2018年2月26日 (月)

積水ハウス地面師詐欺事件にみる「攻めのガバナンス」の陥穽

ここのところ、ガバナンス関連の事件(話題)がいろいろと報じられていますが、なかでも先週土曜日(2月24日)の日経朝刊「積水ハウス調査報告書判明」の記事には驚きました(日曜日夜までには多くのマスコミで同じように報じられています)。社外役員で構成された調査委員会の報告書について、すでに各マスコミが入手しているのですね。昨年11月7日に、「企業が高額不動産を購入する際の内部統制について」と題するエントリーで本件を取り上げましたが、まさか同社の会長さんの解任(解職)騒動から昨年の地面師詐欺事件が再浮上するとは思いもよりませんでした。

もうすでにいろいろな媒体で取り上げられていますし、また私の立場からも諸事情ございますので本件を揶揄するようなコメントは一切控えます。ただ、積水ハウスさんの企業規模からみて、100億円未満の不動産売買の決済は取締役会マターではなく、経営執行部に権限委譲が行われていた、という点には強い関心と興味がありますので、その点だけ意見を述べたいと思います。

最近のガバナンス改革では「取締役会改革」の一環として、モニタリングモデル(監督機関としての実効性ある取締役会)が推奨されています。経営の迅速化・効率化のために、重要な業務執行の決定権限を広く経営陣に委譲して、そのかわり取締役会の監督機能を強化しよう、といった流れです。今年1月現在、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に835社も移行(意向表明)した上場会社がありますが、移行(意向表明)した企業はいずれも「経営の迅速化を図りたい」との理由を掲げています。積水ハウスさんも(監査役会設置会社ではありますが)、経営スピードを上げるために、100億円までの不動産取引については権限委譲をされたのだと思います。

ただ、上記調査報告書によると、決済前に「真の所有者」と名乗る者から内容証明郵便による通知が届いたり、決済後には社員が家宅侵入として警察から任意同行を求められるような事件があったそうで、慎重な不動産取引が求められるようなサインは出ていたそうです。そのようなサインが出ていたにもかかわらず、問題なしとしてそのまま取得手続きを進めていたことについて内部統制上の問題があった、と報告書が指摘しているようです。

たしかに、このような事件が表面化(現実化)したために「内部統制上の問題があった」と結論付けることに誰も異を唱えないでしょう。しかし、地面師詐欺事件に関する過去のエントリーでも述べた通り、スピード感をもって経営を進めている状況で、「この不動産は絶対に落とすぞ!」と全社挙げて前のめりになれば、誰だってバイアスが働きます。「目の前の所有者は真の所有者であってほしい」と願っているわけですから、「真の所有者に決まっている」と妄信し、冷静な頭であれば「おかしいぞ」と思うようなサインが出ていたとしても、おそらくそこには目を向けないのが実情ではないでしょうか。以前のエントリーでは「だからこそ内部統制が必要なのだ」と締めくくりましたが、そもそも内部統制を構築していたとしても、無視、無効化してしまうのがスピード経営の裏返しだと思います。

たとえば積水ハウスさんの例で考えてみると、スピード経営のもと、経営執行部に権限が委譲されている100億円未満の土地売買について、「この取引は怪しいから回避すべきである」といった社外監査役の意見が出たとしても、果たして取引は中止されるでしょうか。また、仮に中止となった場合に、後で「あれは中止を勧めた社外監査役の判断が正解だった」という検証はできるのでしょうか。後日、同じ物件で事故が発生する場合を除き、誰も「社外監査役の判断は正しかった」という評価をしてくれる人はいないはずです。企業価値の棄損を救った功労者であるにもかかわらず、かえって「うるさい社外役員だ。コンプラでメシは食えないだろう」「あの人のおかげで物件をとりそこなった。」「もう、あの人に重要な情報は出さないようにしよう」といったことになるのがオチではないかと。

