2019年3月26日 (火)

会計監査人への高額賠償請求で憂鬱になるのは社外役員かもしれない

3月25日の読売新聞朝刊(関西版・社会面)に「東芝監査法人に1兆円請求 105億から増額・・・巨額損失で株主訴訟」なる見出しの記事が掲載されています。個人株主の方が、東芝の不正会計を見抜けなかったとして金融庁から課徴金処分を受けた監査法人に対して、これまで105億円の株主代表訴訟による賠償請求を行っていました。しかし、その後に米国の原子力子会社問題が発覚し、東芝が1兆円以上の損失を計上したことから、原告株主は「東芝の早期公表を促さなかった監査法人も損失の責任あり」として請求額の増額を行ったそうです。

記事で紹介されている上村早大教授のコメントのとおり、会社で発生した損失には多くの要因があり、1兆円の請求額には根拠が乏しいと思います。おそらく、東芝と当該監査法人の間で責任限定契約が締結されていなかったので、このような超高額賠償請求となったものと思います。ただ、(本件とは関係ないかもしれませんが)他の役員が、これを他人事として傍観しているわけにはいかないはずです。仮に数億円といった金額で監査法人の損害賠償責任が認められた場合には、責任限定契約を締結している社外取締役、社外監査役にも火の粉が飛んでくる可能性は否めません。

このブログを立ち上げた2006年当時にも、こちらのエントリーにおきまして、弥永教授の月刊会計監査の座談会記事を引用しながら話題にしましたが、たとえば社外取締役や社外監査役も株主代表訴訟で提訴されて善管注意義務違反(任務懈怠)が認められた場合、高額請求を受けた会計監査人とは会社に対して連帯債務を負うことになります。そして資産を保有している監査法人が高額賠償金を全額支払った場合、他の連帯債務者に対して求償債権を行使することができます。そして監査法人さんからの求償債権の行使に対しては、会社に対する責任限定の抗弁を主張できない、ということになる可能性があります。

私は当時、「そんなバカなことはないだろう。それだったら誰も怖くて社外役員なんか引き受けないのではないか」とブログで述べました。そのような理由で求償権行使に対して、社外役員は(会社に対する責任減免の絶対効を主張して)拒絶できる、とする有力説(たとえば江頭教授)もあるのですが、どうも通説は拒絶できない、ということのようです。とりわけ債権法改正による新しい民法445条が、「連帯債務者のひとりについて免除があった場合に、他の連帯債務者は免除を受けた連帯債務者に対して求償することができる」とされましたので、この民法改正の趣旨からすれば、とりあえず会計監査人と社外役員は不真正連帯債務の関係に立つとして負担相当額の支払いを拒むことはできないということになりそうです。

このあたりは学説上も争いもあると思いますが、いくら責任限定契約を締結していたとしても、自らの責任が認められてしまえば「おそろしいことになる」かもしれず、保険加入と誠実な職務執行を改めて心がける必要があると考えております。

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2018年10月 9日 (火)

会計監査に関する情報提供の充実と「3本目の矢」

10月6日、日本内部統制研究学会の第11回年次大会が日本公認会計士協会本部(市ヶ谷)にて開催されました。前日の理事会から当日懇親会まで、1日半ほど会計士協会さんにお世話になりました。会計や監査の学者の方々、会計士の方々、弁護士の皆様、そして企業実務家の方々がすべて会員資格をもって学会を盛り上げるというのもめずらしいと思います。金融庁企画市場局長の三井秀範氏の特別記念講演も、とてもタイムリーなもので、近時の会計監査を巡る行政施策を整理するのにとても有用なお話でした。

会計監査を巡る行政施策といえば、10月9日の日経法務面で特集されていた「監査 AIを生かす 粉飾兆候を見抜く・会計士の負担減」なる記事に掲載されていた課題についても、「高品質な会計監査を実施するための環境整備」の一環として、官民で協力して克服されていくものと思われます。AIで「不正を見抜く」となりますと、「不正」かどうかは法律問題であり、また入力すべき不正データの数にも限りがあるため活用も容易ではないと思いますが、「不正の兆候を見抜く」ということなので、おそらくAIの力が発揮される可能性は高いのでしょうね。

