2008年9月28日 (日)

モリテックス社の少数株主保護と買収防衛策の有効期限について

昨年、IDEC社との間でプロキシーファイトを繰り広げたモリテックス社でありますが、9月24日、独ショット社の日本法人がTOBによりモリテックス社の過半数の株式保有を目指すことにつき、賛同する旨のリリースを出されております。なお、賛同については、IDEC社から派遣されている(おそらく)取締役2名以外の6名の取締役によるものとされておりますので、今後のIDEC社のカウンター・テンダーの可能性に注目が集まっているようです。(事業提携を伝えるニュースはこちら)

9月24日付けモリテックス社のリリースに添付されている資料(株式会社モリテックス社に対する公開買付けの開始に関するお知らせ)を読みますと、過去1か月の株価平均の79,2%ものプレミアムを上乗せしたTOB価格もさることながら、特筆すべきは少数株主保護に関する具体的な記述がなされている点であります。まず、①少数株主保護政策について、すでに以下の点について資本業務提携契約において合意に達していることを示したうえで、②ショット社を含む議決権比率の高い株主からモリテックス社への不当な圧力に対して、モリテックス社がコントロールする方策を講じること、③モリテックス社による関連当事者との間の取引の公正性およびアームズレングス・ルールの順守などであり、基本的にショット社自身が日本における「少数株主保護に対する関心」を熟知している旨、宣言されております。

昨日(9月26日)の日経新聞では、記者さんの「今回の提携が大規模買付行為にあたらないと判断して、買収防衛策を適用しなかった理由は?」との質問に対して、モリテックス社の社長さんは

ショットとはモリテックスの企業文化や日本の商慣習を尊重し、少数株主の利益を無視するような大株主の論理を振り回さないなどの点で合意している。資本提携で両社の企業価値が向上すると取締役会で判断したため、(買付の是非を判断する)特別委員会の招集も必要なかった

と答えておられ、上記の少数株主保護に関する合意をショット社に対して買収防衛ルールを適用しなかったこととの関連で説明されておられました。しかし、私はむしろ、両社とも「一般の株主にやさしいTOB」を目指したものと理解しています。つまり、株主の判断として、ショット社と提携して企業価値の向上を目指すモリテックス社の株主としてそのまま残るのもよし、TOB価格に魅力を感じて、TOBに応募するもよし、ともかくTOB時の株主の判断にまつわる不安(TOBに応じないことで、結果として少数株主として残ってしまい、その後の組織再編等によって低価格で排除されてしまう不安)を排除した状況のなかで、株主の皆様が自由に判断してください、といった気持でショット社およびモリテックス社が一般株主に接している態度こそ特筆すべき点なのではないかと思いました。新光証券さんをフィナンシャルアドバイザーとして、公正価値算定報告書を吟味していることや、プレミアム価格の大きさも注目されますが、この一般株主への配慮が、今後のTOB実務の適法性および取締役の株主に対する説明責任の充足という観点からとても重要ではないかと考えた次第です。

