2015年6月11日 (木)

社外取締役・社外監査役に警鐘!セイクレスト事件大阪高裁判決

旬刊商事法務の最新号(2069号)のニュース欄に、この5月21日、セイクレスト事件の控訴審判決(役員責任査定決定に対する異議請求事件 大阪高裁第14民事部)が出たことが報じられており、高裁は、原審(大阪地裁)と同様、セイクレスト社の社外監査役さんの善管注意義務違反による賠償責任を認めたそうです(昨年4月に地裁判決を紹介したエントリーはこちらです)。社長が不当に会社資産を流出させる具体的危険性を社外監査役が感じ取った場合には、①他の取締役に対して社長の暴走を止めるための内部統制システムを構築するよう勧告しなければならないのに、これを勧告しなかったこと、②すぐにでも社長を辞任させるために臨時株主総会を開催するよう他の取締役に指示しなければならないのにこれをしなかったことが善管注意義務違反に該当する、という判断ですね。

ちなみに「重過失あり」として社外監査役の責任を査定したセイクレスト社の破産管財人の(反訴)控訴も棄却され、この社外監査役さんには重過失までは認められない(過失のみ認める)とのこと。つまり賠償責任は認められましたが、(重過失があると適用が除外されてしまう)契約に基づく限定責任の範囲内で損害額が算定されています。

監査役の皆様ならご承知かもしれませんが、このセイクレスト事件地裁判決は、かなり監査役に厳しい判断だったので「たぶん高裁ではひっくり返るだろう」といった楽観的な予想もありました(恥ずかしながら私もですが・・・)。しかし高裁も地裁判断をほぼ踏襲し、社外監査役の善管注意義務違反を認めたものです。ニュースで報じられている本件判決の争点は4つほどあるのですが、これをみると、後だしジャンケン的な判断ではなく、社外監査役の行為時にさかのぼって、当該社外役員が社長の暴走を止めることができたかどうか(予見可能性の有無)を慎重に判断しているようです。セイクレスト社の場合は債務超過による上場廃止の可能性が高まっていたという「有事」にあったわけですが、会社の有事にあたり、社長を監督する立場にある者はどこまでの対応が法的に求められるのか、本判決が示唆するところは大きいように思います。

セイクレスト社の破産管財人の控訴は棄却されるわけですが、高裁は棄却理由として「セイクレスト社の監査役会は社長に対して不適切行為の中止に関する要望を行っていたのであるから重過失あり、とまではいえない」としています。たしか地裁判断でも「社長に明確な報告を求め、監査役自身の辞任もほのめかしていた」ことを理由に重過失まではない、との判断でした。つまり、ここまで監査役がブレーキ役を務めても、本気で社長の暴走を止める行動に出なければ、また他の取締役と協働して社長の暴走を止めるための体制を構築しなければ善管注意義務違反とされてしまうわけです。

ガバナンス・コードの適用等「攻めのガバナンス」ばかりが話題とされる今日、セイクレスト事件控訴審判決は「守りのガバナンス」の実効性を確保するためには何をしなければ社外役員の法的責任が問われるのか、真剣に議論するための格好の材料になるのではないでしょうか。判決を読むと(ひょっとすると)社外取締役や社外監査役に就任することが怖くなるかもしれませんが、判例雑誌等で判決全文が紹介されることを願っています(また、できれば双方から最高裁に上告、上告受理申立をしていただきたいのですが、どうなったんでしょうかね)。

6月 11, 2015 社外取締役・社外監査役 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年6月 6日 (金)

上場会社に社外取締役(複数?)導入を迫る5本の矢

ひさしぶりの企業統治のお話ですが、ついこの間まで「社外取締役の義務付けの是非」といった議論がなされていましたが、最近のニュースなどを読んでいますと、もはや複数導入や活用論、独立性基準の開示、役員研修導入にまで話題が及んでいます。ひょっとすると、このまま取締役会制度の価値観が変わりそうな勢いですね。

最近の調査結果によると、東証1部の6割の会社が既に1名以上の社外取締役を選任済みということですが、まだまだ上場会社に対する社外取締役導入を迫る外圧は続きそうな気配です。上場会社が社外取締役導入に動かざるをえないのは、①会社法改正法案、②コーポレートガバナンスコードの策定(日本再興戦略)、③スチュワードシップコードの策定といったところへの対応だとは思うのですが、本日の日経新聞でも報じられているように、④海外機関投資家の直接要求というのもあるのですね(私は存じ上げませんでした。ちなみに、主要な大会社に対してのみ、ということですが)。社外取締役の複数導入等を進めなければ2017年以降、総会における取締役選任議案について反対票を投じるとのことです。

さて、ここまでのインセンティブは比較的わかりやすいのですが、私はもうひとつ、「5本目の矢」が存在するのでは・・・と推測します。それは、⑤もうすぐ打ち出される政府の「新成長戦略」に盛り込まれる「金融機関のガバナンス改革」です。緊急構造改革プログラムの一環として上場銀行、持株会社には1名以上の独立社外取締役を導入することが求められるようですが、これは単に金融機関のガバナンスを改革することが目的ではなく、金融機関の融資先企業のガバナンスチェックに力を入れるための基礎固めが本来の目的ではないかと。自分のところに社外取締役が存在しないのに、融資先のガバナンスチェックなど偉そうに言えない、ということでしょうか。

前にも当ブログで述べましたが、金融庁が直接監督できるところを活用して、直接手を突っ込めない上場会社のガバナンス改革に影響を及ぼすということの一環です。機関投資家、格付け会社、監査法人と並び、銀行等の金融機関にも(上場会社の)コーポレートガバナンス改革を促進する役割を期待する、ということではないでしょうか。

外国人の株式保有比率が高い企業を中心に、「せめて外見だけでも欧米並みに・・・」といった後ろ向きのアリバイ工作的発想で社外取締役導入論が語られていた時期もありましたが、もはや企業として社外取締役に何を期待しているのか、どう活用するのか、社外取締役はどういった形で自社に貢献しようとしているのか、といった実質論が語られる時代になりつつあります。旬刊商事法務5月合併号(2032号)に、社外取締役の人材紹介で有名なプロネッド社の酒井氏が「社外取締役の役割を踏まえた取締役会の運営実態に関する調査」という論稿を発表されていますが、ご一読をお勧めいたします。アンケート回答企業について、社外取締役が有効に機能した事例や、社外取締役が有効に機能するための工夫などが、かなり具体的に紹介されており、社外取締役を真剣に有効活用しようと悩んでいらっしゃる企業の姿が読み取れます。

「社外取締役を入れると企業不祥事を防止できるか」「社外取締役を入れると企業価値が向上するか」といった漠然とした抽象的な話ではなく、個別の会社の社外取締役さんは、どんな社内情報に関心を向けているのか、非業務執行役員間でどのようなコミュニケーションを図ろうとしているのか、ラインの方々へ「モノ申す」環境作りの工夫はどのようにしているか(たとえばスタッフや任意の委員会の活用等)、管理会計、制度会計上の数値をどのように活用しようと考えているのか、といったあたりが、その会社の社外取締役の「期待価値」になってくるのではないでしょうか。社外取締役としても、やっぱり「お飾り」ではなく、本気で会社に貢献したいですよね。あくまでも個人的な意見ですが。。。

6月 6, 2014 社外取締役・社外監査役 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年1月22日 (火)

東証独立役員セミナー「独立役員、こんなときどうする!?」

今朝(1月21日)の日経新聞法務欄に社外役員リサーチのプロネッド社による上場会社アンケートの結果が紹介されておりました。弁護士を社外取締役に選任する場合、「経営の幅広い知識や経験を持つ人材が不足していること」が懸念材料だそうであります。ちなみに企業が弁護士たる社外取締役に期待するのは「リスク管理」が中心であり、弁護士以外の社外取締役に期待している役割は、約6割の企業が「経営戦略の執行の監督」を挙げておられるそうです。

法制審議会会社法制部会長の岩原教授も、モニタリング・モデルとしての取締役会の第一の機能は「経営者の業績の評価」であり、とくに社外取締役に求められるのは、「経営陣が今後の収益予想に基づいて策定した経営戦略方針に基づく業務執行の成果が、当初の方針に照らし妥当であったかを、経営者に業績の結果に則して説明させ、責任を負わせること」にあるとされています(「月刊監査役」2013年1月号6頁)。経営者の成果を評価する何よりの指標は会計成果であり、だからこそ財務専門家としての独立取締役は重要だとされています。

社外取締役候補として、弁護士資格保有者が挙げられることは多いのですが、「経営パフォーマンスの評価」という視点から、企業価値の向上に資する社外取締役の役割を考えますと、上記プロネッド社のアンケート結果は当を得ているものと思います。上記記事で締めくくられているとおり、弁護士が社外取締役に就任する場合には、経営や事業への理解を深める努力を怠らないようにしなければ(リスク評価だけでは)一般株主の利益向上のために有用とは言えないかもしれません(でも、複数の社外取締役が選任されるケースでは、有事対応やD&O保険の適用問題など、弁護士が選任されているほうがかなり有用な場面もありますよ)。

中堅規模の上場会社の社外役員を8年間経験した者としては、弁護士が経営パフォーマンスの評価という観点から有用であるためには、まずは「儲けのからくり」をきちんと理解することが第一かと(私も「比較的単純なビジネスモデル」であるにもかかわらず、理解するまで時間がかかりましたので、あまり偉そうには言えませんが)。その業界の経営構造だけでなく、同業他社と比較したうえでの「当社の儲けのからくり」も理解しなければ、会計成果やリスク評価すら「とんちんかん」な意見しか言えないように思います。また、経営者の暴走を止めることことも重要な役割かもしれませんが、(個人的には)、経営者が経営スピードを思いっきり上げてもコケないように「道路に穴があいてないか、大きな段差がないか」を経営者に示すような意見が言えること(経営者の背中を押すこと)も大切だと思います。

さて、社外取締役と証券取引所ルールによる「独立役員」とは、その役割としては少し異なるところもありますが、このたびの会社法改正(附帯決議)でも明記されたように、今後は独立役員の役割についても再び注目が集まるところかと思われます。ということで、東京証券取引所は、2月5日、一昨年に引き続き、第二回目の独立役員セミナーを開催することとなりました(セミナーのご案内はこちら)。私もこのシンポに登壇することになりましたが、まさに弁護士の独立役員経験者として発言させていただきます。ちなみに、私は8年間の社外監査役(すでに昨年6月に退任)就任期間のうち、最後の2年ほど独立役員として登録されておりました。

どうみても経営戦略への知見が豊富な他のメンバーの方々と比較して、「なぜこの弁護士が?」と疑問視されるかもしれません。しかし、これにはきちんと役回りがある(と、思っております)。独立役員といいましても、現実は社外監査役が7割を占めており、上記アンケート結果の懸念されるとおり、経営の幅広い知識や経験が(若干)乏しい独立役員もいらっしゃるかもしれません。ということで、社外監査役出身の独立役員であっても、一般株主の利益保護の観点から、「ガバナンス、ファイナンス、資本政策、有事対応等、いずれの課題についても、最低これくらいは対応できたほうが望ましい」というモデルを示す役回りを期待されているものと(勝手に)推測しております。

証券取引所は、今後「社外取締役たる独立役員」の選任義務(努力義務)を、企業行動規範において明記するようですが、もちろん社外監査役たる独立役員も継続して就任されるところです。ハンドブック「独立役員の実務」(2012年 商事法務)のなかにも記載されているように、社外取締役と社外監査役では、一般株主の利益保護のために「異なるアプローチもありうる」とされています。そういったアプローチの手法も、どこかで示すことができれば・・・とも思います。

東証もしくは大証の上場会社の独立役員の方のみ参加可能ということなので、参加資格は絞られておりますが、もしご参加いただけます方は、神田先生の基調講演と共に、当シンポをご覧いただければ幸いでございます。

1月 22, 2013 社外取締役・社外監査役 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年11月28日 (水)

社外取締役制度に対する最近の議論と若干の私見(その3)

欧州域内に本籍を置く上場企業に対し、2020年までに女性の非常勤役員の比率を40%まで引き上げる法案が成立するそうです。ダイバーシティの義務化が実現するようで、「女性役員が在職する企業のほうがパフォーマンスが高い」という実証結果を根拠にしているようです。

さて、社外取締役制度に対する最近の討論に関する若干の私見ですが、(その2)の続きを書きたいと思います。前回少しご紹介した「社外取締役を導入することが相当でない理由」に関する論点ですが、旬刊商事法務の座談会記事(1978号6頁以下)等を読みますと、やはり企業側にとって相当にハードルは高い、とのご意見が強いようです。

ただ私なりに(冷静に)この「社外取締役を導入することが相当でない理由」を考えますと、以下のような理由はいかがでしょうか。たとえば

企業の組織構造(多角化事業、グループ企業化、グローバル化、業態業種)からして、当社では社外取締役がその企業特性を理解するためには、相当の時間と労力を要する(いわば情報獲得コストが高い)。当社として意思決定のスピードがさらに要求される時代において、このような状況で外部第三者が経営に関与したとしても、企業価値の向上することが困難なばかりか、企業価値を毀損させてしまうおそれがある