ただ「不正の兆候」は判明しても、それを「不正」もしくは「不正の疑いあり」と認定することがきわめてむずかしいのは東芝事件で関係者の方々が痛感したところであります。ここをクリアするためには、①多くの不正は見逃してもしかたがないから、誰がみても「不正」と言える事例だけを摘発するのか、それとも②結果的には「不正」とは評価されず、(不正を認定した者が)企業から訴訟を提起されてもやむをえないことも承知のうえで、あえて広く不正事例を摘発するのか、どちらの道で運用していくのか、というところを(社会的合意をもって)決めなければいけないと思います。

非常にハードな選択ですが、不正を見抜くために、この①と②をどこかでバランスをとって調和させる道として、KAM導入(監査報告書の長文化)や非定例監査時における詳細な情報開示などに期待が寄せられるところです。三井局長による講演レジメでも「会計監査に関する情報提供の充実」に関する残された課題として、「通常と異なる監査意見が表明された場合など、監査人から資本市場に対してより詳細な情報提供が求められるケースにおける対応の在り方について、問題意識の共有を図り、必要な対応策を検討することが必要」と示されています。

監査法人版ガバナンス・コードの策定、KAM導入に次ぐ「会計監査に関する情報提供の充実に向けた三本目の矢」が、今後審議される予定のようですが、監査人の守秘義務解除の問題、公認会計士のゲートキーパー問題、そして企業の財務報告に向けたガバナンス問題をクリアして、形あるものにできるかどうか・・・、内部統制報告制度の形骸化問題と並んで、今後注目しておきたいところです。

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2018年8月23日 (木)

KAMの開示と会計監査人の守秘義務解除の正当理由

週刊エコノミストの最新号(8月28日号)では、会計・監査に関する特集が組まれておりまして、監査報告書の長文化、いわゆる「監査上の主要な検討事項(KAM)」の開示に関する監査基準の改訂について報じられています。KAMの記載は2021年3月期から(早期適用可)強制適用されるそうですが、監査報告制度にとっては「60年ぶりの大改正」との見出しが躍っております。とりあえずは金商法監査に関する監査報告書のみ、ということですが、連結だけでなく個別財務諸表監査も含むものとされています。

5年前に「監査における不正リスク対応基準」が新設されたときに、私は会計監査人の不正対応基準への準拠と上場企業のガバナンス向上は「車の両輪」と法律雑誌等でも主張をしておりました(たとえば中央経済社「企業会計」2013年11月号、同「ビジネス法務」2013年6月号等)。会計監査人、企業双方が不正会計を防止する責任を負担し合うべきである、との考えです。そして、このたびのKAMの開示についても、企業の重要な情報を開示するにあたっては、まずは会社側がKAMにおいて開示すべき情報をリリースして、会計監査人の守秘義務解除の負担(リスク)をできるだけ軽減すべきと申し上げております。

ふだん仕事をご一緒している会計士さんと話をしておりましても、いくらKAMの開示といいましても、また守秘義務開示の正当理由が認められるとしましても、その「正当理由あり」の判断はかなりあいまいであって、おそらく会計監査人は容易には判断できないだろう、とのこと。同エコノミスト誌で解説をされている関学の先生も、「詳細な監査手続の説明の前提には、企業側が開示する財務諸表情報の充実がある」としています(まったく同感です)。

そして、経営財務の最新号(8月20日号)には、このあたりについて、金融庁の監査基準の改訂に関与された企業開示課の皆様による解説がなされており、「監査人がKAMを記載するにあたり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。・・・取締役の職務執行を監査する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待される」と述べられています。さらに、「監査人が追加的な情報開示を促した場合において、経営者が情報を開示しないときに、監査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報をKAMに含めることは、監査基準に照らして守秘義務が解除される正当な理由に該当する」と述べられています。

たとえば「のれん、無形資産」「税効果」「収益認識」といったあたりで、監査上の主要な検討課題に該当する重要な事実があれば、監査役さんが責任をもって社長さんに未公表事実の開示を求める、ということになるのでしょうね(まぁ、現実的には経理部と会計監査人との事前協議で済むことが多いとは思いますが・・・)。そのように、できるだけ会計監査人の守秘義務違反のリスクを低減させることが、開示内容の充実、そして利用者である株主、投資者の知見の向上、株主との建設的な対話の実現につながるということになります。この監査役等の協力と経営者による追加開示という会社側の尽力があってこそのKAM開示といえそうです。

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2018年5月11日 (金)

KAM導入(監査基準の改訂)で監査役等の存在感は高まるか?

