2019年10月 2日 (水)

競争政策に多用されるか-「確約制度」適用第1号事案

本日は備忘録程度のエントリーです。日経夕刊(10月1日)でも報じられているとおり、楽天トラベルを運営する楽天が、独禁法違反(不公正な取引方法)の疑いのある契約条項を自主的に撤廃したそうです。予約旅行サイトの競合3社が公正取引委員会から立入調査を受けていたところ、公取委から確約通知が発せられ、楽天は改善計画を示した、というもの。競争法違反の疑いのある事業者の行為について、競争当局と事業者との合意によって自主的に解決するのが「確約制度」ですが、この確約制度が適用されました。

楽天の独禁法違反の疑いは「自社サイトの予約料金が最安値になるよう契約条項で宿泊施設等に要求していた」というもので「拘束条件付き取引」(不公正な取引方法-独禁法19条違反)への該当性が問題とされています。しかし、上記のとおり確約手続きが適用されましたので、楽天に違法行為は認定されずに解決しています。日経や読売が報じるところでは、昨年12月末に施行された「確約制度」の第1号事件だそうです。

競争政策のグローバル化が進み、TPP11協定の「競争政策章」のなかで国内施行が決定した確約手続ですが、競争法の執行には人的・物的資源を要しますので、「法執行の国際標準化」という意味でも確約手続の活用には大きな意義があるように思います。「優越的地位の濫用」をはじめとする「不公正な取引方法」の排除は、GAFA問題で揺れるプラットフォーマーへの適用、リクナビ問題で話題となった個人情報保護法との関係整理、そして吉本興業事例で議論された「働き方改革」(フリーランス保護)への独禁法適用などでそれぞれ問題になり、企業規制において公正取引委員会の活躍の場は急激に広がりそうです。とてもじゃないけど公取委の現有資源では「法執行」において追い付きそうにないはずです。

そこで「疑いがありますよ」といった確約通知を事業者に発出して、事業者の側で公取委の要望する行動を任意にとるのであれば、これは人的・物的資源の大きな節約になりますね。先日、消費税増税直前に(恥ずかしながら)私が社外取締役を務めるD社が消費税転嫁対策特別措置法違反で公取委から勧告を受けましたが(たいへん申し訳ございません<m(__)m>)、このたびの楽天さんの確約制度適用も何か象徴的な事例になりそうな予感がします。

今後は、ひょっとすると確約制度も公取委によって多用されるかもしれません。ただ、コンプライアンス経営を重視するあまり、なんでも認めてしまうのも「グレーゾーン対策」としては問題です。楽天と同様、公取委から調査の対象とされた残りの2社がどう対応するのか、そちらも興味がありますね。

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2016年9月 7日 (水)

消費者裁判手続き特例法が企業法務に与える影響について

9月5日の日経「法務インサイド」では、「企業いきなり提訴警戒、消費者に代わり認定団体が賠償請求」と題する特集記事が組まれていました。いわゆる「日本版クラスアクションの脅威」ということで、消費者裁判手続き特例法の施行日(10月1日)を目前に控え、各企業が熱心に対応を検討していることを報じています。今年4月の改正景表法の課徴金制度導入、来年6月の改正消費者契約法の施行もあり、まさに消費者法対応はビジネス法務の一環と言えますね。

ところで、この消費者裁判手続き特例法の施行が、どれほど一般企業の経営に影響が及ぶのかは正直申し上げて未知数です。といいますか「日本版クラスアクション」といえるほどの影響があるのかどうかは、私個人としては懐疑的です。このあたりは、この6月30日に消費者庁から公表されている「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会報告書」がたいへん参考になると思います(ちなみに「消費者団体訴訟」なる用語には、すでに消費者契約法等に存在する差止め請求制度と今回の被害回復のための二段階訴訟制度の両方が含まれています)。

企業法務への影響度を考えるにあたり、なんといっても特定適格消費者団体の資金面の限界がもっとも大きな課題です。消費者利益のため、公益的な活動を担う団体であるにもかかわらず、税金投入もなく、(寄付金が期待される以外は)ほぼボランティアで手続きを担うことになります。差止め請求という手続きもたいへんですが、消費者裁判手続き特例法に基づく共通義務確認訴訟や第2段階の簡易確定手続きを、はたして特定適格消費者団体は法律家の「手弁当」に近い状態でこなすのでしょうか。いや手弁当だけでなく、手続き費用の負担も相当かかると思います。