というものです。もちろんすべての上場企業にあてはまる、というものではありませんが、組織構造が複雑な企業では、こういった理由も成り立つのではないでしょうか。企業としては、価値向上のために社外取締役を導入したいわけですが、独立性要件を満たすことができる「全く業界の異なるところ」から選任したい。しかし、そういった方に取締役として経営に参画してもらうには、よほど社内事情に精通してもらわねばならない、たとえば海外展開を中心にしている企業など、どうやって社外取締役の方が意見を述べられるのか疑問である、ということです。先の座談会記事におきましても、「相当でない理由」の妥当性については法律的に問題となるわけではなく、理由が記載されていない、理由が虚偽であるといったことでもないかぎりは、市場における評価の問題(つまり法的には問題とはならない)として捉えられています。どの程度「情報獲得コスト」がかかるのかは、社内の人間でないと理解できないところもありますので、こういった「社外取締役をおくことが相当ではない」理由も十分に考えられるところではないかと思います。

ただこういった理由を記載することについては(法的に正しい、正しくないという問題ではなく)「あまり評価できない」という意見は出てくるかもしれません。まず機関投資家が多い企業の場合、資金調達コストが高くなることが考えられます。先日もHP(ヒューレットパッカード)社が上場子会社買収にあたって、その会計不正に気付かなかったため、80億ドル以上もの損失を計上せざるをえなくなった事件がありましたが、機関投資家や運用会社は上場会社のガバナンスにとても強い関心を寄せています。このような状況のなかで、社外取締役を導入しない企業については、やはり企業価値向上よりも経営者監督機能において懐疑的な目を向けられることになると思います。ひとりでも社外取締役を導入すれば資金調達コストが下がる、というのであれば、むしろ導入したほうが全体のコストとしても下がるのではないか、との疑問が湧くところです。たとえ社外取締役が「一身上の都合」で辞任したとしても、市場ではそれなりのサインとして受け止められるわけです。ある意味、社外取締役の導入は保険的な意味合いがあると思います。

また、たとえ社内の事情に(社外取締役が)精通していなくても、コストに見合う働きはできるのではないでしょうか。たとえば意思決定の内容についてコメントできない場合でも、その意思決定の方向性についてモノは言えるのではないか、と思います。「利益が出ていない創業時代からの事業から撤退する」、「みんなが新規事業を成功させようと一丸となっているときに撤退基準について提案する」、「「日本一の技術者を擁する当社でも、原発事故は起こさない(起きない)、ではなく、事故は起きる(起こりうる)、というところからリスク管理をスタートさせる」、「ステークホルダーの利益が相反する重大な局面において、その優先順位(どちらを捨てるべきか)を決定する」といった場面において、果たして社内の取締役だけで十分な議論が尽くされるのでしょうか。

重要な経営判断であればあるほど、すべてのステークホルダーの利益を満足させることはできず、社長は最終決済者としてその利益に順番をつける必要があります。ときには情理に流されてしまいそうになる中で、「捨てるべきものを選択する」必要があります。これはたいへんストレスのたまる仕事です。その場における最良判断を模索することになるわけで、果たして社外からみて、その優先順位は正しいのかどうか、これを検討する機会を与えることも社外取締役の役割ではないかと(この優先順位において一般株主の利益を検討するのが独立役員たる社外取締役ではないかと)。きついストレスのたまる社長の経営判断を後押しするだけでもいいのではないでしょうか。ごくまれに「おかしい」と思える経営判断があったときは、堂々と意見を述べることができれば良いと思います。このような場合、「気づく」ことよりも「素人の考えを口に出す」勇気のほうが重要ではないかと思います。

また、経営学的見地からも、社外取締役の有用性は認められるのではないでしょうか。ドラッガー氏の代表的な著書のなかでも書かれています。

エグゼクティブが直面する問題は、満場一致で決められるものではない。相反する意見の衝突、異なる視点との対話、異なる判断の間の選択があって初めて、よく行いうる。したがって、決定において最も重要なことは、意見の不一致が存在しないときには決定を行うべきではないということである。(「経営者の条件」PFドラッガー 2006年 ダイヤモンド社 198頁)

そもそも日本企業の場合、社長の権限は絶大なわけですから、この社長の判断に資するものでなければ「企業価値向上のための社外取締役」は役に立たないのではないかと言うのがホンネのところです。社長のお仕事はいま儲かっている仕事に注力することと同時に、10年、20年先も事業が成長できるような礎を見据えることも必要です(だからこそ社長は孤独だと思うのです)。その10年、20年先を見据えた事業戦略に役立つのが「意思決定の方向性」をチェックする社外取締役の役割ではないでしょうか。

もちろん、そのような意見を口に出すためには、「ふさわしい社外役員」候補者がいなければならないことは当然であり、また就任後も社外役員に不断の努力が必要かと思います。最後は人間性の問題であり、就任した企業のことを好きになれるかどうか、ということに尽きるのかもしれません。今回の会社法改正の審議では、社外取締役がコーポレートガバナンスの向上のために、何を期待されているのか・・・というところで、推進派の方々がきちんと合意形成できなかったことに、反対派の方々に押し切られてしまった要因があるものと思います。いま「義務付け」が見送られた以上、今度は各企業ごとに「どうして当社では社外取締役が必要と考えているのか」というところを明確にして、具体的な選任理由を述べることが必要になってくるのでしょう。来年以降、おそらく社外取締役がじわじわと増えていくと思いますが、あるところからは一気に各企業とも導入に動く、というのが私の予想です。

11月 28, 2012 社外取締役・社外監査役 | | コメント (15) | トラックバック (1)

2012年11月26日 (月)

監査・監督委員会設置会社への移行と社外監査役の憂鬱

今回の会社法改正要綱をみますと、「第三の株式会社機関設計」として、新たに「監査・監督委員会設置会社」が創設されています。会社法改正により、社外取締役の導入義務付けが制度化された場合には、ずいぶんと脚光を浴びたのではないか、と言われています。たとえば上場会社の場合には、取引所ルールで「監査役会の設置」が要求されていますので、少なくとも(現状では)社外監査役が2名います。監査・監督委員会設置会社では、2名以上の社外取締役を要するので、監査役会設置会社が監査・監督委員会に機関変更してしまえば、現行の社外監査役2名をそのまま社外取締役にスライドできます。つまり、新たに社外取締役候補者を探したりすることも不要になるわけです。しかしながら、ご存じのとおり社外取締役の導入義務付けは見送られることになりましたので「これで監査・監督委員会設置会社への世間の関心も薄れてしまうのだろう」と、私などは考えておりました。

しかしここに来て、またまた監査・監督委員会設置会社への移行に関心が高まりつつあるようですね。経営トップによる迅速かつ柔軟な意思決定を可能とするには、今の監査役会設置会社よりも監査・監督委員会設置会社のほうが実効性が高いのではないか?とする意見もよく聞かれるところとなりました(旬刊商事法務にも、そのような趣旨の論文が掲載されています)。また最新号のビジネスロージャーナル(2013年1月号)の日経新聞編集委員の方の論稿も、企業統治を真剣に検討するのであれば、監査・監督委員会設置会社への移行も十分に検討すべし、と述べておられます。証券取引所も監査・監督委員会設置会社への移行を推奨しているところですし、さらに(監査役会設置会社だけでなく)委員会設置会社からの移行も検討されている、との話もお聴きするところです。

手続きが面倒そうだし、実益がないのであれば関心はないとする見解と経営者の思うままに会社を動かすためには結構有益では?とする見解と、どちらが正しいのかという点は、私自身、これまであまり深く考えたことはありません。ただ、そもそも議論の前提になっている「社外監査役→社外取締役」へのスライドというのは、そんなに簡単にできるものなのでしょうか?「ウチの会社は監査・監督委員会設置会社に移行するために定款変更を考えています。社外監査役のみなさんも、これからは議決権を持つ社外取締役に移行していただきます」と言われて、ハイそうですかと簡単に納得できるものでしょうか?少なくとも私が社外監査役であれば、「ちょっと待ってくださいよ。私は社外監査役であれば気持ちよくお請けしますけど、監査・監督委員会設置会社の社外取締役だったら、ちょっと考えさせてください」と申し上げるのではないかと。

まずなんといっても常勤の監査・監督委員の設置が任意であることです(監査役会設置会社では常勤監査役の存在は必須)。これまで常勤監査役さんに慣れてきた社外監査役が、いきなり内部統制に依拠する監査に果たして怖さを感じないのでしょうか?通常は、常勤監査役さんの往査の結果報告や出席した重要会議の結果報告等から、リスク評価を行うための情報を入手するところですが、もし内部統制システムに依拠した監査に移行するのであれば、人よりも組織を信用する態勢を覚悟しなければならないわけです。そうであるならば就任の条件としてはこちらが要求する内部統制システムを構築してもらわなければ、高い「監査見逃し責任」リスクからは抜けられない気がいたします。過去に非常勤社外役員の法的責任が否定された判例などもありますが、今の時代の流れの中で、同様の判決が出るとは限りません。

また、監査・監督委員会は(同委員会が選定した監査・監督委員を通じて、ということになりますが)株主総会で取締役の指名や報酬に関する議案提出の際に、委員会としての意見を述べることができます。ということは、委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会の権限の一部を監査・監督委員が担うことになります。権限あるところに責任あり、ということになりますから、監査・監督委員といえども、社内の派閥間における支配権争いに巻き込まれることもあるでしょうし、社内事情に精通したうえでの説明責任も課されることになるのではないでしょうか。「意見を述べない」との選択肢も、社外取締役は社内のことがわからないから意見を述べない、では済まされないものと思います。

これに加えて、取締役に移行する社外監査役にとって「気持ち悪い」のが会社法423条3項の「利益相反取引に関する任務懈怠の推認規定」の排除です。監査・監督委員会が、取締役会における利益相反取引に関する承諾手続きの際に、これに同意した場合、後日利益相反取引によって会社に損害が発生しても、取締役会で賛成した取締役の任務懈怠の推定が排除される法的効果が生じます。もちろんしっかりした監査・監督委員の方が多い場合、その他の取締役の方々の監督機能に十分に期待できる場合であれば良いのですが、そうでない場合には経営トップが暴走することの「隠れ蓑」にされてしまうおそれがあります。監査・監督委員のメンバーが利益相反取引の妥当性についてきとんと判断できればよいのですが、そもそも判断の前提となる情報に監査・監督委員会が十分にアクセスできる保証はありません。そういった中で、利益相反取引が会社に損害を発生させない根拠をきちんと把握できるものかどうか、暴走とはいえないまでも、短期的利益追求を目指す社長と対決してまで取引に反対する社外取締役がどれほどいるのか、ということを考えますと、これはとても悩ましい課題ではないかと。

監査役会設置会社の社外監査役であれば、「監査役の独任制」によって社長と対立するということもあるかもしれませんが、監査・監督委員会の場合はそれも困難です。こういった有事における監査・監督委員たる社外取締役の身の処し方や法的リスクについての十分な議論がなされないまま、単純に「社外監査役→社外取締役」へのスライドに応じることはちょっとオソロシイ気がしますし、社外取締役に就任することの覚悟をもって臨む必要があろうかと思います。もちろん、経営者サイドからみても「この人は監査役としてなら就任してほしいけど、取締役となるとどうもなぁ」といった事態も出てくるかもしれません。そう考えますと、今後監査・監督委員会設置会社が増えることがあったとしても、やはり上場会社が新たに社外取締役を探してくる必要性は(従来の監査役会設置会社における労力と比較しても)それほど変わらないのではないだろうか・・・・・と思うところです。

11月 26, 2012 社外取締役・社外監査役 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年11月12日 (月)

「社外取締役制度」に関する最近の議論と若干の私見(その2)

先週金曜日のエントリーの続きであります。最新号の旬刊商事法務(2012年11月5日号)に、気鋭の弁護士の方々による「『社外取締役を置くことが相当でない理由』の説明内容と運用のあり方」と題する論稿が発表されましたので、たいへん興味深く拝読させていただきました。これまでも上場会社の開示書類において、「社外取締役を置かない理由」の開示は求められていたわけですが、ご承知のとおり会社法改正要綱のなかでは、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を(事業報告において)示さなければならない、と明記されました。上記論稿でも明らかにされているとおり、今回の会社法改正要綱を読むかぎりでは、上場会社レベルの株式会社には、社外取締役を置くことが企業価値向上のためには一般的には望ましいとの判断があり、それでもなお個々の会社の事情により、社外取締役を置かない場合には、「当社では社外取締役を置くことが企業価値を下げてしまうのだ」といった理由を積極的に開示しなければならない、ということになりそうです(文言解釈としても妥当ですし、また会社法制部会での議論の経過をみても、そう解釈せざるをえないように思われます。そういった意味で、私は「社外取締役としてふさわしい人がみつからない」という理由は「社外取締役を置かない理由」にはなっても「社外取締役を置くことが相当でない理由」にはあたらない、と考えています)。

では、①いったいどのような理由を示せば「置くことが相当ではない」理由となりえるのか、②当該会社の規模や業種などによって理由を示しやすいところとそうでないところがあるのではないか(では、どのような業界であれば置くことが相当でない理由が示しやすいか)、③英国流のComply or Explainの実証研究を通じて、日本の「置くことが相当でない理由」の開示制度はどのように運用すべきか、といったあたりの課題が上記論稿で示されています。未だきちんと議論されたことがない点なので、上記論稿が今後の議論にも影響を及ぼすものになるかと思われます。ただ、現状として東証に上場している会社の半数が社外取締役を置かない企業なので、今後は「置くことが相当でない理由」に関する「ひな型」は作られるものと予想しております。

