数%の株しか保有していないとしても、その方が経営に口を出すということは、おそらく現在議論されているガバナンス改革では制御できない影響力があります。では、そのような創業家大株主が存在する場合のガバナンスの最適な運用方法はどのようなものか?これはまた、持論を別途(論稿で)述べたいと思います。

5月 23, 2016 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2016年5月16日 (月)

セコム会長・社長解職劇-指名報酬委員会の透明性について

好業績が続いているにもかかわらず、セコム社の取締役会は会長さん、社長さんの解職を決議して、その結果、おふたりは任意で取締役たる地位からも辞任されたそうです。役員会では、取締役総数11名中、過半数である6名の賛成(解職動議に関して)が得られたということなので、先日の大手流通グループさんの件と同様、かなり微妙な判断だったように思います。

一体どのような経緯で社長解任劇に至ったのか、周囲は真相を知りたいところですが、そこはさすがセコムさん、情報の流出を避けるため、会長・社長さん方のために特別ポストをご用意され、関係者間でかん口令を敷いておられるようで、こういった社長解任劇における紛争解決の模範的な対応がとられたのではないでしょうか(これはあくまでも私個人の推測の域を出ませんが)。いずれにせよ、こういった経営トップの解任に至る経緯には、到底外からはわからない内部事情がありますので、そのあたりは内部告発でもないかぎりは真相は闇の中、外からはうかがい知ることは困難かと。

ところで、日経新聞ニュースや新社長さんへのインタビュー記事で気になりましたのが「指名報酬委員会の構成員が誰だったのか公表されていない」という点です。セコムさんは監査役会設置会社ですが、数か月前に指名報酬委員会を設置されたそうで、この委員会が実質的には会長・社長交代の是非について審議をされていたそうです。ところが一体どなたが指名報酬委員会の委員だったのか明らかにされていません。新社長選任経緯がこれでは不透明ではないか、創業者の世襲制を正当化するための道筋だと受け取られてもしかたがなのではないか、といったご意見が出ても不思議ではないと思います。

たしかに次期経営トップをどのようなプロセスで選任するのか、いわゆるサクセッションプランについては、採用の有無、選任方法について外部から見える形にすべきだというのがガバナンス・コードの立場かと。とくに社外取締役がどのような立場で指名報酬委員会に関与しているのか、という点は株主の皆様方にも関心の高いところです。社外取締役さんについては、たとえ法律上の独立性要件を満たしているとしても、経営陣と親しい紹介者なしで選任されるようなことはほとんどありませんので、どの社外取締役さんが委員なのか(経営陣の誰と親しいのか)、ということも株主からは知りたいところです。そう考えますと、選任過程が不透明ではないか、ガバナンスが機能していないのではないか、という批判も出てくることでしょう。

ただ、先日の大手流通グループさんの会長退任騒動においては、(どなたが流したのかは存じ上げませんが)、まだ指名報酬委員会の結論が出る前から、誰が人事案に賛成、誰が反対といった情報が連日マスコミで報じられていたことは記憶に新しいところです。誰が指名報酬委員会の構成員か、外からわかりますと、委員に対する取材攻勢が過激になったり、また経営権争いの道具として委員側からマスコミへのリークなどが活用されることが想定されるのではないでしょうか。

あの大手流通グループさんのケースでも、事業会社重要人事案が(親会社取締役会において)賛成票、反対票、棄権票に分かれ、無記名投票による議決権行使方法まで採用されました。おそらくリークされた指名報酬委員会の審議の状況は、その後の取締役会の議決権行使の結果にも多大な影響を及ぼすことが考えられます。そうだとすると、社内の紛糾状況を極力事前にリークされることを防ぎ、「自由闊達な取締役会での議論を実現するために、あえて指名報酬委員の構成メンバーを社外には公表しない」というセコムさんの判断も、あながちガバナンス改革の方向性からは逸脱しているとはいえない、という理屈も成り立つように思えます。

指名報酬委員会というものを、仕組みの面から考えれば経営判断の透明性向上に有用だと考えられますが、その運用をひとつ間違うと逆に透明性を減殺させてしまう道具にもなりうる、ということです。いずれにしても、指名委員会等設置会社の取締役でもないかぎり、善管注意義務が問われるような場面ではなく、株主を含めた社内外のステークホルダーに対する説明責任が問われる場面なので、一連の会長・社長解任劇の内実が、公明正大に行われたことが論理的に説明できるよう準備を整えておく必要がありそうですね。

5月 16, 2016 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年4月19日 (火)

熊本・大分地震につきまして心よりお見舞い申し上げます。

「平成28年熊本・大分地震」により、被害を受けられた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。 皆さまの安全と1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

東日本の時と同様、ご迷惑にならない時期になりましたら、自分なりの支援活動をさせていただきたいと考えております。ともかく、地震活動が活発化しているとのことで、早期に沈静化することを祈念いたします。

4月 19, 2016 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年4月17日 (日)

「自浄作用」としての会社による役員損害賠償訴訟の提起

マスコミではほとんど取り上げられていませんが、先日(2016年3月25日)、名古屋地裁岡崎支部において、フタバ産業さんの元社長さん、元専務さんに対する損害賠償請求訴訟の判決が出ています(WSJのニュースはこちらです)。フタバ産業さんの不正会計事件は、当ブログでも過去に何度かご紹介していましたが、一連の事件に対して、会社が不正見逃し責任を追及した事例かと思われます(判決文を読んでおりませんので、あくまでも記事からの推測ですが、会社資金の不正支出を主導したとして刑事処分を受けた役員さん方とは異なるようです)。

元社長さんには14億7000万円、元専務さんには2億1000万円の返還命令、ということで非常に高額ですが、過去の事件経過からみて、この裁判を最後まで進めたのはフタバ産業さんの監査役の方々だった可能性があります。おそらく会社としての自浄作用を発揮されたうえでの裁判だったものと推測いたします。近時、FCPA問題等、フタバ産業さんではいろいろとコンプライアンス上の問題が重なりましたので、社会的な信用を維持するためにも、会社自身が(和解もせず)経営トップの責任追及を果たした意義は大きいものと考えます。

このフタバ産業さんの件だけでなく、最近は会社自身が(つまり新経営陣や監査役が会社を代表して)経営者の責任を追及して勝訴判決を得るケースも出てきています。特筆すべきは会社が訴える場合における会社の「損害」に関する捉え方(何をもって会社の損害とみるか)です。たとえば先日、会社側が一部勝訴したクラウドゲート社事件判決では、会計不正事件が発覚した際の社内・社外調査費用、追加監査報酬、課徴金、有価証券報告書訂正費用等が損害として認定された模様です(「模様です」と書いたのは、これも会社側リリースからの推測であり、判決文まで確認したわけではないことからでして、あしからず)。また、こちらは株主代表訴訟ですが、シャルレのMBO頓挫事件の大阪高裁判決(2015年10月29日)においても、元経営者らのMBO遂行時における公正性を疑わせる手続き的瑕疵を問題にして、たとえ株主に対する損害が明確でないとしても、不正の疑義を解明するために設置された第三者委員会の費用等が会社の損害であると認定をしていました。

監査役さんによる提訴理由の判断権は、株主代表訴訟制度の見直しとの関係で、次の会社法改正における検討項目にもなっているようです。ただ、会社側勝訴の裁判例が重なり、何をもって会社の損害とみるか、という点が明確になってきますと、そもそも(経営陣に遠慮をして)監査役さんが提訴をしない理由の合理性が厳しく問われる事態となり、逆に監査役さんの善管注意義務違反が追及される可能性が出てきます。コンプライアンス経営の一環としての「自浄作用」の発揮という点は、それ自体は法的責任の枠外の議論ですが、その発揮された事例が裁判例として積み重なることにより、とりわけ監査役さんの善管注意義務の根拠(とくに不作為の違法性を高める根拠)になりつつあるように感じます。

4月 17, 2016 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年4月11日 (月)

無記名投票による取締役会の決議と取締役の監視義務

某大手流通グループの会長さんが同HDの職を辞するそうです(すいません、立場上、ガバナンス論については語れませんので、かなりマニアックなところだけ話題として取り上げます)。執行部の提出した「グループの中核事業会社の社長人事案」をHDの取締役会で審議したところ、15名の取締役は賛成7、反対6、棄権(白票)2に分かれ、結局のところ賛成が過半数に満たないために決議は成立しなかったと報じられています。

私は会長さんの記者会見を日経ストリームで視聴しておりましたが、この取締役会での投票結果にほとんどの記者の方がキョトンとされ、ざわつく中でみなさんが首をかしげておられました。記者の方々は

「執行部が出した案への賛成が多いのだから人事案は可決されたのでは?」

と思われたようです。一般的な感覚からすれば、記者さん方の感覚のほうが常識的かもしれません。「白票」ということは棄権したのだから、13名中7名の賛成は多数派です。

ただ、会社法369条1項は、

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う

と定めています。 つまり出席している取締役の過半数の賛成が成立要件なので、棄権(白票)の方が2名いらっしゃるとしても出席者は15名です。その過半数の賛成が得られなかったということになり(賛成の方が反対の方より多くても)決議は成立しなかったことになります。

取締役会の議決を無記名投票で行う・・・というのは異例の事態ですが、出席取締役の方々がカリスマ会長さんの威光の前でも反対の意思を表明するためには必要だったのかもしれませんね(ただ実際には誰が白票を投じるかは投票前からわかっていたのではないか、とも思いますが)。取締役会における運営方法は基本的に定款自治に属するものであり、無記名投票も、とくに不公正な手続きといった(司法が介入するような)問題ではないと思います。ただ、棄権(白票)の存在が決議の成立に大きな影響を与えるような場合、なにかモヤモヤするものが残るのも事実ですね。

前にも当ブログで書きましたが、取締役会議長からみると、取締役会の議案について棄権というのをどのように取り扱うかはひとつの問題です。私が取締役会議長であれば、極力「棄権」という事実行為は回避したいと考えます。たとえば棄権(議決権行使の放棄という事実行為)は取締役としての善管注意義務違反のおそれがあるため(取締役の監視義務違反-もちろん会社法には「棄権」という概念はありません)、棄権したいと申し出た取締役について「あなたは賛成でも、反対でもどちらか多いほうの意見に与するという趣旨か、決議が成立した場合にはその決議に賛成という趣旨か、それとも賛成も反対も意思表示しない、つまりは法的には反対という理解でよいか」と釈明を求めることになります。また、今回の大手流通グループの件のように決議不成立なら良いのですが、決議が成立した場合には、このように釈明を求めておかないと、後日、意に反して「決議に賛成したものと推定され」る可能性もあります(会社法396条5項参照)。それでも、どうしても決議に加わりたくない、という取締役さんがいらっしゃれば「●●取締役は・・・といった理由により議決に加わらなかった」と取り扱うことになります。

そのように考えると、この無記名投票における「白票」は、タテマエ上は誰が白票を投じたのかわからないシステムなので、議長が白票を投じた取締役に釈明を求めることは困難です。ひょっとしたら「私は賛成意見が多いのであればそちらに従う、という意思で白票を投じた」といった趣旨で議決権行使をされたのかもしれません(そうであれば人事案は可決された可能性もありますね)。

ところで今回の件について一連の報道を眺めてみますと、ガバナンス改革を推進したい側からは「社外取締役制度が機能した事例」として取り上げられ、あまり改革に積極的でない側からは「やはり社外取締役制度は機能しなかった事例」として取り上げられています。私見は控えますが、人事案審議の1週間ほど前から、(任意機関としての)指名・報酬委員会を取り巻く情勢が逐一外部に漏れていていたことはよても気になりました。こういった場面において社内の事情は(どちらかのリークによって?)事前に漏れる・・・とうことは、今後の同種案件の教訓になりそうです。

4月 11, 2016 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2016年3月17日 (木)

エナリス社の議決権拘束契約に関する取締役の説明責任

特設注意市場銘柄からの解除を目指して内部管理体制を一生懸命整備しておられるエナリスさんが、少し珍しいリリースを出しています(前代表取締役社長等の議決権行使(委任)に関するお知らせ-3月9日付)。

第三者委員会の提言を受けて、会社側は大株主である元経営者の株式持分を低減させる方策を検討していたところ、最終的には「元経営者の持分低減が実現されない間は大株主である元経営者の議決権行使については会社側に一任をする」といった合意が、昨年8月に会社と元経営者との間で交わされました。しかしながら年末までにこの持分低減が実現しなかったので、3月の定時株主総会を前にして、元経営者側から(会社側が指定する)第三者に議決権行使に関する委任状が届いた(元経営者側の株式持分比率は49.1%)とのこと。

ところで、このエナリスさんが出したリリースの意味は、来るべき3月の定時株主総会に出席する少数株主(一般株主)の方々にも普通に理解されるものなのでしょうか?ちなみに3月10日付けの同社定時株主総会招集通知には、どこにもこの議決権拘束契約については触れられていないようです。株主間ではなく、会社と特定株主との間において継続的に議決権行使を拘束する合意というものは一般的に効力を有するものなのか?これって現経営陣や(逆に)大株主のやりたい放題になってしまうのではないか?といった疑問は出てこないのでしょうか。

ちなみに会社法310条1項、2項を紹介いたしますと、

(議決権の代理行使)第310条
1 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。
   前項の代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない。
3 (以下略)

と規定されています。

形式的には会社が指定する第三者に元経営者らは(合意に基づき)このたびの会社側上程議案(社外取締役1名増員の件)について、委任状を提出していますので「株主総会ごとに」といったルールに合致しているように思えます。しかし、大株主が委任状を提出した根拠としては、「大株主側の事情次第では、この先ずっと(撤回できない状況のままで)会社側の指定する第三者に委任状を出し続ける法的な義務がある」ということに依拠しているので、そもそも代理権の授与は株主総会ごとにしたことにならず会社法違反の状態ではないか、といった素朴な疑問も生じます。

下級審ですが会社法310条2項の制度趣旨を重視した判例もあるようなので、このあたりを参考にして「経営者による支配権濫用のおそれはなく、310条2項違反にはあたらない」ということを少数株主の方々に説明をする必要があるのではないか、とも思うのですが、いかがなものでしょうか。エナリスさんの現状に鑑みるとコンプライアンス上の問題点は払しょくしておく必要があるように感じました。

3月 17, 2016 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年2月22日 (月)

シャープ再建支援策の選択と社外取締役の「特別利害関係者」該当性

Sharp0912社内の権力闘争を扱ったノンフィクションは大好きなので、さっそく週末に「シャープ崩壊~名門企業を壊したのは誰か」(日本経済新聞社編 1,600円税別)を読みました。

関西在住の50代のオッサンとして、あのシャープさんがこのような状況になってしまったのはいまでも信じられません。しかしコーポレートガバナンス改革が謳われる昨今、何が名門企業の価値を毀損していったのか、社内クーデターの勃発など、ガバナンスの側から眺めていくとナットクするところがあり、他社への警鐘(「形だけのガバナンス」への痛烈なる警鐘)にもなる一冊です。クーデターを起こす側も、また防御する側も、昨今の「ガバナンスコード」の考え方は自陣の行動を展開するにあたり、有利に援用できることがわかります(つまり「体制を変える」ということは理屈よりもパワーであり、勝てば官軍、勝利したら理屈は後からなんとでも言える、ということがわかってきます)。

そのパワーゲームの象徴が、なんといっても台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の存在です。ここ5年、シャープの権力闘争の中枢に存在した当該企業に、シャープのガバナンスが翻弄されてきたことがわかります。「決めきれない経営者」「過去の成功体験がもたらす誇り→奢りによる経営判断の遅延」「社内政治の末の宿敵サムスンへの接近」等、ホンハイの戦略に「正義」が宿る要因には事欠きません。本書はこの2016年2月初旬までの産業革新機構の動きとホンハイの動きまで追っていますので、大詰めを迎えたシャープの再建支援策協議の課題についても理解が進みます。

ところで先週末あたりからマスコミで話題になっているのがシャープの社外取締役2名の「議決権はずし」です。2015年6月に実施した債務の株式化による優先株の消却をめぐる産業革新機構とホンハイとの再建支援計画案の違いから、優先株を保有するファンド出身の2名(シャープの社外取締役)は再建支援策を決定する取締役会の議決には加わることはできないのではないか、との意見が出されているとのこと。当該2名の取締役は会社法369条2項における「特別利害関係者」たる取締役に該当するかどうか、といったことが問題になっています。おそらくこの2名の社外取締役が決議に加わることができるか・できないかによって、再建支援策の決定内容が左右されるからこそ問題になっていると推測されます。

シャープの社外役員には、私も存じ上げている著名な大先生(弁護士)がいらっしゃるので、たとえ地方弁護士による場末のブログ(このフレーズはひさしぶり・・・(^^; )の発言でも「何を偉そうに言うとんねん!」と叱られるかもしれず、以下の個人的意見は小声での「つぶやき」だけにしておきたいと思います(笑)。

おそらく弁護士による法律意見書にも記載されていると思うのですが、2名の社外取締役の方々の行動として問題となるのは再建支援策決定に向けての審議に加わることと、決議に加わることの適法性です。また、そのような「特別利害関係性」に疑義ある取締役が加わった取締役会の決議は無効になるのかならなのか、という点も考慮に入れて議論をする必要がありそうです。「提案内容」だけで考えるのであれば、当該2名の社外取締役さんは(おふたりともファンドの代表者たる地位にあるため)会社法369条2項の「特別利害関係人」に該当するように思います。

しかし、先の「シャープ崩壊」を読みますと、ホンハイのこれまでの行動から察するに、議論が必要なのは提案内容だけでなく、信頼に足るパートナーかどうか、将来的なシナジー効果はどうか、取引銀行との関係はどうなるか、といったことも含みます。そうなると、少なくとも審議についてはファンドご出身の2名の取締役の方々も参加すべきではないでしょうか(最近の会社法369条の解釈を前提とすると、「特別利害関係人」にあたる取締役は審議にも参加できない、といった説が有力なので、すでにこの段階で問題が生じていることになります)。

そして、当該2名の社外取締役の方々は、取締役会の再建支援策決定に関する議案については「特別利害関係者」には該当しないが(つまり審議には適法に参加できるが)、最終的な決議については実質的な利益相反状態が生じているものとして善管注意義務・忠実義務の一環として参加を控えるべきである、という解釈の余地が残ります。私的にはこの解釈が一番ナットク感が高いように思います。つまり、たとえ会社法369条2項の解釈問題をクリアできたとしても、不公正な手続きによって(忠実義務に反するような取締役による議決権行使があったとして)後日、取締役会の決議が無効になる、といったリーガルリスク(提訴可能性、敗訴可能性)を回避すべきではないかと。

2名の社外取締役の方々が「特別利害関係者」ではないとする点ではホンハイ側に有利な解釈ですが、最終的に「取締役の忠実義務」を持ち出して決議への参加を認めない点では産業革新機構側に有利な解釈です(取締役会議長はたいへんですね)。以上はあくまでも野次馬の私見にすぎません。結局最終判断はシャープ内部における権力関係(パワー)に依存するものであり、いまこそ内部権力が一枚岩になることがシャープ再建にとって最も大切だと(上記本を読んで)感じるところです。特別利害関係人であろうがなかろうが、忠実義務違反による不公正決議の可能性があろうがなかろうが、審議に参加する全員が一枚岩になることさえできれば、そもそもリーガルリスクはほぼ解消するものである(後で蒸し返すことは困難)、ということを忘れてはなりません。会社法が司法の場における権力闘争の武器として活用されるのではなく、ギリギリのところで組織が一枚岩になれるためのツールとして活用されることが最も大切だと考えます。・・・・・すいぶんと長い「つぶやき」になってしまいました。。。

2月 22, 2016 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年12月15日 (火)

非業務執行役員の姿が見えないセーラー万年筆の社長解任劇

筆記具メーカーでおなじみのセーラー万年筆さん(東証2部)で社長解任劇(正確には「社長の解任および代表取締役の解職」です)が発生したそうで、毎日新聞ニュースによると、すでに解任された社長さんが東京地裁に地位確認を求める仮処分命令の申立てを行ったそうです。毎年、上場会社では社長解任劇は起きているのですが、「一身上の都合で辞任」といったリリースがほとんどのケースなので、紛争が表面化するのはひさしぶりです(日々東証の適時開示をていねいに読むと、「むむ!なんぞある!?」と疑問に感じる代取の異動開示が散見されます)。

12月14日にセーラー万年筆さんのHPで公表された「社長を解任した経過説明」を読むと、文章の前半と後半で「説明したいこと」の趣旨が異なります。これはリリース前日に前社長さんが「こんなのは不当な決議だ!法的請求も辞さない」と取材で述べたことへの対応だと思われます。

文章の前半では、「代表取締役を解職したことには正当な理由があります」という点が、会社側として説明したい内容になります。とくに理由がなくても「社長としての識見、人格、素養が欠ける」ということを理由に決議してしまえば解任(解職)の効力には影響はありません。しかし正当な理由がないと、会社は解任した相手方から民法上の委任契約の一方的解除、もしくは会社法339条2項の類推適用を根拠に(退任までに得られる報酬相当額の)損害賠償を要求されてしまいます。したがって「こんな経緯があってやむをえず我々取締役は社長を解任しました」と解任理由を述べることで解任された側からの賠償請求の根拠を否定しています。「俺が社長になってから業績は上がった」と反論する社長さんの気持ちもわからないではないのですが、それは解任の有効性を否定する根拠にはなりえません。

いっぽう重要なのは後半部分です。こちらは解任手続きをとった取締役会が定例の取締役会であったこと(→おそらく3日前までには招集手続きはなされていたので、正当な理由もなく開始30分前に社長が延期を宣言しても、それは正当な延期手続きではなく「病気等によって社長が出席できない場合」に該当するとの主張)、定足数を満たしていること(→社長は自身の解任議案については「特別利害関係人」に該当するので、とくに定足数が問題となることはないという主張)、法律専門家の意見(→適法であるとの意見をすでにもらっているという主張)などにより、解任手続きの有効性こそ説明したい内容になります。前社長さんは、仮の地位を定める仮処分の申し立てをされたそうですから、こちらの説明内容のほうが会社側にとっては重要かと思われます。

私のような野次馬弁護士が「どっちの言い分が正しい」などと意見を述べることは、背景事実もわかっていないのでやめておきます。ただ、ひとつ残念なのは、こういった有事にこそ立ち上がるべき非業務執行役員(監査役及び社外取締役)の活動が見えてこないことです。私はこういった事態にこそ監査役さんの意見表明があってもいいのではないかと思います。たとえば会社側リリースの中に、当日の定例取締役会に出席した3名の監査役全てが「この解任手続きには問題ない」と意見を表明しています、社外取締役が中立な立場で議長を務めました、といったリリースこそ、有事に求められる非業務執行役員としての正しい姿を反映したものではないでしょうか。

日経新聞ニュースでは、当日の定例取締役会に社外取締役さんは欠席されたと報じられています。ひょっとすると前社長さんの親しい方だったのでしょうか・・・。本当にご病気であったということならばやむをえませんが、こういったときこそ社外取締役さんが中立公正な立場でふるまわなければ、またまた世間から「何の役にも立たない社外取締役制度」と言われかねません。毅然とした社外役員の姿勢こそ、企業における有事対応として求められるところです。

しかしこの解任手続きを受けた方の「情熱社長」の記事を読むと、自身が入れ替えた取締役の方々から解任された、ということのようです。「成功の反対は失敗ではなく、なにもしないことだ」と述べておられますが、「なにもしないこと」を解任理由に掲げられてしまったのですね。うーーーん。。。

12月 15, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年12月14日 (月)

日産・ルノー連合vs仏政府-相互保有株式の議決権行使をめぐる攻防

平成26年改正会社法が国会で成立した際、衆参両議院において概ね以下のような附帯決議がなされています(会社法附則25条参考)。

政府は、この法律の施行後二年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。

社外取締役の義務化を含め、コーポレートガバナンスに関わる会社法関連法規について「所要の措置を講ずる」べきかどうか、企業統治に係る制度の在り方を検討する会議がいよいよ来年早々から開始されるようですね。最近の会社法改正では、法制審議会における審議開始前の「研究会」での意見がとても重要な役割を担っているので、研究会の検討課題については注目しておきたいところです。(ということで?)本日は会社法関連の話題を一つ。

日産自動車がフランス政府との間で経営不介入の合意を得たということが大きく報じられています。ルノーと日産の経営統合を強く望んていたフランス政府を相手に、日産自動車さんが経営の独立性をギリギリのところで守ったということは、日本人としては素直に喜ばしいことです。ルノー側の投資家の方々は失望したのかもしれませんが、日産の従業員の方々、海外の機関投資家の方々はホッとされたのではないでしょうか。

相互保有株式に関する議決権制限規定(会社法308条)が日産の最後の切り札として威力を発揮したことは間違いないと思います。日産はルノー株式をすでに15%保有していますので、日本の会社法によると更に10%程度買い増せば(もちろん市場を混乱させるリスクはありますが)ルノーが日産に対して保有する43%の株式の議決権は行使できなくなります。会社法施行規則67条によって、たとえフランスの法律で既に保有している株式の議決権が制限されていても、相互保有の算定株式数に加算できることになっています。

この会社法308条は会社の自己保有株式の議決権制限と同様、現経営陣が株主総会における議決権行使に影響を及ぼすことにより(相手方とのなれ合いによる議決権行使のおそれがあります)、他の株主による公正な議決権行使が妨げられることを防止するために設けられた規定です。相手方(株主)に対して一定の支配力を有している場合には、その相手方の保有株式の議決権行使を禁じるというもの。そうであれば、相手方が意に沿わないような議決権行使が予想される場合(つまり現経営陣の影響力が相手方に及ばない場合)にも、この会社法308条がそのまま適用されるのかどうか、やや疑問を感じるところもあります。しかし、308条、施行規則67条1項には何らの例外規定もないので、おそらく条文のとおり議決権行使が禁止されることになるのでしょうね。

さて、こういった経営不介入の合意によって日産は「経営の独立性を守る」という実益を得たことになりますが、一方のフランス政府は合意によってどのような実益を得たのでしょうか。新聞報道からはよくわかりません。ルノーを逆転するほどに向上した日産の資産価値を一方的に取り込もうとしただけ、というものでもないように思います。

もしかすると日産が本気であと10%の株式を取得することによってルノーの43%の日産株式の議決権行使が制限されることを阻止しただけでなく、日産が本気で新株の発行(募集株式の発行等)に動くことも警戒したのではないでしょうか。増資によってルノーの日産に対する保有株式割合が40%以下になりますと、日産のルノーに対する保有株式の議決権が復活します。つまり日産の経営に(40%の議決権によって)介入することができず、逆にルノーの経営に対して日産が(大株主として)介入できることになります。そうなると、今後日産の株主によってフランス政府が懸念する国内の労働政策などに影響を及ぼすことも可能となります。

10年前、米国のペプシコ社が(フランスの)ダノン社の買収に乗り出しているとの噂が流れた際、フランス政府はダノンが買収されると、フランスの農業政策がアメリカ企業によって「筒抜けになってしまう」として、徹底した拒絶反応を示しました。今回の日産の場合にも、日産が本気でルノーとの関係を変動させた場合に、逆にフランスの労働政策に影響を及ぼされるという点について拒絶反応を示したのではないかと。フランスとしては、自国の政策への不当な干渉を日産の株主から守ったというのが「実益」ということになるのかもしれません(ルノーの戦略的決定についてのみフランスは保有株式の2倍の議決権行使を行うことを日産が容認した、とあるのも、そのような趣旨かと。あくまでも私の推測なので、間違っていましたら後で訂正いたします・・・)。ともかく、このようなグローバルな企業紛争において日本の会社法の規定が「切り札」になったということで、私的にはたいへん関心の高い法務ネタになりました。

12月 14, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年12月 8日 (火)

東芝会計不正事件-残念だった監査委員会の会見

本日(12月7日)、東証ホールにおいて開催された「IPO経営者フォーラム」で講演をさせていただきました。2015年度、2016年度中に上場を目指しておられる企業経営者の方々向けに開催されるものでして、私とサイバーエージェントさんの藤田社長が「IPOの光と影」について語るというものです。たくさんのCEO、CFOの方々が(師走のお忙しい時期にもかかわらず)お見えになり、たいへん盛況でした。なお、東証さんは同じ内容のフォーラムを大阪(北浜)でも開催されるそうですが、上場を目前に控えた会社さんのためのフォーラムなので、一般の方の聴講は予定されていないようです。

当然私が「影」の部分をお話するわけですが、「光」といいましても、上場会社の社長15年選手の藤田さんのお話をお聴きしていると、サイバー社は決してこれまで順風満帆だったわけではなかったのですね。業績が好調のときには何をやっていても「やっぱり社長はスゴイ!」と持ち上げられ、業績が悪い時には同じことをやっていても「だから藤田社長はダメなんだ」とボコボコに批判をされてきたそうです。会社のステージが上がると、上がったステージにはそれなりの(海千山千の?)方たちが登場して、藤田さんのところにいろんな話が持ち込まれる。こういったところで浮かれることもなく、「(経営者は)言動がブレないことが大切。すぐには信用されないが、結果が少しずつでも伴って来れば、言動がブレないということが信用につながる」のだそうです。なるほど・・・、ちなみに私の言動は(当ブログの足跡をたどるかぎり)かなりブレてるかもしれません(^^;

さて、本日、SESCさんは東芝さんの有価証券報告書虚偽記載事件について、73億7000万円の課徴金処分を発出するよう金融庁に勧告を行ったと報じられています(SESCのリリースはこちら)。これを受けて東芝さんは社長さんや監査委員会委員の方々による会見を行ったとのこと。なぜ課徴金が73億円なのか、その計算の根拠等、よくわからないところもありますが、いずれにしても監査委員会はすでに会社が提訴している5名の元社長、財務責任者の方々に対する請求金額(3億円)を増額する予定であることを明らかにされました。

少し前の会見で、社長さんが「近々、監査委員会も会見に応じる予定である」と述べておられたので、実は勝手に期待をしておりました。責任判定委員会が元社長さんや財務責任者の方々5名に善管注意義務違反が認められる、との判断を下しましたが、では一体、この判定委員会の結果をもとに、被告とすべき対象者の範囲をどのような議論で特定されたのか、監査委員会としての独自の政策的判断はあったのか、これは監査役さんの善管注意義務にもかかわるものなので、ぜひともお聴きしたい、といった気持からでした。

しかしこれは私の空回りだったようです。日経ニュースのインタビュー内容からすると、請求金額の変更に関連するものばかりで、請求対象者の範囲に関連する話題はなかったようです。最近のニュースなどで、「東芝事件は刑事立件されない、なぜならば不正行為が組織のいたるところで行われており、故意を基礎付ける指揮命令系統が明らかにできないからだ」といった関係者証言も報じられていました。元社長さん方は、不正会計を容認していたとしても、具体的な不正会計の処理方針を自ら考えていたとは思えません。財務責任者の方々を含め、みなさん「社長月例」等によって発破をかけていたとしても、また「意図的な容認があった」としても、それは不作為による粉飾容認であり、元社長の意を受けて具体的にストーリーを描いておられた方の責任は不問に付されるということになると思います。また会計不正に一切関与していない人事担当の代表取締役さんの不正見逃し責任が認められた判決が出ている(ニイウスコー損害賠償請求事件判決 東京地裁平成26年10月21日)中で、他の取締役、執行役の不正見逃し責任は一切追及しないと判断したのはどのような理由なのか、どうしても知りたいところでした。

「責任判定委員会の結論に全面的に依拠した」というのであれば、それもまた監査委員会の判断かもしれませんが、まさか「請求額の増額をします」というだけで記者会見に監査委員会の面々が登場されるとは思っておりませんでしたので(増額の可能性があることはすでに責任判定委員会報告書でも書かれていました)、私個人としてはややガッカリいたしました。やっぱり提訴請求をされた原告の方々からの理由請求がないと理由は開示されないということなのでしょうね。うーーーん、残念。。。

12月 8, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年11月30日 (月)

黒田電気・従業員声明文偽造事件にみる危機対応の重要性

11月27日、適時開示としては公表されていませんが、黒田電気さん(東証1部)のHP上に従業員声明文問題に関する社外調査委員会報告書(公表版)がリリースされました。大株主であるC&Iホールディングスさんが取締役の選任を求めていたことで、今年8月21日に黒田電気さんは臨時株主総会を開催し、最終的には同総会において株主提案が否決されました。この総会の直前に、黒田電気の従業員組織と従業員一同を名義人にした「株主提案に強く反対する意思を表明」との声明文が公表されたわけですが、同臨時総会直後、大株主側は黒田電気さんの幹部(執行役)が声明文を捏造(ねつぞう)したと主張していました。

同社では、この大株主側からの主張への対応を検討したうえで、監査委員会の下で社外調査委員会の設置を決定。11月27日に公表された調査報告書では、声明文の作成に関与したのは黒田電気の幹部など一部の関係者に限られていたと指摘していますが、実際に従業員の意思を確認する手続きはとられず、声明文の内容やその公表が事前に従業員に知らされていなかったことが明らかにされています。同報告書を拝読し、私なりの素朴な疑問が湧いておりますが、それをここで書くことはエチケット違反になるので、以下はあくまでも開示内容から容易にわかる事実だけに焦点を絞っての感想にとどめておきます。

経営支配権を巡って委任状争奪戦が繰り広げられる中で、労働組合や従業員団体名義によって「会社側意見に賛同する」といった声明文が出されることは多いのですが、社外の第三者委員会によって、「声明文は偽造であり、私文書偽造、同偽造私文書行使罪も成立しうる」と断定されたことは会社側にとっても厳しい意見が出されたものと評価されます。また、同社は証券取引所対しても虚偽報告を行ったと(第三者委員会によって)断定されていますので、今後の会社側の対応にも注目されるところですが、このような肉食系の社内紛争に関わることが多い私にとりましても、自戒と共に、たいへん教訓となることを多く含んでおり勉強になります。また、上場企業の法務部門や監査部門に携わる方々にも「もし、あなたが報告書に登場する法務担当者、監査部門だったらどのように対応されていたか」を考えながら、ご一読されることをお勧めいたします。

黒田電気さんの今年の株主総会における委任状争奪戦といえば(先週のエントリーの続きになってしまいそうですが)、同社大株主として登場する元Mファンドの代表者(および長女の方)が注目されるところです。しかし、上記の調査報告書を読みまして、そのあたりの世間的な話題はあまり気になりませんでした。むしろ同社執行役(黒田電気さんは指名委員会等設置会社です)の方が、会社の有事において、なぜ労働者団体名義の声明文を、団体のトップの方に無断で作成してしまったのか、その証拠がなぜ容易に大株主側にわたってしまったのか、そのあたりの事実経過がもっとも(企業の危機管理の視点から)教訓となるところです(詳しくは、ぜひ皆様方でご確認いただければと)。いろいろな社内力学が絡んだ結果であることがわかりますが、私的には大株主と創業家との利害の一致(株主間のコミュニケーションの円滑化)、デジタルフォレンジックを含め、社内謀議が録音や解析によって証拠化されるおそろしさ、といったことを再認識いたしました。

そのほかにも、議決権行使助言会社の影響力の大きさ(ご承知のとおり、黒田電気さんの委任状争奪戦ではISSとグラスルイスでは意見が分かれましたね)、有事における法務部門の助言の重要性(フォレンジックによって法務部門の意見等が明らかになっています)、社外取締役が内部通報を受領した場合の具体的な対処方法の検討(コーポレートガバナンス・コードにおいて原則2-5についてコンプライしている上場会社は要検討課題)など、検討すべき論点はいろいろと出てきます。

とりわけ黒田電気さんの有事対応について、(声明文を偽造したとされる執行役の方から)相談を受ける法律専門家が登場し、そのアドバイス内容が同社社長や同社監査委員会の行動にも影響を及ぼすことになるのですが、同社第三者委員会報告書は、この法律専門家の意見内容を一蹴しています(私も第三者委員会の判断と全く同意見です)。ただ、私はこの法律専門家の方に同情するわけではありませんが、このように会社が有事の場面において、法律家にアドバイスを求める経営幹部の方々は、必ずといってよいほど、自身の有利な事情しか話してくれない、ということは留意しておく必要があります。この第三者委員会が認定しているように、すべての事実経過を認識していれば、また違った法律意見を出せるのですが、おそらく当該法律専門家の方も、会社に都合のよい事実だけを聞いて、調査報告書に記載されているような法律意見を出された(自分たちに都合の良い法律意見を引き出させた)可能性は否定できないと思います。

会社の有事対応に関わる弁護士として、いつも心がけることは、相談を受けている方はご自身に都合のよい事実だけを話そうとされる、という点です。依頼者との信頼関係を維持するためには、できるだけ親身になって経営幹部のお話をお聴きすることは大切ですが、それでも、不利益事情の存在も念頭において意見を述べる必要があります。また、どのような意見を述べたとしても、我々弁護士の意見が一人歩きしてしまって、「○○弁護士からお墨付きをもらったのだから我々は正しい」といった思考停止に陥らせてしまうおそれがあるということも認識しておく必要があります。私自身も過去の事件における対応から反省すべき点が多々ありますし、また今後のためにも自戒すべき点です。

11月 30, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年11月20日 (金)

東芝会計不正事件-「社長月例」よりコワい「内部告発」

マスコミが本気になって内部告発を慫慂するとこんな感じになるのでしょうか?またまた日経ビジネスのデジタル会員の特典ではございますが、11月23日号の先行記事を読ませていただきました。先週11月16日号のスクープ記事にも驚きましたが、いやいや23日号のスクープはもっとスゴイ・・・(^^;東芝社の現社外取締役の方々も驚愕の上にご立腹の様子がうかがわれます。

なぜ11月13日に東芝さんが(過去における)ウェスチングハウス社単体の減損を開示したのか、という理由は先週号でおおよそ見当がついていましたが、当ブログの先週のエントリーで疑問として書かせていただいた「東芝さんの特別調査委員会報告書がいまだに公表されていない」理由が今週号でようやくわかりました(もちろん内部資料の内容が正しいとするならば、ですが)。デジタルフォレンジックの威力もさることながら、第三者委員会ではなく、特別調査委員会の時点において、弁護士委員と会計士委員(合計4名)において、いったいどのような葛藤があったのか、とても気になるところです。

私は従前から「東芝さんの第三者委員会は日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会ではない」と当ブログでも述べていましたので、それほど事態が深刻だとは思っておりませんが、またこの記事を契機に第三者委員会制度への風当たりが強まることになるのは誠に残念です。「第三者委員会制度に対する期待ギャップ」のようなものがあるならば、誰かがそれを埋める努力をしなければならないかと。課徴金処分も間近となり、さらに12月には監査法人さんの処分も明らかになるようですが、東芝さんの会計不正問題はこれからが本当の正念場になりそうです。

しかし、これだけの内部資料はいったい誰が日経さんに渡したのでしょうかね?もちろん取材源は秘密なので詮索しても無駄ですが、社長月例よりもコワい内部告発です。フォルクスワーゲン社は11月末を期限として社員に内部告発(内部通報)を呼びかけ、またあのオリンパス事件をスクープした山口氏の最近の記事にもあるように、内部告発者保護の機運も高まっています。日経スクープによる今回の東芝事件の経過もまた、公益通報者保護法改正に一石を投じるものになるのかもしれません。

11月 20, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年11月10日 (火)

東芝役員責任判定委員会報告書-鬼より怖い「社長月例」?

昨日のエントリーでご紹介したとおり、東芝さんは元CEO、元CFO5名を相手に損害賠償を求める訴訟を提起しましたが、その根拠とされる「役員責任調査委員会報告書」がリリースされました(関係者が特定される部分はマスキング処理されています)。委員3名、弁護士、会計士、フォレンジック担当者等委員補助者総勢20名ほどの委員会が、極めて短時間で事実調査、意見形成を行ったもので、たいへん興味深い内容です(単に第三者委員会報告書で認定された事実をなぞる、ということではなく、一生懸命新たな事実認定のための調査を行っておられるようです)。私の意見が新聞等でもコメントとして掲載されているようですが、一応誤解のないように以下、私見を述べます。

責任調査の対象者は98名ということですが、「関与者」は十数名に絞られ、結局のところ、法令違反が認められた者(善管注意義務違反が認められた者)は合計5名ということで、現社長を含め、提訴された5名の方以外には善管注意義務違反は認められないとの結論に至っています。昨日のエントリーで予想していたような「善管注意義務違反が疑われる者」という認定も全くされていません(すいません、予想がはずれました・・・)。つまりシロとクロがはっきりと判断された、ということのようです。

法的判定において留意すべき点は、東芝さんは委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)の機関形態ということです。委員会設置会社において不適切な会計処理が行われた場合、取締役と執行役と分けて「善管注意義務」の中身を整理することが役員の責任判定の前提となります。

実際に不適切な会計処理を実行していたのは(法律上は)各カンパニーの社長さん(執行役)ですが、この各カンパニーの社長さん達には公正なる会計慣行に基づいて会計処理を行うべき義務(善管注意義務)が認められます。ただ、いずれのカンパニーの社長さんにも「一定の注意義務を尽くしたと認められる」として、この義務違反は否定されています。会計処理が不適切であることは認識していたのですが、「社長月例」で本部の社長さん方から厳しくチャレンジの指令が出ていたことから、到底逆らえなかった、自ら本部の指示に従わないという選択肢はなかったということのようです(一応抵抗してみたものの、聞き入れられなかった、という事実認定もあります)。

この判断が裁判所で通る理屈かどうかはわかりません。大企業の社長さん方は、東芝の社長さん方に(「これくらい発破をかけることは社長として当然では?」といった)かなりシンパシーを感じておられる中で(9月12日毎日新聞朝刊アンケート結果参照)、「チャレンジ」の号令の下で、不適切な会計処理を具体的に実行した各カンパニーの社長さん方の責任が免除されるかどうかは微妙だと思います。執行役といえども、法令を遵守した業務執行を行う必要があることは当然であり、鬼より怖い歴代社長さん方の前で「適法行為の期待可能性がなかった」とまでは言えないのではないでしょうか。ここは今後も問題が残るような気がします。

もうひとつ、現社長を含め、多くの取締役が調査対象者とされたわけですが、取締役会議事録等をみるかぎり、提訴された5名以外の取締役さんが「取締役会において」不適切な会計処理が行われていることを認識する可能性に乏しかったとされ、取締役としての監視・監督義務違反は認められないとされています(多くの取締役さんは、自身が会計処理の担当者ではないので、適切な会計処理を行うべき善管注意義務についてはとくに問題にはなりません)。また、歴代のCFO経験者以外の取締役さんには、そのような認識可能性がないので、内部統制構築義務違反も認められないとされています。

たしかに東芝本部の取締役会における付議事項、報告事項はルール化されており、議事録を丁寧に調査したうえで「議題には上がっていなかった」とされたようです。しかし、議事録だけは他の取締役の方々の「会計不正に対する認識可能性」の有無を断定することは困難であり、こちらも(フォレンジック調査の範囲はわかりませんが)短時間での調査には限界があったものと思います。実際、第三者委員会報告書によると、会社側と監査法人側において、会計処理方針に食い違いが生じていたのですから、少なくとも監査委員である取締役の方々は問題意識を共有していたのではないかとの疑念も残ります。今後は裁判等で十分な審議を尽くすことで、他の取締役の方々の「不適切な会計処理」に関する認識可能性が判断されることになると思います。

つまりこの責任調査委員会報告書は、現取締役の方々の積極的な意味で(旧役員)5名に対する提訴義務を明らかにしたものであり、それ以外の取締役の方々の法的責任を積極的に否定したものとまではいえないように考えます(それはこの責任調査委員会の時間的制約による限界かと)。もちろんこれは私の個人的な意見でありますが、要するに東芝さんの会計不正事件は、誰も逆らうことができない偉大な経営者の主導によって行われたものであり、その指示も、社外役員が存在する取締役会のような場ではなく、「社長月例会」のようなクローズドな場所で下されていたということが本報告書の底流にありそうです。

11月 10, 2015 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2015年11月 8日 (日)

東芝会計不正事件-不提訴理由通知書の内容は如何に?

土曜日深夜まで仕事が続いていましたので、ようやく日曜日になって東芝会計不正事件の責任追及の訴え提起に関する会社側リリースを拝見いたしました。ちなみに同社責任判定委員会報告書(公表版)は9日(月曜日)にリリースされるそうです。東芝さんは元社長、元CFO等5名を提訴されたそうですが、請求額は内金請求として3億、今後10億超まで請求の拡張を予定しているとのこと。会計処理に直接携わらなかった、他の取締役さん方の監視義務や内部統制構築義務に違反したことを理由とする提訴はなかったようです。

新聞等では、「なぜ東芝は会見で(現社長を被告としない理由等)詳細な説明をしないのか」と批判をされていますが、これは提訴請求をした株主もしくは被告とされた元社長さん方からの請求がなければ明らかにできませんし、しかも明らかにするのは監査委員会(一部理由については取締役会)なので、やむをえないと思います。9日には責任判定委員会報告書が出るそうですが、この内容を読んでも、善管注意義務違反(もしくはその疑い)が認められた役員(元役員含む)について会社側がからなずしも訴訟を提起しなければならないわけではないので、会社側の判断はここでも明確にはわからないと思います。

とくに、今年7月24日付けで経産省「コーポレートガバナンスの在り方に関する研究会」から公表された「コーポレートガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」の「別紙3 法的論点に関する解釈指針」12頁以下では、「取締役の責任追及に関する提訴の判断」について、社外取締役を含めた監査委員会が、会社経営の見地から提訴すべきかどうか、その裁量権を広く認める解釈を妥当と判断しているので、「現社長は善管注意義務違反の疑いが強いとしても、企業のレピュテーションを確保するために、企業価値向上のために、東芝の建て直しのために経営に専心してもらう必要があるので裁判を起こさない(是非は株主代表訴訟に委ねる)」といった判断も十分考えられるのではないでしょうか。このような不提訴理由の判断基準が適切かどうか、私見はここでは述べませんが、日本の株主代表訴訟の制度は、欧米とはかなり異なっていまして、少数株主による(経営者の)法令順守に対する事後規制(欧米では自浄能力発揮の仕組み)という意味合いが強いので、そういった制度の趣旨と不提訴理由通知の判断基準の運用がかみ合っているのかどうか、という点は検討しておくべきではないかと。

いずれにしましても、東芝さんの会計不正事件に対する「自浄能力」を評価するためには、この不提訴理由通知書の中身をみなければわからないわけですが、これはリリースされませんので、なんとか知りたいところですね(7日付け会社リリースで引用されているのは法律家のみで構成された責任判定委員会の判断理由であり、経営をゆだねられた役員によって構成された監査委員会の判断理由ではありません)。

ところで、会社側から訴えられた5名の方には株主代表訴訟を提起することはできませんが、提訴請求をされた株主の方々は、請求を拡張するために会社法849条1項による共同訴訟参加(民訴法52条)をされるのだろうか?(株主代表訴訟とは異なり、裁判所に納付する印紙代はかなり高額?)、拡張された請求額が認められたり、高額な和解案を検討する場合、会社側の意思決定はどうするのだろうか?(だからこそ内金請求?)そもそも原告株主側の代理人弁護士の方は、もし勝訴した場合に果たして弁護士報酬はもらえるのだろうか?D&O保険はどこまで効くのだろうか?等、法律家としての興味は別のところに湧いてきますが、そのあたりはまた別の機会にしておきたいと思います。

11月 8, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年10月26日 (月)

注目すべき東芝・責任調査委員会の役員等責任判定報告

今年9月12日の毎日新聞朝刊に、大手企業123社経営トップに聞いた企業統治に関するアンケートの結果が掲載されていました。そこでは回答企業の約半数(46%)の経営トップが「東芝事件は他山の石としたい」と回答され、「東芝事件は東芝固有の特殊事情によるもの」(12%)といった回答を大きく上回るものでした。東芝事件の第三者委員会は東芝トップの意図的な関与を認めていましたが、上記毎日新聞のアンケート結果からみると、ややシンパシーを感じておられる経営者の方も多かったのではないでしょうか。

さて、東芝事件の旧経営陣(現経営陣の一部も含む?)の法的責任の判定を目的とした責任調査委員会の報告書が近々出る模様で、東芝の現経営陣はこの報告書の内容を尊重したうえで、同社が旧経営陣に対して損害賠償請求訴訟を提起する方針であることが報じられています(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。以前当ブログでもご紹介したとおり、株主から東芝社に対して提訴請求が届いておりますので、この請求に対する会社側の対応は11月上旬までには決定しなければなりません。

会社側が誰に対して責任を追及し、誰に対しては訴訟を提起しない、と判断した理由はどこにあるのか、また責任を追及するとしても、当該役員の違法行為と因果関係が認められる損害は何なのか、また損害額をどうしてそのように考えたのか、ということを、東芝社としてはぜひとも対外的に説明していただきたいところです。また、監査法人や監査委員に対する損害賠償請求については今後どうする方針なのか、その点についても説明がなされる必要があると思います(株主弁護団は損害金は10億円、と主張しておられますが、これがそのまま援用されることはないと思います)。

徹底した責任追及は、社会的にみれば東芝社の自浄能力を示すものとして歓迎されるかもしれませんが、一方において「他山の石」(明日は我が身)とみる他の上場企業からすると、責任や損害に関する認定根拠次第では経営トップの行動に萎縮的効果を及ぼす可能性もあります。また、そもそも課徴金等は役員の行動に起因するとしても、これは会社に課されるものであるので役員への責任追及の対象となる損害には該当しないといった有力な意見もあります。賠償請求で勝訴したとしても、弁護士費用のほうが高くついて、回収も十分になされないことが明らかでも提訴すべきか、株主代表訴訟を継続させることと、会社による賠償請求訴訟を継続させることと、いずれのほうが会社の社会的信用を毀損するか、という判断要素もあるかもしれません。いずれにしても、他社経営者も注目するところであり、会社側の提訴判断とともに、この責任調査委員会報告書についても全文の開示がなされることを強く希望いたします。

10月 26, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年10月23日 (金)

社外取締役からみた取締役会評価における重要なポイントとは?

10月20日の日経ニュースにおいて、社外取締役の貢献度は高いと評価している上場企業が半数以上に及び、とりわけ独立社外取締役が3名以上選任されている企業では「貢献度が高い」と評価している企業の割合が8割にも及んでいるということが報じられています(エゴンゼンダーさんの調査結果をもとにした記事だそうです)。日本コーポレートガバナンス・ネットワークの関係者という立場からすれば、素直にこの結果には喜びたいところです。ただ、そもそもコーポレートガバナンス・コードにおける取締役会評価の指針に「コンプライ」している上場企業が圧倒的に多いわけですから、そのような企業は「社外取締役は事業に貢献している」と回答したい(回答すべき?)はずです。したがって、この回答結果をもって、本当に社外取締役が企業価値向上に貢献しているか(貢献していると思われているか)どうかは、実際のところよくわからない、というのが私のホンネです。

ところで金融庁では「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」というのが開催されているそうで、10月20日に開催された第2回会議の資料を拝見いたしました。取締役会をめぐる論点、とりわけ社外取締役の活用をめぐる取締役会評価などが議論されたようです。アジェンダを拝見しますと「形ではなく実質のあるガバナンスとはどういったものか」「仏作って魂入れず等と言われるが、では魂とは何か」といったことを、真剣に考えようとされている雰囲気が伝わってきます(私のように社外取締役でありかつ取締役会議長を務める企業は17社ほど、全体の0.5%だそうです)。

私はこの有識者会議で議論されるような高尚なことは言えませんが、取締役会議長を務める独立社外取締役の一人として、私なりの取締役会評価のポイントを申し上げますと、取締役会を支える事務局の存在を一番に上げたいところです。なんといっても独立社外取締役の「わがまま」を支える事務局の存在は大きい。「インサイダー情報の巣窟」ともいえる取締役会に参加をして、付議案件や報告案件の整理を行い、直前変更の荒業にも耐え、社外取締役への事前説明もこなす人材がいるからこそ社外取締役の貢献が可能になると考えます。時には「経営会議」と「取締役会」の隙間にある情報なども社外取締役に教えてくれます(これはけっこう貴重です)。あまり光は当たりませんが、何社か社外取締役を経験された方なら、優秀な事務局のありがたさを身に染みて感じておられるのではないでしょうか。

そしてもうひとつのポイントは、コーポレートガバナンスに精通した(熱心な?)取締役さんの存在です。最近は社外取締役が(任意の)指名委員会や報酬委員会の委員を務めたり、または社内取締役の業績評価を行う機会が増えましたが、そのような社外取締役の監督機能の実効性を高めるためには、様々な情報を入手する必要があります。もちろんすべての執行部門に精通した社長から情報を入手できれば良いのですが、社長にそんなヒマはなかなかありません。したがって、多くの執行部門にまたがって情報を入手でき、社外取締役制度などにも理解のある取締役さんがいるのか、いないのか、これは社外取締役が監督機能を果たせるかどうかの分水嶺になります。次の体制において誰を執行役員に上げるのか、この判断をひとつ間違えると組織のバランスを失いますし、数字以外の定性的な業績評価も多くの議論が必要です。会社から見て「社外取締役が貢献している」と判断されるためには、このような活動が求められるのであり、だからこそ能動的・積極的な情報収集に応えてくれそうな社内取締役さんの存在が不可欠だと思うところです。

最後になりますが、自戒をこめて「社外取締役の熱意」が必要かと。この「熱意」というのは、企業価値向上に貢献したい、ということですが、「空気を読む場面」と「空気を読まずにあえて行動する場面」をどう使い分けるか、そのバランスへの配慮こそ熱意の現れだと認識しています。そういった意味では、独立社外取締役が3名以上存在する(私が社外取締役を務める会社はいずれも3名です)、ということはとてもありがたいですね。

10月 23, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年9月24日 (木)

変わるか?-最高裁の金融商品リスクへの評価アプローチ

VW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件の影響はものすごいですね。この先、同社はどうなっていくのでしょうか?しかし4年前に日本でも起きた いすず自動車さんの件と、このVW社の件はどれほどの違いがあるのでしょうかね?また時間があるときにでも調べてみたいと思います。

さて、連休でしたのでニュースとしては若干前のものになりますが、9月19日の産経新聞ニュースにおいて、最高裁の司法研修所が、複雑化するデリバティブ(金融派生商品)の仕組みやリスクに関する研究に乗り出した、と報じられています。最高裁は、早ければ来年中にも研究報告をまとめる見通しとのこと(産経新聞ニュースはこちらです)。

つい先日、ある金融機関の企画課の方と、某研究会終了後に金融商品のリスク評価に関する話をしておりました。金融機関内においてデリバティブ商品を企画する方々は、金融工学に基づいてリスクを数値化し、商品を企画するわけですが、コンプライアンス担当部署の方々のリスクというのは、全く別物とのこと。つまり訴訟対応が重要であるため「こんなリスクがあります」「元本割れはこんな場合に生じます」といった、金融機関側がきちんと説明責任を尽くしたと裁判所で認定されるためのリスク概念が尊重されるそうです。商品購入者が、損を承知で購入し、自己の相場観をもって損をしたのであれば、それは自己責任として甘んじなければならない、ということになります。同じ金融機関の中でも部署が異なるとリスク概念も異なるというわけです。

裁判に登場する「金融商品のリスク」の考え方は、「当事者が被る不利益」と捉えられ、説明責任というのも、「損失を被る可能性があることの説明責任」とみられる傾向があります。ただ、これはおかしいのではないか、ということで最新の現代消費者法28号84頁以下では、金融法務に詳しい鈴木英司弁護士が「金融商品の説明義務に関する新たな視点-金融商品のリスクとは何か-」と題する論稿を出しておられます。元銀行マンでいらっしゃる鈴木弁護士は裁判所が採用するリスク観を(一般的な用語に近い)「主観的リスク論」、そして金融市場取引で用いられる(期待収益率と対比して用いられるバラツキ-分散としての)リスク観を「客観的リスク論」として「現在の最高裁の考え方(主観的リスク論)は間違っている」と主張されています。この論稿は、むずかしい金融商品のリスクを一般の方にもわかりやすい形で説明がなされており、とても勉強になります。

仕組債を勧誘した証券会社の従業員の説明責任が争われた東京地裁平成24年11月12日判決(判例時報2188号75頁以下)などは、この客観的リスク論を採用して原告勝訴の判断となりました。ちなみに同判決では、金融機関側の説明義務の内容として、オプション取引における金融工学上のリスク評価の基礎となる確率統計の方法や債券購入代金として預託する元本額が損失負担のリスクの大きさを実質的に担保する目的で定められていること等を明確にしています(そもそも、そのような説明がわからない方に販売すること自体、適合性原則違反ということになろうかと-ちなみに、本訴訟の原告は東証一部上場会社の社長だった方で、過失相殺がされています)。その後も同様の判決が相次ぎましたが、同種裁判の最高裁判決(平成25年3月)が、やはり主観的リスク論に立脚した判断を行ったために、その後は再び主観的リスク論に立った下級審判決が増えているそうです。

金融商品のリスクというものが、抽象的で投資家にとって主観的なもの(いわば相場観によるもの)ではなく、リスクは客観的で事前説明可能なものといった認識が共有されなければ、おそらく裁判における原告・被告間の議論はかみ合わないものと考えられますし、そもそも金融商品の健全な市場が形成されないのでは、と危惧します。販売対象となる金融商品に適合する相手方に対して、その自己責任を真に問いうるための情報の非対称性解消のための説明を行うことが消費者法として求められるのであれば、司法も鈴木弁護士がおっしゃるように、金融商品のリスク観についてきちんと理解を深める必要があるのではないかと思います。消費者契約法改正論議が進む中、最高裁が金融商品のリスクについて研究を開始したということは、(本件で取り上げた問題だけではないと思いますが)消費者契約への配慮によるものとして、今後も注目しておきたいと思います。

9月 24, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年9月10日 (木)

東芝事件-株主代表訴訟と役員の責任調査委員会設置の必要性

東芝の不正会計事件について、大阪の「株主の権利弁護団」の方々が早々と動かれたようです(原告は奈良県在住の60歳の男性株主・・・とありますので、よく提訴されている方でしょうか)。毎日新聞ニュースによりますと、10億円の損害賠償請求を歴代役員28名に対して求めるよう、東芝さんの監査委員宛てに「提訴請求書」を送付された、とのこと。なお、この28名の中に監査委員である取締役さんや会計監査人さんが含まれているかどうかは不明です。

ちなみに、東芝さんは9月30日に臨時株主総会を開くそうなので、そこで監査委員会を構成する取締役は全員社外取締役になります。提訴請求に対する回答期限は提訴請求を受領してから60日ということなので、会社として歴代28名の役員に対して損害賠償請求訴訟を提起するかどうかは、この新しく構成された監査委員会によって実質的な審議がなされるものと思われます(就任早々、社外取締役の皆様は試練ですね)。

ところで気になる点がひとつあります。東芝さんのような指名委員会等設置会社の場合、訴訟を提起するかどうかは(監査役会設置会社とは異なり)監査委員会における組織的な判断によって決定されます。そこでもし提訴妥当と判断した場合には、監査委員会で選定した監査委員が会社を代表して歴代役員に対して訴訟を提起することになります。しかし株主代表訴訟の被告となる社長さんがそのままボードに残っている状況では、取締役会の構成員である監査委員の方々が、提訴の可否を中立公正に判断できるとは思えません(そもそも、そのような緊張関係を抱えたままでは「攻めのガバナンス」など到底期待できないでしょう)。原告株主さんへの不提訴理由通知の内容にも、あまり期待がもてないような気がします。しかし、だからといってこのまま原告株主からの提訴請求を放置して株主代表訴訟の提起を待つ、という姿勢で本当に大丈夫なのでしょうか。

たとえばオリンパス事件の際には、第三者委員会報告書では歴代の取締役の法的責任が判断され、また監査役等責任調査委員会報告書では監査役及び会計監査人の法的責任が判断されましたので、同社の監査役さんは、これに依拠して会社を代表して元取締役、元監査役の方々に訴訟を提起しました(平成24年のオリンパス社のリリースはこちら)。しかし今回の東芝さんの事件では、そもそも第三者委員会報告書は当事者の法的責任の判断には及んでおらず、ましてや株主代表訴訟の対象となる監査委員会の取締役や会計監査人の責任問題などはまったく触れられていません。不祥事によって経営トップが一掃されたオリンパス事件ですら、上記のような報告書がそろっていたのですから、経営トップが残っている東芝事件においてはなおさら中立な第三者による責任調査が求められると思います。

このような状況において、新しく監査委員に就任される方を中心に、ご自身で提訴請求に対応することは至難の業であり、また先に述べたように構造的に提訴することが期待できない状況にあるので、東芝さんとしては可及的速やかに第三者による「取締役等の責任調査委員会」を立ち上げたほうが無難ではないでしょうか。いやむしろ監査委員会の職務として60日間で訴訟提起の必要性に関する判断を下すためには、現在の監査委員の方々が、せめてそのような委員会を立ち上げなければ善管注意義務違反(取締役の不作為による違法状態を是正する義務の不履行)に問われる可能性も出てくるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

9月 10, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年7月15日 (水)

わがまま社外取締役に悩む上場会社が急増?\(◎o◎)/!