私は「攻めのガバナンス」の実践として、健全なリスクテイク、迅速な経営を支えるガバナンスに反対の立場ではありません。しかし、そこでモニタリングできる取締役さんは本当に存在するのだろうか、スピードが出れば出るほど、短期的な利益獲得優先の経営判断については誰も止められないのではないかと危惧します。唯一止めることができるとすれば、それは「当社の企業理念からみて、この取引は中止すべきである」といった企業理念を実践している企業だけだと思います。つまり、短期的な業績向上のためには喉から手が出るほど欲しい物件だが、当社の理念を最優先に考えれば中止することが大切なのだ、といった暗黙知が存在する企業です。私は、中止や撤退がもたらす企業価値の向上(毀損の防止)というものが目に見えるものではないために、多くの重要な経営判断のシーンで「企業理念」を尊重した判断が見失われているケースがあると推測します。

いずれの企業でも「企業理念」を大切にしている、と口では言いますが、実践している企業はとても少ないのではないでしょうか。もしこれを実践している企業であれば、社長が推薦するM&Aでも、不動産でも、「この資産購入は当社の理念に合わないから中止すべきである」と(もう少し)堂々と言えるようになるのではないかと。また、そのような土壌があるからこそ、経営執行部への権限委譲のもとでスピード経営を安心して推進できるのではないでしょうか。

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2009年8月 6日 (木)

プリンシプルベースによる規制と経営判断原則の適用(その1)

Cocolog_oekaki_2009_08_06_01_39 企業会計におけるIFRS(国際財務報告基準)適用問題は、最近の経済雑誌においてトレンドな話題でありますが、企業法務とIFRS導入問題に関する話題というのは、いまひとつ盛り上がっておりません。しかしながら「ビジネス法務9月号」(中央経済社)のトレンドアイにおきまして、ようやく著名な弁護士の方(47thさん)が「IFRS導入がもたらす企業法務の地殻変動」なるタイトルでIFRS導入が及ぼす企業法務上のリスクについて警鐘を鳴らしておられ、内容は誠に卓見だと思います。

とりわけIFRS導入によるプリンシプルベース(原則主義)の採用について、不可避的にダイバージェンス(同じ経済事象について、複数の会計処理が成り立ちうる事態)を発生させるものであり、企業における会計処理の選択に関する法的責任問題については、「後だしジャンケン」的な責任追及をしない制度的な枠組みが必要である、と解説されております。(たとえば金融商品取引法上の不実開示責任など)IFRS導入は大きな問題でありますが、そもそもプリンシプルベースによる規制手法が採用される領域において、取締役の法令遵守体制に関する法的な枠組みについて、私自身若干の疑問がございます。(IFRSも将来的には国内法によるエンドースメントがなされるものと思われますので、その際にはプリンシプルベースによる規制問題が発生するはずであります。)取締役の法的責任の有無を判断する基準として代表的な「経営判断原則」は、このプリンシプルベースによる規制がなされている場合、どのように適用されるのか、といった問題であります。

「最新金融レギュレーション」(西村あさひ法律事務所編 商事法務)の第一章(第1講)では、この「ルールベースの規制とプリンシプルベースによる規制」がとりあげられておりまして、たとえばプリンシプル、という用語が用いられていても、法令の上位概念として位置づけられるもの(たとえば「金融サービス業における14項目のプリンシプル)と、法令のなかにプリンシプルベースの考え方を採り入れているもの(たとえば「内部統制報告制度における11の誤解」や、平成20年度金商法改正による利益相反管理体制の整備義務など)が整理されております。(これは私も以前から整理されるべきである、と考えておりました)このうち、後者の「法令のなかにとりこまれている」プリンシプルベースによる規制手法につきましては、もし法令解釈に誤りが生じた場合には、「具体的法令違反行為」が生じてしまうことになります。