ゴールデンウイークも関係なく外部調査委員会の仕事で働き続けておりまして、なかなかブログを更新する時間がとれません(もうすこしお待ちください)。なので、ブログを書きたいネタだけのご紹介です。中身はほとんどありません(笑)。

5月8日、金融庁・企業会計審議会監査部会は「監査基準の改訂について(公開草案)」を取りまとめ、公表しています。紹介文に、

我が国の監査プロセスの透明性を向上させる観点から、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める案が取りまとめられました

とありますとおり、監査報告書の長文化(監査上の主要な検討事項を新たに記載する)を実施する、ということで監査基準が改訂されるようです。金融庁の内部告発本と称される「金融庁の基礎知識」の中で、筆者が(先行する英国のロールスロイス社の例を引用しながら)「いの一番で長文化を始めたロールスロイスさん、笑いものになっちゃったし、そんなにたいした制度でもないですよ、証券アナリストの人たちが絶滅するくらいかな・・」と指摘されていますので、私もやや疑心暗鬼なところもありますが、ともかくKAMの制度化には期待をしております。

普段なら、部会の議事録からキッチリと読んでいるのですが、残念ながらまだ読めておりません。ただ、ざーっと草案を眺めておりますと、会社法上の機関である監査役等(監査役、監査等委員、監査委員)の皆様が重要な役割を担うことがわかります。

(3)経営者及び監査役等の責任

経営者には、財務諸表の作成責任があること、財務諸表に 重要な虚偽の表示がないように内部統制を整備及び運用する 責任があること、継続企業の前提に関する評価を行い必要な 開示を行う責任があること  監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること

7 監査上の主要な検討事項

1 監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から 特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに、 当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に 重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として 決定しなければならない。

ということで、監査役等の今後の監査報告書における重要な責任が明記されるようになるようですね(草案段階ですが)。監査役等ときちんと連携をした、ということも、監査人の責任欄に記載することにもなるようです。金商法上の監査報告書にも「監査役等の責任」が明記される意味は(今後、いろいろな理由から)大きいかもしれません。

内部統制報告制度、不正対応監査基準にも監査役等は登場しておりましたが、監査報告書に統括責任者として監査役等が明記されるわけで、ぜひとも経営者の皆様に(これを機会に?)財務報告プロセスへの監査役等の関与がきわめて重要であることを認識していただければと(まぁ、こんなときにかぎって指名委員会等設置会社の監査委員(元)の方がインサイダー取引疑惑で監視委員会から強制調査されている、といったニュースが飛び込んできたりするのがナントも・・・ですが)。

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2017年11月13日 (月)

コシダカHDのナゾ・・・監査等委員の皆様、頑張ってください?(^^;;

世間ではあまり話題になっておりませんが、私の周囲では「なんでこんなことが起きるの?」「ウケ狙いじゃないよね?」「東証は何か手を打っているのか?」と話題になっておりますのがアミューズメント(カラオケ)事業で業績好調なコシダカホールディングスさん(東証1部)の11月9日付け適時開示です。来る11月24日の定時株主総会(8月決算会社)に向けて株主様に招集通知を出したのですが、そこに添付している会計監査人の監査報告書、監査等委員会の監査報告の記載内容が間違っていたとのリリース。実は会計監査人である新日本監査法人さんから「監査報告書を受領できませんでした」とのこと(^^;ホンマデッカ・・・

こういった不思議なリリースに遭遇しますと総会担当者、会計監査人、投資家、市場監督者等、いろんな立場で違った見方をしてしまうと思います。会計監査人から監査報告書を受領していない場合でも、法律上は特定取締役(監査等委員)さんに監査結果を通知すべき日(あらかじめ合意された日)に計算関係書類の監査を受けたものみなされます(会社計算規則130条3項)。したがって株主総会では(無限定適正意見をもらった計算関係書類が存在しないので)報告では足りず、総会における計算関係書類の承認決議が必要になります。

現時点では監査報告書、監査報告が白紙の状態になっている添付書類がリリースされておりますが、すでに総会まで2週間を切った状態なので修正で瑕疵が治癒されるかどうか・・・。そもそも会計監査人が約束の日までに監査報告を出さないということは「なんぞある?」、そういえば会計監査人の交代に関する議案が上程されているのに「会計監査人の異動」に関する適時開示が出されていないのは「なんぞある?」と、投資家や東証さんの立場からも疑問が尽きないのではないでしょうか。

私は、といいますと、やはり監査役さん(コシダカさんは監査等委員会設置会社なので取締役監査等委員さん)の立場で眺めてしまいます。ご承知のとおり、会社法監査の場合は、会計監査人の監査の方法と結果が相当かどうか、監査等委員が審査をしますので、一定の日までに監査等委員の皆様は会計監査報告書をチェックすることになります。