閣議決定された日本再興戦略改訂2015では「アベノミクス第二ステージ!さらなるコーポレートガバナンス改革へ」として諸施策が打ち出されるようです。ご承知のとおり、この6月総会では、上場会社を中心に多くの社外取締役が選任されました。

私は自身のHPで「社外役員支援」を業務のひとつとして掲げており、「こんな時代なんだから社外役員の方から相談が増えるといいなぁ・・・」と思っていたところ、(その期待とは裏腹に)7月に入ってから新任社外取締役さんの扱いに悩む常勤監査役さんや総務、法務担当者の皆様方から想像もしていなかった相談が増えております。概要を示しますと・・・・・

「先生、新しい社外取締役がやたら個別取引の相手方選定に口を出してくるのですよ。これって業務執行ではないのですか?」(A社常勤監査役)

「2回目の取締役会で決議をとるときに『俺は審議の内容がわからんから棄権する』と言い出したんですが、棄権というのは会社法上で認められるのですか?定足数要件の取扱いはどうなるのですか?『反対した』と議事録に残していいのですか?」(B社法務担当者)

「1回目の取締役会の決議を取り消してほしい、白紙に戻してもう一回審議しなおすべきだ、少なくとも私の賛成は撤回させてくれ、とか主張されているのですが、どうしましょう」(C社経営企画)

「出席率が開示されるから、といって決議には参加せず、最初の5分だけ参加してすぐに退出したのですが、これって出席扱いになるのでしょうかね?」(D社総務担当者)などなど・・・

「攻めのガバナンス」ということで、各界有識者の方々が社外取締役に就任されたのですが、経営経験のある方は別として、「取締役の多様化(ダイバーシティ)」はいいことづくめ・・・というわけにもいかないようですね。「三顧の礼」でお招きした社外取締役さんなので、社内取締役の皆さんもあまり強く言えないようで(笑)、そのしわ寄せは、多くの会社において経営企画や法務、総務の方々に来てしまい、彼らを大いに悩ませています。良い意味での「わがまま」はガバナンス向上のために大いに結構かとは思いますが、上で書いたような事態が増えるとなりますと、取締役会の審議を円滑にするためにも「取締役会運用規程」をきちんと作りこんでおいたほうがよさそうです。今の時期、「わがまま社外役員対策!取締役会運用ガイドライン作成マニュアル」のような薄い本を(商事法務さんあたりから?)売り出すと結構ヒットするのではないでしょうか(^^;

7月 15, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年7月 7日 (火)

社外取締役大増員時代に避けて通れない課題-会社補償制度とD&O保険

7月4日の日経朝刊一面に「役員の賠償、会社も負担-社外から迎えやすく」なる見出しの記事が掲載されています。会社法で明記されていない「会社補償制度(役員の対第三者賠償責任を会社が補てんする制度)」や「役員賠償責任保険」の保険料負担をすべて会社が負担することの是非について政府が解釈指針を示して、おおむね容認する方向にあるそうです。趣旨がほぼ同じような記事は こちらのロイターでも報じられています。社外取締役を迎える企業の環境整備については政府の成長戦略と関連性があることがわかります。

社外取締役の責任軽減のための施策については日本再興戦略改訂2015でも触れられていますが、経産省のコーポレートガバナンスの在り方に関する研究会の昨年12月の配布資料をみますと、すでに昨年12月ころから会社補償制度やD&O保険の実務見直しは検討されていますね。社外取締役が大幅に増員される時代を見据えて、その負担軽減を図ることが要請されているので、社外取締役さんを採用した企業には避けて通れない課題かと思います。いや、会社側は避けて通るかもしれませんが、社外取締役さんにとっては自己防衛の意味で重要ですね。D&O保険を導入している上場会社さんは9割を超えているものといわれていますが、そのほとんどが会社と保険会社との「おつきあい」の一環として導入されているようなので(笑)、社外取締役本人が「どんな場合に保険が下りるのか」きちんと把握しておかないといけません。

ちなみに、D&O保険の改訂や会社補償制度の解釈問題など、今後の改正を理解するにあたっては、まず現状を把握しておくべきですが、旬刊商事法務2032号~34号「D&O保険をめぐる諸論点(上・中・下)-役員就任環境の整備」なる座談会記事が、対第三者責任に関する会社補償制度、D&O保険制度、対会社責任に関するD&O保険制度に分けて問題点を検討されており、非常に参考になります(とくに東大の山下先生の法解釈が有益だと思いました)。ただ少し議論のレベルが高いので、社外取締役の皆様へはこの議論をややわかりやすく解説する「橋渡し」が必要かもしれませんね。

またこれらの論点を関連して、(当ブログでもしばしばとりあげている)「社外役員の職務と業務執行の区別」や「過失と重過失との区別」「社内取締役と社外取締役の間で紛争が発生した場合の保険の取扱い」「社外取締役就任契約」なども、今後は法律家だけではなく、一般の社外取締役就任者にもわかりやすく解説がなされる必要があると思います。社外取締役さんにとっては重大な課題であるにもかかわらず、社外役員を迎える環境整備などは会社側にとってはそれほど喫緊の課題と考えていないかもしれないので、当ブログでも、これから少しずつですが取り上げていきたいと考えています。大陸法系の日本と英米とは法制度が異なることは事実ですが、会社補償制度やD&O保険に配慮しているかどうか・・・、そういった取り組みがなされている企業こそガバナンスの運用が適切だと評価される時代が来るのかもしれません。

7月 7, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月12日 (火)

ファーマライズHD社の有事に求められる徹底した自律的行動

65歳で勇退されるドン・キホーテHD社の会長さんのインタビュー記事が5月11日の日経ニュースで掲載されました。出店を加速していた時期に、騒音問題で地域住民の猛反発を受けたときにも、法令違反をしていないことを客観的に証明して切り抜けたそうです。「なんとなく住民の理解を得るという曖昧な対応ではなく、法律を守っている、数値を満たしているという客観性が大切だ」とのこと。

東芝さんの不適切会計処理に関する事件、そして朝日新聞のスクープとなったファーマライズHD系列の薬局における調剤補助事件(たとえば産経新聞ニュースはこちら)などをみると、「会社として、あってはならないことが起きた」との印象を受ける対応です。とりわけファーマライズさんの謝罪文(HPで公開)を読みますと、薬剤師の監視のもとで薬の調合を事務職が行った場合は法令違反になるのか、ならないと考えているのか、会社としての考え方がよくわかりません。会社側は「あってはならないことなので是正した」としていますが、そもそも薬剤師を補助する行為が調剤行為として法令違反だと考えているのかどうかが最も知りたいところです。

消費者の理解を得るためには、曖昧な対応ではなく、自身が法律を守っているという客観性を説明する必要があります。たとえば無資格者の調剤行為は事前規制でも事後規制でも、厚労省が取締まることは事実上困難です(事務職による薬剤師への支援は当然必要でしょうし、だからといって調剤行為を事務職が行っていたことを事後的に確認することは困難)。したがって、もし疑惑が発覚した場合には、国民から限りなくグレーな印象をもたれてしまうことになるので、「この1,2件以外には同様の行為はなかった」ということを企業自身が消費者に対して客観的に説明しなければなりません。

普段から「当社でも事故や不祥事は起きる」と考えている経営者は、リスク感覚に長けておられる方が多く、そのような方は有事における損失を最小限度に抑える手法を心得ています。しかしながら、名門企業や一次不祥事を発生させること自体が企業の信用を毀損してしまいかねない企業の場合は様相を異にします。そもそも「不祥事は起こしてはならない、事故はあってはならない」という意識が経営者に強いので、誰がみても有事であるにもかかわらず「今が有事だ」という意識が乏しく、不祥事であることを認めたくないので曖昧な事後対応で終始し、公表することにも消極的です。しかしその対応が新たな不祥事(二次不祥事)を招くことになります。

ファーマライズHDさんの場合、いきなり「他の店舗では一切、調剤補助といった事実はありません」と断定されていますが、なぜ断定できたのでしょうか。朝日新聞の一面記事では録音に「うちはこうしないと回らない。ほかでもやっている」と残っているそうですが、これは事実と異なるということでしょうか(ちなみに朝日の記事では大阪版の社会面が最も詳細に報じています)。しかし調剤補助という行為を立証することが困難であればあるほど、逆にその証拠が残っているとされる場合には、証拠の存在を否定することも困難です。たとえば内部通報が存在しなかったことや、問題視する事務職に対するパワハラの疑惑もなかったこと、リスクが存在することを平時から承知していたからこそ行われていた措置などから客観的に説明を行う必要があるのではないでしょうか(そもそも会社側から「そちらの店舗では事務職が調剤行為を補助している、ということはないか」と問われ、「そういえば・・・」と回答が薬剤師さんや事務職から返ってくると考えるほうが非現実的であり、なんら説得力を持ちません)。

外からの規制がむずかしいコンプライアンス違反行為は、企業の自律的行動に期待するしかないので、もし自律的行動が期待できない状況だと行政が判断した場合、当該企業は厳しい営業上のハンデを背負うことになります。このような状況だからこそ、ファーマライズHDさんには徹底した自律的行動が求められるものと思います。

5月 12, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月23日 (木)

議決権行使基準の厳格化は「株主との対話」を促進させる

昨日(4月21日)日弁連ホールにおいて「社外取締役に対する期待と『社外取締役ガイドライン』を活用した職務執行」と題するイベントが開催され、私は(基調講演ではなく)パネルディスカッションのほうに登壇させていただきました。パネリストとしてご一緒させていただいた大和住銀投信投資顧問(株)執行役員の藏本祐嗣氏のご発言は、上場会社が現時点にコーポレートガバナンス・コードへの対応を考えるにあたり、とても有益な内容だったので、私も非常に勉強になりました。やっぱり運用会社が企業の中長期成長のためにどこに着目しているのかを知ることは大切ですね。

ところで藏本氏がパネルディスカッションの冒頭「山口先生のブログで以前、私どもの会社の議決権行使基準を紹介していただき、高い評価をいただいた。先日の打ち合わせの際、そのことを山口先生にお伝えしたところ、完全に忘れておられたようで、たいへんショックを受けた(笑)」と発言されました。昨夜、ブログを調べてみたところ、こちらのエントリー「投資運用会社の議決権行使ガイドラインにみる独立役員への期待」(2010年9月21日)だったのですね。たいへん失礼をいたしました<m(__)m>。昨日、大和住銀さんの最新の議決権行使ガイドラインが参考書類として配布されており、それに目を通しながら「いや、なかなか興味深いなあ」と感じておりましたが、すでに5年ほど前に同様の意見をブログで書いておりました。この過去のエントリーを読み直してみますと、昨日藏本さんが発言されていた内容は、まったく(このブログの内容と)ブレがなかったと感じました。

ディスカッションの後半、会場からのご質問で「顧問弁護士の『社外性』要件該当性」というものがありまして、私は(日弁連主催シンポということからということもないのですが)、見た目と実質面を分けてお答えしたのですが、藏本氏は「原則ダメです。ただ、全部ダメというわけではなく、きちんと説明をして、その理由に合理性があると判断すれば承認する、ということもありえます」と回答されました。(おまえ、5年前のブログで同じこと書いとるやないか!)と怒られそうですが、なるほど議決権行使ガイドラインと「株主との対話」とが、このような形で関連するのかと納得いたしました。最近は大手保険会社の議決権行使ガイドラインが厳格化していると報じられていますが、これがどのように株主との対話重視につながるかといえば、藏本氏がおっしゃるように、「原則ダメ」という看板を掲げておいて、対話の回数を増やすとか、対話の内容を高度なものにする、といった方向性をもたせるわけですね。保険会社さんというと、どうしても「政策保有株式」のことが気になっておりましたが、単なるアリバイ工作ではなく(失礼しました)、真剣に対話を促進させようとのお気持ちから、ということだと思います。

さて、コーポレートガバナンス・コードといえば、その実効性担保は株主との対話によるものであり(東証ルールもありますが、その実効性担保は例外的)、ソフトローといわれる所以であります。しかし本当にソフトローで済むのか、会社や取締役の法的責任とは関係ないのか、というと、そんなことはないのでは?と(最近)思うようになりました。そのあたりを、また二つのエントリーで述べていきたいと思います(たぶん、来週くらいです)。

4月 23, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月 8日 (水)

証券市場の活性化に向けた「公益の番人論」の急速な進展

公認会計士・監査審査会は、平成27年度のモニタリング基本計画( 「平成27年度監査事務所等モニタリング基本計画(審査・検査基本計画)」の策定について)を公表し、今年度は監査法人のビジネスモデルやガバナンス体制のほか、監査を受ける企業が抱えるリスクを適切に評価して監査しているかなどの項目について、重点的に検証することを明らかにしました(ロイターニュースはこちら)。コーポレートガバナンス・コードの実施などに伴い、監査法人に対する社会的な役割が高まっているため、とのこと。当ブログでは昨年末から「今年の話題は『公益の番人論』です」と予想し、年初から何本も公益の番人論についてエントリーを書きましたが、ここへきて大きな話題になりそうな予感がしています。

すべてはアベノミクスを支える市場の健全化、活性化を図るために、市場関係者が少しずつ公益活動をしましょう、ということです。まず「市場の健全化」という視点からは、3月26日の日経新聞朝刊でも特集記事が盛り込まれていた「不公正ファイナンスのプリンシプル」です。昨年10月に、東証で初めて策定されたプリンシプルベースの規制手法です。当ブログでもご紹介しましたが、日本取引所自主規制法人理事長のインタビュー記事によると、すでに取引所の対話が功を奏した事例もあるようで、プリンシプル規制が証券市場においてグレーなファイナンス手法を用いる上場会社の行動を未然に防止する役割を果たしつつあるようです。そしてなによりも、記事にあるように「プリンシプルにより、疑わしい企業に弁護士や公認会計士、コンサルタントを近づけないことが大切」とのこと。つまり、そういったグレーなファイナンスに関与する専門職自身について公益の番人たる役割が期待されています。

つぎに市場の健全化と活性化のバランスを図るための施策としてIPO企業の審査の厳格化が挙げられます。こちらは3月30日、日本取引所グループから、証券会社や監査法人に対して新規株式公開企業への審査を厳格にするよう要請がなされました。ご承知のように、E社、J社、G社といったところが、不祥事や上場直後の業績下方修正で株価が急落し、このままではIPO市場の信頼性が一気に失われてしまう、といった懸念が生じました。これまで通り企業のIPOを促しつつも、不適切な開示から投資家を保護するという二律背反の使命をなんとか調和させるために、厳しい上場ルールを設けることなく(既存のIPO企業の競争力を低下させることなく)、市場関係者に市場の番人たる役割を期待することで乗り切ろうとするものだと思われます。つまり、ルールベースではなくプリンシプルベースによる規制が活用されるものと予想します(ただ実際には業績予想の開示制度があるかぎりは、同様の問題はなかなか解消されないようにも思えるのですが・・・)。

そして市場の活性化を図るための施策であるスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの施行です。企業の資本生産性向上のストーリー、つまりマージン率、資産効率、レバレッジに関する企業のストーリーだけでなく、そのストーリーを実現させるためのガバナンスをもテーマとする機関投資家(保有者および運用者)と企業との対話が促進される、ということで、機関投資家に公益の番人たる役割が期待されます。もちろんコーポレートガバナンス・コードは東証上場規則に含まれるものなので、上場会社の規制違反の有無を審査するのは取引所ですが、その実効性担保の主役は企業と株主とのエンゲージメントにあることは間違いないと思います。つまり、ここでも規制の主役は「コードを用いたプリンシプル」です。

競争するフィールドから「競争するに値しない企業」の参加資格を喪失させつつ、参加企業には思う存分フィールドで競争してもらうためには、市場関係者のほんの少しずつの勇気(公益の番人としての使命感)をもって競技を盛り上げていく必要があります。もちろん、企業の中にも、社外取締役や監査役といった「少しの勇気」を必要とする人たちがいることも忘れてはならないと思いますし、そのような番人が出すサインを見逃さない投資家のリテラシー向上も必要です。今度こそ日本の企業社会にプリンシプル規制が根付くかどうか、いよいよ試される時期が近づいてきました。

4月 8, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年4月 1日 (水)

中小上場会社の社外取締役が注目すべき最高裁決定(道東セイコーフレッシュフーズ事件)

3月27日、最高裁(第1小法廷)は、非上場会社のM&A(合併・買収)の際、市場で株を売買できないことを理由に株価を低く見積もることが認められるかが争われた裁判で、将来の収益などを基に計算する「収益還元法」を使う場合には認められないとする決定を出しました(判決全文はこちらから閲覧できます)。先日のアートネイチャー事件最高裁判決は「訴訟」でしたが、こちらは会社法786条2項に基づく価格決定申立事件なので「非訟」事件です。

裁判所(第一審)が選任した鑑定人(公認会計士)の鑑定意見理由では、収益還元法を採用したうえで、非流動化ディスカウントを用いて株価が算定されていましたが、決定理由では「収益還元法は将来期待される純利益などを基に現在の株価を算定する手法で、(非流動化ディスカウント採用の前提となる)市場での取引価格との比較という要素はこの手法の中に含まれていない」と指摘して、算定手法にない要素を反映させて株価をさらに減価するのは不当、としています。最高裁は、一審、原審の決定を破棄して「株価をより高く計算すべき」とする株主側の主張に沿った形で株価を高く算定しています。

カネボウ事件(株式買取価格決定抗告事件 東京高裁平成22年5月24日)などでも、収益還元法が採用された場合の非流動化ディスカウント、少数株主(マイノリティ)ディスカウントの採用が理屈の上で否定されていたと記憶していますが、日経新聞の記事によりますと最高裁でこの争点への判断がなされたのは初めて、とのこと。裁判所が鑑定人の鑑定意見を採用するかどうかは自由心証主義のもとで職権で判断されますが、鑑定意見を採用するかどうか、という点だけでなく、鑑定意見の部分的な採用ということを認めた点でも初めてではないかと。

このような決定が出ますと、この決定の射程距離が気になります。非公開会社の株式固有の非流動化の問題に限られるのか(流動性リスクを株式の期待収益率に反映させた場合はどうなるのか)、また少数株主ディスカウントにも適用されるのか(個人的には、最高裁決定の論理からみても、またカネボウ事件などの例からみても少数株主ディスカウントにも適用されるように思いますが)。本件は非公開会社の株式に関する鑑定評価ではありますが、少数株主保護の要請が高い上場会社の社外取締役、社外監査役の方々も、インカムアプローチが採用される株価算定に遭遇した場合には、この最高裁決定の射程距離については配慮しておいたほうが良いと思います。

いずれにしましても、価格決定申立が予想される事業再編の場においては、会社法785条1項等の「公正な価格」の解釈に忠実に従った最高裁決定が出されたことを前提に、鑑定人の算定手法の採用及び算定要素の選択の合理性についての検討が社外役員に求められそうです。場合によっては経営幹部と利害が相反する中で(つまり、誰も社外役員としてのリーガルリスクを教えてくれない中で、自分で情報を入手しつつ)判断しなければならない、ということにも注意が必要ではないでしょうか。

4月 1, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月24日 (火)

事後規制時代における新しい裁判所の役割-アートネイチャー株主代表訴訟への意見

またまた旬刊商事法務の最新号(2062号)からの話題ですが、巻末「スクランブル」においてアートネイチャー株主代表訴訟最高裁判決への筆者の評価が記されています。スクランブルは(一般的に)辛口評が多いと思いますが、筆者は同最高裁判決を「この判決は画期的」「裁判所の役割に新しい地平線を開くものであるように思われる」「全員一致でこのようなはっとさせる判断に至ったことに最高裁の慧眼を感じる」と、かなり好意的に評しておられます。これから出されるであろう学者や実務家の方々の判例評釈がますます楽しみになってきました。

私自身も、第一印象的なものではありますが2月20日の拙ブログのエントリー「お天道様と最高裁はみている-ある最高裁判決への雑感」において、

何か紛争が勃発して、その後、優秀な弁護士が登場してビジネスの経過を無視して証拠をそろえてみても無駄、ということであり、日頃からコンプライアンス経営を積み重ね、企業の持続的な成長のために経済的合理性のある行動を重ねている企業が勝てる司法制度であってほしいと思います。「予測可能性」という言葉が判決に登場しますが、結果の重大性から過失を認定したり、後日、会社が成功したから非公開株式の評価額を算定する、というのは後出しジャンケンの発想かもしれません(自戒をこめて)。

と書きました。(当ブログとスクランブルとのレベルの差は別として)個々の事案で何が真実であったかをミクロ的に追求するのではなく、経済活動があるべき手順に従って行われていることを確認することに裁判所の役割がある、と感じています。「事前規制時代から事後規制時代となり、裁判所の役割は重くなっていたが、そこからさらに経済社会の自律(自立ではなく自律です)の時代にパラダイムの変更がなされたのではないかと感じる」とのことですが、まさにそのとおりかと。

もちろん損失や利益の公平な分担、という視点を重視することも民事訴訟を解決する裁判所の重要な役割だと思います。裁判所の判断が必然的に結果論になってしまうところを否定するものではありませんし、あるべき「公正な価格」を探るために後出しジャンケン的に裁判所が株価算定を行うということも法の定めたルールに則った形であれば許容されるものと思います。しかし、予見可能性を重視することが経済社会の「効率性」に資するものであるならば、このような裁判所の判断過程が今後は広く受けいられるのではないでしょうか(もちろんご批判もあるでしょうけど・・・)。

同じような意味において、このたび「親権者(法定監督義務者)の子に対する監督責任」(民法714条責任)に関して最高裁で弁論が開かれたというニュースにも注目しています(ちなみに新聞記事では民法709条なのか714条なのかわかりませんでしたが、NHKニュースによって、714条責任が争点であることがわかりました)。責任能力に乏しい子供の過失行為について、親が監督責任を尽くしたことを立証できない以上は責任を負うことになります。

一般的には損害の公平な分担という見地から、親の監督義務の免責は容易には認められないと考えていますが、このたびの最高裁はこの「監督責任」の具体的な判断基準を提示する可能性は高いと思われます。仮に最高裁が新たな判断基準を示した場合、認知症高齢者の監督者責任などにも影響を及ぼす可能性があるはずです。ここでも「予見可能性」が問われ、監督者の行為規範が本気で議論されるきっかけになるのではないでしょうか。

3月 24, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年3月 9日 (月)

社外取締役候補者が気分を害するおそれのある定時株主総会(?)

今年は3月決算会社の定時株主総会(6月ころ)の準備が例年以上に忙しそうですね。総会担当者や監査役の皆様はまさに「有事」の状況にあるのではないでしょうか。おまけに5月下旬にはコーポレートガバナンス・コード(原案)が確定するとなっては、上場会社の場合にはパニックになってしまうところも出てくるかもしれません。

本日はホントにたいしたお話ではないのですが(忙しい方はスルーしてください)、会社法や会社法施行規則の一部改正に伴い、関係者の方々は改正会社法上の行為規範や開示規範(書類の記載事項のルール)がいつから適用されるのか、ということに配慮しなければなりません。ところで、いろいろと考えてみますと「これって社外取締役候補者が株主総会で気分を害する事態にならないか?」と不安を抱くところがありそうです(もし私の条文解釈が誤っていたら削除します-笑)。

特定監査役会設置会社が、事業年度末に社外取締役を置いておらず、新たに定時株主総会で社外取締役の選任を予定している場合、事業報告には「(当該事業年度において)社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載し、また(参考書類の記載は不要ですが)株主総会では「社外取締役を置くことが相当でない理由」を述べなければならないとされています(経過措置に関する条文からみると、そうなります)。立案担当者の解説では「(そのようなケースでは)理由は簡潔でもよい」と述べておられるそうですが、それでも理由の説明が不要とはされていません。とりあえず何か合理性のある理由を述べないと取締役の選任決議取消事由になってしまう可能性あり・・・などと言われますと、「テキトーに」と軽く考えることもできないですよね(^^;

ということは(普通に考えると)、新たな社外取締役候補者が出席している株主総会の場における議長の説明では「うちの会社は社外取締役がいると企業価値を害する、つまり百害あって一利なしだ。しかし法律が入れろというのでしかたなく一人入れることにしました」と株主には聞こえてしまうのではないでしょうか。いや、株主だけでなく、社外取締役候補者にもそのように聞こえてしまうのではないかと。まぁ、社外取締役候補者の方には事前に「こんなもんです」と説明できますが、一般株主にとっては「なんだ、この候補者は何もしないことが会社から期待されているのか?」と理解されてしまうのでは、と。

これはよほど説明に気をつけないと、株主や社外役員候補者に誤解を招くように思います。「今年の総会で社外取締役を入れない会社であれば(粛々と理由を説明すればよいので)とくに問題ない」と言われていますが、そのような会社でも社外取締役候補者の選任議案が株主提案として出された場合とかはどうなるのでしょう?別の社外取締役候補者は立てにくいですし、「反対理由」もむずかしいですね。

ともかく、新たに会社提案として社外取締役選任議案を出す会社まで、なぜ社外取締役を選任する総会で「置くことが相当でない理由」を述べないといけないでしょうか。行為規範の要件効果論による「理屈」としてはわかるのですが、現場の空気としてきわめて不適切な状況になってしまうように思いますが、いかがでしょう。それとも「今の今まで、当社は社外取締役は有害だと思いましたが、この候補者の方に接して考え方が変わりました!当社の考え方が間違っていました。企業価値の向上に資するものです!」とでも説明するのでしょうか?

3月 9, 2015 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年3月 5日 (木)

社外役員がボタンを押した大塚家具経営権紛争

本日(3月5日)、いよいよ金融庁有識者会議においてコーポレートガバナンス・コード案が確定するものと思われます。なかでも独立社外取締役の実効性については懐疑的なご意見も多いようなので、どのような内容で確定するのかとても注目しています。

ところで昨年12月12日に公表された「コーポレートガバナンス・コード原案」の原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)補充原則4-8①では、

独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、たとえば独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである(独立社外者のみを構成員とする会合については、その構成員を独立社外取締役のみとすることや、これに独立社外監査役を加えることが考えられる)。

とされています。上記補充原則が、正式なコードにおいて維持されているかどうかはわかりませんが、昨日(3月4日)リリースされたジャーナリスト磯山氏の記事「大塚家具「ワンマン」会長に、社外役員6人が突き付けた「改善要求6ヵ条」を公開。父娘対立の裏に深刻なガバナンス欠如があった」によると、今回の大塚家具さんの壮絶な経営権争いの発端は同社の全社外取締役、全社外監査役連名による要望書にあったようです(もちろん記事が正確であることを条件に・・・ということですが。しかし取締役会の内幕がこのように記者の知るところとなる・・・というのもなんとなく不思議な気もします)。まさにガバナンス・コード案にあるような、独立社外役員の協調行動が大塚家具さんのガバナンスを変える大きな要因になった、ということのようですね。

最近の東洋経済さん、ビジネスジャーナルさんの記事なども併せて参照してみますと、私が2月19日付けで書いたエントリー(大塚家具支配権争いにみる「社長解任の極意」)の予想とも一部合致するところが明らかになっています。昨年7月に現社長が解任された取締役会を取り仕切った方(そのときは解任議案に賛成5、反対1、棄権1 なお現社長の久美子氏は利害関係人として議決権は行使できない、というのが判例の立場です)が、今回の協調行動の直後に取締役を辞任されたのですね。その結果、今回は現社長の返り咲き(社長選任)議案について賛成4、反対3(なお選任議案については久美子氏は利害関係人とはみなされないので議決権を行使できます)というまことに微妙な僅差で議案が可決されたようです。まさに社外取締役がボードを握っていたことになります。

また、私の以前のブログでは「経営に参加していない親族の意向なども流動的」と書きましたが、社内取締役のおひとり(創業者の三女の夫)が、1月23日の取締役会では久美子氏選任について賛成に回っていたのですね。創業者の方は「あんなに面倒をみてきたのになぜだ!」と会見で憤っておられたそうですが、これはよくあることです。ひょっとして、この1月23日の取締役会で現社長(久美子氏)の選任議案だけを上程して、創業者の社長、会長解職議案を通さなかったのは、この社内取締役さんが「解職議案を出さないことを条件に賛成する」といった意見を述べていたからかもしれません(これはあくまでも推測ですが)。

そして議決権はないものの、社外監査役さん方の後押しが大きいと思います。もし上記記事が正確なものであれば、取締役の善管注意義務違反に関する意見なども出され、社外役員自身にも緊迫感が生まれてきたのかもしれません。先に述べたとおり、創業者側を支持されていた社外取締役の方は要望書提出後に辞任され、久美子氏解任議案が出された昨年の取締役会で棄権をされた社外取締役の方も、今回は選任議案に賛成されたのも、やはり社外監査役さん方の協調行動によるところが大きいのではないかと(ここはあくまでも私の推測ですが・・・)。社外役員6名が動くとなれば、いくらワンマン創業者といえどもガバナンスの変革を迫られる事態になる、ということがわかります。明治安田生命さんは社外取締役のみで構成される会議を創設されるそうですが、「社外役員会議」のようなものが社内で組織されるとなると、取締役会の雰囲気も変わりそうです。

なお、これは創業者の肩を持つ・・・というわけではありませんが、昨年7月に私がブログで書いた見立てについては、まだ私はこだわりを捨てきれないでおります。経営の第一線から離れた創業者の元には、現経営者から疎外された派閥や取引先などから「助けてください」との声が多数寄せられます。現経営者のコンプライアンス上の問題なども、そっと社内から届けられることも多いと思います。疎外された従業員や取引先の思いをなんとかしなければ・・・という気持ちが湧いてくると、もう一回会社を立て直そうと奮い立つのが創業者ではないでしょうか。そのような「立て直し」は、一方からみれば「情け容赦ない人事粛清」に映ります。世間では親子の確執だといわれていますが、私はいったんリタイヤした創業者の気持ちを奮い立たせるのは、やはり社内力学であり、気に入らないブレーンの存在であり、これはどこの企業にもあると感じています。

3月 5, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年3月 2日 (月)

日本型人事ガバナンスと社外取締役の役割

Tyuqq1298法律時報2014年10月号にて、日本を代表する商法学者でいらっしゃる江頭憲治郎教授が「会社法改正によって日本の会社は変わらない」とする論文を掲載されました。平成26年改正会社法は成長戦略を後押しするためのガバナンス改革を推進していますが、そもそも日本企業の(岩盤である)社内人事システムを変えない限りは、会社法改正が目指す方向によってガバナンスを変えても(取締役会の構成員として、社外取締役を過半数にしても)日本の会社は変わらない、という趣旨の論文です。そこでは経営者監督制度の欠陥は、資本市場衰退の原因としては「周辺的事情」にすぎないとされていました。

私もこの江頭論文にはたいへん感銘を受けまして、江頭先生が何度も引用されておられた三品和弘教授(神戸大学経営学部)の著書も2冊読みました(たとえば写真にある「戦略不全の論理」等)。また、日本の人事制度について少しでも理解したいと思い、楠木新氏の著書も読み(現在は最新刊の「知らないと危ない、会社の裏ルール」等)、大学時代の友人である某社人事部長からも参考意見を聞いたりしておりました。ただ、私の拙い理解力では、なかなか江頭論文に対する答えが見つかずに逡巡しておりまして、「どなたかこの江頭論文を正面から受けて立つような商法学者さんはおられないのだろうか」と感じておりました。

そしてこのたび、法律時報2015年3月号(上記写真)の会社法特集の巻頭論文にて、大杉謙一教授が「上場会社の経営機構」なる論文を発表され、この江頭論文に対するひとつの意見が出されました。これまで法律家が触れることができなかった日本企業の人事システム(社長がどのように決められるのか)とガバナンスとの関係を、日本型人事システムの長所・短所を検討しながら明確にしていこうとする試みは、非常に斬新で興味深いところです。結論としては、日本企業の業績向上のためには、経営者監督制度(社外取締役導入)は単なる「周辺的事情」ではなく、経営者の養成・選抜において果たすべき役割があり、日本企業はこの点において改善すべき課題があるとされています。

ここからは私の勝手な推測ですが、大杉教授には「法律学者は狭いジャンルに閉じこもっていてはならない、たとえば経営学や労務人事の領域に横たわる問題も考察して、普遍的な教養としてのガバナンス論を展開すべきである」との思いがあるのではないでしょうか。私も、このたびのガバナンスの論議では、「株主との対話」という時間軸が付与され、企業側には説明責任という「メッセージ性」が求められる時代となり、単に要件効果論を超えた「実学」としてのガバナンスを検討する必要性を感じていますので、この大杉教授の論文にはたいへん共感するところです。

大杉教授は管理技能要請を重視する日本の人事制度の中では、経営技能を必要とする経営者は生まれてこないし、経営者自ら学ぶにしても平均4年程度という社長在任期間は短すぎるので、この経営技能を補完するものが社外役員の重要な役目である、したがって経営者と対等に議論ができる社外役員の環境を整備することが必要だとしています。またそもそも多角化展開する企業にこそ社外役員は必須であるが、専業企業や創業者社長がリーダーとして君臨している企業、創業家が一定の株式を保有している企業にまで社外役員を強制的に導入することには疑問を呈されています。

大杉教授の論文では、こういった経営者監督制度を日本企業の業績向上に結び付けるためには企業側の「伝統と決別する意思」に期待するとされていますが、実務感覚としては、(もちろん企業側の胆力も必要ですが)むしろ社外取締役として会社経営に関わる側の胆力が求められているものと考えています。どんなに制度上「独立性」が求められたとしても、会社と全く無関係な人が社外取締役になるわけではありません。社長の知人や知人の紹介によるケースが多く、かりに全く知人ではないとしても、社外取締役候補者と社長との面談結果によって最終的には就任者が決まるのが一般的です。そのような経緯で社外取締役に就任した人が、本当に「経営技能の補完」機能を尽くすことができるのかどうか、これはなんらかの制度的保障が求められるように思います。その制度的保障としてふさわしいものが何かは、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの運用の中で検討されていくのではないかと。

大杉教授ご自身もお書きになっておられるように、この論文には多数のご異論、ご批判も出てくるかもしれません(とくに日本企業の共同体性格については、有識者の間でもいろんな意見があるのでしょう)。しかし大杉教授のあの名論文「監査役制度改造論」と同じように、今後の日本企業のガバナンスを語るうえで、(よい意味での)起爆剤(カンフル剤?)になり、さらには経営学や経済学の先生方から、この大杉論文への言及がなされ、ガバナンスが学際を超えた普遍的な「公共財」となることに期待をしたいと思います。

3月 2, 2015 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2015年2月24日 (火)

アートネイチャー株主代表訴訟最高裁判決の原審破棄理由

先週金曜日に出ましたアートネイチャー事件株主代表訴訟最高裁判決につきまして(金曜日のエントリーでは社名は伏せておりましたが)匿名さんや迷える会計士さんから有益なコメントをいただきました(ありがとうございます)。迷える会計士さんからは非公開企業の株式評価手法に関するご意見ですが、匿名さんは「そもそも論」として以下のような疑問を呈されています。

今回の最高裁の判決で一番良くわからないのは、破棄された理由が、法令解釈上の問題に全く見えないことです。実質的に事実認定の問題であり、下級審の判断に著しく不合理な部分があるという感じもしません。一応合理的な算定を会社が行なった形跡があれば、実質的に見て価格が不公正であっても、特に有利な価格であると認定してならないとかいう趣旨の法令解釈を判例として残したかったのでしょうか?

私は印象として「お天道様と最高裁は見ている」と書きましたが、正直、理屈としてはあまり詰めて考えておりません(というか、そこまで考える能力がありません・・・笑)。これはあくまでも推論にすぎませんが、民事訴訟においては当事者の鑑定申立(証拠提出)がないにもかかわらず裁判所主導で評価手法を決定して非公開株式の価格を算定する、というのは手続き違反に該当するというものではないかと。職権探知主義が妥当するのは株式の価格決定申立事件のような「非訟事件」のみであり、通常の民事訴訟の証拠採用においては裁判所の職権探知主義的判断は許されないという趣旨かと思いました。最高裁が下級審の株式価格の判断過程に対して厳しい指摘をしている部分の書きぶりから、なんとなくそう考えた次第です。

「特に有利な発行価格」という規範的要件の解釈としては、双方の評価根拠事実、評価障害事実を突き合わせて判断しなければ、裁判所のいうように当事者の「予測可能性」を超える判断をしてしまうことになるので、「一応合理性のある資料に基づくものであれば」といった言い回しになっているのかな・・・と思うのですが、いかがでしょうか。したがって、この「一応合理性のある資料」に基づく算定がなされたとしても、相手方が別途意見書を提出することや、当時の状況を主張することで(たとえば、迷える会計士さんがコメントされているように、ひょっとしたら株式発行当時、関係者らは株価上昇予測が立てられた、関係者からみて実質的に不公正な価格だと疑う余地があった、という主張などによって)反論することは可能ではないかと。結局のところ反論が成功しなかったということは、私が金曜日のエントリーで述べたように、役員側がコンプライアンス経営、透明性ある経営を継続することの重要性に起因するものと考えた次第です。

毎度判例を速報としてご紹介する際に、理屈のところをあまりブログで書かないのは、今後の商法学者の皆様の判例評釈などを精査しないと正確なことは言えないと思っているからでして、今回の推論も、あくまでも私の個人的な意見にすぎません。いろいろな法律雑誌で著名な先生方がどのように分析されるのか、私自身も楽しみにしています。

2月 24, 2015 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2015年2月23日 (月)

常勤監査役の責任限定契約締結は監査の実効性を上げるか?

監査等委員会設置会社への移行を表明した上場会社が順調に増えているようでして、20日現在で(私の知る限り)合計9社に上っています。サントリー食品インターナショナルさんのように、サントリーホールディングスや寿不動産という非上場親会社が存在することから、「うちの会社は決して親会社のほうを向いて事業をしておりません!一般株主のために事業をしていることを、監査等委員会設置会社に移行することで表明いたします!」と明確なストーリーを打ち出すところも今後出てくるのではないでしょうか。

さて、監査等委員会設置会社やコーポレートガバナンス・コードをとりまとめた東証上場規則案などが話題になっていますが、2月20日、JASDAQの共同ピーアールさんが常勤監査役の責任限定契約締結を可能とする定款変更議案を3月総会に上程することを表明しています(共同PR社のリリースはこちらです)。社外監査役さんが責任限定契約を締結できるところは多くの会社と同様だったと思いますが、このたびの会社法改正に合わせて、被業務執行役員については社内の常勤監査役さんでも責任限定契約が締結できるように同社の定款を変更されるそうです(もちろん株主さんの賛同が条件ですが)。

リリースを読むと、「取締役及び監査役が期待される役割を十分に発揮できるよう」責任限定契約を締結したい、とのこと。たとえば会長のような被業務執行取締役さんや、常勤監査役さん等が対象となるようです。常勤監査役さんの責任限定契約を認める定款変更議案はおそらく第1号ではないでしょうか。なお、このたびの改正会社法、改正会社法施行規則では、当該企業が監査役監査をどの程度重視しているか、という点について試金石となりそうな開示項目もありますので、今後の上場会社のリリースには要注意です。

この常勤監査役さんに認められる責任限定契約ですが、多くの監査役の方々が支持されているかどうかは明確ではないと思います。いま、私は日本監査役協会の講演で全国を回っている最中でして、この「責任限定契約」について意見をお聞きすることもあるのですが、この共同ピーアールさんのリリースにあるように「監査役に本来的に認められた権限を行使するためには効果的。監査環境の整備につながる」というご意見もあれば、ぎゃくに「監査役が責任ある立場からモノを言うからこそ社長が意見を真摯に聞き入れてくれる。責任が限定されているということであれば、言いっぱなしと思われてしまう」というご意見もあります。

なるほど、監査役さんの中でも意見が分かれているのだなぁと意外に思いました。ただ社外役員の責任限定契約とは異なり、会長さんや常勤監査役さんの責任限定契約締結を会社側が提案することについては、経営執行部が「監査」や「執行と監督の分離」の重要性について関心を抱いていることの証左でもあります。したがって対外的にストーリーを示す、という意味ではかなりインパクトはあるのではないでしょうか。監査等委員会設置会社への移行・・・という「監督重視」のインパクトはないかもしれませんが、取締役会の責務をどう考えているのか、経営陣のメッセージとしての意味がうかがわれますので、今後同様の定款変更議案がどれくらい出てくるのか、こちらも注目しておきたいと思います(実際に、このような責任限定契約を締結された監査役さんにとって、どの程度、契約の存在が監査業務への姿勢に影響を及ぼすのか、またお聞きしてみたいところです)。

2月 23, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年2月20日 (金)

お天道様と最高裁はみている-ある最高裁判決への雑感

本日(2月19日)、会社法に関連する重要な最高裁判決が二つ出ました。どちらもたいへん興味があるもので、また追っていろいろと検討したいと思うのですが、株主代表訴訟のほうについて本日はざっと判決文を読んだだけでして、雑駁な印象だけ述べておきたいと思います(最高裁のHPでいずれの判決も閲覧できます)。

日本システム技術損害賠償事件の最高裁判決(逆転で会社経営者側が勝訴した判決)でも感じましたが、お天道様と最高裁はよく見ているなぁと。行政、民事、刑事事件と異なり、商事事件というのは(最高裁裁判官にとって)あまり記憶に残らない分野の事件だと思うのですが(あくまでも私見です)、かなり丁寧に事案をみておられる印象です。

平成17年改正会社法が施行され、会社法関連の裁判当事者として大規模な企業が登場するようになりました。大規模な企業が訴訟で最後まで争うとなりますと、判決や決定の社会的影響を無視することはできなくなり、裁判所も判決の影響力に(これまで以上に)配慮しなければなりません。

そうなると、考えられることは、事例の特殊性を前面に出して「こういった事情があるから今回はこっちを勝たせた」といえるようにすること(一般的な法理のようなものは使わない)。そしてもうひとつは下級審で認定された事実を再検証したうえで「まじめに商売をしている人」が泣かない裁判を出すこと(企業法務で著名な法律事務所が登場したり、著名な弁護士が出てきて黒を白に変えてくれる、ということがあってはならない)ということです。

本件についていえば、たしかに論点は「非公開会社株式の割当価格が有利発行にあたるかどうか」ということですが、有利発行に該当する資料に何を使ったか、どのような計算方法を用いたか、平均の時価評価はどの程度であったか、ということよりも、時系列に沿って事実を再検証したうえで、会社が苦しくて、明日はどうなるかわからない状況でも、メインバンクに頭を下げて、従業員になんとか給与を払って、なんとか会社を支えていこうと努力している人たちには、その努力に報いるべく、その努力の経過を評価しようというのが最高裁の姿勢ではないかと。

何か紛争が勃発して、その後、優秀な弁護士が登場してビジネスの経過を無視して証拠をそろえてみても無駄、ということであり、ひごろからコンプライアンス経営を積み重ね、企業の持続的な成長のために経済的合理性のある行動を重ねている企業が勝てる司法制度であってほしいと思います。「予測可能性」という言葉が判決に登場しますが、結果の重大性から過失を認定したり、後日、会社が成功したから非公開株式の評価額を算定する、というのは後出しジャンケンの発想かもしれません(自戒をこめて)。

日本システム技術事件の最高裁逆転判決のときも、内部統制システム構築義務に関心を抱き、地裁や高裁判断を支持していた私にとっては、その結末に頭を殴られるほどの衝撃を受けました。上場会社の社長さんが「財務報告の内部統制」にどれほどの関心を持ち、その時代に上場会社の社長さんがリスク管理として自ら対策をとれる範囲は「この程度」と丁寧な事実認定のうえで社長さんの言い分を通した最高裁判決に、丁寧な事実認定と「日頃の行い」の大切さを再認識しました。もちろんビジネスの世界のことですから、リスクを背負うべき人はリスクを背負わなければならないので、一方がまじめでもう一方がふまじめといった割り切りではなく、あくまでも冷徹なバランス評価の問題です(そういった意味で、福岡魚市場株主代表訴訟の最高裁判決も、私はどっちに転んでもおかしくなかったのでは、と思っています)。

拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法のグレーゾーン」の第一章でも書きましたが、企業が会社法を活用することによって紛争を回避できるためには(つまり事業コストを下げるためには)、まじめな企業が行動予測が立てられる法律でなければならないわけで、会社法の行為規範、開示規範を誠実に守り、説明義務をきちんと尽くしている企業(もしくは関係者)が勝てることを、司法の側面から支援できるものでなければならないと思います。ステークホルダーに対して「公正で透明性ある経営を続けている」と胸を張れる企業に対して「お天道様はみている」といえる司法制度が求められているのではないでしょうか。

2月 20, 2015 商事系 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2015年2月19日 (木)

大塚家具支配権争いにみる「社長解任の極意」

大塚家具さんの親子間における支配権争いが一般紙が報じるほどに話題になっています。現在進行形の事件なので、法務に関わる論点を語ることは控えますが、昨年出版した拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の第6章「社長解任の極意」で述べたことが、そのまま現実化した典型例かと思われます。以下、拙著でポイントとして書いた順に述べますと、

まず「資産運用会社」をどちらが牛耳れるか・・・という問題です。本事件でも、保有株式数は10%程度と小さいものの、創業家一族が株主となっている資産保有会社(ききょう企画)の経営権をどちらが握っているか、という点がポイントです。現社長の両親とお兄さんVS現社長とその妹、弟らという構図だそうですが、なかには大塚家具の仕事とは全く無縁なところで過ごしておられる家族もいらっしゃるでしょうから、このあたりは流動的ではないかなと。あまりマスコミが触れていませんが、実はこういった資産運用会社の支配権をどちらが握るかということが極めて重要だったりします。

つぎにファンドの存在です。アメリカのファンドが大塚家具の株式を買い増して、約10%を保有しているとのことですから、このファンドがどちらにつくか・・・ということがポイントです。報道では現社長側を支援しているということですが、それこそ「株主との対話」の時代、ファンドとしては(会社側に)要求を受け入れされる恰好の場面です。そういえば、最近、上場会社における支配権争いが表面化した場合、どこかともなくアクティブファンドが買い増しをしている、といった例が多くなったような気がします。

さらに「社外取締役の活躍」です。拙著では「社外取締役が取締役会議長を務めることの影響」について書きましたが、大塚家具さんの件では、現経営者を創業者がいったん解任したとき、現経営者に近い社外取締役さんが取締役会を取り仕切ったそうです(東洋経済WEBの記事による)。ただ、今回は社外取締役さんは辞任の意向を示しているようなので、このあたりの影響も出てくるのではないでしょうか。

また、拙著ではメインバンクや監督官庁、顧問や相談役不在ということが支配権争いを誘発すると書きましたが、大塚家具さんのケースでも、そもそも創業者が当事者ですから、そういった「村の長老」による円満解決は期待できません。

そして最後に「株主総会の活性化」です。取締役会を舞台に社長解任劇が増えるのは、実は株主総会を舞台とした支配権争いの事例が増えたことによると思います。関連書類の閲覧請求権行使、臨時株主総会許可申立て、委任状争奪戦や株主提案行使、ホワイトナイトによる経営陣支援、とりわけ昨年の10月には第三者割当増資が「主要目的ルール」の法理によって裁判所で差し止められる事件まで出てきました。こういった株主総会でのドンパチの法的効果が取締役会におけるドンパチの帰趨にも影響が出てきていると推測します。

典型例と書きましたが、社長解任事件の支援は結構むずかしいのです。状況がコロコロ変わりますと、その状況に応じた対応策を検討しなければなりません。おそらく大塚家具さんの事件でも危機対応コンサルタントの方々が(弁護士とは別に)支援されているものと思います。いずれにしても、上場会社の支配権争いが表面化することは企業価値の毀損につながってしまうので、ひっそりと企業内で行われ、何事もなかったかのようにクーデターが鎮圧されてしまうか、もしくは取締役会の直前に決着して(経営者が)「一身上の都合により辞任」として開示されるのがベストプラクティスかと。

2月 19, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年2月17日 (火)

募集株式の有利発行決議の際の理由説明と決議の瑕疵

2月12日、ファッション通販の夢展望さん(東証マザーズ)が支配権の移動(0%→73%)を伴う第三者割当を実施することをリリースされています(リリースはこちらです)。同社を子会社化するのは、あのライザップのCMで有名な健康コーポレーションさんだそうです。今後の業務提携のシナジー効果や株価の帰趨はよくわかりませんが、2月10日の終値が600円程度だったのが、割当価格は192円ということで、かなりのディスカウント価格です。当然、現株式の価値を希薄化するものなので募集株式の有利発行に該当し、3月30日に開催される臨時株主総会で特別決議をもって承認されることが条件となります(会社法201条1項、同199条3項)。

募集株式の有利発行といえば、発行金額が「特に有利な発行価格」にあたるかどうか、という論点が有名ですが、有利発行に当たる場合には、株主総会で取締役が「当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由」を説明しなければなりません。そこで、たとえ決議が成立したとしても、この「理由」が客観的にみて合理性がない場合には株主総会の決議の取消事由となるかどうか、という論点があります。平成26年改正会社法372条の2(特定監査役会設置会社が社外取締役を置かない場合の理由の開示)に近い規定といえそうです。

この論点について(旧商法の時代ですが)鈴木・竹内「会社法(第三版)」(有斐閣)397頁以下では、

この必要とする理由の有無は株主総会の判断に任された問題であり、理由の開示は株主がその有利発行についての賛否を決する判断材料を提供するためである。したがって、理由を開示しなかった場合、有利発行に賛成するかどうかを判断するのに必要と思われる程度の開示がなかった場合、または事実と異なる開示がなされその結果決議の賛否に影響を及ぼす可能性がある場合には、決議取消の原因となると解すべきであるが、それ以上に進んで開示された理由が客観的にみて合理性のあるものでなければ決議取消の原因となると解するのは妥当でない

とされています(江頭先生も、割当第三者が議決権を行使しない状況を前提とすれば、ほぼ同様の見解かと)。なお、田中誠二先生は開示された理由が客観的合理性を欠く場合には決議取消原因となるとしており、そのほか、取消原因にはならないが、取締役の責任問題を生じるとする説もあります。

そもそも有利発行をしなければならない状況がある中で、「客観的合理性」の有無にどこまで司法が介入できるのか、という素朴な疑問もありますが(この状況では会社と取締役の間に利益相反構造があるとは言えないと思います)、上記の鈴木・竹内の見解を前提とした場合、「理由の開示はなんでもあり」というわけにもいかないような気がします。20年前と現在とでは、開示内容や開示方法も変わりましたが、それでも争いようによっては、「株主が賛否の判断を行うに足りる説明がなされなかった」とか「説明内容に虚偽記載があった」との理由で決議取消訴訟を提起する、ということも考えられそうです。ただ、有利発行による第三者割当を受け入れなければ債務超過となり上場廃止のおそれあり、といった状況が明らかとなりますと、既存株主側に争うための十分なメリットが必要ですね。

いずれにしても、このような状況において、夢展望さん側の情報開示の真実性や説明の十分性には慎重な配慮が必要ですね。

2月 17, 2015 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年2月12日 (木)

エンゲージメントの重要性は「株主との対話」だけではない

みずほフィナンシャルグループ、りそなホールディングスに続き、三菱UFJフィナンシャルグループも委員会設置会社(改正会社法では「指名委員会等設置会社」)に移行されるようです。また、1月終わりには2社だった「監査等委員会設置会社」への移行予定を表明した会社も、2月10日現在は5社(バイテック、アンリツ、岩塚製菓、コスモ石油、ジャフコ)となり、今後もガバナンス改革を実践する会社が増えそうです。

昨今のガバナンス改革では、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの適用のもと、「株主との責任ある対話」が求められていますが、対話が求められるのはなにも株主との間だけではありません。たとえば先の金融機関のガバナンスは「金融庁との建設的な対話によるガバナンス強化」が「平成26事業年度金融モニタリング基本方針」の中で明記されていますし、また日本証券取引所自主規制法人が昨年12月に公表した「エクイティファイナンスのプリンシプル」のはしがきにも、エクイティファイナンスの品質向上に向けて、プリンシプルを採用することで上場会社と証券取引所との対話が可能となる、と述べられています。

要は、仕組みの善し悪しを評価するガバナンスから、運用の善し悪しを評価するガバナンスへと転換するのであれば、望ましい方向へと企業を動かす方策としてプリンシプル(原則主義)と対話(時間軸)を活用する、ということでしょうか。ルールへの適合は得意でも、プリンシプルへの適合はあまり得意でない日本企業にとって、望ましい方向性を関係者との対話の中で構築していこうといったところかと。したがって「スピード経営の実現と経営の透明性、説明責任のバランスを確保するために、監査等委員会設置会社に移行しました」として、システムを作っても、対話の目的はそのシステムが動くプロセスにあるわけですから、安心はできないということになります。

プリンシプルはルールではないので、適合するかどうかは企業自身が決めることですが、「エンゲージメント」は対話双方の信頼関係を前提としますので、その信頼関係が破壊された場合には、「事実上の制裁」が待っている、ということになりそうです。では、この「信頼関係」の前提となるものは何か、さらに信頼関係が破壊された場合の「事実上の制裁」が一体何を意味するのか、ということを考えてみると、いろいろと面白い現象が浮かんできますが、それはまた別途検討していきたいと思います。

2月 12, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年2月 3日 (火)

ガバナンス・内部統制で盛り上がるか?-「良き制度間競争」

金曜日のエントリーにはたくさんのご意見、どうもありがとうございました。皆様方のメールやコメントのご意見を頂戴し、IPOを目指すベンチャー企業、執行と監督を明確に分離したい企業などにとって監査等委員会設置会社への移行が企業価値向上に有益である、とのお考えにも納得できる部分があると思いました。まさに監査役会設置会社と監査等委員会設置会社が同じくらいの数になって、良い意味での「制度間競争」が行われることにより、2年後の「社外取締役義務化への見直し」(衆参両議院での付帯決議)にも良い効果が上がるのではないでしょうか。

そういった競争のためには、20~30社などと言わず、1,000社くらいの上場会社が監査等委員会設置会社に移行する、というのも(国益からすれば)望ましいのかもしれませんね。また、単純に「仕組み」だけでガバナンスの善し悪しを判断する時代はもう終わったと思います。取締役会がどのように機能したからこそガバナンスが良い、悪いと評価されるのか、整備された仕組みがどのように運用されることをもって「良いガバナンス」を言うべきか、そこから再定義をすべきだと思います。せっかく「株主との目的ある対話」という「時間軸」がガバナンス論に付与されるわけですから、このような時間軸も併せ考慮した制度間競争が行われるべきかと。

さて、「制度間競争」といえば、これから盛り上がりそうなのが「内部通報制度と内部告発制度、いずれを優先することが企業のコンプライアンス経営、消費者の保護にとって得策か(費用対効果という面において優れているか)」という課題です。すでにご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、「日本版のウィキリークス」が始動するそうですね(正確には「Whistleblowing.jp」ホイッスルブローイング・ジェーピー、だそうです)。駿河台大の八田真行専任講師が、昨年10月に日本記者クラブで講演し、内部告発サイト「ウィキリークス」の日本版を、いよいよ今年2月に開設されるそうです。内部告発者はインターネットを通じてサイトに文書を送り、あらかじめ登録したレシーバー(受信者)が受け取る、匿名化ソフト「Tor(トーア)」を使い、内部告発者の素性は分からない仕組みにする、というものだそうです(こちらのニュースが詳しく報じています)。

すでに15名以上の新聞社、通信社の記者の方々とも(レシーバーとしての)合意をされているようで、いわば内部告発を容易にして不正行為を早期にあぶり出す、というもの。このような内部告発の容易化は、はたして内部通報制度(社内で通報を受ける制度)にどのような影響を及ぼすでしょうか?現在の公益通報者保護法は、内部告発よりも内部通報に対して通報者の保護要件を緩やかに規制する(つまり内部通報をした労働者の保護が厚い)、という手法によって、できるだけ内部通報が奨励されるようなインセンティブを付与しています。一方、この日本版ウィキリークスのほうは、内部告発制度と内部通報制度を「制度間競争」させて、企業側に「これだけ社員や取引先による内部告発が容易になったのだから、もっと内部通報の実効性を上げないと企業は大変な目にあいますよ」といったインセンティブをもって(企業に)内部通報を奨励させることになります。

ただ(水を差すようで恐縮ですが)、過去に当ブログで何度か警鐘を鳴らしておりますとおり、「裏内部告発窓口」というものには注意すべきです。反社会的勢力が裏で企業に圧力をかけるために内部告発を受け付けるというものです。もし内部告発が容易化する時代となれば、実名通報(つまり有力な証拠をもつ告発)がそういった裏窓口に届く可能性も増えてくる、という懸念です。それぞれの長所、短所をできるだけ明確にして制度間競争を図る必要がありそうですね。

最終的にはどちらが国民の生命、身体、財産の安全にとって好ましく、また行政規制にとって効率的か、という視点から判断することになるでしょうが、今後はこういった行政規制や政策法務の在り方がもっと増えてくるのではないでしょうか。この「日本版ウィキリークス」が企業社会にどのような影響を及ぼすものになるのか、今後も注目しておきたいと思います。

2月 3, 2015 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年12月15日 (月)

ダイバーシティは「男の約束」を反故にできるだろうか?

