2020年8月 5日 (水)

東芝の株主総会決議結果の開示-国広エフィシモは大健闘と考える

(8月5日 夜 追記あり)

ドラッグストアの店頭から「うがい薬」が消えておりますが、こういった場合、塩野義製薬や明治ホールディングスから、なんらかの「コロナへの効用」に関するコメントは出されるのでしょうか?大阪府知事からは生産体制にも踏み込んだ発言がありましたので、かなりむずかしい対応を迫られているようにも思えますが。。。(以下本題)

本日(8月4日)、7月末に開催された東芝の定時株主総会における議案の決議結果(議決権行使結果)が開示されました(東芝8月4日付け臨時報告書はこちらです)。大株主であるエフィシモ側の取締役候補者3名については、賛成率が43%、42%、38%です。一方で社長さんは58%。いや、これは驚きました。国広弁護士がアドバイザーについたエフィシモは大健闘といえそうです。定時株主総会が1カ月延期されたことも、本件では微妙に影響しているのかもしれません。

先日のブログでは、「まあ、この結果(会社側上程議案がすべて可決)はおおよそ予想していた通りでした」と書きましたが、こんな結果になるのがわかっていたら偉そうに書かなければよかった(国広さん、候補者の皆様、たいへん失礼いたしました)。なんといってもISSもグラスルイスも会社側提案に賛成推奨をしておりましたので「うーーん、かなり厳しいかな」と思っておりました。

もちろん、この議決権行使結果について会社側は(遅くとも総会前日までには)わかっていたと思いますが、これ結構東芝側にとっては難題ですよね。ここからはまた勝手な野次馬的意見ですが、エフィシモの株主提案はすべて議決権の4割程度の賛成を得ていますので、来年もまた実質的に同様の株主提案が出た場合には過半数の賛成が得られる可能性が出てきました。東芝グループ全体として、コンプライアンス経営への取り組みを「目に見える形」で運用しなければ、そもそも「両立する議案」だけに株主提案に賛成票が上積みされるかもしれません。

私は東芝の株主構成を把握しているわけではありませんが、たとえば3%でも5%でも保有している大株主がいれば「俺たちの要求を呑まないと、来期は社長を信認せず、また株主提案に賛成するぞ」といった要求が出てくるかもしれません(まさに漁夫の利)。もちろん利益供与にあたるような要求はできませんが、「株主共同利益のため」として、様々な大株主からの要求が会社側に届くのかもしれません。株主総会の機能は「会社意思決定機能」だけでなく「経営に対する定量的な評価機能」もありますが、この結果の開示は、これからの東芝と株主との「建設的な対話」を促すものとして大きな意味がありそうです。

もちろん国広さんは本気で株主提案を通すつもりで総会に乗り込んだと思いますので、「大健闘では意味がない」とおっしゃるかもしれませんが、上記のとおり「株主との建設的な対話を今後も促進する」という意味では、たしかに国広エフィシモは株主提案を行ったことで、(誰が得をするのか・・は別として)実質的な目的は達成しているのかもしれませんね。

(追記)なお、当エントリーに対して、ある方から以下のようなコメントをいただきました。たいへん有益なものと思い、本文中に追記させていただきます。

東芝株主総会 ではエフィシモが取締役候補として株主提案した代表の今井氏が43.43%の賛成を得たことについて、先生のブログ「東芝の株主総会決議結果の開示」、私どもも注目しています。ご存知のように、この提案については外為法の事前審議(安全保障の観点から、1%以上保有する株主が密接な関係者を取締役として提案する場合として)の対象とされました。エフィシモのプレス・リリースでは持ち株比率を10%未満とすることで事前審査は承認されたとあります。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000052455.html
今回の賛成率を見る限り関東財務局が承認の条件とした持ち株比率を10%に下げる意味の不可解さが残るだけであり、特に海外投資家の納得は得られないと思います。外為法の不透明性についての財務省、経産省の説明責任が問われます。東芝の外人持ち株比率は70%以上です。同社が苦境にあったときにゴールドマンが幹事で大量に増資し外人株主が異常に増えました。外為法審査での10%以上(公表はされていませんが)の「基準」がブラック・ジョークに思えます。

