2018年8月15日 (水)

経営権紛争における弁護士費用の支出と取締役の任務懈怠

大株主と現経営陣との経営権争いにより、現経営陣が委任状争奪戦に敗れて会社を去るケースをときどき見かけます。たとえば今年の6月総会では、私と一緒に某社で社外取締役をしていた女性社長さんが、業績不振を理由に45%程度しか取締役選任票が集まらず、大株主から信認を受けた新社長さんに経営トップの地位を譲り渡すことになりました。マスコミでもかなり報じられましたが、自ら上場を果たした会社だっただけに、さぞや悔しかったと思います(ただし、彼女は3分の1以上の株式を保有しているので、まだまだ争いは続くかもしれませんが)。

そして、こちらも元社長さんは存じ上げている方ですが、資料版商事法務2018年7月号に、伊豆シャボテンリゾート元代表取締役に対する損害賠償請求控訴事件の判決全文が掲載されておりましたので、精読いたしました。JASDAQ上場の伊豆シャボテンリゾート株式会社といえば・・・、そうです、「カピバラが大好きなよいこのみなさん」ではなく、「香ばしい会社が大好きなよいこのみなさん」はもうおわかりのとおり(笑)、かの有名な高橋篤史さんのご著書「兜町コンフィデンシャル」(2009年)にも(旧商号オ〇ガプロジェクトで)登場する著名な会社さんですね。私も10年ほど前、当時の伊豆シャボテンさんにとてもゆかりの深い方が実質支配をしていた別会社のトンデモ事件に関する第三者委員会で「市場を闊歩する愉快な人たち」とシノギを削っておりました(なつかしい~!)。

さて、その伊豆シャボテンリゾートさんでは、平成25年から26年当時、元社長さんと大株主の皆様とで壮絶な経営権争いを演じ、経済紙や法律雑誌等では粛々と株主総会決議無効確認訴訟の様子や第三者割当の新株発行の差止仮処分、議決権行使禁止の仮処分の様子が報じられておりました。結局は、同26年11月開催の臨時株主総会にて、当該社長さんは解任(登記簿上は退任)されてしまったわけですが、このたび資料版商事法務に掲載された判決は、現在の伊豆シャボテンリゾートさんの経営陣が、元社長さんに「不必要な弁護士費用を会社から捻出させたのは任務懈怠だ」と主張して損害賠償を求めていたものです。つまり、元社長さんが経営権争いに負ける可能性が高まっていたにもかかわらず、元社長さんは「会社のため」として3つの法律事務所から当時の経営陣の支配権を確保するための助言を得ていたのですが、その弁護士報酬をすべて会社から支出していました。その支出は元社長個人の利益のために使われたものであるから、会社から支出した行為は任務懈怠(善管注意義務違反)だと会社側(現経営陣)が訴えました。

原審(東京地裁第8民事部)は、会社側の主張を認めて、元社長さんは敗訴したわけですが、控訴審(東京高裁第11民事部)は、逆転で会社側敗訴、元社長さんの全面勝訴と相成りました。つまり大株主との経営権争いのために現経営陣(当時)が経営支配権維持のために要した弁護士費用については、これを会社負担で捻出したとしても任務懈怠にはあたらない、との判決内容です。ただし、ミスリーディングを防ぐために申し上げますが、経営権維持を目的とした弁護士費用が常に会社負担でも大丈夫、というわけではなく、本事例に特有の「ある事情」があるために元社長さんが勝訴した、という点には注意が必要です。その「ある事情」というのはどういうことかは、資料版商事法務をお読みいただければわかると思います。たとえば富士通元社長さんへの辞任要求に関する損害賠償請求訴訟事件などを、このブログでも何度か取り上げましたが、富士通元社長さんが敗訴した判決理由につながるような事情です。会社の経営権争いなどに関与される法律家の皆様にはぜひお読みいただきたい判決です(ちなみに、上記資料版商事法務には原審判決も掲載されています)。

ところでこの判決の解説を読んでいて初めて知ったのですが、第三者委員会の調査が進むことにより、自身が関与した不正が明るみに出ることをおそれ、コンサルタント会社に相談をした元社長さんに関して、コンサルタント報酬を会社から支出した行為が任務懈怠とされた裁判例(会社から損害賠償請求訴訟を提起されて元社長さんが敗訴した裁判例)があったのですね。しかもよく読むと、こちらも私が現社長さんを存じ上げている会社(東証1部)であり、当ブログでも何度もこの経営権争いを取り上げた会社さんです。(名古屋地裁平成27年6月30日 金融商事判例1474号32頁。なお、名古屋高裁判決も出ていますが、そちらまでは調べておりません)。

