社外監査役とゲーム理論
内部統制システム構築の目的のひとつに「企業のリスク管理」というものがありますが、社内もしくは社外で発生しうるリスクを低減もしくは回避させるために、最適効用を発生させる意思行動はなにか、ということ模索するについて、「ゲーム理論」の導入を検討しています。
ゲーム理論といいましても、ミクロ経済学の素人である法律家が考えられる範囲のことですから、ほんの基本的なところでありますが、究極の目的は「内部統制システム構築義務を尽くしているかどうか」を裁判所に立証できる程度のものであることを念頭に置いていますので、そもそも裁判官に理解可能な範囲でのゲーム理論であればいいと思っています。監査役は構築されたシステムの監視が目的ということなので、本来的には取締役会が、構築すべきだとは思いますが。
管理項目ごとに、非協力ゲームの標準型もしくは展開型で利得行列や展開図を作っていくわけですが、利得項目として何を採用するか、効用関数をどのように設定するか、こちらと相手の情報共有状態は「完備か不完備か」などという点については、これはもう各企業の常勤取締役、常勤監査役さん方の経験と勘を情報とせざるをえないわけで、社外役員と社内役員との役割分担がはっきりしている「共同作業」となります。ただ、このゲーム理論というのはトリガー戦略や繰り返し戦略など、「人間臭い」部分も取り入れられていますが、基本にあるのは「常に合理的な行動をとる人間」が前提となっているようで、現実には最適とされる行動が現実の世界でももっとも適切な行動となる結果は期待できないでしょうし、ゲームと現実を錯覚してしまってもいけませんね。ただ、与えられた諸条件のなかで、会社の意思決定の合理性を担保するためのひとつの「手段」にはなりうるだろうし、また効用関数の設定計算式以外は、あまり細かい経済数学の知識も必要ではないと(すくなくとも監査役に必要なレベルでは)思われますので、アレンジ次第では善管注意義務履行の立証方法としては利用可能だと思います。
いまは社外監査役のリスク管理業務への応用としての検討ですが、JV決定判断や企業買収防衛時の防衛策発動判断、企業再編などの重要な経営リスクの検討にあたって、社外取締役と社内取締役とが共同で判断決定プロセスのための道具として利用すれば、会社法上の「経営判断の原則」を立証するための証拠としても使えるのではないでしょうか。もちろん、重要な意思決定は取締役会でのさまざまな議論のうえで成り立つものですから、サイコロを振るようにゲーム理論上のシステムで決めるというわけでもないでしょうが、ひとつの「確かめ算」的な使用には一考の価値があると思います。判断過程の適正性が司法審査の対象になる、ということであれば、なおさらこういったアプローチを取締役が共有することは「社外取締役が何をした、常勤取締役が何をした」とはっきり判断プロセスを具体的に主張することができますし、けっこう重要な気がします。
| 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)