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2020年7月27日 (月)

上場会社の役員報酬に関する説明責任について

先週、機関投資家の方々と(改正会社法の条項に関連する)意見交換をする機会がありました。私個人とては、とりわけ役員報酬に関する令和元年改正会社法の改正事項についての運用会社の方々の意見が興味深かったので、またブログ執筆の時間が取れる時に別途詳細にご報告したいと思います。

ただ、役員報酬に関する会社法改正後の実務については一言だけ備忘録程度に記しておきたいと思います。先日(7月13日)、上場会社の役員報酬はダブルチェックの時代が到来する、といったエントリーを書きましたが、いろいろと意見交換を行うなかで、やや機関投資家の方々とは意見が違うことに気づきました。株主の関心は「(開示された報酬決定方針に基づき、個別の取締役の報酬が高いのか、低いのか」といったところでのチェックではないようです(それだけの時間的余裕はない、というところか)。むしろ会社が示す事業戦略と、個々の取締役のもらっている報酬との関係が(説明責任を通じて)明確になることへの期待が高いことのようでした。

役員報酬の重要事項が事業報告に記載されるようになれば、機関投資家は「我々に約束した中長期の事業戦略を『うまくいっている』と評価するのか『十分実行できていない』と評価するのか、その評価に関する取締役会の姿勢について知りたい」ということのようです。つまりこれからの役員報酬の決定は、機関投資家にとっては事業経営に関する説明責任を尽くすことと密接に結びつくわけでして、「これだけ報酬を受領することが正当である、と取締役会が評価しました」という説明を前提に、個々の役員の信任を評価する、というところが大切なポイントのように思いました。

業績連動性報酬を採用する企業が増え、また連動報酬の比率がどの企業でも高まりある中で、取締役会が本当に役員報酬の決定について関与(具体的な決定もしくは再一任のプロセスの監視等)しているのかどうか、令和元年改正会社法の施行はまだだいぶ先かもしれませんが、今からでも取締役会の関与の在り方について、きちんと議論(?)しておく必要があると思います。私個人の考えとしては、このたびの会社法改正によって、役員報酬への取締役会の監督機能は少しばかり高まるのではないかと思います。

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2020年7月10日 (金)

ファミマ、大戸屋TOBで上場子会社に思惑買い-親会社側取締役の善管注意義務

7月9日夕方の日経WEBニュース「上場子会社に思惑買い ファミマ・大戸屋はストップ高」なる見出しで、同日の東京株式市場では上場子会社に思惑買いが広がったことが報じられています。外食大手のコロワイドが大戸屋ホールディングス(HD)に、伊藤忠商事がファミリーマートに対してTOB(株式公開買い付け)が行われるとのリリースで両社の株価が急伸しました。そこで、ローソンなど上場子会社株全体がグループ再編期待から株価が上昇。親子上場の解消は今後も増える見通しで、上昇傾向は中長期的に続く可能性がある、とのこと。

コロナ禍において証券市場の効率性が高まることは予想されるところであり、伊藤忠商事やコロワイドのような経営戦略が今後も増えることは間違いないと思っています。しかし事業の切り出し、つまり上場子会社を持つ親会社が、子会社株式を売却するような経営戦略も今後増えていくものと市場は想定している、ということのようです。この方向性は、経産省・事業再編研究会からもうすぐ公表される「事業再編実務指針-事業ポートフォリオと組織の変革に向けて-」とも合致するところです。