取締役の不正とまではいえなくても、たとえば不正の発覚によって善管注意義務違反による民事賠償責任を問われる可能性が高まることをおそれて、取締役が不正の発覚を免れるための弁護士費用などを会社が支払った場合、これもやはり任務懈怠になるのでしょうかね?企業の自浄能力の発揮が社会的に求められる時代になりますと、そういった有事の対応自体が取締役にとってヤバイことになるのであれば、うーーーん、今ドキ、かなりドキドキされていらっしゃる会社の役員さん方もいらっしゃるような気がいたします(笑)。まあ、どことは申しませんが・・・・・・(*´Д`)

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2018年4月16日 (月)

利益相反行為への関与と企業年金損害との因果関係を認めた判決

この6月に施行が予定されているコーポレートガバナンス・コード改訂2018(案)では、自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業自身が取組むことを要請しています。最終受益者たる従業員の資産を預かる立場として、スチュワードシップ・コードへの署名を促し、併せて事前規制による基金の健全性確保を図ろうというものだと理解していますが、司法が関与する事後規制という意味でも重要と思われる判決が出たようです。

4月13日(金)日経新聞の夕刊(社会面)によりますと、年金基金(九州石油業厚生年金基金-すでに解散)が、同基金の資産を運用していたファンドの元社長を被告として争っていた損害賠償請求訴訟において、元社長の損害賠償責任を認める控訴審判決(東京高裁)が出ました。当該年金基金には年金コンサルタントが助言をしていたそうですが、このコンサルタントに、「うちのファンドに資産を預けてもらえるように助言してくれれば、その資産額に応じてフィーを払う」と同ファンドが約束し、実際にも当該コンサルタントの助言によって多額の基金が預けられました。しかしながら、その運用結果として260億円以上の損失が基金に発生したそうです。控訴審では、ファンドの元社長による「(コンサルタントの)利益相反の助言への関与」について故意の不法行為が成立するとして157億円の賠償義務を認められています(ただし、請求額は1億円とのこと)。

基金側の代理人は「今回の判決は、ファンドや年金コンサルタントに警鐘を鳴らしたものといえる」と述べておられます。なお、利益相反行為は年金コンサルタントが行ったものであり、その利益相反の助言に関与したものとしてファンドの元社長さんの不法行為が認めらていますが、ファンド自身への損害賠償請求は棄却されているようです(ちなみにファンドとしては「双方代理」の事実を年金基金側には伏せていたそうです)。元社長の行為に対する違法性判断を含め、いろいろと論点はありそうで、そもそも「双方代理」については行政処分をもって事後規制を図るべきとの意見もありそうです。

本件では利益相反行為を助長した関係者個人の民事賠償責任が認められたところに大きな意義があるだけでなく、役員個人による利益相反行為の関与(助長行為)と基金の損失・損害(157億円)の間に相当な因果関係が認められた、という点にも興味が湧きます。何度も繰り返し、当該ファンドへの資金移動があり、その都度コンサルタントへの報酬が支払われたようなので、どういった理屈で因果関係が認められたのか、ぜひとも判決文を読んでみたいところです。

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2018年4月10日 (火)

会計監査人、内部告発者に参考となるエフオーアイ事件高裁判決

今年の3月23日に東京高裁で言渡されたエフオーアイ事件控訴審判決の速報版は3月26日付けエントリーで書きましたが、ある事件関係者の方から「研究資料にしてください」ということで判決全文を頂戴いたしました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。一審で敗訴したエフ社の監査役と元引受証券会社が実質的に控訴をしていましたが、監査役さんの控訴については棄却、元引受証券会社さんの控訴については逆転で責任(損害賠償責任)が否定されるという結論になっています。

元引受証券会社の責任を否定した判決理由部分をザックリまとめますと、

引受審査の場面においては、元引受証券会社は企業会計及び会計監査の専門家である公認会計士等と同等の作業を重畳的に実施させる実益は乏しく、専門家との合理的な役割分担の下で効果的な審査の実現を図るのが金商法の趣旨であると解される

監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情が判明した場合、元引受証券会社は、自ら財務情報の正確性について公認会計士等と同様に実証的な方法で直接調査する義務はなく、一般の元引受証券会社を基準として通常要求される注意を用いて監査結果に関する信頼性についての疑義が払しょくされたと合理的に判断できるか否かを確認するために必要な限度で追加調査を実施すれば足りると解すべきである