そもそも会社法上の「経営判断原則」につきましては、何度かこのブログでもご紹介したとおり、ビジネスとしてリスクをとりにいく取締役の経営判断については、たとえビジネスに失敗して会社に多大な損害が発生したとしても、判断当時の状況からみて取締役には大きな裁量の余地があるのであって、著しく合理性を欠くような判断をしないかぎりは、その法的責任は問われないものとされております。(日米では若干、司法判断のあり方に差がありますが)しかしながら、具体的な法令違反行為がなされた場合には、「そもそも法令違反行為を犯してまで、ビジネスを進めることについての取締役の裁量権はない」とするのが最高裁の判断でありまして、取締役の業務執行行為は具体的な法令違反に該当するような場合には、そもそも経営判断原則の適用はなく、取締役には任務懈怠(もしくは不法行為責任上の過失)が認められる、とされております。それでは、たとえばプリンシプルベースによる規制のように、行為規制の内容も不明瞭であり、また判断権者の判断基準も不明瞭ななかで「法令違反」と認定されたような場合でも、やはり具体的な法令違反行為があったことだけで経営判断原則の適用が排除されてしまうのでしょうか?

このあたりは、どなたかのご意見がすでに論文等で発表されているのではないか、と思ってグーグルで検索してみたのでありますが、どうも見当たりませんでした。金融行政だけでなく、今後は消費者行政などにおいても、企業の経営の自由度を上げながら、なおかつコンプライアンス経営の実効性を確保する手法として、ますますプリンシプルベースによる規制手法が増えるものと思われます。そこで、(その2)において、このプリンシプルベースによる規制と(取締役の法的責任に関する)経営判断原則の適用について、IFRSと内部統制報告制度を例にとって若干検討してみたいと思っております。(以下、つづく)

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2009年5月24日 (日)

内部統制と取締役の注意義務の関係(その2)

200907no16 ファイナンシャル・コンプライアンス6月号に続き、ビジネスロージャーナル7月号にも寄稿させていただきました。こちらは「不祥事の公表・調査義務~内部通報を発端として~」と題するものでして、普段の業務経験に基づき、企業実務家の方々を対象として、主に取締役のリーガル・リスクへの対応について検討したものです。(ご興味のある方はどうかご一読いただき、ご意見を頂戴できれば幸いです。)

ところで、この7月号ですが、目次を一覧いただければおわかりのとおり、当ブログにお越しの皆様方からすると、たいへん関心のあるテーマが「てんこもり」ですよね。(あの「物言う監査役さん」も登場されているようで・・・)株主オンブズマンでおなじみ阪口(大)先生の「株主代表訴訟の対象になりやすい役員」といったインタビュー記事もおもしろいのでありますが、私的に一番の注目は新潮社法務対策室に所属しておられる弁護士の方へのインタビュー記事であります。今年2月4日に東京地裁から出されました、ご存じ「貴乃花親方名誉棄損事件新潮社裁判」の新潮社側にいらっしゃった方ですね。すでに当ブログでも2回にわたり「内部統制構築義務違反によって経営トップの損害賠償責任が認められた事件」としてとりあげさせていただいたものであります。(こちら と こちら)その名誉棄損事件判決に対する対策室弁護士としての理解と、出版社としての今後の対応等につきまして、ご自身の見解を述べておられます。やはり3日前に私がブログで述べましたとおり、この弁護士の方も、取締役の責任が肯定された理由としては、取締役に求められる注意義務の水準が上がったからというよりも、本件の個別事情の下で、経営者の立場で改善すべきことがあったにもかかわらず、その事前の予防措置をとらなかったことを裁判所が指摘したものだ・・・と理解されており、私も同感であります。内部統制構築に関する議論の進展によって、広い範囲で注意義務の有無が検討されるようになった、その範囲については、個々の企業の環境を考慮して決定すべきものである、と理解しております。

