2007年8月30日 (木)

弁護士人材紹介と弁護士法72条(その2)

昨日の「弁護士の人材紹介と弁護士法72条」のエントリーについて、m.nさんよりコメントをいただきました。

あくまでも弁護士資格を持った方を斡旋するだけで、特定の法律事件等に関してのみ紹介するといったことでなければいいのかもしれませんね。つまり、派遣元の会社は弁護士資格をもった人材を派遣する。そしてその後に法律事件が発生し、弁護士資格をもった人がいるからということで法律事件に関与させるのは派遣先の会社の勝手ということかもしれません。

弁護士法72条の解釈として「事件性必要説」に立脚するものですね。つまり、72条により弁護士の紹介行為として禁止されているのは「事件性のある(争訟性のある)法律事務」を行う場合のみを指すのであって、事件性の存在しない法律事務については紹介行為(周旋行為)は72条違反にはならない・・・といった解釈を前提とするということでしょうか。これは法律事務を弁護士資格を保有する者が独占するにあたり、隣接他業種の方々の法律事務をどこまで認めるか・・・といった場合にも問題となる論点であります。しかし、特定の法律事務に関してのみ紹介するものではないとしても、派遣先では事件性のある法律事務を扱うことを予想しながら(つまり、事件性のある法律事務にはつかないことを誓約することなく)弁護士を紹介(派遣)することについては、そもそも紹介時点において潜在的には事件性のある法律事務を(業務として)周旋していることにはならないでしょうかね?弁護士の人材紹介を欲する派遣先企業としては、そもそも弁護士資格者のリーガルマインドに期待をして採用するのではなく、(コンプライアンス経営への期待に応える、とありますが、そこまで日本の企業が弁護士に対して寛容だとは思えないのであります)やはり「何かあったときに、すぐに事件に対応できる資格」に期待をしているからこそ、要望があるんじゃないでしょうか。そうしますと、やはり派遣先では「事件性」を有する法律事務への対処を(弁護士が)求められることになるはずでありますから、そういった業務に就任する弁護士の履歴書を登録した段階で、派遣元企業としては事件性のある法律事務を業務として周旋する者・・・とみなされてしまうような気もいたします。

こういった弁護士人材派遣に関する企業の要請としては、おそらく知的財産権の管理に関する需要に由来しているのではないでしょうか。たとえば企業グループにおいて、子会社および子会社従業員が保有する知的財産権を、親会社が一元管理しておきたい場合とか、信託法の改正によって活用が期待されている知的財産権信託制度を利用したい場合などにおきまして、親会社による管理行為、知財信託における受託者などにみられるように、権利売買や権利保全管理行為など、一般に法律事務と称される業務において弁護士資格保有者を活用せざるをえない状況にあると思います。そして、そういった知的財産権や信託に強いスペシャリストを紹介したり派遣することへの企業社会からの要請はかなり高いものがあろうかと思われます。「企業における法令遵守(コンプライアンス)への意識が高まっている」ことも事実だとは思いますが、だからといって、(私が申し上げるのもちょっとヘンなのですが)直ちに弁護士資格を保有している者が、企業のコンプライアンス経営に有用性を発揮できる・・・と考えるのは、すこし短絡的のような気もいたしますが、どうでしょうか。

また、弁護士の側からみますと、もしこういった紹介(周旋)制度が弁護士法72条に抵触するおそれがあるとなりますと、違法な周旋行為によって紹介を受けた弁護士として、弁護士法27条により問題とされる「非弁提携弁護士」になってしまう可能性が残りますよね。こういった周旋行為が明白に弁護士法72条に抵触しない、といった「お墨付き」がないと、27条違反のリスクを背負ってまで、こういった紹介制度に登録しようといった気持ちにはなかなかなれないように思います。(ちなみに、私はけっしてこのご商売を批判しているものではなく、むしろ積極的に派遣や紹介を行っていただきたいと願うほうであります。ただ、登録する側の弁護士にとって、安心して登録できるようなスタイルにしていただく必要があるのではないか・・・と思う次第であります)私自身、もはや18年ほど、「弁護士会」のなかにどっぷりと浸っておりますので、頭の中にカビが生えてしまうほど、弁護士会的発想から脱却できないのかもしれませんが、この弁護士法72条、27条問題につきましては、弁護士会的な解釈はコンサバでありますし、世間での通用力もあると思いますので、(制度自身につきましてはおおいに共感できるところがあるものの)、人材紹介制度のあり方について、もうすこし適法性を明確に説明していただければ・・・と思うのであります。

