2018年4月26日 (木)

神鋼グループ・品質データ偽装事件-刑事立件の可能性

皆様すでにご承知のとおり、本日(4月25日)、神戸製鋼さんがデータ偽装事件について東京地検特捜部、警視庁の合同捜査を受けていることが明らかになりました(神鋼さん自身もHPで事実関係を認めております)。

3月6日に神戸製鋼さんが「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」をリリースして以来、私は本件については(報告書はきちんと読了しておりましたが)全く関連エントリーを書いておりませんでした。といいますのも、後だしジャンケンのように思われるかもしれませんが、「これは刑事立件の可能性があるなぁ」と感じていたからです(一部講演等ではコメントとして申し上げておりましたが・・・)。

私がそのように推測していた理由は、3月6日の神鋼さんの報告書が調査委員会の報告書ではなかったからです。公開されたものは、第三者による報告書を神鋼さんが要約してまとめ直したものなので、取引先を含めたステイクホルダーにとって、客観的な事実関係はわからないままとなってしまいました。たとえばデータ偽装行為に関する不正競争法防止法違反の該当性について、開示を拒否したことで民事の問題で解決される道が絶たれ、あとは刑事問題として解決するしか方法がないように思いました。刑事事件として取り扱う以上、上層部の主観的な認識が焦点となることはやむをえませんが、本来明らかにされるべき組織としての構造的な欠陥に光をあてるには刑事立件の可能性が高まるように思います。

私自身は、昨年10月17日のエントリー「神鋼品質データ偽装事件は不正行為か不適切行為か?」で述べたように、「不適切行為」ではなく「不正行為(不正競争防止法違反もしくは詐欺)」と指摘しておりましたが、品質偽装問題は、サプライチェーンにおける自浄作用(たとえば取引先との間では不正競争防止法違反による損害賠償請求訴訟による解決)が機能することを条件として、刑事立件はないと考えていました。しかし、神鋼さんは海外の司法当局の訴追をおそれて第三者委員会報告書を開示しないという決断をとりましたので、その判断については否定はしませんが、その分、今度は国内における刑事訴追リスクが高まるのではないか、と予想されたところです。

実は3月6日の報告書では、私としては「明らかにされるべき3つのポイント」が、まったく明らかにされていないと考えています。その「3つ」が明らかにされなければ、神鋼さんのデータ偽装がなぜ今頃発覚するに至ったのか、その「根本原因」には迫れないと考えています。その3つのポイントというのはまた別途エントリーさせていただくか、もしくは(時間がなければ)講演等で明らかにしたいと思います。

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2018年2月 2日 (金)

日本版司法取引の全容が明らかになったようです

以前、ご案内しておりましたみずほ総研さんのセミナーですが、満員御礼のうちに無事終了いたしました(正確には70名定員で66名のご聴講でした)。緊急対応の本業のため、準備不足は否めませんでしたが、ひさりぶりのオープンセミナーということで、とても頑張りました(笑)。ご参考になりましたら幸いです。

さて、諸事情ございますので、この話題には沈黙を貫こうかと思いましたが、やはりひとこと発言せざるをえません。ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、オリンパス社の社内弁護士の方が同社に対して訴訟を提起したことは、すでにマスコミでも報じられております。そして、週刊エコノミストのWEBニュースでは、社内弁護士の方が(提訴前に)同社の社外取締役宛に発信していた「弁護士職務基本規程51条に基づく通知書」の全文も公開されています。

ちなみに弁護士職務基本規程51条とは、

(違法行為に対する措置)
第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしている ことを知ったときは、 その者、自らが所属する部署の長又はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対する説明又は 勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない。

