2018年11月 7日 (水)

日本版司法取引の運用は本当に客観証拠中心主義か?

5日の日経法務面での記事に続き、6日は読売朝刊に日本版司法取引に関する詳細な記事が掲載されています。さすがMHPS事例を最初にスクープした読売だけあって、「初の司法取引 証拠80点 免責企業 贈賄工作資料提出」との見出しで、約束内容を書面化したMHPS(三菱日立パワーシステムズ)社と東京地検特捜部の「(6月28日付)合意内容書面」の中身までスクープしていて、たいへん参考になります(担当検事、弁護人、社長の署名があるそうです)。

この合意内容書面にしたがって、MHPS側は贈賄工作の資料を含む80点超の証拠を提出したそうで、その中には贈賄資金を捻出した際の資料も10点ほど含まれているようです。なお、上記読売記事によりますと、今回の捜査協力は、司法取引の運用で懸念されていた「無実の第三者を冤罪に巻き込む危険性を極力回避するため」、供述ではなく、客観的な資料の提出が中心だった、とのこと。なるほど、(日本版司法取引については)国民が納得できるような運用を目指す、というのが検察庁の考え方なので、そういった配慮もあったのかもしれません。

ただ、FACTA2018年10月号(36頁以下)の記事によりますと、そもそもMHPS社員による2015年2月の内部通報をきっかけとして、MHPS側は東京地検に経緯を報告、その後の地検の内偵捜査には(なんらかの情状酌量を期待して)全面的に協力をしてこられたそうです。しかし2017年12月に地検から(半年後に施行予定である)司法取引の適用をほのめかされ、司法取引を前提として捜査協力を続けてきた、とあります。

つまり、たしかに「合意内容書面」を作成する時点では客観的な証拠提供が中心だったのかもしれませんが、それまでの約2年半の間、MHPS役職員は、地検に様々な供述を行い、その供述をもとに検察側が客観的証拠の存否を確認し、合意内容書面を交わすかどうか、つまり司法取引を行うかどうかを判断したのではないでしょうか。そもそも合意内容書面の締結に至るまでの経緯をみれば、やはり供述に依存するところはあったのではないかとの疑念を抱きます。

最近の日本版司法取引に関する記事を眺めておりますと、「他人の犯罪」を申告する被疑者側がイニシアティブをとって検察と交渉できる制度、そしてその制度運用に関わるリスクが語られているように思われるのですが、そもそも今回のMHPSさんの事例は(FACTAの記事でも触れられているように)検察側の特殊な事情があって適用された可能性が高く、かなりレアな適用事例ではなかったか・・・と考えております。

つまり、司法取引と言いますが、被疑者側から持ち掛けて検察と容易に合意できるようなものではなく、まずは(供述等をもとに)検察側が十分に立件の可能性を判断し、その間は「アメ」もちらつかせず、取引することへの検察側のメリットが確認されて初めて取引が行われるというものであり、たとえば取引を持ち掛ける企業側としても、「持ち掛けて失敗する」デメリットも十分にあるということを認識しておくべきと考えます。上記FACTAの記事では、検察から司法取引を持ち掛けられたMHPS側が、「司法取引は自社のレピュテーションリスクを毀損する」としていったん断った・・・という点も、(おそらく弁護人候補者と相談して決めたとは思いますが)経営判断としては十分ありうるのでは・・・と。

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2018年10月 4日 (木)

日本版司法取引第1号は否認事件へ-求められる刑事弁護人の力量

本日(10月3日)の毎日新聞(朝刊社会面)のみが報じているところですが、MHPS社と検察官との間で、他人の「特定犯罪」の立件に協力し、自らの犯罪に関する不起訴等を求める、いわゆる「日本版司法取引」第1号案件について、起訴された同社元取締役が公判で起訴事実を否認する方針であることが明らかになりました(「関係者への取材で」とありますが、誰がそんなことしゃべるのだろう・・・いつも疑問に思うところです)。MHPSさんの不正競争防止法違反事件の内容については、こちらの7月のエントリーをご参照ください。