ところで、(会計監査人が監査報告を出していないにもかかわらず)いったん監査等委員の方の印鑑が押されている適正意見を付した監査報告が開示されてしまいました。となりますと、ひょっとして会計監査人の監査報告もチェックせずに、また会計監査人の期末監査の説明を受けずに監査等委員の方々は、監査報告を作成したということでしょうか?それとも(一歩譲って?)監査等委員の知らないところで勝手に監査報告が(会社の中の誰かの手によって)作成されて、そのまま承認していた、ということでしょうか?うーーーーん、いずれにしても常勤監査等委員の方はいらっしゃるようですから、社外取締役(監査等委員)の方も含めて、監査の職務を全うしていたのだろうか・・・との疑念を持たれても不思議ではないと思います。

「いや~、そんなたいしたことじゃないですよ!監査法人さんがうっかりミスしちゃって、ホンマにワヤですわ(笑)」といったオチが付く可能性もありますが、それならそれで、今度は監査法人さんの信用にもかかわる重大問題になりますよね(笑)。たぶん今頃は当該会社の関係者の皆様は青い顔をされていらっしゃるような気がしますが、一日も早く、なぜこんな事態になってしまったのか、真相が知りたいところでございます。

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2017年9月25日 (月)

盛り上がってきた?-有償新株予約権の会計処理問題

昨年10月、当ブログにおいて「有償ストックオプションの会計処理問題-会計基準によって事実は作られる?」なるエントリーをアップしておりましたが、最近の東洋経済の9月23日号や今月号のFACTAでも取り上げられているように、この話題がずいぶんと盛り上がってきたようです。

従業員等に対して、確定条件付き有償新株予約権を付与する取引については「従業員ががんばることを期待しての新株予約権の発行なので、将来の報酬として費用計上が必要」とするASBJ(企業会計基準委員会)の公開草案が出されたことは(当ブログにお越しの皆様には)すでにご承知のとおりです。ところが、この有償新株予約権は10年以上前から「投資」として発行されているものであり、従来から金融商品としての会計適用指針17号に従って処理されていました。そこで「いまごろ株式報酬費用として認識すべし、とはとんでもない!」と、経済団体を含め、上記公開草案には多数の反対意見が出されています。具体的には今年7月10日までのパブコメにおいて反対は200通以上、賛成はわずか6通とのこと。

昨年10月のエントリーのコメント欄でも述べましたように、私は「部外者」なので、反対にも賛成にも与するものではありませんが、以前、社外取締役として報酬委員会に関与していたことや「法と会計の狭間に横たわる問題」を取り扱った書籍の著者として、本件にはとても興味はあります。以下は、そんな会計素人の個人的な意見にすぎませんが、日本公認会計士協会に「出入禁止」とならない範囲で(?)ひとことだけコメントさせていただきます。

そもそも「これまで確定条件付き有償新株予約権を付与する取引について、どのような会計処理をすべきか、かならずしも明らかではなかった」というところを関係者が認めるのか、認めないのか・・・というところが大問題ではないかと。反対派の方は「こっちが正しい、あっちは誤り」といった主張をされている方が多いように思うのですが、10年前の長銀事件最高裁判決でも述べられているように、法の世界と違って会計の世界は(先日の東芝事件における新日本さんとPwCさんの意見相違にみられるように)「こっちも正しいけどあっちも正しい」が成り立ちうる世界です(2日ほど前に出版された細野祐二さんの新刊書の中にも、「公正なる会計慣行はひとつとは限らない」との記述がありますね)。したがってASBJ側としては、ボクシングの防衛戦と同じように「五分五分」「ドロー」に持ち込めば新たな基準を「公正妥当な会計基準」にすることができるので反対派とケンカはする必要はありません(だから公開草案でも、反対派には理由を求めていますが、賛成派には理由は求めていません)。以前の取扱いも条件付きで認めます・・・といった妥協案さえ示しておけばOKといったところでしょうか。

要は「これまで基準が明らかでなかったところ」に新たに基準を開発する(解釈指針を示す)わけですから、いろいろと反対意見はあったとしても基準さえ作れば、(公正妥当なものとして)ASBJのお墨付きのある会計基準が金商法会計、会社法会計の基準になりうるものと思います。したがって、反対派としては「有償新株予約権の付与に関する取引への会計基準は、これまで明らかではなかったとは言えない、すでに会社法や金商法上の『公正妥当な会計基準』は存在していた」と主張する必要があるのではないかと。そうであるならば、今度はASBJ側が「なぜ公正妥当な会計慣行・会計基準を変更しなければならないのか」その理論的な根拠と変更を必要とする社会的背景についての説明が求められることになると思います(そこで初めて、今回の200通を超える反対意見の理由が活きてくるのではないでしょうか)。