というものであります(日弁連の関係委員会でも、その解釈が大いに議論されているところです)。

私は本件にはコメントを出せない立場にありますので(笑)、ここで内容について私見を述べることは差し控えます。ただ、エコノミストの一連の記事に「海外贈賄事件に詳しい弁護士」のコメントが登場しており、「これは山口先生ですか?」との問い合わせをいくつか受けておりますので「これは私のコメントではありません」ということだけ本ブログで明らかにしておきたいと思います。いずれにしても、この社内弁護士の方が関係者に送ったメールや文書は、多くのオリンパス社の社員が共有しておられるようなので、これまた多くのマスコミの方々が通知文書の内容や提訴内容を知るところになったのでしょうね。

話は変わりますが、今年6月から施行されます改正刑事訴訟法の「協議・合意制度」(いわゆる日本版司法取引)ですが、「刑事訴訟法第350条の2第2項第3号の罪を定める政令」に関する政令案がパブコメに付されたようですね(詳細はこちらをご参照ください)。証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の対象となる財政経済関係犯罪として、どのような法令違反が含まれるのか注目されておりましたが、金商法、会社法、独禁法、不正競争防止法のほか、租税法、倒産関連法、知財関連法、特別贈収賄なども含むようです(ほぼ予想どおりかと)。

本日のセミナーでも具体例を出してご説明しましたが、弁護士倫理問題、公益通報者保護法との関連、社員と会社との利益相反問題など、とても悩ましい法律上の課題が山積しています。住友電工さんの株主代表訴訟(5億円を超える賠償金額で役員の方々が和解) とも関連しそうな問題だけに今年のホットな話題になりそうです。

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2017年12月20日 (水)

リニア工事不正受注事件の摘発は日本版司法取引の試金石となるか?

19日のNHKニュースによりますと、リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で、大林組さんが大手ゼネコン4社による不正な受注調整を認めたそうです。そして同社は、談合などの違反行為を自主申告すれば課徴金が減免される制度(リニエンシー制度)に基づいて、公正取引委員会に違反を申し出ていたことが関係者への取材で判明した、とのこと。

本事件は大林組さんへの偽計業務妨害容疑での捜査を端緒として、タテに伸びるのか(不正競争防止法違反容疑)、ヨコに伸びるのか(独禁法違反容疑)とても関心を持っておりました。私は(JR東海担当者が情報を漏らした、との報道から)タテに伸びるものと思っておりましたが、どうもヨコに伸びていくような展開になりましたね(となりますと、たいへん大きな不祥事事件に発展する可能性が高いです)。大手ゼネコン4社の役員の皆様方にとってはかなり厳しい状況になってきたようです。

役員の民事責任との関係でいえば、もし独禁法違反の事実が公取委で認められた場合、課徴金は数十億円に上るとみられていますが、リニエンシーによって課徴金が減免されます(ただし減免の対象は「事業者」です)。これはゼネコン各社の役員の株主代表訴訟リスクと大きく関係します(住友電工株主代表訴訟参照)。役員の方々のところへ、談合に関する自社の関与情報が届くのが遅くなり、タッチの差で課徴金減免を得られなかったとなりますと、「内部統制システムの構築義務違反」(どちらかといえば、整備よりも運用に関する任務懈怠でしょうか)に問われる可能性が出てきます。

また、役員の刑事責任との関係でいえば、談合に参加した社員の供述によって経営トップの関与がどれだけ立証できるか、という点が注目されます。すでに大林組さんの場合には副社長クラスの方の供述がとられているようですが、他社さんではどうなのでしょうか。

マスコミではリニエンシー制度の適用についての報道が目立ちますが、私は来年6月3日までに施行される改正刑事訴訟法上の「協議・合意制度」(日本版司法取引)の試金石になりそうな事案だと考えています。これまでも事実上の司法取引は行われていましたが、同制度が施行されますと部下である実行者を起訴しないことを条件に、上司(経営幹部)の関与について(部下に)真実を証言させるということが法的に認められることになります。たとえば司法当局がカルテル摘発に動いたにもかかわらず全容解明が進まない場合に、この協議・合意制度によって役職員の積極的な証言が得られれば一気に全容解明が進むことが考えられます。