いったいどのような理由が「置くことが相当でない理由」になるのかは私もいろいろと考えるところですが、これを開示する上場会社にとって検討しておかなければならないことは、定時株主総会を前提とした少数株主権の行使として、社外取締役の選任議案が出された場合ではないか、と考えています。具体的に社外取締役候補者を目の前にして、会社側はどう対応するのか…という点にとても関心があります。少数株主としては、様々な理由を示して社外取締役候補者を特定して選任議案を出すわけです。会社側としては、事業報告に記載する「置くことが相当ではない理由」と、個別議案に対する反対意見とを矛盾なく説明する必要が出てきます。説明いかんでは、現経営陣が単純に「保身目的で置きたくない」と一般株主に受け止められてしまうことにならないか、このあたりは慎重な配慮が必要になってくるのではないでしょうか。

また、社外取締役を置くことが相当でない、という会社の経営判断(取締役会における専決事項)は取締役全員による審議の末の結論です。取締役会での審議を要することになりますので、出席している監査役も意見を述べることができる立場にあります。会社法が「企業価値向上のために社外取締役を置くことが望ましい」との価値判断があるのであれば、なぜ社外取締役を置かないのか、とりわけ一般株主にとっては関心が高い経営判断です。そうしますと、取締役会でどのような判断がなされたのか、独立役員たる社外監査役は一般株主の代弁者としてふるまう必要があります。つまり、株主総会において取締役の選任議案が上程され、審議されるケースでは、独立役員たる地位にある社外監査役さんに株主への説明が求められることになるはずです。こういったことこそ、独立役員に求められる役割であり、一般株主の立場からみても、社外取締役を置かないほうが好ましいのだ、という説明をしなければならないと思います。現実には議長である代表取締役が回答することになるかもしれませんが、一般株主利益に配慮しなければならない独立役員個人の見解を聞きたい、と考える株主からすれば、質問が独立役員に向けられてしかるべきではないかと思います。

さらに、いったん「社外取締役を置くことが相当でない」とする理由を開示した後に、翌年以降、諸事情によって社外取締役を置かざるを得ない状況になることも考えられます。グループ企業経営のなかで、子会社管理の一環として自ら子会社に社外取締役を派遣するケースも考えられます。自分の会社の事業では社外取締役を置くことが相当でないのに、どうして子会社事業の場合には相当なのか、昨年は相当ではないといっていたのに、どうして今年は相当だと判断したのか、そのあたりを矛盾なく説明しなければ、やはり「恣意的な判断である」と株主からツッコミを入れられるのではないでしょうか。会社側としては、企業価値向上という視点から説明することになると思いますが、上記論稿も結論として述べているとおり、説明が困難な企業は事実上社外取締役を置くことが強制されることになるのではないかと思われます(ただ、それでも開示規制ということですから、市場からどのように判断されても、毎年不透明な説明を繰り返して社外取締役を置かない企業もあると思いますが)。

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ちなみに、社外監査役ではなく、社外取締役たる独立役員を選任するよう要望する旨の上場ルールは今年5月に制度化されておりますが、今回の会社法要綱においては、上場ルール等によって各上場会社に社外取締役を選任するよう努力義務を課すことが要望されています。こういった流れの一環なのかどうかはわかりませんが、東京証券取引所編著「ハンドブック独立役員の実務」(商事法務 神田秀樹監修 税別1800円)が発刊されました。独立役員に指名された社外役員としてのベストプラクティスが示された本です。読む前は「いままでの東証の意見をまとめたものにすぎないのでは?」と思っておりましたが、さすが東京の大手法律事務所がアドバイザーとして関与されているだけあって、なかなか秀逸な本です。独立役員に求められる役割というものが、これまで以上に(総論各論に分けて)詳細に解説されています。とくにコーポレートファイナンス、ガバナンス問題、コンプライアンス問題に対する視点がとてもよくまとまっているなぁとの印象です。もちろん社外取締役に期待される役割と、東証ルールにおける独立役員の役割が一致する、ということまでは言えないかもしれませんが、一般株主の利益に貢献する独立役員たる社外役員の方々にはお勧めの一冊です。

「私見を述べる」といいながら、またまた今回も脱線してしまい、まだ書けていません。(その3)では絶対に書きたいと思います。

11月 12, 2012 社外取締役・社外監査役 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年11月 9日 (金)

「社外取締役制度」に関する最近の議論と若干の私見(その1)

ご承知のとおり、今年9月に法制審議会にて了承された「会社法制の見直しに関する要綱」(会社法改正要綱)では、上場会社の取締役の一人以上が社外取締役でなければならない、との改正案は見送られることになりました。関係者の利害調整を目的とする会社法に、社外取締役制度の義務化がどのように位置づけられるのか、という「そもそも論」もありますが、特別取締役制度に関する現行会社法の規定からしますと(会社法373条1項)、少なくとも会社法が「社外取締役には経営者および側近の暴走を食い止めるという役割がある」と考えていることは明らかであります(江頭「株式会社法」第4版395頁)。しかし、結局のところ会社法で制度化(強制導入)されなかったことからすれば、個々の会社が社外取締役を選任することは自由であり、また選任するとしても、社外取締役に何を期待するかは個々の企業の立場で判断してよいのではないかと思われます。

以前と比べますと会社法改正要綱が決定されたことで、議論が沈静化したようにも思えるのですが、現状では社外取締役制度を採用する企業が増えているそうです(今年の6月総会を境にして、社外取締役が取締役総数の過半数を超えている東証1部上場企業が29社→39社に増加 日経産業新聞10月17日付けより)。いま、ちょうど6月総会に向けて取締役の人選をされている会社が多いと思いますが、来年に向けてますます社外取締役に選任される方は増加することは間違いないでしょう。

さて、「人選の時期だから」ということでもないかもしれませんが、ここのところ社外取締役の有用性に関する記事を目にすることが多くなりました。たとえば今年、法律雑誌の座談会でご一緒させていただいたオリンパス社の社外監査役である名取弁護士の「社外取締役は不正を暴くことではない(日経ビジネスオンライン)」などは、とても読み応えのあるもので、コーポレートガバナンスがどのような目的のために議論されるべきか、ということにまで踏み込んでおられ、とても参考になります。なお、論稿の最後に、社外取締役制度を導入しない会社がどのように「当社としては、社外取締役を選任しないほうが相当だ」とする理由を開示するのか、とても関心があるとされています。これは私も非常に関心を持つところです。

つぎに日本取締役協会の原氏(大和証券グループ本社名誉顧問)のインタビュー記事「シリーズ日本取締役協会」(サンケイビズ)では、原氏が今回の会社法改正の中で社外取締役の義務付けが見送られたことを「意外であり、非常に残念。日本的ガバナンスの改正がこれほどかと思うと情けない」とされています。証券取引所や証券会社の立場からすると、取引の活性化を促すためにも海外投資家の視線に配慮し、ガバナンス改革を推進すべし、ということになりますから、このような意見が強く発信されることになると思います。キッコーマン社の茂木会長のインタビュー(日経新聞)においても、厳しい競争に勝つにはCEOによる強力なリーダーシップが必要だが、社外取締役はCEOや取締役会が十分に機能しているかどうかをチェックするうえでも不可欠な存在だと述べておられ、リーダーシップと社外取締役制度は両立するものであることを語っておられるところに強い印象を受けました。

さらにJPプレス「日本の企業統治:振り出しに逆戻り」は、元オリンパス社長ウッドフォード氏やBDTI(会社役員育成機構)のベネシュ氏のインタビューなどから、あまりにも日本の企業がガバナンス改革に消極的であり、その消極的な態度から、市場における不信感を増幅させている現状を憂いています。社外取締役制度の義務化が見送られたことは落胆の一言に尽きる、とのこと。ちなみにウッドフォード氏が会長を告発する取締役会に出席し、動議への賛同を求めた際の社外取締役の方々の印象を「まるで教室にいる生徒のようにふるまった」と表現しています。おそらく近々出版される英語版「回想録」の表現ではないかと思います。ちなみにアメリカでも、いまガバナンスに変革の流れが起きているようで、アメリカの上場会社では「モノ言う幹部」が増加し「仲良しクラブ」からの脱却が目立っているそうです。会長と取締役会がCEOの経営を監視する、という新たなスタイルが増えているとのこと(朝日新聞ニュースはこちら

東京電力をどのように再生していくべきか、ということについて、社外取締役の方々がインタビューに熱く答えておられるところをみますと、やはり過半数が社外取締役というのは一人、二人の場合と比較すると大きく違うなぁとの印象を持ちます。ゼロと一人との違いも大きいわけですが、やはり一人と過半数の違いも、そもそも社外取締役に期待される役割が変わるほどの差になっているように感じます。タイトルに「若干の私見」と偉そうに書いたわりには、ここまで自説めいたものは何も書いておりませんが(スミマセン・・・)、義務化が見送られたこと、また上記のような最近の議論などを踏まえて、(その2)においては若干の私見を述べたいと思います。

11月 9, 2012 社外取締役・社外監査役 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年2月 2日 (木)

社外取締役と監査役の機能の違い(明確にできるか?)

本日(2月1日)、日本監査役協会から「会社法制の見直しに関する中間試案に対する意見」がリリースされております(提出は1月31日とのこと)。監査役制度周辺に関するコメントが多いのは当然ですが、社外取締役制度の義務付けについては、有価証券報告書提出会社に限り、条件付きで賛成・・・・ということのようです。中間試案に対する監査役アンケートの集計結果でも、「社外取締役制度義務付け」については賛成と反対が拮抗しており、監査役会設置会社の監査役の皆様もご意見が非常に分かれていることがわかります。監査役と社外取締役の間に明確な機能分担ができるのかどうか・・・そのあたりへの考え方の相違が反映されているのかもしれません。また、昨年11月に、 「会社法改正ー監査・監督委員会の社外取締役・過半数の重み」のエントリーで素朴な疑問を述べましたが、やはりその素朴な疑問はけっこう大きな問題だったようであります。

金融・商事判例2月1日号の神田教授の巻頭言「会社法制の見直し」でも「監査役の役割と社外取締役の役割をどう調整するかが制度論をするうえでのポイントとなる」と論じられており、私もとりわけ社外取締役と社外監査役との役割が明確に区別できるか?という点は大いに悩むところです。法務省としては、経営監督機能と利害相反機能を社外取締役に期待される役割として整理されておりますが、それで明確な区別ができるかどうかは議論のあるところのようです。実際に、どのように役割を分担すべきか明確にされませんと、メルシャン事件の第三者委員会報告書43ページ以下に出てくるとおり、取締役と監査役さんとで「あれ?役員会に報告するのはアナタではないの?」「いやいや社長に報告するのはアナタでしょ」といった具合に、やっかいな業務は人任せにして、結局不正疑惑が何年も社内に温存されてしまう、という事態になってしまうおそれがあります(海外子会社の不正調査の場面などにも同様の問題があります。これは笑い話ではなく、けっこう不正事件には発生しております)。

理論的な整理をブログで論じるというのは(文字数があまりにも限られているために)適当ではないように思いますし、私の思考力を越えておりますので、高名な先生方や著名な実務家の方々にお任せすることとして、8年ほどの社外監査役の経験から論じるとすれば、やはり監査役と社外取締役とは(期待されている役割かどうかは別として)、大いにその機能は異なるものと考えています。なんといいましても、企業活動は「山あり谷あり」でして、企業の業績や業種ごとの経営環境の変遷によって監査役と社外取締役とで期待される役割は変わるからです。

監査役が不正や不備(いずれも取締役の職務執行の適法性にかかわるもの)を発見した場合、監査役はこれを報告し、またその「重大性」に関する意見を述べます。監査役が感じる「重大性」はあくまでも監査役固有のものであり(監査役それぞれが感じ方が異なる場合もあります)、この意見をもとに取締役が経営上の判断を行うわけで、その監査役の意見の重みを感じるのも個々の取締役で異なるわけでして、そこに社外取締役への期待があります(先日の「朝日法と経済のジャーナル」における阪神電鉄元社外取締役玉井氏の「秘話」とまったく同じ構造)。

社外取締役は「人の監査」をするわけではなく、あくまでも企業価値を向上させる仕事の過程で「組織の監督」をするわけですから、監査役の意見の重みを認識しつつも、監査役が期待する経営判断とは全く異なる判断に与することも十分ありえると考えます。重大なコンプライアンス違反が指摘されたとしても、これとは別に重大な経営問題があればその優先順位を検討しなければなりませんし、経営資源の配分についても配慮しなければならないと思います。オリンパス事件や大王製紙事件のインパクトが強かったために、不正抑止という視点ばかりが強調されておりますが、取締役の違法行為を指摘するという監査役の役割と、株主からの信認義務を取締役が尽くすという視点から経営判断の健全性を確保するという社外取締役の役割は異なるものであり、ときには監査役と異なる判断をするのも当然のことと思います。

あくまでもコンプライアンスの視点に限ってのお話ですが、経営判断に対して「人の監査」を通じてブレーキをかけるのが監査役の仕事であり、社長と一緒に業績を上げることに没頭しながら、つまりアクセルを踏みながら最良の選択を模索するなかでコンプライアンス経営を実現するのが社外取締役の仕事ではないでしょうか。会社が大きなカーブに差し掛かったときには監査役の機能が生きるでしょうし、長いストレートをアクセル全開で駆け抜けるときには社外取締役の機能が生きるわけです。このたびの決算発表をみていても、会社は生き物であり、良い時もあれば悪いときもあるわけでして、事業継続に向けて、どちらの機能が生かされるのかは企業の置かれた環境によって異なるものと思います。事故を回避するためにはブレーキを踏むことだけではなく、巧みなハンドルさばきも必要だと考えます。