これまでの実務の取扱いの集積(とくに付与価格を低額に抑えるために確定条件は相当厳しい条件になっていますので、応募しない従業員が多数存在するのが現実ですが、それでも「株式報酬」といえるのか、大手監査法人は何の異議もとどめずに「有償新株予約権の付与は投資」として適正なものと認めてきた歴史をどうとらえるのか)からみて、すでに公正なる会計慣行、公正妥当な会計基準は存在すると言えるのかどうか、もし言えるとすればASBJの会計処理方針とこれまでの会計慣行は併存しうるのか、それともASBJの公権的な解釈が唯一の会計慣行になるのか、このあたりは法律家の意見も必要ではないでしょうか(なんといっても違法配当や有価証券報告書の虚偽記載といった司法判断の対象となるところなので)。

ちなみに、企業会計法の権威的学者といえば、やっぱりY教授がすぐに思い浮かびます。しかし今回は諸事情により(?)、Y教授がご発言できない立場にあるのかもしれませんが、独り言ですが、こういう時こそY教授のご意見をお聴きしたいところです。

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2017年4月21日 (金)

監査法人必読!-「もうひとつのエフオーアイ粉飾損害賠償事件判決」

昨年12月20日、東京地裁でエフオーアイ(マザーズ上場→廃止)事件の判決が出ましたが、もうひとつのエフオーアイ事件判決の存在を、こちらのエントリーでご紹介しておりました。本家本元のエフオーアイ事件第一審判決は、データベース以外、未だ判例集にはどこにも登載されていないようですが、「もうひとつのエフオーアイ事件判決」(東京地裁平成29年1月27日)が、先に金融・商事判例の最新号(4月15日号)に全文掲載されました(20頁以下)。

エフオーアイ社は、粉飾率97%という状況の中で(無事?)東証マザーズに上場を果たしました。しかし、上場からわずか5カ月で金融庁の強制調査を受け、半年で上場廃止に至るわけです。同社の有価証券届出書等を信用して同社株式を購入した一般株主らが、会社関係者や市場関係者に対して損害賠償を求めたのが「本家本元のエフオーアイ事件訴訟」です。日本で初めて主幹事証券会社の審査ミスを理由に賠償責任を認めた判決として注目されていますが(原告、被告双方から控訴中)、会計監査人である監査法人さんは、裁判途中で和解をしたため、その行動は判決文からは全くわかりませんでした。

ところでこの「もうひとつのエフオーアイ事件訴訟判決」は、エフオーアイの架空売上の計上に協力していた取引先(具体的には富士通さん)元社員について、エフオーアイ社株主(原告)に対する損害賠償責任を認めたものです。判決文を読みますと、①なぜ会計監査人が虚偽の残高証明書に騙されてしまったのか、②なぜ納品された(とされる)現物の確認を会計監査人は省略してしまったのか、③なぜ主幹事証券会社がヒアリングの際、虚偽説明に騙されたのか、④なぜ日本取引所自主規制法人の審査が甘くなってしまったのか等、これらを検討するために参考となる事実がたいへん詳細に認定されています(しかし、日本を代表する著名企業の課長さんが、1億円の報酬約束で簡単に協力しちゃうものなのでしょうかね?なんかもっと人間臭い事情があったのではないかと邪推していまいますが・・・やや疑問・・・)。

法律家の興味は民法上の不法行為責任論(共同不法行為に関する719条1項と2項との関係、民事上の「ほう助」の解釈、民法715条における「事業の執行にあたり」の解釈、虚偽記載と損害の範囲等)だと思いますが、会計専門家の方にとって注目していただきたいポイントは、株主原告団が法人である富士通さんの責任も追及しているのですが、その責任追及を裁判所が否定する根拠理由です。一言でいうならば

「こんな立場の人(当該社員)が残高証明書出す権限ないことくらい、誰だってわかりますよね?」「こんな人が監査人の相手する立場にないことくらい、ちょっと調べればわかりますよね?」(客観的・外形的にみて事業執行との関連性なし」→使用者責任否定)