もし、今回の事例が大規模なカルテル摘発を目的とするものであるならば、来年6月までに施行される改正刑事訴訟法の適用をにらんだものではないでしょうか。ちなみに2015年12月3日の最高裁判決(被告人・被疑者に不利益な刑事訴訟法の改正条文に関する遡及適用は、憲法39条が禁止する遡及処罰に該当しない)からすれば、このたびのリニア不正受注事件の捜査にも日本版司法取引の適用はありうると思われます。

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2017年12月15日 (金)

リニア工事不正受注事件への適用法令は偽計業務妨害罪か?

法務省HPにアップされました「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を読みましたが、予想していた以上にワクワクしますね(笑)。もちろん、あくまでも「たたき台」なので法改正と直結しませんが、こんなところに専門家の方々の関心(政府の関心?)が向けられている・・・と思うと「改正が必要とされる背景事情を含めて、もっと勉強しなくちゃ!」といった前向きな気持ちになります。あっそうそう、日弁連を通じて出していただいた私の改正案(株主総会における検査役選任権を取締役、監査役への付与する旨)は跡形もありませんね(笑)。せっかく優秀な先生方に、理屈が通るように修正していただいたのに申し訳ございません<m(__)m>。法務省のご意見はしっかり受け止めましたので、次の機会にまたがんばりましょう(#^.^#)・・・以下本題。

12月11日のエントリー「ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)」の冒頭で少しだけ触れておりますリニア新幹線工事に関する不正受注事件ですが、予想どおり(?)大林組さんの不正受注の背景には工事発注側のJR東海さんの関与(価格情報の漏えい)があったと伝えられています。たとえば14日の朝日新聞ニュースでは

大林組幹部が東京地検特捜部に対し、発注元のJR東海側から非公表の工事価格を聞いたことを認めていることが、関係者への取材でわかった

と報じられています。

ところで、そうなりますと素朴な疑問が湧いてきます。偽計業務妨害罪における「偽計」とは、一般には人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤,不知を利用する違法な手段を指していますが、そもそもJR東海さんは、工事価格の漏えいを認識しているわけですから欺罔されたり、錯誤に陥っているわけではありません。したがって偽計業務妨害罪は成立しないのではないか、といった疑問です。上記朝日新聞ニュースも、そのあたりに少し触れています。

特捜部は、大林組の行為が、民間企業の公正な発注業務を妨げた偽計業務妨害の疑いにあたるとみて調べているが、JR東海の情報漏洩が組織ぐるみの場合、同容疑が適用されないとする専門家もいる

とのこと。なるほど、JR東海の担当社員が会社とは関係なく工事価格を漏らしたということであればJR東海さんは被害者ということで偽計業務妨害罪が成立するが、組織ぐるみで工事価格を漏らしたと評価される場合には同罪は成立しない、といった意見も成り立ちうる、ということのようです。ということは、大林組さん(もしくは役職員)側からすれば、「JR東海さんの幹部は価格情報の漏えいを認識していた」と主張すれば偽計業務妨害罪を免れることができるのでしょうか?

あまり刑事法は詳しくありませんが、大林組さんが同業他社と受注調整をしていた場合には偽計業務妨害罪を適用すべきですが、JR東海さんが関与しているような場合にまで安易に同罪は適用できないのではないかと思うところです。むしろ先日のエントリーで書いたように、不正競争防止法の共犯として立件するほうが適切な気もしますが、いかがなものでしょうか。工事価格情報をJR東海さんの営業秘密として、会社に損害を発生させることを認識しながら受注業者に漏えいした点、漏えいされた営業秘密を活用した点を犯罪行為として捉える、というものです。偽計業務妨害であれば、組織犯罪処罰法による加重要件を付加しないかぎり法人を処罰できませんが、不正競争防止法違反であれば両罰規定によって法人の犯罪も問うことが可能です。

