2005年9月 6日 (火)

経済産業省の企業行動指針(1)

8月31日付けで経済産業省より、「コーポレートガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組みについて」と題する指針が公表されました。全部で96ページに及ぶ内容ですが(前半の20ページほどはパブコメとその回答集となっていますが)政府が細かいところまで関与することなく、企業が自主的に不祥事を発生させないための行動指針を明確にしているところに意義があるようです。また、たんに不祥事を発生させない仕組みやプロセスを紹介しているものではなく、このような指針に従う企業が、企業活動の競争力や効率性を高めることにつながり、究極的には将来にわたって企業価値を高めるものとなる、と宣言しています。9月2日ころから読み始めましたが、裁判など本業のほうの仕事がちょっといそがしく、やっと5日ころになって、最後まで目を通すことができました。(ある程度は7月13日の指針案のときに読んでおりましたが)

この指針全体を読んでの感想ですが、不祥事発生を防止するために監査役の立場が非常に強調(期待?)されていると思います。コーポレートガバナンスの有効性を担保する立場としても、また内部統制システムが有効に機能しているかどうかを判断する立場としても、また内部監査室における監査状況を十分把握しなければならない立場、外部監査人との連携を唱える立場としても非常に重大な役割を演じなければなりません。

こういった重責を監査役が担うわけですから、この指針は監査役人材の流動化とともに、法律・会計に関する資格制度の導入を強く薦めています。また意外だったのが、企業の内部監査人は、専門性をもち社外から登用することを薦めている点です。法曹という立場からすれば、こういった「専門性」を強調していただくことは、職域拡大という面からみても、好ましいことかもしれませんが、企業にとっては「人材不足」であることは否めないでしょうね。また、監査役と同様、内部監査人も通常は自社社員が独立性に配慮しながら就任するものでしょうから、いきなり外部の専門家といいましても、選任にあたっての基準というものもわからないため、かなりな困難が伴うのではないでしょうか。いずれにせよ、監査役や内部監査人を内部者に求めるか、外部者に求めるかは第一義的には企業自身が決めることですから、その選任にあたっての取締役の判断が、善管注意義務違反に問われるようなことはなく、そのようなコーポレートガバナンス、内部統制システムを採り入れることによる「企業価値への」投資家の判断、ステークホルダーの判断に評価が委ねられることになると思います。

なお、監査役による監査方針について、この指針は「証券取引法においても、監査役が十分に業務監査を尽くしたことの説明義務を明示すべき」だとしていますが、商法と証券取引法との関係からして、もっと慎重に検討すべきだとか、実際の企業における監査役の立場からみて、そのような証券取引法上の権限を監査役に与えても、市場に対する信頼性確保に役立つかどうかは疑問など、批判もあるようです。このことは、(証券取引法上の取締役、監査役の義務違反が、直ちに商法上の役員の責任と結びつくわけではありませんが)司法判断における監査役の善管注意義務違反の認定にも影響を及ぼす議論ですので、今後も検討していく必要があります。

なお、この行動指針では、この指針によって描かれた監査役、内部監査人の行動などから、善管注意義務などの法的判断にも影響を与えるものであってほしい、との希望が述べられていますが、コーポレートガバナンスやリスク管理、そして内部統制という言葉についても、いままでのところ一義的に定義付けされていないのが現状ですので、はたしてこの行動指針に記載されている監査役等の義務が、法的にも「義務」とされるのかどうかはまた別の問題となりそうです。(このつづきはまた、近々アップいたします)

ちなみに、「金融庁企業会計審議会が発表している内部統制に関する指針との整合性をもたせてほしい」とのパブリックコメントに対しては、「十分整合性があるものと認識しております」と経済産業省は回答しています。このあたりは、以前にもエントリーさせていただきましたが、また最近考えたところもありますので、こちらの続編もエントリーする予定です。

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