語弊はありますが、中には支払能力十分な企業を相手とする「美味しい事件」もあるでしょう。しかし、消費者にとって「美味しい事件」となりますと、特例法では請求できない慰謝料や拡大損害を目指して、別途弁護士を委任して(もしくは別のクラスアクションを弁護団が組成して)個別裁判を起こして「別行動」をとる消費者も増えてくるのではないでしょうか(ただし「個別訴訟の中止制度」は存在します)。また、会社側としても、共通義務が認定される見込みとなった時点で自浄能力を発揮して、リコール対応や個別弁償等によって「美味しい」ところを解消させてしまう行動に出ることも予想されます。こうなると、特定適格消費者団体としても、資金的に厳しい状況になってしまうのではないでしょうか。

また、資金面以外の課題としては、特定適格消費者団体は「不当な目的」によって提訴することはできないとされており(特例法75条2項)、平成27年11月に制定された「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」でも、「不当な目的でみだりに」提訴する場合として、かなり厳しい事例が掲載されています。なお、上記日経記事では「いきなり提訴警戒」とありますが、そもそも特定適格消費者団体は「いきなり提訴」はかなり勇気がいるのではないでしょうか。上記特定適格消費者団体監督ガイドラインでは、同団体が濫訴を行ったかどうかを認定する有力な判断事由としては事業者との事前交渉のない提訴を挙げているようなので、原則としては提訴前に事業者との交渉が行われることが予想されます。

私は企業のレピュテーションリスクとして「敗訴リスク」よりも「提訴リスク」にこそ企業法務的には影響があると考えていたのですが、この「不当な目的」による提訴禁止条項は、かなり消費者団体にとってはイタイなぁと。本来、消費者被害は迅速な救済を図ることが必要であるにもかかわらず、消費者裁判手続き特例法の制度自体は相当に適正な運用(厳格な運用?)に重心が移っているので、消費者団体はジレンマを抱えて船出をしなければならないように感じます。

もちろん業種によっては被告となって「敗訴リスク」を考えなければならないので、法律の詳細まであらかじめ検討のうえ、平時からの内部統制システムの構築が望まれる事業者も存在します。したがって、影響度は企業によってマチマチであり、自社においてどの程度の準備が必要か、「特例法リスク」を検討することが企業に求められるところだと思います。要は「相当多数」性要件、共通性要件、支配性要件などの適用可能性を含め、特定適格消費者団体が「動きたくても動けない」状況を、企業側はどうすれば作れるか・・・ということかと。ただし私個人としては、多くの苦悩を乗り越えて、特例適格消費者団体(現在の14団体のうち、どれだけが新制度の認定団体になるかはわかりませんが)が一般企業の問題行為を指弾することを期待しております。

そもそもこの裁判手続き特例法といい、改正消費者契約法といい、最初は勇ましい法制度が検討されていましたが、経済団体とういう鉄板(?)によって相当骨抜きされてしまったところがあります。さて、公益通報者保護法の改正検討についてはどうなるのか・・・(ハア、がんばります・・・)。

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2016年7月 5日 (火)

東芝MS争奪戦に勝利したキヤノン社の「灰色買収」を考える

東芝の優良子会社である東芝メディカルシステムズさんの株式取得を巡り、キヤノンさんと富士フイルムさんが争奪戦を繰り広げた事例は(私自身独占禁止法の法的論点から解説できるほどの知見はございませんが)、やはり経済法コンプライアンスの視点からはどうしても取り上げたい事例です。

ご承知のとおり、キヤノンさんが公正取引委員会に対する事前届出義務を潜脱するスキームを用いて東芝メディカルシステムズさんを買収したことが話題になっています(詳細経緯は東洋経済さんの記事が参考になります)。公正取引委員会が異例の発表で(SPCと種類株式を活用したキヤノンさんのスキームは)「ブラックではないがグレー。今後、このような手法を採用するのであれば事前に相談してもらわないと刑事告訴も検討する」と述べておられますので、まさに「灰色買収」といってもよいと思います。ちなみに「灰色」といわれているのは審査手続きに関する点でして、買収が実質的に競争を制限するほどのことではない、という実体に関する点ではございません。

