相続税9億8000万円脱税
元経団連会長で新日鉄社長を務められた故斎藤英四郎氏の遺産(38億9000万円)について、ご長男氏が9億8000万円の脱税を行ったとして相続税法違反として起訴された、とのことです。
故斎藤英四郎氏の長男、相続税9億8000万円脱税で在宅起訴(日経ネット記事)
在宅起訴ということで、強制捜査がありませんでしたので、起訴段階で報道機関の知るところとなったようです。通常は東京国税局の査察段階、検察庁への告発段階、もしくは検察庁による強制捜査段階で報道されるケースが多いのですが、在宅事件の場合には裁判所の受付段階で司法記者に知られるケースもあります。
通常は ほ脱金額が3億円を超える場合には実刑プラス罰金刑というのが相場ですが、今回は法人税、所得税ではありませんので、修正申告、重加算税、延滞税を払って、情状さえよければ執行猶予プラス罰金刑となることも十分可能ではないでしょうか。ちなみに、出版社「ぎょうせい」の元社長さんの相続税違反のケースでは11億円の脱税金額において実刑懲役2年、罰金2億円で刑が確定しました。
まずなによりも、これだけ高額の相続税違反被告事件ですから、おそらく日本を代表するような税務法務の専門家がすでに支援されているはずですし、ほ脱金額は9億円でも、ほ脱率は(平成14年度時点の相続税率で計算したところ)およそ50%程度であって、ある程度は支払っていることが認められます。また、ほ脱金額をすでに遊興費などで使ってしまった、という事実もないようですし、なによりも割引債を他人名義の貸し金庫に保管していたのはお父様だったとのことで、租税支払回避の動機が薄いように思われます。もちろん、割引債という金融商品の存在を知りながら、申告していなかたのですから、悪意はあるでしょうが、脱税へ向けての悪質な計画性というものは存在しなかったようです。また、このように報道されることによって、親子二代にわたる斎藤家の信用に傷がついてしまった、という事実も、すでに社会的制裁を受けたということが情状面で評価されるものと思います。「ぎょうせい」の元社長さんとの区別という点でいえば、脱税のための緻密な計画性がないことと、真摯に反省をして国税局の調査に協力的である、ということでしょうか。(脱税事実を否定すると、反省をしていないと評価されることもあります)法人税や所得税と異なり、相続税の場合は、一回的な申告行為ですので、再犯のおそれというものが考えにくいことから、この「反省」ということが大きなポイントになりますね。
しかし、この割引金融債、という資産ですが、たしかに現金を窓口に持っていけば無記名性が貫徹されますので税金回避にはもってこいのようにも思えますが、意外にバレますよ。銀行側の顧客名簿のようなものまで国税局が把握できるとは思えませんが、故人の通帳を丹念に調べていけば、現金でまとまったお金が口座から引き出され、その後使途がわからないとしたら、国税局はその引き出した日時に発行された割引債を丁寧に調べ上げて、同一金額の割引債を徹底的に特定します。国税局の調査能力というものは本当にスゴイと感心するときがあります。
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