また正式版がリリースされた時点で詳しく検討したいと思いますが、上記「事業再編実務指針(案)」では、たとえば事業の切り出し(子会社株式の売却等の事業売却やスピンオフ等を想定)に関して、これを検討する親会社取締役の行動規範(善管注意義務)にまで踏み込んだ内容が含まれています。コングロマリット・プレミアムが生じているのであればよいのですが、いわゆるコングロマリット・ディスカウントが生じている状況であれば、社外取締役や経営陣が何らの対応もとらない、というのは善管注意義務を尽くしていないとの評価を受けかねない、とのこと。もはや取締役会や任意の委員会等できちんとした議論をすることが当然、ということで、このあたりは昨年6月に策定された「グループガバナンスの実務指針」の流れに沿った内容です。

たとえば今年2月のエントリー「浸透するか?-ガバナンス改革3.0と上場子会社が目指す『アスクルモデル』」でもご紹介したように、親子上場問題では、上場子会社側の取締役さんの善管注意義務(親会社との利益相反状況における行動指針等)に焦点があたることが多かったと思うのですが、今後は上場子会社を持つ親会社の取締役さんの善管注意義務も注目されることになる、ということでしょうか。先々週、私が役員を務める会社の株主総会で、私が受けた質問内容を(こちらのエントリーにて)ご紹介しましたが、そこでも上場子会社(東証1部)との関係についてご質問を受け、金商法や東証のディスクロージャ-・ルールに反しない範囲で検討経緯をお話しいたしました。

ただ、事業の切り出しについては、上記「事業再編実務指針(案)」でも課題として取り上げられているように、日本的雇用慣行のなかで、切り出される事業の従業員の方々に、どう納得してもらえるのかとても悩むところであり、だからこそ日本では事業売却が進まない、というのも当然のことだと思います。相談役や顧問の方が経営トップだった時代に買収した事業、創業家の方々の諸事情の理由から「赤字でも抱えている」事業等、誰かが言い出さないと取締役会で議論することすらタブー、という問題もあります。その他、リーガルリスクという視点ではブランド、企業秘密、特許権等の知財の保護という問題もあります。

資本効率を上げる、という企業統治改革の流れとか、親子解消のメリット・デメリットを比較する、といった教科書的な行動だけでは事業の売却はうまくいかない、つまり株主の期待や機関投資家からの圧力への対応だけで決断できるような問題ではない。むしろ(事業切り出しという問題以前に)取締役会で何を議論しているのか(本当に「経営方針の決定」を議論しているのか)、といった普段の取締役会の在り方とか、親子関係についての歴史を十分に理解して、子会社側の意見を十分に聞くことに注力すること等、かなり労力を要するプロセスを踏んでいるかどうかが成否を分ける決め手ではないか。私自身の経験からは、そのように感じます。

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2020年6月16日 (火)

関電金品受領問題-現旧監査役を提訴しなかった関電取締役会の判断

本日夜7時に、関電から「当社現旧取締役および現旧監査役に対する提訴請求への当社の対応について」と題する文書が公表されました。新聞報道のとおり、法人としての関電は、元経営トップであり、関西財界の重鎮でいらっしゃった方々5名を相手に19億円余の損害賠償請求訴訟を提起することを決定しました。昨年来「関電が本気で変わる気持ちがあるのであれば、株主代表訴訟を待たずして、自ら元経営陣を提訴することである」と何度もブログで意見を述べてきました。そういった意味では、関電の機構改革の第一歩を踏み出したのではないか・・・と、私は高く評価いたします(しかしD&O保険でどれだけカバーできるのでしょうかね?)