本日のエントリーは、あまり真剣に考え込まずにサラっと読み流していただく程度で結構かと思います(笑)。ドイツでは上位100社の大手企業の役員について、その3割を女性で占めなければならない、といった法案が閣議決定されたそうです(日経ニュース)。そういえばコーポレートガバナンス・コード原案にも「ダイバーシティ」に関する原則条項が含まれていますね。

さて、判例時報2232号(11月1日号)に、東京の超有名ホテルの建物賃貸借に関する裁判例(東京地裁平成25年10月9日判決)が掲載されています。原告、被告とも皆様ご存じのたいへん有名な不動産会社でして、原告が事業運営に関わっているホテルも超一流の著名なホテルですが、あえてここでは名前を挙げないことにします。

ホテル事業の運営を委託している原告(建物の借主)が、(ホテル事業の業績悪化を理由に)これまでの月額6120万円ほどの賃料から同5500万円程度への減額を被告(建物の貸主)に求めていましたが、東京地裁の判決では、様々な事情を総合考慮したうえで減額を認めています。被告側は逆に、ホテルの業績は上がらなくなったことが確定したことによって契約時の約束どおり(不確定期限の到来)過去に支払いを猶予していた分を支払えと反訴を起こしていたのですが、こちらは契約締結当時の状況からみて、そのような合意は認められず、請求に理由はないとして却下されています。

ところで、これほど高額な賃料を契約内容とする賃貸借契約であり、しかも原告・被告とも大手の不動産会社であるにもかかわらず、このホテルの賃貸借契約には(驚くべきことに)契約書が作成されていませんでした。もちろんしっかりした法務部がどちらの会社にも存在することは間違いないと思いますが、この判決文には何度も「男の約束」というフレーズが登場します。そうです、これだけのラグジュアリーホテルの運営に関する賃貸借契約が、原告会社の専務、被告会社の社長との間における「男の約束」を前提に成立していたのです。

賃貸借契約書が存在しなかったので、裁判所はもろもろの間接事実から契約の成否、契約の内容を合理的に解釈して判決までこぎつけた、というものです。しかし、現実には上記のとおり、契約内容をめぐって双方一歩も譲らない裁判沙汰になってしまっているわけで(現在も控訴審係属中)、明確な合意書が存在しないことからリーガルリスクが顕在化してしまった一例かと思われます(そもそも莫大なお金が流れる契約について「契約書が存在しない」というのは会計上も問題はなかったのかどうか、疑問もありますが)。

おそらく「男の約束」が結ばれたからこそ、大きなビジネスが進捗したのかもしれません。しかし、いくら社長案件、専務案件でも、このように大規模な裁判沙汰になってしまうというのはなんとも。。。もう少し小さな日常案件であれば、どちらの会社も法務部のきちんとしたチェックが入ると思いますが、なかなか一般社員が触れることのできない聖域(ブラックボックス)がどこの企業にもありますよね。こういった聖域こそ、ダイバーシティの精神にのっとり、「男の約束」で済ませるべきか、案件が進まないかもしれないけど取締役会での十分な審議を求めるべきか、検討しなければならないかと思います。さてダイバーシティは男の約束という「世界」にどう風穴を開けることができるのでしょうか。

12月 15, 2014 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年11月28日 (金)

ROE(自己資本利益率)からリーガルリスクを学ぶ

110645664211月25日の日経新聞電子版ニュースで、株主還元率を100%にする、と宣言したアマダ社の株価がいまひとつ向上しない、という記事が掲載されていました。宣言直後こそ株価が50%ほど向上したものの、その後は元に戻り、現在はPBRが1.04倍ということで、いくら株主還元率を向上させたとしても、本業によって儲けるためのストーリーを描けなければ株価向上にはつながらない、と記されています。

アベノミクス(安倍政権における経済戦略)のもとにおけるコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、そしてモニタリング・モデルによる取締役会の在り方を理解するうえに不可欠なのがROE(自己資本利益率)というキーワードであることは間違いないと思います。企業価値の測定において、ROEが絶対的な基準かどうかはわかりませんが、少なくとも国内・国外を問わず、株主が注目している数値であり、また成長戦略の道筋を示す伊藤レポートの中でも「最低8%以上」と具体的に数値目標が盛り込まれている以上は、株主との対話においては無視できないものと言えるでしょう。

さて、「20年ぶりにやってきたROEの時代」と言われていますが、株主との対話、取締役会における経営執行部の業績評価において、ROEをどう理解すればよいのか、その基本を理解するために本書はとても役に立ちました。いや、私自身「理解した」というのは言いすぎかもしれませんので、今後も読み返すことでしょうし、すくなくとも「ROEに関心を持てる」ようになりました。

勝てるROE投資術(広木隆著 日本経済新聞出版社 1,400円)

本日現在、アマゾンの株式投資部門の「ランキング1位」なので、ご紹介するまでもないのですが、著者の広木氏はマネックス証券のチーフ・ストラテジストの方です。タイトルを一読しますと、「ROEを学べば株式投資でガッポリ儲けられる・・・」といった趣旨で出版されているように思われます(たぶん)。ただ、私の個人的意見ですが、これほど題名と中身が違う本もめずらしいのではないかと感じました。それは「高いROEの会社の株を買ってはいけない」といった説明や、あたりまえのことですが、絶対に儲かるための企業価値指標などありえない、といった説明からもわかります。ともかく自分の手で計算して、企業業績と市場評価の変化を常に追いかけていることが大切とされていて、決して本書を読めばすぐに儲かる・・・とは書いていません。「ROEの死角」についても二章を設けて丁寧に解説されています。要はROEを学んだからといって、ガッポリ儲かる・・・というのは甘いということでしょうね(当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

ただ、本書は様々な運用機関でファンドマネージャーとして活躍されてこられた広木氏が、機関投資家の立場からROEを読者に真剣に理解してもらうために熱く語っておられるところが参考になり、十分元を取れる内容です。頭では勉強していても「では実際にROEは『目的ある対話』の中で、どのように共通言語として活用されるのか」というところが、本書によってかなり明快になってきます。資本コストとの関係についても解説されていますので、長期保有を目的とした機関投資家との対話というものもぼんやりとイメージが湧いてきます。

「本当はもっと正確に書きたいのだろうな」と拝察しますが、専門家たるファンドマネージャーとして、あえて一般の方に向けて「通訳」の役割に徹しているところがすばらしい。いまのROEの注目度からすれば「多くの経営者であれば、このように動くであろう」といった行動指標になるはずですから、資本政策にせよ、M&Aを含めた投資判断にせよ、経営者の行う判断の経済的合理性を理解するにあたって、ROEを理解することが今後役に立つだろうな、と思います。

経営者の不正や善管注意義務違反を問われかねない経営判断など、どれもいきなり社外取締役にはわかるはずもなく、ただ、「これは経済的合理性があるといえるかどうか」という視点から予兆を発見しなければなりません。これはオリンパス社の損失飛ばし・飛ばし解消スキーム事件から得た教訓です。また、実体的正義よりも手続的正義が重視される会社訴訟においても、経営者がリーガルリスクを回避するためには経済的合理性ある手続きを踏んだことを示す必要があります。ということで、バリュエーションの理解に乏しい私のような社外役員でも、リーガルリスクを低減させるための知恵を学ぶにはとても役に立つ一冊でした。

11月 28, 2014 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年11月21日 (金)

改正景品表示法のグレーゾーン-不正競争防止法との境界線

昨日(19日)、課徴金制度を盛り込んだ景品表示法改正法案が(衆議院解散直前に)なんとか成立しました。この法案の施行はこれから1年半以内、ということだそうで、今後も様々な話題を提供してくれるものと思います。

さて、あまり世間的に話題になっていないようですが、外食事業の木曽路さんの食材偽装事件について、10月末に(松阪牛の地元である)三重県の弁護士の方が不正競争防止法違反として、法人としての木曽路さん、そして事件のあった店舗の料理長2名について大阪府警に刑事告発をされたしたことが報じられていました。木曽路さんといえば、10月15日に消費者庁より景表法違反として行政処分を受けたばかりです。おそらくこの刑事告発をされた弁護士の方は、「食材偽装により、松坂牛のブランドが大きく毀損されたのだから景表法違反など甘い!不正競争防止法違反で厳罰を与えるべきだ!」といった気持から告発をされたものと推察いたします。

刑事告発によって木曽路さんの第三者委員会の活動はどうなってしまうのだろう?・・・といった興味もありますが、実はこの告発は、景表法改正法案との関係で大きな問題提起を含んでいると考えます。たしかにメニュー偽装事件とはいえ、産地偽装に該当するものだから刑事罰が適当ではないのか?不正競争防止法2条1項13号に基づく「誤認惹起行為」に該当するものであり、同法21条2項、同22条1項によって刑事罰に値するのではないか?本件は「誤表示」ではなく悪質な行為であるから刑事罰が適当、といった考えもありうると思います。

これまでは、この景表法違反行為と不正競争防止法違反の境界線は極めて曖昧であり、明確な判断基準はないものとされてきました。なんといっても経産省が管轄としている不正競争防止法における「誤認惹起行為」には、行政処分が規定されていません(差止めや損害賠償等による民事救済と法人処罰を含む刑事罰のみ)。したがって、刑事罰適用のためには罪刑法定主義が前提となりますので、その構成要件の解釈はかなり厳格です。まず刑法の視点からは、おそらく料理の偽装というのは「商品、役務の偽装」には含まれないのではないか、といった保守的な解釈指針の運用により、摘発の枠外にあったと思います。また、刑事訴訟法の視点からは、刑事立証の容易性という配慮から、不正競争防止法上の「誤認惹起行為」を認定するためには、業者→業者といった取引を「不正競争行為」として、被害業者からの明確な証言を立件の証拠方法としています。

ところで、景表法に課徴金制度が導入されるとなりますと、消費者庁は措置命令前の調査、そして課徴金処分前のヒアリング等に基づき、偽装事件に関する事実認定のための立証活動をかなり積むことになるのではないでしょうか。とりわけ課徴金処分に企業側の主観的要件が必要とされたことから、悪質性を立証するスキルが高まることが予想されます。また、一方の企業としても、課徴金処分について、行政処分であるがゆえに、(粉飾事件と同様)争わずに早めに事件を終結させることが増えるのではないでしょうか。そうなりますと、景表法と不正競争防止法のクロスする部分において、課徴金処分の前例が積み上げられることによって不正競争防止法の要件解釈が緩くなってくることが考えられます。また、昨年の「東大阪ライスネットワーク事件」において、大阪府警、大阪地検は、不正競争防止法違反として、業者→消費者の取引を「不正競争行為」と捉えて、米穀販売会社の経営者を逮捕、起訴することにも踏み切っています。こうなりますと、ますます景表法と不正競争防止法の選択適用、さらには重畳適用の余地は広まってくることが予想されます。

消費者庁としては、経産省や検察庁、各都道府県の行政機関との連携により、消費者に対する商品表示上の偽装について課徴金処分とするのか、それとも(不正競争防止法により)刑事罰を適用すべきか、そのあたりの選択の幅が広がり、まさに(課徴金処分と刑事告発の選択において)粉飾事件やインサイダー事件をさばく証券取引等監視委員会と同様の権限を持つ可能性もあるのではないかと(もちろん、そうなるためには人材の育成も不可欠となりますが)。いずれにしましても、景表法に課徴金制度が認められる・・・ということは、景表法の枠内だけで考えていても企業のリスク管理としては不十分です。他の法令との関連性にも配慮しなければならないと考えています。まず第1弾は不正競争防止法との関係でしたが、また近いうちに第2弾について考えてみたいと思います。

11月 21, 2014 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年11月12日 (水)

社外取締役・社外監査役研修の必要性を痛感させる判決-シャルレ株主代表訴訟事件

(11月12日午前、若干修正いたしました。)

最近の社外取締役ネタといえば、企業価値の向上(企業の持続的成長)に資するか、「株主との対話」においてどういった意義があるか、といった「役割論」に関する議論が中心ですが、かりに元経営者や現経営者の方が、他社の社外取締役に就任するのであれば、「真剣に社外役員法務研修を受けておいたほうがいいのではないか?」と思ってしまうような判決が出ています。これから社外監査役に就任される方はセイクレスト事件判決、そして社外取締役に就任される方は、このシャルレ事件判決をよく読んでから就任したほうがよろしいのではないかと。また、最近話題の社外役員特約のある役員賠償責任保険についても検討しておくべきと思います。

すでに拙ブログでもご紹介しているシャルレ株主代表訴訟判決(神戸地裁)の判決全文が11日に朝日「法と経済のジャーナル」有償版でリリースされており、ようやく全文を読むことができました。著名ブログや判決雑誌等で、この事件の判決要旨は紹介されていましたが、(私が要旨を読むときに見落としていたのかもしれませんが)、判決全文を読んで驚きました。シャルレの事件当時の社外取締役3名の行動に、会社法上の善管注意義務違反(情報開示義務違反)が認められていたのですね。一般投資家に誤解を招くような情報開示について、これを容認していたことが、社外取締役らの情報開示義務違反とされています。

新聞報道でも「社外取締役3名の責任は認められなかった」とありましたので、私はてっきり善管注意義務違反の主張自体が否定されていたものと思っていました。しかし判決を読むと、原告株主が主張していた(社外取締役らの)善管注意義務違反が認められ、その代り、損害との間の相当因果関係は認められないとして責任が否定されていたようです。このパターンは、有名な大和銀行株主代表訴訟事件判決で、ニューヨーク支店に往査に出かけた監査役さんの善管注意義務違反が認められつつも、損害との間に因果関係が認められない(したがって法的責任は否定)とされたのと同じですね。

シャルレの神戸地裁の判決について、原告・被告双方から控訴がなされたこと、また原告株主には「株主の権利弁護団」の弁護士の方々が支援をしていることからみても、今後もガチンコ勝負の様相であり、社外取締役の法的責任に関する争点について、控訴審、最高裁の新たな判断が出てくる可能性があります。アーバンコーポレーション株主損害賠償請求事件判決のように、役員の金商法上の責任が認められる・・・ということでしたらまだしも、金商法上の開示責任が及ばない開示情報(ここでは賛同意見表明)に会社法上の善管注意義務違反が認められる、ということについては、社外取締役や社外監査役の実務に影響を及ぼしかねない判決です。著名な学者さんや法律実務家の方による判例評釈で、この判決がどのように受け止められるのか、解説が待たれるところです。MBO固有の事情の下での情報開示義務、と限定してよいのかどうか、レックスHD事件で明らかにされた取締役の情報開示義務とどう異なるのか、もっと広く、社外取締役の情報開示義務について妥当するのか、という点についての解説を期待します。私もまだざっと一読したにすぎませんので、もう少し、事案の特殊性などを含めて検討してみたいと思っています。

ともかく、文書提出命令に関するリスクを含め、このような判決が出る時代となれば、現役の社外役員の皆様、これから社外役員に就任される皆様に向けて、大手法律事務所の先生などが中心になって「社外役員研修」をされるほうがよろしいのではないでしょうか。あっでも、この判決文に登場される多くの著名法律事務所(笑)の先生方は、当事者なので無理かもしれませんが(^^;

11月 12, 2014 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2014年11月10日 (月)

経産省「営業秘密管理指針」は裁判所をどこまで拘束するか

経産省「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」が検討を進めている営業秘密管理指針が改定されるようです。全面改定案が経産省の小委員会資料として公表されており、マスコミでも公表案の中身について報じられています(たとえば北海道新聞ニュースはこちらです)。

10月31日の日経新聞の記事もそうですが、今回の管理指針の改定によって、企業の営業秘密として保護される範囲が広くなり、たとえば書類に「マル秘」と書いていたり、金庫の中に書類を保管していれば「秘密管理要件」を満たすことになる、とのこと。どこのマスコミの記事を読んでも、この営業秘密管理指針を改定すれば営業秘密としての保護範囲が広まる(要件が緩やかになる)ように思えます。

しかし、営業秘密保護の根拠法令は不正競争防止法であり、これを解釈する権限があるのは裁判所であって行政当局ではありません。書類に「マル秘」と書いていたとしても、それを根拠に損害賠償や侵害差止が裁判所でも容認されるかどうかはわかりません。このあたりはマスコミの記事は若干誤解を招くのではないでしょうか(あくまでも行政としての指針であることは、管理指針案の冒頭でも注意的に書かれています)。

たしかに経済産業省・企業価値委員会が過去に買収防衛策ガイドライン、MBOガイドライン等の会社法解釈指針を公表し、裁判でもこれが斟酌された実績はあります。また、過去の営業秘密管理指針が斟酌された例もあるようです。しかし、訴訟で訴えられる側が防御のために指針を持ち出す場合と、訴えるほうが攻撃(要件該当性の積極的立証)のために指針を持ち出すのとでは、裁判所への影響度が全く異なるものと思います。これまで裁判所が指針を斟酌したのは、いずれも被告側が要件該当性を否定するための根拠のひとつとして引用したもののようです。

個別具体的な紛争の解決のために法令を解釈する司法判断としては、個別事案の解決に必要な範囲でのみ法解釈を行えば足りると思われますので、たとえば「秘密管理要件」の判断にあたっても、具体的な紛争の実態から「アクセス制限」と「認識可能性」の判断基準を使い分け、これを調整弁として活用してきたものと思います。裁判所はめったなことでないと、紛争解決のための抽象的な判断基準を定立しないと思いますので、この営業秘密管理指針が、法規範性を持つことはないものと考えています。

営業秘密の保護要件については、裁判所でも、これまで緩和されたり、厳格になったりと、その傾向には変遷がみられますので、この営業秘密管理指針についても、最近の裁判例を吟味したうえで、現時点における裁判判例の到達点を確認する、という意味に捉えておくべきではないでしょうか。日本の「稼ぐ力」を伸ばすためのイノベーション改革のためには、むしろ早期に(解釈に頼るのではなく)法改正によって対処すべきだと思います。そのほうが最近の諸外国の営業秘密政策とも足並みがそろうのではないかと。

11月 10, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月28日 (火)

多議決権種類株式の活用に関する2つのアプローチ

今朝(10月27日)の日経新聞に「ベンチャー上場 もろ刃の種類株」と題する記事が掲載されていました。グーグルやフェイスブックの経営陣が活用している多議決権種類株式について、日本企業ではほとんど活用されていませんが、サイバーダイン社の上場で活用された例なども出てきて、今後は広く活用が検討されるべきではないか、というもの。ただし事業が傾いたときに、経営者を交代させにくいことから、コーポレートガバナンス改革の波に反する可能性もある(したがって両刃の剣である)、とされています。

いっぽう、タイミング良く、旬刊商事法務の最新号(2046号)の座談会記事「企業統治制度改革のゆくえ(下)」でも、今後の企業統治改革の課題として、この多議決権種類株式の活用が話題に上っています。現経営者の人的資本を尊重するための活用という視点もありますが、興味深いのは、モノ言う株主が経営者と対峙する際に、その地位を強化する目的で多議決権種類株式を保有してはどうか、経営者が短期的利益追及から解放されるよう、短期保有株主の議決権行使を制限してはどうか、ということが重点的な検討課題とされています。まさに長期保有株主と短期保有株主のバランスを図るための、そしてガバナンス改革のための多議決権種類株式の活用、ということであり、アプローチがベンチャー企業向けの活用方法とは異なるようです。

ベンチャー企業での活用・・・ということはよく語られていましたが、上記座談会での話題のようなアプローチでの話はあまり考えていませんでしたので新鮮でした。たしかにオックスフォード大学のメイヤー教授のこちらのインタビュー記事にあるように、dual class sharesが世界的に活用されている、ということなので、日本でも多議決権種類株式の活用が検討されることは、とくに違和感がないのかもしれません。

もちろん、日本の会社法はかなり厳格に株主平等原則、一株式一議決権の原則を維持していますので、簡単に導入できるようなものではありません。新規上場時でなければ議決権の異なる種類株式を発行できないような東証のルールも存在します。しかし、会社法は関係者の民事上の権利調整ルールであることが第一なので、関係者の利益調整が可能であるならば、これから法的なルール作りを行うことは困難ではないと考えます。市場との対話を重視し、種類株式の活用に関心を持つ上場会社の経営者が増えてくれば、企業統治との関係でも長期保有株主の優遇措置の適法性といったテーマが検討されるようになるかもしれませんね。

10月 28, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月24日 (金)

マタハラ訴訟最高裁判決が企業法務に及ぼす影響(私の意見)

既にマスコミでも大きく報じられているとおり、マタニティハラスメント(マタハラ)に関する最高裁判決が23日、第一小法廷で出されまして、原審について破棄差戻しとなりました。すでに最高裁のHPには判決全文が掲載されています。

行政官時代に男女雇用機会均等法を作った方(正確には重要な法改正に携わった方)が裁判長ということで、これ以上ない「事件のめぐり合わせ」だったわけでして、男女雇用機会均等法における不利益処分禁止条項の強行法規性を確認したうえで、「降格に関する同意の有無」を形式ではなく、実質的に判断すればこのような判断内容になる・・・というのが素直なところではないかと思います。裁判官は全員一致の判断ということですが、すでに事件配転前の調査官レベルでも同様の判断ではないかと推測いたします。

ただ、私が企業法務の視点から注目するのは櫻井裁判長の補足意見です。今回は男女雇用機会均等法上の降格処分の違法性に関する争点が判断の対象でしたが、育児・介護休業法10条の解釈問題にまで踏み込んだ意見を示しています。私も本件判決が出る前から、少子化、高齢化社会における労務管理の在り方にどのような影響が出るのか、という点に関心がありました。企業は、男女雇用機会均等法9条と同様の趣旨で、育児・介護休業法の規定するところを順守すべき、と補足意見を述べた意義は大きいと思います。

おそらくこの櫻井裁判長の補足意見については、最高裁、とりわけ調査官からは相当に異論があったのではないかと想像します(あくまでも推測ですが、司法が紛争の解決に必要な範囲を超えて法的解釈の指針を示すのはいかがなものか、といった意見は当然に出てくると思います)。それでもこれを書ききった、という意味は、これからの労務管理体制の整備という企業実務に与える影響は大きいものがあると思います(やはり法曹以外の出身者が最高裁の判事に就任している意味は大きいなぁと感じます)。男女の雇用問題だけでなく、男女関係なく、育児や介護と仕事とのバランスを企業が支援していく体制作りが強く求められることになりそうです。

ただ、公益通報者保護法の問題点と同様、あまり企業に厳しい体制作りを求めると、逆に中小の事業者への浸透度が低下するおそれもあります。判決文にも出てきますが、法律だけでなく、法律の趣旨を実現するためのガイドラインの役割、そして企業自身が策定する自主ルールの役割が、今後さらに重要になってくるのではないでしょうか。

10月 24, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月23日 (木)

少数株主を蚊帳の外に置いた議論はマズイのではないか?

日本再興戦略改訂2014を受けたコーポレートガバナンス改革が進んでいます。金融庁有識者会議ではコーポレートガバナンスコードの策定のための審議が進み、また経産省では伊藤レポートを受けた「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」が立ち上げられ、すでに研究会がスタートしています。

「私も退院したら一度資料などに目を通してみよう」と考えていましたので、さっそく最近の委員会や研究会の議事録、資料などを拝見いたしました。しかしビックリ!といいますが、たいへん驚いたのは「株主との対話促進」の一環として株主総会プロセスの在り方や企業情報開示の検討がなされていることです。これは本当にビックリしました。私の理解では、株主総会プロセスの在り方や開示・監査の問題は、株主との対話の前提であり、(機関投資家の方々の活躍が期待される)対話促進をどうすべきか、という点とは別の議論だと認識していたからです。

実際にも、昨年出版された「株主と対話する企業」(三菱UFJ信託銀行証券代行部 日本シェアホールダーサービス編著 商事法務 2013年)を読みますと、実質株主の議決権行使に関する論点は掲示されているものの、そのほとんどはIR・SRに関する話が中心であり、ましてや基準日問題、招集通知、総会開催日など株主総会プロセスの在り方、開示制度などに関する記述はほとんどありません。

株主総会プロセスの在り方、開示・監査に関わる検討ということであれば、これは会社法や金商法に深く関わる論点なので、機関投資家と会社との関係だけでなく、むしろ一般株主、個人株主といった少数株主保護の要請についても検討課題になるはずです。しかし、上記の金融庁や経産省の委員会等での議論は、はたして少数株主の利益を代弁する立場のメンバーや委員の方は入っておられるのでしょうか?もし入っておられないとすれば、これは(少数株主保護の視点をあえて意識しておかねば)かなりマズイのではないかと思います。なぜなら、これからの企業の紛争リスク、レピュテーションリスクを左右するのは少数株主の活発な活動に依拠するものと思われるからです。

Grayzoon00910月中旬に発売されました拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」でも少し書いていますが、平成17年改正会社法によって大規模会社も積極的に会社法を活用するようになりました。その結果、大会社の紛争事案も増え、ガバナンスの在り方に影響を与える参考判例も増えています。価格決定申立事件等の商事非訟事件、株主代表訴訟等の商事訴訟事件とも、個別案件を処理するだけのルール定立にすぎないかもしれませんが、原告勝訴・敗訴にかかわらず、実務に影響を与え、このたびの平成26年改正会社法にも影響を及ぼしています。

私は「機関投資家を中心とした株主との対話+取締役会改革」という図式のガバナンス改革であれば、それほど少数株主保護の必要性は高まらないと思っていたのですが、「株主との対話」の中に株主総会改革や開示・監査という、対話の前提となるルールに関する改革まで含まれるとすれば、これは、一つ間違えると少数株主の利益がないがしろにされてしまう可能性が高まるため、司法紛争に巻き込まれる会社が増えるのではないかと推測します。

SNS等、ネットコミュニケーションの発展により、個人株主が情報を共有する体制は整いつつあります(たとえば山口三尊氏のブログでは、すでにシャルレ株主代表訴訟判決の要旨が詳細に紹介されています)。先日のシャルレ株主代表訴訟事件、住友電工株主代表訴訟事件等でおわかりのとおり、少数株主による文書提出命令申立により、企業役員の社内メールの内容等を原告株主が容易に知るところとなり(もちろんフォレンジックの進展によって削除メールも復元されることになり)、お金の問題よりも、ガバナンスの問題に焦点を当てて「負けてもいいから、ナットクのいく判決、決定を」といったスタイルで訴訟を争う少数株主、また支援する方々が増えています。このような社会環境において、少数株主への配慮をせずにガバナンスルールを定立することは、企業にとってリスクはかなり大きいのではないでしょうか。

本日(10月22日)の日経経営者ブログにて、丹羽宇一郎氏が「沈黙のらせん」について述べておられます。「沈黙のらせんとは、少数意見が多数意見に押されて意見を言いにくくなり、そのためさらに少数意見が軽視されていくという、世論形成の悪循環のこと。結果として、多数派の意見が実際よりも多くの人に支持されているように見えてしまう」とのことで、少数意見に光が当たることの大切さが示されています。株式会社の株主にも言えることであり、少数株主の利益保護にも配慮したガバナンス改革によって、たとえ少数株主から提訴されても裁判所で「門前払い」されるようなルールを考えるべきか、少数株主への配慮は後回しにして、その代わり、取締役の善管注意義務違反が争われる事件を何年も抱えることも厭わないと腹をくくるべきなのか、そのあたりの判断は避けて通れないのではないかと思います。

10月 23, 2014 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年10月21日 (火)

取締役の公正価格配慮義務(MBO)-シャルレ株主代表訴訟判決

入院中、気になっていた事件のひとつがシャルレ株主代表訴訟判決でした。世間の関心はイマひとつ(イマふたつ?)ですが、経営陣のMBO手続き違背が、取締役の善管注意義務違反となることを認めたシャルレ株主代表訴訟判決が10月16日に神戸地裁で出されています。MBOの手続き違背の疑いが、少数株主の株式価格の適正性判断に影響を及ぼす事例はレックスHD事件等で前例がありますが、ズバリ取締役の法的責任に影響あり、とした判決はあまり前例がありません。神戸大学の近藤光男教授も「この判決は画期的」と評されており(毎日新聞ニュース)、今後は著名な先生方による判例評釈なども書かれるところかと。

判決によると、平成20年9月、シャルレ社では創業家が一般投資家らから全株式を買い取るMBOを行い、非上場化して経営再建を図ると発表されましたが、その際、元代表取締役社長は買い取り価格を決める担当者に数値操作などで価格を低く設定するよう指示し、別の元取締役も指示を知りながら見過ごした、と認定しています。このような取締役らの介入は内部告発で明るみに出てMBOは結局頓挫しましたが、同社が混乱収拾のために行った社内調査や株価の再算定などの費用を損害とされています。

まだ病み上がりなので(笑)、私的に関心のあるところを備忘録的に列記しますと、

①社外取締役3名の善管注意義務違反は認められていないこと。公正な価格形成の阻害について積極的な役割を演じたこと自体を善管注意義務違反と捉えているものと思いますので、社外取締役らの善管注意義務違反は否定されたのかもしれませんが、原告株主はこの点についてはナットクできないとされており、控訴審の中で改めて争点となるようです。社外取締役らがMBO価格につき「賛同の意見表明」を行っている点をどうみるべきでしょうか。

②信用毀損を「損害」とは認定していないこと。取締役らの不適切行為によって企業のレピュテーションが毀損されたことについては、これを損害として認定されていません。この点も原告株主が控訴審でさらに主張することになるのではないでしょうか。なお、第三者委員会の設置費用を損害として認定している点は以前のブログでも触れています。

③内部告発の存在。そもそも取締役らの不適切な行為(株主の利益配慮を無視した行為)について、関係者から大阪証券取引所(当時)に対して内部告発があり、これが発端となって不適切行為が判明した経緯があります。社内力学の歪みがあったからこそ、本件が発覚したということになります。

④文書提出命令が出されたこと。ニュース記事によると、損害賠償責任が認められた取締役らについては、MBOの価格形成に影響を及ぼす行動として、大量のメールを発信していたことが根拠とされています。たしかこれらのメールは、原告株主が文書提出命令を申立て、平成24年5月の時点で、これが認容されたことによって発見されたものと思います。したがって、原告一部勝訴(取締役に善管注意義務違反を認める判断)の結論に至ったことについては、文書提出命令が認められた点も重要ではないかと思います。

本件は、MBOが成立しなかったという特殊事例に関する判決であり、取締役の行動規範を一般化するうえで、どれだけ参考になるかはわかりませんが、興味深い論点が多数含まれていることは事実です。控訴審の行方も気になりますが、ともかく上記はニュース記事に基づく印象にすぎませんので、できるだけ早く神戸地裁の判決全文を読んでみたいですね。

10月 21, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年8月 7日 (木)

動き出した中国独禁法による日本企業調査-国際カルテル摘発か?

たしか6月10日のロイターニュースが第一報だったかと思いますが、いよいよ中国(国家発展改革委員会)が独禁法違反容疑で日本企業12社の調査を終え、今後制裁処分の検討に入る、ということが8月6日、各メディアで一斉に報じられています。これまで欧州裁判所による独禁法制裁の運用を研究してきた中国にとって、日本企業はたいへん美味しいターゲットです。中国では商業賄賂に関する摘発も検討されているところですから、日本企業も本腰を入れてコンプライアンス・プログラムの実践を法務担当任せではなく、経営者レベルで開始しなければならないと思われます。

国際カルテル事件の摘発は、中国だけでなく、シンガポールやインド、そしてロシアでも検討されているので、今後はますます全世界レベルで日本企業がターゲットにされる可能性が高いと思われます。さらにおそろしいのはDOJ(米国司法省)の更なる日本企業叩きです。これから12月にかけて、これまで以上にショッキングな事例が複数報道されることが予想されます(米国のアンチトラスト法違反事件の最前線で活躍されている法律実務家の方は、すでにこういった事例と闘っておられるようです)。日本の「正義」ははたして諸外国で通用するのでしょうか、それとも諸外国には日本企業が想定できないような「別の正義」が横たわっているのでしょうか。

ともかく平時のコンプライアンス・プログラムの実践、有事のリニエンシー、アムネスティプラスの実践、情報管理体制の確保というところが、重要な課題ですね。報道される国際カルテル事件の大きさに驚いて思考停止に陥るよりも、、そういった摘発が自社にも及ぶのか、知恵を働かせて、その発生可能性を合理的に検討することが大切だと思います。使える知恵を養うことが肝要かと。

8月 7, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年7月28日 (月)

取締役の遵法経営義務の履行とその重過失について

3月の こちらのエントリーでご紹介しましたように、今年2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料相当額など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ています。一審の判決とは異なり、控訴審は逆転で元社長ら4名の取締役に対して、遵法経営義務違反、監視義務違反による重過失を認めたわけですが、その判決全文が(もう2か月ほど前のことになりますが)金融商事判例1441号に掲載されているので、ようやく全文を読み通しました。

遵法経営義務の内容ですが、特定商取引法に違反する解約金清算方法が最高裁判決によって無効と宣言されるまで、これを是正するための内部統制を構築する義務と捉えられているようです。具体的には東京都からの指導があったり、いくつもの苦情が申し立てられていたことが、大きく影響しているものと思います。さらに、「重過失あり」とされた根拠は、そういった指導があり、また消費者団体から何度も解約金清算方法は違法だと指摘されていたにもかかわらず、最高裁が明確に違法と認定するまで、何度も(違法と思料される清算方法を)繰り返していた点に求められています。

この「取締役の遵法経営義務」というものですが、取締役を名宛人とする法令であっても、また会社自身を名宛人とする法令であっても、取締役としては同じく法令を遵守しながら経営をしなければならない、ということであり、遵守すべきか否かという点には経営判断原則が適用されることもない、ということだと理解しています。ただ、遵守すべき「法令」が明確な場合であればよいのですが、このNOVAの事件のように「法令違反かどうか、最高裁まで争いたい」という場合でも、後日遵法経営義務違反となり、場合によっては経営者に重過失まで認められる・・・ということは、企業側からみると、やや脅威に感じるのは私だけでしょうか。実際この裁判では、取締役側も「経産省の通達の趣旨にしたがって解約金清算方式を採用していたのだから、最高裁では逆転判決が出ることを期待していた。そのことに何の非難もされるべきではない」と主張していたのですが、高裁はこの主張を「取締役に重過失がなかったことの根拠にはならない」として、全面的に否定しています。

ちなみに監査役の方々に対しては、いわゆる「黄色信号理論」によって請求は棄却されていますが、他の取締役の方々に監視義務(重過失あり)が認められているにもかかわらず、何故監査役さん方には黄色信号が点滅していた、と認定されなかったのか、やや疑問を感じるところです。やはり、裁判官にはまだまだ監査役の具体的な実務というのが理解されていないのかもしれません。

行政からの指導、消費者団体からの警告、下級審における敗訴・・・ということが重なった場合、経営者としてはこれに従わねば遵法経営義務違反(善管注意義務違反)となる可能性があるとするならば、会社法上で求められる行為規範と最近のコンプライアンスの考え方が、かなり接近してきているのではないかと感じるところです。本事件は現在上告(上告受理申立)中ということで、まだ確定しておりませんが、平成12年の野村證券損失補てん事件最高裁判決の内容に近いものとして、(第一審と判断が異なるところもあり)もう少し話題になっても良いのではないかと思いました。

7月 28, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年7月24日 (木)

「お家騒動」の背後にあるもの-大塚家具創業家社長解任に思う

家具インテリア大手の大塚家具さんの創業家社長さん(創業者のお嬢様)が、取締役会で解職されたそうで、父親である創業者の方が社長に復帰されるようです(リリースを読むと、代表取締役を解職され、社長職も解任されたそうです)。そういえば今年5月にも、伊勢の赤福さんで、創業家会長の長男である社長さんが、会長である父親から、株主総会で取締役たる地位を解任されました。いわゆる「お家騒動」といわれるものですが、なぜ親子で経営権をめぐる骨肉の争いを繰り広げる・・・ということになるのでしょうか。普通に考えてもなかなか理解しにくいところです。

大塚家具さんや赤福さんがそうである、とは申しませんが、ときどき創業家親子で社長解任劇が起きる場合、社長に就任させた身内の蔭にひそむ「番頭さん」やコンサルタントの方が気に食わない・・・ということが発端となります。創業者の方は、自身が選任した新社長さんですから、そんな簡単に解任させることはないと思います。むしろ新社長の権限を借りて社内で勢力を増す番頭格の幹部の方や、社外の顧問のような方が、徐々に社内で勢力を拡大するケースがあります。そういった方が勢力を拡大すると、昔から創業者の方に仕えていた人たちは、いろんな不正不満を会長さん(創業者)にぶつけます。そんなところから、創業者としては、とりあえず一度「支配権の歪み」を直しておこうと考えて、社長解任を断行する、ということになるのではないかと(いえ、どの事例がそうだ、といったものではなく、あくまでも私の推測にすぎません・・・・・)。

もちろん業績が悪化したり、社風が崩壊したり、ということから、事業の行く末を案じて社長解任に至るという(まじめな?)ケースもあります。ただ、京都の一澤帆布さんのように、兄弟間での純粋なお家騒動ならまだしも、親子間ということになりますと、社内に存在していた派閥争いや出世争いといった「社内力学の歪み」が原因となることも十分に考えられるように思います。いずれにしましても、こういった事情は、経営トップが語りたがらないので、いろんな風評が立つわけでして、企業価値が低下しないように、本業で頑張るしかないですね。

7月 24, 2014 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年6月16日 (月)

株式会社による株主の議決権行使禁止の仮処分命令申立

いよいよ株主総会シーズン到来、ということで、今年も総会ネタを少しばかりご紹介したいと思います。

伊豆シャボテン公園のカピバラ虹の広場のオープンや、伊豆ぐらんぱる公園の新アトラクションの紹介など、心温まる適時開示で和ませていただいているソーシャル・エコロジー・プロジェクト社(JDQ)ですが、この心温まるリリースに挟まるように、6月11日、同社が株主の議決権行使を禁止する旨の仮処分命令申立を(東京地裁へ)行った旨、開示されています(開示リリースはこちらです)。また、同日、この仮処分の相手方株主が、東京地裁に対して、株主総会における検査役選任の申立を行っていることが明らかにされ、同社と一部株主の間におけるバトルが本格化している模様です(注-このバトルの内容や、紛争の対象とされている不動産の権利関係などは、以前からいろいろと話題になっていましたが、ここでは取り上げません)。

株式の帰属をめぐって株主間または会社と株主間で紛争が生じ、議決権行使の禁止が仮処分で争われる、という事例は比較的わかりやすいと思います。しかし、会社自身が、「当該株主が議決権を行使することは、株主共同利益を害するものであり、権利濫用にあたる」として、自社の株主による議決権行使の禁止を求めるような仮処分というのは、あまり聞いたことがないかもしれません。

株主による議決権行使の制限といえば、昭和56年商法改正前までは、株主総会の議題に対して、特別利害関係を有する株主の議決権行使が禁じられていましたが、同商法改正によってこの規定は廃止されています。株主が私利私欲のために議決権を行使することは、むしろ当然のことであり、たとえ議題に対して利害関係があったとしても議決権は制限されてはならないという理由だったと思います(現行法では、特別利害関係者が議決権を行使することで著しく不当な決議がなされた場合にのみ、決議取消事由となる可能性があるだけです)。また、このたびの会社法改正においても、実現はしませんでしたが、会社法制の見直し要綱の段階では、金商法規制違反株主に関する議決権行使の差止請求に関する条文の導入が検討されていました。ということで、株主の基本的な権限である議決権も、その行使が制限される場合がある、という考え方は、あながち間違いではないように思います。

ただ、それは立法論としてであり、解釈論として「株主共同の利益を害する権利濫用」というのは想定されるのでしょうか。株主総会で基準日における株主が議決権を行使することは、株主としての重要な権利行使であることは間違いないので、この議決権が会社法の解釈によって制限される、ということは果たしてありうるのか、という疑問が生じます。この点、過去には、権利濫用として議決権行使が仮処分命令によって制限された事例はあるようです。たとえば国際航業事件決定(昭和63年6月28日東京地裁決定)では、会社が申立人となり、株主に対して議決権行使の禁止を命じた仮処分が下されています(おそらく権利濫用ということで認められたものかと)。

また、株主総会の議事進行を妨害するおそれのある株主に対しては、会社が株主総会への出席禁止の仮処分を命じた例(東京三菱銀行事件-京都地裁平成12年6月23日)などもあります(なお、この事案は相手方株主のブログなどが公開されていますが、そこで公開されている事件の概要からしますと、かなり特殊な事案だと思われます)。

なお、会社が株主の議決権行使の禁止を求める仮処分の前例があるとしても、満足的仮処分に該当するはずですから、被保全権利や保全の必要性については厳格に審査されるように思います。保全の必要性については、上記ソーエコさんのリリース等でも詳細に述べられていますが、被保全権利はどうなっているのか、よくわかりません。会社法では議決権行使を差し止めることができるような規定はありませんし、総会決議取消権についても、会社自体には決議取消訴訟における原告適格は認められていません(国際航業事件や三菱東京銀行事件でも、このあたりは明確にはされていないようです)ので、仮処分命令申立事件の被保全権利は一体何なのか、釈然としないところがあります。

このように会社と一部株主との間で、議決権行使の是非が問題となっていますと、株主総会当日の議事進行についても影響が出てくるかもしれません。たとえば議決権行使の判断については議長に権限がありますので、総会議長が適正な議事進行を行っているかどうか、検査役を選任してチェックをしてもらいたい、というのが株主側の意向だと思われます。ただ、過去にも、こういった検査役選任が権利濫用に該当する、として検査役の選任を認めなかった事例もあるようなので(岡山地裁決定昭和59年3月7日)、会社側としても、こちらも争う、ということになるのでしょうね。いずれにしましても、株主総会シーズンに入り、こういった紛争は、企業法務的には興味深く見守りたいところです。

6月 16, 2014 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年5月21日 (水)

会社法改正の議論から取り残されたD&O保険の現状

本日(5月20日)、化学メーカーである石原産業さんの、土壌埋め戻し材「フェロシルト」の不法投棄事件について、株主3人が元役員らに回収費用約489億円を会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の和解が大阪高裁で成立したそうです。和解内容は、元役員9人が計5000万円余の和解金を支払うこと、及びコンプライアンス上の不備があったことへの遺憾の意を表明すること、だそうです(ちなみに、地裁では元役員3名に対して損害賠償責任が認めるというものであり、双方から控訴されていました)。

先日の住友電工さんの株主代表訴訟における和解でもそうでしたが、「和解(和解勧告)に関する裁判所の所見」なるものは公表されないのですね。内部統制やコンプライアンス体制整備が問題とされた裁判として有名な神戸製鋼さんの株主代表訴訟では、和解を勧告するにあたり、「訴訟の早期終結に向けての裁判所の所見」と題する裁判所の見解というものが出されましたので、和解による終結ではあるものの、裁判所の一応の心証のようなものが垣間見えました。

株主代表訴訟が和解によって成立する場合に、とても重要な問題として、和解金の支払義務が認められた役員(元役員)について、D&O保険(会社役員賠償責任保険)が効くのかどうか、ということが挙げられます。最新号の旬刊商事法務でも「役員責任の会社補償とD&O保険をめぐる諸論点」と題する座談会記事が組まれており、D&O保険の実務に精通された方々による論点の解説がなされています。今回は対第三者責任との関係で、そして次回は株主代表訴訟との関係で解説がなされるようですが、きわめてタイムリーな話題ではないかと思います。

これだけ社外取締役の導入が喫緊の課題とされているにもかかわらず、社外取締役にとって極めて重要な問題である役員の賠償責任保険に関する運用状況があまり議論されていないというのも不思議な話です。まさに、この座談会の司会の方がおっしゃているとおり「これらの論点については会社法の世界では議論が止まっている」と思われます。

たとえば上記の石原産業さんのような株主代表訴訟が提起された場合、役員の方々が選任する代理人弁護士の着手金はどのように払われるのか、和解で終結した場合に、裁判所の公式な所見もなく、和解による解決金の支払いは(約款通りに)保険でカバーされるのか、なにか代理人弁護士側で、保険会社の支払い条件に合うような和解内容を検討する必要があるのか、といった問題です。以前少し書きましたが、最近は第三者委員会の報告書に沿って会社自身が元役員に対して責任追及訴訟を提起することがありますが、そこで認められた賠償額と、その後の株主代表訴訟で認められた追加賠償額との関係などにも関心が出てきます。

さらには、先日の住友電工さんの株主代表訴訟のように、海外不正に関する善管注意義務違反が問題となる場合、アメリカの刑事制度との関係で(たとえば刑事事件における証人適格の維持や弁護士秘匿特権の確保、行政当局との事実及び証拠の非開示合意などにより)元役員の故意、過失が存在しないことの立証方法を、日本の裁判所で提出できないケースも考えられます。こういったケースでは、どのような事情で和解に至ったのか、その経緯を保険会社に説明するにはどうすればよいのでしょうか。本来、こういったことは、社外取締役に就任するにあたり、きちんと保険の内容と支払に関する運用実務について理解しておきたいのですが、あまり関心が向けられていないのが現状です。

日本の成長戦略の一環としてガバナンス改革が唱えられている企業社会において、社外取締役が増える企業の先には、外国人機関投資家による株式保有が期待されているはずです。このようなM&Aをなぜ止めなかったのか、このような不祥事になぜ気がつかなかったのかと、社外取締役が矢面に立つケースが増えることは間違いないはずです。会社法を取り巻く法的環境が変化する中で、D&O保険の運用実務についても、(私も一生懸命勉強したいので)今後議論が進化することを期待しています。

5月 21, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年5月 8日 (木)

住友電工カルテル株主代表訴訟にみるリニエンシーの威力

すでに各紙で報じられているように、ファイバーケーブル、ワイヤハーネスといった二つのカルテル事件に関する住友電工元役員さんら22名に対する株主代表訴訟について、5月7日、大阪地裁で和解が成立したようです。解決金5億2000万円、そして外部委員会の設置、再発防止策の策定といった条件も付せられているようですが、これまでの株主代表訴訟における和解金額としては過去最高とのこと。ちなみに、4年前の本件提訴に関するエントリーはこちらです(ご参考まで)

本件裁判では、原告株主の方々は、リニエンシー(自主申告制度)が機能していれば、総額88億円もの課徴金を納付せずに済んだにもかかわらず、他社に比して活用が遅れたのは、これを機能させるための内部統制システムの構築義務を怠ったのであり、この点において善管注意義務違反があったと主張されていたものと思います。和解金額の高額さに驚き、リニエンシー制度が機能しないとたいへんなことになる、と感じておられる方も多いのではないでしょうか。

私もニュースで知りえた事実くらいしか把握していませんし、和解という解決だったので、推測の域を超えませんが、たしかに経営者を震撼させる結末です。ただ、できればもう少し詳しい裁判の経過などを把握したほうがよさそうですね。内部統制構築義務といっても、おそらくレベルとしては、①公正取引委員会の立ち入りがなされる以前において、(つまり平時において)リニエンシーの運用チェックを含む「カルテル防止体制の整備」を怠っていたこと、②住友電工さんは、本件ファイバーケーブル事件における立入調査の前後に、合計4件ものカルテル調査を受けていたのであり、相当に社内でピリピリしていたにもかかわらず、リニエンシー制度の運用についての相応の注意を怠っていたこと(いわゆる黄色信号における不作為)、③本件ファイバーケーブル事件の立入調査を受けた後、すぐに事後申告制度を活用していれば30%の課徴金減額を受けることができたのに、それすら対応を怠っていたこと(いわゆるクライシスマネジメント上のミス)といったところで分けて考える必要がありそうです。

本件で和解に至った要因が、①の事情にあるとすれば、それこそ他社さんでも今すぐに内部統制の整備運用のチェックをしなければならないでしょうし、②または③の状況にあったとすれば、これは住友電工さん特有の事情に基づくところも大きいように思われます。ただ、いずれにせよ、リニエンシー制度は、普段からその(内部通報制度の改善等)運用チェックをしていなければ、たとえば③のような事態に、速やかに社内調査で事実を把握し、申請に必要な証拠をそろえることもできません。したがって、やはり内部通報制度をはじめ、平時からの内部統制システムの運用チェックが大切であることは言うまでもありません。

以上は、リニエンシー制度と内部統制の問題ですが、本件ではもうひとつ忘れてはならない問題があります。それは、手続法上の問題、つまり公正取引委員会の調査書類について、裁判所が公取委に文書提出命令を出していた点です。住友電工の元役員の方々は、カルテル事件において公正取引委員会でいろいろと供述をしているのですが、その供述調書を、本件代表訴訟で提出するよう、裁判所が公正取引委員会に命じました。どのような証拠書類が本件事件に関連するのかは、裁判所自身がインカメラ手続きで事前に精査し、その結果、段ボール3箱分ほどの書類が原告側に提出されたそうです。住友電工の元役員さんらは、公正取引委員会の審判手続きだからこそ、自由に供述していたことが推測され、後日の株主代表訴訟においても供述調書が証拠として使われるとは思ってもいなかったかもしれません。このあたりは、今後、いろいろなところで議論の対象になりそうです。

リニエンシーの遅延によって、経営者に高額の賠償責任が認められるかもしれない・・・という点が、このたびの和解によって世に示されたことの影響は大きいはずです。たとえ不祥事が発生したとしても、それをどうやって管理部門が早期に発見するか、そして事実関係を明らかにして、申請に必要な証拠をそろえるか・・・、これはまさに内部通報制度の運用上の工夫にかかっていると思います。これは日本における独禁法違反事件に限りません。アンチトラスト法違反事件では言うまでもなく、4月25日に公表された日本交通技術社の第三者委員会報告書18頁から19頁にも取り上げられているように、海外腐敗行為防止のためにも、政府主導の腐敗行為受付窓口の存在が紹介されています。海外のFCPA関連だけでなく、日本の手続きの上でも、こういった自主申告は有利に援用できるものと思います(ちなみに日本交通技術社第三者委員会の報告書では、海外不正行為に限っては、社員に内部通報義務を課すべき、としている点は注目に値します)。

本件カルテル事件の後、住友電工さんは、欧州裁判所主導によるカルテル事件の制裁手続きでは、一番最初に自主申告を行い、その結果、190億円ほどの制裁金を免れています。不正の早期発見にまじめに取り組めば、リニエンシーは機能する可能性が高いはずです。こういった重大裁判については、結果の重大性については知ることができても、では他社にとっての発生確率を知ることはなかなか困難です。先ほど①から③まで、どのような条件で善管注意義務違反が疑われたのか、さらに文書提出命令によって得られた証拠が、原告主張事実の立証にどれほど役に立ったのか、そのあたりの裁判所の心証など、どなたか事件に近い方による解説などもいただければ他社の参考にもなるかもしれませんね(和解の条件として、内容は公表しない・・・となっているのであれば無理かもしれませんが)。

5月 8, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年5月 7日 (水)

裁判は、起こすところに意味がある

皆様、ゴールデンウィークはいかが過ごされましたでしょうか。私は諸事情ございまして、ブログ更新もお休みさせていただきました。ひさしぶりの更新です。

日曜9時のTBS池井戸ドラマ「ルーズベルト・ゲーム」の第2話、イツワ電機が青島製作所に知財訴訟を提起してきましたが、裁判は勝つためにやるのではない、起こすところに意味がある、と青島製作所の社長(主人公-唐沢寿明)が語っていましたね(実際、あの程度の裁判でマスコミに報じられるということはないと思いますが・・・(^^;  )。今後の展開が楽しみです。

さて、東京海上日動さんの社員の方が、会社を相手取り、不当な降格が行われたとして3000万円の損害賠償請求訴訟を提起したことが朝日新聞で報じられました(朝日ニュースはこちらです)。いわゆる保険金不払いは会社の指示だったにもかかわらず、上司から責任を押し付けられ、不当に降格処分になった」というもの(まさにルーズベルト・ゲーム第2話と同じようなお話ですね)。記事では、「訴状では『会社は組織ぐるみで不払いを隠しており、会見内容は虚偽である』と指摘している」と報じられています。

東京海上日動さんの名誉のために申し上げますが、もちろん、この記事だけでは、原告社員の方の主張の真偽はわかりません。ただ、最近の風潮から、こういった裁判、ホントに「起こすところに意味がある」といったことを考えてしまいます。とりわけ原告側の手持ち証拠が不足していて、立証責任を尽くすことが難しいケースでは、不当提訴にならないかぎりは、とりあえず裁判を起こしてみる、という戦術もありかな・・・と思います。

先日、海上自衛隊いじめ自殺問題の逆転高裁判決(正確には損害賠償額の大幅上積み)が出ました。高裁で逆転裁判が出たことについては、海上自衛隊側の裁判上での説明が虚偽であることを示す資料(アンケート用紙は紛失した→アンケート用紙は存在する)が内部告発で公表されたことによるところが大きかったものと思われます(なお、先日、この内部告発をされた隊員の方は、公益通報に該当する可能性があり処分されずに済むことになった、報じられていましたね)。組織から隠ぺいを指示された社員が、このように裁判で苦しんでいる仲間がいることを知り、良心に従い思い切って内部告発に動く、ということは十分に考えられます。

東京海上日動さんの件も、このような裁判が起こされ、組織ぐるみの保険金不払いに関する指示の有無が争点となった場合、内部告発によって明るみになる事実があるかもしれません(ニュースには原告代理人のお名前も掲載されていますね)。こういった裁判は、勝つか負けるかは別として、やはり起こすところに意味がある事件の典型ではないかと思います。

5月 7, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年4月18日 (金)

監査役・監査法人責任追及訴訟で検討すべき「相当因果関係」の壁

昨日のセイクレスト・社外監査役責任追及判決に関するエントリーには、たくさんのアクセスをいただきまして、ありがとうございました。とくに続編を書くつもりはなかったのですが、皆さまのご関心が高いテーマなので、気になったところを個人的な意見として記しておきます。

最近は、監査役さんや監査法人さんが、株主や管財人から責任追及訴訟を提起されて敗訴してしまう事例が散見されます。監査を担当する人たちが損害賠償責任を負う判決は衝撃的ですが、みなさんどこに関心が向くのか・・・といいますと、いわゆる「善管注意義務違反」(任務懈怠)がどのようにして認められたのか、というあたりの不作為(作為義務違反)の事実ですね。

しかし、本当は重要だと思うのですが、あまり関心が向かないのが監査役や監査法人の監査見逃し行為と損害との因果関係の相当性です。会社の役員や会計監査人が善管注意義務違反で損害賠償責任が成立するための要件としては、任務懈怠と損害の間に相当因果関係が認められなければなりませんが、この因果関係が、あまりにも容易に認められているのではないか・・・という疑問です。

監査法人が適切な監査(一般の会計監査人に求められる注意義務を尽くした監査)をしていても粉飾や資産流用といった会計不正を発見できるかといえば、かなり疑問です。また、監査役についても、社長を脅したり、違法行為差止請求権を行使(裁判外でも可能です)したとしても、普段から監査役の要求をまったく無視する社長であれば、不正を止めることは困難です。つまり、適切な監査を行っていたとしても損害は発生していたのだから、任務懈怠と損害との間には相当因果関係は認められない、という理屈は成り立つように思えます。

しかし裁判になってしまうと、裁判官は、もし監査法人が、もし監査役が、このような行動をとっていれば不正を早期に発見でき、損害を食い止めたことができた可能性が相当高いと判断されます。今回のセイクレスト裁判でも、監査役が社長以外の取締役に対して内部統制を構築するよう勧告する義務に違反があったとして損害賠償責任が認められていますが、監査役側も、きちんと因果関係を争っています。「監査役が勧告をしたとしても、社長はふだんから取締役らの言うことをきかなかった。だから勧告しても、取締役らが内部統制を構築したとは考えられないから因果関係は認められない」と主張しています。

これに対して、裁判所は

「過去に取締役らも、何度か社長に苦言を呈しており、規約なども策定した経験があるのだから、監査役が勧告することで取締役らが動く可能性は、相当程度認められる、また、適切なリスク管理体制が構築されていれば、社長の不正行為は止められた蓋然性が高い」

として、監査役の任務懈怠と損害との相当因果関係をあっさりと認めています。でも、本当にそんな簡単なものでしょうか?以下は本当に個人的な考えです。

春日電機の事件では、監査役と会計監査人が一致団結してようやく社長の不正行為を止めることができました。また、作為義務を尽くした常勤監査役が他の監査役から常勤を解かれてしまった例もあります。監査役が告発をして証券取引等監視委員会が動いたから不正行為が止まった例もあります。法律家は(裁判の性質上)絶対的真実を追及するクセがありますから、どうしてもストーリー性を重視します。ストーリーが矛盾なく時間的経過に沿って流れていれば真実に近いと考えます。しかしそのストーリーは、真実だと判断する者にとって好ましい事実にすぎないかもしれません。

最近の認知心理学や行動経済学の研究では、人間が事実を見誤るクセとして、①わかりやすいストーリーに乗らない事実は排除する、②悪い結果・良い結果の功績を、どうしても一部の人間の行動にのみ着目して判断する、③ある出来ごとの原因と結果の関係を、自分にとって好ましい(都合のよい)ように理解する、といった問題を指摘しています。たしかに、法律解釈では、軌範的な因果関係の見方が成り立つものと思いますが、もう少し「人間が事実を見誤るクセ」に着目して、社長の不正行為を止められなかった原因がもっとほかにもある、ということを監査法人、監査役が主張立証することも考えられてよいのではないかと思います。

監査役はこうあってほしい、監査法人はこうでなければならない、といった軌範的な意味はよくわかるのですが、不正行為の予防や発見にどれだけ有効か、といった実態的な意味合いがあまり理解されていない・・・これも期待ギャップかもしれませんが・・・、そういったあたりが、会社法のグレーゾーンとして残されているのではないかという気がします。法律家と一般の方々とでこれから議論すべき問題ではないでしょうか。

4月 18, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年4月17日 (木)

社長を脅せば監査役の善管注意義務は尽くせるか-セイクレスト・社外監査役責任追及訴訟判決

またまた性懲りもなく(?)、公認会計士と会計不正問題の続きです。江頭憲治郎先生の名著「株式会社法(第4版)」440頁には、

取締役が監督(監視)義務を尽くすとは一体どういうことなのか、たとえば自己の業務執行権限外の事項に関し、会社の損害を疑わしめる事実を知った場合にはどこまで行動すべきなのか

という点について、

「(取締役の能力によって差はあるが)弁護士に相談する、事実を公表すると言って代表取締役を脅す、あるいは辞任する等しなければ任務懈怠もありうる」

と記されています。実際に、取締役ではなく、監査役の事例ですが、西武鉄道の常勤監査役さん(当時)は、有価証券報告書虚偽記載の公表にあたり、「すべてをきちんと公表しなければ、私が公表します」と執行部に迫り、他人名義株問題の事実がすべて公表されることに寄与しました。

さて、監査役が社長を脅すといえば、最近、監査役さん方にとって重要判決が出ています。金融・商事判例の最新号に、大手法律事務所の先生の判例評論が掲載されておりますが、平成25年12月26日、大阪地裁において、セイクレスト社の元監査役(非常勤・社外)の会社に対する損害賠償責任が認められました(←正確には、役員責任査定決定に対する異議の訴え事件です。判決全文は、金融・商事判例1435号42頁以下)。当ブログでも1年半ほど前に本事件を取り上げ、監査役さんにかなり厳しい意見を書かせていただきましたが、公認会計士である元非常勤社外監査役の方が、任務懈怠により、会社(破産管財人)に対して600万円以上(報酬2年分相当)の損害賠償責任が認められ、個人財産の保全処分まで受けているようです(ただし現在控訴審係属中)。

判決文からすると、この監査役さん(平成13年に監査役就任)は、善管注意義務違反の不正行為を繰り返す社長さんに対して、問題を指摘しておられたようで、善処しない場合には辞任する旨も述べています。当ブログで以前に指摘した現物出資の過大評価、会社から社長個人に対する不明瞭な貸付行為などから、監査役(3名)は、社長の行動には疑義があるものと意見を表明し、この貸付を実行する場合には、監査役は辞任することを考えていると表明しています。