ただ、法務対策室弁護士の方は、この貴乃花親方に対する特集記事は5回にわたって(おそらく執拗と受け取られるほどに)連続して掲載されていたわけですが、かりに1回かぎりの記事であったとしたら代表者まで責任を問われることはなかったのではないか?と意見を述べておられますが、ここはちょっと私は違う意見を持っております。新潮社の代表者の方は、旧商法266条ノ3に基づく責任追及を受けたわけでありますが、この266条ノ3の適用要件につきましては「代表者の会社に対する任務懈怠」が認められ、これが第三者の損害との間に相当因果関係が認められる場合に、代表者の責任を認めるものであります。つまり、第三者の損害発生(権利侵害に対して故意・重過失が認められることが要件とされているのではなく、会社に対する代表者としての善管注意義務違反(任務懈怠)があれば旧商法266条ノ3の要件に該当するわけですから、やはり(代表者の)重過失は出版社としてのリーガル・リスク管理が徹底していなかったことに向けられているのではないでしょうか。つまり、不法行為責任の追及であれば、たしかに「1回か5回か」といった議論に集中するかもしれませんが、旧商法266条ノ3を根拠とする場合には(従来からの最高裁の考え方を基礎とすると)内部統制の構築義務違反に主な争点があるのではないか、と考えております。

Cocolog_oekaki_2009_05_23_23_07 日本システム技術損害賠償事件判決において、代表取締役に(会計不正を防止すべき)内部統制構築義務違反による第三者責任が認められましたが、あの判決と基本的には同じ構造ではないでしょうか。そもそも第三者に対する取締役の法的責任(旧商法266条ノ3、会社法429条1項)について、判例の立場(取締役が会社に対する任務懈怠が認められる限り、第三者は自己の権利侵害についての故意・重過失が認められなくても損害賠償請求を問うことができる)を採る限り、株主代表訴訟だけでなく、株主以外の第三者からも「内部統制構築義務違反」を指摘される可能性が高い・・・ということに、取締役の注意義務を論じるにあたって留意しておく必要があろうかと思われます。

なお、先の法務対策弁護士の方が、出版社独自の検討議題として、「編集権の独立」を主張しておられ、そもそも出版社の社長が、個別の雑誌の編集について、事前・事後に厳しいチェックをいれることは編集権の独立に反するものであるから、そもそも社長は雑誌記事による名誉棄損行為とは無関係だとされております。(先の判決では、たとえ編集権の独立が認められるとしても、内部統制の構築義務とは相互に矛盾するものではないので、抗弁たりえないとして排斥されています)私も「編集権の独立」については主張に値するものであると考えますが、①こと記事による名誉毀損は社員による刑事事件、企業全体の民事責任に関わる「法令遵守」問題であって、純粋な経営判断原則が適用されるものではないと思いますし、また②記事のなかでも問題とされているように、そもそも「取材源の秘匿」を最優先事項とするために、名誉毀損裁判は(被告である)出版社にとって、本来的に不利な裁判として大きなリーガル・リスクを抱えているわけでありますので、(そうであるならば)当然のこととしてリスクの低減措置を施すことが企業価値を維持するためには不可欠なものだと理解することも十分合理性があるように思われます。(これはあくまでも私見であります。講談社判決では、たしか代表者の注意義務違反は認められておりませんので、そもそも社長さんに名誉毀損リスクを低減するための内部統制構築義務など存在しない、といった理屈なのかもしれません。)

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2009年5月21日 (木)

内部統制と取締役の注意義務の関係

5月20日の日経朝刊に「内部統制と規律と罰則(上)」の特集記事が掲載されており、内部統制が会社法と金商法で盛り込まれるようになった時代の取締役責任について検討されております。一橋大学大学院教授の方が「ふたつの内部統制ルールが相互に作用し、取締役が注意義務を果たしたと主張するためのハードルが上がる」とコメントを出されています。この「取締役の注意義務のハードルが上がる」ということの意味ですが、私は以下のように考えています。(なお、ここにいうところの「注意義務」は、取締役の善管注意義務だけでなく、第三者責任を追及される場合の過失{注意義務違反}の概念も含む「任務懈怠」責任の根拠となるものを指すものと解しております)