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2007年8月29日 (水)

弁護士人材紹介と弁護士法72条

日経ニュースで知りましたが、東京に本社のある某上場企業さんが、弁護士人材紹介に特化した新会社を設立されるそうであります。(ニュースはこちら)私個人の意見としましては、2年ほど前に「弁護士も派遣さんになる日がくる?」のエントリーで述べましたように、これだけ切実な法曹人口急増時代が到来し、また弁護士自身のライフスタイルも多様化していることからみて、パートタイム弁護士とか、弁護士派遣センターのようなものがあってもいいのではないか・・・と思っておりました。(今でもそう思っております。あくまでも私個人の見解でありますが・・・)

ところで、上記の上場企業さんのHPを閲覧いたしましたが、弁護士人材紹介と弁護士法72条との関係については問題はないのでしょうか?ちなみに弁護士法72条といいますのは・・・

第72条 (非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 

というものであります。「弁護士人材紹介制度と弁護士法72条との問題」といいますのは、法律事務を取り扱う弁護士の周旋行為を弁護士でない者が、報酬を得る目的で業務として行ってはいけない、といったところでありますが、本件のように新会社の業務として弁護士を紹介することはこの「周旋行為」に引っかからないのか?という問題であります。さらに、弁護士紹介制度の場合には、紹介先と派遣先とのトラブルが発生した場合、弁護士はどちらの指示に従えばいいのか、その指揮命令関係が不明確となり、弁護士としての職務の公正独立性が阻害される・・・といった職務の独立性の観点からも問題視されているようであります。(楽天のサムライ業紹介制度のなかに、唯一弁護士紹介制度が存在しなかった理由はこのあたりにあります)おそらく先の上場企業さんの場合、弁護士法72条の解釈から、この新会社の業務は法律に触れるものではない・・・といった結論を導いていらっしゃるとは思うのですが、「コンプライアンス経営推進のための弁護士紹介」を標榜する以上は、こういった不審感を拭うためにも、なにゆえ当社の弁護士人材紹介制度が弁護士法72条に抵触するものではないのか、その明確な説明をどこかに掲載する必要があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

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2006年8月15日 (火)

弁護士も「派遣さん」になる日が来る?(その2)

昨年7月2日に政府の規制改革委員会の流れを受けて弁護士も派遣業登録が可能になるのではないか・・・といったことを取り上げましたが、福岡の同業者でいらっしゃるロボット軽じKさんより、ひさしぶりにコメントをいただきましたので、すこしばかり続編を書いてみることにいたします。

ロボット軽じKさんもご指摘のとおり、8月12日の日経朝刊によりますと、司法書士、税理士、社労士については、業務の限定は一部ございますが労働者派遣が認められることになりそうです。そういえば昨年は構造改革特区有識者会議で法務省のお役人さんたちが、「弁護士の労働者派遣がなぜ認められないのか?医者でも認められているではないか」と会議の委員の方々にムチャクチャいじめられておりましたよね。でも最終的には、やはり「高度な利害相反の回避義務」が障壁となったようで、今回は弁護士については見送られたようです。つまり、弁護士に労働者派遣が認められますと、派遣元による指揮監督を受ける立場になりますが、いっぽうで派遣先との関係につきましても、弁護士は職務上派遣先のために信頼関係に基づき、最善を尽くす義務が発生するわけです。そういった関係は、利害が対立するおそれのある派遣先と派遣元からの信認を受けていることになりますから、倫理上非常に大きな問題が生じることになるわけです。(もちろん、利害対立が現実化した場合には、たとえ労働者派遣が認められたとしても、辞任するしか方法はないと思われます。どちらかの仕事を継続してしまっては、もう一方より懲戒の申立をされるリスクがあります)ただ、ロボット軽じKさんもおっしゃるとおり、弁護士の人数は今後飛躍的に増加しますし、そのライフスタイルも様々かと思われます。弁護士が途中で辞任する、といったリスクを承知のうえでその専門職としての知的作業を派遣によって賄いたいと考える企業もいらっしゃるかもしれませんし、(規制改革委員会は、小泉首相退任後も元気に活動を継続されるようですから)本当に弁護士が派遣業登録する日がそう遠くない日に到来するのかもしれませんね。