MHPS社の役職員による外国公務員への贈賄(不正競争防止法違反)について、法人であるMHPS社が、(たとえ違法ではあったとしても、会社のために不正に手を染めた)社員を売った・・・ということで、本事例での司法取引の適用については「これって司法取引制度の趣旨とはかけ離れているのでは?」と、世間からはかなり批判(異論?違和感?)を受けておりました。そういった声も反映されたのか(?)、不正行為を実行した現地社員については立件されず、ターゲットとされていた(指示をしていたとの疑いのある)経営陣のみの立件ということで決着がついたものと思われました。しかしながら、司法取引で立件のターゲットとされていた元取締役の方が否認をする・・・ということで、今後は舞台を裁判所に移し、刑事公判活動にも注目が集まることになりそうです。

司法取引制度については、立案当初から「無実の他人を巻き込むおそれあり」として批判されていましたので、否認事件となりますと俄然裁判官の公判での運用に関心が向くのは当然と思われます。報道では「当初、起訴内容を認めていたが、U被告人のみが否認に転じた」とあるので、刑事弁護人とのやり取りの中で、否認する方針を固めた、ということでしょうか。起訴前の弁護活動から同じ弁護人がついていると思われるのですが、こういったマニュアルのない世界で被告人に有利な判決を勝ち取るには相当な力量が求められるものと思います。まずなんといっても法人側証人は検察側の「(司法取引に関する)合意の離脱」や虚偽証言罪のプレッシャーがありますので、検察官に話したことは絶対に曲げないはずです。この供述の信用性を反対尋問で弾劾するのはかなりむずかしいと思います。

ただ、元取締役の共謀や指示がなかった(評価しえない)ことを立証するメール等についてはフォレンジックによって判明する可能性はあります。とりわけメールについてはクラウド上に残されているものを含めれば膨大な文書数であり、検索ワードの掛け方の巧拙によって重要メールを発見できる場合もあると思います。それらの調査を弁護人が丁寧に行うことによって起訴後に否認に転じるということもありうるかと。また、そもそも「法人」が司法取引の当事者である、という点にも課題があるかと思います。「他人の犯罪」を立証する証言について、どこまで真実を知り得たのか、検察のストーリーに沿って、なんとなくこれに応じて証言してしまったのではないか、というあたりにツッコミどころがあるのかもしれません。

そもそも司法取引制度を創設した検事総長の「勇退のはなむけ」として立件されたMHPS事件とのことで(ちなみにFACTA10月号36頁によると、嫌がるMHPS社に検察側から司法取引への協力要請があり拒否できなかった、とのこと)、万全の状態で立件できたのかどうかはわかりません。9月27日、法務省の検察長官合同会議では、稲田検事総長が「(司法取引制度は)国民の理解が得られるような事案でのみ利用すべき」と述べたそうですが、次は刑事裁判官がこの制度に基づく第一号事件をどう取り扱うのか、たいへん興味が湧くところであります。しかし、こういった刑事弁護人をやれるというのは(どなたが弁護人なのかは存じ上げませんが)正直うらやましい・・・笑。

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2018年6月 7日 (木)

会社法の過料(行政罰)を刑事罰に引き上げることの是非について

今週月曜日(6月4日)、日本公認会計士協会の某委員会の皆様と、2時間ほど(公式な)意見交換をさせていただきました。意見交換といいましても、実質は私がヒアリングを受ける・・・というものでしたが、私自身もたいへん勉強になりました。

ヒアリングの内容については(ご迷惑になるかもしれませんので)書けませんが、議論の途中で感じたのが会社法の過料規定に関する素朴な疑問です。これだけ会計監査人の「公益の番人」たる役割が期待される時代となり、企業と株主との建設的な対話が求められる時代になったにもかかわらず、ディスクロージャーに関連する違反行為が過料(秩序罰)のまま会社法の中に残っているのはいかがなものでしょうか。