Cocolog_oekaki_2009_05_21_01_53 「ハードルが上がる」という言葉からしますと、内部統制システムの構築の重要性が高まり、取締役には内部統制構築に関する高度な注意義務が課されるようになったのではないか、との印象をもたれるかもしれませんが、そうではないと思います。高度な注意義務というのは、たとえば法律や会計に詳しい専門家が社外取締役や社外監査役に就任した場合に、一般の企業人であれば気付かないようなことでも、専門家であるがゆえに、気づくべきであった、それにもかかわらず、不注意にも認識しえなかった、ということで、一般の取締役であれば過失(任務懈怠)なし、というケースでも、その専門家役員だけは任務懈怠あり、と判断されることが考えられます。そのようなケースにおいて、当該専門家役員には、高度な注意義務が課されていた、と説明されます。現行会社法施行直前に立案担当者の方が大阪弁護士会で研修講演をされましたが、講演後の立ち話の折、「先生、よく社外役員に就任されていますね。こわくないですか?」と質問され、(もちろん責任限定契約は締結しておりますが)ゾッとしたことを記憶しております。

さて、内部統制の構築(整備と運用)に関する知識と経験が(取締役らにおいて)一般的となり、とりわけ上場企業の取締役会のように(大会社の場合)、内部統制システムの基本方針に関する決議が要求されるようになりますと、社内におけるリスク評価やリスク低減策の検討、そしてそれらの見直しなど、これまでの取締役の(法的な評価としての)注意義務の範囲には含まれていなかったような注意義務の履行が必要になってきたわけでありますので、上図に示したように、注意義務の有無を判断するにあたって、検討項目が広がったとみるのが妥当ではないでしょうか。おそらく上記事におきまして、「ハードルが上がった」とみるのは、これまで取締役の法的責任が議論されなかった領域にまで注意義務の有無が論じられるようになるのでは・・・ということを指しているものと思われます。ただいっぽうにおきまして、これまで「取締役の監視義務」として議論されてきた点に関しては、内部統制を適正に構築していれば、取締役の法的責任を追及されるリスクが大きく低減されるのでは?といった見解もありますので、はたして本当に会社または第三者に対する注意義務(善管注意義務または過失の前提となる取締役の不注意)のハードルが高くなったといえるかどうかは、今後の判例の流れを待って検証する必要があると思われます。

なお、内部統制の構築義務と経営判断原則との関係も、この「取締役の注意義務」に影響を及ぼすはずでありますが、これは金融商品取引法と会社法における内部統制関連法制の関係をどうとらえるか?といったことにも触れざるをえないところだと思いますので、これはまた別途エントリーにて検討してみたいと思います。

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2008年7月15日 (火)

「重要な欠陥」の判断はコストによって影響を受けるのか?

日本内部統制研究学会報告のエントリーにつきましては、とも先生、丸山先生、機野さんはじめ、多くの熱いコメントを頂戴しまして(どうもありがとうございます)、内部統制報告制度に関する更なる議論がなされることを、私自身も期待しているところであります。正直申し上げて、私自身も未だ勉強不足(とくに業務プロセスの運用評価)のところもありまして、これから現場実務(とくに中堅クラスの上場企業)について注視していきたいと思っております。

さて、J-SOX関連では、学会の重要なテーマでありました「重要な欠陥」について、もうすこし疑問点を検討してみたいと思います。タイトルにも書きましたが、「重要な欠陥」と企業の費用対効果(コスト)の関係についてであります。端的に申し上げて、財務報告に係る内部統制システムを整備運用するにあたって、もし早急に是正する必要性のある不備は認められるものの、当該企業にその是正のための費用(コスト)をねん出できない場合、はたして当該企業は「重要な欠陥あり」とされて内部統制は有効ではない、と報告しなければならないのでしょうか?それとも、企業の現況から考えて、重要な欠陥ありとは言えない、と判断してもいいのでしょうか。(ちなみに「基準」のなかで、内部統制の限界を示すもののひとつとして「費用対効果」が掲げられておりますが、これはコストを無視してまで精緻な内部統制を構築することは要求されていないことを説明したものにすぎませんので、ここでの議論とは直接関係はないものと思います)