ただ、先日の「取締役責任調査委員会」の報告書を読んだ私としては、他の取締役の方々についても善管注意義務違反の疑義はぬぐえないように思います(たとえば、金品を受領した取締役の方々の中には、当該事実について監査役会に報告する義務があった人もいるのではないか・・といった論点)。もちろん報告書の結論に従った判断といえばそのとおりですが、株主代表訴訟が提起されることも想定して、もう少し広く提訴すべきではないか、との意見もありうるところと思います。

そして、昨日のリリースには、もうひとつ興味深い論点が含まれていました。6月11日の当ブログエントリー「関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか?」で予想しておりましたとおり、(やっぱり?)関電の取締役会は、株主から提訴請求を受けておりました現旧の同社監査役の皆様を被告とする損害賠償請求訴訟を提起しないことに決定しました。関電の監査役の方々に「善管注意義務違反」が認められ、損害についても認定できるにもかかわらず、関電取締役会は「現旧の監査役は誰一人として提訴しない」という判断に至りました。

少しだけ法律の解説をしますと、株主から取締役や監査役への「提訴請求」を受けた会社としては、提訴すべきかどうか調査のうえ、提訴しないという決定ができます(取締役に対しては監査役・監査役会が、監査役に対しては取締役会が判断します)。そして提訴しないとの判断に至った場合には、その理由(不提訴理由)を株主に通知することになります(会社法847条4項 なお、不提訴理由通知制度の詳細は、昔の私のエントリー等をご参照ください)。しかし会社法には、どのような場合に提訴しない、という判断ができるのか、その内容については何ら示されていませんので、そこは解釈の問題となります。

上記関電のリリースによりますと、取締役会としては、たとえ特定の監査役に法的責任が認められる可能性が高いとしても、かならず責任追及の訴えを提起しなければならないわけではなく、そこには一定の裁量が認められる、とされています。これは、おそらく取締役が第三者に対して訴訟を提起しなかったことが善管注意義務違反に該当するかどうかが争われた裁判例を参考にしているものと推測されます(東京地裁判決 平成16年7月28日 判例タイムズ1228号269頁以下参照)。当該判例によれば、訴訟不提起が善管注意義務違反に該当するためには、①勝訴の高度の蓋然性、②勝訴した場合の債権回収の確実性、③訴訟追行により回収が期待できる利益が、そのために見込まれる諸費用等を上回ること、等が必要としています。今回の監査役に対する不提訴理由についても、当該判断基準に沿ったものと理解できます。

ただ、上記裁判例は取締役が第三者を訴える場合の事例であり、取締役会が同じ会社の監査役を訴える場合にも同様のことが言えるかどうかは疑問があります。そもそも「不提訴理由通知制度」というのは、平成17年の会社法制定時に「株主代表訴訟の提起を委縮させてしまう」との理由で、国会で修正-訴権濫用却下制度の削除-された形で導入されたので、「どのような場合に提訴しない、との判断ができるのか」という解釈も、あまり会社側に有利に解釈すべきではない、という学説も有力です。

また、監査役を提起することによる「訴訟が会社の信用に及ぼす影響」が(判断理由として)考慮されています。たしかに「金品受領問題を裁判で争う」ということが長く続けば会社のイメージダウンにつながる、という考え方もあるかもしれませんが、一方において、株主代表訴訟によるものではなく、会社自身が監査役を提訴することの「自浄能力」「自浄作用」の発揮こそ、毀損された会社の信用を回復させるための絶好の機会ではないか、とも考えられます(むしろ、私は後者の意見のほうが今回の事例では適切な判断ではないかと考えます)。

おそらく、提訴請求を行った株主の方々は、この関電の判断を前提に株主代表訴訟を提起することになると思われますが、ぜひとも取締役および監査役の責任調査が行われたわけですから、その調査の成果である資料については、原告株主にすべて開示していただき(それが会社法における提訴請求制度の趣旨ではないか)充実した株主代表訴訟及び会社請求訴訟が係属することを希望いたします。

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2019年12月16日 (月)