しかし、セイクレスト社の監査役監査規程によると、取締役に善管注意義務があればこれを取締役会に勧告しなければならないとされており、裁判所は、(当該監査役さんは)辞任するなど脅しているけれども、規約どおりに取締役のリスク管理体制の構築義務違反があることを勧告する義務、および社長(代表取締役)の解任を求めて臨時株主総会を招集するよう勧告する義務を怠っていたとして、監査役に任務懈怠ありと認定しています(誤解をおそれずに、もう少しわかりやすく述べますと、社長以外の取締役の方々が、ボーっとしているので、「お前ら、ボヤっとせんと、社長が悪いことせんように、もっときちんと内部統制を構築せいや!」と叱咤激励しなければならない、それでも悪いことをするようだったら、取締役会で社長を解職するとか、取締役としての地位を解任するための臨時株主総会を招集するように提案しなければならない、ということだと思います)。

↑なお、監査役自身が、違法行為差止め請求を行う義務については否定されています。当時の監査役の認識内容からみて、差止めが認められるだけの根拠事実にアクセスできていなかったということが理由のようです。

おそらくこの判決の話題の中心は、「ここまで社長を脅していても、まだ監査役に任務懈怠が認められるのか」という点にあるかと思いますが(控訴審でもこのあたりが争点になるかと)、この裁判では他にも興味深い論点がありまして、日本監査役協会の策定している「監査役監査基準」がどこまで裁判規範たりうるか、という問題です。この裁判では、細かい解釈はあるかもしれませんが、実質的には監査役監査基準を、セイクレスト社の監査役の注意義務を判断する規範としています

↑なお、平成25年10月25日に東京地裁から出された、ニイウスコー監査役を被告とする金商法に基づく虚偽記載責任訴訟でも、日本監査役協会策定の監査役監査基準が、監査役の注意義務の内容を検討するにあたり、考慮すべきものである、とされているようです。なお、このニイウスコー事件では、監査役さんは相当の注意の抗弁が認められ、責任は否定されています。

また、監査役の過失と「重過失」との区別に関する論点にも触れられています。もし監査役さんに重過失が認められた場合には責任限定契約の適用が排除されますので、8000万円ほどの損害賠償責任が認められるところでしたが、本判決は過失は認められるが、重過失は認められないとして、報酬2年分の範囲で責任を認めるものとなりました。現在国会で審議中の会社法改正法案には、社外だけでなく常勤監査役さんも責任限定契約を締結できる規定が新設されますので、なぜ「重過失」にはならなかったのか、そのあたりはまた別途解説してみたいと思います。

↑ただ、あまり詳しく書きますと、社外監査役に就任する方がいなくなってしまうかも、なので、やめとくかもしれません(^^;

セイクレスト事件では、判決文に社長の善管注意義務違反の行動が詳細に記されており、その悪質な態様との総合的考慮のもとで社外監査役の責任が認められたのかもしれませんが、私からすれば、上場会社の社外監査役さんとしては、辞任するよりも、辞任をこらえて、厳しい意見を社長に述べるほうが一般株主のために尽くしているように思えます。にもかかわらず、簡単に辞任していれば免責される見込みがあるのに、会社と株主のために社長と対決しても免責されない・・・というのは、どうも結論的には若干疑問も感じるのですが、いかがなものでしょうか。いや、ひょっとすると、このセイクレスト責任追及判決の論旨からすると、簡単に辞任するような監査役さんにも、善管注意義務違反ありとの厳しい判断が下されるのかもしれません。このあたりは、私の読み込みが不足しているところもあるかもしれませんので、ご興味がある方は、判決文をご検討ください。

4月 17, 2014 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年4月10日 (木)

日本企業は手続的正義にどう対応すべきか?-海外不正リスク

(4月10日午前 追記)

世間の話題は某ユニットリーダーさんの記者会見で持ち切りですが、双方とも、たいへんな状況になっています。記者会見は残念ながら視ていないのですが、8日に提出された不服申立書の全文は(公開されていますので)読ませていただきました。科学的見地からの反論がないとか、法律家の支援には違和感があるとの声も聞こえてきますが、問題になっている社内ルールによれば、このままだとユニットリーダーさんは懲戒処分のうえ、ルール上「研究費を返せ」と言われる立場ですから、法律家の支援が必要なのは当然ですよね(笑)。

今後は憲法76条(法律上の争訟性)に関する問題をどう扱うのかな・・・と。理研さんは、チームリーダーさんの契約任期を更新されましたし、また、懲戒には譴責もあれば出勤停止や解雇処分もあるわけでして(これまでの学術研究不正に関する裁判例は「懲戒解雇処分」事例だと思います)、理研さん側も、このあたりの配慮をしてくるのではないかと(いえ、もちろん個人的な見解ですが・・・)

さてここからが本題ですが・・・、皆様ご承知のとおり、武田薬品工業さんが、糖尿病治療薬「アクトス」のがん発症リスク開示問題で、6200億円の賠償認定(評決)を受けた、と報じられています。もちろん、今後、連邦地裁の裁判官の判断が出ることになり、最終結論は先になりますが、陪審の判断とはいえ、これにはとても驚きました。武田さんは年末にも糖尿病新薬の研究開発を断念して2000億円以上の損失を抱えておられましたが、素人考えでも、ほんと、新薬の開発はたいへんだなぁと感じます。

今朝(4月9日)の日経新聞記事によると、もう少し詳しい内容が解説されていて、原告側は新薬の危険性を裏付けるべき証拠(電子メール)を、武田側が「わざと破棄した」と主張していたということで、地裁判事も「武田側は、メールを適切に保全していなかった」と認定したそうです。つまり医学的な見地から、副作用があるとか、安全性に疑問がある、といった判断内容ではなく、本来保全しておくべきメールが保全されていない、ということをもってこれだけ多額の懲罰的損害賠償請求が認められることになる、というのは驚きです。

トヨタ自動車さんの事例でも、米国市民に情報開示する時期が遅かったことが問題となり、最近のアンチトラスト事例では、証拠を隠したり、廃棄したことが司法妨害罪として、新たな司法取引のネタにされています。今年、米国のディスカバり制度が改正され、少し緩やかになるそうですが(海外案件を取り扱っている某弁護士の方からお聴きしました)、日本企業が海外不正リスクに直面したとき、このアメリカの手続的正義の司法制度にどれだけ対応できるのか、とても不安になりますね。

フォレンジックやディスカバり、また弁護士秘密特権やリニエンシーを含む米国刑事訴訟法の運用問題など、海外子会社リスクに直面する企業にとっては、手続的正義に関わる初動対応のミスが、莫大な損害賠償問題に発展することを、理解しておく必要がありますね。ここでもやはり予防と不正の早期発見に分けてコンプライアンス問題を考えることが肝要かと思います。

4月10日追記:フィナンシャルタイムズの翻訳記事「武田の米巨額賠償評決 一罰百戒の6200億円」が日経電子版有料サイトに掲載されており、さらに詳しく本件を報じています。

4月 10, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年3月28日 (金)

商事判例-紛争を避けるための知恵を学ぶ

旬刊商事法務の最新号(3月25日号)は、社外取締役ネタの論文、インタビュー記事がたいへん多く読み応え十分ですが、本日は商事判例に関するお話です。その最新号に掲載されている「商事判例便覧3099」に、商人間売買における商法526条(民法上の瑕疵担保責任の特則)の適用および他人物売買における売主側からの錯誤無効の主張(瑕疵担保責任の免責の抗弁)が否定された事例が掲載されています。

中古車売買のガリバー社(原告 買主)が、アプラスさんの関連会社(被告 売主)からオークション向けの中古車(中古価格で700万円相当のBMW)を購入したのですが、実はこの中古車が盗難車でナンバープレートも偽造されていたそうです。ガリバーさんは、その後、オークションルールによる盗難品処理のために多額の損害を発生させてしまいました。そこで、売主との間で民法561条(他人の権利売買における売主の担保責任)を根拠として清算しようとしたところ、売主側から、他人物売買における「権利の瑕疵」についても商法526条の適用がある、受領時にきちんと検査しなかったのだから担保責任を追及できない、たとえ526条の適用がないとしても、売主側としては、売買目的物の他人性について錯誤無効(民法95条)を主張できるから損害賠償債務は発生しない、と反論されたので裁判になってしまいました。

上の旬刊商事法務さんの判例便覧を読みますと、いかにも司法試験に出題されそうな事例であり、権利瑕疵に関する担保責任については、商法526条の特則の適用なし、錯誤無効の主張も、他人物売買に関する民法の規定との関係で許されないと要点が概説されているので、とりあえずは法律家としての法律解釈上の興味を満たす内容となっています。普通の法律家の感覚からすると、判断理由はまぁ妥当な解釈であり、原告であるガリバーさんが勝訴するのも当然のところだと思います。

ただこの判例は、旬刊商事法務を読むと「なるほど・・・」で終わり、ということなのですが、最近の判例時報2207号(2014年2月21日号)にも同判決が掲載されておりまして(50頁)、こちらには東京地裁平成25年6月6日判決として判決全文が掲載されています。そして判決全文を読むと、実は売主会社が裁判で主張していた過失相殺が一部認められていたことがわかります(原告ガリバーさんにも1割の過失が認められるので、請求金額もその分減額される、ということです)。

判例の重要論点だけを眺めていたときは、「なんでこんな紛争がとことんまで裁判になってしまたんだろうか。結論はほぼ読めているから、裁判になる前に決着がついたはずなのに」と思っていました。しかし上記判決文によると、そもそもガリバーさんも、売主側から交付された必要書類を精査しておけば盗難車とわかったのではないか、しかも原告は単なる買主ではなく、中古車取引のプロなんだから・・・という点に、一部過失が認められる根拠があるようです。

おそらくこの点が売主として、素直に清算に入れなかった原因ではないかと思います。「たしかに他人物だったかもしれないけど、オタクは中古車売買の専門家でしょ?自分で調べたらすぐわかったんじゃないの?そこまで言わなくても、せめて『これちょっと怪しいから、そちらで所有権について確認しておいてくれませんか?』くらい言ってくれたらよかったんじゃないの?」といったあたりがどうしてもひっかかってしまったのではないでしょうか。つまり裁判ではガリバーさんが勝訴したけれども、ガリバーさんがもう少しきちんと対応していれば、そもそも裁判にまで至らずに(双方が前向きに)処理が済んでいたのではないかと。

判決文には原告・被告間の契約書の条項内容についても詳細に記載されていましたが、双方にとっては過不足なくリスク管理に関する条項は記載されているようです。ただ、取引の現場におけるちょっとした相手に対する心遣いが足りなかったことが、裁判に発展し、引くに引けない信頼関係の毀損によって和解にも至らなかったということかと(なお、「心遣い」と書きましたが、本件対象となっている車両の使用者は反社会的勢力の疑いが濃かった人だったので、そのあたりも車両の調査について関係者が後ろ向きになってしまった要因かもしれません)。

弁護士は紛争が起きるからこそ報酬が得られるわけですが、そもそも企業にとっては後ろ向きの作業に多大な人的・物的資源を投下しなければならないリーガルリスクは極力回避したいところだと思います。法務部もしっかりして、代理人もしっかりしていても、こういった裁判が起きるわけですが、そもそも裁判が起きないようにするためにはどうすべきなのか、というところがコンプライアンス経営の要諦ではないでしょうか。最近、こういったリーガルリスクに着目して「どうすれば裁判にならないのか?紛争を早期に解決できるのか?」について意識されている法律家の本が何冊が出版されていますので、また追ってご紹介したいと思います。

3月 28, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年3月26日 (水)

トヨタ社のDOJ和解金支払いの合理性と役員の善管注意義務

2009年から2010年にかけて、アメリカで大規模リコールを余儀なくされたトヨタ社の急加速発信問題について、DOJ(米国司法省)との間で刑事訴追に関する司法取引が成立したそうです。12億ドルの和解金支払いと安全性向上のための独立監査の実行、その他の制約条件のもと、検察はトヨタ社に対する刑事訴追を取り下げることに合意したとのこと。

最近のアンチトラスト事件、FCPA(海外腐敗行為防止法違反)事件などを含め、日本企業が高額の和解金支払いによって米国司法省による刑事免責を受けるケースが増えていますが、よくわからないのが「これだけ和解金を支払う合理的な根拠はどこにあるのだろうか。日本で株主代表訴訟を提起された場合に、和解金支払いを決定した取締役会の構成員は善管注意義務違反にならないのだろうか」という点です。民事事件であれば、裁判の帰趨などからみて、和解金の金額の合理性を説明できるように思うのですが、まだ裁判にもなっていない段階で、しかも日本の最高裁も認めていない「司法取引」によって刑事免責を受けるわけです。このトヨタの件でも、検察側は

トヨタは実質的に3年間の保護観察下に置かれる。トヨタは安全性よりも経費削減を、真実よりも自社のブランド名を優先させた

と述べています(ロイター記事より)。もちろんこれは検察側のポジショントークだとは思うのですが、安全性より経費削減、真実よりも自社ブランドといった「トヨタ批判」のような言い方がなされますと、トヨタは何か隠しているのではないか、司法取引に至った過程を代表訴訟で明らかにすべきではないか、と考える人も出てくるのではないでしょうか。

そんなことを考えているところで、冷泉彰彦氏のニューズウィーク日本版コラム「トヨタが1200億円の和解金を支払った理由とは?」を読み、なるほど、こういった理由であれば代表訴訟にも耐えうるかも・・・と思いました。トヨタ車自体の安全性には問題がないと判断していたとしても、北米販売会社の問題を親会社がかぶり、大切な取引先、お客様のブライバシー問題を親会社がかぶり、そしてコンプライアンス違反で揺れるGMを横目に一気に営業上の攻勢をかけるタイミングを図るということで、高度な経営判断による和解金支払いの決定だったということのようです。親会社の業績が非常に好調であることも、こういった司法取引に応じた理由のひとつになるかもしれません。事件終結にあたり、「お客様第一」と社長さんが語ったそうですが、まさにお客様第一の問題解決であり、ブランドというよりも、トヨタネットワークの大切な資産を守ったとみることができそうです。

しかし逆に考えますと、アメリカや欧州における司法取引における制裁金支払いについては、その企業の置かれた立場や、法人役員の刑事訴追の可能性、企業業績、海外の司法手続きの特殊性等からみて、高額の和解金を支払うことに合理性が認められない(つまり最後まで争うことが法的に要求される)ケースも出てくるのではないでしょうか。どうしてそのような金額で司法取引(刑事免責)に至ったのか、ほとんど表には出てこない問題ですが、親会社取締役の善管注意義務を尽くすという意味においては、外部に説明できるような合理的な理由を準備しておく必要性があると思います。本日(3月25日)ブリヂストン社の株主総会においてカルテル事件の司法取引について詳細な質問が出たようですが(産経新聞ニュースはこちら)、このような質問は、今後いろいろな企業の総会でも飛んできそうです。

3月 26, 2014 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年3月 3日 (月)

裁判官の「クロ心証」を「灰色認定」で解決する極意

当ブログでも以前から注目していた裁判ですが、2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ました。大阪高裁は元社長ら取締役4人に計約1900万円の支払いを命じました。一審の大阪地裁は、原告側の請求を棄却していたので、原告側は逆転勝訴です(関連の記事はこちら。ただし、監査役と監査法人に対する請求は控訴棄却)。

上記記事によりますと、社長の不作為の任務懈怠(法令遵守体制の整備義務違反)について、他の取締役(実質的な名目的取締役とのこと)には「社長の違法行為に対する」監視義務違反があった、という法的構成のようです。監視義務の対象となるのは、普通は他の取締役の作為による不正行為ですが、社長の不作為が不正行為であることは、他の取締役にとっても明らかだった・・・ということなのでしょう。判決文を読んでいませんのであくまでも推測ですが、高裁の裁判官は元社長の故意(違法行為であることを認識しながら、違法な勧誘を社員らにさせていた)の心証を得ていたが、元社長さんが否認しているので、故意にも匹敵すべき「重過失」をもって損害賠償責任の根拠としたのではないでしょうか。

1月30日に最高裁判決の出た福岡魚市場事件株主代表訴訟(親会社役員の会社に対する損害賠償責任が認められた事例)においても、損害賠償請求権の否定理由については上告受理の時点で排除されています(民訴法318条3項)。つまり原審(控訴審)の判断理由が最高裁でも支持されたわけですが、原審(福岡高裁)が判断している内容などを精査してみると、どうも高裁の裁判官は「親会社である福岡魚市場の役員は、そもそも子会社不正を認識しつつ親会社のために活用していたのではないか、もしくは不正を知っていながら親会社の利益のために隠していたのではないか」との心証を得ていたように(判決文の書きぶりから)思われます(これはあくまでも私個人の推測ですが)。

企業経営者の善管注意義務違反や重過失を根拠付ける注意義務違反のレベル感がよく判例研究などで検討されますが、経営者の子会社管理のレベルや経営判断原則の適用範囲など、判例の射程距離を誤ると企業実務に良くない影響を与えてしまうおそれがあるように思います。私自身、経営者の内部統制構築義務違反の裁判例にはとても関心がありますが、貴乃花親方名誉毀損(講談社)事件で講談社社長が敗訴した事例、日本システム技術不正経理事件で同社社長が敗訴した一審、控訴審の事例などについて、会社法解釈のほうにばかり目がいってしまい、当初はずいぶんと判例を一般化して一般事業会社の取締役の行為規範と結び付けてしまいました(反省しております・・・)。しかし裁判官の心証形成過程などにも十分に配慮しなければ、その裁判例がどういった事例について妥当するのか、その射程距離を誤ってしまうことになります。

企業コンプライアンスの視点から最近の企業裁判を眺めますと、「これって経営者が関与しているか、組織ぐるみと言わざるを得ないよなぁ」と感じる事件について、経営者が関与を否認している場合の民事責任はどうなるのか・・・とても興味を覚えます。不正調査を本業とする身として、どこまでの証拠をそろえれば(役員や従業員が否認しても)民事・刑事事件において不正事実を立証できるか・・・ということを意識せざるをえません。とくに民事事件を担当する裁判官の場合には、「どう考えても経営者は悪意がありそうだが、証拠上明らかとはいえないので、本人は悪意だったとも言えそうな事情を重過失や過失の根拠事実の中に含ませよう」としているように思えます。

昨年11月、こちらのエントリーにてご紹介しましたが、NPB統一球問題に関する第三者委員会報告書なども、この「故意に匹敵する重過失」を研究するうえでとても有益な事実認定がなされています。もちろん「疑わしきは被告人の利益に」が妥当する刑事の世界では通用しませんが、民事賠償の世界では、こういった「疑わしきは取締役の不利益に」という理屈も成り立つことが多いのではないかと思います。

3月 3, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月 6日 (木)

金融機関のITガバナンスの構築は社会的な責任である

横浜銀行のATMから利用客のデータを取得し、カードを偽造したうえで40口座(最大132口座)から計2600万円余りを引き出した犯人が逮捕されたそうです。犯人は横浜銀行のシステム保守管理を再委託されていた上場会社の部長級幹部社員とのこと。外部からの侵入ではなく、管理を担当する内部者(管理受託者)がデータを不正取得した、ということは、まさに銀行の管理責任が問われるものであり、平成25事務年度の金融モニタリング基本方針の中で問われている「ITガバナンス」の課題です。

ところで、先週土曜日(2月1日)に、東証1部上場の情報システム会社の元社長さんから、システム開発に関するお話を、1時間ばかりお聞きする機会がありました。その方は、若いころに銀行のATM開発に自ら携わった経験をお持ちの方です。最近はSE(システムエンジニア)の高齢化が進み、製品の販売サイクルの短期化と過酷な労働条件の中で、若いエンジニアが育たないといったお話でした。

私が「そもそもSEの技術は若い方に伝承されないのですか?」とお聞きしたところ、今のSEの方々の中で伝承すべき技術というものはない、との返答でした。というのは、今のSEにとっては開発スキルは二の次で、大切なのは「選ぶ力」だそうです。ユーザーの希望を聞いて、どういったシステムを選ぶのか、どういった最先端の技術を選ぶのかということのほうが重要とのこと。また、分業化が大切だそうで、ユーザーに近いところの「事務系SE」と開発に近いところの「技術系SE」とで役割分担を進めなければユーザーの希望をうまくシステム開発につなげることが困難だそうです。つまり技術は「属人性」が強いものであるために、おそらくブラックボックス化してしまい、開発担当者それぞれの責任は希薄化するのかもしれません。

金融機関のITガバナンスについても、金融機関側だけに責任を求めるのではなく、委託先、再委託先との間で、できるだけ少しずつリスク回避のための責任を分担することが効果の面において現実的ではないでしょうか。今回の事件の再委託先企業は、すでに「再発防止策を講じている」とのことですが、委託先にダブルチェックや権限分掌などの万全の不正予防体制を求めるのは厳しすぎるるように思います。そこで、金融機関には「通訳」に近い立場のSEが存在し、ダブルチェックとまでは言えないかもしれませんが、再委託先による不正を監視する立場の方が必要かと。

銀行側としては、まさに「ITガバナンス」の構築であり、担当者任せにしないことです。システム開発担当の銀行員というのは、中途採用の方も多いと思うのですが、(前職との関係で)委託先もしくはコンサルタント会社と不適切な関係でシステム開発を進めてしまったり、そもそも不必要に高額な契約を締結していないかどうか、本当に銀行の利益を最優先で開発がすすめられているのかどうか、きちんと把握しておく必要があります。こういったことを銀行側が把握するためにも、信頼のおける「通訳」の役割を担う方が、銀行側に求められるのではないでしょうか。

とりわけATMはいくら銀行の所有物とはいえ、もはや社会インフラであり、機能不全はまさに金融の信用を毀損することになります。銀行の社会的責任として、真っ先に取り組むべき信用リスク管理のひとつです。経営者自身が取り組まなければならない理由は、そこにあると思っています。

もちろんブラックボックスがすべてクリアにできるわけではありません。しかし粉飾事件が、取引先詐欺や贈賄、脱税など、そもそも経営者の「制度会計軽視につながるような遵法精神の欠如」に由来する場合が多いのと同じように、委託先社員の不正というものも、委託先との信頼関係のどこかにその予兆が出ていることがあります。そういった予兆を発見するには、個別のシステム管理や開発契約を進める上での信頼関係が構築されているかどうか、平時から「通訳」を介してチェックを行い、少しでも違和感を覚えたら、深度ある調査に移行する・・・ということから、ブラックボックスを少しずつ埋めていくことが必要ではないでしょうか。

2月 6, 2014 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2014年1月14日 (火)

一緒に失敗したからこそ社長にモノが言える弁護士

サントリーホールディングス社のビーム社買収のニュースには驚きましたね。1兆6000億円という日本でも最大規模の買収とのことですが、よく事前に情報が洩れませんでした。ここのところのサントリー社のグローバル展開はすごいスピードですね。2009年にキリンホールディングス社との経営統合が破談に終わったときは、あれだけ日経さんから批判されましたが、ひょっとするとサントリーHDの社長さんの最大の功労は、あの時点で事業統合を撤回したことではないかと(もちろん、撤回に向けてどのような力が働いたのかは知る由もありませんが・・・)。

さて、今朝(1月13日)の日経新聞(法務インサイド)に、弁護士資格を有する上場会社社長である松竹(東証1部)の迫本氏のインタビュー記事が掲載されていました。日本で弁護士資格を有する上場会社社長という方がどれほどいらっしゃるのか、私はわかりませんが、おそらく非常に珍しいのではないでしょうか。

記事の内容はとても興味をそそられますが、社外の弁護士に意見を求めた場合、

考えられる法的リスクを挙げたうえで、どうするかは経営判断だと言われがち。しかし会社はもう少し踏み込んで一緒にリスクをとるぐらいの助言を求めている。米国では映画制作に出資するなど事業に深く関わる弁護士が多い

とのこと。かなり耳の痛いお話ですが、社外の弁護士に対する経営者の意見としては、世間でよく聞かれるところです。われわれ弁護士の立場からすると、事業に関与することについての弁護士法上の問題や、多数の案件を抱えている法律家として、そのうちの一件で問題を抱えてしまいますと、職務に対する専心義務を尽くすことができなくなり、他の多くのクライアントに迷惑をかけてしまう、という(もっともらしい)言い訳、さらには弁護士としての信用を落としてしまうと同じ事務所の他の弁護士にも迷惑をかけてしまうという(内向きな)言い訳なども浮かんでくるかもしれません。

「弁護士の助言」といいましても、レギュレーション(業界における特殊な規制)に関する助言と、経営全般に及ぶリスクマネジメントに関する助言とは異なります。レギュレーションについては、迫本社長もおっしゃっておられるように、どんなにリスクが大きなビジネスでも「法の許す範囲で」行うことが前提なので、法律の専門家として発言は比較的しやすいものと思います。たとえ有能な法務部が存在しても、法令遵守のレベル感(世間並み、業界並み)という感覚は、やはり外部の弁護士から知りたいところかと。

ここからは私の経験からということで、一般化はできないかもしれませんが、ビジネスリスクマネジメントに関する助言となると、かなりむずかしいですね。実際、M&Aの8割は失敗するわけですし、またビジネスが成功するかどうかは理屈や論理ではなくてセンスや感覚、たぐいまれな知見に秀でた社員の存在、それを支えるガッツある組織等に依拠するところが多いと思います。ましてや法令違反の伴わない企業不祥事リスクともなると、社外の常識と社内の常識が食い違っていたなどというのは、「後だしジャンケン」に近いものでして(笑)、重大なリスクとしてあらかじめ認識しておくことは至難の業です。ということで、私は最近「トライ&エラー」によるリスク管理ということを推奨しており、経営判断よりも前に認識できるリスクよりも、判断後に初めて認識できるリスクのほうが多いので、リスクの顕在化を早くみつける体制作りを推奨しています。

企業としての投資判断が失敗に終わった場合、トラブルに見舞われた場合、紛争で負けないようにするための判断と、そもそも紛争に巻き込まれないための判断は異なります。これは「リスクをとってみなければわからない」わけでして、銀行さんに顔を向けるのか、株主様に顔を向けるのかによっても判断は変わります。本当に効率的なリスクマネジメントは、トライ&エラーでいくべきだと思うのですが、「トラブルが起きることを前提に物事を考えるなど、とんでもない」「最初から社員を信頼しないなど、もってのほかではないか!」と怒られることもあります。

社長に「なにがなんでも成功させる!」「失敗など絶対にしないし、させない!」という意気込みがあるからこそ、経営判断後に顕在化するリスクを乗り越えて事業を成功に導くわけですし、しんどくても社員みんながついていくわけです。ただ、ひとつ言えることは、社長と一緒にリスクをとって、一緒に失敗した経験を持たないと、「社長、ここで撤退する勇気を持ちましょう」と意見を言っても通らないのではないかと。

アメリカのようにプロの経営者がたくさんいらっしゃるならいざしらず、一社員から上ってきた日本の経営者の方の場合、「あとは経営判断であり、会社が考えること」と冷静にお話をして、それ以上踏み込まない人の意見には、おそらく社長は耳を傾けないはずです。一緒に失敗をして、一緒に恥をかいた立場にいるからこそ、社長も人の意見を聞いて、「撤退」という新たなリスクをとる覚悟をするものと思います。

最後になりますが、先の迫本社長さんが、インタビュー記事の中で、

利益を最大化するために、ぎりぎりまで踏み込んだ強気の経営判断を下す際、弁護士としての経験が生きている

と述べておられますが、このあたり、たいへん興味があるものの、少々イメージが湧きにくいので、もう少し具体的に詳しくお聴きしてみたいところです。

1月 14, 2014 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年11月27日 (水)

社外取締役は辞任することで法的に免責されるか?

11月29日ころに会社法改正案が閣議決定されるのでは?と(まことしやかに)噂されていますが、当ブログへお越しの皆様はご承知のとおり、法務省の会社法見直し要綱は、最終的に自民党政務調査会(法務部会)の強い要望で一部修正されたようです。規則ではなく、会社法の法文へ「格上げ」された項目もあるようなので、今後法律上の課題などもいろいろと議論されると思うのですが、とりあえず社外取締役さんを選任する上場会社が増えることが予想されます。

もちろん任意で社外取締役さんを導入する企業であれば、それなりの導入目的もあるでしょうが、今後も(やむをえず?)社外取締役さんに就任してもらう企業が増えるとなりますと、真剣に考えなければならないのが社外取締役さんの「逃げ道」です。まじめな企業ばかりであれば良いのですが、私のように不正調査などを本業としていますと、たとえ上場会社といっても、かなり問題を抱えている会社さんもあるわけで、そういったことを知らずに社外取締役さんに就任することもあるでしょうし、かりにまじめな会社で就任したとしても、さまざまな国の反市場勢力の方々に知らない間に牛耳られてしまっていた、ということもあります。

少し前ですが、金融商事判例1426号(2013年10月15日号)の巻頭言で、弥永先生が「辞任することが取締役の最後の砦か」という、おもしろい小稿を書いておられました。企業でおかしなことが起きたときに、取締役はどういった行動をとらないと善管注意義務違反(つまり法的責任を負う)となるのか・・・・というもので、有力学説で言われているようなことは、実際の取締役会の場ではなかなかとりえないのではないか?結局のところ、辞任するしか法的責任を免れる方法はないのではないか?と主張されています。ただ、アメリカでは辞任すること自体が(取締役の職務放棄ということで)義務違反にあたる可能性がある、とする判例があるようで、たしかに今後、一般株主(少数株主)の利益保護のために社外取締役の活動が期待されているのであれば、こういったアメリカの判例の考え方もあるかもしれません(このあたりは社外監査役ではなく、社外取締役特有の問題ともいえそうです)。

ここから先は法律家としての意見ではなく、ほとんど趣味(?)の世界ですが、ダスキン事件株主代表訴訟では、多くの取締役、監査役の方々に6億円近い損害賠償義務が認められました。ただ、社長に「いますぐ不祥事を公表せよ」と手紙で抗議をした社外取締役ひとりだけ、株主原告団は、株主代表訴訟の被告からはずしました。つまり社長に抵抗した社外取締役さんは裁判に巻き込まれなかったわけです。どのような行動をとれば裁判で負けないか・・・ということを研究することは法律家の仕事ですが、(見方を変えて)どうすれば裁判に巻き込まれずにすむか・・・ということを研究することは、コンプライアンスを研究する者の仕事ではないかと思います。辞任する、という行動は、たしかに裁判で負けないためには必要かもしれませんが、果たして裁判に巻き込まれないための行動という意味ではどうでしょうか。ダスキンの元社外取締役の方のように、堂々と社長と対峙するほどの行動があってこそ、裁判にも巻き込まれないような気がします。

このあたりは、以前このブログでも話題にしましたが、株主代表訴訟や会社法429条による取締役への責任追及は、いったいどのような場面において提起されるのか・・・ということを丹念に探る必要があると思います。いくら役員賠償責任保険が締結されているとしても、外からみえる取締役の行動は大切ではないかと。こういった時期だからこそ、社外取締役の行動について真剣に考えてみるべきです。

11月 27, 2013 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (1)

2013年8月26日 (月)

ワルモノが徹底して悪くなければ不祥事は収まらないのか?

TBSドラマ「半沢直樹」の第2クール(東京営業本部)がいよいよ始まりましたが、常務との対決が先鋭化して、やっぱりおもしろいですね。しかし、先日まで視ていたNHKドラマ「七つの会議」と同じように、主人公と同期のまじめな営業マンが、会社のドロドロとした裏工作のために犠牲となり、会社を去っていく・・・というのは、なんとも視ていてつらいものがあります。

この「半沢」のドラマを視ていても感じますが、銀行というところは役職員の不正を摘発して社内処分をすることはできても、銀行に存在する構造的な欠陥を指摘して改めることはむずかしい組織なのだと思いますね。先日ご紹介した林原社の破たんを描いた本の中で、著者である林原靖氏が「こうなってしまうと、我々が徹底的にワルモノであるというストーリーが、もっとも会社の継続にとって重要なのだ、と悟った」とつぶやくところがあります。関係者の不適切な行動にも問題があった、と言訳したくてもできないということです。

不正が発生した場合、その不正を発生させてしまった要因は、もちろん不正を犯した社員個人の問題が大きいわけですが、そのような不正が容易にできてしまうような機会を与えてしまったり、その不正を見て見ぬふりしてしまったりするお組織的行動もやはり組織としての「不正」だと思います。しかし、いざ役職員の不正が発覚したり、発覚しそうになると、こういった組織の構造的な欠陥に光があたらないように、「組織は完全な被害者である」というストーリーが描かれます。社内調査委員会の外部委員などを経験していると、「そこは書かないでほしい」といったクレームがつくことがありますが、ほぼ、こういった「組織の構造的欠陥には触れないで」という趣旨のものです。

しかし不祥事が発生したときに、こういった構造的欠陥が指摘されなければ、また同様の役職員による不正を発生させることになり(もしくは不正を放置して大きな不正に発展させてしまうことになり)、なんら有効な再発防止策をとることはできないと思います。公務員や金融機関、公益事業のように「一次不祥事すら組織の信用を毀損するものであり、許されない」とする組織では、こういった傾向が特に強いように感じます。

8月 26, 2013 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月28日 (金)

川崎重工内紛劇に対するマスコミの姿勢について

日経新聞の記事によると、1月にクーデターが発生した広島電鉄社の株主総会でも、やはり解任劇に対する株主さん方からの質問が集中したようです。内紛劇は株主を不安にさせてしまうことがよくわかります。記事によりますと、監査役さんが説明されたようですが、かなり苦しそうですね。。。

さて、6月26日に神戸で開催されました川崎重工業社の株主総会に出席された方より、コメント欄のとおり総会の状況をご報告いただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。当ブログでも、法律的な観点からではありますが、クーデターの総決算と言う意味で注目しておりましたので、マスコミから報じられているところと、コメント欄のレポートを読むかぎりでは、クーデターを起こした側のペースで進んだように思います。

それにしても、26日に「某さん」がコメント欄で述べておられるように、あの内紛劇から株主総会まで、日経新聞さんは川崎重工の新体制については徹底的に批判的でしたね。どうしてそこまでキビシイのだろうか・・・と思えるほどに、統合白紙に向けた川崎重工社の動きについては消極的なご意見が多かったようです。ちなみに私は今でも意見は変えておらず、M&A撤回はクーデターのきっかけであり、それ以前の社長派の方々の経営の進め方に対する不満こそ本当の原因だったのでは・・・と考えています(もちろん、そのようなことは株主総会で語られることはありませんが)。

当ブログで過去に何度も繰り返し書いておりますとおり、M&Aに関する情報はごくごく一部の役員だけで管理すべきトップシークレット情報なのです。ではなぜ情報が洩れてM&A時にはインサイダー取引事案が増えるのかといえば、それは私利私欲に目がくらんだ人がいたからではなく、いわゆる派閥争いの力学が極限まで高まるからです(これは間違いないと確信しています)。情報が拡散するのは、なにも儲け話を人に伝えるためではなく、自分の派閥の力を確認し、統率する必要があるからです。したがって支配権争いが存在しないような組織では情報統制が効くわけですが、そもそも本件において多くの取締役がM&Aの情報を知っていた、ということは、まさに以前から組織に緊張感があったことを裏付ける事実だと考えています。

日経新聞の姿勢とは少し違って、朝日新聞は比較的中立冷静な立場で報じられていたように思います。とくに今朝(6月27日)の記事では京都大学の前田教授の意見(取締役会が機能した事例として積極的に評価)も出されており、中立的な報道の象徴のように思えました。結局M&Aが成功するかどうかは「人」である、というのは経営学の先生方から何度も教えていただきましたが、統合後に陣頭指揮をとれるだけの「人」が存在しないと判断すれば、デューデリでどのような結果が出ていようとも、統合に後ろ向きになるのはミクロ的には十分にありうる結論なのでしょうね。日本が世界と戦うためには、という視点からは「残念」という結論になるのかもしれませんが。。。

ひとつだけ朝日新聞の記事で気になりましたのは、数日前に(選任されなかった3名のうちのおひとりの)取締役の方が朝日のインタビューには「総会に出席する」と回答されていたことです。しかしながら結果的には欠席されたのですね。そこにいったいどんなドラマがあったのか、総会の裏でどのような力が働いたのか、野次馬的には興味をそそられるところです。

6月 28, 2013 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年6月14日 (金)

密室のクーデターと株主総会における信認手続き

(6月14日朝 追記あり)

私が知りうるかぎりですが、今年に入って取締役会や理事会等で代表者が解職されたのは1月の広島電鉄さん、5月の近畿産業信用組合さん、そして本日の川崎重工業さん、くらいでしょうか。きちんと調べればもっとほかにもあるかもしれませんが、ともかく報道されたものはそのくらいかと。また、果たしてそれらが「クーデター」と呼べるものかどうかは、少し検討しなければならないかもしれません。

川重さんは、社長と社長代行、そして企画本部長という、まさに経営の中核におられた3名の解職と異動が動議で決議され、当事者以外の全取締役の賛成で可決された、というのですから、その緊急動議に関する情報の機密がよく維持できたものだと驚くばかりです。定例の取締役会なら緊急動議も出しやすいのですが、今回は臨時取締役会と報じられていますので、どのように招集手続きが進んだのか、(不謹慎ですが、今後の参考として)知りたいところです。クーデターを起こす側がどのようにして社長(招集権者)に臨取の手続きを進めるように促すのか、このあたりが妙味です(会社法366条、367条あたりの問題です)。ちなみに広電さんの場合は前日にすでにクーデターについての予告がなされていたように記憶しています。→産経新ま聞のニュースによると、この臨時取締役会における議題は「三井造船との統合交渉打ち切りに関する審議」ということだったそうなので、ひょっとすると前社長さんらも、クーデターの気配は感じておられたのかもしれません

(追記)毎日新聞の14日朝刊ニュースによりますと、このあたりが少し詳しく報じられており、5月23日の取締役会において、すでに「合併交渉反対」で紛糾し、その際に臨時取締役会の招集が決まったようです。そうしますと、招集手続に関する難問はなかった、ということになりそうですね。また、前社長は臨時株主総会における議決を阻止しようと動いていた、なんとか総会後に持ち込みたいと考えていた、とありますので、反対派としては、まさにこの総会前の時期がピンポイントでねらい目だったということでしょうか。

広島電鉄さんのケースでは、社外取締役さんは欠席されておられたようですが、川重さんの場合には社外取締役さんは一人もいらっしゃらなかったようです。ただ、毎度のことながら、4名の監査役さん方は、この臨時取締役会の趣旨については事前に知らされていたのかどうか、とても気になります。緊急動議を行う側(クーデターを起こす側)としては、事前に全監査役に告げておくべきかどうか、かなり迷ったのではないかと推測いたします。

ところで5月にクーデターが起きた近畿産業信用組合さんですが、新聞(中央日報)が報じるところでは理事会の代表理事解職の決議がわずか1票差で可決されたとのこと。これって、事前に動議が漏れてしまうと、解職動議の否決につながってしまうほどの僅差です。関係者の信頼関係がなければなかなか画策できないことがわかります。いや、信頼関係だけでなく、画策を検討してから実行に移すまでの時間はかなり短くなければ成功しないのではないでしょうか。

この近畿産業信用組合さんも、6月の総代会ではいろいろと意見が出されたようですが、なんとか組合員の承認を受けて新執行部が動き出しました。5月のクーデターでは「解職」どまりだったので、総代会において「常勤理事」→「非常勤理事」の議案を通過させ、前会長の影響力を完全に封じ込めました。つまりクーデターは総代会が終了するまでは終わらないのです。

今回の川重さんのケースではどうなるのでしょうか?クーデターに伴って合併交渉という重要議案についても白紙に戻す、ということなので、とりわけ合併を推進してきたとされる(?)金融機関の承認は平穏無事に得られるのでしょうか。私はいつも、このようなクーデターが起きたときは、上場会社であれ、非上場であれ、総会の信認を得てはじめて完了するものと考えています。解職という結果はまだ通過点にすぎません。新代表者の方が、コーポレートガバナンスとコンプライアンスを理由に経営者の交代を果たしたと記者会見で説明されておられましたので、そのことが定時株主総会でどのように信認されるのか、また総会で前代表者は取締役としても選任しない、という承認を得ることによって、本当にクーデターを終了させることができるのか、これはとても注目すべきところかと思います。

6月 14, 2013 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2013年5月27日 (月)

役員報酬改革=高度なガバナンス改革(だと思う)

会社法上の論点として、トレンドなのが役員報酬改革の話題ですね。ESG投資、リーマンショック後の長期業績向上についての株主の関心、グループ企業管理の在り方(海外子会社の役員報酬と国内本社の役員報酬との比率問題等)などが背景とされ、法律雑誌や新刊書でも最近よく取り上げられています。また、日本では役員報酬の個別開示が(一部高額報酬の方を除き)不要であるために、そのまま適用されることはありませんが、米国のドットフランク法による株主総会の承認手続きについても話題になっているようです。

会社役員、とりわけ経営トップの役員報酬については、固定制+業績変動制として、業績変動制の報酬を金銭とするか、エクイティとするか、短期と長期の業績どちらにウエイトを置くか等、その制度設計は各社各様です。企業価値を向上させるために、会社役員にどのようなインセンティブを付与するべきか、という視点は理解できるのですが、では具体的にどのように設計すればよいのか、これを決定することはかなりの困難を伴います。

世間的には、この役員報酬制度の制度設計の在り方に関心が高いものと思いますが、すでに役員報酬制度を工夫されている企業のHPなどを閲覧しても、設計された役員報酬制度をどのように運用するのか、その運用方針についてはあまり記載されていないようです。つまり業績をどのように評価するのか、この評価方針についても明らかにされないかぎりは役員報酬改革は成功しないのではないでしょうか。まさか業績評価の判断基準がすべて客観的な数値によって明確になるものだとは思えませんし(だからこそ長期的な業績向上の視点が取り入れられる)、評価の対象となる経営トップ自らが、その業績の自己評価をされる、というものでもないと思われます。

結局のところ、役員報酬改革を経営者の業績向上のインセンティブ付与に結び付けるためには、取締役会をできるかぎりモニタリングモデルに近づける、業績評価の客観性・公正性を確保するために複数の独立社外取締役を導入する(指名報酬委員会の過半数を社外取締役で構成する)といったこととリンクさせて考えなければ、そもそも制度の運用自体が説明できないように思われます。いまいろいろと議論されている報酬改革の議論というのは、そのあたりまで検討されているのでしょうかね?

以前、当ブログでも一度取り上げた行動経済学の実証研究として、株主は企業行動の方針が開示されたときには関心を持つが(つまり株価に影響を与えるが)、その企業行動が適切に運用されたかどうかにはあまり関心を持たない(つまり株価には影響を及ぼさない)といったことが「開示リスク」として指摘されておりました。株主総会において役員報酬の承認を受ける(報酬金額の大枠を決める)、という最低限の株主との約束事を超えて、実際に業績連動性の役員報酬がどのような評価手続きを経て具体的に決定されるのか、そのあたりについて取締役が「わかりやすく」株主へ説明責任を尽くすためには、上記のような本格的なガバナンス改革が並行して行われることが必要ではないかと思います。

5月 27, 2013 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年5月13日 (月)

トリドール事件から考える集団的消費者訴訟制度の脅威

すでに多くのマスコミで報じられておりますが、「丸亀製麺」を運営するトリドールさんが、かびの残っていた「ざる」によって「ざるうどん」を提供していたことについて正式にHP上で謝罪をされたそうであります(トリドールさんの「おわび」はこちら、またたとえば神戸新聞ニュースはこちら)。マスコミの論調や同社広報の内容からしますと、同社広報はカビの残っていたざるを用いて食品を提供したこと(一次不祥事)を重大だと認識し、いっぽうマスコミは客からのクレームを1か月間公表しなかったこと(二次不祥事)に関心を示していることがわかります(なるほど新聞報道には他の店舗でもカビが見つかったことが報じられていますが、トリドールさんの謝罪文には他店での発見のことには触れられておりません)。

2010年の「日清ラ王事件」をはじめ、SNSによって企業の不祥事が明るみに出る「おそろしさ」や、こういった社内と社外の関心の「ズレ」の問題は、当ブログでも過去に何度もお伝えしているところなので、企業コンプライアンス的には重要な点ではありますが、もはや改めて解説するほど目新しいものではございません。また、同社広報が伝えるとおり、こういった問題は個別対応で足りるものであり、果たして公表しなければならないことなのだろうか・・・という点も、いろいろと意見が分かれるところではないかと思われます。ただし、ひとつ言えることは「食品の安全を守るためには、被害者が存在する可能性がある限りは公表しなければならない」といった社会的な価値観が世間で相当強く存在することは事実として認めざるを得ないと思います。

さて、こういった社会的価値観は、これまでソフトロー(たとえば安全に関わる事故を公表しない企業はブランド価値の低下をもたらす等)によって企業に自律的行動を促してきたわけでありますが、ハードロー、つまり今後成立が予定されている集団的消費者訴訟(集団的消費者被害回復訴訟制度)の運用にも影響を及ぼすのではないでしょうか。

ご承知のとおり、今回成立が予定されている集団的消費者訴訟(被害回復制度)は製造物責任にはそのまま適用されるわけではありません。しかし、たとえば製品の瑕疵に起因するものとは言えないけれども、商品やサービスの提供契約に付随した企業側の信義則上の義務(たとえば安全配慮義務など)に違反した場合の債務不履行責任や、安全な商品を提供すべき注意義務違反による不法行為責任といった構成が可能であれば、おそらく商品損害の賠償請求の範疇に含まれてくる可能性があります。上記のとおり、社会的価値観に変化が生じている、ということであれば、実体法のレベルでもトリドールさんのような事例が集団的消費者訴訟制度に関連して、ソフトローのみならずハードローの世界でもリーガルリスクが拡大する要因になるのかもしれません。

また実体法のレベルだけではく、訴訟法のレベルでも企業側で検討すべき課題があると思います。たとえば企業が一次不祥事の存在を知りつつ、これを公表しなかったという事実が判明した場合、これを企業側が訴訟上で不利益に援用されてしまう(隠ぺいしたということは安全面で問題ありと企業側が考えていたから)、といったことも考えられます。先日エントリーしましたように、公益通報者保護法との組み合わせによって会社内部の資料も含め、有力な内部告発が増えることも考えますと、これは企業にとってかなり重大なリスクになってくるのではないでしょうか。

こういったことは、まだ世間では誰もおっしゃらないことなので、私の理解不足によるところもあるかもしれませんが、とりあえず今回のトリドールさんの事件に対する社会的な反響の大きさからみますと、企業側としても検討しておく必要があるように思った次第であります。

PS

5月10日に公表された自民党・日本経済再生本部の中間提言、なかなかスゴイ内容ですね。コーポレートガバナンス改革について、きわめて興味深い内容が盛り込まれておりますが、また別途エントリーにて。

5月 13, 2013 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年5月 7日 (火)

海外ファンドの資産運用トラブル事例は監督強化だけで防止できるか?

昨年のAIJ投資顧問事件に続き、最近ではMRIインターナショナル事件が問題となっております。AIJのような投資一任業者に対する規制強化については、先月閣議決定された金商法一部改正により、今後同種事件が再発しないための処方箋が法制化されたようであります。こういった第1種金融商品取引業者の規制については、行為規範やビジネスモデルの見直しによって規制の実効性が(ある程度は)確保されることになると思います。そこでは対象業者に対する行為規制、違反行為への厳罰化といったものだけでなく、行政当局による関与金融機関への監督強化と、金融機関の自律的行動への期待が盛り込まれております。いわば仕組み規制で再発防止を図る、というものであります。

しかしMRIのような第2種金融商品取引業者の場合には、ファンドの仕組みを規制するという形ではなく、あくまでも(ファンドという『みなし有価証券』を取り扱う)業者規制という手法がとられているために、行為規制の厳格化だけに頼って実効性を確保することはなかなか難しいようであります(消費者・投資家保護の要請とともに、一方では海外ファンドを通じた日本の海外援助、金融競争力の拡大も必要となるわけでして、そのバランスをどう図るか、という問題に直面します)。そこで行政当局としては、投資家保護のために、どのような規制手法を採用すべきか、AIJとは別の発想が必要になるものと思います。

こういった事件が発覚するたびに、「金融庁は何をしていたのか」「投資家がリスク商品に安心して手を出せる体制づくりこそ重要だ」と言われますが、私は不正調査を行う立場からみて、規制を強化するだけでは事件は防止できないと推察しております。なぜなら、頭の良い方々、勘の鋭い方々は「ちょっとおかしい」と感じても、自分たちが儲けることができる間は「おかしい」とは口に出さずに儲け続け、世間がみんな「おかしい」と知ったころには利益を確定した上で「いやいや、私たちも被害者です」といったスタンスをとるわけでして、表には出てこられません。刑事罰等の事後規制強化を図ってみても、AIJ事件や今回のMRI事件のように、そもそも社員ですら「仕組みが違法だとは知らなかった」という事態となれば、販売ノルマを果たすことに狂奔するだけであり、なんら抑止力が機能しないのではないでしょうか。

また、ホントに騙されて多大な損失を被ったた方々は、けっして最後まで「自分が騙された」とは思いたくないのです。それゆえ過去に何度か配当(らしき金銭分配)がなされた経験があれば、心のバイアスが働くためにその経験にしがみつき、「いまは損失が出ていても、かならずその分利益は出してくれる」と信じ、自ら「おかしい」とは口に出さないのであります。それゆえに、マスコミで事件が報じられた後でも、加害者が被害者に更なる詐欺行為を重ねることも可能だったりするわけです。事件が表面化しない限り、いくら監督を強化しても行政目的(被害拡大の防止)は達成できないと思われます。

真の再発防止のためには、やはり自己責任原則の周知(金融リテラシーの向上)が最も必要ではないかと。その周知方法としては、単純に業者の説明義務の拡張や啓蒙活動というだけでは到底困難であり、「独立した専門家のアドバイスを受けるには、それなりのお金がいる」ということを前提に、多くの投資助言家が日本にも出てくることではないでしょうか(すでにご活躍の方もいらっしゃると思いますが、それでも独立系の方はまだまだ少ないですよね。ただ、この専門家の助言というものも、すでに当ブログでご紹介している「AIJ事件の深き闇」を読みますと、本当に役に立つのかどうか、若干不安になったりもするのですが・・・)。また業者規制ということであれば、業界団体による自主規制のようなものを組織して、これに所属する組織かどうか、という点を確認することなども自己責任の一環とすべきだと思われます。こういった自己責任原則の徹底は、「出資金」や「有価証券」と称して登場する海外のPEファンドを精査する立場にある一般事業会社の取締役や監査役の善管注意義務を論じるにあたっても同じことが言えるのではないかと。

(お知らせ)

Estabu098昨日お知らせいたしましたように、新聞に書評が掲載されるなど、拙著「法の世界からみた会計監査」の認知度も若干ではありますが、高まってまいりました。左の写真は5月6日のジュンク堂なんば店の様子です。書店の方々にも、応援いただいております!感謝です<m(__)m>。

5月 7, 2013 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月14日 (木)

社外取締役が保護すべきは「一般株主」か「ステークホルダー」か

日興インサイダー事件は、検察側が訴因変更(訴因の追加)を行ったそうですね(毎日新聞ニュースはこちら)。公開買付関係者取引の訴因に、一次情報受領者による取引の訴因を追加したということですが、この二つの訴因は両立することはないと思われますので、有罪となる訴因に関する公訴事実についてのみ判断され、もうひとつの訴因については判断されない、ということになると思われます。つまり「共謀」の有無についての裁判所の判断は回避されることになりますと、これから始まる日興元執行役員の方の裁判では立証のハードルが高くなる可能性があります。これは裁判所が訴因変更を促した趣旨が、たとえば(私が推測するような)インサイダー規制の条文構造に由来するものであれば、あまり問題はないのかもしれませんが、共謀を裏付ける事実が薄いという立証の点にあったとすればハードルが高くなる可能性がある、ということになろうかと。判決は28日だそうであります。

(さて、ここからが本題ですが)オックスフォード大学のメイヤー教授の「社外取締役を増やすだけで企業統治が強化されるわけではない」 (日経ビジネスWEB 但し閲覧には会員登録が必要です)を興味深く読ませていただきました(早稲田大学と東証さんの共催シンポでもご講演されたのですね・・・)。日本の「会社法制の見直しに関する要綱」のなかで、監査・監督委員会設置会社(仮称)という機関設計が検討されていますが、メイヤー氏の理想とする取締役会の姿に最も近いのではないか、と想像したりしております。またガバナンスにおいて短期的売買を繰り返す株主の存在も重要だが、長期的保有者と短期的保有者に議決権の差を設けることも検討されるべき、とする意見も述べておられます(そういえば当ブログでも、以前DOWAホールディングスさんの敵対的買収防衛策を題材にして、こういった議論を一度取り上げたことがありましたね)。

ところで表題のとおり、このインタビュー記事では社外取締役の役割がメイヤー氏によって語られているわけですが、以前から「社外取締役は誰の利益を一番に確保しなければならないのか」と疑問に感じていたところについて、メイヤー氏は明確に回答しておられます。

(聞き手)となりますと、株価を高めて株主価値を最大化することだけが、企業の監督に徹する社外取締役の目的ではないと。

(メイヤー氏)そうです。例えば、あるメーカーが、顧客を満足させることを自社の最も重要な目的としていたとしましょう。顧客のニーズと要求を満たすだけの高品質の製品を生産することがその会社の第一の目標になります。それを追求していくうちに、株主にも相当なリターンをもたらすでしょうが、株主価値を最大化することは決して最優先の目的ではありません。さらに言えば、顧客を満足させるという第一の目標を達成するために、株主だけでなく従業員や部品を供給する会社もきちんとケアされているかどうかも、監督を担う社外取締役は確かめることになります。

なるほど、企業を取り巻くステークホルダーの利益を最優先に考えるべきであり、その追求の中で株主にも相当なリターンが得られるのだ、ということを語っておられるようです。しかし東証の「独立役員」(厳密には社外取締役または社外監査役なので、ズバリ「社外取締役」とは異なりますが)というのは、一般株主の利益を最優先に考えるべきであるとされています。たとえば先日ご紹介した東証「独立役員ハンドブック」の20頁には

株式会社のステークホルダーのうち、一番最後にその利益の分配を受ける株主が保護されることは、取引先や従業員など他のステークホルダーの利益を確保することにもつながります。短期的には、一般株主の利益とそれ以外のステークホルダーの利害が対立する場面もあり得ますが、中長期的には一般株主の利益が保護されることは、他のステークホルダーの利益確保にも役立つといえるでしょう

との解説がなされています。発想は良く似ておりますが、この独立役員たる社外役員の役割と、メイヤー氏の理想とする社外取締役の姿とは、「誰の利益を最優先とすべきか」という点において大きく異なっているものと思われます。このあたりは株主価値の最大化ということに重点を置くアメリカの発想と、企業の社会的責任(CSR)思想の深い欧州の発想の差異に起因するものなのかもしれません。

なお、昨年末にご紹介した「ずる-嘘とごまかしの行動経済学」の著者である行動経済学者のダン・アリエリー氏(米国)は、最近の金融不正事件を例に挙げて「株主価値の最大化に重きを置く企業は、金融や法律、環境の分野で、さまざまな不正行為を正当化できるおそれがある」と警告を発していました(同書233頁)。また、日本の昭和49年の商法改正の際、「企業の社会的責任」に関する条文を商法に挿入すべきかどうかの大論争になりましたが、反対派の学者の方々は、企業の社会的責任などという曖昧な規律を条文化してしまうと、取締役が善管注意義務に従った行動であることを、「社会的責任を尽くす」という言葉でどうにでも説明してしまうおそれがあり、妥当ではないと力説されておられたようです。

このように考えますと、東証の独立役員制度のように、株主価値の最大化というよりも、もう少し具体性を持たせて一般株主(支配権を持つ可能性がなく、市場の流動性のみによって経済的価値を実現できる株主)の利益保護、といった言葉で表現することが、一番具体的なものであり、その行動規範としての「ごまかし」が効かないものではないかと思えるのですが、いかがなものでしょうか。あるいは、メイヤー氏も抽象的な議論に徹するのではなく、インタビューの内容からすると、社外取締役が誰の利益を最優先とすべきかは一義的に決まるものではなく、個々の企業の理念に照らして決するべきものであり、その理念を追求する過程において各種ステークホルダーの利益に配慮すべきものなのだ、と考えておられるのかもしれません。いずれにせよ、企業価値を最大化する、というのは当社では具体的に何を目指すことなのか、その目指すなかで社外取締役がどのようなポジションにあることが期待されているのか、というところが明確にされませんと、各企業における社外取締役の役割も、わかりやすく説明できないように思えます。

2月 14, 2013 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年1月24日 (木)

近時の役員責任追及訴訟の類型と不祥事企業の自浄能力の発揮

本日(1月23日)は、東京・名古屋・大阪のCFE(公認不正検査士)研究会の合同交流会に参加してまいりました。毎年1回開催され、三回目の今年は名古屋開催ということで名古屋CFE研究会の皆様には懇親会までたいへんお世話になりました<m(__)m>。

今年の発表は①某大手監査法人のフォレンジック担当会計士によるNOVA社役員責任追及訴訟判決(平成24年6月7日大阪地裁)を題材とした討論、②某大手法律事務所の企業法務担当弁護士による東和銀行役員責任追及訴訟控訴審判決(平成23年12月15日東京高裁)を題材とした討論を行いました。NOVAの事例は、昨年12月の こちらのエントリーにあるように、私も関心を寄せていた判決です。この合同研究会の討論の面白いところは、判決で認定された事実をもとに、判決文で表現されていない「真の問題点」「本当の事件の原因」を推論し、不正の未然防止や早期発見に活かす、という点にあります。

たとえばNOVA事件判決であれば、NOVAの(当時の)会計処理の妥当性を判断するにあたり、監査法人としては、会社側にどのような資料を求めていれば、もっとスムーズに意見を形成できたのか、前受金の収益認識に関する会計処理について、当時の消費者契約法による清算義務についても「経済的合理性に基づく会計処理」として反映させるべきではなかったのか、さらに(実際に清算された金額だけでなく)清算に関する法的紛争の可能性をどこまで認識していれば引当金の算定の判断に影響が出ていたか、といった諸点への検討がなされました。これは後日の同様の事例にも参考になる議論ではないかと思われます。

また東和銀行事件判決では、「頭取案件」と呼ばれる取引先融資にあたり、判決の上では取引先の経営状況の悪化や、実現困難な業績見込みについて詳細に検討され、最終的には融資判断の甘さが取締役の善管注意義務違反の根拠とされていますが、この研究会では、「なぜ、審査部長も、また多くの役員も消極的であった融資について、頭取ともうひとりの役員だけ熱心に融資決済を求めていたのか」と言う点が議論されました。判決文にはどこにも出てくるものではありませんが、当時の時代背景からみると、同銀行がさまざまな不良債権処理にあたり、この取引先にお世話になっており(つまり暗黙の貸し借りがあって)、本件融資も「貸し借り」の一環として履行されたのではないか、といった意見が出ておりました。ただ、大蔵省出身のワンマン頭取の意見に誰が抵抗できたのか、どうすれば抵抗できたのか・・・ということになりますと、なかなか妙案が浮かんでこないのも事実であります。

ちなみに、当ブログでは以前、こちらのエントリーにて、「企業不祥事発生時に自浄能力を発揮した企業は株主代表訴訟を提起されていない」ということを書きましたが、こういった判例を検討しておりますと、不正確な表現だったかもしれない、と思っております。会社が、自らの判断で役員(元役員)の責任追及訴訟を提起していたとしても(一見、自浄能力を発揮しているように見えるかもしれませんが)、果たして十分な責任追及が期待できるのかどうか疑問が生じるケースもあるからです。

今も係属しているオリンパス役員責任追及訴訟では、第三者委員から成る責任調査委員会の報告書を基に、オリンパス社が会計不正事件が発生していた当時の取締役、監査役を相手に(損害賠償請求事件として)訴えを提起しています。提訴までの経緯に鑑みると、自浄能力を発揮しているものと考えられます。しかし、上記の東和銀行事件では、金融庁から改善要請を受けて(お尻に火がついた)監査役が、会社を代表して役員の責任を追及しています。さらに、昨年6月29日に大阪地裁で取締役の責任が一部認容されました石原産業フェロシルト不法投棄・元役員損害賠償請求事件では、監査役が元取締役らに対して提起した損害賠償請求訴訟に、(不満を感じた)一般株主らが共同参加して大きな訴訟に発展しております(最終的には代表訴訟も提起)。

これらの事例は、行政当局から後押しされたり、機関投資家や一般株主から訴訟提起を求められたり、ということで、かならずしも会社が積極的に役員の責任追及に動いたとは言えないものであります。会社自体が訴訟を提起するということは、役員の善管注意義務違反を裏付ける事実を積極的に開示する覚悟を世に示すものになり、本来ならば問題をあいまいに処理しない、という決意を表明することになるわけですが、株主代表訴訟を回避する目的も見え隠れするようで、自浄能力の表れとみることまではできないように思います。会社による役員責任追及訴訟が提起されたからといって、それだけで自浄能力が発揮されている、とまで即断できるものではない、ということを認識しておく必要があろうかと。

なお、石原産業元役員損害賠償請求事件判決は非常に長い判決文ですが、不祥事発生時点における取締役の地位に応じて、詳細な責任判断が記述されておりますし、内部統制システムの運用についての裁判所の考え方を示す、たいへん興味深いものです。これはまた判決文を精査したうえで、ブログにてご紹介したいと思います。

1月 24, 2013 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年1月18日 (金)

富士通名誉毀損事件最高裁決定と真実性の証明の対象(速報版)

昨日のエントリーで取り上げましたドリームライナー(ボーイング787)の事故ですが、アメリカの運輸当局が異例の運航禁止命令(緊急耐空性命令)を出したことが報じられております。予想以上に早い展開となりましたが、安全性の確認ができれば解除される、とのことなので、日米両国においてどのような対策がなされれば「安全性が確認された」といえるのか(その対策がどうして「利用者の安心」とつながるのか)、今後とも注視しておきたいと思います。

さて、本年1月15日、最高裁(第三小法廷)において富士通名誉毀損(損害賠償等)請求事件に関する決定が出たようであります。結果は富士通(法人)および同社役員(個人)側の勝訴の内容であり、いわゆる「上告不受理」決定とのこと。これで富士通側勝訴の原審判決(東京高裁第11民事部 平成24年6月27日)が確定いたしました。

ちなみに、本訴訟は富士通の元社長さんによる損害賠償請求事件とは異なり、富士通社が元社長辞任に至った事情などを開示したことで、「反社会的勢力との関係が深い」と記された法人およびその代表者が、民法709条、会社法429条1項を根拠として、富士通社を相手取って起こしていた裁判であります(元社長さんが訴えている事件は上告中かと思われます)。自分たちは何ら反社会的勢力でもなく、また同勢力と深い関係もないのに、一方的に富士通社から「関係がある」と指摘されたのは名誉毀損(人格権侵害)であり、損害賠償と共に謝罪広告の掲載を求める、といった内容です。

名誉毀損行為といいますのは、不特定または多数の人たちが認識しうる状況のなかで、他人の名誉や社会的評価を低下させるに値する事実を開示することで成立します。本件原審の高裁判決では、富士通役員らの一連の情報開示行為は、元社長の辞任に至る経緯を(上場会社として)広く公表する過程において原告(控訴人)らの社会的信用を低下させるものであるから、形式的には名誉毀損行為に該当する、ただし富士通側には違法性阻却事由が認められるから、役員らの開示行為は適法、としています。たしか最初は「社長は病気療養のために辞任する」と富士通側が公表したところ、元社長側が「辞任を迫られたことは納得できない」と反論して大きな騒動になり、その後(東証からの注意もあり)富士通側が辞任理由に関して再度、真実の経緯を公表したものと記憶しております。その「再度の公表」のなかで、本裁判の原告(控訴人、上告人)が「反社会的勢力との関係のある者」と指摘されていました。

反社会的勢力(もしくは関係を有する者)への企業対応に関する蛇の目ミシン株主代表訴訟事件最高裁判決(平成18年4月10日)の内容との整合性から考えますと、この高裁判決が今後の企業実務に及ぼす影響は大きなものがあり、とりわけ上場企業の取締役、監査役を含めた平時からの反社会的勢力排除への取組み(行動指針の作成)や、有事に至った場合の具体的な対応方法を考えるうえで示唆に富むものとなっています。どこの上場会社とは申し上げませんが、最近でも「当該企業の某役員が反社会的勢力と関係があるのではないか」と噂された場合に、たいへん苦労して(工夫して?)これを打ち消すための開示を行っている企業が散見されます。しかし、富士通社のように、真正面から真実を開示しなければならない場面というのも想定されますので、この高裁判決の射程範囲を綿密に分析したうえで、たとえ形式的には名誉毀損の要件に該当したとしても、どうすれば違法性阻却事由(公益目的の有無、公共の利害に関わる事実としての真実性の証明対象事実は何か)によって賠償責任を免じられるのか、各企業において(顧問の弁護士さんと相談しながら)検討されるのがよろしいのではないかと思います。

本来、「これは噂であるが・・・」といった前置きをしても(原則として)名誉毀損に該当してしまうわけですが、今回の事件では、なぜ「反社会的勢力かどうか」ということではなく、「反社会的勢力と関係があるとの『うわさ』自体」が真実性の証明対象事実になったのか(これは会社側からすれば、立証の負担として大きな違いであり、現に本裁判では富士通側が真実性の証明に成功しています)、その理由を分析し、業種、上場・非上場の区別、企業規模、連結か単体か、親会社か子会社か、といった各企業ごとの特性を考慮しながら、平時からの対策を提案することが法律家の役割ではないかと思います。

なお、最近、証券会社が警察保有の情報にアクセスできるようになった、との報道がなされていますが、アクセスできる情報は極めて限られた情報であり、「反社会的勢力と関係を有する者」まで広げてアクセスできるものではないようです。また、金融機関の持つ情報への一般企業のアクセス方法も流動的であり、「この会社は真っ黒」というような特定の情報を得ることができるとは限りません。反社会的勢力対応は、あくまでも平時からの自助努力が原則であることを肝に銘じておくべきです。

1月 18, 2013 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年1月11日 (金)

広電社長解任-そのとき社外取締役、監査役は?