「何をいまさら・・・」と言われるかもしれませんが、これは会社法と金融商品取引法の内部統制の関係をどう捉えるか・・・によって、結論が異なってくる可能性のある大問題ではないかと思っています。会社法上の内部統制と金商法上の内部統制を一体的なものとしてとらえる立場であれば、たとえば会社法上の内部統制システムの基本方針のひとつとして、金商法が求める「財務報告内部統制の構築」を掲げますよね。つまり、金商法が求めている財務報告内部統制のレベル程度については、これは取締役らによってシステムを構築する義務が発生するということになりそうです。もちろん、「重要な欠陥」の判断については、将来の財務報告の信頼性に問題があるかどうかを報告するための概念であって、現時点における取締役らの善管注意義務違反の事実が存在することを示すものではありません。しかし「重要な欠陥」ありと評価(もしくは監査人による意見)された場合、それは早急に改善すべき重要な課題、ということでありますから、とりあえず取締役らはこの「重要な欠陥」に対処する必要がありそうです。つまり重要な欠陥に対して、これを放置していた場合には、やはり取締役らに対して善管注意義務違反が認められるケースも出てくるのではないでしょうか?

しかしながら、会社法上の内部統制システムの構築として考えた場合、そもそも会社法は取締役らに対して「できないことまでの責任は問えない」ことが大前提であります。つまり「重要な欠陥」を放置することが法的責任と結びつく可能性があるならば、そもそも「重要な欠陥」は取締役らにとって、履行可能であることが前提の概念としてとらえられるべきものでなければならず、結局、コスト的にも欠陥の是正が可能であることが不可欠の要件ではないか、と考えられます。また、取締役らにとっては、財務報告内部統制と同じくらいに別の法令遵守体制の構築についても重要であって、そのどちらを優先的に構築するかは、おそらく経営判断の問題ではないかと思われます。そういった優先順位についても当然に検討課題になってくるでしょうから、そもそも監査人から「重要な欠陥あり」と判断されるケースというものはあまりないのではないか、といった結論にもなりそうであります。(判断過程は私自身の推論でありますが、結論においてこのような見解をとっておられる著名な法律家の方もいらっしゃいます)

いっぽう、金商法と会社法の内部統制の整合的な理解にあまりこだわらず、金商法上の内部統制はあくまでも開示制度に関わるものにすぎない、と考えるのであれば、取締役らが「やろうと思えばできるかどうか」にかかわらず、そもそも上場企業としての財務報告の信頼性を確保できるだけの合理的保証が得られないシステム上の不備があれば、これを重要な欠陥として指摘してもかまわない、ということになりそうであります。金融庁の見解はこちらではないかと推測いたします。この考え方ですと、「重要な欠陥」が「早急に改善すべき重要な課題」としての意味であったとしても、それは取締役らの善管注意義務とは無関係に報告されたものにすぎませんから、「重要な欠陥あり」とする結果がたくさん出てもかまいませんし、コストの問題や、別の内部統制システムの構築義務との優先問題から、これを放置していたとしても取締役らの法的責任とは結びつかないものと思われます。(もちろん、放置することとの関係でありまして、たとえば重要な欠陥があると評価された場合には、それでも財務報告は真実性に問題がないことの説明義務を尽くす、という点においては善管注意義務が問題になることは当然であります)

業務の有効性、効率性を向上させるために、一生懸命現場で内部統制報告制度を運用しておられる皆様には、たいへん不謹慎な物言いになっているかもしれませんが、もし監査人が「重要な欠陥あり」と判断しているときに、「それはコスト的に問題ですよ」とか「ほかの内部統制システムの構築のほうが優先ですよ」と反論することで、「重要な欠陥はない」と評価する余地があるのかないのか、これは理屈のうえでも大きな違いですし、整備運用が遅れている企業の実務にも影響の出てくる問題ではないかと懸念しているところです。本日はかなり粗っぽい問題整理にすぎませんが、また改めて法律的な側面および会計的な側面から検討してみたいと思います。

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2007年3月 6日 (火)

内部統制構築と経営判断原則(再考)