コクヨvsぺんてる・プラス株式買収紛争-私なりの素朴な疑問

先週末、コクヨ、ぺんてるとも株式買収紛争に関するリリースが出ておりまして、過半数の株式取得を目指していたコクヨさんが46%ほど取得、つまり保有予定株式が過半数に到達しなかった、ということが報じられています(たとえば時事通信ニュースはこちら)。逆にぺんてるさんはプラスさん側の友好的買収の結果と併せて、過半数を超える株式を確保したそうです。ということで(現時点では)コクヨ側の敵対的買収は不発に終わった、と評価されているようです。

本件の報道の途中から「くだらん疑問かもしらんけど、ようわからんなぁ」と思うことがありまして、本件に関するコメントは(一応の結論が出るまでは)書かないでおこうと思っていました。まぁ、とりあえずの決着は先週末に出たように思いますので、このコクヨさんとぺんてる(プラス)さんの買収合戦に関する素朴な疑問を少しばかり書かせていただきます(いえ、本当に思いつきの素朴な疑問です)。

今回、コクヨさんはぺんてるの株主の方々から(たとえぺんてるさんの承認がなくても)確定的に株式を取得し、取得と同時に委任状をもらったと思います(株式譲渡契約書の内容が明らかではないのでメディアの報じるところからの推測です)。この委任状は、臨時株主総会において現ぺんてる役員を解任するために使い、新たにコクヨ側が希望する取締役候補者を選任して、株式譲渡承認に関する取締役会決議を得ることが目的です。

しかし、委任状を取得する目的が「承認決議を得るために取締役を解任する」というのは、権利濫用にはならないのでしょうかね。たとえば取締役の解任、新たな取締役の選任の決議が「特別利害関係人による議決権行使によって不当な決議がなされた」として、株主総会の決議が取り消される、といったこと(会社法831条1項3号)は考えられないでしょうか。

経営していくのに不都合な人が入ってこないようにするために株式に譲渡制限をかける制度があり、ただし一方で株式の自由譲渡性を保障するために譲渡承認に代わる換価手続きが定められているのですから、上記のやり方は会社法が株式の譲渡制限を認めた趣旨を没却するおそれがあるように思うのですが。ちなみに江頭先生の「株式会社法」を読んでも、譲渡先が第三者でも株主でも、この「経営支配への介入を防止する」という意味は同じとされています(江頭「株式会社法」第7版 234頁注3参照)。

ぺんてる経営陣の譲渡承認がなくても、コクヨさんとぺんてる株主との間で株式売買契約が有効に締結できるのは、閉鎖会社の譲渡承認のない株式譲渡の有効性が争われた昭和48年6月15日の最高裁判決(民集27巻6号700頁)が「相対効説」に立ち、平成2年の商法改正も「株式取得者からの譲渡承認請求」を認めたからだと思います。相対効説は「会社に対して効力が及ばないとすれば目的を達成でき、当事者間の契約の効力まで否定する必要はないから」というものです。しかし、コクヨさんのやり方を認めてしまえば、この相対効説の根拠も否定されることになってしまうのではないでしょうか。

もちろん名義書換え未了の時点で譲受人が譲渡人に議決権行使を指示すること、会社債権者が株主の議決権行使に指示を与えることなどもありますから、委任状自体の効力まで否定されることはないと思うのですが、委任状取得の目的が閉鎖会社の支配権取得にある、ということであればちょっと違和感を覚えるところです。

もし、今後コクヨさんのような手法で「閉鎖会社でも敵対的買収が行われる可能性がある」ということになりますと、以前のエントリーでも書きましたとおり、株式が拡散するおそれのある閉鎖会社の場合、早めに定款を変更して「議決権に関する属人的定め」(会社法209条2項、同105条1項5号)を設けることも検討すべきではないかと思います。株主平等原則との関係で、そのような定めを設ける目的が正当かどうか争われた重要判例もありますが、ともかく相続による売渡請求権行使と並んで、会社側の知恵として検討するだけの価値はありそうです。

 

 

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2019年11月18日 (月)

コクヨのぺんてるへの敵対的買収は「TOB」というのだろうか?