東証2部上場の広島電鉄さんで、社長さんが解任された、と報じられております。最近の社長解任劇といえば、委任状争奪戦やTOB、つまりモノ言う株主が主役となるケースが多いと思いますが、今回は株主の支配力によるものではなく、まさに「社長解職劇」という社内のクーデターによるものと思われます。

ただ、「クーデター」といいましても、通常は取締役会の招集通知に「社長解任(正式には解職)議案」については書かれておらず、一部取締役から「緊急動議」が出されるケースがほとんどだと思いますので、今回のように招集通知に「社長解職の件」と堂々と記されているケースはかなり珍しいのではないでしょうか。オリンパスのケースでも、ウッドフォード氏は薄々感じてはいたけれども、緊急動議で解職されたものと記憶しております。

日経の記事によりますと、12月25日ころから各取締役間で協議が始まり、1月4日に社長交代要求、(社長名義で)招集通知、7日に臨時取締役会開催という経緯だそうで、企業法務に関心のある法律家の立場からは「この招集手続きに瑕疵はないのか、取締役会の決議は有効だろうか」というあたりに話題が集まるのかもしれません。しかし、このあたりは詳細な事実関係が判明しないとなんとも言えないところがありますし、社長解任といいましても、(解職された方は)今後も「取締役」としてお残りになるわけですから、あまり意見にわたることは述べないほうがよろしいかもしれません。

ただ、こういったクーデター事案におきまして、社外取締役さんや、2名の社外監査役さんに、どれだけ事前の情報を付与しておくべきか・・・というあたりは結構悩ましいところがあるのではないかと。産経新聞の記事によりますと、臨時取締役会に出席していた役員は合計10名ということなので、取締役7名(欠席2名)、監査役3名、つまり常勤を含め監査役は全員出席をしていた、ということのようです。仕事始めの忙しいときに、きちんと社外監査役がそろって出席ということは、(招集通知を受領する以前から)クーデターについては知らさせていたものと思います。解任劇の後、平穏無事にビジネスが進むかどうか、という点について、この「監査役の出席」はずいぶんと大きな影響力をもつものと思われます。まさに「監査役を制する者はクーデターを制す」といったところではないでしょうか(いろいろと非難されそうな物言いで恐縮ですが)。

さて、ここからは私の勝手な推測ですが、監査役さん方に、あらかじめ「何が起こるのか」を囁いておくとしても、メインバンクさんから来られているような社外監査役さんに囁くのはちょっと勇気が必要かな・・・と。今回の広電さんのケースでは、社外監査役のおひとりはメインバンク(かつ筆頭株主)ご出身の方であります。平穏な経営を特に好まれるメインバンクさん、ということになりますと、お家騒動はあまり好ましいものではございません。そのあたり、どのような配慮があったのでしょうか。また今回、社外取締役さんは欠席されたそうですが、社外取締役さんが、どのようなルートで(どなたの紹介で)広電さんの社外役員に就任されたのか、そのあたりも準備段階ではナーバスになるところかもしれません。

いやひょっとして、昔の有名な某百貨店の解任劇と同様のシナリオが存在しているのだろうか・・・などと考えるところもありますが、これは全く根拠のない私自身の妄想でございます(あしからず・・・)。いずれにしても、教科書(会社法の基本書)には取締役会の監督機能というものが当たり前に記述されており(会社法362条2項2号、3号)、最近のガバナンスでも「モニタリングモデル」というものが話題になるのでありますが、こういった事態がリアルの世界で発生しますと「解任劇」「クーデター」と呼ばれるところに法と現実とのギャップを感じるところであります。

1月 11, 2013 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年12月 6日 (木)

「企業会計原則」は法律なのか?-ノヴァ第三者責任追及訴訟判決-

金融・商事判例1403号(2012年11月15日号)に、ノヴァ(現在NOVAの名称を使用している法人とは異なります)の元受講生が原告となり、同社元役員、監査法人を被告として第三者責任(会社法429条)等を追及していた訴訟の判決(大阪地裁平成24年6月7日)が掲載されています。判決内容は元取締役、同監査役、会計監査人とも勝訴(原告の請求棄却)となっており、そもそもノヴァが上場会社として英会話学校を運営していた頃の財務諸表、計算書類の表示は粉飾決算にあたらないので、役員らの責任も発生しないという内容です。なお、消費者保護訴訟の一環として提訴されたようですので、金商法上の民事責任が追及されたものではありません。

このノヴァの会計処理については、以前から細野祐二氏(会計評論家、元大手監査法人所属の公認会計士)が注目しておられたものであり、ご著書「法廷会計学vs粉飾決算」(日経BP社2008年)の中でも「NOVAの方舟」として詳しく論じておられました(同書245頁以下)。受講生から前払いで授業料が払われた際、ノヴァ社はその45%を「システム登録料」として売上に計上しており、その余を分割して収益に計上していたのですが、このような収益計上基準は、そもそも企業会計原則云々以前の問題としておかしい、日本では認められることはない、とされていました。また2007年10月30日付日経新聞(11面)記事では、日本公認会計士協会がNOVA(当時)に対する会計監査が適切であったかどうか、調査する方針を固めた」とあり、「受講生が前払いしたレッスン料の45%を契約時点で売上としており、収益計上が適切だったのか、という点が問題視されている」とあります。

消費者法(特定商取引法)との関係で、ノヴァ社が解約返戻金に見合った内部留保を積んでおかねばならないのでは、といった最高裁判決との整合的な会計処理の是否も問題になっているのですが、そこは省略することとして、そもそも受講生から中途解約を求められた場合には、清算ルールが決められているにもかかわらず、受講契約当初に一括前払い金の45%を売上計上する、という会計処理は収益の実現主義(企業会計原則)からみるとおかしいのではないか(役務の提供がないのに収益が実現しているとはいえない)、粉飾ではないか、というのが原告側からの主張です。

上記大阪地裁の判決では、ノヴァ社側の会計処理方式の違法性を論じるにあたり、受講生をレッスンするためには、教室を借りたり、講師を探して来る等、いわゆる準備のための費用がかかっていることから、前払い金の45%を収益として初年度の売上に計上することも「費用収益対応原則、実現主義に反して違法である、とまではいえない」と判断しています(別途受領する入学金とこのシステム登録料含めても・・・ということだと思います)。個別に解約を申し出る受講生に対しては解約ルールが別途定められているわけですが、例年解約件数がそれほど多くないわけですから、長期的でみれば(実際に入金されている以上)相応の理由がある限り、初年度に多額の収益を計上しても許容される、というところでしょうか。

私は裁判所が企業会計原則違反をどのように法律問題として解釈するのだろうか・・・と注目しておりましたが、この地裁判決では、違法・適法の判断根拠として、ダイレクトに企業会計原則を持ち出しているようです。ということは、たとえば原告側が主張するように、厳格に収益と費用を対応させて「前受金」項目で保守的に会計処理をする場合も、ノヴァ社が実際に行ったように、45%を収益とする内訳が何ら合理的な理由もないままに一括して収益として計上される場合も、いずれも企業会計原則では問題ない、ということになるかと。企業会計原則を法律と同様に考えるのであれば、これはまさに解釈に裁量の幅がある、ということを示すように思います。

しかし、細野氏が「おかしい」と明言されていた会計処理について、役務提供の準備に要した費用があるのだから、45%を一括収益計上できる、という論理で「企業会計原則違反は存在しない」という結論は容易に導かれるのでしょうか?レッスンのために教室を借りたり、講師を用意することは、一回限りの役務提供ではありませんし、そもそも引当金を積む際には、引当率を計算するのに厳格な資料が必要となるにもかかわらず、経営者側の判断で45%の一括収益を認めるのになんの資料も不要というのがちょっとよくわからないのですが、こうやって裁判になってみると企業会計原則というのは、本当に幅が広い概念なのだなぁと感じます。ただ、別の著名な会計士の方より、いくら会計処理方法に裁量の幅があったとしても、きちんと会社の儲けの仕組みを理解すれば、おのずと適切な会計処理方針はひとつに決まるのであり、裁量の幅など存在しない、とのご意見をいただいたことを付言しておきます。

被告となった監査法人の反論を読んでみても、消費者被害救済の見地から訴訟が提起された関係からか(つまり粉飾そのものが重要な争点となる投資家被害訴訟とは異なるからか)会計処理方法の可否についての反論はされていないようです。本件は控訴審に係属しているそうなので、控訴審判決がどうなるかは未定ですが、絶対的真実が問われる司法裁判所において、企業会計原則の「相対的真実主義」が論じられるというのは、なかなか興味深いところです。

12月 6, 2012 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年11月19日 (月)

オリンパス損失飛ばし事件と「公表」の時期(金商法21条の2)

11月13日、オリンパス社より海外機関投資家から損害賠償請求に関する訴訟を提起された旨開示されました(当社に対する訴訟の提起に関するお知らせ)。マスコミ各紙で報じられているとおり、総額190億円の請求額ということですから、オリンパス社の経営にも影響が出てきそうな金額です。6月に訴状が提出されたにもかかわらず、今月になって送達されたそうなので、訴状の補正や添付書類の追完、訴訟費用の納付など、原告側も準備がたいへんだったのでしょうね。

私自身、この事件には未だよくわからない点がありまして、たとえば解任騒動の2週間前にウッドフォード氏をCEOに選任した取締役会が、なにゆえ深い議論もなく全員一致で社長解任に同意してしまうのだろう・・・などと考えています。取締役や監査役の責任調査委員会の報告書では、ウッドフォード氏を解任することについて賛同した役員には法的責任はないと認定されていますが、「この人がオリンパスの最高経営責任者にふさわしい」という理由で社長からCEO兼社長に全員一致で選任した取締役会が、そのわずか2週間後に「やはり日本文化に合わない社長だった」という理由で解任される、というのは普通に考えますとありえないわけです。なぜ社外取締役の方々が、どうしてそうなっちゃうの?ちょっとおかしいのでは?と声を上げなかったのか、法規範的にみてもかなり無理があるのではないか、と思ってしまいます。

さて、そういった「未だよくわからない」ことの一つとして、このオリンパス事件における金商法21条の2第2項における「当該虚偽記載等の事実が公表された日」というのは、いったい何時を指すのだろう・・・という疑問があります。この「公表日」の概念は、金商法21条による損害賠償請求を行う株主の範囲を確定するためにも必要なのですが、何時の時点を基準として株主の損害額を推定するか、という判断基準になる点が重要です。公表日を境にして、その前後1カ月の平均株価の差を損害金額と推定することになりますので、原告側としては、株価が急落した時点を「公表日」と主張したくなるのは当然のことであり、被告側はもっと後にずらしたくなる、ということになります。

ではオリンパス事件において虚偽記載が公表された時点は何時か、ということですが、いくつか考えられるところです。主なところは①ウッドフォード氏が解任された時点、②会社自身が損失飛ばしによる会計不正の事実を認めた時点、③第三者委員会が報告書を開示した時点、④正式に有価証券報告書の訂正を公表した時点くらいが問題になるかと思われます。今回の海外機関投資家による損害賠償請求訴訟の中身については、詳しく報じられていないようなので、どこを公表日と捉えているのかは不明ですが、学者の方々の議論や先行する損害賠償請求訴訟での原告(個人株主)側の主張などは、②または③あたりを「公表日」だと解しておられるのではないでしょうか。おそらく今年3月13日に出ましたライブドア損害賠償請求訴訟最高裁判決の考え方からしますと、③あたりの判断になるのが穏当な解釈かと思われます。ちなみに同最高裁判決では、ライブドアの強制捜査直後に、検察による司法記者クラブでの会見が「公表」に該当するとされています。

金商法21条の2第2項の「公表」といえるかどうかを考える場合、誰が、どのような内容を、どのような方法で行ったか、という点が吟味されるわけですが、上記最高裁判決では、これらの吟味にあたり、文理解釈以外には、「この規定は投資家保護の趣旨によって制定されたものなので、投資家保護の見地から判断する」ということで、政策的価値判断を重視して上記のとおり検察の会見を「公表」と解釈しています。ということは、今回のオリンパス事件でも、どの時点が「公表日」に該当するかは、政策的価値判断による解釈というものも成り立つのではないでしょうか。

たとえばウッドフォード氏が解任直後にフィナンシャルタイムスやブルームバーグの取材に応じていますが、当時は代表取締役ではなかったものの、取締役たる地位にはありました。また、代表取締役兼CEOの時代に会社として正式に意見報告を依頼したPwC(プライスウォーターハウスクーパース)による報告書もこの時期に開示しています。この報告書では、専門家として「不適切会計の疑いがある」ことが掲載されており、しかも英社および国内三者の企業買収に絡む法外な買収金額や手数料のことも問題視されています。ということは、この報告書が開示されたことによって、2007年以降の関連会社の「のれん」に計上されている資産が取り消される可能性は公表されていたことになります(現に、オリンパス社側は、10月19日の時点で「PwCは当社の正式な監査法人ではない」と開示して、この報告書の信用性を否定するリリースを出しています)。

ただ問題は、海外メディアへの非公式な取材対応が「公表としての方法」にふさわしいものかどうか、というところです。たしかに国内の投資家からすれば、当時の状況では、オリンパス社の開示情報のほうが正しいと判断する方が多かったはずなので、公表に値するとは言えないと思います。ただ、海外の投資家からすれば、少なくとも数日前まではCEOの立場にあった者が、客観的な第三者による報告書をもってオリンパスの会計不正を推認させる具体的事実を指摘しているわけですから、むしろウッドフォード氏の発言に信ぴょう性を感じるのではないでしょうか。また海外に追い出されたウッドフォード氏が真実を公表する方法が他にも見いだせなかったとすれば、これもできる限りの公表方法ではないかとも思われます。

以上は、あくまでも「可能性」に関するお話です。ウッドフォード解任直後の時期に株価が急落しましたが、これは虚偽記載の可能性が高まったからではなく、日本を代表するレンズ機器メーカーの内紛発生を問題視したからと受け止めるほうが素直かもしれません。オリンパスに対する金商法を根拠とする損害賠償請求訴訟が本格化してきましたが、今後は損害に関する争点や、この「推定規定」に関する争点の議論がさらに尽くされることを期待しています。また、虚偽記載に関する役員の責任が併せて問われているのであれば(これは根拠条文は変わりますが)、「相当の注意の抗弁」がいかなる場合に認められるのか、先日のアーバンコーポレイション事件判決などと共に、コンプライアンスの視点からも注目されるところだと思います。

11月 19, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月14日 (日)

企業の内部監査は驚くほど進化している(ACFEカンファレンスを終えて)

本日は休日版とさせていただきます。10月12日、青山学院アイビーホールにて、第三回のACFE(公認不正検査士協会)JAPANの年次カンファレンスが開催されました。当ブログでも、ずいぶん前にご紹介いたしましたが、おかげさまで2週間前に申込み受付終了となりまして、当日も満員の中で開催されました。内外のマスコミの方々もお越しいただき、主催者側(理事)として、厚く御礼申し上げます。

なんといってもオリンパス元社長のマイケル・ウッドフォード氏の講演(および八田教授との討論会)をメインに据えましたので、「一度でいいから生(なま)ウッドフォードを観たい、声を聴きたい」との想いでお越しいただいた方が多かったのではないでしょうか。懇親会でもウッドフォード氏と名刺交換や記念撮影をされておられた方が多かったですし、彼の著書にサインをしてもらっていた方もおられました。今回のカンファレンスの盛況が、彼の存在によるところが大きかったことは否めないところかと思います。

さて、ウッドフォード氏の講演を拝聴したことの印象については、また「不祥事と企業倫理」に関するテーマでお話させていただくとして、私がこのカンファレンスで一番印象に残ったことは「企業の内部監査部は結構進化しているのではないか」というものであります。大手企業の内部監査に携わっておられる方々には「それはあたりまえですよ」と言われるかもしれませんが、会社法上は「任意の機関」にすぎない内部監査という部署が、ここまでガバナンスという意味で進んでいるのか・・・と(恥ずかしながら)外野の者にとってはたいへん新鮮なものでありました。

昨年は尼崎信用金庫の国際部長の方のスピーチで、尼信さんでは内部監査部だけでなく、他の部署にもCFE(公認不正検査士)の資格者を配置するようになり、金庫内ではすでに7名のCFE資格者が活躍されている(たしか現在は10名を超えておられるとか)、とのお話にビックリいたしました。そして、今年はI商事とA製薬さん(実名でもかまわないとは思うのですが、念のためイニシャル表示とさせていただきます)の担当責任者の方々のスピーチがございました。

まず総合商社のI商事さんですが、I商事さんでは内部監査部とは別に、なんと!不正検査専門部署を設置されているそうです。しかも内部監査部とは指揮命令系統が違う合計30名ほどの部隊ということだそうで・・・ええ!?不正検査専門部署?・・・スゴイ・・・、つまり定例の内部監査とは別に、不正が疑われるところがあれば、これを確認し、不正の芽が存在すれば早期に発見してこれを是正する、というものだそうであります。もちろん、不正検査部署ということなので、そのような疑惑がない時期もあるわけでして、そういった疑惑がないときには何をしているのか?という点についてもご解説がございました。きちんとミッションが決められているうえに、コンサルタント的な指導も高く期待されているようで、たいへん驚きました。

さてもうひとつのA製薬さんですが、こちらは内部監査部署の会社での位置づけが非常に高く、なんと!?グローバル経営会議や国内経営会議等の重要会議では「陪席」という形で重要な意思決定の過程をレビューされるそうであります。ええ!?意思決定会議体に出席ですか?しかも、重要会議に出席したうえで、内部監査部署が身内に対する厳しい意見を出さなければ陪席という立場も危うくなってしまうとか。「CEOとして心配すべき事」をきちんと報告しなければ「陪席の意味なし」と評価されるそうでして、つまり会社挙げて内部監査を高く評価しているそうであります。だからこそ内部監査部署の方々も非常にやる気が出る、とのこと。あと、ここでは詳しくは書きませんが、内部監査人として倫理と現実の狭間の問題にも真正面から苦悩されている姿を堂々を発表されておられ、「ああ、内部監査という職務はここまで前面に出てくる時代になったのだなあ」と、改めて新鮮な気持ちになりました。おそらく(これは私の推測ですが)、監査部門の評価活動に加えて、その指導機能を発揮していかなければ(少なくとも発揮しようという気概をもたなければ)、経営執行部からは高い評価を得られないのではないかと思われます。

そういえば先日、大阪の某大手企業の監査部長さん、監査役室長さんとお食事をさせていただいたとき、私が単純な素人考えで「内部監査という仕事は結構、親会社や子会社の社員から嫌われるのでしょうね」とお聴きしたところ、

「先生、それは古いですよ。いまは評価よりも指導の時代。指導ができるからこそ、評価を受け入れてくれる。むしろ子会社の社長さん等は、内部監査はウェルカムです。自分たちがわからないところを指摘したり、膿を出し切る作業を手伝ったりするわけですから。また、子会社の内部監査の指導などもやりますので、本当に歓迎されるようになりました。」

とのお返事でした。金融監査なども、このように検査から指導へと少しずつ変わっているようで、内部監査の役割というものが進化しつつあることを認識いたしました。

法律家からみますと、内部監査部門というのは、ホントのところよく理解していないところでして、任意の機関であるがゆえに、「知識よりも知恵がモノを言う」部門として企業によってもその位置づけは千差万別であります。だからこそ、企業努力により、内部監査の巧拙には大きな差が出てきているのではないでしょうか。「自浄能力」という意味からしても、内部監査部門の活躍は大いに期待されるところでありまして、来年のカンファレンスでも「他社よりも進んだ取組みを行っている内部監査部門」の方々が多数ご発表いただけることを楽しみにしております。とくにこのたびは、企業法務に関心を持つ弁護士として、もっと内部監査部門のことに精通しなければガバナンスは語れないものと認識した次第であります。

ACFE JAPANも、いよいよ会員数が1000名を超えまして、その存在意義が問われる時期に差し掛かってきたように思います。自社で速やかに不正を発見する、ということが企業の社会的信用に大きな影響を及ぼします。また(弁護士の木曽裕氏が基調講演でお話されたように)「小さな政府」(規制緩和の時代)になればなるほど、企業は自律的作用を発揮しなければ競争に負けてしまうことになります。今後はガバナンスや内部統制、コンプライアンス、そして企業倫理の面において、ACFEとしての意見を広く発表していけるよう、会員の皆様の叡智を結集して運営していきたいと考えております。最後になりますが、当ブログをお読みになり、ご参加いただきました非会員の皆様、ご参集いただき、どうもありがとうございました。また、カンファレンス全体のとりまとめをされた濱田真樹人理事長(立教大学教授)に一言「お疲れ様でした」と申し上げて今年度のカンファレンスのご報告とさせていただきます。

PS 

内部監査部門の皆様の発表とともに、印象的だったのが、(関西人特有のしゃべくりで時間オーバーしてしまった)私のスピーチを、一番前の席で聞いておられた八田教授のあきれ顔でした。懇親会の席で八田教授曰く

君は以前はもっとピュアだったと思うんだけどなぁ・・・・・・・

10月 14, 2012 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年9月12日 (水)

あったら怖い社内基準その1-「法令違反行為の自主公表基準」

旬刊商事法務の最新号(2012年9月5日号)では、いよいよ岩原紳作東大教授(会社法制部会長)の会社法制要綱案の解説の連載が始まりました。きちんと勉強しておきたいところでありますが、同号では「日本におけるコンプライアンスの現状と課題」と題する早大の甲斐教授の論稿(アンケート結果分析)も掲載されておりまして、(私的には)こちらにも興味を覚えました。独禁法系、刑事法系からのアプローチが強いアンケートになっておりますが、2004年と2010年の各企業のアンケート回答結果を比較しますと※、なかなか時代の流れを感じます。コンプライアンスの概念や企業の思い浮かべるCSR(企業の社会的責任)とは?といった回答内容はガラッと変わっておりますし、なかにはEU・米国の制度と比較して、日本のリニエンシー(犯罪自主申告制度)に証拠法上の不利益があることを指摘する回答など、非常に鋭いご意見もあり参考になります。

※・・・回答企業数は450社程度

そのような企業アンケート結果集計のなかで、興味深いものが「あなたの会社には法令違反行為に関する自主公表基準はありますか?」との質問に対する回答集計でして、「基準がある」と回答した企業が45%、「まだ基準を決めていない」と回答した企業が50%とのことであります。

え?45%もの企業が法令違反行為の自主公表基準を持っているの?

と少々驚きましたが、おそらくこれは行政規制において「法令違反または法令違反のおそれがある場合には、申告してください」と指導されている場合に、当該行政当局への報告を想定してのものだと思われます。もしくは上場会社において、適時開示の対象となる発生事実の要件該当性を判断するための基準として形成されているものではないかと。行政処分の対象となるすべての法令違反行為を開示する企業であれば問題ありませんが、軽微な法令違反については公表しない、と考える企業にとっては必要となる判断基準だと思われます。

問題は、行政当局から自主公表を勧められているわけではないけれども、ダスキン事件のように、企業の社会的信用を維持すべき観点から不祥事の公表の是非が問われる場面であります。ご承知のとおりダスキン事件の株主代表訴訟では、違法添加物入り食品を販売した事実を公表しなくても、とくに国民の身体の安全に問題がないような場面であっても、過去の不祥事を公表しなかったことで当時の取締役、監査役に多大な損害賠償責任が認められました。企業にとって有事に立ち至った時点で公表の要否を検討することになりますと、役員の方々には当然のことながら(自らの保身という)バイアスが働くことになりますので「公表しない」といった結論に傾くことが考えられます(これは人間として当然かと・・・)。したがって、頭が冷静な状態で事の是非を判断できる平時にこそ、不祥事の公表基準をガイドライン的なものとして作っておくべきである、との意見が出てくるところであります。

たしかに企業の社会的信用を維持するため、ということで考えますと、「不祥事公表基準」なるものも、有事における取締役や監査役の適正な行動を担保することに寄与するかもしれません。しかし、ダスキン事件でも議論になりましたが、取締役に不祥事公表義務といったものが認められたわけではなく、リスク管理(内部統制)や信用回復義務といったことが根拠となって取締役の善管注意義務違反が認められたように思いますし、また監査役の責任根拠については、いまだ議論が尽くされておらず、不祥事を公表しないことについて、なにゆえ監査役に善管注意義務違反が認められたのか、実はよくわからない状況にあります。そのような中で、不祥事公表基準も、作ってしまえば立派な社内ルールでありますから、もし裁判になりますと裁判所は厳格なルールの解釈をすることになります。ルールがなければ(限定された範囲かもしれませんが)経営判断に裁量の余地が認められるかもしれませんが、ルールがある以上、厳格な順守を要求され、ルールに少しでも反した行動があれば善管注意義務違反を認定する根拠とされることも考えられます。

法令違反公表基準、ヘルプライン(内部通報規程)、反社会的勢力排除ガイドラインなど、有事を想定して平時に策定される社内ルールを整備することが強く求められる時代となりましたが、いったん作ってしまいますと、厳格な運用がなされることが(役員の法的責任という観点からは)必須となることを肝に銘じておかなければならないところであります。

9月 12, 2012 商事系 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年9月 5日 (水)

インサイダー取引の実態とその未然防止(セミナーのお知らせ)

雑誌「銀行法務21」の最新号(2012年9月号)巻頭におきまして、初代金融庁長官でいらっしゃる日野正晴弁護士(元名古屋高検検事長)が、「インサイダー事件で情報伝達者を処罰できるか」と題する論稿をお書きになっておられます。もちろん、最近の増資インサイダー事件を題材としたものであります。日野先生は、いままでも情報伝達者を処罰することは可能だったのであるが、実務的には共謀を立証することは困難であり、とりわけ取調べの可視化が導入された昨今では、共犯者の自白を獲得することがきわめて困難になっているとされ、状況証拠の積み重ねを丁寧に行わないと共同正犯、教唆犯、幇助犯の立件はむずかしいとのこと。

そこで立証の困難性を回避するために、いっそのことインサイダー情報の伝達行為自体を刑事罰の対象にしたらどうか、ということで立法論が議論されているということのようであります。しかし日野先生は、安易な立法化には反対のご様子で、情報伝達行為自体の処罰化は企業社会にとって劇薬になってしまい、委縮効果が高く反動はあまりにも大きいだろうと予想されておられます。困難かもしれないが、多くの状況証拠を積み重ねることで、証券市場の公正性を担保していくのがまっとうな方策ではないかと締めくくられています。課徴金制度との整合性や、情報提供者の利益獲得問題など、私自身も情報伝達者に対する刑罰化(立法論)については理論的な疑問点があるものと考えており、基本的には日野先生の見解に賛同するところであります。

上記日野先生がお書きになっておられるように、増資インサイダー事件をきっかけとして、インサイダー取引規制の在り方については、見直しの機運が高まっているところですが、ここであらためて企業のインサイダー取引防止体制や証券取引所における管理業務の視点から、インサイダー取引の実態と未然防止対策を考えるためのセミナーが開催されることとなりました(関西編ということでありますが)。今回は大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会、そして東京証券取引所による共催事業ということで、平成24年9月21日午後2時から5時まで、場所は大阪弁護士会館2階ホールにて開催いたします。詳しくは下記の東証HPよりご確認ください。2時間半の研修内容は、インサイダー取引規制に関する最新事情なども織り交ぜた解説であり、実務家の皆様方にもわかりやすい内容で仕上がっているものと思います。なお企業担当者の方々はこちらの東証COMLECのHPからお申込みいただけます(地方開催分をご覧くださいませ)。

先日公表されました金融庁の平成24事務年度の金融検査方針のなかでも、インサイダー取引防止のための施策が重点項目とされており、おそらく証券会社や銀行等でも、上場会社や上場会社と取引関係のある企業に対するインサイダー取引防止体制の構築について、例年になく目を光らせることが予想されます。まさに企業の自助努力がより一層求められる時代となり、その具体策構築について、東証関係者の方々のお話を参考にされる良い機会ではないかと思います。お時間がありましたら、ぜひこの機会に大阪弁護士会館まで足をお運びいただければ幸いでございます。

9月 5, 2012 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年8月27日 (月)

企業価値向上策を交渉先の非業務執行役員に力説する企業

私は特にこの会社を「よいしょ」するつもりもなく、また何の利害関係もございませんが、どうしてもその一挙手一投足が気になります。またまたオリンパス社に経営統合を提案しているテルモ社の件ですが、今週号の週刊ダイヤモンド18頁「短答直入」のコーナーにて、同社の社長さんが経営統合案の合意前公表についての真意を語っておられます(ダイヤモンド・オンラインにも掲載されているようです)。

もちろん(テルモ社がオリンパス社に対して損害賠償請求訴訟を提起しなければならなくなった事情とも関係しているとは思うのですが)、オリンパス社への経営統合案を事前公表すること自体、上場企業としては、たいへん異例の手法であります。ただ、この社長さんのインタビュー記事で気になりましたのは、オリンパス社の4月の臨時株主総会による経営刷新の結果をみて同社社長が「提携先を選ぶにあたって、(オリンパス社の)経営陣の中での合意形成が重要性を増している」と考えた、という点であります。テルモ社は、公表された経営統合案とは別に、オリンパス社の監査役と社外取締役には今回の経営統合案の背景や効果、統合への想いなどをつづった手紙を送ったということのようです。つまりオリンパス社の非業務執行役員に対してのみ、個別に信書によってテルモ社が考える同社の企業価値向上策について力説をされているのだそうです。

たしかにオリンパス社にとって重要な経営判断となる事項ですから、非業務執行役員に対してテルモ社との提携(統合)の有利さを説得する、ということは当然のことでしょうし、とりわけ独立性に配慮をした社外取締役制度を導入した企業に対する対処法としては正論かとは思います。しかし自社の取組みではなく、交渉相手企業のガバナンスへの期待をこめて、このように信書を送るという行動に出るというのは、まさに異例の手法ではないかと思われます。このような信書を受け取ったオリンパスサイドとしては、これをどう取り扱うのでしょうか。提携先選定作業において、社外取締役だけの会合などを設けたりするのでしょうか(どなたか、こそっとお教えいただけますとうれしいのですが・・・笑)

しかし、こういった手法を考案して、実行に移すのはテルモ社の社長さんの実行力なのでしょうか、それとも3名おられる社外取締役さんのご意向が反映されているのでしょうか(NTTドコモにおける「アイモード」の生みの親でいらっしゃる方なのかな?)最近の同社の企業行動を外野から拝見しておりますと、この会社はガバナンスという意味では、相当に先を行く企業であり、そのあたりの経営判断については、取締役の方々で相当にコンセンサスが得られているのではないかと推測されるところです。映像分野における事業提携の話も含め、今後もオリンパス社の事業提携に関する経営判断には関心が寄せられるところであります。

8月 27, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年8月 3日 (金)

テルモ社、オリンパス社への損害賠償提訴と「ガバナンス上の理由」

すでに新聞等で報じられておりますように、医療機器メーカーのテルモ社が、オリンパス社に対して経営統合提案を行っていたところ、突如、オリンパス社を相手に粉飾決算に基づく株価下落(評価損)について損害賠償請求訴訟を提起した、とのことであります。オリンパス社に対しましては、すでにソニー社が業務・資本提携の申し入れを行っており、そこにテルモ社が参入してきた、ということで、今回の損害賠償請求訴訟の提起は、このソニー社との競争を有利に展開するためのテルモ社側の戦略ではないかと言われております。私などは、このニュースに触れて、(最初は)経営統合を持ちかけておきながら、同時に裁判を仕掛ける・・・というのは、なんとも理解のできない行動ではないかと思い、いくら硬軟織り交ぜた戦略とはいえ、これではテルモ社として、うまくいくものも、うまくいかなくなってしまうのではないかと考えておりました(あいかわらずソニー社が優勢である、とは言われておりますが)。

しかし昨日(8月1日)本件騒動について開示されたオリンパス社のリリース、およびテルモ社のリリースを読みますと、ちょっとこれはテルモ社の競争上の戦略ではなく、同社が説明しているように「ガバナンス上の問題」であり、統合提案とは無関係ではないか、とも思えてきました。

今回、テルモ社が裁判で問題にしているのは、平成17年8月4日にオリンパス社がテルモ社に対して行った第三者割当増資の際の情報開示(増資の効力発生)に関するものであります。つまり、発行市場において虚偽記載による届出書、目論見書等を開示した企業の民事責任を問うものであり、テルモ社がオリンパス社に対して金融商品取引法(旧証券取引法)上の不法行為責任を追及するものです。これは、5年または7年の除斥期間が金商法(旧証券取引法)で条文上規定されていますので、ちょうど効力発生から7年が経過する平成24年8月3日頃には権利が消滅してしまうことになります。(手元に六法がございませんので、正確には申し上げられませんが、たとえ除斥期間に関する条文が改正されているとしても、おそらく経過措置によって7年とされているものと思われます)。実際にテルモ社がオリンパス社の粉飾決算を知ることになるのは過年度の決算が訂正された2011年のことですから、果たして時効期間(3年)が経過する前に除斥期間の延長も認められないのかどうか・・・といった法律問題はあるかもしれませんが、そのあたりは保守的に考えたら「やはり7年という除斥期間は動かせない」と考えるべきなのでしょう。

ということは、この8月初めまでにテルモ社としてはオリンパス社相手に裁判を提訴しなければ、もはや多大な損害の請求権を行使することができなくなってしまう(損害回復の機会を失ってしまう)わけでして、そうなりますと、テルモ社の取締役の方々は、テルモ社の株主から責任追及訴訟(株主代表訴訟)を提起されるリスクを負うことになります。とりわけ、発行企業に対して粉飾決算による民事責任を追及する場合には、テルモ社側でオリンパス社の過失や損害との因果関係を立証する必要がなく、またむずかしい損害額を立証しなくてもよいことになりますので、「裁判を起こせば、ある程度の金額については賠償請求が認められる可能性が高い」ことになります。そのような裁判を、株式の持ち合いを行っているオリンパス社に対して提起しないことについては、株主の利益を不当に損なうものとされることが予想されるわけでして、たぶん私がテルモ社の社外取締役であったとすると、たとえオリンパス社と仲よくした方が良いとしても、とりあえず裁判を提起して、真摯に訴訟を係属すべきである、との意見を出すと思います。

オリンパス社のリリースを読みますと、テルモ社が訴えを提起したのは法人たるオリンパス社のみであって、同社の役員個人に対する損害賠償請求訴訟ではないようであります。たとえば役員個人に対する訴訟となりますと、(立証責任の転換等はありますが)役員個人の故意・過失が要件(過失責任)となりますし、損害の範囲についても、いろいろとむずかしい判断がありますので「訴訟を提起しても容易に勝てるとは限らない」との判断が成り立ちそうであります。つまり経営判断として、オリンパス社の役員個人を提訴するかどうかはテルモ社の取締役に広く裁量権が認められるため、訴訟を提起しない、という選択肢も考えられます(これはテルモ社だけでなく、流通市場における民事責任を追及する立場にある別の法人についても同様かと)。そうしますと、オリンパス社の役員個人に対しては提訴をしない、ということが、むしろ戦略と言えるものであるかもしれません。しかし第三者割当によって株式を取得した相手方企業が、無過失責任が認められる法人自身へ提訴することについては、そういった理屈は成り立たないように思われます。

このように考えますと、株式の評価損の賠償を求める本件提訴の事情と、オリンパス社に対する経営統合の提案とはあまり関係がないようであり、とくにテルモ社としての戦略といったものではない、むしろオリンパス社と株式持合いの関係にあるテルモ社の取締役としては、会社に対する善管注意義務、忠実義務の履行行為のひとつである、と考えるのでありますが、いかがなものでしょうか。

8月 3, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年7月23日 (月)

監査役の監査環境の整備に関する議論はいずこへ?

会社法改正論議について、要綱案(第一次案)が法務省のHPにアップされておりますが、なぜこのような案がまとめられたのか、私の勉強不足と、ここ数回の審議会の議事録が公開されていない(公開が遅れている)ため、よくわからないところがございます。新聞で報じられているところは、要綱案で明記されている事項に関するところなので、社外取締役導入論、監査・監督委員会の設置、多重代表訴訟、組織再編など、おおむね理解できるところであります。しかし、これまで何度も審議会で議論されてきたにもかかわらず、どういうわけか要綱案から抜け落ちているところがございます。

たとえば監査役の会計監査人報酬決定権の議論については、これまでの補足説明などによって、法制化から外れることは予想されました。しかし、監査役監査の実効性を確保するための整備に関する事項については、今回の要綱案からは消えております。これはどういった経緯からなのでしょうか?社外取締役の義務付けのように、議論の末、今回は見送りになったのか、それとも会社法施行規則を改訂すべし、ということが提案されていましたので、そもそも会社法改正要綱案には掲載されない、ということなのでしょうか。議事録等があれば、そのあたりの説明もわかると思うのですが・・・。監査役の権限強化については、会計監査人の選任・解任権あたりで済むだろうとは思っておりますが、監査環境の整備については、現行の監査役の権限行使の実効性にも影響が及ぶものと認識しておりましたので、もし立ち消えになってしまったとしたら、とても残念です(このあたり、何か情報をご存じの方がいらっしゃいましたらご教示いただけますと幸いです)。

たしか第二読会あたりでも、この監査役監査の実効性を確保する体制については、あまり反対意見も出ておりませんでしたし、中間試案に対して公表されたパブコメの内容を見ておりましても、既存の内部統制システムに関する規定との関係以外には、特に有力な反対意見はなかったように記憶しておりますので、私自身は楽勝ムードでおりました。世間ではガバナンス改革といえば「社外取締役制度」のほうばかりが注目されており、監査役制度の充実についてはイマイチ認知度が低かったようですが、社外取締役義務付けが法制化されないということになりますと、今まで以上に監査役にガバナンス上では頑張っていただかないといけないと思うところであります。ということで、ぜひとも改訂されることを願っているのでありますが、情報から疎いもので、このあたりは何か「あたりまえのこと」を知らないだけで赤面モノかもしれませんが、ちょっと気になっている点でございます。

これまで再三にわたって議論していたテーマについて、要綱案から抜け落ちている・・・というところがもっと他にもあるかもしれません。できれば早めに議事録等で要綱案(第一次案)作成に関する説明などが聴きたいところであります(よくわからないうちに、次の第二次案が出てしまったりするのでしょうか・・・)。

7月 23, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年7月12日 (木)

D&O保険(会社役員賠償責任保険)の最新事情(続編)

先々週「不祥事企業の自浄能力は役員をも救う!D&O保険の最新事情」というエントリーをアップしましたが、同保険に精通されている方より「ちょっと正確ではない」「それは見方が片面的である」といったご異論・ご批判をいただきました。当ブログでは、迷える会計士さん、JFKさん、KATSUさん、KAZUさん、とーりすがりさんなど、常連の皆様よりご意見をいただくたびに、若干誤った(誤解を招いた)点を修正させていただいておりますが、今回は修正というよりも、いただいたご意見の代表的なものをご紹介するほうが妥当と判断いたしましたので、以下のとおり要旨をお伝えいたします。

1 会社訴訟を補償することのメリット・デメリット

前回のエントリーにて、私は朝日新聞の記事を紹介する形で、「オリンパス、大王製紙等、昨今の企業不祥事を受けて、たとえばAIU社の保険制度では、会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、役員に法律上の損害賠償義務が認められた場合でも、当該役員の賠償金を保険から負担するようになるそうです」と書きました。そして私個人の意見として「そういった企業の自浄能力を発揮した対応をも保険でカバーする、というのは、コンプライアンス経営という視点からは画期的なものであります」と述べております。おそらく、こういったメリットはあるものと思うのでありますが、いっぽうにおいてデメリットについても検討しておく必要がありそうです。以下のようなご意見です。

会社訴訟を補償すると保険契約者が会社、被保険者が役員個人というD&O保険の構造上大きな利益相反が生じます。例えば、10億円の支払限度額のD&O保険を買っており、会社訴訟を補償してしまうと、その10億円が費消します。その後、本格的な株主代表訴訟が生じると、支払限度額がなくなっていることになります。D&O保険の企業内立案担当者としては、本当に必要なときに補償がなくなっているという現象が生じるので非常に怖い補償ということが言えます。

なるほど、これはD&O保険の建付けや株主代表訴訟の構造についてきちんとした知識を持っていなければ理解できないかもしれませんが、安易に会社訴訟についての補償をしてしまうと役員が「いざという時」に(保険金がすでに使われてしまっていて)予想に反するような事態になってしまうかもしれない、ということであります。このあたりはリスクとして検討しておかねばならないところと思います。

2 内輪もめ訴訟の補償について

これはご異論ではございませんが、前回のエントリーにおきまして、内輪もめ訴訟に保険が適用されないことを以下のとおり述べました。

「ところで、このD&O保険の普通保険約款や特約条項等は、法律家でなければ、かなり読みにくいものと思われます。そこで、意外と知られていないかもしれませんが、「身内」どうしの争いには適用されないことになっています(普通保険約款6条9号参照)。つまり社外監査役や社外取締役等が現経営陣と対立して、現経営陣の責任を追及した場合、かりに現経営陣が損害賠償責任を負担した場合には保険金は支払われない、ということであります。社外役員が、自分たちの責任まで問われるような場面であれば、まさか現経営陣を率先して訴えることはないかもしれません。しかし、経営判断において意見が対立し、現経営陣が会社に損害を与えたようなケースであれば、社外役員が一株でも株式を保有している場合、社内の取締役には、かなりリスキーな場面も出てくるかもしれません。」

この件については以下のような問題点があるようです。

被保険者間訴訟のカバーも問題です。F社やN社でありましたが、退任した役員が現役の役員を訴えた場合もカバーしようとすると、現役役員が反訴した場合は、退任した役員の弁護士費用も含めてカバーされてしまいます。結果的に10億円の支払限度額がまたしても費消されてしまうことになります。立案担当者としては現役の役員につかなければなりません。これも怖くて採用できない補償です。よって反訴の場合は免責という条件は必要だと思います。

D&O保険は一個の保険で争訟費用(防御費用)と損害賠償金の双方を賄うことになるため、複雑な事件で多数の被告が存在するような場合には約定保険金の範囲内ではすべてを賄えない事態になることがあるわけですね。役員間での配分に関する調整規定のようなものも存在しないようなので、前払い費用(弁護士着手金等)が重なりますと、肝心なときに会社保護のために必要な保険金が消尽してしまっている、という事態も考えられるということです。独立役員が増える時代となりますと、このあたりも検討課題になってくるかと思われます。

3 告知義務違反に関する課題

研究会のときにも伺っていたのですが、前回のエントリーでは話題にしていなかったこととして「告知義務違反」に関する問題があります。独立役員とD&O保険との関係でいえば、けっこう重要な問題かと思われます。たとえば有価証券報告書虚偽記載罪が成立するような粉飾決算が発生した場合に、当該粉飾に関与していなかったような独立役員が法的責任を問われる場面において保険金が出るのかどうか・・・・・といった問題です。この問題については、以下のようなご意見をいただきました。

保険会社がはっきりと表明しないものに、告知の分離条項があります。現在のD&O保険では、5人の役員のうち1人の役員の告知義務違反があれば、保険契約は解除され他の誠実な4人の役員も一瞬にして保険カバーを失います。日本の保険会社もほとんど告知の分離条項を入れていないので、社外役員・独立役員にはたまったものではありません。

被保険者の違法行為等に起因する損害賠償責任の免責については、被保険者ごとに適用されるものと思いますが(約款5条)、この規定は告知義務違反には適用されないのですね。これまで有価証券報告書の虚偽記載を理由に告知義務違反による保険解除が行われた例はないとのことですが、重大な告知義務違反と思料されるような事態ともなれば、今後はどうなるのかわかりません。

以上はご意見をいただいた範囲内で課題を掲載いたしましたが、このたび独立役員におけるD&O保険の課題をいくつかの論文等を拝読したかぎりでは、今後社外取締役や監査役等の支援を積極的に行う意思のある弁護士にとって、このD&O保険の運用上の実務についての深い知識が必須であることを知りました(恥ずかしながら、これまでは十分勉強したことがございませんでした)。株主代表訴訟における和解合意をする際にも、その和解文言に配慮したり、オーダーメイドなので、各会社における特約条項にも配慮することが求められます。社外役員が増えそうな時期だからこそ、D&O保険の実務運用を関係者が理解しなければならないことを痛感いたしました。

7月 12, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年7月11日 (水)

取締役会議事録のベストプラクティスについて

この6月22日に東京地裁でアーバンコーポレイション株主損害賠償請求事件の判決が出ております(判決全文は朝日「法と経済のジャーナル」にて閲覧可能です)。会社自身の損害賠償責任を求める裁判ではなく、虚偽記載の有価証券報告書、臨時報告書等を開示した時点における役員の責任(金商法上の民事責任 同法24条の4参照)を求める裁判であります。基本的には虚偽記載があり、この記載によって投資活動を行った株主が損害を被った場合には認められるものですが、いちおう役員側にも開示するにあたっては相当な注意を怠らなかったことが証明できれば免責されることになっています。

このアーバンコーポレイション事件判決では、BNPパリバに対してCB300億円を発行する手続きに関与していた役員、開示内容を決定する取締役会に出席した役員、そして諸諸の事情によって同取締役会を欠席していた役員に分類し、関与役員および取締役会に出席した役員(取締役、監査役を含む)については民事責任を認め、いっぽう取締役会を欠席していた役員については虚偽記載を指摘する機会がなかったので「相当な注意を怠った」とは言えないとして免責されております。取締役会で開示内容について疑義を呈した役員さんはいらっしゃらなかった、とのこと。

本件以外にも、たとえば昨年の大王製紙事件における特別調査委員会報告書では、元会長個人に対する関連会社からの短期貸付金の存在を知らなかった監査役については、道義的な責任はあったとしても、法的にはやむをえないものであって善管注意義務違反には該当しないとの判断がありました。また、平成12年の判例ですが、大和銀行株主代表訴訟判決においても、ニューヨーク支店における財務省証券の保管残高の確認方法が適切でないことを知りえたのは現地に往査に赴いた監査役だけであったとして、きちんと往査に出向いた監査役だけが任務懈怠を認定され、それ以外の監査役には認定されませんでした。こうやって判例等を眺めておりますと、(これは監査役に限るものではありませんが)一生懸命職務に専念している役員ほど責任が認められやすく、そこそこの職務でとどめている役員のほうが任務懈怠とは言われないという結論になってしまうような気がいたします。ただ、一方において「名ばかり監査役」(名目的監査役)といわれる監査役には、従来から判例上は容易に任務懈怠責任を認める傾向にありますので、そこそこの職務で留めている役員の法的責任はどの範囲で認められるのか、その線引きが相当むずかしいのではないかと思われます。

いずれにせよ、きちんと取締役会に出席している役員の会社法上の責任、金商法上の責任が容易に認められるようでは困るわけで、監督責任、監査責任を尽くしていることを証拠上残しておく努力は必要かと思います。先日、CGN(コーポレートガバナンス・ネットワーク)の関西勉強会において、社外役員は取締役会議事録にはしっかりと意見を残しておく必要がある、といった議論がなされました。私は以前にもこのブログで述べました通り、どちらかというと取締役会議事録への発言の記載はあっさりとしたもののほうがいいのではないか、という立場です。詳細な記録が残してあるということは、逆にいえば「書いていないことは発言していない」という推定が働くことになるからであります。そこそこ漠然とした記述であれば、「こういった発言をした」と記憶などから補足することもできそうです。しかし、社外取締役や社外監査役の意見は会社法施行規則において事業報告等による開示規制の対象となるものもあるわけですから(たとえば同規則124条4号)、できるだけ発言内容は詳細に残すべきだ、という意見も強く出されるところです。議事録は簡略化しておいて、その代わりメモや録音データとして残しておく、ということも意見として出されていました。

ただ、詳細な議事録を残すにせよ、添付メモやデータ保存によるにせよ、取締役会の議事録が詳しければよい、というものでもなさそうであります。これは出席された一部の役員さんから出た意見ですが、その方は元々金融機関のご出身で、取締役会ではいわゆる「金融検査対策」に関する話なども出てくるそうです。もし、金融庁による検査の際に、すべての関連書類を開示せよ、と言われれば、添付メモや録音データだけを抜き取って提出するわけにもいかず(そういったことをすると検査妨害や検査忌避の疑いがあります)、とくに不正に関する共謀などといったことではなくても、当局に知られると「少し気まずい」ようなことも含まれてしまうとか。そういったことを考えるならば、やはり取締役会議事録の発言内容は、できるだけアバウトなほうがよいのではないか、とのことでした(なるほど・・・そういった見地から考えたことはありませんでした)。

ダスキン株主代表訴訟事件では、取締役会では黙っておられた社外取締役の方が、社長宛に長文の手紙を出し、早期に不祥事を公表するよう要望し、その結果として被告となることを免れたことがありましたが、やはり自分の身は自分で守ることが大切ではないかと思います。たとえば社外取締役にせよ、監査役にせよ、取締役会できちんと発言しておくべきことは発言したうえで、(特に発言を残しておきたいと考える場合には)後日でもいいので発言内容を自ら書面にして議事録に添付しておくように要望する、もしくは議事録とは別でもいいので、自らの意見を「意見書」として取締役会宛に提出する、そこまでなかなかできないのであれば、最低でも自分自身の備忘録を作成しておく、といったことが現実的な方法ではないでしょうか。

なお、本日のエントリーは、判例を題材に用いましたので、取締役や監査役の保身といったところに焦点をあてておりますが、取締役会では、当然のことながらステークホルダーの利益のために前向きな発言をしなければならないことを念のため申し上げておきます。

7月 11, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年7月 2日 (月)

富士通元社長辞任事件における「反社会性公表と名誉毀損の成否」

先週末あたりから、当ブログで採りあげたくなってしまう話題がたいへん多くなり、困っております。脊髄反射的にコメントをしたい話題だけでも、①野村インサイダー調査報告書、②オリンパス配転命令事件最高裁決定、③石原産業フェロシルト株主代表訴訟判決、④IHI子会社元役員不正流用事件、⑤吉本興業MBO大阪地裁判決、そして⑥トーハン社の社外監査役無承諾選任事例などであります。また時間ができましたら、ブログでもいろいろと採りあげていきたいと思っております。

さて、上記の各事件(各事例)については、すでに新聞等でも報じられているところでありますが、まだ新聞ではほとんど報じられていないのが先週の6月27日に言渡しのありました富士通元社長辞任騒動に伴う関係者の名誉毀損損害賠償等請求事件の控訴審判決(東京高裁第11民事部)であります。富士通元社長辞任事件については、すでに当ブログでも4月11日の東京地裁判決を採りあげましたが(たとえば4月12日のエントリーはこちら)、そちらは富士通社の元社長さんが、「いい加減な情報によって辞任を強要されたのだから、私が社長の地位を喪失したことについては富士通の役員に不法行為が成立する」として会社側を訴えたものであります。そして、先週6月27日に控訴審判決が出たのは富士通社やその役員によって「不当に反社会的勢力だと名指しされ、名誉や信用を毀損された」とされる法人やその代表者が原告(控訴人)となって、富士通社やその役員の不法行為に基づく謝罪広告命令および損害賠償請求を求めた裁判であります。具体的に名誉毀損にあたるとされた表現は、たとえば一部の役員等が、取締役会で原告ら(控訴人ら)が「反社会的勢力の疑いがある」と説明した行為や、元社長退任までの経緯を記者会見で説明した行為、雑誌「日経ビジネス」上で富士通事件についてインタビューに回答した行為などであります。上記東京高裁では、地裁に続き、原告(控訴人)らの主張を棄却し、富士通社および役員3名の不法行為責任を否定しております。

自分たちは反社会的勢力でもないのに、勝手に反社会的勢力だと世間に公表され、著しくその名誉や信用を傷つけられたとして、上記原告ら(控訴人ら)は表現者(及び会社)に対して謝罪広告、損害賠償を求めたわけです。しかし東京高裁は

富士通元役員らの表現行為は、いずれも名誉毀損の要件に該当するものではあるが、ここで問題となる事実は、控訴人らが反社会的勢力である、という事実ではなく、反社会的勢力だと疑われている、という事実である。富士通社の役員らは、これまで証明されたことからすると、「控訴人らは反社会的勢力だ」との疑いが存在することは間違いないので、すなわち被控訴人らによって「疑いがあること」「うわさがあること」の事実に関する真実性が証明されており、さらに表現行為は公共の利害に関連する事柄といえるため、各表現行為の違法性が阻却される

と判示しております。(なお、法律家ブログとして判決をご紹介する場合には、きちんと名誉毀損の要件事実から説明をして、どの要件が問題となるのかを解説すべきではありますが、ブログをお読みの方々にわかりやすくお伝えするために、そのまま引用ではなく、判決を要約してお伝えすることをご容赦ください。もちろん要約責任は私個人にございます)。