2月 2, 2012 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年11月26日 (木)

日本の社外取締役の役割-その「外観的独立性」

一昨日のエントリー「日本の社外取締役の役割-その有効性と効率性-」はたくさんの方にお読みいただきまして、ありがとうございました。m(__)m 私が日経新聞の「プロフィール」に顔写真入りで登場したことや、BLOGOSで「読まれているブログベスト10」に(めずらしく)ランクインしたことなどが重なったことによるものと思われます。

私自身はとくに意識していたものではありませんが、社外取締役の報酬が高いと独立性が保持できないのではないか?といった話題がコメントのなかで出てきておりましたので、ある方よりメールにてご意見を頂戴いたしました。ご意見は以下のとおりであります。

いつも「ビジネス法務の部屋」で勉強させて頂いています。

「日本の社外取締役の役割」というエントリーのコメント欄を拝見していて社外取締役の報酬は当該取締役個人が必ず受け取ることが自明のこととなっていることに少し違和感を感じました。

業務命令で他社の社外取締役に就任する場合には、相手先企業からの役員報酬は当該社外取締役が直接収受せず、自社(派遣元)企業が受取るという企業もあります。理由は自社の業務としての対価である自社からの給与を貰っているため、これに役員報酬を受け取ると二重取りになるためです。

一方、社外取締役の賠償責任の上限は役員報酬にリンクするという規定になることが多く、かつ社外取締役としての責任はあくまで当該個人が追うという法律の建付けのため、派遣先の会社と交渉し社外取締役報酬を可能な限り引き下げてもらうこともあります。だからといって、当該社外取締役のモチベーションが下がることはなく(自社から貰っている給与に変わりは無いので)、中立の立場で真摯に社外取締役としての業務をそれらの人は勤めています。以上ご参考まで。

ご意見どうもありがとうございました。そうなんですか・・・。社外取締役の報酬は派遣先企業からは支給されず、派遣元(親会社?)から支給される、という上場企業さんもある、ということなのでしょうか。賠償責任の問題まで配慮して派遣先からの給与も引き下げる・・・ということですが、そういった話は存じ上げませんでした。要は派遣元である企業の常勤業務の対価をもらっているのだから、派遣先である企業の社外取締役としての職務執行の対価は派遣先からはもらわない、ということなんでしょうね。

たしかに社外取締役が報酬をもらわない・・・ということは、高額の報酬をもらっている場合と比較すれば「会社に迎合しない」ようにも思われます。つまり一般株主の利益のために行動することが期待できる・・・ということなんでしょうね。ただ、ひとつ疑問が生じますのが、ここで上げられている例は親子上場のケース、もしくは親会社が非上場(子会社が上場会社)のケースだと思われます。親会社の業務の一環として子会社の社外取締役に就任されている方など、表面上は無報酬での業務かもしれませんが、親会社の利益と子会社の一般株主との利益が相反するようなケースの場合、はたして子会社取締役の方に公正な立場での職務執行を期待できるのでしょうか?社外取締役の独立性を議論する場合、企業内からの不当なコントロールの排除の問題と、企業外からの不当なコントロールの排除の問題が分けて議論されますが、ここでは後者の問題であります。

たとえば今年6月17日に公表されました経産省企業統治研究会報告書の立場では、社外取締役の実効性と独立性のバランスが重視されており、親会社から派遣されている、というだけで社外取締役に就任できない、というのは企業価値向上ということ(実効性)からみると妥当ではなく、たとえ親会社出身者であっても、上場子会社の一般株主保護を十分に期待できるような独立性を確保できればいいのではないか・・・ということが趣旨だったように記憶しております。この趣旨からすると、親会社の役員(もしくは従業員)が、上場子会社の社外取締役に就任することは、それだけでは禁止されるべきではないけれども、公正性を疑われないような外観的な独立性については配慮されるべきではないかと考えられます。そして社外取締役として就任している企業から報酬をもらっていない(逆にいえば親会社から業務対価として、その分の報酬をもらっている)ということであれば、どう考えましても親会社と子会社との利益相反関係が生じるような経営問題につき、親会社の利益を最重要視することにはならないでしょうか?もちろん、誠実で人格の高い方が社外取締役に就任され、そのようなことはない、と言われるケースもあるでしょうが、ここで問題となりますのは「外観的独立性」であり、「公正さが疑われるような外観」が認められれば禁止せざるをえないように思われます。

金融庁の内閣府令の改正により、今後は役員報酬の開示方法が変わるようでありますが、役員ごとの報酬の決定方法を明記する、といった改正により、社外取締役の報酬がゼロであるかどうかは、今後外からもわかるようになりそうです。本来役員報酬がゼロであるにもかかわらず役員に就任するということは、逆にいえば常勤として勤務する会社と当該会社との関係が問題視されることになるでしょうし、社外取締役として公正な職務執行は期待されないような事態になりそうであります。海外ではあまり親子上場などが認められていないものと聞き及んでおりますが、その原因が親会社と子会社一般株主間における利益相反状況にある以上は、むしろ子会社の社外取締役に就任する親会社出身者としては、正当な範囲内の役員報酬は受領すべきでしょうし、このあたりが社外取締役の実効性と独立性のバランスをはかるべきポイントではないかと考えております。

11月 26, 2009 社外取締役・社外監査役 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年10月21日 (水)

ガバナンス評価委員会の威力が発揮されたのか?

名古屋市に本社を置く佐藤食品工業(新潟市のサトウ食品ではございません)の監査役3名は、同社元取締役ら6名を相手取って損害賠償請求訴訟を提起することを(監査役会で)決定したそうであります。(当社元取締役らに対する損害賠償請求訴訟提起にかかる監査役会決議のお知らせ)今年8月に、同社の一般株主より監査役に対して「当社取締役らの経営判断には、会社に損害を与えたことについて善管注意義務違反が認められるので、会社として損害賠償請求訴訟を提起されたい」との提訴請求がされていたようです。そこで監査役らは、今年初めに倒産した親会社のCP、社債を(その安全性について十分な検討をすることなく)同社が購入していたことについて、取締役らには法的に問題のある行為があった(善管注意義務違反があった)として、役員個人らによる賠償責任を追及することを決議した、とのこと。なお、佐藤食品工業さんには、もともと4名の監査役さんがいらっしゃったようですが、リリース直前に元常勤監査役の方は「一身上の都合」により辞任されておられるようですので、実質的には弁護士、税理士、元みずほインベスターズ証券代表者ら社外監査役3名で責任追及を決議されたようであります。(元常勤監査役さんとしては、被告である取締役の方々とは旧知の仲でしたので、監査役として責任追及することは忍びないことだったのかもしれません)いずれにしましても、株主からの提訴請求を受けて、監査役さん方が自ら会社を代表して取締役らの責任追及訴訟を提起することは非常に珍しいケースであります。

問題は、一般的にみればなかなか動かない監査役さんが、どうして株主からの提訴請求に応じたのか・・・という点であります。佐藤食品工業さんの余剰資金運用のため、56億円もの資金をSFCGグループのCP・社債購入に充当したことにつきましては、その当否判断は取締役会の書面決議をもって審議していたようでありまして、もともとそのころから監査役らは書面決議が不適切であるとして問題を指摘しておられたようです。(社内調査委員会報告書 参照)しかしながら、そういった監査役らの意見を無視して、書面決議をもって重要な財産の処分を決めてしまっていたわけですから、ひょっとすると社外監査役らの一存で元取締役らへの提訴を決意したのかもしれません。また、ずさんな資金運用に関する問題発覚後(2009年3月期45億円の特損計上)に、社内調査委員会を立ち上げて(といっても、社外の専門家が加入しているもの)、詳細な調査報告書が提出されておりまして、そのなかで経営判断に関する法律問題にまで踏みこんだ意見がリリースされておりますので、これを根拠として提訴に踏み切ったものとも思われます。

ただ、社外監査役(いずれも60代から70才代の方々ばかりです)の方々の提訴決議について、もっとも大きな影響を与えたのは、ガバナンス評価委員会の存在ではないでしょうか。この委員会は、問題発覚後に組織されたものでありますが(ガバナンス体制の強化について)、今後の取締役、監査役らの権限行使の在り方について厳格にチェックすることが目的・・・とされております。(しかも委員のメンバーは錚々たる法律・会計の専門家の方ばかりですね)50億円もの会社の損害金について、元取締役ら個人においてどの程度の回収が可能であるのか不明ではありますが、ここで過去の親会社との利益相反的取引を清算するべく、毅然として監査役としての権限行使を決意したものと思われます。そこにガバナンス評価委員会の存在意義があるのかもしれません。ガバナンス評価委員会そのものがガバナンスを構成するひとつになってしまっているのかもしれませんね。(このあたりは、また当事者に近い方々のご意見を一度聞いてみたいものであります。)

10月 21, 2009 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月20日 (火)

金融庁審議会SG「社外取締役制度の義務化、独立性強化」の本気度

つい最近までは、社外取締役制度については「わざわざ社外から取締役を招へいしても、いったい企業価値向上に結び付くのか?そんな実証例はあるのか?日本には固有の『社外監査役制度』があって、それなりに代替機能を果たしているのだから、なにも屋上屋を重ねるような制度は必要ないのではないか」といった意見が強かったのではないでしょうか。(とくに経済界の意見としては、いまでも概ね社外取締役制度の導入には否定的意見が強いと思います)しかし、18日の日経新聞一面では「金融審が『社外取締役を取締役会議長』にする案を検討している」と報道され、19日の朝日新聞ニュースなどでも、19日開催の第18回(再開後第3回)の金融審スタディグループ(SG)において、社外取締役制度の義務化および社外性の要件厳格化について議論が交わされた・・・などと、社外取締役制度がコーポレート・ガバナンス議論の中心課題として採りあげられているようであります。

基本的には金融審SGでの話題につきましては、「金融法制のなかで、いったいガバナンスの話がどこまでできるのか?」といった根本問題があるそうですが(そもそも会社法で議論すべき話題ではないのか?)、経済産業省における「企業統治研究会」での中心課題も、やはり上記2点でピタリと合致しているようですから、俄然実現性については「本気度」が高くなってくるような気がしております。(このあたりは、「旬刊商事法務」の新春1854号における経産省の課長さんの論稿が非常に参考になります)「いまなぜ『社外取締役制度』なのか?」というあたりも、これまでの「企業パフォーマンス論」から、「株主によるガバナンスにおける代弁者として不可欠であり、なにもかも『株主総会で決める』ことを回避する手段となる」とか「在日米国商工会議からの強い要望だから」といった「理屈よりも市場にお金が入るようにするための現実的かつ政策的要請」のほうが強く主張されるようになったようであります。もちろん、意思決定機関と執行機関を分離する、といった議論まで含めて検討されるのであれば「理屈の問題」もまた浮上してくるとは思いますが、とりあえず現状としてそこまでの改革は現実的ではないと思いますので、やはり政策的なところが大きな理由なんでしょうね。

全国社外取締役ネットワークの会員でありながら、こんなことを申し上げるのもちょっと気がひけますが、「社外性」の要件厳格化という点についてもどこまで独立性を強調すべきか、慎重な配慮が必要だと思います。ここ5年ほど、毎月一回、現役の社外取締役の方々と勉強会をさせていただいておりますが、正直申し上げて、大きな会社の取締役を経験されていらっしゃった方々の見識は間違いなく高いものがあります。たとえば「オバマ氏が大統領になったら、○○の業界にはかならず親日派の議員を抜擢するはずだから、○○の業界ではこういった点に気をつけろ」みたいな話になると、その実力の差は歴然です。またコンプライアンスという視点からみても、経営環境の変化に伴うリスクの変化についても、非常に当を得た意見がどんどん出てきます。また、一昨日のエントリーでも述べましたが、親会社から社外取締役として派遣されてきた子会社の取締役会において、その親会社の方が樹脂サッシの偽装について疑義を示され、これを機に自浄作用が機能したという話もありますし、「親会社から派遣されてきた社外取締役だからこそコンプライアンスが機能する」事例も実際にあるわけです。政策的な理由によって社外取締役導入を義務付けるとしても、独立性の厳格化につき上場企業一律に捉えることについてはどうかなぁ・・・とすこし疑問に思うところであります。たとえば弁護士が社外監査役や取締役に就任している場合、コーポレートガバナンス報告書には「当社の諸問題につき、法律家の見地から有用な意見をいただいております」などと書かれていますが、それだったら顧問弁護士やインハウスローヤーのほうが適任でありまして、イマ風に申し上げれば「当社には弁護士を社外取締役に置かなければいけないような○○の全社的リスクがあり、この弁護士が社外取締役としての地位に基づいて、どのような法律的素養を生かした活動によって、どのように効果的効率的にリスクが低減する」のか、きちんと説明義務を尽くすことのほうがよほど重要ではないでしょうか。