コクヨ社がぺんてる社の株式をTOB(株式公開買付)によって取得する意向であることが報じられています。しかし、私の感覚では「TOB」というのは金商法上の公開買付制度を指すもので、ぺんてる社のような非上場会社の株式取得の際には使うのは適切なのでしょうかね?もちろん非上場会社でも有価証券報告書提出会社の場合には金商法上の公開買付規制が適用されますが、ぺんてる社は有価証券報告書提出会社ではありません。したがってぺんてるは公開買付規制に応じる義務はありませんし、委任状勧誘規則の適用もありません。

私は単純に「コクヨがぺんてるから株主名簿を見せてもらえないから、しかたなく公開の場で株式の売却の勧誘をしている」という意味に捉えているのですが、いかがでしょうか(まちがっておりましたら訂正いたします)。ぺんてるはだれが何株持っているのか知っていますから、株主ひとりひとりに勧誘・説得できますし、議決権拘束契約等によって多数派工作を自由に図ることができますから、コクヨにはハンデが生じます。なので株主名簿の閲覧の可否(会社法125条)こそ、大きな問題ではないかと思います。

コクヨ側は平成24年のアコーディアゴルフ事件の裁判例(東京地裁平成24年12月21日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否は会社法違反」と主張すると思うのですが、一方のぺんてる側はフタバ産業事件の裁判例(名古屋地裁岡崎支部平成22年3月29日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否には正当な理由あり」と主張するのでしょうね。ぺんてる社のリリースなどを読みますと、「権利濫用」あたりも根拠にしているようにも思われます。いずれにしても、株式譲渡制限を付けた純粋な非上場会社でも、ファンド(大株主)が出現し、さらに多数の第三者株主が存在するようになりますと、このような買収の脅威にさらされるということです。平時からのリスク管理として特定株式に対する「属人的な定め」を定款変更によって盛り込んでおくことも検討しなければならないように思います。

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2019年10月15日 (火)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定

このたびの台風19号による被害の報道に驚愕しております。被災された皆様には、こころよりお見舞い申し上げます。

さて、週刊東洋経済10月12日号では、昨年の積水ハウス地面師詐欺事件に関する続報が「積水ハウス詐欺被害『封印された報告書』の驚愕」と題して詳細に報じられています。同誌記者が、地面師詐欺事件に関する社内調査委員会報告書の全文を入手し、当該報告書を参考に書き上げたものだそうで、(すでに一部の経済ニュースでは取材記事としては報じられていたものの)「なぜ天下の積水ハウスさんが地面師に嵌められたのか」その実態に迫る内容が示されています。

積水ハウスの取締役の方々が(約55億円の損害賠償金の支払いを求めている)株主代表訴訟の被告になっていることは存じ上げておりましたが、同社がどうしても公開したくなかった社内調査委員会の報告書について、裁判所から文書提出命令が出されていたことは、私はつい最近知りました。というのも、判例雑誌(金融・商事判例1574号-9月15日号)で、この文書提出命令申立て事件の抗告審決定(令和元年7月3日 大阪高裁)の全文が掲載されていたからです。原審、抗告審とも、裁判所は株主代表訴訟の原告側の申立を認めて、同訴訟の補助参加人である積水ハウスに対して社内調査委員会報告書を提出するよう命じています(抗告審は確定し、同社は裁判所に提出-ただし現在は閲覧制限がかかっているようです)。

前記東洋経済の記事を読まれた方は、積水ハウスの組織的な問題などに関心が向くものと思いますが、私はこの文書提出命令の決定内容から、他社でも事件や事故発生時における社内調査委員会を作成した場合には、内容を秘匿したり、概要のみ一部開示するだけで済ませるのはむずかしいのではないか、と感じました。相手方から文書提出命令がなされた場合に、文書提出義務が発生することの根拠となる民事訴訟法220条4号「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」の解釈が問題となりますが、大阪高裁は、平成11年の最高裁決定の立場を踏まえて「自己利用文書」に該当するのかどうか慎重に判断をして「自己利用文書」にはあたらないと結論付けています。