しかし、富士フイルムさんが「なぜ今回は灰色で、次回からは黒なのか、公正取引委員会に説明を求めたい。このようなアンフェアなことがまかりとおるようでは経済法が形骸化してしまう」とコメントされているように、私も素直に疑問を感じます。今後同様のケースがあれば違法と認定するということは、なぜ今回は違法とは認定しなかったのでしょうか。6月30日付けの公取委リリースを読んでもよくわかりません。平成21年独禁法改正で、株式取得による買収について、それまでの事後報告制から事前届出制に移行しましたので、そんなにテキトーで良いというわけでもありません。

東洋経済さんの上記記事では、活用されたSPCとキヤノンさんとの親子関係が認定できなかったから、とのことですが、その理由は「今回は灰色だが次回からは違法」との結論とはつながりません。私的独占は不公正取引の温床になることから規制されるのだといわれていますが、被害者による民事救済で適法性が担保されない以上、公取委の審査手続きの公正性はかなり厳格に考えるべきではないかと。そういった意味では「灰色」なのは、むしろ公取委の判断ではないかとも思えます。

東芝さんもキヤノンさんも「東芝の債務超過を免れる目的でやった」と弁明されているようですが、これも検察への告発義務を負う公取委が判断する理由にはならないのではないでしょうか。可罰的違法性の有無を論じるのは検察庁だと思います。いずれにしましても、キヤノン側にも、富士フイルム側にも(おそらく)リーガルアドバイザーとして大手の法律事務所が支援されていると思いますので、公取委もいろいろとプレッシャーがかかる中での判断だったことが推測されます(富士フイルム側は、3月中旬から公取委に対して質問状を提出していたそうです)。

ウルトラC(?)で東芝の優良子会社さんを手に入れたキヤノンさんですが、さて、今回の争奪戦への勝利は諸手を挙げて喜んでおられるものでしょうか(もちろん、まだ海外での審査は終了しておりませんので、完全に勝利したとはいえませんが)?独占交渉権を取得した大きな要因だと思われますので、企業倫理という視点からは議論の余地がありそうです。公取や相手方から「グレー」といわれた取引で勝ち取ったことわけですが、これって多くのビジネスパーソンからみたら、「違法ではない以上、独占交渉権を握ったことは賞賛すべきであり、なんら批判されるいわれはない」とみる方もいらっしゃるでしょうし、また「こんなアンフェアな取引をやる会社だということが従業員に浸透したことは大きな問題だ」と考える方もいらっしゃると思います。

当ブログをお読みの皆様はいかがでしょうか。経済法にお詳しい方にいろいろとご教示いただけますと幸いです。EU離脱問題やダッカでの襲撃事件等、キビシイ話題の中に埋もれてしまいましたが、この事例はコンプライアンス経営の視点から、もっと議論されてもいいように思いました。

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2016年1月 7日 (木)

裁量型課徴金制度の独禁法導入とコンプライアンス経営との親和性

価格カルテル、私的独占、優越的地位の濫用等、いわゆる独禁法違反行為に対する課徴金制度が(いよいよ)裁量制に転換される、という記事が本日(1月6日)の日経朝刊トップで報じられています。金商法上の課徴金制度は羈束行為(きそくこうい-違反事実が認められた場合には、法令に定められたとおりの課徴金納付を命じなければならない)とされていますので、裁量型が採用されるということになりますと、日本で初めての裁量型課徴金制度が導入されることになります。

要するに行政調査に協力をした企業には課徴金を減免して、証拠を隠したり口裏合わせをするといった調査妨害企業には逆に課徴金の増額を公取委が決定できる、といったもので、すでに欧米や中国等でも導入されています。海外企業から「日本の公取委は楽勝!」となめられているので、事件の早期解決と国際標準への転換を図ることが目的だと思います。以前は刑事罰による制裁と課徴金処分は憲法が禁止する二重処罰に該当するので、制裁的な意味合いのある裁量型課徴金制度は憲法違反ではないか、といった議論もありましたが、現在はあまり強く主張されることもないようです。