また「一律適用」についても慎重な検討が必要だと思います。たしかにソフトロー(取引所自主ルール)によるガバナンス規制といえば、上場企業に(その規模にかかわらず)監査役会設置を求めたり、財務諸表監査人による会社法監査の同時受託を求める、といったことがありますが、社外取締役の導入を自主ルールで求めることについてはどう考えるべきでしょうか。たとえば最近、浮動株時価総額基準の適用基準が緩和されましたが、これをクリアすべく、役員の株式放出問題や、役員退任問題などがテクニックとして活用され、その結果「緩和された時にはもうガバナンスはグチャグチャ」といった話も聞かれるところであります。基準緩和の決定も、適用前日に取引所からファックス一枚が届くだけですから、企業に準備の余裕もないのが現状です。自主ルールは機動性、迅速性に魅力があるわけですから、当然といえば当然かもしれませんが、人選や退任準備を含め、ある程度の準備期間が必要な社外取締役制度にはあまり向いていないような気もいたします。たとえ法改正によって導入するにしても、「一律適用」には問題があるように思います。理屈ではなく、現実の経営問題として社外取締役導入論を進めるのであれば、こういったあたりの「現実の経営問題としての弊害」への対応も含めて、今後検討されるべきだと思います。

1月 20, 2009 社外取締役・社外監査役 | | コメント (7) | トラックバック (1)

2008年12月18日 (木)

社外取締役には何が期待されているのか?(経済産業省・企業統治研究会議事録要旨より)

12月17日、経済産業省HPに「企業統治研究会」の第一回会合議事録要旨がアップされておりましたので、議論の骨子が閲覧できます。主な議題は「社外役員(取締役、監査役)の独立性の問題、我が国企業への社外取締役の導入促進の問題など、我が国企業のコーポレート・ガバナンスの向上に向けたルールの在り方」だそうであります。会社法や金融商品取引法、取引所自主ルールなど、今後のガバナンスに関わるルールの変更が予想されるなかでの議論として、この研究会の審議(来年6月ころに報告書としてとりまとめが行われる予定)の方向については非常に関心のあるところです。

議事概要を通読したところでは(有識者の方々がおあつまりになっているわけですから)、それぞれ納得のいく意見が多く出されているとは思うのでありますが、どなたかが発言されていらっしゃるように「社外取締役や社外監査役に何が期待されているのかを整理する必要がある」と私も思います。このブログでも何度か申し上げてきましたが、「社外取締役」に期待されるものについては

(Aの整理)①経営者へのご意見番として、大所高所より豊富な経験に基づく経営面での意見を期待する、②専門技術的見地より、経営判断についての説明責任を株主に対して果たすことに期待する、③総体としての株主の意見もしくは少数株主の利益を代弁することに期待する、といったところの整理と、

(Bの整理)①経営判断のデュープロセス(適正手続)を保障するために、経営判断過程に積極的に参加することに期待する、②経営判断過程には参加せず、独立的中立的な立場から、モニタリングし、その意見表明をすることに期待する、といった整理

といったふたつの整理方法が可能ではないかと思われます。このAとBの整理における意見のとりまとめを行わなければ、社外役員と企業パフォーマンスの関係とか、取締役会の機能の再考(執行機関的である現状を肯定すべきか、あくまでも監督機関的なものであることを強調すべきか)を検討しても、議論がかみ合わないのではないでしょうか。また、たとえば法律や政省令によってルールを形成すべきか、取引所ルールによって形成すべきか、あるいはガイドラインでベストプラクティスを示して、そこから逸脱するものを企業が採用する場合には説明責任を果たさせる、といった「投資家の目」を意識した(緩やかな)ルール形成を検討すべきか、といった点も上記整理の組み合わせに依存するのではないでしょうか。いずれにせよ、10月に出されました日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書のなかでも、この社外役員制度の改革は強く要望されているところですし(要望書Ⅱ-Aご参照)、間違いなく社外取締役制度のルール化は進むものとは思うのでありますが、日本には監査役制度や、執行機関的な取締役会制度も現に存在するわけですから、社外取締役ネットワークに所属するひとりとしては、「日本の社外取締役制度はどこへ向かおうとしているのか?」いつも疑問に思うところであります。

12月 18, 2008 社外取締役・社外監査役 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年12月17日 (月)

社外監査役の任期は2年とすべきではないか

昨日は日曜日であるにもかかわらず、多数の方よりコメントをいただき、ありがとうございました。先日のtomさんにつづき、またtatuoさんからも非常に熱いコメントを頂戴いたしました。企業不祥事とマスコミ報道のあり方につきましては、私も「企業不祥事におけるクライシスマネジメント」の大きな問題点であると考えております。赤福問題と船場吉兆問題など、それぞれのエントリーに同種のご意見を頂戴しておりますので、船場吉兆事件に関する実例などをもうすこし掘り下げながら、続編のエントリーをアップする予定であります。また、内部統制報告制度につきましても、通りすがりさんより教えていただいた新刊書「Q&A監査のための統計的サンプリング入門」もかなり気になるのですが、けっこう「いいお値段」ですので(^^;、会計士の方々のブログでの書評などを拝読したうえで、購入を検討しようかなぁ・・と思っております。(まだ「定量分析」を読み終えておりませんし・・・・・)

さて、私は現在ふたつの会社の社外監査役に就任しておりますが、そのうちひとつの会社では、2008年の定時総会終結時に任期が満了いたします。社外監査役としての役割に関する感想や、実際に4年近く、社外監査役の実務経験からみて、会社法336条が定める(公開会社の)監査役の任期については、「4年は長過ぎるのではないか」「少なくとも選択制で2年というのも可能にすべきではないか」と考えております。(あらかじめ申し上げますが、これは立法論でありまして、現行では採りえません。なお、ここでいう社外監査役は、原則として非常勤社外監査役を念頭においております)

理由のひとつめは、4年ということになりますと、就任の依頼を受けるときに躊躇を感じます。最近の監査役制度に期待されている業務からしますと、財務報告内部統制への監査役監査の充実が要求され、会計監査人との連携や、内部監査人との協議、監査役会における監査役間の役割分担など、月1回の役員会に出席していればいい、といった風潮は次第になくなっていくものと思われます。(とくに中小の公開会社においては、そういった傾向が強まるものと予想いたします)そうしますと、どうしても本社に近いところで活動できる体制が望ましいわけでありまして、4年といった任期は、本社近くの安定した職場を持った人材が優先されることになります。また、就任するほうも、人材流動化の激しいなか、途中で職務を全うできない不安があれば、会社に迷惑をかけてはいけない、ということで、就任を固辞せざるをえないわけでして、そうなりますと、有用な人材が監査役という役割を敬遠する傾向があるのではないかと思われます。また、そもそも「諸事情により、途中でやめる」というのは(とりわけ公開企業の場合)、「監査役が解任された?監査役が辞任した?いったい何があったのだろうか」と風評が飛び交うような事態になるかもしれず、現実論としては回避されがちではないでしょうか。会社にとりましても、「やめてください」とは言いにくいですし、また監査役にとりましても、「どうもこの会社はマズイのではないか」と思ったときに辞任しづらいところであります。2年ということであれば、双方とも、別の社外監査役を迎え入れてスタートを切りやすいですし、たとえ「あの会社は2年でコロコロと監査役が替わる」といった事実が開示されましても、それを(プラス評価であれ、マイナス評価であれ)株主の評価に任せればいいのではないかと思います。

理由のふたつめは、社外監査役の任期につきましては、ガバナンスのあり方を法で強制することよりも、株主に評価してもらうことを重視すべきではないか、ということであります。ご承知のとおり、会社法上の内部統制体制の構築(体制整備事項の決定)につきましては、会社法によってはじめて、取締役の内部統制システムの整備義務が規定されたものではなく、体制整備に関する基本方針についての決議を義務化(大会社の場合)しているにすぎません。つまり会社法は、相当程度の規模の企業につきましては、内部統制システムの整備構築を期待しているわけでありますが、その内容については、一定のレベルを示すものではなくて、事業報告のなかで整備運用に関する基本方針を開示させることによって、株主の評価の対象とさせることで、個々の企業に合ったシステムを構築することを間接的に強制しようとしております。この手法は、社外監査役に「財務会計的知見」を要求しようとする会社法施行規則にも通ずるところがあり、社外監査役の任期につきましても、4年の任期を法定化するのではなく、2年以上の選択制として、4年とするのであればその理由を事業報告等で開示させる手法を採用したほうが得策であると思います。

そして理由の三つめは、監査委員会における社外取締役は1年の任期であり、そこには社外取締役が過半数を占めているわけでありますので、人材の互換性という意味でも、社外監査役のあり方は接近させるべきではないかということこであります。これもご承知のとおり、日本の企業には社外取締役の導入について、かなり抵抗感があるようでして、あまり委員会設置会社に移行する企業が増えていないのが現状であります。最近、りそな銀行の監査委員会委員でいらっしゃる箭内氏の著書を拝読いたしましたが、やはり監査委員会の委員というのは、かなりシビアな仕事であり、そもそも委員会設置会社に移行したい企業にとりましても、監査委員会を構成できるような社外取締役の適任の方をみつけることができないことも、やはり移行企業が増えない要因だと感じております。そこで、まずは日本独特の制度ではありますが、「社外監査役」という役職に、できるだけ多方面の方々に就任していただいて、委員会設置会社における監査委員会委員の候補者育成を図り、委員会設置会社制度を開始した頃の、本当の制度趣旨である「ガバナンス選択における競争促進」を実現する基礎を築く必要があろうかと思われます。

たしかに独任制で活動する監査役の職責については、社外、社内を問わず、その独立性は十分確保されなければならず、4年という任期は社外、社内で区別すべきではない、といった制度趣旨も理解できないものではありませんが、4年も社外監査役をやっておりますと、本当に会社から独立した立場で意見が言えるのかどうか、むしろ本当に独立性を重視するのであれば、原則的には2年で改選期を迎えるべきではないか、とも思えます。また、社外監査役のあり方が、経営者のお目付け役(ご意見番)なのか、株主への説明責任を果たすための要職なのか、株主の代理人たる地位にある者なのか、現状では一義的には決めかねるところではありますが、株主と監査役との間における委任契約の意思解釈として、少なくとも非常勤の社外監査役につきましては、不祥事防止、ガバナンスの充実(統制環境の充実)、事業効率化のための支援などのために、たとえ任期は短くしても、その企業にとって有効な社外役員を迎え入れることへの合意については、合理的なものと認めてもよろしいのではないでしょうか。

12月 17, 2007 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2007年5月14日 (月)

社外監査役「企業統治における役割」

すでにご承知の方もいらっしゃるかと存じますが、5月11日に日本監査役協会HPに「社外監査役(コーポレート・ガバナンスにおける役割)」という大部の論文が公表されました。同志社大学監査研究会と日本監査役協会関西支部監査実務研究会との共同研究報告書とされた、たいへん中身の濃い論稿であります。実は私が共同執筆者となっております「非常勤社外監査役その理論と実務」の執筆中から、この同志社大学、監査役協会共同研究報告の内容はずいぶんと気になっておりましたが、こうやって中身を拝読させていただきますと、監査役制度全般や社外監査役制度への光の当て方が「理論と実務」とは異なっているように感じられましたので、新鮮な気持ちで一気に115頁ほど読了いたしました。

もちろんお時間がございましたら、全文お読みいただくのがよろしいかと存じますが、私がぜひ監査役制度にご関心のある実務家の方にお読みいただきたいのが、96頁以下20頁ほどにわたる「3章 研究会、対話ノート」の部分であります。会社法のもとにおける監査役(監査役会)のあり方につきまして、学者サイドと実務家(関西の大手企業の監査役の方々)との間における「あるべき監査役の姿」に関するイメージに大きな認識の差があることに深い関心を抱かれることと思います。私なりに率直に表現させていただくとすれば、これだけの認識の差をそのままストレートに文章として表現されたのは、大胆であり、また問題提起としては有益ではないかと感じております。基本的には監査役の権限強化、独立性に裏付けられた専門性の発揮を通じて会社法が期待する監査役の地位を高めようと考えておられる学者サイドの意見に対して、(せっかく妥当性監査への期待が会社法の随所で垣間見えるわけであるから)企業経営の能力のある人を中心に、企業経営の効率性など、経営判断への関与の度合いを高めることによって監査役の地位を高めようとの気運を有しておられる現役監査役実務家の方々の意見とが、社外監査役への期待像、独立性、社外監査役への情報提供の程度、海外子会社との連携、親会社からの社外監査役招聘など、いろんな論点におきまして微妙な問題を浮上させております。(いや、実におもしろいです)

現在の監査役制度が十分に会社法で期待されているとおりに機能しているか、という問いかけには、おそらく皆様が疑問符をつけていらっしゃる。したがって、皆様がこういった議論をされる頭の中には、どうも社外取締役を中心とした「監査委員会」(委員会設置会社)との比較を意識されているようです。とすれば、先日このブログでもご紹介させていただいた大杉謙一教授の「監査役制度改造論」の問題意識にも通じるところがあるようにも思われます。従来の監査役制度と委員会設置会社における監査委員会、そして、ひょうっとしたらその中間に位置するような制度もあってもいいのではないか、それが会社法で期待される監査役制度のあり方にもマッチするのではないか、また、コーポレート・ガバナンスのあり方が世界共通の議論の対象となっている時代において、欧米の投資家にわかりやすい日本の制度といったものも検討されてもいいのではないか・・・など、いろんな問題意識が喚起されるところまで、昨今の監査役制度はたどり着いてきたのかもしれません。

なお、日本監査役協会のHPでは、前同日付けで、「会社法における中小会社の実務対応」につきましても論文が公表されておりますので、そちらもご関心のある方は参照されてはいかがでしょうか。