判決文の19頁以下ではっきりと述べられているのでありますが、被控訴人らが真実性を証明しなければならない事実というのは、原告ら(控訴人ら)が反社会的勢力であることや反社会的勢力と関係があることではなく、原告ら(控訴人ら)が反社会的勢力であるという「うわさ」があること、反社会的勢力と関係しているという「疑い」があることだと指摘されています。原則的には、「うわさ」や「疑い」として表現されたものであっても、一般の人たちが表現された内容が真実だと受け取るケースが多いと思われますので、表現者の真実性の証明対象は社会的な信用を低下させる事実自体でありますが、本件では特に、一連の会社側と元社長との辞任騒動に至った経緯からすれば、「疑いがあった時点での社長としての行動」が問題とされていたので、会社もしくは役員側から「うわさ」や「疑い」の存在について真実性が証明されれば足りる、と判示された点は、非常に重いものがあります。

上場会社の場合には、役員の辞任理由なども正直に開示する必要がありますし、たとえ上場会社ではなくても、金融機関との取引停止等、昨今の反社会的勢力との癒着に関する社会的な反応は厳しいものがございます。当ブログでも何度も申し上げておりますとおり、オリンパス事件で元社長ウッドフォード氏や海外のメディアがあれだけセンセーショナルに反応したのも、そもそも反社会的勢力との癒着の噂が先行したからであり、まさに反社会的勢力との癒着問題が海外の機関投資家にも非常に大きな関心であることが証明された形となりました。今回の東京高裁の判決に対しては、私自身も高裁の判断理由について若干の疑問も抱いておりますし、また原告(控訴人)側より上告、上告受理申し立てがなされるものと思いますので、軽々には申し上げられないかもしれませんが、会社側の反社会的勢力排除のための有事対応および有事に適切に対応するための平時対応(内部統制の構築)を理解するための貴重な先例になることは間違いございません。先の4月11日東京地裁判決と併せて、本判決につきましても、企業コンプライアンス上の実務に大きな影響を与えるものと思料されますので、有識者の方々による判例分析等がなされることを期待しております。

7月 2, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年6月27日 (水)

不祥事企業の自浄能力は役員をも救う!(D&O保険の最新事情)

先週金曜日、ある研究会にてD&O保険(会社役員賠償責任保険)の最新事情を某外資系保険会社の方からお聴きしましたところ、ちょうど本日の朝日新聞ニュースでもとりあげられておりました(朝日新聞ニュースはこちら)。会社役員の法的な賠償責任について、保険が適用される場面が少し広くなりそうであります。

オリンパス、大王製紙等、昨今の企業不祥事を受けて、たとえばAIU社の保険制度では、会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、役員に法律上の損害賠償義務が認められた場合でも、当該役員の賠償金を保険から負担するようになるそうです(2012年7月1日より運用開始)。たとえばオリンパス社のケースを例にとりますと(あくまでもモデルケースとして、という意味です)、責任調査委員会が「善管注意義務違反あり」として認定した十数名のうち、実際に違法行為に関与していたとされる数名の方々の分は対象とはならないが、他の役員の方々の分(たとえば取締役の監視義務違反や監査役の任務懈怠による法的責任)については対象になる、とのこと。自社できちんと第三者委員会を設置して、その公正な調査のもとで役員の責任判断が下され、その報告結果に基づいて会社が損害賠償責任追及訴訟を提起する、という例は今後も増えてくるものと思われます。そういった企業の自浄能力を発揮した対応をも保険でカバーする、というのは、コンプライアンス経営という視点からは画期的なものであります。

通常、D&O保険は会社役員賠償責任普通保険約款と会社補償担保特約条項の、いわゆる二層建によって構成されております。基本約款部分では株主代表訴訟による役員の賠償義務には保険が下りないことになっており、これを特約で一定の条件のもとで解除している(つまり代表訴訟で敗訴した役員にも保険金が下りる)ことになっております。しかし、今回問題となっているのは、普通保険約款6条9号、7条1号の条文です。そもそも、会社が役員に対して損害賠償責任を追及するケースは、保険の対象外になっています。この原則の例外として、一定の条件のもとで(上記紹介したとおり)会社提訴にかかる役員の職務に関する任務懈怠事案に適用されるものだと理解されます。したがいまして、会社自身が役員を訴えるといっても、どういった条件のもとで提訴した場合に保険の対象となるのか、このあたりは保険会社の方に十分説明を求める必要がありそうです。

たとえば上ではオリンパス事例をモデルにしましたが、では佐藤食品工業さんの事例のような場合はどうなるのでしょうか(これもモデルケースとして例示したものにすぎませんのであしからず・・・)。つまり、株主から提訴請求を受けた監査役が、提訴が妥当と判断して、会社自ら役員に対して責任追及訴訟を提起するケースであります。このケースも基本約款および株主代表訴訟特約条項からすると適用されないことになりそうです。たとえば日弁連ガイドラインに基づいて、公正な第三者による責任判断がなされたからこそ、保険の対象になると考えるのであれば適用外と考えられます。もっと広く会社判断による役員責任追及の場面もカバーする、ということであれば対象になるようにも思えますが、どうなんでしょうか。皆様の会社が契約を締結されていらっしゃる保険会社の方々に、一度説明を求めてみてはいかがでしょうか。

ところで、このD&O保険の普通保険約款や特約条項等は、法律家でなければ、かなり読みにくいものと思われます。そこで、意外と知られていないかもしれませんが、「身内」どうしの争いには適用されないことになっています(普通保険約款6条9号参照)。つまり社外監査役や社外取締役等が現経営陣と対立して、現経営陣の責任を追及した場合、かりに現経営陣が損害賠償責任を負担した場合には保険金は支払われない、ということであります。社外役員が、自分たちの責任まで問われるような場面であれば、まさか現経営陣を率先して訴えることはないかもしれません。しかし、経営判断において意見が対立し、現経営陣が会社に損害を与えたようなケースであれば、社外役員が一株でも株式を保有している場合、社内の取締役には、かなりリスキーな場面も出てくるかもしれません。

現在上場会社の(少なくとも)8割において、なんらかのD&O保険に加入しているそうですが、今後、社外役員の導入が真剣に検討される時代となった場合、この身内に訴えられるリスク、というものもD&O保険との関係でも検討される必要があるように思いました。また社外役員に就任される方にとっても、どういった賠償保険の内容になっているのか、就任時の条件としては重要なものなので理解をしておく必要がありそうです。

6月 27, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年6月20日 (水)

今度はどうなる?ヤクルト本社VSグループ・ダノンの攻防

この時期はどうしても株主総会ネタが増えることになりますが、アコーディアゴルフ社や関西電力社など、とても興味深い総会よりもやや早く、6月20日はヤクルト本社(「本社」までが会社名)の定時株主総会が開催されます。新聞報道等では、20%の株を保有するグループ・ダノンとの提携の行方を占ううえでも重要な総会になる、とのこと。そもそも2000年ころの損失飛ばし事件の際、ダノン社が3%の出資をして、2003年には20%に出資比率を引き上げたようですが、この20%引き上げの攻防は、日経新聞編集委員の三宅伸吾さんの「乗っ取り屋と用心棒」271ページ以下で紹介されています。

同書では、いきなり20%まで買い増したダノン社に対抗しようと、ヤクルト本社が東京の大手法律事務所に相談にいったところ、「このまま頑なに拒んでいたら、どんどん買い増してきますよ。どこかで妥協しなさい」と言われ、2008年(その後2012年まで伸長)までの現状維持協定を結んだことが記されています。その期限が到来した、ということで今後のダノン社の対応が注目されているところかと。すでに妥協案として28%案がダノン社側より出されましたが、これをヤクルト側は頑なに拒否しているそうです。

TOBの可能性も十分にある、と企業法務で著名な先生が(ダイヤモンドニュースにて)おっしゃっておられますし、先の大手法律事務所の先生の助言内容などからも、もはや35%まで買い増しが強行されても文句は言えないように思えます。しかしどうなんでしょうか、グループ・ダノンとしては、今回もそんなに簡単に強硬策に出るようには思えないのです。なんといってもヤクルト本社がノウハウを持つ「BOPビジネス」(開発途上国の比較的貧困な方々に購入してもらい、しかもCSRではなく、しっかりと本業で儲けを出す仕組み)は真似ようとしても真似できなかったのではないか、と。日本では「ヤクルトレディ」さんの販売形態が有名ですが、開発途上国における販路拡大でもヤクルトは一定の成果を上げているようです。このBOPビジネスはダノン側としても、アジアの販路拡大にとってはどうしても手に入れたいわけで、ここでホワイトナイトでも出てくると、これまでの努力が水の泡になってしまうような気がします。

また、日本ではなかなか敵対的なM&Aは成功しない、ということも認識されているのではないでしょうか。もちろん、ヤクルト「販社」と手を結び、買い増しの脅威が噂されるところかとは思いますが、経営者交代、というところでの利害は一致するかもしれませんが、企業統治の異なる経営陣の姿勢と長年のヤクルトビジネスが、そのまま一致するのかどうかはよくわからないところです。

結局のところ、(これまで以上にダノン社が経営に関与する形で)今回もどこかで妥協することで決着がつきそうな気がするのですが、甘いでしょうかね。これはあくまでも私個人の意見なので、投資判断は皆様方の自己責任にてお願いいたします<m(__)m>。M&Aネタでは毎度申し上げるところですが、私は特にこの分野の専門ではございませんので、あくまでもガバナンスに関心を寄せる野次馬的意見、ということでご理解くださいませ。

6月 20, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年6月11日 (月)

著名人の名義貸しと損害賠償責任(美貴亭食中毒事件)

先週、野村HD社の株主総会における株主提案「野菜ホールディングス商号変更」に関する話題をとりあげましたが、fdmsさんよりコメントをいただきまして、東京都中央区に「日本牛乳野菜ホールディングス株式会社」なる古い登記が存在する、と教えていただきました(すでにtwitter上では話題になっているようで)。なるほど、これが商号変更に関する定款変更議案が上程されなかった真の理由なのかもしれません(ご指摘どうもありがとうございました)。ただ、この株主提案をされた株主の方への夕刊フジのインタビュー記事を読みますと、野村グループによるトマト栽培を皮肉ったものだと述べておられますので、私の推測も全く外れていたものでもないように思います(単なる言い訳ですが・・・)。

さて、商号に関する話題をもうひとつ採りあげたいと思います。週末、元モーニング娘。の藤本美貴さんがプロデュースしていたとされる焼き肉店にて、高校生16人が食中毒症状を訴えた(3名ほどは入院)という事件が報じられております。私自身も外食産業運営会社の役員をしておりますので、こういった事件にはとても敏感に反応してしまいます。藤本さんは謝罪するとともに、同焼肉店の運営には関与していない、あくまでもイメージキャラクターだった、と自身のブログ等で説明しておられるようです。

同焼き肉店の運営会社も、藤本さん(及び所属事務所)に謝罪された、とのことで、おそらく被害者の方々との今後の対応も、運営会社側が主体的に行っていくものと思われます。藤本さんも3月に出産されたばかりで、育児に専念されている最中でしょうから、今回の件では困惑されているのではないかと推察されます。ただ、被害に逢われた方々は、「ミキティの焼肉屋さん」ということで同店舗にお越しになり、ミキティプロデュースというメニューを堪能することが目的だったと思われます。ご自身は名前を貸しただけ、同店舗の運営には関与していない、ミキティ考案メニューというのも実は運営会社が企画したもの、という説明だけで、果たして藤本さん(もしくは藤本さんの所属事務所)は食中毒事件の損害賠償責任(運営会社との連帯責任)を免れることができるのでしょうか?

法律的に検討すべき点は二つあると思います。ひとつは名板貸し人の責任を規定する商法14条、会社法9条の類推適用が認められる事案かどうか、という点であります。商法14条とは、商人が他人に自己の商号の使用を許諾した場合に、その商人が事業を行っているものと誤認して、その他人と取引した者に対し、その他人と取引から生じた債務について連帯責任を負う、というものです。厳密に読めば、著名人プロデュースといっても、決して「商号」の許諾ではありませんし、同じ事業を営む者でもありませんので、商法14条ズバリの適用場面ではありません。しかし、自己の名前を付けて商売することを許諾して、その著名な氏名を売りにして焼き肉店が営業をしている以上は、消費者保護(取引先保護)の見地から商法14条を類推することも可能なように思われます。

代表的な判例は旧商法23条(現商法14条の前身)時代ではありますが、ペットショップで購入したインコが病気に罹っていたのですが、そのインコの病気が家族に伝染し、家族が死亡したという事例におきまして、そのペットショップが入っていたスーパーマーケットは、ペット購入者からみれば(ペットショップを)スーパーが運営していたものと誤認される外観があり、その外観作出についてはスーパー側にも原因があるとして、この名板貸し責任に関する規定を類推適用してスーパー側にも責任を認めたものがございます(最高裁平成7年11月30日 判例時報1557号136頁)。旧商法23条と現商法14条とは条文が少し変わったため、果たして現在もこの最高裁の平成7年判決がそのまま妥当するかどうかは疑問とする説もございますが、そもそも名板貸し責任が認められる根拠が外観法理ということからすると、現時点でも商法14条を類推適用する場合の有力な根拠判例にはなるものと思われます。

著名人の名前で焼き肉店を運営する、というものも、著名人の関与の仕方でいろいろと分かれてくると思います。実際に著名人が経営しているところもあるでしょうし、お店のプロデュースという形で参加するところもあるでしょうし、単に名前だけを運営会社に貸して「イメージキャラクター」として登場するだけ、ということもあります。私個人の意見で申し上げるならば、イメージキャラクターとして著名人が参加して、実質的には第三者が運営しているようなケースであれば、原則として商法14条の類推適用の根拠となるほどの名板貸しにはあたらない、と考えます。運営会社に自分の名前を使って商売する、ということまでは許諾しているとはいえないからであります(たぶん、ここまではあまり異論はないと思います)。ただ、藤本さんの場合、焼き肉店「美貴亭」のHPのトップに「藤本美貴の焼肉屋さん」と大きく表示されており、外観上はあたかも藤本さんが焼き肉店を経営しているようにも思えます。こういった外観を藤本さん側が黙示的にも運営会社側に許諾していた、という事情があるならば、名板貸し人の責任規定を類推する前提もあるかもしれません。

さて法律的に検討すべきもう一点は、たとえ藤本さんが商法14条類推適用上の名板貸し人に該当するとしても、食中毒という突発的な事故にまで法的責任を負わねばならないのか、という点であります。たとえば「美貴亭」の従業員がお客さんに暴力をふるってケガをさせてしまったような場合、いくら名板貸し人としての立場であったとしても、その損害賠償責任を負う、というのはちょっと違和感があります。

商法14条は「他人との取引から生じた債務」について名板貸し人が責任を負う、とありますので、たとえば「ミキティ考案メニュー」と書いてあったから注文したのに騙された、金返せ、といった取引上の問題については責任を負うということになるかもしれません。いわゆる取引的不法行為に関する責任であります。しかし、食中毒事件が発生した、という場合、これを取引から生じた債務と言えるかどうか、ひとつの問題になりそうです。

なお、先の平成7年の最高裁判決でも、インコを購入した際に、そのインコに瑕疵があり、その拡大損害(家族の生命・身体への損害)が問題となった事例です。焼き肉店とお客さんの間における飲食物提供契約に基づいて提供された食品に病原菌が含まれており、それによって身体への損害がもたらされたということであれば、少なくとも取引行為に付随する安全配慮義務に関する債務不履行として、やはり名板貸し人の連帯債務が認められる余地はあるものと思います。食中毒事故が突発的なものとはいえ、外食運営会社としては通常生じうる事故として、「取引から生じる債務」と言えるのではないでしょうか。

こういった問題は、店舗の早期再開を目指して食中毒の原因究明に尽力することも大切ですが、まずは運営会社が個々の被害者の状況にあわせて誠意をもって対応することがなによりです。また、そのことが藤本さん側に迷惑をかけないためにも、最優先で取り組まなければならないことかと思います。「法律的に解決するとどうなるのだろうか」といった問題は最後に考えればよい課題であります。事件発生直後に「当社はこういった立場にあったので、法律的には責任は負いません」といったサインを世に示すことは、今のご時世、かえってマスコミや世論を敵に回すことになりかねないので(私の経験から)要注意です。

6月 11, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年5月30日 (水)

社外監査役が会社を訴えて勝訴した事例(さすが金融庁初代長官!)

一個人株主さんから教えていただきましたので、アコーディアゴルフ株主委員会主催の株主提案説明会の様子をビデオ録画(ストリーム 株主委員会のHPでどなたでもご覧になれます)で拝見しておりましたところ、おもしろいシーンが・・・

(大株主側社外取締役候補でいらっしゃる金融監督庁初代長官のスピーチ)

「ちょうど1カ月前の平成24年4月24日、最高裁判決が出まして、私は会社の新株発行の無効を主張して完全勝訴しました。私(社外監査役)が会社を訴えたのです!社外監査役である私が会社を被告として訴えたのですよ。最高裁でも全部勝ちました!寺田裁判官が補足意見の中で、よくぞこの監査役は会社を訴えたものだと称賛していましたが、それは私です!」(^◇^ ;

下級審の判決文(金融・商事判例1317号)や最高裁判決文ではたしかXとか「原告」として表現されておりましたが、こちらのビデオでは「これは私です!」と見事にカミングアウトされておられました。さすがでございます。

旧商法時代にストックオプションとして新株予約権が発行されたのですが(上場条件付き)、この会社のコンプライアンス上の問題発覚によって上場が困難になりました。そこで、会社法時代になってから取締役会で勝手に当該ストックオプションの行使条件を変更してしまって、元取締役の方々に都合のいいように新株予約権が行使され新株が発行されてしまいました。就任早々、この社外監査役の方は、「これは新株予約権の有利発行に総会の特別決議が必要であることの趣旨を潜脱したものでけしからん!」ということで、新株発行無効の訴え(予備的には無効確認)を(会社を被告として)提起した、というものであります。

非公開会社に関する判例ですが、上場会社にも実務的に参考になるものなので、ご興味がございましたら最高裁HPでご覧になれますのでそちらをどうぞ。また、寺田裁判官の補足意見では、新株予約権、募集株式の有利発行について、その内容決定権の取締役会委任の是非についても(公開会社と非公開会社とを比較しながら)商法と会社法の解釈上の違いに言及されており、とても参考になります。なお、中村直人先生が東京証券代行のコラムに、本件事例の争点を明確に解説しておられますので、そちらも参考になります(私は拝読しておりませんが、ジュリスト6月号には弥永真生教授が判例評釈を書いておられるそうです)。

アコーディアゴルフの件について、最新情報を得ようと思ってビデオストリームを閲覧しておりましたが、途中でこっちの話題ばかりが気になってしまって、結局新しいネタを取り忘れてしまいました((+_+))それにしても、さすが金融庁初代長官、平成18年12月に社外監査役に就任されて、平成19年4月に会社を相手に訴えを提起するという、まさに独任制の社外監査役の鏡であります!(おそらく就任早々、「これはいけませんよ!直ちに元に戻しなさい」などと取締役の面々とバトルがあったものと推測いたします。普通じゃなかなかここまではできないかもしれません・・・)

あと、この社外監査役の方は平成18年12月に就任されておられますが、平成24年5月時点で、すでに5年以上監査役に就任されています。当該会社は非公開会社ですが、定款上の監査役の任期はもっと長いのでしょうか、それとも4年の任期を終了し、再任されているのでしょうか。訴訟上の当事者適格の問題もありますが、こういった紛議があったとしても、会社側としてはなお、この方に社外監査役就任を望んでおられるのでしょうね。

おそらくアコーディアの社外取締役に就任されても、大株主(もしくはその親会社)の利益よりも、株主共同利益を優先する姿勢をお見せになるであろうことが、このビデオと最高裁判決でよく理解できました。実はこの金融庁初代長官の方は、私が司法試験に合格した年に、刑事訴訟法の面接試験の試験委員として面接していただいたことがございます。ただただコワイ印象だけが残っております(^^;。社外監査役の理想的な姿を体現した事例としてご紹介いたす次第です。

5月 30, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年5月 7日 (月)

ひさしぶりの「物言う監査役シリーズ」-ベリテ社事例の続編

一週間のご無沙汰でございました。私はといいますと、連休初めに家族旅行に出かけたものの、4月30日から昨日(5月6日)まで、新刊書の原稿執筆に明け暮れておりました。本当に、こんなに執筆に没頭したことは生まれて初めてです。なんとか一冊分の原稿(粗原稿ですが)を書き上げまして、本日より本業に復帰でございます。新刊書は、一番書きたかった「法と会計の狭間の問題」をいくつか取り上げまして、弁護士、会計士だけでなく一般企業の方々にもお読みいただける内容にしております。その節は、またご紹介したいと思います。

さて、3月20日のエントリー「取締役の不正行為に関する内部通報を受領した監査役対応(ベリテ社事例」でご紹介しました宝飾品販売大手のベリテ社の件ですが、調査委員会の報告書を取締役会が受領した旨、4月27日にリリースが出ております(調査委員会による報告書受領のお知らせ)。ちなみにベリテ社は、非上場の親会社が57%の株式を保有しており、親会社が外国人の社外取締役を派遣、その他の取締役も代表者以外はすべて外国人取締役です。監査役会が会計不正疑惑を(内部通報によって)知り、自ら第三者委員会を設置し、その委員会がこのたび報告書を提出した、とのことです。

概要はリリースにあるとおりで、明確に架空取引があったとまでは言えない、との結論だった模様です。ただ興味深いのは、監査役会が取締役会に対して、この調査報告書の全文(全内容)を開示するよう求めたところ、取締役会は全文開示は不相当と判断したこと、その取締役会の判断に監査役会が不同意としたことが掲載されております。特定取引先との架空取引の疑いや、関連会社との融資目的による経済的合理性のない取引の疑いが調査委員会によって判明しているようですが、おそらくこういった事実関係についてはステークホルダーへの説明義務があることを監査役会が主張しているもののようです(ちなみに、社外監査役2名は、金融機関出身、なかでもおひとりはM&A投資コンサルタント会社の役員の方。投資家向けの情報開示については厳しいご意見をお持ちなのかもしれません)。

こういった第三者委員会の報告書を全文開示することの是非も問われるところかと思いますが、なんといっても、このリリースのおもしろいところは、取締役会と監査役会の間に意見の相違がある(現に問題を残している)ということを開示させたことであります。おそらく監査役の方々が、社長に調査委員会報告の全文を掲載しないと判断した経過とその理由を開示せよ、と迫ったことによるものかと思料されます。

物言う監査役については賛否両論あるかとは思いますが、私は監査役(監査役会)の活動が目に見える形で外部に伝わることには賛成です。もちろん、このような意見の相違が顕在化するまでには(社内で解決を図るべく)何度も協議がなされたかとは思うのですが、それでも意見の対立が残るようなケースにおいては、大株主以外の少数株主の利益保護のためにも、好例ではないでしょうか。

なお、今後もまだ調査委員会による追加報告がなされるようですので、ひさしぶりの物言う監査役さんの活躍事例として、ベリテ社の不祥事疑惑の進展について注目してみたいところです。

5月 7, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月16日 (月)

オリンパス臨時株主総会を悩ませる最強の株主・・・

Kainin001_2オリンパス社の元社長(兼CEO)でいらっしゃるマイケル・ウッドフォード氏が今週4月20日に予定されているオリンパス社臨時株主総会に一般株主として出席するそうで、その際に、役員に対して質問すべき内容を、すでに「質問状」としてオリンパス社に提出しているそうであります(読売新聞ニュースはこちら)。オリンパス社としては、会社側提案にかかる取締役・監査役の選任議案に対して、海外の機関投資家を中心に、どれだけの反対票が投じられるのか、かなり不安を持っておられるかもしれません(たとえばこちらのロイターニュース等)。しかし、もっともオリンパス社がおそれる株主は、このウッドフォード氏ではないかと。それもそのはず、自身による臨時株主総会への出席、および質問の時期に合わせるかのように、ウッドフォード氏を解任するに至った内部事情を詳細に告発する著書を発刊いたしました。

「解任」(マイケル・ウッドフォード著 早川書房 1600円税別)

すでに当ブログにお越しの皆様には、2か月ほど前から予告しておりましたので、ご承知のことと存じますが、オリンパスの損失飛ばしおよび解消スキームの事件を「内部告発」した元社長マイケル・ウッドフォード氏による手記でして、自身が社長に就任し、オリンパス社取締役会によって解任され、その後海外のマスコミ等に事件を告発するまでの経緯を詳細に語っておられます。まさにオリンパス事件に関心を抱いておられる方には必読の一冊です(私も4時間ほどで一気に読んでしまいました)。先日、当ブログでもご紹介いたしました「サムライと愚か者-暗闘・オリンパス事件」の著者である山口義正氏との出会いの場面も一ヵ所出てきますが、オリンパス事件を世に問うおふたりの著書は、併せてお読みいただくことをお勧めいたします(たとえば「官製粉飾決算」なる山口氏の理解も、ウッドフォード氏の著書で再認識されるところがあります)。

ネタバレ的な書評はエチケット違反かと思いますので、詳細な事情について書くことは控えさせていただきますが、本書を読んだ感想を若干述べてみたいと思います。

山口氏の「サムライと愚か者」を読んだときにも述べましたが、やはりオリンパス事件については、発覚以前の時点から、社内で(詳しいことまでは知らないとしても)問題視していた社員がたくさんいた、ということ。山口氏の本では「不正関与者に近いところにいる社員」に焦点があてられていましたが、本書では、ウッドフォード氏と連絡を取り合っていた支援者が多数存在していたようであります。そういった状況においても、経営トップが関与する不正というのは、今回のウッドフォード氏のような「覚悟の上での毅然とした行動」がなければ到底表面化しない、ということであります。

次に(これも素朴な疑問だけはすでに述べておりましたが)、今回のオリンパス事件が大きく報じられ、真相が明るみになったのは、ある意味「偶然」に左右されているのではないか、ということです。つまり最初から「財テクの失敗を隠すための損失飛ばし、飛ばし解消スキームとして海外のファンドが使われた」というストーリーが判明していたのであれば、これほど大きく取り上げられたのだろうか、という疑問です。オリンパス社が反社会的勢力と深いかかわりを持っている、という疑惑が浮上されていたからこそ、世界的に新聞で一面を飾ることになり、海外の捜査当局も動き出したのではないか、と。ウッドフォード氏は、解任された後に会社が不正を発表したときの心境を本書で述べていますが、「怒りを覚えたが、聞かされてみればつまらない真実」というのがホンネだそうです。オリンパス社と裏社会との関係、この疑惑こそが、関係者の「暴露のエネルギー」を高めていった、と私は推測しております(ここは企業コンプライアンスに関心のある者としては極めて重要な点であります)。

私にとっての最大の疑問である「なぜ、ウッドフォード氏は25人抜きで社長に選ばれたのか?」という点につきましては、正直なところ、本書ではっきり理解できた、ということまでは申し上げられません。ただ、ウッドフォード氏がCEOに選出される前後において、取締役会を構成する他の役員のウッドフォード氏に対する発言に変化がみられるのでありますが、その状況からすると、(言葉は悪いですが)おそらく他の役員の方々も、ウッドフォード氏はしょせん、K氏のプードルであり、社長としての実権を持っているわけではない、ということが共通認識になっていたからこそ、ウッドフォード氏を代表取締役にも安心して選出していたのではないかと。このあたりは読む方によって意見も異なるかもしれませんので、皆様方の印象にお任せいたします。

さて、オリンパス事件の真相こそ、本書を読む魅力なのでありますが、英国人社長からみた日本企業のガバナンス、という視点での感想をふたつほど述べておきたいと思います。ひとつは、とても残念でありますが、ウッドフォード氏には日本の「監査役制度」というものが、なにひとつ理解されていなかったようであります。取締役会の構成員に対する絶望感を述べたところ、取締役会の手続きについて真実を描写したところがありますが、いずれにおいても、監査役は誰ひとりとして登場しません。首謀者のひとりとされるY氏(常勤監査役)に対するウッドフォード氏の印象は意外なほど希薄なものであり、むしろ非常に好感のもてる紳士として記されています。またプロキシーファイトを検討していたころに出会った株主提案側の役員候補者についても、社外取締役候補者への関心についての記述はありますが、社外監査役候補者への関心については記述は一切ございません。おそらく、ウッドフォード氏の頭の中には、「なぜもっと監査役がしっかりしていなかったのか」とか「監査役も取締役と一緒にグルではなかったのか」といった疑念は湧いてこなかったものと推測いたします。悲しいかな、外国人経営者からみた日本の監査役制度への理解というものは、しょせんこの程度なのか・・・・・と、すこし暗い気持ちになりました。

そして最後になりますが、ウッドフォード氏はなぜ、ここまで危険な状況に追い込まれることを承知で経営トップを糾弾し、告発まで行ったのか?という点であります。この本を読んだ私の最大の収穫は、外国人経営者の持つ「信託の精神」「信認義務」を垣間見たことでした。ウッドフォード氏のM副社長とのやりとり、サウスイースタンとのプロキシーファイトに関する接触、金融機関の行動に対する疑念などから窺えることは、

「株式会社の経営者は、誠実でなければならないのは、会社でもなく、株主でもなく、またCEOに対してでもない。唯一、預かっている資産に対して誠実でなければならない」

という強い信認義務の思想がウッドフォード氏の行動に一環している、ということであります。経営者は他人から資産を預かっているのであるから、その資産こそが委託者であり、その資産に対して誠実でなければならないというのが信託の思想かと。私は信託法には詳しくありませんが、おそらくこのような信託の精神が、ウッドフォード氏の行動を支えていたのではないかと思います。

「私は正義の味方でも、なんでもない。ただ、私は不正疑惑に遭遇してしまった。見てしまった以上は、これを見過ごすわけにはいかない。疑惑があれば徹底的に調査をして、これを自発的に解決しなければならない」と述べるウッドフォード氏の「信託の精神」こそ、長年の付き合いがあったK氏にも理解できなかったところであり、これこそ、K氏にとっての最大の誤算ではなかったかと思う次第です。いよいよ今週金曜日がオリンパス社と株主ウッドフォード氏との(法廷以外での)対決のときであります。どのような展開になるのか、楽しみにしております。

4月 16, 2012 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年4月13日 (金)

反社チェックの困難さをカバーする内部統制システムの運用(富士通事件の教訓)

4月11日に東京地裁で出されました富士通元社長辞任事件に関する判決でありますが、当ブログをお読みの方からのご厚意により、なんとか報道機関向けの判決要旨を入手することができました。(判決要旨と骨子で合計4枚)どうもありがとうございました<m(__)m>。

昨日、ニュース等の内容から判決の思考過程を推論いたしましたが、争点こそもうすこし多岐にわたるものの、主要な部分においては概ね当たっていたようです。辞任を余儀なくされた前社長側としては、そもそも富士通社の子会社売却にあたり、関与させていたファンドが本当に反社会的勢力に該当するのかどうか、その真実性に焦点をあてたいのですが、会社側としては、そもそも本当に反社会的勢力に該当するか否かが問題なのではなく、限りなくクロに近いグレーであれば、企業の信用を維持する必要があり、関係者の排除を求める行動を起こすことは当然のことと反論しております。

そもそも、子会社売却に関与していた会社について「評判のよろしくない会社」と富士通側の役職員が知ったのは、単純にネット上の書き込み等からだそうです。そこが調査の発端となり、富士通側は①主幹事証券会社からの情報提供、②富士通社が依頼したふたつの調査事務所の調査報告2通により、ネット上の噂はかなりの確率で真実との心証を得たそうであります。

そして富士通側の大多数の取締役、監査役が、このような心証を抱くに至った以上は、内部統制システムの基本方針に基づき、整備されたシステムの運用義務の一環として、その排除に向けた諸施策が講じられたことになります。平成19年に内閣府より「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」と題するガイドラインが公表され、反社的勢力排除のための施策については内部統制システムの一環であることが、明確にされました。それから5年が経過し、本判決は、まさに反社会的勢力との関係が疑われた上場会社の場合には、構築・整備された内部統制システムの運用義務の問題として有事対応が承認される、という理屈を示したものと言えそうであります。内部統制の「整備」ではなく「運用」に光があてられたところに意義があるのではないか、と。

なお、一般論としてではありますが、反社会的勢力とのつながりが疑われる役職員に対する警告の出し方(不正調査の方法)については、また別途むずかしい問題があるのも事実です。そのあたりは本件ではどうなのか、これは判決文を読まなければわからないところであり、興味深いところです。企業のレピュテーションリスクの管理が注目され、また反社会的勢力と企業との断絶が厳しく要請される今日において、疑惑の目を向けられた対象者の人権保障と、重大なリスク管理をしなければならない企業の利益とのバランスをどうとるべきなのか、本件判決には、そのヒントが語られているように思えます。

4月 13, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月12日 (木)

富士通元社長事件判決と上場会社の反社対応実務への影響

(4月12日夕方 一部訂正があります)

ニュースでも、皆様ご承知のとおり、富士通社の元社長の方が同社の役員および法人たる富士通社を相手に損害賠償を求めていた裁判において、本日(4月11日)東京地裁は元社長(原告)の訴えを棄却する判決を出しております。

この裁判は、元社長さんの(富士通の取締役としての)地位確認を求めるものではなく(こちらはたしか仮処分事件で、元社長(債権者)側の申立てが却下され、決着がついているはず 参照富士通のリリース)、取締役の地位を喪失したことを前提としたうえで、「富士通役員のいい加減な調査によって、自分は取締役を辞任させられた、ガサネタで辞めさせられたんだから、役員の辞任勧告は不法行為であり、損害賠償請求権を行使する」というものであります。

まだ判決文を読んでおらず、ニュースの記事のみからの推測でありますが、地裁は以下のような思考過程で原告の請求を棄却したのではないかと思われます。つまり、

元社長が子会社売却にあたり業務に関与させた法人(ファンド)について、反社会的勢力か否か、その真実性については、辞任勧告の際、原告・被告らの間で問題とはされていなかった。つまり、被告らの辞任勧告に至った理由の説明を原告が受け、風評の芳しくない当該取引先との交際を控えること(関係解消)を求められたにもかかわらず、元社長がこれに応じようとしないことから、その解決方として自ら同社の役員辞任の道を選択するのはやむをえないとして自らの意思で辞任したものであり、当該法人が真に反社会的勢力であるということから、辞任を決めたわけではない

被告らが、本当に「いい加減な」調査によって元社長の取締役辞任を求めたのであれば、虚偽事実を告げて辞任を強要したものと同様に評価できるのであるから、被告らによる不法行為責任が発生する余地がある。しかし、証券会社からの情報提供があり、これに基づき、被告らも独自に信用ある調査会社に依頼をして、そこでも問題取引先との情報提供があったのであり、これらの情報をもとに辞任勧告をすることには正当な理由がある。

被告らは上場会社の役員であるから、もし企業として反社会的勢力との関与が認められた場合には上場廃止となるリスクに直面するものであること、また近時の暴力団排除条例の施行など社会の目が非常に厳しくなっている状況において、企業のレピュテーションリスクを回避することは喫緊の課題であることから、たとえ当該法人が反社会的勢力と断定できない場合であっても、それなりに正当な理由がある場合に「企業として最大限度のとりうる方法を用いれば」違法とはいえない。これは蛇の目ミシン最高裁判決の趣旨にも適う考え方である。

といったあたりが裁判所が元社長の請求を退けた判断過程ではないかと。(もし私の推測に誤りがありましたら、当事者の方でも結構ですので、指摘していただけますと幸いです。すぐに修正させていただきます)

本件判決は、おそらく上場会社だけでなく、上場準備の段階にある企業においても(参考にすべき)重要な判決になるのではないでしょうか。上場会社の役員の属性や、訳あり関係者とのお付き合いに悩んでおられる会社は結構多いと思います。ひとつ有事の対応を間違えますと、上場廃止になったり、主要な取引先から取引の継続を拒絶されたり、さらには反社会的勢力との断絶を遂行できない役員の善管注意義務違反が問われてしまうわけであります。さらにオリンパス事件でも当初疑惑が報じられ、明らかになりましたが、「反社勢力とのつながり」という話題は国内だけでなく、海外でも大きな話題になってしまうわけでして、CSRの観点からも非常にマズイ状況に追い込まれてしまうわけです。まさに企業の自浄能力を発揮してレピュテーションリスクを最小化しなければならない局面であります。

ただ、こればかりはトップシークレット事項であり、なかなか外部の人に相談できるものでもありません。富士通社の場合も、元社長の突然の辞任について、当初「健康上の理由により」として適時開示されていましたが、後日「ふさわしくない取引を行ったため」と訂正し、東証から厳重注意を受けたことからも理解できるところかと思います。

企業としては、役職員の素性や「ふさわしくない者との関係」をどこまで調査したうえで行動に出る必要があるのか、調査の結果、グレーの状況で行動に出て良いのか、いやむしろ行動に出なければ善管注意義務違反になるのではないか・・・というあたりの限界を探るには参考になる事例ではないかと。基本的には、一般の上場会社としては、役職員の反社チェックを「できる範囲で」行えば、反社対応を実行しても違法ではない、いやむしろ、できる範囲での反社対応はしなければならない、ということかと思います(ここにまた、公表義務あたりの問題がからんでくるのかと。これは私の直感的な印象です。このあたりは、後日発表されると思われます著名な法律実務家の方々の法律雑誌での論文等で勉強させていただきたいと思います)。

(4月12日追記:やはり「反社会的勢力を排除すべき内部統制システム」なる言葉が判決文に登場しているようであります。こういった問題に直面する取締役、監査役にとっては善管注意義務違反とならない行動が要求されることになりますね)

本件は役員個人の不法行為責任が問われた事件でありますが、仮の地位を定める仮処分(地位確認請求事件)などで会社自身が被告(債務者)となるケースでも参考になるのかもしれません。おそらく控訴され審理は続行されるものと思いますが、いずれにしましても、地裁の判決文をぜひとも読んでみたいものであります(なんとか入手できないものかしら・・・・)

4月 12, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月 9日 (月)

大王製紙事件・創業家と経営陣対立について考える

4月5日の日経ニュースに著名な法律家の方々が、「専門家からみた大王製紙経営陣と創業家との対立の構図」を語っておられます。大王製紙の連結子会社の役員の方々が、創業家側によって招集された臨時株主総会にて解任され、次々と大王製紙経営陣のコントロールが効かない状況になっているのは既にご承知のところかと思います。メーカーたる大王製紙の「車の両輪」と言われる本体と子会社の関係ですから、このような状況が続けば大王製紙の企業価値が大きく毀損していくことになります。

法律的な関心もさることながら、創業家ファミリーが保有する子会社株式を、なんとか大王製紙側としては取得したいのでありますが、価格の折り合いがつかないまま、今後の両者の交渉進展について関心がございます。大王製紙側としては、創業家ファミリーから子会社株式を買い取るわけですから、その買取代金をもとに創業家側による元会長の貸付金の返済を促したいところかと。そうすれば、いわゆる「被害弁償」によって元会長の刑事罰も軽くなるわけでして、そこに創業家側の弱みがある(したがって、相当の買取価格であれば最終的には創業家側が応じるはず)と考えるものと思います。

しかし創業家側がノーと言い続けて、元会長の被害弁償が50億円ほど残ってしまいますと、今度は大王製紙側の損害金となるわけでして、現経営陣や監査法人(会計監査人)が大王製紙の株主から代表訴訟を提起されるリスクが現実化します。創業家自身が、身内のキビシイ刑事責任もやむをえない、と考えるのであれば、現経営陣や監査法人もかなりのピンチに陥ることになります。ただ、大王製紙は上場会社であり、適正価格以上の価格で子会社株式を買うことはできないでしょうから、金銭的解決といっても交渉には限界があるかもしれません。

つまり現経営陣と創業家との「我慢くらべ」の様相になってきましたが、従業員や取引先のためにも、どこかで折り合いをつける必要がありそうです。そうでなければメインバンクの対応も悪化するでしょうし、本体や関連会社、取引先の方々も、今後の会社の行方についてたいへん不安を抱くことになると思います。

「こんな大騒ぎになったのも、創業家に対する絶対的服従の企業風土によるものだから、何をいまさら創業家が偉そうにいっているのだろうか」と創業家側を批難する声も多いように思います。しかし、元会長による子会社からの資金流用の事実を知っていた担当取締役や元会長の親族である取締役は引責辞任したにもかかわらず、なぜ現経営陣や監査役は減俸程度の責任の取り方で一件落着となるのか、担当取締役が知っていたということは経営トップにある現経営陣も事前に知らなかったわけではないと思われ、現経営陣の方々こそ辞任すべきではないか、との疑問も一般的な感覚からは納得できるところであります。

昔は、こういったことは銀行さん主導で内々に解決されていたんでしょうか。これは私の勝手な推測ですが、創業家と経営陣との対立を終わらせるためには、大王製紙側の経営陣の人事的解決しか方法がないのではないかと思います。「そんなアホな。」と言われそうですが、筋から考えるとそうならざるをえないのではないでしょうか。ただ、創業家の経営方針に賛同しない幹部の方々が、元会長の不正事件をきっかけに、いわば計画的に創業家の色を薄めるためのクーデター的な事件を起こしているようにも思えます(これは全く私の憶測であります。たとえば昨年の総会で大幅な役員交代が行われたことなど)。いずれにしましても、先の日経ニュースにて専門家の方々がおっしゃるように、この対立には第三者委員会報告書の影響もあるのかもしれません。

4月 9, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年2月21日 (火)

会社法改正で生まれる金商法上の「内部統制報告制度」と会社法との接点

ひさしぶりの内部統制ネタであります。このネタでブログが盛り上がっていた時代がなつかしい。。。

昨年1月から今年2月15日までの間に、「内部統制は有効である」との内部統制報告書を過去に提出していながら、「有効ではない」と評価結果を訂正する「訂正内部統制報告書」を提出した上場会社は13社に上ります。そのなかにはオリンパス、大王製紙、ゲオなども含まれるわけですが、結局のところ当該13社は、会社の不祥事が発生したことで「全社的内部統制に重要な欠陥が認められ」ることを理由としています。期末に重要な欠陥が残ってしまったため、今年度は内部統制は有効とはいえない、とする会社や内部統制を評価できる体制が存在しないために意見を表明できない、とする会社が上記期間内に25社ありますが、その中には決算財務プロセスに問題あり、業務プロセスに重大な不備ありなど、とくに大きな不祥事が発生してはいないが、そのおそれがあるとして「リスク開示型」の意見表明の事案も結構あります。

つまり、内部統制報告制度の本来の趣旨(将来における財務報告の信頼性に関するリスクを投資家に開示する)を実現した報告書を提出している会社もあるわけですが、「全社的内部統制に問題あり」との理由によるリスク開示型評価は一切存在せず、不祥事が発生した後に、実は全社的内部統制に問題があったとする、いわゆる「結果開示型」ばかりであります。たしかに経営者自身が(不祥事も発覚していないにもかかわらず)「当社の統制環境に問題がありますよ」とリスクを開示するというのは現実離れしておりますし、会計監査人が「ここの会社はガバナンスに問題あり」として意見表明することもなかなか勇気のいることと思われますので、この結果はやむをえないところかもしれません。

しかし、今後会社法が改正され、監査役による内部統制の(基本方針の整備状況だけでなく)運用状況への監査(審査?)が実践されますと、全社的内部統制に関する「リスク開示型」の有効性評価も出てくるかもしれません。会社法上の内部統制に対する監査、ということであっても、おそらく内部統制監査人(会計監査人)は、監査役監査の結果(運用状況チェックの結果)を今後は援用して監査意見を形成することが考えられますし、内部統制の運用状況をチェックする監査役の姿それ自体が、「統制環境」への監査のポイントにもなるからであります。もちろん監査役さん方の頑張り次第ではありますが、金商法上の内部統制報告制度と会社法上の内部統制評価に関する接点がここに生まれ、財務報告の信頼性に関連する全社的内部統制上のリスクが開示される事例が出てくる可能性があるように思われます。

2月 21, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年2月 9日 (木)

大王製紙・創業家のしたたかな訴訟戦略

毎度申し上げるところでありますが、以下は私個人の感想であり、邪推の域を出ないものでありまして、大王製紙社の企業価値に関するご判断は皆様個人の責任においてお願いいたします。

2月8日深夜の日経新聞ニュースでは、12日に大王製紙の持分法適用会社のひとつであるエリエールペーバーテック社(以下、EPT社といいます)の臨時株主総会が開催される(裁判所の許可がおりた)ことが報じられております。創業家が同社の取締役全員の解任議案を上程するために開催されるものでして、創業家側代理人によると解任議案が可決されることは確実とのこと。

大王製紙では数多くの子会社、持分法適用会社がありますが、このEPT社は今回の元会長不正貸付事件のカギを握る会社だと思われます。特別調査委員会報告書によると、このEPT社は、約1か月間に10億円ほどの金銭を取締役会の承認を得ずに元会長の個人口座に振り込みをしており、現在も残高が5億円残っております。

しかも、同報告書によると短期間に多額の資金が元会長個人に貸し付けられたことを不審に思った監査法人と監査役が、実際にEPT社に往査に行っておりますが、融資担当者の話もろくに聴取できないままに往査を終えた、とのこと(結局、監査法人と監査役がこの往査によって何を調査できたのかは、報告書に何も記載されておりません)。大王製紙社において、内部通報があり、社長以下経営陣が不正貸付の事実を知るところとなるのは、なんとこの1年後のことであります。

同報告書では、このEPT社に往査に向かいながら、適切な監査がなされなかったことについて、監査法人には問題がある、との意見を述べておりますが、監査役の業務が適切だったかどうかには何ら触れられておりません。私がこの特別調査委員会報告書を初めて読んだときも、「これって、監査法人や監査役が不正の兆候にアクセスしたことにはならないのだろうか」と疑問を抱いたところであります。

ところで、創業家は株主代表訴訟を提起して、不正貸付を行った取締役の責任を追及することを予定している、と報じられているので、おそらくこのEPT社の取締役らが対象とされているものと予想されます(本来、大株主であれば、まず最初にご子息である元会長さんに会社が残金返還するよう求めるのが筋だとも思うのでありますが・・・)。この株主代表訴訟の対象となる取締役の方々は、自分に責任がないとして争うはずです。 

「だって、監査法人さんも、監査役さんも、当社に来て問題がないかどうか調査したけども、とくに指摘されることはありませんでした」

と、具体的な事実を掲げて反論する可能性があります。つまり特別調査委員会報告書には出てこなかったような、大王製紙社の監査役、監査法人の行動が、代表訴訟を仕掛けることによって浮上する可能性が出てくるのではないかと。

つまり大王製紙側としては、関連会社役員を応援しようとすると、自社の監査役は監査法人の監査の問題が浮上することになり、いっぽう監査役や監査法人の責任を回避しようとすると、関連会社役員の責任が認められやすくなるという二律背反の関係が生じるように思われます。今回とくにEPT社は、いったん持分法適用会社となった関連会社を子会社に復活させることに貢献した会社のひとつです(大王製紙社の指示に従って関連会社の株式を大王製紙側に譲渡した会社)。大王製紙側としても、無下に扱うことはできないのではないでしょうか。これは創業家としては、大王製紙側の一番痛い部分をピンポイントで突いてきたものと思われます。非常にしたたかな戦術ではないかと思われるのでありまして、かなり大王製紙側は厳しい局面を迎えるように感じました(それにしても、関連会社の役員さん方が、とても気の毒に思えるのは、私が単に甘いだけなのでしょうか・・・・)

2月 9, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年2月 6日 (月)

創業家との対立で懸念される大王製紙の企業価値

土曜日(2月4日)の日経朝刊にて、大王製紙の関連会社11社が、いったんは持分法適用会社になったものの、再び子会社に復活したことが報じられておりました。昨年の元会長不正貸付事件の際、特別調査委員会は創業家との決別を大王製紙社に要望しておりました。その流れで、元会長、元顧問の方々が大王製紙社および子会社の役員を辞任されたことから、いったんは大王製紙の支配力が薄まったとして子会社➔持分法適用会社へ移行することとなりました。

しかし関連会社の株主構成について、大王製紙本体と創業家ファミリー企業が別々の大株主として存在することからややこしい問題が発生しております。創業家からの独立を目指し、創業家ファミリー企業から株式買取を希望する大王製紙側と創業家(ファミリー企業)との間で買取価格に大きな差が生じたため、ほとんど買取が進展しておらず、業を煮やした大王製紙側は、持分法適用会社どうしの持合い株式を大王側に譲渡させることで大王製紙が単独で過半数を維持する戦略に出たそうです。株式譲渡や譲渡承認に取締役会決議が必要になるでしょうから、持合い双方の会社の意思決定に大王製紙側が強く関与できる組み合わせで整理を行ったものと思います。

大株主として君臨する創業家側は、これから関連会社の役員関係を整理しようと考えていたところ、いきなり先手を打って持ち合い株式の整理に大王側が走ったため、複数の関連会社の株式譲渡に関する取締役会決議の無効確認請求の訴えを各地の裁判所に提起した、とのこと。取締役の選任・解任作業を進めようとしていた時期に審議されたものであることや、創業家の取締役に通知がなかったこと等が理由のようです。創業家側が主張している評価額の5分の1程度の買取価格で株式譲渡が行われたそうですから、紛争になるのも当然かもしれません。しかし残る18社の持分法適用会社については、まだそのような整理が終了していない、ということですから、今後ますます大王側と創業家側との対立が激化するのではないでしょうか。

創業家が本体である大王製紙の株式の過半数を握っておらず、関連会社を複数のファミリー企業で支配する、という複雑な統治形態がとられていることで、こういった問題が発生しているわけですが、関連会社には多数の「大王製紙から派遣された役員」の方々が、現在も存在していることから、この「サラリーマン役員」さん方はたいへんなご苦労ではないかと推察いたします。大王製紙側の指示に従うべきが筋だとは思いますが、創業家の方からも、様々な要求が飛んでくるはずです。俺たちの言うことを聞け、でないと取締役を取り換えるだけでなく、不適切な価格で株式譲渡に応じ会社に損害を与えた、ということで代表訴訟も提起するぞ、ということではないかと。この関連会社役員の皆様は、いったいどちらを向いて仕事をすればよいのか、とてもつらい立場にあるのではないでしょうか。いや、ひょっとすると関連企業の取締役会での意見が対立して、いろいろな権謀術策のなかで決議が成立したり否決されているのではないかと邪推してしまいます。これで果たして企業経営が遂行できるのでしょうか。

また、大王製紙社の子会社、持分法適用会社は、そもそも地方の有力製紙会社を買収してきたところもあり、大王とは関係の薄い役員の方もいらっしゃるはずであります。そのような役員さんも大王製紙と創業家との紛争に巻き込まれる形となるため、おそらく従業員を含め、非常に経営が不安定になる可能性があるかと思います。非常に売り上げ比率の高い関連会社もあり、また大王製紙にとって重要な原材料調達先になっているところもあるようですから、こういった対立が本業に及ぼす影響も無視できないように思います。早期に事態の収拾を図らなければ大王製紙社の企業価値が毀損される不安が生じることになりそうです。オリンパス事件に比べて、最近は少し報道される機会も少なくなった大王製紙社の件ですが、関連会社も巻き込んで、その企業価値の行方が左右されるのはこれから始まる第二幕の結果次第のようであります。

なお、以上は今回の対立構造からみた私個人の感想を述べたものであり、「邪推」がはずれている可能性もございます。どうか株取引は個人責任において行っていただきたいと思います。

2月 6, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年1月23日 (月)

これって「有事」なの?「平時」なの?意外とむずかしいリスクマネジメント

先週は、幸運にも企業不祥事で昨年新聞を賑わせた上場会社2社の監査役さん(おひとりは常勤監査役、もうひとりは社外監査役)とゆっくりとお話をする機会に恵まれました。事実関係の詳細から「ん?それは新聞や週刊誌で読んだ内容と少し違うのでは?」と思うところもあり、またオフレコに近いようなお話もお聞きできて、非常に参考になりました。

なかでも共通して感じたことは、不祥事が発生したときの各監査役さんの「温度差」であります。そういえば玉井英二氏が語る「阪神電鉄vs村上ファンド」第一話(法と経済のジャーナル)に登場する阪神電鉄社の取締役の方々も、村上ファンドが株を買い増していくなかで、「たいへんな事態」という感覚にズレがありました。これは取締役に限ったことではなく、監査役さんにとっても同様で、「いつ平時対応から有事対応に切り替えるか」ということが非常に重要なことだそうであります。この有事感覚を一歩間違えますと、不正に関与した取締役の使用していたパソコンのメールが「復元困難ソフト」を利用されて削除されてしまい、後日の第三者委員会からも非難されてしまうことになるかもしれません。

たとえば普段仲良くしている取締役の方々との関係も、有事となると独立公正な振る舞いが必要となってくる場面もあるでしょうし、有事対応の手法において、いつも和やかな監査役会が突然意見の対立する場面になるわけですが、「いまは平時なのか、それとも有事の振る舞いが必要なのか」ということを理解するのは意外とむずかしいようです。たしかに、我々は新聞等で大きく報道されますと、とんでもない企業不祥事が発生したものだ、いったい監査役や監査法人は何をしていたんだ!と嘆くわけですが、それは「後出しじゃんけん」の発想であり、不正疑惑が発覚し、社内調査が進行している時点においては、おそらく社内のだれもが「これって報道されるほどのことはないのでは?」「社内で穏便に済ませるのが一番良いのでは?」「公表しなければならないほどのことだろうか?騒ぎすぎではないか?」と感じているわけです。上のおふたりとは違いますが、先週、ダスキン事件で被告(当時の社外監査役)となられた大阪弁護士会のY先生ともお話したとき、Y先生も「いまでこそコンプライアンス経営が当たり前のように言われる時代ですが、当時はそれほど公表の要否が問題になる、という意識は希薄だったように思います」とおっしゃってました。

とくに監査役さんの場合、監査見逃し責任が問われるわけで、「そういえばあのときの取引って、ちょっとおかしかったよな」とか「いままでだったら先に監査役にも相談があるはずなのに、なんで事後報告だったんだろう、と感じてました」など、思い当たる節があると「任務懈怠責任」に少し思い悩むこともあるかもしれません。タイムマシンで三か月後の新聞報道などに触れることができるならば「いまこそ有事」と認識できるわけですが、それも叶わず、リーガルリスクに悩むことになるわけです。これはとてもコワイことだなぁ・・・と。

ひとくちに「役員のリスク感覚」といいますが、これって単に心の中で「おかしいな」と感じることだけでなく、むしろ行動で示すことのほうが重要なのですね。ただ、有事に立ち至った意識に基づく行動は、周囲からは「何もそこまでやらなくても」とか「あなたの考えが間違っていたらどうすんの?会社は大恥かくことになりますよ。それでもいいの?」といった声に囲まれてしまうわけで、それでも行動に移す勇気も含めて「リスク感覚」というのでしょうね。現に不祥事発覚後でも「この程度なら社内調査委員会で十分では?」「いやいや、社外有識者だけの第三者委員会を設置しなければ信用を維持することはできませんよ」といった社内での意見の対立はしばしば見受けられるところです。

1月 23, 2012 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年1月11日 (水)

オリンパス社取締役会は、なぜウッドフォード氏を代表者に選んだのか?