専門性が高いので、ここでは大阪高裁決定の内容を述べることはしませんが、社内調査報告書といっても、まったくステイクホルダーへの説明のためには使わない、といった状況は考えにくいように思います。たとえば上場会社の場合、2016年に公表された「企業不祥事対応のプリンシプル」に沿った形で社内調査を行うことが多いと思います。また、今年6月末に公表された経産省「グループガバナンス実務指針」において示された「有事対応の指針」でも、前記東証プリンシプルとほぼ同じことが示されていますが、社外取締役や社外監査役が委員になって「公表の要否を含めた判断」のために社内調査委員会が発足し、「個人の責任よりも組織としての構造的な欠陥の存否への判断、再発防止策の検討」を目的とした調査が行われます。現経営陣が、事件や事故発生時に対外的な説明責任を尽くすべきかどうかを判断するために、中立公正な第三者的立場にある社外役員に調査を担わせる以上、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」と(会社側が)立証することは困難かもしれません。

ただし、裁判所はインカメラ方式によって対象文書の内容にアクセスできますので(民事訴訟法223条6項)、文書の内容が(開示されてしまうと)関係者のプライバシー権を侵害する場合、団体の自由な意思形成を阻害してしまうおそれがある場合、その他開示によって文書所持者の側に看過しがたい不利益が生じる恐れがある場合には提出命令は出されません。したがって、会社として社内調査報告書をどうしても全文開示をしたくない、ということであれば法律専門家の意見等を聴取しながら社内調査委員会の報告書を作成することを検討すべきでしょうね(もちろん、その姿勢が「コンプライアンス経営」の観点からレピュテーションリスクを新たに生む可能性はあります)。

先日の関電金品受領事件でも社内調査報告書の開示・非開示が問題となりましたし、神戸製鋼品質偽装事件でも(海外当局からの捜査に影響を及ぼすとして)全文開示をしないという経営判断が問題視されました。いずれにしましても、積水ハウスの社内調査報告書に対する文書提出命令申立て大阪高裁決定は、コンプライアンスや危機管理に携わる皆様にとって重要な裁判(決定)であります。

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2019年8月30日 (金)

アサヒ衛陶における第三者割当増資(行使価額修正条項付き新株予約権発行)について第三者委員会委員長を務めました。

本日午後4時に開示されましたとおり、アサヒ衛陶社(コード5341)の第三者割当増資につきまして、東証・企業行動規範に基づく第三者委員会の委員長を務めました。

報告書の概要は、開示書類の15頁以降にかなり詳しく記載されております。財務アドバイザーのご担当者の方から(個々の契約条件下における行使価額修正条項付きの)新株予約権の評価方法について、計算方法(モンテカルロシミュレーション)を含め詳細に説明いただき、「相当性」に関するチェックもかなり委員間で議論をいたしました。法務アドバイザーの法律事務所を含め、関係者の皆様には委員会活動に多大なご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。

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2019年8月21日 (水)

グループ・ガバナンスに関連する重要判例(ベネッセ損害賠償東京高裁判決が全文開示されました!)

今年6月、こちらの「ベネッセ情報流出事件ー親会社に初の賠償命令」と題するエントリーで、6月27日に出された東京高裁判決のニュースをご紹介しておりました。そしてようやく(?)最高裁HPにこの東京高裁判決の全文が開示されましたので、さっそく全文に目を通しました。ベネッセが保有していた顧客情報の管理ミスについて、客観的関連性ありとして、子会社とともに親会社であるベネッセコーポレーション(事業会社)の共同不法行為責任を認めていますね(民法719条 なお、ベネッセグループの完全親会社は持株会社であるベネッセホールディングスです)。