さらに、この富士通社の社員は、上場承認直前期にはもうエフオーアイ社による粉飾には協力していないのです(結局、この社員の方は報酬ももらっていないようです)。上場承認よりも3年ほど前には「足を洗った」にもかかわらず、裁判所は「上場検討の初期の段階で、取引先が虚偽説明をして会計監査人が騙されたことは、たとえ当該会社が上場まで審査で苦労したとしても、東証の審査クリアには大きな影響を与え続けている」としています(日本取引所自主規制法人さんには朗報か?笑)。つまり裁判所は「市場の番人」たる会計監査人の役割を極めて大きく評価しています。

私は(法律のご専門の方でないと、少し読むのがしんどいかもしれませんが、)ぜひ会計監査の関係者の皆様に、この「もうひとつのエフオーアイ事件判決」をお読みいただきたいと思います(もちろんお時間のある時で結構でございます)。お読みいただいて「なんだ♪これって会計士の監査がまずいからでしょ♪、俺だったらこんなヘマしないよな(笑)」とお感じになったら、それはそれで結構かと存じます。しかしお読みになって「これって、会計士災難だよな。俺も同じように騙されるかも・・・」とお考えになるのであれば、平成25年「不正リスク監査基準」の策定時に留保されている「取引先監査人との連携」問題を今一度、ご検討されてみてはいかがでしょうか。架空循環取引に協力した会社が株主から訴えられる時代になりますと、どうも会計監査人のリーガルリスクも高まるように感じます。

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2017年4月20日 (木)

上場会社は金商法193条の3、1項による監査役通知を開示すべきである(後編)

先週、東芝さんの3Q四半期報告書に関連するエントリーをアップしましたところ、たいへん多くの方々に閲覧いただきました。そして会計・監査実務のご専門家の方々からも、何通かメールにてご意見をいただきました。東芝さんの会計監査人であるPwCあらた監査法人さんはなかなか自身のご意見を出せない立場であることも、よくわかりました(それが良いか悪いかは別として)。これは私の単なる邪推ですが、あれだけ日経ビジネスさんやAERAさんに内部社員の「叫び」が届いているわけですから、PwCさんのところにはもっと多くの内部告発が届いていることは間違いないと思っています。そのような内部告発の内容は、日本公認会計士協会さんや金融庁(公認会計士・監査審査会)さんのほうから調査をかけなければ守秘義務の関係で外部に情報提供することはできないのでしょうね。このたび公表されました監査法人版ガバナンス・コードでも、内部通報や内部告発を受領した監査法人さんの守秘義務に関する定めがありますし、おそらくかなり慎重な対応をされているのではないかと推測されます。

さて、その監査法人の守秘義務を解除する法的根拠といえば、代表的なものに金融商品取引法193条の3があります。この「監査法人の伝家の宝刀」について、ようやく後編を書かせていただきます。前編のエントリーを書いてからすでに1か月が経過してしまいました(この1か月、コンプライアンス関連の話題が豊富だったので、なかなか続編を書く時間がございませんでした<(_ _)>)。監査証明業務の過程において、監査法人が被監査対象会社の法令違反等の事実を発見したときは、まずは当該会社の監査役(監査役会)に対して法令違反等事実の是正を求め、それでも会社が何ら対応しない場合には、(重大な法令違反等事実に限定されますが)守秘義務を解除して金融庁に当該事実を報告しなければならない、というものです。前回のエントリーにて、一老さんから「これは抜かずの宝刀ではないか」といったご質問を受けましたが、法律家の間でも積極行使説と消極行使説に分かれているのが現実です。

いままで193条の3は行使されたことはほとんどないのでは?とのご疑問もありますが、某省庁の幹部の方の講演などを拝聴しますと、これまで会計不正が疑われる上場会社に対して、金商法193条の3(法令違反等行為の是正要求通知制度)1項に基づく監査役への通知が6~8回程度発信されているようです(この点は弥永教授もビジネスロージャーナル9巻2号のご論稿の中で「知られていないものがあと数件ある」と触れておられます)。オリンパス会計不正事件の際、当時の会計監査人が「193条の3をちらつかせた」と第三者委員会報告書で報告されていましたが、あれは「ちらつかせた」だけですので、ここではカウントされておりません。