たしかに会社法は小さな株式会社にも適用される法律なので、大きな上場会社を基準に検討することはできません。しかし、過料の対象となっている違反行為の中には、情報開示に関連するようなものが含まれており、違反行為の悪質性からみれば刑事罰に値するものも多いように思います。とりわけ会計監査人への報告義務違反や調査妨害といった行為は、欧米諸国では当然に刑事罰が規定されているのですが、日本の会社法では過料としての罰則規定があるだけで、その制裁としての実効性がほとんどありません。今こそ過料という秩序罰の一部について、刑事罰に格上げすべく法改正が必要ではないでしょうか。このあたりの「社会的な合意形成」はある程度はなされていると思うのです。

会社関係者の「行為規範」に関連するところなので金商法の改正ではなしえないと思われますし、やはりこのあたりは会社法改正で対応すべき課題ではないかと。不正リスク対応監査基準の新設、違法行為への対応に関連する会計監査人の倫理規定の改訂などにより、会計監査人の行為規範については改訂が進むなかで、会計監査人と向き合う会社関係者の行為規範(およびその実効性担保の手段)についてもそろそろ抜本的な改訂が必要ではないかと考えるところです。

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2018年5月28日 (月)

社員に司法取引に応じることを禁止することはできるか?

先週の企業法務の話題はGDPR(EU一般データ規則)でもちきりでしたが、今週はなんといっても日本版司法取引の施行(6月1日)ではないでしょうか。日曜日(5月27日)の日経朝刊「ニュースフォーキャスト」でも、日本版司法取引の導入に関する特集記事が掲載されていました。当ブログでも、ずいぶんと前から改正刑事訴訟法に関するエントリーを書いてきましたが、3月に最高検の「運用に関する考え方」(法律のひろば2018年4月号に掲載)が策定されて以降は、とりあえず静観しよう、と考えるに至りました。

そうはいっても、今朝の日経記事にあるように、企業の関心がとても高いようです。大手法律事務所には「社内規定で社員が司法取引に勝手に応じないよう義務付けることはできるか」といった問い合わせが絶えないそうです。検察官から司法取引を提案される場合もあるでしょうし、また、会社自身から社員に司法取引を勧められる場面もあるでしょうし、逆に企業または社員自身が「他人の犯罪」として司法取引に巻き込まれることもあるので、いかなる場面を想定して「禁止を義務付ける」のか、少しわかりにくいのですが、企業として、日本版司法取引にどう対応すべきか、逡巡しているところが多いと思います。

ところで「社員が司法取引に勝手に応じることを禁止することを社内規則で定める」ということは果たして可能なのでしょうか?これは私の勝手な意見でありますが、社員には(労働契約上)会社に対する信用秩序維持義務がありますので、会社の信用毀損につながりかねない司法取引の協議を行うことについては、これを禁止するということもあながちおかしなことではないと思われます。ただ、①司法取引の対象となる財政経済犯罪には、租税法違反や贈収賄関連犯罪を除き、ほとんどの経済犯罪が公益通報の対象となり、②かりに公益通報の対象事実ではなくても、必要不可欠な行為の範囲内であれば公益のために企業利益を損なうこともやむをえないこと、などから、社員の債務不履行については違法性が阻却されることも多いと思われます。したがって、たとえ禁止規定を設けたとしても、それは訓示規定(努力規定)にすぎず、罰則をもって強制することはできない(むしろ企業が社員に対して不法行為責任を負う)のではないでしょうか。

本当に「司法取引に応じることを禁止したい」ということであれば、内部通報制度の実効性を高めて、企業不正の事実をいかにして早期に情報収集するべきかを考えるほうが、企業にとっては適切ではないかと考えます。なお、(これは広報ですが)日本版司法取引の運用に関する最高検の考え方が示されたことを前提に、企業がどのようなスタンスで司法取引制度に臨むべきか、近日発売の経済誌で4000字程度の拙稿を掲載いただく予定なので、またご関心がありましたらそちらをお読みいただければと。

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2018年4月26日 (木)