しかしこういった領域に捜査当局がメスを入れる・・・ということになりますと、他のJVでも同様の行為が見つかってしまって工事が停滞してしまうおそれがありますね。結局「見せしめ」的な捜査になってしまうのでしょうか。。。

 

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2017年9月21日 (木)

法人処罰の必要性を感じさせる天竜川事件高裁逆転無罪判決

2010年、朝日新聞「法と経済のジャーナル」において、私は日航機ニアミス事件最高裁判決を取り上げて「法人処罰の必要性」を訴えましたが、本日(9月20日)、天竜川川下り事件の高裁判決では、私の主張に近い判断がされたようです(主任船頭の方が逆転無罪。ニコニコニュースはこちらです)。このような点に疑問を抱く裁判官もやはりいらっしゃるのだと、少しホッとしました。

判決文を全文読まなければ明確なところはわかりませんが、船頭さんを雇用していた法人の内部統制の運用面の不備が厳しく問われているようです。私も、法人処罰を通じて安全面の原因究明がなされなければ再発防止策の実効性は乏しいと思います。伝統的な刑事法の理屈の壁はわかるのですが、企業コンプライアンスの向上のためにはどうしても法人処罰の考え方が必要です。本日は備忘録程度ですが、また判決文を入手できたら、詳しいエントリーを書きたいと思います。

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2017年3月17日 (金)

ノバルティスファーマ無罪判決-改めて問われる法人処罰の必要性

3月16日、東京地裁はノバルティスファーマ元社員と法人としての同社を被告人とする薬事法(現医薬品医療機器法)違反刑事裁判において、いずれも無罪とする判決を言渡しました(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。元社員のデータ改ざんの事実は認められるものの、「同法で規制された治療薬の購入意欲を高めるための広告には当たらない」として、認定された事実が薬事法違反には該当しない、との判決理由です(本来ならばきちんと判決文を読んでから書くべき内容ですが、ニュース記事からの情報ということでお許しください)。

2015年12月のエントリー「JR北海道・ノバルティス-刑事罰は企業の構造的欠陥に光をあてるか」において書いておりますように、もともとこの事件を調査した第三者委員会報告書においても薬事法違反で有罪に持ち込むのはむずかしいのではないかと言われていました。しかしノバルティスの組織的関与、また臨床研究の主体である医学部の関与がまったくわからず、真相究明のためには立件して法人に対する厳罰以外に方法はないということで、虚偽誇大広告(薬事法違反)で立件するに至りました。日本では法人のみを立件することはできず、両罰規定が存在する場合のみ立件可能ということで、元社員の方の刑事責任には注目が集まっていました。

検察側から控訴される可能性もありますが、やはり企業の構造的欠陥といいますか、組織の不正を刑事責任に問うには(現行の刑事法体系では)限界がある、ということが今回の裁判でも明らかにされました。構成要件の捉え方にはむずかしい面もありますが、やはり法人処罰に関する刑事立法が必要ではないでしょうか。来年から施行される日本版司法取引(改正刑事訴訟法)も、(どのような法令違反に適用されるかは今後の政省令に委ねられていますが)検察が巨悪に迫るための工夫は容易されています。しかし、組織としての構造的欠陥を明らかにするには、関係者に刑事免責を付与したうえで証拠を収集することも必要ではないかと考えます。

前にも書きましたが、企業不祥事において、近時は「自浄能力」を発揮させるために第三者委員会が設置されるケースが多いのですが、その調査能力には限界があります。とりわけ国民の生命身体の安全を確保するため、もしくは国策として当該業界の信用を確保するためには組織の構造的欠陥を解明することが強く求められる場合もあると考えます。たとえばノバルティスの事件では、組織としての構造的な欠陥が明らかにならなければ、日本の製薬業界の世界的信用が回復されないわけで、そのためにも国が動く必要があると思われます。