昨日、grandeさんのブログでも紹介されておられる経営財務2810号の「監査報酬はなぜ低いのか~監査人の交代時における監査報酬の実態調査を踏まえて~」(町田祥弘教授)もたいへんおもしろい内容でして、いろいろと検討してみたいところも多いのでありますが、その前に、一度「内部統制構築と経営判断原則」といったテーマで最近の内部統制議論の方向性を検討してみたいと思い、(再考編)とさせていただきました。なお(再考)といたしましたのは、2005年8月に同名のエントリーをアップしているためであります。(しかし、いま1年半ほど前のエントリーを読み返しますと、かなり恥ずかしい内容のエントリーですね。(^^; 最近であれば、「内部統制リスク」や「監査リスク」との関係から「リスクアプローチ」について、もすこしマシな論点提示ができそうでありますが、この当時は監査論もよくわからずに、よくもまぁ、シャーシャーと書きなぐっていたものだと・・・・・・)

経営判断原則を問題にするわけでありますので、どちらかといいますと会社法上の内部統制システムの構築に関連する話題でありますが、金融商品取引法上の内部統制(いわゆる内部統制報告制度)につきましても、「費用対効果によって内部統制リスクを管理する」ことを検討するならば、やはり経営判断原則が問題となる場面もあろうかと考えております。ただ、どちらの内部統制を議論するにあたりましても、最近は内部統制には「整備」と「運用」の問題があるというのが通説になってきております。「企業会計4月号」特集「座談会、内部統制報告基準および実施基準の重要ポイント」の44ページ以下におきましても、(こちらは主に内部統制報告制度を踏まえての議論でありますが)「整備状況・運用状況の評価」として、運用面に関する評価の重要性が参加者より説かれております。つまり、運用状況の評価というものは、整備状況の評価を踏まえたうえで、決まりごとがどのように運用されているか、想定したとおりに実際に機能しているのかどうかに着目して評価する、ということが解説されておりまして、このあたりは私のブログにおきまして、何度も確認をしてきたところと合致しているものと思われます。

さて、このあたりまでの議論につきましては、概ねコンセンサスの得られてきたところではないか、と考えておりますが、今後著名な学者や実務家、会計士の方に検討していただきたいと願っておりますのが、こういった「整備」「運用」分類法と、取締役の内部統制システムの構築義務を議論する際の「経営判断法理」との関連性であります。ご承知のとおり、平成12年の大和銀行事件判決におきまして、初めて裁判のうえで「取締役の内部統制システムの構築義務」なる概念が登場したわけでありますが、この構築にあたっては、取締役らに広範な裁量が認められる、つまり経営判断の原則が妥当する、とされまして、これまでもダイレクトに「内部統制システムの構築義務違反」によって取締役らに責任が認められた判決は登場しておりません。時代とともに、この内部管理態勢のあり方がクローズアップされ、主要な経済法令のなかでも「内部統制構築」が規定されてきた昨今、取締役の責任を論じるときには以前よりも「内部統制構築義務違反」と裁判所に評価されやすい風潮になってきたような気もいたします。しかしながら、「費用対効果」による内部統制構築の限界や、リスク管理の手法は各企業のおかれている経営環境や企業の組織規模などによって左右されることなどからみましても、どのような内部管理態勢を構築すべきか、といった点につきましては、やはり経営者には広範な裁量権があるといった前提はいまでも妥当するものと考えております。