しかしながら「利益相反」に悩むのは「弁護士」という専門職や、株式会社の「取締役」だけには限りません。今後、金融業に関与されていらっしゃる方々は、ますますこの「利益相反行為のグレーゾーン」に悩むことになりそうですね。たとえば金融商品取引法の成立によって、金融商品取引業者は、これまで以上に投資家保護を図る必要が出できます。お金儲けの対象である一般投資家にできるだけたくさんの金融商品を売りたい立場なんですが、一方において顧客を保護すべき高度な説明義務が課されるわけでして、そもそも利益相反関係に立ちながら、どのような営業戦略を立てていけばいいのでしょうか。また、証券会社の引受業務と上場希望企業との関係もそうですね。8月11日の日経朝刊では、日証協が会員である証券会社に対して、引受審査のルールを厳格化することが一面で報道されておりました。主幹事として上場させなければお金にならないのに、一方でその対象企業の引受審査に厳格に対応しなければいけない・・・というのは、本当に審査の厳格化が期待できるものなのでしょうか。本当に「馴れ合い」になったりしないのでしょうか。ほかにも、信託法が改正されて信託スキームが様々な場面で使われるようになりますと、委託者と受託者との間で、さまざまな利益相反関係が発生する事態が予想され、そういった場面における受託者(金融機関もしくはその関連企業)の対応が今後の法施行上の大きな論点になってくると思われます。どこまでが許される利益相反行為で、どこからがコンプライアンス上問題となる行為なのか、現実の金融実務の場面で誰が判断するのでしょうか。こういったリスクの高い分野につきましては、「外注」するのが金融機関の常套手段だとしますと、どなたかに、そのリスクを転嫁することが考えられ、そういったところに法律家の新たな職域が誕生することもありえます。しかしながら、こういった問題に適切なオピニオンレターを書ける法律専門職がいったいどの程度いらっしゃるんでしょうかね?これ、弁護士としてもけっこうリスクの高い(勇気の必要な)職務ですよね。おそらく・・・

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2005年7月 2日 (土)

弁護士も「派遣さん」になる日が来る?

 (以下はあくまでも私個人の意見でありまして、弁護士会や法曹団体の意見ではないことをまず申し上げます。)

 新聞でも報道されましたが、弁護士や会計士、税理士などのいわゆる「士業」専門の仲介業が解禁されるのではないか、という話題が持ち上がっています。現に人材派遣大手の企業では、この士業専門の紹介、仲介法人を設立し、今日から営業を開始されたそうです。政府の構造改革特区に関する有識者会議でもこの7月8日、士業の労働者派遣問題に関するヒアリングが行われます。

 「弁護士の派遣」ということに限った議論になりますが、弁護士を対象とする派遣業ということになりますと、弁護士法72条との抵触ということが最も大きな壁になります。他人の法律業務を、有償で取り扱うことができるのは弁護士資格を有する者に限る、とされておりますが、もし弁護士派遣業を認めるとすれば、派遣業者はこの弁護士への雇用関係上の指揮監督により、派遣業者自身が他人の法律業務を取り扱うことになる、という問題です。法務省は、以前からこの派遣業については「弁護士法72条に抵触するおそれがある」として弁護士の派遣業については強く反対しています。この弁護士法72条というのは、よく新聞でも報道されるように「非弁活動」として犯罪構成要件として利用(違法行為は刑事罰の対象)されるために、その解釈はなるべく厳格かつ明確になされることが望ましいわけでして、(解釈する人によって、対象者が逮捕されたり、しなかったりというのは困るわけでして)法務省は法律を公式に解釈する立場にはないわけですから、「72条に抵触するおそれあり」としか言えないわけです。

 ただ私自身の意見は、ビジネスに携わる方(主に企業)が、このような派遣による弁護士を雇用するデメリットについて十分認識され、自己責任をもって受け入れるのであれば、派遣もあっていいのではないかな、という考えです。