経済法については、私のような小さな事務所の弁護士が本業として関与することはあまりありません。しかし「裁量型課徴金制度の導入」となると仕事に関与するかどうかは別として、コンプライアンス経営との関係性が深まることは事実です。公取委の本格調査が開始されるまでの自主申告制度とは異なり、本格調査が開始された後であっても、自主的に社内調査を進めたり、不利益証拠を進んで提出したり、あるいは平時からのコンプライアンス経営にいそしんでいたことを主張することによって「高額の弁護士費用を使ってでも、企業にとっては弁護士を使ったメリットを享受できる」ことになるからです。また信用回復という意味においても課徴金の減免や加重の判断は大きいですね(法律家とは違って、一般の方は刑事罰と課徴金の違いはレピュテーションという意味においてはあまり関係ないと思います)。

これまではどんなに弁護士を使って頑張っても「羈束行為」である以上、決まった額の課徴金の納付が命じられましたので、「弁護士費用の費用倒れ」のケースが多かったのです。おそらく裁量型課徴金制度の導入により、平時からコンプライアンス経営に熱心な企業と、コンプライアンス経営の優先順位が低い企業との間で(有事に直面した場合に)大きな差が生じることになると思われます。日常的なリスク管理の場面においても、「このコンプライアンスプログラムの運用って、費用対効果の面からみてどうよ」といった疑問が呈されたところがあったかもしれませんが、間違いなく効率経営の面からも重要性が認められることになるかと。

ただ、新聞記事からは明らかではありませんが、裁量型課徴金制度が公取委に導入されるとなると、やはり恣意性が危惧されるところです。独禁法違反行為の事後規制手法を欧米並みに転換するのであれば、同じく欧米並みに弁護士秘匿特権、弁護士立会権、証拠閲覧権が保障されなければ(企業の独禁法リスクが高まるだけで)話にならないと思います。裁量型課徴金制度を導入する目的を実現するためには、行政調査の透明性確保も当然必要であり、そのためには少なくとも上記の三種の神器も制度として導入されなければならないと考えます。

最後になりますが、2月から始まる日本監査役協会での講演ですが、早くも大阪講演は二日間とも満席となりました(どうもありがとうございます)。ご期待に添えるよう、今年も周到な準備をして臨みたいと思っております。

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2014年12月 4日 (木)

海外不正リスク対応に「第三者委員会」は通用するか?

タカタ社のエアバック欠陥問題が「全米リコール対応」を余儀なくされるかどうか、たいへん大きな局面を迎えることになりました。おそらく諸事情あってタカタの創業家CEOの方は姿を見せないのだと推察しておりますが、そういった対応がかなり大きな波紋を呼んでいるようです(たとえばこちらのロイターのニュースなど)。各紙が報じるところでは、タカタ社は現行の製造過程とインフレーター(エアバッグを膨張させるガスの発生装置)の安全性につき調査を行い、その結果を報告するために第三者委員会を設置することを明らかにしたそうです。

この第三者委員会は「現時点では当社製エアバックは安心・安全」ということを証明するための調査が目的です。ただ、たとえ「現時点での安全」を証明するためであったとしても、過去の事故原因まで究明しなければ「なぜ安全なのか」は証明できないと思います。つまり、ある程度は事故が発生した過去の経緯についても調査の対象とせざるをえません。

国内で企業不祥事が発生した場合、ステークホルダーの利益保護のために第三者委員会が設置されるのはごく普通の光景になりましたが、このように海外で重大事故や企業不祥事が発生した際、第三者委員会というのはどこまで通用するものなのでしょうか?先日、ノバルティスファーマの日本法人の第三者委員会報告書について紹介しましたが、日本の第三者委員会が海外の親会社についても調査したいと頑張ったときに、当該親会社は日本の第三者委員会についてどこまで理解を示してくれるのでしょうか?このあたりが以前からどうもよくわからないところです。

2年前、東京大学で開催された法曹倫理に関する国際シンポでこの「日本の第三者委員会制度」について発表させていただく機会がありましたが※、その際、(一方当事者の利益擁護のために忠実に職務を尽くすべき)弁護士が、公正中立な第三者的な立場で公益のために活動できる、ということがなかなか海外の学者の方には理解しがたいということでした。たしかにカナダには類似の制度がありますが、委員は現役の裁判官が就任する、ということで、「弁護士が不祥事企業から報酬をもらいつつ『独立・公正』な職務などありえるのだろうか」との意見をもらいました。