外から伺い知れる3件は、春日電機、セラーテムテクノロジー、JFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)ですが、本当に会社と監査法人とのガチンコで通知が出され、会社側も開示をしたのはおそらくJFLAだけだと思われます。JFLA社の会計監査人(当時)が、財務報告内部統制の不備を理由に193条の3に基づく法令違反等是正通知を監査役に発し、会社側には理由も含めて開示を要求しました(実際にも適時開示されました)。その後、さらなる会計監査人による調査過程において、実際に「粉飾」が発見されているわけですから、やはり「全社的内部統制に重要な不備」→「粉飾の発見」という図式をみれば、193条の3の有用性は高いと思います。

私個人としては、同社監査法人は(現場に「やってみなはれ」と許可を与えた同法人トップを含め)とても胆力があったと評価しています。いや、気合だけの問題ではなく、むしろ193条の3、第1項に基づく監査役への通知は適時開示の対象だと解釈しています。これを受領した上場会社は監査法人から通知を受けたこととその通知理由を適時開示すべきですし、このJFLAの会計監査人の行動のほうがむしろ当然だと考えています。通知を受領しながら開示しないことは、不適切(開示規制違反)ではないでしょうか。

東芝事件が「会計不正事件」→「事業売却による分社化」といった一連の流れをたどっていることをみますと「もっと早く『助けて』と叫んでいれば、もっと別の流れがあったのでは」と思わざるをえません。実際、JFLA事例では、早期に193条の3を通知したことで、監査法人も(社内取締役全員が交代した)会社も元気に活動を続けています。また、弁護士兼公認会計士でいらっしゃる中野竹司氏のご論稿「なぜ『法令違反等事実』通知規定は活用されないのか -JFLA事例を契機に考える」(月刊企業会計2016年5月号)でも同様の指摘がなされ、早期における193条の3の活用が提言されています。

さらに、今年2月に発刊された江頭憲治郎先生古稀記念論文集「企業法の進路」(有斐閣)901頁以下に堀田佳文先生(千葉大学准教授)の「会計監査人の義務と責任-金融商品取引法193条の3を手掛かりとして」と題する論文が掲載されています。そこでもJFLA社のように、早期に193条の3を会計監査人が行使すれば早期是正を図れるにもかかわらず、なかなか活用されないという問題点が指摘されています。監査法人が「期待ギャップ問題」を放置することによって(193条の3を行使しないままで)、権限を行使すべき責任を回避し続けていると、今後は司法が会計基準の解釈を通じて会計監査人の責任問題に深く関与することになる、というジレンマに陥ることを指摘されていて、私もまったく同感です(このたび、日本公認会計士協会近畿会さんが会計士アンケート調査結果に基づく提言書を公表され、その中で「会計審判所の創設」を提言されていますが、会計士協会と金融庁による別々の処分の交通整理が主たる目的とはいえ、司法の介入防止のためにも会計審判所制度はひとつのアイデアかと思います)。たしかに金融庁への通知(193条の3、第2項)は「抜かずの宝刀」でもよいのかもしれませんが、監査役通知についてはもっと活用されるべきだと考えます。これこそまさに「監査法人改革」の第一歩です。

昨年12月20日に東京地裁で出されたエフ・オー・アイ損害賠償請求事件判決(判決理由)によると、同社では平成16年から三様監査は続けられており、また会計監査人と監査役会との連携にも問題はなかったとされています。それでも監査役の皆様は同社の不正を見抜くことはできず、結果的には業務監査の面で任務懈怠責任を問われています。裁判の上で会計不正で問題となる監査役の職務は、会計監査ではなく、業務監査の不適切な運用です。過去の判例を調べましたが、これまで監査役さんの任務懈怠が裁判上で認められた事例はすべて業務監査が問題とされています(例外は平成11年の大和銀行株主代表訴訟のみ)。だからこそ会計監査人が自ら手を突っ込むことができない被監査対象企業の業務監査を促すためにも、この道具(金商法193条の3)が活用されなければならないのです。また、投資家を含めて、会計監査人はリスクをとってゲートキーパーとしての役割を担っているという意識(会計処理には解釈問題がつきまとうのであり、結果として粉飾とは評価されない場合もある、という意識)を持たねば、監査法人が健全なリスクテイクはできないと思います。

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2017年3月14日 (火)

上場会社は金商法193条の3、1項による監査役通知を開示すべきである(前編)

本日(3月13日)の日経朝刊法務面では「監査法人改革、企業にも責任」と題する特集記事が掲載されていました。監査法人版ガバナンス・コードが策定されることで監査法人の経営の透明性が高まる中、企業もこれに従って適切に監査法人を選択すべき責任がある、といった内容です(著名企業の先進的な取り組みも紹介されています)。専門家のご意見を含め、監査法人改革のトレンドを知るうえでたいへん勉強になりました。

