2009年9月 2日 (水)

過年度決算訂正と内部統制報告書の訂正の必要性

磯崎先生の「カブドットコム証券社外取締役辞任について」を読ませていただき、ブログという媒体で、このようなレベルの高いものが発信されることにつき、驚きを禁じ得ませんでした。私の記憶が間違っておりませんでしたら、たしかカブドットコム証券が最初に公開買付けを受ける際の社外取締役としての意見書に、磯崎先生は、今回一緒に辞任される弁護士の方と歩調を合わせてかなり会社側に厳しい意見を付されていたものと思います。(すくなくとも賛意は表明されなかったはず。価格算定方式に注文をつけておられたんですね。訂正いたします。当時は独立委員会といえば、なんだかんだいっても会社寄りの意見しか出さないものだ・・・といった考え方を持っておりましたので、その意見書を拝読したときにはたいへん新鮮な気持ちになったことを記憶しております)私はあの意見書を読んだだけでも当時にしては珍しくガバナンスが効いている会社である、という印象を持っておりました。先日の日経新聞における社外調査委員会の在り方に関する記事などを拝見しておりますし、また私自身も現在進行形で、このような調査委員会に参画しているものですから、磯崎さんの上記エントリーは、問題提起として本当に考えさせられるところが大きいです。ちなみに、適時開示問題や監査人の適正意見との関係から、社外調査委員会の在り方については開示問題(金融庁)と絡めて議論されるところがありますが、実際のところは行政の許認可(許認可停止やその解除など)や取引先の取引継続(CSR経営)などにも「委員会意見書」は多大な影響力を持つものでありまして、A4何枚かのレポートが会社の命運を握る場面は少なくありません。あらためて、社外調査委員会の在り方について議論する場が必要でしょうし、実は日弁連でもいろいろと対策が検討され始めたようにも聞き及んでおります。

さて、(話は変わりますが)一昨日は日本内部統制研究学会の第二回年次大会について書かせていただきましたが、学会の午前中の報告でも一部質問が出ておりました「過年度決算訂正と内部統制報告書との関係」について、ちょうど本日手元に届きました月刊監査役9月号(560号)でも「企業法務最前線」として東京の大手法律事務所の先生が概説をされておられますので、入手可能な方はご一読をお勧めいたします。(実にタイムリーな論稿ですね)この問題は内部統制における金商法と会社法の狭間の問題だと認識しておりますが、この論稿を執筆されておられる先生も、やはり同様の意識をお持ちのようで、冒頭金商法上の内部統制と会社法上の内部統制に関する論点整理を試みておられます。

この点につきまして金融庁内部統制Q&Aの71問を参考としますと、まず有価証券報告書の過年度決算訂正をしなければならない場面において、常に内部統制報告書の訂正も必要、というわけではないことは明らかであります。また、経営者による評価範囲の決定が適切に行われているケースにおきまして、評価範囲外から不備が見つかった場合にも、内部統制報告書を有効と経営者が評価したことには影響はないので、とくに内部統制報告書の訂正を要する場面ではないものと思われます。問題は、内部統制報告制度が開始された以降の年度において、経営者が関与するような会計不正が発生していたにもかかわらず、(たとえば経営者主導による架空循環取引によって架空売り上げが計上されていたような場合)事後の事業年度において、この不正が発覚し、過年度決算が訂正されるような場合であります。つまり過年度の決算訂正と同時に、当時の内部統制を有効と評価した報告書についても訂正を必要とするか否か、また過年度の内部統制報告書に適正意見を出した監査報告に誤りがあったとすべきか、ということであります。さきほどの月刊監査役の論稿におきましては、会計不正の原因が従業員による不正なのか、それとも経営者主導型の会計不正なのか、ということによって報告書訂正の要否も変わってくる(場合が多い)のではないか、と論じられております。その理由としましては、経営者主導型の会計不正の場合には、いくら立派な内部統制システムを構築していたとしても、いわゆる「内部統制の固有の限界」を超える場合(典型例)が多いであろうから、そもそもとりあえず機能している内部統制が存在する以上はとくに内部統制を無効と評価し直す必要はない、(いっぽう従業員不正については、内部統制が有効であれば防止しうるケースもあり「重要な欠陥」があったとされる場合が多く、内部統制報告書の訂正が必要である)というところのようであります。

おそらくこの先生の整理がスッキリしていて常識的な判断内容かと思いますが、ここに登場する「内部統制の限界論」の理解の違いによっては、また別の考え方も出てくるのかもしれません。たしかに経営者が内部統制を無視する場合には、内部統制が存在しても有効に機能しない場合がある、というのが内部統制の限界について議論されるところであります。しかし、この内部統制の限界、という概念は会社法上の内部統制構築義務(運用義務)とは全く別の概念であり、むしろ会計原則における「真実性の原則」や「重要性の原則」、監査上のリスク・アプローチ(いかに効率的に投資家にとって有益な情報を提供するか)との親和性が高い概念ではないでしょうか。つまり財務報告の信頼性を確保するための内部統制は、どんなに立派なものを作ったとしても、すべての不正や誤謬のリスクを事前に把握できるわけでもなく、不正を見逃してしまうケースもある、だから費用に見合った70点程度の内部統制システムなら合格点ですよ、という会計監査の世界における概念を説明したものにすぎないものとも思われます。(だからこそ、内部統制監査の実務指針のなかでは、とくに内部統制の限界論は意識されず、所与の前提として理解されているのではないでしょうか)株主から預かった資産を有効に活用しなければならない経営者として、「内部統制には固有の限界がある」以上、費用に見合ったそこそこのシステムを構築することも重要であって、財務計算書類が適正に作成されることを担保する内部統制のレベル感を裏から説明したのが「内部統制の限界論」だと認識しております。