財務情報には明らかに不自然点があり、二度にわたる内部告発が元引受証券会社に届いたのであるが、元引受証券会社としては、公認会計士等による監査結果に関する信頼性に疑義が生じた場合に該当するものとして、一定の追加調査を行っており、それは通常要求される程度の調査を行ったと評価される。よって「相当な注意を用いた」といえる、つまり元引受証券会社には過失はない

といった論旨です(元引受証券会社の主張に対しては、高裁はかなり詳細に理由を述べているので、興味のある方はぜひ判決全文をお読みください)。会計監査人の監査結果への信頼・・という点が、元引受証券会社の免責の根拠として重視されています(いわゆる「信頼の原則」の適用。なお金商法21条1項4号、17条の解釈あり)。本判決の結論からみると、財務情報に違和感のある場合はもちろんですが、それ以外、たとえば内部告発が会計監査人に届いた場合などにも、会計監査人の注意義務違反、善管注意義務違反の有無が慎重に判断されるものと思われます。エフオーアイ事件訴訟では、会計監査人は早々に和解をされたようですが、監査法人(会計監査人)には(行為規範を考える上で)おススメの判決ではないかと。

なお、本判決を詳細に読みますと、内部告発の工夫次第では元引受証券会社をかなり追い詰めることもできそうですね(まぁ、今回もかなり追い詰められたわけですが・・・)。会計監査人や元引受証券会社、さらには取引所に対して深度ある調査を求めたいのであれば、内部告発人としては告発文書の書き方に注意をすべきと感じました(そういえば先日のイビデングループ・セクハラ最高裁判決でも、「通報者が何を会社に要求していたのか」ということが論点になっていました。あまり詳しくはここで論じることはしませんが、内部通報や内部告発にもコンプライアンスに精通した代理人が就くことが重要かもしれません)。

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2018年3月27日 (火)

報告書の全文公表と弁護士秘匿特権の放棄

今朝(3月26日)の日経法務面に「訴訟対応か説明責任か-不祥事調査の全文公表で『秘匿特権』の放棄も 企業の新たな課題に」といった見出しの特集記事が掲載されています。そこでは神戸製鋼さんと東芝さんの第三者委員会報告書のジレンマが取り上げられていますが、(偉そうに語るわけではありませんが)当ブログの2015年7月21日のエントリーにて、すでにこの問題を取り上げておりまして、ただ、当時はあまり皆様に注目されておりませんでした(笑)。

このたびの神戸製鋼さんの場合は、すでにDOJから書類調査要請があり、またクラスアクションも提起されている状況なので、訴訟リスクという観点からは全文公表を控えるということもあり得ます(なお、第三者委員会は設置されているわけですから、独立公正な立場での調査に応じているのであれば弁護士秘匿特権は放棄されているのではないか・・・という根本的な問題は残っているように思いますが・・・)。ただ、だからといって他社事例でも保守的に考えると神戸製鋼さんと同様の対応が無難、とまでは言えないように思います。

先のエントリーを書いた当時、私は「東芝事例は第三者委員会報告書制度の限界ではないか」・・・とも思いましたが、最近は「訴訟対応か説明責任か」といったような明確な二分論はあてはまらず、やりようによっては調和(バランスをとること)も可能ではないかと考えています。なぜなら、不祥事の原因究明の本旨は「関係者の責任追及」ではなく、再発防止に向けた不祥事発生の「根本原因」に向けられるようになったからです。

もちろんディスカバリーが問題となるような不正事案は、経営者が関与していたり、組織ぐるみの不正が行われていた場合ですが、会社が説明責任を尽くす必要があるのは「中長期の企業価値を向上させるにふさわしい企業の品質」の有無です。最近の調査委員会は、企業の品質を見極めるために「根本原因」つまりガバナンス、内部統制、そして組織風土(コンプライアンス意識の有無)に光を当てて説明をしなければならないわけで、そこでは秘匿しなければならない個々の役員の事情よりも、いわゆる「組織の構造的欠陥」を解明することに力点が置かれる傾向にあります。したがって、全く訴訟リスクがないとまでは申しませんが、秘匿特権が保護する内容と第三者委員会が調査をする内容とでは少し違うのではないかと考えています。

第三者委員会制度というのは、あまり諸外国にみられる制度ではなく、一番近い制度を持つカナダでも、調査をするのは裁判官だとある研究者の方からお聞きしました。したがって、果たして弁護士秘匿特権や弁護士作成書面(プロダクツ)に該当するのかどうか、たしかに微妙な問題を含んではおりますが、訴訟の数が極端に少ない日本ならではの利点もあるわけでして、「公表したくない」という企業側の後ろ向きの姿勢を正当化するような使われ方だけは「企業の品格」を疑われることになりますので回避すべきと思います。

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2018年3月26日 (月)