今回の判決を受けて、厚労省は

個々の判決については差し控えたいが、臨床研究に対する国民の信頼を回復することが大切と考える。厚労省としては、臨床研究と製薬企業の活動の透明性確保のため臨床研究法案を国会に提出しており、臨床研究と製薬企業の活動の適正性確保に努めたい

とコメントしています。このような厚労省の姿勢も評価できますが、どうしても被害が発生してからの「後追い」になってしまうわけでして、刑事法に期待される一般予防的見地から包括的な法人処罰規定の在り方を検討すべきではないかと考えます。

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2017年3月 1日 (水)

産地偽装米騒動第3ラウンド-週刊ダイヤモンド誌を刑事告訴へ

証券市場の健全性を確保するため、いよいよ不公正取引の発見にAI(人口知能)が活用される時代となりましたが、はたして産地偽装を発見することにAIを活用する時代は来るのでしょうか。

企業不正に関する内部告発に関心を持つ者として、どうしても事件の帰趨が気になるのが京都の米卸会社による産地偽装米騒動です。今週発売の週刊ダイヤモンド誌がどのような反撃に出るかと期待しておりましたが続報は全く掲載されていませんでした。

その一方で、偽装米を流通させているとダイヤモンド誌で指摘された京都の会社は、「調査報告第7弾」を公表し、本日、ダイヤモンド社に対する刑事告訴状を京都地検に提出したそうです。親会社であるJA京都中央会が設置したサイトにおいても、詳細な調査結果が報じられています。週刊ダイヤモンド誌が検査に出したとされる精米と同じものを取引先から返品を受け、東京の財団法人日本穀物検定協会でDNA鑑定および同位体検査を受けるとのこと(検査については元最高検検事の弁護士の方が担当されていますね-毎日ニュースが報じています)。

ところで既に行政調査が進んでいるはずですが、一向に調査の進捗状況は報道されません。ダイヤモンド社としては、「同位体研究所」の検査結果に依拠して記事化したものなので、それなりに真実相当性に自信を持ってのことかとは思います。ただ、普通の名誉毀損、信用毀損の紛争ではなく、国民の食生活の安心に関わる事実の真偽が対象となるだけに、裁判で長期間争うような性格の問題とは言えないでしょう。誰かが早期に「国民の安心」のために真偽を明らかにしなければなりません(JA京都中央会さんは、当事者ではありますが、まさに社会的責任の一環として、ここまで熱心に調査報告を開示しておられるのでしょうね)。

今回のダイヤモンド誌の記事については内部告発によるものではない模様ですが、やはり社員による内部資料が存在しなければ、このようなスクープ記事は他紙が追随するような事態にはなりにくい、ということでしょうか。通常は行政調査機関に対して第2弾、第3弾の匿名、実名通報が届くケースがあるのですが、そういったものが届かないとなるとマスコミの反撃も苦しいかもしれません。

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2017年1月15日 (日)

経営者の刑事責任は内部統制の適切な構築で免責される

軽井沢町のスキーバス転落事故が発生して丸1年が経過しましたが、長野県警は、バス運行会社の運行管理責任者とともに、経営者(社長)も業務上過失致死傷罪で書類送検する方針だそうです(1月14日付け日経夕刊社会面等)。立件の可否については今後、検察と協議するとのこと。安全面に最大の配慮をすべき運行管理責任者が(運転者とともに)起訴されるというのはわかりますが、果たしてバス会社の社長さんまで刑事処分に問えるのでしょうか。

もちろん、顧客の死亡事故について、社長さん個人が業務上過失致死傷罪で有罪とされた例は過去にも認められます。たとえば三菱自動車のリコール隠しによる山口県での事故発生事案では社長さんが有罪となりましたし、パロマ工業の湯沸かし器事件でも同様です。ただ、そこでは社長さんが商品の安全性の欠如を十分に知っていながら放置していた、という責任根拠が認められていましたが、今回は「運転手本人が観光バスの運転の経験があまりないということを知っていて、訓練を一回した行わなかったこと」から、社長にも(傷害ではなく)乗客の死亡事故の発生に関する予見可能性がある、と判断されたようです。当該運転手がすでに何度か事故を起こしていたことを知っていたとか、運転当日、危険運転に及びそうな体調であることを知っていて勤務させていた、といった事情は認められないようです。