なお、モリテックス社が「ショット社のTOBについては買収防衛ルールを適用しない」とする判断について、一点、非常に素朴な疑問が湧いてまいります。平成18年12月18日に取締役会判断によって導入されたモリテックス社の事前警告型買収防衛策でありますが、これは現在でも本当に有効なのでしょうか?同日のリリースを読みますと、この防衛策は平成19年の定時株主総会で選任された取締役が、総会直後に開催される取締役会におきまして、継続するか、廃止するかを決定することになっております。つまり、普通に読みますと、平成19年の定時株主総会時点までが有効期限と思われます。しかしながら、ご承知のとおり、モリテックス社の定時株主総会における取締役選任決議は、東京地裁によって取消判決が出ておりまして、その後の取締役会における「防衛策継続決議」も効力は有していないはずであります。その後の東京高裁での和解、それに続く臨時株主総会における取締役の選任決議はなされたものの、社長を含む数名の取締役が交代しておりますので「瑕疵が治癒された」とは言えないはずであります。(それとも、高裁で両者が和解をしたので「瑕疵」自体がそもそもなかったという判断でしょうか?しかし和解の効力は当事者間における相対的効力があるにすぎず、その後に実際に臨時株主総会で再度取締役の選任議案を上程しているわけですから、すくなくとも地裁の取消判決の対世効については「確定判決がなくても」無視できないようでありまして、やっぱり瑕疵自体は残るような気がしますが。。。また本年6月の定時株主総会においては取締役の選任議案は提出されておりません)ということは、現時点ではモリテックス社には買収防衛策は存在していない?ということになるのではないでしょうか。また、平成18年12月のリリースからすれば、モリテックス社としては、株主総会における取締役の選任議案とリンクさせることで買収防衛策の正当性の根拠を株主意思に求めておられるようですので、かりに現在も買収防衛策が生きているとしても、これを取締役会判断でショット社との関係で適用排除することはどういった理屈をもって可能となるのでしょうか?(取締役会独自の判断で適用を除外できるとすると、その旨が防衛ルールのなかで明示されている必要があると思うのでありますが。)もし買収防衛策の有効期限が切れている・・・という事態となりますと、IDEC社からのカウンター・テンダーが出てきた場合には、事前警告型防衛策に基づくルールが使えないのではないかといった疑問も生じるところであります。

(追記)防衛策の有効期限の点につきましては、ある方よりモリテックス社のガバナンス報告書を参考ください、とのメールをいただきました。内容を読ませていただいたうえで修正する可能性がございます。私の勘違いやリリースの見落としがございましたら、またご教示ください。

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2008年8月12日 (火)

アデランス社の買収防衛策は「無用の長物」?

TBいただきましたkatsuさんの「すかいらーくネタ」はたいへん参考になりました。たしか12日が臨時株主総会当日だったと記憶しておりますので、また結果が出てから、検討してみたいと思っております。(ちなみに、新しくすかいらーくの社長に就任される予定の方が責任者として頑張っておられる「バイキングビュッフェ」が私の家から徒歩10分のところにありますが、本当に流行っていますよ。私ははっきり言ってお店の雰囲気が好きになれないのですが・・・しかし大人一人1500円のバイキングとしてはお値打ち感があります。)いよいよ「盆休みモード」に入りまして、当ブログも例年どおり急激にアクセス数が落ち込む季節となりました。そんなときこそ、M&Aネタをこそっと織り込んでみようと思い、本エントリーに至りました。

さて、10日(日曜日)の日経朝刊の記事によりますと、5月の定時総会で7名の取締役の再任が拒否されたアデランスHD社の臨時株主総会が前日に開催され、選任可決となり、やっと新体制を組まれるようになったそうであります。(つまり取締役不在の状況が解消された、とのこと)前記記事によりますと、9名の取締役のうち2名はスティール社が日本の企業に初めて送り込んだ(推薦した)社外取締役の方々であり、また取締役会に企業価値向上策を提言する「特別委員会」は過半数がスティールパートナーズ側より推薦された役員で占められているそうであります。そうなりますと、M&Aに詳しくない弁護士としましては、またまた素朴な疑問が湧いてくるところです。本日(8月11日)も、子会社である美容院チェーン大手の完全子会社化を予定、といった報道が出ておりますが、経営の基本に関わる今後のアデランス社の買収防衛策に関する疑問であります。

そもそも、2006年12月に導入したアデランスHD社の事前警告型買収防衛策は、スティールパートナーズによる株式の買い進みの脅威に対抗して導入した経緯があったと思われます。また、2007年5月の定時総会においては、反対票が40%に上るも、なんとか過半数の株主の賛同も得て可決承認された経緯があります。しかしながら、8月9日の臨時株主総会によって選任され、すでに29%の株式を保有しているスティール側の意向が十分に浸透した経営陣としましては、今後も上記買収防衛策をそのまま維持している意味はあるのでしょうか?スティールの脅威に対抗するべく導入した防衛策は、すでにスティールによる相当程度のコントロールが効く支配権にとってはもはや無用の長物になってしまったのでは?といった疑問であります。(みなさま、そういった素朴な疑問が湧いてきませんでしょうか?)