エフオーアイ損害賠償請求訴訟の控訴審判決ほか(最近の話題)

土曜日(3月24日)の日経朝刊記事には2度驚きました。すでに当ブログでは何度も報じておりましたエフオーアイ事件の裁判ですが、控訴審判決が出て、みずほ証券さんの損害賠償責任が否定されたそうです。もうひとつのエフオーアイ裁判(エフ社の架空売上の発覚を妨げた取引先従業員の法的責任を認めた判決)も影響したのかもしれませんが、「みずほ証券がエフ社の取引先への調査で販売実績を確認しており、通常要求される注意義務を尽くしていた。したがって相当な注意を払ったが有価証券届出書の虚偽記載を知ることはできなかった」と判断された、とのこと。

本件はエフ社の従業員による内部告発(取引所、監査法人等への情報提供)によって調査が開始されたものですが、当該告発が調査にどのような影響を及ぼすものなのか、とても関心を寄せています。ぜひまた控訴審判決の全文を読んでみたいところです。本件には東京の大手法律事務所の皆様がたくさん関与されていますので、またコソっと要旨だけでもお教えいただければありがたいです・・・笑

そしてもうひとつの驚きが同じ社会面に掲載されていたリニア工事の捜査に関する記事でした。たしか経済紙にあった風評ネタではJR東海による地検への告発が捜査の発端のように書かれていましたが、実は大手ゼネコン社員による地検への告発が発端だったのですね。いや、これは私も存じ上げませんでした。昨年に改訂された「従業員からの通報に関する国の行政機関のガイドライン」では、行政機関が捜査の端緒として「内部告発による」という点も秘匿されることになりましたので、この点が明らかになったのは意外です。

告発をした社員がどのような意図で情報を提供したのかはわかりませんが、果たして当該告発社員に代理人弁護士がついていたのかどうか、どれほどの社内証拠を持ち出して地検捜査の協力をされたのか、といったところが、また内部告発に関連する話題としては興味があります(おそらくこのあたりの事実は絶対にオモテには出てこないと思いますが)。上記の日経記事でも取り上げられているとおり、最近は日本版司法取引への関心が高まりつつあります。しかし、私的にはむしろ「国の行政機関向けガイドライン」の改訂によって、従業員の行政機関への内部告発が飛躍的に活用しやすくなっている点のほうが企業には大きなリスクになっているのではないかと感じております。

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2017年10月24日 (火)

ベネッセ情報流出訴訟最高裁判決と取締役の個人情報管理義務

過去に何度か当ブログでも取り上げたベネッセ情報流出訴訟ですが、本日(10月23日)、最高裁で原審破棄、差戻しの判決が出ました(本件を報じる弁護士ドットコムニュースはこちらです。なお判決文の全文は最高裁のHPで閲覧できます)。

日本ネットワークセキュリティ協会によりますと、昨年公表された個人情報流出事件は468件で、計約1400万人分の個人情報が流出しているとのこと。マスコミでも大規模な個人情報漏えい事件がときどき報じられていますが、漏えいを許した企業側に情報管理面における過失責任はないのか、あるとすれば個人情報の価値とはどの程度のものか。このような素朴な疑問への回答も含め、改正個人情報保護法が施行された中で、今後の企業側の安全管理措置の在り方に一石を投じる判決といえそうです。

私も10月3日付けビジネスローヤーズのニュースでコメントしておりますが、法律専門職の方々の間では「破棄、差戻し」判決はある程度予想されたところではないでしょうか。私自身は高裁判決を読まずに取材に応じておりましたが、高裁は「控訴人(原告)は、具体的な損害を主張立証していない」として、その余の争点を論じるまでもなく控訴を棄却したようなので、もし控訴人(原告)に損害(たとえば精神的損害)が発生しているのであれば、委託先業者だけでなく再々委託元であるベネッセに不法行為が成立する根拠法令や事実についてもきちんと審理する必要があるだろうな、と思っておりました。

本件は再々委託先業者のミスによって顧客情報が流出したものではなく、再々委託先従業員による故意の情報取得行為によって流出した点に特徴があります。「なぜ情報管理を委託している会社の、そのまた先の業者の犯罪行為について、委託元が責任を負わねばならないのか」といった自然な疑問が湧いてくるところです。ただ、基本的には再々委託業者従業員による不法行為の責任は、民法715条(使用者責任)を根拠として認められる可能性が高いように思います(過去にも委託先従業員のミスによる情報流出事件ですが、報奨責任原則によって委託元の「指揮監督関係」が広く認められた判決があります-東京地裁平成19年2月8日判決・判例時報1964号 113頁以下参照)。