事故がたいへん痛ましいものであったため、「社長にも刑事処分は当然」という捜査の方向性に賛成する方も多いかもしれません。ただ、会社の経営技能は多方面に及びますから、安全面についてはどの程度の予見可能性、結果回避可能性があれば経営者が刑事責任を問われるのか、その線引きはきちんと明確にしておくべきだと思います。たとえばこのたび最高裁判事に就任される山口厚先生のこちらの論稿などは、一般の方々向けに過失犯について書かれたものなので、とても参考になると思います。たとえば、経営者(監督者)が漠然とした(死亡事故に関する)予見可能性があるとした場合には、万全の措置で結果回避義務を尽くさなければ過失犯に問われてしまうというわけではなく、たとえば経営者が他の役職員の適切な行動を信頼できるような状況が認められる場合には業務上過失致死傷責任は免れる、ということも十分考えられるようです。

つまり、顧客の安全に配慮すべき内部統制を適切に構築して、運用されていれば(たとえ安全面の欠如に関する情報を経営者が入手していたとしても)信頼の原則によって刑事責任を免れる可能性がある、ということかと。また、このような法解釈をとることが、企業の安全体制整備へのインセンティブとなり、今後の重大事故防止にもつながるのではないでしょうか。ただし、今回の長野県警の捜査方針からみて、今後は顧客の身体・生命の安全を脅かす企業事故が発生した場合には、経営者を含めて「提訴リスク」が顕在化する可能性が高い時代が到来したことは間違いないと思います。

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2016年7月25日 (月)

日本版司法取引が企業実務に及ぼす影響について

本日のNHKスペシャル「ロッキード事件の真相」は新証拠(スクープ)もあり、私ほどの年齢の者には興味深いものでした。当時の特捜部検事でいらっしゃった堀田さん、松田さん、宗像さん、松尾さんも登場され、また児玉誉士夫氏に近い方も実名で登場されました。どんなに情報化社会が進展したとしても、ホンモノの「国家機密」というものは闇の中であり、その国家機密の社会的影響力が薄れた頃に、またひっそりと社会に顔を出す・・・というものなのでしょうね。ロッキード事件といえば、コーチャン氏の嘱託尋問調書の証拠能力を最高裁は否定しましたが、今年の改正刑事訴訟法で新設された刑事免責制度が日本の刑事訴訟法に存在していれば事件はどんな展開になっていたでしょうか。

さて、平成28年改正刑事訴訟法の論点はいくつかありますが、企業実務に影響を及ぼす改正項目といえば、なんといっても日本版司法取引(証拠収集等への協力における合意及び協議制度)です(2018年6月までに施行が予定されています)。旬刊商事法務の最新号にも実務家の方の論文が公表されましたが、多くの法律雑誌も一斉に特集記事を組まれるようで、私のような者にも複数の出版社から座談会出席のオファーをいただきました。結局、最初にオファーをいただいたY社さんの特集記事の座談会に出席させていただくことになりまして、先週、佐伯先生、川出先生(東大の刑法、刑事訴訟法の教授)、木目田先生(西村あさひ法律事務所弁護士)との収録を終えました。実に楽しい収録で、1時間半の予定が2時間になってしまいました。

27916354_1正直に申し上げて、私は改正刑訴法についてはそれほど精通している者ではございませんので、不祥事に対する企業対応(危機対応)や公益通報者保護法改正問題などを中心に発言したのですが、それでも改正刑事訴訟法に関する論点について佐伯先生(司会)から質問が飛んできましたので、とりあえず(?)準備しておいてよかった・・・と安堵いたしました。その準備にあたり、左にご紹介している新刊「日本版司法取引と企業対応」は、とても役に立ちました。おそらく企業実務担当者や経営者の方々にとって、日本版司法取引を理解するには最良の一冊ではないかと思い、ご紹介する次第です。