5月 14, 2007 社外取締役・社外監査役 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2006年11月21日 (火)

社外取締役の辞任と適時開示

きょうは皆様方より、いろいろなご異論を頂戴しております。(どうもありがとうございます)とりわけコンプライアンス・プロフェッショナルさんのご意見につきましては、「マスコミの反応、もしくはマスコミの誘導と企業のレピュテーションリスク」といった新たなクライシスマネジメントに関連するものですし、問題の性質上、報道機関はあえて論点としては採り上げないものでありましょうし、これは私もかなり興味のあるところですので、また別の機会にきちんと検討したいと思います。(たしかに先日の郷原教授の講演におきましても、この点を教授が問題にされていましたよね)

さて、先週来、ちょっと気になっておりましたのはカタログ販売で有名な株式会社ニッセンの社外取締役2名が(来年2月9日付けにて)辞任する、といった開示情報が11月17日に公表されたわけでありますが、この情報を受けて、かなりニッセンの株価が下落しております(11月20日現在)。ニッセンの公表情報によるとおふたりとも「一身上の都合により」辞任する、というものでありますが、日経ニュースなどによりますと、ニッセンの子会社である信販会社の引当金問題(過払い金訴訟へ備える)や、業績不透明な時期における自己株買い推進への意見対立などが噂されているようです。(日経関西ニュースその1 その2)今年に入って「社外役員」がニュースとして話題になりましたのは、太陽誘電の社長追及、村上ファンドによる阪神電鉄社外取締役の続投指名、北越製紙社外監査役らによるポイズンピル発動勧告などございましたが、それらに次ぐ話題かと思われます。おひとりは投資ファンドの代表者の方ですし、もうおひとりは企業法務で著名な法曹でいらっしゃいますから、上場企業における社外取締役の役割というものは私なんかより、よほど精通していらっしゃると思いますが、あえて同じ「社外役員」としての立場から申し上げれば、たとえ「一身上の都合」であったとしましても、株主、一般投資家への説明責任というものは果たす必要はないのでしょうか?これは適時開示ですよね?適時開示の性格上、巷で辞任に関する憶測が流れたり、株価が急に動き出したような場合には、せめて憶測を否定したり、ノーコメントを貫く理由を説明したり、といった対応は必要ないのでしょうか。(ちなみに東証の適時開示に関するガイドラインによれば、社外取締役が辞任する場合の対応というものは掲載されていないようですが)このブログでは過去にも社外取締役の説明責任ということを検討いたしましたが、おおむね①経営者のアドバイザーとしての役割②専門家としての株主への説明責任を果たす役割③株主意思の代弁者としての役割、といったところでして、この経営アドバイザーという立場を重視するものでありましたら、「一身上の都合」程度の説明で辞任する、というのもごくあたりまえのようですが、②もしくは③の役割を重視する立場からしますと、おふたり一緒にお辞めになる、ということもあわせ考えますと、なんらかの説明が必要になるのでは・・・と(すくなくとも私は)考えてしまいます。

ニッセンの業績の急上昇を支えた功労者である方がお辞めになること、将来の収益向上が不透明な時期に自社株買いを続けること、引当金計上に関する経営陣の意見対立が生じたこと、10月19日に元従業員らが大阪地裁に「売上不足を理由に呉服を買わされた」としてニッセンと子会社である信販会社を提訴したこと等、株価に影響を与えそうな事実がいくつも存在するわけでして、こういった時期に社外取締役を辞任される場合には、なるべく株価に影響を与えないように「沈黙を守る」べきなのか、それとも様々な憶測によって株価が乱高下しないようになんらかのメッセージを公表すべきなのか、そのあたりはどう考えるべきなのでしょうか?(そもそも、功労者退任という事実以外の情報からすれば、社外取締役が辞任するといった事実とは関係なくニッセンの株価が動いている、ということも考えられますが)今後も社外役員は日本の上場企業には増加することが予想されますし、社内の経営陣と意見対立した場合の社外取締役の会社に対する善管注意義務、もしくは忠実義務の履行方法としては何が正しいものなのか、(辞任という方法も含めて)考えるべき問題ではないか、と思います。以前、ある社外取締役に関する研究会に参加した折、私が「企業不祥事を発見して、その不祥事の処理方針で経営陣と対立した場合、その会社と長くお付き合いしてしまったら、辞任はするけれども、不祥事を自ら世間に公表するのはちょっとなあ」と意見を申し上げたところ、現任の社外取締役のおひとりから「キミ、そんなこと言うなら社外役員になる資格はないよ!」とエラク怒られた経験がございます。というわけで、私個人の意見としましては、せめて「ノーコメント」を貫く理由もしくは、どういった一身上の都合なのか、もう少し説明が必要なのかな、たとえ会社側の適時開示だとしても、辞任する社外取締役の意向を盛り込んだ情報開示が必要なのではないか、と思いますがいかがでしょうか。(現にこれだけ株価が急落しているわけですから。)もう少し、適時開示に関するルールが進んでいくと、逆にノーコメント自体が、なにかのサインとして受け取られる時代が来るような予感もしますが。

11月 21, 2006 社外取締役・社外監査役 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2006年8月17日 (木)

社外役員の情報開示について

今朝(8月16日)の日経朝刊に「主要100社企業統治報告 社外取締役5割が選任」と見出しをうった記事が掲載されておりまして、この5月から東証で義務付けられました「コーポレートガバナンス報告書」の調査結果に基づく興味深い内容が盛り込まれておりました。社外取締役が100%取締役会に出席されている企業もあれば、26%程度しか出席されておられない企業もあるようで、開示された報酬額(こちらはごく一部の企業ですが)などをみましても、けっこう各企業において社外取締役制度の運用状況はマチマチのようです。(ちなみに、私は社外監査役ですが、昨年の出席率は92%でありました。)

会社法及び施行規則に基づく株式会社の事業報告でも、社外監査役、社外取締役の活動状況が報告の対象とされる内容に含まれておりますし、またこういった証券取引所のガバナンス報告書でも、今後多くの上場企業が毎年の社外役員の活動状況を報告することになると思われます。ただ、私のような現役の社外役員の立場からしますと、「取締役会の出席率」というのは、それだけではあまり社外役員の貢献度を測るモノサシにはならないのではないか、といった疑問を有しております。

もちろん、社外監査役であろうと、社外取締役であろうと役員会への出席率が高いほうが望ましいことは間違いありませんし、今後も出席率を開示することに問題があるわけではありませんが、社外役員はなにも役員会に出席することだけが重要な職務ではないと思いますし、おそらく熱心に社外役員を務めていらっしゃる方々も同様の気持を有しておられるのではないでしょうか。ときには会計監査人との共同作業のために会合をもったり、常勤監査役が言いにくいことを直接社長に進言するために会社に出向いたり、業務監査に必要な情報を得るために関係各部署と連絡を密にしたりと、むしろ「形骸化した取締役会」に出席すること以上に重要と思われる業務に従事している社外役員の方も多いと推察いたします。株主にとって社外役員の情報として知りたいのは、出席率ということ以上に、その社外役員がいったい一年間にどういった活動をして企業に貢献してきたか、ということでありまして、とりあえず役員会に出席しなければ・・・といった義務感を社外役員に植え付けるためには「出席率の開示」も有効かもしれませんが、それ以上のなにものも情報として提供してくれるものではありません。

そもそも社外役員というのは、企業の業務執行部門の情報に疎いわけですから、いちいち社内の役員のように業務担当者を指揮監督できる立場にはありません。その監督に関する限界というものを「内部統制システムの整備運用」によって補完するのが、会社法によって今後のコーポレート・ガバナンスに期待されているところであります。そういったことからしますと、社外役員にも「役員会に出席すること以上に、どうやって社外役員が情報を共有できるか」といったあたりを努力して工夫する必要が出てまいります。たとえば私のような社外監査役でしたら、監査役会でどのように3人の監査役が業務分担の合意を行うか、監査役会にはどういった議題を上程するか、経営会議で出された業務報告事項のうち、どういった事項については事前に社外監査役に報告するか、業務執行部門の内部統制システムはどのように相当性を判断するか、など各企業によって、社外役員が情報不足を補完するための施策というものはいろいろと考えられ、また容易に実行に移せるはずです。そういった施策を考案し、実行しているかどうか、といったところが役員会への出席率などよりも極めて情報開示として価値の高いものではないでしょうか。また、ガバナンス報告書全体に対してもいえることですが、どこの企業の報告書をみても同じ、というものでは株主への情報としてはあまり価値がないわけでして、各企業がガバナンスシステムにどう取り組んでいるのか、個々の企業ごとに説明責任の対象となりうる情報が開示されていることが重要だと認識しております。さらに、(ここまではなかなかやれる方も少ないかとは思いますが)全社的なリスクマネジメントの一貫として、社外役員は敵対的買収防衛に関する「株主の代弁者たる地位」「企業価値を公正な第三者として判断する地位」に立たされたり、株主代表訴訟に至る場面においては、会社が当該取締役を訴えるべきかどうかを会社の利益を考慮しながら判断する立場に立たされます。司法判断が「企業価値」の中身まで審査の対象としないことが予想される以上は、そういった公正な第三者、株主利益の代弁者たる社外役員が、普段からどういった検討をして、どういった手続を経て決断するに至ったのか、そのプロセスこそが最も重要な場面となることは十分予想できるところでありまして、その対応策としても、日常の社外役員の行動といったものがこれからの企業価値(リスクマネジメントとして)を左右するものと思料しております。

もちろん法律家の立場からすれば、社外役員が取締役会に出席することの意義(上程案件への賛成反対の表示意思の確定、経営判断に関する違法性、妥当性監査、他の取締役の職務監督)ということも無視しえないわけであります。しかしながら、このたびの会社法は監査役制度を含めて全社的な内部統制システムが構築運用されることを要求しているわけでして、取締役会に出席することとは別に、より重要な職務として、社外役員に期待されているところが存在することも事実であります。今後ますます社外役員を導入する企業が増えるのでありましたら、出席率といった非常に単純な活動状況に関するモノサシに注目するのではなく、社外役員が全社的な統制システムのなかにどう組み込まれており、この1年、そのシステムは社外役員によってどう運用されたのか、といったところをわかりやすく表現できるモノサシこそ、十分に開示統制をすべきではないか、と思います。少なくとも、私自身は今期に関する事業報告から、そういった「一般投資家、株主の皆様に、他社との違いを理解していただけるような」社外役員の活動内容報告にしたいと考えております。

8月 17, 2006 社外取締役・社外監査役 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年6月30日 (木)

株主優待券と利益供与(その2)

(6月30日 午前11時半 追記あり)

昨日、「おつりのもらえる」株主優待券についてエントリーを書きましたが、早速Hardwaveさんのブログで詳細な分析記事が掲載されましたので、ご紹介させていただきます。(しかし常々感心いたしますが、Hardwaveさんて、こういった分析モノ得意技ですねえ・・・どうもありがとうございました。)この魅力的なエントリーを拝読して、税務会計面からさらに突っ込んだフォロー記事もあったらいいなあ・・などと贅沢な欲望が湧いてきました。。

二日続けての総会で、かなりヘロヘロですので、きょうはこのへんで失礼します。。。

(追記)

すこし以前(6月23日)の総会関連報道ですが、外食産業でたいへん元気のいい「ワタミ」の株主総会で、株主優待券を社会福祉活動のために利用できないか、との株主提案があり、この提案を受けて、企業側が「優待券の原価分について、株主様より返還の意思ある場合には、寄付扱いとできるようなシステムを早急に作る」と回答されたそうです。(日経ネット記事はこちら)つまり、ワタミさんの場合でも優待券には「原価部分」という認識がおありのようですから、優待券そのものの現金価値というものは把握されていないものでしょうし、したがって「おつり」はでないものと思われます。(しかし株主優待券をCSR活動に利用したり、総会出席者が同伴者含め4300人という話題性など、スゴイですねえ・・)

6月 30, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2005年6月29日 (水)

株主優待券と利益供与

bunさんの「最後のニッポン放送株主総会三部作」の力作を拝読いたしまして、株主総会といっても、世間の耳目を集めるものとそうでないものとでは雲泥の差があることをいまさらながら認識しました。私のほうは、何度も総会リハーサルを行ったものの、「想定の範囲内」の株主様からの質問に終始し、予定時間を30分ほど超過した約1時間で総会は終了(その後の懇談会を含め2時間半)しました。(ただ、昨今の総会ブーム?のためか出席株主数は昨年の1,5倍でした)ホンマ、この会社は減収減益(配当は昨年同様)にもかかわらず多数の株主様に激励を受け、恵まれた会社やなあ・・・とつくづく思います。いちおう監査役問答集も作ったのですが、予想どおりと申しますか監査役へはなんの質問もなく、終わってしまいました。

ところで懇談会の際に、株主様からの気になる質問(ご意見)がありました。「おたくの店では株主優待券を使うときに、おつりももらわれへん。ほかの企業はおたくの倍の年間4万円分の優待券くれるし、おつりもきっちりくれる。なんとか、もうちょっと他社を見習ったらどないでっか?」

あとで、その株主様から確認したのですが、たしかに株主優待券が500株(1単元)以上保有している株主様に一律4万円分のお食事券、しかも「おつりはもらえます」と記載されております。私も株主優待券がある程度高額なものについては見聞もありましたが、おつりをもらえる株主優待券というのは聞いたことがなかったので、少しビックリしました。