神鋼グループ・品質データ偽装事件-刑事立件の可能性

皆様すでにご承知のとおり、本日(4月25日)、神戸製鋼さんがデータ偽装事件について東京地検特捜部、警視庁の合同捜査を受けていることが明らかになりました(神鋼さん自身もHPで事実関係を認めております)。

3月6日に神戸製鋼さんが「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」をリリースして以来、私は本件については(報告書はきちんと読了しておりましたが)全く関連エントリーを書いておりませんでした。といいますのも、後だしジャンケンのように思われるかもしれませんが、「これは刑事立件の可能性があるなぁ」と感じていたからです(一部講演等ではコメントとして申し上げておりましたが・・・)。

私がそのように推測していた理由は、3月6日の神鋼さんの報告書が調査委員会の報告書ではなかったからです。公開されたものは、第三者による報告書を神鋼さんが要約してまとめ直したものなので、取引先を含めたステイクホルダーにとって、客観的な事実関係はわからないままとなってしまいました。たとえばデータ偽装行為に関する不正競争法防止法違反の該当性について、開示を拒否したことで民事の問題で解決される道が絶たれ、あとは刑事問題として解決するしか方法がないように思いました。刑事事件として取り扱う以上、上層部の主観的な認識が焦点となることはやむをえませんが、本来明らかにされるべき組織としての構造的な欠陥に光をあてるには刑事立件の可能性が高まるように思います。

私自身は、昨年10月17日のエントリー「神鋼品質データ偽装事件は不正行為か不適切行為か?」で述べたように、「不適切行為」ではなく「不正行為(不正競争防止法違反もしくは詐欺)」と指摘しておりましたが、品質偽装問題は、サプライチェーンにおける自浄作用(たとえば取引先との間では不正競争防止法違反による損害賠償請求訴訟による解決)が機能することを条件として、刑事立件はないと考えていました。しかし、神鋼さんは海外の司法当局の訴追をおそれて第三者委員会報告書を開示しないという決断をとりましたので、その判断については否定はしませんが、その分、今度は国内における刑事訴追リスクが高まるのではないか、と予想されたところです。

実は3月6日の報告書では、私としては「明らかにされるべき3つのポイント」が、まったく明らかにされていないと考えています。その「3つ」が明らかにされなければ、神鋼さんのデータ偽装がなぜ今頃発覚するに至ったのか、その「根本原因」には迫れないと考えています。その3つのポイントというのはまた別途エントリーさせていただくか、もしくは(時間がなければ)講演等で明らかにしたいと思います。

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2018年2月 2日 (金)

日本版司法取引の全容が明らかになったようです

以前、ご案内しておりましたみずほ総研さんのセミナーですが、満員御礼のうちに無事終了いたしました(正確には70名定員で66名のご聴講でした)。緊急対応の本業のため、準備不足は否めませんでしたが、ひさりぶりのオープンセミナーということで、とても頑張りました(笑)。ご参考になりましたら幸いです。

さて、諸事情ございますので、この話題には沈黙を貫こうかと思いましたが、やはりひとこと発言せざるをえません。ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、オリンパス社の社内弁護士の方が同社に対して訴訟を提起したことは、すでにマスコミでも報じられております。そして、週刊エコノミストのWEBニュースでは、社内弁護士の方が(提訴前に)同社の社外取締役宛に発信していた「弁護士職務基本規程51条に基づく通知書」の全文も公開されています。

ちなみに弁護士職務基本規程51条とは、

(違法行為に対する措置)
第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしている ことを知ったときは、 その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は 勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。

というものであります(日弁連の関係委員会でも、その解釈が大いに議論されているところです)。

私は本件にはコメントを出せない立場にありますので(笑)、ここで内容について私見を述べることは差し控えます。ただ、エコノミストの一連の記事に「海外贈賄事件に詳しい弁護士」のコメントが登場しており、「これは山口先生ですか?」との問い合わせをいくつか受けておりますので「これは私のコメントではありません」ということだけ本ブログで明らかにしておきたいと思います。いずれにしても、この社内弁護士の方が関係者に送ったメールや文書は、多くのオリンパス社の社員が共有しておられるようなので、これまた多くのマスコミの方々が通知文書の内容や提訴内容を知るところになったのでしょうね。