※・・・ご承知のとおり、私は英語が堪能ではありませんので、立命館大学の先生に通訳をしていただきました(^^;

ということで、理念の面からも海外の企業から理解しづらい点があるかもしれませんが、さらに海外での不祥事となると、弁護士秘匿特権やワーク・プロダクトに関する障碍があります。もし調査する委員が本当に独立・公正な立場であれば、その委員に対して企業が語ったこと、語るために準備を行ったことについては証拠開示の要求に応じる義務が発生するのではないでしょうか。

仮に、社内弁護士が企業と調査委員との間に介在している場合でも、当該社内弁護士は秘密特権の主体として取り扱われるのでしょうか(たしか米国と欧州では異なる取扱だったかと)。さらに、調査対象となる社員と所属する企業との利益が常に一致するとは限らず、その場合に誰が証拠開示の同意権を有することになるのでしょうか。このあたりがクリアにならないと、タカタ社に後日襲いかかる(であろう)米国の集団訴訟や民事制裁金訴訟、自動車メーカーからの損害賠償請求訴訟等において、調査委員会が保有する資料はすべて開示の対象になってしまわないでしょうか(私は国際訴訟の経験がないだけに正確なところはご専門家の意見をいただきたいところですが・・・)。

国内の不適切会計処理疑惑が発生し、金融庁から調査が開始されたとなると、自主的に訂正すべきかどうか、その見極めのために第三者委員会の設置がとても有益です。しかし、同じようなタイミングでアメリカの行政当局から「ミスを認めるかどうか」と問われたときに、第三者委員会を設置するという手法がどこまで有益なのか、ひょっとして、調査委員がタカタ社から報酬を得ている以上、それは到底「第三者委員会」とは認められないものなのか、もう少しニュースの行方を見守りたいと思います。

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2014年6月11日 (水)

役員解任議案の理由開示と名誉毀損に基づく不法行為の成立

本日(6月10日)の日経新聞夕刊のトップに「企業育てる株主の台頭-対話で経営改善促す」として、機関投資家のスチュワードシップコード導入に関連する記事が掲載されています。今後、機関投資家を中心として、役員選任議案に対する議決権行使等を通じた「企業統治への株主コントロール」が進むことになりそうです。

ところで、社外役員が増えたり、モノ言う監査役が増えたりしている中で、会社側から役員の解任に関する議案が上程されることがあります。正当な理由なく解任された役員の損害賠償請求が裁判所で認容されることは当然ですが、「株主との対話」を実りのあるものにするためには、解任理由が明確にされる必要があり、その適否に関する法律問題はまったく別に考えなければなりません。会社側が主張する解任理由と、これに反対する役員側の意見が株主側に正しく伝わらなければ、いくらスチュワードシップコードが設定されたとしても絵に描いた餅になってしまいますが、そこで浮上してくる法律問題が「役員解任理由に対する名誉毀損の成否」です。

会社側から役員解任議案が上程されるのはまだ良いのですが、最近の傾向(流行?)として、監査役や社外取締役の解任議案が株主提案権として出てくることがあります。おそらく会社側が大株主または緊密な関係にある株主と意思を通じて、株主側から解任議案上程に関する臨時株主総会の招集請求をしてもらい、または定時株主総会における株主提案権を行使してもらっって解任を通すというものです。これだと会社と役員の対立関係が明確にならないので、名誉毀損によって会社が訴えられるリスクが少なくなりそうです。しかし、「株主との対話」が求められる時代となれば、株主提案に対しては、きちんと会社側も一般株主のために解任議案への賛否だけでなく、その理由についても説明すべきだと思いますので、やはり名誉毀損問題については、株主提案による解任議案上程の場合にも検討しておくべきではないでしょうか。

たとえば「モノ言う監査役」さんが、社長や大株主(親会社)からみれば「うるさいなぁ、あいつ、なんかはきちがえているのと違うか?」「あれだけ『御用監査役』でいいと言ってたのに、何考えてるんだ」と、煙たい存在になってしまい、結局、言うことをきかない監査役ならいっそのこと解任してしまおう、といった事例が散見されます。こういった場合、たとえば株主総会の招集通知に●●監査役の解任の件、といった議題が書かれて、参考書類にはその解任理由が記載されています。たとえば監査役解任議案は特別決議が必要ですが、前にも述べたとおり、定款で株主総会の定足数が3分の1あたりにまで緩和されていますと、わずか全体の22%程度の株主の賛同で解任議案が通ってしまいます。

