会計監査に「健全なリスクテイク」はないのか-会計監査の品質向上とは?
本日は会計監査に詳しい常連の皆様からお叱りを受けそうなネタです(笑)。令和3事務年度の「会計監査の在り方に関する懇談会」が本日(9月15日)から開催されたようで、資料(事務局資料)が公表されています。2016年懇談会の振り返りとともに、今後議論すべき課題が掲載されておりまして、たとえば・・・
監査品質の向上に向け、監査市場の仕組み・構造を踏まえ、監査法人のマネジメント/ガバナンスに関してどのような点を検討すべきか。特に、能力ある中小監査法人が上場会社の監査の担い手として品質の高い監査を行うために検討すべき点は何か。また、企業不正を見抜く力の向上に向け、公認会計士の能力向上・能力発揮について、どのような取組みが考えられるか。さらに、コーポレート・ガバナンス改革に向けた取組みと歩調を合わせる形で、“監査”機能の更なる向上を促すために検討すべき事項は何か。
といったあたりが今後新たに議論されるそうです。たいへん興味ある論点が含まれておりまして、メンバーの皆様には忌憚のないご議論を期待しております。ただ、会計監査人と監査役会との年数回開催される監査報告会などで、
(監査法人社員)「今年度、金融庁の当法人への評価は『妥当でない点が認められる』でした」
(監査役会)「妥当でない点が認められる、ですか?」
(監査法人社員)「あ、はい。いやいや、『概ね妥当であると認められる』という評価は実際のところはないのですよ(笑)だから実際には『問題ありません』、つまり1番上、ということです、ハイ(^-^;」
(監査役会)「あ、そういうことですか(^-^;」
(監査法人社員)「(^-^;;;」
といった会話が繰り返されている様子を拝見しておりますと、「いったい誰が会計監査の品質向上を真剣に考えているのだろう」といった疑念が生じます。
私は「会計不正事案への対応」という狭い範囲でしか監査法人さんとは連携したことがありませんが、その経験から、監査の品質向上に必要なのは次の2点ではないかと考えております。あまりに極端な意見なので、おそらく考慮されることはないでしょう(笑)。
ひとつは「不正を見抜くのも能力だが、もっと大切な能力は『不正の疑いあり』と声を上げることである」というもの。監査の品質向上のためには「声を上げる能力」は必須でしょう。見抜くことは訓練できますが、声を上げるためには「クライアントをひとつ失ってもよい」といった度胸と上げた声に会社が従う環境整備が必要と考えます(AIの活用などもそのひとつでしょう)。
そしてもうひとつが「失敗しなければ監査の品質は向上しない」という割り切りです。リスクをとらないで、なぜ監査の品質が向上するのか、私は不思議でしかたありません。コーポレートガバナンス・コードでは企業の健全なリスクテイクが要請されています。社外取締役も、資本コストを意識しながら、経営者が失敗をおそれずにリスクをとることを後押しする経験が増えました。機関投資家の立場からすれば「〇〇監査法人は会計不正に強いから安心だね」とか「監査法人▽▽の監査を受ける経営者はどういうわけか財務経理感覚が向上するようだ」といった評価がされるようになればおのずと監査の品質も向上するように思うのですが・・・
IPO企業の会計監査を準備段階から担当する会計士さんは、その経験を積む過程のどこかで監査に失敗することがありますよね(典型例が「会計不正の監査見逃しの責任を背負い込む」といったところでしょうか)。私はそのような会計士の方々と(コンサル業務をされるようになってから)仕事をご一緒することがありますが、ご自身の失敗を、これからIPOにチャレンジする新興企業の役に立てようとされていて、そんな姿を私はいつもリスペクトしています。概ね失敗を機に大手監査法人は退職されるのですが「こんなスキルを持っている会計士さんが退職されるとなると、大手監査法人も大きな損失ではないか」と思えるのです。
上場会社の経営者は「会計監査人は100点とってあたりまえ」「安くて100点くれる監査法人はどこ?」といった感覚で成果品に接しているのではないでしょうか。となれば監査の品質にあまり興味を示さない。むしろ成果品にいたるまでのそれぞれの監査法人のストーリー(上場会社にとっての付加価値)を売り出すほうが監査の品質も向上するのかもしれません。監査の品質を上げるためにも、ダイバーシティを意識して多方面から意見を集約する時期にきているのではないでしょうか。