2005年8月16日 (火)

明治安田のコンプライアンス委員会

明治安田生命保険の社外取締役である北尾哲郎弁護士(有限責任中間法人コンプライアンス・オフィサー認定機構の試験委員でもいらっしゃいます)が、不祥事調査委員会と将来の不祥事防止を目的とするコンプライアンス委員会(委員長兼務)の調査状況、活動状況、調査方針などを語っておられます。

フジサンケイビジネスアイの記事

自分の目で見たもの、自分の耳で聞いたものしか信じない、報道についても断片的な情報は推測材料として検討するだけであり、予断は排除する、という姿勢はたいへん納得できるものです。9月20日ころを目処に調査報告書を提出する、と明言するところも真摯な姿勢がうかがわれます。

このインタビューのなかで北尾先生は「明治安田は変われるか」との質問に、「これをしたらマズイ」という感覚を一般社員が皆、もってくれれば法令順守になる、と回答されています。これも報道からの私の推測になってしまいますが、おそらく不祥事発生の時点でも、明治安田の一般社員の方は「これをしたらマズイ」という感覚は当然にもっていたと思います。ただ、規模の小さな企業でもないかぎり、今後の不祥事は「これをしたらマズイ」という感覚を社員が持っているだけでは不祥事再発は防止できないと私は考えています。「マズイ」とわかっていても、社員の公的な事情(取引先との関係、上司の指示や期待、部下の頑張りを無駄にしない温情など)や私的な事情(金銭的な苦境、仲間からの孤立感、出世名誉欲など)から不祥事に走ってしまうのが通常です。いまの時代、名門企業と呼ばれているところは、社員倫理研修などもかなり浸透しており、一般正社員の方でしたら、(とりわけ金融コンプライアンスに関しては)「マズイこと、マズくないこと」の峻別は十分可能だと思われます。

ただ、そっから先が法令順守の難しさだと思いますし、委員会の腕の見せ所ではないでしょうか。私のコンプライアンス委員の経験からすると、(たいへん情けないのですが)不祥事発生の関係者の聞き取りを行うと、その動機が先にあげたような公的な事情による場合には、「なるほど、そんな状況なら私だって同じ行動に出たかもしれない、いやきっと出たと思う」と納得してしまうのです。

「人間はそんなに強くない。強くなれ、といっても無理。」私のコンプライアンス委員としての提言はまずこんな現実を企業が受け入れるところから始まります。したがって、前のエントリーにも書きましたが、社員が責任を回避できるような「モノサシ」を企業が社員に与えることが必要だと思います。それは各企業によって異なりますが、あるときは社長のコミットメントであり、倫理憲章であり、独立委員会による規律であったりします。マジメな社員が「マズイ」ことに手を染めていく段階において、「○○さん、悪いけどうちの会社には○○といった規則があるんで、これ破っちゃうと私も生きていけないし、○○さんも出入り禁止になっちゃうんで」と責任回避できるシステム、拒絶することで個人的に責められないシステム、そしてこういったシステムが機能していることを少なくとも半年ごとに精査、評価するシステムこそ必要だと思います。

先日、高校野球で明徳義塾の出場辞退がいろいろと話題となりました。関西から「君なら甲子園にいける」と説得して、能力のある中学生を引っ張ってきて、地元や学校から大きな期待を受けて、暴力行為の発生後、頭を下げて関係者に詫びて示談交渉に応じ、なんとか迎えた予選で優勝。しかしながら、予選前に監督の採り得た選択肢は3つあったはずです。①暴力行為発生時点で、不祥事を公表して予選出場辞退か、②予選出場直前まで、もっとうまく暴力事件の事後対応を行い、告発という事態を防止するか、③今回のように不祥事を隠して、発覚したらすべて自分の責任とわきまえて、予選に出場するか。監督という立場に立った場合、自信をもって①の選択をする勇気があるでしょうか。情けないですが、私にはありません。もし①の選択をすべきなら、たとえば先に学校側が「不祥事を隠匿した場合には今後10年間は出場辞退する」とか、高野連の出場ルールのようなものがあって、なんら暴力行為に関与しなかった選手たちにも「非情」になれるシステムがないと無理だと思います。

こういった不祥事予防システムを作ることが、企業の経済活動の積極性を阻害する要因にならないか、という不安、それがまた次の課題となってくるわけですが、これはまた別の機会にアップする予定です。

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