話は変わりますが、今年6月から施行されます改正刑事訴訟法の「協議・合意制度」(いわゆる日本版司法取引)ですが、「刑事訴訟法第350条の2第2項第3号の罪を定める政令」に関する政令案がパブコメに付されたようですね(詳細はこちらをご参照ください)。証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の対象となる財政経済関係犯罪として、どのような法令違反が含まれるのか注目されておりましたが、金商法、会社法、独禁法、不正競争防止法のほか、租税法、倒産関連法、知財関連法、特別贈収賄なども含むようです(ほぼ予想どおりかと)。

本日のセミナーでも具体例を出してご説明しましたが、弁護士倫理問題、公益通報者保護法との関連、社員と会社との利益相反問題など、とても悩ましい法律上の課題が山積しています。住友電工さんの株主代表訴訟(5億円を超える賠償金額で役員の方々が和解) とも関連しそうな問題だけに今年のホットな話題になりそうです。

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2017年12月20日 (水)

リニア工事不正受注事件の摘発は日本版司法取引の試金石となるか?

19日のNHKニュースによりますと、リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で、大林組さんが大手ゼネコン4社による不正な受注調整を認めたそうです。そして同社は、談合などの違反行為を自主申告すれば課徴金が減免される制度(リニエンシー制度)に基づいて、公正取引委員会に違反を申し出ていたことが関係者への取材で判明した、とのこと。

本事件は大林組さんへの偽計業務妨害容疑での捜査を端緒として、タテに伸びるのか(不正競争防止法違反容疑)、ヨコに伸びるのか(独禁法違反容疑)とても関心を持っておりました。私は(JR東海担当者が情報を漏らした、との報道から)タテに伸びるものと思っておりましたが、どうもヨコに伸びていくような展開になりましたね(となりますと、たいへん大きな不祥事事件に発展する可能性が高いです)。大手ゼネコン4社の役員の皆様方にとってはかなり厳しい状況になってきたようです。

役員の民事責任との関係でいえば、もし独禁法違反の事実が公取委で認められた場合、課徴金は数十億円に上るとみられていますが、リニエンシーによって課徴金が減免されます(ただし減免の対象は「事業者」です)。これはゼネコン各社の役員の株主代表訴訟リスクと大きく関係します(住友電工株主代表訴訟参照)。役員の方々のところへ、談合に関する自社の関与情報が届くのが遅くなり、タッチの差で課徴金減免を得られなかったとなりますと、「内部統制システムの構築義務違反」(どちらかといえば、整備よりも運用に関する任務懈怠でしょうか)に問われる可能性が出てきます。

また、役員の刑事責任との関係でいえば、談合に参加した社員の供述によって経営トップの関与がどれだけ立証できるか、という点が注目されます。すでに大林組さんの場合には副社長クラスの方の供述がとられているようですが、他社さんではどうなのでしょうか。

マスコミではリニエンシー制度の適用についての報道が目立ちますが、私は来年6月3日までに施行される改正刑事訴訟法上の「協議・合意制度」(日本版司法取引)の試金石になりそうな事案だと考えています。これまでも事実上の司法取引は行われていましたが、同制度が施行されますと部下である実行者を起訴しないことを条件に、上司(経営幹部)の関与について(部下に)真実を証言させるということが法的に認められることになります。たとえば司法当局がカルテル摘発に動いたにもかかわらず全容解明が進まない場合に、この協議・合意制度によって役職員の積極的な証言が得られれば一気に全容解明が進むことが考えられます。

もし、今回の事例が大規模なカルテル摘発を目的とするものであるならば、来年6月までに施行される改正刑事訴訟法の適用をにらんだものではないでしょうか。ちなみに2015年12月3日の最高裁判決(被告人・被疑者に不利益な刑事訴訟法の改正条文に関する遡及適用は、憲法39条が禁止する遡及処罰に該当しない)からすれば、このたびのリニア不正受注事件の捜査にも日本版司法取引の適用はありうると思われます。

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2017年12月15日 (金)

リニア工事不正受注事件への適用法令は偽計業務妨害罪か?