上記記事で紹介されている監査法人版ガバナンス・コードの実施を見据えた企業側の対応としては、①三様監査(会計監査、監査役監査、内部監査)の充実、②強制交代制(ローテーション)の導入、③アドバイザー監査法人の採用、④監査役会による面接制度です。いずれも会計不正を防止するための仕組みとしては検討に値するものだと思いますし、真摯に取り組めば会計不正の防止に有用です。しかし、そこで想定されているのは、どれも「どうすれば監査人が会計不正リスクに気づくことができるか」といった「気づく仕組み作り」である点が気がかりです。

監査のプロである公認会計士には優秀な方が多いので、適切な職業的懐疑心を持っていれば「不正の予兆に気づく」ことは多いはずです。ただ、定例監査の時間確保や追加報酬がとりにくい現実、そもそもの監査報酬の低廉性等から、その予兆を深掘りする余裕がないというのが現実です。世間では「長文式の監査報告書を採用せよ」と言われていますが、会社と監査法人との協議内容は開示になじみませんし、開示してもよほど会計に関心のある方でないとわからないほど複雑な協議内容は(いくらリスク情報とはいえ)開示できないでしょう。1年を通じて宿題を監査法人から出されて、その結果をみて会計監査人が監査方針を決めることもあるので、その過程で監査人は不正に気付くことも多いと思います。また監査役の方々も、会計監査人と連携をすれば会計不正リスクを共有できます。

ただ、本当にむずかしいのは「どうすれば『これって、おかしいのでは?』と声を上げることができるか」という点です。気づくことよりも「声を上げる」ことは10倍むずかしい。監査法人も監査役も、人事権や(法的ではなく)事実上の監査法人選択権を握っている社長さんにモノが言えない、というのが問題の本質ではないかと。また、「自分が間違っていたら会社に迷惑をかけてしまう」という意識がどうしても先立ちます。そこをどう変えていくかが会計不正を予防、早期発見するためのポイントであり、そこにメスを入れなければ会計不正の防止は幻想にすぎないと考えています。

私は本当の監査法人改革は、上場企業向けのコーポレートガバナンス・コードの狙いと同様、監査法人による健全なリスクテイクの実現だと思います(昨年4月にも、 「厳格な監査の前提となるオオカミ少年を考える」と題するエントリーで同様の問題提起をしました)。現在、東芝さんでは、決算発表を再延期することの理由として、同社(同社グループ)の内部統制評価をめぐって日米の監査法人さんの意見が対立していることが原因と報じられていますが、まさにそういう点が監査法人改革の核心だと思うのです。

「この会社は財務報告の信頼性に影響を及ぼす内部統制上の不備がある」といったことをあらかじめ投資家に情報提供する胆力が監査法人に備わっているかどうか、という点です。そこでひさしぶりに金融商品取引法193条の3、第1項(監査役通知制度)、第2項(金融庁通知制度)の現状を分析しながら、この監査法人改革の在り方について検討してみます(後編につづく)

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2016年12月22日 (木)

エフオーアイ粉飾損害賠償判決-東証の注意義務認める

火曜日(12月20日)の夜に今年の注目判決として速報版でご紹介したFOI損害賠償請求事件判決(東京地裁)ですが、被害者弁護団から判決の概要がリリースされています。みずほ証券さんは金商法に基づく発行市場損害のみ認容されたそうです。東証さんの不法行為責任は認められていないものの、抽象的には不法行為責任の前提となる注意義務が認められたそうで、これは重要判決ですね。

また、コメントをいただいております「通りがかりの商法研究者」さんの情報によると、判決全文は200頁以上で、FOI社の監査役(社外監査役を含む)の責任が認められているそうです。おそらく「監査見逃し責任」が認容されたのでしょうね。なお会計監査人は提訴されたにもかかわらず判決当事者からははずれているようなので、和解をされたものと思われます。

やっぱり、私的には今年一番の注目判決といえそうでして、なんとか正月休みにでも判決を読めないだろうか・・・と。25日の朝、目が覚めたら枕元に判決謄本が積まれていたりして・・・そんなわけないか(笑)。

(12月23日追記)

グーグルで検索しておりますと、私の過去ログがひっかかりまして、エフオーアイの粉飾決算については2010年のこちらのエントリーで内部告発問題を解説していたのですね。もう11年近くブログを続けておりますと、情けないことに自分でもどんな事件について書いたのか忘れているようです(笑)。

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