解任議案が可決されるかどうかは別として、その解任理由には「●●監査役は、監査役としての資質に欠け、その能力不足が著しいため」とあります。弁護士や会計士の社外監査役の場合ですと、このような「資質に欠け」「能力不足」と書かれますと、本業にも影響が出ます。当然、「けしからん!会社を名誉毀損で訴えてやる!謝罪公告の掲載も求めてやる!」といったことになります(もちろん常勤監査役さんも、社会的名誉を害されたとして提訴することもあります)。こういったケース、果たして会社に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求、謝罪公告要求は認められるのでしょうか?

このあたりの問題について、社名は伏せますが、東京地裁平成24年4月11日判決(判例タイムズ1386号253頁)が詳しく示していまして、参考になります。「解任理由」ではありませんが、取締役の善管注意義務違反を指摘する監査役監査報告への会社側の反論文(適時開示リリース)が、果たして(名誉毀損の成立要件たる)事実の適示にあたるのか、それとも意見表明(論評)にあたるのか、仮に意見表明にあたるとすれば、公正な論評なのかどうか、公正な論評にあたるのであれば、どのような目的に出た意見表明なのか、その表明された表現方法に行き過ぎた表現はないか、といったことが様々な角度から検証されています。

株主との対話が求められる時代となれば、なぜ当該取締役、監査役を解任するのか、当該取締役、監査役はどう反論するのか、といったことは(株主への判断資料を提示するために)個別具体的に事実を示して理由を述べることが求められるはずです。とくに社外取締役が増えて、取締役会がモニタリングモデルへと変遷していくのであれば、社外役員と経営トップとの軋轢も増えてくるはずです。したがいまして、会社側、対立する役員側、双方とも、どういった表現方法で、どういった意見や事実を述べておけば名誉毀損によって刑事・民事の責任を問われないのか、リスク管理の一環として少し理解しておいたほうが良いかもしれません。①事実だけを述べて解任理由とする場合、②意見とともに、その意見に至った事実を指摘して理由とする場合、③意見だけを述べる場合等、名誉毀損に基づく損害賠償、謝罪広告要求は、その成否について「場合分け」しながら判断する必要があり、結構むずかしいところなので、顧問弁護士の方々と一度相談されたほうが良いかもしれませんね。

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2012年5月 8日 (火)

闘うコンプライアンス(景表法違反で御社は闘いますか?)

(9日午前 訂正あり)

ひさしぶりの「闘うコンプライアンス」シリーズですが、ソーシャルゲーム(アイテム課金制の無料ゲーム)で急成長のグリー社、DeNA社のコンプガチャ(ソーシャルゲームにおいてレアモノのカードを入手するための絵合わせ電子くじ)が景表法違反になるのではないか、との報道がなされ、両社とも株価が急落したとのこと。消費者庁としては、まだ違法性の疑いがあるかどうか、リリースはしていないようです。

カード合わせ、絵合わせによる懸賞くじは、たしか1960年代から景表法によって全面禁止だったように記憶しております。その昔、某キャラメルのおまけで巨人軍の選手と監督のカードを全部集めると豪華景品がもらえるとのことで、必死になって集める子供たちがいて、そのうちキャラメルだけ捨ててカードだけ集める、ということが社会問題となったのが規制の発端ではなかったかと。銀のくちばしを5個集めて「おもちゃの缶詰」がもらえる森永チョコボールとどこが違うのだろうか・・・と素直に疑問を感じておりました。

消費者法はあまり詳しくございませんので、このコンプガチャが景表法違反に該当するのかどうかはコメントいたしませんが、消費者庁が「景表法違反の疑いがある」と各方面に広報する、ということになりますと、グリー社等は(コンプガチャによる売上が、ゲーム事業の収益の9割を占める3割程度を占める課金制度なので)今後の収益に大きな影響が出てくるのかもしれません。いずれにしても、ゲーム会社にとって一大事となりましたので、もし今後景表法違反の疑いがあり、消費者庁から排除措置命令の可否に関する呼び出しなどがあった場合、どう対応すべきか、という点が企業の課題となるところであります。