法務省HPにアップされました「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を読みましたが、予想していた以上にワクワクしますね(笑)。もちろん、あくまでも「たたき台」なので法改正と直結しませんが、こんなところに専門家の方々の関心(政府の関心?)が向けられている・・・と思うと「改正が必要とされる背景事情を含めて、もっと勉強しなくちゃ!」といった前向きな気持ちになります。あっそうそう、日弁連を通じて出していただいた私の改正案(株主総会における検査役選任権を取締役、監査役への付与する旨)は跡形もありませんね(笑)。せっかく優秀な先生方に、理屈が通るように修正していただいたのに申し訳ございません<m(__)m>。法務省のご意見はしっかり受け止めましたので、次の機会にまたがんばりましょう(#^.^#)・・・以下本題。

12月11日のエントリー「ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)」の冒頭で少しだけ触れておりますリニア新幹線工事に関する不正受注事件ですが、予想どおり(?)大林組さんの不正受注の背景には工事発注側のJR東海さんの関与(価格情報の漏えい)があったと伝えられています。たとえば14日の朝日新聞ニュースでは

大林組幹部が東京地検特捜部に対し、発注元のJR東海側から非公表の工事価格を聞いたことを認めていることが、関係者への取材でわかった

と報じられています。

ところで、そうなりますと素朴な疑問が湧いてきます。偽計業務妨害罪における「偽計」とは、一般には人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤,不知を利用する違法な手段を指していますが、そもそもJR東海さんは、工事価格の漏えいを認識しているわけですから欺罔されたり、錯誤に陥っているわけではありません。したがって偽計業務妨害罪は成立しないのではないか、といった疑問です。上記朝日新聞ニュースも、そのあたりに少し触れています。

特捜部は、大林組の行為が、民間企業の公正な発注業務を妨げた偽計業務妨害の疑いにあたるとみて調べているが、JR東海の情報漏洩が組織ぐるみの場合、同容疑が適用されないとする専門家もいる

とのこと。なるほど、JR東海の担当社員が会社とは関係なく工事価格を漏らしたということであればJR東海さんは被害者ということで偽計業務妨害罪が成立するが、組織ぐるみで工事価格を漏らしたと評価される場合には同罪は成立しない、といった意見も成り立ちうる、ということのようです。ということは、大林組さん(もしくは役職員)側からすれば、「JR東海さんの幹部は価格情報の漏えいを認識していた」と主張すれば偽計業務妨害罪を免れることができるのでしょうか?

あまり刑事法は詳しくありませんが、大林組さんが同業他社と受注調整をしていた場合には偽計業務妨害罪を適用すべきですが、JR東海さんが関与しているような場合にまで安易に同罪は適用できないのではないかと思うところです。むしろ先日のエントリーで書いたように、不正競争防止法の共犯として立件するほうが適切な気もしますが、いかがなものでしょうか。工事価格情報をJR東海さんの営業秘密として、会社に損害を発生させることを認識しながら受注業者に漏えいした点、漏えいされた営業秘密を活用した点を犯罪行為として捉える、というものです。偽計業務妨害であれば、組織犯罪処罰法による加重要件を付加しないかぎり法人を処罰できませんが、不正競争防止法違反であれば両罰規定によって法人の犯罪も問うことが可能です。

しかしこういった領域に捜査当局がメスを入れる・・・ということになりますと、他のJVでも同様の行為が見つかってしまって工事が停滞してしまうおそれがありますね。結局「見せしめ」的な捜査になってしまうのでしょうか。。。

 

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2017年9月21日 (木)