このように、内部統制の限界論を金商法上の内部統制報告制度のなかで考えますと、経営者評価としては「そこそこの内部統制システム」であれば「重要な欠陥」が認められず有効と評価してよいことや、内部統制監査人としては(ダイレクトレポーティングが採用されていないこととも併せ考えると)経営者が70点程度の内部統制が構築され重要な欠陥はないとする評価が正しいことについての合理的心証を得られれば適正意見を出してもよいことを担保する意味合いがあるものと考えられます。そうしますと、たしかに経営者が内部統制を無視したり無効化させるような場合には「内部統制固有の限界」は認められるかもしれませんが、果たして当該会社の内部統制が「そこそこのレベル」にあったのかどうかは経営者不正であれ従業員不正であれ、原因分析のうえで精査する必要があるのではないか、とも考えられます。(つまり100%経営者不正を防止できるような内部統制は不要だけれども、70%程度は経営者不正を防止できるようなシステムが構築されていたかどうか、ということは問題とされるべきですよね。たとえば4年経過しなければ架空循環取引が発覚しないような体制ならばマズイけれども、1年で発見できるようなシステムなら「そこそこ」のシステムかもしれません。これが全社的統制の有効性に関わる判断でしたら、当然に評価範囲の決定にも影響が出てくるでしょうし。)私はどちらかといいますと、経営者不正によって架空循環取引が長年にわたって繰り返されてきた、というケースにおきましては、そもそも全社的統制、とりわけ統制環境に大きな不備があったものと評価すべきですし、むしろ「重要な欠陥」があったとして内部統制報告書の訂正を必要とすべきではないか、と考えます。金融庁内部統制意見書(実施基準)における内部統制の限界に関する説明事項のなかには、経営者の内部統制無視の場合とともに、従業員による共謀不正も(内部統制の限界として)含まれておりますので、経営者不正と従業員不正によって過年度の内部統制報告書の訂正の要否が変わる、というものでもないように思いますが、いかがなものでしょうか。むしろ経営者関与の会計不正事例におきまして、不正会計事件を知らなかった他の役員などが内部統制構築義務違反(善管注意義務違反)を問われかねないケースにおきまして、内部統制の限界論は機能するように思います。(この「内部統制の限界論」につきましても、金商法と会社法の内部統制の仕訳を必要とするポイントだと思っております。まだまだこの問題には内部統制報告書を訂正することと、経営者や内部統制監査人の責任問題についても書きたいことがございますが、ちょっと長くなりましたのでまた別の機会ということで。。。)

PS ところで、「内部統制の効率化が2年目の課題」ということで、「効率化」というのは、たとえばキーコントロールの整理などが中心なのかな?と思っておりましたところ、現場の会計監査人の方々は財務諸表監査における内部統制審査と内部統制監査との可及的な融合、ということを考えていらっしゃるようで、キーコントロールの整理統合あたりはあまり意識されていないみたいですね。監査法人の営業上の問題からなのかな・・・・・・(^^;

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2005年8月17日 (水)

内部統制理論と会計監査人の法的義務

きょうも、カネボウの元役員の方々が証券取引等監視委員会より告発をされた、との報道がありました。不正経理に関する具体的な会計監査人の責任、ということをいろいろなブログで読みますが、「不正」報告義務が会計監査人に課される時代になったとしても、その法的義務についてはどう考えるべきか、今後の重要な課題となるのではないでしょうか。

内部統制理論などを勉強しておりますと、公認会計士や外部委託された不正監査士など、企業情報の信頼性やリスクマネジメントを評価する場合には、「プロセス」自体の適正性を合理的に保証する、というのが基本です。この「プロセス」というのは、リスク管理のための組織やシステム、業務の効率性を高めるための組織など、具体的な企業の体系だけでなく、その体系で日々機能する社員の動き、というものも含まれる概念です。したがいまして、システムを動かしている「人」が変わればプロセスも変わる可能性が出てくるわけです。そういったことから、会計士や監査士が「財務情報に不正はない」とか「業務遂行において不正はない」と合理的保証をしたとしても、それはある時点、もしくはある期間におけるプロセスを前提としているものであって、将来長期間においても「合理的な保証」を行えるものではないわけです。したがいまして、今後日本の企業においてCOSO報告に基づく内部統制システムが構築されていくにしたがって、その監査責任者の法的責任というものも、ある時点における法的責任、もしくはある期間における法的責任という時間的制約で限定されていくのではないだろうか、と私は考えています。もちろん企業から得られた資料などによって不正を発見すべきであった、というケースであれば違った法的責任も考えられるかと思いますが、ある程度信頼しうる内部統制システム自体が企業に浸透してきたようなケースにおいては、この「人の問題(システムを軽視していないか、不正見逃しの共謀はないか、最初の作ったときと同じ労力で監視しているかなど)」にこそ「不正発見」のポイントがあり、そこに焦点をあてないと実際には発見が困難なケースが多いのはこれまでの不祥事事件の具体的な検証からも明らかだと思います。また、こういった限定責任を検討しておきませんと、監査を担当する人達が無限の損害賠償責任を負担させられる可能性が出てしまい、その積極的な監査活動を萎縮させてしまうことも考えられますので、政策的にも意味がある考え方だと思います。内部統制理論と会計監査人の法的責任につきましては、もうひとつ、監査人の報酬と監査活動との関係からも導かれるものがあるように思いますが、それはまた次の機会にエントリーしたいと思います。

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