皆様、新聞ニュース等でご承知のとおり、オリンパス社の開示情報として、「取締役責任調査委員会(弁護士3名による構成)」から200頁に及ぶ報告書がリリースされました。甲斐中報告書(第三者委員会報告書)に依拠するところが多いとしても、短期間に31名に及ぶヒアリングを行った上での詳細な報告書提出、ということで、関係者の方々の正月返上での尽力に頭が下がります。新旧取締役の善管注意義務違反の有無を判断するにあたり、前提となる事実認定ならびに法的検討が詳細に行われており、結論の厳格さからみても公正さがうかがわれ、高く評価されるものかと思われます。ただ、法的評価につきまして、私は別の意見を有しております。

ウッドフォード氏がオリンパス社の役員会で2008年の国内三社の買収、ジャイラス社買収時のFA手数料の異常さに異議を唱えた際の調査が不適切であったことについて、ウッドフォード氏を解任する決議に参加した取締役には法的な意味での善管注意義務違反は認められない・・・と上記報告書が結論付けておりますし、このような結論を導く根拠としましては、すでに昨年11月9日の当ブログでのエントリー「他社をかばう美徳とオリンパス事件の進展」のなかで検討したとおりでありまして、ほぼ予想どおりであります。

調査委員会の報告書は、多くの取締役がウッドフォード氏が代表取締役としての適格性に欠ける、という意味で解任決議に賛成したのでありまして、なにも不正事実の調査放棄に結び付くわけではない、と結論つけております。しかし、ウッドフォード氏が告発したのは、単なるオリンパスの一社員による内部通報としてではありません。れっきとした大会社の社長たる地位にある者が、第三者的立場にある会計事務所(PWC)の意見を添えて不正疑惑を持ち出してきたのでありますから、「異常な兆候」つまり不正行為を合理的に疑わせるだけの客観的・外形的な事実が存在していたのであります。したがいまして、「もう前に済んだことだから」「どうも社長としての適格性に欠ける」(調査報告書107頁以下参照)という意味で解職したことが(調査義務放棄とは結びつかず)善管注意義務違反にならない、というのであれば、その前提として「なぜ、あなた方取締役は、その数か月前にウッドフォード氏を代表取締役に選出したのか?」という点が明らかにされなければ説得力に乏しい、と言わざるをえません。

しかし、上記調査報告書では、なぜオリンパス社の取締役会が、解職の数か月前にウッドフォード氏を代表取締役に選んだのか、その詳細な検討がなされておりません。もう数年前から次期代表者はウッドフォード氏と決まっていたのであれば理解できますが、日本人ではなく外国人の社長を同社として初めて選出するわけですから、たとえば日本的経営感覚と合わないとか、日本に滞在する期間が短いとか、そういったことは覚悟のうえで、同氏を代表取締役に選出したのではないかと思われます。また、そもそも「経営感覚に問題がある」のであれば、就任以降のウッドフォード氏が代表者としてふさわしくないことを物語るような「特徴的な出来事」などにも触れたうえで、この「過去の不正疑惑の告発」が解職判断の決定的な出来事になった、といった経緯が解説されていなければなりません。そのような経緯も説明されず、不正告発の直後に「経営感覚が合わない」といった理由で解職に全取締役が合意する、というのは、明らかにウッドフォード氏を代表者に選出した動機と矛盾するものでありまして、到底信用できないものであります。

異常な兆候を目の前にして、取締役が少しばかりの努力によって、その解明の糸口を把握することが可能なのであれば、その「少しばかりの努力」をしなかった取締役に善管注意義務違反が認められるのは、平成21年の大原町農協事件最高裁判決、平成11年の釧路生協組合債事件高裁判決の理屈にも合致したものであり、本件でも「社長の告発」だからこそ、他の取締役にはこの「少しばかりの努力」が必要だったのではないかと考えます。多数の取締役・監査役の責任が認められたダスキン事件株主代表訴訟判決におきまして、「いますぐ公表せよ」と役員会で異議を唱え、社長に手紙を送った社外取締役の方は、(結局不正隠ぺいを食い止めることはできませんでしたが)この「少しの努力」を惜しまなかったために、責任を問われることはなかったわけでして、今回のオリンパスの取締役の方々にとっても、この少しの努力は決して期待可能性に乏しかったわけではないと思われます。

また、ウッドフォード氏を解職したとしても、ウッドフォード氏は取締役として残るわけですから、取締役の面々としても、せめて第三者委員会を設置して検討することぐらいは考えていた(したがって、解職への賛同と調査義務放棄とは結びつかない)と、調査報告書は述べております。しかし、①現実にはウッドフォード氏は「直ちに自分ひとりで英国に帰るように」と申し向けられ、業務執行取締役としての地位は喪失していたこと、②海外のマスコミが騒ぎだした直後、オリンパス社は「根も葉もないうわさを軽信するな。もし噂を流すのであれば法的措置も辞さない」と公表し、そこには再度の調査意思があることは一切認められないこと、③そもそも週刊朝日のスクープがきっかけとなって不正事実を公表したものであり、内部調査を行ったことを示す根拠が一切見当たらないこと等からみますと、調査委員会が述べるように、ウッドフォード氏の解職と調査義務懈怠が別問題とする理由にはあまり説得力がないように思われます。

私のような考え方ですと、技術系出身の取締役さん、社外取締役さん方にとっては厳しすぎるのではないか、とのご意見もあろうかとは思います。そのあたりは、損害との因果関係を検討したり、(報告書にもあるように)求償関係によって割合的な責任を検討することで調整すべきではないでしょうか。12月6日に公表された甲斐中報告書でも詳しく触れておられませんが、どうしてオリンパス社は昨年6月、外国人であるウッドフォード氏を代表取締役に選んだのか?不正会計の処理が済み、本当にグローバルな企業として生まれ変わろう、との前向きな気持ちで役員全員の賛同をもって選出されたのではないのでしょうか?そう考えれば考えるほど、取締役の方々の不作為(監視義務違反、調査義務違反)の重みを感じざるをえません。

1月 11, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年1月10日 (火)

オリンパス社の責任追及訴訟と「なれ合い裁判」の防止

オリンパス社の取締役責任調査委員会が、新旧併せて20名ほど(十数名ほど?)の取締役の法的責任を認めた、との報道がされておりますが、年末のNHK報道(法人としてのオリンパスの刑事責任追及か?)と併せ考慮しますと、本当にオリンパス社の上場は維持されるのでしょうかね?たしかに債務超過ではありませんし、その影響度が計り知れないものとなるかもしれませんが、「組織ぐるみ」と評価されても仕方ないような状況になっているようにも思われます。当ブログでも予想していたように、結局は廃止にはならない(特設注意市場銘柄に落ち着く)のかもしれませんが、博多ぽんこつラーメンさんがご指摘のように、一般の投資家にもわかるように、廃止とならない理由を取引所は説明しなければならないと思います。

ところで株主代表訴訟の提起寸前(提訴請求期間満了直前)の1月8日、オリンパス社自身が、取締役らに対する責任追及訴訟を提起したそうであります。取締役の責任を会社が追及するわけですから、同社の監査役が会社を代表して訴えを提起したことになります。10日には「取締役責任調査委員会」の報告書が公表されるようで、その内容が注目されるところです。

ただ、監査役や監査法人も株主代表訴訟の対象となっていることから、オリンパス社は(提訴請求期間満了の)1月中旬までに「監査役等責任調査委員会」の報告をまって、今度は監査役や監査法人(あずさおよび新日本)を訴えることになりそうです。この場合には監査役ではなく、代表取締役が会社を代表して提訴することになります。おそらく取締役の方々は「監査役会のお墨付きをもらったから経営判断としては適切だった」と抗弁を主張されることでしょうし、監査役の方々は、巧妙に一部の取締役らによって隠ぺいされた事実および取締役会の監督機能に第一次的責任がある、と抗弁されるでしょうから、ここにも利益相反関係が成り立ちそうであります(ややこしいですね)。あの甲斐中第三者委員会報告書の内容からしますと、監査役や監査法人に法的責任なし、との調査委員会報告書は出ないと思われます。

ダスキン事件では取締役、監査役双方の法的責任が認められましたが、これは株主代表訴訟でしたので、手続き的にはそれほど大きな問題はありませんでしたが、オリンパス事件では、会社自ら役員を訴える、ということになりましたので、今後展開される訴訟が「会社と役員との馴れ合い」裁判になってしまうのではないか?との不安が生じるところです。代表訴訟を提起する予定の株主の方々がいらっしゃいましたので、馴れ合い訴訟を防止するために、原告である会社側に訴訟参加をして共同訴訟形態で裁判が進むかもしれません。また、これまで代表訴訟提起を考えていなかった一般の株主も、この訴訟に参加する機会が与えられなければなりませんので、会社が訴えた裁判の内容をオリンパス社は公告しなければなりません。

しかしながら、オリンパス社の全役員の方々が被告とされているのであれば、裁判を実質的に進めることはできるのでしょうか。訴訟準備のための関係書類は地検や警察、金融庁、取引所などに持っていかれてしまっているかもしれませんが、とりあえず裁判を進めるにあたり、被告とされている役員の方々が証拠書類にアクセスすることはできないのではないかと。また、訴訟代理人の弁護士としても、これまでオリンパス社の顧問をされていた法律事務所ではなく、少なくとも取締役責任調査委員会の委員を務められた弁護士の方々が「横滑り」で代理人に就任するのが適切ではないかと思いますがいかがなものでしょうか(監査役や監査法人の責任追及訴訟についても同様)。いずれにしても、訴訟参加する一般株主の代理人弁護士と共同で責任追及訴訟を追行する、ということになるような気もいたします。ウッドフォード氏は、英国審判所で元役員の方々を訴える、ということで、オリンパス社の上場維持問題と並び、今後の責任追及訴訟の進展が注目されるところであります。

1月 10, 2012 商事系 | | コメント (5) | トラックバック (1)

2012年1月 4日 (水)

企業不祥事の根本原因を徹底追及できない理由

皆様、あけましておめでとうございます。今年も(若干、更新頻度は落ちそうな予感がいたしますが)当ブログをよろしくお願いいたします。<m(__)m>

昨年は様々な調査報告書を読む機会がありました。多くの企業不祥事に関する第三者委員会報告書に目を通しての印象や、私自身の第三者委員会委員としての経験からの感想でありますが、企業不祥事の本当の原因を徹底追及することは実はたいへん困難な作業ではないか、と感じております。と言いますのは、企業不祥事の原因が「社内自己完結型」であればきれいな報告書が書けるのでありますが、意外と自己完結型は少なくて、どこかに「他社関与型」の匂いがするものが多く、本当の不祥事原因を追究するには「他社」の関与に踏み込まねばならないからであります。

「他社の関与」というのは、ある事案では反社会勢力との遭遇であり、ある事案では行政当局のミスや癒着との遭遇であり、またある事案ではお世話になっている取引先企業とのなれ合いを示すものでして、これら「他社の関与」に踏み込まなければ実効性ある再発防止策を検討できないにもかかわらず、これに踏み込むことがタブー視される、という構造であります。たとえば、昨年末に触れました「法人の刑事責任」でありますが、たしかに「両罰規定」を通じて実定法化されているものもありますが、それはあくまでも役職員の刑事責任が問えることが前提となるものであり、個人の刑事責任と離れて、純粋に法人の刑事責任を追及しようとすると、おそらく上記の「他社の関与」にまで踏み込まなければなりません。したがって、我が国においては純粋な法人の刑事責任追及は、大きな勇気が必要となり、今後も進展しないのではないか、と考えられます。

また、たとえ「自己完結型不祥事」であったとしても、(これは時々、講演などでも申し上げるところですが)企業不祥事の根本原因を追及しますと、我が国企業の成長要因と重なり合うところがあるため、決して取り除くことができないものであることが判明してきます。たとえば販売促進のために取引先や顧客、同業他社担当者と信頼関係を築くことが営業職に求められる職責でありますが、それは裏を返せば取引先との共謀、顧客への例外的待遇、同業者との貸し借りを内包するものであります。また性能偽装事件にみられるとおり、トップメーカーの技術社員には高い安全技術への誇りが求められますが、それは裏を返せば「驕り」を内包するものであります。経営トップ同士の「義理人情」が企業を救うときもあるわけですが、その「義理人情」が裏を返せば「私を社長に推薦してくれた先代社長の不祥事を墓場まで持っていく」ことであります。つまり、企業の持続的成長のための要因には、かならず不祥事のタネが隠されているのであります。

昨年来「不祥事はなぜなくならないのか」と、いろいろなところで話題になりましたが、上記のとおり、企業はグローバルな競争を繰り返さなければならないのですから、不祥事は必然的に(宿命的に)発生するわけでして、そもそも企業不祥事をなくす、というのは現実問題として無理であります。しかしそれでもなお、不祥事は防止しなければならない、とすれば、企業のリスク管理の視点で何から手をつけていけばよいのか・・・・・、そのあたりを今年の本ブログの重要な課題として考えていきたいと思っております。

1月 4, 2012 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年12月31日 (土)

オリンパスの法人としての刑事責任と上場廃止

(31日午後 追記あり)

すっかり年末の温泉でくつろいでおりましたところ、30日夕方のNHKニュースを知って、ちょっと驚いております。

オリンパスの件について、経営執行部の三名の方々以外にも、実際には財務担当社員らが損失隠しスキームに関与していたことが特捜部の捜査で明らかとなったようであります。地検はこのことから、オリンパスの今回の件については「組織ぐるみ」と判断し、法人としてのオリンパスの刑事責任を追及することの検討を始めた、とのこと。

いままで私はオリンパスの上場廃止はされないだろう、との方向性で考えておりましたが、その根拠は(法人としてのオリンパスの責任について)課徴金で済むと思われること、異論はあるでしょうけど、組織ぐるみとは認定できないことを念頭に置いていたからです。しかし、かりに上記ニュースの通りだとしますと、「組織ぐるみ」ということに対して反論ができないことになりそうで、ちょっと上場問題に暗雲が漂うことになるのではないか、と若干の危惧をいだいております。

この点は年末年始の時期ではありますが、他のマスコミからの情報も知りたいところです。

31日追記
読売新聞ニュースによりますと、特捜部は米国との捜査共助を検討してるとか。特捜部はまだ幕引きを決めているわけではなさそうに思われます。まだまだ事件の大きさが把握できないですね。来年の動きもちょっと目が離せないですし、今の時点で「オリンパス事件とは」などと締めくくれないまま年を越すことになりました。

12月 31, 2011 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年12月20日 (火)

続編・オリンパスの買収監査と法務部の役割について

昨日のエントリーには、たいへん多くのコメントやメールをいただき、ありがとうございました。コメント欄にて、ChuckさんやJFKさんがお書きになっているとおり、法務部のM&A案件における役割は、各社各様であることが、ほんの少しですが理解できました。メールを頂戴した方の会社などは、そこそこ大きな企業であるにもかかわらず、総務部や経理部が法務案件を担当していらっしゃるようで、「法務部のお仕事」を一括りで語れないところもあるかもしれません。(そういえば「ろじゃあさん」のブログでも「十人十色、法務部いろいろ」なるシリーズがありましたっけ・・・(^^  )結局のところ、各社の営業戦略があり、その戦略の一環として法務部の位置付けが各社で異なる・・・というところでしょうか。

ところで、中央経済社の雑誌「ビジネス法務」2012年1月号の特集が 「どうすれば法務部はM&Aで活躍できる?」 というものでして、その特集の中で語られている須崎將人氏(ソフトバンク社法務部長-以前、当ブログにもコメントをいただきました)のお話『法務部はM&Aのコーディネターとなれ』(24頁以下)がとても印象的でした。

「強い法務部」を目指しておられる須崎氏によれば、法務部は自社M&Aの構想段階から関与すべき、とされ、これは法務部業務の大原則である、と述べておられます。大枠において社内でコンセンサスをとったうえで、法務部は交渉の前面にいつでも出られるようにすることが肝要とされています。おもしろいのは、海外企業の場合は、法務部や弁護士が前面に出てくるので議論の相手としてはやりやすいのだが、日本企業同士の場合には、なかなか法務部が前面に出てこないので逆に自分たちの立ち位置に困ってしまうことがある、とのこと。

『向こうが一歩下がっているのに、こちら側が前面に出るのもバランス的に悪いというか、結構やりにくいですね』

またソフトバンク社の法務部門では、M&Aに関するあらゆるリスクを検討するとのが慣例とのこと。こういったソフトバンク社のように、M&Aが恒常的な法務部案件になっているケース、会社規模が非常に大きい場合には、弁護士が中心的な役割はを担っているケースでも、法務部はかなり前面に出て活躍するようです。したがいまして、今回のオリンパス第三者委員会報告書で記載された内容を肯定する立場になりそうな気がします。しかし、須崎氏が国内の交渉相手企業の例で語っておられるように、M&A案件がきわめてイレギュラーな業務とされる企業の法務部からすれば、経営執行部と外部専門家でほとんどの内容が固められてしまって、法務部の審査、というものが占める割合はかなり低いものになるのかもしれません。

ところで、市場関係者の方より、本エントリーに関する意見を、メールにて頂戴しましたが、とても重要なポイントを突いているように思えましたので、下記のとおりご紹介させていただきます。

さて、貴ブログを拝見しましたので、O社など企業買収に絡む法務部の役割と実情について、私見をコメント差し上げます。

○法律適合性とソロバン勘定の間

・一般的に法務部の社員の場合、自分の役割は違法性の確認のみ…という割り切りが強く、事業判断への口出しや経営面などソロバン勘定の世界には興味を示さない方が多いというイメージがあります。

○法務部の事前関与(企業買収の神格化の悪影響)

・過去、野村証券やカブドットコム証券のようにインサイダー取引の舞台として企業買収や重要情報の社内共有問題についてに光があたったことから、多くの企業にでは、企業買収の検討実施に当たり、専門部署で極秘に進める傾向が強まり、関連部門との情報共有化は軽視される傾向にあります。もちろん、オリンパスの場合は、意図的にディール関係者を絞っていたのだと思いますが、一般的には自社の企業買収について、法務部も含めて関連しそうな部門は「情報管理」という錦の御旗のもとに関与できていないと思います。

○法務部の事後関与

・さすがに契約書について事実上、関係者が合意した後、押印手続きに先立って法務部がチェックする場面があるのが通例だと思います。しかし、複雑な交渉を重ねた結果の成果である合意条件について、決定的な法律面での瑕疵がない限りにおいては、法務部としては内容を精査せず、承認するのだと思います。

このあたりはJFKさんのご指摘に近いところがあるかもしれません。あまり大きな責任が課せられても(他にも仕事を抱えているので)困ってしまう・・・という意識が(社員として)存在するのでは、と。

・たとえ法務部が「本件を精査したいから、少々時間を欲しい。」と主張したところで重要情報の速やかな開示と言う定義名分には勝てず、「いついつまでに公表し記者会見する予定なのですぐに確認してください。」と求められ、十分な時間も与えられないケースが多いと思います。

・さらには、MAで実績のある法律事務所にアドバイザーを依頼している場合などについては社内的に法務部には何も期待されないでしょう。もし、何か主張したとしても「大手法律事務所の○○先生が問題ないと言っている件について、何を言うのか!」と一蹴されれば終わりです。

○報告書「独立した立場でその内容を検討すべき」について

・金銭面でのシガラミの少ない第三者委員会でさえも、独立性の確保が難しい中、社内の一部門である法務部に独立性を求めると言うのはむずかしいのではないでしょうか。

どうもありがとうございました<m(__)m>。まぁ、事前審査は困難であったとしても、やはり事後的には問題案件では?といった意識を法務部の方々も持っておられたのではないか・・・という疑問は残るような気もします。また、オリンパスの件では、もしも・・・の話ではありますが、監査役会が法務部に相談していたらどうなっていただろうか・・・というところでありました。ホントに監査役会から法律審査を要望されたり、意見交換を求められていた場合、法務部は真正面から対応していたでしょうかね?

法務部の「あるべき」論と現実の姿には若干の差があるような印象を持ちました。以前、ある会社でコンプライアンス・ハンドブックを改訂する作業のお手伝いをしましたが、そのときに社内政治力を見事に発揮して完成にこぎつけた法務部長さんがいらっしゃいました。この「あるべき」論に近い姿の法務部を形成するにあたり、こういった社内政治力も必要になるのかもしれませんね。

12月 20, 2011 商事系 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年12月19日 (月)

オリンパスの買収監査と社内法務部の役割について

読売新聞WEB(中央オンライン)教養講座にて、大杉謙一教授(中央大学法科大学院)が「会社法で企業不祥事は防げるか」と題する論稿を出されており、当ブログをご紹介いただいております。先日の日経新聞「経済教室」の論稿に続き、大杉先生の建設的なご意見が書かれておりますので、今後の意見形成の参考にさせていただきたいと思います。また、久々の更新となりました活字フェチ弁護士さんのブログ記事も「おお、このフレーズ、どっかで使いたくなる」と思える内容満載でして、こちらも参考になります。

私自身は、まだ(執拗に)12月6日リリースに係るオリンパス第三者委員会報告書を眺めております。いろいろな箇所に過剰反応してしまい(笑)、遅々として進みません。社外協力者やモニタリング不全の中心とされる監査役会、監査法人に焦点があてられることの多い当報告書でありますが、委員より、オリンパス社の法務部の対応にも「問題があった」と指摘されていることは、あまり話題になっておりません(報告書158頁。このあたりは、一般の方にはあまり関心が高い部分ではない、ということなのでしょうか)。

オリンパス社による国内3社及びジャイラス社の買収(2008年)にあたっては、本来オリンパス社の法務部が主導して買収監査を行うべきであったところ、これが全く実施されなかったとされています。オリンパス社の法務部の業務内容は、業務執行行為の適法性の検討や、契約書の内容検討、ということであるにもかかわらず、監査役会と連動して調査・検討が行われなかったのは「監査役会の対応の問題点と並び」、法務部の対応についても問題があったといわざるをえない、とのこと。

私は社内弁護士の経験もありませんし、法務部で仕事をしたこともありませんので、法務部担当社員として、どれほど独立した地位で職務を遂行できるのか、その実務感覚は、あまり存じ上げません。しかしこの報告書では、社内法務部は、社内で買収を主導した部署から「独立した立場で、その内容を十分に検討すべき」とされており、そのような検討がされなかったことを問題視しており、なるほど、法務部とは独立した立場からの意見表明が求められているのか・・・・・と(多少疑問は残るものの)いちおう納得いたしました(内部監査担当者と同じような感覚、と思ってよろしいのでしょうか)。

しかし、この国内3社の買収、ジャイラス社の買収については、監査法人も疑義を呈するほど金額も大きいようですから、法務部の方々が買収の事実をまったく知らなかった、ということはないと思います。たとえ事前に報告されていなかったとしても、事後的には把握しているはずです。そうしますと、法務部の方々も、監査法人と同様に「ちょっとあまり触れてはいけない案件、取締役案件みたいなものがある」といった意識は持っていた可能性があります。

今回のオリンパス社の社内法務部の対応(つまり企業買収案件について、契約書も審査せず、また取締役会の意思決定過程の適法性、買収金額の妥当性も審査しなかったこと)は、一般の企業の法務担当者の方々からみて「ごく一般的に起こりうるものであり、やむをえない」と判断される程度なのか、それとも「オリンパス社の特殊事情によるものであり、到底わが社では考えられない」と判断されるものか、そのあたりを法務部の方にぜひ、お聞きしてみたいところです。金商法というよりも、会社法上の内部統制に関連するものであるため、少し興味を抱いた次第です。

12月 19, 2011 商事系 | | コメント (9) | トラックバック (0)

2011年12月12日 (月)

オリンパス社の全社的内部統制と「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」

(13日未明 たいへん多くの方にお読みいただき、また反響も大きかったようで、どうもありがとうございます。少しだけ末尾に追記いたしました)

週末、少しずつではありますがオリンパス事件の第三者委員会報告書を読み始めておりました。今週、オリンパス社では過年度決算も訂正されるようですが、この第三者委員会報告書を読む限り、同委員会は、J-SOX(内部統制報告制度)における全社統制の評価において、かなりハイレベルなリスク評価を要求しているように思いました。今後他社において有価証券虚偽記載事件が発生した場合、この報告書が示したレベルの全社統制評価が行われないかぎり、財務報告内部統制において構築義務違反が問われる、ということも考えられますね。本来、文書提出命令によって開示されるべき、いわゆる「三点セット」の文書も精査されておりますし、なんといっても、オリンパス社は形式上はガバナンスもきちんと構成され、また財務報告に係る内部統制も、なんら問題なく有効と評価されてきたわけであります。この第三者委員会報告書が比較的高く評価されているわけですから、今後は粉飾決算事件における取締役や監査役の責任追及訴訟等において、当該報告書は格好の引用資料として活用されることになりそうです。

この報告書でも述べられ、また経済団体や日本監査役協会でもコメントが出されておりますが、「オリンパス事件の教訓は、形式的なガバナンスの仕組みよりも、むしろ取締役や監査役の倫理感、使命感やその職責を担う覚悟の問題」であり、これが最も重要である、とのこと。とくに本報告書では本件事案発生の原因分析のなかで、オリンパス社の場合は会社トップによって不正が行われることを想定したリスク管理体制がとられていなかったことに大きな問題があったとされています(報告書179頁)。「経営中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染され、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成ともいうべき状態」と表現されております。

たしかに報告書の事実認定部分を読み進めておりますと「これはたしかにひどいなぁ」といった感想を持つところも多々あるわけですが、これを「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」と言い切って、役員たるもの、高貴な倫理感のもと、「悪いことは悪い」と堂々と言わなければならない・・・というのも、とても現実離れしたものであるような印象を抱きました。そもそも「悪い意味でのサラリーマン根性」が備わっていたほうが上場会社の役員になれる確率が高いのか、低いのか、仮に高いとして、その後役員になったとたんに「役員としての倫理感」や覚悟が備わるようなものなのか、そのあたりが検証されなければ、私など気が小さいものですから、およそ「集大成」などと言い切れないなぁと。

粉飾決算が起きてしまった会社の役員だった者は運が悪かった・・・・というのと、あまり意味が変わらないような気がします。オリンパス社の元社長は「悪い」と堂々と言ったがために解職され、それだけでなく、名誉棄損や秘密漏えいによる損害賠償請求訴訟を提起する、とまで会社から公言されたわけです。この元社長はまだ、有名な監査法人の支援を受けて、「ほぼ間違いなく不正がある」との証拠を握ったから堂々と「悪い」と言えたのです。ましてや、普通の取締役や監査役が、それほど多額の報酬も専門家に払えないまま「たぶん悪いことが起きているけど、間違っていたらどうしよう」といった心理状態で「悪いことは悪い」と堂々と言えるでしょうか?それを言ったら生活ができなくなるばかりか、会社から損害賠償裁判を提起される、というのでは、どんなに高貴な倫理感をもって、どれだけ財務や法務に精通した者であったとしても、声を上げるのは無理です。「自分ひとりの意見で経営の意思決定を遅らせてしまうことを回避することこそ倫理感に基づく行動ではないか」と考える方もおられると思います。「それでもモノを言わねばならない」と言われるのであれば、今後法改正が予想されている社外取締役など、だれも怖くてできないと思います(責任限定契約の存在、D&O保険の存在、といった次元の話ではないと考えます)。

取締役の資質や倫理感、覚悟、というのはもっともだとは思いますが、それらが取締役や監査役に備わっていることと、「経営トップにモノが言える」こととはダイレクトには結び付かないわけでして、その間を結ぶ「何か」を試行錯誤しなければ問題解決にはならないと思います。モノを言わなければ高額の賠償責任を負わされる、というのもひとつの考え方ではありますが、それは社外役員制度導入の機運や、我が国の業務執行取締役中心の取締役会構成の現実(他の取締役の担当分野には関心をもたない)とは合致しないのではないでしょうか。

公益通報者保護法は労働法制のひとつであるため、取締役や監査役が保護されるわけではありませんが、やはり秘密の暴露が許容される要件を検討したり(たとえば目的の正当性、真実と信ずるについて相当な理由があること、証拠を持ち出すことについて不正競争防止法の適用がないこと、不正指摘と解職との間に時間的近接性ある場合には、解職が権利濫用となる等)、「不正」を「不正のおそれ」と広く解したり、会社の利益を守ることを目的とした緊急避難の法理を適用する等、「モノを言える環境つくり」を検討すべきではないでしょうか。

不正と推定される行為や不正調査を開始する要件などを社内規則によって形成していく、ということも考えられます。もちろん、組織によってはそんな簡単に解決するものではないといわれそうですが、この「役員の倫理感」と「現実に物を言える」ことを結び付ける何かを思考しなければ、またオリンパスと同じような事件が発覚して、同じような報告書が作られる・・・という繰り返しに終わってしまうのではないかと危惧しております。

(追記)本エントリーをお読みいただいた常連のgo2cさんのブログにて、かなりスルドイご意見が書かれております。併せてご参照いただければ、と。

12月 12, 2011 商事系 | | コメント (10) | トラックバック (1)

2011年11月25日 (金)

オリンパス事件も社員の内部告発が発端だった

今朝(11月25日)の朝日新聞朝刊に掲載されていたウッドフォード氏による会見記事を読み、はじめて「オリンパス事件も勇気ある社員の内部告発が発端だった」ことを知りました(正確には雑誌FACTA誌の情報源となった社員・・・とあります)。一昨日のエントリーにも書きましたが、経営者関与の不正が経営者のみで完結することはなく、そこには必ず苦悩する一般社員の姿があります。会員制経済誌に情報を提供したのがオリンパスの一般社員であり、ウッドフォード氏はこの社員を最も尊敬に値する、と述べたそうであります。

結局のところ、大王製紙事件と同様、オリンパス事件も社員による内部通報・内部告発が発端ということになりますが、そう考えますと、今年8月に高裁逆転判決が出た「オリンパス配転命令無効確認事件」が、なんらかの影響を与えたことも否定できないような気がしてきました。内部告発は「いきなり外へ」向かうことことは少ないので、ひょっとしたらオリンパス社内でも特定されている可能性もあるかとは思いますが。そのあたりが心配です。

企業パフォーマンス向上のためのガバナンス改革、ということで会社法が改正されるのであればそれは結構なことでありますが、企業不祥事の予防・早期発見ということを目的として改正されるのであれば、私はガバナンス改革と同時に、内部統制の仕組みも構築しなければ目的を達成できない、と認識するところであります。

11月 25, 2011 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年11月15日 (火)

オリンパス元役員の一言と役員間における「異常な兆候」の共有

10月28日にBDTI(公益社団法人会社役員育成機構)主催のセミナーにて、ダスキン事件を題材に、「社外役員のひとこと」と取締役の善管注意義務についてお話いたしました。違法添加物が混入した肉まんを売り切ってしまった、という不祥事に関する中間報告書が役員会に提出された際、社外取締役のおひとりが代表取締役らに対して「今すぐに不祥事を公表すべきだ」と進言したのでありますが、結局何も決定せず、そのまま放置していました。裁判所(大阪高裁)はこの状況について、「このような社外取締役の進言にもかかわらず、何もしないということは、消極的に隠ぺいすると決定したに等しい」と判断しております。

(連日、この話題ばかりで恐縮ですが)本日(11月14日)のオリンパス事件に関するNHKの報道によりますと、国内3社の買収価格が異常に高いのではないか、と当時の取締役のおひとり(常務取締役)が疑義を呈し、他の役員も同調して「おかしいのではないか」との声が上がったそうです。しかし、「これらの企業の将来価値は非常に大きなものだ」との意見が強く、結局のところは強くは反対できず、買収に賛成してしまったとのこと。なるほど、例の監査役会による第三者委員会設置の決定は、最初から出来レースだった、というものではなく、実際に取締役会で疑義を呈する取締役が何名がいたから・・・・ということだったのかもしれませんね。

しかしそうなりますと、つぎに「異常な兆候」理論が問題になるかと。取締役の監視義務の問題なのか、経営判断の前提となる事実認識の不注意に関する問題なのかはまだ整理できておりませんが、いずれにしましても当時の役員の方々から疑問の声が上がったということは、当時の取締役、監査役の人たちのなかでも「異常な兆候」が共有されていたことになります。「異常な兆候」に触れた役員は、たとえその「兆候」から損失隠しの事実を知ることが困難だとしても、役員の行為規範として、自ら調査する、専門家の意見を聞くなどして、その異常の原因を発見する努力を行う義務があるのではないかと思われます。なかでも、そういった経営判断に疑義が呈された役員会において、当時3名いらっしゃった社外取締役の方々が、どういった意見を述べられたのか、ただ黙っておられたのか、とても興味があるところです。

さて、社外取締役に関連する話題でありますが、私もフォーラムに参加しております上記BDTIにおきまして、11月28日、第4回のセミナーが開催されます。このところ、私も非常に関心のあるテーマが続いておりますが、今回は「日本企業の主要な投資家と議決権行使~ISSの考え方、背景、現状、これからの方向性」と題するものでして、議決権助言会社の基本的な考え方を知るうえで貴重な機会ではないかと思います。WEBから引用しますと、

内外の機関投資家は、背後にいる出資者の利害を考える責務があり、株式投資に伴う議決権の適切な行使は、その重要な要素となっています。 今年の株主総会での議決権行使の結果をみると社外取締役・社外監査役の独立性を求める声が強くなっていますが、それにはこうした変化が背景にあると考えられます。しかし、海外機関投資家のすべてが日本企業のコーポレートガバナンスや株主総会議案、役員の構成、報酬などについて詳細な知識があるとは限りませんし、分析や意見形成に使える時間は限られています。このため、海外機関投資家は議決権行使のアドバイスを専門とする会社の助言を参考とすることが一般的になっています。
このセミナーではISSにて日本企業の株主総会議案の調査を統括する石田猛行氏をお招きしISS社の議決権行使についての基本的な考え方、今年の株主総会の結果を踏まえた現状での判断、そして今後の基準や方針変更の方向性についてお話いただきます。
ISS(インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ株式会社)は、この分野で世界最大手で、最も高く信頼される助言会社の一つです。数多くの海外機関投資家がその助言を重視して総会議案への判断を行うといわれています。

とのこと。やはり社外取締役の独立性についてはISSさんも関心が高いものと思われますので、上手な株主対応を検討しておられる企業の方々には参考になるところが多いかと。また、東証からも上場部長さんが講演される予定です(場所は六本木ヒルズ内にあるTMI法律事務所ということだそうです)議決権助言会社の存在感が高まりつつある今、非常にタイムリーな話題かと思いますので、ぜひ多数の皆様にご参加いただければ、と思います。

11月 15, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月14日 (月)

オリンパス社は上場廃止を免れるのか?(あくまでも個人的意見)

オリンパス事件につきましては、先週来、多くの方にコメントをいただいております。お寄せいただいているコメントの内容でもおわかりのとおり、オリンパス事件の関心は「オリンパス社の今後の問題」と「損失隠しに関与した方々の責任問題」に分かれておりまして、本ブログにお越しの皆様方は、どちらかといいますと後者のほうに関心が高いようです。ただ、週末あたりから気になるのは行政当局が(第三者委員会の報告結果が前提ですが)、有価証券報告書虚偽記載の件については、過去の決算訂正をオリンパス社が行うことにより、刑事告発はせずに課徴金処分によって対応する方向で検討を始めた、との報道です。これはオリンパス社の上場廃止問題にも関係するかもしれませんので、オリンパス社の今後の問題にとって重要な情報かと思われます。

いつもブログを拝読しておりますzaimaxさんは、オリンパス社が上場廃止にならない、という結論には絶対に賛成できないとされ、「O社の上場廃止は社会的影響が大きいとして会社が救済され、一般株主だけは自己責任ということでしょうか?」と疑問を呈しておられます。

私個人の意見としても、今回のオリンパスの件は虚偽記載の程度が重大であり、間違いなく上場廃止になるのでは、と予想しております。過去の虚偽記載の程度もさることながら、社長反乱後のオリンパス社の開示態度はひどいの一言です。社長解任を「外国人社長には日本文化を理解できなかった」と一蹴し、海外のメディアに社長が反論をすると、その反論に必要最小限度の情報開示で反論し、さらには社長の主張を紹介する者に対しては「憶測で不確かな情報を流布する者には名誉棄損で法的措置も辞さない」と恫喝、最終的に逃げられないとみるや、損失隠しがあったと謝罪をして情報を開示という有様。私にはとても自浄能力のある企業には思えません。

つまり損失隠しを主導していた3名の方以外は「損失隠しは知らなかった」のが事実だとしても、会社を代表すべき社長が解職されたときの解職理由に関する情報開示(あれで十分と考えたのか?)、社長が内部告発をしたときの情報開示の在り方(2年前の監査役意見だけに頼りっきりで、新たに何も調査せずに開示してよいのか?)、株主をはじめオリンパス社のステークホルダーが情報を共有することを単純に恫喝によって妨害するという対応に、だれも異を唱えなかったわけでして、全社的内部統制が今後しっかり構築されたとしても、再び開示統制が機能不全に陥るであろうと予想されます。これは関係者の刑事処分や過去の決算訂正だけで再発が防止できるわけではなく、すなわちまた投資家・株主、銀行等に迷惑をかける可能性が高いことを示しているとしか言いようがないと思われます。

そもそも「組織の隠ぺい体質」なる開示統制の機能不全は、ダスキン事件のように裁判等によって表面化しなければ評価はできないのですから、原則として上場審査の対象にはならないはずです。しかし今回のオリンパス社のように、堂々と世間に「組織としての隠ぺい体質」示してしまった以上、社長反乱後の一連のオリンパス社の経営判断について、廃止すべきかどうかの審査の対象からはずす、ということは困難ではないでしょうか。むしろ、「ここまで悪質なことをやっても上場廃止にはならないのか。それなら今後はオリンパス社の件を、仮処分事件で廃止決定を争うときの有力な証拠にしよう」と考える上場会社が出てきてもおかしくはないと思われます。

以上が個人的な意見ですが、少し冷静に考えまして、もし(報道されているとおり)私の個人的な予想に反して、上場が維持される結果となるのであれば、どういった理由で維持されるのでしょうか?私は利害関係者ではありませんので、こちらも客観的に検討しておこうかと。

オリンパス社は自浄能力が発揮されたのか?

もう少し大局的に全体をみた場合、オリンパス社は元社長の反乱があってこそ、今回の不正事件が発覚したわけですから、この「元社長の反乱」自体、内部からの自浄作用とみるべきではないか。過去に上場廃止となった事案、たとえばカネボウ事件、ライブドア事件にしても、産業再生機構の調査や外部からの調査によって粉飾が明らかになったわけでして、そのあたりはオリンパス事件とは少し異なるものと思われます。大きな目でとらえるならば、今回の件も自浄作用が機能したものと評価できるのかもしれません。

また、第三者委員会による調査を積極的に導入し、その報告結果を尊重して自主的に過去の決算訂正を行う、という対応が「自浄作用」と評価されるのかもしれません。そもそも第三者委員会への期待というのは、世間的には「行政当局による不正摘発」に代わるもの、つまり事後規制への代替を果たすと思われがちですが、そうではありません。むしろ行政当局のもつ事前規制(投資家・株主が損害を被る危険のある状況を迅速に取り除くための規制)の趣旨を代替するものであり、企業が自主的に間違った開示を正すために(第三者委員会が)果たす役割こそ期待が寄せられるところであります。したがいまして、第三者委員会の調査に企業が協力し、最終的に間違いを認めて速やかな開示情報の訂正を行えば、これは「自浄能力が発揮された」と評価できることとなり、この対応を行政当局も見守ることになります。

開示統制システムの改善が明らかであること

たとえば損失隠しを主導した関係者への刑事処分(偽計取引として金商法違反の刑事責任が問われる)や、競争入札から法令違反企業として排除される、といった企業としのオリンパス社が社会的な制裁を受けることも、上場廃止を免れるための条件になるかもしれません。しかし、もっと大切なことは「不都合な情報を隠ぺいする組織風土・企業体質が一掃された」といった事情が認められることが必要、ということであります。たとえば本件においては、①オリンパス社の取締役会が、損失隠しを主導した者への刑事告訴を決めること、②(主導した)元役員らに対して会社として断固とした態度で損害賠償請求訴訟を提訴すること、③いったん解職した元社長を再びボードに復帰させること、④今回の損失隠しのスキームに協力した者、法人等の情報をすべて開示すること(これは第三者委員会報告で明らかになるかもしれませんが)などを実現することで、はじめて「隠ぺい体質からの脱却の兆し」が国内外を通じて理解されるのかもしれません。

上場維持という結論となりますと、どう説明しても海外の投資家からの不信感はなかなか拭えないものと思いますが、それは企業統治の抜本的な改革を実現する方向で解決する以外にはないのでは・・・・(このあたりは、まだどうも整理がついておりませんが・・・・)

そもそも上場を廃止するか否かは取引所が判断することであり、行政当局が刑事責任を追及しない以上は、単純に廃止事案とはしない、それ以上の理由は不要ということも結論としてはあるかもしれません。しかし、コンプライアンスの視点からすれば、いったん開示統制の機能不全を露呈した以上、二度と同じことを繰り返さないことを世間的に示すことが必要ではないでしょうか。そういった不退転の決意が「形として見える」ことで、ひょっとすると上場廃止が免れることになるのかも・・・・・と思う次第であります。

11月 14, 2011 商事系 | | コメント (10) | トラックバック (0)

2011年11月11日 (金)

オリンパス・大王製紙事件-地味ですが重要な金商法193条の3

一昨日あたりから、行政当局がオリンパス会計不正疑惑事件について、国内3社の買収、ジャイラス社の買収に関する会計処理が行われた時期に監査を担当していた監査法人へのヒアリングを開始した、と報じられております。

当時の監査法人さんは、とりわけオリンパス社による国内3社の買収価格について問題視しておられ、疑義があったからこそ、監査役会が(2009年5月時点で)第三者調査委員会に経営判断の合理性について調査依頼をかけたものと思います。

監査法人としては、「この買収価格、FA報酬額はおかしいのでは?」と問題視していたわけで、監査役会にも(おそらく)疑義を呈したわけですから、そこそこ監査法人は誠意をもって仕事をしていたのではないのか?と思いますし、それ以上、独自に不正を発見することなど困難ではないか、と考えられます。

しかし2008年4月以降に開始する事業年度から、監査証明業務を担当する監査法人・公認会計士さんには金融商品取引法193条3が適用されますので、財務諸表の虚偽記載につながるほどの重大な不正の「おそれ」がある場合には、まず監査対象会社の監査役さんに書面で「不正・違法行為が疑われるために、善処されたい」との通知を出し、監査役さんが何もしない、または対応はしたけども、不正・違法行為のおそれがなくならない場合には当局にその旨を通知しなければなりません。これを怠りますと、過料のペナルティとなります。つまり「守秘義務があるので回答できない」では通用しないことになります。この規定の重要性は、おそらく大王製紙事件でも今後問題となってくると思われます。地味ですが、監査役と監査法人との連係の必要性や、会計不正事件における監査法人の守秘義務解除という問題に深く関わるからであります。

今回のオリンパスの件では、おそらく監査法人さんからオリンパスの監査役さんに対して、内容証明郵便による金商法193条の3に基づく通知はなされていないでしょうし、また当然のことながら金融庁に対して不正のおそれに関する届出もされていないと思われます。カネボウ事件をきっかけに(2007年の公認会計士法の改正とともに)新設された条文であるにもかかわらず、なぜ、193条の3による対応をとらなかったのか、そのあたりは行政当局としても、大いに関心を寄せているはずではないでしょうか。

なお、少々疑問を抱いたのは、2年前にオリンパス社の監査役会が依頼した第三者調査委員会の報告内容は、オリンパス社の企業買収に関する価格決定の背景事情、経緯をもとに、高額な買収がなされた経営判断の合理性について、であります。つまりすでに存在する資料をもとに、経営判断の合理性という法的評価を専門家に求めたわけでして、そのような法的評価を監査法人が知ったとしても、(監査法人は法律の専門家ではありませんので)あまり意味がないように思いました。むしろ監査法人が監査役に求めるのは、会計処理からみて「不正のおそれ」があるので、不正の事実があるかどうか調査してほしい、ということだと思います。つまり監査役が取締役の職務執行を監視検証するとしても、取締役会における意思形成過程を問題とするのではなく、その前提となる取締役の行動におかしな点があったかどうか、ということであり、第三者に調査を依頼するのであれば、まさに今回のウッドフォード氏の要求のように「こんな報酬額など普通はありえないから、ジャイラス社側に直接ヒアリングをして、このアドバイザー会社のだれが直接ジャイラス社と交渉したのか、確認してほしい」とすればよいはずです。消去法の理屈で心証を形成するのは監査法人さんがもっとも得意とするところですので、そういったいくつかの調査結果を集めて「不正のおそれ」を疑わせる事実は存在しない、と調査結果を出すことが一番193条の3の趣旨に合致するのではないかと思います。

そのような「不正のおそれ」が低減されるような事実が判明すれば格別、単に経営判断に合理性がないとは言えない、といった法的評価だけを信用して、「会社は善処された」と判断されたのでしょうか。そのことで監査法人から適正意見が出た、ということであれば、この金商法193条の3が施行される前であれば格別、施行後である2009年の段階ではちょっと疑問に感じるところであります。

11月 11, 2011 商事系 | | コメント (11) | トラックバック (0)

2011年11月 9日 (水)

「他者をかばう美徳」とオリンパス事件の進展

(11月9日夕方 追記あり)

オリンパス社の元社長ウッドフォード氏は1960年生まれ(私と同い年)ですから、もうかれこれ30年にわたりオリンパス社に奉公し、オリンパス社をこよなく愛し、そしてオリンパス社を誇りとして生きてこられたのでしょうね。今日のインタビューでも「これからの従業員、株主のことを思うと、私が復帰するとかそんな問題よりも、早くオリンパス社が信頼を回復して再生できる態勢になることを願う」とコメントしておられます。憎むべきは(自分を解職へと追いやった)役員の面々であって、会社ではないということかと。

そのウッドフォード氏が現社長の謝罪記者会見に対して「(損失先送りを画策した)3人の責任?とんでもない!ボード(取締役会)を構成する全員が辞任しなければならないはずだ!」と強く主張されています。再生のための是非は別として、たしかに現経営陣は元社長からそのように言われてもしかたないように思います。元社長を解職したのは特定の役員ではなく取締役会です。代表取締役を解職する、ということは上場会社にとって由々しき問題でありますので、なにゆえ社長を解職するのか、その解職理由が明確に取締役会で示されなければ審議などできません。ろくに解職理由も調査することなく解任に賛成した、ということはそれ自体が非難に値するかと。

ただ「辞任しなければならないほど重大な責任」が3人を除く他の役員に存在するか・・・・といいますと、私の正直な気持ちとしては、ちょっとなんとも今の段階では申し上げられないところであります。思い悩むところが大きいです。

解職を決めた2日前に国内3社の買収問題、ジャイラス社買収問題に関するPWCの中間報告書が元社長の手元に届いており、そこには英語版とは別に和訳版もあったようです。日本語版がある、ということは元社長が各取締役に報告結果を示すことを前提として作成されているのですから、他の取締役の方々が「報告書は見ていない」ということは考えにくいと思われます。ただ実際には、元社長欠席のまま取締役会が開催されたそうですが、「もう2年も前に、第三者委員会調査で『適法』とされたんだから、何も今頃蒸し返さなくても・・・・」といった協議だった可能性は否めません。

もちろん、2009年に監査役会がわざわざ第三者委員会を設置して、企業買収問題について外部第三者の意見を求めたこと自体、「取引の異常性」が当時の取締役会で問題となっていたことを示しており、さらに当時の監査法人もジャイラス社のFA報酬を問題視していたようなので、「異常な兆候」が存在したことは明らかです。したがって異常な兆候があるにもかかわらず、他の取締役が何等問題意識をもっていなかったとは到底考えられないところです。しかし、2年前の第三者委員会報告書が「著しく不合理な経営判断とはいえない」との結論を出し、この結論にしたがって、当時の監査役会が上記買収問題に「お墨付き」を与えてしまった以上、今回のPWCの報告書を元社長から出されても「もう終わった話だから良いではないか。なぜそこまでこだわるのか」と他の役員らが感じても不思議はないように思われます。

かりに現社長が本日述べておられたように「昨日、元副社長から(損失先送りの処理として行ったことを)聞いて初めて知った」というのが真実だとするならば、まったく損失先送りを実行していた3名以外の取締役は、なにも知らずに元社長の解職に賛同した、ということになります。もちろん、これも企業統治や法的責任を考える上で、たいへんな事態となってしまいますが、「知っていたら、私たちはすぐにでも元社長と同じく解職していただろう」と言われてしまいそうな気もします。つまり我々がボードに残っても、自浄能力はきちんとありますよ、と。今日の現社長の記者会見ストーリーは、かなりしたたかに構成されているなぁと感じたのは私だけでしょうかね?

本日の現社長記者会見に関するニュースを読みまして、まだまだオリンパス社は誰かを巧妙にかばっているのではないか・・といった感想を持ちました。九電やらせメール事件と同様、これからのオリンパス社の再生に向けて、他社(もしくは他の関係者)をかばうことが必要と判断したからであります。昨年ご紹介した「命燃やして」において、10年にわたり山一證券監査見逃し責任を追及された伊藤醇氏(公認会計士)は、その「はしがき」で山一證券の2500億円もの損失隠しがなぜ長年わからなかったのか、その背後に信託銀行、大口顧客、そして海外のアカウンティングファームによる強烈な監査妨害行為があったことを述べておられ、また著書の中でも、なんどもこれらの協力者なしには山一の損失隠しはありえなかったことを述べておられます。粉飾には協力者はつきものです。今回の件が記者会見で述べられたとおり粉飾決算に関連する事件ということであれば、そこには損失隠しに長年協力していた社内、社外の関係者が存在するはずであり、おそらく山一と同様、オリンパス社もこれをかばい続けるものと思います。

第三者委員会、行政当局、そして海外の調査機関等、これから一気に調査が進展することになると思います。損失隠しに中心的に関わった方々への制裁措置がとられれば世間やマスコミの関心も薄れ、一件落着となるかもしれません。しかし、それでは同様事件の再発防止やガバナンスへの海外の信頼回復にはほど遠いように思います。オリンパス社が今後の再生のためにかばい続けようとする関係者の責任追及にまで至るのかどうか、資金の流れの解明とともに、そのあたりを見守っていきたいと思います。

(9日夕方 追記)

上記エントリーを書いた時点では存じ上げませんでしたが、昨日(11月8日)発売の週刊朝日ではスクープとして「発端は経営者総ぐるみの損失隠し疑惑」なる記事が出ていたのですね。なるほど・・・この記事も、8日に企業側から損失隠しを公表するに至った要因になっているのかもしれません。毎度ながら、一度火がついたマスコミのおそろしさを、またまた垣間見た気がいたします。

11月 9, 2011 商事系 | | コメント (22) | トラックバック (0)

2011年11月 7日 (月)

大王・オリンパス事件の視点-春日電機事件を忘れてませんか?

この時期となりますと、日曜日は嫁さんと大和古寺巡りが恒例なのでありますが、今年は日曜日も仕事(涙)でして、少し疲れ気味です。日曜日の深夜というと、ときどき日経の独占スクープネタが楽しみでありますが、「東証、大証、来秋合併」とのこと(^^;

オリンパス元社長解職事件については、皆様本当にご関心が高いようでして、コメントをたくさんいただきながら、お返事もせず誠に申し訳ございません。いや、ほんとにみなさん、次から次へと時事ネタをフォローされており、私の方が参考にさせていただいております。

大王製紙事件もオリンパス事件も、そろそろガバナンスにも関心が集まりつつあるようですが、新聞記事や皆様方のブログ等を拝見しておりまして、ちょっと物足りない点がございます。当ブログで3年ほど前、あれだけ盛り上がった「春日電機事件」のことが、すっかり忘れ去られてしまっているのではないか・・・という点に一抹の寂しさを感じます。

大王製紙事件も、オリンパス事件も、「監査役がどうした」「監査法人がおかしいと指摘していたのではないか」「監査法人は知っていたのか」といった指摘や批判がよく話題に上るようになりましたが、「監査法人と監査役の連携」について、ほとんど触れられておりません。

春日電機事件は、会社を乗っ取った新社長が、自身がオーナーとなっている別会社に春日電機の資産を流出するわけですが、当時の監査法人が「どうもおかしい」と感じて、同社監査役と協議のすえ、金商法193条の3をもって監査役に「会社と対決せざるをえない状況」をお膳立てするわけです。

たとえ有事でなくても、J-SOX導入によって各社とも監査役と監査法人との連絡協議会の回数は増えており、なにかおかしいと感じることがあれば、臨時報告会を設けて対策協議を行うのが通例です。監査役から監査法人に連絡するときもあれば、監査法人が監査役に相談をもちかけることもあります。そのような実務はほとんど一般の方々には知られていないので、おそらくマスコミでも取り上げられないものと思われます。

期末に監査役が有価証券報告書を隅々まで見ていなかったとか、監査法人に不正発見義務はないとか、いろいろと言われておりますが、上場会社の「監査役と監査法人との連係・協調」に関する実務慣行からすれば共同責任の時代になったのではないかと。たとえ監査役が決算役員会で初めて有価証券報告書案を見たとしても、それまでに監査法人が問題視している点があれば、監査役に相談しているはずであります(つまり「見ていなかった」では済まない問題かと)。もし相談していないのであれば、金商法193条の3の規定が存在する以上、それこそ監査法人の怠慢であります。また、たしかに監査法人に不正を発見するまでの具体的な義務がないとしても、監査役から調査依頼や相談が持ちかけられた以上は、財務諸表・計算書類の信頼性に重大な影響を及ぼしかねない虚偽記載のおそれがあるかどうかを判断する必要があるはずです。監査法人と経営者において、その会計処理方針等で対立が生じ、監査法人が辞任するようなことでもあれば、それこそ「不正の兆候」を目の前にした監査役(監査役会)としては、喫緊に後任の監査法人と疑義の解消について協議を行う必要があるはずです。

監査法人の規模にもよるかもしれませんが、そこそこ大きな監査法人であれば、監査役との協議会もきちんと履行されるよう指導されているはずです。つまり監査役か監査法人かどっちかが「おかしい」と感じる点があれば、年間を通じて何度も情報交換を行う機会、経営陣に指摘する機会があるわけですから、実はそういった協議会で何が語られたのか、今回の大王製紙、オリンパスの件ではとても重要な点ではないかと。あの春日電機事件を契機に、これから監査役と監査法人との連係がとても重要性を帯びることになる、と思っておりましたし、昨年上場会社で何件がみられた監査役会による監査法人解任騒動などでも、そういった流れになってきたのかな・・・と感じておりましたが、今回の騒動では、あまりクローズアップされていないので、あえて個人的な意見でありますが、書かせていただきました。

11月 7, 2011 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年11月 1日 (火)

オリンパス大株主による取締役会議事録閲覧・謄写請求

オリンパス社の大株主であるサウスイースタン・アセットマネジメント社が、過去の企業買収時にオリンパス社がFAに支払った報酬額が異常に高額であるとして、過去の取締役会議事録の開示を求めている、とのこと。10月20日の時点で取締役会議事録の閲覧を求めたところ、オリンパス社側より拒否されたことから、サウス社としては法的な手続きによって閲覧等を求めることも検討していると報じられております(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。

いわゆる会社法371条に基づく(株主の)取締役会議事録等の閲覧・謄写請求権の行使に関するものでして、株主は原則としていつでも議事録等の閲覧・謄写を会社に請求できるわけですが、監査役設置会社の場合には(そもそも業務検査権限を有する機関である監査役が存在するわけですから)裁判所の許可を得た場合にのみ、株主は閲覧・謄写請求を行うことができます。つまりオリンパス社の場合には、監査役会設定会社ですから、株主が議事録等を閲覧したい場合には、裁判所の許可が必要ということになります。ただし、私が以前経験した事例では、裁判所の許可がなくても会社側が任意で開示することは可能ですので(その場合は申立の取下げで終了)、和解的終結ということもあります。

許可を求める株主側としては「株主なんだから取締役会議事録の閲覧を許可せよ」といった簡単な手続きで閲覧が認められるものではありません。会社側が開示を拒否した場合には、商事非訟事件として、株主は審問手続きのなかで具体的な「議事録閲覧・謄写」の必要性を疎明しなければなりませんし、会社側も取締役会議事録が開示されることで(企業秘密の毀損等)会社に著しい損害が生じることを疎明できれば開示は認められません。

そもそも元社長さんが不透明なFAへの報酬支払を問題化して解職されたこと、一定の情報開示後も、内外のマスコミがオリンパス社の企業統治に大きな疑問を投げかけていることからしますと、大株主は私的な利益を求めて、というよりも株主として取締役らの責任追及のための資料として取締役会議事録を閲覧・謄写請求を行う、といったところでしょうか。しかし、過去のFAに対する報酬支払の経過については、オリンパス社自身も「第三者委員会を設置して真実を解明したい」と述べているのでありまして、サウス社のほうも、27日付のニュースが報じているところでは、第三者委員会のメンバーを一名推薦した、ということであります。そもそも厳格な業務監査が期待できない場合に、株主の権利行使を認めるわけですから、権限行使の必要性が(株主側に)認められなければなりません。当面は(事実解明を第三者委員会に委ねる、とのことですから)「株主による閲覧・謄写を認めるべき必要性には乏しい」といったところではないかと。

問題は、このままオリンパス社が第三者委員会を設置できずに、もたもたしておりますと、いよいよオリンパス社と大株主との間で法的紛争が発生してしまう可能性がある、ということですし、取締役会における会議の内容次第では、裁判所による閲覧・謄写等の許可がおりる可能性も結構高いのではないでしょうか(あくまでも個人的な感想ですが)。

11月 1, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月26日 (水)

非上場子会社の粉飾決算と会社法改正の必要性

近鉄さんの100%子会社であるメディアート社(すでに解散)の長年の粉飾決算が発覚したのが昨年の2月でして、近鉄さんは、事件発覚後、企業集団内部統制の改革として、このメディアート社にも常勤監査役さんを設置したことを こちらのエントリーでご紹介いたしました。

そのメディアート社の元社長さんが本日(10月25日)、会社法違反(違法配当)容疑で逮捕された、と報じられております(たとえば時事通信ニュースはこちら)。以前ご紹介しました村井会計士の「会計ドレッシング」でも詳細に(物語調に)解説がなされている事件ですので、ご記憶のある方も多いのではないでしょうか。親会社から出向されたメディアート社の元社長さんが「恐怖政治」によって君臨し、赤字であるにもかかわらず黒字のようにみせかけ、長年違法に配当を出していた事件です(なお、粉飾の手口は比較的簡単なものです)。社員も元社長さんから命令されると、拒絶することができなかったそうですが、元社長さんもとくに私利私欲のために粉飾をしていたのではなく「かわいい部下たちに、ボーナスを支給してやりたかった」と述べていることが報じられておりました。

さて、このメディアート社ですが、今回はたまたま違法配当をしていたからこそ立件が可能だったわけですが、粉飾決算だけだったらどうなっていたんでしょうか?上場子会社ではありませんので、有価証券報告書虚偽記載罪は成立しませんし、会社財産が流出していたり、会社に損害が発生していない以上は会社法上の犯罪が成立することもないと思います。ちなみにメディアート事件に関する第三者委員会報告書では、金融機関への(粉飾した決算書を示しての)借入については詐欺罪が成立する可能性が示唆されておりますが、かなり成立は厳しいように思われます。非上場大会社でもなさそうですので(資本金1億、負債総額は不明)、会計監査人の設置が義務つけられていたものでもないようです。

上記第三者委員会報告書によりますと、メディアート社は近鉄さんにとって「重要子会社」でもなかったようでして、親会社の会計監査人も2年に一回程度の外部監査が行われていただけでした。しかし、ふたを開けてみますと、同社は平成14年ころから粉飾を繰り返し、最終的には近鉄さんは監理ポスト入りとなり、さらに財務報告内部統制は有効ではない、との評価結果を開示せざるをえない状況となったわけであります。事態を重く見た近鉄さんは、約50の子会社のうち、新たに12社(合計24社)に常勤監査役を設置して、企業集団としての内部統制システムの構築を図ることを決定しました。

このようなシステム強化策は近鉄さんのように非常に大きな会社であるから出来たと思いますし、またいくら常勤監査役さんを設置したとしても、最近の事例にもみられるとおり、期待どおりの不正予防、不正発見の実効性がどこまで上がるかは未知数であります。ましてや大王製紙さんのような事件が生じますと、子会社の常勤監査役など、とても怖くて誰も就任したがらないのでは?とも思えてきます。

現在審議中の会社法改正のなかでは取り上げられておりませんが、もうそろそろ会社法罰則の改正が必要な時期ではないでしょうか。会社法976条では、刑事罰ではなく過料(100万円以下金員支払を求める行政罰)として会社法違反行為が多数掲示されておりますが、そのなかには情報開示に虚偽ある場合等、けっこう重要と思われる関係者の違反行為も含まれているわけでして、先の第三者委員会報告書でも、行政責任としての「貸借対照表への虚偽記載罪」が成立する可能性が高いものとされています。金商法違反との仕分けに関する問題も整理する必要がありますが、せめて非上場会社の情報開示に関わる部分や大会社の会計監査人設置義務違反などは過料から刑事罰に「格上げ」しても良いのではないかと。重要な案件だけに絞ってでも、刑事訴追の可能性があるならば、メディアート社や林原社のような場合にもかなり抑止力が働くのではないかと思います。また、過料の場合は公益通報者保護法の対象にはなりませんが、刑事罰として規定されれば一般社員による告発も公益通報者保護法によって保護されることになりますので、親会社が早期に子会社の不正を発見できる可能性も高まるように思います。

なお、以前に林原社の件を取り上げたときにも言及いたしましたが、金融庁による金融機関の信用リスク管理態勢への検査のなかで、金融機関が融資先のガバナンス体制をチェックすることを重点項目とすることが有益ではないかと思われます。そこで、非上場会社の粉飾決算を予防し、とりわけ非上場大会社へのガバナンス、内部統制強化のためには、こういった金融監督の在り方と、会社法罰則の改正の組み合わせが最も効果的ではないかな・・・・・と考えております。

10月 26, 2011 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (1)

2011年10月18日 (火)

オリンパス解職騒動-社長による「内部告発」は事実の重みが違うのでは?

