内部統制「統制上の要点の選定とリスク・アプローチ」
先週の日経新聞特集記事「点検・内部統制元年」を、たいへん遅くなりましたが(上)(下)ともきちんと読ませていただきました。費用負担が重くのしかかっている・・・といったイメージをどこの企業もお持ちではないかと思います。そんななかで、中堅上場企業である大阪のニイタカ社の内部統制責任者であるS氏(ときどき拙ブログにもコメントをされる方ですが)によりますと、ニイタカ社の内部統制にかけた関連費用はS氏の人件費のみ、ということだそうであります。このS氏とは、もうかれこれ2年ほど研究会でご一緒しておりますので、この「関連費用は私の人件費だけ」というのがウソ偽りのない真実であることは私自身がよく知るところであります。ただ、このS氏の内部統制システム構築にかける情熱はちょっと他の人ではまねのできないものであります。新聞にもあるように、現場担当者や現場監督者が業務プロセスの整備・運用、そして自己点検による評価方法に至るまで、十分に理解するまで徹底的にレクチャーを行い、不備が生じればすぐに内部統制プロセスをくりかえし改定し、逐次外部監査人を呼んで改良点の説明を行い、外部監査人のほうが「もう堪忍して」と音を上げるまで徹底的に協議を繰り返す・・・ということであります。しかし(前にも書きましたが)、私がこのS氏をみていて、おそらくニイタカ社では内部統制は有効と評価されるものとは思いますが、全社あげて内部統制の整備はS氏にまかせっきりになっているものと推察され、もしS氏が(たとえば)ヘッドハンティングによって別の会社で内部統制構築を手掛ける、という事態になってしまうと目もあてられないことになってしまうのではないか、といった一抹の不安を抱かずにはおられません。いわゆる「内部統制リスク」というやつですよね。誰かの個人プレイにまかせっきりになってしまいますと、その個人がいなくなってしまうと、社内で誰も内部統制の改良ができなくなってしまうということは大きなリスクです。そう考えますと、この「内部統制リスク」を低減させるためには、内部統制プロジェクトチームのような組織的対応の必要性や、後継のためにできるだけ文書化しておく、といった費用負担を要する対応もある程度は必要なのではないか・・・と思ったりもしております。内部統制はいよいよ2年目を迎えるわけですが、その性質上永続的に制度を見直すことが求められるわけですから、企業としての制度対応も、それなりに人材育成やシステム改良のノウハウを個人プレイに頼ることなく、企業として検討していかなければならないと思います。
そして内部統制2年目といえば、旬刊経理情報の4月1日号では「2年目の内部統制」が特集されておりまして、たいへん興味深く拝見させていただきました。この特集のなかで、解説者の方が、トップダウンのリスク・アプローチが、1年目において業務プロセスの評価範囲や方法の決定のためにはよく議論されたようだが、これまで統制上の要点の選定のためにはほとんど議論されてこなかったのではないか?といった疑問を呈しておられ、これは私もまったく同感であります。これは日本取締役協会や日本監査役協会での報告でも「問題提起として」述べさせていただきましたが、本当にリスク・アプローチが統制上の要点の選定のために活用されるのであれば、そこには経営者の関与は不可欠なはずですが、これまで議論されてこなかったのは、まさに十分に経営者の関与が問題にされてこなかったからだと思います。わずか1年半の間に、リスク・アプローチ監査についてはナナボシ判決が、そして経営者のリスク・アプローチについては日本システム技術判決が、それぞれ財務報告における重大な虚偽表示リスクに関わる裁判事例として出ております。ナナボシ事件判決では、監査人による監査の手法が経営者による不正リスクと対応していなかった点が指摘されており、また日本システム技術判決においては、従業員による不正リスクと経営者の構築した内部統制システムが対応していなかったことが指摘されているわけであります。これは裁判所の考える「重大な虚偽表示リスク」とは何か?それは何を評価した結果なのか?リスク低減措置はどこまで要求されるのか?といったあたりを検討するには好材料であります。実施基準を前提とする「統制上の要点」と、裁判所が問題とする「リスクと統制との対応関係」は厳密には別物であるとしても、「あなたの会社はワンマン会社だし、取引先との付き合いも長いので経営者不正の可能性が高い」などとは、決して監査法人さんは言わないわけですが、裁判所ははっきりと、不正リスクのひとつであり、平時から配慮すべきリスクである、と指摘するわけであります。したがいまして、平時から経営者リスクや組織に内在するリスクを堂々と宣言できるのは経営者以外にはいないのであります。そこがズバッといえないのであれば、統制上の要点がきちんと選定されるはずもないわけでして、お題目のように「経営者の関与が不可欠」といってみても、実際にそこに目をつぶっていては、おそらく「内部統制リスク」は軽減されることはないものと考えております。
なおリスク・アプローチと法的責任(「重要な欠陥」ではございません)との関係については、リスクアプローチ監査については会計上の重要性の原則と、そしてトップダウンのリスクアプローチについては経営者による経営判断原則との関係がつぎに議論されるところだと思いますが、その点はまた別途検討してみたいと思います。
3月 27, 2009 内部統制の費用対効果 | Permalink | コメント (8) | トラックバック (0)


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