日本版司法取引と企業対応-平成28年改正刑訴法で何がどう変わるのか(平尾覚 著 清文社 2,500円税別)

元東京地検特捜部検事でいらっしゃる平尾弁護士(私の知人と共著で こちらの本を出版された先生ですね。そういえば先週、日経新聞でもご意見を述べておられましたね)によるもので、刑事訴訟法の改正項目(日本版司法取引部分)の解説にとどまらず、今後企業実務で想定される事態を具体例をもとに検討するというところが特筆すべき点です。改正刑訴法で導入された司法取引制度は(アメリカで多くみられるような)自己負罪型の司法取引ではなく、あくまでも他人の刑事事件に対する捜査協力型の司法取引制度です。そこで、企業自身も経済犯罪で処罰の対象となることを前提として(言葉は少し悪いですが)企業が社員を売る、社員が企業を売る、社員が仲間の社員を売る、といった事態が当然に予想されます。著者の方がかなり想像力を膨らませて企業実務の上で起こりそうな悩ましい場面を想定しておられるのはとても参考になります。海外不正事件に対する米国の司法取引との対比、独禁法上のリニエンシー制度との対比なども示されており、座談会でも話題になりましたが「活用次第では自己負罪型司法取引」としての運用も可能ではないか、といったことにも言及されています。

20151207g813さて、平尾先生のご著書は元検察官の視点も交えて「すでに出来上がった法律への現実的対応」というところに焦点をあてた本ですが、そもそも日本版司法取引にはどのような法律上の問題点があるのか、というところも法律家の皆様には興味があるのではないでしょうか。また、私自身、弁護士倫理という観点からも「これはたいへんな制度だぞ」といったことを当ブログでも述べさせていただきました(こちらのエントリーを参考にしてください)。そこで、日本版司法取引に刑事弁護の視点から批判的な立場で書かれた本を理解することは、司法取引に関与する弁護人の立場からすると、大きな武器になるのではないかと思いまして、私は座談会出席にあたり、左の本も準備の参考にさせていただきました。

日本版「司法取引」を問う(白取祐司・今村核・泉澤章 編著 旬報社 1.500円税別)

いわゆる刑事訴訟法改正の「焼け太り」現象に警鐘を鳴らす一冊です。もともと刑事司法改革は(郵便不正事件のような)冤罪を防止するために、「取調べの可視化」に代表されるような刑訴法改正が目的だったはずです。ところが蓋を開けてみると、組織的犯罪を中心とした実態解明への要請から司法取引が導入され、検察は大きな武器を獲得してことになり、これが新たな冤罪の温床になるのでは、と危惧されるようになりました。このあたりは日弁連でもかなり議論されてきましたが、それほど強い反対が出なかったところ、刑事裁判実務に詳しい学者・弁護士の方々が本書を出版されました。一般の皆様にもわかりやすい平易な文書で書かれていますので、法律的知識がそれほどなくても読みやすい一冊です。被疑者・被告人はなぜ自白するのか・・・、という刑事捜査実務の現実を見据えますと、ホワイトカラーの方々が会社犯罪で身柄を拘束されると容易に検察官に迎合するおそれがあることがわかります。そのような現実のもとで、この司法取引制度を適切に運用するためには、検察官も刑事弁護人も、そして供述の信用性を見極める裁判官も、かなりプレッシャーのかかる状況で合意内容書面を取り扱う必要性が実感できます。

