定時株主総会前後における社外役員の逮捕-企業の有事対応の視点
元大阪地検検事正であり、企業の危機管理・コンプラ対応でご高名な弁護士の逮捕が6月25日午後にメディアで報じられました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。関西在住の同業者の一人としてたいへん驚きましたが、この方は6月25日の午前中に開催された上場会社A社の定時株主総会において社外監査役として選任されたばかりであり、また来る27日に予定されている上場会社B社の定時株主総会でも社外取締役候補者として選任される予定となっています。
不正行為はこの方が検察官だった時代に起きたものと報じられておりますが、このようなケースにおいてA社、B社はどのような対応をとるのでしょうか。まず27日に再任議案が上程されているB社は早速リリースを出しており
在任中の当社社外役員が逮捕されたことは誠に遺憾であり、お取引先企業様や株主の皆様をはじめ、当社に関係するすべての方々に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。現在事実関係を確認中ではございますが、当社はこの度の事態につきましては厳粛に受け止め、新たな事実関係が明らかになり次第、情報開示いたします。
とのこと。「事実関係を確認中」とのことですが、検察は事件内容を「被害者保護のため」公表しないとしています。ということは被疑者弁護人から確認をとるか、もしくは「弁護人になろうとする者」を派遣することで確認するしか方法はありません。しかも、確認できたとしても自社判断で事実関係は公表できないと思います。とりわけ被疑者が事実関係を否認している場合などは対応がむずかしいですね。なお、この方の所属法律事務所は早々に「オプカウンセル契約を解消いたしました」と公表しており(ずいぶんと早い!)、ご本人と面談をした可能性がありますので、事務所経由で事情を聴いて会社としての対応を検討するのかもしれません。
すでに本日の定時株主総会で選任(こちらも重任)されてしまったA社についてはいまだなんのリリースも出ておりません(6月26日午前0時40分現在)。いくら個人的な犯罪疑惑とはいえ、6年から7年も前の行為ですから、「疑惑を知りながら社外役員に就任してもらっていたわけではない」ということはリリースしておく必要はあるでしょうし、未だ逮捕段階であり、無罪の可能性があるかもしれませんが、(所属法律事務所の判断にならって)辞任を求めることになるのではないかと推測されます(あくまでも個人的な意見です)。なおA社においては監査役会、B社においては監査等委員会としての判断も必要かもしれません。
かつて大手電機メーカーの会長さんによる個人的な不正行為が直後に発覚し、社外役員を務めていた5社すべてにおいて辞任をされた事例がありました。しかし今回は直前の不正行為ではなく、かなり以前の行為が立件されるということなので、任意の捜査も進んでいたのではないかと推測されます。そうであれば、もっと早くに「候補者辞退」とかの協議を会社と行うことはできなかったのでしょうか(せめて、一身上の都合により、といった理由で辞退するとか)。このあたりもよくわからないところです。いずれにしても、有事にあるA社、B社の今後の対応について注目しておきたいと思います。