ところでこの上告審の後にはベネッセ個人情報被害者による集団訴訟の判決が控えていますので、この最高裁判決の重みを感じます。差戻後の判断が集団訴訟に影響を与えることは間違いないわけですから、ベネッセが負担する損害賠償金額は(ひとりひとりの被害者の損害は1万円~5万円程度だとしても)かなり大きな金額になることが予想されます。会社の業績に与える影響は微々たるものかもしれませんが、恐ろしいのは当時のベネッセの役員責任を追及する株主代表訴訟の提起ではないでしょうか。

そこで委託元会社の役員が個人情報をどのように管理すれば任務懈怠とならないのか、そのレベル感を示す指針として、経産省や個人情報保護委員会が示すガイドラインが参考になるところです。経産省ガイドラインは個人情報保護法の改正に伴い廃止され、現在は個人情報保護委員会作成の個人情報管理ガイドラインが公表されています(平成29年3月一部改正)。法人責任を認容する根拠となる使用者責任とは異なり、取締役等の責任を認容する根拠となるのは、内部統制システムの構築義務違反(善管注意義務)ということになるでしょうから、もし責任を追及する訴訟が提起された場合には、経産省や個人情報保護委員会が作成するガイドラインが事実上のモノサシ(判断基準)になりそうです。

 

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2017年9月 7日 (木)

株主代表訴訟(責任追及訴訟)はなぜ減少しているのか?

株主主権によるコーポレートガバナンスといえば、これまで株主代表訴訟の活用事例が「代名詞」のように話題になりましたが、最近はそれほど新聞紙上を賑わすような事例も見当たらないような気がします。旬刊商事法務2138号(7月5日号)によりますと、平成28年の株主代表訴訟の新受件数(地裁へ提訴された件数)は、一年間でわずか36件とのこと。5年前(平成24年)には106件だったのですが、その後毎年新受件数が減少傾向(激減傾向?)にあります(最高裁調べ)。

ただ、私が勝手に調査した内容からしますと、株主代表訴訟の被告役員側の敗訴率は、それほど低下していない模様です(和解、取下げといった終結動向を含めても)。つまり株主から提訴されると、それなりに役員側が敗訴する確率は変わっていないということです。ではなぜ、これほどまでに株主代表訴訟の提訴件数が落ち込んでしまったのでしょうか。以下は、私の勝手な推測です。

1 アベノミクス(第二次安倍政権における経済戦略)による会社業績の向上、株価の上昇

これはまちがいないと思います。株主代表訴訟が提起され、原告株主が勝訴するためには、取締役の違法行為によって会社に金銭的損害が発生していることが要件となります。しかし、上場会社の業績が好調であれば、いくら取締役の違法行為を糾弾しても、そもそも会社に(目に見える形で)損害が発生していない、ということが考えられます。平成24年以降の企業業績、株価高騰の中身をみると、この要因が大きいのかなぁ(役員の最大のリスクヘッジは業績を上げること)と感じます。

2 第三者委員会、社内調査委員会等の活躍

最近は、企業不祥事対応のプリンシプル等に従い、企業不祥事が発生した際には中立公正な第三者による委員会、社外役員を中心とした社内調査委員会を設置する企業が増えていますが、この調査委員会の判断が株主による提訴に影響を及ぼしているものと考えます。事実認定だけでなく、中には役員の責任判定委員会のような調査委員会も立ち上げられますので、この委員会で「役員の責任なし」との判断が下れば、株主もその判断を尊重する、といった事態もある程度存在するのではないか、と思います(だからこそ、「なんちゃって委員会」の横行が問題視されることにもなるのですが)。

3 平成20年以降の「経営判断」に関わる最高裁判決(決定)の変遷

今年2月~3月にかけて、私が日本監査役協会の講演でも述べてきたことですが、平成20年代には、取締役会の経営判断が問題となった重要裁判において、役員もしくは会社が高裁では敗訴したにもかかわらず、最高裁では逆転勝訴したものがとても多いのです(たとえば日本システム技術、アパマンショップ、アートネイチャー、ジュピターテレコム等)。経営判断への司法の関与について、株主側からみればずいぶんと消極的に見えるのではないでしょうか。これらは株主代表訴訟ではないものもありますが、やはり役員の責任追及を検討する株主にとっては提訴の意欲をかなり減退させているように思われます。ただし、シャルレMBO頓挫事件の高裁判断のように、経営判断のプロセスが不適切であり、たとえ株主には損害が発生せずとも、会社に余計な支出を余儀なくさせたような場合には、その会社損害の賠償が認められるケースもあるので注意は必要です。

