(4月13日午後:追記あり)
毎度申し上げているところでありますが、私はM&A実務に詳しい弁護士ではございませんので、以下はあくまでも上場会社の社外役員という立場からみた素人的な感想でございます。
イオン社がパルコ社に対して事業提携提案とガバナンス提案を行い、パルコ社経営陣はこれを断固拒否している状況が続いております。パルコ社側は、従業員組合が現経営陣を支持する(つまり、イオンの事業提案に断固反対する)旨の意思を表明していたところ、本日、組合外の一般社員からも、事業提携案に反対する旨の表明書が提出されたそうであります。つまり、パルコがイオン化(事業提携→子会社化)してしまうことについて、パルコ社は全社あげて反対の意思表明を行った、ということのようであります。
サントリー・キリン統合劇のときにも申し上げましたが、私は①救済による場合、②国際競争力を向上させるような大義名分がある場合、もしくは③血も涙もないカリスマ創業社長が存在する場合以外で、従業員の反対が強いケースにおいて事業統合は成功しない、という信念を持っております。(たしかに、ときどき「有事に強い」プレイングマネージャーがおられて、うまく事業統合を進める方がいらっしゃいますが、そのような方は「平時」になりますと、社内で煙たがられてどこかへ飛ばされてしまうのではないでしょうか。)私自身が役員をしている企業の統合破談の経験からも、そのように確信しています。なので、今回のパルコ社のケースにおきましても、このままイオン社が強行した場合、うまくいく確率はかなり乏しいのではないかと。
素朴な疑問でありますが、ここまで社員の反対の意思が表明されていながら、イオン社および森トラスト社はパルコ社の企業価値を上げることが果たしてできるのでしょうか?これまで、こういった事態で経営権の奪取を強行して、うまくいったケースというものはあるのでしょうか(あればぜひ、調べてみたいので、どなたか教えていただきたいです。私は同様の状況で経営権奪取を強行した春日電機さんの例くらいしか思い浮かびません)。スティールPによるアデランス経営陣交代劇は、結局のところ失敗に終わってしまいましたし、MBO後のすかいらーく経営陣交代もいまだ軌道に乗っていません(なお、katsuさんより、「すかいらーくは、グループ全体としては業績が上がっていますよ」とご指摘いただきました)。状況は違いますが(TOB事案)、王子製紙による北越買収も、日本電産による東洋電機製造買収も、労働組合による買収反対表明により、断念されております。
たしかドンキホーテ社がオリジン東秀さんを敵対的買収で取得しようとした際、ホワイトナイトとして登場したのがイオン社であり、その際にはオリジン社の従業員組合がイオンの傘下となることに賛成の意思を表明したがゆえにイオンのオリジン子会社化が成功したものと記憶しております。あの事件からしても、イオンさんは「強硬な支配権取得は従業員の賛同がなければ奏功しない」ということを認識されていらっしゃるのではないかと思いますが。
パルコ社側の買収防衛策発動、転換社債の転換権行使など、強硬手段はあるにしても、法律上の問題点がありますので、イオン社と森トラスト社による株主権行使のほうが圧倒的に有利であることは承知しております。しかし、そもそも、45%の株式について共同議決権行使を行うイオン社と森トラスト社との利害関係は、今後も一致し続けることの確証はあるのでしょうか。また、自ら買収防衛策を導入しておられるイオン社として、同じく防衛策を導入しているパルコ社の事業提携等に関する検討の時間を不要として、森トラスト社と株主提案権に乗っかって検討を急がせる根拠はどこにあるのでしょうか?他社にルールを遵守するよう要求していながら、自社はルールを守らないでよい、とする正当な理由はどこにあるのでしょうか?とくに、このあたりは「そもそもルール違反ではないし、パルコの一般株主の利益を害するものでもない」とするイオン社の社外取締役の方々の判断理由を拝聴してみたいものです。私はどちらに肩入れするつもりもないのですが(むしろガバナンス提案の内容は興味深い)、社外役員という立場から、このあたりの理由がよくわからず、とても逡巡するところであります。
(4月13日午後 追記)
「パルコ、アジア最大の商業施設運営会社との提携を発表」(日経新聞ニュースより)
剰余金配当増額のお知らせとともに、適時開示情報が出ております。
パルコ社の一般株主の方々にも、いろいろご意見あるかもしれませんが、企業価値向上のために経営者同士が(株主にもわかるように)長期シナリオを掲げて戦う姿、個人的には好きです。