そもそも「おつりをもらえる」株主優待券というのは適法なんでしょうかね?株主優待券というのは、利益が出ていない企業であっても、株主に対してなんらかの経済的利益を付与するものであって、利益処分とは異なるものですから、株主にとっては「雑所得」として取り扱われ、ある程度会社が自由に発券することができるものとされています。株主の自益権、共益権とは無関係の企業サービスの付与ということですから、株主平等原則とは無関係である、という説もありますが、いちおう通説では「保有株式数の違いによって企業から受けることができるサービスに差が生じるので、形式的には株主平等原則違反となるが、そのサービスの内容により軽微なものと認められるものが多く、実質的には平等原則に違反するとまではいえない」というものです。しかし、ひとりあたり4万円、もし1000円だけ使って後はおつりを39000円もらえる、というのは単に企業の経済的サービスを受けるというよりも、1単元以上保有している株主に対する現金供与であり、保有株主の数によっては利益処分の脱法行為もしくは(利益が出ていない場合には)違法配当、もしくは一部株主への利益供与に該当するのではないでしょうか。私の認識では株主優待券というのは一種の割引券のようなもので、したがって株主のほうで割引サービスいっぱいの利益を自ら放棄すれば、もちろんおつりはもらえないというような考え方を持っていましたので、この「金券」的発想というのがどうも違和感を覚えます。

もちろん議決権を行使できる程度の株数を保有する個人株主を勧誘するための広告、宣伝的効果のため、一部株主に金銭的利益を享受させることも、株主平等原則に反しないし、利益供与にもあたらない、との見解もありそうですが、ひとり4万円(年間)というのは、利益処分を厳格な要件のもとで定めている商法の「債権者保護」の精神にも反するように思われるのですが、どうなんでしょうかね。最近は株主優待券の使用についても、以前と異なり消費税通算売上金に対しての金額を差し引かれますので、「金券的発想」のほうが妥当するのかもしれませんが、どうもしっくり納得できません。

まあ、その企業の株主様にとってみれば、配当金プラス4万円が受領できるわけですから、文句がでるわけもないのですが、ただ同業他社として「あそこは、4万円もらえるのに、おたくはそれ以下、しかもおつりももらわれへん」と比較されるほうとしてはかなりショックです。HPでも大きく「株主優待制度のお知らせ」と広報されていますので、きちんと法的な根拠はクリアされているのでしょうね。

6月 29, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2005年6月27日 (月)

総会リハ(その2)

いよいよ明日は株主総会当日ということで、市民会館での「通し稽古」となりました。(昨年はこの市民会館で就任される立場だったので、気が楽だったんですけど)オジキをするタイミングや説明時の目線の向きなど、総務部の方と代行さんから「逐一」細かいチェックを受け、まるで舞台監督と大衆演劇の役者のような雰囲気。しかし一般株主の方々へ「投資に足る企業」としての安心感を抱いていただくため、けっこう大切なお仕事とわりきって大衆演劇の脇役をつとめようと決心しました。

以前、弁護士会に著名な大衆演劇の座長さんをお迎えしたとき、舞台の雰囲気が来場しているお客さんの様子で毎回違うので、アドリブがたいへん重要である、との興味深い話をお聞きしたことがあります。総務担当の方がたにはたいへん申し訳ないのですが、年に一度の株主総会、いろいろと厳しい質問がとぶなかで、利益処分案の裏に存在する緻密な計画性、長期的展望から真の株主価値を見出そうとする防衛策、そして役員改選と、さまざまな審議の中で真摯に会社の目指そうとしている方向の是非を判断してもらえるような総会になってほしい、よりよいシェアーホルダーズ・リレーションズの場となってほしい、と願います。そのためには少しばかりのアドリブがあってもいいのじゃないかな・・・と(社外の人間としては)考えたりもします。修正動議やら、質問打ち切りの動議など、いろいろな場面を想定しての稽古となりましたが、(法律家の立場としても)あまり法律用語の飛び交うようなギスギスした総会ではなく、議長ができるだけ議長の裁量によって質問を受け、誠意を持って回答して、「ここの総会は、来年もほかと重なっても覗いてみたい」と思っていただけるような総会になれば・・・と思っています。

審議事項のなかで、どこをどのように突っ込まれると、企業側としては回答がムズカシイか、など本当は具体的な問題を提起して、その対処方法をここでエントリーしたほうが、企業法務担当者の方がたには有益な情報となると思うんですけど、悲しいかな実名ブログの宿命として、問題が発生することは回避しなければなりません。また、総会総括のエントリーのなかで検討してみたいと思っています。

6月 27, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2005年6月19日 (日)

運転再開、社外取締役に知らせず

宝塚線再開日、社外取締役に知らせず JR西日本

 神戸新聞ニュースからの引用です。きょうから宝塚線(福知山線)が始発から再開されましたが、いつ再開するか、などJR西日本の社外取締役には社内から知らされず、おふたりとも報道で知った、とのこと。

 間近に迫った株主総会(6月23日)ですが、それまでに被害者説明会(遺族説明会と負傷者への説明会)を開始し、同時に運転も再開したいというのがJR西日本側の強い経営判断によるものであることが理解できますが、やはり「社外取締役」は「お飾り」ということなんでしょうか。しかし、株主総会の開催と「非常に強く関連性のある経営判断」だけに、これを社外取締役の意見を聞くこともなく決めてしまう、ということが事実だとすると、やはり安全性への対応というのも、一時だけの対策にすぎないと危惧する意見にも納得してしまいます。

(追記 6月20日午後9時)

神戸新聞の社説にもうすこし詳しい記事が掲載されていました。

 あり得ないことが起こった

6月 19, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2005年6月18日 (土)

東証社外取締役、1人除き独立性疑問・金融庁

東京証券取引所の社外取締役の独立性に疑問(金融庁)

金融庁は以前から上場企業に「社外取締役」を多数導入することに積極的ですから、このNYSEへの照会とその回答に基づく意見表明は、最近のゴタゴタとはそれほど関係ないものと思います。今後、独立性の強い社外取締役の導入を推進するにあたって、監督する立場にある取引所自身が「社外性」に問題を抱えていてはマズイ・・・というところからの表明だと思われます。

東証では、10名の取締役のうち、5名が(商法188条の定義にあてはまる)社外取締役ですが、そのうち2名が取引先(上場企業)の取締役であり、1名が株主企業のトップであり、1名が元々の法律顧問(前田教授)ということで、これらの方がたはNYSE基準によれば独立性に問題がある、とのことです。

以前から、法律実務家や法学者の論文などでは、この「社外取締役」と「独立取締役」とは異なるものである、という研究成果が出されておりましたが、実社会の出来事としてはっきりと問題になったのは今回が初めてではないでしょうか。(機関投資家や運用基金あたりの議決権行使基準などでも、まだここまで区別して意見表明はされていないのではないでしょうかね?私の無知でしたらゴメンなさいですが・・)比較的手に入りやすいところでは、「ビジネス法務7月号」の山田教授の論稿などが、もっともわかりやすく「社外取締役」と「独立取締役」の概念を解説されておられるようです。

日本のビジネス社会で、商法188条の定義する「社外取締役」の適任者を見つけること自体苦労するのに、ましてやアメリカ流の「独立取締役」を導入するというのも、ちょっと無理かなあ・・・というのが今の私見なんですけど、ただ以前から申し上げておりますとおり、社外性に加えて独立性を強化することは、裁判所におけるプロセス審理に影響を及ぼす原因にはなるのでは・・と考えております。経営判断法理の適用場面とか、内部統制システムの構築義務の履行状況とか、最近問題となりました企業買収防衛策の発動場面の判断など、裁判所が実質的な経営活動の妥当性までは踏み込まないけれども、その妥当性を推認するためのプロセスまでは判断する、という場面において、「独立取締役」が関与していたことが会社側に有利な事情として考慮されるのではないかな・・・と考えています。

(追記)HardWaveさんのエントリーより抜粋

厚生年金基金連合会は株主議決権行使基準において独自の社外取締役の独立性に関する判断基準を定められています。その中には、NY証券取引所規則のようなものに加え、大株主や主要取引先なども独立性はないと判断するとしています。

とのことです。ご指摘ありがとうございました。

6月 18, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (1) | トラックバック (1)

2005年6月15日 (水)

総会リハ(その1)

こちらの会社は顧問弁護士の先生が毎年総会指導をされないので、どうしても総会の質疑応答に疑問が出ると私のほうへ視線が集まる。。。

「代行さん」が株主役になって、いろいろと意地悪な質問。社長「発言の際には番号と名前を言ってください」株主役「え?名前は言わないといけないんですか?だって、個人情報でしょう?言いたくなければ番号だけでいいのでは?」社長「まあ、いままでの決まりですから・・、ってこれでいいの?」一同「・・・・・・」

私(って、取締役でもないのに、発言していいのかどうかわからないけど)「ここは株主様の大切な発言を記録しております。私ども監査役は本当に株主様の権利を適正に行使しうる総会が行われることも、株主様の利益保護のため監視しなければなりません。株主様の特定に、間違いがあっては困りますので、どうか上のお名前だけでもご自身で述べていただき、正確な議事録が作成されることにご協力いただきますよう、お願いいたします。また、企業の営業目的での個人情報取得とは趣旨が異なりますし、そこのところよろしくお願いいたします」などと、説明。

でも代行さんの説明によると、今年から株主発言の前に番号だけでよし、とする企業が目立って増えているとのこと(先に言ってよ・・・)

代行さん「さっき、社長は社外取締役の導入に前向きとか言っておられたけど、なんで役員数が半減するんですか?矛盾してません?」一同「・・・・・・・」んで、またこちらに視線。。。まあ、こんな質問がいろいろと出てきます。代行さんは、6月29日まで毎日、どっかの総会リハだそうで、参考意見をいろいろと聞く。

気になったのは、議長や担当取締役が株主様からの質問を受けて、すぐに想定問答集から答弁を探すこと。もうすこし、株主様の質問の趣旨を明確にするために、問い直してみたり、審議事項との関連性について株主様に説明してもらうために、質問を切り返してみたりして、株主様との対話の姿勢があってもいいのではないか。そのほうが株主様のほうも、質問に対して緊張感が出てくるし、「ああ、質問してよかった」と納得してもらえると思うのだが。。

でも、総務部、法務部の方々は「あんまり余計なこと話さないで」と暗黙のプレッシャーを醸し出している。。。

6月 15, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年6月 7日 (火)

社外取締役の人数と司法判断への影響

6月6日の日経「スイッチオンマンデー法務」特集記事では、社外取締役の経営重要局面での行動を過去の事件から拾い出して、「独立性を保ちつつも(社外取締役の)数も重要である」との意見が書かれていました。

ライブドア・ニッポン放送の事件の場合、ニッポン放送の社外取締役全員がフジテレビに対する新株予約権発行議案に賛成した、ということで、社外取締役制度が機能しなかったと評論されています。この事件の場合、ニッポン放送の取締役は19名で、うち社外は4名でした。一方、三菱東京フィナンシャルグループとUFJホールディングスとの統合の際における三井住友フィナンシャルグループによる敵対的買収事案の際においては、UFJHDの取締役会構成は取締役7名で、うち社外が3名でした。

この両事件はよく報道などで比較されていますが、UFJHDの判断はおおむね適法性、合理性において問題はないと評価されており、SMFGの買収提案を採用しなかったことについて専門家などから詳細なアドバイスを受けて、十分な時間をかけて株主価値を検討した、とされています。

たしかに、今朝の日経特集記事を読んで、やはり社外取締役の人数というものもかなり重要である、ということは否定できないように思います。というのも、私もUFJHDの場合は十分な検討が行われたという認識を持っていますが、それはやはり取締役会での「4対3」というクロスマジョリティーがあったからこそ、取締役会で十分な審理への方向が決まったものと推測されるからです。もし、ニッポン放送取締役会においても、19名のうち、倍の8名程度が社外取締役で占められていたとするならば、有事導入防衛策でも司法判断において適法とされる可能性の高かった「グリーンメーラー」であったかどうか、という点まで慎重な調査がなされたかもしれません。15対4という現実の取締役比率では、どんなに反対してみても、結論を左右できるほどのものではなく、11対8程度の意見分立ということであれば、買収希望者自身への調査や、どちらが経営するほうが株主価値向上に資するかなど、徹底した調査への動機付けとなったかもしれません。たとえば、今後買収防衛策の発動時の企業行動が司法判断の対象となるならば、どのようなプロセスによって発動に至ったかという争点において、この社外取締役の人数比率というものも、「公正中立の第三者」なる要件該当性を判断するときの一つの指針になろうかと思われます。

ただ、そうは言いましても、著名な大企業であればともかく、通常の上場企業が、ふさわしい社外取締役を何人も招聘することは物理的にも、費用的にも至難の業だと思います。したがって、社外取締役の人数に代わる具体的な評価方法を考える必要があると思いますし、それは社外取締役の平時における株主やステークホルダーとの緊密なコミニュケーションに尽きるものと思います。内部の取締役と数的に拮抗している社外取締役が存在するということであれば、その有事のおける判断のみでも「独立第三者」としての機能が果たされたと司法で評価されることもあろうかと思いますが、もし人数が少ない場合であれば、その社外取締役の通常の行動自体から、「独立、公正な第三者であり」かつ「適正に株主の立場で株主価値を評価できる」と判断してもらうしかない、と思いますね。社内取締役と社外取締役との数的比率に起因するハンディを克服するためには、ともかくまずは社外取締役の平時におけるプロセスと、そしてその判断をトップが尊重せざるをえないような客観的な要件、これに尽きるものです。