4 株主代表訴訟以外の株主による責任追及の多様化

最近は任務懈怠が認められる役員への責任追及は、会社が自浄能力を発揮する、つまり会社自身が原告となって役員の責任を追及する例も増えています(たとえばオリンパス事例や、先日ご紹介したフタバ産業事例等)。また、株主代表訴訟よりも役員の責任追及が容易となる金商法21条による開示責任などを活用する一般株主の方もいらっしゃいます。したがって、株主代表訴訟の新受件数が減少傾向にあるからといって役員の「提訴リスク」が低下しているわけではなく、むしろ他の提訴手法によって「敗訴リスク」は高まっているのかもしれません。

以上、十分な検証もせずに勝手な思い付きで「要因」と思われるところを並べてみましたが、現在法制審会社法制部会で議論されている来年の会社法改正が株主代表訴訟の減少傾向にどのような影響を及ぼすのか(全く影響はないのか)、という点も気になります。今後は改正予定項目などを精査してまた探ってみたいと思います。

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2017年7月19日 (水)

出光興産公募増資差止却下決定-どうなる即時抗告の行方?

(午後5時に即時抗告の決定-公募増資を認める決定-が出たようなので、以下の文章をお読みになるにはご注意ください)

某社役員の方の御紹介で、初めて経営法友会の月例講演会でお話をさせていただきました(ホテルモントレ大阪)。法務部の方が集まる勉強会でお話をするのは一面において話しやすいのですが(前提のお話をとばしても理解してもらえる安心感!)、一面においては話しづらい(私よりも法務のスキルが豊富!)というものでして、かなり緊張いたしました。ただ、私のような弁護士でも、「どうしたら御社の法務部と社長の部屋を近づけることができるか」「どうすれば法務出身の役員を増やすことができるか」と、その方策を真剣に考えているのです。単に法務部の地位を向上させるというものではなく、「法務を大切にする企業こそ事業価値を上げることができる」と確信をしておりますので、法化社会の実現のために今後も法務部の方々とコミュニケーションをとれる機会がありましたら積極的に参加したいと思っております(と、こういったことを申し上げると、当ブログの常連の方々からはご異論が出てくるのですよね・・・笑)。

さて、マスコミで既報のとおり、本日(7月18日)出光興産の公募増資の差止を求める仮処分申立事件の東京地裁決定が告知されまして、申立人(債権者)である創業家ら6名の申立ては却下されました。私の予想は7月4日付けのこちらのエントリーで書かせていただいておりましたが、「取材に協力していただきたい」とのことで、マスコミの方から「決定要旨」を見せていただきましたので、事実及び理由の要旨を読みました。素直な感想として、東京地裁の却下理由は、私が予想していた以上に「どっちに転んでもおかしくないほどギリギリの判断」から産まれたような印象です。

このブログでもご紹介していた2014年11月のアルファクス・フード・システム事件、当ブログでは名前を伏せながらご紹介していた2017年1月のデジタル・デザイン事件の増資差止仮処分申立て事件では、差止認容決定が続いておりました。両事件とも、出光興産事例と希釈化率はそれほど変わりません。したがって「どうも最近の裁判所は『主要目的ルール』(増資差止の判断に用いる裁判所のモノサシ)を厳格に適用する傾向が強い、だから本件でも差止が認められる可能性が高いのではないか、最後は第三者割当ではなく公募増資を会社側が選択した点を裁判所がどうみるか、という点で勝負が決まるのではないか」と私自身は考えておりました(詳細は前掲7月4日のエントリーをご覧ください)。

この点、このたびの東京地裁は、最近の主要目的ルールの厳格適用の傾向を踏襲している、つまり両当事者にとって公平な立場でモノサシを適用をしているものと思います。「本件新株発行については、債務者経営陣が自らを有利な立場に置くとの目的と資金調達目的とが併存するというべきである」「ベトナムへの戦略的投資なる資金調達目的は、経営権争いの中での会社側主張としては合理性がない」といった決定理由の内容は、かなり裁判所としても悩ましい判断過程だったことをうかがわせます。公募増資事案だから、第三者割当増資のように支配権確保目的での増資とは推定できない、といった荒っぽい枠組みを採用するのではなく、公募増資であったとしても支配権確保の目的は経営者側に一応認められるとして、ただ「増資の主要目的は何か」という判断の一要素として取り上げているにすぎないのです。