法人処罰の必要性を感じさせる天竜川事件高裁逆転無罪判決

2010年、朝日新聞「法と経済のジャーナル」において、私は日航機ニアミス事件最高裁判決を取り上げて「法人処罰の必要性」を訴えましたが、本日(9月20日)、天竜川川下り事件の高裁判決では、私の主張に近い判断がされたようです(主任船頭の方が逆転無罪。ニコニコニュースはこちらです)。このような点に疑問を抱く裁判官もやはりいらっしゃるのだと、少しホッとしました。

判決文を全文読まなければ明確なところはわかりませんが、船頭さんを雇用していた法人の内部統制の運用面の不備が厳しく問われているようです。私も、法人処罰を通じて安全面の原因究明がなされなければ再発防止策の実効性は乏しいと思います。伝統的な刑事法の理屈の壁はわかるのですが、企業コンプライアンスの向上のためにはどうしても法人処罰の考え方が必要です。本日は備忘録程度ですが、また判決文を入手できたら、詳しいエントリーを書きたいと思います。

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2017年3月17日 (金)

ノバルティスファーマ無罪判決-改めて問われる法人処罰の必要性

3月16日、東京地裁はノバルティスファーマ元社員と法人としての同社を被告人とする薬事法(現医薬品医療機器法)違反刑事裁判において、いずれも無罪とする判決を言渡しました(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。元社員のデータ改ざんの事実は認められるものの、「同法で規制された治療薬の購入意欲を高めるための広告には当たらない」として、認定された事実が薬事法違反には該当しない、との判決理由です(本来ならばきちんと判決文を読んでから書くべき内容ですが、ニュース記事からの情報ということでお許しください)。

2015年12月のエントリー「JR北海道・ノバルティス-刑事罰は企業の構造的欠陥に光をあてるか」において書いておりますように、もともとこの事件を調査した第三者委員会報告書においても薬事法違反で有罪に持ち込むのはむずかしいのではないかと言われていました。しかしノバルティスの組織的関与、また臨床研究の主体である医学部の関与がまったくわからず、真相究明のためには立件して法人に対する厳罰以外に方法はないということで、虚偽誇大広告(薬事法違反)で立件するに至りました。日本では法人のみを立件することはできず、両罰規定が存在する場合のみ立件可能ということで、元社員の方の刑事責任には注目が集まっていました。

検察側から控訴される可能性もありますが、やはり企業の構造的欠陥といいますか、組織の不正を刑事責任に問うには(現行の刑事法体系では)限界がある、ということが今回の裁判でも明らかにされました。構成要件の捉え方にはむずかしい面もありますが、やはり法人処罰に関する刑事立法が必要ではないでしょうか。来年から施行される日本版司法取引(改正刑事訴訟法)も、(どのような法令違反に適用されるかは今後の政省令に委ねられていますが)検察が巨悪に迫るための工夫は容易されています。しかし、組織としての構造的欠陥を明らかにするには、関係者に刑事免責を付与したうえで証拠を収集することも必要ではないかと考えます。

前にも書きましたが、企業不祥事において、近時は「自浄能力」を発揮させるために第三者委員会が設置されるケースが多いのですが、その調査能力には限界があります。とりわけ国民の生命身体の安全を確保するため、もしくは国策として当該業界の信用を確保するためには組織の構造的欠陥を解明することが強く求められる場合もあると考えます。たとえばノバルティスの事件では、組織としての構造的な欠陥が明らかにならなければ、日本の製薬業界の世界的信用が回復されないわけで、そのためにも国が動く必要があると思われます。

今回の判決を受けて、厚労省は

個々の判決については差し控えたいが、臨床研究に対する国民の信頼を回復することが大切と考える。厚労省としては、臨床研究と製薬企業の活動の透明性確保のため臨床研究法案を国会に提出しており、臨床研究と製薬企業の活動の適正性確保に努めたい

とコメントしています。このような厚労省の姿勢も評価できますが、どうしても被害が発生してからの「後追い」になってしまうわけでして、刑事法に期待される一般予防的見地から包括的な法人処罰規定の在り方を検討すべきではないかと考えます。

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