(18日お昼:追記あります)

昨夜に引き続き、オリンパス社の元社長解職騒動に関するエントリーですが、ウッドフォード氏(元社長)がオリンパス社の不明朗な報酬支払に疑惑を抱いたのは、FACTA誌が今年7月に掲載した記事によるもの、とのことであります。

ただ、本日(17日)のフィナンシャルタイムズによる新しいインタビュー記事によりますと、たしかに元社長さんが疑惑を抱いた発端は上記月刊誌の記事だとしても、その後元社長が独自の調査を進め、過去に監査を担当していたKPMG、E&Yからも、疑惑のM&Aにまつわる会計処理については限定付きの監査報告書が提出されていたことが判明したそうです。また、元社長が独自に依頼をしたPWCの調査結果についても、上記記事にありますとおり、問題点が指摘されております。そこで、元社長さんは、経営トップとして「内部告発」をされたそうであります(上記FT記事の表現より)。

昨日のエントリーと同じことを述べるようなものですが、この元社長さんが、軽々に会員制月刊誌の内容を信じ込んで、確たる証拠もなく経営陣に退任を迫ったのであればそれほどの問題ではないかもしれません。かつて、私のブログにコメントされた方のなかにも、おふたりほど、経済誌(雑誌)に某企業の会社ぐるみの不正疑惑を告発をして、当該不正が「独占スクープ」として掲載されましたが、企業側は完全に黙秘(無視)に徹し、他紙が追随することもなく、結局そのまま事件は闇の中に葬られてしまったことがあります。企業の一般社員の方々の内部告発は、匿名のままではなかなか企業を変えられるものではないことを(当時は)思い知らされました。

しかし、(FTの記事によれば)騒動の2週間前に、CEOたる立場となった元社長が、関係者に疑惑に関する質問をしても明確な回答が得られず、かえって社内に疑惑を深める報告書が存在することを発見し、そのうえで独自調査を行ったのでありますから、やはり一般社員の匿名による事実の指摘とは、その重みが相当に違うように感じます。社長と他の経営陣との内紛といえば、一昨年ころの富士通さんの件を思い出しますが、あの事件は社長さんのほうに不明瞭な疑惑が指摘されていたにもかかわらず、「事実を正確に開示しなかった」として会社側が東証さんから厳重注意を受けました。しかし今回不明瞭な疑惑が浮上しているのは社長さん側ではなく、むしろ会社側です。たとえ適時開示の対象事実ではなくても、社長さんの指摘する「事実」について、これをどう受け止めるのか、説明義務を果たさなければ、とうてい投資家や株主に対する信認を得られないと思うのですが。

現在のところ、東証さんは「とりあえず14日の会社側の記者発表を尊重する。なにか新たな動きがあれば会社側に説明を求める」とのスタンスだそうですが、「企業風土を理解してもらえなかった」といった「評価」のみを公表する会社側のスタンスだけでは、おそらく外国投資家からのガバナンスへの失望感だけが増幅されていくように感じます。

18日お昼:追記

katsuさんから教えていただきましたが、ニューヨークタイムス社がウッドフォード氏にインタビューしたところ、英国の不正捜査当局に、不正疑惑の関連資料を渡したとのことであります(ニューヨークタイムズ社のニュースはこちら)。そのなかに、ウッドフォード氏が会長に宛てた書簡もPDFで添付されております。この書簡についてはPWCの報告書の要旨も記載されていますが、NTの記事によると、この内容は全取締役が認識したうえで、ウッドフォード氏の解職が取締役会で決まった、とのこと。会社側は「社内事情をマスコミに漏らすことは守秘義務違反として法的措置も検討する」としていますが、どうなんでしょうか?東京の大手法律事務所の方々も動いておられるでしょうし、あまり法的な根拠をもってブログで述べることは控えますが、ごくごく一般人的な感覚でいえば、「独断専横な社長には困った」として解職されたわけですから、この「評価」が間違っていると考えれば「事実」をもって株主、投資家に伝えることが(株主、投資家の正しい「評価」のためにも)オリンパス社取締役としての善管注意義務を尽くすことになるのでは。とりわけこの騒動が発生する直前まで、アナリストさんへの説明では会社側のウッドフォード氏に対する評価は高いとされていたわけですから、「なんでこうなっちゃったの?」という真実の経過を株主が知りたがっていることは間違いないかと。

社内に不正疑惑の可能性があり、株主の損失を回避するためには、社内の守秘義務に反してでも事実を伝えることが必要なのでは・・・と思うのでありますが(たとえば会社法上も、解任議案が出された監査役さんは総会招集通知に自身の意見を掲載することができますし、また辞任に至った場合も含めて総会で意見を述べる機会が付与されているわけで)。不正の疑惑について、「不正があった」とマスコミに述べるのであれば法的にも問題かとは思いますが、自身が解職され、その会社側が報じた解職理由に誤りがあるということを主張するための根拠事実として「不正疑惑を告発したら、このようになった」と述べるのは(とくに不正があった、とまではマスコミに伝えていないわけですから)特に問題ないように思いますが、いかがでしょうかね?

10月 18, 2011 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2011年10月12日 (水)

非上場大会社の法令遵守態勢はどうすれば向上するか?

10月10日の日経朝刊「法務インサイド-傍聴席」にて、日本公認会計士協会会長の山崎氏が、非上場大会社に(会社法で義務付けられている)会計監査人をきちんと設置すべきである、と述べておられます。資本金5億円基準だけで調査しても、日本では会計監査人が設置されていない大会社が500社程度存在するとか。また、天竜川下りで痛ましい事故を発生させてしまった天浜鉄道(資本金6億3000万円)では、適法な取締役会が開催されていなかったようであります。取締役の代理出席が恒常化していたり、書面決議をもって取締役会開催に代えていたとのこと。こういったガバナンス不在の状況が安全管理に影響を及ぼしていたのではないか、と報じられています(ちなみに取締役会を適法に開催せずとも、会社法には罰則はございません)。

やはりこうやっていろいろな問題が報じられますと、上場企業のガバナンスと非上場大会社のガバナンスでは、法令遵守態勢においてかなり差があるように思えます。ただ、非上場大会社への会計監査人設置問題につきましては、会社側に設置に関するインセンティブが働きにくいためになかなか進まないようであります(会計監査人に報酬を毎年払うよりも、見つかったときにペナルティを払うほうが安くつく)。本日、ある研究会でお聞きしましたが、都銀に勤務されておられた方のお話では、銀行融資においては、とくに会計監査人の「適法意見」について関心を示すものではなく、稟議を上げるときにも、決算書は添付するけれども、監査人の意見については添付しないとのことでした(もちろん、以前の問題であり、現在はどうかはわかりませんが)。一番の要因は「金融庁の検査において重点項目とされていないから」とのことです。

また、会計監査人の設置が義務付けられる「大会社」かどうか・・・ということについて、それなりに銀行としても意識するそうですが、担当者が社長さんに「負債が200億を超えましたよね?」と尋ねると、社長曰く「ああ、そう?でも大丈夫、少し返したらまた200億切れるから」といった感じで、法令違反状態を全く意にも介しないそうであります。結局のところ、金融検査の在り方が「会計監査人重視、ガバナンス体制のチェック重視」にならないかぎり、銀行も融資にあたっての審査体制は変わらないのであり、したがって非上場大会社としても法令遵守態勢を構築する機運は盛り上がらないのではないかと(ただ、都銀出身の方のお話では、さすがに今回の林原社の件は、非上場大会社の会計監査人問題を真剣に検討するきっかけになるのでは・・・とのお話でした)。

本日の研究会で初めて知りましたが、非上場大会社の会計監査人の方々は、結構「不適正意見」を出しておられるそうです。やはり開示の対象が限定されていることもあって、不適正意見を出しやすいのでしょうね。しかし、そうであるならば、非上場大会社に会計監査人が設置されたとしても、経営陣はどこまで監査人の意見に従って財務報告の信頼性を向上させるようになるでしょうか?とくに不適正意見を出されても融資に影響がないのであれば「いたくもかゆくもない」といった対応をとる社長さんがいらっしゃるのではないでしょうか。また、そもそもそういった強者の社長さんがいらっしゃる会社の会計監査人を、まともな会計士さんが受けるのでしょうか?もし受けないとなりますと、またまた「わけあり会社」と手を組む会計士の方々の独壇場となって、なにか事件が発生するたびに会計監査の信頼性を毀損する方向に向かうのではないかと。普通に考えますと、どうもそんな気がしてきてしかたありません。

10月 12, 2011 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年10月 5日 (水)

企業のBCP(事業継続計画)論議に対する素朴な疑問

ひさりぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。災害時における企業の危機管理の一環としてのBCP(事業継続計画、ちなみに損失の危険の管理・・・というのであればBCMのほうが近いように思います)について、いろんな方のご意見を拝聴しております。とりわけ来年にはISO認証の対象となるBCP(正確にはBCMでしょうけど)でありますが、考えるほどに素朴な疑問が湧いてきました。

東日本大震災から半年が経過して、「当社ではBCPが有効に機能した」と言われる会社さんの話を聞いておりますと、結局のところ、「うちの事業が継続できたのは、他の会社のBCPが機能しなかったおかげ」とか「うちはきちんとBCPが機能したから、他の同業者に比べて商品を運ぶ貨物自動車の手配もできたし、商品も押さえることができた。つまりBCPは早いもん勝ちの世界である」、「うちはトップメーカーなので、被災地支援についての政府要請があり、そのために商品輸送にも便宜があった」というもの。要は力があったり、先んじて動いたからこそ機能した、というのが現状ではないかと。おそらくBCPを整備していても、対応が少しでも遅れてしまえば加速度的に目標の業績を達成できない確率が高くなる、というのがホンネのところではないでしょうか。たとえばBCPをまじめに考えますと、取引先に対して「在庫は半年分程度、保管しておくように」と要求することになりますが、これって物流の効率化を図って必死に業績を維持している中小の企業に対してどう受け止められるのでしょうか?

最近はリジリエンス(想定外の事態に陥っても、しなやかに回復する力)などと美辞麗句のように謳われるBCP(事業継続計画)でありますが、機能した部分は初期対応としての社員の安否確認や、帰宅指導等の部分でありまして、工場を稼働するための最低限度の材料の確保等、本当に事業を継続するために必要な部分については、つまるところ弱肉強食の世界であり、サプライチェーンBCPといった「みんなで頑張るBCP」の成功例というのはごくわずかではなかったでしょうか。なかには某自動車会社のように、社員がサプライヤーのところへいって、復旧の手伝いをしてサプライチェーンを復活させた成功例というものもあるようですが、これも結局は「力の支配」によるものではないかと。

たとえばBCPの発動要件についてみてみますと、「震度6強」の地震が発生した場合には非常事態宣言を社長が発令する、といったことで比較的明確かもしれませんが、原発事故等の二次災害によるケースや、台風による被害が発生した場合など、誰が「これはBCPの発動要件に該当する」と判断するのでしょうか?その判断権者のところへは、判断に不足のない程度の情報が集まる体制はどこまで整備すれば良いのでしょうか?さらに、競業他社との協力合意やサプライチェーンBCPについては、他社の発動要件と自社の要件とに食い違いが生じた場合はどうしたら良いのでしょうか?有事に切り捨てるべき事業の優先順位を考えておくように、とのことですが、平時の段階で「切り捨ての順番」を社員も知ってしまうのでしょうか?まだまだありますが、こういうことって、素朴に疑問に思うのでありますが。平時だからこそ考えておく必要があるのは理解できるのですが、これを考えることによって平時の組織に軋みが生じないのでしょうか?

震災後、海外の取引先からBCPの運用状況について聞かれる企業もあるそうです。以前はBCP訓練をしているとだけ答えていたものが、最近は「どのような訓練をしているのか?そのパフォーマンスの評価は?」とまで質問されるとのこと。ISOはプロセスを第三者機関が認証する、ということのようですから、とりあえずPDCAがしっかりしていればよいのかもしれません。しかし、BCPは今後「オールジャパン」で取り組むべき喫緊の課題だそうですから、本気で社会のインフラになるかどうか、検討していくべき問題が山積しているように思えて仕方ありません。

10月 5, 2011 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年9月 6日 (火)

真相が第三者にも判明し始めたゲオ社の社内事情

10月13日に臨時株主総会が開催されるゲオ社(東証・名証1部)の社内紛争事案でありますが、またまた続報が出ております。毎日新聞ニュースによりますと、今度はゲオ社の取引先であるIT関連会社が、ゲオ社の取締役に対して2億5000万円の損害賠償請求訴訟を提起した、とのこと。「取締役の妄言によって自社の経営が悪化した」とされております。

今回の報道で興味深いのは、大手の新聞社によって、株主サイド、経営者サイド、どっちの取材を中心に据えるかによって事実報道におけるニュアンスに違いが生じていることであります。このようなゲオ社にとって大切な時期に、あまり断定的に申し上げますと、私が名誉毀損、信用毀損で訴えられるおそれがありますので差し控えますが、紛糾する原因となった事実が少しずつではありますが、垣間見えてきているような気がいたします。監査法人や監査役会も巻き込んだ、まさに全社あげての有事に至ったもので、たいへん珍しいケースではないでしょうか。ただ、ここまで騒動になることは珍しくても、その騒動の発端となった原因行為については、どこの上場会社でも起こりうるようなことではないか・・・・と。

まだまだ10月13日までは続報がありそうな予感がいたします。

9月 6, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年9月 5日 (月)

企業側からみた「オリンパス配転命令事件」控訴審判決の重み

朝日「法と経済のジャーナル」は、以前から内部通報・内部告発事例への関心が高いところでありましたので、少しばかり期待をしておりましたが、予想どおり(ありがたいことに)週末に8月31日のオリンパス配転命令(無効確認)等請求事件(東京高裁第23民事部)の判決全文が掲載されました。ただし有料会員でないと判決全文の閲覧はできないようです。

早速、判決全文に目を通しました。いろいろな視点からアプローチ可能ですが、企業の内部統制システムの構築、つまり企業側からみたオリンパス事件という視点からの感想を若干述べておきたいと思います。なお、博多ぽんこつラーメンさんからご質問がありましたが、(単なる推測ですが)オリンパス社としては最高裁へ上告受理申し立てを行う可能性はあると思っております。

本判決も、原審(東京地裁判決)と同様、「本件配転命令は、東亜ペイント事件(最高裁判所昭和61年7月14日判決)にのっとり、業務上の必要性に比して、労働者の不利益が不釣合いに大きい場合には権利の濫用となり、また、業務上の必要性があっても、不当な動機目的によってなされた場合には同様に権利の濫用となる」という判断基準を軸として控訴人であるH氏への配転命令の効力を検討している点においては同様であります。

しかし本判決は、H氏の内部通報が公益通報者保護法の通報対象事実に該当するか否かという点ではなく、社内のヘルプライン(内部通報規則)によって保護されるものかどうかに焦点を当てているところに特徴があり、これが人事権濫用論に大きな影響を与えています(法律家向けのお話だと、ここで就業規則34条の「正当理由」(配転命令権の濫用)の立証責任問題と評価根拠事実、評価障害事実(規範的要件)の整理として説明するほうがわかりやすいと思いますが、ここではそのようなことは申し上げないこととします)。

誤解をおそれずにわかりやすく説明すれば、H氏による適切な内部通報があったとすると、そもそもH氏を「いい加減なことを申告してきやがった、おかしなやつ」として処遇することはできないのであり、配転の必要性も配転の目的の不当性も厳格に審査されることになります。適正な通報であれば、社内的にはヘルプライン手続きに則って処理されねばならないにもかかわらず、オリンパス社の通報窓口担当者が守秘義務違反を犯し、人事権を掌握する被控訴人が通報を認識するに至ったのであります。このことは配転命令を「権利濫用」と認定するうえでとても重要な事実認定となります。

結局のところ、先の昭和61年最高裁判決の判断基準からすれば、配転命令に正当理由がないケースというのは、きわめて限定的な場面しか想定されていないにもかかわらず(つまり、企業側にとって配転命令の裁量権は広く、簡単に司法判断によって「おかしい」とは言われないにもかかわらず)、内部通報制度を活用したH氏に対する処遇は「業務の必要性や配転の目的も、企業側の主張はまったく不合理とまでは言えないけれども、相当程度疑問が残る」ということで「権利濫用」が認められています。

つまり、ヘルプラインという社内ルールで「内部通報社員には、不利益な取扱をしてはならない」と規定されていることは、裏を返せば企業もしくは通報者の上司は、内部通報者に対して不利益な取り扱いのおそれがある、ということです。だからこそ、通報直後の配転、これまでと全く異なる部署への配属、社内における勤続評価と配転後の評価の差といった事実認定が、「不利益取扱であることを推認させる」ことになり、会社側からの配転先の業務の必要性、配転の目的の合理性といった「企業側のお決まりの主張」では排斥しきれないことになります。普通であれば、会社側の上記のような一般的な主張を排斥できるだけの証拠を社員側が持っていませんので、「正当理由」が認定されることは稀なのですが、ヘルプラインに従って内部通報をした、という「事実」が社員と会社を(訴訟上で)五分五分の関係まで押し上げているという感覚ではないでしょうか。解雇権濫用事例でもそうですが、裁判所は労働契約の効力を判断するについて、就業規則にどう書かれているか…という点を非常に重視しますので、ヘルプラインという社内ルールが存在する以上、そのルールの解釈もまた非常に重視する、ということだと思われます。

さて、そこでオリンパス社のヘルプラインに則ったH氏の内部通報の「適正性」でありますが、ここがたいへん重要でして、本判決は非常に広く、その適正性を認定しています。もちろんオリンパス社のヘルプライン運用規程の解釈としてでありますが、法令違反だけでなく、企業行動規範に反するもの、企業倫理違反、またそれらの「おそれのある行為」に関する通報は適正なものとしています。さらに、通報だけでなく、「相談事例」であっても適正なものとして受理されねばならない、とのこと。つまり、こういった通報は通報者に対する守秘義務に留意して処理しなければならず、この処理を誤ると「通報があったことを人事権者が知った」と認定され、これがダイレクトに「不利益取扱の推認」へと結びつくことになります(通報があったことを人事権者が知らなければ、そもそも報復や制裁と推認されることはありません)。このように広く「内部通報は適正である」と判断されると、本判決のように、従業員と会社は武器対等の状況となりますので、けっして妥協を許さない従業員及び妥協を許さない代理人弁護士が相手方となりますと、企業の社会的信用、社会的評価を大きく毀損するような事態になってしまうリスクが高まる・・・・というのが実際のところではないでしょうか。

なお、これは私が内部通報窓口業務を行っていることからの私見にすぎませんが、たとえH氏が「取引先から社員が引っこ抜かれて、自分の地位が危うくなるから、ライバルが来るのを妨害する意図があった」ことによって、通報してきたとしても、実際に通報事実がヘルプラインの対象になっている以上はこれを「不適切な通報」とは認定できないと考えております。そもそも通報者の意識は、まったくの私心を捨てて行われることは予想されていないのであり、私心と正義感が併存している状況も十分に考えられるのでありまして、そのあたりで会社側が反論をしても裁判所はあまり重視しないものと考えられるからであります。

もうひとつ、これは判決全文を読んで印象に残ったことでありますが、配転後の通報者への処遇がパワハラとして認定されている点であります。怒鳴ったり、嫌がらせをする、といった行動がパワハラに認定される事件はすでにたくさん判例もございますが、本判決では①自主的に退社したくなるような不当な仕事を与える、②これまでの勤務評価に比較して著しく不当な勤務評価を行うこと自体をパワハラと認定しており、また非常に精緻な事実認定によってこれを根拠付けています。このあたりは、別件でも非常に参考となるところでして、またパワハラに関連するエントリーのなかで取り上げてみたいと思います。

繰り返しになりますが、ここまで述べたところは、会社の信用毀損の事態を防止する、つまり企業側からみた内部通報事例への対応を中心に説明いたしましたので、本判決に対する本格的な研究は、また著名な学者、実務家の方々のご解説をお読みください。ただ、就業規則やヘルプラインの見直し、また運用上の留意点のチェックなどが重要かと思われます。いずれにしましても、本判決は相当に原審判決を意識しながら理論構成しているところがみられますので、機会がありましたら、東京地裁判決の全文と比較しながらお読みになることをお勧めいたします。

9月 5, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年9月 4日 (日)

不明朗な取引解明となるか?-ゲオ社の監査役会始動-

なぜここまで私の琴線に触れる事態が次々と発生するのか、とても興味の尽きないゲオ社の社内事情でありますが、9月3日の中日新聞によりますと、ゲオ社の監査役会が、同社における不明朗な取引実態について、外部の専門家等に依頼をして調査委員会を立ち上げ、来る10月の臨時株主総会において調査結果を報告する予定だそうであります(中日新聞ニュースはこちら)。まさに今年新設されました日本監査役協会の改訂監査役監査基準第24条が適用されるような典型的事案であります。

常勤監査役1名に弁護士を含む社外監査役3名という監査役会の構成も、こういった監査役会の決断を容易にしたものかもしれません。監査役監査基準24条によると、(社内に不正の疑いがある場合)監査役会としては第三者委員会を立ち上げるよう、執行部に勧告するか、もしくは自ら弁護士等に依頼をして第三者委員会を立ち上げるべし、とありますので、おそらくガバナンスに問題がある(経営執行部に不正関与の疑いがある)と思料される本件では後者を選択したのではないでしょうか。ただ、その場合でも、不祥事の防止や早期発見、損害拡大防止のため、監査役はできる限り第三者委員会の委員に就任したり、委員に監査役への報告を求める等、その委員会の活動には関与すべし、となっておりますので、委員会発足後の監査役の行動にも関心がございます。経営執行部からも、また説明責任を果たすべき(監査基準18条)大株主からも独立した立場において、当監査役会が本気で機能するのか・・・・、ということが有事に直面した企業のガバナンス上重要だからであります。

現経営陣と創業家大株主との間で、いったいどのような問題が生じているのか(上の中日新聞のニュースでは、少しだけ垣間見えるようにも思いますが・・・・)、またどちらに正義があるのか、おそらく10月13日の臨時株主総会にて相当程度明らかになるのではないかと思われます。しかし大株主提案による社外取締役5名選任議案(定款上は取締役は12名まで。現在は社内取締役のみ7名)の行方が注目されるなか、ガバナンスの一翼を担う監査役会が本格的に始動したことは、会社法的視点からもまたまた興味が出てまいりました。監査役の皆様には、大株主のためだけでなく、一般株主のために説明責任を果たしていただきたいと思っております。ゲオ社の件は、おそらくまた続編が出るものと思いますので、とりいそぎ備忘録ということで。

9月 4, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月20日 (土)

「経営判断原則」に関する最高裁のスタンス

川井信之弁護士のブログにて、経営判断原則に対する最高裁のスタンスについて と題するエントリーがアップされましたので、興味深く拝読いたしました。私のブログにもコメントをいただいておりますが、当職おすすめの松本論文をきちんと読まれたJFKさんや川井先生の秀逸なご意見に感化され、私も少しだけ考えたことを補足しておきたいと思います。

もう25年くらい前になりますが、私が司法試験受験生だったころ、商法の基本書に出てくる「経営判断原則」なる、なんとなくカッコいいネーミングの論点と出会い、今に至るまで、そのイメージがそのまま頭のどこかに残っております。(そんなカッコいいイメージの論点というと、他にも民法の「物権変動の公信力説」とか刑訴法の「違法収集証拠排除原則と毒樹の果実」、行政法の「行政裁量収縮論」、手形・小切手の「創造説」など、いろいろあったような。そういった論点を知らないと司法試験に合格できないような、そんな錯覚に陥っておりました 笑)そんなイメージが残っていたためか、つい最近まで、私もア・プリオリに裁判のうえでも当然に「経営判断原則」が適用されているような気がしておりました。

では、実際の裁判で「経営判断原則」がそのまま適用されているかというと、どうもそうではないのですね。たしかに「経営判断原則」らしきものが判断基準として適用されているようには思えるのですが、とりわけ最高裁では こちらのエントリーでご紹介しました刑事裁判で1件だけ、そのような原則があることだけは確認されましたが、判断基準としての「経営判断原則」を適用することには、これまで躊躇しているように思えます(先にご紹介した拓銀事件最高裁判決でも、裁判所は「経営判断原則」の要件等については何ら述べられておりません)。まさに川井先生がおっしゃるように「最高裁は引き気味」のようです。なぜ最高裁は「経営判断原則」の適用に躊躇するのか、実は私も裁判官から聞いたわけではないのでよくわかりません。ただ、日本システム技術事件やアパマンショップ事件ヤクルト事件などから、なんとなく思いつくのは以下のようなことです。

コメント欄にも書きましたが、やはり最高裁の役割からすると、こういった一般的な判断基準を持ち出すことには抵抗があるのではないでしょうか。「大審院」の時代の判例が、いまもたくさん生き続けているように、最高裁判例はその後、何十年もの間、裁判規範として生き続けるわけですので、将来の最高裁判決にも多大な影響を及ぼすのであります。したがって、先例判決と法の解釈によって妥当な判断を下すことができるのであれば、とくに一般的な判断規範を呈示せずに紛争を解決する方向性こそ穏当な裁判所の在り方かと思われます。将来の最高裁に余計な拘束をしない、社会の要請に従って適切な判断が下せるように、というスタンスだと思います。

つまり取締役の任務懈怠→債務不履行責任(委任契約上の「なす債務」)→不完全履行(善管注意義務違反)+帰責性(故意・過失)という大原則から出発して、要件事実論をどう組み立てるのか、事実認定と規範的評価をどう考えていくか・・・ということで考える、その考え抜いた結論としての「判決」の集積が、たまたま「経営判断原則」といわれるアメリカの理論を適用するケースと近くなっている、というあたりが正しいのではないでしょうか。

それともうひとつ、これは先日の大阪地裁商事部の部総括判事さんが(夏期研修で)おっしゃっていたことを参考にしておりまして、誠に恐縮なのですが、最近の取締役の善管注意義務違反が問題となっている最高裁判例の多くが高裁と逆の結論に至っておりますが、そのほとんどすべてが「事例判決」ということであります。どの最高裁の判決文を読んでも「以上で認定した事実関係のもとでは」とかならず条件が付記されています。つまり事実関係が少し変われば結論も変わるかもしれません、ということです。このあたりは判例を読むときにとても注意をしなければいけないところでして、ロースクール生にも注意を促すところです。学部生は「判例百選」でもいいのですが、ロースクール生は判決全文を読むべきなのは、ここにあります。ブルドックソース事件の最高裁決定文を読んだときにも思いましたが、商事事件の紛争解決として、最高裁は「認定した事実関係のもとでは」ということを強調して、敵対的買収防衛策の適法性要件といった「一般的な規範の定立」をできるだけ回避しようとしているところがありました。村上ファンド事件判決も、「重要な決定事実の実現可能性はどの程度か」といった、条文に書いていない規範を定立することなく、刑事裁判の基本である罪刑法定主義のもとでの金融商品取引法の条文解釈(条文相互の論理解釈)と先例(日本織物加工事件最高裁判決の引用)のみで裁いているにすぎません。「経営判断原則」という一般的な規範定立も、それが企業社会や下級審で誤解されずに適用されればよいのですが、誤って適用されることによる企業社会の混乱はできるだけ避けたいのであります。それよりも、個々具体的な経営判断事例ごとに、事実認定と規範的評価が繰り返され、善管注意義務違反(不完全履行)の判断過程が明らかになるなかで裁判例が集積される---そのこと自体に、規範定立と同じ役割が(最高裁によって)期待されているのではないか、と考えています。

それにしても、実に先日の大阪地裁商事部の松田判事の研修は有益でした。実務家が取締役の善管注意義務違反を争う場合に大切なこと、たとえば取締役の「いつの時点」の行動に焦点を当てるのか、それは主張する「損害」と相当因果関係にあるのか、問題とするのは平時の行動か有事の行動か、取締役の人的属性についてはどうか、同じ損害額でも企業規模によって差が出るのではないか、不必要に被告を増やして論点がぼやけていないか等々、「なるほど」と思うところが多かったです。また、「事実認定と規範的評価、どっちで勝敗の差がつくのか」とか松本弁護士の論文のように「専門訴訟の判断については、他の司法審査の在り方を検討すべきではないか」といった話もおもしろかったです。しかし一番おもしろかったのが取締役の善管注意義務違反を争う場合の要件事実論だったのですが、少し長くなりましたので、またそのあたりは福岡魚市場株主代表訴訟の高裁判決が今年10月か11月ころに出るように聞いておりますので、またそのころに高裁判決への感想とともに述べたいと思います。(学者や法曹関係者の皆様であればご存じかもしれませんが、善管注意義務の要件事実と帰責性(過失)の要件事実との関係について、松田判事も疑問を呈しておられましたので「やっぱりなあ」と安心いたしました。ただし松田判事ご自身の私見も述べられておりました)。

8月 20, 2011 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年8月18日 (木)

コージツ社の敵対的TOBの今後の展開はいかに?

イオンVSパルコ以来のM&Aネタであります。昨年7月の第三者割当増資で第2位株主となった会社より、株式公開買付の届出を出されたコージツ社(JASDAQ)ですが、取締役会はTOBに対する反対の意思を表明しておられます(DRCKJらによる当社株券等に対する公開買付けに関する反対の意思表明のお知らせ)。今日(8月17日)のコージツ社の株価は、取締役会の反対表明を受けて、買付者が買付価格を引き上げるのではないか・・・という思惑買いによって136円あたりまで高騰したようですが、また130円に落ち着いているようです。

たぶんガチンコだと信じておりますが(まさかシナリオはないですよね?(^^; )、買付者側にも、会社側にも、また第三者委員会にもバリュエーション(企業価値評価)で著名な方々が参加されているので、外野の者からすると、非常に興味深い事例です。企業価値算定を専門とする方々の間でも、「どっちが正しい」という議論になってしまうのでしょうかね?会社側は、反対の意思表明に至るまで、公正な判断を担保するために第三者委員会を設置しています。第三者委員会は、取締役会がTOBに対する意見表明に至るまでの手続きの公正性判断、TOB価格の妥当性、買付者による支配(上場廃止による)が企業価値向上に資するか、といったところを判断し、さらに買付者との価格交渉まで行うものだそうです。

この反対表明によって、今後の買付者側の対応が注目されるところですが、私はどうしてもコージツ社の取締役の方々の行動の適正性に関心を持ってしまいますね。(意見表明に関する)手続きの公正性に問題なし、との第三者委員会の意見が出たわけですから、コージツ社の取締役の方々は、(賛成意見も表明できることが明らかとなりましたので)TOBの賛否について慎重な判断が要求されることになります。現在の登山ブームが一過性のものであることを前提としても、なぜ1株147円以上でないと「合理的な判断」とは言えないのか、買付者の経営ノウハウがよくわからないのであれば、なぜ(せめて第三者委員会からでも)その経営ノウハウを質問によって明らかにしようとしないのか、株主であれば素朴に「知りたい」と思うところに触れておられないので、とてもナゾであります。私はM&Aについては素人的な発想になってしまいますが、1年前に買付者が増資に応じたときには1株92円でも「ほかの一般株主に不利になるようなものではなく、公正な価格です」と説明しておきながら、今度は「130円でも安すぎる、ダメ!」とおっしゃるわけですから、プレミアムを考慮しても、その違いはなんで?と一般株主としては素朴に疑問が湧いてくるように思うのですが・・・。せめてそのあたりの説明が必要かと。

まだまだ本件はいろいろな動きがありそうなので、またイオンVSパルコの時と同様、続編を書きたいと思います。いずれにせよ、TOBをかけた支配株主から社外取締役が選出されているので、このような会社にとって肝心なときに社外取締役が機能しないというのも問題かと(どなたが独立役員として届出がなされているのでしょうか?)。やはり社外取締役の独立性というのは重要ですね。それと、この第三者委員会報告書の内容ですが、これって上場会社のMBOを阻止する少数株主側にとっても今後の訴訟で使えそうな内容ではないか・・・・・と思うのは私だけでしょうか。

8月 18, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 8日 (月)

親子会社法制とコンプライアンスの視点(親会社役員のリーガルリスク)

法制審議会会社法制部会の審議が再開され、7月27日に第11回会議が開催されたそうであります。議事録はまだ公表されておりませんので、どういった議論がなされたのかは存じ上げません。ただ、公開されている部会資料によると「親子会社に関する規律に関する論点の検討」がなされたとのこと。

そのなかで「親会社株主の保護に関する論点」として多重代表訴訟の検討がなされておりますが、これは旧商法の時代から導入が検討されていた論点であります。いわゆる親会社の株主が、子会社の役員(取締役や監査役)の責任追及すること(株主代表訴訟を提起すること)を認める制度であります。会社法でも「連結経営」の実態を反映しつつありますし、すくなくとも100%子会社のケースでは親会社が子会社役員の責任追及の懈怠が想定され、現実に親会社取締役の子会社管理責任があいまいなまま放置されている現状からしますと、多重代表訴訟が(親会社と一定の関係にある)子会社に対して認められる可能性は十分にあると思われます。

法理論的には、上記会社法制部会で諸々の議論がなされることと思いますし、私には整理する知識も能力もありませんので、ここで自説を申し上げるつもりもありませんが、コンプライアンスの視点からすると、こういった多重代表訴訟が制度として活用される場合には、親会社の取締役の方々は、ずいぶんとリーガルリスクが高まるのではないでしょうか。つまり子会社取締役の責任追及が可能となれば、親会社取締役の責任追及も容易になる、ということであります。

たとえば重要子会社の不正が発覚した場合、親会社の取締役が子会社管理上の責任を問われるケースがありますが(たとえば2011年1月の福岡魚市場事件第一審判決や、メルシャン事件の「キリンH第三者委員会報告書」など参考)、かりに親会社取締役の不正共謀や「知っていながら放置」、不正見逃しに過失あるケースなど、親会社取締役の善管注意義務違反が問われるケースであっても、株主側として、その立証が困難な場合が多いと思われます。現に、親会社主導と思われる不正行為が発覚したとしても、「関与」が立証できないために「監督上の過失」で処理されることもあるかもしれません。

ところで、多重代表訴訟が認められることになりますと、不正行為を直接執行した子会社取締役を被告として(元取締役も被告適格あり-通説)株主代表訴訟を提起できることになりますので、この訴訟結果を親会社取締役を提訴する裁判において活用できる、という機会が発生することになります。おそらく親会社取締役の不正関与の事実や、監督上の過失、企業集団における内部統制構築義務違反、といったあたりを立証する有力な証拠となるはずであります。たとえ子会社取締役の弁済資力が乏しいとしても、親会社取締役の任務懈怠を問える機会が増えるのであれば、これを活用する親会社株主も増えるのではないでしょうか。

もちろん、これまでも子会社取締役を親会社取締役に対する代表訴訟の証人として尋問する機会はありますが、欠席しても親会社や親会社取締役に不利になるわけでもなく、自ら法的責任を負うこともないわけです。しかし、多重代表訴訟となると、そうもいきませんし、会社のために高額の賠償責任を負担するくらいなら、被告として精一杯の防御活動に努めることになり、そこに親会社とは利益相反となる真実が浮上することも考えられます。たとえば先の福岡魚市場事件では、グルグル回し取引(架空循環取引に近い不正な取引)を執行していた子会社取締役は、解任された後、親会社である魚市場の部長に就任しているのであり、(これは推測の域を越えませんが)親会社としては不正行為者を保護しているようにもみえます。100%子会社であり、かつ重要な子会社であれば、いわば親会社の部長クラスの方が子会社取締役に就任しているわけで、そこに株主からの厳しい追及の矛先が向かうとなりますと、親会社としては難しい局面を迎えることになりそうです。

子会社自身が子会社取締役を支援することは、たとえば「不提訴理由通知」を発している関係から許されることになると思いますが(補助参加等)、親会社自身が子会社取締役を支援することは利益相反になりそうですから、弁護士報酬も含めた支援活動にも支障をきたすのではないでしょうか。

もう1点、コンプライアンスの視点からみると、親会社に損害が発生している場合でなければ子会社取締役の責任追及はできないのではないか?という論点であります。損害填補が目的である以上、親会社株主が子会社取締役の責任追及が可能となるのは、子会社取締役の善管注意義務違反によって親会社に損害が発生したような場合に限定されると思われます。しかし、前にも述べましたように、たとえば金商法の世界では、すでにグループ企業としてのレピュテーションリスクに配慮した行為規範の順守が金融機関に要請されているのであり、経営判断において、企業グループ自体の評判も重要な判断要素とされております。企業の社会的な評価が減少すること自体が企業の損害として認識されるに至っているのでありまして、そうであるならば、子会社の不正によって企業グループ全体の企業価値が減少するようなケースであるならば、広く子会社取締役の責任追及が認められることになるものと考えられます。

このような論点は、ほとんど思いつきの域を出たものではなく、まだまだ思案していることの一部ではありますが、親子会社規制の問題をコンプライアンスの視点から検討しますと、親会社や親会社取締役にとって、まだまだいろんな問題が出てくるように思えます。

8月 8, 2011 商事系 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年8月 4日 (木)

経営判断原則の司法審査方式と「行政裁量論」

今年で54回目を迎えました大阪弁護士会の夏期研修が今日からスタート。初日の午前中は大阪地裁商事部(第4民事部)の部総括判事でいらっしゃる松田亨氏による「近時の取締役責任追及を巡る実務上の留意点」ということで、弁護士会館ホールは超満員の同業者であふれかえっておりました。

さすがに商事部の現役裁判長の講演だけあって、お世辞抜きでおもしろかったです。取締役の債務につき、不完全履行(任務懈怠責任)に関するKg➔E➔Rという、法曹実務家向けならではのお話も、私自身が普段考えていたとおりのことがほぼ正しいと確信できました。ただ、会社法や金商法には取締役、監査役について「相当な注意」の抗弁が規定されている条文がありますが、こういった規定は立証責任の転換を定めたものであるにもかかわらず、取締役の責任を追及する側にとってどれほどの「有利さ」をもたらすのか、疑問が残りました。

さて、私は「もし質問の時間があるならば、ぜひ松田判事に聞いてみよう」と思ったことがございます。金融・商事判例にて、1369号から本日発売の1371号まで上・中・下で連載されました松本伸也弁護士の「経営判断の司法審査方式に関する一考察-行政裁量の司法審査方式との関連において-」という論文がとても面白く、「そもそも日本の裁判所が採用する経営判断原則は、自然発生的に誕生したものではなく、従来から存在する行政裁量の司法審査の方式を基礎としているのではないか?」といった松本弁護士の検証にとても興味を覚えました。この松本弁護士の見解について、商事部判事としてどのように考えておられるか?といった質問であります。

実は1369号が発売された7月上旬より、私はfacebookで「この論文は必読!」とつぶやいておりました。というのも、私も以前から同様の疑問を抱いていたからであります。この夏期研修で、現役の商事部裁判長の考え方をお聞きできるチャンス到来と思い、質問を楽しみにしておりました。ところが、ビックリ!でございました。

研修の途中で松田判事曰く、

最近とてもおもしろい論稿が出ましたね。金融・商事判例という雑誌があるのですが、その7月1日号で、経営判断の司法審査方式が行政裁量の司法審査に似ている、ということを書かれた方がいらっしゃいます。私の個人的意見ということでお聞きいただきたいのですが、私も行政部にも在籍していたことがありますので、まことに卓見で、なるほど・・・・と関心いたしました。(なお、7月15日号まで読んだ・・・とはおっしゃっておられませんでした)ぜひご興味があればお読みください。

ホントは経営判断の司法審査方式として、東京地裁方式や大阪地裁方式まで意識されているのかどうか・・・・という点までお聞きしたかったのでありますが、残念ながら質問時間というものがございませんでしたので、あきらめました(ToT)。ただ講演のなかで、本論文に触れて個人的意見を述べられる、ということはまったく想定しておりませんでしたので、たいへん驚きました。

専門領域を越えて、裁判官の判断過程を推論する・・・というスタイルは、まさに実務家による論文の醍醐味であります。私自身は、2004年2月に出版された別冊商事法務219号「条解・会社法の研究9取締役(4)」における江頭先生や稲葉先生らの座談会(取締役の責任追及に関する規定はどのような形が望ましいか)あたりの内容(そもそも政策的なもの)や、損害賠償補てん機能や違法行為抑制機能といった責任追及規定の趣旨は、ガバナンスやソフトロー、監査役の裁判外の請求権行使等によって代替できる可能性がある以上は、経営判断に対して司法は謙抑的であったほうが妥当ではないか、といったことも検討したら面白そう・・・・・とも思っております。

もし裁判官の思考過程において、経営判断原則が行政裁量論に近いものがあるとすれば、今後の裁判例の分析などにも参考にすべき判例が増えるものと思います。森田果教授の論文へのささやかな挑戦、とありますが、ぜひまたこういった論文の発展系の論文が登場することを期待したいと思います。(なお、松田判事の近時の最高裁判決の分析、最近の善管注意義務違反に関する論点等、いくつか興味深いお話がもあり、それに対して私なりの疑問が湧いておりますが、これはまた別の機会に、ということで・・・・・)

8月 4, 2011 商事系 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2011年7月28日 (木)

九電社長の「辞任届」の法的効果

いわゆる「やらせメール」事件は経営トップの方の進退問題にまで発展してしまったようであります。昨日(7月27日)の取締役会で進退をはっきり審議してもらう、とのことだったようですが、社長さんが欠席され、審議はされなかった、と各紙が報じております。果たして九電メール事件は、経営トップが辞任しなければならないほどのことだったのかどうか、そのあたりはまた別途論じることにいたします。

九州電力の社長さんは7月19日に、既に会長さんに辞表を提出していた、とのことであります。しかし7月20日の国会審議の場では「私の意向は(個人的には)決まっている」とは述べたものの「進退の時期については27日の取締役会で審議してもらう」と回答されています。

ということは、19日の段階で会長さんに提出したのは、表題がどうであれ正式な辞任届ではなく「辞任伺い」ということなんでしょうね。正式な辞任の意思表明であれば、会長さんは代表権がありますので19日に受理されてしまう(つまり社長さんは19日の時点で取締役ではなくなってしまう)ことになりそうです(まあ、代表取締役の解職という手続きがありますので、取締役会で受理する、という解釈もありますが)。しかし、19日に社長さんが提出したのは辞任伺いであり、進退は取締役会決議もしくは会長さんの判断に一任する旨を表明したもの、と解釈したほうがよさそうであります。したがって、取締役会の審議次第では、社長さんは今後も辞任の意思を撤回することも可能となります(辞任の意思表示が受理されていませんので)。

マスコミ報道では27日の取締役会に社長さんが欠席したために、審議ができなかったとされていますが、上記のとおり「辞任伺い」ということであれば、社長さんは今回の取締役会では「特別利害関係人」となり、会社法上は出席することはできないものと思われます(議決に参加できないのか、役員会そのものに参加できないのかは争いがありますが、通説は役員会における審議そのものに参加できない、ということなので)。したがいまして、社長さんが今回の取締役会に欠席するのはむしろ当然のことではないでしょうか。

むしろ社長さんから「進退伺い」が出されていたにもかかわらず、取締役会ではなぜ社長の辞任伺いに対する審議、受理するとして、いつ受理すべきか、という時期に関する審議をしなかったのか、ということであります。善解すれば、第三者委員会が発足し、更なる事実調査や原因究明、再発防止策が検討されるので、それまで審議を中断する、といった審議がなされたとみるほうが良いのかもしれません。現社長さんが就任する際、14人抜きといわれる抜擢人事だったそうですから、それだけ会長さんの支配力が強いのではないかと。そうであるならば、どこまで取締役会で実質的な審議がなされるかは、ちょっと疑問が残るところであります。

7月 28, 2011 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月22日 (金)

ゲオ社役員会における取締役辞任勧告決議

最近、当ブログでも何度かとりあげておりますネステージ社でありますが、そのネステージ社を今年4月に子会社化したのがゲオ社。このゲオ社の不適切会計処理に関する調査報告書を先月こちらのエントリーで取り上げ、私は「不正早期発見型」の内部統制システムを高く評価したわけでありますが、またまた同社で話題となりそうなリリースが出ております。

役員の異動および当社取締役1名に対する辞任勧告の決議について(7月21日付け)

あらかじめ規定されている社内ルールに違反して、自社株取引を行った取締役に対する辞任勧告を、取締役会で決議されたそうであります。本日(7月22日)のリリースでは、インサイダー取引があったからではなく、あくまでも内規違反による辞任勧告を行ったもの、とされております。J-IRRIS登録の関係上、この取締役の方の自社株取引が判明したのかどうか、それとも何か外部の調査によって判明したのかは不明でありますが、いずれにしましても(役員間における抗争等、裏事情がなければ)社内ルール違反=レッドカード、ということとなり非常にコンプライアンス的にみて厳格な対応かと思われます。先の「不正早期発見型内部統制」もまんざら外向けではなく、社風改革の本気度を示すものなのかもしれません。

そういえば、先日の経産省幹部の方のインサイダー取引事件でありますが、「妻が勝手にやったこと」として容疑を否認されているそうでありますが、当該幹部の方は経産省の内規に違反して株取引については一切報告をしておられなかったそうであります。もちろん、インサイダー取引の構成要件該当性とは直接結びつかない事実ではありますが、やはり不正取引との親和性ということを想起させるものであり、企業としても今後はこういった内規違反についても厳格な対応が必要となってくるのではないでしょうか。

朝日新聞ニュースでは、もう少し突っ込んだ内容が書かれていますね。

7月 22, 2011 商事系 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年7月21日 (木)

社員の架空取引による相手先の損害を会社は負担すべきか?

東芝元社員による架空取引で損害を被った某リース会社が、東芝等4社に対して損害賠償を求めていた裁判において、東京地裁は「使用者責任」を認定して東芝等に対して約58億円の損害賠償を命じる判決を出したそうであります。(産経ニュースはこちら)もちろん判決は読んでおりませんが、事業執行性、重過失の有無、過失相殺の事情等、どのような認定がなされたのか非常に興味深いものです。

同様の裁判といえば、当ブログでも以前取り上げましたが、丸紅元社員による詐欺事件でリーマン関連会社が丸紅を(損害賠償を求めて)提訴した事件の判決がふたつほど出ております(いずれも原告の請求を棄却。今年4月の判決に関する丸紅社のリリースはこちら。もうひとつはすでに判例タイムスで判決文が入手できます)、元社員の取引的不法行為は丸紅の事業の執行についてなされたものではなく、またリーマン関連会社側も重過失あり、したがって丸紅は使用者責任を負わない、と認定されたものであります。東芝の件と丸紅の件の対比で検討いたしますと、実務家にとってはかなり研究価値があるかもしれません。法律解釈というよりも、事実認定の問題にすぎないと思いますが、巨額の使用者責任のリスクがありますので企業としての平時のリスク管理という面では貴重な題材ではないかと。

架空循環取引が破たんして、これに加担していた企業が損害を受けた場合、循環取引に関与していた企業に対して使用者責任を追及する、といった事例の裁判例も最近は出ていますね。いずれの事例も、社内から犯罪者が出てしまうことまでは防ぎきれないとしても、その不正によって他社が損害を受けた場合に、社員を支配していた企業が法的責任を追及されるリスクをどう低減するか・・・・・ということについては内部統制の問題として論点を整理してみるとけっこう有用なものになるかもしれません。

7月 21, 2011 商事系 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年6月20日 (月)

東電の原発事故直後の対応と有事における情報開示の意義

このたび、旬刊商事法務最新号(1934号)の巻頭論文として「内部統制報告制度の見直しと今後の実務対応」なる論稿を掲載していただきました。金商法と会社法の交錯部分といわれる「財務報告に係る内部統制」について、法律実務家の視点から整理を試みたつもりでありますので、内部統制実務に携わる企業実務家の皆様、ご関心のある法律家の皆様にお読みいただき、また忌憚のないご意見、ご批判をいただければ幸いでございます。<m(__)m>

さて、同じ商事法務さんですが、7月に発売されます法律雑誌「NBL」におきまして、このたびの東電さんの安全確保体制の構築と有事対応、とりわけ情報開示の在り方に焦点をあてた論文を掲載させていただくことになり、ほぼ原稿を書き終えたところで、東電さんから6月18日、重要な報告書がリリースされました。新聞等でも報じられておりますので、皆様もすでにお読みになった方もいらっしゃるかとは思いますが、震災直後の原発事故への東電の対応に関する時系列的報告であります。

東北地方太平洋沖地震発生当初の福島第一原子力発電所における対応状況について

上の(NBL)論文でも若干触れているのですが、私はこのたびの東電さんや、震災で大きな損害を受けた上場企業さんの情報開示を読み、また数社程度ではありますが、震災時のBCP(事業継続計画)の実効性検証などから、あらためて有事における企業の危機管理としての情報開示の意義はいくつかに区別することができるものと考えております。あるときは、ステークホルダーの生命・身体・財産への切迫した危難を回避するためのもの、またあるときは、経営陣の経営判断を監視するために、良好なコーポレートガバナンスを実現するためのもの、そしてまた、時には社外第三者と協力して、社内における危機を乗り切るための方策を検討するためのもの、といったところであります(これがすべてではありませんが)。

上記の東電さんのリリースを読んで感じたところではありますが、震災直後の原子炉緊急停止から、手動によるベント作業に至るまで、専門用語がかなり頻繁に使われており、また原子炉別に区別されてはいるものの、時系列に沿って淡々と発生事実が語られているので、おそらく一般の方々には何が発生し、東電さんがどのような対応をしたのか、またそれが誰の意思決定によってなされたのか、というあたりは一回読んで理解するのが困難ではないでしょうか。

これは社外の第三者の叡智を結集して、東電の事故原因を調査し、さらに今後同様の事故が発生した場合に、どのように対応すべきか、その再発防止策を検討するためには有意義な情報開示であると思います。しかし、周辺住民や原発事故の被災者、周辺事業者に対して、発生している事態がどのようなものであり、ステークホルダーがどのように対応すべきか、を自己判断できるための情報開示としては不十分なものではないかと。また、そこで報告されている内容が、どういった指揮命令系統によって、判断されたのか、という詳細にまで及ぶものであれば時間を要するものと思いますが、発生事実を淡々と記述しているところが多く、たとえ現場作業員の証言に基づくものといいましても、開示に至るまで3か月を要するものであるのかどうか、疑問を抱くところであります。

震災以降の3か月、東電さんの情報開示に疑問が呈される事件はいくつかございましたが、東電さんの役員の方々の責任問題とは切り離して、危機対応としての情報開示の在り方を論じることは重要なことだと思っております(2002年の東電さんの原子炉点検データ改ざん事件の際は、経営トップ含め数名の責任問題によって情報開示に関する構造的な問題が語られることはなかったのではないかと思われます)。元社長さんは毅然と「東電の情報開示はベストを尽くしてきた」と記者会見で語っておられましたが、東電の抱いている「ベストな情報開示」とは何か?このあたりをぜひ、知りたいところであります。今後、震災直後の東電さんの事故対応については、平時における東電さんの安全確保体制の整備問題や、役員さん方の責任問題も絡めていろいろと検証される機会が増えるとは思いますが、二度と電気事業会社のコントロール不能となるような原発事故だけは発生させてはならないことを今回十分に国民が認識したわけですので、東電さんには、(HPを閲覧すれば、これまでも相当に情報開示の姿勢は真摯なものであることは理解できますが)企業の社会的な責任としてどうか詳細な情報公開を果たしていただきたいと願うところです。

6月 20, 2011 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年6月 3日 (金)

証券市場の監視、「未然防止型重視」に向けた企業の対応は?

今年1月11日の日経電子版ニュースにて、証券取引等監視委員会の不正開示に関する検査が強化されることが報じられ、この7月の機構改革と同時に専門部署が新設される、とのことでありました。おそらく、このSESCの検査強化に合わせて・・・と思いますが、東証自主規制法人(COMLEC)でも、同様に市場監視体制の見直しが進められているように思われます。

本年3月頃に、そのような動きを少しだけ知った次第でありましたが、月刊監査役の最新号(6月号)に、東証自主規制法人常任理事の方による「未然防止型上場管理の取組みと監査役に期待される役割」といった論稿が掲載されましたので、早速拝読いたしました。誤解のないように申し上げると、これまで通り、虚偽記載事案や不公正取引事案の事後的審査(調査)もこれまで同様に鋭意行っていくが、それに加えて今後はこれら証券市場における不正事件を未然防止するための取組みを積極的に行っていく、とのことであります。機構改革を行うSESCも、おそらくこういった未然防止型の市場監視を今後推進していくのではないでしょうか。

では一体「未然防止型」による上場管理とはどういったものなのでしょうか?この月刊監査役で例示されているところは、たとえば①市場関係者との連絡体制の強化、②企業による「不正の早期発見」への取組み促進、③内部統制システムの運用に関する企業のチェック④第三者委員会との連携による原因究明、再発防止策の提言、⑤第三者割当に関する適法意見制度、⑥独立委員の活用などであります。これまでは不正の匂いがするところへ入っていって審査、調査を行うものであったところ、不正の匂いがしなくても、チェック体制のなかで不正を嗅ぎ取る、といったところかと。

不正の早期発見というのは、過年度の決算訂正に及ぶほどの重要な虚偽記載となる前にモニタリングによって不正を見つけることであり、これは(企業の取組みとして)とても重要なことではないかと考えております。当ブログでも「不正の早期発見」についてはずっとこだわってきたリスク管理手法でしたので、やっと日の目を見るようになってきました。また内部統制の運用チェックについても、監査役や内部監査人による独立モニタリングの機能を重視すべきものであり、J-SOXを補完するものとして期待されるところであります(会計監査人、監査役、内部監査人の連携協調により、企業はどこに財務報告の信頼性を毀損するおそれがあるとみているのか、説明できるようにしておくべき)。

第三者委員会との連携といいますと、一見すると「不正発覚後の事後審査ではないか?」とも思えますが、最近の不正事件は複合型(虚偽記載とインサイダー、不適切第三者割当と虚偽記載等)によって一般投資家の利益を毀損することが多いわけでして、不正を小さいうちに発見し、さらなる被害を防止する、という意味では重要なところではないでしょうか。また、第三者委員会の情報を早期に入手することで、行政目的や取引所の規制目的に沿った対応が打てる・・・という意味でも「連絡体制の強化」に資するのではないかと思われます。そのあたりの理由で、月刊監査役の論稿と同時に、旬刊商事法務5月25日号において「虚偽記載事案における第三者委員会と上場廃止審査等の実務上の留意点」(自主規制法人の審査役、調査役の方によるご執筆)が同時に出稿されたように思います(もちろん私の推測にすぎませんが・・・)。

前記「月刊監査役」のなかで、新興企業だけでなく、老舗の上場企業においても未然防止の必要性は変わらない、とありますので、今後はこういった証券市場規制の変化について、上場企業がどのように対応していくのか、という点が課題であります。ソニー、トヨタ、東電など、日本を代表する企業が「情報開示の在り方」でとても苦労しておられますが、「重要な虚偽記載」はなにも故意的行動によるものとは限らないわけでして、効率性と有効性をバランスよく調和させた未然防止型システムの整備が望まれるところであります。

PS

企業法務を取り扱う弁護士のブログといいますと、私的には活字フェチさん、ともさん(池永先生)、森理俊さんのが好みでありますが、コメントをお書きになっておられる東京の川井信之さんも精力的なブログを開設されておられます。おお!日本レップの件、取り上げておられますね!?事案は日経新聞(法務インサイド)でも紹介されておりますが、川井先生も最後のところでお書きになっておられる「当事者と代理人」の関係がおもしろかったりして・・・・・(^^;;ブログを6年も書いておりますと、諸事情により(笑)、書きたくても書けないネタが増えてきたりするのですが、こういった話題に今後も鋭くツッコミを入れていただければ、と。とても今後に期待の持てるブログのようで(細く、長く頑張ってください)。

6月 3, 2011 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年3月28日 (月)

福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務(その2)

先日(福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務)のエントリーをアップいたしましたが、その続編であります。この判決では親会社取締役の善管注意義務違反の内容として「監視義務違反」(不作為による任務懈怠)が認定されているわけですが、親会社の他の取締役の違法行為を是正できなかった、ということではなく、子会社の取締役の不正を見抜けなかったという点において興味深いものがございます(被告3名は、いずれも親会社の取締役であり、かつ不正があった子会社の非常勤役員)。つまり子会社不正を早期に発見できなかったことに関する任務懈怠と、不正の兆候を知りながら十分な調査をしなかったことに関する任務懈怠の双方が問題になっているものです。

取締役と監査役では少し異なるかもしれませんが、平成11年の釧路市民生協組合債事件高裁判決や平成21年の大原町農協事件最高裁判決における「監査見逃し責任」の論理が、子会社不正を見逃してしまった親会社取締役の法的責任にも妥当することを、本判決は示しているようであります。会計や法律の専門家ではない会社役員は、会計専門家のように「粉飾決算」を発見したり、法律専門家のように不正行為を発見することまで求められるわけではなく、不正の疑い、つまり「異常な兆候」を発見すれば足りるわけでして、その「異常な兆候」が監査役や親会社取締役に見える範囲でどのような外形が存在するのか、その異常な兆候を知った場合の調査のレベルとはどのような事実を指すのか・・・・・という点を、この代表訴訟判決はかなり具体的に示しているところが参考になります。

子会社の経営トップが不正に関与している場合など、子会社独自の不正調査に期待が持てないケースがありますが、こういったケースにおいて不正調査の第一次責任者は親会社取締役であり、親会社監査役は、そういった親会社取締役の職務執行を監視検証する形で子会社不正に対応することになります。企業集団内部統制のような不正の未然防止ではなく、すでに不正が発生した疑いのある状況を前提とした状況(有事対応が必要となる状況)での監査役の業務監査の在り方にも参考となる判決ではないかと思われます。いずれにせよ、社内調査委員会による調査内容についても、きちんと取締役が精査しておかなければ「調査委員会の報告を安易に信用してしまっており、不正調査としては不十分」と判断される可能性があります。不正の兆候が発見された場合、(たとえ不正の発見が困難であったとしても)どの程度の調査を尽くせば善管注意義務違反にはならないのか、こういった判決を通じて議論する必要がありそうです。

3月 28, 2011 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年2月 7日 (月)

ロイヤルHD社の代表取締役解任劇と「社外取締役」

新日鉄さんと住金さんの統合交渉に関する見出しが各紙一面を賑わせた2月4日、日経新聞に、「ロイヤルHD、役員刷新提案の代表取締役会長を解職」という小さな囲み記事が出ておりました。現会長を含む13名のロイヤルHD社株主が、連名で(3月の定時株主総会に)会社側が上程した役員選任議案とは異なる選任議案を提出したそうであります。取締役らは現会長に翻意を促したところ、意思は固かったため、やむなく代表取締役の地位を解職し、さらに定時総会では選任議案を出さない(つまり取締役の地位を失わしめる)ことを決定された、とのこと(こちらの読売新聞ニュースが詳しいようです)。ちなみにロイヤルHDさんとは、ファミレスの「ロイヤルホスト」でおなじみの大手外食産業の会社です。

会長側(提案株主側)の提案書によりますと、ロイヤル社で唯一の社外取締役の方(同社の大株主である、日本を代表する大手飲料メーカーの代表者)が、実質的に当社を支配しており、私利私欲のままに短期的利益をとりにいっており、従業員の処遇および顧客へのサービスが低下している、とのこと。なお日経記事によると、共同提案者のなかには、元取締役や子会社取締役も含まれている、とのことで、このあたりが、ロイヤル社側としては最も気になるところではないかと思います。

会社側議案を決議する取締役会において、賛成の意向を(おそらく)示した会長さんが、業務執行の段階で反対の意向を表明することが、たとえ株主としての地位で行ったものだとしても法律上問題とならないのか(会社側は、会長の解職理由として、このあたりを問題にしているのかもしれません)、創業家一族のおひとりである常勤監査役さんが、記者会見で経営陣と一緒に登場して「私は会社側を支持します」と表明する行動が、(創業家大株主の代表としての表明だとしましても)一般株主の利益保護のために、取締役の業務執行の適法性を監視検証する監査役の立場と矛盾しないのかどうか等、法律上の疑問もいくつか湧いてくるのでありますが、そのような問題への関心よりも、同じ外食産業(上場会社としての規模はだいぶ違いますが)の役員としましては、この騒動とてもよく理解できるところであります。

四季報で調べましたところ、同社はリーマンショック以降、2期連続の赤字決算、今期は売上高こそ落ち込むものの、なんとか利益を出すことか可能なようでして、不採算店舗の閉鎖はまだ続いているようであります。固定資産の減損処理も厳しいのではないか、と(これはあくまでも私の推測であります)。売上が低下しているにもかかわらず、利益をねん出していることは、店舗閉鎖もあるでしょうが、やはり人件費の削減が寄与している度合いが強いのではないでしょうか。外食産業の経費削減は、目に見えて従業員の処遇、サービスの低下につながるわけでして、おそらく「短期的利益をとりにいく」というのは、このあたりを指しているのかと思います。しかしながら、上場会社である以上、GC(継続企業の前提)に関する注記については、相当なプレッシャーとなりますし、「短期的利益を目指さないため」のMBOを意識したくても、金融機関の支援を得ることが困難になってしまうのではないかと思われます(そういえば、MBOを行ったすか