7月20日、金融庁の企業会計審議会監査部会より
監査基準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関する品質管理基準の設定について(公開草案) が発表されました。
いままでのリスクアプローチの方法では、昨今の粉飾決算や不正経理などの大型かつ悪質な経理操作を監査人が発見できない、ということから、新たな監査基準を導入する、というもののようです。よく拝読させていただいている何名かの会計士さんのブログで、以前よく質問させていただいたのですが、不正発見のための監査を導入すると言っても、別にこれまでのような財務情報に関わる監査(内部統制システム運用状況の監査を含めて)以外の画期的な「不正発見」方法を採り入れる、というものではなく、監査人の品質保証(つまり、担当監査人の監査が適正なものかどうか、を別の監査人や監査法人もしくは金融庁が監査する)を通じて、不正リスク発見の可能性を高めることが主たる目的のようです。
内部統制や内部監査の勉強をしておりますと、「内部統制および監査の限界」というものがかならず解説されており、「結局のところ、会社ぐるみで不正を隠蔽されてしまうと、内部統制、内部監査の機能は限界となり、発見がむずかしくなる」とされています。「人間はひとりだと悪さをする弱い動物だが、二人以上で仕事をすれば、かならずひとりは咎める人もいるだろうし、また自己抑制心も働く」という性悪説と性善説の折衷案に立脚した統制システムでしょうから、二人以上がみんなグルになってしまうと、このシステムは成り立たないわけです。そして昨今の不正経理問題というのは、ほとんどのケースがトップから主たる経営陣すべてが隠蔽工作に絡んでいる、というものでして、そういったケースで会計監査人の見逃し、ということを非難するのも、先の内部統制システムの限界論からすると、少し同情的になってしまいます。どうも、最近の世間の風潮は不正経理が発覚すると、担当した会計監査人が結果責任を問われるようなイメージに思えるのですが、実はリスクアプローチを基本とした実証手続きの流れをみますと、ある程度の努力義務を尽くせば会計監査人の責任は回避される、というのが適切な表現ではないかな・・・と思うのであります。(もし結果責任を問うのが適切だとするならば、企業は会計監査人を常駐させ、監査法人に莫大な報酬を支払わなければならないでしょう)
そこで、これは私の試論でありますが、こういったリスクアプローチによる不正発覚防止措置の実効性を高めるためにも、社外取締役、社外監査役は今後重要な役割を付与されるのではないでしょうか。会社の戦略面、経営面における重要な助言を社外役員に期待するというだけでなく、また単なる独断社長の「お目付け役」というものでもなく、「役員レベルでの悪事隠蔽のおそれのないことを担保する」役割です。おそらく社外取締役、社外監査役のなかには、今後経理や監査に精通した人に就任してもらう機会も多くなると思います。こういった社外役員を利用して、会社ぐるみでの不正経理情報や企業継続に関する情報を会計監査人が入手しうる可能性を確保しておくことも、一考に値するのではないでしょうか。
たしかに、社外役員に不正経理操作や企業継続関連情報が行き届かない、というリスクもあるでしょうが、だからこそ監査に関する知識と経験を有する社外役員の就任が期待されるところでありますし、そういった隠蔽を防止するためのコーポレートガバナンスということが、内部統制システム評価として非常に高い得点を獲得することができ、結果としては監査に要する費用の低減や、投資家に対するガバナンス評価も高まるものと思います。
この監査人の品質保証問題は、各論として「いったい誰が粉飾決算を見逃した責任を負担するのか」とか「会社の機密情報がこれまで以上に漏洩する可能性が高まるのではないか」など面白いテーマがたくさんあるのですが、きょうは総論までとさせていただきます。