「特別委員会」を構成するスティール側より推薦された役員の方々としては、(おそらく「大きなお世話」かとは思いますが)今後この買収防衛策をどのようにしたいのか、はっきりと意思表明をされたほうがいいのではないでしょうか?サッポロHDに対しては、スティールは極めて厳しい態度で「買収防衛策発動は企業価値向上のためには役に立たない」と主張されているものと思われますが、もしその意見が真摯なものであるならば、ご自身が経営の一角を担うに至ったアデランスHD社においても、その意思を貫徹させて、一刻も早く事前警告型防衛策を廃止すべきではないでしょうか。(ちなみに、2007年4月20日のアデランスHD社のリリースを読みますと、2007年5月の定時総会によって可決承認される防衛策の有効期間は3年間でありますが、株主総会または取締役会の決議によって期間中はいつでも廃止できる、とされています。したがいまして、廃止しようと思えば、取締役会においていつでも廃止できるはずであります。)株式を買い増す場面においては「買収防衛策はけしからん」と言いつつ、自社が経営権を取得(もしくは十分な支配コントロール)した段階になると「買収防衛策も企業価値向上のためには有用である」といった姿勢で臨むのであれば自己矛盾を生じることになりかねませんし、今後はそのようなスティール社の態度を「何かあったら有利に援用しよう」と考える企業も増えてくるかもしれません。

アデランスHD社の新社長さんは、以前アデランス社が買収したフォンテーヌ社の役員だった方だそうですが、そもそも女性用ファッション装具と男性用装具とではまったく営業形態が異なりますし、営業努力によって「男性かつら需要」が向上することはないでしょう。若年用「ヘアサポート」も、女性用も、すでに市場は飽和状態です。はっきり申し上げて一般のサラリーマンや主婦の方々の手の届く商品として「大転換」しないかぎりは、今後も売り上げの向上は望めないと思います。(1台あたり30万円から100万円程度の高額商品を、しかも社員から勧められるままに常時2台から3台を併用するとなりますと、70万から300万円ほどのクレジットを常にかかえている状態で一生を過ごすことになります)ただし、ご承知のとおり、アデランス社の支店、営業所は社会インフラのごとく、地方都市の津々浦々にまで浸透しておりますので、規模を縮小して、思い切った人員削減を敢行すれば、かなり大幅な経費削減の余地があり、大幅な業績向上の機会はたしかにあるように思います。私自身、海外におけるM&Aの動向などは存じ上げませんが、こういった業界、業績の企業において、そのまま買収防衛策を維持していくことにどういった意味があるのかよく理解できないところであります。むしろ企業の存続をかけてホワイトナイトを真剣に探すのであれば、「魔除け」としての防衛策は不要ではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

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2005年9月 7日 (水)

敵対的買収策への素朴な疑問

来年の定時総会へ向けて、監査役として「買収防衛策」をあれこれと考えておりますが、ふと「恥ずかしくて、いまさら人に聞けないような素朴な疑問」が湧いてきました。

今年5月に出された経済産業省、法務省コラボの「買収防衛指針」を読み返しているのですが、いざ自分が公開買付対象会社の個人株主だとした場合、敵対的買収防衛策は「最終的にはどっちの提案が株主共同利益を向上させるか、どちらが企業価値の向上に資するのか、その判断を株主に委ねる趣旨で導入されるべき(現経営者の保身目的であってはならない)」とありますが、よく考えてみると、個人株主が本当に買収希望会社の事業計画を「いいなあ」と思ったら売りたくなくなっちゃうんではないか。ある勉強会の会合で、長年社外取締役を経験されてきた方からのご指摘が発端となり、私もそんな素朴な疑問が頭から離れなくなりました。