子会社の従業員もしくは子会社の委託先従業員の不適切行為について、親会社の管理監督責任を論じるにあたり、このベネッセの損害賠償東京高裁判決は、昨年のイビデン・セクハラ内部通報最高裁判決に続いて重要な判決になるものと思います(たしか控訴人、被控訴人ともに上告受理申立てをされているので、まだ最高裁でどのような判断が下されるのかはわかりませんが・・・)。

会社法の世界では、グループガバナンスに関する実務指針が公表されて「グループガバナンス」への関心が高まり、またアスクルとヤフーにおける子会社支配権に関連する紛議を通じて「子会社のガバナンス」と「親会社による事業ポートフォリオ管理」の狭間における企業集団内部統制が議論されている中で、このベネッセ情報流出事件の高裁判決は、ぜひとも著名な研究者の方に解説をお願いしたいところです(私のようなごく普通の弁護士ではちょっと大所高所からみた判決の意義を述べることは無理そうですー笑)。

ただ、当判決を読んだ「企業コンプライアンスに関心を持つ実務家」として一言申し上げるとすれば、①グループ親会社の経営トップは情報セキュリティについては重大なリスクとして検討しなければならず、②せめて取締役もしくは執行役員の中に、情報セキュリティに詳しい最高責任者をひとり選任する必要があり、③不幸にして情報流出事故が発生した場合には、自浄作用を発揮することが損害額にも影響を及ぼすことを認識しなければならない(自浄作用を発揮しなければ、役員の株主代表訴訟のリスクが格段に高まる)、ということです。ぜひ多くの方にお読みいただきたい判決文です。

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2019年5月13日 (月)

4年ぶりの父娘対面-大塚家具と匠大塚の和解などありえない(と思う)

4月26日、4年ぶりに父(匠大塚会長)と娘(大塚家具社長)が対面した様子から、マスコミは「父娘の和解進展か?」と報じています。私も対面の様子をニュースで拝見しましたが、大塚家具の社長さんの笑顔とは裏腹に、対面の際、父である勝久氏は表情を変えませんでしたね。笑顔は同伴されていた大塚家具関係者の方のほうに少しだけ向けていました。これを契機に、マスコミも含めて、関係者の多くは父と娘の再会とビジネス上の和解を望む声が上がっています。

私も娘を持つ親として(?)和解してほしいなア・・・とも思うのですが、とてもじゃないけどビジネスとしての大塚家具と匠大塚の和解はありえないと考えています。6年前に発生した紛争は、親族だけでなく、多くの社員の人生を変えました。大きなリスクを背負いながら、社員はどっちについていくべきか悩み、選択に至ったわけです。本家に残った社員も、父とともに新たな会社に移った社員も、おそらく現状を受け入れて生活を送っておられると思います。中には見切りをつけて退職された方もいらっしゃるのではないかと。そういった状況の中で一組の親子の関係解消といった事情によってビジネスを変えるというのは、双方の社員の気持ちを考えると到底むずかしい。都心に一号店を構え、「さあ、これからだ」といった気持ちの匠大塚社員の面前ならばなおさらです。あの対面の際の勝久氏の表情は、そういった組織の事情をそのまま映し出していたと思います。

5月9日の文春オンラインのニュースでは、勝久氏自身も「会社が一緒になることはむずかしい」とインタビューに回答しておられます。週刊文春5月16日号の関連記事も読みましたが、大塚家具社長の実弟(匠大塚社長)の方が「久美子さん」という呼び方でインタビューに応じているのが印象的でした。資産管理会社を訴訟に巻き込み、さらには本家大塚家具の委任状争奪戦にまで至った騒動を経験すれば、親族の間でも和解はむずかしいようです。ビジネスの上では到底和解が困難だとすれば、あとは誰にも気づかれないところで(ひっそりと)父娘での個人的な仲直りができればいいな(でもそれをマスコミは報じてほしくないな・・・)と、個人的には願うところです。

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