本件増資の主要な目的は何か・・・、という点を判断するにあたり、裁判所は①公募増資は第三者割当増資よりも取締役に反対する株主の支配権を減弱させる確実性は弱いこと、②本件新株発行後、直ちに株主総会が開かれる見込みはなく、創業家の反対を押し切ってまで昭和シェルとの合併承認決議を目的とする臨時株主総会を招集するなどの行動に出るおそれが高いとも認められないこと、他方③債務者には借金返済という資金調達の必要性は客観的に認められる、として、最終的には「主要な目的が、客観的な資金調達目的ではなく、債務者経営陣らが自らの有利な立場に置くとの目的であるとまで断定することはできない」と結論付けています。主要目的ルールに関する既存の判断枠組みを相当厳格に踏襲した分、①~③まで、結論に至る判断理由には裁判官の主観的な価値判断が色濃く出ておりますので、創業家側としては合理的な反論は十分可能ではないかと(とくに③の理由は、会社側の情報開示の姿勢と大きく関わります)。

となりますと、まだ明日、明後日の即時抗告の決定の行方が気になるところです。ライブドア事件では、東京地裁決定よりも、東京高裁の抗告審決定のほうが大きな話題となりましたが、今回も、地裁判断とは少し内容の異なる判断が出てくる可能性はありそうです。過半数を争う支配権争いではなく、会社の根幹に関わる決定権限(3分の1)を排除するような支配権争いについて、もっと明確なモノサシがあったほうが良いのではないか、いやそもそも2分の1ではなく3分の1を排除するほうが、さらに機関における権限分配法理は貫徹されるべきではないのか、といったあたり、高裁としても今後の別事件を想定した判断がなされる可能性もあると思います(ただ、実質審理を行うにはあまりにも時間が少ない、という点はありますが・・・)。

12年前のライブドア事件の新株予約権差止仮処分事件でも、その後の学説や実務に大きな影響を及ぼしたのは保全抗告の判断(高裁判断)でした。今回は「創業家vs会社」という図式でしたが、これが最近順風が吹いている「モノ言う機関投資家vs会社」という図式でも成り立つのでしょうか?うるさい機関投資家が株を買い上げたら、今回の手法で現経営陣は支配権を維持できるのでしょうか?あまり外に情報を出したがらない企業ほど裁判では有利になるのでしょうか?そういったケースではマスコミや世間はどちらを応援するのでしょうか?そう考えますと、高裁は(たとえ結論は変わらないにしても)少し地裁とは異なる論理構成で決定を出す可能性はありますし、また今回の地裁判断で創業家側も「まだまだ」といった気持ちで臨んでおられるのではないかと推測いたします(この地裁決定理由からすると、たとえ公募増資が行われても、株主総会開催禁止の仮処分とか、合併差止の仮処分とか、創業家側としてもいろいろと手はありそうですね。なお、以上は場末の弁護士による野次馬的即興コメントなので、株式の売買は自己責任にてお願いいたします)。

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2017年7月 4日 (火)

出光興産経営陣の公募増資決定に創業家株主は対抗できるか

(7月4日午後2時50分追記あり)

既報のとおり、出光興産さんは7月3日の取締役会で、公募による新株発行を決定したそうです。4800万株発行し、約1385億円を上限に資金を調達を行うとのこと。調達目的は、借入金の返済、海外事業の運転資金や成長投資に充てるためと説明していますが、経済紙等では昭和シェル石油との合併に反対する出光創業家の持ち株比率を希薄化し、早期の合併実現を図る狙いがあると報じられています。

これに対し、創業家側は同日、「創業家の議決権比率を希薄化する目的は明らか」(代理人弁護士)とのコメントを発表し、裁判所に増資差し止めの仮処分を申し立てるそうです。膠着状態に陥っていた出光合併問題が、いよいよ動き出しましたね(私には素直に出光側が「強行突破」に出たものと映りますが・・・)。

※・・・会社法210条2号は、会社が新株発行が「著しく不公正な方法」によって行われた場合には、株主が不利益を受けるおそれがある場合に発行を止めることができる、とされています。なお、早く止めないと、この210条2号の請求ができなくなる場合には、民事保全手続きを活用することも認められています。本件で問題となっているのは、この差止の仮処分のほうです(以上、追記しました)。

日経ニュースでは、すでに著名な法律家の方々が、創業家が不公正発行として差止仮処分を申し立てた場合、どちらが優勢か・・・といったコメントを出されています。私はというと、「匿名の弁護士」の方がおっしゃるように、本件が「第三者割当」ではなく「公募増資」であるところがポイントではないかな・・・と思っています。支配権争いが顕在化している会社について、新株発行の公正性への裁判所の対応が近年かなり会社側に厳しくなっていますが、「経営陣が株主構成を決める(だから不公正なのだ)」という点で第三者割当増資の事案が議論の中心です。2014年12月に公表された日本取引所(自主規制法人)さんの「エクイティにおけるプリンシプル」でも、第三者割当による支配権維持目的でのエクイティが問題とされています(出光さんはすでに事前相談に行かれてOKをもらっているのでは?)。