私だったら、(買収希望者が)そんなにいい経営をしてくれるんだったら、買付に応じないで長期保有しちゃうんじゃないでしょうか。もちろん防衛策が発動された後に、委任状獲得競争に至った場合には、防衛策解除のために(買収希望会社のほうへ)委任状を交付するとは思いますが、それでもその企業が経営権を取得した後も、ずっと保有したいと考えるのではないでしょうか。つまり、敵対的買収策は、究極的には株主利益をどちらがより向上させるかを株主の判断に委ねる、というのが「目的としては正論」かもしれませんが、買収希望者がTOBの成功を目的としているのであれば、そこに売ってしまう株主にとっては「将来における企業価値などどうでもいい。ともかく時価より高い値段で買ってくれれば、後はその会社がつぶれようが、上場廃止になろうがどうでもいい」という感覚でTOBに応じるのが本音の部分だと思います。そういたしますと、(防衛策の是非を判断する基準として)上記の株主利益の将来的な向上、という目的もあまり説得力がないのでは・・・と考えられそうです。私は公開買付のルールとして、現金一括、買付数量に限定なし、という場合を想定しているものですが、たとえば買収の対価としてその買収希望会社の株式を付与する、というのであれば、(買収対象企業の株は失っても、その親会社の株を取得するわけですから)

またすこし利益状況も異なるかもしれませんが、おそらくMBOの場合だって、経営陣がそんなにいい経営を目指すというのだったら、買付に応じることなく保有したほうがいいのではないか・・・と個人株主としては素直に考えてしまいそうです。(まあMBOの場合には上場廃止という結末があるために、やむをえないと思いますが)

さきごろ、夢真ホールディングスの社長さんが「TOBの失敗」を理由に辞任されたそうですが、たしかにTOBでは買付が奏功しませんでしたが、ひょっとすると日本技術開発の個人株主さん方は、「そんなに夢真がいい経営をしてくれるんだったら、俺は売らない。(過半数を取得した)夢真といっしょに俺も日本技術開発の将来を見届けたい」と願っている人がいたかもしれません。(いえ、あくまでも「可能性」の話ですが)大口の機関投資家の意向というのは、公開買付を行う会社にとっては当然判明していることでしょうが、個人株主の意向というのはわからないと思いますし、なぜ「TOBの失敗」ということで辞任しなければならないのか、理屈としてはちょっと私には理解できないのです。昨日、夢真ホールディングスより、日本技術開発の定時総会について、現取締役から検査役選任を裁判所に申し立てるよう要望するとの意見がリリースされましたが、この内容からすると夢真の経営権取得のための方策は今後も継続するようですし、もし夢真が経営権を取得する事態となった場合には、「やっぱりTOBをかけておいてよかった」と評価される可能性も残っているように推測できないでしょうか。

こういった議論というのが、巷(ちまた)でなされていないということは、私の理解に根本的な誤りがあるのかもしれません。公開買付の経済的な意味合いがまったく理解できていないのかもしれません。しかしながら、この世の中、私と同じ疑問にぶつかった人も何人かいてもよさそうな気がします。防衛指針の13ページには明確に「買収者が公開買付等に移行する機会を確保することは、株主が自己の判断で買収提案に応じる形で株主の意思を反映する有効な手段である」と記述されております。しかし、これから株を売っちゃおう、と思っている人が値段以外にその企業の将来とか真剣に考えるでしょうか?グリーンメーラーであろうが、焦土化であろうが、短期売買目的で値段がそこそこよかったらホイホイ売っちゃうのが道理のような気がします。

なんか勝手な考えを自由に書いてしまいましたが、敵対的買収防衛策に関するいろんな考え方が、いろんな方に批判されて、自然淘汰されていけばいい、と落合誠一東大(大学院)教授もおっしゃっています。

その落合教授ですが、「企業会計10月号」の「論壇」で、「敵対的買収における若干の基本的問題」と題する論稿を発表されています。これ、社外取締役や社外監査役と敵対的買収防衛策というテーマで、司法判断を考えるにあたって、たいへん貴重な論稿です。大胆な自説の展開に終始されており、メチャメチャおもしろいです。不遜にも反論させていただきたいところがたくさんごさいますが、落合教授ご自身で「どうぞ、批判しちゃってください」と申されているとおり、今後の敵対的買収防衛策の議論進化のためにはたいへん有益な意見が詰まっております。防衛策に関する論文はたくさんありますが、司法判断との関連で興味をおもちの方には、この落合教授の論稿、お奨めします。

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