日本版司法取引の実効性次第では、政令によって広い範囲の犯罪に活用されるようになるかもしれませんし、さらに自己負罪型司法取引の導入も検討されるかもしれません。民法(債権法)改正に向けた企業実務対応も重要ですが、企業コンプライアンスの視点からは、この刑事訴訟法改正に向けた対応にも注意が必要です。我々法律実務家も、新たな職業倫理上の課題を突き付けられたものとして、企業に対して「弁護人選任のプロセス」を十分説明しておく必要があると考えます。

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2016年7月21日 (木)

金融庁も検察も国民を敵に回すべきではない(東芝元経営者立件騒動)

東芝不正会計は違法・・・、金融庁が公式見解を発表しようとしましたが、検察との意見相違が報じられるなかで、同庁は急きょ、発表を中止したそうです(経緯を詳細に報じる産経新聞ニュースはこちらです)。すでにご承知のとおり、東芝会計不正事件について、元経営トップの3名の訴追を要望する金融庁と、証拠上立件は困難として訴追を見送る検察庁との対立が話題になっています。東芝事件の元経営トップの立件について、検察と証券取引等監視委員会(特別調査課)との間で温度差があることは、実はかなり前から(風の噂で?)私は聞き及んでおりました。

先日のエントリー「企業不正に立ちはだかる司法の壁と行政当局の対応」でも述べましたが、昨日(7月19日)の朝日「法と経済のジャーナル」(有償版)の詳しい記事を読むと、やはり長銀事件最高裁判決(無罪判決)の射程範囲をどう考えるか、という点が金融庁と検察との対立の一因のようです。今回の東芝事件における経営トップの訴追において、果たして長銀事件最高裁判決が先例となりうるかどうかは、たとえば中央ロー・ジャーナル最新号(第12巻4号)の金築誠志先生(何度も当ブログで述べましたが、私が最も尊敬する元最高裁判事の方です)によるご論稿「判例について」を読むと参考になるのではないでしょうか(もちろん、これは法律専門家向けのお話ですが、金築論文は裁判実務的にたいへん有益な論稿でして必読ではないかと)。

ところで「なぜ金融庁は公式見解の発表をとりやめたのか?」という点ですが、検察庁からクレームがあったということよりも、(告発があった場合に)検察審査会の職務の独立性(検察審査会法3条)を侵害するおそれがあったからではないかと勝手に推測しています。社会的に話題となった事件において、司法改革の一環として導入された検察審査会の起訴議決が活用されるケースが増えています。もし、後日検察審査会が開催されるような事態となり、行政当局が「これは違法である」と公式に意見表明をしてしまいますと、検察審査会もこの意見に影響を受けてしまうことになりそうです。しかし、これは(国民の素直な処罰感情を訴追に反映させるという)審査会の機能を不全に至らしめ、国民の利益を侵害するおそれがあります。

そしてもうひとつ考えられる理由は、平成30年6月までに施行される「日本版司法取引」への対応です。今回の東芝会計不正事件は、経済犯罪に対する平成28年改正刑事訴訟法上の司法取引(刑事訴訟法350条の2以下)の典型的な活用場面です。東芝事件では、「公正なる会計慣行の逸脱」という論点だけでなく、不正会計の実行者とその指示者が別であり、故意の立件に困難が伴うことが予想されます。粉飾の共犯者(トップから指示を受けた者)に捜査・公判への協力と引き換えに訴追免除する約束をとりつけて経営トップの認識を裏付ける供述を引き出すというものですね。

なお、金融庁職員(特別調査官)は強制捜査の権限は有していても、「司法警察員」ではないので司法取引を行う権限はありません。あくまでも金融庁から告発を受けた検察の権限です。したがって、今後同様の事案を立件するにあたり、金融庁は検察による司法取引の権限をどうしても活用したいところです。したがって金融庁と検察は、これからさらに信頼関係を密に保持することが必要です。場末の弁護士の勝手な邪推にすぎませんので、「話半分」くらいにお聴きいただければ結構ですが、こういった理由がホンネの部分だったりするのではないかと。

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