消費者庁が、不正行為と判断したとしても、あくまでも行政当局の判断です。もし反論があるのであれば、事前手続きで弁明すればよいでしょうし、排除措置命令が下りたときには不服申し立てをすればよい、ということになります。当局の解釈が絶対ということはありませんから、司法の場で争えばよい、まさに新潟県加茂市と正々堂々と闘ったファストファッションのしまむら社のように、闘うコンプライアンスの姿を貫けばよいと思います。

ただ、このコンプライアンス経営のご時世、景表法違反の疑いをかけられた企業が、本気で消費者庁と闘うには相当の勇気が必要です。排除措置命令や警告、というものが下りた場合、もちろん不服申立、取消訴訟、国賠等の司法救済は可能ですが、行政処分は止まってくれません(行政行為の公定力)。つまり不正行為を継続する企業としてのレッテルを貼られたままです。レッテルを貼られるとどうなるか?金融機関は「コンプライアンス違反企業」に融資を継続してくれるでしょうか?大手小売業者は商品の棚を提供してくれるでしょうか?ソーシャルゲームのひとつとして、遊ぶ場所を携帯各社は提供してくれるのでしょうか?それぞれの企業にとって、不正行為の助長による収益拡大はコンプライアンス違反です。各社とも、消費者庁の是正命令に従うことを条件に取引を継続する、ということになるのではないかと。

被害者団体から訴訟を提起されたり、将来収益への疑問から株価が急落することはまだマシです。時間をかけてゆっくり対応しても大丈夫です。しかし、消費者庁と正々堂々闘うことは「自分が正しい」と考えている上場会社にとっては賞賛されるべきですが、その闘っている期間、商品の販売ができなくなってしまう可能性が生じる、ということです。これが景表法違反を争う場合の最大の問題です。かつてはこんな状況にはならなかったと思います。しかし他社がコンプライアンス違反に敏感に反応してしまうようになった分、景表法違反は企業の息の根を止めてしまうほどの威力をもつようになり、結局争いたくても争えない状況に置かれてしまいます。

世間では(意外と)景表法違反問題は軽くみられているところがありますが、BtoCの上場会社におきまして、商品を販売するルートは極端に狭められてしまいます。したがって、多少不服があっても行政当局には逆らわない(逆らえない?)という道を選択してしまいます。今回のグリー社らも、今後どのように景表法問題に対応していくべきか、正念場を迎えることになりそうです。

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2008年7月12日 (土)

契約リスクマネジメント(なぜ契約は守らなければならないのか)

ちょうど4年ほど前になりますが、企業買収案件における基本合意書に基づく独占交渉義務をめぐって、住友信託銀行と三菱東京UFJ銀行との間で、UFJ信託銀行の情報提供、交渉差止め仮処分事件が世間の大きな話題になっておりました。東京地裁は住友信託による差止めを認め、東京高裁および最高裁はこれを却下ならびに棄却して、最終的には本訴において、UFJ側から住友信託側へ25億円の解決金を支払うことで和解したことは皆様もご承知のとおりであります。あのとき、「独占交渉権」なるものは、裁判所を通して直接強制(不作為を命じる)ことができるものなのか、それとも損害賠償金さえ支払えば破棄してもいい程度の法的拘束力があるにすぎないのか・・・などと考えたりしておりました。(もちろん、担当の取締役が会社に対する善管注意義務に反してまで、独占交渉義務を履行しなければならないのか?・・・といった取引法とは別の考慮もありますが、それはひとまず置いておきます。)