その一方におきまして、内部統制の構築というものは、静的なイメージではなく、PDCAサイクルによるリスク管理の一種であり、動的なイメージが強い管理手法である、といった概念が共有化されてきますと、その「運用」面での評価というものにも、経営者らの広範な裁量権が認められるかといいますと、これには別個の考え方が成り立つようにも思えます。つまり、「整備」することは、それなりに経営者らに裁量権も認められるかもしれませんが、いったん整備した内部統制システムというものが1年間(ある評価のための期間と言い換えてもよろしいと思います)適切に稼動したのかどうかをチェックして、その有効性を評価するプロセスというものは、決められた約束事をきちんと取締役らが守ることが前提となりますから、どうも経営判断の原則が適用される場面ではないように思います。たとえこの運用面におきましても、当該企業の管理行為への予算配分の問題だとか、内部監査の経験年数などの問題などから、ある程度の経営判断が優先されるべき場合があるとしましても、その「整備」における裁量権の範囲よりも、かなり狭い範囲での裁量権しか認められないのではないでしょうか。こういった議論がもし成り立つのでありましたら、株主代表訴訟等、取締役の会社に対する善管注意義務違反が問題となる場面におきまして、とりあえず「三点セット」など内部統制構築のなかで文書化されたものの開示を企業側に求め、その開示書類を分析したうえで、運用面での取締役らの怠慢(過失=放置責任)を立証する方策が検討されうるだけに、かなり重要な論点ではないか、と思います。このあたり、また既にどこかの雑誌で検討されておられましたら、その内容等ご教示いただけますでしょうか。

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2005年8月25日 (木)

内部統制構築と経営判断原則

きょうは弁護士という立場から、内部統制理論と関連付けた「取締役の善管注意義務の履行問題」について、すこしばかり考えてみたいと思います。ご承知のとおり、株式会社の取締役は会社に対して善良なる管理者としての注意義務(いわゆる善管注意義務)を負っているわけでして、この義務違反行為というものは裁判上、たとえば株主による代表訴訟や会社債権者による損害賠償請求訴訟で争点となるケースが多いわけです。しかしながら、日本版のビジネスジャッジメントルール(いわゆる経営判断の法理)というものが裁判の原則としては認められておりまして、「(取締役による)企業の経営に関する判断は、専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断であるから、取締役に与えられた裁量の幅は広いものであり、たとえ取締役の経営判断が結果的に会社に損害をもたらしたものといえども、それだけで取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない」という法理が一般的に適用されます。この法理が一般的に適用されるケースが多いため、なかなか取締役の責任を追及することは(立証責任の問題とも重ね合わせますと)困難な場合が多いようです。

ただ、こういった経営判断法理というものも、近年議論の高まっている「取締役の内部統制システムの構築義務」と考え合わせますと、もはや(今後の裁判において)取締役にとっての万能の武器とは言えないのではないかな・・と推測しています。といいますのも、裁判所は一般的に「経営判断原則」を取締役責任訴訟における基準にしてはおりますが、一方においては、企業経営に関する判断事項をまったく司法判断の枠外に置いているわけではなく、経営判断の前提となった事実の認識について不注意な誤解がなかったかどうか、またその事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうか、という点については少なくとも判断は及ぶと考えているからです。

したがいまして、ここに「取締役会レベルにおける内部統制システム構築の議論」を適用できる余地があります。いわゆる「リスクアプローチ」の法律判断への応用になろうかと思われます。リスクアプローチといいますのは、①判断の対象となる経営事項のリスクを洗い出すこと②いくつかのリスクを洗い出したら、各リスクがどの程度将来の企業経営に影響を及ぼすかという評価を行うこと③リスク評価を終えたら、そのリスクをとりにいくのか(リスクを承知でビジネスを遂行するのか)、リスクを回避するのか、それとも代替手段を確保(保証を付けるなど)するのか、合理的意思決定を行うこと、であります。つまり、取締役の善管注意義務違反が問題となるケースにおいて、その取締役の責任を追及する側としては、取締役側が裁判上「経営判断法理」を防御方法として持ち出した場合、その取締役(もしくは取締役会)の判断に至った過程について、そのリスクアプローチに関する釈明を求めるわけです。この方法であれば、現在の裁判で通説とされている経営判断法理とも矛盾なく争点を深化させることができ、「内部統制理論」の議論発展のために司法判断を活用することも可能になってくるのではないか、さらに経営判断の法理自体の議論も深化するのではないか、と考えています。もちろん、監査役が取締役会における意思決定過程を監視する義務というものも問題になりえますので、監査役の立場で監視義務を尽くしたかどうか、その判断にも、上記のリスクアプローチの方法が採用されるべきだと思います。

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