 弁護士派遣のメリットとしては、社内弁護士を雇用するだけの社内環境や費用負担の余裕がない中小企業などにおいて、一時的な法務スタッフとしての有用性とか、ファンド会社、M&A仲介業者などの期間限定の調査グループの法務スタッフ、渉外案件における現地での法的交渉など、季節労働者としての魅力でしょうか。また、弁護士側としても、とりわけ個人事業者の場合には、著名な人材派遣業者による営業力を利用して、いままでビジネス上の接点がなかったような専門分野への進出が可能となり、OJTによってスキルアップしたり、専門分野を開拓することが可能となりそうです。(ビジネス社会にとっても専門弁護士が増えること自体は歓迎されることになりましょう)

 弁護士派遣のデメリットとしては、先に述べましたとおり、まず弁護士法72条問題が存在しますので、もし現行法のままで派遣業がオッケーということになりますと、72条から「悪質な非弁活動が行われた場合の犯罪抑制のための威嚇効果」が希薄化してしまい、派遣業者の中での自由競争で駆逐されない限り、「質の悪い」派遣業者がはびこることになります。また、登録している弁護士は派遣元と派遣先から重複して指揮監督されることが予想されますが、弁護士業務の職責に反するような指揮監督をどちらかから受けた場合、もしくは派遣元と派遣先の利害が相反するに至った場合、派遣された弁護士は、さっさと辞任することが考えられます。これは弁護士法1条の使命によって職責がまっとうされるのが弁護士の宿命ですから、有能な弁護士ほど(弁護士倫理などに対する嗅覚が優れている弁護士ほど)あっさりと辞任すると考えられます。そうしますと、果たして労働者派遣業者の思惑に一致する弁護士がどれだけ登録を継続するのか、かなり未知数ですし、ひょっとすると派遣先の希望に沿わないタイプの弁護士が多数登録している状況になることが予想されます。したがって、弁護士の質の吟味はおのずと派遣先企業が負担せざるをえない、と推測されます。さらに、よく考えてみると、企業が希望しているような「専門分野への即戦力をもち」かつ「優秀な」弁護士というのは、東京、大阪でみるとほぼ大型法律事務所に在籍して、バリバリ事務所の屋台骨となって勤務している方がたではないでしょうか。私を含め、個人事業主として勤務している弁護士は、渉外、知的財産、M&A、独禁など、それほど大きな事件を抱えて仕事をしているわけではありません。少なくとも、隣接士業の方々と協同で案件にあたった経験を有していない弁護士では即戦力、ということはムズカシイ要求ではないか、と思ったりするわけです。

 もちろん、これは「企業のリスク管理」という一面から申し上げたものですから、有能な弁護士が紹介されて、バリバリと要求された内容の仕事を処理してくれる、ということも否定はいたしません。ただ、そのようなリスクがあることを承知のうえで、派遣を受けるだけの心構えがないと、やはりデメリットばかりが心配されますし、そのようなデメリットを自己責任として企業が負担できる体制があれば、私は(われわれ弁護士の将来のためにも)派遣を肯定していいのではないか、と思います。

 今後、地方公共団体の徴税業務を弁護士が請け負ったり、企業の社外取締役に弁護士が就任することなども、広い意味では規制緩和だと思っています。「経営のことは、経営をやったことがなければわからん」ということで、社外取締役の地位に弁護士が就任する、ということはなかなか社会的に理解されないのが現実です。ただ、21世紀は「法化社会」ということが言われ、コンプライアンス経営、コーポレートガバナンスへの評価、内部統制システムの構築義務、そして昨今の敵対的買収への防衛システムなど、司法リスクを常に抱えた経営問題がどの企業にも横たわっているわけですから、弁護士が「法務は弁護士でないとわからん」という発想を変えるのと同時に、ビジネスの社会でも「企業経営は経営者でないとわからん」という発想も少しずつでも変容されていくべきではないでしょうか。

 本当はまだ、この士業と労働派遣業との関係では、「士業と監督官庁との関係」という重要な論点があるのですが、ちょっと長くなりましたので、また後日ということで。

7月 2, 2005 弁護士も「派遣さん」になる日が来る? | | コメント (6) | トラックバック (1)