たしかに、法的な観点から契約のリスクというものを考えさせられる裁判事例ではありますが、社外役員などを経験しておりますと、この取引法的な観点だけでなく、それ以外の事情も含めて経営判断を下す場面があるように感じております。理屈としては双方で事前に合意している違約金さえ払えば契約は自由に破棄したっていいのではないか、とも考えられますが、いったん破棄した以上、業界では「あの会社はウソツキだ。こっちが誠意をもって協力しても最後に寝返る可能性があるよ」という噂が広まることは当然のことでして、そうなりますと、取引業者は「良い話」があっても最後にしか持ち込んでこなくなってしまいます。つまり優良な情報に接する機会を失ってしまって、商売のうえで大きなリスクを抱え込んでしまうことになってしまうわけであります。逆にファッションホテルチェーン(最近は条例規制などでかなりリスクの大きな業界かもしれませんが)の顧問などをしていた頃の話でありますが、たとえば「あの会社はドケチだ。だけど現金持ってるから即決してくれる」という噂が流れますと、評判はよくないかもしれませんが、最良の物件が最も早く取引業者から届けられ、大きなビジネスチャンスに恵まれます。つまりリーガルリスクは、それだけでは経営判断を左右するものではなく、それ以外のさまざまなリスクも併せ検討されてはじめて生かされるものだといった認識をもっております。

このたび第一法規の法律雑誌「会社法AtoZ」7月号より、藤猪正敏氏による「経営者のための契約リスクマネジメント」の連載がスタートしました。(第一回は「事業経営と契約」)藤猪さんは多数の講演歴をお持ちですので、ご存じの方も多いかとは思いますが、長年松下電器産業(パナソニック)の国際法務部門に携わっておられた方で、40年近い法務リスクマネジメント実務の経験を有する第一人者であります。第一回の解説を拝読しましたが、「ビジネス上の契約は、文書化される前から始まっていること」や「契約に関する内部統制」、「子会社を介する契約の問題点」、「独占禁止法や安全保障輸出管理法上のリスクと契約問題」など、(本題は「経営者のため」とありますが)企業法務担当者の方々にもきわめて有益なお話が掲載されております。こういった契約リスクに関するお話の場合、我々弁護士が解説をさせていただきますと、どうしても「リーガルリスク(裁判になったら勝てるかどうか、負けないための予防のポイントなど)」に目がいってしまうのでありますが、この藤猪さんのご解説は、リーガルリスクとともに「経営判断」に重要なビジネスリスクにも配慮されているところが秀逸であります。私は何度か藤猪さんとお会いしたことがありますが、弁護士の「企業法務に関する仕事ぶり」についてはとても「辛口」のご意見をお持ちでして(^^;、その分、いつもたいへん貴重なご意見を伺うのでありますが、文章もなるほど期待どおりであります。「契約を守る」ということを、単に裁判の勝敗という点からみたり、精神論的な「企業倫理」という点からみるだけでなく、もっと具体的な「商売上のリスク」という点から考える良い機会となりました。

最近よく役員セミナーなどさせていただく前に、法務や総務担当の方から、その会社の「リスクマップ」を見せていただくことが多くなりましたが(もちろんマル秘資料)、あの縦軸、横軸で仕切られたグラフのなかで、どうしてこのリスクがここに位置しているんだろうか?と思い悩むこともありますが、あのようなリスクマップを作成(修正)する一助にもなるかもしれません。弁護士による「契約実務」の解説とは一味違う切り口ですので、ご関心のある法務担当者の方々へご一読をお勧めいたします。私も今後の連載を楽しみにしております。(なお、NBLでも「法務部門・法務担当者の現在、そして明日」という覆面座談会が3回シリーズで始まりましたが、こっちもなかなかおもしろいですね。また別の機会に私自身の意見なども書かせていただこうかと思っております)

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2005年12月26日 (月)

改正独禁法、「初の司法取引」?

今朝(12月26日)の日経新聞スイッチオンマンデー「法務」では、来年1月4日に施行される改正独禁法について紹介されておりますが、この改正独占禁止法で、初めて「司法取引」の制度が導入されるとの見出しがあります。

本場アメリカの制度をよく知らないのですが、こういった行政罰の適用場面においても、「司法取引」というコトバは使われるのでしょうか?課徴金納付制度は、公正取引委員会が主体として運用するものでして、司法機関が運営するものではありませんので、これがなぜ「司法取引」になるのか、よくわかりません。また、リーニエンシーを申し出た企業が、課徴金だけでなく、刑事罰まで免れるかどうかは、単に公正取引委員会が告発をしない、というだけで、検察庁からの正式な回答はなかったものと思いますが(まちがっておりましたら、ゴメンなさい)。刑事手続きとの関係でみましても、昔から「犯罪発覚前の自首による刑の減軽」は当然にあるわけでして。

「司法取引」といったコトバの使用法がまちがっているような気がするのは私だけでしょうか。

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