ただ、「公募増資」といっても、引受証券会社は「企業価値が上がる」と推奨して投資家に転売するわけですから、(創業家が買い増さないかぎり)現経営陣の経営に賛同する投資家が応募するわけで、応募した株主が創業家の方針に賛同するとは思えません。つまり公募増資といっても、効果からみれば現経営陣が自分たちに賛同してくれる株主を増やすことになるわけですから、どれだけ第三者割当と異なるのでしょうかね?(^^;;「総会直後の公募増資決定」というのは、一面において支配権目的を希薄化させる効果がありそうですが、別の一面においては公募増資としての意味を減少させる効果があるように思います。

会社法が予定している範囲での株式価値の毀損・・・という意味では、公募増資による資金調達は(何ら不公正な発行とは思えないので)差し止められないと思うのですが、「創業家支配の希薄化」という意味では、単純に「公募増資だから」という理由だけで「不公正ではない」とは言い切れず、差止が認められる可能性が残るような気がします(でも会社側にとって一番オソロシイのは、創業家と歩調を合わせる金主が登場して買い増しに動くことではないでしょうかー「仁義なき戦い」の引き金を引いたのは会社側だから・・・ということで)。

 

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2017年6月28日 (水)

取締役会の経営判断プロセスを刻銘に記載した監査役会報告書

本日もJリーグ運営組織の経営トップに近い方がパワハラで辞任されたという記事が出ていました。国内外を問わず、経営トップや政治家がパワハラで一発アウトとなる時代になりましたね。先日、ある講演で「どんなに仕事ができる方でも、パワハラで一発退場になる時代になりました」とお話したら、ある大きな派遣会社の女性役員の方から「その言い方はパワハラを許容している人の典型的な表現ですね。パワハラをする人は、それだけで『仕事ができない』ということです」と指摘されました。

さて、本日は会社側上程議案(監査役への退職慰労金支給議案)が否決された件、基準日をずらして総会開催日を7月以降にずらす定款変更決議がなされた件等もありまして(?)、またしても株主総会関連のお話です。

コメント欄にて「金融関係」さんから教えていただきましたが、アークン社(マザーズ上場)の監査役会報告書がなかなか素晴らしい(?)内容なので、タカタ社の話題に関するエントリーを用意していたのですがこちらに変更。昨年5月に同社からリリースされた「平成 29 年3月期通期業績予想値と実績との差異及び特別損失の計上に関するお知らせ 」記載のとおり、同社が引受けた社債の実質価額が著しく低下したため、減損処理を行い、同社は約2億円の投資有価証券評価損を計上しました。そして、社債引き受けを決定した経営判断に問題がなかったのか、監査役会が監査報告においてコメントしています。以下、監査役会報告書より引用-

なお、事業報告に記載のPPC社発行の転換社債2億円を引き受け、今期中に特別損失となった件については、平成28年12月の臨時取締役会で転換社債の購入議案が上程された時に監査役会として準備、調査不足を理由に議決に反対の意思を表明しました。しかしながら、当社として低迷する営業成績を回復させるために中長期的な新しい事業の柱を模索していること、多少のリスクを取らなければ現状を打開できないこと、またPPC社に取締役を派遣し資金決済もチェックするなど統制を効かせることで当社のリスクを低減させるという取締役会の判断に一定の理解を示すこととしました。-引用終わり

監査役の方々が、ここまで踏み込んで監査意見を書くというのも珍しいですね。取締役会としては「イチかバチかの勝負に出た」というのではなく、一応リスク管理をしたうえでの判断だったということの弁明でしょうか。しかし監査役会は、準備や調査が不足しているから反対の意思を表明した、と述べておられます(ちなみに同社にはおひとり、社外取締役さんがいらっしゃいます。常勤監査役の方は「システム監査や金融庁検査などの被検査部門の責任者として対応した経験を有する。システム管理、システム監査、内部統制などについて知見がある」方だそうです)。とりあえず取締役の方々には重大な善管注意義務違反はなく適法と判断した、監査役の意見が無視されたとしても問題はない、ということかと。それとも、これは「モノ言う監査役」としての抵抗の姿勢なのでしょうか(そうとれるようにも思えます・・・)。

経営判断の法的判断は読者の皆様におまかせするとして、いずれにしましましても「攻めのガバナンス」の時代、このようなたいへん透明性のある監査役会報告書には、とても興味がございます。

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