6月 7, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2005年6月 1日 (水)

社外監査役からみた企業防衛策

ということで、まだまだこのテーマについては、興味が尽きないわけでありますが、本当は社外監査役として、もっと間近に迫った総会での監査報告のほうへ留意しなければいけない身分であるにもかかわらず、「丸三証券の濫用的買収者に対する防衛プラン」など発表されますと、そちらについ目が行ってしまうわけであります。(常勤の皆様、申し訳ありません。あと少ししたら、レジメ完成しますので・・)

丸三証券さんのプランは株式分割型になっています。これはTBSと同じプランですね。濫用的買収者と認定した場合に、TOBをかけてくることを条件として第三者機関(とされている委員会)の意見を聞いた取締役会が5倍までの株式分割を行い、一気に買収者の買付費用を増加させてしまう、というもののようです。ほかにも、分割による事務的な手続きによる時間稼ぎによって、ゆっくりと交渉の機会を確保する、という効果があるのかもしれません。おそらくそのような効果を狙ったプランだと思うのですが、株主向けの「お知らせ」を読んでも、いったいこのプランがどのような効果を買収対象者に与えて、それが一般株主になぜ悪い影響を及ぼさないのか、説明がないのでわかりません。買収予防策としての相当性があるのか、ないのか判断しづらいプランのように思えます。相当性という点で、もうひとつ気になったのが分割決議を行うことができない要件、というところに「当社の総株主の議決権の2分の1以上を有する株主(ただし買収者を除く)が公開買付の応じる意思を表明した場合」とあります。しかし、これは何時の時点で2分の1を算定するのか不明瞭な気がします。買収者が買い進めれば進めるほど、ぎゃくに応じる意思のない株主が少なくても分割決議を行う方向へ(つまり少数株主の意向によって分割決議を開始できる方向へ)もっていけるわけですから、現経営陣の裁量によって要件該当性を判断できるのではないか、と思われますが、そうだとすればこのプラン自体の相当性に疑問を抱いてしまいます。

あまり評論家風に偉そうにも言えませんが、ここ2~3ヶ月のいろいろな論文や座談会記事を読んでの感想は、アメリカで本当にM&Aの実務に触れた人とそうでない人との間に「いい買収」と「悪い買収」というものが本当にあるんだ、という認識に大きな差があることが印象的でした。私のような典型的日本人は「友好的買収」と「敵対的買収」という差については、理解できても、「いい買収」と「悪い買収」の差というものが心からは理解できないように思います。これを理解できるかどうかは、今後の「社外取締役」の役割を考えるうえで、たいそう大きい問題だなあ、と認識しました。この差が体で理解している人が「社外取締役」や「社外監査役」に就任すれば、たしかに中立公正な第三者としての評価を受けることができるかもしれませんが、頭でしか認識できていないような人だと、本当に「いい買収」というものを受け入れる思考がもともとないのではないだろうか・・・とわが身を振り返っても、そのような不安がよぎるのです。

まだまだ、法務面だけでなく、税務面や株価に与える影響、企業の規模や歴史など、企業をとりまくさまざまな諸条件との兼ね合いから、防衛策の選択が行われる必要があることや、今後の証券取引法改正、証券取引所規則や自主ルールの改正、新会社法の施行、自民党企業統治委員会の新法動向などにも影響されかねないことなど、いろんな感想を書きたいのですが、明日はちょっとまた午前中から証人尋問なんで、きょうはこのへんで「つづき」とさせていただきます。

6月 1, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年5月19日 (木)

監査役会での問答予想

きょうは決算発表日です。大証の場合はだいたい1社あたり20分とのこと。今年は、いろいろな意味での「定款変更」も多いんでしょうね。(別にどこが、という意味はありませんが)明日20日が決済発表のピークらしいですが、いろいろと問題を抱えている企業の場合には、持ち時間も長めに設定されてある、とのことです。

監査役に対する株主からの質問というのが、いままでなかった企業ですが、ガバナンス問題や内部統制システム構築などの話題が多い昨今、どのような質問があるかもわからないので、(たいへんまじめではありますが)常勤を中心にして、監査役会で総会シミュレーションを行いました。

取締役会との連携内容、会計監査人との連携内容、監査役独自の行動など、ほぼ一年間の作業の確認も終えましたが、ひとつ監査役会で議論が分かれたのは、「取締役会の内部統制システムへの監査」という点が、いったい監査役はどこまで監査した、と報告すればいいのか、という点でした。全社的に統制システムの構築状況、運用状況を監査した、というのが本筋なのかもしれませんが、それは取締役会と内部監査部門が責任をもって行い、監査役はその報告を受けるだけで足りるようにも思います。結局のところ、監査役が責任をもって自ら監査するのは、「取締役会が全社的な統制システムの構築運用への監視を適正に行っているかどうか、を監査する」ということになりました。

いままでは弁護士の仕事として、総会議事進行支援などの経験はありますが、自分が回答する立場になると、まったく別です。紋切り型の想定問答にはすこし違和感がありますから、自分の言葉で話したいですけど、あんまり総務の人がドキドキするようなことをするのも悪いしなあ・・。

5月 19, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年5月13日 (金)

磯崎哲也さんのブログから

毎日、愛読している磯崎さんのブログのなかに、たいへん興味深いエッセイがあります。

仲良くしない技術

実際、社外監査役として、どうやってこの会社と向き合うか、とても悩むときがあります。

監査役会でも、ほかの監査役の方々は人生の先輩でもあり、きちんとしていて楽しくお付き合いさせていただいてます。また、代表者含め取締役の皆さんとも、まったく畑の違う私(年齢的にも40代というのは、役員のなかで私ひとり)であっても親しくおつきあいさせてもらっています。こちらも、なにか問題が発生した場合には、呼ばれる前に会社に行き、事実確認をしたうえで、(必要とされているかどうかはあまり遠慮することなく)意見を述べるようにしています。

ただ、このようなことを毎年繰り返しているうちに、「この人たちの不利益となる結論を堂々といえなくなる」という不安が強くなるのではないかな・・・と危惧することも事実です。仲良くしない技術というもの、仲良くしない団体構成員、というものを自分の人生のなかで経験したことがありません。磯崎さんのブログのなかで、文化の異なる国で発達した技術を、そのまま技術として受け入れることができるかどうか、疑問を呈しておられますが、まったくそのとおりだと思います。

おそらく、今後社外監査役として、この企業で私の置かれている役割をまっとうするためには、せめて他の取締役からは「よそモノ」「異端者」的立場で意識してもらうよう努力することに尽きると思います。西武鉄道の粉飾決算の発表については、社外監査役の立場が大きな役割を演じました。「あの監査役に調査された以上、もはや内々にはできない」

社内でこの感覚を他の役員に認識してもらうこと、これが最低限度の社外監査役の役割ではないなか・・・と考えています。だから、はばかることなく遠慮せずに社内調査をして、「?」の顔をされるような質問を堂々として、でも普段は普通に社内このことを礼を尽くして勉強させていただく。仲良くしない、というわけではないけど、どっか「こいつはやっぱりよそモノだし、ケツまくっても自分で食べていけるからコワイ」と認識してもらえるような、そんな人間関係を継続して築いていきたいと思います。

昨日日本取締役協会の宮内氏のコメントがサイトで更新されていましたが、宮内氏も、これからはアングロサクソン系の企業統治の制度を受け入れたうえで、日本的な文化をどのように取り入れ、根付かせていくべきか真剣に考えるべき、と述べておられます。仲良くしない技術というのも、なかなか実行はむずかいしかも知れませんが、企業の場合には、最後の砦として「企業精神、企業のモットー」があるはずです。この精神が企業内で明確になっていれば、仲良くしない技術もすこしずつ浸透するのではないでしょうか。そんな意味でも、社訓なり企業のもつ明確な目的というものは重要ですよね。(といっても人間関係はムズカシイ・・・)

5月 13, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2005年5月12日 (木)

株主代表訴訟制限規定の修正

今朝(5月12日)日経新聞一面の記事によれば、株主代表訴訟の提訴要件の一部が新会社法案から削除される方向なんですね。もともと、要綱案公表の段階から、株主代表訴訟の規定をどう修正するか、ということは議論が紛糾していて、先が見えなかったところですから、このような事態もある程度予想されたところかもしれません。

ところで、新会社法によると、監査役が株主から訴え提起請求の通知を受領した後、もし会社が当該取締役を提訴しなかった場合には、監査役はその株主もしくは当該取締役の請求によって「不提訴理由の通知」をしなければならないそうです。この理由書は、おそらくその後の代表訴訟においても、どちらかの当事者から法廷に提出されることになるでしょうから、監査役の調査業務というものは、いままで以上に厳しいものになるんじゃないでしょうか。理由書の内容いかんによっては、今度は株主から監査役が忠実義務違反によって損害賠償責任を追及されるおそれがあります。

不提訴の理由を開示するにあたって、会社を代表する立場にある監査役が、いかなる理由を適示すべきか、ということもひとつの論点であり、ここでは述べませんが、上記の「不提訴理由の通知義務」というのは、監査役にとってたいへんであると同時に、株主代表訴訟を提起しようとする株主側にとってもキビシイのではないでしょうか。

もし、私がその担当監査役であったら、まず形式的審査を終えた段階で、その株主に対して具体的な事実、および法的構成面における釈明を文書で求めます。当該取締役の義務違反を基礎付ける具体的な事実、その立証方法の有無(もしくはその見込み)、当該取締役が賠償責任を負う法的根拠、当該取締役の行為と損害との因果関係、会社の損害額の具体的な立証方法などは最低限度、株主より教えてほしいところです。なぜなら、このような株主の主張が明らかにならないと、自信をもって不提訴の理由を開示することができないからです。自分に忠実義務違反の賠償責任が課される可能性がある限り、これは取締役から中立な立場の人間として必死でその株主から聞き出さなければなりません。

もし、上記のような釈明に直ちに回答いただけない場合には、監査役としては、そもそも有効な提訴を求める書面の提出がなかったとみなすか、もしくは提訴を求める意思表示はあったとしても、その提訴目的は会社に単に損害を与える目的もしくは株主に正当な訴えの利益を持たないものであるとして、(これは先に警告しておくことが無難でしょうが)不提訴通知を発送すると思います。すこし強引な気もしますし、このような監査役の対応が、また司法判断の対象となってしまうおそれもありますが、一考に値するのではないでしょうかね。

5月 12, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2005年5月 4日 (水)

企業価値判断と社外取締役

ということで、企業価値研究会の論点公開のつづきになりますが・・・

企業買収への防衛策として今後、ライツプランなどが導入されたとして、たとえ株主総会授権型が採用されたとしても、防衛策を発動するかどうか、という有事の際には社外取締役もしくは複数の社外取締役による委員会が、防衛策発動の是非について判断したり、防衛策を解除する判断を下すことになりそうですね。なぜ、社外取締役による判断で合理性が担保されるか、といいますと一般株主の意見を代弁する立場にあり、かつ保身目的による現経営者の立場とは異なる公正な判断が期待できるから、ということでしょうね。

でも、またまたここで考えてみると「社外取締役」が「一般株主の意思を代弁」もしくは「一般株主の代理人たる立場として行動する」というのは、あまりにも抽象的で、よくわからないのです。そもそも、選任される際には、現経営者から就任依頼を受けて社外取締役になるわけで、そのことからも現経営者へ経営者交代の通告をすることにどれだけ期待できるか、疑わしいですし、まあそれは横に置くとしても、そこで言われているほど「一般株主の意思を代弁」することが簡単なことなんでしょうか。株主にはそれぞれ固有の利益があるはずで、どのような企業の経営方針をとるべきか、株主の価値を最大にするための方策についての意見もバラバラでしょう。短期で利益を得たい人もいれば、長期的に企業価値の向上を願っている人もいるはずですし、株主の個性に着目しても、持ち合いしている取引先企業やメインバンク、債権者や機関投資家、そして個人株主から従業員までいます。こんな株主の価値を実現するための「株主価値の最大化」という判断は、どのような基準で行うのでしょうか。さらに、以前から申し上げているように「株主価値」と「企業価値」とは異なるものだと思いますので、その企業がどのような方策によって、どのような持続的成長を目指しているのか、そのために現経営者と買収希望者のどちらが、その成長実現に向けて適しているか、ということは、どのような資料に基づいて判断するのでしょうか。

ライブドアとニッポン放送の仮処分事件高裁判断にあるように、(判断手続きの合理性については踏み込むものの)この企業価値(そのものの)判断に司法があまり深くは踏み込まない、ということですから、今後は一般株主による価値判断もしくはその代弁者たる社外取締役の価値判断が非常に重要となるはずです。

日本の大きな機関投資家が、今年の株主総会において、社外取締役の独立性について、疑問の残る企業については、その選任に反対票を投じる意向だと新聞で報道されていますが、社外取締役、監査役の独立性要件の充足は、総会で信認を受けるための大前提であり、今後はもっと社外取締役の行動自体の適法性が問題となる要件をひとつひとつ、解析していかなければならないと思います。

5月 4, 2005 社外取締役・社外監査役 | | コメント (1) | トラックバック (1)